(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125615
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】回転電機用駆動装置及び移動体用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60L 9/18 20060101AFI20240911BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240911BHJP
B60L 58/27 20190101ALI20240911BHJP
H02P 27/05 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B60L9/18 J
B60L50/60
B60L58/27
H02P27/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033542
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】知念 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 侑典
(72)【発明者】
【氏名】大重 成希
(72)【発明者】
【氏名】石崎 優太
(72)【発明者】
【氏名】須山 大樹
【テーマコード(参考)】
5H125
5H505
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB00
5H125BB05
5H125BB07
5H125BC19
5H125CA00
5H125DD01
5H125EE01
5H125FF01
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD06
5H505FF05
5H505HA10
5H505HB01
5H505HB05
5H505LL22
5H505LL43
(57)【要約】
【課題】1つの回転電機を利用して、移動体の停止状態において比較的高い発熱量を発生可能とする。
【解決手段】巻線界磁型の回転電機を制御する回転電機用駆動装置であって、ステータコアに巻回されたステータコイルに複数相の交流電力を供給するインバータ回路と、ロータコアに巻回されたロータコイルに電力を供給するフルブリッジ回路と、これらを制御する処理装置とを備え、処理装置は、移動体の停止状態において、ステータコイルに複数相の交流電力を供給しつつ、複数相の交流電力に起因してロータコアに生じるリラクタンストルクを低減又は無くすような交流電力をロータコイルに供給する、回転電機用駆動装置が開示される。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される巻線界磁型の回転電機を制御する回転電機用駆動装置であって、
前記回転電機のステータコアに巻回されたステータコイルに複数相の交流電力を供給するインバータ回路と、
前記回転電機のロータコアに巻回されたロータコイルに電力を供給するフルブリッジ回路と、
前記インバータ回路及び前記フルブリッジ回路を制御する処理装置と、を備え、
前記処理装置は、前記移動体の停止状態において、前記ステータコイルに複数相の交流電力を供給しつつ、前記複数相の交流電力に起因して前記ロータコアに生じるリラクタンストルクを低減又は無くすような交流電力を前記ロータコイルに供給する、回転電機用駆動装置。
【請求項2】
前記回転電機は、昇温対象物に熱的に接続される、請求項1に記載の回転電機用駆動装置。
【請求項3】
前記処理装置は、目標発熱量が実現されるように前記複数相の交流電力に係る振幅の大きさを決定する、請求項2に記載の回転電機用駆動装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記移動体の停止状態において、目標発熱量が閾値以上である場合に、前記ステータコイルに複数相の交流電力を供給しつつ、前記複数相の交流電力に起因して前記ロータコアに生じるリラクタンストルクを低減する方向に前記ロータコイルに交流電力を供給し、目標発熱量が前記閾値未満である場合に、前記ステータコイルに直流電力を供給しつつ、前記ロータコイルに直流電力を供給する、請求項1に記載の回転電機用駆動装置。
【請求項5】
移動体に搭載される巻線界磁型の回転電機と、
前記回転電機を制御する回転電機用駆動装置とを備え、
前記回転電機用駆動装置は、
前記回転電機のステータコアに巻回されたステータコイルに複数相の交流電力を供給するインバータ回路と、
前記回転電機のロータコアに巻回されたロータコイルに電力を供給するフルブリッジ回路と、
前記インバータ回路及び前記フルブリッジ回路を制御する処理装置と、を備え、
