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特開2024-125598液体吐出装置、及び、液体吐出ヘッドの駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125598
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】液体吐出装置、及び、液体吐出ヘッドの駆動方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240911BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240911BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/14 305
B41J2/14 611
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/165 207
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033520
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】矢島 幹也
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EB07
2C056EB29
2C056EB30
2C056EB58
2C056EC42
2C056EC54
2C057AG44
2C057AG92
2C057AG93
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】圧力室内の液体の温度に適した吐出制御が液体吐出ヘッドに対して実行されなくなることを抑制する。
【解決手段】 液体吐出ヘッドは、ノズル、ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を与える圧電体、圧電体の第1面に設けられた第1電極及び圧電体の第2面に設けられた第2電極を含む複数の吐出部と、第1電極及び第2電極にそれぞれ接続される第1配線及び第2配線を含み、電圧を第1電極及び第2電極間に印加する駆動配線と、第1電極、第2電極及び駆動配線のいずれかと同じ材料で形成され、圧力室内の液体の温度を計測するための抵抗体とを有し、制御部は、吐出デューティーを示すデューティー情報を印刷処理期間の開始前に取得する第1取得部と、抵抗体の電位を示す電位情報を印刷処理期間の開始前に取得する第2取得部と、印刷処理期間における圧力室内の液体の温度を電位情報及びデューティー情報に基づいて推定する温度推定部とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する液体吐出ヘッド、及び、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部を含む液体吐出装置であって、
前記液体吐出ヘッドは、
液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、前記圧力室内の液体に圧力変動を与えるために駆動される圧電体、前記圧電体が有する複数の面のうちの第1面に設けられた第1電極、及び、前記複数の面のうちの前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2電極を含む複数の吐出部と、
前記第1電極及び前記第2電極に電気的にそれぞれ接続される第1配線及び第2配線を含み、前記圧電体を駆動するための電圧を前記第1電極及び前記第2電極間に印加する駆動配線と、
前記第1電極、前記第2電極及び前記駆動配線のいずれかと同じ材料で形成され、前記圧力室内の液体の温度を計測するための抵抗体と、
を有し、
前記制御部は、
前記複数の吐出部から吐出される液滴の吐出デューティーを示すデューティー情報を印刷処理期間の開始前に取得する第1取得部と、
前記抵抗体の電位を示す電位情報を前記印刷処理期間の開始前に取得する第2取得部と、
前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を前記電位情報及び前記デューティー情報に基づいて推定する温度推定部と、
を有する、
液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1配線及び前記第2配線のうちの一方に供給される駆動信号を出力する駆動信号生成部をさらに有し、
前記駆動信号は、
前記ノズルから液滴を吐出させる吐出パルスを含み、
前記制御部は、
前記温度推定部により推定された温度に基づいて、前記吐出パルスを補正するパルス補正部をさらに有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記ノズルから液体を排出することにより前記液体吐出ヘッドをメンテナンスするフラッシングの回数及び間隔の少なくとも一方を、前記温度推定部により推定された温度に基づいて調整するフラッシング調整部をさらに有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記温度推定部は、
第1推定処理又は第2推定処理を前記電位情報及び前記デューティー情報に基づいて実行することにより、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を推定し、
前記第1推定処理は、
前記印刷処理期間の開始タイミングにおける前記圧力室内の液体の温度として前記電位情報により特定される開始温度よりも高い一定の推定温度を、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度として推定する処理であり、
前記第2推定処理は、
前記印刷処理期間内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度を、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度として推定する処理であり、
前記複数の推定温度のうち、
前記開始タイミングよりも後のタイミングの推定温度は、前記開始温度以上であり、
前記複数のタイミングのうちの一のタイミングの推定温度は、前記一のタイミングよりも前のタイミングの推定温度以上である、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記第1取得部は、
前記印刷処理期間の開始前に、前記印刷処理期間の長さを示す印刷期間情報をさらに取得し、
前記第2取得部は、
前記印刷処理期間の終了後に、前記電位情報を終了電位情報として取得し、
前記温度推定部は、
前記印刷処理期間の長さ、前記吐出デューティー、前記印刷処理期間の開始タイミングにおける前記圧力室内の液体の温度、及び、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の推定温度が互いに対応付けられた複数の温度推定情報から特定の温度推定情報を、前記印刷処理期間の開始前に取得された前記電位情報である開始電位情報、前記印刷期間情報及び前記デューティー情報に基づいて選択し、
前記特定の温度推定情報に基づいて、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を推定し、
前記特定の温度推定情報により示される前記推定温度は、
前記特定の温度推定情報に基づいて温度が推定された前記印刷処理期間が終了する度に、前記開始電位情報により特定される温度と前記終了電位情報により特定される温度とに基づいて更新される、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記第1取得部は、
前記印刷処理期間を分割した複数の分割期間の各々の前記吐出デューティーを示す吐出変化情報を前記印刷処理期間の開始前に取得し、
前記温度推定部は、
前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度として一定の推定温度を推定するか否かを前記吐出変化情報に基づいて決定する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記温度推定部は、
前記複数の分割期間を経時的に並べた場合に連続する2つの分割期間の前記吐出デューティーの変化量の少なくとも1つの変化量が所定量より大きい場合、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を前記印刷処理期間において前記一定の推定温度とすることに決定し、
前記一定の推定温度は、
前記印刷処理期間の開始タイミングにおける前記圧力室内の液体の温度と前記印刷処理期間の終了タイミングにおける前記圧力室内の液体の温度との間の温度である、
請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記温度推定部は、
前記複数の分割期間を経時的に並べた場合に連続する2つの分割期間の前記吐出デューティーの変化量の全ての変化量が所定量以下である場合、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を前記一定の推定温度としないことに決定し、
前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度として、前記印刷処理期間内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度を推定し、
前記複数の推定温度のうち、
前記印刷処理期間の開始タイミングよりも後のタイミングの推定温度は、前記開始タイミングにおける前記圧力室内の液体の温度以上であり、
前記複数のタイミングのうちの一のタイミングの推定温度は、前記一のタイミングよりも前のタイミングの推定温度以上であり、
前記印刷処理期間の終了タイミングよりも前のタイミングの推定温度は、前記終了タイミングにおける前記圧力室内の液体の温度以下である、
請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記抵抗体は、前記圧電体に接触する部分を有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記吐出デューティーは、単位時間に前記ノズルから吐出される液滴の量、及び、前記単位時間に前記圧電体に供給されるパルスの数の少なくとも1つに対応するパラメーターである、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、前記圧力室内の液体に圧力変動を与えるために駆動される圧電体、前記圧電体が有する複数の面のうちの第1面に設けられた第1電極、及び、前記複数の面のうちの前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2電極を含む複数の吐出部と、前記第1電極及び前記第2電極に電気的にそれぞれ接続される第1配線及び第2配線を含み、前記圧電体を駆動するための電圧を前記第1電極及び前記第2電極間に印加する駆動配線と、前記第1電極、前記第2電極及び前記駆動配線のいずれかと同じ材料で形成され、前記圧力室内の液体の温度を計測するための抵抗体と、を有する液体吐出ヘッドの駆動方法であって、
前記複数の吐出部から吐出される液滴の吐出デューティーを示すデューティー情報を印刷処理期間の開始前に取得し、
前記抵抗体の電位を示す電位情報を前記印刷処理期間の開始前に取得し、
前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を前記電位情報及び前記デューティー情報に基づいて推定する、
液体吐出ヘッドの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び、液体吐出ヘッドの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ方式のインクジェットプリンター等の液体吐出装置が有する液体吐出ヘッドは、液体が充填される圧力室と、圧力室内の液体に圧力を付与するための圧電体とを有する。また、液体吐出装置内の液体の温度を計測するための抵抗体を有し、圧力室内の液体の温度に適した吐出制御を液体吐出ヘッドに対して実行する液体吐出装置が知られている。例えば、特許文献1には、圧力室の温度を検出するための抵抗配線を有する液体吐出ヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-124599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液体吐出ヘッド内に設けられた抵抗配線等の抵抗体による温度の計測が圧電体に駆動信号が供給されている印刷期間に実行される場合、抵抗体から検出される信号に駆動信号に起因するノイズが重畳される。抵抗体から検出される信号に駆動信号に起因するノイズが重畳された場合、抵抗体による温度の計測精度が低下する。この場合、圧力室内の液体の温度に適した吐出制御が液体吐出ヘッドに対して実行されないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の問題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置は、液滴を吐出する液体吐出ヘッド、及び、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部を含む液体吐出装置であって、前記液体吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、前記圧力室内の液体に圧力変動を与えるために駆動される圧電体、前記圧電体が有する複数の面のうちの第1面に設けられた第1電極、及び、前記複数の面のうちの前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2電極を含む複数の吐出部と、前記第1電極及び前記第2電極に電気的にそれぞれ接続される第1配線及び第2配線を含み、前記圧電体を駆動するための電圧を前記第1電極及び前記第2電極間に印加する駆動配線と、前記第1電極、前記第2電極及び前記駆動配線のいずれかと同じ材料で形成され、前記圧力室内の液体の温度を計測するための抵抗体と、を有し、前記制御部は、前記複数の吐出部から吐出される液滴の吐出デューティーを示すデューティー情報を印刷処理期間の開始前に取得する第1取得部と、前記抵抗体の電位を示す電位情報を前記印刷処理期間の開始前に取得する第2取得部と、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を前記電位情報及び前記デューティー情報に基づいて推定する温度推定部と、を有する。
