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特開2024-125628モータ制御装置およびモータ制御方法
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  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図1
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図2A
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図2B
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図3
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図4
  • 特開-モータ制御装置およびモータ制御方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125628
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置およびモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/12 20160101AFI20240911BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H02P21/12 ZHV
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033567
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 国棟
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG01
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG05
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL45
5H505LL55
5H505LL58
5H505MM12
(57)【要約】
【課題】モータの巻線温度の推定精度を高めることができるモータ制御装置およびモータ制御方法を提供すること。
【解決手段】本願に係るモータ制御装置は、三相交流のモータをベクトル制御で駆動制御するモータ制御装置であって、コントローラを有する。コントローラは、モータ回転数とモータ相電流とをベクトル制御における制御状態が零ベクトル状態の期間中に測定し、測定したモータ回転数とモータ相電流とに基づいてモータの巻線抵抗を推定し、巻線抵抗からモータの巻線温度を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流のモータをベクトル制御で駆動制御するモータ制御装置であって、
モータ回転数とモータ相電流とを前記ベクトル制御における制御状態が零ベクトル状態の期間中に測定し、前記測定したモータ回転数とモータ相電流とに基づいて前記モータの巻線抵抗を推定し、前記巻線抵抗から前記モータの巻線温度を推定するコントローラを備える
モータ制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記モータ相電流の電流角度範囲において、予め定められた電流角度の間隔で前記巻線温度を推定する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記巻線温度の推定を行う際の前記モータ相電流における各相の振幅値に基づいて、各相の前記巻線温度を推定する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記振幅値に応じて相毎に異なる係数を用いて各相の前記巻線温度を推定する
請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記零ベクトル状態の期間中に測定した前記モータ相電流と、推定した前記モータの巻線温度とに基づいて、前記モータの鎖交磁束を推定する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
推定した前記モータの鎖交磁束に基づいて、前記モータの出力トルクを推定する
請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
三相交流のモータをベクトル制御で駆動制御するモータ制御装置が実行するモータ制御方法であって、
モータ回転数とモータ相電流とを前記ベクトル制御における制御状態が零ベクトル状態の期間中に測定し、前記測定したモータ回転数とモータ相電流とに基づいて前記モータの巻線抵抗を推定し、前記巻線抵抗から前記モータの巻線温度を推定する