前記処理装置は、前記移動体の停止状態において、前記ステータコイルに複数相の交流電力を供給しつつ、前記複数相の交流電力に起因して前記ロータコアに生じるリラクタンストルクを低減又は無くすような交流電力を前記ロータコイルに供給する、移動体用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用駆動装置及び移動体用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両停止状態において油温が所定温度以下の場合に、2つの回転電機を、それぞれのトルクが打ち消される態様で駆動することで発熱させることで、油を昇温させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、2つの回転電機を利用することで、発熱量を増やしつつ、車両停止状態における有意なトルクの発生を防止できるものの、2つの回転電機を必要とするがゆえに、コスト等の観点から不利である。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、1つの回転電機を利用して、移動体の停止状態において比較的高い発熱量を発生可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、移動体に搭載される巻線界磁型の回転電機を制御する回転電機用駆動装置であって、
前記回転電機のステータコアに巻回されたステータコイルに複数相の交流電力を供給するインバータ回路と、
前記回転電機のロータコアに巻回されたロータコイルに電力を供給するフルブリッジ回路と、
前記インバータ回路及び前記フルブリッジ回路を制御する処理装置と、を備え、
前記処理装置は、前記移動体の停止状態において、前記ステータコイルに複数相の交流電力を供給しつつ、前記複数相の交流電力に起因して前記ロータコアに生じるリラクタンストルクを低減又は無くすような交流電力を前記ロータコイルに供給する、回転電機用駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、1つの回転電機を利用して、移動体の停止状態において比較的高い発熱量を発生可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施例による回転電機用の駆動装置を含む車両駆動システムを示す構成図である。
【
図2】回転電機の断面の一部を示す概略的な断面図である。
【
図2A】回転電機と高圧バッテリとの熱的な接続の説明図である。
【
図3A】本実施例のマイコンに係るハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3B】本実施例のマイコンにより実現される各種機能の一例を概略的に示す図である。
【
図4】ブリッジ回路部を介してロータコイルに流される交流電流の流れを概略的に示す説明図である。
【
図5】
図3Bに示した各機能に関連した処理であって、マイコンにより実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本実施例による車両停止状態における発熱制御の説明図であり、制御中の各種時系列波形のイメージ図である。
【
図7】比較例による車両停止状態における発熱制御の説明図であり、制御中の各種時系列波形のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
図1は、本実施例による回転電機用の駆動装置5を含む車両駆動システム1を示す構成図である。
図2は、回転電機3の断面の一部を示す概略的な断面図である。
図2Aは、回転電機3と高圧バッテリ2Bとの熱的な接続の説明図である。
【0011】
車両駆動システム1は、低圧バッテリ2Aと高圧バッテリ2Bを含む2電源構成であり、車両用駆動装置1Aを含む。車両用駆動装置1Aは、回転電機3と、駆動装置5とを含む。
【0012】
低圧バッテリ2Aは、例えば鉛バッテリであり、定格電圧が例えば12Vである。
【0013】
高圧バッテリ2Bは、例えばリチウムイオンバッテリであり、低圧バッテリ2Aより定格電圧が有意に高く、例えば定格電圧が40V以上である。本実施例では、一例として、高圧バッテリ2Bの定格電圧は、300V以上であるとする。なお、高圧バッテリ2Bは、燃料電池等の形態であってもよい。
【0014】
回転電機3は、巻線界磁型であり、ロータコイル316がロータコア312に巻回されたロータ310を備える。なお、ロータコア312は、
図2に示すように、径方向外側に突出するティース部3122を有し、ティース部3122に、ロータコイル316を形成する導体線が巻回される。ロータ310の径方向外側にはステータ320が設けられる。ステータコイル322は、
図2に示すように、ステータコア321のティース部3210まわりに巻装される。
【0015】
駆動装置5は、マイクロコンピュータ50(以下、「マイコン50」と称する)と、電気回路部60とを含む。
