(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125572
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】金属部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/18 20060101AFI20240911BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240911BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240911BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240911BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20240911BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20240911BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20240911BHJP
C25D 11/04 20060101ALI20240911BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20240911BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C25D11/18 311
B32B15/04 Z
B32B7/023
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B15/20
G02B5/08 Z
C25D11/04 101A
C23C28/02
C23C26/00 D
C23C26/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033478
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 大希
【テーマコード(参考)】
2H042
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
2H042DA02
2H042DA04
2H042DA07
2H042DA10
2H042DA17
2H042DB02
2H042DB07
2H042DC02
2H042DC09
2H042DE00
4F100AA19B
4F100AB10A
4F100AB17C
4F100AB24C
4F100AB31A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DE01C
4F100EH66
4F100GB07
4F100GB48
4F100HB00
4F100JA11C
4F100JL10
4F100JM02B
4F100JM02C
4F100JN01B
4F100JN06C
4F100YY00B
4F100YY00C
4K044AA06
4K044BA06
4K044BA08
4K044BB01
4K044BB16
4K044BC09
4K044CA13
(57)【要約】
【課題】簡便な方法により得られ、鮮やかな有彩色を示すことができる金属部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属部材1は、金属からなる基材2と、可視光を透過する物質からなり、基材2上に設けられた透明層3と、透明層3上に設けられた反射層4とを有している。反射層4の、波長400nm以上700nm以下の範囲における分光透過率の平均値は2%以上80%以下である。また、反射層4は、反射層4に入射した可視光の一部を反射可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる基材と、
可視光を透過する物質からなり、前記基材上に設けられた透明層と、
前記透明層上に設けられた反射層とを有し、
前記反射層は、波長400nm以上700nm以下の範囲における分光透過率の平均値が2%以上80%以下であり、前記反射層に入射した可視光の一部を反射可能に構成されている、金属部材。
【請求項2】
前記透明層は、前記基材を構成する金属の酸化物からなる、請求項1に記載の金属部材。
【請求項3】
前記透明層の厚みが15nm以上600nm以下である、請求項2に記載の金属部材。
【請求項4】
前記反射層は、金属及び/または金属化合物からなり、2nm以上30nm以下の厚みを有している、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項5】
