(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125601
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】液体吐出装置の制御方法、及び、液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20240911BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033523
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭孝
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF23
2C057AF42
2C057AG29
2C057AL11
2C057AM16
2C057AM21
2C057AM22
2C057AN01
2C057AR08
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】圧電素子の劣化により変化した液体の吐出量及び液体の吐出速度の両方を適切に補正する。
【解決手段】液体吐出装置は、液体を吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号が供給されることで圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧電素子を含む吐出部と、駆動信号を生成する駆動信号生成部と、圧電素子の特性の劣化状態を検出する検出部と、圧電素子の特性の劣化状態に応じて駆動信号を補正する補正部とを備え、駆動信号は、ノズルから液体を突出させるように電位が変化する第1変化要素、及び、ノズルから突出した液体の一部をノズル内に引き込むように電位が変化する第2変化要素を含む吐出パルスを含み、補正部は、圧電素子の特性の劣化が検出部により検出された場合、第1変化要素の電位変化量を第1の倍率で増加させ、第2変化要素の電位変化率を第1の倍率よりも大きい第2の倍率で増加させることにより、吐出パルスを補正する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号が供給されることで前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧電素子を含む吐出部と、
前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
前記圧電素子の特性の劣化状態を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記圧電素子の特性の劣化状態に応じて、前記駆動信号を補正する補正部と、
を備え、
前記駆動信号は、
前記ノズルから液体を突出させるように電位が変化する第1変化要素、及び、前記ノズルから突出した液体の一部を前記ノズル内に引き込むように電位が変化する第2変化要素を含む吐出パルスを含み、
前記補正部は、
前記圧電素子の特性の劣化が前記検出部により検出された場合、前記第1変化要素の電位変化量を第1の倍率で増加させ、前記第2変化要素の単位時間当たりの前記電位変化量である電位変化率を前記第1の倍率よりも大きい第2の倍率で増加させることにより、前記吐出パルスを補正する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記補正部は、
前記第1変化要素の始点の電位を変更せずに前記第1変化要素の終点の電位を変更することにより、前記第1変化要素の前記電位変化量を前記第1の倍率で増加させ、
前記第1変化要素の終点の補正後の電位と前記第2変化要素の始点の補正後の電位とが一致するように、前記第2変化要素の前記電位変化率を前記第2の倍率で増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記補正部は、
前記第2変化要素の前記電位変化量を前記第2の倍率で増加させることにより、前記第2変化要素の前記電位変化率を前記第2の倍率で増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記吐出パルスは、
前記第1変化要素の終点から前記第2変化要素の始点までの間、前記駆動信号の電位を前記第1変化要素の終点の電位に維持する定電位要素をさらに含み、
前記補正部は、
前記第1変化要素の終点の補正後の電位と前記第2変化要素の始点の補正後の電位とが一致するように、前記第2変化要素の前記電位変化量を前記第2の倍率で増加させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記補正部は、
前記第2変化要素の始点から終点までの時間を短くすることにより、前記第2変化要素の前記電位変化率を前記第2の倍率で増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
液体を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号が供給されることで前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧電素子を含む吐出部と、前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記圧電素子の特性の劣化状態を検出する検出部と、を備えた液体吐出装置の制御方法であって、
前記駆動信号は、
前記ノズルから液体を突出させるように電位が変化する第1変化要素、及び、前記ノズルから突出した液体の一部を前記ノズル内に引き込むように電位が変化する第2変化要素を含む吐出パルスを含み、
前記圧電素子の特性の劣化が前記検出部により検出された場合、前記第1変化要素の電位変化量を第1の倍率で増加させ、前記第2変化要素の単位時間当たりの前記電位変化量である電位変化率を前記第1の倍率よりも大きい第2の倍率で増加させることにより、前記吐出パルスを補正する、
ことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置の制御方法、及び、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を用いて複数のノズルからインク等の液体を吐出することにより画像を印刷する液体吐出装置が知られている。この種の液体吐出装置は、インクを吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、及び、圧電素子を含む複数の吐出部を有する。例えば、各吐出部の圧電素子は、駆動信号に応じて、圧力室を収縮することにより、圧力室内のインクをノズルから吐出する。圧電素子が繰り返し駆動された場合、圧電素子が劣化し、駆動信号の電圧に応じた圧電素子の変位量が低下するおそれがある。例えば、圧電素子の変位量が低下した場合、インクの吐出量が低下し、印刷される画像の質が劣化する。このため、特許文献1には、圧電素子の劣化によるインクの噴射量の低下分を補うように駆動波形の電圧値を補正する液体噴射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧電素子が劣化した場合、ノズルから吐出されるインク等の液体の吐出量の他に、液体の吐出速度も変化する。このため、圧電素子の劣化により変化した液体の吐出量及び液体の吐出速度の両方を適切に補正することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号が供給されることで前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧電素子を含む吐出部と、前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記圧電素子の特性の劣化状態を検出する検出部と、前記検出部により検出された前記圧電素子の特性の劣化状態に応じて、前記駆動信号を補正する補正部と、を備え、前記駆動信号は、前記ノズルから液体を突出させるように電位が変化する第1変化要素、及び、前記ノズルから突出した液体の一部を前記ノズル内に引き込むように電位が変化する第2変化要素を含む吐出パルスを含み、前記補正部は、前記圧電素子の特性の劣化が前記検出部により検出された場合、前記第1変化要素の電位変化量を第1の倍率で増加させ、前記第2変化要素の単位時間当たりの前記電位変化量である電位変化率を第1の倍率よりも大きい第2の倍率で増加させることにより、前記吐出パルスを補正する。
【0006】
また、本発明に係る液体吐出装置の制御方法は、液体を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号が供給されることで前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧電素子を含む吐出部と、前記駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記圧電素子の特性の劣化状態を検出する検出部と、を備えた液体吐出装置の制御方法であって、前記駆動信号は、前記ノズルから液体を突出させるように電位が変化する第1変化要素、及び、前記ノズルから突出した液体の一部を前記ノズル内に引き込むように電位が変化する第2変化要素を含む吐出パルスを含み、前記圧電素子の特性の劣化が前記検出部により検出された場合、前記第1変化要素の電位変化量を第1の倍率で増加させ、前記第2変化要素の単位時間当たりの前記電位変化量である電位変化率を第1の倍率よりも大きい第2の倍率で増加させることにより、前記吐出パルスを補正する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】インクジェットプリンターの概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
