(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125548
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】流体デバイス
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240911BHJP
B01D 43/00 20060101ALI20240911BHJP
B01J 19/10 20060101ALI20240911BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H04R17/00 330G
B01D43/00 Z
B01J19/10
B01J19/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033425
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小島 力
(72)【発明者】
【氏名】久保 景太
(72)【発明者】
【氏名】今井 克浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博則
【テーマコード(参考)】
4G075
5D019
【Fターム(参考)】
4G075AA13
4G075AA27
4G075AA42
4G075AA61
4G075BB01
4G075BB05
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4G075FC20
5D019AA21
5D019BB02
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5D019BB19
5D019BB24
5D019EE01
5D019FF02
5D019GG09
(57)【要約】
【課題】気泡による超音波の伝搬効率の低下や、定在波の形成阻害を抑制可能な流体デバイスを提供する。
【解決手段】流体デバイスは、流体が流通する流路を構成する流路壁と、前記流路壁に配置される超音波素子とを有し、超音波を用いて前記流体中の微粒子を捕捉する流体デバイスであって、前記超音波素子は、前記流路壁と一体となる平坦な第一面、及び前記第一面と反対側の第二面を有する振動板と、前記振動板の前記第二面に設けられる圧電素子と、前記第一面から前記第二面に向かう方向から見たときに前記圧電素子を囲うように前記第二面に配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する流路を構成する流路壁と、前記流路壁に配置される超音波素子とを有し、超音波を用いて前記流体中の微粒子を捕捉する流体デバイスであって、
前記超音波素子は、
前記流路壁と一体となる平坦な第一面、及び前記第一面と反対側の第二面を有する振動板と、
前記振動板の前記第二面に設けられる圧電素子と、
前記第一面から前記第二面に向かう方向から見たときに前記圧電素子を囲うように前記第二面に配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、
を備えることを特徴とする流体デバイス。
【請求項2】
前記第一面は、前記流路壁の前記流体に接する内壁面と面一に設けられ、前記流路内の前記流体に接する
請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項3】
前記流路壁は、前記流路内の前記流体に面する内壁面と、内壁面とは反対側の外壁面とを備え、
前記振動板の前記第一面は、前記外壁面に対向して、当該外壁面に接合されている、
請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項4】
前記流路壁は、前記超音波素子が配置される第一壁と、前記第一壁に対向する第二壁を含み、
前記第二壁の前記外壁面に、超音波を反射する超音波反射部が設けられている、
請求項3に記載の流体デバイス。
【請求項5】
前記流路壁の密度をρw、前記流路壁における音速をcwとし、前記振動板の密度をρs、前記振動板における音速をcsとし、前記超音波反射部の密度をρr、前記超音波反射部における音速をcrとした場合に、
