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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125543
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】耐力壁
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
E04B2/56 605E
E04B2/56 604F
E04B2/56 611C
E04B2/56 622B
E04B2/56 622N
E04B2/56 622H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033414
(22)【出願日】2023-03-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.CLTを活用した建築物等実証事業成果報告会、令和4年3月9日 2.CLTを活用した建築物等実証事業成果報告会、令和4年3月9日 3.https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00461/030700054/、令和4年3月14日 4.日本建築学会、2022年度日本建築学会大会学術講演梗概集、令和4年7月20日 5.2022年度日本建築学会大会学術講演会、令和4年9月7日 6.wallstatカンファレンス2022、令和4年9月12日 7.2022年度非住宅木造建築技術者育成講習、令和4年9月17日 8.令和4年度木材研究所試験研究成果発表会・講演会、令和4年11月25日 9.金山ウッドシティービル パネル製作見学会、令和4年12月8日 10.金山ウッドシティービル施工(愛知県名古屋市熱田区金山2丁目301番)、令和4年12月13日 11.金山ウッドシティービル建て方見学会、令和4年12月14日 12.木材活用フォーラム2022冬、令和4年12月15日 13.https://www.youtube.com/watch?v=FCm6By0wabc、令和5年1月10日 14.https://www.youtube.com/watch?v=OOlNS5J5oOM、令和5年1月10日 15.金山ウッドシティービル構造見学会、令和5年1月14日 16.金山ウッドシティービル構造見学会、令和5年1月19日 17.椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科、2022年度椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科卒業研究発表梗概集、令和5年1月26日 18.2022年度椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科卒業展口頭発表会、令和5年1月28日 19.2022年度椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科卒業展、令和5年2月11日 20.https://sugiyama-sotsuten.com/work/1978.html、令和5年2月15日 21.株式会社総合資格、Architekton中部vol.12、令和5年2月20日 22.2022年度wallstat優秀卒業論文・修士論文賞、令和5年2月22日
(71)【出願人】
【識別番号】523021933
【氏名又は名称】清水 秀丸
(71)【出願人】
【識別番号】523080952
【氏名又は名称】坂口 大史
(71)【出願人】
【識別番号】507397766
【氏名又は名称】株式会社スクリムテックジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】弁理士法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀丸
(72)【発明者】
【氏名】坂口 大史
(72)【発明者】
【氏名】河野 泰之
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002FA03
2E002FB16
2E002HA02
2E002HB01
2E002HB06
(57)【要約】
【課題】低コストかつプレファブリックであり、壁倍率の高い耐力壁を提供する。
