(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125620
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】水電解の水素発生電極用触媒、水電解の酸素発生電極用触媒及び水電解用触媒の製造方法並びに水の電気分解方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/075 20210101AFI20240911BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240911BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240911BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20240911BHJP
B01J 27/187 20060101ALI20240911BHJP
B01J 23/889 20060101ALI20240911BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20240911BHJP
C23C 18/12 20060101ALI20240911BHJP
C23C 20/08 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C25B11/075
C25B1/04
C25B11/052
C25B11/077
B01J27/187 M
B01J23/889 M
C01B3/02 H
C23C18/12
C23C20/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033554
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 奕帆
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】陳 萌
(72)【発明者】
【氏名】馮 長瑞
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
4K022
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB06A
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4G169BB13A
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4K022DA06
4K022DA07
4K022DB13
4K022DB24
(57)【要約】
【課題】電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、長期間にわたって安定に使用することができる水電解用触媒を提供する。
【解決手段】本発明の水電解の水素発生電極用触媒は、電極基材上に触媒を備え、前記触媒は、複合リン化物を含有し、前記複合リン化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有するリン化物である。本発明の水電解の酸素発生電極用触媒は、電極基材上に触媒を備え、前記触媒は、複合酸化物を含有し、前記複合酸化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する酸化物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基材上に触媒を備え、
前記触媒は、複合リン化物を含有し、
前記複合リン化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有するリン化物である、水電解の水素発生電極用触媒。
【請求項2】
電極基材上に触媒を備え、
前記触媒は、複合酸化物を含有し、
前記複合酸化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する酸化物である、水電解の酸素発生電極用触媒。
【請求項3】
前記複合リン化物は、ミクロスフィア粒子である、請求項1に記載の水電解用触媒。
【請求項4】
前記複合酸化物は、ミクロスフィア粒子である、請求項2に記載の水電解用触媒。
【請求項5】
Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する前駆体をリン化又は焼成することで水電解用触媒を得る工程を備える、水電解用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の水素発生触媒及び/又は請求項2に記載の酸素発生触媒を使用して電解処理を行う工程を含む、水の電気分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解の水素発生電極用触媒、水電解の酸素発生電極用触媒及び水電解用触媒の製造方法並びに水の電気分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は燃焼時にCO2排出がゼロであり、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として期待されている。特に、太陽光、風力、水力等の再生可能なエネルギーを電力とする水の電気分解法(水電解)による水素製造方法は一切CO2を排出しないことから、クリーンな水素の製造方法として大きな期待が寄せられている。
【0003】
水の電気分解用の電極としては、炭素基材等の電極基材上に白金粒子触媒を固定したものが知られている。しかしながら、白金は価格が高く、資源量にも限りがあるため、白金の使用量を低減する技術や白金代替触媒及び/又は電極の開発が求められている。
【0004】