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置およびモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三相モータをベクトル制御する場合に、制御状態が零ベクトル状態である期間中に計測したインバータへの入力電圧を基に推定したモータへの印加電圧によりモータの巻線温度を推定する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-028911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータの印加電圧は、インバータへの入力電圧が同じであっても、インバータのデートタイムや、外乱に起因して混入する高調波の影響により電圧値が変動する場合がある。このため、推定した印加電圧と実際の印加電圧とに誤差が生じることで、推定した巻線温度と、実際の巻線温度とが乖離するおそれがあった。
【0005】
本願は、上記に鑑みてなされたものであって、モータの巻線温度の推定精度を高めることができるモータ制御装置およびモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係るモータ制御装置は、三相交流のモータをベクトル制御で駆動制御するモータ制御装置であって、コントローラを有する。前記コントローラは、モータ回転数とモータ相電流とを前記ベクトル制御における制御状態が零ベクトル状態の期間中に測定し、前記測定したモータ回転数とモータ相電流とに基づいて前記モータの巻線抵抗を推定し、前記巻線抵抗から前記モータの巻線温度を推定する。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、モータの巻線温度の推定精度を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、モータ制御システムの概要を示すブロック図である。
図2A図2Aは、ベクトル制御を説明するための図である。
図2B図2Bは、ベクトル制御を説明するための図である。
図3図3は、温度推定タイミングを説明するための図である。
図4図4は、温度推定タイミングを説明するための図である。
図5図5は、モータ制御装置が実行する温度推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願に係るモータ制御装置およびモータ制御方法を実施するための形態(以下、「実施形態」と記載する)について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態により本願に係るモータ制御装置およびモータ制御方法が限定されるものではない。また、以下の各実施形態において同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略される。
【0010】
まず、図1を用いて、実施形態に係るモータ制御システムについて説明する。図1は、モータ制御システムSの概要を示すブロック図である。モータ制御システムSは、電気自動車や、ハイブリッド車両(電気および燃料)に搭載され、かかる車両の走行駆動に用いられるモータを制御する。
【0011】
図1に示すように、実施形態に係るモータ制御システムSは、モータ制御装置1と、車両制御装置100と、モータ200と、レゾルバ300とを備える。
【0012】
車両制御装置100は、車両の走行駆動に関する制御を行うECU(Electronic Control Unit)である。車両制御装置100は、運転者のアクセル操作量(ペダル踏込量)に応じた要求トルクを算出し、算出した要求トルクをトルク指令としてモータ制御装置1へ出力する。
【0013】
モータ200は、U相、V相、W相の三相交流電源で駆動する三相モータである。モータ200は、不図示の駆動輪に接続され、モータ200で発生させたトルク(出力トルク)を駆動輪に出力する。
【0014】
レゾルバ300は、モータ200の回転角度を検出する回転角センサであり、図1では、1相励磁2相出力型のレゾルバを示している。レゾルバ300は、励磁回路310と、SIN/COS信号検出回路320とを備える。励磁回路310は、モータ制御装置1から出力される所定電圧の信号を正弦波の電圧信号である励磁信号に変換し、レゾルバ300が有する三相のいずれかの相へ励磁信号を出力する。
【0015】
SIN/COS信号検出回路320は、モータ200の回転角度に応じて励磁信号が変換された検出信号を検出する。具体的には、SIN/COS信号検出回路320は、励磁信号が回転角度に応じて変換された正弦波の検出信号と、余弦波の検出信号とを励磁信号が出力された相以外の残りの二相それぞれから検出してモータ制御装置1へ出力する。
【0016】
モータ制御装置1は、コントローラ2と、インバータ3と、電圧検出部4と、ゲート駆動回路5とを備える。コントローラ2は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種の回路を含む。また、コントローラ2は、たとえば、不揮発性メモリやフラッシュメモリ、ハードディスクドライブといった記憶デバイスで構成される不図示の記憶部を備える。コンピュータのCPUは、たとえば、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって機能する。
【0017】
インバータ3は、モータ200を駆動する交流の駆動信号を生成してモータ200へ出力する。インバータ3は、直流電源31と、平滑化用のコンデンサ32と、スイッチ素子SW1~SW6を備える。スイッチ素子SW1~SW6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOS-FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor) 等のパワーデバイスによって構成される。
