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  • 特開-アンモニア回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125577
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】アンモニア回収方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/36 20230101AFI20240911BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20240911BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20240911BHJP
   C02F 1/20 20230101ALI20240911BHJP
【FI】
C02F1/36 ZAB
B01D53/14 210
C02F11/00 Z
C02F1/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033489
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(74)【代理人】
【識別番号】100220423
【弁理士】
【氏名又は名称】榊間 城作
(72)【発明者】
【氏名】永野 理
(72)【発明者】
【氏名】吉川 琢也
(72)【発明者】
【氏名】東 乙比古
(72)【発明者】
【氏名】東 陽介
【テーマコード(参考)】
4D020
4D037
4D059
【Fターム(参考)】
4D020AA10
4D020BA12
4D020BA23
4D020CB01
4D037AA11
4D037AA12
4D037AB12
4D037BA23
4D037BA26
4D037CA07
4D059AA01
4D059BK16
4D059BK22
4D059CA27
4D059CC01
(57)【要約】
【課題】 液状物からアンモニアを効率的にストリッピングし、回収することのできるアンモニア回収方法を提供する。
【解決手段】 アンモニア回収方法は、前記アンモニアを含有する液状物に超音波による処理と気体を接触させる処理とを並行して施す工程と、前記超音波による処理と前記気体を接触させる処理とが並行して施された前記液状物からアンモニアをストリッピングする工程と、前記液状物からストリッピングされたアンモニアを回収する工程と、を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを含有する液状物からアンモニアを回収するアンモニア回収方法であって、
前記アンモニア回収方法は、
前記アンモニアを含有する液状物に超音波による処理と気体を接触させる処理とを並行して施す工程と、
前記超音波による処理と前記気体を接触させる処理とが並行して施された前記液状物からアンモニアをストリッピングする工程と、
前記液状物からストリッピングされたアンモニアを回収する工程と、
を含む、アンモニア回収方法。
【請求項2】
前記アンモニアを含有する液状物は、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿である、請求項1に記載のアンモニア回収方法。
【請求項3】
前記アンモニアを回収する工程では、前記液状物からストリッピングされたアンモニアを液体に取り込んで回収する、請求項1または請求項2に記載のアンモニア回収方法。
【請求項4】
前記アンモニアを回収する液体は、酸性水溶液、または、水である、請求項3に記載のアンモニア回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア回収方法、特に、アンモニアを含有する液状物(例えば、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿)からアンモニアをストリッピングしてアンモニアを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアを含有する消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿からアンモニアを除去、回収するためには、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿中からアンモニアをストリッピングする必要がある。消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿中からアンモニアを除去、回収する方法はいくつか知られている。
【0003】
一つ目の方法は、MAP法といわれる方法で、主にリンを回収するために用いられる方法である。液状中のリン酸とアンモニアをアルカリ下でマグネシウムと反応させ、リン酸マグネシウムアンモニウム結晶を生成させてアンモニアを除去する方法である。一般的にはpHを高めマグネシウムを加えることにより結晶化が促進する(例えば、非特許文献1参照)。この方法で回収するためには、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿のリン酸量、アンモニア量、マグネシウム量を1:1:1にする必要があり、その条件を整えるためには、リン酸、マグネシウムを添加する必要がある。また、回収したMAPから、リン酸、アンモニア、マグネシウムを再利用するための処理が必要となる。
【0004】