【解決手段】木製の左右の柱材および上下の横架材を組んで構成される枠体と、木製の壁材を備えるものであって、上下の前記横架材の間に左右の前記柱材が位置していて、前記枠体の内周側に前記壁材が取り付けられており、前記柱材と前記壁材が、溝部内接着剤と、固着具により接合されたものであって、前記柱材の内周面に上下に延びる溝部が形成されており、前記壁材の左右の端部が前記溝部に挿入されていて、前記溝部内において前記柱材と前記壁材とが前記溝部内接着剤によって接合されており、前記固着具が、ネジからなるものであって、前記柱材の一方側の見付面から打ち込まれて前記溝部内の前記壁材に螺合している。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製の左右の柱材および上下の横架材を組んで構成される枠体と、木製の壁材を備えるものであって、
上下の前記横架材の間に左右の前記柱材が位置していて、前記枠体の内周側に前記壁材が取り付けられており、
前記柱材と前記壁材が、溝部内接着剤と、固着具により接合されたものであって、
前記柱材の内周面に上下に延びる溝部が形成されており、前記壁材の左右の端部が前記溝部に挿入されていて、前記溝部内において前記柱材と前記壁材とが前記溝部内接着剤によって接合されており、
前記固着具が、ネジからなるものであって、前記柱材の一方側の見付面から打ち込まれて前記溝部内の前記壁材に螺合していることを特徴とする耐力壁。
【請求項2】
前記柱材と前記壁材を接合する縦接合具を有するものであって、
前記縦接合具が、L字金具からなるものであって、前記柱材の内周面と前記壁材の他方側の見付面にネジ止めされており、
前記横架材と前記壁材を接合する横接合具を有するものであって、
前記横接合具が、L字金具からなるものであって、前記横架材の内周面と前記壁材の他方側の見付面にネジ止めされていることを特徴とする請求項1記載の耐力壁。
【請求項3】
前記柱材の前記溝部が、前記柱材の見込方向中心よりも一方側に位置しており、
前記壁材が、周縁部とその内周側の本体部からなり、前記周縁部は厚さが前記本体部よりも薄く、前記周縁部の一方側の見付面は前記本体部の一方側の見付面と面一であり、前記周縁部の他方側の見付面は前記本体部の他方側の見付面よりも一方側に位置しており、
前記柱材の前記溝部に前記壁材の前記周縁部が挿入されており、前記縦接合具および前記横接合具が前記周縁部にネジ止めされていることを特徴とする請求項2記載の耐力壁。
【請求項4】
前記柱材と前記横架材が、接合部材により接合されたものであって、
前記柱材の端面から上下に延びる先穴が形成されており、
前記接合部材が、上下に延びるロッドを有しており、前記ロッドが前記先穴に挿入されていて、前記先穴内において前記柱材と前記ロッドとが先穴内接着剤によって接合されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の耐力壁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物において用いられる耐力壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低層の一般住宅などは多くが木造であるが、中高層のビルなどの多くは鉄筋コンクリート造や鉄骨造であり、木造のものはほとんど存在しなかった。木造では耐震性の要件を満たすことが難しかったからである。しかしながら、近年、CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)のような新たな素材や、部材同士の新たな接合構造が提案されており、それらを用いることで、木造でも耐震性の要件を満たす(壁倍率の高い)耐力壁の実現が可能となっている。その結果、たとえば、特許文献1に示すような木造の高層ビルも提案されている。このように中高層建築物を木造とすることで、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の場合よりもCOを削減する効果があり、また国産の木材を使用すれば、衰退が叫ばれて久しい日本の林業の活性化にもつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-161822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような木造の中高層建築物を普及させるためには、壁倍率の高い耐力壁について、より製造が容易で低コストなものとすること、また工場で施工する部分を多くして現場での施工を少なくするプレファブリックなものすることが必要であり、本発明は、そのような耐力壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、木製の左右の柱材および上下の横架材を組んで構成される枠体と、木製の壁材を備えるものであって、上下の前記横架材の間に左右の前記柱材が位置していて、前記枠体の内周側に前記壁材が取り付けられており、前記柱材と前記壁材が、溝部内接着剤と、固着具により接合されたものであって、前記柱材の内周面に上下に延びる溝部が形成されており、前記壁材の左右の端部が前記溝部に挿入されていて、前記溝部内において前記柱材と前記壁材とが前記溝部内接着剤によって接合されており、前記固着具が、ネジからなるものであって、前記柱材の一方側の見付面から打ち込まれて前記溝部内の前記壁材に螺合していることを特徴とする。
