(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125593
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】保護装置及び電源システム
(51)【国際特許分類】
H02H 3/02 20060101AFI20240911BHJP
H02H 7/26 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H02H3/02 G
H02H7/26 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033511
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】柏原 弘典
【テーマコード(参考)】
5G142
【Fターム(参考)】
5G142AC06
5G142BB08
5G142BC02
5G142BD01
5G142EE02
(57)【要約】
【課題】保護装置が短絡事故を確実に検出することによって、短絡事故が発生していないにもかかわらず配電線が母線から解列される不要動作の発生を抑制する。
【解決手段】電力系統から母線を介して重要負荷に給電するための電力線に設けられ、前記電力線を開閉する開閉器と、前記母線及び前記電力線の間に設けられる変圧器とを備える電源システムに用いられ、前記開閉器を開放して前記電力線を前記母線から解列させる保護装置であって、前記開閉器を制御する開閉器制御部と、前記電力線に含まれる高調波成分のインピーダンスを示す高調波インピーダンスを算出する高調波インピーダンス算出部と、前記変圧器の容量を示す変圧器容量を算出する変圧器容量算出部とを備え、前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンス及び前記変圧器容量を取得した場合に、前記開閉器を開放させる開放信号を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統から母線を介して重要負荷に給電するための電力線に設けられ、前記電力線を開閉する開閉器と、前記母線及び前記電力線の間に設けられる変圧器とを備える電源システムに用いられ、前記開閉器を開放して前記電力線を前記母線から解列させる保護装置であって、
前記開閉器を制御する開閉器制御部と、
前記電力線に含まれる高調波成分のインピーダンスを示す高調波インピーダンスを前記開閉器制御部に出力する高調波インピーダンス出力部と、
前記変圧器の容量を示す変圧器容量を前記開閉器制御部に出力する変圧器容量出力部とを備え、
前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンス及び前記変圧器容量に基づいて、前記開閉器を開放させる開放信号を出力する、保護装置。
【請求項2】
前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンスを前記変圧器容量で除した値が所定の第1しきい値を超えた場合に、前記開放信号を出力する、請求項1に記載の保護装置。
【請求項3】
前記変圧器容量出力部は、前記変圧器の百分率インピーダンスを前記高調波成分の次数で除したものを前記変圧器容量とする、請求項1に記載の保護装置。
【請求項4】
前記電力線に流れる基本波成分の電圧である基本波電圧を算出する基本波電圧算出部をさらに備え、
前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンス及び前記変圧器容量を取得した場合、及び、前記基本波電圧が所定の第2しきい値未満となった場合に、前記開放信号を出力する、請求項1に記載の保護装置。
【請求項5】
前記基本波成分のインピーダンスである基本波インピーダンスを出力する基本波インピーダンス出力部をさらに備え、
前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンス及び前記変圧器容量を取得した場合、前記基本波電圧が前記第2しきい値未満となった場合、及び、前記基本波インピーダンスが正の値となった場合に、前記開放信号を出力する、請求項4に記載の保護装置。
【請求項6】
前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンスを前記変圧器容量で除した値が所定の第1しきい値を超えた状態が所定の時間継続した後に、前記開放信号を出力する、請求項1に記載の保護装置。