【0018】
スイッチ素子SW1は、ハイサイド側(上段側)のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるU相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW3は、ハイサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるV相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW5は、ハイサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるW相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW2は、ローサイド側(下段側)のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるU相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW4は、ローサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるV相に対応したスイッチ素子である。スイッチ素子SW6は、ローサイド側のスイッチ素子であり、3相の交流電力におけるW相に対応したスイッチ素子である。なお、以下では、スイッチ素子SW1~SW6を特に区別しない場合、スイッチ素子SWと総称する。
【0019】
インバータ3は、スイッチ素子SW1~SW6のスイッチ制御により直流電源31の直流電力を3相の交流電力に変換してモータ200へ供給することで、モータ200を駆動する。
【0020】
電圧検出部4は、インバータ3の両端電圧を検出してコントローラ2モータ制御装置1へ出力する。ゲート駆動回路5は、コントローラ2モータ制御装置1から出力されるPWM信号に従って、スイッチ素子SW1~SW6それぞれのオン/オフを制御する。
【0021】
コントローラ2は、電流指令部21と、PI制御部22と、電圧指令部23と、PWM制御部24と、計測部25と、電流変換部26と、デコード部27と、温度推定部28とを備える。
【0022】
電流指令部21は、車両制御装置100から受け付けたトルク指令T_cmdに従って、要求トルクを満たす電流指令値を算出して出力する。具体的には、電流指令部21は、トルク指令T_cmdと、電圧検出部4が検出した直流電源31のバッテリ電圧Vdcと、後述する演算部27bから出力されたモータ回転数ω_actとに基づいて、d軸電流指令値Id_refおよびq軸電流指令値Iq_refを算出し減算器へ出力する。なお、減算器には、後述する電流変換部26から出力されるd軸電流実測値Id_actおよびq軸電流実測値Iq_actが入力される。
【0023】
PI制御部22は、電流指令部21から出力された電流指令値と、電流変換部26から出力された電流実測値との誤差がゼロとなるようにフィードバック制御を実施する。具体的には、PI制御部22は、減算器から出力される誤差信号に基づいて、d軸電圧指令値Vdおよびq軸電圧指令値Vqを出力する。より具体的には、PI制御部22は、d軸電流指令値Id_refおよびd軸電流実測値Id_actの誤差を示すd軸誤差信号Id_errと、q軸電流指令値Iq_refおよびq軸電流実測値Iq_actの誤差を示すq軸誤差信号Iq_errとに基づいてフィードバック制御を行う。すなわち、PI制御部22は、d軸誤差信号Id_errおよびq軸誤差信号Iq_errと逆位相の電流値となる電流指令信号を生成する。そして、PI制御部22は、フィードバック制御により生成した電流指令信号を電圧値に変換したd軸電圧指令値Vdおよびq軸電圧指令値Vqを電圧指令部23へ出力する。
【0024】
電圧指令部23は、d軸電圧指令値Vdおよびq軸電圧指令値Vqを、モータ200の回転角度θ_actに基づいてU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値VvおよびW相電圧指令値Vwに変換してPWM制御部24へ出力する。
【0025】
PWM制御部24は、電圧指令部23が出力したU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値VvおよびW相電圧指令値Vwに基づいて、U相、V相およびW相それぞれにおける電圧のデューティ比を決定し、決定したデューティ比のPWM信号を生成してゲート駆動回路5へ出力する。
【0026】
計測部25は、インバータ3からモータ200へ出力される電流を計測する。具体的には、計測部25は、U相電流実測値Iu、V相電流実測値IvおよびW相電流実測値Iwを計測し、電流変換部26へ出力する。
【0027】
電流変換部26は、計測部25が計測したU相電流実測値Iu、V相電流実測値IvおよびW相電流実測値Iwを、モータ200の回転角度θ_actに基づいてd軸電流実測値Id_actおよびq軸電流実測値Iq_actに変換する。
【0028】
デコード部27は、励磁部27aと、演算部27bと、異常管理部27cとを備える。励磁部27aは、励磁回路310によって生成される励磁信号の元となる所定電圧の信号を生成して励磁回路310へ出力する。
【0029】