【
図3】吐出部の構造の一例を説明するための断面図である。
【
図4】ヘッドユニットにおけるノズルの配置の一例を示す平面図である。
【
図5】ヘッドユニットの構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】ヘッドユニットに供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】圧電素子に供給される駆動信号に含まれるパルスと圧電素子の動きとの関係を説明するための説明図である。
【
図8】パルスの補正に用いられる補正係数と劣化指標値との関係を説明するための説明図である。
【
図9】補正部によるパルスの補正を説明するための説明図である。
【
図10】対比例に係るパルスの補正を説明するための説明図である。
【
図11】補正後のパルスと圧電素子の動きとの関係を説明するための説明図である。
【
図12】第1変形例に係るパルスの補正を説明するための説明図である。
【
図13】第3変形例における駆動信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【
図14】第3変形例におけるヘッドユニットの構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
[1.実施形態]
本実施形態では、記録用紙にインクを吐出して画像を形成するインクジェットプリンターを例示して、液体吐出装置を説明する。なお、本実施形態において、インクとは「液体」の例である。先ず、
図1を参照しつつ、実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示すブロック図である。
【0011】
インクジェットプリンター1には、例えば、パーソナルコンピューター又はデジタルカメラ等のホストコンピューターから、インクジェットプリンター1が形成すべき画像を示す印刷データIMGが供給される。インクジェットプリンター1は、ホストコンピューターから供給される印刷データIMGの示す画像を媒体に形成する印刷処理を実行する。本実施形態では、媒体として、後述する
図2に示す記録用紙Pを想定する。
【0012】
インクジェットプリンター1は、インクジェットプリンター1の各部を制御する制御ユニット2と、インクを吐出する吐出部Dが設けられたヘッドユニット3と、吐出部Dを駆動するための駆動信号COMを生成する駆動信号生成ユニット4とを有する。また、インクジェットプリンター1は、印刷データIMG、及び、インクジェットプリンター1の制御プログラム等の各種情報を記憶する記憶ユニット5を有する。さらに、インクジェットプリンター1は、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるための搬送ユニット7と、ヘッドユニット3に設けられた吐出部Dをメンテナンスするメンテナンス処理を実行するメンテナンスユニット8とを有する。駆動信号生成ユニット4は、「駆動信号生成部」の一例である。
【0013】
なお、本実施形態では、ヘッドユニット3と駆動信号生成ユニット4とが互いに対応する場合を想定する。例えば、インクジェットプリンター1は、複数のヘッドユニット3と、複数のヘッドユニット3と1対1に対応する複数の駆動信号生成ユニット4とを有してもよい。あるいは、インクジェットプリンター1は、1個のヘッドユニット3と、1個のヘッドユニット3に対応する1個の駆動信号生成ユニット4とを有してもよい。本実施形態では、インクジェットプリンター1が、4個のヘッドユニット3と、4個のヘッドユニット3と1対1に対応する4個の駆動信号生成ユニット4とを有する場合を想定する。但し、以下では、説明の便宜上、
図1に例示するように、4個のヘッドユニット3のうち一のヘッドユニット3と、4個の駆動信号生成ユニット4のうち一のヘッドユニット3に対応して設けられた一の駆動信号生成ユニット4と、に着目して説明する場合がある。
【0014】
制御ユニット2は、1又は複数のCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。なお、制御ユニット2は、CPUの代わりに、又は、CPUに加えて、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブルロジックデバイスを含んで構成されてもよい。また、制御ユニット2は、記憶ユニット5に記憶されている制御プログラムを実行することによって、駆動制御部22、検出部24及び補正部26として機能する。
【0015】
詳細は後述するが、駆動制御部22は、印刷信号SI、及び、波形指定信号dCOM等の、インクジェットプリンター1の各部の動作を制御するための信号を生成する。ここで、波形指定信号dCOMは、駆動信号COMの波形を規定するデジタルの信号である。また、駆動信号COMは、吐出部Dを駆動するためのアナログの信号である。また、印刷信号SIは、吐出部Dの動作の種類を指定するためのデジタルの信号である。具体的には、印刷信号SIは、吐出部Dに対して駆動信号COMを供給するか否かを指定することで、吐出部Dの動作の種類を指定する信号である。検出部24は、後述する
図2に示す圧電素子PZの特性の劣化状態を検出する。補正部26は、波形指定信号dCOMにより規定される波形、すなわち、駆動信号COMの波形を、圧電素子PZの特性の劣化状態に応じて補正する。なお、駆動信号COM及び、駆動信号COMの波形の補正の詳細については、
図6以降において説明する。
【0016】
駆動信号生成ユニット4は、例えば、DAC(Digital Analog Converter)を含み、制御ユニット2から供給される波形指定信号dCOMに基づいて駆動信号COMを生成する。例えば、駆動信号生成ユニット4は、波形指定信号dCOMにより規定される波形を含む駆動信号COMを生成する。駆動信号生成ユニット4は、波形指定信号dCOMに基づいて生成した駆動信号COMを、ヘッドユニット3に含まれる供給回路31に出力する。
【0017】
記憶ユニット5は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性のメモリーと、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、又は、PROM(Programmable ROM)等の不揮発性メモリーと、の一方又は両方を含んで構成される。なお、記憶ユニット5は、制御ユニット2に含まれてもよい。
【0018】
ヘッドユニット3は、供給回路31及び記録ヘッド32を有する。
【0019】
記録ヘッド32は、M個の吐出部Dを有する。なお、値Mは、1以上の自然数である。以下では、記録ヘッド32に設けられたM個の吐出部Dのうち、m番目の吐出部Dを、吐出部D[m]と称する場合がある。ここで、変数mは、「1≦m≦M」を満たす自然数である。また、以下では、インクジェットプリンター1の構成要素又は信号等が、M個の吐出部Dのうち、吐出部D[m]に対応する場合は、当該構成要素又は信号等を表わすための符号に、添え字[m]を付すことがある。
【0020】
供給回路31は、印刷信号SIに基づいて、駆動信号COMを吐出部D[m]に供給するか否かを切り替える。なお、以下では、後述する
図5等に示すように、吐出部D[m]に供給される駆動信号COMを、個別駆動信号Vin[m]と称する場合がある。駆動信号COM及び個別駆動信号Vinは、「駆動信号」の一例である。
【0021】
上述のとおり、本実施形態において、インクジェットプリンター1は、印刷処理を実行する。印刷処理が実行される場合、駆動制御部22は、印刷データIMGに基づいて、印刷信号SI等のヘッドユニット3を制御するための信号を生成する。また、駆動制御部22は、印刷処理が実行される場合、波形指定信号dCOM等の駆動信号生成ユニット4を制御するための信号を生成する。また、駆動制御部22は、印刷処理が実行される場合、搬送ユニット7を制御するための信号を生成する。これにより、駆動制御部22は、印刷処理において、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるように搬送ユニット7を制御しつつ、吐出部D[m]からのインクの吐出の有無、インクの吐出量、及び、インクの吐出タイミング等を調整する。このように、駆動制御部22は、印刷データIMGに対応する画像が記録用紙Pに形成されるように、インクジェットプリンター1の各部を制御する。
【0022】
また、上述のとおり、本実施形態において、インクジェットプリンター1は、メンテナンス処理を実行する。例えば、メンテナンス処理は、吐出部Dからインクを排出するフラッシング処理と、吐出部DのノズルN近傍に付着したインク等の異物をワイパーにより拭き取るワイピング処理と、吐出部D内のインクをチューブポンプ等により吸引するポンピング処理とを含む。ノズルNについては、
図3において後述する。
【0023】
メンテナンスユニット8は、フラッシング処理において吐出部D内のインクが排出される場合に当該排出されたインクを受けるための排出インク受領部80と、吐出部DのノズルN近傍に付着したインク等の異物を拭き取るためのワイパーと、吐出部D内のインクや気泡等を吸引するためのチューブポンプとを有する。なお、排出インク受領部80については、
図2において後述する。また、ワイパー及びチューブポンプについては、図示を省略する。次に、
図2を参照しつつ、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造について説明する。
【0024】
図2は、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
【0025】