【請求項7】
電力系統及び重要負荷の間に設けられ、前記重要負荷に電力を供給する電源システムであって、
電力系統から母線を介して重要負荷に給電するための電力線に設けられ、前記電力線を開閉する開閉器と、
前記母線及び前記電力線を接続する変圧器と、
請求項1乃至6の何れか一項に記載の保護装置とを備える、電源システム。
【請求項8】
複数の前記電力線が並列に前記母線に接続されており、複数の前記電力線ごとに前記開閉器及び前記保護装置が設けられる、請求項7に記載の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護装置及び電源システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の保護装置としては、例えば特許文献1に示すように、配電線に流れる高調波成分のインピータンス(以下、「高調波インピーダンス」)を算出し、高調波インピーダンスに基づいて遮断器を動作させるものが挙げられる。電力供給システム内で短絡事故が発生して過電流が配電線に流れると、当該配電線における高調波インピーダンスが低下する。そして、保護装置は、当該高調波インピーダンスが所定のしきい値以下となった場合に、遮断器に遮断信号を出力して遮断器を開放し、母線から配電線を解列させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高調波インピーダンスが低下する事象は、重要負荷の開閉や電力系統側の事故等といった短絡事故以外の事象もある。しかしながら、上記の保護装置は、高調波インピーダンスの低下のみに基づいて短絡事故と判断しているので、短絡事故が発生していないにもかかわらず、配電線が母線から解列される不要動作が発生する可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、保護装置が短絡の発生を確実に検出することによって、短絡事故が発生していないにもかかわらず電力線が母線から解列される不要動作の発生を抑制することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る保護装置は、電力系統から母線を介して重要負荷に給電するための電力線に設けられ、前記電力線を開閉する開閉器と、前記母線及び前記電力線の間に設けられる変圧器とを備える電源システムに用いられ、前記開閉器を開放して前記電力線を前記母線から解列させる保護装置であって、前記開閉器を制御する開閉器制御部と、前記電力線に含まれる高調波成分のインピーダンスを示す高調波インピーダンスを前記開閉器制御部に出力する高調波インピーダンス出力部と、前記変圧器の容量を示す変圧器容量を前記開閉器制御部に出力する変圧器容量出力部とを備え、前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンス及び前記変圧器容量に基づいて、前記開閉器を開放させる開放信号を出力することを特徴とする。
【0007】
このような構成であれば、保護装置は、高調波インピーダンスに加えて変圧器容量をさらに用いて開閉器の開放を判断するので、高調波インピーダンスのみを用いる場合よりも、電力線における短絡をより正確に検出することができる。したがって、短絡事故が発生していないにもかかわらず電力線が母線から解列される不要動作の発生を抑制することができる。
【0008】
前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンスを前記変圧器容量で除した値が所定の第1しきい値を超えた場合に、前記開放信号を出力することが好ましい。
このような構成であれば、高調波インピーダンスを変圧器容量で除した値が所定の第1しきい値を超えた場合には、開閉器よりも上位に設けられた変圧器が過負荷であると判断することができる。したがって、保護装置が設けられた電力線で短絡が発生していると特定することが容易となる。
【0009】
ここで、高調波インピーダンスは、基本波成分のインピーダンスと比較して、リアクトル素子が接続された重要負荷(以下、「L負荷」)の場合に大きく見え、コンデンサ素子が接続された重要負荷(以下、「C負荷」)の場合に小さく見える。したがって、高調波インピーダンスを用いる場合、負荷の種類に関わらず正確に短絡を検出するために、前記変圧器容量出力部は、前記変圧器の百分率インピーダンスを前記高調波成分の次数で除したものを前記変圧器容量とすることが好ましい。
【0010】