前記反射層は銅原子または銀原子を含んでいる、請求項4に記載の金属部材。
【請求項6】
前記反射層は複数の結晶粒を含んでおり、前記結晶粒の平均粒径が3nm以上15nm以下である、請求項5に記載の金属部材。
【請求項7】
前記基材はアルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項8】
前記金属部材は、さらに、可視光を透過する物質からなり、前記反射層上に設けられた保護層を有している、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法であって、
弱酸性または弱塩基性の電解液中において前記基材に陽極酸化処理を施すことにより前記透明層を形成し、
その後、スパッタ処理を施すことにより前記透明層上に前記反射層を形成する、金属部材の製造方法。
【請求項10】
前記陽極酸化処理における処理方法が、10V以上400V以下の電圧を印加して行う直流電解、ピーク電圧が10V以上400V以下となるように電圧を印加して行う交流電解、またはパルス電解のいずれかである、請求項9に記載の金属部材の製造方法。
【請求項11】
前記スパッタ処理における処理方法が、DCマグネトロンスパッタである、請求項9に記載の金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材は、例えば建築材料や電子機器の筐体などの、高い意匠性が求められる用途に用いられることがある。この種の金属部材の表面は、意匠性を高める目的で着色されることがある。
【0003】
例えば特許文献1には、第一工程として下地表面処理を施し、次いで、第二工程として、珪素化合物の透明薄膜の層を2回以上堆積して、金属表面に加飾紋様を施すことを特徴とする金属表面の加飾加工方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特許文献1の金属表面の加飾方法よりも簡便な方法で、かつ、さらに鮮やかに金属部材を着色することが望まれている。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、簡便な方法により得られ、鮮やかな有彩色を示すことができる金属部材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、金属からなる基材と、
可視光を透過する物質からなり、前記基材上に設けられた透明層と、
前記透明層上に設けられた反射層とを有し、
前記反射層は、波長400nm以上700nm以下の範囲における分光透過率の平均値が2%以上80%以下であり、前記反射層に入射した可視光の一部を反射可能に構成されている、金属部材にある。
【0008】
本発明の他の態様は、前記の態様の金属部材の製造方法であって、
弱酸性または弱塩基性の電解液中において前記基材に陽極酸化処理を施すことにより前記透明層を形成し、
その後、スパッタ処理を施すことにより前記透明層上に前記反射層を形成する、金属部材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
前記金属部材は、基材と、基材上に設けられた透明層と、透明層上に設けられた反射層とを有している。また、反射層は、反射層に入射した可視光の一部を反射可能に構成されているため、反射層において反射した光と、反射層及び透明層を通過し、基材において反射した光とを干渉させることができる。
【0010】
また、前記反射層は前記特定の光学特性を有している。前記金属部材は、基材上に前記特定の反射層を設けることにより、反射層において反射する光の強度と、基材において反射する光の強度との比率を適正な範囲に制御することができる。以上の結果、前記金属部材の表面を光の干渉によって鮮やかな色調に発色させることができる。
【0011】
また、前記製造方法においては、基材の表面に陽極酸化処理を施して透明層を形成した後、スパッタ処理を施して透明層上に反射層を形成する。これにより、前記金属部材を容易に得ることができる。
【0012】
以上の通り、前記の態様によれば、簡便な方法により得られ、鮮やかな有彩色を示すことができる金属部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1における金属部材を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例2における、反射層を設けたガラス基板の分光透過率を示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施例2における、試験材A2の反射層の透過型電子顕微鏡像である。
【
図4】
図4は、実施例2における、保護層を備えた金属部材を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(金属部材)
