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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125597
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20240911BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240911BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20240911BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M15/643
D06M13/144
D06M13/17
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033517
(22)【出願日】2023-03-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
(72)【発明者】
【氏名】原田 美弥子
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA04
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA11
4L033BA14
4L033BA21
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】解舒性を向上できる合成繊維用処理剤及びかかる合成繊維用処理剤が付着している合成繊維を提供する。
【解決手段】本発明の合成繊維用処理剤は、下記のエステル化合物(A)、及び平滑剤(B)を含有することを特徴とする。エステル化合物(A)は、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のエステル化合物(A)、及び平滑剤(B)を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
エステル化合物(A):脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
【請求項2】
前記エステル化合物(A)が、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記エステル化合物(A)が、エステルの塩を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記エステル化合物(A)が、エステルの二価金属塩を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記平滑剤(B)が、シリコーン(B1)を含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記エステル化合物(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上10質量%以下、及び前記平滑剤(B)を90質量%以上99.9質量%以下の割合で含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
更に、ヒドロキシ化合物(C)を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記エステル化合物(A)、前記平滑剤(B)、及び前記ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上5質量%以下、前記平滑剤(B)を75質量%以上99.85質量%以下、及び前記ヒドロキシ化合物(C)を0.05質量%以上20質量%以下の割合で含有する請求項7に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【請求項10】
前記合成繊維が弾性繊維である請求項9に記載の合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤及びかかる合成繊維用処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、繊維間同士で粘着することがある。そのため、例えば繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することができない場合があった。従来より繊維の平滑性を向上させるため、炭化水素油等の平滑剤を含有する合成繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、ベース成分として、エステル油、鉱物油、シリコーン油より選ばれる少なくとも一種類以上を使用し、(a)炭素数1~30の炭化水素基を有するアルコールのアルキレンオキサイド(1~15モル)付加物、及び(b)炭素数1~30の炭化水素基を有するカルボン酸若しくはその一価の金属塩又はアミン塩を含有する弾性繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-60135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維について、解舒性の更なる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル化合物等を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の合成繊維用処理剤では、下記のエステル化合物(A)、及び平滑剤(B)を含有することを特徴とする。
【0008】
エステル化合物(A):脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
態様2は、態様1に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)が、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。
【0009】
態様3は、態様1又は2に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)が、エステルの塩を含む。
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)が、エステルの二価金属塩を含む。
【0010】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(B)が、シリコーン(B1)を含有する。
態様6は、態様1~5のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上10質量%以下、及び前記平滑剤(B)を90質量%以上99.9質量%以下の割合で含有する。
【0011】
態様7は、態様1~6のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、ヒドロキシ化合物(C)を含有する。
態様8は、態様7に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)、前記平滑剤(B)、及び前記ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上5質量%以下、前記平滑剤(B)を75質量%以上99.85質量%以下、及び前記ヒドロキシ化合物(C)を0.05質量%以上20質量%以下の割合で含有する。
【0012】
態様9の合成繊維は、態様1~8のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
態様10は、態様9に記載の合成繊維において、前記合成繊維が弾性繊維である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維の解舒性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記のエステル化合物(A)、及び平滑剤(B)を含有し、さらにヒドロキシ化合物(C)を含有してもよい。