ρw×cw<ρs×cs
かつ、
ρw×cw<ρr×cr
を満たす、請求項4に記載の流体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体に対して超音波を送信し、当該超音波によって定在波を形成することで流体に含まれる粒子を捕捉する流体デバイスが知られている。
特許文献1に記載の流体デバイスは、流路を形成する流路壁に対してアクチュエータが設けられている。また、特許文献1のアクチュエータの代わりに、特許文献2に記載されている超音波素子を使用することもできる。この超音波素子は、開口部を有する基板と、開口部を閉塞する振動板と、振動板に設けられる圧電素子とを備える。
特許文献2に記載の超音波素子では、圧電素子の駆動によって振動板を振動させることで超音波を送信する。このような超音波素子を特許文献1のような流体デバイスに適用すると、基板の開口部が流体に対向し、開口部から振動板が流路内に臨む構成とすることで、振動板の振動による超音波を流体に直接送信することができる。
なお、このような超音波素子を、流路壁の外側に基板を貼り付けるように配置してもよく、この場合、開口部と流路壁との音響インピーダンスの差を低減させるための音響整合層を開口部内に充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2005/058459号公報
【特許文献2】特開2018-157125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のような従来の薄膜型超音波デバイスは、基板に開口部が設けられるため、このような薄膜型超音波デバイスを流体デバイスに適用するト、開口部内に空気が侵入し、気泡となって超音波の送信を阻害する場合がある。例えば、流路内に開口部が露出する構成では、特に、開口部と振動板との間の角部等に気泡が残留しやすい。また、流路壁の外面に超音波デバイスを貼り付ける場合、上記のように音響整合層を開口部に充填する必要があるが、開口幅が小さい開口部に音響整合層を隙間なく充填することは困難であり、気泡が混入する恐れがある。
このような気泡が超音波の送信方向に存在する場合、超音波が気泡の界面によって反射されるため超音波の伝搬効率が低下する、との課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第一態様の流体デバイスは、流体が流通する流路を構成する流路壁と、前記流路壁に配置される超音波素子とを有し、超音波を用いて前記流体中の微粒子を捕捉する流体デバイスであって、前記超音波素子は、前記流路壁と一体となる平坦な第一面、及び前記第一面と反対側の第二面を有する振動板と、前記振動板の前記第二面に設けられる圧電素子と、前記第一面から前記第二面に向かう方向から見たときに前記圧電素子を囲うように前記第二面に配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第一実施形態の流体デバイスの概略構成を示す図。
【
図2】第一実施形態の流体デバイスの超音波素子の位置における概略断面図。
【
図3】比較例の流体デバイスの概略構成と、第一実施形態の流体デバイスの概略構成とを比較する図。
【
図4】抑制部の距離と規格化放射インピーダンスとの関係を示す図。
【
図5】第二実施形態の流体デバイスの概略構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[第一実施形態]
以下、第一実施形態の流体デバイスについて説明する。
図1は、第一実施形態の流体デバイスの概略構成を示す図である。
流体デバイス10は、内部に流体Sを流通させる流路20と、流路20内の流体Sに超音波を送信して定在波SWを発生させる超音波素子30と、超音波素子30の駆動を制御する制御部40と、を備える。
ここで、流路20の流体Sが流れる方向をX方向とする。超音波素子30により送信される超音波の送信方向をZ方向とし、Z方向はX方向に直交するものとする。また、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。
【0008】
