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特開2024-125594二酸化炭素還元装置および人工光合成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125594
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元装置および人工光合成装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20240911BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 9/21 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 11/085 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20240911BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20240911BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B1/04
C25B3/26
C25B3/07
C25B9/23
C25B9/21
C25B9/00 A
C25B11/052
C25B11/085
C25B11/081
C25B11/065
C25B11/031
C25B11/061
C25B11/067
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033513
(22)【出願日】2023-03-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050/高効率太陽光CO2電解還元システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関澤 佳太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直柔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】毛利 登美子
(72)【発明者】
【氏名】森川 健志
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA21
4K011AA22
4K011AA23
4K011AA47
4K011AA50
4K011AA63
4K011DA01
4K011DA10
4K021AA01
4K021AC09
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA05
4K021DB31
4K021DB36
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低いセル電位かつ高い変換効率でギ酸を得ることができる二酸化炭素還元装置および人工光合成装置を提供する。
【解決手段】水を酸化して酸素を生成するアノード16、およびアノード16にアノード溶液を供給するアノード溶液流路18を備えるアノード部10と、二酸化炭素を還元してギ酸を生成するカソード22、およびカソード22に二酸化炭素ガスを供給するガス流路24を備えるカソード部12と、アノード部10とカソード部12によりアノード部10側から順に挟持される、カチオン交換膜14、イオン交換樹脂懸濁液層36、アニオン交換膜34と、を備え、カソード22は、アニオン交換膜34側から順に、カソード触媒として金属錯体を含む触媒層26と、ガス拡散層28と、を備え、アノード溶液として、電解質溶液を供給する、二酸化炭素還元装置1である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を酸化して酸素を生成するアノード、および前記アノードにアノード溶液を供給するアノード溶液流路を備えるアノード部と、
二酸化炭素を還元してギ酸を生成するカソード、および前記カソードに二酸化炭素ガスを供給するガス流路を備えるカソード部と、
前記アノード部と前記カソード部により前記アノード部側から順に挟持される、カチオン交換膜、イオン交換樹脂懸濁液層、アニオン交換膜と、
を備え、
前記カソードは、前記アニオン交換膜側から順に、カソード触媒として金属錯体を含む触媒層と、ガス拡散層と、を備え、
前記アノード溶液として、電解質溶液を供給することを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項2】
請求項1に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記金属錯体は、中心金属として、Ru、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Reからなる群より選択される少なくとも1つの金属を有し、配位子として、ジイミン配位子を有することを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項3】
請求項2に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記ジイミン配位子は、電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子であることを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項4】
請求項3に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記電子求引性の置換基は、構造式が-COORのカルボン酸エステルであり、Rは、アルキル基とピロール部位からなる化学構造を有し、前記ピロール部位は、ポリピロール鎖により重合していることを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項5】
請求項1に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記触媒層は、イオン伝導体およびバインダーとなる高分子化合物と、導電性カーボンと、を含むことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項6】
請求項1に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記ガス拡散層は、疎水性多孔質カーボン基材を含むことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項7】