【0015】
(エステル化合物(A))
本実施形態の処理剤に供するエステル化合物(A)は、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つが適用される。このエステル化合物(A)を適用することにより、特に処理剤が付与された合成繊維の解舒性を向上できる。
【0016】
エステル化合物(A)を構成する脂肪族カルボン酸としては、飽和脂肪族カルボン酸であっても、不飽和脂肪族カルボン酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。また、1価の脂肪族カルボン酸であっても、多価カルボン酸(多塩基酸)であってもよい。
【0017】
飽和脂肪族カルボン酸の具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イソオクタデカン酸(イソステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。
【0018】
不飽和脂肪族カルボン酸の具体例としては、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0019】
多価カルボン酸(多塩基酸)の具体例としては、例えば(1)コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸、(2)アコニット酸等の三塩基酸等が挙げられる。
【0020】
エステル化合物(A)を構成するヒドロキシ酸としては、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸が挙げられる。ヒドロキシ酸としては、ヒドロキシ基を有する脂肪族カルボン酸が挙げられる。脂肪族カルボン酸としては、その炭素数、分岐の有無等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有するカルボン酸であってもよい。また、飽和脂肪族カルボン酸であっても不飽和脂肪族カルボン酸であってもよい。ヒドロキシ酸を構成する水酸基の数は、特に限定されないが、1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸からなるエステル又はその塩が好ましい。かかる化合物を使用することにより、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。
【0021】
ヒドロキシ酸の具体例としては、例えば乳酸、ヒドロキシ酪酸、グリコール酸、グリセリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシオレイン酸(リシノール酸)、16-ヒドロキシヘキサデカン酸(ジュニペリン酸)、18-ヒドロキシオクタデカン酸、9-ヒドロキシステアリン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシドデカン酸(サビニン酸)、9,10-ジヒドロキシオクタデカン酸等が挙げられる。また、ヒドロキシ酸として天然由来の脂肪酸を用いても良いが、ヒドロキシ酸以外の脂肪酸も含まれる場合には、全脂肪酸に対して80質量%以上がヒドロキシ酸であればよい。天然由来の脂肪酸の具体例としては、例えばリシノール酸を含有するひまし油、硬化ひまし油等が挙げられる。
【0022】
ヒドロキシ酸は、モノマーであっても、縮合物であってもよい。縮合物が適用される場合、ヒドロキシ酸の縮合度は、適宜設定されるが、好ましくは2量体以上8量体以下である。
【0023】
エステル化合物(A)は、エステル単体であっても、エステル塩の形態であってもよいが、エステル塩が含まれることが好ましい。エステル化合物(A)がエステル塩を含む場合、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。
【0024】
エステル化合物(A)を構成する塩としては、例えば金属塩、アミン塩が挙げられる。金属塩としては、例えばアルカリ金属塩等の一価金属塩、アルカリ土類金属塩等の二価金属塩等が挙げられる。これらの塩の中で、二価金属塩であることが好ましい。エステル化合物(A)が、エステルの二価金属塩を含む場合、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。
【0025】
一価金属塩を構成する金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
二価金属塩を構成する金属としては、第2族元素に該当する金属が挙げられる。第2族元素に該当する金属の具体例としては、例えばカルシウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0026】
アミン塩を構成するアミンは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのいずれであってもよい。アミン塩を構成するアミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、(6)アンモニア等が挙げられる。
【0027】
これらのエステル化合物(A)は、1種のエステル化合物を単独で使用してもよく、2種以上のエステル化合物を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるエステル化合物(A)の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。かかる含有割合が0.01質量%以上の場合、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。かかるエステル化合物(A)の含有割合の上限は、好ましくは15質量%以下、好ましくは10質量%以下である。かかる含有割合が15質量%以下の場合、特に処理剤が付与された合成繊維の平滑性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0028】
(平滑剤(B))
本実施形態の処理剤に供する平滑剤(B)としては、ベース成分として処理剤に配合され、合成繊維に平滑性を付与する。平滑剤(B)として、シリコーン(B1)を含むことが好ましい。処理剤がシリコーン(B1)を含むことにより、処理剤が付与された合成繊維の平滑性を向上できる。シリコーン(B1)以外のその他の平滑剤としては、例えば鉱物油、エステル油、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0029】
シリコーン(B1)としては、シリコーン油が挙げられる。シリコーン油の具体例としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、動粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。動粘度は、適宜設定されるが、25℃における動粘度が2cst(mm/s)以上10000cst(mm/s)以下であることが好ましく、3cst(mm/s)以上7000cst(mm/s)以下であることがより好ましい。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。25℃における動粘度は、JIS Z 8803に準拠して測定される。これらの中でジメチルシリコーンが好ましい。ジメチルシリコーンを適用することにより、平滑性をより向上できる。
【0030】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。
