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特開2024-125623データ処理装置、データ処理システム、及びデータ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125623
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】データ処理装置、データ処理システム、及びデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20240911BHJP
   G06T 7/50 20170101ALI20240911BHJP
   G06V 20/05 20220101ALI20240911BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G06T7/50
G06V20/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033559
(22)【出願日】2023-03-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「データ利活用等のデジタル化の推進による社会課題・地域課題解決のための実証型研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 浩平
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴仁
【テーマコード(参考)】
2G059
5L096
【Fターム(参考)】
2G059AA10
2G059BB08
2G059BB12
2G059CC02
2G059CC04
2G059CC09
2G059CC10
2G059EE02
2G059FF01
2G059FF02
2G059GG10
2G059HH02
2G059KK03
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM09
2G059MM10
2G059MM12
5L096FA52
5L096FA59
5L096FA64
5L096GA19
(57)【要約】
【課題】海藻類のCO吸収量を求める際の精度を向上する。
【解決手段】データ処理装置1は、水中カメラによって水中の海藻類を海藻類の上方とは異なる方向から撮像することにより生成された撮像画像データを取得する取得部として機能する観測データ処理部121と、撮像画像データを画像解析することによって海藻類の水深方向の長さと海藻類の幅とを含む形状をモデリングするモデリング部122と、モデリングした形状に基づいて海藻類の二酸化炭素吸収量を推定するCO吸収量推定部123と、を備える。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中カメラによって水中の海藻類を前記海藻類の上方とは異なる方向から撮像することにより生成された撮像画像データを取得する取得部と、
前記撮像画像データを画像解析することによって前記海藻類の水深方向の長さと前記海藻類の幅とを含む形状をモデリングするモデリング部と、
モデリングした前記形状に基づいて前記海藻類の二酸化炭素吸収量を推定する推定部と、
を有する、データ処理装置。
【請求項2】
前記撮像画像データは、前記海藻類の側面を撮像する方向を含む複数の異なる方向から前記海藻類を撮像することにより生成された複数の撮像画像データを含み、
前記モデリング部は、前記複数の撮像画像データに基づいて前記形状を3次元モデリングする、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記形状の表面積と、前記水中カメラによって撮像した前記海藻類が位置する水深に応じた明るさに対応する前記海藻類の二酸化炭素の吸収係数と、に基づいて、前記二酸化炭素吸収量を推定する、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記形状を長さ方向に複数のブロックに区分し、前記ブロック毎に、前記ブロックの位置する水深に応じた明るさに対応する前記海藻類の二酸化炭素吸収係数を用いて前記二酸化炭素吸収量を推定する、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記形状の前記水深方向の長さに基づいて、前記形状を前記複数のブロックに区分する数を決定する、
請求項4に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記水深に応じた明るさの分布に関するデータに基づいて、前記形状を前記複数のブロックに区分する数を決定する、
請求項4に記載のデータ処理装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記水深に応じた明るさの分布が示す前記明るさの変化の度合いが大きい領域ほど、前記形状の長さ方向に区分するブロックの数を大きく決定する、
請求項6に記載のデータ処理装置。
【請求項8】
前記モデリング部は、画像データが入力されると入力された画像データに含まれる確からしさが基準値よりも高い海藻類の種類を出力する機械学習モデルに前記撮像画像データを入力することにより前記海藻類の種類を特定し、
前記推定部は、特定された前記海藻類の種類に応じた二酸化炭素吸収係数を用いて前記二酸化炭素吸収量を推定する、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項9】