【0016】
マイコン50は、例えばECU(Electronic Control Unit)として実現されてよい。マイコン50は、CAN(controller area network)のようなネットワーク6を介して、車両内の各種の電子部品(他のECUやセンサ)に接続される。
【0017】
マイコン50は、ネットワーク6を介して、上位ECU(図示せず)からの制御指令等の各種指令を受信する。マイコン50は、制御指令に基づいて、電気回路部60を介して回転電機3を制御する。マイコン50は、低圧バッテリ2Aからの電力に基づいて、動作する。
【0018】
電気回路部60は、平滑コンデンサ62と、電力変換回路部63と、給電回路部64とを含む。
【0019】
平滑コンデンサ62は、高圧バッテリ2Bの高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に設けられる。平滑コンデンサ62の両端には、パッシブ放電用の抵抗R0が接続されてよい。
【0020】
電力変換回路部63は、インバータの形態であり、例えば3相のブリッジ回路を形成する。電力変換回路部63は、後述するマイコン50による制御下で、回転電機3のステータ320に3相交流電力を供給する。電力変換回路部63は、高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に、平滑コンデンサ62に対して並列となる態様で、接続される。電力変換回路部63は、高電位側のアームの各スイッチング素子SW3と低電位側のアームの各スイッチング素子SW4を備える。
【0021】
給電回路部64は、ブリッジ回路部641と、駆動回路部642とを含む。
【0022】
ブリッジ回路部641は、高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に、平滑コンデンサ62及びパッシブ放電用の抵抗R0に対して並列となる態様で、接続される。ブリッジ回路部641は、フルブリッジ回路の形態であり、スイッチング素子SW1-1、SW1-2と、スイッチング素子SW2-1、SW2-2と、を含む。
【0023】
スイッチング素子SW1-1、SW1-2は、高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に、直列に接続される。スイッチング素子SW1-1、SW1-2の間には、ロータコイル316の一端が接続される。また、スイッチング素子SW2-1、SW2-2は、高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に、スイッチング素子SW1-1、SW1-2に対して並列となる態様で、直列に接続される。スイッチング素子SW2-1、SW2-2の間には、ロータコイル316の他端が接続される。以下、スイッチング素子SW1-1、SW1-2、SW2-1、SW2-2のうちの、スイッチング素子SW1-1及びSW2-1に関連する構成には、区別のために、「高電位側」を付す場合があり、スイッチング素子SW1-2及びSW2-2に関連する構成には、「低電位側」を付す場合がある。
【0024】
スイッチング素子SW1-1、SW1-2、SW2-1、SW2-2は、駆動回路部642を介して、オン/オフ状態が切り替えられる。スイッチング素子SW1-1、SW1-2、SW2-1、SW2-2は、駆動回路部642による制御下で、ロータコイル316に対する通電状態を変化させる。スイッチング素子SW1-1、SW1-2、SW2-1、SW2-2は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であるが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)等のような他の形態であってもよい。
【0025】
駆動回路部642は、マイコン50からの制御信号に基づいて、スイッチング素子SW1-1、SW1-2、SW2-1、SW2-2のゲートを駆動することで、ロータコイル316に直流電力や交流電力を供給する。
【0026】
次に、
図2A以降を参照して、本実施例の特徴的な構成を説明する。
【0027】
図2Aは、回転電機3と高圧バッテリ2Bとの熱的な接続の説明図である。
【0028】
本実施例では、回転電機3で発生可能な熱を利用して高圧バッテリ2Bの昇温が可能とされる。具体的には、回転電機3と高圧バッテリ2Bとは、熱的な接続手段4を介して熱的に接続される。熱的な接続手段4は、任意であるが、例えば冷媒を利用して実現されてもよい。すなわち、熱的な接続手段4は、熱を冷媒で吸収して高圧バッテリ2Bへと移動させる手段であってもよい。この場合、熱的な接続手段4は、回転電機3の冷却用の油が通る油路であってよく、高圧バッテリ2Bを通るように形成されてよい。あるいは、熱的な接続手段4は、伝熱性の高い部材やヒートパイプ等、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。また、熱的な接続手段4は、回転電機3と高圧バッテリ2Bとの間の物理的な距離を近接させることで実現されてもよい。これにより、低温環境下での比較的長い駐車等を経た車両停止状態において、高圧バッテリ2Bが非常に低温である場合でも、高圧バッテリ2Bの温度を迅速かつ適切に高め、車両走行時の高圧バッテリ2Bの特性を高めることができる。