図2に示すように、本実施形態では、インクジェットプリンター1がシリアルプリンターである場合を想定する。具体的には、インクジェットプリンター1は、印刷処理を実行する場合、副走査方向に記録用紙Pを搬送しつつ、副走査方向に交差する主走査方向にヘッドユニット3を往復動させながら、吐出部D[m]からインクを吐出させることで、記録用紙P上に、印刷データIMGに応じたドットを形成する。
【0026】
以下では、説明の便宜上、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を有する3軸の直交座標系を適宜導入する。例えば、本実施形態では、Y軸に沿ったY1方向を副走査方向とし、X軸に沿ったX1方向及びX2方向を主走査方向とする。なお、X2方向は、X1方向とは反対の方向である。また、本実施形態では、
図2に例示するように、Z軸に沿ったZ1方向を、吐出部D[m]からのインクの吐出方向とする。また、以下では、X1方向及びX2方向をX軸方向と総称し、Y1方向、及び、Y1方向とは反対のY2方向をY軸方向と総称し、Z1方向、及び、Z1方向とは反対のZ2方向をZ軸方向と総称する。なお、本実施形態では、上述したように、X軸、Y軸及びZ軸が互いに直交する場合を想定しているが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、X軸、Y軸及びZ軸は、互いに交差していればよい。
【0027】
本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、筐体100と、筐体100内をX軸方向に往復動可能であり、4個のヘッドユニット3を搭載するキャリッジ110とを有する。
【0028】
本実施形態では、キャリッジ110が、シアン、マゼンタ、イエロー、及び、ブラックの4色のインクと1対1に対応する4個のインクカートリッジ120を格納している場合を想定する。また、本実施形態では、上述のとおり、インクジェットプリンター1が、4個のインクカートリッジ120と1対1に対応する4個のヘッドユニット3を有する場合を想定する。各吐出部D[m]は、当該吐出部D[m]が設けられたヘッドユニット3に対応するインクカートリッジ120からインクの供給を受ける。これにより、各吐出部D[m]は、供給されたインクを内部に充填し、充填したインクをノズルNから吐出することができる。なお、インクカートリッジ120は、キャリッジ110の外部に設けられてもよい。
【0029】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、
図1において説明したように、搬送ユニット7を有する。搬送ユニット7は、キャリッジ110をX軸方向に往復動させるためのキャリッジ搬送機構71と、キャリッジ110をX軸方向に往復自在に支持するキャリッジガイド軸76とを有する。さらに、搬送ユニット7は、記録用紙Pを搬送するための媒体搬送機構73と、キャリッジ110に対してZ1方向に設けられたプラテン75とを有する。例えば、印刷処理において、キャリッジ搬送機構71は、ヘッドユニット3をキャリッジ110とともにキャリッジガイド軸76に沿ってX軸方向に往復動させ、媒体搬送機構73は、プラテン75上の記録用紙PをY1方向に搬送する。従って、搬送ユニット7は、印刷処理において、キャリッジ搬送機構71及び媒体搬送機構73に上述の動作を実行させることにより、記録用紙Pのヘッドユニット3に対する相対位置を変化させ、記録用紙Pの全体に対するインクの着弾を可能とする。
【0030】
次に、
図3を参照しつつ、記録ヘッド32の概略的な構造について説明する。
【0031】
図3は、吐出部Dの構造の一例を説明するための断面図である。なお、
図3では、吐出部D[m]を含むように記録ヘッド32を切断した場合の記録ヘッド32の一部の断面が模式的に示されている。
【0032】
吐出部D[m]は、内部にインクが充填されたキャビティーCVと、キャビティーCVに連通するノズルNと、個別駆動信号Vin[m]が供給されることでキャビティーCV内のインクに圧力変動を生じさせる圧電素子PZ[m]と、振動板321とを有する。吐出部D[m]は、圧電素子PZ[m]が個別駆動信号Vin[m]により駆動されることにより、キャビティーCV内のインクをノズルNから吐出させる。なお、キャビティーCVは、「圧力室」の一例である。
【0033】
キャビティーCVは、キャビティープレート324と、ノズルNが形成されたノズルプレート323と、振動板321と、により区画される空間である。キャビティーCVは、インク供給口326を介してリザーバ325と連通している。リザーバ325は、インク取入口327を介して、吐出部D[m]に対応するインクカートリッジ120と連通している。圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]と、下部電極Zd[m]と、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に設けられた圧電体Zb[m]とを有する。圧電体Zb[m]は、例えば、強誘電性の圧電材料により形成される。
【0034】
上部電極Zu[m]は、個別駆動信号Vin[m]が供給される配線Liと電気的に接続される。下部電極Zd[m]は、ベース電位信号VBSが供給される配線Ldと電気的に接続される。そして、上部電極Zu[m]に個別駆動信号Vin[m]が供給されることにより、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に電圧が印加される。圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に印加された電圧に応じて、Z1方向又はZ2方向に変位する。
【0035】
このように、圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に印加された電圧に応じて振動する。振動板321には、下部電極Zd[m]が接合されている。このため、圧電素子PZ[m]が個別駆動信号Vin[m]により駆動されて振動することにより、振動板321も振動する。そして、振動板321の振動によりキャビティーCVの容積及びキャビティーCV内の圧力が変化し、キャビティーCV内に充填されたインクがノズルNより吐出される。
【0036】
本実施形態では、一例として、吐出部D[m]に供給される個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化することにより、圧電素子PZがZ1方向に変位する場合を想定する。すなわち、本実施形態では、吐出部D[m]に供給される個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部D[m]の備えるキャビティーCVの容積が小さくなる場合を想定する。
【0037】
詳細は、
図7等において後述するが、圧電素子PZが繰り返し駆動された場合、圧電素子PZの特性が劣化し、上部電極Zu及び下部電極Zd間に印加された電圧に応じた圧電素子PZの変位量が低下する。圧電素子PZの変位量が低下した場合、例えば、インクの吐出特性が変化する。インクの吐出特性としては、例えば、インクの吐出量及び吐出速度等が該当する。例えば、インクの吐出量は、液滴として吐出されるインクの量であり、インクの吐出速度は、吐出される液滴の速度である。本実施形態では、補正部26は、
図9等において後述するように、圧電素子PZの特性の劣化が検出部24により検出された場合、駆動信号COMの波形を補正する。これにより、本実施形態では、圧電素子PZの特性が劣化した場合に、インクの吐出特性が変化することを抑制することができる。
【0038】
次に、
図4を参照しつつ、ノズルNの配置の一例について説明する。
【0039】
図4は、ヘッドユニット3におけるノズルNの配置の一例を示す平面図である。なお、
図4では、Z1方向からインクジェットプリンター1を平面視した場合の、キャリッジ110に搭載された4個のヘッドユニット3と、当該4個のヘッドユニット3に設けられた合計4M個のノズルNの配置の一例が示されている。
【0040】
キャリッジ110に設けられた各ヘッドユニット3には、ノズル列NLが設けられる。ここで、ノズル列NLとは、所定方向に列状に延在するように設けられた複数のノズルNである。本実施形態では、各ノズル列NLが、Y軸方向に延在するように配置されたM個のノズルNから構成される場合を、一例として想定する。
【0041】
次に、
図5及び
図6を参照しつつ、ヘッドユニット3の概要について説明する。
【0042】
図5は、ヘッドユニット3の構成の一例を示すブロック図である。
【0043】
ヘッドユニット3は、
図1において説明したように、供給回路31及び記録ヘッド32を有する。また、ヘッドユニット3は、駆動信号生成ユニット4から駆動信号COMが供給される配線Laと、個別駆動信号Vin[m]を吐出部D[m]に供給する配線Li[m]とを有する。
【0044】
供給回路31は、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個のスイッチSWa[1]~SWa[M]と、接続状態指定回路310とを有する。接続状態指定回路310は、M個のスイッチSWaの各々の接続状態を指定する。例えば、接続状態指定回路310は、制御ユニット2から供給される印刷信号SI、及び、ラッチ信号LATの少なくとも一部の信号に基づいて、スイッチSWa[m]のオンオフを指定する接続状態指定信号Qa[m]を生成する。
【0045】
スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]に基づいて、配線Laと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。すなわち、スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]に基づいて、配線Laと、上部電極Zu[m]に接続された配線Li[m]との、導通及び非導通を切り替える。本実施形態において、スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチSWa[m]がオンする場合、配線Laに供給される駆動信号COMが、個別駆動信号Vin[m]として、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]に配線Li[m]を介して供給される。