【0031】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0032】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0033】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート、プロピルイソステアラート、2-エチルヘキシルステアラート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、ペンタエリスリトールテトラオクタナート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼラート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0034】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用してもよい。
【0035】
これらの平滑剤(B)は、1種の平滑剤を単独で使用してもよく、2種以上の平滑剤を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中における平滑剤(B)の含有割合の下限は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。かかる平滑剤(B)の含有割合の上限は、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下である。平滑剤(B)が、かかる含有割合の範囲に規定されることにより、処理剤が付与された合成繊維の平滑性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0036】
処理剤中において、エステル化合物(A)、及び平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、好ましくはエステル化合物(A)を0.1質量%以上10質量%以下、及び平滑剤(B)を90質量%以上99.9質量%以下の割合で含有する。かかる範囲に規定することにより、処理剤が付与された合成繊維の平滑性をより向上できる。
【0037】
(ヒドロキシ化合物(C))
本実施形態の処理剤は、ヒドロキシ化合物(C)を含有してもよい。ヒドロキシ化合物(C)により処理剤の安定性をより向上できる。ヒドロキシ化合物(C)としては、上述したエステル化合物(A)以外の化合物が挙げられる。ヒドロキシ化合物(C)としては、好ましくはアルコール及びアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0038】
アルコールの炭素数は、特に限定されないが、高級アルコールが好ましい。高級アルコールは、炭素数が多い炭化水素基を有する1価のアルコールである。高級アルコールの炭素数は、6以上が好ましく、6以上22以下がより好ましい、10以上20以下がさらに好ましい。アルコールは、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよいし、芳香族環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。また、第1級アルコールであっても、第2級アルコールであってもよい。
【0039】
これらの中でもゲルベアルコール、つまりアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールであることが好ましく、炭素数6以上22以下のゲルベアルコールがより好ましく、炭素数10以上20以下のゲルベアルコールがさらに好ましい。
【0040】
アルコールの具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0041】
ゲルベアルコールの具体例としては、例えば2-エチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等が挙げられる。
【0042】
アルコールのアルキレンオキサイド付加物が用いられる場合、アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが挙げられる。アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは1モル以上50モル以下、より好ましくは1モル以上30モル以下、さらに好ましくは1モル以上10モル以下である。
【0043】
これらのヒドロキシ化合物(C)は、一種類のヒドロキシ化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のヒドロキシ化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるヒドロキシ化合物(C)の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。かかるヒドロキシ化合物(C)の含有割合の上限は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。ヒドロキシ化合物(C)が、かかる含有割合の範囲に規定されることにより、処理剤の安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0044】
処理剤中において、エステル化合物(A)、平滑剤(B)、及びヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、好ましくはエステル化合物(A)を0.1質量%以上5質量%以下、平滑剤(B)を75質量%以上99.85質量%以下、及びヒドロキシ化合物(C)を0.05質量%以上20質量%以下の割合で含有する。かかる範囲に規定することにより、処理剤の安定性をより向上できる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1質量%以上10質量%以下の割合で付着していることが好ましい。
【0046】
合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)ポリウレタン系繊維等が挙げられる。これらの中で、本発明の効能の発揮に優れる観点から弾性繊維に適用されることが好ましい。
【0047】
弾性繊維の具体例としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0048】
本実施形態の合成繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を合成繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、合成繊維の紡糸工程において合成繊維維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を合成繊維、例えば弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0049】
本実施形態に適用される合成繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、合成繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0050】
本実施形態の処理剤及び合成繊維の効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物(A)、及び平滑剤(B)を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された合成繊維の解舒性を向上できる。また、処理剤が付与された合成繊維の平滑性を向上できる。それにより合成繊維の製造の際の糸切れを低減することができ、合成繊維の製造性を向上できる。また、処理剤の安定性、特に長期の保存安定性を向上できる。
【0051】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0052】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0053】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示されるように、エステル化合物(A)としてオクチル酸と12-ヒドロキシステアリン酸(重合度3)からなるエステルのカルシウム塩(A-1)1%、平滑剤(B)として25℃における動粘度が10cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン(B1-1)80%及び鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒)(B-4)16%、並びにヒドロキシ化合物(C)として2-ヘキシル-1-デカノール(C-1)3%を撹拌して均一に混合して実施例1の処理剤を調製した。