請求項1に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記アノードは、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備え、
前記基材は、多孔体、メッシュ材、繊維焼結体からなる群より選択される少なくとも1つの形状を有し、
前記アノードは、アノード触媒として、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、前記金属を含む酸化物、前記金属を含む水酸化物、および前記金属を含むオキシ水酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項8】
請求項7に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記アノードは、前記アノード触媒として、オキシ水酸化鉄およびオキシ水酸化ニッケルからなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項9】
請求項1に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記電解質溶液は、水酸化物イオン、硫酸、炭酸、リン酸、またはホウ酸を含むことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項10】
請求項1に記載の二酸化炭素還元装置と、
前記アノードおよび前記カソードに供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備えることを特徴とする人工光合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元装置および人工光合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭等の化石燃料の枯渇が懸念され、持続的に利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっている。そのようなエネルギー問題、さらに環境問題等の観点から、太陽光等の再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を電気化学的に還元し、貯蔵可能な化学エネルギー源を作り出す人工光合成技術の開発が進められている。
【0003】
二酸化炭素を還元する方法の一つとして、水溶液中に溶解させた二酸化炭素を電気化学的にギ酸に還元する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1の方法のような従来の二酸化炭素還元電解装置は、溶液中に溶解した二酸化炭素を還元する手法であった(例えば、特許文献1の図1参照)。この例では、二酸化炭素還元触媒として銅(Cu)等の金属ナノワイヤ、水(HO)酸化触媒として白金(Pt)が用いられている。
【0004】
近年では、ガス拡散型の二酸化炭素還元電極の開発が進められており、例えば、非特許文献1では、ガス拡散型の二酸化炭素還元用の負極(カソード)と、HO酸化用の正極(アノード)との間に、負極室用の電解質溶液(炭酸水素カリウム(KHCO)水溶液)、イオン電導性メンブレン膜および正極室用の電解質溶液(水酸化カリウム(KOH)水溶液)が配置された二酸化炭素還元装置が報告されている(非特許文献1の図2参照)。この例では、二酸化炭素還元触媒として酸化スズ、水酸化触媒としてニッケル(Ni)が用いられている。
【0005】
別の例として、非特許文献2では、ガス拡散型の負極と、正極との間に、陰イオン交換膜、水溶液層および陽イオン交換膜からなる3室方式の二酸化炭素還元装置が記載されている(非特許文献2の図3参照)。この例では、二酸化炭素還元触媒としてスズナノ粒子、水酸化触媒として酸化イリジウム(IrO)が用いられている。
【0006】
特許文献1のような、電極浸漬方式の場合、水溶液中に溶解する二酸化炭素の濃度は室温、常圧では希薄であるため、二酸化炭素に優先して、共存するプロトン(H)の還元が進行し、水素(H)が副生される。また、水溶液中での二酸化炭素の物質拡散が遅いため、二酸化炭素還元の反応電流密度の理論限界は<30mA cm-2と小さい。
【0007】
非特許文献1,2のようなガス拡散方式の場合、二酸化炭素ガスを水蒸気ガスと混合して負極に直接供給するので、水に対する二酸化炭素の濃度比が大きいため、水素(H)の副生が抑制される。また、拡散速度の速い気相中で反応が進行するので、反応電流密度の限界が大幅に増大する。さらに、正極室と負極室に異なる電解質溶液を用いることができるので、正極を水の酸化が容易なアルカリ性環境としながら、負極に二酸化炭素を供給し、両極におけて最適な反応環境を構築することができる。
【0008】
ギ酸の回収の観点からは、特許文献1や非特許文献1の方法では、電解質溶液中にギ酸が生成するが、ギ酸はpKa3.75であるため、これより高いpH環境では、ギ酸イオン(HCOO)に電離する。しかし、酸性条件では、二酸化炭素の還元に優先して水素(H)の生成が進行するため、中性付近の電解液を用いなければならず、ギ酸の電離は避けられない。
【0009】
また、従来技術のほとんどにおいて、二酸化炭素還元触媒は、スズ(Sn)等の金属またはその酸化物であった。一方、二酸化炭素還元触媒として金属イオンと有機配位子とからなる金属錯体が知られている。金属イオンと有機配位子とからなる金属錯体の場合、有機配位子の設計を自在に変調できることから、触媒の性質を大きく変えることができる。しかし、従来技術のほとんどで用いられている金属または金属酸化物は、その性質を金属-金属結合や、金属-酸素結合の調整によってしか変調することができない。このため、触媒としての二酸化炭素還元反応における活性化エネルギーを小さくし、反応電位を低下させることが困難である。
【0010】
以上のような理由から、従来技術の二酸化炭素還元装置の動作電位はまだ高い。すなわち、動作のときの電気エネルギーから化学エネルギーへのエネルギー変換効率が低い。例えば、セル電位2Vの二酸化炭素の電解でギ酸イオン(HCOO)を生成する場合のエネルギー変換効率は53%に相当する。セル電位1.5Vでの動作を実現すれば、エネルギー変換効率は74%に達する。望ましくは、エネルギー変換効率90%以上に相当する1.24V以下での駆動が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-057438号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ACS Sustainable Chem. Eng. 2021, 9, 11, 4213-4223