【0046】
次に、
図6を参照しつつ、ヘッドユニット3の動作について説明する。
【0047】
本実施形態において、インクジェットプリンター1が、印刷処理又はフラッシング処理を実行する場合、インクジェットプリンター1の動作期間として、1又は複数の単位期間TPが設定される。本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、各単位期間TPにおいて、印刷処理又はフラッシング処理のために各吐出部D[m]を駆動することができる。
【0048】
図6は、ヘッドユニット3に供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。なお、
図6には、補正部26による補正が行われる前の初期の駆動信号COMの波形が示されている。
【0049】
制御ユニット2は、パルスPLLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御ユニット2は、パルスPLLの立ち上がりから次のパルスPLLの立ち上がりまでの期間として、単位期間TPを規定する。単位期間TPは、例えば、M個の吐出部Dの駆動周期である。また、本実施形態では、駆動信号COMの一周期が単位期間TPである場合を想定する。
【0050】
本実施形態に係る印刷信号SIは、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む。個別指定信号Sd[m]は、インクジェットプリンター1が印刷処理又はフラッシング処理を実行する場合に、各単位期間TPにおける吐出部D[m]の駆動の態様を指定する。例えば、制御ユニット2は、各単位期間TPに先立って、M個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む印刷信号SIを、クロック信号CLに同期させて接続状態指定回路310に供給する。そして、接続状態指定回路310は、当該単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]に基づいて、接続状態指定信号Qa[m]を生成する。
【0051】
例えば、吐出部D[m]は、印刷処理が実行される単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]により、ドットを形成する吐出部D、及び、ドットを形成しない吐出部Dのいずれかに指定される。
【0052】
駆動信号COMは、例えば、単位期間TPに配線Laに供給されるパルスPWAを有する。パルスPWAは、例えば、圧電体Zbを変形させてキャビティーCVの容積を変化させるパルスである。初期のパルスPWAは、駆動信号COMの電位が、電位V0から、電位VLA1、電位VHA1、電位VLA2及び電位VHA2を経て、電位V0に戻る波形である。電位V0は、例えば、基準電位である。また、電位VLA1及び電位VLA2は、電位V0よりも低い電位であり、電位VHA1及び電位VHA2は、電位V0よりも高い電位である。電位VLA1と電位VLA2との関係、及び、電位VHA1と電位VHA2との関係は、特に限定されないが、吐出部Dによるインクの吐出特性等に基づいて定められる。本実施形態では、電位VLA1が電位VLA2よりも低い電位であり、電位VHA1が電位VHA2よりも低い電位である場合を想定する。なお、パルスPWAは、「吐出パルス」の一例である。
【0053】
例えば、パルスPWAは、波形要素EA1、EA2、EA3、EA4、EA5、EA6、EA7、EA8及びEA9を含む。なお、波形要素EA3は、「第1変化要素」の一例であり、波形要素EA4は、「定電位要素」の一例であり、波形要素EA5は、「第2変化要素」の一例である。以下では、波形要素EA1、EA2、EA3、EA4、EA5、EA6、EA7、EA8及びEA9を波形要素EAと総称する場合がある。
【0054】
波形要素EA1、EA5及びEA9は、圧電体ZbをZ2方向に変位させるための膨張要素である。膨張要素では、キャビティーCVの容積を膨張させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が変化する。従って、波形要素EA1、EA5及びEA9では、駆動信号COMの電位は、キャビティーCVの容積を膨張させるように変化する。キャビティーCVの容積が膨張した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向の反対方向であるZ2方向に引き込まれる。
【0055】
また、波形要素EA3及びEA7は、圧電体ZbをZ1方向に変位させるための収縮要素である。収縮要素では、キャビティーCVの容積を収縮させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が変化する。従って、波形要素EA3及びEA7では、駆動信号COMの電位は、キャビティーCVの容積を収縮させるように変化する。キャビティーCVの容積が収縮した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向であるZ1方向に押し出される。
【0056】
また、波形要素EA2、EA4、EA6及びEA8は、圧電体ZbのZ軸方向の位置を維持するための維持要素である。例えば、波形要素EA2では、波形要素EA1により膨張したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が維持される。また、例えば、波形要素EA4では、波形要素EA3により収縮したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が維持される。また、例えば、波形要素EA6では、波形要素EA5により膨張したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が維持される。また、例えば、波形要素EA8では、波形要素EA7により収縮したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が維持される。
【0057】
次に、初期のパルスPWAを例にして、各波形要素EAを説明する。
【0058】
例えば、波形要素EA1では、駆動信号COMの電位は、電位V0から電位VLA1に変化する。すなわち、初期のパルスPWAでは、波形要素EA1の始点の電位は電位V0であり、波形要素EA1の終点の電位は電位VLA1である。従って、波形要素EA2では、駆動信号COMの電位は、波形要素EA1の終点の電位である電位VLA1に維持される。
【0059】
また、例えば、波形要素EA3では、駆動信号COMの電位は、ノズルNからインクを突出させるように変化する。具体的には、波形要素EA3では、駆動信号COMの電位は、電位VLA1から電位VHA1に変化する。すなわち、初期のパルスPWAでは、波形要素EA3の始点の電位は電位VLA1であり、波形要素EA3の終点の電位は電位VHA1である。従って、波形要素EA4では、駆動信号COMの電位は、波形要素EA3の終点の電位である電位VHA1に維持される。すなわち、波形要素EA4は、波形要素EA3の終点から波形要素EA5の始点までの間、駆動信号COMの電位を電位VHA1に維持する。
【0060】
また、例えば、波形要素EA5では、駆動信号COMの電位は、ノズルNから突出したインクの一部をノズルN内に引き込むように変化する。具体的には、波形要素EA5では、駆動信号COMの電位は、電位VHA1から電位VLA2に変化する。すなわち、初期のパルスPWAでは、波形要素EA5の始点の電位は電位VHA1であり、波形要素EA5の終点の電位は電位VLA2である。従って、波形要素EA6では、駆動信号COMの電位は、波形要素EA5の終点の電位である電位VLA2に維持される。
【0061】
また、例えば、波形要素EA7では、駆動信号COMの電位は、電位VLA2から電位VHA2に変化する。すなわち、初期のパルスPWAでは、波形要素EA7の始点の電位は電位VLA2であり、波形要素EA7の終点の電位は電位VHA2である。従って、波形要素EA8では、駆動信号COMの電位は、波形要素EA7の終点の電位である電位VHA2に維持される。
【0062】
また、例えば、波形要素EA9では、駆動信号COMの電位は、電位VHA2から電位V0に変化する。すなわち、初期のパルスPWAでは、波形要素EA9の始点の電位は電位VHA2であり、波形要素EA8の終点の電位は電位V0である。
【0063】
パルスPWAは、パルスPWAを有する個別駆動信号Vin[m]が吐出部D[m]に供給される場合に、吐出部D[m]から、所定量のインクが吐出されるように定められる。なお、本実施形態では、
図3において説明したように、個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部D[m]の備えるキャビティーCVの容積が小さくなる場合を想定している。このため、パルスPWAを有する個別駆動信号Vin[m]により吐出部D[m]が駆動される場合、個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化する波形要素EA3により、吐出部D[m]内のインクがノズルNから吐出される。
【0064】
このように、駆動信号COMは、ノズルNからインクを突出させるように電位が変化する波形要素EA3、及び、ノズルNから突出したインクの一部をノズルN内に引き込むように電位が変化する波形要素EA5を含むパルスPWAを含む。