この観点から、水の電気分解用の電極として、ナノサイズの微細化構造を有する遷移金属(例えば、Co、Ni、Mn等)の硫化物又は酸化物等の新規な材料が注目されており、盛んにその研究が進められている(例えば、特許文献1)。これらの材料は良好な活性を示す反面、繰り返し使用によってナノ構造が崩壊していくことも多いため、電極の長期安定性という点に改善の余地が残されている。
【0005】
また、最近では、独自の物理的および化学的特性を活かして、遷移金属カルコゲナイド、遷移金属の炭化物、リン化物、リン硫化物、窒化物、ホウ化物、セレン化物等の非貴金属系電極触媒が水電解用電極触媒として研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、水電解においては、電気分解の効率を高めるべく、電極触媒性能の更なる向上が強く求められている。この観点から、過電圧を低くすることができ、長期間にわたって安定に使用することが可能な水電解用触媒の開発が急務となっている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、長期間にわたって安定に使用することができる水電解の水素発生電極用触媒及び水電解の酸素発生電極用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の5種の金属を有するハイエントロピー複合リン化物又はハイエントロピー複合酸化物を触媒として用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
電極基材上に触媒を備え、
前記触媒は、複合リン化物を含有し、
前記複合リン化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有するリン化物である、水電解の水素発生電極用触媒。
項2
電極基材上に触媒を備え、
前記触媒は、複合酸化物を含有し、
前記複合酸化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する酸化物である、水電解の酸素発生電極用触媒。
項3
前記複合リン化物は、ミクロスフィア粒子である、項1に記載の水電解用触媒。
項4
前記複合酸化物は、ミクロスフィア粒子である、項2に記載の水電解用触媒。
項5-1
項1に記載の水素発生電極用触媒の製造方法であって、
Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する前駆体をリン化することで、前記複合リン化物を得る工程を備える、製造方法。
項5-2
項2に記載の酸素発生電極用触媒の製造方法であって、
Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する前駆体を焼成することで、前記複合酸化物を得る工程を備える、製造方法。
項6-1
項1に記載の水素発生触媒及び/又は項2に記載の酸素発生触媒を使用して電解処理を行う工程を含む、水の電気分解方法。
項6-2
項1に記載の水素発生触媒をカソードに、項2に記載の酸素発生触媒をアノードに使用して電解処理を行う工程を含む、水の電気分解方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水電解の水素発生電極用触媒及び水電解の酸素発生電極用触媒は、水の電気分解において、過電圧の上昇を抑制することができ、かつ、長期間にわたって安定に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例で得られた水電解用触媒における触媒部分のSEM画像である。
【
図2】実施例1で得られた水電解用触媒1を電極として使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。
【
図3】実施例2で得られた水電解用触媒2を電極として使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。
【
図4】実施例1で得られた水電解用触媒1及び実施例2で得られた水電解用触媒2の両方を電極として備えた電解槽を用いたリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。
【
図5】比較例で得られた水電解用触媒を電極として使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
1.水電解用触媒
本発明は水電解用触媒(水の電気分解用の触媒)を包含するものであり、斯かる水電解用触媒は、下記の水電解用触媒1及び水電解用触媒2を包含する。
水電解用触媒1;電極基材上に触媒を備え、前記触媒は、複合リン化物を含有し、前記複合リン化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有するリン化物である水素発生電極用触媒。
水電解用触媒2;電極基材上に触媒を備え、前記触媒は、複合酸化物を含有し、前記複合リン化物は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する酸化物である酸素発生電極用触媒。
【0015】
前記水電解用触媒1は、水電解用の水素発生電極用触媒であり、前記水電解用触媒2は、水電解用の酸素発生電極用触媒である。また、水電解用触媒1におけるFe、Co、Ni、Mn及びCuを有するリン化物及び水電解用触媒2におけるFe、Co、Ni、Mn及びCuを有する酸化物は、いわゆるハイエントロピー触媒である。以下、本明細書において、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有するリン化物を「ハイエントロピー複合リン化物」と、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する酸化物を「ハイエントロピー複合酸化物」と表記することがある。
【0016】
(電極基材)
水電解用触媒1及び水電解用触媒2はいずれも、電極基材を備える。斯かる電極基材の種類は特に限定されず、例えば、水の電気分解の電極として使用され得る種々に基材を挙げることができる。電極基材の具体例として、金属基材、炭素基材、ガラス基材等を挙げることができる。
【0017】
