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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125535
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート繊維
(51)【国際特許分類】
   D02G 1/10 20060101AFI20240911BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
D02G1/10
D01F6/62 306P
D01F6/62 302G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033396
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 純志
(72)【発明者】
【氏名】横山 正雄
(72)【発明者】
【氏名】谷野宮 政浩
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD13
4L035EE10
4L035EE20
4L035FF08
4L036MA05
4L036MA33
4L036PA31
4L036RA04
4L036UA06
4L036UA09
(57)【要約】
【課題】従来の合成繊維よりもピリング性、耐摩耗性に優れ、綿と同等の繊度、風合いを有しその代替が可能である、紡績性も良好な捲縮を有するポリブチレンテレフタレート系ポリマーからなる繊維を提供する。
【解決手段】10%×10回伸長時の伸長回復率が90%以上であり、単繊維繊度が0.8~1.8dtexであり、捲縮度(%)/捲縮数(山/25mm)比が0.65~1.20である、ポリブチレンテレフタレートからなる繊維。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%×10回伸長時の伸長回復率が90%以上であり、単繊維繊度が0.8~1.8dtexであり、捲縮度(%)/捲縮数(山/25mm)比が0.65~1.20である、ポリブチレンテレフタレート繊維。
【請求項2】
布帛加工時のJIS L1076による抗ピル性が4級以上であることを特徴とする請求項1記載の繊維。
【請求項3】
請求項1もしくは2に記載の繊維を50%以上含む紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績糸など繊維構造体を成形するためのポリブチレンテレフタレート繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
短繊維糸類を用いたニット生地は、柔らかい手触りと良好な通気性などの利点から多くの消費者に愛されている。一方、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することがある)やポリアミド等の合成繊維は綿や麻等の天然繊維と比較して風合いや光沢が単調で冷たく、また短繊維特有の毛玉(ピリング)ができやすく、耐摩耗性が悪いという問題があり、繊維構造物として十分満足できるものではなかった。そのため、生地の風合いを良くしながらピリング性、耐摩耗性が改善した合成繊維について、これまでに多くの研究開発が行われてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には低起球の生地用アクリロニトリル系繊維について記載されている。具体的にはアクリロニトリル系繊維を35%以下の破断伸度及び1.7g/デニール以下の結節強力とすることで発生した毛玉が脱落しやすくなり、ピリング抑制効果が得られると報告しているが、繊維の耐摩耗性が大きく低下するという問題があった。また、特許文献2ではポリエステル短繊維と獣毛繊維の混紡において、アクリル樹脂エマルジョンを接着剤として用いることで、ピリング抑制効果に優れた紡績糸が得られると報告しているが、紡績工程にて接着剤を添加する工程が加わることで、生産可能な設備が限定される、紡績工程が煩雑になるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-240209号公報
【特許文献2】特開平11-350276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の基礎研究の結果、伸長時の回復率の高いポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記することがある)系ポリマーを適用することで他の合成繊維対比、風合いと共にピリング性、耐摩耗性を改善出来ることが判明した。一方、該ポリマーからなる繊維は捲縮が掛かりにくく、紡績性を改善することが難しい。そこで本発明の目的は、紡績性に問題の無い水準の捲縮を有し、従来の合成繊維よりもピリング性、耐摩耗性に優れ、綿と同等の繊度、風合いを有しその代替が可能である、ポリブチレンテレフタレート系ポリマーからなる繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)10%×10回伸長時の伸長回復率が90%以上であり、単糸繊度が0.8~1.8dtexであり、捲縮度(%)/捲縮数(山/25mm)比が0.65~1.20である、ポリブチレンテレフタレートからなる繊維