【0006】
また、本発明は、前記柱材と前記壁材を接合する縦接合具を有するものであって、前記縦接合具が、L字金具からなるものであって、前記柱材の内周面と前記壁材の他方側の見付面にネジ止めされており、前記横架材と前記壁材を接合する横接合具を有するものであって、前記横接合具が、L字金具からなるものであって、前記横架材の内周面と前記壁材の他方側の見付面にネジ止めされているものであってもよい。
【0007】
また、本発明は、前記柱材の前記溝部が、前記柱材の見込方向中心よりも一方側に位置しており、前記壁材が、周縁部とその内周側の本体部からなり、前記周縁部は厚さが前記本体部よりも薄く、前記周縁部の一方側の見付面は前記本体部の一方側の見付面と面一であり、前記周縁部の他方側の見付面は前記本体部の他方側の見付面よりも一方側に位置しており、前記柱材の前記溝部に前記壁材の前記周縁部が挿入されており、前記縦接合具および前記横接合具が前記周縁部にネジ止めされているものであってもよい。
【0008】
また、本発明は、前記柱材と前記横架材が、接合部材により接合されたものであって、前記柱材の端面から上下に延びる先穴が形成されており、前記接合部材が、上下に延びるロッドを有しており、前記ロッドが前記先穴に挿入されていて、前記先穴内において前記柱材と前記ロッドとが先穴内接着剤によって接合されているものであってもよい。この柱材と横架材の接合方法は、グルードインロッドとよばれるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柱材の溝部に壁材の端部が挿入されていて、溝部内において柱材と壁材とが溝部内接着剤によって接合されているので、柱材と壁材との間でガタが生じることがなく、剛性が高いものとなる。さらに、柱材と壁材とはネジからなる固着具により接合されており、溝部内接着剤が剥離するような大変形時において急激に耐力が低下することを防ぐことができる。これらの構成により、壁倍率の高い耐力壁が得られる。そして、本発明は、木製の柱材、横架材および壁材に加えて、溝部内接着剤、ネジという一般的な要素によって構成されているので、製造が容易で低コストである。また、上下の横架材の間に左右の柱材が位置していているので、柱材と壁材とを工場で接合し、梁や土台を横架材として、柱材および壁材と横架材とを現場で接合することができるものであり、すなわち、工場で施工する部分を多くして現場での施工を少なくするプレファブリックなものすることができる。
【0010】
また、柱材と壁材とがL字金具からなる縦接合具により接合されているものであれば、より溝部内接着剤が剥離するような大変形時において急激に耐力が低下することを防ぐことができる。また、横架材と壁材とがL字金具からなる横接合具により接合されているものであれば、これは主として耐力壁に作用するせん断力に対して耐久する効果を発揮する。これらの構成により、より壁倍率の高い耐力壁が得られる。そして、L字金具も一般的な要素であり、製造が容易で低コストである。
【0011】
また、柱材の溝部が柱材の見込方向中心よりも一方側に位置しているものであれば、他方側においてチリ(壁材の見付面から柱材の見付面までの段差寸法)が大きくなり、断熱材などを入れる空間が確保される。そして、壁材の周縁部の厚さが本体部よりも薄いものであれば、壁材と柱材の接合部分においてチリがより大きくなり、柱材において壁材を呑み込む部分をより厚くできるので、より剛性が高いものとなる。これにより、大変形時において柱材が破損して壁材が面外方向(見込方向)に逃げることを防ぐことができる。また、周縁部の他方側の見付面が本体部の他方側の見付面よりも一方側に位置しているので、縦接合具および横接合具が周縁部にネジ止めされるものであれば、縦接合具および横接合具の見込幅をより大きくすることができ、より剛性が高いものとなる。
【0012】
また、柱材と横架材が、接合部材により接合されたものであって、接合部材のロッドが柱材の先穴に挿入されていて、先穴内において柱材とロッドとが先穴内接着剤によって接合されているものであれば、これは主として小~中変形時の引抜力に対して耐久する効果を発揮する。この構成により、さらに壁倍率の高い耐力壁が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】耐力壁の正面図である。
図2】柱材と壁材の接合部分の断面図(A-A線断面図)である。
図3】(a)は上側の横架材(梁)と壁材の接合部分の断面図(B-B線断面図)、(b)は下側の横架材(土台)と壁材の接合部分の断面図(C-C線断面図)である。