【0006】
本発明に係る液体吐出ヘッドの駆動方法は、液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、前記圧力室内の液体に圧力変動を与えるために駆動される圧電体、前記圧電体が有する複数の面のうちの第1面に設けられた第1電極、及び、前記複数の面のうちの前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2電極を含む複数の吐出部と、前記第1電極及び前記第2電極に電気的にそれぞれ接続される第1配線及び第2配線を含み、前記圧電体を駆動するための電圧を前記第1電極及び前記第2電極間に印加する駆動配線と、前記第1電極、前記第2電極及び前記駆動配線のいずれかと同じ材料で形成され、前記圧力室内の液体の温度を計測するための抵抗体と、を有する液体吐出ヘッドの駆動方法であって、前記複数の吐出部から吐出される液滴の吐出デューティーを示すデューティー情報を印刷処理期間の開始前に取得し、前記抵抗体の電位を示す電位情報を前記印刷処理期間の開始前に取得し、前記印刷処理期間における前記圧力室内の液体の温度を前記電位情報及び前記デューティー情報に基づいて推定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置を例示する模式図。
図2】液体吐出ヘッドの分解斜視図。
図3図2におけるIII-III線の断面図。
図4】液体吐出ヘッドをZ1方向に平面視した場合における液体吐出ヘッドの平面図。
図5図4におけるj-J線の断面図。
図6図4におけるk-K線の断面図。
図7図4におけるm-M線の断面図。
図8】液体吐出ヘッド1に供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャート。
図9】第1推定処理に用いられる温度推定テーブルの一例を説明図するための説明図。
図10】第2推定処理に用いられる温度推定テーブルの一例を説明図するための説明図。
図11】第1推定処理及び第2推定処理により推定された推定温度の一例を説明するための説明図。
図12】第2実施形態に係る補正部の動作を説明するための説明図。
図13】第3実施形態に係る制御ユニットの一例を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
1.第1実施形態
1.1.液体吐出装置の概要
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置100を例示する模式図である。液体吐出装置100は、インクを媒体PPに吐出するインクジェット方式の印刷装置である。本実施形態では、液体吐出装置100が後述する液体吐出ヘッド1を固定したまま媒体PPを搬送することにより印刷を行う所謂ラインプリンターである場合を想定する。媒体PPは、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルム又は布帛等の任意の印刷対象が媒体PPとして利用され得る。インクは、「液体」の一例である。
【0010】
液体吐出装置100は、インクを貯留する液体容器93を有する。液体容器93としては、例えば、液体吐出装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、又は、インクを補充可能なインクタンク等を採用することができる。液体容器93には、色彩が相違する複数種のインクが貯留される。
【0011】
また、液体吐出装置100は、複数の液体吐出ヘッド1を収納するラインヘッド11、制御ユニット6、駆動信号生成ユニット7、検出ユニット8、搬送機構91、及び、循環機構94をさらに有する。制御ユニット6は、「制御部」の一例であり、駆動信号生成ユニット7は、「駆動信号生成部」の一例である。
【0012】
制御ユニット6は、例えば、CPU又はFPGA等の処理回路60と、半導体メモリー等の記憶回路68とを含み、液体吐出装置100の各要素を制御する。ここで、CPUとは、Central Processing Unitの略称であり、FPGAとは、Field Programmable Gate Arrayの略称である。記憶回路68には、各種プログラム及び各種データが記憶される。
【0013】
搬送機構91は、制御ユニット6による制御のもとで、媒体PPを、Y軸に沿ったY1方向に搬送する。以下では、Y1方向と、Y1方向とは反対のY2方向とを、Y軸方向と総称する。また、以下では、Y軸に交差するX軸に沿ったX1方向と、X1方向とは反対のX2方向とを、X軸方向と総称する。また、以下では、X軸及びY軸に交差するZ軸に沿ったZ1方向と、Z1方向とは反対のZ2方向とを、Z軸方向と総称する。なお、本実施形態では、液体吐出ヘッド1がZ1方向にインクを吐出させる場合を想定する。また、本実施形態では、一例として、X軸、Y軸、及び、Z軸が、互いに直交する場合を想定して説明する。但し、本発明はこのような態様に限定されるものではない。X軸、Y軸、及び、Z軸は、互いに交差していればよい。
【0014】
例えば、搬送機構91は、媒体PPを搬送するための駆動源となる搬送モーター911と、搬送モーター911の作動により回転する搬送ローラー912と、液体吐出ヘッド1に対してZ1方向に設けられるプラテン913とを有する。媒体PPは、搬送ローラー912が回転することにより、プラテン913上を通過する。
【0015】
ラインヘッド11に収納された複数の液体吐出ヘッド1は、複数の液体吐出ヘッド1が有する複数のノズルNが媒体PPの全幅に亘り分布するように、X1方向に沿って配列される。図1では、複数の液体吐出ヘッド1がX1方向に沿って1列に配置される場合が例示されているが、X1方向に沿って配置される複数の液体吐出ヘッド1の列は、2列以上であってもよい。また、ラインヘッド11は、液体吐出ヘッド1とともに液体容器93を収納してもよい。
【0016】
循環機構94は、図示しないポンプ及びモーターを含み、制御ユニット6による制御のもとで、液体容器93に貯留されたインクを液体吐出ヘッド1に供給する。また、循環機構94は、制御ユニット6による制御のもとで、液体吐出ヘッド1に貯留されたインクを回収し、当該回収したインクを液体吐出ヘッド1に還流させる。なお、循環機構94によるインクの循環は、圧力室に接続されたリザーバーにおいてインクを循環させるリザーバー循環により実現されてもよい。
【0017】
このように、制御ユニット6は、搬送機構91及び循環機構94を制御する。また、制御ユニット6は、液体吐出ヘッド1からの吐出動作を制御する吐出制御を実行する。例えば、制御ユニット6は、液体吐出装置100が形成すべき画像を示す印刷データIMGを、図示しないホストコンピューターから受ける。そして、制御ユニット6は、印刷データIMGに基づいて、印刷信号SI及び波形指定信号dCOM等の液体吐出ヘッド1の各部の動作を制御するための信号を生成する。ここで、波形指定信号dCOMは、駆動信号COMの波形を規定するデジタルの信号である。また、駆動信号COMは、液体吐出ヘッド1を駆動するためのアナログの信号である。また、印刷信号SIは、例えば、駆動信号COMを後述する図2に示す圧電素子PZに供給するか否かを指定するためのデジタルの信号である。
【0018】
駆動信号生成ユニット7は、例えば、デジタルアナログ変換回路を含み、制御ユニット6から供給される波形指定信号dCOMに基づいて駆動信号COMを生成する。例えば、駆動信号生成ユニット7は、波形指定信号dCOMにより規定される波形を含む駆動信号COMを生成する。駆動信号生成ユニット7は、波形指定信号dCOMに基づいて生成した駆動信号COMを、液体吐出ヘッド1に出力する。なお、本実施形態では、駆動信号生成ユニット7が制御ユニット6の外部に設けられる態様を例示して説明するが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、駆動信号生成ユニット7は、制御ユニット6に設けられてもよい。あるいは、駆動信号生成ユニット7は、液体吐出ヘッド1に設けられてもよい。
【0019】
液体吐出ヘッド1は、印刷信号SIによる制御のもとで駆動信号COMにより駆動され、液体吐出ヘッド1に設けられた複数のノズルNの一部又は全部から、Z1方向にインクを吐出させる。例えば、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルNの一部又は全部から記録用紙Pに対してインクを吐出することで媒体PPの表面に所望の画像を形成する印刷処理を実行する。具体的には、液体吐出ヘッド1は、搬送機構91による媒体PPの搬送に連動して、複数のノズルNの一部又は全部からインクを吐出させて、当該吐出されたインクを媒体PPの表面に着弾させる。これにより、媒体PPの表面に所望の画像が形成される。所望の画像は、例えば、印刷データIMGにより示される画像である。なお、ノズルNについては、図2及び図3において後述する。
【0020】
また、液体吐出ヘッド1は、印刷処理とは別に、メンテナンス処理を実行する。メンテナンス処理の一つに、ノズルNからインクを排出することにより液体吐出ヘッド1をメンテナンスするフラッシングを実行するフラッシング処理がある。例えば、フラッシング処理は、メンテナンス用の駆動信号COMにより液体吐出ヘッド1を繰り返し駆動させることにより、増粘したインク、及び、インクに混入した気泡を強制的に除去する処理である。インクに気泡が混入すると、気泡が圧力変動を吸収することによって、ノズルNからインクが吐出されない所謂ドット抜け、又は、飛翔曲がり等の吐出不良が発生するおそれがある。フラッシング処理を実行することにより、ドット抜け及び吐出不良が発生することを抑制する。
【0021】
検出ユニット8は、電流供給回路81及び電圧検出回路82を有する。
【0022】
電流供給回路81は、液体吐出ヘッド1に対して電流I0を供給する。本実施形態において、電流I0は、所定の大きさの定電流である。また、本実施形態では、電流供給回路81から液体吐出ヘッド1に対して供給された電流I0の一部又は全部が、液体吐出ヘッド1に設けられた検出抵抗体TKの一端から他端へと流れる場合を想定する。なお、検出抵抗体TKについては、図4図6、及び、図7において後述する。検出抵抗体TKは、「抵抗体」の一例である。
【0023】
電圧検出回路82は、検出抵抗体TKに印加された電圧VKを検出する。ここで、電圧VKとは、検出抵抗体TKの一端と他端との間の電位差である。具体的には、本実施形態において、電圧検出回路82は、電流供給回路81から供給された電流I0の一部又は全部が、検出抵抗体TKの一端から他端へと流れた場合に、検出抵抗体TKの両端の電圧VKを検出する。電圧検出回路82は、検出抵抗体TKから検出した電圧VKに応じた値を示す検出結果情報DKを、制御ユニット6に出力する。検出結果情報DKは、「電位情報」の一例である。
【0024】
なお、本実施形態では、電流供給回路81及び電圧検出回路82が液体吐出ヘッド1の外部に設けられる態様を例示して説明するが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、電流供給回路81及び電圧検出回路82は、液体吐出ヘッド1に設けられてもよい。あるいは、電流供給回路81及び電圧検出回路82は、制御ユニット6に設けられてもよい。
【0025】
制御ユニット6に設けられた処理回路60は、記憶回路68に記憶されたプログラムを読み出して、当該プログラムを実行することにより、第1取得部61、第2取得部62、温度特定部63及び補正部64として機能する。温度特定部63は、「温度推定部」の一例であり、補正部64は、「パルス補正部」の一例である。
【0026】
第1取得部61は、複数のノズルNから吐出されるインクの吐出デューティーを示すデューティー情報を、印刷処理が実行されている印刷処理期間の開始前に取得する。吐出デューティーは、単位時間当たりの可能最大インク吐出量に対する吐出するインク量の割合である。例えば、吐出デューティーは、単位時間にノズルNから吐出されるインク滴の量、及び、単位時間に圧電素子PZに供給されるパルスの数の少なくとも1つに対応するパラメーターである。単位時間にノズルNから吐出されるインク滴の量、及び、単位時間に圧電体Qmに供給されるパルスの数は、例えば、液体吐出装置100が形成すべき画像を示す印刷データIMGから特定することができる。なお、インク滴は、「液滴」の一例である。
【0027】
吐出デューティーは、印刷データIMGに基づいて制御ユニット6により算出されてもよい。具体的には、処理回路60が、印刷データIMGに基づいて吐出デューティーを算出する機能ブロックとして機能してもよい。この場合、第1取得部61は、印刷データIMGに基づいて吐出デューティーを算出する機能ブロックから、デューティー情報を印刷処理期間の開始前に取得する。あるいは、デューティー情報は、液体吐出装置100の外部の装置から、制御ユニット6に供給されてもよい。例えば、デューティー情報は、印刷データIMGに含まれてもよい。この場合、第1取得部61は、ホストコンピューターから、デューティー情報を印刷処理期間の開始前に取得する。
【0028】
ここで、吐出デューティーと圧力室CV内のインクの温度との関連性を説明する。先ず、単位時間にノズルNから吐出されるインク滴の量が多いほど、供給されるインクの水冷の効果によって圧力室CV内のインクの温度は印刷開始時の温度に近づく。また、単位時間に圧電体Qmに供給されるパルスの数が多いほど、液体吐出ヘッド1内の電流による発熱の効果によって圧力室CV内のインクの温度は上昇する。このため、吐出デューティーとして用いられるパラメーターとして、単位時間にノズルNから吐出されるインク滴の量、及び、単位時間に圧電体Qmに供給されるパルスの数の両方を用いることにより、吐出デューティーを精度よく表すことができる。
【0029】
第2取得部62は、検出結果情報DKを印刷処理期間の開始前に取得する。温度特定部63は、検出結果情報DKに基づいて、液体吐出ヘッド1内のインクの温度を特定する。また、温度特定部63は、印刷処理期間における液体吐出ヘッド1内のインクの温度を検出結果情報DK及びデューティー情報に基づいて推定する。補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいて、波形指定信号dCOMにより規定される波形、すなわち、駆動信号COMの波形を補正する。例えば、補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいて、駆動信号COMに含まれる吐出パルスを補正する。なお、吐出パルスは、ノズルからインク滴を吐出させるパルスである。
【0030】
1.2.液体吐出ヘッドの概要
以下、図2及び図3を参照しつつ、液体吐出ヘッド1の概要を説明する。
【0031】