【0029】
なお、本実施例では、回転電機3で発生する熱の利用目的は、高圧バッテリ2Bの昇温であるが、これに代えて又は加えて、他の目的を有してもよい。例えば、回転電機3で発生する熱の利用目的は、油自体の昇温を含んでもよい。
【0030】
図3Aは、本実施例のマイコン50に係るハードウェア構成の一例を示す図である。
図3Aには、マイコン50のハードウェア構成に関連付けて、周辺機器590が模式的に図示されている。周辺機器590は、
図1に示す駆動回路部642や上位ECU(図示せず)等を含んでよい。
【0031】
マイコン50は、バス549で接続されたCPU(Central Processing Unit)541、RAM(Random Access Memory)542、ROM(Read Only Memory)543、補助記憶装置544、ドライブ装置545、及び通信インターフェース547、並びに、通信インターフェース547に接続された有線送受信部555及び無線送受信部556を含む。
【0032】
補助記憶装置544は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や、SSD(Solid State Drive)などであり、アプリケーションソフトウェアなどに関連するデータを記憶する記憶装置である。
【0033】
有線送受信部555は、有線ネットワークを利用して通信可能な送受信部を含む。有線送受信部555には、周辺機器590が接続される。ただし、周辺機器590の一部又は全部は、バス549に接続されてもよいし、無線送受信部556に接続されてもよい。
【0034】
無線送受信部556は、無線ネットワークを利用して通信可能な送受信部である。無線ネットワークは、携帯電話の無線通信網、インターネット、VPN(Virtual Private Network)、WAN(Wide Area Network)等を含んでよい。また、無線送受信部556は、近距離無線通信(NFC:Near Field Communication)部、ブルートゥース(Bluetooth、登録商標)通信部、Wi-Fi(Wireless-Fidelity)送受信部、赤外線送受信部などを含んでもよい。
【0035】
なお、マイコン50は、記録媒体546と接続可能であってもよい。記録媒体546は、所定のプログラムを格納する。この記録媒体546に格納されたプログラムは、ドライブ装置545を介してマイコン50の補助記憶装置544等にインストールされる。インストールされた所定のプログラムは、マイコン50のCPU541により実行可能となる。例えば、記録媒体546は、CD(Compact Disc)-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する記録媒体、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等であってよい。なお、記録媒体546には、搬送波は含まれない。
【0036】
図3Bは、本実施例のマイコン50により実現される各種機能の一例を概略的に示す図である。
【0037】
マイコン50は、インバータ制御部500と、ロータコイル通電制御部510と、制御用マップ記憶部520とを含む。インバータ制御部500及びロータコイル通電制御部510の各機能は、例えば
図3Aに示したCPU541が、記憶装置(例えばROM543)に記憶される1つ以上のプログラムを実行することで実現できる。なお、変形例では、インバータ制御部500及びロータコイル通電制御部510は、互いに異なるマイコン50やCPUコアにより実現されてもよい。制御用マップ記憶部520は、例えば
図3Aに示したROM543等により実現できる。
【0038】
インバータ制御部500は、ゲートドライバ回路52を介して電力変換回路部63の各スイッチング素子SW3、SW4のオン/オフ状態を制御することで、ステータコイル322に対する通電を制御する。この際、インバータ制御部500は、上位ECU(図示せず)からの制御指令(例えば要求トルク値)に基づいて、制御目標値を算出し、当該制御目標値が実現されるように、ステータコイル322に対する通電を制御してよい。
【0039】
また、本実施例では、インバータ制御部500は、後述するように、ロータコイル通電制御部510と協調して、車両停止状態における発熱制御を実行する。車両停止状態における発熱制御の詳細は後述する。