【0054】
(実施例2~62、比較例1~9)
実施例2~62、比較例1~9は、実施例1と同様にしてエステル化合物(A)、平滑剤(B)、ヒドロキシ化合物(C)、その他成分を表1,2に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0055】
各例の処理剤中におけるエステル化合物(A)の種類と含有割合、平滑剤(B)の種類と含有割合、ヒドロキシ化合物(C)の種類と含有割合、及びその他成分の種類と含有割合が、表1,2の「エステル化合物(A)」欄、「平滑剤(B)」欄、「ヒドロキシ化合物(C)」欄、「その他成分」欄にそれぞれ示される。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
表1,2に記載するエステル化合物(A)、平滑剤(B)、ヒドロキシ化合物(C)、及びその他成分の詳細は以下のとおりである。
【0058】
<エステル化合物(A)>
A-1:オクチル酸と12-ヒドロキシステアリン酸(重合度3)からなるエステルのカルシウム塩
A-2:ラウリン酸と乳酸(重合度2)からなるエステルのマグネシウム塩
A-3:ラウリン酸とグリコール酸(重合度5)からなるエステルのカルシウム塩
A-4:ミリスチン酸とリシノール酸(重合度1)からなるエステルのマグネシウム塩
A-5:イソステアリン酸と乳酸(重合度1)からなるエステルのマグネシウム塩
A-6:イソステアリン酸と乳酸(重合度2)からなるエステルのカルシウム塩
A-7:ラウリン酸とグリコール酸(重合度1)からなるエステルのカリウム塩
A-8:イソステアリン酸と乳酸(重合度2)からなるエステルのナトリウム塩
A-9:イソステアリン酸と乳酸(重合度1)からなるエステルのジブチルエタノールアミン塩
A-10:オクチル酸と12-ヒドロキシステアリン酸(重合度5)からなるエステル
A-11:イソステアリン酸と乳酸(重合度1)からなるエステル
A-12:オレイン酸とグリセリン酸(重合度6)からなるエステルのマグネシウム塩
<平滑剤(B)>
(シリコーン(B1))
B1-1:25℃における動粘度が10cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン
B1-2:25℃における動粘度が50cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン
B1-3:25℃における動粘度が100cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン
B1-4:25℃における動粘度が450cSt(mm/s)であり、官能基当量が5700g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B1-5:25℃における動粘度が1000cSt(mm/s)であり、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのモル比(エチレンオキサイド:プロピレンオキサイド)が1:1であるエーテル変性シリコーン
(その他の平滑剤)
B-4:鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒)
B-5:鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が100秒)
B-6:イソステアリン酸プロピル
B-7:ステアリン酸2-エチルヘキシル
(ヒドロキシ化合物(C))
C-1:2-ヘキシル-1-デカノール
C-2:ドデカノールのエチレンオキサイド3モル付加物
(その他成分)
a-1:乳酸(重合度3)マグネシウム
a-2:オレイン酸とリンゴ酸(重合度2)からなるエステル
a-3:イソステアリン酸マグネシウム
a-4:ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル酢酸ナトリウム(エチレンオキサイド3モル付加物)
a-5:カプリン酸カリウム
a-6:オレイン酸
試験区分2(弾性繊維の製造)
分子量1000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。
【0059】
以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0060】
こうして得られた処理剤又はローラー給油した乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、解舒性、平滑性として摩擦性、処理剤の安定性について評価した。
試験区分3(処理剤及び弾性繊維の評価)
(解舒性の評価)
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。第1駆動ローラーに上記で得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定し、下記の式から解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。結果を表1,2の「解舒性」欄に示す。
【0061】
解舒性(%)=(Vー50)×2
・解舒性の評価基準
◎◎◎(非常に優れる):解舒性が135%未満(全く問題なく、安定に解舒できる場合)
◎◎(優れる):解舒性が135%以上150%未満(糸の引き出しに僅かに抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる場合)
◎(良好):解舒性が150%以上165%未満(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる場合)
○(可):解舒性が165%以上180%未満(糸の引き出しに明らかに抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、解舒できる場合)
×(不可):解舒性が180%以上(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題がある場合)
(摩擦性の評価)
摩擦測定メーター(エイコー測器社製、SAMPLE FRICTION UNIT MODEL TB-1)を用いた。二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置した。このクロムメッキ梨地ピンに対し、前記のパッケージ(1kg巻き)から引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるように繊維を通した。25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T)を測定した。下記の数式から摩擦係数を求め、次の基準で評価した。結果を表1,2の「摩擦性」欄に示す。
【0062】
摩擦係数=(2/3.14)xln(T/T
・摩擦性の評価基準
◎◎(優れる):摩擦係数が0.160以上、0.200未満
◎(良好):摩擦係数が0.200以上、0.240未満
○(可):摩擦係数が0.240以上、0.280未満
×(不良):摩擦係数が0.280以上
(安定性)
各処理剤を、25℃で3ヵ月静置して、下記の基準で安定性を評価した。結果を表1,2の「安定性」欄に示す。
【0063】
・処理剤の安定性の評価基準
◎◎(優れる):沈殿、分離が無く、調製時と同様に均一な状態を保っている場合
◎(良好):ごくわずかに沈殿を生じるが、100rpmで10分程度の撹拌によって調製時と同様に均一な状態に復元する場合
○(可):沈殿を生じるが、100rpmで60分以上の撹拌によって調製時と同様に均一な状態に復元する場合
×(不可):沈殿、分離が生じ、撹拌によって均一な状態に復元しない場合