前記電力線に流れる基本波成分の電圧である基本波電圧を算出する基本波電圧算出部をさらに備え、前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンス及び前記変圧器容量を取得した場合、及び、前記基本波電圧が所定の第2しきい値未満となった場合に、前記開放信号を出力するものが挙げられる。
このような構成であれば、開閉器の開放を判断する際にさらに基本波電圧を用いるので、高調波インピーダンスのみを用いる場合と比較して、電力線における短絡の発生をさらに正確に検出することができる。特に、短絡事故が発生すると電力線の電圧が低下するが、開閉器制御部は、基本波電圧が所定の第2しきい値未満かどうかを判断するので、短絡事故が発生しているかどうかを正確に検出することができる。
【0011】
前記基本波成分のインピーダンスである基本波インピーダンスを出力する基本波インピーダンス出力部をさらに備え、前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンス及び前記変圧器容量を取得した場合、前記基本波電圧が前記第2しきい値未満となった場合、及び、前記基本波インピーダンスが正の値となった場合に、前記開放信号を出力するものが挙げられる。
このような構成であれば、開閉器の開放を判断する際にさらに基本波インピーダンスを用いるので、高調波インピーダンスのみを用いる場合と比較して、電力線における短絡の発生をさらに正確に検出することができる。また、基本波インピーダンスが正の値の場合には、過電流を受給する充電方向であると判断することができるので、基本波インピーダンスが負の値を示す過電流の供給側(放電方向)と区別することができる。
【0012】
前記開閉器制御部は、前記高調波インピーダンスを前記変圧器容量で除した値が所定の第1しきい値を超えた状態が所定の時間継続した後に、前記開放信号を出力することが望ましい。
このような構成であれば、電力線に過電流が流れている状態が所定の時間継続しているので、過電流が流れていないにも関わらず誤って開閉器を開放することを防ぐことができる。
【0013】
さらに、電力系統及び重要負荷の間に設けられ、前記重要負荷に電力を供給する電源システムは、電力系統から母線を介して重要負荷に給電するための電力線に設けられ、前記電力線を開閉する開閉器と、前記母線及び前記電力線を接続する変圧器と、前記保護装置とを備えることを特徴とする。
このような構成であれば、上記の保護装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0014】
前記電源システムは、複数の前記電力線が並列に前記母線に接続されており、複数の前記電力線ごとに前記開閉器及び前記保護装置が設けられることが望ましい。
このような構成であれば、電源システム内で短絡事故が発生した場合に、電源システム内の開閉器が開放された電力線において短絡が発生していると特定することができる。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、保護装置が短絡事故を確実に検出することによって、短絡事故が発生していないにもかかわらず配電線が母線から解列される不要動作の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態における電源システムの模式図である。
【
図2】同実施形態における保護装置の機能ブロックを示す模式図である。
【
図3】同実施形態の重要負荷側の短絡事故発生時における(A)電源システム内の各部の動作のシミュレーション結果を示す図、(B)基本波電圧のシミュレーション結果を示す図、(C)各部のインピーダンスのシミュレーション結果を示す図である。
【
図4】同実施形態の重要負荷側の短絡事故発生時における(A)各部の短絡事故の有無を判定するシミュレーション結果を示す図、(B)蓄電池システム、分散型電源、負荷1、及び、負荷2における
図4(A)の破線部分の拡大図である。
【
図5】同実施形態の電力系統側の短絡事故発生時における(A)電源システム内の各部の動作のシミュレーション結果を示す図、(B)基本波電圧のシミュレーション結果を示す図、(C)各部のインピーダンスのシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】同実施形態の電力系統側の短絡事故発生時における(A)各部の短絡事故の有無を判定するシミュレーション結果を示す図、(B)蓄電池システム、分散型電源、負荷1、及び、負荷2における