【0040】
ロータコイル通電制御部510は、駆動回路部642を介して回転電機3のロータコイル316に対する通電状態を制御する。この際、インバータ制御部500は、上位ECU(図示せず)からの制御指令(例えば要求トルク値)に基づいて、制御目標値(例えば目標電流値)を算出し、当該制御目標値が実現されるように、ロータコイル316に対する通電を制御してよい。
【0041】
また、本実施例では、ロータコイル通電制御部510は、後述するように、インバータ制御部500と協調して、車両停止状態における発熱制御を実行する。車両停止状態における発熱制御の詳細は後述する。
【0042】
本実施例では、ロータコイル通電制御部510は、
図3Bに示すように、直流電力供給部511と、制御用情報取得部512と、条件判定部514と、指令値算出部516と、交流電力供給部518とを含む。
【0043】
直流電力供給部511は、車両停止状態における発熱制御以外の通常制御の際に機能する。具体的には、直流電力供給部511は、上位ECU(図示せず)からの制御指令(例えば要求トルク値)に基づいて、制御目標値を算出し、当該制御目標値が実現されるように、ロータコイル316に直流電力を供給する。例えば、直流電力供給部511は、制御目標値に応じた直流電流がロータコイル316に流れるように、高電位側のスイッチング素子SW1-1及び低電位側のスイッチング素子SW2-2を制御する。具体的には、直流電力供給部511は、マイコン50からの制御信号に基づいて、駆動回路部642を介して、高電位側のスイッチング素子SW1-1のゲートを駆動するとともに、低電位側のスイッチング素子SW2-2のゲートを駆動する。なお、直流電力供給部511は、両アーム駆動モード及び片アーム駆動モードのいずれか一方だけを利用してもよいし、双方を使い分けてもよい。例えば、片アーム駆動モードでは、直流電力供給部511は、スイッチング素子SW1-1、SW2-2のうちの、一方だけ(例えば、高電位側のスイッチング素子SW1-1)を、電流指令(ロータコイル316に係る電流指令)に応じたデューティでオン/オフする片アーム駆動を実現してよい。他方、両アーム駆動モードでは、直流電力供給部511は、スイッチング素子SW1-1、SW2-2の双方を、電流指令(ロータコイル316に係る電流指令)に応じたデューティでオン/オフすることで、両アーム駆動を実現してよい。この際、両アーム駆動モードでは、直流電力供給部511は、スイッチング素子SW1-1、SW2-2が同時にオン状態となる(それに伴い同時にオフ状態となる)態様で、両アーム駆動を実現してよい。なお、本実施例では、ブリッジ回路部641がフルブリッジ回路であるので、通常制御時においても、スイッチング素子SW1-2やスイッチング素子SW2-1が、例えば特開2018-161017号に開示されるような磁力保持のためにロータコイル316を通る還流電流を発生させるためや制御の応答性(例えばロータコイル316を流れる電流を0に戻すタイミングを調整する目的等)を高めるために利用されてもよい。
【0044】
制御用情報取得部512は、車両停止状態における発熱制御に用いる各種情報を取得する。取得対象の各種情報は、後述する条件判定部514による発熱制御実行条件の判定処理に用いる判定用情報等を含んでよい。
【0045】
条件判定部514は、車両停止状態における発熱制御に係る発熱制御実行条件の成否を判定する。発熱制御実行条件は、車両停止状態における発熱制御の開始条件と、車両停止状態における発熱制御の終了条件とを含んでよい。発熱制御実行条件は、あらかじめ規定されてよい。
【0046】
発熱制御の開始条件は、任意であるが、例えば、車両停止状態において、昇温対象の高圧バッテリ2B(
図1参照)の温度が開始閾値温度以下である場合に満たされてよい。なお、車両停止状態は、車速情報や、ブレーキ情報(例えばマスタシリンダ圧情報)、シフトポジション情報等に基づいて判定されてよい。発熱制御の終了条件は、任意であるが、基本的には、車両停止状態でなくなった場合(すなわち走行が開始された場合)に満たされる。ただし、この場合、走行時の発熱制御モード(通常制御の一要素)に移行する場合があってもよい。また、発熱制御の終了条件は、車両停止状態においても、発熱制御の開始条件が満たされない場合に、満たされてよい。あるいは、発熱制御の終了条件は、車両停止状態においても、車両停止状態における発熱制御の実行時間が閾値時間を越えた場合や、昇温対象の高圧バッテリ2B(
図1参照)の温度が開始閾値温度よりも有意に大きい終了閾値温度を超えた場合に満たされてもよい。
【0047】
指令値算出部516は、車両停止状態における発熱制御に係る各種指令値を算出(生成)し、算出した各種指令値を出力する。
【0048】