二つ目の方法は、微生物を用いた生物学的硝化による脱窒素法であり、好気性独立栄養細菌(ニトロゾモナス、ニトロバクター等の硝化細菌)による生物学的酸化と通性嫌気性従属栄養細菌(シュードモナス等)による生物学的還元を組み合わせて、液状物からアンモニアを除去する方法である(例えば特許文献1参照)。この方法は、含有アンモニア量が低濃度の場合には優れた処理方法であるが、特定の有機物や遊離アンモニアによる阻害作用や処理時間の長さなどが問題になる。また、有機物が多く含有アンモニア濃度が高い消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿では多くの希釈水が必要となるうえ、アンモニアが窒素として大気に放出されてしまうため、回収再利用ができない。
【0005】
三つ目の方法は、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に気体を接触させることでアンモニアを取り出すアンモニアストリッピング法である(例えば、特許文献2参照)。アンモニアのストリッピング効率を高めるためには、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿のpHを高くする、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の温度を高くする、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿と接触する気体量を多くするなどの方法が知られている。消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿のpHを高くするために水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムなどのアルカリ剤を消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に多量投入する必要がある。消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の温度を高めるためには、加温装置で温める必要があり、多くのエネルギーを必要とする。消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿と気体との接触をふやすため、高い塔の上部から消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿を降らせ、下から高温の蒸気を吹き込むなどの方法がとられている。また、ストリッピングしたアンモニアを再利用するために追加の処理設備も必要となり、多くのランニングコストが必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国総研資料第805号
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-230338号公報
【特許文献2】特開2006-334472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アンモニアを含有する消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿は粘性が非常に高いため、通常使用されているような高い塔の上から降らせるようなアンモニアストリッピング方法は実施できない。
【0009】
また、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に気体を吹き込む方法のストリッピングも可能だが、消化液が発泡し、短時間に多くの気体と接触させることが難しい。そのため、アンモニアを取り出すためには多くの時間がかかった。また、短時間でのストリッピングには、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の発泡をおさえるために多くの消泡剤が必要であった。
【0010】
従って、いずれの方法もアンモニアを除去または回収することはできるが、処理にあたっては多くの時間や薬品が必要であり、コスト効率が悪く、実用化しても採算が合わないことも多かった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿のような粘性のあるアンモニアを多く含む液状物からアンモニアを効率的にストリッピングし、回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアンモニア回収方法は、アンモニアを含有する液状物からアンモニアを回収するアンモニア回収方法であって、前記アンモニア回収方法は、前記アンモニアを含有する液状物に超音波による処理と気体を接触させる処理とを並行して施す工程と、前記超音波による処理と前記気体を接触させる処理とが並行して施された前記液状物からアンモニアをストリッピングする工程と、前記液状物からストリッピングされたアンモニアを回収する工程と、を含んでいる。
【0013】
この方法によれば、アンモニアを含有する液状物に超音波による処理と気体を接触させる処理とを並行して施すことにより、液状物の粘度を低下させることが可能になり、アンモニアのストリッピング効率が向上する。したがって、液状物からアンモニアを効率的にストリッピングし、回収することが可能になる。この場合、エネルギー効率の良い超音波を利用することで、液状物の粘度を下げるために必要なエネルギーを低減することができる。また、超音波処理を施すことにより、ストリッピングの際に液状物から発生する泡を大きく発達させて泡をはじけやすくすることができ、その結果、発生した泡の数を減らす消泡作用を得ることができる。
【0014】
また、本発明のアンモニア回収方法では、前記アンモニアを含有する液状物は、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿であってもよい。
【0015】
この方法によれば、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿から、アンモニアを効率的にストリッピングし、回収することが可能になる。