表1,2の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された合成繊維の解舒性及び摩擦性を向上できる。また、処理剤の安定性を向上できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のエステル化合物(A)、及び下記の平滑剤(B)を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤(外科用フィラメントのコーティング用組成物を除く)
エステル化合物(A):脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
平滑剤(B):シリコーン(B1)、鉱物油、エステル油(エステル化合物(A)を除く)、及びポリオレフィンから選ばれる少なくとも一つ。
【請求項2】
前記エステル化合物(A)が、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記エステル化合物(A)が、エステルの塩を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記エステル化合物(A)が、エステルの二価金属塩を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記平滑剤(B)が、シリコーン(B1)を含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記エステル化合物(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上10質量%以下、及び前記平滑剤(B)を90質量%以上99.9質量%以下の割合で含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
更に、下記のヒドロキシ化合物(C)を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
ヒドロキシ化合物(C):アルコール及びアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一つ。
【請求項8】
前記エステル化合物(A)、前記平滑剤(B)、及び前記ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上5質量%以下、前記平滑剤(B)を75質量%以上99.85質量%以下、及び前記ヒドロキシ化合物(C)を0.05質量%以上20質量%以下の割合で含有する請求項7に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維(外科用フィラメントを除く)
【請求項10】
前記合成繊維が弾性繊維である請求項9に記載の合成繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤及びかかる合成繊維用処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、繊維間同士で粘着することがある。そのため、例えば繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することができない場合があった。従来より繊維の平滑性を向上させるため、炭化水素油等の平滑剤を含有する合成繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、ベース成分として、エステル油、鉱物油、シリコーン油より選ばれる少なくとも一種類以上を使用し、(a)炭素数1~30の炭化水素基を有するアルコールのアルキレンオキサイド(1~15モル)付加物、及び(b)炭素数1~30の炭化水素基を有するカルボン酸若しくはその一価の金属塩又はアミン塩を含有する弾性繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-60135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維について、解舒性の更なる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル化合物等を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の合成繊維用処理剤(外科用フィラメントのコーティング用組成物を除く)では、下記のエステル化合物(A)、及び下記の平滑剤(B)を含有することを特徴とする。
【0008】
エステル化合物(A):脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
平滑剤(B):シリコーン(B1)、鉱物油、エステル油(エステル化合物(A)を除く)、及びポリオレフィンから選ばれる少なくとも一つ。
態様2は、態様1に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)が、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。
【0009】
態様3は、態様1又は2に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)が、エステルの塩を含む。
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)が、エステルの二価金属塩を含む。
【0010】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(B)が、シリコーン(B1)を含有する。
態様6は、態様1~5のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上10質量%以下、及び前記平滑剤(B)を90質量%以上99.9質量%以下の割合で含有する。
【0011】
態様7は、態様1~6のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、下記のヒドロキシ化合物(C)を含有する。
ヒドロキシ化合物(C):アルコール及びアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一つ。
態様8は、態様7に記載の合成繊維用処理剤において、前記エステル化合物(A)、前記平滑剤(B)、及び前記ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記エステル化合物(A)を0.1質量%以上5質量%以下、前記平滑剤(B)を75質量%以上99.85質量%以下、及び前記ヒドロキシ化合物(C)を0.05質量%以上20質量%以下の割合で含有する。
【0012】
態様9の合成繊維(外科用フィラメントを除く)は、態様1~8のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
態様10は、態様9に記載の合成繊維において、前記合成繊維が弾性繊維である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維の解舒性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記のエステル化合物(A)、及び下記の平滑剤(B)を含有し、さらにヒドロキシ化合物(C)を含有してもよい。本発明の処理剤は、外科用フィラメントのコーティング用組成物は除かれる。
【0015】
(エステル化合物(A))
本実施形態の処理剤に供するエステル化合物(A)は、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つが適用される。このエステル化合物(A)を適用することにより、特に処理剤が付与された合成繊維の解舒性を向上できる。
【0016】
エステル化合物(A)を構成する脂肪族カルボン酸としては、飽和脂肪族カルボン酸であっても、不飽和脂肪族カルボン酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。また、1価の脂肪族カルボン酸であっても、多価カルボン酸(多塩基酸)であってもよい。