【非特許文献2】https://dioxidematerials.com/technology/formic-acid/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、低いセル電位かつ高い変換効率でギ酸を得ることができる二酸化炭素還元装置および人工光合成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、水を酸化して酸素を生成するアノード、および前記アノードにアノード溶液を供給するアノード溶液流路を備えるアノード部と、二酸化炭素を還元してギ酸を生成するカソード、および前記カソードに二酸化炭素ガスを供給するガス流路を備えるカソード部と、前記アノード部と前記カソード部により前記アノード部側から順に挟持される、カチオン交換膜、イオン交換樹脂懸濁液層、アニオン交換膜と、を備え、前記カソードは、前記アニオン交換膜側から順に、カソード触媒として金属錯体を含む触媒層と、ガス拡散層と、を備え、前記アノード溶液として、電解質溶液を供給する、二酸化炭素還元装置である。
【0015】
前記二酸化炭素還元装置において、前記金属錯体は、中心金属として、Ru、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Reからなる群より選択される少なくとも1つの金属を有し、配位子として、ジイミン配位子を有することが好ましい。
【0016】
前記二酸化炭素還元装置において、前記ジイミン配位子は、電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子であることが好ましい。
【0017】
前記二酸化炭素還元装置において、前記電子求引性の置換基は、構造式が-COORのカルボン酸エステルであり、Rは、アルキル基とピロール部位からなる化学構造を有し、前記ピロール部位は、ポリピロール鎖により重合していることが好ましい。
【0018】
前記二酸化炭素還元装置において、前記触媒層は、イオン伝導体およびバインダーとなる高分子化合物と、導電性カーボンと、を含むことが好ましい。
【0019】
前記二酸化炭素還元装置において、前記ガス拡散層は、疎水性多孔質カーボン基材を含むことが好ましい。
【0020】
前記二酸化炭素還元装置において、前記アノードは、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備え、前記基材は、多孔体、メッシュ材、繊維焼結体からなる群より選択される少なくとも1つの形状を有し、前記アノードは、アノード触媒として、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、前記金属を含む酸化物、前記金属を含む水酸化物、および前記金属を含むオキシ水酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0021】
前記二酸化炭素還元装置において、前記アノードは、前記アノード触媒として、オキシ水酸化鉄およびオキシ水酸化ニッケルからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0022】
前記二酸化炭素還元装置において、前記電解質溶液は、水酸化物イオン、硫酸、炭酸、リン酸、またはホウ酸を含むことが好ましい。
【0023】
本発明は、前記二酸化炭素還元装置と、前記アノードおよび前記カソードに供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える、人工光合成装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、低いセル電位かつ高い変換効率でギ酸を得ることができる二酸化炭素還元装置および人工光合成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係る二酸化炭素還元装置の一例を示す概略構成図である。
図2】参考例1,2で用いた2室ガス拡散リアクターを示す概略構成図である。
図3】実施例1、参考例1における二酸化炭素電解還元電流の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0027】
図1に、本実施形態に係る二酸化炭素還元装置の一例の概略構成を示す。
【0028】
図1に示す二酸化炭素還元装置1は、水を酸化して酸素を生成するアノード16、およびアノード16にアノード溶液を供給するアノード溶液流路18を備えるアノード部10と、二酸化炭素を還元してギ酸を生成するカソード22、およびカソード22に二酸化炭素ガスを供給するガス流路24を備えるカソード部12と、アノード部10とカソード部12によりアノード部10側から順に挟持される、カチオン交換膜14、イオン交換樹脂懸濁液層36、アニオン交換膜34と、を備え、カソード22は、アニオン交換膜34側から順に、カソード触媒として金属錯体を含む触媒層26と、ガス拡散層28と、を備え、アノード溶液として、電解質溶液を供給する装置である。二酸化炭素還元装置1は、アノード集電板20とカソード集電板30とを備える。
【0029】
二酸化炭素還元装置1は、二酸化炭素ガスをカソード22の触媒層26に直接供給するガス拡散型電解フローセルである。二酸化炭素ガスとは、二酸化炭素を含むガスであり、好ましくは二酸化炭素および水蒸気を含むガスである。
【0030】
アノード部10とカソード部12との間には、カチオン交換膜14とアニオン交換膜34に挟まれてイオン交換樹脂懸濁液層36が形成されており、アノード部10とカソード部12とはカチオン交換膜14、イオン交換樹脂懸濁液層36、およびアニオン交換膜34により分離されている。アノード16は、カチオン交換膜14とアノード溶液流路18との間に、それらと接するように配置されている。アノード溶液流路18は、アノード16にアノード溶液を供給する流路であり、例えば、アノード集電板20に設けられたピット(溝部または凹部)により形成されている。カソード22は、アニオン交換膜34とガス流路24との間に、それらと接するように配置されている。ガス流路24は、カソード22に二酸化炭素ガスを供給する流路であり、カソード集電板30に設けられたピット(溝部または凹部)により形成されている。
【0031】
アノード集電板20には、例えば、溶液導入口と溶液導出口(いずれも図示せず)とが接続されている。そして、アノード溶液が、溶液導入口を介してアノード溶液流路18内に導入され、アノード16と接触しながらアノード溶液流路18内を通り、アノード溶液導出口から排出される。
【0032】
カソード集電板30には、例えば、ガス導入口とガス導出口(いずれも図示せず)とが接続されている。そして、二酸化炭素ガスが、ガス導入口を介してガス流路24内に導入され、ガス拡散層28を介して触媒層26に接触しながらガス流路24内を通り、ガス導出口から排出される。