金属基材としては、ニッケル、チタン、鉄、銅等の金属単体の基材、あるいは、ニッケル-リン合金、ニッケル-タングステン合金、ステンレス合金等の基材又は各種金属フォーム(例えば、ニッケルフォーム、銅フォーム)等が例示される。中でも金属基材としては、ニッケルフォームであることが好ましい。この場合、基材由来のニッケルよって触媒を形成することができる。
【0018】
炭素基材としては、カーボンペーパー、カーボンファイバーペーパー、炭素棒等が例示される。ガラス基材としては、導電ガラス等が例示される。電極基材は、例えば、フォーム等の多孔質体であってもよい。
【0019】
電極基材は、金属基材であることがより好ましく、ニッケル基材であることがより好ましく、ニッケルフォームであることが特に好ましい。
【0020】
電極基材は、例えば、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。電極基材の形状及び大きさは特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。例えば、電極基材の形状は、フォーム状、シート状、板状、棒状、メッシュ状等とすることができ、フォーム状であることが好ましい。
【0021】
(水電解用触媒1)
水電解用触媒1(水素発生電極用触媒)は、前記電極基材上に触媒が形成されており、斯かる触媒は前記ハイエントロピー複合リン化物を含有する。ハイエントロピー複合リン化物は、前述のとおり、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有するハイエントロピーリン化物である。
【0022】
ハイエントロピー複合リン化物に含まれる金属元素はFe、Co、Ni、Mn及びCuのみからなるものであってもよい。この場合において、前記複合リン化物に不可避的に含まれ得る他の金属元素の含有を排除するものではなく、例えば、水電解用触媒の製造工程において不可避的に含まれる他の金属元素の含有は許容される。
【0023】
ハイエントロピー複合リン化物に含まれる各金属元素の含有割合は特に限定されない。例えば、複合リン化物中のCuを基準として、Cuのモル数を1として、以下のように各金属元素を含有することができる。すなわち、
Cu:Fe=1:3~1:4とすることができ、
Cu:Co=1:6~1:10とすることができ、
Cu:Ni=1:4~1:10とすることができ、
Cu:Mn=1:8~1:14とすることができる。
【0024】
前記ハイエントロピー複合リン化物において、リン(P)の含有割合は特に限定されない。例えば、前記複合リン化物の全質量に対し、Pの含有割合は10~20モル%であることが好ましい。
【0025】
前記ハイエントロピー複合リン化物において、Fe、Co、Ni、Mn及びCuの価数は特に限定されない。例えば、Fe、Co、Ni、Mn及びCuはいずれも2価又は3価とすることができる。
【0026】
水電解用触媒1において、電極基材上に形成されている触媒は、前記ハイエントロピー複合リン化物のみからなるものであってもよいし、本発明の効果が阻害されない限り、前記複合リン化物以外の成分を含有することもできる。水電解用触媒1において、前記触媒は、前記ハイエントロピー複合リン化物を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。
【0027】
前記ハイエントロピー複合リン化物の形状は特に限定されず、例えば、膜状、粒子状、ワイヤー状、繊維状、針状、棒状、鱗片状等の種々の形状を挙げることができ、中でも、前記複合リン化物は、ミクロスフィア粒子であることが好ましい。この場合、水電解用触媒1は、水の電気分解において、過電圧の上昇をより抑制することができ、かつ、より長期間にわたって安定に使用することができる。
【0028】
ハイエントロピー複合リン化物のミクロスフィア粒子は、マイクロオーダーの粒子であって、その平均粒子径は特に限定されない。過電圧の上昇をより抑制することができ、かつ、より長期間にわたって安定に使用することができる点で、ハイエントロピー複合リン化物のミクロスフィア粒子の平均粒子径は、1~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましい。ここでいう平均粒子径は、走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0029】
ハイエントロピー複合リン化物のミクロスフィア粒子は、球状であってもよいし、異形状であってもよい。また、ハイエントロピー複合リン化物のミクロスフィア粒子は、表面がひだ状であってもよい。この場合、ハイエントロピー複合リン化物は表面積が大きくなるので、触媒活性が高まり、水の電気分解効率を高めることができる。ハイエントロピー複合リン化物のミクロスフィア粒子表面がひだ状である場合、例えば、ひだ状部分の厚みは、100nm以下であることが好ましい。
【0030】
ハイエントロピー複合リン化物のミクロスフィア粒子は、さらにコアシェル構造を有することも好ましい。すなわち、ミクロスフィア粒子は、内殻と、これを覆う外殻で形成された構造を有することも好ましい。この場合、外殻は前述のひだ状であることもより好ましい。ハイエントロピー複合リン化物のミクロスフィア粒子がコアシェル構造を有することで、触媒活性がさらに高まり、水の電気分解における水素発生効率をさらに高めることができる。
【0031】
水電解用触媒1において、電極基材上に形成されている触媒は、電極基材の一部又は全部を被覆することができる。また、触媒は、電極基材上に直接(他の層等を介さずに)触媒が形成され得る。触媒は電極基材の最外層に配置していることが好ましい。
【0032】
(水電解用触媒2)
水電解用触媒2(酸素発生電極用触媒)は、前記電極基材上に触媒が形成されており、斯かる触媒はハイエントロピー複合酸化物を含有する。ハイエントロピー複合酸化物は、前述のとおり、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有するハイエントロピー酸化物である。
【0033】
