IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士通テン株式会社の特許一覧

特開2024-125627モータ制御装置およびモータ制御方法
<>
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図1
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図2
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125627
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置およびモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20240911BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20240911BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033566
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 国棟
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB02
5H505JJ03
5H505JJ26
5H505KK05
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL54
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】モータ効率を低下させることなくトルクリプルを抑制することができるモータ制御装置およびモータ制御方法を提供すること。
【解決手段】本願に係るモータ制御装置は、三相交流のモータを駆動制御するモータ制御装置であって、コントローラを有する。コントローラは、モータへ入力される電流の実測値に含まれる高調波成分を基本波座標から高調波座標へ変換し、高調波座標において、高調波成分の電流値が小さくなるようにフィードバック制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流のモータを駆動制御するモータ制御装置であって、
前記モータへ入力される電流の実測値に含まれる高調波成分を基本波座標から高調波座標へ変換し、前記高調波座標において、前記高調波成分の電流値が小さくなるようにフィードバック制御を行うコントローラを備える
モータ制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記フィードバック制御により前記高調波成分を抑制するための抑制信号を生成し、前記抑制信号を前記高調波座標から前記基本波座標へ変換し、変換した前記抑制信号を加えた電圧指令を前記モータへ出力する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記高調波成分を次数毎に前記基本波座標から前記高調波座標に変換して前記フィードバック制御を行う
請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
正相分および逆相分の次数の前記高調波成分が小さくなるように前記フィードバック制御を行う
請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記モータへ入力される電流のひずみ率を算出し、前記ひずみ率が予め定められた閾値以上である場合に、前記フィードバック制御を行う
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記高調波成分の電流がゼロになるように前記フィードバック制御を行う
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
三相交流のモータを駆動制御するモータ制御装置が実行するモータ制御方法であって、
前記モータへ入力される電流の実測値に含まれる高調波成分を基本波座標から高調波座標へ変換し、前記高調波座標において、前記高調波成分の電流値が小さくなるようにフィードバック制御を行う