図5(A)の破線部分の拡大図である。
【
図7】本発明の他の実施形態における保護装置の機能ブロックを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る保護装置を備えた電源システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し、又は、誇張して模式的に描かれている場合がある。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0018】
<電源システムの全体構成>
本実施形態における電源システム100は、
図1に示すように、電力系統10及び重要負荷20の間に設けられ、重要負荷20に電力を供給するものである。具体的に電源システム100は、母線L1を介した電力線L2を通じて電力系統10から重要負荷20へと給電している。本実施形態では、複数の電力線L2が並列に母線L1に接続されており、各電力線L2にそれぞれ電力系統10又は重要負荷20が設けられる。なお、本実施形態における電源システム100は、三相電力を供給するものであるが、相の数は特に限定されない。
【0019】
ここで電力系統10は、母線L1に連系する分散型電源システムで構成されており、例えば発電機10a、太陽光発電(PV)システム10b、蓄電池システム10cが存在する電源システムである。なお、PVの他に、例えばマイクロ水力発電システムといった低圧連系する分散型電源システムであってもよい。また、PVシステム10b及び蓄電池システム10cには、パワーコンディショナ(PCS)が含まれている。
【0020】
電源システム100は、電力線L2に設けられ、電力線L2を開閉する開閉器3と、母線L1及び電力線L2の間に設けられる変圧器4と、電力系統10の基本周波数とは異なる周波数の電流である非基本波電流を母線L1に注入する非基本波電流注入手段5と、開閉器3を開放して電力線L2を母線から解列させる保護装置6とを備える。以下、各部について説明する。
【0021】
開閉器3は、電力系統10又は重要負荷20と変圧器4との間の電力線L2に設けられて電力線L2を開閉するものである。開閉器3は、複数の電力線L2それぞれに少なくとも1つ以上設けられる。具体的に開閉器3は、例えば機械式スイッチ、半導体スイッチ、又は半導体スイッチ及び機械式スイッチを組み合わせたハイブリットスイッチである。
【0022】
変圧器4は、例えば単巻変圧器であり、電力系統10からの電圧を昇圧して母線L1に給電する昇圧変圧器41と、母線L1の電圧を降圧して重要負荷20に給電する降圧変圧器42とを有する。
【0023】
非基本波電流注入手段5は、開閉器3及び変圧器4を介して母線L1に非基本波電流を注入するものである。本実施形態において、非基本波電流注入手段5は、昇圧変圧器41を介して、次数間高調波電流である非基本波電流を母線L1に注入するものであり、具体的には、電力系統10の基本波の1倍よりも大きい非整数倍の注入次数(例えば2.25次~2.75次)の非基本波電流を母線L1に注入する。
【0024】
しかして、保護装置6は、電力線L2に過電流が流れていると判断した場合に、開閉器3を開放する開放信号Cを出力して、開閉器3を開放するように制御するものである。保護装置6は、複数の電力線L2それぞれに少なくとも1つ以上設けられる。
【0025】
具体的に保護装置6は、
図2に示すように、電力線L2の電圧を計測する電圧計測部61と、電力線L2に流れる電流を計測する電流計側部62と、電力線L2に流れる基本波成分を算出する基本波成分算出部63と、電力線L2に含まれる高調波成分を算出する高調波成分算出部64と、基本波成分のインピーダンス(以下、「基本波インピーダンス」)を出力する基本波インピーダンス出力部65と、高調波成分のインピーダンス(以下、「高調波インピーダンス」)を出力する高調波インピーダンス出力部66と、変圧器3の容量を示す変圧器容量を出力する変圧器容量出力部67と、開閉器3を制御する開閉器制御部68とを備える。なお、本実施形態において、基本波成分算出部63、高調波成分算出部64、基本波インピーダンス出力部65、高調波インピーダンス出力部66、変圧器容量出力部67、及び、開閉器制御部68は、CPU、メモリ、入出力手段等を備えた所謂コンピュータによって構成された演算装置に設けられる。
【0026】
電圧計測部61は、電力線L2に設けられており、例えば公知の計器用変圧器である。電圧計測部61は、測定した電圧を基本波成分算出部63及び高調波成分算出部64に出力する。