この流体デバイス10では、流路20内のX方向に沿った一部領域において、任意のモード次数の定在波SWがY方向に沿って形成される。流体S中に分散している微粒子Mは、流路20内を流通する過程で、定在波SWにより形成される圧力勾配の影響を受け、定在波SWの節を中心とする所定範囲に収束する。流体Sとしては、特に限定されないが、例えば水や血液などを例示できる。また、微粒子Mとしては、例えば微小繊維や細胞等を例示できる。
このような流体デバイス10では、例えば、流路20に対して、収束した微粒子Mを含む流体S(濃縮流体)を選択的に流通させる濃縮用流路と、それ以外の流体S(希釈流体)を選択的に流通させる希釈用流路とを設けることにより、流体Sにおける微粒子Mを濃縮することができる。例えば、流体デバイス10を、洗濯液に含まれる微小繊維の除去に用いる場合には、微小繊維を多く含む濃縮用流路を、微小繊維を回収する専用の回収部に接続し、希釈用流路を排水管に接続すればよい。
なお、
図1では、流路20内で収束される微粒子Mの様子を模式的に例示している。また、
図1では、一例として、流路20内に発生する1次モードの定在波SWを模式的に示しているが、定在波SWのモード次数は特に限定されない。
さらに、
図1では、1つの超音波素子30を用いる例を示すが、濃縮用流路や希釈用流路にさらに他の超音波素子を配置して、同様に微粒子Mを再捕捉するようにしてもよい。この場合、希釈用流路の流体Sに含まれる微粒子Mをさらに除去したり、濃縮用流路の流体Sの微粒子Mの濃度をさらに濃縮したりすることができる。
【0009】
流路20は、X方向に沿って延設される流路壁により構成される。流路壁は、Z方向において互いに対向する第一壁21および第二壁22と、Y方向において対向する第三壁及び第四壁とを含む。なお、
図1では、第三壁及び第四壁の図示は省略している。
第一壁21および第二壁22の間の流路幅Lは、超音波素子30から送信される超音波によって所定のモード次数の定在波を形成するための既知の値となる。
ここで、第一壁21において、流路20に面する側、つまり流体Sと接する壁面を第一内壁面21Aとし、第一壁21の第一内壁面21Aとは反対側の面を第一外壁面21Bとする。同様に、第二壁22において、流路20に面する側、つまり流体Sと接する壁面を第二内壁面22Aとし、第二壁22の第二内壁面22Aとは反対側の面を第二外壁面22Bとする。
【0010】
また、図示を省略するが、流路20には、流体Sを流路20に注入するための注入口と、流路20から流体Sを排出するための1以上の排出口とが設けられる。流路20に対して上述したような濃縮用流路および排出用流路が設けられる場合には、各流路に対して排出口が設けられる。
【0011】
超音波素子30は、流路20の所定位置において設けられ、流体Sに対して所定の周波数の超音波を送信することで、当該流体SにY軸に沿った定在波SWを発生させる。本実施形態では、超音波素子30の超音波送信面である第一面31Aは、流路20の第一壁21の一部を構成しており、Z方向に沿った定在波SWを発生させる。
【0012】
図2は、第一実施形態の流体デバイス10において、超音波素子30が配置される位置での概略断面図である。
超音波素子30は、
図2に示すように、振動板31と、圧電素子32と、抑制部33と、封止板34とを備える。
【0013】
振動板31は、第一基板311と、第二基板312とを備える。第一基板311は、例えばSi等の半導体基板により構成される平坦な板状基板である。第二基板312は、第一基板311に積層される基板であり、例えばSiO2やZrO2等の金属酸化物により構成される平坦な板状基板である。
第一基板311の第二基板312とは反対側の面は、本開示の第一面31Aを構成し、超音波素子30から超音波が送信される超音波送信面となる。また、第二基板312の第一基板311とは反対側の面は、本開示の第二面31Bを構成し、第一面31Aとは表裏を成す。ここで、第二面31Bから第一面31Aに向かう方向は、超音波の送信方向であるZ方向となる。
【0014】
本実施形態の超音波素子30では、第一基板311及び第二基板312は平坦な板状部材であり、第一面31A及び第二面31Bも平坦面、つまりXY平面に平行な面となる。より具体的には、第一面31Aは、少なくとも表面粗さ(算術平均粗さ)が10μm以下に形成されていることが好ましい。これにより、第一面31Aでの超音波の乱反射を抑制でき、流体Sに効率よく定在波SWを形成できる。