【0033】
イオン交換樹脂懸濁液層36には、イオン交換樹脂の粒子が懸濁されたイオン交換樹脂懸濁液が含まれている。イオン交換樹脂懸濁液層36には、例えば、懸濁用液導入口と懸濁用液導出口(いずれも図示せず)とが接続されている。そして、懸濁用液が、懸濁用液導入口を介してイオン交換樹脂懸濁液層36内に導入され、イオン交換樹脂と接触しながらイオン交換樹脂懸濁液層36内を通り、懸濁用液導出口から排出される。
【0034】
二酸化炭素還元装置1は、アノード16とカソード22との間を電気的に接続し、電力を供給する電源32を備える。
【0035】
次に、図1に示す二酸化炭素還元装置1の動作例について説明する。
【0036】
アノード16とカソード22との間に電源32から電流が供給されると、アノード溶液と接するアノード16で水(HO)の酸化反応が生じる。具体的には、アノード溶液中に含まれる水(HO)が酸化されて、酸素(O)とプロトン(H)が生成する。
【0037】
カソード22側では、ガス流路24からガス拡散層28を介して触媒層26に供給された二酸化炭素(CO)ガスに含まれる二酸化炭素(CO)が還元されてギ酸アニオン(HCOO)が生成する。
【0038】
カソード22側では、二酸化炭素の還元によって生成したギ酸アニオン(HCOO)が、アニオン交換膜34を介してイオン交換樹脂懸濁液層36へと移動する。一方で、アノード16側では、水の酸化によって生成したプロトン(H)またはアノード溶液に含まれる陽イオンが、カチオン交換膜14を介してイオン交換樹脂懸濁液層36へと移動する。その結果、これらのイオン移動によって電気伝導がもたらされ、イオン交換樹脂懸濁液層36でギ酸(HCOOH)またはギ酸塩が得られる。全体としては、下記の式(1)の反応式に示すように、二酸化炭素(CO)からギ酸(HCOOH)が生成する。
CO+HO → HCOOH+1/2O ΔG=274kJ/mol・・・(1)
【0039】
以下、アノード部10、カソード部12、カチオン交換膜14、アニオン交換膜34、およびイオン交換樹脂懸濁液層36の各構成について説明する。
【0040】
アノード16は、前述したように、アノード溶液中の水(HO)の酸化反応を促し、酸素(O)や水素イオン(H)を生成する電極(酸化電極)である。
【0041】
アノード16は、酸化反応の過電圧を低減させることが可能な点で、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備えることが好ましい。Ni、Ti、またはFeの金属材料は、Ni、Ti、Feの金属を少なくとも1つ含む合金も含まれる。また、基材は、カチオン交換膜14とアノード溶液流路18との間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造であることが好ましく、例えば、多孔体、メッシュ材、繊維焼結体からなる群より選択される少なくとも1つの形状を有することが好ましい。
【0042】
アノード16は、アノード触媒を含む。アノード触媒は、酸化反応の過電圧を低減させることが可能な点で、例えば、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、前記金属を含む酸化物、前記金属を含む水酸化物、および前記金属を含むオキシ水酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。これらは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。アノード触媒は、水の酸化を低電位で進行させることができる等の点で、オキシ水酸化鉄およびオキシ水酸化ニッケルからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。アノード触媒を用いる場合には、前述の基材上にアノード触媒を担持することが好ましい。
【0043】
アノード集電板20は、化学反応性が低く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0044】
アノード溶液は、電解質溶液である。電解質溶液としては、例えば、アルカリ性溶液が挙げられる。アルカリ性溶液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液等が挙げられ、水酸化物イオン濃度が高いほど水の酸化に有利に進行することから、1mol/L以上の濃度の水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等の水酸化物イオンを含む水溶液が好ましい。
【0045】
アノード溶液は、例えば、セル電圧の低下等の点で、pH12以上のアルカリ性水溶液であることが好ましい。
【0046】
電解質溶液は、アルカリ金属イオン等の塩を含まない電解質溶液、例えば、硫酸、炭酸、リン酸、またはホウ酸を含む水溶液であってもよい。電解質溶液が硫酸、炭酸、リン酸、またはホウ酸を含む水溶液である場合、カチオン交換膜14を通過するカチオンはプロトン(H)であり、イオン交換樹脂懸濁液層36ではギ酸アニオン(HCOO)とプロトン(H)が会合したギ酸(HCOOH)が生成する。電解質溶液が例えば水酸化カリウム水溶液である場合、カチオン交換膜14を通過するカチオンはカリウムイオン(K)であり、イオン交換樹脂懸濁液層36では、ギ酸カリウムが生成する。この場合であっても、高濃度(例えば1M)の電解質溶液中にギ酸カリウムが生成するわけではないので、電解質塩の除去は行わなくてもよい。
【0047】
カソード22は、前述したように、二酸化炭素(CO)の還元反応を促し、ギ酸(HCOOH)を生成する電極(還元電極)である。
【0048】
カソード22を構成するガス拡散層28は、触媒層26と電源32との電気的導通を確保し、かつ二酸化炭素ガスを触媒層26に効率よく供給するものであればよく、特に制限されないが、例えば、疎水性多孔質カーボン基材、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。ガス拡散層28は、アノード16側から移動してきた水の量を減らすことができる等の点で、疎水性多孔質カーボン基材であることが好ましい。
【0049】
カソード22を構成する触媒層26は、前述したように、二酸化炭素ガス中の二酸化炭素の還元反応を促し、ギ酸(HCOOH)を生成する。触媒層26は、カソード触媒として金属錯体を含む。触媒層26は、さらにイオン伝導体およびバインダーとなる高分子化合物と、導電性カーボンと、を含むことが好ましい。触媒層26は、二酸化炭素ガスの拡散性を向上させる等の点で、基材としてカーボンペーパー等の多孔質構造体を含むことが好ましい。触媒層26の厚みは、例えば、5~200μmの範囲である。
【0050】