前記撮像画像データは、前記海藻類の側面を撮像する方向を含む複数の異なる方向から前記海藻類を撮像することにより生成された複数の撮像画像データを含み、
前記モデリング部は、前記画像解析において前記海藻類が群生した藻場であるか否かを判定した結果に応じて、前記海藻類の形状のモデリングに、3次元モデリングを適用するか2次元モデリングを適用するかを決定する、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項10】
水中の海藻類を撮像する水中カメラと、
前記水中カメラによって前記海藻類を前記海藻類の上方とは異なる方向から撮像することにより生成された撮像画像データを取得する取得部と、
前記撮像画像データを画像解析することによって前記海藻類の水深方向の長さと前記海藻類の幅とを含む形状をモデリングするモデリング部と、
モデリングした前記形状に基づいて前記海藻類の二酸化炭素吸収量を推定する推定部と、
を有する、データ処理システム。
【請求項11】
データ処理装置として機能するコンピュータは、
水中カメラによって水中の海藻類を前記海藻類の上方とは異なる方向から撮像することにより生成された撮像画像データを取得し、
前記撮像画像データを画像解析することによって前記海藻類の水深方向の長さと前記海藻類の幅とを含む形状をモデリングし、
モデリングした前記形状に基づいて前記海藻類の二酸化炭素吸収量を推定する、
データ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ処理装置、データ処理システム、及びデータ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アマモやコンブといった海草・海藻(以下、「海藻類」という)が存在する海洋生態系では、光合成などによって二酸化炭素(CO)を吸収し、吸収したCOの一部は土壌や海水中に留まる。ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)では、海洋生態系によるCOの吸収を対象とする、Jブルークレジット(登録商標)制度を創設した。この制度は、CO吸収量に相当するクレジットの認証及び発行を行い、CO削減を図る企業あるいは団体とのクレジット取引を促進することを企図する。
【0003】
クレジットを発行したい企業あるいは団体(別言すると、クレジット販売者)は、例えば、藻場の観測結果と共にクレジットの申請をJBEに対して行う。JBEは、藻場の観測結果を踏まえ、適切な量のクレジットを申請者に発行する。JBEは、申請の手引きを公開しており(例えば、非特許文献1)、この手引きによれば、藻場のCO吸収量(ブルーカーボン量とも称される)は、藻場の面積とCOの吸収係数との積によって決定される。吸収係数に関しては文献等に記載された値の利用が許容されるが、藻場の面積に関しては実測することが求められる。
【0004】
藻場を観測する技術の一例として、ソナー・システムを用いる手法がある(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の手法によれば、海上から海中に超音波を送信し、その反射波を計測することで、広域の藻場の分布を高分解能で観測できる。なお、海中ではGPS(Global Positioning System)の電波の受信が難しいため、特許文献1に記載の手法では、海上に計測器を配置することで、藻場の位置情報と藻場の分布とを紐づける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-24377号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)、“Jブルークレジット(R)(試行)認証申請の手引き -ブルーカーボンを活用めした気候変動対策- Ver. 2.1”、[online]、令和4年9月、[令和5年1月24日検索]、インターネット<https://www.blueeconomy.jp/files/jbc2022/20220916_J-BlueCredit_Guideline_v2.1.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の手法では、海藻類の水深方向の長さを考慮しないため、観測データから求められる海藻類(あるいは藻場)の表面積に大きな誤差が生じ、この誤差に起因して、海藻類によるCO吸収量にも大きな誤差が生じる。
【0008】
本発明の目的の1つは、海藻類のCO吸収量を求める際の精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様のデータ処理装置は、水中カメラによって水中の海藻類を前記海藻類の上方とは異なる方向から撮像することにより生成された撮像画像データを取得する取得部と、前記撮像画像データを画像解析することによって前記海藻類の水深方向の長さと前記海藻類の幅とを含む形状をモデリングするモデリング部と、モデリングした前記形状に基づいて前記海藻類の二酸化炭素吸収量を推定する推定部と、を有する。
【0010】
前記撮像画像データは、前記海藻類の側面を撮像する方向を含む複数の異なる方向から前記海藻類を撮像することにより生成された複数の撮像画像データを含み、前記モデリング部は、前記複数の撮像画像データに基づいて前記形状を3次元モデリングしてもよい。
【0011】
前記推定部は、前記形状の表面積と、前記水中カメラによって撮像した前記海藻類が位置する水深に応じた明るさに対応する前記海藻類の二酸化炭素の吸収係数と、に基づいて、前記二酸化炭素吸収量を推定してもよい。
【0012】