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置およびモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三相モータの出力トルクに発生する高調波の脈動(以下、トルクリプル)を抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、指令トルクに応じた指令信号(電流値一定の信号)に、予めトルクリプルを相殺するための高調波の信号を重畳させることで、出力トルクに発生するトルクリプルを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-100510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、高調波の信号を重畳させているが、この際に重畳させる信号によっては、指令信号である正弦波のひずみが大きくなってしまう。ひずみが大きい指令信号がインバータに入力されると、インバータやモータにおける電流損失が大きくなってしまうため、最終的なモータ効率が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本願は、上記に鑑みてなされたものであって、モータ効率を低下させることなくトルクリプルを抑制することができるモータ制御装置およびモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係るモータ制御装置は、三相交流のモータを駆動制御するモータ制御装置であって、コントローラを有する。前記コントローラは、前記モータへ入力される電流の実測値に含まれる高調波成分を基本波座標から高調波座標へ変換し、前記高調波座標において、前記高調波成分が小さくなるようにフィードバック制御を行う。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、モータ効率を低下させることなくトルクリプルを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、モータ制御システムの構成例を示すブロック図である。
図2図2は、モータ制御装置が実行する全体処理の処理手順を示すフローチャートである。
図3図3は、モータ制御装置が実行する高調波制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願に係るモータ制御装置およびモータ制御方法を実施するための形態(以下、「実施形態」と記載する)について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態により本願に係るモータ制御装置およびモータ制御方法が限定されるものではない。また、以下の各実施形態において同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略される。
【0010】
また、実施形態において、「実測値」と記載している各種値のうち、実際にセンサから取得するU、V、W相の電流実測値以外の実測値については、この電流実測値から演算等を行って求めた値を指す。
【0011】
まず、図1を用いて、実施形態に係るモータ制御システムについて説明する。図1は、モータ制御システムSの概要を示すブロック図である。モータ制御システムSは、電気自動車や、ハイブリッド車両(電気および燃料)に搭載され、かかる車両の走行駆動に用いられるモータを制御する。
【0012】
図1に示すように、実施形態に係るモータ制御システムSは、モータ制御装置1と、車両制御装置100と、モータ200と、レゾルバー300とを備える。
【0013】
車両制御装置100は、車両の走行駆動に関する制御を行うECU(Electronic Control Unit)である。車両制御装置100は、運転者のアクセル操作量(ペダル踏込量)に応じた要求トルクを算出し、算出した要求トルクをトルク指令としてモータ制御装置1へ出力する。
【0014】
モータ200は、U相、V相、W相の三相交流電源で駆動する三相モータである。モータ200は、不図示の駆動輪に接続され、モータ200で発生させたトルク(出力トルク)を駆動輪に出力する。
【0015】
レゾルバー300は、モータ200の回転角度を検出する回転角センサであり、図1では、1相励磁2相出力型のレゾルバーを示している。レゾルバー300は、励磁回路310と、SIN/COS信号検出回路320とを備える。励磁回路310は、モータ制御装置1から出力される所定電圧の信号を正弦波の電圧信号である励磁信号に変換し、レゾルバー300が有する三相のいずれかの相へ励磁信号を出力する。
【0016】
SIN/COS信号検出回路320は、モータ200の回転角度に応じて励磁信号が変換された検出信号を検出する。具体的には、SIN/COS信号検出回路320は、励磁信号が回転角度に応じて変換された正弦波の検出信号と、余弦波の検出信号とを残りの二相それぞれから検出してモータ制御装置1へ出力する。
【0017】