図2は、液体吐出ヘッド1の分解斜視図である。図3は、図2におけるIII-III線の断面図である。
【0032】
図2及び図3に示すように、液体吐出ヘッド1は、ノズル基板21と、コンプライアンスシートCS1及びCS2と、連通板22と、圧力室基板23と、振動板24と、封止基板25と、流路形成基板26と、配線基板4と、を有する。
【0033】
図2に示すように、ノズル基板21は、Y軸方向に長尺で、XY平面に略平行に延在する板状の部材である。ここで、「略平行」とは、完全に平行である場合の他に、誤差を考慮すれば平行であると看做せる場合を含む概念である。本実施形態では、「略平行」とは、10%程度の誤差を考慮すれば平行であると看做せる場合を含む概念であることとする。ノズル基板21は、例えば、エッチング等の半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造されるが、ノズル基板21の製造には公知の材料及び製法を任意に採用してもよい。
【0034】
ノズル基板21には、複数のノズルNが形成される。ここで、ノズルNとは、ノズル基板21に設けられた貫通孔である。本実施形態では、ノズル基板21に形成された複数のノズルNが、Y軸方向に延在するように配列された複数のノズルN1と、複数のノズルN1から見てX2方向の位置においてY軸方向に延在するように配列された複数のノズルN2と、を含む場合を想定する。以下では、Y軸方向に延在する複数のノズルN1を、ノズル列Ln1と称し、Y軸方向に延在する複数のノズルN2を、ノズル列Ln2と称する。また、以下では、ノズル列Ln1及びノズル列Ln2を、ノズル列Lnと総称する場合がある。
【0035】
図2及び図3に示すように、ノズル基板21から見てZ2方向の位置には、連通板22が設けられる。連通板22は、Y軸方向に長尺で、XY平面に略平行に延在する板状の部材である。連通板22は、例えば、半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造されるが、連通板22の製造には公知の材料及び製法を任意に採用してもよい。
【0036】
連通板22には、インクの流路が形成される。具体的には、連通板22には、Y軸方向に延在するように設けられた1個の供給流路BA1と、供給流路BA1から見てX2方向の位置においてY軸方向に延在するように設けられた1個の供給流路BA2とが形成される。また、連通板22には、複数のノズルN1と対応する複数の接続流路BK1と、複数のノズルN2と対応する複数の接続流路BK2と、複数のノズルN1と対応する複数の連通流路BR1と、複数のノズルN2と対応する複数の連通流路BR2と、が形成される。
【0037】
このうち、接続流路BK1は、供給流路BA1と連通し、供給流路BA1から見てX2方向の位置においてZ軸方向に延在するように設けられる。連通流路BR1は、接続流路BK1から見てX2方向の位置においてZ軸方向に延在するように設けられる。連通流路BR1は、当該連通流路BR1に対応するノズルN1に連通する。接続流路BK2は、供給流路BA2と連通し、供給流路BA2から見てX1方向の位置においてZ軸方向に延在するように設けられる。連通流路BR2は、接続流路BK2から見てX1方向の位置であって、連通流路BR1から見てX2方向の位置において、Z軸方向に延在するように設けられる。連通流路BR2は、当該連通流路BR2に対応するノズルN2に連通する。
【0038】
なお、以下では、供給流路BA1及び供給流路BA2を、供給流路BAと総称する場合がある。また、以下では、接続流路BK1及び接続流路BK2を、接続流路BKと総称する場合がある。また、以下では、連通流路BR1及び連通流路BR2を、連通流路BRと総称する場合がある。
【0039】
図2及び図3に示すように、連通板22から見てZ2方向の位置には、圧力室基板23が設けられる。圧力室基板23は、Y軸方向に長尺で、XY平面に略平行に延在する板状の部材である。圧力室基板23は、例えば、半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造されるが、圧力室基板23の製造には公知の材料及び製法を任意に採用してもよい。
【0040】
圧力室基板23には、インクの流路が形成される。具体的には、圧力室基板23には、複数のノズルN1と対応する複数の圧力室CV1と、複数のノズルN2と対応する複数の圧力室CV2と、が形成される。このうち、圧力室CV1は、Z軸方向に見た場合に、接続流路BK1のX2方向の端部と、連通流路BR1のX1方向の端部とを結び、X軸方向に延在するように設けられる。圧力室CV2は、Z軸方向に見た場合に、接続流路BK2のX1方向の端部と、連通流路BR2のX2方向の端部とを結び、X軸方向に延在するように設けられる。なお、以下では、圧力室CV1及び圧力室CV2を、圧力室CVと総称する場合がある。
【0041】
図2及び図3に示すように、圧力室基板23から見てZ2方向の位置には、振動板24が設けられる。振動板24は、Y軸方向に長尺で、XY平面に略平行に延在する板状の部材であって、弾性的に振動可能な部材である。なお、本実施形態において、振動板24が有するZ軸方向を法線方向とする2つの面のうち、Z2方向の面は、非導電性の部材から形成される。具体的には、振動板24は、酸化シリコンからなる弾性層と、当該弾性層から見てZ2方向の位置に設けられた酸化ジルコニウムからなる絶縁層と、を有する。
【0042】
図2及び図3に示すように、振動板24から見てZ2方向の位置には、複数の圧力室CV1に対応する複数の圧電素子PZ1と、複数の圧力室CV2に対応する複数の圧電素子PZ2と、が設けられる。以下では、圧電素子PZ1及び圧電素子PZ2を、圧電素子PZと総称する場合がある。圧電素子PZは、駆動信号COMの電位変化に応じて変形する受動素子である。換言すれば、圧電素子PZは、駆動信号COMの電気エネルギーを運動エネルギーに変換する、エネルギー変換素子の一例である。具体的には、圧電素子PZは、駆動信号COMの電位変化に応じて駆動されて変形する。振動板24は、圧電素子PZの変形に連動して振動する。振動板24が振動すると、圧力室CV内の圧力が変動する。そして、圧力室CV内の圧力が変動することで、圧力室CVの内部に充填されたインクが、連通流路BRを経由してノズルNから吐出される。
【0043】
図2及び図3に示すように、圧力室基板23から見てZ2方向の位置には、複数の圧電素子PZ1及び複数の圧電素子PZ2を保護するための封止基板25が設けられる。封止基板25は、Y軸方向に長尺で、XY平面に略平行に延在する板状の部材である。封止基板25は、例えば、半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造されるが、封止基板25の製造には公知の材料及び製法を任意に採用してもよい。
【0044】
図3に示すように、封止基板25が有するZ軸方向を法線方向とする2つの面のうちZ1方向の面には、複数の圧電素子PZ1を覆うための凹部と、複数の圧電素子PZ2を覆うための凹部とが設けられる。以下では、複数の圧電素子PZ1を覆い、振動板24と封止基板25との間に形成された封止空間を、封止空間SP1と称し、複数の圧電素子PZ2を覆い、振動板24と封止基板25との間に形成された封止空間を、封止空間SP2と称する。また、以下では、封止空間SP1及び封止空間SP2を、封止空間SPと総称する場合がある。封止空間SPは、圧電素子PZを封止し、圧電素子PZが水分等の影響により変質することを防ぐための空間である。また、以下では、封止基板25をZ1方向に平面視した場合に、封止空間SP1の側壁となる部分を、側壁WL1と称し、封止空間SP2の側壁となる部分を、側壁WL2と称する。また、以下では、側壁WL1及び側壁WL2を、側壁WLと総称する場合がある。
【0045】
封止基板25には、貫通孔250が設けられている。貫通孔250は、封止基板25をZ1方向に見たときに、封止空間SP1及び封止空間SP2の間に位置し、封止基板25のZ1方向の面から、封止基板25のZ2方向の面までを貫通する穴である。貫通孔250には、配線基板4が挿通される。
【0046】
図2及び図3に示すように、連通板22から見てZ2方向の位置には、流路形成基板26が設けられる。流路形成基板26は、Y軸方向に長尺で、XY平面に略平行に延在する板状の部材である。流路形成基板26は、例えば、樹脂材料の射出成型により形成されるが、流路形成基板26の製造には公知の材料及び製法を任意に採用してもよい。
【0047】
図3に示すように、流路形成基板26には、インクの流路が形成される。具体的には、流路形成基板26には、1個の供給流路BB1と、1個の供給流路BB2とが、形成される。このうち、供給流路BB1は、供給流路BA1と連通し、供給流路BA1から見てZ2方向の位置において、Y軸方向に延在するように設けられる。供給流路BB2は、供給流路BA2と連通し、供給流路BA2から見てZ2方向の位置であって、供給流路BB1から見てX2方向の位置において、Y軸方向に延在するように設けられる。なお、以下では、供給流路BB1及び供給流路BB2を、供給流路BBと総称する場合がある。
【0048】
流路形成基板26には、供給流路BB1と連通する導入口HL1と、供給流路BB2と連通する導入口HL2と、が設けられる。そして、供給流路BB1には、液体容器93から、導入口HL1を介してインクが供給される。液体容器93から導入口HL1を介して供給流路BB1に供給されたインクは、供給流路BA1に流入する。供給流路BA1に流入したインクの一部は、接続流路BK1を経由して、圧力室CV1に充填される。駆動信号COMにより圧電素子PZ1が駆動される場合、圧力室CV1に充填されたインクの一部は、連通流路BR1を経由して、ノズルN1から吐出される。
【0049】
また、供給流路BB2には、液体容器93から、導入口HL2を介してインクが供給される。液体容器93から導入口HL2を介して供給流路BB2に供給されたインクは、供給流路BA2に流入する。供給流路BA2に流入したインクの一部は、接続流路BK2を経由して、圧力室CV2に充填される。駆動信号COMにより圧電素子PZ2が駆動される場合、圧力室CV2に充填されたインクの一部は、連通流路BR2を経由して、ノズルN2から吐出される。
【0050】
流路形成基板26には、貫通孔260が設けられている。貫通孔260は、流路形成基板26をZ1方向に見たときに、供給流路BB1及び供給流路BB2の間に位置し、流路形成基板26のZ1方向の面から、流路形成基板26のZ2方向の面までを貫通する穴である。貫通孔260には、配線基板4が挿通される。
【0051】
図2及び図3に示すように、振動板24のZ2方向の面には、配線基板4が実装される。配線基板4は、液体吐出ヘッド1を制御ユニット6に電気的に接続するための部品である。配線基板4としては、例えば、FPC又はFFC等の可撓性の配線基板が好適に採用される。ここで、FPCとは、Flexible Printed Circuitの略称であり、また、FFCとは、Flexible Flat Cableの略称である。配線基板4には、集積回路40が実装される。集積回路40は、印刷信号SIによる制御のもとで、圧電素子PZに対して、駆動信号COMを供給するか否かを切り替える電気回路である。
【0052】
図2及び図3に示すように、連通板22から見てZ1方向の位置には、供給流路BA1と接続流路BK1とを閉塞するようにコンプライアンスシートCS1が設けられ、また、供給流路BA2と接続流路BK2とを閉塞するようにコンプライアンスシートCS2が設けられている。以下では、コンプライアンスシートCS1及びコンプライアンスシートCS2を、コンプライアンスシートCSと総称する場合がある。コンプライアンスシートCSは、Y軸方向に長尺で、XY平面に略平行に延在する板状の部材である。コンプライアンスシートCSは、弾性材料から形成されており、供給流路BA及び接続流路BK内のインクの圧力変動を吸収する。
【0053】
ここで、図3に示すように、吐出部D1は、圧電素子PZ1と、圧力室CV1と、圧力室CV1に連通するノズルN1と、振動板24のうち当該圧電素子PZ1に接触する部分とを有する。同様に、吐出部D2は、圧電素子PZ2と、圧力室CV2と、圧力室CV2に連通するノズルN2と、振動板24のうち当該圧電素子PZ2に接触する部分とを有する。以下では、吐出部D1及び吐出部D2を、吐出部Dと総称する場合がある。
【0054】
1.3.検出抵抗体TK
本実施形態では、検出抵抗体TKが圧力室CVに近くに配置されることにより、圧力室CV内のインクの温度をより精度良く測定できる。本実施形態において、検出抵抗体TKは、図4及び図6等に示すように、圧電素子PZの一部である圧電体Qmと、振動板24との間に設けられ、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合に、圧力室CVに重なる位置に設けられる。例えば、検出抵抗体TKは、圧電体Qmに接触する部分を有する。以下、図4図7を参照しつつ、検出抵抗体TKを説明する。
【0055】
1.3.1.検出抵抗体TKの構造
図4は、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合における液体吐出ヘッド1の平面図である。図5は、図4におけるj-J線の断面図である。但し、図4では、説明を容易にするため、流路形成基板26及び集積回路40の図示を省略する。更に、図4では、任意の1個の要素の奥側に位置する要素の周縁、即ち、本来は手前側の要素に隠れる部位も便宜的に図示されている。
【0056】
図4に示すように、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合に、封止基板25の側壁WL1の内側に位置する空間である封止空間SP1と重なる位置において、複数のノズルN1と対応する複数の圧力室CV1と、複数のノズルN1と対応する複数の個別電極Qcと、複数のノズルN1と対応する複数の個別配線Lcと、圧電体Qmと、共通電極Qbと、共通配線Lbと、検出抵抗体TKと、検出配線LK1と、検出配線LK2と、が設けられる。検出抵抗体TKは、例えば、共通電極Qb、個別電極Qc、個別配線Lc及び共通配線Lbのいずれかと同じ材料で形成される。
【0057】
なお、個別電極Qc及び共通電極Qbの一方が「第1電極」の一例であり、個別電極Qc及び共通電極Qbの他方が「第2電極」の一例である。また、個別配線Lc及び共通配線Lbの一方が「第1配線」の一例であり、個別配線Lc及び共通配線Lbの他方が「第2配線」の一例である。すなわち、複数の個別配線Lc及び共通配線Lbは、「駆動配線」の一例である。ここで、例えば、共通電極Qbが「第1電極」に該当する場合、共通配線Lbが「第1配線」に該当し、個別電極Qcが「第2電極」に該当し、個別配線Lcが「第2配線」に該当する。
【0058】
