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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125541
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】両軸受け型リール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/015 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
A01K89/015 G
A01K89/015 C
A01K89/015 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033405
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 雄一
(72)【発明者】
【氏名】城 英樹
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 咲希
【テーマコード(参考)】
2B108
【Fターム(参考)】
2B108EG01
2B108EG03
2B108EH01
2B108HC02
2B108HE21
(57)【要約】
【課題】様々なキャストフォームや重さが異なるルアーを使用しても、キャスト対応力が低下することのないスプール制動装置を有する両軸受け型リールを提供する。
【解決手段】スプール制動装置20は、スプール7と一体的に回転する導電環体25と、導電環体25に対向配置されるリング状の磁石21と、リング状の磁石21を保持する円筒状の保持部22と、円筒状の保持部をスプールの軸方向に移動させる移動操作機構30と、を備えている。導電環体25は、リング状の磁石21と対向する対向面を備え、リング状の磁石21は、保持部22の内周面に対して、その先端側が軸方向の内側に突出するように固定されている。リング状の磁石21には、保持部22の内周面に対して突出する先端側の内、少なくとも糸巻胴部7aの内面と径方向で対向する部分を覆う磁性部材40が設けられている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣糸が巻回される糸巻胴部と前記糸巻胴部の両側に形成されるフランジ部とを具備したスプールを、リール本体の側板間に回転自在に支持し、前記スプールの回転に制動力を付与するスプール制動装置を有する両軸受け型リールにおいて、
前記スプール制動装置は、前記スプールと一体的に回転する導電環体と、前記導電環体に対向配置されるリング状の磁石と、前記リング状の磁石を保持する円筒状の保持部と、前記リール本体に設けられ、前記円筒状の保持部を前記スプールの軸方向に移動させる移動操作機構と、を備えており、
前記導電環体は、前記リング状の磁石と対向する対向面を備え、
前記リング状の磁石は、前記保持部の内周面に対して、その先端側が前記軸方向の内側に突出するように固定されており、
前記リング状の磁石には、前記保持部の内周面に対して突出する先端側の内、少なくとも前記糸巻胴部の内面と径方向で対向する部分を覆う磁性部材が設けられていることを特徴とする両軸受け型リール。
【請求項2】
前記磁性部材は、前記リング状の磁石の突出する先端側を覆う筒状体であり、
前記筒状体の端部は、前記リング状の磁石の端部と同位置、又は、前記リング状の磁石の端部よりも前記軸方向の内側に突出していることを特徴とする請求項1に記載の両軸受け型リール。
【請求項3】
前記磁性部材は、前記リング状の磁石の突出する端部の外表面、及び、軸方向の内側の端面を覆うことを特徴とする請求項1に記載の両軸受け型リール。
【請求項4】
前記導電環体は、前記スプールの回転軸に対して軸方向に移動可能に配設される移動部材に固定されており、前記スプールの回転速度に応じて前記移動部材が移動して、前記リング状の磁石と径方向で対向する位置が変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の両軸受け型リール。
【請求項5】
前記導電環体は、前記リング状の磁石に対して径方向で対向する円筒部を備えており、
前記円筒部は、前記スプールが非回転状態では、前記リング状の磁石に対して径方向で重ならない位置にあることを特徴とする請求項4に記載の両軸受け型リール。
【請求項6】
前記スプールの糸巻胴部の内面と、前記リング状の磁石の外面との間は、径方向の最小隙間が1.0mm以下であり、