前記推定部は、前記形状を長さ方向に複数のブロックに区分し、前記ブロック毎に、前記ブロックの位置する水深に応じた明るさに対応する前記海藻類の二酸化炭素吸収係数を用いて前記二酸化炭素吸収量を推定してもよい。
【0013】
前記推定部は、前記形状の前記水深方向の長さに基づいて、前記形状を前記複数のブロックに区分する数を決定してもよい。
【0014】
前記推定部は、前記水深に応じた明るさの分布に関するデータに基づいて、前記形状を前記複数のブロックに区分する数を決定してもよい。
【0015】
前記推定部は、前記水深に応じた明るさの分布が示す前記明るさの変化の度合いが大きい領域ほど、前記形状の長さ方向に区分するブロックの数を大きく決定してもよい。
【0016】
前記モデリング部は、画像データが入力されると入力された画像データに含まれる確からしさが基準値よりも高い海藻類の種類を出力する機械学習モデルに前記撮像画像データを入力することにより前記海藻類の種類を特定し、前記推定部は、特定された前記海藻類の種類に応じた二酸化炭素吸収係数を用いて前記二酸化炭素吸収量を推定してもよい。
【0017】
前記撮像画像データは、前記海藻類の側面を撮像する方向を含む複数の異なる方向から前記海藻類を撮像することにより生成された複数の撮像画像データを含み、前記モデリング部は、前記画像解析において前記海藻類が群生した藻場であるか否かを判定した結果に応じて、前記海藻類の形状のモデリングに、3次元モデリングを適用するか2次元モデリングを適用するかを決定してもよい。
【0018】
本発明の第2の態様のデータ処理システムは、水中の海藻類を撮像する水中カメラと、前記水中カメラによって前記海藻類を前記海藻類の上方とは異なる方向から撮像することにより生成された撮像画像データを取得する取得部と、前記撮像画像データを画像解析することによって前記海藻類の水深方向の長さと前記海藻類の幅とを含む形状をモデリングするモデリング部と、モデリングした前記形状に基づいて前記海藻類の二酸化炭素吸収量を推定する推定部と、を有する。
【0019】
本発明の第3の態様のデータ処理方法は、データ処理装置として機能するコンピュータが、水中カメラによって水中の海藻類を前記海藻類の上方とは異なる方向から撮像することにより生成された撮像画像データを取得し、前記撮像画像データを画像解析することによって前記海藻類の水深方向の長さと前記海藻類の幅とを含む形状をモデリングし、モデリングした前記形状に基づいて前記海藻類の二酸化炭素吸収量を推定してもよい。
【0020】
なお、以上の包括的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体によって実現されてもよいし、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、及び、記録媒体のうち2以上の任意な組み合わせによって実現されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、海藻類のCO吸収量を求める際の精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態に係る藻場観測システムの概要を模式的に示す図である。
図2】海藻類のCO吸収量が水深に応じて異なることを模式的に説明する図である。
図3】藻場観測システムによる処理の概要を模式的に示す図である。
図4】実施の形態に係るデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
図5】実施の形態に係るデータ処理装置によるデータ処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を適宜参照して、実施の形態について説明する。本明細書の全体を通じて同一要素には、特に断らない限り、同一符号を付す。添付の図面と共に以下に記載される事項は、例示的な実施の形態を説明するためのものであり、唯一の実施の形態を示すためのものではない。例えば、実施の形態において動作の順序が示された場合、動作の順序は、全体的な動作として矛盾が生じない範囲で、適宜に変更されてもよい。
【0024】
また、実施の形態において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、説明が不必要に冗長になること、及び/又は、技術的な事項又は概念が曖昧になることを回避して当業者の理解を容易にするために、公知又は周知の技術的な事項の詳細説明を省略する場合がある。また、実質的に同一の構成、機能及び/又は動作についての重複説明を省略する場合がある。
【0025】
<藻場観測システムSの概要>
図1は、一実施の形態に係る藻場観測システムSの概要を模式的に示す図である。藻場観測システムSは、海藻類の二酸化炭素(CO)の吸収量を推定するためのシステムである。図1に示すように、藻場観測システムSは、例示的に、海中において海藻類を撮像するための水中カメラ2と、船舶タイプの水上ドローン3と、を備える。藻場観測システムSの構成及び動作の説明に先立ち、海藻類が生育している藻場における観測手法について説明する。
【0026】
藻場の主な観測手法は、「ドローンによる空撮」と「ダイバーによる調査」の2つに分類される。「ドローンによる空撮」では、広域を効率的に観測できるが、藻場と岩礁あるいは岩との区別がつかないといった理由によって、観測の精度が低下し得る。これに対し、「ダイバーによる調査」では、詳細に藻場を観測できるが、広域の観測には適さないため、効率が落ちる。このように、2つの手法には一長一短があり、藻場観測の「精度」と「効率」とを両立させることが難しい。
【0027】