本実施形態では、第一基板311の第一面31Aは、第一壁21の第一内壁面21Aと面一であり、同一平面となる。また、
図2に示す例では、振動板31の厚みが第一壁21の厚み(Z方向の寸法)よりも薄い例を示すが、これに限定されず、第一壁21の厚みが振動板31の厚みより大きくてもよい。
【0015】
本実施形態では、第二基板312は、第一基板311よりも厚みが小さく形成されている。第二基板312は、圧電素子32の後述する圧電体層322の形成に必要な層である。例えば、圧電体層322を、PZTにより構成する場合、第二基板312としてZrO2やSiO2の層を形成することで、圧電体層322のPb原子の拡散を抑制することができ、高品質な圧電体層322を形成することができる。
ところで、本実施形態では、圧電体層322の形成後も第二基板312をそのまま残しているが、圧電体層322の形成後に第二基板312を除去してもよい。この場合、振動板31は第一基板311のみにより構成され、第一基板311の一方の面が第一面31A、他方の面が第二面31Bを構成する。また、圧電素子32の形成箇所以外の第二基板312のみを除去するようにしてもよい。
【0016】
圧電素子32は、振動板31の第二基板312上、つまり、第二面31Bに設けられており、
図2に示すように、第一電極321、圧電体層322、及び第二電極323がZ方向に積層されることで構成される。また、本実施形態における圧電体層322は、Pbを含有するペロブスカイト型遷移金属酸化物により構成されており、例えば、本実施形態ではPbとZrとTiとを含むPZTである。
ここで、Z方向において、第一電極321、圧電体層322、及び第二電極323が互いに重なる部分は、第一電極321及び第二電極323の間に電圧を印加した場合に伸縮する能動部となる。圧電素子32が伸縮することで、当該圧電素子32が設けられた振動板31が振動して超音波が出力される。
なお、
図2では、図の簡略化のため、1つの圧電素子32が設けられる例を示すが、X方向及びY方向に沿って、又はX方向及びY方向のいずれかに沿って、複数の圧電素子32がアレイ状に配置される構成としてもよい。
【0017】
抑制部33は、振動板31の第二面31Bに設けられる部材であり、例えば永久レジスト等により構成される。具体的には、抑制部33は、Z方向から見た際に、圧電素子32の外周を囲う枠状に形成されている。この抑制部33は、振動板31とは反対側の他端が封止板34に接続されることで振動板31の振動を抑制する。これにより、圧電素子32によって振動される振動板31の振動領域が規定される。すなわち、本実施形態では、振動板31のうち、抑制部33によって囲われる部分が振動することで、超音波が出力される。
封止板34は、振動板31に比べてZ方向の厚みが十分に大きく、抑制部33を介して振動板31に接合されることで、振動板31を補強し、かつ、抑制部33が振動板31とともに振動することを抑制する。
【0018】
図1に戻り、制御部40は、超音波素子30の駆動を制御する。具体的な構成の図示は省略するが、制御部40には、圧電素子32に対して所定の駆動電圧の駆動パルスを連続して出力する連続波発生回路、連続波発生回路を制御する演算回路、各種データを記憶する記憶回路等が含まれる。
そして、制御部40は、図示略の入力手段から駆動指令を受信することで、連続波発生回路を介して超音波素子30を制御し、流体S中に定在波SWを発生させる。
【0019】
[抑制部により囲われた振動板の面積について]
図3は、比較例の流体デバイス90の概略構成と、本実施形態の流体デバイス10の概略構成とを比較する図である。
比較例の流体デバイス90の超音波素子90Aは、
図3に示すように、支持基板91に複数の開口部911が形成され、開口部911を閉塞するように振動板92が設けられる。また、Z方向から見て、開口部911と重なる位置に振動板92上に複数の圧電素子93が設けられ、これらの圧電素子93の間に、抑制部94が設けられる。本実施形態の流体デバイス10と同様、抑制部94の支持基板91とは反対側には封止板95が設けられる。そして、
図3の例では、超音波素子90Aの開口部911は流路20の流体Sに臨んで設けられている。
【0020】
