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特開2024-12563インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012563
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/15 20060101AFI20240123BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240123BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B41J2/15
B41J2/01 123
B41J2/21
B41J2/01 401
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191790
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2023509060の分割
【原出願日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2021049454
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】江藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】東谷 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】玉井 宏篤
(72)【発明者】
【氏名】丸田 正晃
(72)【発明者】
【氏名】穗谷 智也
(57)【要約】      (修正有)
【解決手段】インクジェット記録装置は、搬送部と、キャリッジと、少なくとも一つの前処理ヘッドと、少なくとも一つインクヘッドと、少なくとも一つ後処理ヘッドとを備える。搬送部は、記録媒体を所定の搬送方向に搬送する。キャリッジは、前記搬送方向と交差する主走査方向に沿って往復移動する。少なくとも一つ前処理ヘッドは、前記キャリッジに搭載され、非発色性の前処理液を吐出する。少なくとも一つインクヘッドは、前記キャリッジに搭載され、インクを吐出する。少なくとも一つ後処理ヘッドは、前記キャリッジに搭載され、非発色性の後処理液を吐出する。前記少なくとも一つの前処理ヘッド、前記少なくとも一つのインクヘッドおよび前記少なくとも一つの後処理ヘッドが、前記搬送方向において互いにずれて配置されている。
【効果】画像の品質低下を起こしに難くできる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、
前記搬送方向と交差する主走査方向に沿って往復移動するキャリッジと、
前記キャリッジに搭載され、非発色性の前処理液を吐出する少なくとも一つの前処理ヘッドと、
前記キャリッジに搭載され、インクを吐出する少なくとも一つのインクヘッドと、
前記キャリッジに搭載され、非発色性の後処理液を吐出する少なくとも一つの後処理ヘッドと、
を備え、
前記少なくとも一つの前処理ヘッド、前記少なくとも一つのインクヘッドおよび前記少なくとも一つの後処理ヘッドが、前記搬送方向において互いにずれて配置されている、インクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置であって、
前記記録媒体上の所定領域に対して前記前処理ヘッドが前記主走査方向に沿って移動しながら前記前処理液を吐出するときの前記キャリッジの移動を第1走査、前記所定領域に対して前記インクヘッドが前記主走査方向に沿って移動しながら前記インクを吐出するときの前記キャリッジの移動を第2走査、前記所定領域に対して前記後処理ヘッドが前記主走査方向に沿って移動しながら前記後処理液を吐出するときの前記キャリッジの移動を第3走査とすると、
前記第1走査、前記第2走査および前記第3走査は、互いに異なる走査であり、
前記第1走査、前記第2走査および前記第3走査が、各々少なくとも1回この順序で行われる、インクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録装置であって、
互いに連続する前記第1走査と前記第2走査とで、前記キャリッジの移動方向が互いに異なっている、インクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のインクジェット記録装置であって、
互いに連続する前記第2走査と前記第3走査とで、前記キャリッジの移動方向が互いに異なっている、インクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のインクジェット記録装置であって、
前記少なくとも一つの前処理ヘッドは、前記キャリッジの移動に伴って前処理液をそれぞれ吐出する複数の前処理ノズルによって画定される前処理ノズル領域を有し、