また、藻場の面積を計測する際に、水中カメラによって藻場を上方から撮影した場合、海藻類の高さ(別言すると、海藻類の水深方向の長さ)を把握しづらいため、海藻類の表面積の計測精度が低下する。水中(例えば、海中)の海藻類は、光合成によってCOを吸収するため、海藻類の表面積に誤差が生じると、表面積に基づいて求められるCO吸収量にも誤差が生じる。
【0028】
他の誤差の要因として、海中において海藻類が受ける光の明るさ(別言すると、光強度)が海面からの水深によって異なることが挙げられる。例えば図2に模式的に示すように、海面からの水深が深いほど海藻類の受ける光の明るさは小さくなるため、海藻類の光合成の活発度は低下する。
【0029】
そのため、同じ海藻類であっても、海藻類の水面に近い部分と水面から遠い(深い)部分とで、光合成の活発度が異なり、結果として、CO吸収量も異なる。したがって、海藻類の水深方向の長さは、海藻類のCO吸収量を求めるにあたって重要なパラメータの1つである。
【0030】
そこで、以下に説明する本実施の形態では、海藻類を撮像した撮像画像データを画像解析することにより、海藻類の水深方向の長さと海藻類の幅とを含む海藻類の形状をモデリングし、モデリングした海藻類の形状に基づいてCO吸収量を求めることを提案する。海藻類の形状のモデリングは、後述するように、3次元(3D)モデリングでもよいし、2次元(2D)モデリングでもよい。
【0031】
本明細書において、海中において海藻類が群生する場所を「藻場」と称し、「藻場」の種類には、例えば、「アマモ場」、「ガラモ場」、「コンブ場」、「アラメ場」、「ワカメ場」、「テングサ場」がある。
【0032】
「アマモ場」を主に構成する海藻類の種類(以下、「藻種」と略称することがある)は、例えば、「アマモ」、「コアマモ」、「スガモ」、「リュウキュウスガモ」等であり、「ガラモ場」を主に構成する藻種は、例えば、「アカモク」、「ノコギリモク」、「ヨレモク」、「ホンダワラ」等である。
【0033】
「コンブ場」を主に構成する藻種は、例えば、「マコンブ」、「ホソメコンブ」、「チガイソ」、「アナメ」、「スジメ」等であり、「アラメ場」を主に構成する藻種は、例えば、「アラメ」、「サガラメ」、「カジメ」、「クロメ」、「ツルアラメ」等である。「ワカメ場」を主に構成する藻種は、例えば、「ワカメ」、「ヒロメ」等であり、「テングサ場」を主に構成する藻種は、例えば、「マクサ」、「オオブサ」、「オバクサ」等である。なお、海中で光合成が可能な植物が海藻類に属する。
【0034】
以下、藻場観測システムSが備える各部の概要を説明する。水上ドローン3は、水上を移動可能な水上移動体(あるいは航行体)の一例である。水上ドローン3は、例えば、海上に位置するボートのような船舶、海上に設けられた構造物、岩礁のような海上の自然物、あるいは地上から、無線あるいは有線のコントローラによって、移動が制御される。
【0035】
水中カメラ2は、例えば、水上ドローン3に搭載されたコンピュータ(便宜的に、ドローンコンピュータと称する。図1において図示省略)と通信ケーブルによって接続されており、水上ドローン3の移動(航行)に伴って海中を移動する。
【0036】
また、水中カメラ2は、例えば、ドローンコンピュータからの通信ケーブルを介した制御に応じて海中での動作あるいは姿勢が制御されて、異なる複数の撮像方向において海中の海藻類を撮像可能である。例示的に、水中カメラ2は、海中の海藻類を海藻類の上方と異なる1つ又は複数の方向から撮像することにより撮像画像データを生成する。
【0037】
ここで、海藻類の上方と異なる方向とは、例えば、海藻類を水深方向の真上から撮像する方向を除いた方向であり、海藻類の側面が水中カメラ2の画角に収まる撮像方向である。別言すると、水中カメラ2は、撮像画像データにおいて海藻類の水深方向の長さを特定可能な方向に撮像方向が設定あるいは制御される。なお、撮像画像データは、動画像データでもよいし、静止画データでもよい。
【0038】
水中カメラ2による撮像画像データは、例えば、通信ケーブルを介してドローンコンピュータに送信され、ドローンコンピュータの記憶装置に記憶される。また、ドローンコンピュータは、海藻類の撮影に付随して、例えば、撮影場所の座標、水中カメラ2の撮像方向(例えば、水深方向と撮像方向とが成す角度)、水深、及び、海面と水中カメラ2との距離を記憶装置に記録する。
【0039】
撮影場所の座標は、例えば、ドローンコンピュータあるいは水上ドローン3に搭載されたGPS機器によって取得された位置情報に基づき決定される。水中カメラ2の撮像方向は、例えば、水中カメラ2において取得されるか、あるいは、水中カメラ2による撮影時に水中カメラ2の姿勢をドローンコンピュータが制御した時のデータとして取得される。
【0040】
水深は、例えば、水中カメラ2に取り付けられた水深センサによって取得される。海面と水中カメラ2との距離は、例えば、水深センサによって得られた水深と海面との差によって取得される。なお、海面と水中カメラ2との距離は、水上ドローン3から水中カメラ2を海中に降ろした分に相当する通信ケーブルの長さを基に取得されてもよい。
【0041】
なお、上述した藻場観測システムSでは、海上に位置する水上ドローン3から海中に沈められた水中カメラ2によって海中に生息する海藻類の撮像を行うが、例えば、水中ドローンのような水中を移動可能な水中移動体に取り付けられたカメラ(内蔵カメラでもよいし外付けカメラでもよい)によって海中に生息する海藻類の撮像が行われてもよい。
【0042】
また、藻場観測システムSにおいて、水中カメラ2は1台に限られず、2台以上備えられていてもよい。例えば、2台以上の水中カメラ2の海中における位置や姿勢が個別的に制御されることによって、異なる複数の画角の撮像画像データが一度に取得されてもよい。
【0043】