比較例の流体デバイス90は、開口部911の縁と、抑制部94の縁とにより囲われた振動板92の振動領域が決定されるが、本実施形態に対して、振動領域の面積、より具体的には、周波数を決定する短軸方向の抑制部間の距離が小さい。
図4は、抑制部の距離と規格化放射インピーダンスとの関係を示す図である。なお、放射インピーダンスは、圧電素子の変位速度、つまり振動板の振動速度に対する、振動板の振動により発生する力を示す値である。また、放射インピーダンスを、Z方向から見て振動板31,92の抑制部33,94に囲われる部分の面積、振動板31,92の密度、及び対象物における音速で除算した値と、規格化した放射インピーダンス(規格化放射インピーダンス)とする。
【0021】
比較例の流体デバイス90に設けられた超音波素子90Aでは、抑制部間距離は、100μmよりも小さく、規格化放射インピーダンスは0.4未満となる。例えば、抑制部間距離が60μmの場合、規格化放射インピーダンスは、0.2程度となる。
しかしながら、流体デバイス10,90から流体(例えば水)に効率よく超音波を送信するためには、放射インピーダンスをより高めることが好ましい。これに対して、本実施形態では、規格化放射インピーダンスが0.8以上1.0以下となるように形成されている。具体的には、本実施形態の流体デバイス10の超音波素子30は、抑制部間距離は、200μm以上であり、これにより、規格化放射インピーダンスを0.8以上1以下にでき、例えば、抑制部間距離が300μmである場合、規格化放射インピーダンスは0.95であり、比較例の4.7倍の規格化放射インピーダンスが得られる。
【0022】
[流体S中の気泡について]
図3に示すように、比較例の流体デバイス90では、超音波素子90Aの開口部911が流路20に臨んで形成される。この場合、流体Sが開口部911内に入り込んだ際に、流体S中に含まれる気泡が開口部911に残留するおそれがある。特に、開口部911と振動板92との間の角部は気泡が残留しやすい。このような気泡が残留する場合、気泡と流体Sとの界面で音響インピーダンスの差が大きくなり、超音波の反射が発生する。このような超音波の反射が生じると、定在波SWの圧力勾配も小さくなり、微粒子Mを捕捉する力も減少する。
【0023】
これに対して、本実施形態では、振動板31に、比較例のような開口部911がなく、第一面31Aは、第一壁21の第一内壁面21Aと面一(同一面)となる。よって、流体S中に気泡が含まれていても、超音波素子30の表面で当該気泡が残留することが抑制され、比較例に比べて気泡の影響を大きく低減できる。
【0024】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の流体デバイス10は、流体Sが流通する流路20を構成する第一壁21,第二壁22と、第一壁21に配置される超音波素子30とを備える。そして、超音波素子30は、第一壁21と一体となる平坦な第一面31A及び第二面31Bを有する振動板31、第二面31Bに配置される圧電素子32、及び第二面31Bに設けられて圧電素子32を囲うように配置される抑制部33を備える。
このように、平坦な第一面31Aが第一壁21と一体に構成されることで、第一面31Aから超音波を送信する際に空気層が介在せず、超音波の伝搬効率の低下を抑制でき、微粒子Mを捕捉するための定在波SWを適正に形成できる。
【0025】
より具体的には、第一面31Aは、第一壁21の第一内壁面21Aと面一に設けられ、流路20内の流体Sに接している。
本実施形態では、平坦な第一面31Aが流体Sに接するため、流体Sに気泡が含まれていても、当該気泡が第一面31Aに付着せず、超音波の伝搬効率が阻害される不都合を抑制できる。
つまり、振動板31の第一面31Aが流体Sに接する場合、流体Sに接する面に凹凸が存在すると気泡が付着しやすくなる。例えば、
図3の比較例に示す超音波素子90Aのように開口部911が設けられる場合、開口部911に気泡が入り込みやすくなる。これに対して、本実施形態では、第一面31Aが平坦面であり、気泡が付着しやすい凹凸がなく、流体Sの流れにより気泡を下流側に流すことができる。
【0026】
[第二実施形態]
上記第一実施形態では、超音波素子30の振動板31の第一面31Aが、第一壁21の第一内壁面21Aと面一となるように、超音波素子30と第一壁21とが一体に設けられる例である。