金属部材の基材は、金属から構成されている。基材を構成する金属としては、例えば、白色や灰色、灰白色、銀白色などの無彩色を呈する金属を好ましく用いることができる。このような色調を呈する金属としては、例えば、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン及びチタン合金などがある。前記金属部材の基材として無彩色の金属を用いることにより、基材の色調が金属部材の色調に及ぼす影響を軽減し、所望の色調を有する金属部材をより容易に得ることができる。
【0015】
基材を構成する金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンまたはチタン合金を用いることが好ましい。これらの金属は、彩度が低いため、基材の色調が金属部材の色調に及ぼす影響をより低減することができる。さらに、これらの金属からなる基材に陽極酸化処理を行うことにより、基材の表面に酸化物からなる透明層を容易に形成することができる。これらの金属の中でも、基材を構成する金属は、材料コストを低減する観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることがより好ましい。
【0016】
基材を構成するアルミニウム及びアルミニウム合金の材質は特に限定されることはなく、金属部材の用途や要求される機械的特性などに応じて適宜選択することができる。例えば、金属部材に高い強度が要求される場合には、5000系合金または6000系合金からなる基材を用いることが好ましい。また、金属部材に優れた意匠性が要求される場合には、陽極酸化処理による着色が起こりにくい1000系アルミニウムまたは6000系合金からなる基材を用いることが好ましい。
【0017】
基材上には、可視光を透過する物質からなる透明層が設けられている。透明層を構成する物質は、有機物であってもよく、無機物であってもよい。透明層は、無機物から構成されていることが好ましい。無機物からなる透明層は、金属部材の使用中の温度変化や湿度変化、太陽光の照射などに対して変質しにくく、光学特性をより長期間にわたって維持することができる。それ故、基材上に無機物からなる透明層を設けることにより、金属部材の色調をより長期間にわたって維持することができる。
【0018】
また、透明層は、基材を構成する金属の酸化物から構成されていることが好ましい。金属の酸化物は温度変化や湿度変化、太陽光の暴露などに対して変質しにくいため、基材上に酸化物からなる透明層を設けることにより、金属部材の色調をより長期間にわたって維持することができる。さらに、この場合には、基材に陽極酸化処理を行うことにより、基材表面から透明層を成長させることができるため、基材と透明層との界面における隙間の形成や異物の混入を防止することができる。その結果、金属部材の色調のむらや欠陥などの発生をより効果的に抑制することができる。
【0019】
透明層の厚みは、15nm以上600nm以下であることが好ましい。この場合には、反射層において反射した光と基材において反射した光との干渉により、可視光領域の波長を有する光波を強めることができる。その結果、金属部材を種々の色調に発色させることができる。
【0020】
透明層上には、波長400nm以上700nm以下の範囲における分光透過率の平均値が2%以上80%以下であり、入射した可視光の一部を反射可能に構成された反射層が設けられている。このような反射層を透明層上に設けることにより、反射層において反射した光と基材において反射した光とを干渉させ、金属部材を種々の色調に発色させることができる。金属部材の彩度をより高め、より鮮やかな色調を発色させる観点からは、波長400nm以上700nm以下の範囲における反射層の分光透過率の平均値が20%以上70%以下であることが好ましく、30%以上60%以下であることがより好ましい。
【0021】
前述した反射層の分光透過率の平均値は、以下の方法により算出することができる。まず、反射層の分光透過率を、波長400nm以上700nm以下の範囲内の複数の波長において測定する。この際、反射層の分光透過率の平均値をより正確に算出する観点からは、反射層の分光透過率を、波長の間隔が一定となるように定めた複数の波長において測定することが好ましい。また、分光透過率を測定する波長の間隔は、例えば、20nm以下であることが好ましい。以上により得られた複数の波長における分光透過率を算術平均した値を、反射層の分光透過率の平均値とする。
【0022】
反射層は、例えば、金属から構成されていてもよく、金属化合物から構成されていてもよい。また、反射層は、金属と金属化合物との両方を含んでいてもよい。反射層が金属及び/または金属化合物から構成されている場合、反射層の厚みは2nm以上30nm以下であることが好ましい。この場合には、反射層の分光透過率の平均値をより容易に前記特定の範囲内に調整することができる。
