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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125534
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】多層構造シートおよび繊維製品
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/02 20190101AFI20240911BHJP
   A41D 27/24 20060101ALI20240911BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240911BHJP
【FI】
A41D31/02 E
A41D31/02 A
A41D27/24 C
A41D31/00 502K
A41D31/00 502L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033395
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】嘉義 知也
(72)【発明者】
【氏名】木戸 達也
(72)【発明者】
【氏名】村上 康晴
【テーマコード(参考)】
3B035
【Fターム(参考)】
3B035AB15
3B035AC02
3B035AC16
(57)【要約】
【課題】 充填材の吹き出しを抑制しながら、生産性やコスト面にも優れる多層構造シートおよび繊維製品を提供する。
【解決手段】 少なくとも第1の生地と、第2の生地と、該第1の生地と該第2の生地との間に存在する充填材とを備える多層構造シートであって、第1の糸と第2の糸とにより該第1の生地と該第2の生地とを縫い合わせた縫目を有し、該第1の糸により固定されるとともに第2の糸とは結節していない第3の糸を含む、多層構造シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の生地と、第2の生地と、該第1の生地と該第2の生地との間に存在する充填材とを備える多層構造シートであって、第1の糸と第2の糸とにより該第1の生地と該第2の生地とを縫い合わせた縫目を有し、該第1の糸により固定されるとともに第2の糸とは結節していない第3の糸を含む、多層構造シート。
【請求項2】
前記第3の糸が仮撚加工糸、捲縮糸、タスラン糸の少なくとも1種から選択される、請求項1に記載の多層構造シート。
【請求項3】
前記第3の糸がウーリー糸である、請求項1に記載の多層構造シート。
【請求項4】
前記第3の糸と前記第2の糸との結節点の数が50.0%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造シート。
【請求項5】
前記第3の糸の総繊度が150dtex以上、350dtex以下である、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造シート。
【請求項6】
前記第3の糸のかさ高度が15mm以上、30mm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造シート。
【請求項7】
前記第3の糸の総繊度が150dtex以上、350dtex以下であり、かつ、かさ高度が15mm以上、30mm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造シート。
【請求項8】
前記充填材が羽毛および/または中綿である、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造シート。
【請求項9】
請求項1~3のいずれかに記載の多層構造シートを含む繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層構造シートおよび繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防寒を目的とした表生地と裏生地との間にダウンやフェザー等の充填材を有する防寒製品においては、従来から縫目の針穴からの充填材の吹き出しがしばしば発生する課題があった。そこで、これを抑制するため、様々な検討が行われている。
【0003】
例えば、表生地および裏生地の間にトラップ部を有する部材を設け、収容された羽毛をトラップする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、伸縮性の生地を挟み込み、針穴を収縮させる技術が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、縫い糸に鞘糸がループを形成する芯鞘複合糸を用いる技術や(例えば、特許文献3参照)、一定の温度で溶ける熱融着糸を用いる技術(例えば、特許文献4参照)により、針穴をループや樹脂などで塞ぐことも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-127544号公報