前記磁性部材の肉厚は、前記最小隙間の半分以下であることを特徴とする請求項1に記載の両軸受け型リール。
【請求項7】
前記磁性部材は、メッキ処理されていることを特徴とする請求項1に記載の両軸受け型リール。
【請求項8】
前記移動操作機構は、前記リール本体に回転可能に設けられ、前記円筒状の保持部を前記スプールの軸方向に移動させる調整ダイヤルを有しており、
前記調整ダイヤルを回転操作した際、前記リング状の磁石の少なくとも一部は、前記スプールのフランジ部よりも軸方向の内側の範囲内で軸方向に移動可能となるように、前記保持部に保持されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の両軸受け型リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸を巻回するスプールを、リール本体を構成する左右の側板間に回転自在に支持した両軸受け型リールに関する。
【背景技術】
【0002】
上記した両軸受け型リールの本体(リール本体)は、左右のフレームのそれぞれにサイドプレート(カバー部材とも称される)を着脱可能に被着した左右側板を備えている。前記左右側板の間には、釣糸が巻回されるスプールが回転自在に支持されており、一方の側板側に配設されたハンドルを巻き取り操作することでスプールを回転駆動し、釣糸がスプールに巻き取られる。
【0003】
上記した両軸受け型リールには、ルアーフィッシングに適した小型化されたものが知られている。ルアーフィッシングでは、公知のように、クラッチ機構をONからOFFに切換えてスプールフリー状態とし、キャスティング操作することでルアーを狙った位置に投げ込み、その後、クラッチ機構をONにしてリーリング操作を行なう。このキャスティング操作では、スプールが過回転して釣糸がバックラッシュしないように、反ハンドル側の側板内にスプール制動装置が組み込まれている。
【0004】
前記スプール制動装置には、様々なタイプが知られており、電磁誘導方式によってキャスティング時のスプール回転に制動力を付与するタイプのものが存在する。例えば、特許文献1には、スプール軸に導電環体を一体回転可能に設けると共に、導電環体の外周面に対向してリング状の磁石を配置した構成が開示されている。このようなスプール制動装置は、スプールが回転すると、リング状の磁石から磁界によって導電環体の表面に渦電流が発生し、スプール軸の回転に制動力を付与することが可能となる。また、この特許文献1に開示されたスプール制動装置は、導電環体とリング状の磁石をスプールの収容空間内(糸巻胴部の径方向内側)に配設し、リング状の磁石を環状の保持部の先端内周面に取着している。このようなスプール制動装置によれば、糸巻胴部を可及的に小径化することができ、リール本体を小型化しつつ糸巻容量を確保することが可能になる。
【0005】
なお、前記リング状の磁石は、側板に配設された調整ダイヤルを回転操作することによって軸方向に移動され、スプールに作用する制動力が調整可能となっている。また、スプールの回転速度が増加した際、導電環体をカム作用によって軸方向に移動させてリング状の磁石に対向する領域を増やし、制動力を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-120587号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した両軸受け型リールを用いてルアーフィッシングする際、様々なタイプや重さのルアーが用いられる。また、近距離、長距離、障害物を避ける等、ルアーを狙った位置に投げ込む際のキャスト方法についても様々である(オーバーキャスト、サイドキャスト、スキッピング、ピッチング等)。釣人は、ルアーをキャスティングする際、バックラッシュが生じないように、上記したスプール制動装置の制動力を調整するための調整部材(調整ダイヤル)を操作している。
【0008】
上記したタイプの両軸受け型リールでは、スプールの糸巻容量を増やして小型、軽量化を図るためには、スプールの糸巻胴部を可及的に小径化して、スプール制動装置を構成する導電環体(インダクトロータ)に接近させる必要がある。しかしながら、糸巻胴部が導電環体に接近し過ぎると、糸巻胴部と導電環体との間に介在された状態となるリング状の磁石の磁界がスプール側に作用し、スプールに対してブレーキ力が直接作用することがある。
【0009】