【0016】
本発明のアンモニア回収方法では、前記アンモニアを回収する工程で、前記液状物からストリッピングされたアンモニアを液体に取り込んで回収してもよい。
【0017】
この方法によれば、液状物からストリッピングされたアンモニアを液体に取り込むことにより、アンモニアを効率的に回収することができる。
【0018】
本発明のアンモニア回収方法では、前記アンモニアを回収する液体は、酸性水溶液、または、水であってもよい。
【0019】
この方法によれば、液状物からストリッピングされたアンモニアを酸性水溶液(例えば、塩酸の水溶液、硫酸の水溶液)、または、水に取り込むことにより、アンモニアを効率的に回収することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液状物からアンモニアを効率的にストリッピングし、回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態において用いられる、アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施の形態に係るアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法では、粘性のある消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に超音波を照射する処理と気体を接触させる処理とが並行して行われる。
【0023】
また、本実施の形態では、超音波を照射する処理と気体を接触させる処理とを並行して行うことにより、アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の粘性を下げることができる。この処理方法では、エネルギー効率の良い超音波が利用される。
【0024】
また、本実施の形態では、アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿をストリッピングする際に起きる発泡を、超音波処理することで大きく発達させて、はじけやすくする。これにより、発生した泡が低減(消泡)される。
【0025】
また、本実施の形態では、アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の粘性を下げる処理方法の一つと並行して、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿と気体と接触させる方法が行われる。消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿と気体と接触させる方法では、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿にエアポンプ等の気体を送り込む装置が使用される。
【0026】
また、本実施の形態では、アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿を気体と接触させる工程において、接触させる気体は、特に種類を選ばないが、通常は空気でよく、特に二酸化炭素を低減させた空気であることが望ましい。例えば、二酸化炭素を吸収する液体を通過させたのちに、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に気体が送り込まれる。
【0027】
また、本実施の形態では、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿からストリッピングされたアンモニアを回収する方法としては、液体に取り込んで回収する方法が用いられる。液体(回収溶液)は、塩酸や硫酸などの酸の水溶液または水が望ましい。このような回収溶液に、アンモニアを含む気体を通過させることにより、アンモニアが回収される。
【0028】
本実施の形態では、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に含まれるアンモニアをストリッピングするために、超音波照射と並行して気体を接触させることで、液状物の粘度を低下させ、アンモニアをストリッピングし、ストリッピングしたアンモニアを、酸の水溶液や水を通過させることにより回収する。この方法によれば、エネルギー効率に優れた、粘性のあるアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法を提供することができるという効果を奏する。
【0029】
また、本実施の形態では、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の粘性を下げるために用いるのは、エネルギー効率の良い超音波発生装置と消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に気体を送り込むポンプでよく、効率的な処理方法を提供できるという効果を奏する。
【0030】
また、本実施の形態にでは、消化液を超音波処理することにより、消化液に気体を通過させたときに生じる発泡を低減するという効果を奏する。
【0031】
また、本実施の形態では、ストリッピングされたアンモニアを、酸を含む液体または水に通過させることで回収し、回収されたアンモニアを含む酸の液体または水はそのまま、あるいは結晶化して肥料等に供することができるという効果を奏する。
【0032】
また、本実施の形態では、アンモニアストリッピング終了後の残液は、再度メタン発酵に供することもできるが、連続してリンやカリウムを回収する工程(連続工程)を設置できるという効果を奏する。
【0033】
また、本実施の形態では、アンモニアストリッピング終了後の残液は、再度メタン発酵に供することもできるが、アンモニア濃度によってはそのまま、あるいは適量の希釈を行うことで下水または河川に排出できるようになるという効果を奏する。