ここで、図4の各部分の寸法は一例にすぎず、実際の寸法はこれとは異なってもよい。例えば、個別電極Qc、圧電体Qm、共通電極Qbの3つがZ軸方向から見て重なる領域が、振動板24が振動する領域、いわゆる能動領域に相当する。この能動領域のX軸方向の幅は、図4に示す幅よりも長くともよい。この領域のX軸方向の幅が長い方が、振動板24が振動可能な幅が広がり、ひいては振動量も大きくなるため、吐出特性の面で好ましい。吐出特性は、吐出量及び吐出速度の一方又は両方である。
【0059】
また、図4では、共通電極Qbは、Z軸方向から見たときに、後述する抵抗体延在部分Tky1、Tky2、TKy3と重ならない範囲で形成されているが、抵抗体延在部分TKy1、TKy2、TKy3と重なる範囲まで形成されていてもよい。つまり、共通電極QbのうちのY軸方向に延在する部分のX軸方向における幅が、図4に示すよりも長くなっており、その結果、共通電極Qbと抵抗体延在部分TKy1、TKy2、TKy3と重なるようになってもよい。
【0060】
また、図4では、Z軸方向から見たときに、共通電極Qbと共通配線Lbが完全に重なる、言い換えれば、XY平面上での位置関係が同じようにして配置されているが、異なっていてもよい。例えば、共通電極Qbは図4の通りのまま、共通配線LbはY軸方向に延在する部分で二又に分かれるような形状であってもよい。
【0061】
検出抵抗体TKは、圧力室CV1内のインクの温度を計測するために用いられる抵抗配線であり、検出抵抗体TKの温度に応じて、検出抵抗体TKの電気抵抗が変化する。温度特定部63は、検出抵抗体TKの温度に応じて検出抵抗体TKの電気抵抗が変化する性質を利用して、検出抵抗体TKから検出された電圧VKに応じた値を有する検出結果情報DKに基づいて圧力室CV1内のインクの温度を推定する。
【0062】
検出抵抗体TKの一端は、検出配線LK1が有するコンタクトホールCH1と接続する。検出抵抗体TKは、検出配線LK1を介して、配線基板4に設けられた配線と電気的に接続される。検出抵抗体TKの他端は、検出配線LK2が有するコンタクトホールCH2と接続する。検出抵抗体TKは、検出配線LK2を介して、配線基板4に設けられた配線と電気的に接続される。
【0063】
検出抵抗体TKは、抵抗体延在部分TKx1と、抵抗体延在部分TKy1と、抵抗体延在部分TKy2と、抵抗体延在部分TKy3と、抵抗体延在部分TKx2と、を有する。
【0064】
抵抗体延在部分TKx1は、X軸方向に延在する。抵抗体延在部分TKx1の一端が、検出配線LK1が有するコンタクトホールCH1に接続し、他端が抵抗体延在部分TKy1に接続する。抵抗体延在部分TKy1は、Y軸方向に延在する。抵抗体延在部分TKy1の一端が抵抗体延在部分TKx1に接続し、他端が抵抗体延在部分TKy2に接続する。抵抗体延在部分TKy2は、抵抗体延在部分TKy1よりも配線基板4に近い位置においてY軸方向に延在する。抵抗体延在部分TKy2の一端が抵抗体延在部分TKy1に接続し、他端が抵抗体延在部分TKy3に接続する。抵抗体延在部分TKy3は、抵抗体延在部分TKy2よりも配線基板4に近い位置においてY軸方向に延在する。抵抗体延在部分TKy3の一端が抵抗体延在部分TKy2に接続し、他端が抵抗体延在部分TKx2に接続する。抵抗体延在部分TKx2は、抵抗体延在部分TKx1よりもY1方向の位置においてX軸方向に延在する。抵抗体延在部分TKx2の一端が、検出配線LK2が有するコンタクトホールCH2に接続し、他端が抵抗体延在部分TKy3に接続する。
【0065】
検出配線LK1には、電流供給回路81から、配線基板4上の配線を介して、所定の大きさの定電流である電流I0が供給される。また、検出配線LK2には、グラウンド電位に設定された配線基板4上の配線が電気的に接続される。このため、検出配線LK1に供給される電流I0は、検出配線LK1から、抵抗体延在部分TKx1、抵抗体延在部分TKy1、抵抗体延在部分TKy2、抵抗体延在部分TKy3、抵抗体延在部分TKx2、及び、検出配線LK2を介して、検出配線LK2が電気的に接続される配線基板4上の配線へと流れる。
【0066】
なお、検出抵抗体TKは、電気抵抗値が温度依存性を有する導電性の材料から形成される。具体的には、検出抵抗体TKの材料としては、例えば、金、白金、イリジウム、アルミニウム、銅、チタン、タングステン、ニッケル、又は、クロム等を採用することができる。
【0067】
また、検出配線LK1及び検出配線LK2は、導電性の材料から形成される。検出配線LK1及び検出配線LK2の材料としては、例えば、金、銅、チタン、タングステン、ニッケル、クロム、白金、又は、アルミニウム等を採用することができる。本実施形態では、検出配線LK1及び検出配線LK2の材料として、検出抵抗体TKよりも電気抵抗値が小さい材料が採用される。このため、本実施形態では、検出配線LK1及び検出配線LK2の材料として、検出抵抗体TKよりも電気抵抗値が大きい材料が使用される態様と比較して、検出抵抗体TKの両端の電圧VKを正確に把握することが可能となる。但し、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、検出配線LK1及び検出配線LK2は、検出抵抗体TKと同じ材料から形成されてもよい。
【0068】
共通配線Lbは、部分配線Lb1と、部分配線Lb2と、部分配線Lb3と、を有する。
【0069】
部分配線Lb1は、X軸方向に延在する。部分配線Lb1の一端が配線基板4に設けられた配線と電気的に接続し、他端が部分配線Lb2に接続する。部分配線Lb2は、Y軸方向に延在する。部分配線Lb2の一端が部分配線Lb1に接続し、他端が部分配線Lb3に接続する。部分配線Lb3は、X軸方向に延在する。部分配線Lb3の一端が部分配線Lb2に接続し、他端が配線基板4に設けられた配線と電気的に接続する。
【0070】
なお、部分配線Lb1が電気的に接続する配線基板4上の配線と、部分配線Lb3が電気的に接続する配線基板4上の配線とは、所定の基準電位VBSに設定されている。このため、共通配線Lbの電位も、基準電位VBSに設定される。
【0071】
共通電極Qbは、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合に、部分配線Lb2と重なる領域に設けられる。本実施形態では、共通電極Qbは、複数の圧力室CV1に対して共通に設けられる。より具体的には、共通電極Qbは、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合に、複数の圧力室CV1に重なるように設けられる。共通電極Qbは、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合に、複数の圧力室CV1のうちの一部又は全部の圧力室CV1が、共通電極Qbと重ならない部分を有するように設けられる。
【0072】
図5に示すように、共通電極Qbは、圧電体Qmの面PL1に設けられる。本実施形態において、共通電極Qbは、いわゆる上部電極である。
【0073】
共通電極Qbは、部分配線Lb2と接続する。このため、共通電極Qbの電位は、基準電位VBSに設定される。
【0074】
なお、共通電極Qbは、導電性の材料から形成される。具体的には、共通電極Qbの材料としては、例えば、白金、イリジウム、金、若しくは、チタンといった金属、又は、ITOと略される酸化インジウムスズといった導電性金属酸化物等の導電材料を採用することができる。
また、共通配線Lbは、導電性の材料から形成される。具体的には、共通配線Lbの材料としては、例えば、金、銅、チタン、タングステン、ニッケル、クロム、白金、又は、アルミニウム等を採用することができる。
【0075】
圧電体Qmは、複数の圧力室CV1に対して共通に設けられる。より具体的には、図4に示すように、圧電体Qmは、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合に、複数の圧力室CV1に重なるように設けられる。但し、圧電体Qmは、液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視した場合に、複数の圧力室CV1のうちの一部又は全部の圧力室CV1が、圧電体Qmと重ならない部分を有するように設けられてもよい。
【0076】
圧電体Qmは、例えば、電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜、いわゆるペロブスカイト型結晶から形成される。具体的には、圧電体Qmの材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電性圧電材料、又は、チタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電性圧電材料に対して、酸化ニオブ、酸化ニッケル、若しくは、酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等を採用することができる。より具体的には、圧電体Qmの材料としては、例えば、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等を採用することができる。即ち、圧電体Qmは、鉛の化合物によって構成されており、鉛原子を含む。
【0077】
上述した圧電材料をスパッタリング等の公知の成膜技術により形成し、フォトリソグラフィ等の公知の加工技術により当該圧電材料を高温焼成することにより、圧電体Qmを形成することが可能である。
【0078】
上述のとおり、液体吐出ヘッド1には、複数の圧力室CV1と対応するように、複数の個別電極Qcが設けられる。また、液体吐出ヘッド1には、複数の個別電極Qcと対応するように、複数の個別配線Lcが設けられる。各個別配線Lcには、配線基板4に設けられた配線を介して、駆動信号生成ユニット7で生成された駆動信号COMが供給される。図5に例示される通り、個別電極Qcは、圧電体Qmの面PL2に設けられる。本実施形態において、個別電極Qcは、いわゆる下部電極である。
【0079】
なお、個別配線Lcは、導電性の材料から形成される。具体的には、個別配線Lcの材料としては、例えば、金、銅、チタン、タングステン、ニッケル、クロム、白金、又は、アルミニウム等を採用することができる。
【0080】
また、個別電極Qcは、導電性の材料から形成される。具体的には、個別電極Qcの材料としては、例えば、白金、イリジウム、金、若しくは、チタンといった金属、又は、ITOと略される酸化インジウムスズといった導電性金属酸化物等の導電材料を採用することができる。なお、本実施形態では、一例として、検出抵抗体TKが、個別電極Qcと共通電極Qbと同じ材料により形成される場合を想定する。具体的には、本実施形態では、一例として、検出抵抗体TKと、個別電極Qcと、共通電極Qbとが、白金から形成される場合を想定する。
【0081】
圧電素子PZは、基準電位VBSに設定された共通電極Qbと、駆動信号COMが供給される個別電極Qcとの間に、圧電体Qmを介在させた積層体である。液体吐出ヘッド1をZ1方向に平面視したときに、圧電体Qmと、共通電極Qbと、一の圧力室CV1に対応する個別電極Qcと、が重なる部分が、一の圧力室CV1に対応する圧電素子PZに該当する。圧電素子PZのZ1方向の位置には、当該圧電素子PZに対応する圧力室CV1が設けられる。
【0082】
上述の通り、圧電素子PZは、駆動信号COMの電位変化に応じて駆動されて変形する。振動板24は、圧電素子PZの変形に連動して振動する。振動板24が振動すると、圧力室CV1内の圧力が変動する。圧力室CV1内の圧力が変動する場合で、圧力室CV1の内部に充填されたインクが、連通流路BR1を経由して、ノズルN1から吐出される。
【0083】
1.3.2.検出抵抗体TKの役割
電流供給回路81から検出配線LK1に供給された電流I0は、検出抵抗体TKを介して、グラウンド電位に設定された検出配線LK2へと流れる。このため、検出配線LK1に接続する検出抵抗体TKの一端と、検出配線LK2に接続する検出抵抗体TKの他端との間に印加される電圧VKは、検出抵抗体TKの一端と他端との間の抵抗値RKを用いて、「VK=I0*RK」として表される。すなわち、電流供給回路81から検出配線LK1を介して、検出抵抗体TKに電流I0が供給される場合、電圧検出回路82は、検出抵抗体TKから、値「I0*RK」を示す電圧VKを検出する。例えば、電圧検出回路82は、印刷処理期間の開始前に、検出抵抗体TKから、値「I0*RK」を示す電圧VKを検出する。
【0084】
抵抗値RKは、検出抵抗体TKの温度に応じて変化するため、温度特定部63は、電圧検出回路82が検出した電圧VKを示す検出結果情報DKに基づいて、圧力室CVの温度を特定することが可能となる。検出抵抗体TKの温度に応じた抵抗値RKの特性は、検出抵抗体TKの材料、及び、検出抵抗体TKの形状が決定することにより特定できる。そして、検出抵抗体TKの構成材料、及び、検出抵抗体TKの形状は、液体吐出ヘッド1の開発者により決定される事項である。制御ユニット6の記憶回路68は、検出抵抗体TKが取り得る複数の温度と、検出抵抗体TKが取り得る複数の温度のそれぞれにおける抵抗値RKとの関係を示すテーブルを記憶する。なお、電流IOは所定の大きさであるため、抵抗値RKと電圧VKとは比例関係にある。従って、制御ユニット6の記憶回路68は、検出抵抗体TKが取り得る複数の温度と、検出抵抗体TKが取り得る複数の温度のそれぞれにおける電圧VKとの関係を示すテーブルを記憶してもよい。以下では、理解を容易にするため、制御ユニット6の記憶回路68は、検出抵抗体TKが取り得る複数の温度と、検出抵抗体TKが取り得る複数の温度のそれぞれにおける抵抗値RKとの関係を示すテーブルを記憶することとして説明する。温度特定部63は、このテーブルを参照し、検出結果情報DKに基づいて、圧力室CVの温度を特定する。
【0085】
しかしながら、液体吐出ヘッド1内に設けられた検出抵抗体TKによる温度の計測が、印刷処理期間、すなわち、圧電体Qmに駆動信号COMが供給されている期間に実行される場合、検出抵抗体TKによる温度の計測精度が低下することがある。例えば、検出抵抗体TKから検出される電圧VKに、駆動信号COMに起因するノイズが重畳された場合、検出抵抗体TKによる温度の計測精度が低下する。この場合、補正部64が、温度特定部63により推定された温度に基づいて、駆動信号COMに含まれる吐出パルスを補正しても、圧力室CV内のインクの温度に適した補正にならないおそれがある。すなわち、検出抵抗体TKによる温度の計測精度が低下した場合、圧力室CV内のインクの温度に適した吐出制御が液体吐出ヘッド1に対して実行されないおそれがある。
【0086】
このため、本実施形態では、上述したように、温度特定部63は、印刷処理期間の開始前に取得された検出結果情報DK及びデューティー情報に基づいて、印刷処理期間における液体吐出ヘッド1内のインクの温度を推定する。