【0065】
また、本実施形態では、
図1において説明したように、圧電素子PZの特性の劣化が検出部24により検出された場合、駆動信号COMの波形、すなわち、パルスPWAが、補正部26により補正される。例えば、圧電素子PZの特性の劣化は、圧電素子PZの特性の劣化の度合いの指標となる劣化指標値により表される。劣化指標値は、例えば、圧電素子PZの特性を劣化させる要因に関する情報に基づいて算出される。圧電素子PZの特性を劣化させる要因としては、圧電素子PZの通電時間及び圧電素子PZに対するパルスPWAの印加回数等が該当する。圧電素子PZの通電時間は、上部電極Zuと下部電極Zdとの電位差が“0”以外の通算時間であってもよい。あるいは、圧電素子PZの通電時間は、例えば、印刷処理又はフラッシング処理の通算時間であってもよいし、インクジェットプリンター1がオンの期間の通算時間であってもよい。
【0066】
本実施形態では、検出部24が、圧電素子PZの通電時間及びパルスPWAの印加回数の少なくとも一方に基づいて、劣化指標値を算出する場合を想定する。例えば、圧電素子PZの通電時間に基づいて劣化指標値が算出された場合、劣化指標値は、圧電素子PZの通電時間の増加に伴い増加する。また、例えば、圧電素子PZに対するパルスPWAの印加回数に基づいて劣化指標値が算出された場合、劣化指標値は、パルスの印加回数の増加に伴い増加する。
【0067】
例えば、検出部24は、圧電素子PZの通電時間及びパルスPWAの印加回数の少なくとも一方に基づいて算出した劣化指標値に基づいて、圧電素子PZの特性の劣化状態を検出する。
【0068】
次に、
図7を参照しつつ、圧電素子PZに供給される駆動信号COMに含まれるパルスPWAと圧電素子PZの動きとの関係について説明する。
【0069】
図7は、圧電素子PZに供給される駆動信号COMに含まれるパルスPWAと圧電素子PZの動きとの関係を説明するための説明図である。
【0070】
図7の上段及び下段のグラフの横軸は時間を示し、上段のグラフの縦軸は駆動信号COMの電位を示し、下段のグラフの縦軸は圧電素子PZのZ軸方向の位置を示す。なお、
図7のグラフにおける時間の単位は、マイクロ秒である。また、
図7では、駆動信号COMの電位の変化と、圧電素子PZのZ軸方向の動きとの対応を分かり易くするために、下段のグラフの縦軸の矢印の指す方向を、Z1方向としている。また、
図7の下段のグラフにおいて、実線は、圧電素子PZの特性が劣化した後の圧電素子PZの動きと時間との関係を模式的に示し、破線は、圧電素子PZの特性が劣化する前の初期の圧電素子PZの動きと時間との関係を模式的に示している。
【0071】
図7に示す例では、
図7の上段のグラフに示すように、圧電素子PZに供給される駆動信号COMに含まれるパルスPWAは、補正部26による補正が行われる前の初期のパルスPWAである。
【0072】
圧電素子PZの特性が劣化した場合、例えば、駆動信号COMの電位の変化量に応じた圧電素子PZの変位量、及び、駆動信号COMの電位の変化に対する圧電素子PZの応答特性が低下する。このため、
図7の下段のグラフに示すように、圧電素子PZの特性が劣化した場合、駆動信号COMが供給された場合の圧電素子PZの動きが、初期の圧電素子PZの動きから変化する。
【0073】
駆動信号COMが供給された場合の圧電素子PZの動きが、初期の圧電素子PZの動きから変化した場合、インクの吐出特性が初期の吐出特性から変化する。この場合、印刷される画像の質が低下する。このため、本実施形態では、圧電素子PZの特性が劣化した場合、駆動信号COMが供給された場合の圧電素子PZの動きが、初期の圧電素子PZの動きと一致するように、駆動信号COMに含まれるパルスPWAを補正する。なお、一致は、厳密な一致だけではなく、実質的な一致、例えば、誤差範囲内の一致も含む。本実施形態では、特性が劣化した圧電素子PZの動きが初期の圧電素子PZの動きと一致するようにパルスPWAが補正されるため、インクの吐出特性が初期の吐出特性から変化することを抑制することができる。
【0074】
例えば、補正部26は、波形要素EA3の電位変化量DA3を1よりも大きい倍率αで増加させ、波形要素EA5の単位時間当たりの電位変化量である電位変化率RA5を倍率αよりも大きい倍率βで増加させることにより、パルスPWAを補正する。なお、波形要素EA5の電位変化率RA5は、例えば、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5で波形要素EA5の電位変化量DA5を除算することにより算出される。また、倍率α及び倍率βは、パルスPWAの補正に用いられる補正係数である。例えば、倍率α及び倍率βは、劣化指標値に応じて決められる。なお、倍率αは、「第1の倍率」の一例であり、倍率βは、「第2の倍率」の一例である。
【0075】
次に、
図8を参照しつつ、パルスPWAの補正に用いられる補正係数と劣化指標値との関係について説明する。
【0076】
図8は、パルスPWAの補正に用いられる補正係数と劣化指標値との関係を説明するための説明図である。
図8のグラフの横軸は劣化指標値を示し、グラフの縦軸は補正係数の値を示す。
【0077】
図8に示すように、倍率α及び倍率βは、劣化指標値の増加に伴い増加する。例えば、倍率α及び倍率βは、劣化指標値に比例する。但し、倍率βの比例定数は、倍率αの比例定数よりも大きい。これにより、倍率βは、倍率αよりも大きくなる。
【0078】
なお、倍率α及び倍率βと劣化指標値との関係は、
図8に示す例に限定されない。例えば、劣化指標値が大きい場合の倍率αが、劣化指標値が小さい場合の倍率αよりも大きく、かつ、倍率βが倍率αよりも大きければ、倍率α及び倍率βは、劣化指標値に比例していなくてもよい。例えば、劣化指標値が1以上になるように算出される場合、倍率α及び倍率βは、劣化指標値の対数に比例してもよい。
【0079】
また、倍率α及び倍率βと劣化指標値との関係は、ルックアップテーブル等に記憶されてもよい。あるいは、補正部26は、倍率α及び倍率βを、劣化指標値を変数とする計算式を用いて算出してもよい。
【0080】
次に、
図9を参照しつつ、圧電素子PZの特性が劣化した場合に実行されるパルスPWAの補正について説明する。
【0081】
図9は、補正部26によるパルスPWAの補正を説明するための説明図である。
図9のグラフの横軸は時間を示し、グラフの縦軸は駆動信号COMの電位を示す。なお、
図9のグラフにおける時間の単位は、マイクロ秒である。また、
図9の実線は、補正後のパルスPWAを模式的に示し、破線は、初期のパルスPWAを模式的に示している。また、本実施形態では、各波形要素EAの始点から終点までの時間が補正の前後で変化しない場合を想定する。例えば、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5は、補正の前後で変化しない。
【0082】
図9に示すように、補正後のパルスPWAは、駆動信号COMの電位が、電位V0aから、電位VLA1、電位VHA1a、電位VLA2a及び電位VHA2aを経て、電位V0aに戻る波形である。すなわち、本実施形態では、補正部26は、波形要素EA3の始点の電位VLA1を変更せずに波形要素EA3の終点の電位VHA1を電位VHA1aに変更することにより、波形要素EA3の電位変化量DA3を倍率αで増加させる。
【0083】
例えば、電位VHA1aは、初期の波形要素EA3の電位変化量DA3に倍率αを乗算した電位変化量DA3aを電位VLA1に加算することにより算出される。なお、電位変化量DA3は、電位VHA1から電位VLA1を減算した値である。従って、電位VHA1aは、電位VHA1から電位VLA1を減算した値に倍率αを乗算した値を、電位VLA1に加算することにより算出される。
【0084】
なお、本実施形態では、波形要素EA3の終点の補正後の電位である電位VHA1aは、波形要素EA4により維持され、波形要素EA5の始点の補正後の電位となる。このように、本実施形態では、補正部26は、波形要素EA3の終点の補正後の電位と波形要素EA5の始点の補正後の電位とを一致させ、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させる。
【0085】
例えば、電位VLA2aは、補正後の波形要素EA5の単位時間当たりの電位変化量である電位変化率RA5aが初期の波形要素EA5の電位変化率RA5に倍率βを乗算した値となるように、補正される。なお、例えば、初期の波形要素EA5の電位変化率RA5は、初期の波形要素EA5の電位変化量DA5を時間TA5で除算することにより算出される。同様に、補正後の波形要素EA5の電位変化率RA5aは、補正後の波形要素EA5の電位変化量DA5aを時間TA5で除算することにより算出される。
【0086】
ここで、本実施形態では、上述したように、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5が補正の前後で変化しない場合を想定している。従って、本実施形態では、補正後の波形要素EA5の電位変化量DA5aが初期の波形要素EA5の電位変化量DA5に倍率βを乗算した値となるように電位VLA2aを補正することにより、電位変化率RA5aは、電位変化率RA5に倍率βを乗算した値となる。例えば、電位VLA2aは、電位VHA1から電位VLA2を減算した値に倍率βを乗算した値を、電位VHA1aから減算することにより算出される。このように、本実施形態では、補正部26は、波形要素EA5の電位変化量DA5を倍率βで増加させることにより、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させる。
【0087】
また、例えば、電位VHA2aは、電位VHA2から電位VLA1を減算した値に倍率αを乗算した値と、電位VLA1とを加算することにより算出される。また、例えば、電位V0aは、電位V0から電位VLA1を減算した値に倍率αを乗算した値と、電位VLA1とを加算することにより算出される。なお、電位V0及び電位VHA2aの一方又は両方は、倍率αとは異なる倍率を用いて算出されてもよい。