(2)布帛加工時のJIS L1076による抗ピル性が4級以上であることを特徴とする請求項1記載の繊維
(3)請求項1もしくは2に記載の短繊維を50%以上含む紡績糸
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた弾性回復性を有するポリマーの適用により、摩擦により繊維が引き出されて毛玉が生じる現象を効果的に減少させ、従来の抗ピル繊維対比耐摩耗性が高く、綿同等の繊度、風合いを有しながら、かつ紡績性も良好な捲縮を有するポリブチレン系ポリマーからなる繊維が得られる。また、それから製造された生地はスポーツウェア、レジャーウェアなどの製造に広く使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のポリブチレンテレフタレート繊維はPBTからなる繊維であり、短繊維であることが好ましい。
【0009】
本発明で用いられるPBTとは、90モル%以上がブチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるPBTである。ここでいうPBTとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,4-ブタンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%未満の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであってもよい。このような共重合成分としては、酸成分として、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類が挙げられ、また、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0010】
また、艶消剤として二酸化チタン、色調安定剤としてリン酸、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、さらには難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤および着色顔料等を、必要に応じてPBTに添加することができる。
【0011】
本発明におけるPBTの固有粘度(IV)は、0.7~2.0の範囲であることが好ましい。固有粘度を0.7以上とすることにより、十分な強度と伸度を兼ね備えた繊維を製造することが容易となる。より好ましい固有粘度は0.8以上である。また、固有粘度を2.0以下とすることにより、生産安定性が得られやすい。より好ましい固有粘度は、1.8以下である。
【0012】
また、本発明において、第2成分として他のポリマーをブレンドしてもよく、ブレンドされる他ポリマーは、PBTと接着性が良好で製糸製が安定している繊維形成性ポリエステルが好ましく、特に限定されるものではない。
【0013】
本発明のPBT繊維の単繊維繊度は、0.8~1.8dtexの範囲である。単繊維繊度を0.8dtex以上とすることにより、工業的に安定した製糸が可能となり、単繊維繊度を1.8dtex以下とすることにより、本発明のPBT繊維を布帛、特に織編物に用いた際に十分なソフト感が得られる。単繊維繊度は、小さいほど布帛にしたときのソフト性が向上するため、好ましくは0.8~1.6dtexの範囲であり、より好ましくは0.8~1.5dtexの範囲である。
【0014】
本発明のPBT繊維の強度は、紡績通過性の観点から1.5~7.0cN/dtexが好ましく、3.5~6.0cN/dtexがより好ましい。強度が1.5cN/dtexを下回ると、紡績工程において糸切れ等の工程トラブルが生じやすくなる。また、強度が7.0cN/dtexを上回ると、ソフト性が損なわれる。
【0015】
本発明のPBT繊維の捲縮数は、5~30山/25mmが好ましく、紡績通過性の観点から、10~20山/25mmがより好ましい。捲縮数が5山/25mmを下回ると、繊維同士の絡みが少なく、紡績加工時に素抜けが多くなり好ましくない。また、捲縮数が30山を上回るとカード加工時にネップが発生しやすくなるため好ましくない。なお、捲縮数はJISL1015 8.12.1に基づき測定するものとする。
【0016】