図4】柱材と横架材の接合部分の拡大正面図であり、(a)は上側、(b)は下側を示す。
図5】耐力壁の配置例の説明図である。
図6】耐力壁の静的載荷試験により得られた荷重変形角関係を示すグラフであり、(a)~(c)はそれぞれ試験体A~Cについての結果を示す。
図7】各試験体についての包絡線を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の耐力壁の具体的な内容について、実施例に基づいて説明する。以下において上下左右とは、図1に示すように、この耐力壁を正面から見たときの上下左右方向を示すものとする。また、図1における手前側を前側、奥側を後側とする。なお、図1において紙面に直交する方向はこの耐力壁の見込方向であり、すなわち見込方向は前後方向と同じである。ここでは、前側を見込方向の一方側、後側を見込方向の他方側とする。
【0015】
図1に示すように、この耐力壁は、左右の柱材1および上下の横架材2を組んで構成される枠体10と、壁材3とを備えるものであり、上下の横架材2の間に左右の柱材1が位置していて、枠体10の内周側に壁材3が取り付けられている。なお、上下の横架材2のうち、上側の横架材2は、この耐力壁が取り付けられる建築物の構造材である梁2aからなるものであり、下側の横架材2は、この耐力壁が取り付けられる建築物の構造材である土台2bからなるものである。なお、この実施例の耐力壁は建築物の1階に取り付けられることを想定しており、上側の横架材2が梁2a、下側の横架材2が土台2bとなっているが、耐力壁が建築物の2階以上の階層に取り付けられる場合には、上下の両方の横架材が梁となる。
【0016】
柱材1は、木製の集成材からなるものである。そして、図2に示すように、柱材1の断面形状は左右方向に長い長方形である。柱材1の内周面(左の柱材1の右側面、右の柱材1の左側面)には、柱材1の上端から下端まで上下方向に延びる溝部11が形成されている。溝部11は、断面コ字形であって、深さよりも幅が広く、柱材1の前後方向中心よりも前側に位置している。
【0017】
横架材2(梁2aおよび土台2b)は、木製の集成材からなるものである。そして、図3に示すように、梁2aの断面形状は上下方向に長い長方形であり、土台2bの断面形状は正方形である。
【0018】
壁材3は、1枚のCLTからなるものである。ここでCLTとは、木製のひき板を繊維方向が直交するように積層して接着したパネルである。そして、図1および図2に示すように、壁材3は板状であり、その厚さ方向が前後方向となる向きであって、縦長の略長方形状のものである。ただし、壁材3の4つの角は、左右方向に対してやや傾斜した向きの直線で切り落とされた形状となっている。そして、壁材3の上下長さは、上下の横架材2の間に丁度納まる長さである。また、壁材3は、上下左右の四辺に沿った所定範囲の周縁部31と、その内周側の本体部32からなる。本体部32は、前後方向から見て長方形である。そして、周縁部31は、後側面が削られていて、厚さが本体部32よりも薄くなっている。すなわち、周縁部31の前側面(一方側の見付面)は本体部32の前側面(一方側の見付面)と面一であり、周縁部31の後側面(他方側の見付面)は本体部32の後側面(他方側の見付面)よりも前側(一方側)に位置している。
【0019】
次に、柱材1と壁材3の接合構造について説明する。図1および図2に示すように、柱材1と壁材3とは、溝部内接着剤4と、固着具5と、縦接合具6により接合されている。
【0020】
まず、壁材3の左右の端部(周縁部31)が、左右のそれぞれの柱材1の溝部11に挿入されている。溝部11の幅は、周縁部31の厚さよりもわずかに広く、周縁部31が溝部11にわずかなクリアランスで嵌まっている。また、溝部11の深さは、周縁部31の左右幅よりも浅く、溝部11に納まらない周縁部31が壁材3の後側に露出する。そして、溝部11内に溝部内接着剤4が充填され、溝部11内において、柱材1の溝部11の内周面と壁材3の周縁部31とが溝部内接着剤4によって接合されている。なお、溝部内接着剤4は、少なくとも、図2に示すように、溝部11の内側の前後の壁面と壁材3の周縁部31の前後面の間に充填される。また、溝部内接着剤4の種類は限定されないが、本実施形態ではウレタン樹脂系接着剤が用いられている。
【0021】
また、柱材1には、複数のネジ孔51が形成されている。本実施例では、1本の柱材1に形成されるネジ孔51の数は12個である。ネジ孔51は、柱材1の前側面の内周側の縁部に沿うように、上下に間隔を空けて並んで配置されており、前後方向に延びるものであって、前端部は柱材1の前側に向けて開口しており、後端部は柱材1の溝部11の内側に向けて開口している。すなわち、溝部11に壁材3の周縁部31が挿入された状態では、ネジ孔51の後端部は壁材3の周縁部31により塞がれている。そして、固着具5は、ネジからなるものである。この固着具5が、柱材1の前側からネジ孔51に挿入されており、溝部11内において壁材3に螺合している。