このため、実釣時に非常に軽いルアー(1g~5g程度)をキャスティングすると、スプールに対して制動力が直接作用してしまい、ピッチングのような軽いキャストをした際、狙ったポイントにスムーズに投げ込めなくなってしまう。なお、非常に軽いルアーに合わせてリング状の磁石の磁力が弱くなるように設定(調整ダイヤルの設定)すると、オーバーキャストやサイドキャスト、スキッピング等の制動力を強く必要とするキャスト操作では、制動力が足らなくなってバックラッシュを引き起こすことがある。
【0010】
すなわち、オーバーキャストやサイドキャストのとき、及び、ピッチングのときのように、スプールの回転入力に差があるキャストをすると、同じ調整ダイヤル設定値で操作することが難しくなり、キャスト対応力が低下してしまう。
【0011】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、様々なキャストフォームや重さが異なるルアーを使用しても、キャスト対応力が低下することのないスプール制動装置を有する両軸受け型リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明に係る両軸受け型リールは、釣糸が巻回される糸巻胴部と前記糸巻胴部の両側に形成されるフランジ部とを具備したスプールを、リール本体の側板間に回転自在に支持し、前記スプールの回転に制動力を付与するスプール制動装置を有しており、前記スプール制動装置は、前記スプールと一体的に回転する導電環体と、前記導電環体に対向配置されるリング状の磁石と、前記リング状の磁石を保持する円筒状の保持部と、前記リール本体に設けられ、前記円筒状の保持部を前記スプールの軸方向に移動させる移動操作機構と、を備えており、前記導電環体は、前記リング状の磁石と対向する対向面を備え、前記リング状の磁石は、前記保持部の内周面に対して、その先端側が前記軸方向の内側に突出するように固定されており、前記リング状の磁石には、前記保持部の内周面に対して突出する先端側の内、少なくとも前記糸巻胴部の内面と径方向で対向する部分を覆う磁性部材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記したスプール制動装置は、前記リング状の磁石を、前記保持部の内周面に対して、その先端側が軸方向の内側に突出するように固定したことで、リール本体を効率良く小型化することが可能となる。また、前記リング状の磁石には、前記スプールの糸巻胴部の内面と径方向で対向する部分を覆うように磁性部材が設けられているため、リング状の磁石からの磁力がスプールに作用することが抑制される。これにより、スプールに対して制動力が作用しないため、軽いルアーを投げた際に飛距離が低下するようなことはない。さらに、上記のような磁性部材を配設したことで磁力が径方向内側に向くことから、導電環体に対する磁力が高められる。したがって、回転入力が強いキャストでは、しっかりと制動力が作用し、回転入力が弱いキャストでは、スプールに作用する制動力が弱いため、重さが異なるルアーをキャストしたり、キャストフォームが異なってもキャスト対応力が低下することはない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、様々なキャストフォームや重さが異なるルアーを使用しても、キャスト対応力が低下することのないスプール制動装置を有する両軸受け型リールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る両軸受け型リールの一実施形態を示す平面図。
図2図1に示す両軸受け型リールを反ハンドル側から見た側面図。
図3図1のスプール制動装置部分を示す図。
図4】(a)は図3のスプール制動装置部分の拡大図、(b)はリング状の磁石と磁性部材の構成を示す斜視図。
図5】磁性部材の変形例を示す図。
図6】導電環体の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1から図4を参照して本発明に係る両軸受け型リールの一実施形態について説明する。
なお、以下の説明において、前後方向、左右方向、上下方向とは、図1及び図2で示す方向として定義し、軸方向Xは、スプール軸の軸心方向で定義する。このため、軸方向の内側とは、スプール制動装置を基準とした場合、スプールの中央側となり、軸方向の外側とは、スプール制動装置を基準とした場合、リール本体の側板側となる。
【0017】
本実施形態に係る両軸受け型リール1のリール本体1Aは、左右のフレーム2a,2bを左右カバー3a,3bで覆った左右側板4A,4Bを備えている。前記左右の側板間には、スプール軸5が軸受(右フレーム側の軸受が図示されている)6を介して回転可能に支持されている。