【0088】
次に、
図10を参照しつつ、本実施形態と対比される対比例に係るパルスPWAの補正について説明する。
【0089】
図10は、対比例に係るパルスPWAの補正を説明するための説明図である。
図10のグラフの横軸及び縦軸は、
図9のグラフの縦軸及び横軸と同じである。また、
図10の実線は、対比例の補正方法による補正後のパルスPWAを模式的に示し、破線は、初期のパルスPWAを模式的に示している。また、本対比例においても、各波形要素EAの始点から終点までの時間が補正の前後で変化しない場合を想定する。例えば、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5は、補正の前後で変化しない。
【0090】
対比例では、波形要素EA3の電位変化量DA3と同様に、波形要素EA5の電位変化量DA5も、倍率αで増加される。すなわち、対比例では、電位変化量DA3に対する電位変化量DA3aの比率に対応する倍率αよりも大きい倍率βで電位変化率RA5を増加させるような補正は行われない。従って、
図10に示す補正後のパルスPWAでは、波形要素EA5の終点の電位VLA2bが、
図9に示した補正後の波形要素EA5の終点の電位VLA2aと相違する。
【0091】
従って、対比例の補正方法による補正後のパルスPWAは、
図10に示すように、駆動信号COMの電位が、電位V0aから、電位VLA1、電位VHA1a、電位VLA2b及び電位VHA2aを経て、電位V0aに戻る波形となる。
【0092】
例えば、電位VLA2bは、初期の波形要素EA5の電位変化量DA5に倍率αを乗算した電位変化量DA5bを電位VHA1aから減算することにより算出される。具体的には、電位VLA2bは、電位VHA1から電位VLA2を減算した値に倍率αを乗算した値を、電位VHA1aから減算することにより算出される。従って、対比例では、補正後の波形要素EA5の電位変化率RA5bは、初期の波形要素EA5の電位変化率RA5に倍率αを乗算した値となる。すなわち、対比例では、補正後の波形要素EA5の電位変化率RA5bは、本実施形態の補正後の波形要素EA5の電位変化率RA5aよりも小さい。
【0093】
このように、対比例では、電位変化量DA3に対する電位変化量DA3aの比率と、電位変化率RA5に対する電位変化率RA5bの比率とが同じであるため、インクの吐出量及びインクの吐出速度の両方を適切に補正することは困難である。例えば、対比例では、インクの吐出量が適切な量になるように倍率αを決めた場合、インクの吐出速度が適切な吐出速度からずれる。あるいは、対比例では、インクの吐出速度が適切な吐出速度になるように倍率αを決めた場合、インクの吐出量が適切な量からずれる。
【0094】
これに対し、本実施形態では、倍率αと、倍率αよりも大きい倍率βとの2つが補正係数として用いられるため、インクの吐出量及びインクの吐出速度の両方を適切に補正することができる。
【0095】
次に、
図11を参照しつつ、補正後のパルスPWAと圧電素子PZの動きとの関係について説明する。
【0096】
図11は、補正後のパルスPWAと圧電素子PZの動きとの関係を説明するための説明図である。なお、
図11の左側のグラフ“電位変化量及び電位変化率を補正”は、
図9に示した補正後のパルスPWAと特性が劣化した圧電素子PZの動きとの関係を示している。また、
図11の右側のグラフ“対比例:電位変化量を補正”は、
図10に示した補正後のパルスPWAと特性が劣化した圧電素子PZの動きとの関係を示している。このように、
図11では、
図10において説明した対比例の補正方法による補正後のパルスPWAと圧電素子PZの動きとの関係も示されている。
【0097】
図11のグラフの横軸及び縦軸は、
図7のグラフの縦軸及び横軸と同じである。例えば、
図11においても、駆動信号COMの電位の変化と、圧電素子PZのZ軸方向の動きとの対応を分かり易くするために、圧電素子PZの動きを示すグラフでは、縦軸の矢印の指す方向をZ1方向としている。また、駆動信号COMを示すグラフにおいて、実線は、補正後のパルスPWAを模式的に示し、破線は、初期のパルスPWAを模式的に示している。また、圧電素子PZの動きを示すグラフにおいて、実線は、補正後のパルスPWAが供給された圧電素子PZの動きと時間との関係を模式的に示し、破線は、初期のパルスPWAが供給された初期の圧電素子PZの動きと時間との関係を模式的に示している。以下では、初期のパルスPWAが供給された初期の圧電素子PZの動きは、単に、初期の圧電素子PZの動きとも称される。
【0098】
図11に示すように、本実施形態では、対比例に比べて、補正後のパルスPWAが供給された場合の圧電素子PZの動きを、初期の圧電素子PZの動きに近づけることができる。例えば、
図11のグラフ“電位変化量及び電位変化率を補正”に示す例では、補正部26による補正後のパルスPWAが供給された場合の圧電素子PZの動きは、初期の圧電素子PZの動きと一致する。これに対し、
図11のグラフ“対比例:電位変化量を補正”に示す例では、対比例の補正方法による補正後のパルスPWAが供給された場合の圧電素子PZの動きは、初期の圧電素子PZの動きに一致しない。
【0099】
例えば、対比例では、波形要素EA5に応じた圧電素子PZの動きが、初期の圧電素子PZの動きと一致しない。このため、対比例の補正方法では、特性の劣化による圧電素子PZの変化量の低下分を、波形要素EA3の電位変化量DA3を倍率αで増加させることにより補っているが、圧電素子PZの応答特性の低下分を補えていないと考えられる。例えば、
図11に示される対比例の補正方法による補正後のパルスPWAにより駆動された圧電素子PZの動きの場合、波形要素EA3によりインクの吐出速度は補正されるが、波形要素EA5によるインクの一部をノズル内に引き込む動きが十分でなくインクの吐出量が補正されない。
【0100】
これに対し、本実施形態では、例えば、特性の劣化による圧電素子PZの応答特性の低下分を、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させることにより補うことができる。また、本実施形態においても、特性の劣化による圧電素子PZの変化量の低下分は、対比例と同様に、波形要素EA3の電位変化量DA3を倍率αで増加させることにより補われる。なお、上述の説明では、本実施形態の作用を分かり易くするために、電位変化量DA3の補正の作用と電位変化率RA5の補正の作用とを切り分けて説明している。但し、電位変化量DA3の補正の作用と電位変化率RA5の補正の作用とは厳密に切り分けられるとは限らない。
【0101】
本実施形態では、上述したように、駆動信号COMの電位の変化量に応じた圧電素子PZの変位量の低下分、及び、駆動信号COMの電位の変化に対する圧電素子PZの応答特性の低下分の両方を、パルスPWAを補正することにより補うことができる。これにより、本実施形態では、インクの吐出特性が初期の吐出特性から変化することが抑制される。例えば、本実施形態では、インクの吐出量及びインクの吐出速度が初期の特性から変化することを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、圧電素子PZの劣化により変化したインクの吐出量及びインクの吐出速度の両方を適切に補正することができる。
【0102】
また、本実施形態では、
図9において説明したように、補正部26は、波形要素EA3の始点の電位VLA1を変更せずに波形要素EA3の終点の電位VHA1を電位VHA1aに変更することにより、波形要素EA3の電位変化量DA3を倍率αで増加させる。このように、本実施形態では、パルスPWAの最低電位である電位VLA1が補正後に補正前よりも低くなることが抑制されるため、圧電素子PZの変位効率が補正後に低下することを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、補正の前後において、圧電素子PZの変位効率の高い電位範囲を使用することができる。
【0103】
以上、本実施形態では、インクジェットプリンター1は、インクを吐出するノズルN、ノズルNに連通するキャビティーCV、及び、駆動信号COMが供給されることでキャビティーCV内のインクに圧力変動を生じさせる圧電素子PZを含む吐出部Dと、駆動信号COMを生成する駆動信号生成ユニット4と、圧電素子PZの特性の劣化状態を検出する検出部24と、検出部24により検出された圧電素子PZの特性の劣化状態に応じて、駆動信号COMを補正する補正部26と、を備えている。駆動信号COMは、ノズルNからインクを突出させるように電位が変化する波形要素EA3、及び、ノズルNから突出したインクの一部をノズルN内に引き込むように電位が変化する波形要素EA5を含むパルスPWAを含む。補正部26は、圧電素子PZの特性の劣化が検出部24により検出された場合、波形要素EA3の電位変化量DA3を倍率αで増加させ、波形要素EA5の単位時間当たりの電位変化量である電位変化率RA5を倍率αよりも大きい倍率βで増加させることにより、パルスPWAを補正する。
【0104】
このように、本実施形態では、パルスPWAを補正するための補正係数として、倍率αと、倍率αよりも大きい倍率βとの2つが用いられる。例えば、本実施形態では、波形要素EA3の電位変化量DA3を補正するための補正係数、及び、波形要素EA5の電位変化率RA5を補正するための補正係数として、倍率α及び倍率βがそれぞれ用いられる。本実施形態では、波形要素EA3の電位変化量DA3の補正と波形要素EA5の電位変化率RA5の補正とに異なる補正係数を用いられるため、圧電素子PZの劣化により変化したインクの吐出量及びインクの吐出速度の両方を適切に補正することができる。
【0105】
