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特開2024-125547基材、時計用部品、金型、成形品、および、基材の製造方法
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  • 特開-基材、時計用部品、金型、成形品、および、基材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125547
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】基材、時計用部品、金型、成形品、および、基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/06 20060101AFI20240911BHJP
   G04B 37/22 20060101ALI20240911BHJP
   G04B 1/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G04B19/06 G
G04B19/06 B
G04B37/22 J
G04B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033424
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】滝下 悠貴
(57)【要約】
【課題】明度のばらつきを小さくすることができる基材を提供すること。
【解決手段】基材は、表面に複数の凹部が形成されることで錐状の突起物が形成された本体部を備え、本体部を厚さ方向に切断した断面視で、厚さ方向に沿った凹部の深さは55μm以下であり、かつ、隣り合う凹部における底部間の長さであるピッチは95μm以下であり、かつ、厚さ方向と直交する方向に対する凹部の側面の中点における接線の傾きは76°以下であり、本体部に対して照射された光の反射光は、視野角による明度L*のばらつきが所定の範囲内であることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の凹部が形成されることで錐状の突起物が形成された本体部を備え、
前記本体部を厚さ方向に切断した断面視で、前記厚さ方向に沿った前記凹部の深さは55μm以下であり、かつ、隣り合う前記凹部における底部間の長さであるピッチは95μm以下であり、かつ、前記厚さ方向と直交する方向に対する前記凹部の側面の中点における接線の傾きは76°以下であり、
前記本体部に対して照射された光の反射光は、視野角による明度L*のばらつきが所定の範囲内である
ことを特徴とする基材。
【請求項2】
請求項1に記載の基材において、
前記ピッチは75μm以下である
ことを特徴とする基材。
【請求項3】
請求項1に記載の基材において、
前記本体部に対して照射された光の反射光は、前記凹部および前記突起物が形成されない前記本体部に対して照射された光の反射光に比べて、視野角による明度L*のばらつきが小さくなる
ことを特徴とする基材。
【請求項4】
請求項1に記載の基材において、
前記凹部および前記突起物が形成されない前記本体部に対して照射された光の反射光の視野角による明度L*の標準偏差が27である場合に、前記凹部および前記突起物が形成された前記本体部に対して照射された光の反射光における視野角による明度L*の標準偏差が10以下である
ことを特徴とする基材。
【請求項5】
請求項1に記載の基材において、
前記本体部の少なくとも一部を覆う多層膜を備える
ことを特徴とする基材。
【請求項6】
請求項5に記載の基材において、
前記多層膜は、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜を備える
ことを特徴とする基材。
【請求項7】
請求項5に記載の基材において、
前記多層膜は、金属を用いて形成される色吸収膜を備える
ことを特徴とする基材。
【請求項8】
請求項1に記載の基材により構成される
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項9】
請求項1に記載の基材により構成される
ことを特徴とする金型。
【請求項10】
請求項1に記載の基材により構成され、かつ、金型によって転写される
ことを特徴とする成形品。
【請求項11】
本体部を備える基材の製造方法であって、
前記本体部の表面に複数の凹部を形成する工程を備え、
前記本体部を厚さ方向に切断した断面視で、前記厚さ方向に沿った前記凹部の深さは55μm以下であり、かつ、隣り合う前記凹部における底部間の長さであるピッチは95μm以下であり、かつ、前記厚さ方向と直交する方向に対する前記凹部の側面の中点における接線の傾きは76°以下であり、
前記本体部に対して照射された光の反射光は、視野角による明度L*のばらつきが所定の範囲内である