【0023】
反射層を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、白金などを用いることができる。また、反射層を構成する金属化合物としては、例えば、銅の酸化物や銀の硫化物などを用いることができる。これらの中でも、前述した作用効果をより確実に得る観点からは、反射層が銅原子または銀原子を含むことが好ましい。
【0024】
また、反射層は、金属化合物を含むことがより好ましい。金属化合物は、大気中において変質しにくいため、反射層の光学特性をより長期間にわたって維持することができる。それ故、透明層上に金属化合物を含む金属からなる反射層を設けることにより、金属部材の鮮やかな色調をより長期間にわたって維持することができる。かかる効果をより確実に得る観点からは、反射層は、銅の酸化物または銀の硫化物を含むことが好ましく、銅の酸化物を含むことがより好ましい。
【0025】
また、反射層に前述した光学特性をより確実に付与する観点からは、反射層が複数の結晶粒を含んでいることが好ましい。また、反射層に含まれる結晶粒の平均粒径が3nm以上15nm以下であることがより好ましい。
【0026】
なお、前述した結晶粒の平均粒径は、以下のようにして算出される値である。まず、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて反射層の断面を観察し、反射層の電子顕微鏡像を取得する。次に、電子顕微鏡像内に存在する結晶粒の円相当直径、つまり、結晶粒の断面積と等しい円の直径を算出する。このようにして得られた結晶粒の円相当直径の算術平均値を、結晶粒の平均粒径とする。
【0027】
金属部材の反射層上には、さらに、可視光を透過する物質からなり、前記反射層上に設けられた保護層が設けられていてもよい。この場合には、大気中の酸素や水分、硫黄分などとの反応による反射層の変質をより長期間にわたって抑制し、金属部材の鮮やかな有彩色をより長期間にわたって維持することができる。
【0028】
保護層を構成する物質は、有機物であってもよく、無機物であってもよい。保護層としては、例えば、アクリル樹脂やメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ニトロセルロース樹脂などの透明樹脂や、有機ガラス等を好適に使用することができる。
【0029】
(金属部材の製造方法)
前記金属部材は、例えば、弱酸性または弱塩基性の電解液中において基材に陽極酸化処理を施すことにより透明層を形成し、
その後、スパッタ処理を施すことにより透明層上に反射層を形成することにより得られる。
【0030】
陽極酸化処理に用いる電解液は、弱酸性の電解液であってもよく、弱塩基性の電解液であってもよい。より具体的には、弱酸性の電解液としては、例えば電解質としてリン酸塩、ホウ酸塩及びアジピン酸等が用いられており、pHが3.5以上7以下である電解液を用いることができる。また、弱塩基性の電解液としては、例えば電解質としてホウ酸塩及びリン酸塩等が用いられており、pHが7以上8以下の電解液を用いることができる。
【0031】
また、陽極酸化処理における処理方法は、10V以上400V以下の電圧を印加して行う直流電解、ピーク電圧が10V以上400V以下となるように電圧を印加して行う交流電解、またはパルス電解のいずれかであることが好ましい。このようにして形成される透明層は、基材を構成する金属の酸化物からなり、細孔を有しないため、透明層における光の散乱をより低減することができる。従って、前述した処理方法で陽極酸化処理を行うことにより、鮮やかな有彩色を有する金属部材をより容易に得ることができる。
【0032】
また、スパッタ処理における処理方法は、DCマグネトロンスパッタであることが好ましい。この場合には、透明層上に形成される反射層の厚みのばらつきをより低減するとともに、反射層中に、より容易に結晶粒を形成することができる。さらに、DCマグネトロンスパッタによれば、反射層中の結晶粒の粒径をより容易に制御することができる。それ故、前述した処理方法でスパッタ処理を行うことにより、透明層上に所望の光学特性を有する反射層をより容易に形成し、鮮やかな有彩色を有する金属部材をより容易に得ることができる。
【0033】
DCマグネトロンスパッタにおけるチャンバー内の雰囲気ガスとしては、例えばアルゴンを使用することができる。この場合、チャンバー内の真空度を0.05Pa以上5Pa以下とし、スパッタリングターゲットに印加する電流密度を0.1mA/cm2以上7mA/cm2以下とすることが好ましい。このような条件でDCマグネトロンスパッタを行うことにより、透明層上に所望の光学特性を有する反射層をより容易に形成することができる。
【実施例0034】
(実施例1)
前記金属部材の実施例を、