【0017】
飽和脂肪族カルボン酸の具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イソオクタデカン酸(イソステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。
【0018】
不飽和脂肪族カルボン酸の具体例としては、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0019】
多価カルボン酸(多塩基酸)の具体例としては、例えば(1)コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸、(2)アコニット酸等の三塩基酸等が挙げられる。
【0020】
エステル化合物(A)を構成するヒドロキシ酸としては、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸が挙げられる。ヒドロキシ酸としては、ヒドロキシ基を有する脂肪族カルボン酸が挙げられる。脂肪族カルボン酸としては、その炭素数、分岐の有無等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有するカルボン酸であってもよい。また、飽和脂肪族カルボン酸であっても不飽和脂肪族カルボン酸であってもよい。ヒドロキシ酸を構成する水酸基の数は、特に限定されないが、1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸からなるエステル又はその塩が好ましい。かかる化合物を使用することにより、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。
【0021】
ヒドロキシ酸の具体例としては、例えば乳酸、ヒドロキシ酪酸、グリコール酸、グリセリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシオレイン酸(リシノール酸)、16-ヒドロキシヘキサデカン酸(ジュニペリン酸)、18-ヒドロキシオクタデカン酸、9-ヒドロキシステアリン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシドデカン酸(サビニン酸)、9,10-ジヒドロキシオクタデカン酸等が挙げられる。また、ヒドロキシ酸として天然由来の脂肪酸を用いても良いが、ヒドロキシ酸以外の脂肪酸も含まれる場合には、全脂肪酸に対して80質量%以上がヒドロキシ酸であればよい。天然由来の脂肪酸の具体例としては、例えばリシノール酸を含有するひまし油、硬化ひまし油等が挙げられる。
【0022】
ヒドロキシ酸は、モノマーであっても、縮合物であってもよい。縮合物が適用される場合、ヒドロキシ酸の縮合度は、適宜設定されるが、好ましくは2量体以上8量体以下である。
【0023】
エステル化合物(A)は、エステル単体であっても、エステル塩の形態であってもよいが、エステル塩が含まれることが好ましい。エステル化合物(A)がエステル塩を含む場合、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。
【0024】
エステル化合物(A)を構成する塩としては、例えば金属塩、アミン塩が挙げられる。金属塩としては、例えばアルカリ金属塩等の一価金属塩、アルカリ土類金属塩等の二価金属塩等が挙げられる。これらの塩の中で、二価金属塩であることが好ましい。エステル化合物(A)が、エステルの二価金属塩を含む場合、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。
【0025】
一価金属塩を構成する金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
二価金属塩を構成する金属としては、第2族元素に該当する金属が挙げられる。第2族元素に該当する金属の具体例としては、例えばカルシウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0026】
アミン塩を構成するアミンは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのいずれであってもよい。アミン塩を構成するアミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、(6)アンモニア等が挙げられる。
【0027】
これらのエステル化合物(A)は、1種のエステル化合物を単独で使用してもよく、2種以上のエステル化合物を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるエステル化合物(A)の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。かかる含有割合が0.01質量%以上の場合、処理剤が付与された合成繊維の解舒性をより向上できる。かかるエステル化合物(A)の含有割合の上限は、好ましくは15質量%以下、好ましくは10質量%以下である。かかる含有割合が15質量%以下の場合、特に処理剤が付与された合成繊維の平滑性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0028】
(平滑剤(B))
本実施形態の処理剤に供する平滑剤(B)としては、ベース成分として処理剤に配合され、合成繊維に平滑性を付与する。平滑剤(B)として、シリコーン(B1)を含むことが好ましい。処理剤がシリコーン(B1)を含むことにより、処理剤が付与された合成繊維の平滑性を向上できる。シリコーン(B1)以外のその他の平滑剤としては、例えば鉱物油、エステル油、ポリオレフィン等が挙げられる。本発明の処理剤に供する平滑剤(B)としては、シリコーン(B1)、鉱物油、エステル油(エステル化合物(A)を除く)、及びポリオレフィンから選ばれる少なくとも一つが適用される。
【0029】
シリコーン(B1)としては、シリコーン油が挙げられる。シリコーン油の具体例としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、動粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。動粘度は、適宜設定されるが、25℃における動粘度が2cst(mm/s)以上10000cst(mm/s)以下であることが好ましく、3cst(mm/s)以上7000cst(mm/s)以下であることがより好ましい。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。25℃における動粘度は、JIS Z 8803に準拠して測定される。これらの中でジメチルシリコーンが好ましい。ジメチルシリコーンを適用することにより、平滑性をより向上できる。
【0030】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。
【0031】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0032】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0033】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート、プロピルイソステアラート、2-エチルヘキシルステアラート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、ペンタエリスリトールテトラオクタナート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼラート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0034】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用してもよい。
【0035】