【0022】
さらに、柱材1と壁材3に複数の縦接合具6が取り付けられている。本実施例では、1箇所の柱材1と壁材3の接合部分に取り付けられる縦接合具6の数は9個である。縦接合具6は、L字金具からなるものであり、図2に示すように、前後方向に延びる見込片61と、見込片61の前端から左右方向内周側に向けて延びる見付片62からなる。見付片62の左右長さは見込片61の前後長さより長く、縦接合具6の上下長さは見付片62の左右長さよりも長い。見込片61と見付片62には、それぞれネジを通すための複数のネジ孔が形成されている。そして、縦接合具6の見込片61が、柱材1の内周面の溝部11の後側部分に当接しており、縦接合具6の見付片62が、壁材3の周縁部31の後側面の溝部11に納まらない部分に当接していて、それぞれの面にネジ止めされている。また、複数の縦接合具6が上下に間隔を空けて並んで配置されており、間隔部分の高さ位置と固着具5の高さ位置が一致している。
【0023】
次に、横架材2と壁材3の接合構造について説明する。図3に示すように、横架材2(梁2aおよび土台2b)には、柱材1のような溝部は形成されておらず、壁材3の周縁部31の端面が、横架材2の内周面(梁2aの下面、土台2bの上面)に当接している。そして、横架材2と壁材3に複数の横接合具7が取り付けられている。本実施例では、1箇所の横架材2と壁材3の接合部分に取り付けられる横接合具7の数は3個である。横接合具7は、L字金具からなるものであり、図3に示すように、前後方向に延びる見込片71と、見込片71の前端から上下方向内周側に向けて延びる見付片72からなる。見付片72の上下長さは見込片71の前後長さより長く、横接合具7の左右長さは見付片72の上下長さよりも長い。見込片71と見付片72には、それぞれネジを通すための複数のネジ孔が形成されている。そして、横接合具7の見込片71が、横架材2の内周面に当接しており、横接合具7の見付片72が、壁材3の周縁部31の後側面に当接していて、それぞれの面にネジ止めされている。
【0024】
次に、柱材1と横架材2の接合構造について説明する。柱材1と横架材2とは、いわゆるグルードインロッドにより接合されており、柱材1の上下の端部には、そのための接合部材8が取り付けられている。接合部材8は、図4に示すように、鋳鉄製で略直方体形のコネクタ81と、全ネジボルトからなるロッド82からなるものである。コネクタ81は、上下に対向する2枚の矩形平板状の板部811と、上下の板部811の4つの角同士を接続する4本の柱部812とが、一体に成形されたものである。板部811の大きさは、柱材1の断面よりも小さい。また、一方の板部811の中央部に、左右に並ぶ2つの雌ネジ部が形成されており、この雌ネジ部に2本のロッド82が螺合して固定されている。なお、柱材1の上側の接合部材8のロッド82よりも下側の接合部材8のロッド82の方が長い。一方、図2および図4に示すように、柱材1には、上下の端面からそれぞれ上下方向に延びる2つの先穴12が形成されている。先穴12の直径は、ロッド82の直径よりも一回り大きいものである。そして、柱材1の上端と下端のそれぞれにおいて、接合部材8のロッド82が柱材1の先穴12に挿入され、隙間に先穴内接着剤9が充填されており、先穴内接着剤9が硬化することで柱材1とロッド82とが一体となって接合されている。この際、コネクタ81の柱材1側の板部811が、柱材1の端面に当接している。なお、柱材1とその上下に取り付けられたコネクタ81とを合わせた上下長さが、壁材3の上下長さと略等しいものとなっており、コネクタ81の柱材1とは反対側の板部811が、横架材2の内周面(梁2aの下面、土台2bの上面)に当接している。ただし、横架材2の内周面の板部811が当接する部分には、板部811よりも大きな鋼板21が配置されており、これによってめり込み面積が大きくなっている。横架材2の鋼板21が配置される部分は、鋼板21の厚さ分だけ掘り下げられており、鋼板21の表面は鋼板21が配置されていない部分の横架材2の内周面と略面一となっている。そして、接合部材8のコネクタ81と横架材2とが、ハイテンションボルト83により接合されている。ハイテンションボルト83は、コネクタ81の柱材1とは反対側の板部811と横架材2(鋼板21を含む)を上下に貫通しており、ナットの締め付けによってコネクタ81と横架材2とが接合されている。
【0025】