モータ制御装置1は、コントローラ2と、インバータ3と、電圧検出部4と、ゲート駆動回路5とを備える。コントローラ2は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種の回路を含む。また、コントローラ2は、たとえば、不揮発性メモリやフラッシュメモリ、ハードディスクドライブといった記憶デバイスで構成される不図示の記憶部を備える。コンピュータのCPUは、たとえば、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって機能する。
【0018】
インバータ3は、モータ200を駆動する交流の駆動信号を生成してモータ200へ出力する。インバータ3は、直流電源31と、平滑化用のコンデンサ32と、スイッチ素子SW1~SW6とを備える。スイッチ素子SW1~SW6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOS-FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor) 等のパワーデバイスによって構成される。
【0019】
スイッチ素子SW1は、ハイサイド側(上段側)のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるU相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW3は、ハイサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるV相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW5は、ハイサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるW相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW2は、ローサイド側(下段側)のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるU相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW4は、ローサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるV相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW6は、ローサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるW相に対応したスイッチ素子である。なお、以下では、スイッチ素子SW1~SW6を特に区別しない場合、スイッチ素子SWと総称する。
【0020】
インバータ3は、直流電源31の直流電力をスイッチ素子SW1~SW6のスイッチ制御により3相の交流電力に変換してモータ200へ供給することで、モータ200を駆動する。
【0021】
電圧検出部4は、インバータ3の両端電圧を検出してモータ制御装置1へ出力する。ゲート駆動回路5は、モータ制御装置1から出力されるPWM信号に従って、スイッチ素子SW1~SW6それぞれのオン/オフを制御する。
【0022】
ここで、コントローラ2について詳細に説明する。図1に示すように、コントローラ2は、第1コア21、第2コア22および第3コア23の3つのコアによって構成される。
【0023】
第1コア21は、インバータ3の基本的な制御全般を担う。具体的には、第1コア21は、ゲート駆動回路5に出力されるPWM信号のベースとなる基本電圧の信号を生成する。この基本電圧の信号は、モータ200で発生する高調波のトルクリプルを相殺する成分が含まれているため、モータ200へ入力される電流が正弦波となる。なお、第1コア21が行う制御の詳細については後述する。
【0024】
第2コア22は、第1コア21の監視および本開示における高調波制御を行う。具体的には、第2コア22は、インバータ3からモータ200へ入力される電流に含まれる高調波成分を除去する高調波制御を行う。具体的には、第2コア22は、上記の高調波の電流実測値を基本波座標から高調波座標に変換し、高調波座標において、高調波の電流実測値のみが小さくなるようにフィードバック制御を行う。これにより、モータ200へ入力される電流の高調波成分のみを精度よく除去することができる。この結果、モータ200へ入力される正弦波の電流のひずみが改善するため、インバータ3やモータ200で生じる電流損失を小さくできる。すなわち、本開示のモータ制御装置1によれば、上記の高調波制御を行うことで、モータ効率を低下させることなくトルクリプルを抑制することができる。なお、第2コア22が行う高調波制御の詳細については後述する。
【0025】