ことを特徴とする基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材、時計用部品、金型、成形品、および、基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材の表面に被膜が積層された時計用部品が開示されている。特許文献1では、被膜におけるCo、Cr、Mo、の含有率を所定の値にすることにより、時計用部品の明度を高くできるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-163085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、基材に照射された光は基材の表面で正反射る割合が多くなることから、正反射の位置における明度は高くなるものの、その他の視野角における明度は相対的に低くなってしまう。そのため、視野角による明度のばらつきが多くなってしまうといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の基材は、表面に複数の凹部が形成されることで錐状の突起物が形成された本体部を備え、前記本体部を厚さ方向に切断した断面視で、前記厚さ方向に沿った前記凹部の深さは55μm以下であり、かつ、隣り合う前記凹部における底部間の長さであるピッチは95μm以下であり、かつ、前記厚さ方向と直交する方向に対する前記凹部の側面の中点における接線の傾きは76°以下であり、前記本体部に対して照射された光の反射光は、視野角による明度L*のばらつきが所定の範囲内であることを特徴とする。
【0006】
本開示の時計用部品は、前記基材により構成されることを特徴とする。
【0007】
本開示の金型は、前記基材により構成されることを特徴とする。
【0008】
本開示の成形品は、前記基材により構成され、かつ、金型によって転写されることを特徴とする。
【0009】
本開示の基材の製造方法は、本体部を備える基材の製造方法であって、前記本体部の表面に複数の凹部を形成する工程を備え、前記本体部を厚さ方向に切断した断面視で、前記厚さ方向に沿った前記凹部の深さは55μm以下であり、かつ、隣り合う前記凹部における底部間の長さであるピッチは95μm以下であり、かつ、前記厚さ方向と直交する方向に対する前記凹部の側面の中点における接線の傾きは76°以下であり、前記本体部に対して照射された光の反射光は、視野角による明度L*のばらつきが所定の範囲内であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の時計を示す正面図。
図2】第1実施形態の文字板の要部を示す断面図。
図3】第1実施形態の文字板の要部を示す拡大斜視図。
図4】明度L*の平均値の測定方法を示す概略図。
図5】明度L*の平均値と、深さD、ピッチPとの関係を示す図。
図6】明度L*の標準偏差と、深さD、ピッチPとの関係を示す図。
図7】第2実施形態の文字板の要部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下、本開示の実施形態の時計1を図面に基づいて説明する。
図1は、時計1を示す正面図である。本実施形態では、時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計として構成される。
図1に示すように、時計1は、金属製のケース10を備える。そして、ケース10の内部には、円板状の文字板2と、秒針3、分針4、時針5と、りゅうず6と、Aボタン7と、Bボタン8とを備える。また、ケース10には、バンド9が取り付けられている。
また、ケース10は、ケース本体11と、かん12とを備える。ケース本体11は、前述した文字板2、秒針3、分針4、時針5等を内部に収納する。かん12は、ケース本体11の6時方向および12時方向にそれぞれ設けられている。そして、それぞれのかん12には、図示略のバネ棒等にて、バンド9が取り付けられている。
なお、文字板2は、本開示の基材の一例である。すなわち、本開示の基材は時計用部品である文字板2として構成される。
【0012】
[文字板]
図2は文字板2の要部を示す断面図であり、図3は文字板2の要部を示す拡大斜視図である。なお、図2は文字板2における本体部30を厚さ方向に切断した断面図である。
図2図3に示すように、文字板2は、本体部30と、多層膜31とを備えて構成される。本実施形態では、本体部30は、全体にわたって多層膜31に覆われている。すなわち、多層膜31は、本体部30の表面301全体を覆うように積層されている。
なお、文字板2は、上記構成に限られるものではなく、例えば、本体部30の表面301の一部を覆うように多層膜31が積層されていてもよい。
【0013】
[本体部]
本体部30の材質は、鉄、真鍮、アルミニウム等の金属や、樹脂等から構成される。なお、本体部30を樹脂により構成する場合、当該樹脂は、光を透過させない非透光性樹脂であってもよく、あるいは、光を透過させる透光性樹脂であってもよい。
そして、本実施形態では、文字板2における本体部30の表面301には、複数の凹部32が形成されている。
【0014】
[凹部]
本実施形態では、凹部32は、本体部30の表面301に複数形成されている。具体的には、図3に示すように、凹部32は、表面301に円錐状の突起物33が複数形成されるように形成されている。
そして、本実施形態では、凹部32は、本体部30の厚さ方向に沿った深さがDとされ、隣り合う凹部32における底部321間の長さであるピッチがPとされている。さらに、厚さ方向と直交する方向に対する凹部32の側面322の中点323における接線Tの傾きがθとされている。
【0015】
ここで、本実施形態では、凹部32は、深さDが55μm以下であり、かつ、ピッチPが95μm以下であり、かつ、傾きθが76°以下となるように形成されている。より好ましくは、凹部32は、深さDが55μm以下であり、かつ、ピッチPが75μm以下であり、かつ、傾きθが76°以下、となるように形成されている。
【0016】
[多層膜]
多層膜31は、本体部30の表面301側に積層される。本実施形態では、多層膜31は色吸収膜と色調整膜とにより構成されている。
色吸収膜は、本体部30の表面301側に積層され、金属を用いて形成される。なお色吸収膜を構成する金属としては、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Ti等や、これらの合金等が好ましい。