ハイエントロピー複合酸化物に含まれる金属元素はFe、Co、Ni、Mn及びCuのみからなるものであってもよい。この場合において、前記ハイエントロピー複合酸化物に不可避的に含まれ得る他の金属元素の含有を排除するものではなく、例えば、水電解用触媒の製造工程において不可避的に含まれる他の金属元素の含有は許容される。
【0034】
ハイエントロピー複合酸化物に含まれる各金属元素の含有割合は特に限定されない。例えば、ハイエントロピー複合酸化物中のCuを基準として、Cuのモル数を1として、以下のように各金属元素を含有することができる。すなわち、
Cu:Fe=1:3~1:4とすることができ、
Cu:Co=1:6~1:10とすることができ、
Cu:Ni=1:4~1:10とすることができ、
Cu:Mn=1:8~1:14とすることができる。
【0035】
前記ハイエントロピー複合酸化物において、酸素(O)の含有割合は特に限定されない。例えば、前記ハイエントロピー複合酸化物の全質量に対し、Oの含有割合は20~40モル%であることが好ましい。
【0036】
前記複合酸化物において、Fe、Co、Ni、Mn及びCuの価数は特に限定されない。例えば、Fe、Co、Ni、Mn及びCuはいずれも2価又は3価とすることができる。
【0037】
水電解用触媒2において、電極基材上に形成されている触媒は、前記ハイエントロピー複合酸化物のみからなるものであってもよいし、本発明の効果が阻害されない限り、前記ハイエントロピー複合酸化物以外の成分を含有することもできる。水電解用触媒2において、前記触媒は、前記ハイエントロピー複合酸化物を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。
【0038】
前記ハイエントロピー複合酸化物の形状は特に限定されず、例えば、膜状、粒子状、ワイヤー状、繊維状、針状、棒状、鱗片状等の種々の形状を挙げることができ、中でも、前記ハイエントロピー複合酸化物は、ミクロスフィア粒子であることが好ましい。この場合、水電解用触媒2は、水の電気分解において、過電圧の上昇をより抑制することができ、かつ、より長期間にわたって安定に使用することができる。
【0039】
ハイエントロピー複合酸化物のミクロスフィア粒子は、マイクロオーダーの粒子であって、その平均粒子径は特に限定されない。過電圧の上昇をより抑制することができ、かつ、より長期間にわたって安定に使用することができる点で、ハイエントロピー複合酸化物のミクロスフィア粒子の平均粒子径は、1~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましい。ここでいう平均粒子径は、走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0040】
ハイエントロピー複合酸化物のミクロスフィア粒子は、球状であってもよいし、異形状であってもよい。また、複合酸化物のミクロスフィア粒子は、表面がひだ状であってもよい。この場合、ハイエントロピー複合酸化物は表面積が大きくなるので、触媒活性が高まり、水の電気分解効率を高めることができる。ハイエントロピー複合酸化物のミクロスフィア粒子表面がひだ状である場合、例えば、ひだ状部分の厚みは、100nm以下であることが好ましい。
【0041】
ハイエントロピー複合酸化物のミクロスフィア粒子は、中空粒子であることも好ましい。ハイエントロピー複合酸化物のミクロスフィア粒子が中空構造を有することで、内表面を反応場として使用することができ、これにより触媒活性がさらに高まり、水の電気分解効率をさらに高めることができる。
【0042】
水電解用触媒2において、電極基材上に形成されている触媒は、電極基材の一部又は全部を被覆することができる。また、触媒は、電極基材上に直接(他の層等を介さずに)触媒が形成され得る。触媒は電極基材の最外層に配置していることが好ましい。
【0043】
(水電解用触媒1及び2)
本発明の水電解用触媒1は、水の電気分解用の電極として使用した場合、優れた水素発生効率をもたらすことができることから、カソードへの使用に適している。また、本発明の水電解用触媒2は、水の電気分解用の電極として使用した場合、優れた酸素発生効率をもたらすことができることから、アノードへの使用に適している。
【0044】
発明の水電解用触媒1又は水電解用触媒2を備えた電極を用いて水の電気分解をした場合に、過電圧の上昇をより抑制することができ、また、より長期間安定に電気分解することを可能とする。
【0045】
本発明の水電解用触媒1及び水電解用触媒2はいずれも、海水の電気分解用の電極としても適用することができる。海水は天然の海水であっても良いし、あるいは、模倣海水(例えば、1MのKOH及び0.5MNaClを含む水溶液)であってもよい。
【0046】
2.水電解用触媒の製造方法
本発明の水電解用触媒1及び水電解用触媒2はいずれもその製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。例えば、本発明の水電解用触媒1及び水電解用触媒2は、前駆体が形成された電極基材を用いて製造することができる。水電解用触媒1の場合は、電極基材上の前駆体をリン化する方法、水電解用触媒2の場合は、電極基材上の前駆体を焼成する方法が挙げられる。すなわち、本発明の製造方法は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する前駆体をリン化又は焼成することで水電解用触媒を得る工程を備える、水電解用触媒の製造方法を包含する。
【0047】
上述のように、本発明の水電解用触媒1及び水電解用触媒2は同じ前駆体から製造することができる。斯かる前駆体は、例えば、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する水酸化物である。
【0048】
より具体的には、本発明の水電解用触媒1(水素発生電極用触媒)の製造方法は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する前駆体をリン化することで、前記複合リン化物を得る工程を備える。また、本発明の水電解用触媒2(酸素発生電極用触媒)の製造方法は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する前駆体を焼成することで、前記複合酸化物を得る工程を備える。