これに対して、第二実施形態では、超音波素子30の振動板31の第一面31Aが、第一壁21の第一外壁面21Bと面一となるように、超音波素子30と第一壁21とが一体に設けられる点で上記第一実施形態と相違する。
図5は、第二実施形態の流体デバイス10Aの概略構成を示す断面図である。
なお、以降の説明において、第一実施形態と同一の構成については、同符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0027】
本実施形態の流体デバイス10Aでは、超音波素子30は、平坦な第一面31Aと、第一面31Aとは反対側面となる第二面31Bを有する振動板31と、圧電素子32と、抑制部33と、封止板34とを備える。
そして、本実施形態の超音波素子30は、第一壁21の第一外壁面21Bと第一面31Aが同一面となるように配置される。すなわち、第一面31Aから出力される超音波は、第一外壁面21Bから第一壁21を通過し、第一内壁面21Aから流路20の流体Sに送信される。この際、第一面31Aと第一外壁面21Bとの間は、空気層が介在しないように、第一面31Aと第一外壁面21Bとが密接に接合されている。
【0028】
また、本実施形態では、第一壁21に対向する第二壁22の第二外壁面22Bに対して超音波反射部50が設けられている。この際、超音波反射部50の第二壁22側の面は、平坦なXY平面であり、第二外壁面22Bと面一になる。
【0029】
本実施形態では、振動板31の密度をρs、振動板31における音速(振動板31を通過する超音波の音速)をcs、第一壁21の密度をρw、第一壁21における音速(第一壁21を通過する超音波の音速)をcwとした場合に、下記式(1)を満たす。
ρw×cw<ρs×cs ・・・(1)
【0030】
また、超音波反射部50の密度をρr、超音波反射部50における音速(超音波反射部50を通過する超音波の音速)をcrとした場合に、下記式(2)を満たす。なお、第二壁22は、第一壁21と同一の素材を有し、第一壁21と同様に、密度がρw、第二壁22を通過する音速がcwであるとする。
ρw×cw<ρr×cr ・・・(2)
【0031】
つまり、振動板31の固有音響インピーダンスは、第一壁21の固有音響インピーダンスよりも大きく、超音波反射部50の固有音響インピーダンスは、第二壁22の固有音響インピーダンスよりも大きい。
これにより、流路20から第一壁21に透過した超音波は、振動板31により反射され、かつ、その反射波の位相が反転する。同様に、流路20から第二壁22に透過した超音波は、超音波反射部50により反射され、かつ、その反射波の位相が反転する。したがって、振動板31と超音波反射部50との間で超音波が反射されることで、定在波SWが形成される。すなわち、本実施形態では、定在波SWは、振動板31と超音波反射部50との間で形成される。
【0032】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の流体デバイス10Aは、第一実施形態と同様、流体Sが流通する流路20を構成する第一壁21,第二壁22と、第一壁21に配置される超音波素子30とを備え、超音波素子30の振動板31の第一面31Aは、第一壁21と一体となる平坦に構成されている。
このため、第一実施形態と同様、平坦な第一面31Aが第一壁21と一体に構成されることで、第一面31Aから超音波を送信する際に空気層が介在せず、超音波の伝搬効率の低下を抑制でき、微粒子Mを捕捉するための定在波SWを適正に形成できる。
【0033】
より具体的に、本実施形態では、振動板31の第一面31Aは、第一壁21の第一外壁面21Bに接合されている。
超音波素子30の振動板31の第一面31Aが平坦面であり、その第一面31Aが、平坦な第一外壁面21Bと面一になるように設けられるので、第一面31Aと第一外壁面21Bとの間に空気層が介在することがない。例えば、