【特許文献2】特開2019-118801号公報
【特許文献3】特開2015-36459号公報
【特許文献4】特開昭58-136807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した、例えば表生地および裏生地の間にトラップ部や伸縮性の生地等を挟み込む技術は、工程が増えるため生産効率が悪く、挟み込む生地等により製品質量およびコストが大きく増加する課題があった。また、縫い糸に鞘糸がループを形成する芯鞘複合糸や熱融着糸を用いる技術は、糸切れなどの縫製不良の発生や、糸のコストが高いなどの課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、充填材の吹き出しを抑制しながらも生産性やコスト面にも優れる多層構造シートおよび繊維製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために、次の構成を有する。
(1)少なくとも第1の生地と、第2の生地と、該第1の生地と該第2の生地との間に存在する充填材とを備える多層構造シートであって、第1の糸と第2の糸とにより該第1の生地と該第2の生地とを縫い合わせた縫目を有し、該第1の糸により固定されるとともに第2の糸とは結節していない第3の糸を含む、多層構造シート。
(2)前記第3の糸が仮撚加工糸、捲縮糸、タスラン糸の少なくとも1種から選択される、上記(1)に記載の多層構造シート。
(3)前記第3の糸がウーリー糸である、上記(1)または(2)に記載の多層構造シート。
(4)前記第3の糸と前記第2の糸との結節点の数が50.0%以下である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の多層構造シート。
(5)前記第3の糸の総繊度が150dtex以上、350dtex以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の多層構造シート。
(6)前記第3の糸のかさ高度が15mm以上、30mm以下である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の多層構造シート。
(7)前記充填材が羽毛および/または中綿である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の多層構造シート。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の多層構造シートを含む繊維製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層構造シートおよび繊維製品は、充填材の吹き出しを抑制しながらも生産性やコストに優れる。そのため、例えば衣料であれば、インナーへの充填材の付着等を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明における多層構造シートの断面概略図の一例である。
図2図2は、本発明における多層構造シートの上面の一例を示す図面代用写真である。
図3図3は、従来の多層構造シートの断面概略図である。
図4図4は、かさ高度を測定する試験機の概略図である。
図5図5は、7本のキルト本数である座布団状サンプル概略図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の多層構造シートにおける生地は、少なくとも第1の生地と、第2の生地とを備える。ここで第1の生地と第2の生地との間に充填材があれば、他に例えば第3の生地や第4の生地等があってもよく、また、第1の生地および第2の生地は、表生地でも裏生地でもよい。また、第1の生地と第2の生地は同一であっても、異なっていてもよい。
【0012】
本発明において生地の組織は特に限定されず、織物、編物、不織布等適宜選択することができる。また、生地を構成する繊維の組成も、例えばポリエステルやナイロン、アクリル、綿、羊毛、絹等やこれらの混繊、混紡、交編織等が例示できるが、特に限定されるものではない。
【0013】