【0027】
電流計測部62は、電力線L2に設けられており、例えば公知の計器用変流器である。電流計測部62は、測定した電流を基本波成分算出部63及び高調波成分算出部64に出力する。
【0028】
基本波成分算出部63は、電圧計測部61及び電流計側部62により計測された電圧及び電流に基づいて、基本波成分の電圧(以下、「基本波電圧」)を算出する基本波電圧算出部631と、基本波成分の電流(以下、「基本波電流」)を算出する基本波電流算出部632とを有する。基本波電圧算出部631及び基本波電流算出部632は、例えばフーリエ変換によって、計測された電圧及び電流からそれぞれ基本波電圧及び基本波電流を算出する。
【0029】
高調波成分算出部64は、電圧計測部61及び電流計側部62により計測された電圧及び電流に基づいて、高調波成分の電圧(以下、「高調波電圧」)を算出する高調波電圧算出部641と、高調波成分の電流(以下、「高調波電流」)を算出する高調波電流算出部642とを有する。高調波電圧算出部641及び高調波電流算出部642は、例えばフーリエ変換によってそれぞれ高調波電圧及び高調波電流を算出し、当該高調波電圧及び高調波電流の値又は信号を高調波インピーダンス出力部66に出力する。
【0030】
基本波インピーダンス出力部65は、基本波電圧及び基本波電流に基づいて、基本波インピーダンスを出力するものである。具体的に基本波インピーダンス出力部65は、基本波電圧算出部631及び基本波電流算出部632がそれぞれ出力した基本波電圧及び基本波電流を受け付けて、基本波電圧を基本波電流で除することにより、基本波インピーダンスを算出する。
【0031】
高調波インピーダンス出力部66は、高調波電圧及び高調波電流に基づいて、高調波インピーダンスを出力するものである。具体的に高調波インピーダンス出力部66は、高調波電圧算出部641及び高調波電流算出部642がそれぞれ出力した高調波電圧及び高調波電流を受け付けて、高調波電圧を高調波電流で除することにより高調波インピーダンスを算出し、開閉器制御部68に出力する。
【0032】
変圧器容量出力部67は、変圧器4の百分率インピーダンスを高調波成分の次数で除したものを変圧器容量とするものである。具体的に変圧器容量出力部67は、当該保護装置6によって制御される開閉器3の上位の変圧器4の百分率インピーダンスを記憶している。また、変圧器容量出力部67は、非基本波電流注入手段5が注入する注入次数を非基本波電流注入手段5から取得し、上位の変圧器4の百分率インピーダンスを当該注入次数で除することで、変圧器容量を算出している。
【0033】
開閉器制御部68は、変圧器容量及び高調波インピーダンスに基づいて、開閉器3を開放する開放信号Cの出力を判断するものである。具体的に開閉器制御部68は、高調波インピーダンスを変圧器容量で除した値(以下、「代表パラメータ」)が所定の第1しきい値を超えた場合に、開閉器3の上位の変圧器4が過負荷であると判断する。なお、所定の第1しきい値は、例えば5.0puである。
【0034】
ここで、開閉器制御部68は、電力線L2で短絡が発生しているかどうかを確実に検知するために、基本波電圧及び基本波インピーダンスをさらに用いる。具体的に開閉器制御部68は、代表パラメータが所定の第1しきい値を超えた場合、基本波電圧が所定の第2しきい値未満である場合、及び基本波インピーダンスが正の値である場合に、開放信号Cを出力する条件が満足されたことを示すAND信号を出力する。なお、所定の第2しきい値は、例えば定格電圧の90%以下である。
【0035】
さらに、開閉器制御部68は、AND信号が誤って出力されているかどうかを判定するために、AND信号の判定時間を設ける。具体的に開閉器制御部68は、AND信号の出力が所定の時間継続した場合に開放信号Cを出力する。なお、所定の時間とは例えば20msである。
【0036】
<電源システムの動作>
次に、本実施形態の電源システム100において、短絡事故が発生してから電力線L2が母線L1から解列されるまでの動作を、
図2を参照して説明する。
【0037】
系統健全時において、各開閉器3は投入されており、電力系統10から各重要負荷20への給電が行われている。非基本波電流注入手段5は、母線5に非基本波電流を注入している。電圧計測部61及び電流計側部62は、それぞれ電力線L2の電圧及び電流を計測している。
【0038】