色吸収膜の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。
【0017】
色調整膜は、光学干渉により色調を調整する膜である。本実施形態では、色調整膜は、無機膜を含む多層膜で構成される。具体的には、色調整膜、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成されることが好ましい。これにより、これらの無機物は化学的安定性が高いので、時計用部品としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。
なお、色調整膜の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。これにより、多層膜31の層構成を任意に変化させることができる。
【0018】
[文字板の製造方法]
次に、文字板2の製造方法について説明する。
先ず、文字板2における本体部30の表面301に、前述した凹部32および突起物33を複数形成させる。例えば、本体部30の表面301を、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて凹部32を形成して突起物33を形成する。この際、深さDが55μm以下であり、かつ、ピッチPが95μm以下であり、かつ、傾きθが76°以下となるように凹部32を形成することで、表面301に複数の円錐状の突起物33を形成する。
【0019】
次に、文字板2における本体部30の表面301に多層膜31を積層させる。具体的には、本体部30の表面301に、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等により色吸収膜および色調整膜を積層させることで多層膜31を形成する。これにより、文字板2を製造することができる。
さらに、このような製造方法で製造された文字板2を時計1に用いることにより、時計1を製造することができる。
【0020】
[評価試験]
次に、本実施形態において、金属製の基材に複数の凹部を形成した試験片および凹部を形成しない基材に光を照射した場合の反射光について明度L*を測定した結果について詳細に説明する。
【0021】
[評価試験方法]
図4は、明度L*の平均値の測定方法を示す概略図である。図4に示すように、以下の表1に示す条件にて本体部に対して複数の凹部および突起物を形成した試験片S1~S16と、凹部および突起物を形成しない本体部とに対して光を照射し、その反射光の明度L*の平均値を測定した。なお、以下では凹部および突起物を形成しない本体部を基準板と称する。
具体的な評価試験方法として、試験片S1~S16、および、基準板に対して、45°の角度から光を照射する。そして、その正反射の視野角の位置に対して、-15°~110°の位置における明度L*を測定して、その平均値を求めた。すなわち、試験片S1~S16、および、基準板を広範囲の視野角から視た場合の明るさを明度L*の平均値として評価した。また、各視野角における明度L*のばらつきを評価するために標準偏差を求めた。
なお、本開示において、明度L*とは、CIE(Commission Internationale d'Eclairage;国際照明委員会)で規定されるL*a*b*色空間における明度の値である。L*の値が「0」の場合は全く光を反射しない(光を完全に吸収する)物体の明度であり、L*の値が「100」の場合は光を完全反射する白の明度の値を表す。
【0022】
【表1】
【0023】
[評価試験結果]
図5は、評価試験結果である明度L*の平均値と、深さD、ピッチPとの関係を示す図であり、図6は、明度L*の標準偏差と、深さD、ピッチPとの関係を示す図である。
図5に示すように、基準板に対して光を照射した場合における反射光の明度L*の平均値は45であった。これに対し、試験片S1、S2、S5、S6、S9、S10、S13、S14、S15は、明度L*の平均値が、基準板の明度L*の平均値である45を超えていた。
これは、基準板では、表面で正反射する光の割合が多いことから、正反射の位置における明度L*の値は高くなるものの、その他の視野角における明度L*の値が低くなることで明度L*の平均値としては抑えられる。これに対し、試験片S1、S2、S5、S6、S9、S10、S13、S14、S15では凹部に入射した光が凹部の側面により適度に散乱することで反射する光が分散して、明度L*の平均値としては基準板よりも高くなることが推察される。
【0024】
次に、図6に示すように、基準板に対して光を照射した場合における反射光の明度L*の標準偏差は27であった。これに対し、全ての試験片S1~S16では、反射光の明度L*の標準偏差が1~21の範囲内であり、基準板の明度L*の標準偏差である27よりも低くなっていた。つまり、全ての試験片S1~S16において、明度L*のばらつきが所定の範囲内となっており、基準板よりも明度L*のばらつきが小さくなっていた。
これは、前述と同様に、基準板では正反射する光の割合が多くなるのに対して、試験片S1~S16では凹部に入射した光が凹部の側面により適度に散乱することで反射する光が分散するので、基準板よりも試験片S1~S16の方が明度L*のばらつきが小さくなることが推察される。
このことから、深さDが55μm以下であり、かつ、ピッチPが95μm以下であり、かつ、傾きθが76°以下となるように凹部32を形成して突起物33を形成することにより、基準板よりも明度L*の標準偏差を小さくできる、つまり、視野角による反射光の明度L*のばらつきを小さくできることが示唆された。特に、深さDが55μm以下であり、かつ、ピッチPが75μm以上であり、かつ、傾きθは76°以下である試験片S2~S4、S6~S8、S10~S12、S14~S16では、明度L*の標準偏差が10以下と顕著に低くなること示唆された。