【0018】
また、スプール軸5には、釣糸が巻回されるスプール7がスプール軸5と一体回転可能に設けられている。前記スプールは、アルミ合金、銅合金などの軽量金属(非磁性の導電体)で形成されており、スプール軸5と共に一体回転するようになっている。前記スプール7は、釣糸が巻回される糸巻胴部7aと、その左右両側に一体形成されるフランジ部7bと、糸巻胴部7aの内面の中央に一体形成される中央環状壁7cとを備えており、釣糸は、左右のフランジ部7bに規制されて糸巻胴部7aに巻回される。また、前記スプール7は、回転中心部分に筒状の支持部7dが一体形成されており、前記支持部7dは、スプール軸5に対して軸方向に沿って外嵌されている。
【0019】
前記左側板4Aには、ハンドル9が設けられており、ハンドル9を巻き取り操作することで、左側板内に配設された駆動力伝達機構(図示せず)を介して前記スプール7が回転駆動される(左ハンドル式)。なお、ハンドル9については、右側板4B側に配設される構成であっても良い。また、右フレーム2bと右カバー3bとの間には、スプール軸5を動力伝達状態と動力遮断状態に切り換える公知のクラッチ機構が配設されており、このクラッチ機構は、スプール7の後方側の左右側板間に配設されたクラッチ切り換え操作部材10を押し下げ操作することで、クラッチON状態(動力伝達状態)からOFF状態(動力遮断状態;スプールフリー回転状態)に切り換えるよう構成されている。なお、クラッチOFF状態からクラッチON状態への復帰は、公知の復帰機構を介してハンドル9を回転操作することで行うことが可能となっている。
【0020】
前記左右の側板4A,4B間には、スプール7の釣糸繰出し方向側に、公知のレベルワインド装置12が配設されている。このレベルワインド装置12は、ハンドル9を回転操作することで、釣糸を挿通する釣糸案内体12aが左右に移動するよう構成されており、釣糸の巻き取り操作に伴ってスプール7の糸巻胴部7aに釣糸を均等に巻回する。
【0021】
また、反ハンドル側の側板(右側板側)には、釣糸放時に、スプール7の回転に制動力を付与して過回転を防止するスプール制動装置20が配設されている。
以下、本実施形態におけるスプール制動装置20の構成について説明する。
【0022】
前記スプール制動装置20は、スプールフリー回転状態でスプール7が過回転した際、磁気作用によって、スプールに制動力を付与する機能を有する。本発明のスプール制動装置20は、公知のように、リール本体側に設けられるリング状の磁石21と、スプール側に設けられ、前記リング状の磁石21から発生する磁力によって渦電流を生起させ、スプール7の回転に制動力を付与する導電環体(インダクトロータ)25とを備えている。
【0023】
前記リング状の磁石21は、予め環状に形成されたもの、或いは、多数の磁石が環状に並んで配置されたもの等で構成することができ、径方向にN極とS極が着磁された構成となっている。また、前記リング状の磁石21は、リール本体1A、詳細には、右フレーム2bに設けられるセットプレート2dに対して軸方向Xに沿って左右方向に移動可能に設けられた円筒状の保持部22に保持されている。
【0024】
前記リング状の磁石21は、径方向において厚肉化することがなく、組み付けし易いように、硬質の樹脂等によって形成された保持部22の先端側の内周面22aに周方向に沿った状態で配設されている。すなわち、リング状の磁石21を円筒状に形成しておき、これを円筒状に形成された保持部22の先端側の内周面に対して軸方向から圧入、固定する
ことでリング状の磁石21を保持している。また、保持部22の内部には、圧入されるリング状の磁石21の開口縁が当て付けられる段部22bが形成されている。
このような保持態様によれば、リング状の磁石21組付け操作がし易く、保持状態も安定する。
【0025】
前記スプール軸5の一端側は、前記軸受6を介して、前記セットプレート2dの支持部2eに回転可能に支持されている。また、前記保持部22は、リール本体1Aに設けられた移動操作機構30によって軸方向Xに移動可能となっている。
本実施形態の移動操作機構30は、リール本体1Aを構成する右側板4B側に設けられる円板形状の調整ダイヤル31を有しており、この調整ダイヤル31を、右側板4Bを把持する側の右手で回転操作することで、保持部22(リング状の磁石21)を左右方向に移動させるように構成されている。
【0026】