演算部27bは、モータ200の状態に関する演算を行う。具体的には、演算部27bは、モータ200の回転角度と、モータ回転数(回転速度)とを演算する。演算部27bは、SIN/COS信号検出回路320によって検出された検出信号と、励磁回路310が出力した励磁信号との位相差に基づいて回転角度を演算(検出)する。演算部27bは、演算した回転角度θ_actを電流変換部26および電圧指令部23へ出力する。
【0030】
また、演算部27bは、演算した回転角度に基づいてモータ回転数(回転速度)を演算(検出)する。演算部27bは、演算したモータ回転数ω_actを電流指令部21へ出力する。
【0031】
異常管理部27cは、コントローラ2の異常管理を行う。異常管理部27cは、コントローラ2のハードウェアに起因する異常を検出する。異常管理部27cは、コントローラ2のハードウェア異常を検出した場合に、安全モードに切り替える。安全モードは、例えば、モータ200の回転数や出力トルクを制限するモードである。
【0032】
温度推定部28は、モータ200の巻線温度を推定する。
【0033】
ここで、従来は、ベクトル制御における制御状態が零ベクトル状態である期間中に計測したインバータへの入力電圧を基に推定したモータへの印加電圧によりモータの巻線温度を推定していた。しかしながら、モータの印加電圧は、インバータへの入力電圧が同じであっても、インバータのデートタイムや、外乱に起因して混入する高調波の影響により電圧値が変動する場合がある。このため、推定した印加電圧と実際の印加電圧とに誤差が生じることで、推定した巻線温度と、実際の巻線温度とが乖離するおそれがあった。
【0034】
そこで、本開示では、インバータ3への入力電圧を用いずに温度推定する技術を提案する。具体的には、まず、温度推定部28は、ベクトル制御における制御状態が零ベクトル状態の期間中にモータ回転数とモータ相電流とを計測する。
【0035】
ここで、図2Aおよび図2Bを用いて、ベクトル制御について説明する。図2Aおよび図2Bは、ベクトル制御を説明するための図である。
【0036】
図2Aおよび図2Bに示すように、本開示では、ベクトル制御は、ベクトルV0~V7の8つの制御状態が存在する。図2Bに示すように、ベクトルV0は、零ベクトル状態であり、ハイサイド側のスイッチ素子SW1,SW3,SW5をすべてオフ、ローサイド側のスイッチ素子SW2,SW4,SW6をすべてオンした制御状態である。ベクトルV1は、ベクトルV0の制御状態からスイッチ素子SW1をオン、スイッチ素子SW2をオフした制御状態である。ベクトルV2は、ベクトルV1の制御状態からスイッチ素子SW3をオン、スイッチ素子SW4をオフした制御状態である。ベクトルV3は、ベクトルV2の制御状態からスイッチ素子SW1をオフ、スイッチ素子SW2をオンした制御状態である。ベクトルV4は、ベクトルV3の制御状態からスイッチ素子SW5をオン、スイッチ素子SW6をオフした制御状態である。ベクトルV5は、ベクトルV4の制御状態からスイッチ素子SW3をオフ、スイッチ素子SW4をオンした制御状態である。ベクトルV6は、ベクトルV5の制御状態からスイッチ素子SW1をオン、スイッチ素子SW2をオフした制御状態である。ベクトルV7は、零ベクトル状態であり、ハイサイド側のスイッチ素子SW1,SW3,SW5をすべてオン、ローサイド側のスイッチ素子SW2,SW4,SW6をすべてオフした制御状態である。
【0037】
例えば、図2Aに示すように、電圧指令値VがベクトルV1およびベクトルV2の間である場合、電圧指令値Vは、下記式(1)によって算出される。式(1)のVおよびVは、ベクトルV1およびベクトルV2である。また、式(1)のTは、インバータ3の制御周期である。また、式(1)のT,T,T,Tは、それぞれベクトルV1、ベクトルV2、ベクトルV0、ベクトルV7の制御状態となっている時間である。なお、Tは下記式(2)によって算出され、Tは下記式(3)によって算出され、Tは下記式(4)によって算出され、TおよびTは下記式(5)によって算出される。なお、式(3)および式(4)において、係数kは、ベクトル制御相対変換を行う場合には、k=√3を用い、ベクトル制御絶対変換を行う場合には、k=√2を用いる。
【0038】
【数1】
【0039】
【数2】
【0040】
【数3】
【0041】
【数4】
【0042】
【数5】
【0043】
本開示では、温度推定部28は、零ベクトル状態であるベクトルV0およびベクトルV7の期間中にモータ200の回転数とモータ相電流(U相、V相およびW相)とを計測する。そして、温度推定部28は、計測した回転数およびモータ相電流に基づいてモータ200の巻線抵抗を推定する。
【0044】
巻線抵抗Rを算出する式(6)は、モータ相電圧のd軸成分vの電圧方程式である下記式(7)と、q軸成分vの電圧方程式である下記式(8)とに基づいて導出される。なお、式(6)~(8)のL,Lは、それぞれd軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスであり、式(6)では、巻線温度が20℃のq軸インダクタンスLq0(20℃)として示している。また、式(6)~(8)のi,iは、モータ相電流におけるd軸電流およびq軸電流である。また、式(6)~(8)のωは、モータ200の回転速度である。また、式(6)~(8)のdi/dt,di/dtは、それぞれd軸電流およびq軸電流の微分値である。また、式(6)~(8)のφは、永久磁石による鎖交磁束である。また、式(6)のkは、q軸インダクタンスの温度補正係数である。また、式(6)のΔTは、前回制御周期の巻線温度と20℃との誤差である。