そして、電力系統10又は重要負荷20で短絡事故(例えば三相短絡)が発生すると、系統電圧が低下し、電力線L2に過電流が流れる。基本波電圧算出部631、基本波インピーダンス出力部65、高調波インピーダンス出力部66、及び、変圧器容量出力部67は、それぞれ基本波電圧、基本波インピーダンス、高調波インピーダンス、及び変圧器容量を開閉器制御部68に出力する。開閉器制御部68は、出力された各パラメータに基づいて、開放信号Cの出力を判断する。
【0039】
開閉器制御部68は、代表パラメータが所定の第1しきい値を超えた場合、基本波電圧が所定の第2しきい値未満である場合、基本波インピーダンスが正の値である場合に、AND信号を出力する。そして、AND信号が所定の時間継続した場合に、開閉器制御部68は、開閉器3に対して開放信号Cを出力して、開閉器3は開放される。その結果、電力線L2は、母線L1から解列される。
【0040】
<実験例1>
以下に、重要負荷20側で短絡事故が発生した場合におけるシミュレーション結果を、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
【0041】
図3は、蓄電池システム10c、PVシステム10b、複数の重要負荷20を構成する第1重要負荷、第2重要負荷の代表パラメータ、基本波インピーダンス、及び、基本波電圧の経時変化を示す。
図4では、蓄電池システム10c、PVシステム10b、第1重要負荷、及び、第2重要負荷の短絡の判定値の経時変化を示し、判定値が1のときに短絡と判定される。
【0042】
本実験例では、0.5秒で第1重要負荷が投入され、2.0秒で第2重要負荷が投入され、3.1秒で第2重要負荷において短絡事故が発生する。
図3に示すように、短絡事故が発生すると、第2重要負荷の代表パラメータは所定の第1しきい値を超え、基本波電圧は約1puから約0.1puまで低下し、第2重要負荷の基本波インピーダンスは正の値となり、これらの状態が継続する。その結果、
図4に示すように、第2重要負荷の短絡の判定値が1である状態が継続する。これにより、電源システム100において、第2重要負荷に接続された電力線L2で短絡電流が流れていると特定することができる。
【0043】
<実験例2>
以下に、電力系統10側で短絡事故が発生した場合におけるシミュレーション結果を、
図5及び
図6を参照しつつ説明する。
【0044】
図5及び
図6は、実験例1と同様のパラメータの経時変化を示すものである。実験例1と異なる点は、3.1秒で蓄電池システム10cにおいて短絡が発生する点である。
【0045】
この場合、
図5に示すように、蓄電池システム10cの代表パラメータは所定の第1しきい値を超え、基本波電圧は約1.0puから約0.0puまで低下し、蓄電池システム10cの基本波インピーダンスは正の値となり、これらの状態が継続する。その結果、
図6に示すように、蓄電池システム10cの短絡の判定値が1である状態が継続する。これにより、電源システム100において、蓄電池システム10cに接続された電力線L2で短絡電流が流れていると特定することができる。
【0046】
<本実施形態の効果>
本実施形態によれば、保護装置6は、高調波インピーダンスに加えて変圧器容量をさらに用いて、開閉器3の開放を判断するので、高調波インピーダンスのみを用いる場合よりも、電力線L2における短絡をより正確に検出することができる。したがって、短絡事故が発生していないにもかかわらず電力線L2が母線L1から解列される不要動作の発生を抑制することができる。
【0047】
また、高調波インピーダンスを変圧器容量で除した値が所定の第1しきい値を超えた場合には、開閉器3よりも上位に設けられた変圧器4が過負荷であると判断することができる。したがって、電力線L2に過電流が流れていると判断することができるので、保護装置6が設けられた電力線L2で短絡が発生していると特定することが容易となる。
【0048】
高調波インピーダンスは、基本波成分のインピーダンスと比較して、L負荷の場合に大きく見え、C負荷の場合に小さく見える。一方、本実施形態では、変圧器容量は、変圧器4の百分率インピーダンスを高調波成分の次数で除したものなので、高調波インピーダンスを用いる場合でも負荷の種類に関わらず正確に短絡を検出することができる。
【0049】
さらに、保護装置6は、開閉器3の開放を判断する際に基本波電圧及び基本波インピーダンスを用いるので、高調波インピーダンスのみを用いる場合と比較して、電力線L2における短絡の発生をさらに正確に検出することができる。
特に、短絡事故が発生すると電力線L2の電圧が低下するが、開閉器制御部68は、基本波電圧が所定の第2しきい値未満かどうかを判断するので、短絡事故が発生しているかどうかを正確に検出することができる。