次に、この耐力壁の施工方法について説明する。本発明において、実際に施工する際の手順が限定されるものではないが、上記のような構成としたことにより、柱材1と壁材3は、予め工場で組み立てることができる。すなわち、工場において、柱材1の溝部11に壁材3の端部を挿入し、溝部内接着剤4と固着具5と縦接合具6により柱材1と壁材3を接合し、さらに柱材1の上下端部に接合部材8を取り付ける。次に、そこまで組み立てられたものを建築物の施工現場に搬入し、上下の横架材2(梁2aおよび土台2b)の間に配置する。次に、柱材1の上下の接合部材8のコネクタ81を、ハイテンションボルト83によりそれぞれ上下の横架材2と接合する。このようにして、建築物に取り付けられる。
【0026】
なお、この耐力壁を、2階建て以上の階層を有する建築物に取り付けることもできる。図5は、例として3階建ての建築物の場合の耐力壁101,102,103の配置例を示すものである。1階の耐力壁101においては、上側の横架材2が1階の梁2a1、下側の横架材2が1階の土台2bとなる。2階の耐力壁102においては、上側の横架材2が2階の梁2a2、下側の横架材2が1階の梁2a1となる。3階の耐力壁103においては、上側の横架材2が3階の梁2a3、下側の横架材2が2階の梁2a2となる。このように、上下の階層の耐力壁同士で、横架材を共有するかたちとなる。そして、上下の階層にわたって耐力壁101,102,103を取り付ける場合には、図5の右側の3枚の耐力壁101,102,103のように、上下の階層において耐力壁101,102,103の左右位置が完全にそろうように配置することが最も望ましい。この場合、各階層の耐力壁101,102,103の左側の柱材1と右側の柱材1の左右位置がそれぞれ上下方向の直線上にそろうことになる。また、開口部などとの位置関係によりそれが困難であれば、図5の左側の3枚の耐力壁101,102,103のように、上下の階層において耐力壁101,102,103の左右位置が市松状となるように配置することが望ましい。この場合、各階層の耐力壁101,102,103の左右何れかの柱材1の左右位置が上下方向の直線上にそろうことになる。このように上下の耐力壁101,102,103において柱材1の左右位置がそろっている箇所では、横架材2を挟んで上下に接合部材8のコネクタ81が位置することになり、この場合、1本のハイテンションボルト83で、横架材2とその上下のコネクタ81とが接合される。
【0027】
このように構成された本発明の耐力壁によれば、柱材1の溝部11に壁材3の端部(周縁部31)が挿入されていて、溝部11内において柱材1と壁材3とが溝部内接着剤4によって接合されているので、柱材1と壁材3との間でガタが生じることがなく、剛性が高いものとなる。さらに、柱材1と壁材3とはネジからなる固着具5とL字金具からなる縦接合具6により接合されており、溝部内接着剤4が剥離するような大変形時において急激に耐力が低下することを防ぐことができる。また、横架材2と壁材3とはL字金具からなる横接合具7により接合されており、これは主として耐力壁に作用するせん断力に対して耐久する効果を発揮する。これらの構成により、壁倍率の高い耐力壁が得られる。そして、本発明は、木製の柱材1、横架材2および壁材3に加えて、溝部内接着剤4、ネジ(固着具5)、L字金具(縦接合具6、横接合具7)という一般的な要素によって構成されているので、製造が容易で低コストである。また、上下の横架材2の間に左右の柱材1が位置しているので、柱材1と壁材3とを工場で接合し、梁2aや土台2bを横架材2として、柱材1および壁材3と横架材2とを現場で接合することができるものであり、すなわち、工場で施工する部分を多くして現場での施工を少なくするプレファブリックなものすることができる。また、柱材1と横架材2が、接合部材8により接合されたものであって、接合部材8のロッド82が柱材1の先穴12に挿入されていて、先穴12内において柱材1とロッド82とが先穴内接着剤9によって接合されており、これは主として小~中変形時の引抜力に対して耐久する効果を発揮する。この構成により、さらに壁倍率の高い耐力壁が得られる。さらに、柱材1の溝部11が柱材1の見込方向中心よりも前側(一方側)に位置しているので、後側(他方側)においてチリ(壁材3の見付面から柱材1の見付面までの段差寸法)が大きくなり(図2のX部)、断熱材などを入れる空間が確保される。そして、壁材3の周縁部31の厚さが本体部32よりも薄いので、壁材3と柱材1の接合部分においてチリがより大きくなり、柱材1において壁材3を呑み込む部分をより厚くできるので(図2のY1部、Y2部)、より剛性が高いものとなる。これにより、大変形時において柱材1が破損して壁材3が面外方向(見込方向)に逃げることを防ぐことができる。また、壁材3の周縁部31の他方側の見付面が本体部32の他方側の見付面よりも一方側に位置しているので、縦接合具6および横接合具7が周縁部31にネジ止めされることで、縦接合具6および横接合具7の見込幅をより大きくすることができ、より剛性が高いものとなる。
【0028】