前記右カバー3bには、図2に示すように、上方側に開口部3dが形成されており、前記調整ダイヤル31は、開口部3dから上側の所定角度θの領域が露出するように右側板に対して回転可能に支持されている。前記調整ダイヤル31の内部には、前記セットプレート2dの支持部2eと同心状となる大径の環状部31aが突出形成されている。前記保持部22は、環状部31aを挟持した状態で、環状部31aに対して軸方向に移動可能に保持されている。
【0027】
前記支持部2eには、上記移動操作機構30を構成する円筒状の螺旋レール部材33が固定されており、その外表面に形成された螺旋溝33aに、前記環状部31aを挟持した前記保持部22の内面に形成された係合部が係合している。これにより、調整ダイヤル31を回転操作すると、前記調整ダイヤル31の環状部31aが螺旋レール部材33の外側で回転する。上記したように、保持部22と螺旋溝33aとの係合関係によって、保持部22は、軸方向に沿ってスプール7に対して接近/離反するように移動する。すなわち、前記調整ダイヤル31の回転操作に応じて、前記保持部22が軸方向に移動されることから、保持部22の先端側の内周面22aに固定されたリング状の磁石21も保持部と共に軸方向に移動する。このように、前記調整ダイヤル31は、導電環体25に対するリング状の磁石21の対向距離(磁力)の初期位置を調整するため、制動初期時の制動力や制動特性を事前に調整することが可能となる。
【0028】
前記導電環体25は、前記スプール7の支持部7dに対して軸方向に移動可能に回り止めされる移動部材50の外面に固定されており、前記スプール7と一体的に回転する。前記導電環体25は、アルミ(アルミ合金)、銅(銅合金)等、導電性を有する非磁性材で形成されており、前記リング状の磁石21と対向する対向面を備えている。すなわち、前記リング状の磁石21は、導電環体25の対向面と対向するように配置されている。
【0029】
前記導電環体25の対向面については、導電環体25の形状にもよるが、本実施形態の導電環体25は、前記リング状の磁石21に対して径方向で対向する円筒部25cを備えており、その円筒部25cの外周面で構成されている。この場合、前記導電環体25は、円筒部25cが、前記リング状の磁石21に対して径方向で常に重なった状態であっても良いが、本実施形態では、図3に示すように、前記スプール7が非回転状態のときは、リング状の磁石21に対して径方向で重ならない位置となるように構成されている。また、前記調整ダイヤル31の操作によって、前記リング状の磁石21を最も軸方向の内側に設置しても、円筒部25cとリング状の磁石21は、径方向で重ならない位置となるように構成されている
【0030】
本実施形態の導電環体25は、後述するように、スプール7の回転に伴って軸方向に移動するように構成されている。すなわち、スプール7が回転していない状態では、図4(a)の実線で示す状態に位置しており、この状態で、導電環体25は、スプール7のフランジ部7bよりも軸方向Xの内側に位置するように配設されている。具体的には、導電環体25は、スプール7の内部であるハンドル9と反対側のフランジ部7bの軸方向外側端面(図4(a)において、そのような外側端面を外側端面Yで示す)よりも軸方向内側で、且つ、糸巻胴部7aの径方向内側の収容空間S内に位置するように配設されている。
なお、前記収容空間Sは、フランジ部7bの軸方向外側端面Yよりも軸方向内側で、スプール7の糸巻胴部7aと、中央環状壁7cと、支持部7dとで囲まれた部分である。
【0031】
前記調整ダイヤル31の回転操作によって軸方向に移動するリング状の磁石21は、その少なくとも一部が、前記スプール7のフランジ部7bよりも軸方向の内側の範囲内で軸方向に移動可能となるように、前記保持部22に保持されている。すなわち、図4(a)では、リング状の磁石21がスプールから最も離反した位置を示しており、この状態において、リング状の磁石21の先端面21aは、前記外側端面Yで示す位置よりも軸方向内側に位置するように配設されている。このような構成によれば、リール本体の左右方向をコンパクト化することが可能となる。
前記リング状の磁石21については、前記調整ダイヤル31の回転操作によって軸方向に移動する際、全ての領域が前記外側端面Yで示す位置よりも軸方向内側に位置するように配設しても良い。このような構成によれば、リール本体の左右方向を、更にコンパクト化することが可能となる。
【0032】