【0045】
【数6】
【0046】
【数7】
【0047】
【数8】
【0048】
上記式(7)および式(8)において、零ベクトル状態では、v=v=0、かつ、i=i=一定値、かつ、L×di/dt=L×di/dt=0が代入される。そして、これらの値が代入された式(7)および式(8)を変形すると式(6)となる。すなわち、式(6)で示されるように、零ベクトル状態での巻線抵抗Rは、モータ200の回転速度と、モータ相電流であるq軸電流とによって算出可能となり、モータ相電圧が不要となる。
【0049】
そして、式(6)により推定した巻線抵抗Rを使って、巻線温度Tを下記式(9)によって算出する。なお、式(9)のR(20℃)およびR(T)は、それぞれ巻線温度が20℃およびT℃の時の巻線抵抗である。また、式(9)のaは、抵抗温度係数であり、例えば、銅材料であれば、a=0.00393となる。
【0050】
【数9】
【0051】
すなわち、実施形態に係るモータ制御装置1によれば、零ベクトル状態では、巻線抵抗を算出する式(6)においてモータ相電圧の変数を排除できるため、モータ相電圧の変動の影響を無視できる。すなわち、実施形態に係るモータ制御装置1によれば、モータ200の巻線温度の推定精度を高めることができる。
【0052】
次に、図3および図4を用いて、温度推定部28の温度推定タイミングについて説明する。図3および図4は、温度推定タイミングを説明するための図である。図3では、計測部25が計測した3相の電流実測値(3相のモータ相電流)を示している。
【0053】
図3に示すように、温度推定部28は、モータ相電流の電流角度範囲(0°≦θi<360°)において、予め定められた電流角度の間隔で巻線温度を推定する。例えば、温度推定部28は、電流角度が60°の間隔で巻線温度の推定を行う。すなわち、図3に示す例では、温度推定部28は、0°(360°)、60°、120°、180°、240°、300°の温度推定タイミングで巻線温度を推定する。このように、予め定められた電流角度の間隔で巻線温度を推定することで、巻線温度を定期的に推定することができる。
【0054】
また、温度推定部28は、各温度推定タイミングにおいて、3相それぞれの巻線温度を推定してもよい。具体的には、温度推定部28は、上記式(9)で算出した巻線温度が3相巻線の平均温度となっているため、モータ相電流における各相の振幅値に基づいて、各相の巻線温度を推定する。
【0055】
具体的には、温度推定部28は、各相の振幅値に応じて相毎に異なる係数を用いて各相の巻線温度を推定する。より具体的には、温度推定部28は、振幅値がピーク値に近い程高い値の係数を、上記式(9)で算出した巻線温度に乗じることで、各相の巻線温度を推定する。これは、モータ相電流がピーク値に近い程、巻線温度が高くなるためである。
【0056】
図3に示す例では、3相のうち、1相の振幅値はピーク値であり、残り2相の振幅値は同じ値となる。つまり、図3に示す例の場合、ピーク値用の第1係数と、ピーク値以外の第2係数(<第1係数)との2種類の係数を予め準備しておき、各相の振幅値に応じていずれかの係数を用いる。このように、温度推定部28は、各相の巻線温度を把握できるため、相毎の巻線異常の検出や、相毎のインバータ制御を高精度に行うことができる。また、振幅値に応じた係数を用いることで、相毎の巻線温度の推定精度を高めることができる。また、各相の巻線温度を算出することで、各巻線の個別の温度を把握できるため、モータの安全保護フェイルセーフやインバータの制御性能を向上することができる。例えば、過熱焼損に対する保護をより適切に行うことができる。この結果、モータ200の安全保護フェイルセーフやインバータの制御性能を向上することができる。
【0057】
次に、図4を用いて、温度推定タイミングにおける温度推定処理の実行可否判定について説明する。図4では、温度推定タイミング近傍の電流角度範囲を示している。また、図4では、制御周期Ts、3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwおよびハイサイド側のスイッチ素子SW1(S),SW3(S),SW5(S)それぞれの状態を示している。
【0058】
図4において、スイッチ素子SW1,SW3,SW5がすべてオフの場合が、零ベクトル状態であるベクトルV0の制御状態である。また、スイッチ素子SW1,SW3,SW5がすべてオンの場合が、零ベクトル状態であるベクトルV7の制御状態である。
【0059】
温度推定部28は、温度推定タイミング近傍の電流角度範囲において、零ベクトル状態であるベクトルV0およびベクトルV7となったタイミングで、温度推定を行うための割込みトリガーを生成して温度推定を行う。
【0060】
温度推定部28は、割込みトリガーを生成する際に、ベクトルV0およびベクトルV7の期間の長さが、温度推定処理に要する時間よりも長いか否かを判定する。具体的には、温度推定部28は、モータ回転数と、要求トルクとに基づいて判定を行う。例えば、モータ回転数が高い程、制御周期Tsが短くなるため、必然的にベクトルV0およびベクトルV7の期間が短くなる。また、要求トルクが高い程、電圧指令値のデューティ比が高くなるため、必然的にベクトルV0およびベクトルV7の期間が短くなる。
【0061】