【0087】
なお、図4及び図5並びに後述する図6及び図7では、液体吐出ヘッド1のうち、配線基板4よりもX1方向に位置する封止空間SP1に対応する部分の構成を例示して説明したが、配線基板4よりもX2方向に位置する封止空間SP2に対応する部分の構成についても、図4図5図6、及び、図7と同様の説明が該当する。
【0088】
図6は、図4におけるk-K線の断面図である。
【0089】
図6に示すように、振動板24が有するZ軸方向を法線方向とする2つの面のうち、Z2方向の面には、圧電素子PZ1と、検出抵抗体TKと、封止基板25とが形成されている。
【0090】
以下では、圧電体Qmが有するZ軸方向を法線方向とする2つの面のうち、Z2方向の面を、面PL1と称し、Z1方向の面を、面PL2と称する。なお、面PL1及び面PL2の一方は、「第1面」の一例であり、面PL1及び面PL2の他方は、「第2面」の一例である。例えば、面PL1が「第1面」に該当する場合、面PL2は、「第2面」に該当する。
【0091】
圧電体Qmの面PL1には、共通電極Qbと個別配線Lcの一部とが形成されている。そして、共通電極Qbが有するZ軸方向を法線方向とする2つの面のうち、Z2方向の面には、共通配線Lbの一部である部分配線Lb2が形成されている。
【0092】
圧電体Qmの面PL2には、個別電極Qcと検出抵抗体TKとが形成されている。すなわち、検出抵抗体TKは、圧電体Qmに接触する部分を有し、面PL1よりも面PL2の近くに設けられる。なお、本実施形態において、検出抵抗体TKは、液体吐出ヘッド1をZ1方向に見たときに、封止空間SPと重なる位置に設けられる。すなわち、本実施形態において、検出抵抗体TKは、液体吐出ヘッド1をZ1方向に見たときに、封止基板25の側壁WL1とは重ならない位置に設けられる。
【0093】
図7は、図4におけるm-M線の断面図である。
【0094】
図7に示すように、検出配線LK1は、配線部分LKp1とコンタクトホールCH1とを有する。そして、振動板24が有するZ軸方向を法線方向とする2つの面のうち、Z2方向の面には、配線部分LKp1と、検出抵抗体TKと、圧電体Qmと、封止基板25とが形成されている。
【0095】
圧電体Qmの面PL1には、配線部分LKp1と共通電極Qbとが形成されている。そして、共通電極Qbが有するZ軸方向を法線方向とする2つの面のうち、Z2方向の面には、共通配線Lbの一部である部分配線Lb2が形成されている。
【0096】
圧電体Qmの面PL2には、検出抵抗体TKが形成されている。そして、検出抵抗体TK及び配線部分LKp1は、圧電体Qmを貫通するコンタクトホールCH1により電気的に接続される。
【0097】
なお、本実施形態では、検出配線LK2は検出配線LK1と同様の構成を有し、抵抗体延在部分TKx2は抵抗体延在部分TKx1と同様の構成を有し、部分配線Lb3は部分配線Lb1と同様の構成を有する場合を想定する。
【0098】
1.4.液体吐出ヘッド1に供給される各種信号の概要
図8は、液体吐出ヘッド1に供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【0099】
制御ユニット6は、パルスPLLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御ユニット6は、パルスPLLの立ち上がりから次のパルスPLLの立ち上がりまでの期間として、単位期間TPを規定する。本実施形態では、印刷処理期間PTPの開始タイミングTsから終了タイミングTeまでの間に複数の単位期間TPが含まれる場合を想定する。すなわち、印刷処理期間PTPは、複数の単位期間TPを含む。
【0100】
本実施形態に係る印刷信号SIは、複数の吐出部Dと1対1に対応する複数の個別指定信号Sdを含む。各個別指定信号Sdは、液体吐出装置100が印刷処理又はフラッシング処理を実行する場合に、各個別指定信号Sdに対応する吐出部Dの各単位期間TPにおける駆動の態様を指定する。例えば、制御ユニット6は、各単位期間TPに先立って、複数の個別指定信号Sdを含む印刷信号SIを、クロック信号CLに同期させて集積回路40に供給する。そして、集積回路40は、当該単位期間TPにおいて、個別指定信号Sdに基づいて、吐出部Dに駆動信号COMを供給するか否かを指定する信号を生成する。
【0101】
例えば、吐出部Dは、印刷処理が実行される単位期間TPにおいて、個別指定信号Sdにより、ドットを形成する吐出部D、及び、ドットを形成しない吐出部Dのいずれかに指定される。
【0102】
駆動信号COMは、ノズルNからインクを吐出させる波形PA1を有する。例えば、駆動信号COMは、単位期間TPに設けられた波形PA1のパルスを有する。波形PA1のパルスは、例えば、圧電体Qmを変形させて圧力室CVの容積を変化させるパルスである。なお、波形PA1のパルスは、「吐出パルス」の一例である。波形PA1は、駆動信号COMの電位が、電位V0から、電位V0よりも低い電位VLa、及び、電位V0よりも高い電位VHaを経て、電位V0に戻る波形である。電位V0は、波形PA1の開始時及び終了時の電位であり、駆動信号COMの基準電位である。
【0103】
電位V0、VLa及びVHaの各々は、例えば、吐出部Dによるインクの吐出特性等に基づいて定められる。インクの吐出特性は、例えば、インク滴として吐出されるインクの量、及び、吐出されたインク滴の吐出速度等である。
【0104】
以下では、波形PA1のうち、駆動信号COMの電位が電位V0から電位VLaに変化する部分は、波形Pa10とも称され、駆動信号COMの電位が波形Pa10の終了時の電位VLaに維持される部分は、波形Pa11とも称される。また、波形PA1のうち、駆動信号COMの電位が電位VLaから電位VHaに変化する部分は、波形Pa12とも称され、駆動信号COMの電位が波形Pa12の終了時の電位VHaに維持される部分は、波形Pa13とも称される。そして、波形PA1のうち、駆動信号COMの電位が電位VHaから電位V0に変化する部分は、波形Pa14とも称される。すなわち、波形PA1は、波形Pa10、Pa11、Pa12、Pa13及びPa14を含む。
【0105】
波形Pa10及びPa14は、圧電素子PZをZ2方向に変位させるための波形である。すなわち、波形Pa10及びPa14は、駆動信号COMの電位が、圧力室CVの容積を膨張させるように変化する波形である。従って、波形Pa10及びPa14は、波形PA1のパルスを構成する複数の要素のうち、圧力室CVの容積を膨張させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位を変化させる膨張要素に該当する。圧力室CVの容積が膨張した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向の反対方向であるZ2方向に引き込まれる。以下では、ノズルN内のインクの表面を吐出方向の反対方向に引き込むことを、プルと称する場合がある。
【0106】
波形Pa12は、圧電素子PZをZ1方向に変位させるための波形である。すなわち、波形Pa12は、駆動信号COMの電位が、圧力室CVの容積を収縮させるように変化する波形である。従って、波形Pa12は、波形PA1のパルスを構成する複数の要素のうち、圧力室CVの容積を収縮させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位を変化させる収縮要素に該当する。圧力室CVの容積が収縮した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向であるZ1方向に押し出される。以下では、ノズルN内のインクの表面を吐出方向に押し出すことを、プッシュと称する場合がある。
【0107】
波形Pa11及びPa13は、圧電素子PZのZ方向の位置を維持するための波形である。例えば、波形Pa11は、波形PA1のパルスを構成する複数の要素のうち、波形Pa10により膨張した圧力室CVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位を維持する膨張維持要素に該当する。また、例えば、波形Pa13は、波形PA1のパルスを構成する複数の要素のうち、波形Pa12により収縮した圧力室CVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位を維持する収縮維持要素に該当する。
【0108】
このように、波形PA1は、所謂プル・プッシュ・プル波形である。
【0109】
波形PA1は、波形PA1を有する駆動信号COMが吐出部Dに供給される場合に、吐出部Dから、所定量のインクが吐出されるように定められる。なお、本実施形態では、駆動信号COMの電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部Dの備える圧力室CVの容積が小さくなる場合を想定している。このため、波形PA1を有する駆動信号COMにより吐出部Dが駆動される場合、駆動信号COMの電位が低電位から高電位に変化する波形Pa12により、吐出部D内のインクがノズルNから吐出される。
【0110】
例えば、波形PA1に含まれる波形Pa10、Pa11、Pa12、Pa13及びPa14は、吐出部Dによるインクの吐出特性に基づいて定められる。そして、例えば、補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいて、所定量のインクが吐出されるように、波形PA1を補正する。すなわち、補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいて、波形PA1を補正することにより、吐出パルスを補正する。
【0111】
なお、図8では、1つの駆動信号COMが用いられる場合を例示したが、駆動信号COMは、1つに限定されない。例えば、ノズルNからインクを吐出させる駆動信号COMとして、ドットの大きさに応じた複数の駆動信号COMが用いられてもよい。あるいは、ノズルNからインクを吐出させる駆動信号COMと、ノズルNからインクを吐出させない駆動信号COMとが用いられてもよい。
【0112】
また、複数の駆動信号COMが用いられる場合、圧電体Qmの発熱量等は、圧電体Qmに供給されるパルスの形状によって変化する。また、複数の駆動信号COMが用いられる場合、単位時間当たりの吐出量が同じ印刷処理であっても、圧電体Qmに供給されるパルスの種類及び数が異なる場合がある。このため、単位時間に圧電素子PZに供給されるパルスの数が吐出デューティーのパラメーターとして用いられる場合、圧電体Qmに供給されるパルスの数は、パルスの種類毎にカウントされることが好ましい。
【0113】
1.5.温度推定の概要
本実施形態では、温度特定部63が、第1推定処理又は第2推定処理を実行することにより、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定する場合を想定する。第1推定処理は、印刷処理期間PTPの開始タイミングTsにおける圧力室CV内のインクの温度として検出結果情報DKにより特定される開始温度よりも高い一定の推定温度を、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内の液体の温度として推定する処理である。
【0114】
また、第2推定処理は、印刷処理期間PTP内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度を、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として推定する処理である。先ず、図9を参照しつつ、第1推定処理に用いられる温度推定テーブルTTBLaの一例を説明する。
【0115】
図9は、第1推定処理に用いられる温度推定テーブルTTBLaの一例を説明図するための説明図である。温度推定テーブルTTBLaは、例えば、制御ユニット6の記憶回路68に記憶される。
【0116】
温度推定テーブルTTBLaは、例えば、開始温度、吐出デューティー、印刷時間及び推定温度が互いに対応付けられた複数の温度推定情報TINFaを記憶する。例えば、温度推定情報TINFaは、予め実験結果に基づいて設定されていてもよく、また、印刷が実行される度に、その結果に基づいて温度推定テーブルTTBLaに蓄積されてもよい。図9では、複数の温度推定情報TINFaを互いに区別するために、複数の温度推定情報TINFaの各々の符号の末尾に数字が付されている。
【0117】
開始温度は、印刷処理期間PTPの開始タイミングにおける圧力室CV内のインクの温度である。印刷時間は、印刷処理期間PTPの長さである。また、推定温度は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として推定される温度である。例えば、推定温度は、開始温度と、印刷処理期間PTPの終了タイミングにおける圧力室CV内のインクの温度である終了温度との間の温度である。第1推定処理では、上述したように、推定温度は、印刷処理期間PTPにおいて一定の温度である。
【0118】
図9では、推定温度の説明を分かり易くするために、終了温度が備考として記載されているが、終了温度は、温度推定情報TINFaに含まれてもよいし、温度推定情報TINFaに含まれなくてもよい。すなわち、終了温度は、温度推定テーブルTTBLaに記憶されてもよいし、温度推定テーブルTTBLaに記憶されなくてもよい。
【0119】
図9に示すように、開始温度が互いに同じ2つの印刷処理であっても、吐出デューティー及び印刷時間の少なくとも一方が2つの印刷処理で異なる場合、終了温度が異なる場合がある。例えば、吐出デューティー以外の開始温度及び印刷時間等の印刷条件が同じ2つの印刷処理では、吐出デューティーが大きい印刷処理が、吐出デューティーが小さい印刷処理に比べて、終了温度が高くなる傾向にある。また、例えば、印刷時間以外の開始温度及び吐出デューティー等の印刷条件が同じ2つの印刷処理では、印刷時間が長い印刷処理が、印刷時間が短い印刷処理に比べて、終了温度が高くなる傾向にある。
【0120】
図9に示す例では、温度推定情報TINFa1では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが5%で、印刷時間が10分で、推定温度が26℃である。温度推定情報TINFa2では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが5%で、印刷時間が20分で、推定温度が27℃である。温度推定情報TINFa3では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが10%で、印刷時間が10分で、推定温度が27℃である。温度推定情報TINFa4では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが10%で、印刷時間が10分で、推定温度が28℃である。なお、終了温度は、図9の備考に示すように、温度推定情報TINFa1では27℃であり、温度推定情報TINFa2では29℃であり、温度推定情報TINFa3では29℃であり、温度推定情報TINFa4では31℃である。図9に示す例の吐出デューティーは、印刷時間内の可能最大インク吐出量に対する、実際に印刷のために吐出するインク量の割合である。