これらの平滑剤(B)は、1種の平滑剤を単独で使用してもよく、2種以上の平滑剤を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中における平滑剤(B)の含有割合の下限は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。かかる平滑剤(B)の含有割合の上限は、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下である。平滑剤(B)が、かかる含有割合の範囲に規定されることにより、処理剤が付与された合成繊維の平滑性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0036】
処理剤中において、エステル化合物(A)、及び平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、好ましくはエステル化合物(A)を0.1質量%以上10質量%以下、及び平滑剤(B)を90質量%以上99.9質量%以下の割合で含有する。かかる範囲に規定することにより、処理剤が付与された合成繊維の平滑性をより向上できる。
【0037】
(ヒドロキシ化合物(C))
本実施形態の処理剤は、ヒドロキシ化合物(C)を含有してもよい。ヒドロキシ化合物(C)により処理剤の安定性をより向上できる。ヒドロキシ化合物としては、上述したエステル化合物(A)以外の化合物が挙げられる。本発明の処理剤に供するヒドロキシ化合物(C)としては、アルコール及びアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0038】
アルコールの炭素数は、特に限定されないが、高級アルコールが好ましい。高級アルコールは、炭素数が多い炭化水素基を有する1価のアルコールである。高級アルコールの炭素数は、6以上が好ましく、6以上22以下がより好ましい、10以上20以下がさらに好ましい。アルコールは、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよいし、芳香族環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。また、第1級アルコールであっても、第2級アルコールであってもよい。
【0039】
これらの中でもゲルベアルコール、つまりアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールであることが好ましく、炭素数6以上22以下のゲルベアルコールがより好ましく、炭素数10以上20以下のゲルベアルコールがさらに好ましい。
【0040】
アルコールの具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0041】
ゲルベアルコールの具体例としては、例えば2-エチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等が挙げられる。
【0042】
アルコールのアルキレンオキサイド付加物が用いられる場合、アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが挙げられる。アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは1モル以上50モル以下、より好ましくは1モル以上30モル以下、さらに好ましくは1モル以上10モル以下である。
【0043】
これらのヒドロキシ化合物(C)は、一種類のヒドロキシ化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のヒドロキシ化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるヒドロキシ化合物(C)の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。かかるヒドロキシ化合物(C)の含有割合の上限は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。ヒドロキシ化合物(C)が、かかる含有割合の範囲に規定されることにより、処理剤の安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0044】
処理剤中において、エステル化合物(A)、平滑剤(B)、及びヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、好ましくはエステル化合物(A)を0.1質量%以上5質量%以下、平滑剤(B)を75質量%以上99.85質量%以下、及びヒドロキシ化合物(C)を0.05質量%以上20質量%以下の割合で含有する。かかる範囲に規定することにより、処理剤の安定性をより向上できる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。本発明の合成繊維は、外科用フィラメントは除かれる。合成繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1質量%以上10質量%以下の割合で付着していることが好ましい。
【0046】
合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)ポリウレタン系繊維等が挙げられる。これらの中で、本発明の効能の発揮に優れる観点から弾性繊維に適用されることが好ましい。
【0047】
弾性繊維の具体例としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0048】
本実施形態の合成繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を合成繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、合成繊維の紡糸工程において合成繊維維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を合成繊維、例えば弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0049】
本実施形態に適用される合成繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、合成繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0050】
本実施形態の処理剤及び合成繊維の効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、脂肪族カルボン酸と、分子内に1個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸とからなるエステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物(A)、並びにシリコーン(B1)、鉱物油、エステル油(エステル化合物(A)を除く)、及びポリオレフィンから選ばれる少なくとも一つの平滑剤(B)を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された合成繊維の解舒性を向上できる。また、処理剤が付与された合成繊維の平滑性を向上できる。それにより合成繊維の製造の際の糸切れを低減することができ、合成繊維の製造性を向上できる。また、処理剤の安定性、特に長期の保存安定性を向上できる。
【0051】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0052】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0053】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示されるように、エステル化合物(A)としてオクチル酸と12-ヒドロキシステアリン酸(重合度3)からなるエステルのカルシウム塩(A-1)1%、平滑剤(B)として25℃における動粘度が10cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン(B1-1)80%及び鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒)(B-4)16%、並びにヒドロキシ化合物(C)として2-ヘキシル-1-デカノール(C-1)3%を撹拌して均一に混合して実施例1の処理剤を調製した。