カソード触媒である金属錯体は、例えば、中心金属と、ジイミン配位子と、を有する金属錯体である。金属錯体の中心金属は、二酸化炭素の還元反応を触媒する金属であればよく、特に限定されないが、例えば、二酸化炭素の還元反応における過電圧を低減させることが可能となる点で、Ru、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Reからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることが好ましく、MnまたはRuであることがより好ましい。
【0051】
金属錯体のジイミン配位子は、例えば、2,2’-ビピリジン誘導体、1,10-フェナントロリン誘導体等が挙げられる。ジイミン配位子は、二酸化炭素の還元反応による過電圧を低減させることができる等の点で、電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子であることが好ましい。
【0052】
ジイミン配位子に導入される電子求引性の置換基は、カルボン酸基、カルボニル基、ニトロ基等の他に、構造式が-COORのカルボン酸エステル等が挙げられる。ここで、Rは、例えば、炭素数1~10の範囲の直鎖または分岐のアルキル基である。Rは、ジイミン配位子と電源との電気的導通を確保することができる等の点で、アルキル基とピロール部位からなる化学構造を有し、ピロール部位は、ポリピロール鎖により重合していることが好ましい。
【0053】
金属錯体は、好ましくは、中心金属Ruであり、2,2’-ビピリジンとピロールが-COORのカルボン酸エステル(Rは、炭素数1~10のアルキル基)で化学結合により連結された分子、またはこのピロール部位が、ポリピロール鎖により重合して多量体化したポリマー等である。
【0054】
金属錯体として、例えば、下記化学式で表される金属錯体[Ru{4,4’-di(1H-pyrrolyl-3-propylcarbonate)-2,2’-bipyridine}Cl(CO)(CHCN)]が挙げられる。
【化1】
【0055】
触媒層26に含まれる導電性カーボンは、例えば、ケッチェンブラックやバルカンXC-72等のカーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電性カーボンは、上記金属錯体が担持される担体として使用されることが好ましい。上記金属錯体を導電性カーボンに担持することによって、例えば、還元反応性を高めることができる。
【0056】
触媒層26に含まれるイオン伝導体およびバインダーとなる高分子は、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子(株)製)等のカチオン交換樹脂、ネオセプタ(登録商標)やセレミオン(登録商標)、サステニオン(登録商標)等のアニオン交換樹脂等が挙げられる。
【0057】
触媒層26は、触媒活性を高めることができる点で、フェノールまたはその塩を含んでもよい。
【0058】
カソード集電板30は、アノード集電板20と同様に、化学反応性が低く、導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、Tiやステンレス(SUS)等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0059】
カチオン交換膜14としては、例えば、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2-フルオロスルホニルエトキシプロピルビニルエーテル]の共重合体の膜(例えば、デュポン社製、ナフィオン(登録商標)やフレミオン(登録商標))等のカチオン交換膜が挙げられる。
【0060】
アニオン交換膜34としては、例えば、イミダゾール基を有するポリスチレンの膜(例えば、Dioxide Materials社製、サステニオン(登録商標))等のアニオン交換膜が挙げられる。
【0061】
イオン交換樹脂懸濁液層36に含まれるイオン交換樹脂としては、例えば、スルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の多孔体粒子(例えば、デュポン社製、Dowex(登録商標))、スルホン酸基またはカルボン酸基を有するアクリル酸-ジビニルベンゼン共重合体の多孔体粒子(例えば、デュポン社製、Ambelite(登録商標))等のカチオン交換樹脂が挙げられる。
【0062】
イオン交換樹脂懸濁液層36においてイオン交換樹脂を懸濁するための懸濁用液としては、純水等の水、メタノール、エタノール等が挙げられ、イオン交換樹脂の膨潤性やイオン電導性等の点から、純水が好ましい。
【0063】
電源32は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池セル等が挙げられる。電源32として太陽電池セルを用いることにより、二酸化炭素還元装置1と、二酸化炭素還元装置1のアノード16とカソード22に供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える人工光合成装置とすることができる。本実施形態に係る人工光合成装置は、二酸化炭素還元装置1のアノード16とカソード22が太陽電池セルを介して接続され、太陽光をエネルギー源として駆動される。
【0064】
アノード16とカソード22との間のセル電圧が2V以下であることが好ましく、1.5V以下であることがより好ましく、1.2V以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本実施形態に係る二酸化炭素還元装置を用いることによって、低いセル電位で大きな反応電流密度を生じさせ、かつ高い変換効率でギ酸を得ることができる。本実施形態に係る二酸化炭素還元装置は、低いセル電位、大きな反応電流密度、高い選択性で、二酸化炭素(CO)を還元してギ酸(HCOOH)にするとともに、水(HO)を酸化して酸素(O)を生成することを可能にするものである。全体として、上記(1)の反応式で表される、電気エネルギーを化学エネルギーに貯蔵する反応を進行させることができる。イオン交換樹脂懸濁液にギ酸を蓄積させることによって、アノードでのギ酸の酸化反応がほとんど起こらず、高濃度に蓄積することが可能である。また、アノード溶液としてアルカリ金属イオン等の塩を含まない電解質溶液(硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等)を用いれば、イオン交換樹脂懸濁液にギ酸イオンではなくギ酸(HCOOH)が得られる。これらによって、化学原料、エネルギーキャリアとして応用する際に、酸の添加や濃縮のプロセスを省略することが可能となる。
【0066】