【0121】
開始温度が同じ2つの印刷処理であっても、終了温度が異なる場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度が2つの印刷処理で異なると考えられる。従って、本実施形態では、温度特定部63は、開始温度、吐出デューティー及び印刷時間等の印刷条件が、温度の推定対象となる印刷処理に近い温度推定情報TINFaを用いて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定する。開始温度、吐出デューティー及び印刷時間等の印刷条件は、例えば、第1取得部61により印刷処理期間PTPの開始前に取得されたデューティー情報、及び、第2取得部62により印刷処理期間PTPの開始前に取得された検出結果情報DK等により特定される。
【0122】
例えば、開始温度が25℃で、吐出デューティーが5%で、印刷時間が20分の印刷処理が実行される場合、温度特定部63は、温度推定情報TINFa2を参照する。そして、温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を、温度推定情報TINFa2により示される推定温度である26℃と推定する。
【0123】
次に、図10を参照しつつ、第2推定処理に用いられる温度推定テーブルTTBLbの一例を説明する。
【0124】
図10は、第2推定処理に用いられる温度推定テーブルTTBLbの一例を説明図するための説明図である。温度推定テーブルTTBLbは、例えば、制御ユニット6の記憶回路68に記憶される。
【0125】
温度推定テーブルTTBLbは、例えば、開始温度、吐出デューティー、印刷時間及び推定温度が互いに対応付けられた複数の温度推定情報TINFbを記憶する。例えば、温度推定情報TINFbは、予め実験結果に基づいて設定されていてもよく、また、印刷が実行される度に、温度推定テーブルTTBLbに蓄積されてもよい。図10では、複数の温度推定情報TINFbを互いに区別するために、複数の温度推定情報TINFbの各々の符号の末尾に数字が付されている。
【0126】
なお、温度推定情報TINFbは、推定温度を除いて温度推定情報TINFaと同様である。第2推定処理では、上述したように、印刷処理期間PTP内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度が、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として推定される。例えば、各温度推定情報TINFbにより示される複数の推定温度のうち、開始タイミングTsよりも後のタイミングの推定温度は、開始温度以上であり、終了タイミングTeよりも前のタイミングの推定温度は、終了温度以下である。また、印刷処理期間PTP内の複数のタイミングのうちの一のタイミングの推定温度は、一のタイミングよりも前のタイミングの推定温度以上である。
【0127】
例えば、温度推定情報TINFbでは、開始タイミングTs、及び、開始タイミングTsから所定時間経過するごとのタイミングを含む複数のタイミングに対応する複数の推定温度が、各温度推定情報TINFbにより示される。図10では、所定時間が5分である場合が例示されているが、所定時間は、5分に限定されない。例えば、所定時間は、1分でもよい。
【0128】
温度推定情報TINFb1では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが5%で、印刷時間が10分である。そして、温度推定情報TINFb1は、開始タイミングTsの推定温度が25℃で、開始タイミングTsから5分経過後のタイミングの推定温度が26℃で、開始タイミングTsから10分経過後の終了タイミングTeの推定温度が27℃であることを示す。
【0129】
また、温度推定情報TINFb2では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが5%で、印刷時間が20分である。そして、温度推定情報TINFb2は、開始タイミングTsの推定温度が25℃で、開始タイミングTsから5分経過後のタイミングの推定温度が26℃で、開始タイミングTsから10分経過後のタイミングの推定温度が27℃で、開始タイミングTsから15分経過後のタイミングの推定温度が28℃で、開始タイミングTsから20分経過後の終了タイミングTeの推定温度が29℃であることを示す。
【0130】
また、温度推定情報TINFb3では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが10%で、印刷時間が10分である。そして、温度推定情報TINFb3は、開始タイミングTsの推定温度が25℃で、開始タイミングTsから5分経過後のタイミングの推定温度が27℃で、開始タイミングTsから10分経過後の終了タイミングTeの推定温度が29℃であることを示す。
【0131】
また、温度推定情報TINFb4では、開始温度が25℃で、吐出デューティーが10%で、印刷時間が20分である。そして、温度推定情報TINFb4は、開始タイミングTsの推定温度が25℃で、開始タイミングTsから5分経過後のタイミングの推定温度が26.5℃で、開始タイミングTsから10分経過後のタイミングの推定温度が28℃で、開始タイミングTsから15分経過後のタイミングの推定温度が29.5℃で、開始タイミングTsから20分経過後の終了タイミングTeの推定温度が31℃であることを示す。
【0132】
従って、例えば、開始温度が25℃で、吐出デューティーが5%で、印刷時間が20分の印刷処理が実行される場合、温度特定部63は、温度推定情報TINFb2を参照する。そして、温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、温度推定情報TINFb2により示される複数の推定温度を推定する。
【0133】
なお、図10においても、図9と同様に、推定温度の説明を分かり易くするために、終了温度が備考として記載されているが、終了温度は、温度推定情報TINFbに含まれてもよいし、温度推定情報TINFbに含まれなくてもよい。すなわち、終了温度は、温度推定テーブルTTBLbに記憶されてもよいし、温度推定テーブルTTBLbに記憶されなくてもよい。
【0134】
以下では、温度推定テーブルTTBLa及び温度推定テーブルTTBLbを、温度推定テーブルTTBLと総称する場合がある。同様に、温度推定情報TINFa及び温度推定情報TINFbを、温度推定情報TINFと総称する場合がある。
【0135】
なお、温度推定テーブルTTBLの構成は、図9及び図10に示した例に限定されない。例えば、開始温度、吐出デューティー及び印刷時間の一部又は全部は、所定の範囲で区分けされてもよい。具体的には、例えば、印刷時間は、5分未満、5分以上15分未満、及び、15分以上20分未満等のように所定の範囲で区分けされてもよい。
【0136】
また、例えば、温度推定テーブルTTBLbでは、温度推定情報TINFbにより示される推定温度は、開始タイミングTsから所定時間経過するごとの温度の増加量であってもよい。
【0137】
また、例えば、温度推定テーブルTTBLa及び温度推定テーブルTTBLbは、1つの温度推定テーブルTTBLとして制御ユニット6の記憶回路68に記憶されてもよい。すなわち、温度推定情報TINFは、開始温度、吐出デューティー、印刷時間、第1推定処理で参照される推定温度、及び、第2推定処理で参照される推定温度が互いに対応付けられた情報であってもよい。また、温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定する処理として第1推定処理及び第2推定処理の一方のみを実行する機能ブロックであってもよい。
【0138】
次に、図11を参照しつつ、第1推定処理及び第2推定処理により推定される推定温度の具体例を説明する。
【0139】
図11は、第1推定処理及び第2推定処理により推定された推定温度の一例を説明するための説明図である。なお、図11では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの推定温度として開始温度が用いられる態様も、第1推定処理及び第2推定処理と対比される対比例として示されている。
【0140】
図11では、印刷処理期間PTPの長さを示す印刷期間情報を印刷処理期間PTPの開始前に第1取得部61がさらに取得する場合を想定する。また、図11では、図9及び図10に示した温度推定テーブルTTBLが用いられる場合を想定する。
【0141】
図11に示す例では、第1取得部61及び第2取得部62により取得された取得情報AINFは、開始温度が25℃で、吐出デューティーが5%で、印刷時間が20分の印刷処理が実行されることを示している。このため、温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第1推定処理により推定する場合、温度推定情報TINFa2を参照する。あるいは、温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第2推定処理により推定する場合、温度推定情報TINFb2を参照する。
【0142】
そして、温度特定部63は、温度推定情報TINFa2又は温度推定情報TINFb2により示される推定温度を、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として推定する。従って、第1推定処理では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、27℃の一定温度が推定される。
【0143】
また、第2推定処理では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、開始タイミングTsと、開始タイミングTsから5分経過後、10分経過後及び15分経過後のタイミングと、開始タイミングTsから20分経過後の終了タイミングTeとの推定温度が推定される。具体的には、第2推定処理では、開始タイミングTsの推定温度が25℃で、開始タイミングTsから5分経過後のタイミングの推定温度が26℃で、開始タイミングTsから10分経過後のタイミングの推定温度が27℃で、開始タイミングTsから15分経過後のタイミングの推定温度が28℃で、開始タイミングTsから20分経過後の終了タイミングTeの推定温度が29℃と推定される。
【0144】
なお、対比例では、上述したように、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、開始温度の25℃が用いられる。図11では、第1推定処理、第2推定処理及び対比例の比較を容易にするために、印刷時間と温度との関係を示すグラフも図示されている。図11のグラフの四角のマークは、印刷処理期間PTPの開始前及び終了後に取得された検出結果情報DKに基づいて算出された温度を示す。以下では、検出結果情報DKに基づいて算出された終了温度が29℃である場合を例にして、第1推定処理、第2推定処理及び対比例を比較する。
【0145】
例えば、第1推定処理では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの推定温度と、印刷前の開始温度及び印刷後の終了温度との差は、±2℃である。また、第2推定処理では、印刷処理期間PTPの開始タイミングTsにおける圧力室CV内のインクの推定温度は、印刷前の開始温度と一致し、印刷処理期間PTPの終了タイミングTeにおける圧力室CV内のインクの推定温度は、印刷後の終了温度と一致する。これに対し、対比例では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの推定温度として開始温度の25℃が用いられるため、推定温度と印刷後の終了温度との差は、第1推定処理及び第2推定処理に比べて大きくなる。換言すれば、第1推定処理及び第2推定処理では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの実際の温度と推定温度との差が大きくなることを抑制することができる。
【0146】
このように、本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の計測精度が低下することを抑制することができる。このため、本実施形態では、圧力室CV内のインクの温度に適した吐出制御が液体吐出ヘッド1に対して実行されなくなることを抑制できる。すなわち、本実施形態では、圧力室CV内のインクの温度に適した吐出制御を液体吐出ヘッド1に対して実行することができる。
【0147】
なお、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第1推定処理及び第2推定処理のいずれにより推定するかは、予め決められていてもよいし、印刷データIMGに基づいて選択されてもよい。
【0148】
また、第1取得部61は、印刷処理期間PTPの長さを示す印刷期間情報を印刷処理期間PTPの開始前に取得しなくてもよい。この場合、例えば、温度推定情報TINFは、開始温度、吐出デューティー、及び、開始タイミングTsから所定時間経過するごとの温度の増加量が互いに対応付けられた情報であってもよい。そして、温度特定部63は、開始タイミングTsから所定時間経過するごとに、温度推定情報TINFにより示される増加量だけ推定温度を高くすることにより、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定してもよい。
【0149】
1.6.第1実施形態のまとめ
以上、本実施形態では、液体吐出装置100は、インク滴を吐出する液体吐出ヘッド1、及び、液体吐出ヘッド1を制御する制御ユニット6を含む。液体吐出ヘッド1は、インク滴を吐出するノズルN、ノズルNに連通する圧力室CV、圧力室CV内のインクに圧力変動を与えるために駆動される圧電体Qm、圧電体Qmが有する複数の面のうちの面PL1に設けられた共通電極Qb、及び、複数の面のうちの面PL1とは反対側の面PL2に設けられた個別電極Qcを含む複数の吐出部Dと、共通電極Qb及び個別電極Qcに電気的にそれぞれ接続される共通配線Lb及び個別配線Lcを含み、圧電体Qmを駆動するための電圧を共通電極Qb及び個別電極Qc間に印加する駆動配線と、共通電極Qb、個別電極Qc及び駆動配線のいずれかと同じ材料で形成され、圧力室CV内のインクの温度を計測するための検出抵抗体TKと、を有する。制御ユニット6は、複数の吐出部Dから吐出されるインク滴の吐出デューティーを示すデューティー情報を印刷処理期間PTPの開始前に取得する第1取得部61と、検出抵抗体TKの電位を示す検出結果情報DKを印刷処理期間PTPの開始前に取得する第2取得部62と、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を検出結果情報DK及びデューティー情報に基づいて推定する温度特定部63と、を有する。