本発明のPBT繊維の捲縮度(%)/捲縮数(山/25mm)比は、紡績通過性の観点から0.65~1.20であり、0.70~1.20がより好ましい。上記比率が0.65を下回ると、紡績加工不良が生じやすくなるため好ましくない。なお、捲縮度はJIS L1015 8.12.2に基づき測定するものとする。
【0017】
本発明のPBT繊維の10%×10回伸長時の伸長回復率は90%以上であり、好ましくは95%以上である。10%×10回伸長時の伸長回復率が90%を下回ると、布帛加工後に摩擦により引き出された繊維が引き延ばされたまま絡まり、毛玉が発生しやすくなる。なお、10%×10回伸長時の伸長回復率は実施例の欄に記載した方法で測定した値をいう。
【0018】
本発明のPBT繊維の繊維断面形状については、丸、扁平、多角形および複数の凸部を有する形状など、どのような形状でも良いが、安定な製糸性および高次加工性を得やすいという点から、丸断面であることが好ましい。
【0019】
本発明のPBT繊維は、紡績糸に加工し、織編物用途として使用することが最も好ましいが、不織布などにも適用してもよい。
【0020】
本発明の紡績糸を構成する他の繊維の種類は特に限定されるものではなく、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、レーヨン、綿、麻、ウール、絹のといった他素材を混紡し併用しても良いが、本発明のPBT繊維のみで構成されていてもよい。特に、PBT100%、PBT/レーヨン混、PBT/ウール混、などが好ましい。
【0021】
本発明の紡績糸は、シャツ、パンツ、靴下用途に好適であり、そのソフトな風合いから綿代替用途が特に好ましい。
【0022】
本発明のPBT繊維を布帛加工した場合、JIS L1076(2012)A法に定められているICI法によるピリング性が、4.0級以上、好ましくは4.5級以上となる。4.0級を下回ると、生地表面にピリングが出現し易く、布帛の外観を悪化させる為好ましくない。
【0023】
次に、本発明のPBT繊維を、生産性良く安定して製造することができる方法について説明する。
【0024】
まず、チップ状のPBTポリマーを溶融設備に供給し、溶融したポリマーを口金から溶融紡糸して未延伸糸を得る。短繊維の製造では、生産性の観点から、未延伸糸を紡糸から連続して延伸することはせず、ある程度の量を蓄えた後に、複数本の未延伸糸を引き揃えて、延伸する方法が一般的である。具体的には、複数の口金から得られた多数本の未延伸糸を集め、好適には1~20ktexのサブトウとしてこれを多数のローラー群で誘導しながら缶などの収納容器内に振り落として収納し、それらを複数用意した後に、収納容器から未延伸糸を立ち上げ引き揃えてから延伸工程へ与する。
【0025】
未延伸糸を得る際の溶融紡糸の溶融温度は、生産性を考えると220~280℃とすることが好ましい。溶融方法としては、プレッシャーメルター法およびエクストルーダー法が挙げられ、いずれの方法でも問題はないが、均一溶融と滞留防止の観点からエクストルーダーによる溶融方法を採用することが好ましい。溶融ポリマーは配管を通り、計量された後、口金パックへと流入される。この際、熱劣化を抑えるために、配管通過時間は30分以下であることが好ましい。パックへ流入されたポリマーは、所望の断面構造となるよう口金より吐出される。この際のポリマー温度は、250~280℃が適当である。
【0026】
口金から吐出されたポリマーは、冷却、固化されて未延伸糸とされた後、引き取られる。未延伸糸を引き取る前に、工程通過性向上を目的として油剤を付与してもよい。その際の引き取り速度は、速度安定性と品質バラツキの観点から、好ましくは900~1600m/分とし、より好ましくは1200~1500m/分とする。1200m/分以上とすることでポリマー配向が進み、繊維化した際に高い伸長回復率が発現する。
【0027】
延伸する際の総繊度は、生産性を考慮し50~150ktexとすることが好ましい。また、未延伸糸への熱の伝導をスムーズに行うため、延伸は温水浴中もしくは加熱蒸気下で行うことが好ましく、温水浴中の場合、浴液温度は40~95℃とすることが好ましい。この際、糸状中への温水の浸透を促しより均一な加熱を実現するために、温水中へ油剤を添加してもよい。
【0028】
延伸倍率は、紡糸の際の引取速度に依存するため一概には言えないが、通常は好ましくは1.5~3.5倍に、より好ましくは2.0~3.0倍に設定される。延伸倍率が1.5倍を下回ると、十分なポリマーの配向が達成できず十分な伸長回復率および強度が得られなかったり、部分的な未延伸状態が発生し染色ムラなどの異常の原因となったりすることがある。また、延伸倍率が3.5倍を上回ると、単繊維切れによるローラー巻きつきなどの発生により生産安定性が低下する。また、延伸はポリマー配向をできる限り進め、繊維の伸長回復性を高めることを目的に、複数回に分けた多段延伸で行うことが好ましい。
【0029】