本実施形態に係るガス拡散型の二酸化炭素還元装置を用いることによって、二酸化炭素の気体としての供給が可能となり、二酸化炭素還元反応の電流密度が増大するとともに、水素(H)の副生を低減することができる。
【0067】
アノードの水(HO)の酸化は、アルカリ性溶液で進行しやすいが、二酸化炭素はアルカリ性環境では、HCO およびCO 2-との平衡により、二酸化炭素として存在できない。両極をカチオン交換膜で分離することによって、アノードをアルカリ性環境としながら、カソードに二酸化炭素を供給し、両極におけて最適な反応環境を構築することができる。
【0068】
カソード側にアニオン交換膜を用いることによって、二酸化炭素の還元で生成するギ酸アニオン(HCOO)が、イオン交換樹脂懸濁液へと移動する。一方で、アノード側に陽イオン交換膜を用いることによって、水の酸化で生成するプロトン(H)またはアノード溶液に含まれる陽イオンが、イオン交換樹脂懸濁液へと移動する。その結果、これらのイオン移動が電気伝導をもたらし、電解質を含まない純水等の懸濁用液で膨潤させたイオン交換樹脂懸濁液では、ギ酸(HCOOH)またはギ酸塩が得られる。
【0069】
さらに、ジイミン配位子として電子求引性の置換基が導入された配位子を有するRu錯体等の金属錯体は、低電位での二酸化炭素還元ギ酸生成触媒として作用することができるため、極めて低電位で二酸化炭素を還元してギ酸(HCOOH)を生成することが可能である。
【0070】
また、水の酸化用のアノードに、水の酸化用のアノード触媒を導入することによって、さらなる低電位化が可能となる。
【0071】
本実施形態に係る二酸化炭素還元装置と同様にカソード触媒として金属錯体を用いる例として、例えば、図2に示す2室の構成からなる二酸化炭素還元装置が考えられる。
【0072】
図2に示す二酸化炭素還元装置3は、水を酸化して酸素を生成するアノード16、およびアノード16にアノード溶液を供給するアノード溶液流路18を備えるアノード部10と、二酸化炭素を還元してギ酸を生成するカソード22、およびカソード22に二酸化炭素ガスを供給するガス流路24を備えるカソード部12と、アノード部10とカソード部12により挟持されるイオン交換膜38と、を備え、カソード22は、イオン交換膜38側から順に、カソード触媒として金属錯体を含む触媒層26と、ガス拡散層28と、を備え、アノード溶液として、アルカリ性溶液を供給する装置である。二酸化炭素還元装置1は、アノード集電板20とカソード集電板30とを備える。二酸化炭素還元装置1は、アノード16とカソード22との間を電気的に接続し、電力を供給する電源32を備える。イオン交換膜38は、カチオン交換膜またはアニオン交換膜である。
【0073】
アノード16とカソード22との間に電源32から電流が供給されると、アノード溶液と接するアノード16で水(HO)の酸化反応が生じる。具体的には、アノード溶液中に含まれる水(HO)が酸化されて、酸素(O)が生成する。
【0074】
カソード22側では、ガス流路24からガス拡散層28を介して触媒層26に供給された二酸化炭素(CO)ガスに含まれる二酸化炭素(CO)が還元されてギ酸(HCOOH)が生成する。
【0075】
イオン交換膜38としてカチオン交換膜を用いる場合、生成するギ酸は電離せず、HCOOHの形で得ることができる。全体としては、上記の式(1)の反応式に示すように、二酸化炭素(CO)からギ酸(HCOOH)が生成する。
【0076】
イオン交換膜38としてアニオン交換膜を用いる場合、生成するギ酸(HCOOH)は電離して、ギ酸イオン(HCOO)の形で得られる。カソード22で得られたギ酸イオン(HCOO)は、アニオン交換膜を透過して、アノード部10のアノード溶液中に得られる。全体としては、下記の式(2)の反応式に示すように、二酸化炭素(CO)からギ酸イオン(HCOO)が生成する。
CO+OH → HCOO+1/2O ΔG=215.7kJ/mol ・・・(2)
【0077】
図2に示す二酸化炭素還元装置3では二酸化炭素還元触媒として金属錯体を用いることによって、低い電位での二酸化炭素の還元を達成することができる。しかし、イオン交換膜38としてアニオン交換膜を用いる場合、生成したギ酸がアニオン交換膜をギ酸イオン(HCOO)として透過するため、アノード部10のアノード溶液(アノード電解液)中にギ酸塩が生成する。このため、アノードでのギ酸イオンの酸化が起こりえるため、ギ酸の高濃度化が困難である。また、ギ酸イオンが生成するので、実用ではギ酸の回収のために酸処理、分離、濃縮工程が必要である。
【0078】
イオン交換膜38としてカチオン交換膜を用いる場合、カチオン交換膜によってアノード溶液(アノード電解液)中へのギ酸イオンの流出は抑制され、カソード上にギ酸が残留するが、回収工程で溶液でのカソードの洗浄が必要なため、ギ酸が希釈されることによるギ酸濃度の低下や、洗浄液への触媒の流出にともなう性能の低下がある。また、金属製集電板のギ酸による腐食などの懸念もある。これらの結果として、連続運転に問題がある。
【0079】
一方、本実施形態に係る二酸化炭素還元装置では、カソード上でギ酸がほとんど蓄積せず、安定的に二酸化炭素の還元によるギ酸の生成を進行させることができる。また、イオン交換樹脂懸濁液層36の懸濁用液中にギ酸が蓄積するので、電解質塩を含まない溶液中でギ酸を得ることができる。特に、アノード溶液として硫酸や炭酸、リン酸、ホウ酸等の電解質塩を含まない水溶液を用いれば、ギ酸塩ではなく、ギ酸(HCOOH)をイオン交換樹脂懸濁液層36に得ることができる。
【0080】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
[1]水を酸化して酸素を生成するアノード、および前記アノードにアノード溶液を供給するアノード溶液流路を備えるアノード部と、
二酸化炭素を還元してギ酸を生成するカソード、および前記カソードに二酸化炭素ガスを供給するガス流路を備えるカソード部と、
前記アノード部と前記カソード部により前記アノード部側から順に挟持される、カチオン交換膜、イオン交換樹脂懸濁液層、アニオン交換膜と、
を備え、
前記カソードは、前記アニオン交換膜側から順に、カソード触媒として金属錯体を含む触媒層と、ガス拡散層と、を備え、
前記アノード溶液として、電解質溶液を供給する、二酸化炭素還元装置。
【0081】
[2][1]に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記金属錯体は、中心金属として、Ru、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Reからなる群より選択される少なくとも1つの金属を有し、配位子として、ジイミン配位子を有する、二酸化炭素還元装置。
【0082】