本実施例では、指令値算出部516は、ゲートドライバ回路52を介して電力変換回路部63に供給する駆動信号(以下、「ステータ電流用の指令信号」とも称する)を生成する。ステータ電流用の指令信号は、回転電機3のステータコイル322に3相交流電力を供給するための信号である。ステータ電流用の指令信号に係る指令値は、一定であってもよいが、目標発熱量に応じて変化されてもよい。すなわち、ステータ電流用の指令信号に係る指令値は、目標発熱量が大きいほど、ステータコイル322に供給される3相交流電力が大きくなるように、目標発熱量に応じて決定されてもよい。
【0049】
このようにして指令値算出部516により生成されるステータ電流用の指令信号は、直接的に電力変換回路部63に供給されてよいし、インバータ制御部500を介して、電力変換回路部63に供給されてよい。また、指令値算出部516のうちの、ステータ電流用の指令信号を生成及び/又は出力する機能は、インバータ制御部500により実現されてもよい。この場合、インバータ制御部500とロータコイル通電制御部510とは、互いに協調することなく(個別に)、車両停止状態における発熱制御を実現してもよい。
【0050】
また、本実施例では、指令値算出部516は、駆動回路部642を介してブリッジ回路部641に供給する駆動信号(以下、「ロータ電流用の指令信号」とも称する)を生成する。ロータ電流用の指令信号は、回転電機3のロータコイル316に交流電力を供給するための信号である。本実施例では、ロータ電流用の指令信号に係る指令値は、ステータ電流用の指令信号の出力に起因してロータ310(ロータコア312)に生じるリラクタンストルクを低減又は無くすように決定される。なお、ここでいう交流電力は、必ずしも正弦波のような波形の交流電流に基づく電力である必要はなく、正負が交互に現れる任意の波形の交流電流に基づく電力を表す。すなわち、ロータ電流用の指令信号に係る指令値は、ステータ電流用の指令信号の出力に起因したトルクリプルを0にするのが目的であるため、ロータ電流用の指令信号に係る指令値に基づきロータコイル316を流れるロータ電流波形は、高調波成分を含んでもよい。本実施例でステータコイル322に正弦波の電流を印加しているが、ロータコイル316に正弦波の電流を印加しかつステータコイル322には正弦波と高調波の組み合わせの電流を印加してもよい。
【0051】
ここで、ロータ310の位置(回転角度)に応じてステータ320に3相交流を印加した場合のリラクタンストルクの値は異なる。従って、指令値算出部516は、ロータ310の位置情報を取得し、ロータ310の位置(回転角度)に応じて、ロータ電流用の指令信号に係る指令値を決定してよい。この場合、ロータ310の位置とロータ電流用の指令信号に係る指令値との関係を表す制御用マップが予め用意されてよい。なお、このような制御用マップは、制御用マップ記憶部520に記憶されてよい。
【0052】
交流電力供給部518は、このようにして指令値算出部516により生成されるロータ電流用の指令信号を、駆動回路部642を介してブリッジ回路部641に供給する。
図4は、ブリッジ回路部641を介してロータコイル316に流される交流電流の流れを概略的に示す説明図である。交流電力供給部518によりロータ電流用の指令信号がブリッジ回路部641に供給されると、
図4に模式的に示すように、ロータコイル316に交流電流が流れる。
図4に示す例では、代表的な3つの状態ST1から状態ST3が示されており、状態ST1は、スイッチング素子SW1-1とスイッチング素子SW2-2がオンしている状態であって、ロータコイル316に正の電流が流れている状態(矢印R70参照)である。状態ST2は、例えばスイッチング素子SW1-1、SW1-2、SW2-1、SW2-2がオフしている状態であり、ロータコイル316に流れる電流が0である状態である。状態ST3は、スイッチング素子SW1-2とスイッチング素子SW2-1がオンしている状態であって、ロータコイル316に負の電流が流れている状態(矢印R71参照)である。ロータコイル316に交流電流が流れる状態は、状態ST1と状態ST3とが状態ST2を介して交互に入れ替わる状態に対応する。なお、
図4に示すバッテリ記号の正極側は、高電位側ライン20(
図1の接続点P参照)に対応し、負極側は、低電位側ライン22(
図1の接続点N参照)に対応する。
【0053】
図5は、
図3Bに示した各機能に関連した処理であって、マイコン50により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図5に示す処理ルーチンは、所定周期ごとに繰り返し実行されてよい。
【0054】
ステップS500では、マイコン50は、車両の状態を表す情報や、高圧バッテリ2Bの温度情報等、発熱制御の開始条件や終了条件に係る判定に用いる各種情報を取得する。なお、取得対象の情報は、制御用情報取得部512に関連して上述したとおりであってよい。
【0055】