【0049】
電極基材上に前駆体を形成する方法は特に限定されず、例えば、水熱合成法で電極基材上に前駆体を形成することができる。斯かる水熱合成では、Fe源、Co源、Ni源、Mn源及びCu源を含有する水溶液中で電極基材を加熱処理が行われ、これにより、電極基材上に前駆体が形成される。ここで使用する電極基材は、前述の電極触媒で使用する電極基材と同様であり、従って、金属基材、炭素基材、ガラス基材等を挙げることができ、好ましくは金属基材であり、より好ましくはニッケル基材であり、中でもニッケルフォームであることが特に好ましい。
【0050】
Fe源、Co源、Ni源、Mn源及びCu源としては、例えば、それぞれの金属化合物を挙げることができ、具体的には、各金属を含む無機酸塩、有機酸塩、水酸化物及びハロゲン化物等を挙げることができる。より詳しくは各金属の硝酸塩が例示される。すなわち、Fe源、Co源、Ni源、Mn源及びCu源の一態様としてはそれぞれ、Fe(NO3)3、Co(NO3)2、Ni(NO3)2、Mn(NO3)2及びCu(NO3)2等を挙げることができる。
【0051】
Fe源、Co源、Ni源、Mn源及びCu源を含有する水溶液の濃度は特に限定されず、溶媒1Lあたり、各金属の濃度をそれぞれ1~100mMとすることができ、2~80mMがより好ましく、3~70mMがさらに好ましく、5~65mMが特に好ましい。前記水溶液において、Fe源、Co源、Ni源、Mn源及びCu源の濃度はいずれも等濃度であってもよいし、異なっていてもよい。水溶液中の各金属のモル比は、生成する前駆体(水酸化物)中の各金属のモル比に一致するものとみなすことができる。
【0052】
前記水溶液は、その他の添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、例えば、pH調整剤を挙げることができる。pH調整剤としては、尿素(CO(NH2)2)、NH4F、水酸化アンモニウム等を挙げることができる。pH調整剤は1種のみ又は2種以上を組み合わせて使用することができる。pH調整剤を含む場合、溶媒100mLあたり、各pH調整剤が10~50mmol溶解していることが好ましい。
【0053】
水熱合成において、水溶液に電極基材を浸漬する方法は特に限定されず、通常は、電極基材の全体が水溶液に浸されるように行うことができる。電極基材の浸漬は、例えば、耐圧式のオートクレーブで行うことができる。オートクレーブの内面は、例えば、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂でコーティングすることができる。
【0054】
水熱合成では、電極基材を溶液に浸漬した状態で加熱処理を行う。加熱処理の温度は、前駆体が形成される条件である限りは特に制限されず、例えば、80~200℃とすることができ、100~150℃であることが好ましい加熱処理の時間も特に限定されず、例えば、2~24時間とすることができる。水熱合成における容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0055】
上記水熱合成により、電極基材上に前駆体が形成される。斯かる前駆体は、Fe、Co、Ni、Mn及びCuを有する複合水酸化物である。この電極基材上に前駆体をリン化することで前述の複合リン化物が生成し、また、電極基材上に前駆体を焼成することで前述の複合酸化物が生成する。
【0056】
(リン化の方法)
前駆体をリン化する方法は特に限定されず、例えば、公知のリン化処理を広く採用することができる。具体的には、前記前駆体を、リン源の存在下で加熱処理する方法が挙げられる。
【0057】
リン源はリン単体(P)であってもよいし、リンを含む化合物(リン化合物)であってもよい。リン化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、有機リン化合物等を挙げることができる。リン酸塩としては、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。亜リン酸塩としては、亜リン酸のアルカリ金属塩、亜リン酸のアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。次亜リン酸塩としては、次亜リン酸のアルカリ金属塩、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。有機リン化合物としては、例えば、ホスフィン又はその誘導体を挙げることができる。リン化合物は水和物であってもよい。
【0058】
具体的なリン化合物としては、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。リン化合物としては、反応性に優れるという観点から、次亜リン酸ナトリウムであることが好ましい。リン化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。リン化合物は、溶媒に溶解又は分散して使用することができ、あるいは、粉末等の固体状態で使用することもできる。
【0059】
リン化合物の使用量は特に限定されない。例えば、水熱合成で使用した金属元素の総量を1モルとした場合、リン化合物中のリン元素が0.1~10モルとなるように、好ましくは0.5~5モルとなるように、より好ましくは1~2モルとなるようにリン化合物を使用することができる。
【0060】
リン化処理は、前駆体が形成された電極基材をリン化合物の存在下で加熱処理することで行うことができる。リン化処理のための加熱温度は、例えば、150~500℃とすることができ、200~450℃とすることが好ましく、250~400℃とすることがより好ましい。
【0061】