[3][2]に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記ジイミン配位子は、電子求引性の置換基が導入されたジイミン配位子である、二酸化炭素還元装置。
【0083】
[4][3]に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記電子求引性の置換基は、構造式が-COORのカルボン酸エステルであり、Rは、アルキル基とピロール部位からなる化学構造を有し、前記ピロール部位は、ポリピロール鎖により重合している、二酸化炭素還元装置。
【0084】
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記触媒層は、イオン伝導体およびバインダーとなる高分子化合物と、導電性カーボンと、を含む、二酸化炭素還元装置。
【0085】
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記ガス拡散層は、疎水性多孔質カーボン基材を含む、二酸化炭素還元装置。
【0086】
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記アノードは、Ni、Ti、Fe、Cからなる群より選択される少なくとも1つの材料から構成される基材を備え、
前記基材は、多孔体、メッシュ材、繊維焼結体からなる群より選択される少なくとも1つの形状を有し、
前記アノードは、アノード触媒として、Ni、Fe、Co、Mn、Ru、Irからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む金属、前記金属を含む酸化物、前記金属を含む水酸化物、および前記金属を含むオキシ水酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、二酸化炭素還元装置。
【0087】
[8][7]に記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記アノードは、前記アノード触媒として、オキシ水酸化鉄およびオキシ水酸化ニッケルからなる群より選択される少なくとも1つを含む、二酸化炭素還元装置。
【0088】
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の二酸化炭素還元装置であって、
前記電解質溶液は、水酸化物イオン、硫酸、炭酸、リン酸、またはホウ酸を含む、二酸化炭素還元装置。
【0089】
[10][1]~[9]のいずれか1つに記載の二酸化炭素還元装置と、
前記アノードおよび前記カソードに供給される電力を生成する太陽電池セルと、を備える、人工光合成装置。
【実施例0090】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
カソード触媒として下記(i)に示す化学構造のRu錯体ポリマーを用いて、図1に示すような二酸化炭素還元装置を作製し、評価を行った。
【0092】
[電極の作製]
(カソードの作製)
<Ru錯体触媒担持ガス拡散型負極の作製>
ガス拡散層としてカーボンペーパーを用い、この上に触媒である金属錯体とイオン伝導体およびバインダーとなる高分子化合物と導電性カーボンとの混合物を含む触媒層を積層した。具体的には、金属錯体として下記(i)の化学構造を有する[Ru{4,4’-di(1H-pyrrolyl-3-propylcarbonate)-2,2’-bipyridine}Cl(CO)(CHCN)]17.1mg(0.0244mmol)を2.55mLのアセトニトリルに溶解させ、そこに0.5vol%ピロールのアセトニトリル溶液137μLおよび0.2MのFeClエタノール溶液686μLを加えることによって、下記(i)の構造式で表される金属錯体ポリマーの溶液を調製した。この溶液に導電性カーボンとしてカーボンブラック(Cabot社製、Vulcan XC-72R)を27.5mg、イオン伝導体およびバインダーとなる高分子化合物として5質量%Nafion(登録商標)117のアルコール-水混合溶液(Aldrich社製)229.5μLを加えた後、超音波分散を行った。この懸濁液を、基材としての1.13cmのマイクロポーラス層付カーボンペーパー(Avcarb社製、GDS3250)の上に、41μL滴下し、60℃で乾燥させる操作を30回繰り返すことによって担持した。12時間以上暗所下で静置した後、水中で洗浄し、反応触媒であるFeClを除去した。
【0093】
【化2】
(i)
【0094】
<Sn担持ガス拡散型負極の作製>
RFマグネトロンスパッタリングにより、マイクロポーラス層付カーボンペーパー(Avcarb社製、GDS3250)の上に、10nm相当量のSnをスパッタリングし、1.13cmに切り抜いた。
【0095】
(アノードの作製)
<ニッケルフォーム電極の作製>
0.1Mの塩化鉄水溶液、0.05Mの硝酸ニッケル水溶液およびエチレンジアミン塩酸塩水溶液を混合してpH2.3に調整することによって合成したNiドープβ-FeOOHコロイド溶液10mLと、0.063Mの塩化ニッケルおよび0.055mMの塩化鉄を混合した水溶液10mLとを混ぜ合わせ、1.13cmのニッケルフォーム(MTI社製、EQ-BCNF-16m)を浸漬させた後、150℃で8時間加熱乾燥することによって、ニッケルフォーム電極(Fe-Ni添加β-FeOOH担持ニッケルフォーム)を作製した。
【0096】
[二酸化炭素の電解]
<3室ガス拡散リアクターによる二酸化炭素の電解>
電解槽として図1に示す構成の3室ガス拡散リアクターを用いた。アノード16として上記の通りに作製したアノード電極(ニッケルフォーム電極)を、カチオン交換膜14としてテトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2-フルオロスルホニルエトキシプロピルビニルエーテル]の共重合体の膜である「Nafion(登録商標)115」を、イオン交換樹脂懸濁液層36としてスルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の多孔体粒子である「Dowex(登録商標)50」の水懸濁液を、アニオン交換膜34としてイミダゾール基を有するポリスチレンの膜である「Sustainion(登録商標)」を、カソード22として上記の通りに作製したカソード電極(Ru錯体触媒担持ガス拡散型負極またはSn担持ガス拡散型負極)を用いた。これらを流路付のアノード集電板20およびカソード集電板30で挟んだ後、ボルトねじで締めた。ここで、アノード集電板20としてチタン製のものを、カソード集電板30としてステンレス製のものを用いた。カソード部12のガス流路24に二酸化炭素ガスを30mL/min、アノード部10のアノード溶液流路18にアルカリ性溶液として1M水酸化カリウム水溶液を100mL/min、イオン交換樹脂懸濁液層36に懸濁用液として純水を2mL/minの流速で供給した。この電解槽をポテンショスタットと二極方式で接続し、定電位を印加することによって、二酸化炭素の電解を行った。電解後、イオン交換樹脂懸濁液層に流通させた水溶液のギ酸の濃度をイオンクロマトグラフィ(Dionex製、ICS-1100)によって定量した。