ステップS501では、マイコン50は、車両停止状態における発熱制御に係る実行中フラグF1が“1”であるか否かを判定する。実行中フラグF1は、車両停止状態における発熱制御が実行中であるときに“1”となり、それ以外の状態で“0”となるフラグである。判定結果が“YES”の場合、ステップS502に進み、それ以外の場合は、ステップS507に進む。
【0056】
ステップS502では、マイコン50は、ステップS500で得た情報に基づいて、発熱制御の終了条件が満たされたか否かを判定する。発熱制御の終了条件は、上述のとおりであってよい。判定結果が“YES”の場合、ステップS506に進み、それ以外の場合は、ステップS503に進む。
【0057】
ステップS503では、マイコン50は、ロータ310の位置情報を取得する。なお、ロータ310の位置情報は、回転電機3に設けられてよいレゾルバやインダクティブセンサ等により生成されてよい。
【0058】
ステップS504では、マイコン50は、ステップS503で得たロータ310の位置情報に基づいて、ロータコイル316に流すべき電流(ロータ電流)を算出する。かかる演算は、上述した制御用マップを参照して実現されてもよいし、同等の関数を利用して実現されてもよい。なお、ロータコイル316に流すべき電流(ロータ電流)の算出には、ロータ310の位置情報以外にも、ステータコイル322の各相の電流情報や温度情報が利用されてもよい。
【0059】
ステップS505では、マイコン50は、ステータ電流用の指令信号及びロータ電流用の指令信号を出力する。ロータ電流用の指令信号は、ステップS504の算出結果に基づいて生成されてよい。なお、ステータ電流は、正弦波の交流電流に対応した波形を有してよい。この際、交流電流の振幅(大きさ)は、目標発熱量が大きいほど大きくなる態様かつ予め定められた上限値を超えない態様で、目標発熱量に応じて決定されてもよい。この場合、目標発熱量は、現在の高圧バッテリ2Bの温度や回転電機3の温度等に基づいて決定されてもよい。目標発熱量に応じて交流電流の振幅(大きさ)を変化させる場合、省エネルギーを図るとともに、ステータ電流に起因してロータコア312に生じるリラクタンストルク(ロータコイル316に流す交流電流により打ち消す対象となるリラクタンストルク)が必要以上に高くなることを防止できる。
【0060】
ステップS506では、マイコン50は、実行中フラグF1を“0”にリセットする。ステップS506が終了すると、ステップS509に進んでよい。
【0061】
ステップS507では、マイコン50は、ステップS500で得た情報に基づいて、発熱制御の開始条件が満たされたか否かを判定する。発熱制御の開始条件は、上述のとおりであってよい。判定結果が“YES”の場合、ステップS508に進み、それ以外の場合は、ステップS509に進む。
【0062】
ステップS508では、マイコン50は、実行中フラグF1を“1”にセットする。なお、目標発熱量を算出(可変)する構成の場合、実行中フラグF1が“1”にセットされる際に、今回の車両停止状態における発熱制御に係る目標発熱量が算出されてよい。ステップS508が終了すると、ステップS503に進んでよい。
【0063】
ステップS509では、マイコン50は、車両停止状態における発熱制御は実行しない。この場合、車両停止状態における発熱制御とは異なる制御(例えば通常制御)が実行されてよい。
【0064】
このようにして本実施例によれば、2つの回転電機を利用せずに単一の回転電機3を利用して、車両停止状態における発熱制御を実現できる。
【0065】
次に、
図6以降を参照して、本実施例の更なる効果を説明する。
【0066】
図6は、本実施例による車両停止状態における発熱制御の説明図であり、制御中の各種時系列波形のイメージ図である。
図6において、グラフG60は、縦軸を電流とし、横軸を時間としたときの、ステータコイル322を流れる3相交流電流(ステータ電流)の時系列波形を示す。グラフG61は、縦軸を電流とし、横軸を時間としたときの、ロータコイル316を流れる交流電流(ロータ電流)の時系列波形を示す。グラフG62は、縦軸をトルクとし、横軸を時間としたときの、回転電機3により生成されるトルクの時系列波形を示す。グラフG62では、ロータ電流が0Armsであるときの時系列波形が対比のために点線で示されている。
【0067】
グラフG62において、ロータ電流が0Armsであるときの時系列波形(点線)からわかるように、ステータコイル322に3相交流電流(ステータ電流)を流すが、ロータコイル316には電流を流さない場合、回転電機3により有意なトルク(ロータコアに生じるリラクタンストルク)が生成される。このようなトルクは、車両停止状態では乗員にとって違和感となりうるため、低減又は無くすことが望ましい。この点、ステータコイル322に流す3相交流電流の大きさを低減すれば、回転電機3により生成されるトルクを低減できるものの、必要な発熱量(例えば、高圧バッテリ2Bを所望の温度まで昇温させるのに必要な発熱量)を得ることが難しくなる。