図3の比較例の超音波素子90Aを、第一外壁面21Bに接合する場合、支持基板91を第一外壁面21Bに接合する必要があり、開口部911に空気層が形成されてしまう。開口部911に第一壁21と音響インピーダンスが近い音響整合層を充填することも考えられるが、微小な開口部911に気泡が介在することなく音響整合層を充填することは困難である。特に開口部911と振動板92との角部に気泡が残留するおそれがある。これに対して、本実施形態では、振動板31の第一面31Aは、開口部911のような凹凸がない平坦面であるため、空気層が形成されることなく、第一面31Aを第一外壁面21Bに接合することができる。
これにより、空気層による超音波の阻害を抑制でき、第一実施形態と同様、超音波の伝搬効率の低下が抑制され、適正な定在波SWを形成することができる。
【0034】
本実施形態において、流路壁は、Z方向に対向する第一壁21及び第二壁22を含み、第二壁22の第二外壁面22Bに、超音波を反射する超音波反射部50が設けられている。
本実施形態では、超音波素子30から送信された超音波は、第一壁21を透過して流路20内の流体Sに伝搬される。したがって、流路壁を構成する第一壁21及び第二壁22が同一素材により構成される場合、流体Sを伝搬した超音波は第二壁22を透過する。これに対して、本実施形態では、第二壁22の第二外壁面22Bに超音波反射部50が設けられているので、第二壁22と超音波反射部50との間で超音波を反射することができ、超音波の損失を抑制できる。
【0035】
本実施形態の流体デバイス10Aにおいて、上記式(1)及び式(2)を満たす。すなわち、振動板31の固有音響インピーダンスは、第一壁21の固有音響インピーダンスよりも大きく、超音波反射部50の固有音響インピーダンスは、第二壁22の固有音響インピーダンスよりも大きい。
これにより、第一壁21から振動板31に入射する超音波は、第一壁21と振動板31との界面である第一面31Aにおいて反射し、かつ、位相が反転する。同様に、第二壁22から超音波反射部50に入射する超音波は、第二壁22と超音波反射部50との界面で反射し、かつ位相が反転する。これにより、振動板31と超音波反射部50の間で定在波SWを形成することができる。
【0036】
[変形例]
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、および各実施形態を適宜組み合わせる等によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0037】
[変形例1]
第一実施形態において、振動板31と第一壁21とは別部材であり、第一壁21の第一内壁面21Aと、振動板31の第一面31Aとが同一平面状となるように、第一壁21に対して超音波素子し31を配置した。
これに対して、第一壁21と振動板31とが同部材であり、第一壁21を振動板31として機能させてもよい。例えば、第一壁21の第一内壁面21Aを本開示の第一面とし、第一外壁面21Bを本開示の第二面とし、第一外壁面21Bに圧電素子32、及び抑制部33を設ける構成としてもよい。この場合、第一壁21として、例えばSiにより構成された第一基板と、SiO2及びZrO2により構成された第二基板との積層構造とすることが好ましい。
【0038】
[変形例2]
上記第一実施形態及び第二実施形態として、超音波素子30を第一壁21に設け、Z方向に超音波を送信する構成を例示したが、第二壁22に超音波素子30を設ける構成としてもよい。または、第一壁21に直交する第三壁又は第四壁に超音波素子30を設け、Y方向に超音波を送信する構成としてもよい。
【0039】
[変形例3]
第二実施形態において、第二壁22の第二外壁面22Bに超音波反射部50を設け、振動板31と超音波反射部50との間で超音波を反射させて定在波SWを形成する構成と例示した。これに対して、超音波反射部50を設けず、第一壁21及び第二壁22の間で超音波を反射させて定在波SWを形成する構成としてもよい。または、振動板31と第二壁22との間で定在波SWを形成する構成としてもよい。
【0040】
定在波SWを形成する両界面の位置に応じて、超音波素子30から送信する超音波の周波数(波長)を適切に設定してもよい。例えば、第一内壁面21Aと第二内壁面22Aとの間で定在波SWを形成する場合、第一内壁面21A及び第二内壁面22Aの距離に対応して、定在波SWの条件に合った周波数の超音波を超音波素子30から送信する。
【0041】
[変形例4]