本発明の多層構造シートは、第1の糸と第2の糸と第3の糸を含む(本発明では、第1の糸を「上糸」、第2の糸を「下糸」、第3の糸を「沿い糸」、と称する場合がある。これらは便宜上、上や下という語句を用いるが、必ずしも上面や下面に存在することを意味するものではなく、また製品の外側や内側(または肌側)などを特定するものでもない。)。そして、第1の糸と第2の糸とにより第1の生地と第2の生地とを縫い合わせた縫目を有し、第1の糸により固定される第3の糸を含む。本発明の多層構造シートにおけるこれらの糸や生地について、図1の断面概略図を用いて説明する。第1の糸の上糸1(1)と第2の糸の下糸2(2)は結節点(6)で結節しており、第1の生地である生地1(3)と第2の生地である生地2(4)を貫通するように縫い合わせている。一方で、第3の糸の沿い糸(5)は、生地1(3)や生地2(4)を貫通していない。さらに、第3の糸の沿い糸(5)は、第1の糸の上糸1(1)により固定され、これにより生地1(3)の針穴を覆うことができる。ここで、第3の糸は第2の糸の下糸2(2)とは結節していない。なお、図1には図示していないが、第3の糸の沿い糸(5)は、第2の糸の下糸2(2)により固定され、生地2(4)の針穴を覆うように存在してもよいし、生地1(3)と生地2(4)の両面の針穴を覆うように存在してもよい。なお、ここでいう結節とは、下糸と上糸の関係のように、糸同士が交わり結ばれている状態を指し、単なる交差や押さえつけられている状態を含まない。
【0014】
本発明でいう固定とは、第3の糸が着用時に容易に脱落しないことを意味する。さらに本発明においては、上述したように第2の糸とは結節していない第3の糸を含む。結節していない第3の糸により、縫目において効果的に充填材の吹き出しを抑制することができる。本発明の多層構造シートにおいて、第3の糸と第2の糸との結節点の数は50.0%以下であることが好ましい。すなわち、充填材を囲む縫目において、第3の糸と第2の糸との結節点を有する縫目の数が、第3の糸を含む全編目数の前記範囲以下であることが好ましい。結節点が多いほど第3の糸は強固に固定されるが、前記範囲以下とすることで、縫目を塞ぐ効果により充填材の吹き出し抑制効果を向上できる。第3の糸を第1の糸により固定する方法は特に限定されず、他の材料への押さえつけ、交絡、接着、融着、などが挙げられるが、第1の糸の上糸により第1の生地などに押さえつけて挟み込むように固定する方法が、生産性や風合いの点で好ましい。図2を用いて具体的に説明する。一般に、図2のように縫目においては、上糸1(1)と下糸2(2)とで構成される結節点(6)が存在し、これによって生地を縫い合わせることができる。ここで、沿い糸(5)は上糸1(1)に押さえつけられているものの、結節点(6)を有しない。このように、結節点を有しない縫目では、沿い糸(5)が針穴を通っていないため、針穴は拡張され難い。特に沿い糸(5)がかさ高い場合、針穴を通ると拡張され易くなるが、本発明ではそれを抑制することができる。そして、沿い糸(5)により針穴を覆うことで、充填材の吹き出しをより抑制できる。なお、本発明においては、結節点を有しない第3の糸の沿い糸により充填材の吹き出しが抑制できるので、結節点の数が少ないほどその効果が高い。本発明において結節点の数は50.0%以下であることが好ましく、20.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。上記のような作用効果であるため、下限は特に限定されず、0.0%以上である。結節点を有しないように第3の糸である沿い糸を存在させる方法は特に限定されず、例えば、後述する押さえにもう一つ穴を開け、その穴に第3の糸の沿い糸を挿入して第1の糸の上糸で押さえつける縫製方法のほか、真横から第3の糸の沿い糸を挿入して第1の糸の上糸で押さえつける縫製方法、千鳥ミシンを用いて第3の糸の沿い糸を第1の糸の上糸で押さえつける縫製方法などが挙げられる。
【0015】
本発明の多層構造シートは、上記したように縫目において第3の糸である沿い糸が第1の糸である上糸に固定されているため、充填材が吹き出ることを抑制することができる。従来は図3のように、上糸3(8)と下糸4(9)を用いて、生地3(10)と生地4(11)を縫い合わせているものが多いが、そうすると、充填材2(12)が縫目から吹き出すことがある。一方で、図1のように上糸1(1)と下糸2(2)で生地1(3)、生地2(4)が縫い合わせられ、沿い糸(5)が上糸1(1)に固定されている場合、針穴が拡張されることなく沿い糸(5)が針穴を覆うことができ、充填材が吹き出すことを抑制することができる。また、本発明の縫目の形態として、例えば本縫いや環縫いが例示できるが、特に限定されるものではない。
【0016】