【0025】
[実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、深さDが55μm以下であり、かつ、ピッチPが95μm以下であり、かつ、傾きθが76°以下の凹部32を複数形成することで突起物33を形成することにより、入射した光は凹部32の側面322で適度に散乱するので、凹部を形成しない場合に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきを小さくすることができる。そのため、視野角によらず審美性の高い文字板2を提供することができる。
【0026】
本実施形態では、深さDが55μm以下であり、かつ、ピッチPが75μm以下であり、かつ、接線Tの傾きθが76°以下の凹部32を形成することで、基準板に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきを顕著に小さくすることができる。そのため、視野角によらずより審美性の高い文字板2を提供することができる。
【0027】
本実施形態では、凹部32および突起物33が形成された本体部30に対して照射された光の反射光は、基準板に対して照射された光の反射光に比べて、視野角による反射光の明度L*のばらつきが小さいので、視野角によらず審美性の高い基材を提供することができる。
【0028】
本実施形態では、基準板に対して照射された光の反射光の視野角による明度L*の標準偏差が27である場合に、凹部32および突起物33が形成された本体部30に対して照射された光の反射光における視野角による明度L*の標準偏差が10以下であるので、基準板に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきを顕著に小さくすることができる。そのため、視野角によらずより審美性の高い文字板2を提供することができる。
【0029】
本実施形態では、本体部30の少なくとも一部が多層膜31に覆われるので、明度に加えて多様な色調を表現でき、装飾性、デザイン性を高くできる。
【0030】
本実施形態では、多層膜31は、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜を備えている。これにより、文字板2として表現できる色調の範囲をより広くできる。さらに、これらの無機酸化物は化学的安定性が高いので、文字板2としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。
【0031】
本実施形態では、多層膜31は、金属を用いて形成される色吸収膜を備えている。これにより、文字板2として高級感のある外観を得ることができる。
【0032】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について、図7に基づいて説明する。第2実施形態では、凹部32Aが、湾曲する側面322Aにより規定される点で、前述した第1実施形態と異なる。
なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一または同様の構成には同一符号を付し、説明を省略または簡略する。
【0033】
[凹部]
図7は、第2実施形態の文字板2Aの要部を示す断面図である。前述した第1実施形態と同様に、本実施形態では、凹部32Aは、本体部30Aの表面301Aに複数形成されている。そして、本実施形態では、凹部32Aの側面322Aおよび底部321Aは湾曲している。
また、前述した第1実施形態と同様に、凹部32Aは、表面301Aに円錐状の突起物33Aが複数形成されるように形成されている。
そして、前述した第1実施形態と同様に、凹部32Aは、本体部30Aの厚さ方向に沿った深さがD1とされ、隣り合う凹部32Aにおける底部321A間の長さであるピッチがP1とされている。さらに、厚さ方向と直交する方向に対する凹部32Aの側面322Aの中点323Aにおける接線T1の傾きがθ1とされている。
【0034】
ここで、本実施形態では、前述した第1実施形態と同様に、凹部32Aは、深さD1が55μm以下であり、かつ、ピッチP1が95μm以下であり、かつ、傾きθ1が76°以下となるように形成されている。
【0035】
[第2実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、凹部32Aを規定する側面322Aおよび底部321Aは湾曲している。これにより、凹部32Aを規定する辺は直線に限られないので、凹部32Aを形成するための加工の自由度を高くすることができる。
【0036】
[変形例]
なお、本開示は前述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。
【0037】
前述した各実施形態では、凹部32,32Aは、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成されていたが、これに限定されない。例えば、凹部は、フェムトレーザー加工、または、ピコレーザー加工を用いて形成されていてもよい。これにより、側面322,322Aの傾きをより高精度に変化させることができる。
【0038】
前述した各実施形態では、本体部30,30Aの表面301,301Aには、少なくとも一部を覆うように多層膜31が積層されていたが、これに限定されない。例えば、本体部の表面に多層膜が積層されない場合も本開示に含まれる。
【0039】