上記したように、リング状の磁石21は、円筒状に形成された保持部22の先端側の内周面22aに圧入、固定されており、保持部22の内周面に対して先端側21bが軸方向の内側に突出するように固定されている。このため、リング状の磁石21からの磁界は、スプール7に作用してしまうが、以下のように、リング状の磁石21の突出する部分を磁性部材40で覆うことで、スプール7に作用する磁界を低減している。すなわち、リング状の磁石21には、保持部22の内周面から突出する先端側21bの内、少なくともスプール7の糸巻胴部7aの内面と径方向で対向する部分(リング状の磁石21の外表面)を覆うように磁性部材40が設けられている。
【0033】
前記磁性部材40は、加工性、取付性等を考慮して、図4(b)に示すように、リング状の磁石21の先端側を覆う筒状体で構成することができ、例えば、鉄リングによって一体形成することが可能である。
本実施形態の磁性部材40は、前記保持部22の外周面と略面一状となる肉厚で形成されており、薄肉厚化を図っている。また、磁性部材40には、海等、塩分が付着し易い環境で使用しても錆等が生じないように、メッキ処理などの表面処理を施しておくことが好ましい。
【0034】
前記磁性部材40は、リング状の磁石21の磁界がスプール7の糸巻胴部7a側に漏れることを抑制できる機能を有するものであれば良い。このため、磁性部材40は、その端部が、リング状の磁石21の端部と同位置、又は、前記リング状の磁石21の端部よりも前記軸方向の内側に突出する程度(好ましくは突出量L1が0~0.5mm程度)に形成しておけば良い。
【0035】
次に、前記導電環体25を軸方向に移動させる構成について説明する。
前記導電環体25は、スプール軸5に対して軸方向に移動可能に配設される移動部材50の外周面に固定されている。この移動部材50は、スプール7の回転速度に応じて軸方向に移動し、リング状の磁石21に対し径方向で対向する位置が変更可能となっている。具体的には、移動部材50は、スプール7の回転速度が上昇するに連れて、前記導電環体25がリング状の磁石21に接近するように移動し、その分、導電環体25に作用する電磁力(制動力)が増加してスプール7に対する制動力が増加する。この場合、スプール7が回転していない状態では、導電環体25は、図4(a)の実線で示すように、スプール7のフランジ部7bよりも軸方向Xの内側に位置するように配設されている。
【0036】
前記移動部材50は、前記スプール7の支持部7dを挿通させるように筒状に構成されており、スプール軸5に沿って軸方向に移動可能であると共に、その外周面に導電環体25を固定している。前記移動部材50の右側板側の軸心部分には、凹所50aが形成されており、この凹所50aの底面に付勢部材(付勢バネ)51の一端が当て付いている。そして、付勢部材51の他端は、支持部7dに固定されたリテーナ52に当て付けられており、これにより、移動部材50は、軸方向の内方側(後述する固定部材60側)に向けて常時付勢された状態となっている。
【0037】
本実施形態の導電環体25は、前記移動部材50に外周面に固定される基部25aと、基部25aの端部で屈曲して径方向に延びる環状壁25bと、環状壁25bの先端で、軸方向に向けて屈曲し、前記リング状の磁石21に対して径方向に対向する円筒部25cとを有している。この円筒部25cは、スプール7の回転速度に応じて、導電環体と共にリング状の磁石21に対する相対位置が変更可能に移動する。
【0038】
前記支持部7dには、筒状の固定部材60が前記移動部材50と隣接して配設されている。この固定部材60は、支持部7dに回り止め嵌合されると共に、係合突起60aを備えており、前記スプール7の中央環状壁7cに形成された嵌合部7eと嵌合して、スプール7と一体回転可能となっている。また、前記移動部材50と固定部材60とは、軸方向の対向面で互いに面接するカム部70を夫々備えており、前記移動部材50は、キャスティング時のスプール7の回転速度に応じて、カム部70のカム作用によって軸方向に移動するようになっている。すなわち、導電環体25が取り付けられる移動部材50は、キャスティング操作前では、前記付勢部材51の付勢力によって軸方向内方に付勢されており、キャスティング時にスプール7が高速回転すると、前記カム部70のカム作用により、付勢部材51の付勢力に抗して、軸方向に沿って右フレーム2b側に移動される。
【0039】