温度推定部28は、かかる期間の長さが温度推定処理に要する時間よりも長い場合には、割込みトリガーを生成して温度推定処理を行う。一方、温度推定部28は、かかる期間の長さが温度推定処理に要する時間よりも短い場合には、割込みトリガーを生成せず、温度推定処理を禁止する。あるいは、温度推定部28は、かかる期間の長さが温度推定処理に要する時間よりも短い場合には、従来の温度推定処理、すなわち、モータ相電圧を用いた温度推定処理を行ってもよい。
【0062】
次に、図5を用いて、モータ制御装置1が実行する温度推定処理の処理手順について説明する。図5は、モータ制御装置1が実行する温度推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0063】
図5に示すように、コントローラ2は、モータ相電流の電流角度が温度推定タイミングの電流角度であるか否かを判定する(ステップS101)。コントローラ2は、温度推定タイミングの電流角度でない場合(ステップS101:No)、ステップS101を繰り返し実行する。
【0064】
コントローラ2は、温度推定タイミングの電流角度である場合(ステップS101:Yes)、制御状態が零ベクトル状態であるか否かを判定する(ステップS102)。コントローラ2は、制御状態が零ベクトル状態でない場合(ステップS102:No)、ステップS102を繰り返し実行する。
【0065】
コントローラ2は、制御状態が零ベクトル状態である場合(ステップS102:Yes)、零ベクトル状態の期間の長さが閾値以上であるか否かを判定する(ステップS103)。具体的には、コントローラ2は、モータ回転数および要求トルクに基づき推定した零ベクトル状態の期間の長さが温度推定処理に要する時間よりも長いか否かを判定する。
【0066】
コントローラ2は、零ベクトル状態の期間の長さが閾値以上である場合(ステップS103:Yes)、零ベクトル状態となったタイミングで割り込みトリガーを生成する(ステップS104)。なお、コントローラ2は、零ベクトル状態の期間の長さが閾値未満である場合(ステップS103:No)、割込みトリガーを生成せずに処理を終了する。すなわち、温度推定処理を行わない。
【0067】
つづいて、コントローラ2は、零ベクトル状態の期間中にモータ回転数およびモータ相電流を取得(計測)する(ステップS105)。具体的には、コントローラ2は、零ベクトル状態の期間中にモータ回転数と、3相のモータ相電流を計測する。
【0068】
つづいて、コントローラ2は、取得したモータ回転数とモータ相電流とに基づいて、モータ200の巻線抵抗を推定する(ステップS106)。具体的には、コントローラ2は、取得したモータ回転数とモータ相電流とを上記式(6)に代入することで、巻線抵抗を算出する。
【0069】
つづいて、コントローラ2は、推定した巻線抵抗に基づいて、モータ200の巻線温度を推定する(ステップS107)。具体的には、コントローラ2は、推定した巻線抵抗を上記式(9)に代入することで、巻線温度を算出する。
【0070】
上述してきたように、実施形態に係るモータ制御装置1は、三相交流のモータ200をベクトル制御で駆動制御するモータ制御装置であって、コントローラ2を有する。コントローラ2は、モータ回転数とモータ相電流とをベクトル制御における制御状態が零ベクトル状態の期間中に測定し、測定したモータ回転数とモータ相電流とに基づいてモータ200の巻線抵抗を推定し、巻線抵抗からモータの巻線温度を推定する。これにより、モータ制御装置1は、モータ相電圧を用いることなく巻線温度を推定できるため、モータ相電圧の変動の影響を無視できる。すなわち、実施形態に係るモータ制御装置1によれば、モータ200の巻線温度の推定精度を高めることができる。
【0071】
なお、モータ制御装置1は、上記により推定した巻線温度を用いて、モータ200の出力トルクを推定してもよい。具体的には、まず、コントローラ2は、下記式(10)によりモータ200の鎖交磁束を算出する。式(10)のLq0(20℃)およびLd0(20℃)は、巻線温度が20℃のq軸インダクタンスおよびd軸インダクタンスである。また、式(10)のkおよびkは、q軸インダクタンスおよびd軸インダクタンスの温度補正係数である。また、式(10)のΔTは、上記式(9)で推定した巻線温度と20℃との誤差である。
【0072】
【数10】
【0073】
つづいて、コントローラ2は、算出した鎖交磁束に基づいて出力トルクを推定する。このように、推定した巻線温度に基づいて鎖交磁束を推定することで、鎖交磁束の推定精度を高めることができるとともに、出力トルクの推定精度も高めることができる。
【0074】
また、上述したように、モータ200の巻線温度を算出することで、温度センサが不要になるため、製品コストを削減できる。ただし、本開示において、温度センサも設ける構成であってもよい。
【0075】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 モータ制御装置
2 コントローラ
3 インバータ
4 電圧検出部
5 ゲート駆動回路
21 電流指令部
22 PI制御部
23 電圧指令部
24 PWM制御部
25 計測部
26 電流変換部
27 デコード部
27a 励磁部
27b 演算部
27c 異常管理部
28 温度推定部
31 直流電源
32 コンデンサ
100 車両制御装置
200 モータ
300 レゾルバ
310 励磁回路
320 COS信号検出回路
S モータ制御システム
SW1~SW6 スイッチ素子
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5