延伸されたトウについて、強度、伸度、収縮率の調整を目的に熱ドラムによる緊張熱処理を行ってもよい。その場合の熱処理温度は110~200℃の範囲とすることが好ましい。その後、必要に応じてクリンパーを用いて捲縮が付与される。その際の総繊度は、生産性を考慮して、50~150ktexが好ましく、より好ましくは70~120ktexとすることが好ましい。また、捲縮付与時にトウに対して、捲縮付与性向上を目的に加熱蒸気を供給しても良い。捲縮付与時、トウを加熱蒸気下に晒すことにより、繊維の塑性変形を促し捲縮付与性が向上する。その結果、より良好な捲縮付与が可能となる。
【0030】
捲縮付与と熱処理された延伸糸は、切断装置によって所望の繊維長に切断され短繊維となる。繊維長は、高次加工の方法や混用する繊維の種類によって好適には25~70mmの範囲内で設定できるが、例えば、綿紡方式の場合では例えば38mmの長さに切断することが好ましい。
【0031】
必要に応じて紡績通過性向上、抗菌効果発現、親水効果発現等の機能付与を目的とした機能剤を延伸工程で付与してもよい。機能材は主に水中に分散させ、その水溶液をシャワー方式、キスローラー方式、ディップ方式で付与させることが好ましい。また、機能剤付与工程としては延伸処理後でもよく、延伸処理後であれば特別タイミングを指定するものではない。
【0032】
本発明のPBT繊維を紡績糸にする際には、通常の紡績方法により紡績糸を製造することができる。リング精紡機(結束・渦流方式含む)や空気精紡機等を用いて、紡績糸を製造することができる。紡績糸のヨリ係数は、2.5~4.5の範囲であることが好ましい。ヨリ係数が2.5未満では、十分な糸強力が得られない傾向があり、紡績時の糸切れや織編物にした際の強度低下を招く傾向がある。また、ヨリ係数が4.5を超えると、ヨリ戻りによるビリが発生する傾向があるほか、織編物にした際に粗硬感がある傾向になる。
【0033】
本発明のPBT繊維は、優れた弾性回復性を有し、摩擦により繊維が引き出されて毛玉が生じる現象を効果的に減少させ、従来の抗ピル繊維対比で耐摩耗性が高く、綿同等の繊度、風合いを有しながら、かつ紡績性も良好な捲縮を有するため、それから製造された生地はスポーツウェア、レジャーウェアなどの製造に広く使用できる。
【実施例0034】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例で用いる特性は、次のようにして測定したものである。
【0035】
(1)繊維の繊度
JIS L1015 8.5.1(2010)に準じて測定する。
【0036】
(2)繊維の捲縮数および捲縮度
JIS L1015 8.12.1及び8.12.2(2010)に準じて測定する。
・捲縮数:
捲縮弾性試験機を使用し、単繊維を規定の試長に取り付け、荷重を与えたときの繊維長
と山数を測定し、25mm当たりの山数に換算する。
捲縮数=a×25/A
a:全捲縮数、A:初荷重を与えたときの繊維長。
・捲縮度(捲縮率):
捲縮数を測定した後、本荷重を与えたときの繊維長を測定し、初荷重を与えたときの繊維長との差を算出する。規定荷重の長さに対する百分率を算出する。
捲縮度=(B-A)/B×100
B:本荷重を与えたときの繊維長。
【0037】
(3)10%×10回伸長時の伸長回復率
定速伸長引張試験機を用い、試料長20cmとして初荷重をデニールあたり1/30gかけた状態で両端を固定し、引張速度1mm/分で試料長の10%まで伸長させる。1分間静置後、同速度で除重し、初期状態まで戻す。そのまま1分間静置後、再度同方法で試料を10%伸長し、これを計10回繰り返す。10回目除重時に応力がゼロとなったときの伸度を残留伸度(C)とし、下記式より伸長回復率を算出する。
【0038】
伸長回復率={(10-C)/10}×100
C:残留伸度。
【0039】
(4)カード通過性
カードから出た繊維ウエッブの均一性不良、ウエッブ切れおよびネップの発生状態を10分間確認し発生回数が0回である場合は良好(A)、1~3回である場合は可(B)、4回以上発生した場合は不良(C)とした。
【0040】
(5)紡績性
紡績工程中の練条~精紡工程における単位生産量(t)当りに発生した操業異常(ロ-ラ-巻付、スライバ-割れ、素抜け、糸切れ)が発生した回数を合わせ、2回/t未満を優良(A)、3~10回/tを良(B)、10回/t以上を不良(C)とした。
【0041】
(6)抗ピリング性
JIS L1076(2012)A法に示されている方法によって測定し、抗ピリング性が、4.5級以上の場合を優良(A)、4級の場合を良(B)、3.5以下の場合を不良(C)とした。
【0042】
(7)耐摩耗性
JIS L1096(2010)8.19E法に示されている方法によって測定し、エンドポイントが10万回以上の場合を優良(A)、7万~10万回の場合を良(B)、7万回以下の場合を不良(C)とした。
【0043】
(8)風合い(ソフト感)