本発明における第1の糸、第2の糸、第3の糸は特に限定されず、フィラメントであっても紡績糸であってもよく、また組成としても、例えばポリエステルやナイロン、アクリル、綿、羊毛、絹などが例示されるが、特に限定されるものではない。また、第1の糸と第2の糸は同じ種類の糸でも異なる種類の糸でもよい。第3の糸も特に限定されないが、針穴を塞ぐ効果が高いという点で、仮撚加工糸、捲縮糸、タスラン糸の少なくとも1種から選択されることが好ましい。2種以上、例えば捲縮糸かつ仮撚加工糸であってもよい。第3の糸が仮撚加工糸、捲縮糸、タスラン糸の少なくとも1種から選択されるものであると、糸の捲縮が大きくかさが高くなることで、より効果的に縫目の針穴をより覆うことが可能となり、充填材の吹き出し抑制効果が向上するため好ましい。より好ましくは、仮撚加工糸であり、さらに好ましくは仮撚加工糸の中でも糸の捲縮が大きいウーリー糸である。ここで捲縮糸としては、2種以上のポリマーを組み合わせた複合糸であることが好ましい。2種以上のポリマーとは、例えば2種であればポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレート、等のように異種ポリマーや、同種ポリマーであっても粘度や数平均分子量が異なる組み合わせなどを例示することができる。また、複合断面形状としても、サイドバイサイドや偏心芯鞘など、捲縮を発現できる形態であれば特に限定されるものではない。また、タスラン糸とはタスラン加工を施された糸である。仮撚捲縮糸とは仮撚捲縮加工を施された糸であり、ウーリー糸とは仮撚加工糸の中でも特に仮撚加工時の解撚後にヒーター等で熱セットされていない糸であり、解撚後に熱セットされた糸(ブレリア糸)よりも強い捲縮を発現する。
【0017】
本発明における第3の糸は、総繊度が150dtex以上であることが好ましく、220dtex以上であることがより好ましい。総繊度が前記以上であると、縫目の針穴をより覆うことができ、充填材の吹き出し抑制効果が向上する。また、総繊度が350dtex以下であることが好ましい。総繊度が前記以下であると、手や服への引っかかりによる引きつれの発生が抑制できるため好ましい。なお、本発明において総繊度は、フィラメントについては、JIS L 1013(2010)8.3 B法、ステープルについては、JIS L 1015(2010)8.5 B法により求めることができる。
【0018】
また、第3の糸はかさ高度が15mm以上であることが好ましく、25mm以上であることがより好ましい。かさ高度が前記以上であると、縫い目の針穴を十分に覆うことができ、充填材の吹き出し抑制効果が向上する。また、かさ高度は30mm以下であることが好ましい。かさ高度が前記以下であると、手や服への引っかかりによる引きつれの発生が抑制できるため好ましい。かさ高度は仮撚加工や糸の捲縮度、太繊度化などにより向上させることができる。なお、本発明におけるかさ高度は、検尺機を用いて1.125mの枠で張力0.2N、80回巻のカセを作製した後、70gの荷重をかけた際の厚みを測定して求めることができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で求めた値を用いる。
【0019】
本発明の多層構造シートにおける充填材とは、かさ高性のあるものであれば特に限定されないが、ダウンやフェザー等の羽毛の他、ポリエステル等の中綿が保温性の点で好ましい。保温性の点で羽毛がより好ましい。また、これらは単独でも混合してもよい。
【0020】
本発明の繊維製品は、本発明の多層構造シートを用いることにより得ることができる。本発明の繊維製品は、衣料や寝具、インテリア製品などを例示でき、具体的には例えばダウンジャケットやジャンバー、ブルゾン、まくら、布団、座布団、が例示できるが、特に限定されるものではない。
【0021】
次に本発明の多層構造シートの製造方法の好ましい一例を述べる。
【0022】
本発明における第1の糸、第2の糸、第3の糸の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。例えば、通常のマルチフィラメントを紡糸した後に仮撚加工を施して仮撚加工糸やウーリー糸とする方法、粘度など性質の異なる2種以上のポリマーをサイドバイサイドや偏心芯鞘糸などの潜在捲縮糸として紡糸した後に熱処理して捲縮糸とする方法、タスランノズルを用いてマルチフィラメント糸に圧縮空気を吹き付けてフィラメントを攪乱させ、ループを形成すると共に各フィラメントを相互に絡めてタスラン糸とする方法、などが挙げられる。ここで、仮撚加工の方法としては、糸をツイスターで加撚された状態でヒーターによりセットし、その後解撚させて巻き取るという方法が挙げられる。この仮撚加工を施すことでかさ高度を向上させることができ、第3の糸として用いることで充填材の吹き出し抑制効果が向上するため好ましい。複数の糸を供給して複合仮撚糸とすることも可能である。なお、本発明において、ウーリー糸は、基本的に仮撚加工により得ることができるが、解撚後にヒーターで実質的にセットしないことにより、解撚後にヒーターでセットされた糸(ブレリア糸)よりも捲縮を大きくできる。
【0023】