前記移動部材50と固定部材60との間に設けられるカム部70は、一般的に公知であるため、詳細については省略するが、各対向面にそれぞれカム面を備えており、これらのカム面は、スプール7と一体回転する固定部材60で移動部材50をスプール軸に沿って移動させる形状となっている。具体的には、クラッチ機構をOFFにしてスプール7が釣糸放出方向に回転した際、固定部材60の回転速度がスプール7と共に速くなるに連れ、カム面に作用する軸方向分力が大きくなる。そして、その軸方向分力が付勢部材51の付勢力よりも大きくなると、移動部材50は右フレーム2b側に移動し、前記導電環体25の円筒部25cは、前記リング状の磁石21に対して径方向に対向するようになる。このため、導電環体25に作用する制動力が高まり、スプール7に対して過回転を抑制する制動力が作用する。
【0040】
また、固定部材60の回転速度がスプール7と共に低下すると、付勢部材51の付勢力によって、移動部材50は左フレーム2a側に移動する。これにより、円筒部25cは、軸方向に移動してリング状の磁石21から離反して、前記導電環体25に作用する制動力が弱まるようになる。すなわち、本実施形態のスプール制動装置20は、スプール7の回転速度が速くなると、スプール7に対する制動力が高まり、スプール7の回転速度が低下すると、制動力が弱くなるように機能する。
【0041】
上記したように、前記導電環体25は、前記リング状の磁石21に対して径方向で対向する円筒部25cが、スプール7の非回転状態において、リング状の磁石21に対して径方向で重ならない位置に配設されている。
このように設定しておくことで、キャスティングした際にスプール7が回転をし始めると、リング状の磁石21と円筒部25cは、径方向で重なっていないため、導電環体25に対する制動力が強く生じることを抑制することができる。
【0042】
また、上記した移動部材50及び固定部材60の対向部に形成されるカム部70の各カム面の傾斜角度、付勢部材51の付勢力等を適宜変形することで、移動部材50の移動量を調整して制動特性を変えることが可能となる。また、上記した調整ダイヤル31によって、リング状の磁石21の軸方向の位置が変更可能であることから、その初期位置を変更することで、スプール回転時に作用する制動力を調整することが可能である。
【0043】
なお、上記した移動部材50及び固定部材60の構成材料については、硬度が及び耐摩耗性が高く、比重が軽いことが好ましい。例えば、ABS樹脂、PC樹脂、ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、POM樹脂等の樹脂、アルミ等の軽金属によって形成することが可能である。
【0044】
次に、上記したスプール制動装置20の作用について説明する。
上記した構成のスプール制動装置20によれば、スプール7と一体的に回転する導電環体25をスプール7のフランジ部7bよりも軸方向の内側に位置させており、更にリング状の磁石21を、保持部22の内周面22aに対して、その先端側が軸方向の内側に突出するように固定したことで、リール本体を効率良く小型化することが可能となる。
【0045】
また、前記リング状の磁石21には、スプール7の糸巻胴部7aの内面と径方向で対向する部分を覆うように磁性部材40が設けられているため、リング状の磁石21からの磁力がスプールに作用することが抑制される。これにより、非常に軽いルアー(1g~5g程度)をピッチング等でキャストする際、スプール7に作用する制動力が抑止され、狙ったポイントにスムーズにキャストできるようになる。特に、本実施形態では、磁性部材40によってスプール側に作用する磁力が抑えられると共に、導電環体25の円筒部25cは、リング状の磁石21に対して径方向で重なっていないため、導電環体25に対する制動力が強く生じることが抑制され、よりスムーズにスプール7の回転特性が得られる。
【0046】
そして、ある程度、スプール7が高速回転すると、前記カム作用によって移動部材50が軸方向の外側に移動するようになる。これにより、導電環体25の円筒部25cは、軸方向に移動してリング状の磁石21に対して径方向で重なって制動力が効き始め、バックラッシュの発生が防止される。
【0047】
なお、スプール7の糸巻胴部7aは、リング状の磁石21との距離が大きくなれば、スプール7の糸巻胴部7aに作用する磁界も弱くなることから、上記した磁性部材40を設ける必然性が乏しくなる。ただし、糸巻容量を確保するために糸巻胴部7aを可能な限り深溝にしつつ、リール全体を小型化することを考慮すると、糸巻胴部7aの内面とリング状の磁石21の外面との最小隙間については、できるだけ少なくするのが好ましい(糸巻胴部7aに磁力が作用する程度の隙間になる)。実際には、糸巻胴部7aの内面とリング状の磁石21の外面との最小隙間Gについては、最小隙間が1.5mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは、1.0mm以下に設定し、前記磁性部材40の肉厚Tについては、最小隙間Gの半分以下のものを用いることが好ましい。