第二実施形態において、振動板31及び超音波反射部50の固有音響インピーダンスを、第一壁21及び第二壁22の固有音響インピーダンスよりも大きくしたが、振動板31及び超音波反射部50の固有音響インピーダンスを、第一壁21及び第二壁22の固有音響インピーダンスよりも小さくしてもよい。
この場合、第一壁21から振動板31に入射した超音波が反射する際、また、第二壁22から超音波反射部50に入射した超音波が反射する際に、位相反転は生じず、定在波SWの節の位置が変動する。
【0042】
[本開示のまとめ]
本開示の第一態様の流体デバイスは、流体が流通する流路を構成する流路壁と、前記流路壁に配置される超音波素子とを有し、超音波を用いて前記流体中の微粒子を捕捉する流体デバイスであって、前記超音波素子は、前記流路壁と一体となる平坦な第一面、及び前記第一面と反対側の第二面を有する振動板と、前記振動板の前記第二面に設けられる圧電素子と、前記第一面から前記第二面に向かう方向から見たときに前記圧電素子を囲うように前記第二面に配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、を備える。
【0043】
平坦な第一面が流路壁と一体に構成されることで、第一面から超音波を送信する際に気泡などの空気層が介在しない。よって、超音波の伝搬効率の低下を抑制でき、微粒子を捕捉するための定在波を適正に形成できる。
【0044】
第一態様の流体デバイスにおいて、前記第一面は、前記流路壁の前記流体に接する内壁面と面一に設けられ、前記流路内の前記流体に接することが好ましい。
本態様では、平坦な第一面が流路を流れる流体に接するため、流体に気泡が含まれていても、当該気泡が第一面に付着しない。このため、第一面から超音波を送信した場合でも、気泡による超音波の伝搬効率の低下がなく、適正に定在波を形成できる。
【0045】
第一態様の流体デバイスにおいて、前記流路壁は、前記流路内の前記流体に面する内壁面と、内壁面とは反対側の外壁面とを備え、前記振動板の前記第一面は、前記外壁面に対向して、当該外壁面に接合されてもよい。
つまり、超音波素子の振動板の第一面が平坦面であり、その第一面が流路壁の外壁面と面一になるように設けられている。これにより、第一面と外壁面との間に空気層が介在せず、空気層によって超音波の伝搬が阻害される不都合を抑制でき、適正な定在波SWを形成することができる。
【0046】
上記態様の流体デバイスにおいて、前記流路壁は、前記超音波素子が配置される第一壁と、前記第一壁に対向する第二壁を含み、前記第二壁の前記外壁面に、超音波を反射する超音波反射部が設けられていることが好ましい。
これにより、第二壁の第二外壁面に超音波反射部が設けられているので、第二壁と超音波反射部との間で超音波を反射することができ、超音波の損失を抑制できる。また、超音波反射部と振動板との間で定在波を形成することができる。
【0047】
上記態様の流体デバイスにおいて、前記流路壁の密度をρw、前記流路壁における音速をcwとし、前記振動板の密度をρs、前記振動板における音速をcsとし、前記超音波反射部の密度をρr、前記超音波反射部における音速をcrとした場合に、ρw×cw<ρs×csかつ、ρw×cw<ρr×crを満たすことが好ましい。
これにより、第一壁から振動板に入射する超音波は、第一壁と振動板との界面である第一面において反射し、かつ、位相が反転する。同様に、第二壁から超音波反射部に入射する超音波は、第二壁と超音波反射部との界面で反射し、かつ位相が反転する。これにより、振動板と超音波反射部の間で定在波を形成することができる。
【符号の説明】
【0048】
10,10A…流体デバイス、20…流路、21…第一壁、21A…第一内壁面、21B…第一外壁面、22…第二壁、22A…第二内壁面、22B…第二外壁面、30…超音波素子、31…振動板、31A…第一面、31B…第二面、32…圧電素子、33…抑制部、34…封止板、40…制御部、50…超音波反射部、311…第一基板、312…第二基板、321…第一電極、322…圧電体層、323…第二電極。
と反対側の第二面を有する振動板と、前記振動板の前記第二面に設けられる圧電素子と、前記第一面から前記第二面に向かう方向から見たときに前記圧電素子を囲うように前記第二面に配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、を備える。