第3コア23は、コントローラ2の異常管理を行う。第3コア23は、異常管理部231と、モード切替部232とを備える。異常管理部231は、コントローラ2のハードウェアに起因する異常を検出する。異常管理部231は、コントローラ2のハードウェア異常を検出した場合に、モード切替部232に異常発生を通知する。モード切替部232は、異常管理部231から異常発生の通知を受け付けた場合に、安全モードに切り替える。安全モードは、例えば、モータ200の回転数や出力トルクを制限するモードである。
【0026】
次に、第1コア21の制御内容について詳細に説明する。図1に示すように、第1コア21は、基本波電流指令部21aと、PI制御部21bと、電圧指令部21cと、切替部21dと、PWM制御部21eと、計測部21fと、電流変換部21gと、角度処理部21hと、速度生成部21iとを備える。
【0027】
基本波電流指令部21aは、車両制御装置100から受け付けたトルク指令に従って、要求トルクを満たす電流指令値を算出して出力する。具体的には、基本波電流指令部21aは、電圧検出部4が検出した直流電源31のバッテリ電圧Vdc(Vdc1)と、速度生成部21iから出力されたモータ回転数ω_act1とに基づいて、d軸電流指令値Id_ref1およびq軸電流指令値Iq_ref1を算出し減算器へ出力する。なお、減算器には、後述する電流変換部21gから出力されるd軸電流実測値Id_act1およびq軸電流実測値Iq_act1が入力される。
【0028】
なお、このd軸電流実測値Id_act1およびq軸電流実測値Iq_act1は、モータ200で発生するトルクリプルの高調波成分を含んでいる。このため、減算器により、一定値であるd軸電流指令値Id_ref1およびq軸電流指令値Iq_ref1から減算することで、d軸誤差信号Id_err1およびq軸誤差信号Iq_err1は高調波成分を含んだ正弦波の信号となる。
【0029】
PI制御部21bは、基本波電流指令部21aから出力された電流指令値と、電流変換部21gから出力された電流実測値との誤差がゼロとなるようにフィードバック制御を実施する。具体的には、PI制御部21bは、減算器から出力される誤差信号に基づいて、d軸電圧指令値Vd1およびq軸電圧指令値Vq1を出力する。より具体的には、PI制御部21bは、d軸電流指令値Id_ref1およびd軸電流実測値Id_act1の誤差を示すd軸誤差信号Id_err1と、q軸電流指令値Iq_ref1およびq軸電流実測値Iq_act1の誤差を示すq軸誤差信号Iq_err1とに基づいてフィードバック制御を行う。すなわち、PI制御部21bは、正弦波であるd軸誤差信号Id_err1およびq軸誤差信号Iq_err1と逆位相の電流値となる電流指令信号を生成する。そして、PI制御部21bは、フィードバック制御により生成した電流指令信号を電圧値に変換したd軸電圧指令値Vd1およびq軸電圧指令値Vq1を電圧指令部21cへ出力する。
【0030】
電圧指令部21cは、d軸電圧指令値Vd1およびq軸電圧指令値Vq1をU相電圧指令値Vu1、V相電圧指令値Vv1およびW相電圧指令値Vw1に変換して切替部21dへ出力する。また、電圧指令部21cは、第2コア22における電圧指令部22dおよび切替部22eの間の加算器に各相の電圧指令値を出力する。
【0031】
切替部21dは、電圧指令部21cから入力されたU相電圧指令値Vu1、V相電圧指令値Vv1およびW相電圧指令値Vw1をPWM制御部21eへ出力するか否かを切り替える。具体的には、切替部21dは、インバータ3からモータ200へ入力される電流のひずみ率に基づいて切替制御を行う。
【0032】
ひずみ率は、ひずみ率THD、電流基本波(1次)の電流実測値I、電流高調波(2次以上)の電流実測値I、高調波の次数nとして下記式(1)によって算出される。なお、ひずみ率は、例えば、コントローラ2あるいはコントローラ2以外の外部装置によって算出される。
【0033】
【数1】
【0034】
例えば、切替部21dは、ひずみ率が閾値未満である場合には、切替信号En_Harmとして「0」が入力され、U相電圧指令値Vu1、V相電圧指令値Vv1およびW相電圧指令値Vw1をPWM制御部21eへ出力する。
【0035】
一方、切替部21dは、ひずみ率が閾値以上である場合には、切替信号En_Harmとして「1」が入力され、U相電圧指令値Vu1、V相電圧指令値Vv1およびW相電圧指令値Vw1のPWM制御部21eへの出力を禁止する。なお、詳細は後述するが、切替信号En_Harmが「1」の場合、第1コア21からPWM信号は出力されず、第2コア22からPWM信号が出力される。
【0036】
PWM制御部21eは、切替部21dが出力したU相電圧指令値Vu1、V相電圧指令値Vv1およびW相電圧指令値Vw1に基づいて、U相、V相およびW相それぞれにおける電圧のデューティ比を決定する。PWM制御部21eは、決定したデューティ比のPWM信号を生成してゲート駆動回路5へ出力する。