【0054】
(実施例2~62、比較例1~9)
実施例2~62、比較例1~9は、実施例1と同様にしてエステル化合物(A)、平滑剤(B)、ヒドロキシ化合物(C)、その他成分を表1,2に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0055】
各例の処理剤中におけるエステル化合物(A)の種類と含有割合、平滑剤(B)の種類と含有割合、ヒドロキシ化合物(C)の種類と含有割合、及びその他成分の種類と含有割合が、表1,2の「エステル化合物(A)」欄、「平滑剤(B)」欄、「ヒドロキシ化合物(C)」欄、「その他成分」欄にそれぞれ示される。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
表1,2に記載するエステル化合物(A)、平滑剤(B)、ヒドロキシ化合物(C)、及びその他成分の詳細は以下のとおりである。
【0058】
<エステル化合物(A)>
A-1:オクチル酸と12-ヒドロキシステアリン酸(重合度3)からなるエステルのカルシウム塩
A-2:ラウリン酸と乳酸(重合度2)からなるエステルのマグネシウム塩
A-3:ラウリン酸とグリコール酸(重合度5)からなるエステルのカルシウム塩
A-4:ミリスチン酸とリシノール酸(重合度1)からなるエステルのマグネシウム塩
A-5:イソステアリン酸と乳酸(重合度1)からなるエステルのマグネシウム塩
A-6:イソステアリン酸と乳酸(重合度2)からなるエステルのカルシウム塩
A-7:ラウリン酸とグリコール酸(重合度1)からなるエステルのカリウム塩
A-8:イソステアリン酸と乳酸(重合度2)からなるエステルのナトリウム塩
A-9:イソステアリン酸と乳酸(重合度1)からなるエステルのジブチルエタノールアミン塩
A-10:オクチル酸と12-ヒドロキシステアリン酸(重合度5)からなるエステル
A-11:イソステアリン酸と乳酸(重合度1)からなるエステル
A-12:オレイン酸とグリセリン酸(重合度6)からなるエステルのマグネシウム塩
<平滑剤(B)>
(シリコーン(B1))
B1-1:25℃における動粘度が10cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン
B1-2:25℃における動粘度が50cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン
B1-3:25℃における動粘度が100cSt(mm/s)であるジメチルシリコーン
B1-4:25℃における動粘度が450cSt(mm/s)であり、官能基当量が5700g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B1-5:25℃における動粘度が1000cSt(mm/s)であり、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのモル比(エチレンオキサイド:プロピレンオキサイド)が1:1であるエーテル変性シリコーン
(その他の平滑剤)
B-4:鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒)
B-5:鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が100秒)
B-6:イソステアリン酸プロピル
B-7:ステアリン酸2-エチルヘキシル
(ヒドロキシ化合物(C))
C-1:2-ヘキシル-1-デカノール
C-2:ドデカノールのエチレンオキサイド3モル付加物
(その他成分)
a-1:乳酸(重合度3)マグネシウム
a-2:オレイン酸とリンゴ酸(重合度2)からなるエステル
a-3:イソステアリン酸マグネシウム
a-4:ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル酢酸ナトリウム(エチレンオキサイド3モル付加物)
a-5:カプリン酸カリウム
a-6:オレイン酸
試験区分2(弾性繊維の製造)
分子量1000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。
【0059】
以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0060】
こうして得られた処理剤又はローラー給油した乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、解舒性、平滑性として摩擦性、処理剤の安定性について評価した。
試験区分3(処理剤及び弾性繊維の評価)
(解舒性の評価)
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。第1駆動ローラーに上記で得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定し、下記の式から解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。結果を表1,2の「解舒性」欄に示す。
【0061】
解舒性(%)=(Vー50)×2
・解舒性の評価基準
◎◎◎(非常に優れる):解舒性が135%未満(全く問題なく、安定に解舒できる場合)
◎◎(優れる):解舒性が135%以上150%未満(糸の引き出しに僅かに抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる場合)
◎(良好):解舒性が150%以上165%未満(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる場合)
○(可):解舒性が165%以上180%未満(糸の引き出しに明らかに抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、解舒できる場合)
×(不可):解舒性が180%以上(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題がある場合)
(摩擦性の評価)
摩擦測定メーター(エイコー測器社製、SAMPLE FRICTION UNIT MODEL TB-1)を用いた。二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置した。このクロムメッキ梨地ピンに対し、前記のパッケージ(1kg巻き)から引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるように繊維を通した。25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T)を測定した。下記の数式から摩擦係数を求め、次の基準で評価した。結果を表1,2の「摩擦性」欄に示す。
【0062】
摩擦係数=(2/3.14)xln(T/T
・摩擦性の評価基準
◎◎(優れる):摩擦係数が0.160以上、0.200未満
◎(良好):摩擦係数が0.200以上、0.240未満
○(可):摩擦係数が0.240以上、0.280未満
×(不良):摩擦係数が0.280以上
(安定性)
各処理剤を、25℃で3ヵ月静置して、下記の基準で安定性を評価した。結果を表1,2の「安定性」欄に示す。
【0063】
・処理剤の安定性の評価基準
◎◎(優れる):沈殿、分離が無く、調製時と同様に均一な状態を保っている場合
◎(良好):ごくわずかに沈殿を生じるが、100rpmで10分程度の撹拌によって調製時と同様に均一な状態に復元する場合
○(可):沈殿を生じるが、100rpmで60分以上の撹拌によって調製時と同様に均一な状態に復元する場合
×(不可):沈殿、分離が生じ、撹拌によって均一な状態に復元しない場合
表1,2の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された合成繊維の解舒性及び摩擦性を向上できる。また、処理剤の安定性を向上できる。