<藻場観測システムSによる処理の概要>
図3は、藻場観測システムSによる処理の概要を模式的に示す図である。図1に例示した藻場観測システムSにおいて、海中に生息する海藻類の撮像画像データを含む観測データが取得される。
【0044】
例えば、点線枠A1に示したように、1台又は複数台の水中カメラ2によって、海中の海藻類が異なる複数の撮像方向から撮像されて撮像画像データが取得される。また、撮影場所の座標、水中カメラ2の撮像方向(角度)、水深、及び、海面と水中カメラ2との距離が取得される。
【0045】
取得された観測データは、図4を参照して後述するデータ処理装置1に入力される。データ処理装置1は、図3の点線枠A2に示したように、観測データを基に、撮像画像データにおける海藻類の形状を3D又は2Dにてモデリングすることにより海藻類形状モデルを生成する。データ処理装置1が撮像画像データを基にモデリングした海藻類の形状を、便宜的に「海藻類形状モデル」と称することがある。
【0046】
また、データ処理装置1は、例えば、海藻類の撮像場所の水深、及び、水中カメラ2と海面との距離を基に、海藻類形状モデルの長さを導出し、導出した長さを基に海藻類形状モデルの表面積を導出する。併せて、データ処理装置1は、例えば、海藻類の種類を学習した機械学習モデルを用いて、撮像画像データにおける海藻類の種類を特定する。また、データ処理装置1は、例えば、海藻類を撮影した場所の水深に応じた明るさ(別言すると、光強度)を数値化したデータ(単位は例えば「ルクス」)を取得する。
【0047】
海藻類を撮影した場所の水深に応じた明るさは、例えば、水中カメラ2に取り付けられた光センサのような計測装置によって検出されて数値化されてもよいし、海藻類の撮像画像データの画像解析において水深方向における画素の輝度値の変化によって検出されて数値化されてもよい。
【0048】
海中において海藻類が受ける光の明るさは、水深の相違に限らず海中の濁度によっても異なり得る。上述のごとく海藻類を撮影した場所の水深に応じた明るさを検出することで、水深方向の明るさに関する理論値を用いる場合よりも、海藻類のCO吸収量の推定精度を高めることができる。
【0049】
撮像画像データには複数種類の海藻類が含まれることが想定され得るため、データ処理装置1は、例えば、それぞれの種類の海藻類の画像データのうち、撮像画像データに含まれる海藻類の画像データとの類似度に基づいて、海藻類の種別を判定する。データ処理装置1は、海藻類の種類を学習した機械学習モデルを用いて、撮像画像データに含まれる海藻類の種類を特定してもよい。
【0050】
次いで、データ処理装置1は、図3において点線枠A3に示すように、モデリングした海藻類形状モデルを水深方向(別言すると、海藻類の長さの方向)に複数のブロック(図3の例では4つのブロック#1~#4)に区分する。
【0051】
データ処理装置1は、区分した複数のブロックの単位で、表面積(単位は例えば「m」)と、水深に応じた明るさに対応するCO吸収係数(単位は例えば「t-CO2/m2」)との積によって、個々のブロックのCO吸収量を求める。そして、データ処理装置1は、個々のブロックのCO吸収量を合計することによって、撮像された海藻類全体の表面積に応じたCO吸収量を求める。
【0052】
水深に応じた海中の明るさとCO吸収係数との対応関係については、例えば、サンプル採取等によって予め水深に応じた明るさとCO吸収係数との対応を示すデータベースを作成しておき、データ処理装置1の記憶部13(図4により後述)に記憶しておく。
【0053】
データベースは、点線枠A3内に例示したように、海藻類の種類#1~#m(mは2以上の整数)ごとに作成しておく。データ処理装置1は、例えば、機械学習モデルによって特定された海藻類の種類に対応するデータベースにおいて、個々のブロック#i(iは1~mの何れか1つ)の明るさに対応するCO吸収係数を用いてCO吸収量を求める。なお、以下において、明るさとCO吸収係数との対応を示すデータベースを、「明るさ対CO吸収係数データ」と称することがある。また、水深に応じた明るさとCO吸収係数との対応関係は、数式によって表されてもよい。
【0054】
<データ処理装置1の構成例>
次に、上述したデータ処理を実現するためのデータ処理装置1の構成例について、図4を参照して説明する。図4は、本実施の形態に係るデータ処理装置1の構成例を示すブロック図である。図4に示したデータ処理装置1は、例えば、インターフェース(IF)11、プロセッサ12、及び、記憶部13を備える。
【0055】
インターフェース11は、データ処理装置1は、外部機器との入出力IFであり、例えば、図1に例示した藻場観測システムSによって観測された観測データ(例えば、ドローンコンピュータの記憶装置に記憶された撮像画像データ)が入力され、入力された観測データは、プロセッサ12へ出力される。また、IF11は、プロセッサ12による処理結果(例えば、CO吸収量)を外部機器へ出力する。
【0056】
外部機器は、ドローンコンピュータであってもよいし、他のコンピュータであってもよい。CO吸収量の推定(「算出」あるいは「決定」に相互に読み替えられてもよい)にリアルタイム性は求められなくてよいので、ドローンコンピュータによって得られた観測データが、他のコンピュータあるいは記憶媒体からIF11を通じてデータ処理装置1に入力されてもよい。また、データ処理装置1の処理結果であるCO吸収量は、例えば、IF11を通じて外部機器としての表示装置あるいは印刷装置へ出力されて表示あるいは印刷される。
【0057】