また、本実施形態では、補正部26は、波形要素EA3の始点の電位を変更せずに波形要素EA3の終点の電位を変更することにより、波形要素EA3の電位変化量DA3を倍率αで増加させ、波形要素EA3の終点の補正後の電位と波形要素EA5の始点の補正後の電位とが一致するように、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させる。このように、本実施形態では、波形要素EA3の始点の電位が、補正の前後で変化しないように、波形要素EA3の電位変化量DA3が補正される。これにより、本実施形態では、補正の前後において、駆動信号COMが供給されることで変位する圧電素子PZに対して変位効率の高い電位範囲を使用することができる。
【0106】
また、本実施形態では、補正部26は、波形要素EA5の電位変化量DA5を倍率βで増加させることにより、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させる。これにより、本実施形態では、波形要素EA5の電位変化率RA5を容易に補正することができる。
【0107】
また、本実施形態では、パルスPWAは、波形要素EA3の終点から波形要素EA5の始点までの間、駆動信号COMの電位を波形要素EA3の終点の電位に維持する波形要素EA4をさらに含む。補正部26は、波形要素EA3の終点の補正後の電位と波形要素EA5の始点の補正後の電位とが一致するように、波形要素EA5の電位変化量DA5を倍率βで増加させる。このように、本実施形態では、波形要素EA3の終点の電位が波形要素EA4により維持される。このため、本実施形態では、圧電素子PZに所望の電圧が印加されているかの実測等による確認を容易にすることができる。
【0108】
[2.変形例]
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲内で適宜に併合され得る。なお、以下に例示する変形例において作用や機能が実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0109】
[第1変形例]
上述した実施形態では、波形要素EA5の電位変化量DA5を倍率βで増加させることにより、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させる場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、補正部26は、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5を短くすることにより、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させてもよい。
【0110】
図12は、第1変形例に係るパルスPWAの補正を説明するための説明図である。
図12のグラフの横軸及び縦軸は、
図9のグラフの縦軸及び横軸と同じである。また、
図12の実線は、第1変形例の補正方法による補正後のパルスPWAを模式的に示し、破線は、初期のパルスPWAを模式的に示している。本変形例では、各波形要素EAの始点及び終点の電位は、
図10に示した対比例と同様である。但し、本変形例では、補正後の波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5aは、補正の波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5よりも短い。
【0111】
例えば、本変形例では、
図10に示した対比例と同様に、波形要素EA5の終点の補正後の電位である電位VLA2bは、初期の波形要素EA5の電位変化量DA5に倍率αを乗算した電位変化量DA5bを電位VHA1aから減算することにより算出される。
【0112】
そして、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5aは、補正後の波形要素EA5の電位変化率RA5aが初期の波形要素EA5の電位変化率RA5に倍率βを乗算した値となるように、補正される。
図12に示す例では、補正後の波形要素EA5の電位変化量DA5aは、初期の波形要素EA5の電位変化量DA5に倍率αを乗算した値である。従って、時間TA5aは、例えば、初期の波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5に倍率αを乗算した値が、補正後の波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5aに倍率βを乗算した値と一致するように、補正される。
【0113】
なお、補正部26は、
図12に示すように、波形要素EA6の終点のタイミングを変更せずに、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5を時間TA5aに変更することにより、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させてもよい。あるいは、補正部26は、波形要素EA6の始点から終点までの時間を変更せずに、波形要素EA5の始点から終点までの時間TA5を時間TA5aに変更することにより、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させてもよい。この場合、波形要素EA1の始点から波形要素EA9の終点までの時間、すなわち、パルスPWAの時間を短くすることができる。
【0114】
以上、本変形例においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0115】
[第2変形例]
上述した実施形態及び変形例では、駆動信号COMの電位を維持する波形要素EA4等の維持要素をパルスPWAが含む場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、波形要素EA4は、省かれてもよい。あるいは、波形要素EA4は、電位を変化させる要素であってもよい。この場合においても、ノズルNからインクを突出させるように電位が変化する収縮要素は、波形要素EA3であり、ノズルNから突出したインクの一部をノズルN内に引き込むように電位が変化する膨張要素は、波形要素EA5である。従って、本変形例においても、補正部26は、圧電素子PZの特性の劣化が検出部24により検出された場合、波形要素EA3の電位変化量DA3を倍率αで増加させ、波形要素EA5の電位変化率RA5を倍率βで増加させることにより、パルスPWAを補正する。
【0116】
以上、本変形例においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0117】
[第3変形例]
上述した実施形態及び変形例では、駆動信号COMが1つの場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、駆動信号COMは、
図6に示した駆動信号COMの他に、駆動信号COMに含まれるパルスPWAとは異なるパルスを有する駆動信号を含んでもよい。
【0118】
図13は、第3変形例における駆動信号COMの一例を説明するためのタイミングチャートである。なお、
図13には、補正部26による補正が行われる前の初期の駆動信号COMの波形が示されている。
【0119】
図13に示す例では、印刷処理が実行される単位期間TPにおいて、吐出部D[m]が、小ドットと、小ドットよりも大きい大ドットとのうち、いずれかのドットを形成可能である場合を想定する。例えば、吐出部D[m]は、印刷処理が実行される単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]により、小ドットを形成する吐出部D、大ドットを形成する吐出部D、及び、ドットを形成しない吐出部Dのいずれかに指定される。
【0120】
駆動信号COMは、例えば、吐出部D[m]から小ドットに相当するインク量のインクを吐出させる駆動信号COMaと、吐出部D[m]から大ドットに相当するインク量のインクを吐出させる駆動信号COMbとを含む。例えば、吐出部D[m]が小ドットを形成する吐出部Dに指定された場合、駆動信号COMa及びCOMbのうち、駆動信号COMaが個別駆動信号Vin[m]として選択される。また、吐出部D[m]が大ドットを形成する吐出部Dに指定された場合、駆動信号COMa及びCOMbのうち、駆動信号COMbが個別駆動信号Vin[m]として選択される。従って、駆動信号COMa及びCOMbの各々も、「駆動信号」の一例である。
【0121】
駆動信号COMaに含まれるパルスPWAは、
図6に示したパルスPWAと同様である。また、駆動信号COMbは、例えば、単位期間TPに後述する
図14に示す配線Lbに供給されるパルスPWBを有する。なお、パルスPWA及びパルスPWBの各々は、「吐出パルス」の一例である。
【0122】
パルスPWBは、駆動信号COMbの電位が、電位V0から、電位VLB及び電位VHBを経て、電位V0に戻る波形である。電位VLBは、電位V0よりも低い電位であり、電位VHBは、電位V0よりも高い電位である。電位V0、電位VLB及び電位VHBの各々は、例えば、吐出部Dによるインクの吐出特性等に基づいて定められる。
【0123】
例えば、パルスPWBは、波形要素EB1、EB2、EB3、EB4及びEB5を含む。なお、波形要素EB3は、「第1変化要素」の一例であり、波形要素EB4は、「定電位要素」の一例であり、波形要素EB5は、「第2変化要素」の一例である。以下では、波形要素EB1、EB2、EB3、EB4及びEB5を波形要素EBと総称する場合がある。
【0124】
波形要素EB1及びEB5は、圧電体ZbをZ2方向に変位させるための膨張要素である。従って、波形要素EB1及びEB5では、駆動信号COMbの電位は、キャビティーCVの容積を膨張させるように変化する。
【0125】