リン化処理のための加熱時間は特に限定されず、加熱処理の温度に応じて適宜設定することができる。例えば、リン化処理のための加熱時間は、1.5~5時間とすることができる。焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、所望の酸化物が形成される程度に適宜設定することができる。
【0062】
リン化処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、不活性ガス雰囲気中でリン化処理を行うことであり、この場合、得られる電極触媒は過電圧を抑制しやすい。不活性ガスの種類は特に限定されず、例えば、アルゴン、窒素等である。
【0063】
上記のリン化処理によって、電極基材上の前駆体が複合リン化物へと変化し、電極基材上にFe、Co、Ni、Mn及びCu含むハイエントロピー複合リン化物が形成され得る。これを本発明の水電解用触媒1として得ることができる。
【0064】
(焼成の方法)
他方、水熱合成によって得られた前駆体が形成された電極基材を焼成処理した場合は、前駆体が酸化されて前述の複合酸化物が生成する。この場合は本発明の水電解用触媒2が得られる。
【0065】
焼成の方法は特に限定されず、例えば、公知の焼成方法を広く採用することができる。焼成は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0066】
焼成温度は、例えば、150~500℃とすることができ、200~450℃とすることが好ましく、250~400℃とすることがより好ましい。焼成時間は特に限定されず、焼成温度に応じて適宜設定することができる。例えば、焼成時間は、1.5~5時間とすることができる。
【0067】
焼成は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、不活性ガス雰囲気中で焼成を行うことであり、この場合、得られる電極触媒は過電圧を抑制しやすい。不活性ガスの種類は特に限定されず、例えば、アルゴン、窒素等である。
【0068】
上記の焼成処理によって、電極基材上の前駆体が複合酸化物へと変化し、電極基材上にFe、Co、Ni、Mn及びCu含むハイエントロピー複合酸化物が形成され得る。これを本発明の水電解用触媒2として得ることができる。
【0069】
3.水の電気分解方法
本発明の水の電気分解方法は、本発明の水電解用触媒を電極として使用して電解処理を行う工程を含む。具体的には、本発明の水の電気分解方法は、本発明の水電解用触媒1を電極として使用して電解処理を行う工程、あるいは、本発明の水電解用触媒2を電極として使用して電解処理を行う工程を含むことができる。
【0070】
本発明の水の電気分解方法では、水電解用触媒1はカソードとして使用することができ、水電解用触媒2はアノードとして使用することができる。従って、水電解用触媒1は水素を発生させることができ、水電解用触媒2は酸素を発生させることができる。
【0071】
また、本発明の水の電気分解方法は、本発明の水電解用触媒1及び水電解用触媒2の両方を電極として使用して電解処理を行う工程を含むこともできる。この場合、水電解用触媒1はカソードとして使用し水電解用触媒2はアノードとして使用する。
【0072】
本発明の水の電気分解方法において、本発明の水電解用触媒1をカソードに適用する場合、アノードとしては、水電解用触媒2を使用できる他、一般に水の電気分解においてアノードとして用いられる電極を使用することができる。例えば、炭素、白金、金などの貴金属などを素材とする電極をアノードとして用いることができる。また、本発明の水電解用触媒2をアノードに適用する場合、カソードとしては、水電解用触媒1を使用できる他、一般に水の電気分解においてカソードとして用いられる電極を使用することができる。
【0073】
本発明の水の電気分解で使用する水溶液としては、アルカリ水や海水を使用することができる。海水は天然の海水であっても良いし、あるいは、模倣海水(例えば、1MのKOH及び0.5MNaClを含む水溶液)を海水として用いることもできる。
【0074】
本発明の水の電気分解の具体的な例を挙げると、本発明の電極触媒をカソード、白金板をアノードとし模倣海水を電解液として、電圧を印加する。これにより、カソードにおいて水素を生成させることができる。また、印加電圧を増加させることにより、水素の生成速度を上昇させることができる。製造された水素は、燃料電池や水素エンジンなどの燃料として好ましく使用することができる。
【0075】
本発明の水の電気分解では、前記水電解用触媒1(カソード)及び/又は水電解用触媒2(アノード)を電極として使用することから、過電圧の上昇が起こりにくく、水素を効率よく製造することができ、また、電極触媒の耐久性に優れることから、長時間使用しても性能の低下が起こりにくい。
【0076】
本発明の水の電気分解において、水電解用触媒1及び水電解用触媒2をそれぞれカソード及びアノードに使用する場合であっても、水の電気分解に必要な電圧を低くすることができ、また、長時間にわたって安定した水の電気分解を行うことができる。
【実施例0077】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0078】
(調製例1)
まず、大きさが1×1.5cm2である発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を濃硝酸、エタノール及び脱イオン水の順に超音波条件下で20分間処理した後、60℃の真空オーブンで6時間乾燥させて、ニッケルフォームの前処理を行った。一方、2mmolのMn(NO3)2、1.5mmolのCo(NO3)2、1.5mmolのNi(NO3)2、0.8mmolのFe(NO3)3、0.2mmolのCu(NO3)2、12mmolの尿素、および、6mmolのNH4Fを30mLの水に溶解し、磁気攪拌下で混合して均一な溶液を得た。この溶液を、テフロン(登録商標)で裏打ちされた50mL容量のオートクレーブに全量移し、そこで前述の前処理したニッケルフォームを浸漬させ、容器を密閉した。その後、容器内を120℃で6時間加熱(水熱合成)した。その後、自然冷却させてから、ニッケルフォームを取り出し、エタノールと脱イオン水で洗浄し、60℃の真空オーブンで12時間乾燥させた。これにより、電極基材上に複合水酸化物からなる前駆体(以下、前駆体被覆電極基材と表記する)を形成した。