図1~
図3を参照しつつ説明する。本例の金属部材1は、
図1に示すように、金属からなる基材2と、可視光を透過する物質からなり、基材2上に設けられた透明層3と、透明層3上に設けられた反射層4とを有している。反射層4の、波長400nm以上700nm以下の範囲における分光透過率の平均値は2%以上80%以下である。また、反射層4は、反射層4に入射した可視光の一部を反射可能に構成されている。本例の金属部材1は、基材2に陽極酸化処理を施して透明層3を形成した後、スパッタ処理を施して透明層3上に反射層4を形成することにより得られる。以下、金属部材1及びその製造方法のより詳細な構成を説明する。
【0035】
本例の金属部材1における基材2は、合金番号A1050で表される化学成分を有するアルミニウムから構成された板材である。金属部材1を作製するに当たっては、まず、基材2に電解研磨を行うことにより、基材2の表面を平滑化する。その後、基材2に陽極酸化処理を行い、基材2の表面に透明層3としてのバリア型陽極酸化皮膜を形成する。陽極酸化処理における処理方法としては、直流電解を採用し、処理開始から2.5分間かけて表1に示す電圧まで印加電圧を上昇させる。また、陽極酸化処理においては、電解質として0.5mol/Lのホウ酸と0.05mol/Lの四ホウ酸ナトリウムとを含む弱塩基性の電解液を用いる。また、陽極酸化処理における電解液の温度は20℃である。
【0036】
直流電解により形成される透明層3の厚みは、陽極酸化処理における印加電圧に応じて変化する。例えば、表1に示す電圧で直流電解を行う場合、基材2上に形成される透明層3の厚みは表1に示す値となる。
【0037】
その後、スパッタ処理を行うことにより、透明層3上に、表1に示すように銅、銀またはアルミニウムのうちいずれかの金属からなる反射層4を形成する。スパッタ処理における処理方法としてはDCマグネトロンスパッタを採用する。また、DCマグネトロンスパッタにおけるチャンバー内の雰囲気ガスとしてアルゴンを使用し、チャンバー内の真空度を0.05Pa以上5Pa以下とし、スパッタリングターゲットに印加する電流密度を0.1mA/cm2以上7mA/cm2以下とする。なお、表1に示す反射層4の厚みは、水晶振動子マイクロバランス法により測定した値である。以上により、表1に示す構成を有する金属部材1(試験材A1~A11)を得ることができる。
【0038】
なお、表1に示す試験材B1~B3は、試験材A1~A11との比較のための試験材である。試験材B1は、透明層3を有しない以外は試験材A1~A6と同様の構成を有している。試験材B1の製造方法は、陽極酸化処理を行わない以外は試験材A1~A6の製造方法と同様である。また、試験材B2及び試験材B3は、反射層4の分光透過率の平均値が異なる以外は試験材A2、試験材A7及び試験材A8と同様の構成を有している。試験材B2及びB3の製造方法は、スパッタ処理において反射層4の厚みを変更した以外は試験材A2、試験材A7及び試験材A8の製造方法と同様である。
【0039】
表1に示した諸特性の評価方法は、具体的には以下の通りである。
【0040】
〔反射層の分光透過率の平均値〕
各試験材におけるスパッタ処理と同様の処理方法によりガラス基板上に反射層4を形成し、この反射層4の種々の波長における分光透過率を、波長400nmから700nmまでの範囲内において、10nm間隔で測定する。なお、分光透過率の測定において使用する光源はJIS Z8720:2012に規定される補助イルミナントCとする。また、測定時の幾何条件はJIS Z8722:2009において記号0°:diで表される幾何条件f(つまり、透過層の表面の法線に対する角度が0°となる方向から光を照射し、正透過光を含むすべての透過光を集光する条件)とし、直径30mmの測定領域に光を照射する。
【0041】
図2に、一例として試験材A1、試験材A7、試験材A8、試験材B2及び試験材B3における反射層と同様の層を設けたガラス基板の、種々の波長における分光透過率を示す。
図2の縦軸は分光透過率(単位:%)であり、横軸は測定波長(単位:nm)である。
【0042】
以上の方法により得られる各波長における分光透過率には、反射層4における光吸収等の寄与に加え、ガラス基板における光吸収等の寄与が含まれている。反射層4のみの分光透過率Trは、ガラス基板上の反射層4の測定により得られる各波長における分光透過率Tmと、ガラス基板の各波長における分光透過率をTglassとを用い、下記式(1)に基づいて算出することができる。
Tr=Tm×(100/Tglass) ・・・(1)
【0043】
以上のようにして、各波長において測定した分光透過率Tmからガラス基板の影響を除く補正を行った後、補正後の分光透過率Trを算術平均することにより、反射層4の分光透過率の平均値を得ることができる。表1の「分光透過率の平均値」欄に、このようにして得られる分光透過率の平均値を示す。