【0037】
計測部21fは、インバータ3からモータ200へ出力される電流を計測する。具体的には、計測部21fは、U相電流実測値Iu1、V相電流実測値Iv1およびW相電流実測値Iw1を計測し、電流変換部21gへ出力する。
【0038】
電流変換部21gは、計測部21fが計測したU相電流実測値Iu1、V相電流実測値Iv1およびW相電流実測値Iw1をd軸電流実測値Id_act1およびq軸電流実測値Iq_act1に変換する。
【0039】
角度処理部21hは、SIN/COS信号検出回路320によって検出された検出信号に基づいて、モータ200の回転角度を検出する。具体的には、角度処理部21hは、検出信号および励磁信号の位相差に基づいてモータ200の回転角度を検出する。角度処理部21hは、検出した回転角度θ_act1を速度生成部21iへ出力する。
【0040】
速度生成部21iは、角度処理部21hによって検出されたモータ200の回転角度に基づいてモータ回転数(回転速度)を検出する。速度生成部21iは、検出したモータ回転数ω_act1を基本波電流指令部21aへ出力する。
【0041】
次に、第2コア22の制御内容について詳細に説明する。第2コア22は、高調波電流指令部22aと、PI制御部22bと、座標変換部22cと、電圧指令部22dと、切替部22eと、PWM制御部22fと、計測部22gと、電流変換部22hと、HPF22iと、座標変換部22jと、LPF22kと、角度処理部22lと、速度生成部22mと、角度/速度比較部22nと、異常管理部22oと、モード切替部22pとを備える。
【0042】
高調波電流指令部22aは、高調波の電流指令値を出力する。具体的には、高調波電流指令部22aは、車両制御装置100からトルク指令を受け付けたタイミングで、高調波の電流指令値を出力する。高調波の電流指令値は、例えば、0に設定される。具体的には、高調波電流指令部22aは、高調波の電流指令値を次数毎に設定する。例えば、高調波電流指令部22aは、5次、7次、11次および13次それぞれの高調波の電流指令値を0に設定する。すなわち、高調波電流指令部22aは、正相分および逆相分の次数の電流指令値を0に設定する。これにより、後述するPI制御部22bにおいて、正相分および逆相分の次数の高調波が小さくなるようにフィードバック制御することができるようになる。このように、正相分および逆相分の両方の次数の高調波を抑制することで、モータ200に入力される電流のひずみ低減を最大化することができる。
【0043】
なお、高調波電流指令部22aは、13次以上の次数(例えば、17次、19次、23次、25次、およびそれ以上次数)の高調波の電流指令値を設定してもよい。あるいは、高調波電流指令部22aは、上記次数のうち、予め定められた次数のみ電流指令値を設定してもよい。
【0044】
例えば、高調波電流指令部22aは、高調波成分のうち、5次および11次等の逆相分電流のみ、あるいは、7次および13次等の正相分電流のみ電流指令値を設定してもよい。
【0045】
また、高調波の電流指令値は、0に限定されるものではなく、限りなく0に近い値が設定されてもよい。
【0046】
なお、減算器には、高調波電流指令部22aから出力される次数毎の高調波の電流指令値と、後述するLPF22kから出力されるd軸電流実測値Id_act2_lpfおよびq軸電流実測値Iq_act2_lpfとが入力される。
【0047】
なお、このd軸電流実測値Id_act2_lpfおよびq軸電流実測値Iq_act2_lpfは、モータ200で発生するトルクリプルの高調波成分を含んでいる。このため、減算器により、一定値(ゼロ)であるd軸電流指令値Id_ref2およびq軸電流指令値Iq_ref2から減算することで、d軸誤差信号Id_err2およびq軸誤差信号Iq_err2は次数毎の高調波成分を含んだ正弦波の信号となる。
【0048】
PI制御部22bは、後述する座標変換部22jによって変換された高調波座標において、高調波の電流実測値が小さくなるようにフィードバック制御を行う。具体的には、PI制御部22bは、高調波電流指令部22aから出力された高調波の電流指令値(ゼロ)と、LPF22kから出力された高調波の電流実測値との誤差がゼロとなるようにフィードバック制御を実施する。より具体的には、PI制御部22bは、減算器から出力される誤差信号に基づいて、高調波を抑制するための抑制信号であるd軸電圧指令値Vd2およびq軸電圧指令値Vq2を生成する。より具体的には、PI制御部22bは、d軸電流指令値Id_ref2およびd軸電流実測値Id_act2_lpfの誤差を示すd軸誤差信号Id_err2と、q軸電流指令値Iq_ref2およびq軸電流実測値Iq_act2_lpfの誤差を示すq軸誤差信号Iq_err2とに基づいてフィードバック制御を行う。すなわち、PI制御部22bは、正弦波であるd軸誤差信号Id_err1およびq軸誤差信号Iq_err1と逆位相の電流値となる抑制信号を生成する。なお、抑制信号は、高調波の次数毎に生成される。PI制御部22bは、フィードバック制御により生成した次数毎の抑制信号を電圧値に変換したd軸電圧指令値Vd2およびq軸電圧指令値Vq2を座標変換部22cへ出力する。