このような数値関係にすることで、リール本体が小型で、糸巻容量が確保され、かつ、非常に軽いルアーであっても、スプールに作用する磁力が低減され、狙ったポイントにスムーズにキャスティングすることが可能となる。
【0048】
また、リング状の磁石21に上記のように磁性部材40を配設したことで、スプール7の糸巻胴部7a側(径方向外側)に向かっていた磁力(磁束密度)が反転して径方向内側に向くため、制動のON・OFFを司る導電環体25部分に磁力が集中し、メリハリが出て制動の強弱が大きくなる。これにより、入力が強いキャスト(オーバーキャスト、サイドキャストなど)ではしっかりと制動が利き、入力が弱いキャスト(ピッチングなど)では、制動が抜けるため、軽いルアーでのルアー対応力が向上する。すなわち、調整ダイヤル31を同じ位置に設定しておき、異なる重さのルアーやキャストフォームを変えても、飛距離が低下したり、バックラッシュが生じることなく、ルアー対応力やキャスト対応力が低下するようなことはない。
【0049】
ここで、上記した構成のスプール制動装置20を組み込んだ両軸受け型リールを5台作成し、磁性部材(鉄リング)40が無い場合とある場合について検証を行なった。この検証に際しては、前記収容空間S(内側)での磁束密度、磁性部材40の外側(隙間G)での磁束密度、更に、リング状の磁石21の先端面21aでの磁束密度を測定し、その平均値を取った。以下、測定結果について表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
上記した測定結果の通り、リング状の磁石21に磁性部材40を固定することで、その内側の磁束密度が向上すると共に、外側での磁束密度が低下して、制動の強弱にメリハリが出る。したがって、軽いキャスティング(軽いルアー)では制動が作用することが抑制され、強いキャスティング(重いルアー)ではしっかりと制動が作用し、バックラッシュを効果的に抑制することが可能となる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
上記した磁性部材40の形状については、肉厚を変化させたり、突起部や溝を形成する等、適宜変形することが可能である。また、上記した実施形態では、磁性部材40は、リング状の磁石21の表面部分を覆うように構成したが、例えば、図5に示すように、磁性部材40の先端側40aを屈曲して、リング状の磁石21の突出する端部の外表面、及び、軸方向の内側の端面(リング状の磁石21の先端面21a)を覆うようにしても良い。
このような構成によれば、磁束の漏れがより確実に防止され、スプール7に対して作用する磁力をより抑制することが可能となる。
【0053】
また、導電環体25の形状については、特に限定されることはなく、種々変形することが可能である。例えば、図6に示すように、円筒部25c´を、前記実施形態の円筒部25c構成とは反対側に屈曲し、初期状態において、円筒部25c´がリング状の磁石21と径方向で重なる(部分的に重なる)ように構成されていても良い。
このような構成によれば、スプール7の初期回転時に僅かに制動力を付与することが可能となる。
【0054】
また、調整ダイヤル31の回動操作によって、リング状の磁石21は、上記した収容空間S内で軸方向に移動可能となっているが、最も軸方向外方に移動した際に、リング状の磁石の一部がフランジ部7bの軸方向外側端面Yに重なるように保持部22に保持されていても良い。
【0055】
上記したように、本発明はスプール制動装置20の構成に特徴があり、リール本体の形状や構成については、特に限定されることはない。前記リング状の磁石21を軸方向に移動させる方式としては、ギア方式やカム方式にする等、適宜変形することが可能である。更に、リング状の磁石21の導電環体25に対向する相対位置の変更は、制動特性やリール仕様等に応じて適宜設定される。
【符号の説明】
【0056】
1 両軸受け型リール
1A リール本体
2a,2b 左右フレーム
3a,3b 左右カバー
4A,4B 左右側板
5 スプール軸
7 スプール
7a 糸巻胴部
7d 支持部
20 スプール制動装置
21 リング状の磁石
22 保持部
25 導電環体
25c 円筒部
30 移動操作機構
31 調整ダイヤル
40 磁性部材
50 移動部材
60 固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6