【0097】
<膜/電極接合体を備えた2室ガス拡散リアクターによる二酸化炭素の電解>
電解槽として図2に示す構成の2室ガス拡散リアクターを用いた。アノード16として上記の通りに作製したアノード電極(ニッケルフォーム電極)を、カソード22として上記の通りに作製したカソード電極(Ru錯体触媒担持ガス拡散型負極)を用い、イオン交換膜38としてカチオン交換膜(Nafion(登録商標)324)またはアニオン交換膜(Sustainion(登録商標))を両者の電極の間に触媒と接するように配置した。この膜/電極接合体をガスの流路およびアルカリ性溶液の流路と接するように流路付のアノード集電板20およびカソード集電板30で挟んだ後、ボルトねじで締めた。ここで、アノード集電板20としてチタン製のものを、カソード集電板30としてステンレス製のものを用いた。カソード部12のガス流路24に二酸化炭素ガスを30mL/min、アノード部10のアノード溶液流路18にアルカリ性溶液として1M水酸化カリウム水溶液を100mL/minの流速で供給した。この電解槽をポテンショスタットと二極方式で接続し、定電位を印加することによって、二酸化炭素の電解を行った。電解後、カソード22を水で洗浄し、洗浄液中およびアノード電解液中のギ酸の濃度をイオンクロマトグラフィ(Dionex製、ICS-1100)によって定量した。
【0098】
[測定電極]
実施例、比較例および参考例として、以下の触媒を担持した電極を、上記の電解槽に設置して測定を行った。
【0099】
<実施例1:3室ガス拡散リアクターでRu錯体ポリマーカソードを用いた二酸化炭素の電解>
カソード22として上記Ru錯体触媒担持ガス拡散型負極を用い、アノード16として上記ニッケルフォーム電極を用い、図1に示す上記3室ガス拡散リアクターで二酸化炭素の電解還元を行った。
【0100】
<比較例1:3室ガス拡散リアクターでSnカソードを用いた二酸化炭素の電解>
カソード22として上記Sn担持ガス拡散型負極を用い、アノード16として上記ニッケルフォーム電極を用い、図1に示す上記3室ガス拡散リアクターで二酸化炭素の電解還元を行った。
【0101】
<参考例1:カチオン交換膜を含む2室ガス拡散リアクターでRu錯体ポリマーカソードを用いた二酸化炭素の電解>
イオン交換膜38としてカチオン交換膜(Nafion(登録商標)324)を用い、カソード22として上記Ru錯体触媒担持ガス拡散型負極を用い、アノード16として上記ニッケルフォーム電極を用い、図2に示す上記2室ガス拡散リアクターで二酸化炭素の電解還元を行った。
【0102】
<参考例2:アニオン交換膜を含む2室ガス拡散リアクターでRu錯体ポリマーカソードを用いた二酸化炭素の電解>
イオン交換膜38としてアニオン交換膜(Sustainion(登録商標))を用い、カソード22として上記Ru錯体触媒担持ガス拡散型負極を用い、アノード16として上記ニッケルフォーム電極を用い、図2に示す上記2室ガス拡散リアクターで二酸化炭素の電解還元を行った。
【0103】
[結果]
(触媒の作用と効果)
ジイミン配位子に電子求引性の置換基が導入された配位子を有する金属錯体の触媒としての効果を比較するために、上記3室ガス拡散リアクターで、実施例1および比較例1で1.6Vの電位を3時間印加したときの性能を比較した(表1の実施例1、比較例1-1参照)。Ru錯体ポリマーをカソード触媒として用いた実施例1では、3時間平均で4.14mA cm-2の電流が生じ、その86%に相当するファラデー効率でギ酸がイオン交換樹脂懸濁液層から検出された。一方、Snを触媒として用いた場合は、1.6Vでは、ギ酸 は検出されなかった。電位を2.3Vとすると、3%のファラデー効率でギ酸が検出された(表1の比較例1-2参照)。この結果から、ジイミン配位子に電子求引性の置換基が導入された配位子を有する金属錯体をカソード触媒として用いることによって、低い電位で駆動できることがわかる。
【0104】
(3室ガス拡散リアクターの作用と効果)
3室ガス拡散リアクターの作用と効果を調べるために、上記3室ガス拡散リアクターを用いた実施例1と、上記2室ガス拡散リアクターでカチオン交換膜を用いた参考例1と、アニオン交換膜を用いた参考例2とを比較した(表1の実施例1、参考例1,2参照)。参考例1では、ギ酸はカソードのみに検出され、そのファラデー効率は73%であり、2mLの洗浄液中の77mMであった。このときの電流密度の経時変化を、実施例1とともに図3に示す。参考例1では、カソードにギ酸が蓄積されることに起因して、電流密度が経時的に低下していることが確認された。一方、実施例1では、電流密度が経時的に増加した。このことから、実施例1では、カソード上でギ酸がほとんど蓄積せず、安定的に二酸化炭の還元およびギ酸の生成が進行することが示唆された。
【0105】
次に、参考例2では、1.3Vの電位で実施例1と同等の電流密度が観測され、ギ酸はアノードの電解液中のみに検出され、そのファラデー効率は90%であり、100mLのアノード電解液中に2.6mM生成していた。アニオン交換膜を用いると、カソードで生成したギ酸(HCOOH)はギ酸イオン(HCOO)としてアニオン交換膜を透過してしまい、ギ酸イオン(HCOO)としてアノード電解液中に溶解していることが示唆された。アニオン交換膜を用いた場合は、低い電位で高い電流密度を実現することができるが、アノード電解液中にギ酸が生成するため、使用するアノード電解液を少量にしたり、反応を長時間行うことによって、ギ酸の濃度を高濃度にすると、アノード上でギ酸の酸化反応が進行し得る。また、高濃度の電解質塩を含む溶液(アノード電解液)の中にギ酸が生成してしまう。実施例1では、イオン交換樹脂懸濁液層の水溶液中にギ酸が蓄積するので、電解質塩を含まない溶液中でギ酸を得ることができる。特に、アノード溶液として硫酸や炭酸、リン酸、ホウ酸等の電解質塩を含まない水溶液を用いれば、ギ酸塩ではなく、ギ酸(HCOOH)をイオン交換樹脂懸濁液層に得ることができる。
【0106】
【表1】
【0107】
このように、実施例の二酸化炭素還元装置によって、低いセル電位かつ高い変換効率でギ酸を得ることができた。
【符号の説明】
【0108】
1,3 二酸化炭素還元装置、10 アノード部、12 カソード部、14 カチオン交換膜、16 アノード、18 アノード溶液流路、20 アノード集電板、22 カソード、24 ガス流路、26 触媒層、28 ガス拡散層、30 カソード集電板、32 電源、34 アニオン交換膜、36 イオン交換樹脂懸濁液層、38 イオン交換膜。
図1
図2
図3