【0049】
座標変換部22cは、次数毎のd軸電圧指令値Vd2およびq軸電圧指令値Vq2(電圧値に変換された抑制信号)の座標を、高調波座標から基本波座標に次数毎に変換する。高調波座標から基本波座標への変換は、5次が式(2)を用い、7次が式(3)を用い、11次が式(4)を用い、13次が式(5)を用いる。また、式(2)の変換行列は、式(6)を用い、式(3)の変換行列は、式(7)を用い、式(4)の変換行列は、式(8)を用い、式(5)の変換行列は、式(9)を用いる。なお、式(6)~(9)におけるθは、モータ回転角度である。
【0050】
【数2】
【0051】
【数3】
【0052】
【数4】
【0053】
【数5】
【0054】
【数6】
【0055】
【数7】
【0056】
【数8】
【0057】
【数9】
【0058】
座標変換部22cは、次数毎に生成されたd軸電圧指令値Vd2およびq軸電圧指令値Vq2を基本座標に変換して、1組のd軸電圧指令値Vd2およびq軸電圧指令値Vq2に合成する。座標変換部22cは、基本波座標に変換して合成したd軸電圧指令値Vd2およびq軸電圧指令値Vq2を電圧指令部22dへ出力する。
【0059】
電圧指令部22dは、d軸電圧指令値Vd2およびq軸電圧指令値Vq2をU相電圧指令値Vu2、V相電圧指令値Vv2およびW相電圧指令値Vw2に変換して出力する。U相電圧指令値Vu2、V相電圧指令値Vv2およびW相電圧指令値Vw2は、第1コア21の電圧指令部21cで生成されたU相電圧指令値Vu1、V相電圧指令値Vv1およびW相電圧指令値Vw1が加算器で加算されて切替部22eに入力される。
【0060】
つまり、切替部22eへ入力される電圧指令値は、第1コア21の電圧指令部21cで生成された基本電圧となる電圧指令値に、第2コア22の電圧指令部22dが生成した高調波成分を抑制するための電圧指令値を加えた電圧指令値となる。言い換えれば、基本電圧の高調波成分が抑制された(正弦波のひずみが改善した)電圧指令値が切替部22eへ入力される。これにより、基本電圧によるトルクリプルの抑制効果と、正弦波のひずみ抑制効果とを両立することができる。
【0061】
切替部22eは、加算器から出力されたU相電圧指令値、V相電圧指令値およびW相電圧指令値をPWM制御部22fへ出力するか否かを切り替える。具体的には、切替部22eは、インバータ3からモータ200へ入力される電流のひずみ率に基づいて切替制御を行う。
【0062】
例えば、切替部22eは、ひずみ率が閾値未満である場合には、切替信号En_Harmとして「0」が入力され、電圧指令値のPWM制御部22fへの出力を禁止する。
【0063】
一方、切替部22eは、ひずみ率が閾値以上である場合には、切替信号En_Harmとして「1」が入力され、電圧指令値をPWM制御部22fへ出力する。つまり、第2コア22は、ひずみ率が閾値以上である場合に、フィードバック制御を行って生成した電圧指令値を出力する。これにより、切替部22eは、ひずみ率が閾値未満で小さい場合には、高調波を抑制する電圧指令値を出力しないため、コントローラ2の処理負荷を軽減することができる。
【0064】
PWM制御部22fは、切替部22eが出力した電圧指令値に基づいて、U相、V相およびW相それぞれにおける電圧のデューティ比を決定し、決定したデューティ比のPWM信号を生成してゲート駆動回路5へ出力する。
【0065】
計測部22gは、インバータ3からモータ200へ出力される電流を計測する。具体的には、計測部22gは、U相電流実測値Iu2、V相電流実測値Iv2およびW相電流実測値Iw2を計測し、電流変換部22hへ出力する。
【0066】
電流変換部22hは、計測部22gが計測したU相電流実測値Iu2、V相電流実測値Iv2およびW相電流実測値Iw2をd軸電流実測値Id_act2およびq軸電流実測値Iq_act2に変換する。
【0067】
HPF22iは、ハイパスフィルタであり、d軸電流実測値Id_act2およびq軸電流実測値Iq_act2に含まれる高調波成分を抽出する。具体的には、HPF22iは、5次以上の高調波成分を抽出する。HPF22iは、抽出した高調波のd軸電流実測値Id_act2_hpfおよびq軸電流実測値Iq_act2_hpfを座標変換部22jへ出力する。
【0068】