また、基本波インピーダンスが正の値の場合には、電力線L2に流れる過電流は充電方向と判断することができるので、基本波インピーダンスが負の値を示す過電流の供給側(放電方向)と区別することができる。
【0050】
本実施形態では、開閉器制御部68は、AND信号が所定の時間継続した後に開放信号Cを出力するので、電力線L2に過電流が流れている状態が所定の時間継続していることを確実に検知することができ、過電流が流れていないにも関わらず誤って開閉器3が開放されることを防ぐことができる。
【0051】
本実施形態では、電源システム100は、複数の電力線L2が並列に母線L1に接続されており、複数の電力線L2ごとに開閉器3及び保護装置6が設けられるので、電源システム100内で短絡事故が発生した場合に、開閉器3が開放された電力線L2で短絡が発生していると特定することができる。その結果、電源システム100内の短絡箇所の特定を容易に行うことができる。
【0052】
<その他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0053】
本実施形態において、開閉器制御部68は、基本波インピーダンスを受け付けてAND信号を出力するものであったが、基本波インピーダンスを受け付けなくともAND信号を出力するものであってもよい。例えば
図7に示すように、開閉器制御部68は、代表パラメータ及び基本波電圧とそれぞれのしきい値とを比較して、AND信号を出力するものであってもよい。この場合、代表パラメータ及び基本波電圧に基づいて、開放信号Cの出力が判断されるので、開閉器3を開放する条件が緩和され、電力線L2を母線L1から解列させることが容易となる。
【0054】
また、開閉器制御部68は、少なくとも代表パラメータが所定の第1しきい値を超えた場合に開放信号Cを出力するものであってもよい。すなわち、開閉器制御部68は、基本波電圧及び基本波インピーダンスを受け付けていなくとも、代表パラメータが所定の第1しきい値を超えた場合には、開放信号Cを出力してもよい。この場合、代表パラメータに基づいて、開放信号Cの出力が判断されるので、開閉器3を開放する条件がさらに緩和され、電力線L2を母線L1から解列させることがさらに容易となる。
【0055】
本実施形態において、開閉器制御部68は、AND信号を出力してから所定の時間が継続した後に開放信号Cを出力するものであったが、所定の時間が経過せずとも開放信号Cを出力するものであってもよい。この場合、開閉器制御部68は、開放信号Cをより早期に出力するので、短絡事故が発生した際に電力線L2を母線L1からより早く解列させることができる。
【0056】
本実施形態において、電圧計測部61は、電力線L2に設けられるものであったが、母線L1に設けられて、母線L1の電圧を測定するものであってもよい。
【0057】
本実施形態において、非基本波電流注入手段5は、母線L1に連系する分散型電源システムとは別に設けられるものであったが、分散型電源システムに組み込まれていてもよい。具体的には非基本波電流注入手段5は、例えばPVシステム10b又は蓄電池システム10cのPCSといった変換器に組み込まれるものであってもよい。
【0058】
本実施形態において、基本波電圧及び次数間高調波成分は、フーリエ変換により算出されたが、算出方法はこれに限られない。例えば、基本波電圧及び次数間高調波成分の算出方法は、バンドパスフィルタ(BPF)又は離散フーリエ変換(DFT)を用いたものであってもよい。さらに、基本波電圧は、例えば瞬時実効値及びローパスフィルタ(LPF)の組み合わせにより算出されてもよい。
【0059】
本実施形態において、基本波インピーダンス出力部65及び高調波インピーダンス出力部66は、それぞれ基本波成分算出部63及び高調波成分算出部64により算出された値又は信号を受け付けるものであったが、ユーザ又は他の演算装置により出力されたインピーダンスを受け付けるものであってもよい。
【0060】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
100 ・・・電源システム
10 ・・・電力系統
20 ・・・重要負荷
3 ・・・開閉器
4 ・・・変圧器
5 ・・・非基本波電流注入手段
6 ・・・保護装置
631 ・・・基本波電圧算出部
65 ・・・基本波インピーダンス出力部
66 ・・・高調波インピーダンス出力部
67 ・・・変圧器容量出力部
68 ・・・開閉器制御部
L1 ・・・母線
L2 ・・・電力線