前記少なくとも一つのインクヘッドは、前記キャリッジの移動に伴ってインクをそれぞれ吐出する複数のインクノズルによって画定されるインクノズル領域を有し、
前記少なくとも一つの後処理ヘッドは、前記キャリッジの移動に伴って後処理液をそれぞれ吐出する複数の後処理ノズルによって画定される後処理ノズル領域を有し、
前記主走査方向に沿って見た場合、前記前処理ノズル領域、前記インクノズル領域および前記後処理ノズル領域が互いに重ならないように配置されている、インクジェット記録装置。
【請求項6】
記録媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、
前記搬送方向と交差する主走査方向に沿って往復移動するキャリッジと、
前記キャリッジに搭載され、非発色性の前処理液を吐出する少なくとも一つの前処理ヘッドと、
前記キャリッジに搭載され、インクを吐出する少なくとも一つのインクヘッドと、
前記キャリッジに搭載され、非発色性の後処理液を吐出する少なくとも一つの後処理ヘッドと、
を備えるインクジェット記録装置のインクジェット記録方法であって、
前記少なくとも一つの前処理ヘッド、前記少なくとも一つのインクヘッドおよび前記少なくとも一つの後処理ヘッドを、前記搬送方向において互いにずれて配置することを備える、インクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主走査方向に移動するキャリッジに搭載されたインクヘッドを備えたインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式プリンター等のインクジェット記録装置は、画像形成用のインクを記録媒体に向けて吐出するインクヘッドを備える。
【0003】
記録媒体が広幅のものである場合、上記のインクヘッドは、主走査方向に往復移動するキャリッジに搭載される。記録処理に際しては、記録媒体は所定の搬送方向(副走査方向)に間欠送りされ、当該記録媒体の停止中にキャリッジが主走査方向に往復移動される。キャリッジの移動時、インクヘッドからインク(着色インク)が吐出される。
【0004】
特許文献1には、着色インクを記録媒体へ向けて吐出させる前に当該記録媒体に対して前処理液を施与する一方、着色インクを記録媒体へ向けて吐出した後に当該記録媒体に対して後処理液を施与する技術が開示されている。前処理液は、例えば記録媒体へのインクの定着性やインク顔料の凝集性を向上させるための処理液である。また、後処理液は、例えば印刷された画像の堅牢性を高めるための処理液である。当該インクジェット記録装置のキャリッジには、インクヘッドに加えて、前処理液を吐出する前処理ヘッドおよび後処理液を吐出する後処理ヘッドが備えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-094673号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の一の局面に係るインクジェット記録装置は、搬送部と、キャリッジと、少なくとも一つの前処理ヘッドと、少なくとも一つインクヘッドと、少なくとも一つ後処理ヘッドとを備える。搬送部は、記録媒体を所定の搬送方向に搬送する。キャリッジは、前記搬送方向と交差する主走査方向に沿って往復移動する。少なくとも一つ前処理ヘッドは、前記キャリッジに搭載され、非発色性の前処理液を吐出する。少なくとも一つインクヘッドは、前記キャリッジに搭載され、インクを吐出する。少なくとも一つ後処理ヘッドは、前記キャリッジに搭載され、非発色性の後処理液を吐出する。前記少なくとも一つの前処理ヘッド、前記少なくとも一つのインクヘッドおよび前記少なくとも一つの後処理ヘッドが、前記搬送方向において互いにずれて配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示す斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線の模式的な断面図である。
図3図3は、図1に示すキャリッジの拡大斜視図である。
図4図4は、本開示の一実施形態で採用されているシリアル印刷方式を示す模式図である。
図5A図5Aは、キャリッジの往路及び復路での印刷状況を示す模式図である。
図5B図5Bは、キャリッジの往路及び復路での印刷状況を示す模式図である。
図6図6は、図3に示すキャリッジ上のインクヘッド及び処理ヘッドの配置を概略的に示す平面図である。
図7図7は、本開示の一実施形態に係るインクジェット記録装置のブロック図である。
図8図8は、本開示の一実施形態に係るインクジェット記録装置における、記録媒体上の前処理液着弾領域とインク着弾領域との関係を示す平面図である。
図9図9は、本開示の一実施形態に係るインクジェット記録装置における、記録媒体上の前処理液着弾領域とインク着弾領域との関係を示す平面図である。