観測データのデータ項目の非限定的一例は、水中カメラ2による海藻類の撮像画像データ、撮像画像データが得られた位置の座標データ、撮像画像データが得られた位置の水深データ、及び、撮像画像データが得られた時の水中カメラ2の撮像方向を示す角度データである。角度データは、例えば、水深方向を基準にして水深方向と水中カメラ2の撮像方向とが成す角度によって表される。海藻類の撮像画像データは、海藻類の側面を撮像する方向を含む複数の異なる方向から海藻類を撮像することにより生成された複数の撮像画像データを含んでいてよい。
【0058】
プロセッサ12は、例えば、IF11から入力された観測データを基に、少なくとも海藻類によるCO吸収量を推定し、推定の結果をIF11へ出力する。プロセッサ12は、記憶部13に記憶されたプログラムを実行することにより、観測データ処理部121、モデリング部122、CO吸収量推定部123、及び、設定受付部124として機能する。
【0059】
観測データ処理部121は、海藻類を含む撮像画像データを取得する取得部の一例であり、IF11から入力された、撮像画像データを少なくとも含む観測データを受信し、観測データをモデリング部122へ出力する。また、観測データ処理部121は、例えば、水中カメラ2によって撮像した海藻類が位置する水深に応じた明るさに関するデータ(以下、「光強度データ」とも称する)を水中カメラ2から取得する。観測データ処理部121は、水中カメラ2が海藻類を撮像した画像データを解析することにより、水深に応じた明るさを特定してもよい。光強度データは、例えば、水深に応じた明るさの分布(あるいは変化)に関するデータである。
【0060】
モデリング部122は、例えば、観測データ処理部121から入力された撮像画像データを画像解析することによって、海藻類の水深方向の長さと海藻類の幅とを含む形状をモデリングする。例示的に、モデリング部122は、画像解析において撮像画像データの撮像場所が海藻類の群生した藻場であるか否かを判定した結果に応じて、海藻類の形状を3Dにてモデリングするか2Dにてモデリングするかを決定(あるいは設定)する。
【0061】
そのため、モデリング部122は、例えば、2D/3D設定部1221を備える。2D/3D設定部1221は、例示的に、撮像画像データの撮像場所が藻場でない場合(例えば、閾値以下の少数の海藻類が撮像画像データに含まれる場合)、モデリング部122は、海藻類の形状を3Dにてモデリング(「立体化」と称してもよい)する。3Dモデリングによれば、海藻類の形状のモデリング精度を高めることができる。一方、撮像画像データの撮像場所が藻場である場合、2D/3D設定部1221は、海藻類あるいは藻場の形状を2Dにてモデリングする。2Dモデリングによれば、モデリングのための演算量を削減できる。
【0062】
なお、3D及び2Dのうち何れのモデリングを適用するかは、撮像画像データの撮影場所が藻場であるか否かの判定結果に加えて、設定受付部124からの設定にも基づいて決定されてもよい。詳細な動作例については図5を参照して後述する。
【0063】
また、モデリング部122は、例えば、撮像画像データに含まれる海藻類の種別を判別するために、機械学習モデル1222を備える。機械学習モデル1222は、例えば、複数種類の海藻類の画像データを教師データに用いて海藻類の種類を学習させたモデルであり、画像データが入力されると入力された画像データに含まれる確からしさが基準値よりも高い海藻類の種類を出力する。機械学習モデル1222に、海藻類が写った撮像画像データを入力することにより、その海藻類の種類が特定されて藻種を示すデータが出力される。
【0064】
CO吸収量推定部123は、例えば、海藻類形状モデルに基づいて海藻類のCO吸収量を推定する。例示的に、CO吸収量推定部123は、海藻類形状モデルの表面積と、水中領域における海藻類の水深方向の長さと、水中領域における水深に応じた光強度データと、水深に応じた明るさに対応する海藻類のCOの吸収係数と、に基づいて、CO吸収量を推定する。
【0065】
ここで、CO吸収量は、海藻類の表面積とCO吸収係数との積によって求められるが、本実施の形態において、表面積に乗じられるCO吸収係数は、水深方向の明るさに応じて異なる。非限定的な一例として、CO吸収係数は、水深方向の異なる複数の明るさに対応して複数個が記憶部13に記憶される。CO吸収係数は、例えば、明るさとCO吸収係数データとが関連付けられたテーブルの形式で記憶部13に記憶される。
【0066】
CO吸収量推定部123は、海藻類形状モデルの形状を複数に区分したブロックの単位で、個々のブロックの水深に応じた明るさのCO吸収係数を記憶部13から取得する。そのため、CO吸収量推定部123は、図3に例示したように、海藻類形状モデルを長さ方向に複数のブロックに区分するブロック分割部1231を備える。
【0067】
なお、ブロック分割部1231が区分するブロックの数は、一定でもよいし可変であってもよい。可変の場合、ブロック分割部1231は、例えば、海藻類形状モデルの長さに基づいて、区分するブロックの数を決定する。区分するブロックの数が多すぎる(別言すると、ブロックのサイズが小さすぎる)と演算量が増加するため、ブロック分割部1231は、例えば、海藻類形状モデルの長さが長いほど区分するブロックの数を減らす。
【0068】
また、区分するブロックの数が少なすぎる(別言すると、区分するブロックのサイズが大きすぎる)と、水深方向の明るさに変化がある場合に、その変化に応じた光合成の活発度の相違が、求められるCO吸収量に反映されないため、誤差が大きくなり易い。
【0069】
そのため、ブロック分割部1231は、例えば、水深に応じた明るさの分布に関するデータに基づいて、海藻類形状モデルを区分するブロックの数を決定する。非限定的な一例として、ブロック分割部1231は、水深に応じた明るさの分布が示す変化の度合いが大きい領域ほど、海藻類形状モデルにおいて区分するブロックのサイズを小さく決定する。これにより、ブロックサイズを一定にした場合に比べて、ブロック単位で求められるCO吸収量の精度を高めることができる。