【0150】
このように、本実施形態では、印刷処理期間PTPの開始前に取得された検出結果情報DK及びデューティー情報に基づいて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度が推定される。すなわち、本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける検出抵抗体TKの電位の代わりに、吐出デューティー及び印刷処理期間PTPの開始前の検出抵抗体TKの電位に基づいて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度が推定される。例えば、印刷処理期間PTPにおける検出抵抗体TKの電位は、印刷処理期間PTPに共通電極Qb及び個別電極Qc間に印加される電圧等に起因するノイズの影響を受ける場合がある。この場合、印刷処理期間PTPにおける検出抵抗体TKの電位に基づいて計測された温度の精度は、低下する。本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける検出抵抗体TKの電位を用いずに、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推測することができるため、検出抵抗体TKによる温度の計測精度が低下することを抑制することができる。この結果、本実施形態では、圧力室CV内のインクの温度に適した吐出制御が液体吐出ヘッド1に対して実行されなくなることを抑制できる。
【0151】
また、本実施形態では、共通配線Lb及び個別配線Lcのうちの一方に供給される駆動信号COMを出力する駆動信号生成ユニット7を有する。駆動信号COMは、ノズルNからインク滴を吐出させる吐出パルスを含む。制御ユニット6は、温度特定部63により推定された温度に基づいて、吐出パルスを補正する補正部64を有する。このように、本実施形態では、吐出パルスは、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの推定温度に基づいて補正される。これにより、本実施形態では、圧力室CV内のインクの温度に適した吐出パルスを用いて圧電体Qmを駆動することができる。
【0152】
また、本実施形態では、温度特定部63は、第1推定処理又は第2推定処理を検出結果情報DK及びデューティー情報に基づいて実行することにより、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定する。第1推定処理は、印刷処理期間PTPの開始タイミングにおける圧力室CV内のインクの温度として検出結果情報DKにより特定される開始温度よりも高い一定の推定温度を、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として推定する処理である。第2推定処理は、印刷処理期間PTP内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度を、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として推定する処理であり、複数の推定温度のうち、開始タイミングよりも後のタイミングの推定温度は、開始温度以上であり、複数のタイミングのうちの一のタイミングの推定温度は、一のタイミングよりも前のタイミングの推定温度以上である。
【0153】
このように、本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、開始温度よりも高い温度を推定する。これにより、本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの推定温度を開始温度に固定する場合に比べて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの実際の温度と推定温度との差が大きくなることを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の計測精度が低下することを抑制することができる。
【0154】
また、本実施形態では、検出抵抗体TKは、圧電体Qmに接触する部分を有する。このように、本実施形態では、検出抵抗体TKが圧力室CVに近くに配置される。これにより、本実施形態では、圧力室CV内のインクの温度をより精度良く測定することができる。
【0155】
また、本実施形態では、吐出デューティーは、単位時間にノズルNから吐出されるインク滴の量、及び、単位時間に圧電体Qmに供給されるパルスの数の少なくとも1つに対応するパラメーターである。単位時間にノズルNから吐出されるインク滴の量、及び、単位時間に圧電体Qmに供給されるパルスの数は、例えば、液体吐出装置100が形成すべき画像を示す印刷データIMGから特定することができる。このように、本実施形態では、印刷データIMGに基づいて算出される吐出デューティーが印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の推定に用いられる。このため、本実施形態では、特別な装置等を追加することなく、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の計測精度が低下することを抑制することができる。
【0156】
2.第2実施形態
上述した第1実施形態における補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいて吐出パルスを補正する。一方、第2実施形態における補正部64は、吐出パルスの補正に加え、又は、吐出パルスの補正に代えて、フラッシングの回数及び間隔の少なくとも一方を、温度特定部63により推定された温度に基づいて調整する。すなわち、第2実施形態は、フラッシングの回数及び間隔の少なくとも一方が温度特定部63により推定された温度に基づいて調整される点が、第1実施形態と相違する。なお、本実施形態では、補正部64は、「フラッシング調整部」の一例である。以下、第2実施形態について説明する。フラッシング処理は、印刷処理期間PTP内の所定のタイミングで実行される。フラッシングの回数とは、1度のフラッシング処理において液滴を排出する回数であり、言い換えると1度のフラッシング処理において圧電素子PZに供給される吐出パルスの数である。フラッシングの間隔とは、印刷処理期間PTP内で複数回実行されるフラッシング処理とフラッシング処理との間隔である。
【0157】
図12は、第2実施形態に係る補正部64の動作を説明するための説明図である。図12では、インクの温度が28℃未満の場合にフラッシングの回数が10回に設定され、インクの温度が28℃以上の場合にフラッシングの回数が100回に設定されるフラッシング条件に従って、フラッシング処理が実行される場合を想定する。また、図12では、取得情報AINFにより示される印刷条件が図11において説明した取得情報AINFにより示される印刷条件と同じ場合を想定する。
【0158】
図12に示す例では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度は、第2推定処理により推定される。従って、温度特定部63は、開始タイミングTsの推定温度を25℃、開始タイミングTsから5分経過後のタイミングの推定温度を26℃、開始タイミングTsから10分経過後のタイミングの推定温度を27℃、開始タイミングTsから15分経過後のタイミングの推定温度を28℃、開始タイミングTsから20分経過後の終了タイミングTeの推定温度を29℃と推定する。
【0159】
このため、補正部64は、例えば、開始タイミングTsにおいてフラッシングの回数を10回に設定し、開始タイミングTsから15分経過したタイミングでフラッシングの回数を100回に変更する。このように、補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいてフラッシングの間隔を調整する。これにより、本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度が28℃以上になると推測されるタイミングで、フラッシングの回数を適切な回数に変更することができる。
【0160】
これに対し、対比例では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの推定温度が開始温度の25℃で一定であるため、圧力室CV内のインクの温度が高くなっても、フラッシングの回数は、開始タイミングTsにおいて設定された10回から変更されない。すなわち、対比例では、フラッシングを適切な回数で実行することができない。
【0161】
このように、本実施形態では、圧力室CV内のインクの温度に適したフラッシング処理を実行することができる。なお、補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいてフラッシングの間隔を調整してもよい。すなわち、補正部64は、フラッシングの回数及び間隔の少なくとも一方を、温度特定部63により推定された温度に基づいて調整する。
【0162】
なお、補正部64は、プラテンヒーターの温度を調整してもよい。例えば、補正部64は、吐出デューティーが高い印刷処理では、吐出デューティーが低い印刷処理に比べて、インクの温度が上がらないように、プラテンヒーターの温度を低くしてもよい。また、補正部64は、液体容器93のヒーターの温度を、印刷前又は印刷後に調整してもよい。あるいは、補正部64は、インクの循環の流量を調整してもよい。
【0163】
以上、本実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0164】
また、本実施形態では、補正部64は、ノズルNからインクを排出することにより液体吐出ヘッド1をメンテナンスするフラッシングの回数及び間隔の少なくとも一方を、温度特定部63により推定された温度に基づいて調整する。これにより、本実施形態では、圧力室CV内のインクの温度に適したフラッシング処理を実行することができる。
【0165】
3.第3実施形態
第3実施形態は、処理回路60が図13に示す更新部65としても機能する点が、上述した実施形態と相違する。以下、第3実施形態について説明する。
【0166】
図13は、第3実施形態に係る制御ユニット6の一例を示す機能ブロック図である。図1から図12において説明した要素と同様の要素については、同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0167】
制御ユニット6の構成は、図1に示した制御ユニット6と同様である。但し、処理回路60がプログラムを実行することにより実現される機能ブロックが、図1に示した処理回路60と相違する。例えば、処理回路60は、記憶回路68に記憶されたプログラムを読み出して、当該プログラムを実行することにより、第1取得部61、第2取得部62、温度特定部63、補正部64及び更新部65として機能する。
【0168】
本実施形態では、第1取得部61は、印刷処理期間PTPの開始前に、デューティー情報と印刷処理期間PTPの長さを示す印刷期間情報とを取得する。また、第2取得部62は、印刷処理期間PTPの終了後に、検出結果情報DKを取得する。以下では、印刷処理期間PTPの終了後に取得された検出結果情報DKは、終了電位情報とも称され、印刷処理期間PTPの開始前に取得された検出結果情報DKは、開始電位情報とも称される。
【0169】
温度特定部63の動作は、上述した実施形態と同様である。例えば、温度特定部63は、図9から図11において説明したように、複数の温度推定情報TINFから一の温度推定情報TINFを、開始電位情報、印刷期間情報及びデューティー情報に基づいて選択する。そして、温度特定部63は、複数の温度推定情報TINFから選択した一の温度推定情報TINFに基づいて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定する。以下では、複数の温度推定情報TINFから、開始電位情報、印刷期間情報及びデューティー情報に基づいて選択された一の温度推定情報TINFは、特定の温度推定情報TINFとも称される。
【0170】
補正部64の動作は、上述した実施形態と同様である。例えば、補正部64は、温度特定部63により推定された温度に基づいて吐出パルスを補正する。なお、補正部64は、吐出パルスの補正に加え、又は、吐出パルスの補正に代えて、フラッシングの回数及び間隔の少なくとも一方を、温度特定部63により推定された温度に基づいて調整してもよい。
【0171】
更新部65は、例えば、温度特定部63により選択された特定の温度推定情報TINFにより示される推定温度を、印刷処理期間PTPが終了する度に、開始電位情報により特定される温度と終了電位情報により特定される温度とに基づいて更新する。
【0172】
例えば、特定の温度推定情報TINFが図9に示した温度推定情報TINFa2であり、終了電位情報により特定された終了温度が28.2℃である場合、更新部65は、温度推定情報TINFa2を、以下に示すように更新する。
【0173】
更新部65は、開始電位情報により特定された開始温度である25℃と、終了電位情報により特定された終了温度である28.2℃との中間の温度である26.6℃を、温度推定情報TINFa2により示される推定温度に変更する。
【0174】
このように、本実施形態では、印刷が実行される度に、実際に計測された終了温度が温度推定テーブルTTBLの内容に反映される。このため、本実施形態では、温度推定テーブルTTBLにより示される推定温度は、例えば、液体吐出装置100の使用環境等に応じて更新される。これにより、本実施形態では、温度推定テーブルTTBLにより示される推定温度の精度を向上させることができる。
【0175】
なお、更新部65は、特定の温度推定情報TINFが図9に示した温度推定情報TINFa2である場合、温度推定情報TINFa2により示される印刷条件と同じ印刷条件の温度推定情報TINFb2により示される推定温度も更新してもよい。例えば、更新部65は、温度推定情報TINFa2により示される推定温度を、開始タイミングTsから5分経過するごとに0.8℃高くなる推定温度に更新してもよい。