前述した各実施形態では、本開示の基材は時計用部品である文字板2として構成されていたが、これに限定されない。例えば、本開示の基材は、ケース、ダイヤルリング、ガラス縁、ムーブメント、針、略字、および、回転錘のいずれか一つとして構成されていてもよい。
さらに、本開示の基材は、金型として構成されていてもよく、あるいは、金型によって転写される成形品として構成されていてもよい。
【0040】
[本開示のまとめ]
本開示の基材は、表面に複数の凹部が形成されることで錐状の突起物が形成された本体部を備え、前記本体部を厚さ方向に切断した断面視で、前記厚さ方向に沿った前記凹部の深さは55μm以下であり、かつ、隣り合う前記凹部における底部間の長さであるピッチは95μm以下であり、かつ、前記厚さ方向と直交する方向に対する前記凹部の側面の中点における接線の傾きは76°以下であり、前記本体部に対して照射された光の反射光は、視野角による明度L*のばらつきが所定の範囲内であることを特徴とする。
本開示では、深さが55μm以下であり、かつ、ピッチが95μm以下であり、かつ、傾きが76°以下の凹部を複数形成することで突起物を形成することにより、入射した光は凹部の側面で適度に散乱するので、凹部を形成しない場合に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきを小さくすることができる。そのため、視野角によらず審美性の高い基材を提供することができる。
【0041】
本開示の基材において、前記ピッチは75μm以下であってもよい。
これにより、深さが55μm以下であり、かつ、ピッチが75μm以下であり、かつ、接線の傾きが76°以下の凹部を形成することで、凹部を形成しない場合に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきを顕著に小さくすることができる。そのため、視野角によらずより審美性の高い基材を提供することができる。
【0042】
本開示の基材において、前記本体部に対して照射された光の反射光は、前記凹部および前記突起物が形成されない前記本体部に対して照射された光の反射光に比べて、視野角による明度L*のばらつきが小さくなってもよい。
これにより、凹部を形成しない場合に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきが小さいので、視野角によらず審美性の高い基材を提供することができる。
【0043】
本開示の基材において、前記凹部および前記突起物が形成されない前記本体部に対して照射された光の反射光の視野角による明度L*の標準偏差が27である場合に、前記凹部および前記突起物が形成された前記本体部に対して照射された光の反射光における視野角による明度L*の標準偏差が10以下であってもよい。
これにより、凹部を形成しない場合に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきを小さくすることができる。そのため、視野角によらず審美性の高い基材を提供することができる。
【0044】
本開示の基材において、前記本体部の少なくとも一部を覆う多層膜を備えていてもよい。
これにより、本体部の少なくとも一部が多層膜に覆われるので、多様な色調を表現でき、装飾性、デザイン性を高くできる。
【0045】
本開示の基材において、前記多層膜は、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜を備えることを特徴とする。
これにより、基材として表現できる色調の範囲をより広くできる。さらに、これらの無機物は化学的安定性が高いので、基材としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。
【0046】
本開示の基材において、前記多層膜は、金属を用いて形成される色吸収膜を備えることを特徴とする。
これにより、基材として高級感のある外観を得ることができる。
【0047】
本開示の時計用部品は、前記基材により構成されることを特徴とする。
【0048】
本開示の金型は、前記基材により構成されることを特徴とする。
【0049】
本開示の成形品は、前記基材により構成され、かつ、金型によって転写されることを特徴とする。
【0050】
本開示の基材の製造方法は、本体部を備える基材の製造方法であって、前記本体部の表面に複数の凹部を形成する工程を備え、前記本体部を厚さ方向に切断した断面視で、前記厚さ方向に沿った前記凹部の深さは55μm以下であり、かつ、隣り合う前記凹部における底部間の長さであるピッチは95μm以下であり、かつ、前記厚さ方向と直交する方向に対する前記凹部の側面の中点における接線の傾きは76°以下であり、前記本体部に対して照射された光の反射光は、視野角による明度L*のばらつきが所定の範囲内であることを特徴とする。
これにより、深さが55μm以下であり、かつ、ピッチが95μm以下であり、かつ、傾きが76°以下の凹部を複数形成することで突起物を形成することにより、入射した光は凹部の側面で適度に散乱するので、凹部を形成しない場合に比べて視野角による反射光の明度L*のばらつきを小さくすることができる。そのため、視野角によらず審美性の高い基材を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…時計、2,2A…文字板(基材)、3…秒針、4…分針、5…時針、7…Aボタン、8…Bボタン、9…バンド、10…ケース、11…ケース本体、30,30A…本体部、31…多層膜、32,32A…凹部、33,33A…突起物、301,301A…表面、321,321A…底部、322,322A…側面、323,323A…中点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7