座標変換部22jは、HPF22iで抽出した高調波成分である電流実測値の座標を、基本波座標から高調波座標に変換する。基本波座標から高調波座標への変換は、次数毎に行われ、例えば、5次が式(10)を用い、7次が式(11)を用い、11次が式(12)を用い、13次が式(13)を用いる。また、式(10)の変換行列は、式(14)を用い、式(11)の変換行列は、式(15)を用い、式(12)の変換行列は、式(16)を用い、式(13)の変換行列は、式(17)を用いる。なお、式(14)~(17)におけるθは、モータ回転角度である。
【0069】
【数10】
【0070】
【数11】
【0071】
【数12】
【0072】
【数13】
【0073】
【数14】
【0074】
【数15】
【0075】
【数16】
【0076】
【数17】
【0077】
このように、座標変換部22jは、高調波の電流実測値を、次数毎に基本波座標から高調波座標に変換することで、PI制御部22bにおいて次数毎に高調波を抑制するためのフィードバック制御を行うことができる。この結果、高調波の電流実測値を次数毎に抑制できるため、モータ200へ入力される正弦波の電流のひずみを効率良く改善することができる。
【0078】
座標変換部22jは、高調波座標に変換した次数毎の高調波のd軸電流実測値Id_act2およびq軸電流実測値Iq_act2をLPF22kへ出力する。
【0079】
LPF22kは、ローパスフィルタであり、高調波座標において、次数毎に高調波の電流実測値における直流成分を抽出する。具体的には、LPF22kは、直流成分の高調波のd軸電流実測値Id_act2_lpfおよびq軸電流実測値Iq_act2_lpfを抽出する。
【0080】
角度処理部22lは、SIN/COS信号検出回路320によって検出された検出信号に基づいて、モータ200の回転角度を検出する。具体的には、角度処理部22lは、検出信号および励磁信号の位相差に基づいてモータ200の回転角度を検出する。角度処理部22lは、検出した回転角度θ_act2を速度生成部22mへ出力する。
【0081】
速度生成部22mは、角度処理部22lによって検出されたモータ200の回転角度に基づいてモータ回転数(回転速度)を検出する。速度生成部22mは、検出したモータ回転数ω_act2を高調波電流指令部22aへ出力する。
【0082】
角度/速度比較部22nは、第1コア21および第2コア22で検出したモータ200の回転角度およびモータ回転数をそれぞれ比較し、乖離を検出する。具体的には、角度/速度比較部22nは、第1コア21の角度処理部21hで検出した回転角度と、第2コア22の角度処理部22lで検出した回転角度とを比較する。また、角度/速度比較部22nは、第1コア21の速度生成部21iで検出したモータ回転数と、第2コア22の速度生成部22mで検出したモータ回転数とを比較する。
【0083】
異常管理部22oは、角度/速度比較部22nの比較結果に基づいて、モータ200の異常を検出する。具体的には、異常管理部22oは、回転角度およびモータ回転数のうち、少なくとも1つの差異が閾値以上である場合、異常を検出し、モード切替部22pへ通知する。
【0084】
モード切替部22pは、異常管理部22oから異常発生の通知を受け付けた場合に、安全モードに切り替える。安全モードは、例えば、モータ200の回転数や出力トルクを制限するモードである。
【0085】
次に、図2および図3を用いて、実施形態に係るモータ制御装置1が実行する処理手順について説明する。図2は、モータ制御装置1が実行する全体処理の処理手順を示すフローチャートである。図3は、モータ制御装置1が実行する高調波制御処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、図2および図3に示す処理は、車両が動作中に繰り返し実行される。
【0086】
まず、図2を用いて、全体処理について説明する。
【0087】
図2に示すように、コントローラ2は、インバータ3からモータ200へ入力される電流実測値を計測する(ステップS101)。具体的には、コントローラ2は、U相電流実測値、V相電流実測値およびW相電流実測値を計測する。
【0088】
つづいて、コントローラ2は、計測した電流実測値に基づいて、ひずみ率を算出する(ステップS102)。ひずみ率は、電流基本波(1次)の電流実測値、電流高調波(2次以上)の電流実測値に基づいて、上記式(1)によって算出される。
【0089】
つづいて、コントローラ2は、算出したひずみ率が閾値未満であるか否かを判定する(ステップS103)。
【0090】
コントローラ2は、ひずみ率が閾値未満である場合(ステップS103:Yes)、通常制御を行い(ステップS104)、処理を終了する。具体的には、コントローラ2は、ひずみ率が閾値未満である場合、第1コア21から基本電圧の電圧指令値であるPWM信号を出力し、第2コア22からPWM信号を出力しない。