縫製の方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。1本針本縫いミシンを用い、まず第1の糸である上糸は通常の糸道および針孔に通し、第2の糸である下糸はボビンに巻いた状態のものをかまにセットする。次に第3の糸である沿い糸を、上糸とは異なった糸道となるよう押さえ付近まで持っていく。この際、第3の糸は第1の糸と同じように糸立て装置に取り付け、追加のガイドやテンション装置を用いて糸道を作製することが好ましい。ここで、ミシンに使用する押さえは穴が二つ空いたものであることが好ましい。第1の穴は一般的な押さえにもあるように針が上下する際に出入りする穴、第2の穴は第3の糸を挿入する穴とする。第2の穴は第1の穴よりも縫製者側に存在することが好ましい。この第2の穴に第3の糸を挿入し、第1の穴の真下を通るよう10cmほど後ろ方向に余分に糸を引き出しておき、生地をセットして通常通りに縫製することで、第3の糸の沿い糸は結節点を有さず、針穴を覆うような縫目を形成することができる。この際、第3の糸の張力は0.1N以下であることが好ましい。張力が0.1N以下であると、縫製時に第1の糸にうまく押さえつけられて針穴が覆われ、ズレにくくなることで充填材の吹き出し抑制効果が向上するため好ましい。
【0024】
充填材は第1の生地と第2の生地との間に存在させるが、縫製の前に挟み込んでも、縫製後に充填してもよい。後者の方が、充填材が縫目から吹き出しにくい点で好ましい。
【0025】
繊維製品の製造方法として、ダウンジャケットの製造方法の一例について説明する。ここでは、代表的に身頃パーツの製造方法の一例について説明する。まず、表地、裏地とする生地を重ね、第1の糸、第2の糸、第3の糸を用い、前述した方法で縫製を行う。縫製の順序としては、最初に2つの短辺と1つの長辺を本縫いミシンで縫い合わせ、次にキルトを形成するため任意の幅でステッチをかける。次に各キルト内に任意の重さの羽毛を充填し、最後に残り1つの長辺を閉じることで身頃パーツが完成する。同様にして他のパーツを形成した後、従来公知の方法により縫製することによってダウンジャケットとなる。
【実施例0026】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。また、本文中または実施例に記載の各物性値は以下の測定方法によるものである。
【0027】
(1)かさ高度[mm]
縫製品から無作為に採取した沿い糸サンプルについて、それぞれ株式会社大栄科学精器製作所製検尺機を用いて1.125mの枠で張力0.2N、80回巻のカセを作製した。図4のかさ高試験機を用いて、このカセ(13)を15gのベルト(14)で包み、ベルト下部にある重さ5gの重り取り付け金具(15)に50gの重り(16)を吊り下げ、10秒後に重り取り付け金具に付けている棒が指す目盛り(17)をmm単位で読み取った。なお、カセを包まずにベルト先端に重りを吊り下げた際の目盛りを0mmとした。サンプルは無作為に5か所から採取し、各サンプルについてこの測定を行って、その平均をかさ高度の測定値とした。かさ高度は小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁で求めた。
【0028】
(2)総繊度
JIS L 1013(2010)8.3 B法により求めた。
【0029】
(3)吹き出し本数試験
実施例で作製した座布団状サンプル(20)を、60.0cm×60.0cmの吹き出しがないように表面をラミネート加工した生地で作られた、3辺が閉じられている袋に入れ、本縫いミシンで残り1辺を閉じ、パナソニック株式会社製洗濯乾燥機(NA-V900)でJIS L1930 繊維製品の過程洗濯試験方法のC4Nにおける洗濯条件を用い、洗濯時間を1時間、すすぎなし、に変更して洗濯をし、続けて株式会社東芝製電気衣類乾燥機(ED-608)で1時間乾燥させた。この洗濯と乾燥を1セットとし、計3セット行った。処理後、袋から座布団状サンプルを取り出し、袋内面と座布団状サンプル表面に付着している羽毛の本数を数えた。座布団サンプルは5つ作製し、各サンプルについて測定して平均本数を、小数点第一位を四捨五入して測定値とした。
【0030】
(4)縫目における第3の糸の結節点の数の割合[%]
上記(3)において作製したサンプルにおいて、表と裏のすべての縫目を、株式会社キーエンス社製マイクロスコープ「“VHX”-7000」にて50倍で観察した。測定方法として、まずは全体の結節点の数Aを測定し、次にピンセットで結節点を動かしながら、第3の糸が他の糸と交わり結ばれている状態の数Bを測定し、下記式にて第3の糸を有しない結節点の割合を算出した。この操作を10回行い、その平均値の小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁で求めた。
・結節点の数の割合[%]=(B/A)×100。
【0031】
(実施例1)