図10図10は、キャリッジの移動とともに記録媒体の表面上にインクが着弾する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、本開示の各実施形態に係るインクジェット記録装置ついて説明する。これらの実施形態では、インクジェット記録装置の具体例として、広幅で長尺の記録媒体に画像形成用のインクを吐出するインクヘッドを備えたインクジェット式プリンターを例示する。インクジェット式プリンターは、織物や編物等の生地からなる記録媒体に、文字類や模様等の画像をインクジェット方式で印刷するデジタル捺染印刷に好適である。もちろん、本開示に係るインクジェット記録装置は、紙シートや樹脂シート等の記録媒体に各種のインクジェット画像を印刷する用途にも用いることができる。
【0009】
[インクジェット式プリンターの全体構成]
図1は、本開示の第1実施形態に係るインクジェット式プリンター1の全体構成を示す斜視図、図2は、図1のII-II線の模式的な断面図である。インクジェット式プリンター1は、広幅且つ長尺のワークW(記録媒体)にインクジェット方式で画像を印刷するプリンターであって、装置フレーム10と、この装置フレーム10に組み込まれたワーク搬送部20(搬送部)及びキャリッジ3とを含む。なお、本実施形態では、左右方向がワークWに対する印刷の際の主走査方向S(図3)、後方から前方に向かう方向が副走査方向(ワークWの搬送方向F)である。
【0010】
装置フレーム10は、インクジェット式プリンター1の各種構成部材を搭載するための骨組みを形成している。ワーク搬送部20は、インクジェット印刷処理が行われる印刷領域(画像形成位置)をワークWが、後方から前方に向かう搬送方向Fに通過するように、当該ワークWを間欠送りする(搬送する)機構である。キャリッジ3は、インクヘッド4、前処理ヘッド5、後処理ヘッド6及びサブタンク7を搭載し、前記インクジェット印刷処理の際にワークWの搬送方向Fと交差する主走査方向S(左右方向)に往復移動する。
【0011】
装置フレーム10は、中央フレーム111、右フレーム112及び左フレーム113を含む。中央フレーム111は、インクジェット式プリンター1の各種構成部材を搭載するための骨組みを形成しており、ワーク搬送部20に応じた左右幅を有している。右フレーム112及び左フレーム113は、それぞれ中央フレーム111の右隣、左隣に立設されている。右フレーム112と左フレーム113との間が、ワークWに対して印刷処理が実行される印刷エリア12である。
【0012】
右フレーム112は、メンテナンスエリア13を形成する。メンテナンスエリア13は、前記印刷処理が実行されないときに、キャリッジ3を退避させるエリアである。メンテナンスエリア13では、インクヘッド4、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6のノズル(吐出孔)のクリーニング処理、パージ処理等が行われ、またキャップが被嵌される。左フレーム113は、キャリッジ3の折り返しエリア14を形成する。折り返しエリア14は、前記印刷処理において右方から左方へ印刷エリア12を主走査したキャリッジ3が、逆方向の主走査を行う際に一時的に入る領域である。
【0013】
装置フレーム10の上方側には、キャリッジ3に左右方向の往復移動を行わせるためのキャリッジガイド15が組み付けられている。キャリッジガイド15は、左右方向に長い平板状の部材であり、ワーク搬送部20の上方に配置されている。キャリッジガイド15には、タイミングベルト16(移動部材)が左右方向(主走査方向)に周回移動が可能に組み付けられている。タイミングベルト16は、無端ベルトであって、後記のキャリッジ駆動部3Sによって、左方向又は右方向に周回移動するよう駆動される。
【0014】
キャリッジガイド15には、キャリッジ3を主走査方向Sに往復移動が可能な状態で保持する上下一対のガイドレール17(保持部材)が、左右方向に平行に延在するように装備されている。キャリッジ3は、ガイドレール17と係合している。また、キャリッジ3は、タイミングベルト16に固定されている。キャリッジ3は、タイミングベルト16の左方向又は右方向の周回移動に伴って、ガイドレール17に案内されつつ、キャリッジガイド15に沿って左方向又は右方向に移動する。
【0015】
図2を主に参照して、ワーク搬送部20は、印刷前のワークWを繰り出す送り出しローラー21と、印刷後のワークWを巻き取る巻き取りローラー22とを含む。送り出しローラー21は、装置フレーム10の後方下部に配置され、印刷前のワークWの巻回体である送り出しロールWAの巻き取り軸である。巻き取りローラー22は、装置フレーム10の前方下部に配置され、印刷処理後のワークWの巻回体である巻き取りロールWBの巻き取り軸である。巻き取りローラー22には、当該巻き取りローラー22を軸回りに回転駆動し、ワークWの巻き取り動作を実行させる第1モーターM1が付設されている。
【0016】