【0044】
〔金属部材1の色調〕
金属部材1の色調は、目視観察及び分光測色計により評価を行った。表1の「色調(目視)」欄には、目視観察により判断される金属部材1の色調を記載した。また、表1の「色座標」には、分光測色計を用いて測定される、CIE 1976(L*,a*,b*)色空間における色座標を記載した。色座標の測定において使用する光源はJIS Z8720:2012に規定される補助イルミナントCとする。また、測定時の幾何条件はJIS Z8722:2009において記号8°:deで表される条件(つまり、反射層の法線に対する角度が8°となる方向から光を照射し、正反射光を除く反射光を集光する条件)とし、直径15mmの測定領域に光を照射する。さらに、表1の「彩度」欄には、前記色座標に基づいて算出される彩度を記載した。なお、彩度は、具体的には、a*値の二乗とb*値の二乗との和の平方根であり、彩度が高いほど金属部材1が鮮やかな色調を有していることを意味する。
【0045】
【0046】
表1に示すように、試験材A1~A11は、波長400nm以上700nm以下における分光透過率の平均値が前記特定の範囲内である反射層4を有している。そのため、これらの試験材は鮮やかな有彩色に発色する。
【0047】
これらの試験材における反射層4の構造の一例として、
図3に、透過型電子顕微鏡を用いて試験材A2の反射層4の断面を観察することにより得られる透過型電子顕微鏡像を示す。
図3に示すように、反射層4の断面には、等間隔に並んだ縞模様を示す、結晶粒41が存在していることが理解できる。また、図には示さないが、試料ステージの角度を種々変更して観察を行うことにより、
図3において縞模様が表れていない部分にも縞模様が表れる。従って、これらの結果によれば、試験材A2の反射層4は、複数の結晶粒41からなる多結晶体であることが理解できる。試験材A2の反射層4における結晶粒41の円相当直径の平均値は約7nmである。
【0048】
一方、試験材B1は、基材2と反射層4との間に透明層3が設けられていないため、反射層4の表面で反射する光と基材2の表面で反射する光との位相差が不十分である。そのため、試験材B1の色調は無彩色となり、鮮やかな有彩色を発現させることができない。
【0049】
試験材B2及び試験材B3は、反射層4の分光透過率の平均値が前記特定の範囲から外れているため、反射層4の表面で反射する光および基材2の表面で反射する光のうちいずれか一方の光が、他方の光に比べて過度に弱くなる。そのため、これらの試験材の色調は無彩色となり、鮮やかな有彩色を発現させることができない。
【0050】
(実施例2)
本例では、反射層4上に保護層5を設けた金属部材102の例を示す。なお、本例において用いる符号のうち、既出の例において用いた符号と同一の符号は、特に説明のない限り既出の例における構成要素等と同様の構成要素等を示す。
【0051】
図4に示すように、本例の金属部材102は、基材2と、基材2上に形成された透明層3と、透明層3上に形成された反射層4と、可視光を透過する物質からなり、反射層4上に形成された保護層5とを有している。基材2、透明層3及び反射層4の構成は、実施例1における対応する部分の構成と同様である。
【0052】
本例の保護層5は、具体的にはニトロセルロース樹脂から構成されている。
【0053】
本例の金属部材102は、実施例1と同様の方法により基材2上に透明層3及び反射層4を形成した後、反射層4上にニトロセルロース樹脂からなる皮膜を形成することにより得られる。表2に、本例の金属部材102(試験材C1~C2)の製造条件、構成及び諸特性を示す。
【0054】
【0055】
表2に示すように、金属部材102は、反射層4上に保護層5を有する場合においても鮮やかな有彩色を有している。また、本例の金属部材1のように、反射層4上に保護層5を設けることにより、反射層4の変質をより長期間にわたって抑制し、ひいては金属部材1の色調をより長期間にわたって維持することができる。なお、表2に示す試験材C1と表1に示す試験材A2とを比較すると、両者は、透明層3及び反射層4の構成が同一であるにもかかわらず異なる色調を有している。同様に、表2に示す試験材C2と表1に示す試験材A5とを比較すると、両者は、透明層3及び反射層4の構成が同一であるにもかかわらず異なる色調を有している。これは、試験材C1においては、反射層4上に保護層5が形成されており、保護層5内を通過する際に光の光路が変化することにより、干渉によって振幅が強まる波長が変化するためと考えられる。
【0056】
以上、実施例1~2に基づいて本発明に係る金属部材及びその製造方法の具体的な態様を説明したが、本発明に係る金属部材及びその製造方法の態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。