【0034】
(実施の形態)
以下に、本発明に係るアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法および処理装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0035】
[アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法]
まず、本発明に係るアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法の実施の形態を説明する。
【0036】
本実施の形態に係るアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法は、アンモニア含有廃水中に含まれるアンモニアを、超音波照射とアンモニアストリッピング法を併用することでアンモニアをストリッピングし、回収する方法である。
【0037】
本実施で対象としているアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の通常の処理方法は、硝化・脱窒といった生物処理が行われる。このとき、pH調整や水素供与体としてメタノールおよび種々の薬品が使用され、その薬品代がコストデメリットとなる。また、生物処理であるため処理時間がかかること、生物処理を効率的に行うための環境条件を整えるためのコストも必要となる。また、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿中のアンモニアを窒素ガスに変換し大気へ放散するため、有効利用できないことが多かった。
【0038】
そこで、本実施の形態では、処理薬品を必要としないで、短時間で効率的にアンモニアをストリッピングし、そのアンモニアを回収して、肥料として再利用する方法を提案するものである。
【0039】
本実施の形態に係るアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法で使用する主な機器は、超音波発生装置および気体循環させるブロワーもしくはエアポンプであり、エネルギー効率に優れた処理方法を提供することができる。
【0040】
上記の実施の形態において、処理効率を上げるため、循環させる気体を水素、ヘリウム、窒素、オゾン、酸素等の気体のタンクから送出する工程を構成してもよい。
【0041】
上記の実施の形態において、超音波処理により液温の上昇が認められるが、さらに処理効率を上げるため、消化液をストリッピングする槽に加温装置を設けて、加温しながらアンモニアストリッピングする工程を構成してもよい。
【0042】
上記の実施の形態において、処理効率を上げるため、消化液をストリッピングする槽にアルカリ剤を添加する装置を設けて、アルカリ剤を添加しながらアンモニアストリッピングをする工程を構成してもよい。
【0043】
上記の実施の形態において、処理効率を上げるため、消化液をストリッピングする際に使用する気体を加温する工程を構成してもよい。
【0044】
上記の実施の形態において、ストリッピングしたアンモニアを効率よく回収するため、アンモニア回収槽である酸液槽を複数連結もしくは並列する工程を構成してもよい。
【0045】
上記の実施の形態において、ストリッピングしたアンモニアを効率よく回収するため、アンモニア気体そのままを回収する工程で構成してもよい。
【0046】
上記の実施の形態において、ストリッピングしたアンモニアを効率よく回収するため、アンモニアを珪藻土等の固体に吸着させて回収する工程で構成してもよい。
【0047】
上記の実施の形態において、アンモニアストリッピング処理された残液を連続して処理する工程、例えばリンやカリウムを回収する工程を構成してもよい。
【0048】
[アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理装置]
次に、本発明に係るアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理装置の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る処理装置は、アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿からアンモニアをストリッピングし回収する装置である。
【0049】
図1に示すように、本実施の形態に係る処理装置10は、アンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の処理方法を装置として具現化したものであり、エアポンプ1と、CO削減槽2と、アンモニアストリッピング槽3と、超音波発生装置4と、ブランク槽5と、アンモニア回収槽6(図1では、3つのアンモニア吸収槽A~C)と、アルカリ添加装置7を備えている。
【0050】
アンモニアストリッピング槽3は、その上部から処理対象の消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿が流入されるように構成されている。また、このアンモニアストリッピング槽3の底部または内部には、この槽内の消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に超音波照射するための、超音波発生装置(振動子)4が設置されている。
【0051】
消化液の粘性を下げる処理として利用する超音波の周波数は、低周波であり、好ましくは、20kHz~50kHzである。超音波照射は連続的に照射してもよく、断続的に照射(ディガスモードで照射)してもよい。
【0052】
アンモニアストリッピング槽3の内部に、この槽内の消化液に気体を散気するための散気手段があり、それはエアポンプ1の吐出側に連通させて気体を循環させ、CO削減槽2を通過した気体が循環するように接続されている。