【0091】
一方、コントローラ2は、ひずみ率が閾値以上である場合(ステップS103:No)、図3で後述する高調波制御を行い(ステップS105)、ステップS103に戻る。具体的には、コントローラ2は、ひずみ率が閾値以上である場合、第1コア21からPWM信号を出力せずに、第2コア22から基本電圧の高調波成分を抑制した電圧指令値であるPWM信号を出力する。
【0092】
次に、図3を用いて、高調波制御処理について説明する。
【0093】
図3に示すように、コントローラ2は、高調波の電流指令値をゼロに設定する(ステップS201)。具体的には、コントローラ2は、各次数の高調波の電流指令値をゼロに設定する。
【0094】
つづいて、コントローラ2は、インバータ3からモータ200へ入力される電流実測値を計測する(ステップS202)。具体的には、コントローラ2は、U相電流実測値、V相電流実測値およびW相電流実測値を計測する。なお、コントローラ2が計測する各相の電流実測値は、基本波成分および高調波成分それぞれの電流値を含んだ総電流値である。
【0095】
つづいて、コントローラ2は、計測した電流実測値の高調波成分を抽出する(ステップS203)。具体的には、コントローラ2は、計測した3相の電流実測値をd軸およびq軸の電流実測値に変換し、変換後の電流実測値にHPF22iを施して基本電圧を除去することによって高調波成分を抽出する。
【0096】
つづいて、コントローラ2は、抽出した高調波成分の電流実測値の座標を、基本波座標から高調波座標に変換する(ステップS204)。具体的には、コントローラ2は、上記式(10)~(17)を用いて、次数毎の高調波座標に変換する。
【0097】
つづいて、コントローラ2は、高調波の電流実測値の直流成分を抽出する(ステップS205)。具体的には、コントローラ2は、次数毎に、高調波の電流実測値にLPF22kを施すことによって、高調波の電流実測値の直流成分を抽出する。
【0098】
つづいて、コントローラ2は、抽出した高調波の電流実測値と、高調波の電流指令値(ゼロ)との誤差を算出する(ステップS206)。具体的には、コントローラ2は、次数毎に、減算器により、高調波の電流指令値から高調波の電流実測値を減算した誤差信号を生成する。
【0099】
つづいて、コントローラ2は、高調波の電流実測値と、高調波の電流指令値との誤差がゼロとなるようにフィードバック制御を行い次数毎の電圧指令値を決定する(ステップS207)。
【0100】
つづいて、コントローラ2は、次数毎の電圧指令値の座標を、高調波座標から基本波座標へ変換する(ステップS208)。具体的には、コントローラ2は、上記式(2)~(9)を用いて、各次数の電圧指令値を基本波座標に変換して合成する。
【0101】
つづいて、コントローラ2は、基本波座標の電圧指令値を基本電圧に追加したPWM信号を生成して出力し(ステップS209)、処理を終了する。
【0102】
上述してきたように、実施形態に係るモータ制御装置1は、三相交流のモータ200を駆動制御するモータ制御装置であって、コントローラ2を有する。コントローラ2は、モータ200へ入力される電流の実測値に含まれる高調波成分を基本波座標から高調波座標へ変換し、高調波座標において、高調波成分が小さくなるようにフィードバック制御を行う。これにより、モータ200へ入力される電流の高調波成分が抑制されることで電流のひずみが小さくなるため、インバータ3やモータ200における電流損失を抑えることができる。すなわち、モータ効率を低下させることなくトルクリプルを抑制することができる。
【0103】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 モータ制御装置
2 コントローラ
3 インバータ
4 電圧検出部
5 ゲート駆動回路
21 第1コア
21a 基本波電流指令部
21b PI制御部
21c 電圧指令部
21d 切替部
21e PWM制御部
21f 計測部
21g 電流変換部
21h 角度処理部
21i 速度生成部
22 第2コア
22a 高調波電流指令部
22b PI制御部
22c 座標変換部
22d 電圧指令部
22e 切替部
22f PWM制御部
22g 計測部
22h 電流変換部
22i HPF
22j 座標変換部
22k LPF
22l 角度処理部
22m 速度生成部
22n 角度/速度比較部
22o 異常管理部
22p モード切替部
23 第3コア
31 直流電源
32 コンデンサ
100 車両制御装置
200 モータ
231 異常管理部
232 モード切替部
300 レゾルバー
310 励磁回路
320 SIN/COS信号検出回路
S モータ制御システム
SW1~SW6 スイッチ素子
図1
図2
図3