【0070】
なお、ブロック分割部1231は、海藻類形状モデルの長さよりも水深に応じた明るさに関するデータを優先して使用することによりブロック数を決定してもよい。例えば、海藻類形状モデルの長さは短いが、当該海藻類形状モデルにおける水深に応じた明るさの変化が大きい場合、ブロック分割部1231は、海藻類形状モデルの長さに依らずに、水深に応じた明るさの変化の度合いが大きい領域ほど海藻類形状モデルにおいて区分するブロック数を増やす。これにより、ブロック単位で求められるCO吸収量に誤差が生じることを抑制して精度を高めることができる。
【0071】
ところで、海藻類のCO吸収係数は、海藻類の種類によって異なり得る。そこで、CO吸収量推定部123は、例えば、藻種に対応したCO吸収係数をCO吸収量の推定に用いる。例えば図3の点線枠A3において示したように、藻種の別に、水深に応じた明るさとCO吸収量との対応を示した複数の「明るさ対CO吸収係数データ」を記憶部13に記憶しておく。CO吸収量推定部123は、機械学習モデル1222によって特定された藻種に対応した「明るさ対CO吸収係数データ」からCO吸収係数をCO吸収量の推定に用いる。
【0072】
設定受付部124は、例えば、IF11を通じて2Dモデリング又は3Dモデリングの設定を受け付け、受け付けた設定内容をモデリング部122(2D/3D設定部1221)に対して設定する。
【0073】
記憶部13は、既述の種々のデータ、例えば、観測データ、撮像画像データの撮像場所が藻場であるか否かの判定に用いられる閾値、水深方向の光強度データ、藻種別の「明るさ対CO吸収係数データ」を記憶する。閾値及び「明るさ対CO吸収係数データ」の一方又は双方は、例えば、IF11及びプロセッサ12を通じて適宜に設定あるいは更新が可能である。
【0074】
なお、上述した構成例において、機械学習モデル1222は、一例として、モデリング部122に備えられているが、観測データ処理部121あるいはCO吸収量推定部123に備えられていてもよい。あるいは、機械学習モデル1222は、データ処理装置1内の任意の箇所、又はプロセッサ12内の任意の箇所に備えられていてもよい。
【0075】
上述したデータ処理装置1の機能(例えば、プロセッサ12の各種機能)は、複数のデータ処理装置1によって実現されてもよい。例えば、海藻類の形状モデリング、モデリングした形状を複数のブロックに区分したブロックの単位でのCO吸収量の推定といった各種の処理は、複数のデータ処理装置1(例えば、複数のサーバのそれぞれに搭載されたプロセッサ)によって分散して行われてもよい。
【0076】
<データ処理装置1を具現するコンピュータプログラム>
上述したデータ処理装置1の各種の機能(ブロック)は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現され得る。例えば、コンピュータは、キーボード又はマウス、タッチパッドといった入力装置、ディスプレイ又はスピーカーといった出力装置、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク装置又はSSD(Solid State Drive)といった記憶装置、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)又はUSB(Universal Serial Bus)メモリといった記録媒体から情報を読み取る読取装置、及び、ネットワークを介して通信を行う送受信装置を備える。
【0077】
そして、読取装置が、上述したデータ処理装置1としての機能を実現するためのデータ処理プログラムを記録した記録媒体からそのデータ処理プログラムを読み取り、記憶装置に記憶させる。あるいは、送受信装置が、ネットワークに接続されたサーバ装置と通信を行い、サーバ装置からダウンロードしたデータ処理プログラムを記憶装置に記憶させる。
【0078】
そして、CPUが、記憶装置に記憶されたデータ処理プログラムをRAMにコピーし、そのデータ処理プログラムに含まれる命令をRAMから読み出して実行することにより、データ処理装置1としての機能が実現される。なお、データ処理プログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部としてOSに組み込まれていてもよい。
【0079】
<データ処理装置1の動作例>
図5は、実施の形態に係るデータ処理装置1によるデータ処理の一例を示すフローチャートである。図5に例示したフローチャートは、データ処理装置1の起動に応じて、あるいは、図5に例示した処理(S11~S21)を実現するプログラムあるいはソフトウェアの起動に応じて、開始される。
【0080】
図5に示すように、データ処理装置1は、海中の海藻類を異なる複数の撮像方向から撮像した撮像画像データを少なくとも含む観測データを、プロセッサ12(例えば、観測データ処理部121)によってIF11を通じて取得する(S11)。
【0081】
観測データ処理部121は、取得した観測データをモデリング部122へ出力する。モデリング部122は、海藻類の撮像画像データに基づく海藻類の形状モデリングに、3Dモデリング及び2Dモデリングの何れを適用するかの設定の有無を確認する(S12)。
【0082】
確認の結果、設定が有れば(S12のYES)、モデリング部122は、その設定が3Dモデリングを適用する設定であるか否かを確認する(S13)。確認の結果、3Dモデリングを適用する設定である場合(S13のYES)、モデリング部122は、海藻類の撮像画像データを基に3Dモデリングによって海藻類の形状をモデリングする(S15)。