【0053】
また、アンモニアストリッピング槽3内の消化液からストリッピングされた、アンモニアは、ブランク槽5を経て、アンモニア回収槽6(アンモニア吸収槽A~C)に入れられている塩酸などの酸液に回収されるようになっている。
【0054】
アンモニア回収槽6(アンモニア吸収槽A~C)は直列に設置しても、並列に設置しても良い。また、アンモニア回収槽6のあとに再度ブランク槽5を設置しても良い。
【0055】
このように、本実施の形態に係るアンモニア含有消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿からアンモニアをストリッピングし回収する処理装置10によれば、省エネルギーで効率的にアンモニアをストリッピングし、ストリッピングされたアンモニアを肥料として再利用することができる。
【0056】
(実施例)
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0057】
[実験方法]
アンモニアストリッピングシステム(処理装置10)として、CO削減槽2、アンモニアストリッピング槽3、トラップ槽、アンモニア回収槽6、トラップ槽を設け、エアポンプ1とエアチューブ等のラインで連結し、エアポンプ1を駆動させることで各槽内へ気体を循環させる。この循環させた気体を消化液または消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に吹き込むことでアンモニアがストリッピングされる。その際、アンモニアストリッピング槽3に設置された超音波発生装置(振動子)4を駆動させ、消化液に超音波照射をしながら消化液に気体を送り込む。アンモニアストリッピング槽3で消化液からストリッピングされたアンモニアは、アンモニア回収槽6に入れられている液体と反応し、液内に回収する。
【0058】
[測定方法]
試験前のサンプルと試験後のサンプルについて、粘度、アンモニア態窒素濃度等を測定し、比較する。消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿の粘度は、ファンギラボ社製デジタル回転式粘度計にて、実験サンプルが試験前後で同じ条件にて測定できるスピンドル(L1~L4)、回転速度(20~200rpm)とし、測定開始から10秒後から30秒後の粘度の平均値を粘度(cP)とした。消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿のアンモニア態窒素濃度は、サンプルを100倍希釈し、ネスラー法に従い、ハンナ社製吸光光度計にてアンモニア態窒素濃度(mg/L)として測定した。
【0059】
[実施例1]
メタン発酵前の家畜糞尿をサンプルとし、超音波照射と気体接触によるストリッピングを並行して実施する試験前サンプルと試験後サンプルを比較すると、超音波照射(周波数28kHz)と気体接触を並行して処理したサンプルは、粘度が約99%低下し、アンモニア態窒素濃度が約90%低下した(表1参照)。
【0060】
【表1】
【0061】
[比較例1]
消化液をサンプルとし、気体接触のみによるストリッピングを実施した試験前サンプルと試験後サンプルとを比較すると、気体接触のみで処理したサンプルは、粘度が28%低下し、アンモニアは約3%しかストリッピングされなかった(表2参照)。
【0062】
【表2】
【0063】
[比較例2]
消化液をサンプルとし、超音波照射(周波数28kHz)のみによるストリッピングを実施し、試験前サンプルと試験後サンプルとを比較すると、超音波照射のみで処理したサンプルは、粘度が約40%低下したが、アンモニアは約8%しかストリッピングされなかった(表3参照)。
【0064】
【表3】
【0065】
[実施例2]
消化液をサンプルとして、超音波照射(周波数40kHz)と気体接触によるストリッピング、ストリッピングする時間と気体流量を変化させて試験した。試験前サンプルと試験後サンプルとを比較すると、どちらもアンモニア態窒素が低下したが、液量に対する散気量が多い方がアンモニアのストリッピング率が高まった(表4参照)。
【0066】
【表4】
【0067】
[実施例3]
消化液をサンプルとして、超音波照射と気体接触を並行して実施したものと、気体接触のみを実施したサンプルの消化液から発生する気泡サイズを測定し比較すると、超音波照射と気体接触を並行して実施したものから発生した気泡サイズはより大きくなり、残存しにくい泡となった(表5参照)。
【0068】
【表5】
【0069】
[実施例5]
消化液をサンプルとし、液体量に対する気体散気量がほぼ同じサンプル(前サンプル(100とする))に対する、超音波照射と散気を併用実施したもの、散気のみ実施したものとストリッピング効果を比較すると、超音波照射併用サンプルのアンモニアストリッピング効果は大きく、88%のアンモニアがストリッピングされた(表6)。
【0070】
【表6】
【0071】
以上、本発明の実施の形態を例示により説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において目的に応じて変更・変形することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明に係るアンモニア回収方法は、消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿に含まれるアンモニアを効率的にストリッピングし、アンモニアを回収し、再利用するのに有用であり、特に消化液のような粘性のある物性の消化液またはメタン発酵前の家畜糞尿からアンモニアをストリッピングおよび回収、再利用するのに適している。
【符号の説明】
【0073】
1 エアポンプ
2 CO削減槽
3 アンモニアストリッピング槽
4 超音波発生装置
5 ブランク槽槽
6 アンモニア回収槽
7 アルカリ添加装置
図1