測定すべきポリエステル短繊維を用い、布帛を作成する。作製した布帛について、ソフト風合いを10人のモニターによる官能検査によって1~5点の点数評価(1点:非常に劣る、2点:やや劣る、3点:従来の織物と変わらない、4点:良好、5点:非常に良好)を行い、全員の判定を平均して、その平均値が4.5点以上である場合に優良(A)、3.5点以上4.5点未満である場合に良(B)、3.5点未満である場合には不可(C)とした。
【0044】
(9)総合判定
上記(4)~(8)の5項目評価において、不可(C)が無く、良(B)が2項目以下の場合は総合判定を優良(G)とし、それらを合格とした。また、それら以外を不可(NG)とした。
【0045】
[実施例1]
固有粘度が0.8のPBTチップを用意し、これを溶融温度290℃で溶融し、ギアポンプによる計量を行い、260℃の温度で口金に流入し紡糸した。紡糸繊維の断面形状は丸断面であり、紡糸された糸条を1500m/分の速度で引き取りながら、冷却装置を用いて冷却し、オイリングローラーを用いて非イオン系の工程油剤を0.1質量%付与し、フリーローラーを経て他の紡糸錘と32本合糸した後に、缶内へ振り落とし収納することにより未延伸糸を得た。未延伸糸が収納された缶を20缶採取し、採取した缶を並べ、30本の未延伸糸(160ktex)を引き揃えながら、55℃の温度の温水浴に導き、延伸倍率2.2倍で延伸した延伸糸をクリンパーへ導き機械捲縮を付与して捲縮トウを得た。この際、クリンパーでは捲縮付与性強化を目的に、2~4気圧の加熱蒸気を直接トウに付与した。延伸糸(捲縮トウ)の総繊度は80ktexであった。得られた捲縮トウを乾燥後、スプレー方式により仕上げ油剤を0.2質量%付与し、回転式のカッターにより38mmに切断しPBT短繊維を得た。
【0046】
得られたPBT短繊維を100%用い、カード、練条、粗紡、精紡を経て、30/1番手のサイロコンパクト紡績糸を得た。また得られた紡績糸をシングル丸編機に仕掛けて天竺編地を得た。この編地に対し、精練(90℃×20分)、仮染(120℃×30分)、仕上げセット(170℃×1.5分)を行い、目付210g/m2の布帛を得た。
【0047】
得られた原綿、布帛および各工程状況の評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
実施例1において紡糸吐出量を20%抑えた以外は同様にして単繊維繊度を細繊度化したPBT短繊維を得、同評価を実施した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
実施例1において、同繊度、同繊維長のPET繊維をPBT:PET=70:30となるように混綿し、紡績糸とした以外は同様にして編加工を行い、同評価を実施した。結果を表1に示す。また、用いたPET繊維の代表的な物性は下記の通り。
繊度(dtex):1.45、捲縮度(%)/捲縮数(山/25mm):1.11、伸長回復率(%):48。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、繊度の太いPBT繊維(2.28etx)とした以外は同様にして同評価を実施した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、延伸後の捲縮付与工程において、クリンパーでの加熱蒸気付与をせず、捲縮度/捲縮数の比率を低下させた以外は同様にして繊維得、同評価を実施した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
実施例3において、混綿するPET繊維の比率を上げ(PBT:PET=30:70)た以外は同様にして紡績糸を得、同評価を実施した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例4]
実施例1において、PBT繊維に換えてPET繊維を用い、同評価を実施した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1ではカード通過性、紡績性共に問題無く、また抗ピリング性、耐摩耗性、風合いに関しても良好な結果が得られた。実施例2では細繊度化に伴い実施例1対比、捲縮度/捲縮数比が若干低下したことにより練条~精紡工程において、スライバ-割れ、素抜けが多少発生したが、紡績通過性に問題無い範囲に留まった。得られた布帛の性能は実施例1同様に良好であった。実施例3ではPET繊維混綿により実施例1対比、抗ピリング性、耐摩耗性が若干劣位となったが、比較的高い性能が発現した。一方、比較例1においては、用いたPBT繊維の繊度が太いことから伸長回復率が低下し、十分な抗ピリング性が得られなかった。比較例2においては、捲縮度/捲縮数の比率が低いことにより繊維同士の絡みが弱く、カード加工時のウエッブ切れや練条~精紡工程でのスライバ-割れが多発した。比較例3において、PBT繊維の構成割合が低下したことで、抗ピリング性、耐摩耗性が悪化した。比較例4においてはそれに加え、PBT繊維特有のソフトな風合いも失われる結果となった。