【0083】
一方、S13において3Dモデリングを適用する設定でない場合(S13のNO)、モデリング部122は、モデリングに2Dモデリングを適用し、海藻類の形状を2Dにてモデリングする(S16)。
【0084】
また、S12において3Dモデリング及び2Dモデリングの何れを適用するかの設定がなされていないと判定された場合(S12のNO)、モデリング部122は、海藻類を含む撮像画像データが海藻類の群生した藻場を撮影した画像データであるか否かを判定する(S14)。
【0085】
判定の結果、撮像画像データが藻場を撮影した画像データである場合(S14のYES)、演算量を軽減するために、モデリング部122は、海藻類の形状を2Dモデリングする(S16)。一方、撮像画像データが藻場を撮影した画像データでない場合(S14のNO)、モデリング部122は、CO吸収量の推定精度を高めるために、海藻類の形状を3Dモデリングする(S15)。
【0086】
また、モデリング部122は、例えば、海藻類の種類を学習した機械学習モデル1222によって、撮像画像データに写った海藻類の種類(藻種)を特定する。特定した藻種を示すデータは、CO吸収量推定部123へ出力される。
【0087】
CO吸収量推定部123は、3D又は2Dにてモデリングされた海藻類の形状(海藻類形状モデル)を、図3の点線枠A3に例示したように、長さ(水深方向)に複数のブロックにブロック分割部1231によって区分する(S17)。
【0088】
CO吸収量推定部123は、区分したブロックそれぞれの表面積を求め、また、記憶部13にアクセスして、機械学習モデル1222によって特定された藻種に対応する「明るさ対CO吸収係数データ」から、個々のブロックの水深に応じた明るさに対応するCO吸収係数を取得する。
【0089】
更に、CO吸収量推定部123は、ブロック毎に、表面積と水深及び藻種に対応したCO吸収係数とを乗算することによって、個々のブロックのCO吸収量を決定する(S18)。そして、CO吸収量推定部123は、各ブロックのCO吸収量を合計することによって、海藻類のCO吸収量を求め(S19)、求めたCO吸収量を示すデータを、IF11を通じて外部機器(例えば、表示装置等)に出力する(S20)。
【0090】
その後、データ処理装置1のプロセッサ12は、別の観測データが入力されるか否かをモニタする(S21)。別の観測データの入力があった場合(S21のYES)、プロセッサ12は、S11~S20の処理を、別の観測データの入力がなくなるまで(S21でNOと判定されるまで)、繰り返す。
【0091】
別の観測データの入力がないとプロセッサ12が判定した場合(S21のNO)、プロセッサ12は、観測データの処理を終了する。
【0092】
以上のように、データ処理装置1は、海中の海藻類を水中カメラ2によって海藻類の上方とは異なる方向を含む複数の撮像方向から撮像した画像データを画像解析して海藻類の水深方向の長さと海藻類の幅とを含む形状をモデリングする。そして、データ処理装置1は、モデリングした海藻類の形状に基づいて、海藻類のCO吸収量を求める。したがって、海藻類の水深方向の長さを考慮しない場合よりも、海藻類のCO吸収量を求める際の精度を向上でき、結果として、求められるCO吸収量の信頼性を向上できる。
【0093】
また、データ処理装置1は、モデリングした海藻類に対する水深に応じた海中の明るさに対応するCO吸収係数を用いて、当該海藻類のCO吸収係数を求めるので、水深に応じた海中の明るさを考慮しない場合よりも、海藻類のCO吸収量を求める際の精度を更に向上できる。
【0094】
したがって、海藻類に対する水深に応じた明るさを考慮しない場合よりも、例えば、海藻類(あるいは藻場)のCO吸収量が大きいことを証拠として示せるので、ブルーカーボンのクレジット普及に貢献できる。また、非特許文献1に計測方法が公開されていることから、例えば、多くの自治体、企業といった団体においてブルーカーボンのクレジット制度が採用されることで、海藻類の観測に関するソリューションビジネスの拡大、あるいはライセンス収入の増加が見込める。また、例えば、各地の海藻類の観測データを集めてデータを解析することで、海藻類あるいは藻場の育成状況を予測できる。したがって、クレジット価格の予測、あるいは保険などの金融商品の提供にも資する。
【0095】
なお、上述した実施の形態では、海中に生息する海藻類(あるいは藻場)を観測対象とするケースについて説明したが、湖、池、河川といった淡水あるいは汽水の水中に生息する海藻類(あるいは藻場)を観測対象としてもよい。
【0096】
また、上述した実施の形態に例示した構成について使用した「~部」という用語は、例えば、「~手段」、「~回路」、あるいは「~デバイス」といった他の用語に互いに読み替えられてもよい。
【0097】
また、本発明により、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」及び目標17「海の豊かさを守ろう」に貢献することが可能となる。
【0098】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0099】
S 藻場観測システム
1 データ処理装置
2 水中カメラ
3 水上ドローン
11 IF
12 プロセッサ
13 記憶部
121 観測データ処理部
122 モデリング部
123 CO吸収量推定部
124 設定受付部
1221 2D/3D設定部
1222 機械学習モデル
1231 ブロック分割部
図1
図2
図3
図4
図5