【0068】
これに対して、本実施例によれば、グラフG62において、ロータ電流がα(>0)Armsであるときの時系列波形からわかるように、ロータ電流が0Armsである場合に比べて、回転電機3により生成されるトルク(ロータコアに生じるリラクタンストルク)を低減又は無くすことができる。このようにして、本実施例によれば、ステータコイル322に3相交流電流(ステータ電流)を流しつつ、回転電機3により生成されるトルク(ロータコアに生じるリラクタンストルク)を低減又は無くすことができる。
【0069】
図7は、比較例による車両停止状態における発熱制御の説明図であり、制御中の各種時系列波形のイメージ図である。
図7において、グラフG70からグラフG72は、
図6に示したグラフG60からグラフG62のそれぞれに対する対比のためのグラフであり、縦軸や横軸はそれぞれ同様である。
【0070】
比較例では、本実施例とは異なり、回転電機3によりトルクが生じないように、ステータコイル322に直流電流の組み合わせを流す点が異なる。具体的には、比較例では、3相のうちの1相に対してだけ(
図7では、U相に対してだけ)正の直流電流を流し、他の2相に対しては、負の直流電流を流す。この際、3相の各電流の合計が0になるように(グラフG70参照)、負の直流電流の大きさは、例えば
図7では、正の直流電流の大きさの半分ずつとされる(なお、合計が0になるのであれば、他の配分も可能であり、この電流組み合わせはロータ位置に応じて決定される)。このような比較例では、本実施例とは異なり、ロータコイル316に流す電流は直流電流でよいため、グラフG71に示すように、ロータコイル316には直流電流が流されてよい。
【0071】
このような比較例では、回転電機3により生成されうるトルクを無くしつつ発熱を実現できるものの、ステータコイル322での発熱量を高めることが難しいという問題点がある。具体的には、比較例では、上述したように、ステータコイル322には、3相のうちの2相(
図7では、V相及びW相)に印加できる直流電流の大きさは、制約を受け、残りの1相(
図7では、U相)に印加する直流電流の大きさの半分となる。例えば、ステータコイル322に流すことができる電流の大きさの上限を直流で400Aとし交流で400Arms(熱的に等価)とすると、比較例では、U相に上限の大きさの電流400Aを流してもV相及びW相はその半分の大きさの電流-200Aを流すことになる。その結果、比較例では、U相での発熱量に対してV相及びW相での発熱量が低くなる。
【0072】
これに対して、本実施例によれば、ステータコイル322の各相に上限の大きさの電流を流すことができるので、ステータコイル322での発熱量の最大化を図ることができる。すなわち、先程の例では、交流400Armsをステータコイル322の各相に流すことができ、比較例に比べて実質的に2倍の発熱量を確保できる。
【0073】
また、本実施例によれば、ステータコイル322の各相における発熱量の均等化を図ることができる。すなわち、比較例では、3相のうちの特定の相(
図7では、U相)における発熱量が他の相に対して実質的に4倍になるのに対して、本実施例では、ステータコイル322の各相における発熱量は実質的に同じである。これにより、本実施例では、ステータコイル322の温度管理が容易となる。
【0074】
なお、
図7に示すような比較例による車両停止状態における発熱制御は、本実施例による車両停止状態における発熱制御と組み合わせで利用されてもよい。例えば、目標発熱量が閾値以上である場合に、本実施例による車両停止状態における発熱制御を実行し、目標発熱量が閾値未満である場合に、比較例による車両停止状態における発熱制御を実行してもよい。比較例による車両停止状態における発熱制御は、本実施例による車両停止状態における発熱制御に比べて、マイコン50での処理負荷が低くなり得る。従って、かかる組み合わせによれば、マイコン50での処理負荷の低減を図りつつ、比較的広い範囲にわたる目標発熱量に対応可能となる。
【0075】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0076】
例えば、上述した実施例では、車載の用途に関するが、昇温対象物と巻線界磁型の回転電機とを有する他の任意の構成にも適用できる。例えば船、飛行機、エレベータ、建設機械などの移動体に対して、動くものを動かさずに昇温対象物を暖めることができる。
【符号の説明】
【0077】
1A・・・車両用駆動装置、2B・・・高圧バッテリ(昇温対象物)、3・・・回転電機、312・・・ロータコア、316・・・ロータコイル、321・・・ステータコア、322・・・ステータコイル、5・・・駆動装置(回転電機用駆動装置)、50・・・マイコン(処理装置)、63・・・電力変換回路部(インバータ回路)、641・・・ブリッジ回路部(フルブリッジ回路)