次に、このように構成された耐力壁の性能(作用効果)を確認する試験について説明する。試験に用いた耐力壁の試験体は図1図4に示す実物大のものであって、柱材1、梁2aおよび土台2bは、何れもオウシュウアカマツの集成材からなり、壁材3は、スギのCLTからなる。そして、梁2aの上面から土台2bの上面までの距離が2920mm、左右の柱材1の中心軸間の距離が910mmである。また、柱材1の断面寸法が210mm×120mm、梁2aの断面寸法が240mm×120mm、土台2bの断面寸法が120mm×120mmである。さらに、柱材1の溝部11は幅が51mm、深さが30mmであって、柱材1の前側面から溝部11までの距離(図2のY1部)は19mm、柱材1の後側面から溝部11までの距離(図2のY2部)は50mmである。また、壁材3の本体部32の厚さが60mm、周縁部31の厚さが50mmである。なお、同じ仕様の試験体を3体用意し、性能のばらつきを確認することとした。各試験体を、試験体A、試験体B、試験体Cと称する。
【0029】
これらの試験体A~Cに対して、試験機により荷重を作用させて、静的載荷試験を行った。より詳しくは、各試験体の下側の横架材2(土台2b)を固定し、上側の横架材2(梁2a)に対して左右方向の力を作用させ、各試験体の変形角を測定した。
【0030】
図6は、試験体A~Cについての静的載荷試験における荷重変形角関係を示すグラフである。(a)~(c)がそれぞれ試験体A~Cに対応し、縦軸が荷重(kN)、横軸が変形角(rad)を示す。また各グラフには、完全弾塑性化で評価したモデルおよび包絡線も示す。荷重変形角関係より、木質構造で多く見られるスリップ特性(繰り返し荷重による剛性・耐力の低下)が小さいことが確認できる。これは、1/75radを超えたあたりより、柱材1の下側に取り付けた接合部材8のロッド82が降伏して伸びたため、除荷時にも耐力が生じたためと考えられる。破壊性状でも、1/75radを超えたあたりより、柱材1の下側において、接合部材8のコネクタ81と柱材1の端面(木口)の間に隙間が見られ、最大耐力時に接合部材8のロッド82の破断が生じた。試験後、破断したロッド82を確認したところ、想定どおりの箇所で破断していることが確認された。
【0031】
また、図7は、各試験体の包絡線を比較したグラフである。縦軸が荷重(kN)、横軸が変形角(rad)を示す。何れの試験体とも、初期剛性のばらつきが少ない。試験体Aは、0.06rad付近でロッド82の破断が生じたが、その他の試験体では、0.04~0.05radで破断した。何れの試験体とも、0.02rad以降で荷重の小さな低下が見られるが、これはロッド82の降伏後に柱材1と壁材3の接合部に大きなせん断力が生じ、ズレが生じたためである。柱材1と壁材3の接合部は溝部内接着剤4、固着具5および縦接合具6によって固定されていたため、ズレは柱材1の割裂によって生じた。この柱材1の割裂により、耐力壁の変形性能が向上すると考えられ、割裂が最も大きかった試験体Aの変形性能が大きいと考えられる。下記の表1より、ばらつきを考慮した短期基準せん断耐力は30.00kNとなった。これは、壁倍率16.82に相当し、終局耐力より決定される。このように、本発明により壁倍率の高い耐力壁が得られることが確認された。
【表1】
【0032】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で適宜変更できる。たとえば、柱材と壁材の接合部や横架材と壁材の接合部において、縦接合具や横接合具を省いたものであってもよい。その場合でも壁倍率は十分に高いものとなり、より製造が容易で低コストなものとなる。また、上記の接合構造に加えて、さらに接合のための構造や部材が追加されたものであってもよい。また、固着具、縦接合具や横接合具の数は、この耐力壁の大きさや必要とされる壁倍率に応じて適宜変更できる。さらに、柱材と壁材の接合部において、ネジからなる固着具が壁材のみならず柱材にも螺合するものであってもよい。また、柱材と横架材の接合部において、上記の接合部材による接合構造は、グルードインロッドによる接合構造の一例であり、これとは異なる形状の接合部材を用いたグルードインロッドによる接合構造を採用してもよい。さらに、柱材と横架材の接合部において、グルードインロッドによる接合構造に替えて、既存のホールダウン金物などによる接合構造を採用してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 柱材
2 横架材
3 壁材
4 溝部内接着剤
5 固着具
6 縦接合具
7 横接合具
8 接合部材
9 先穴内接着剤
10 枠体
11 溝部
12 先穴
31 周縁部
32 本体部
82 ロッド

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7