また、波形要素EB3は、圧電体ZbをZ1方向に変位させるための収縮要素である。従って、波形要素EB3では、駆動信号COMbの電位は、キャビティーCVの容積を収縮させるように変化する。
【0126】
波形要素EB2及びEB4は、圧電体ZbのZ軸方向の位置を維持するための維持要素である。例えば、波形要素EB2では、波形要素EB1により膨張したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMbの電位が維持される。また、例えば、波形要素EB4では、波形要素EB3により収縮したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMbの電位が維持される。
【0127】
パルスPWBは、パルスPWBを有する個別駆動信号Vin[m]が吐出部D[m]に供給される場合に、吐出部D[m]から、大ドットに相当するインク量のインクが吐出されるように定められる。なお、本実施形態では、
図3において説明したように、個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部D[m]の備えるキャビティーCVの容積が小さくなる場合を想定している。このため、パルスPWBを有する個別駆動信号Vin[m]により吐出部D[m]が駆動される場合、個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化する波形要素EB3により、吐出部D[m]内のインクがノズルNから吐出される。
【0128】
ここで、パルスPWBの電位変化は、パルスPWAの電位変化に比べて緩やかであるため、駆動信号COMの電位を維持する波形要素EB4等の維持要素の長さを、パルスPWAの維持要素に比べて長くすることができる。このため、パルスPWBでは、波形要素EB5の電位変化率を倍率βで増加させなくても、波形要素EB5の電位変化率を倍率αで増加させることにより、駆動信号COMの電位の変化に対する圧電素子PZの応答特性の低下分が補われる場合がある。この場合、パルスPWBは、
図10に示した対比例の補正方法により補正されてもよい。例えば、波形要素EB4の始点から終点までの時間が1マイクロ秒程度よりも大きい場合、パルスPWBは、
図10に示した対比例の補正方法により補正されてもよい。換言すれば、例えば、波形要素EB4の始点から終点までの時間が1マイクロ秒以下の場合、パルスPWBに対しても、波形要素EB5の電位変化率を倍率βで増加させる補正が実行されることが好ましい。
【0129】
なお、
図13では、駆動信号COMが駆動信号COMa及びCOMbを含む例を示したが、駆動信号COMは、駆動信号COMa及びCOMbに限定されない。例えば、駆動信号COMは、駆動信号COMa及びCOMbの一方に代えて、又は、駆動信号COMa及びCOMbに加えて、駆動信号COMa及びCOMbとは異なる駆動信号を含んでもよい。駆動信号COMa及びCOMbとは異なる駆動信号は、例えば、キャビティーCVの容積を収縮させてノズルNからインクを吐出させずにキャビティーCV内のインクに振動を与える微振動波形を含む駆動信号であってもよい。
【0130】
次に、
図14を参照しつつ、第3変形例におけるヘッドユニット3Aの構成の一例を説明する。
【0131】
図14は、第3変形例におけるヘッドユニット3Aの構成の一例を示すブロック図である。
図1から
図13において説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0132】
ヘッドユニット3Aは、
図5に示した供給回路31の代わりに供給回路31Aを有すること、及び、駆動信号生成ユニット4から駆動信号COMbが供給される配線Lbを有することを除いて、ヘッドユニット3と同様である。供給回路31Aは、
図5に示した接続状態指定回路310の代わりに接続状態指定回路310Aを有すること、及び、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個のスイッチSWb[1]~SWb[M]を有することを除いて、供給回路31と同様である。
【0133】
接続状態指定回路310Aは、M個のスイッチSWbの各々の接続状態を指定することを除いて、
図5に示した接続状態指定回路310と同様である。すなわち、接続状態指定回路310Aは、M個のスイッチSWa及びM個のスイッチSWbの各々の接続状態を指定する。例えば、接続状態指定回路310Aは、制御ユニット2から供給される印刷信号SI、及び、ラッチ信号LATの少なくとも一部の信号に基づいて、接続状態指定信号Qa[m]及びQb[m]を生成する。接続状態指定信号Qa[m]は、
図5において説明したように、スイッチSWa[m]のオンオフを指定する信号である。同様に、接続状態指定信号Qb[m]は、スイッチSWb[m]のオンオフを指定する信号である。
【0134】
スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]に基づいて、配線Lbと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。すなわち、スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]に基づいて、配線Lbと、上部電極Zu[m]に接続された配線Li[m]との、導通及び非導通を切り替える。本変形例において、スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチSWb[m]がオンする場合、配線Lbに供給される駆動信号COMbが、個別駆動信号Vin[m]として、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]に配線Li[m]を介して供給される。すなわち、本変形例では、個別駆動信号Vin[m]により上部電極Zu[m]に印加されるパルスは、駆動信号COMaに含まれるパルスPWA及び駆動信号COMbに含まれるパルスPWBを含む複数のパルスから選択される。
【0135】
なお、特に図示されていないが、本変形例に係る駆動信号生成ユニット4は、駆動信号COMaに加えて、駆動信号COMbを駆動信号COMとして、波形指定信号dCOMに基づいて生成することを除いて、
図1に示した駆動信号生成ユニット4と同様である。
【0136】
以上、本変形例においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0137】
[第4変形例]
上述した実施形態及び変形例では、圧電素子PZの通電時間及びパルスPWAの印加回数の少なくとも一方に基づいて算出された劣化指標値に基づいて、圧電素子PZの特性の劣化状態が検出される場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、検出部24は、圧電素子PZの駆動後にキャビティーCV等のインクの流路に残留する残留振動の検出結果に基づいて、圧電素子PZの特性の劣化状態を検出してもよい。残留振動は、例えば、圧電素子PZからの電圧信号として検出される。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0138】
[第5変形例]
上述した実施形態及び変形例では、個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化することにより、圧電素子PZがZ1方向に変位する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位から低電位に変化することにより、Z1方向に変位する圧電素子PZが用いられてもよい。この場合、例えば、駆動信号COMの電位は、膨張要素に該当する部分において低電位から高電位に変化し、収縮要素に該当する部分において高電位から低電位に変化する。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0139】
[第6変形例]
上述した実施形態及び変形例では、各ヘッドユニット3が1本のノズル列NLを有する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、各ヘッドユニット3は、複数のノズル列NLを有してもよい。同様に、各ヘッドユニット3Aは、複数のノズル列NLを有してもよい。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0140】
[第7変形例]
上述した実施形態及び変形例では、インクジェットプリンター1が4個のヘッドユニット3を有する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、インクジェットプリンター1は、1個以上3個以下のヘッドユニット3を有してもよいし、5個以上のヘッドユニット3を有してもよい。あるいは、インクジェットプリンター1は、1個以上3個以下のヘッドユニット3Aを有してもよいし、5個以上のヘッドユニット3Aを有してもよい。
【0141】
[第8変形例]
上述した実施形態及び変形例では、インクジェットプリンター1がシリアルプリンターである場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、インクジェットプリンター1は、ヘッドユニット3又は3Aにおいて、複数のノズルNが、記録用紙Pの幅よりも広く延在するように設けられた、所謂ラインプリンターであってもよい。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0142】
1…インクジェットプリンター、2…制御ユニット、3、3A…ヘッドユニット、4…駆動信号生成ユニット、7…搬送ユニット、8…メンテナンスユニット、22…駆動制御部、24…検出部、26…補正部、31、31A…供給回路、32…記録ヘッド、D…吐出部、N…ノズル。