【0079】
(調製例2)
まず、大きさが1×1.5cm2である発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を濃硝酸、エタノール及び脱イオン水の順に超音波条件下で20分間処理した後、60℃の真空オーブンで6時間乾燥させて、ニッケルフォームの前処理を行った。一方、1.5mmolのCo(NO3)2、1.5mmolのNi(NO3)2、0.8mmolのFe(NO3)3、12mmolの尿素、および、6mmolのNH4Fを30mLの水に溶解し、磁気攪拌下で混合して均一な溶液を得た。この溶液を、テフロン(登録商標)で裏打ちされた50mL容量のオートクレーブに全量移し、そこで前述の前処理したニッケルフォームを浸漬させ、容器を密閉した。その後、容器内を120℃で6時間加熱(水熱合成)した。その後、自然冷却させてから、ニッケルフォームを取り出し、エタノールと脱イオン水で洗浄し、60℃の真空オーブンで12時間乾燥させた。これにより、電極基材上に複合水酸化物からなる前駆体(以下、前駆体被覆電極基材と表記する)を形成した。
【0080】
(調製例3)
まず、大きさが1×1.5cm2である発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を濃硝酸、エタノール及び脱イオン水の順に超音波条件下で20分間処理した後、60℃の真空オーブンで6時間乾燥させて、ニッケルフォームの前処理を行った。一方、2mmolのMn(NO3)2、1.5mmolのCo(NO3)2、1.5mmolのNi(NO3)2、0.8mmolのFe(NO3)3、12mmolの尿素、および、6mmolのNH4Fを30mLの水に溶解し、磁気攪拌下で混合して均一な溶液を得た。この溶液を、テフロン(登録商標)で裏打ちされた50mL容量のオートクレーブに全量移し、そこで前述の前処理したニッケルフォームを浸漬させ、容器を密閉した。その後、容器内を120℃で6時間加熱(水熱合成)した。その後、自然冷却させてから、ニッケルフォームを取り出し、エタノールと脱イオン水で洗浄し、60℃の真空オーブンで12時間乾燥させた。これにより、電極基材上に複合水酸化物からなる前駆体(以下、前駆体被覆電極基材と表記する)を形成した。
【0081】
(実施例1;複合酸化物の合成)
調製例1で得られた前駆体被覆電極基材を、マッフル炉にて350℃で2時間にわたり空気中にて焼成した。この焼成処理により、前駆体が酸化されて、電極基材(ニッケルフォーム)上にFe、Co、Ni、Mn及びCu含むハイエントロピー複合酸化物が触媒として形成され、これを水電解用触媒2(水電解用酸素発生電極用触媒)として得た。この水電解用触媒を「Mn2Co1.5Ni1.5Fe0.8Cu0.2-O」と表記した。
【0082】
(実施例2;複合リン化物の合成)
調製例1で得られた前駆体被覆電極基材及び1gの次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)を流通式の管状反応容器内に静置させた。この反応容器を加熱炉に固定し、反応容器内にAr(キャリアガス)を通気させながら、2℃/分の昇温速度で350℃に昇温した後、この温度で2時間保持することでリン化処理を行った。なお、反応容器内において、次亜リン酸ナトリウムはキャリアガスの上流側、前駆体被覆電極基材はキャリアガスの下流側に配置し、互いに接触しないようにした。上記リン化処理により、前駆体がリン化されて、電極基材(ニッケルフォーム)上にFe、Co、Ni、Mn及びCu含むハイエントロピー複合リン化物が触媒として形成され、これを水電解用触媒1(水電解用水素発生電極用触媒)として得た。この水電解用触媒を「Mn2Co1.5Ni1.5Fe0.8Cu0.2-P」と表記した。
【0083】
(比較例1-1)
調製例1で得られた前駆体被覆電極基材の代わりに調製例2で得られた前駆体被覆電極基材に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、Fe、Co及びNi含む複合酸化物が触媒として形成された水電解用触媒を得た。この水電解用触媒を「CoNiFeO」と表記した。
【0084】
(比較例1-2)
調製例1で得られた前駆体被覆電極基材の代わりに調製例2で得られた前駆体被覆電極基材に変更したこと以外は実施例2と同様の方法により、Fe、Co及びNi含む複合リン化物が触媒として形成された水電解用触媒を得た。この水電解用触媒を「CoNiFeP」と表記した。
【0085】
(比較例2-1)
調製例1で得られた前駆体被覆電極基材の代わりに調製例3で得られた前駆体被覆電極基材に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、Mn、Fe、Co及びNi含む複合酸化物が触媒として形成された水電解用触媒を得た。この水電解用触媒を「MnCoNiFeO」と表記した。
【0086】
(比較例2-2)
調製例1で得られた前駆体被覆電極基材の代わりに調製例3で得られた前駆体被覆電極基材に変更したこと以外は実施例2と同様の方法により、Fe、Co及びNi含む複合リン化物が触媒として形成された水電解用触媒を得た。この水電解用触媒を「MnCoNiFeP」と表記した。
【0087】
(評価結果)
図1は、実施例で得られた水電解用触媒における触媒部分のSEM画像であり、(a)及び(b)が実施例1で得られた水電解用触媒2、(c)及び(d)が実施例2で得られた水電解用触媒1である。
【0088】
図1(a)及び(b)のSEM画像から、実施例1で得られた水電解用触媒2に形成された触媒は、マイクロオーダーのミクロスフィア粒子であることがわかり、平均粒子径は3~7μmであった。また、
図1(a)から、実施例1で得られた水電解用触媒2のミクロスフィア粒子は中空粒子であることも確認された。また、
図1(c)及び(d)のSEM画像から、実施例2で得られた水電解用触媒1に形成された触媒は、マイクロオーダーのミクロスフィア粒子であることがわかり、平均粒子径は4~6μmであった。また、