【0176】
また、更新部65は、液体吐出装置100の外部の装置に設けられてもよい。例えば、液体吐出装置100とネットワークを介して通信可能に接続されたサーバーのCPUにより実現されてもよい。この場合、制御ユニット6は、例えば、印刷が終了する度に、温度推定情報TINFの更新に必要な情報をサーバーに送信し、推定温度等が更新された最新の温度推定テーブルTTBLをサーバーから取得してもよい。また、複数の液体吐出装置100で共通の温度推定テーブルTTBLから温度推定情報TINFを取得してもよい。
【0177】
以上、本実施形態においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0178】
また、本実施形態では、第1取得部61は、印刷処理期間PTPの開始前に、印刷処理期間PTPの長さを示す印刷期間情報をさらに取得し、第2取得部62は、印刷処理期間PTPの終了後に、検出結果情報DKを終了電位情報として取得する。温度特定部63は、印刷処理期間PTPの長さ、吐出デューティー、印刷処理期間PTPの開始タイミングにおける圧力室CV内のインクの温度、及び、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの推定温度が互いに対応付けられた複数の温度推定情報TINFから特定の温度推定情報TINFを、印刷処理期間PTPの開始前に取得された検出結果情報DKである開始電位情報、印刷期間情報及びデューティー情報に基づいて選択し、特定の温度推定情報TINFに基づいて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定する。特定の温度推定情報TINFにより示される推定温度は、特定の温度推定情報TINFに基づいて温度が推定された印刷処理期間PTPが終了する度に、開始電位情報により特定される温度と終了電位情報により特定される温度とに基づいて更新される。
【0179】
このように、本実施形態では、特定の温度推定情報TINFにより示される印刷条件の印刷処理が終了する度に、特定の温度推定情報TINFにより示される推定温度が、開始温度と終了温度に基づいて更新される。これにより、本実施形態では、温度推定情報TINFにより示される推定温度の精度を向上させることができる。
【0180】
4.第4実施形態
第4実施形態は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第1推定処理及び第2推定処理のいずれにより推定するかが、吐出デューティーの変化量に基づいて決められる点が、上述した実施形態と相違する。以下、第4実施形態について説明する。
【0181】
本実施形態では、第1取得部61は、印刷処理期間PTPを分割した複数の分割期間の各々の吐出デューティーを示す吐出変化情報を印刷処理期間PTPの開始前に取得する。そして、温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第1推定処理及び第2推定処理のいずれにより推定するかを、吐出変化情報に基づいて決定する。すなわち、温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として一定の推定温度を推定するか否かを吐出変化情報に基づいて決定する。
【0182】
以下では、第1取得部61及び温度特定部63の動作の具体例を、印刷処理期間PTPが20分で、各分割期間が5分である場合を例にして説明する。この場合、複数の分割期間は、印刷経過時間が0から5分以下までの第1分割期間、印刷経過時間が5分から10分以下までの第2分割期間、印刷経過時間が10分から15分以下までの第3分割期間、及び、印刷経過時間が15分から20分以下までの第4分割期間である。但し、印刷処理期間PTP及び分割期間は、上述の例に限定されない。
【0183】
また、以下では、第1分割期間、第2分割期間、第3分割期間及び第4分割期間を経時的に並べた場合に連続する2つの分割期間の吐出デューティーの変化量は、第1変化量、第2変化量及び第3変化量とも称される。例えば、第1変化量は、第1分割期間と第2分割期間との吐出デューティーの差であり、第2変化量は、第2分割期間と第3分割期間との吐出デューティーの差であり、第3変化量は、第3分割期間と第4分割期間との吐出デューティーの差である。
【0184】
ここで、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が大きい場合、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が小さい場合に比べて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の経時的な変化がばらつくと考えられる。このため、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が大きい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を印刷処理期間PTPにおいて一定の推定温度とすることが好ましいと考えられる。印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が大きい場合、圧力室CV内のインクの温度変化が複雑となり、印刷処理期間PTP内で推定温度を変化させた場合に推定温度と実温度との差が大きくなるおそれがあるため、印刷処理期間TPTにおいて一定の推定温度とすることで、推定温度と実温度との差を一定の範囲内とすることできる。一方、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が小さい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を印刷処理期間PTPにおいて経時的に変化する推定温度とすることが好ましいと考えられる。印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が小さい場合、圧力室CV内のインクの温度は徐々に上昇する傾向があるため、印刷処理期間TPTにおいて経時的に変化する推定温度とすることで、推定温度と実温度との差をより小さくすることできる。
【0185】
従って、本実施形態では、温度特定部63は、吐出デューティーの変化量が大きい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第1推定処理により推定する。また、温度特定部63は、吐出デューティーの変化量が小さい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第2推定処理により推定する。
【0186】
具体的には、温度特定部63は、第1変化量、第2変化量及び第3変化量の少なくとも1つの変化量が所定量より大きい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第1推定処理により推定する。第1推定処理では、推定温度は、図9に示したように、印刷処理期間PTPの開始タイミングTsにおける圧力室CV内のインクの温度と印刷処理期間PTPの終了タイミングTeにおける圧力室CV内のインクの温度との間の一定の温度である。すなわち、温度特定部63は、第1変化量、第2変化量及び第3変化量の少なくとも1つの変化量が所定量より大きい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を印刷処理期間PTPにおいて一定の推定温度とすることに決定する。
【0187】
また、温度特定部63は、第1変化量、第2変化量及び第3変化量の全ての変化量が所定量以下である場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を第2推定処理により推定する。第2推定処理では、図10に示したように、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、印刷処理期間PTP内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度が推定される。すなわち、温度特定部63は、第1変化量、第2変化量及び第3変化量の全ての変化量が所定量以下である場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を一定の推定温度としないことに決定する。
【0188】
以上、本実施形態においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0189】
また、本実施形態では、第1取得部61は、印刷処理期間PTPを分割した複数の分割期間の各々の吐出デューティーを示す吐出変化情報を印刷処理期間PTPの開始前に取得する。温度特定部63は、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として一定の推定温度を推定するか否かを吐出変化情報に基づいて決定する。このように、本実施形態では、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量に基づいて、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として一定の推定温度を推定するか否かが決定される。従って、本実施形態では、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量に適した推定方法で、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を推定することができる。この結果、本実施形態では、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の計測精度が低下することを抑制することができる。
【0190】
また、本実施形態では、温度特定部63は、複数の分割期間を経時的に並べた場合に連続する2つの分割期間の吐出デューティーの変化量の少なくとも1つの変化量が所定量より大きい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を印刷処理期間PTPにおいて一定の推定温度とすることに決定する。一定の推定温度は、印刷処理期間PTPの開始タイミングTsにおける圧力室CV内のインクの温度と印刷処理期間PTPの終了タイミングTeにおける圧力室CV内のインクの温度との間の温度である。このように、本実施形態では、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が大きい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、印刷処理期間PTPにおいて一定の推定温度が推定される。これにより、本実施形態では、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が大きい場合でも、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の計測精度が低下することを抑制することができる。
【0191】
また、本実施形態では、温度特定部63は、複数の分割期間を経時的に並べた場合に連続する2つの分割期間の吐出デューティーの変化量の全ての変化量が所定量以下である場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度を一定の推定温度としないことに決定し、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、印刷処理期間PTP内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度を推定する。複数の推定温度のうち、印刷処理期間PTPの開始タイミングTsよりも後のタイミングの推定温度は、開始タイミングTsにおける圧力室CV内のインクの温度以上であり、複数のタイミングのうちの一のタイミングの推定温度は、一のタイミングよりも前のタイミングの推定温度以上であり、印刷処理期間PTPの終了タイミングTeよりも前のタイミングの推定温度は、終了タイミングTeにおける圧力室CV内のインクの温度以下である。
【0192】
このように、本実施形態では、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が小さい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度として、印刷処理期間PTP内の複数のタイミングに対応する複数の推定温度が推定される。これにより、本実施形態では、印刷処理期間PTP内での吐出デューティーの変化量が小さい場合、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の計測精度を向上させることができる。
【0193】
5.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0194】
5.1.第1変形例
上述した各実施形態では、複数のノズルNが、液体吐出装置100がラインプリンターである場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド1をX軸方向に往復動させて印刷処理を実行する、所謂シリアルプリンターであってもよい。本変形例においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。例えば、液体吐出装置100がシリアルプリンターであっても、長時間温度を取得せずに連続印刷する場合に、印刷処理期間PTPにおける圧力室CV内のインクの温度の計測精度が低下することを抑制することができる。
【0195】
5.2.第2変形例
上述した各実施形態及び変形例の液体吐出装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置及びコピー機等の各種の機器に採用され得る。
【符号の説明】
【0196】
1…液体吐出ヘッド、4…配線基板、6…制御ユニット、7…駆動信号生成ユニット、8…検出ユニット、21…ノズル基板、22…連通板、23…圧力室基板、24…振動板、25…封止基板、26…流路形成基板、40…集積回路、60…処理回路、61…第1取得部、62…第2取得部、63…温度特定部、64…補正部、65…更新部、68…記憶回路、81…電流供給回路、82…電圧検出回路、Lb…共通配線、Lc…個別配線、PL1、PL2…面、PZ1、PZ2…圧電素子、Qb…共通電極、Qc…個別電極、Qm…圧電体、TK…検出抵抗体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13