図5のような表生地、裏生地とする横(22)52.0cm×縦(21)54.5cmの表面がラミネート加工された生地2枚を、第1の糸である168dtexポリエステルフィラメント糸、第2の糸である168dtexポリエステルウーリー糸、第3の糸である168dtexポリエステルフィラメント糸を用い、1本針本縫いミシンを用いて図5のように最初に縫い代1.0cmで2つの短辺と1つの長辺を縫い合わせ、次にキルトステッチ(18)間の幅7.5cm、キルト(19)本数が7本となるよう縫い合わせた。縫い合わせは、まず第1の糸である上糸は通常の糸道および針孔に通し、第2の糸である下糸はボビンに巻いた状態のものをかまにセットした。次に第3の糸である沿い糸を、上糸とは異なった糸道となるよう押さえ付近に配置し、第1の糸と同じように糸立て装置に取り付け、追加のガイドやテンション装置を用いて糸道を作製して第1の糸と同じ方向から表生地に沿って挿入した。第1の糸と第2の糸とにより表生地と裏生地とを縫い合わせた縫目を有し、表地において第1の糸により第3の糸が固定されていた。
【0032】
縫製後、7つのキルト内にそれぞれ2.0gの羽毛を充填し、残り1つの長辺を上記と同様に縫製して閉じ、座布団状サンプル(20)を作製した。この座布団状サンプルの縫目における第3の糸が結節点の数の割合は0.0%であった。
【0033】
この座布団状サンプルを5つ作製して、吹き出し本数試験を行った。その結果、羽毛の本数は18本であった。
【0034】
(実施例2)
第3の糸に、ツイスターで加撚された状態でヒーターによりセットし、その後解撚させて巻き取った110dtexポリエステルウーリー糸を用いた以外は実施例1と同様にして、図5のような座布団状サンプル(20)を作製した。この座布団状サンプルの縫目における第3の糸を有しない結節点の数の割合は0.0%であった。また、吹き出し試験を実施した結果、吹き出し本数は15本であった。
【0035】
(実施例3)
第3の糸に220dtexポリエステルウーリー糸を用いた以外は実施例1と同様にして、図5のような座布団状サンプル(20)を作製した。この座布団状サンプルの縫目における第3の糸における結節点の数の割合は0.0%であった。また、吹き出し試験を実施した結果、吹き出し本数は11本であった。
【0036】
(実施例4)
第3の糸に334dtexポリエステルウーリー糸を用いた以外は実施例1と同様にして、図5のような座布団状サンプル(20)を作製した。この座布団状サンプルの縫目における第3の糸における結節点の数の割合は0.0%であった。また、吹き出し試験を実施した結果、吹き出し本数は9本であった。
【0037】
(比較例1)
第3の糸を用いない以外は実施例1と同様にして、図5のような座布団状サンプル(20)を作製した。吹き出し試験を実施した結果、吹き出し本数は24本と多いものであった。
【0038】
(比較例2)
第1の糸および第2の糸に鞘糸がループを形成する168dtexポリエステルタスラン加工糸を用い、かつ第3の糸を用いない以外は実施例1と同様にして、図5のような座布団状サンプル(20)を作製した。吹き出し試験を実施した結果、吹き出し本数は20本と多いものであった。また、縫製中に何回か糸切れが発生してしまうという縫製不良を確認した。
【0039】
(比較例3)
第1の糸および第2の糸に278dtex熱融着ナイロン/ポリエステルフィラメント合糸を用い、かつ第3の糸を用いない以外は実施例1と同様にして、図5のような座布団状サンプル(20)を作製し、キルト部分を140℃のアイロンで10秒間加熱し、熱融着糸を溶融させた。このサンプルを用いて吹き出し試験を実施した結果、試験により生地と熱融着糸の樹脂とが剥がれて一部の縫目が広がっており、吹き出し本数は36本と多いものであった。また、キルト部分は樹脂が融着しているため非常に硬い風合いとなっており、縫製後に融着糸を溶融させる必要があるため生産性が悪いものであった。
【0040】
(比較例4)
第3の糸に334dtexポリエステルウーリー糸を用い、かつ第3の糸は第1の糸と引き揃えて針孔を通して挿入した以外は実施例1と同様にして、図5のような座布団状サンプル(20)を作製した。この座布団状サンプルの縫目における第3の糸における結節点の数の割合は100.0%であった。吹き出し試験を実施した結果、吹き出し本数は22本と多いものであった。
【0041】
【表1】
【符号の説明】
【0042】
1:上糸1
2:下糸2
3:生地1
4:生地2
5:沿い糸
6:上糸1と下糸2との結節点
7:充填材1
8:上糸3
9:下糸4
10:生地3
11:生地4
12:充填材2
13:カセ
14:ベルト
15:重り取り付け金具
16:50gの重り
17:目盛り
18:キルトステッチ
19:キルト
20:座布団状サンプル
21:縦方向
22:横方向
図1
図2
図3
図4
図5