図1(c)から実施例2で得られた水電解用触媒1のコアシェル構造が存在することも確認された。さらに、実施例1及び2のいずれにおいてもミクロスフィア粒子表面、100nm以下の厚みを有するひだ状が形成されていることが認められた。
【0089】
以上より、実施例1で得られた水電解用触媒2は、Mn2Co1.5Ni1.5Fe0.8Cu0.2の複合酸化物からなるミクロスフィア粒子が形成されていること、実施例2で得られた水電解用触媒1は、Mn2Co1.5Ni1.5Fe0.8Cu0.2の複合リン物からなるミクロスフィア粒子が形成されていることがわかった。
【0090】
図2(a)及び(b)は、実施例2で得られた水電解用触媒1を電極として使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。この測定では、実施例2で得られた水電解用触媒1(水素発生電極)をカソードに使用し、また、参照電極としてAg/AgCl電極を使用して、水素発生反応(HER)の特性を評価した。測定に使用した電解液は、アルカリ性模擬海水(1MKOHと0.5MNaCl水溶液の混合液)とし、スキャン速度は2mV/sとし、電流密度は100mAcm
-2とした。なお、
図2(a)の破線は、iR補正されたリニアスイープボルタンメトリーの測定結果である。
【0091】
なお、リニアスイープボルタンメトリー曲線等の電気特性の評価は、標準3電極セルと共に米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いた。
【0092】
図2(a)から、実施例2で得られた水電解用触媒1は、電流密度100mAcm
-2では、過電圧が179mVの、ターフェル勾配が102mVdec
-1であることがわかった。また、
図2(b)から、実施例2で得られた水電解用触媒1は、100mAcm
-2で160時間以上の高い活性を維持できていることがわかり、明らかな減衰は認められなかった。
【0093】
図3(a)及び(b)は、実施例1で得られた水電解用触媒2を電極として使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。この測定では、実施例1で得られた水電解用触媒2をアノードに使用し、また、参照電極としてAg/AgCl電極を使用して、酸素発生反応(OER)の特性を評価した。測定に使用した電解液は、アルカリ性模擬海水(1MKOHと0.5MNaCl水溶液の混合液)とし、スキャン速度は2mV/sとし、電流密度は100mAcm
-2とした。なお、
図3(a)の破線は、iR補正されたリニアスイープボルタンメトリーの測定結果である。
【0094】
図3(a)から、実施例1で得られた水電解用触媒2は、電流密度100mAcm
-2では、過電圧が419mVの、ターフェル勾配が93mVdec
-1であることがわかった。また、
図3(b)から、実施例1で得られた水電解用触媒1は、120mAcm
-2で160時間以上の高い活性を維持できていることがわかり、明らかな減衰は認められなかった。
【0095】
図4(a)及び(b)は、実施例2で得られた水電解用触媒1及び実施例1で得られた水電解用触媒2の両方を電極として備えた電解槽を用いたリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。この測定では、実施例2で得られた水電解用触媒1をカソードに使用し、実施例1で得られた水電解用触媒2をアノードに使用し、また、参照電極としてAg/AgCl電極を使用して、水素発生反応(HER)の特性を評価した。測定に使用した電解液は、アルカリ性模擬海水(1MKOHと0.5MNaCl水溶液の混合液)とし、スキャン速度は2mV/sとし、電流密度は10及び100mAcm
-2とした。
【0096】
図4(a)から、水電解用触媒1及び水電解用触媒2を備える電解槽は、アルカリ性模擬海水で10及び100mAcm
-2に到達するために1.54および2.05Vの電圧を必要とするのみであることがわかった。また、
図4(b)から、100mAcm
-2の電流密度で十分な安定性を示すことも認められた。
【0097】
図5は、実施例で得られた水電解用触媒と、比較例で得られた水電解用触媒を電極として使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を比較するための図である。具体的には、
図5(a)は、比較例1-2で得られた水電解用触媒(CoNiFeP)及び比較例2-2で得られた水電解用触媒(MnCoNiFeP)及び実施例2で得られた水電解用触媒1(Mn
2Co
1.5Ni
1.5Fe
0.8Cu
0.2-P)をそれぞれカソードとして使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果である。また、
図5(b)は、比較例1-1で得られた水電解用触媒(CoNiFeO)及び比較例2-1で得られた水電解用触媒(MnCoNiFeO)及び実施例1で得られた水電解用触媒2(Mn
2Co
1.5Ni
1.5Fe
0.8Cu
0.2-O)をそれぞれアノードとして使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果である。
【0098】
図5(a)から、実施例2で得られた水電解用触媒1は、各比較例で得られた水電解用触媒に比べて水電解用触媒として優れた性能を有していること、及び、
図5(b)から、実施例1で得られた水電解用触媒2は、各比較例で得られた水電解用触媒に比べて水電解用触媒として優れた性能を有していることが明らかである。
【0099】
以上の結果から、水電解用触媒1及び水電解用触媒2はいずれも、電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、長期間にわたって安定に使用することができるものであった。また、水電解用触媒1(カソード)及び水電解用触媒2(アノード)の両方で電解槽を形成した場合であっても、高い耐久性を有する水分解用電極として使用できるものであった。