送り出しローラー21と巻き取りローラー22との間であって印刷エリア12を通る経路が、ワークWの搬送経路となる。この搬送経路には、上流側から順に第1テンションローラー23、ワークガイド24、搬送ローラー25及びピンチローラー26、折り返しローラー27、第2テンションローラー28が配置されている。第1テンションローラー23は、搬送ローラー25の上流側において、ワークWに所定の張力を付与する。ワークガイド24は、ワークWの搬送方向を上方向から前方向に変更し、ワークWを印刷エリア12へ搬入させる。
【0017】
搬送ローラー25は、印刷エリア12においてワークWを間欠送りする搬送力を発生するローラーである。搬送ローラー25は、第2モーターM2により軸回りに回転駆動され、ワークWがキャリッジ3に対向する印刷エリア12(画像形成位置)を通過するように、ワークWを前方向(所定の搬送方向F)に所定の搬送ピッチで間欠的に搬送する。ピンチローラー26は、搬送ローラー25に対して上方から対向するように配置され、搬送ローラー25と搬送ニップ部を形成している。
【0018】
折り返しローラー27は、印刷エリア12を通過したワークWの搬送方向を前方向から下方向に変更し、印刷処理後のワークWを巻き取りローラー22へ導く。第2テンションローラー28は、搬送ローラー25の下流側において、ワークWに所定の張力を付与する。印刷エリア12においてワークWの搬送経路の下方には、プラテン29が配置されている。
【0019】
キャリッジ3は、ガイドレール17に片持ち支持された状態で、前記印刷領域(画像形成位置)において搬送方向Fと交差(本実施形態では直交)する主走査方向S(本実施形態では左右方向)に往復移動する。キャリッジ3は、キャリッジフレーム30と、このキャリッジフレーム30に搭載されるインクヘッド4、前処理ヘッド5、後処理ヘッド6及びサブタンク7とを備える。キャリッジフレーム30は、ヘッド支持フレーム31及びバックフレーム32(係合部)を含む。
【0020】
ヘッド支持フレーム31は、上掲のヘッド4~6を保持する水平板である。バックフレーム32は、ヘッド支持フレーム31の後端縁から上方に延びる垂直板である。上述したように、タイミングベルト16は、バックフレーム32に固定されている。また、ガイドレール17は、バックフレーム32に係合されている。すなわち、本実施形態では、バックフレーム32がガイドレール17に片持ち状態で保持される係合部である。ヘッド支持フレーム31は、その後端側が前記係合部によってガイドレール17に片持ち支持された水平板である。
【0021】
なお、片持ち状態とは、キャリッジ3において、係合部(バックフレーム32)が、搬送方向Fにおいて、キャリッジ3の中央から上流側、若しくは下流側の片側のみに存在し、係合部が存在する側の反対側には、他の係合部が存在しない状態を表す。前記係合部は、保持部材であるガイドレール17に保持されている部分である。前記係合部は、さらに、搬送方向Fにおいて、インクヘッド4及び処理ヘッドが配置されている範囲以外に配置されていてもよい。すなわち、前記係合部は、搬送方向Fにおいて、インクヘッド4及び処理ヘッドが配置されている範囲に対して、上流側のみ、若しくは下流側のみに配置されていてもよい。
【0022】
[キャリッジの詳細]
キャリッジ3について、さらに説明を加える。図3は、図1に示すキャリッジ3の拡大斜視図である。図3には、ワークWの搬送方向F(副走査方向)と、キャリッジ3の移動方向である主走査方向Sとが示されている。図3では、ワークWに対して画像形成用のインクを吐出する複数のインクヘッド4と、非発色性の処理液を吐出する前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6と、これらのヘッド4~6に前記インク及び前記処理液を供給する複数のサブタンク7とが、キャリッジ3に搭載されている例を示している。
【0023】
インクヘッド4の各々は、例えばピエゾ素子を用いたピエゾ方式、加熱素子を用いたサーマル方式等の吐出方式でインク滴を吐出する多数のノズル(インク吐出孔)と、このノズルにインクを導くインク通路とを備える。インクとしては、例えば、水系の溶媒、顔料及び結着樹脂を含む水系顔料インクを用いることができる。なお、インクは、顔料の代わりに、染料が含まれているものでもよい。したがって、以後、顔料および染料を含む概念を色素と表現する場合がある。本実施形態における複数のインクヘッド4は、互いに異なる6色のインクを各々吐出する第1~第6インクヘッド4A~4Fを含む。例えば、第1インクヘッド4Aはオレンジ、第2インクヘッド4Bはグリーン、第3インクヘッド4Cはイエロー、第4インクヘッド4Dはレッド、第5インクヘッド4Eはブルー、第6インクヘッド4Fはブラックのインクを各々吐出する。
【0024】
各色のインクヘッド4A~4Fは、主走査方向Sに並ぶように、キャリッジ3のヘッド支持フレーム31に搭載されている。各色のインクヘッド4A~4Fは、それぞれ1個のヘッドを有している。
【0025】
前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6は、搬送方向Fにおいてインクヘッド4とは異なる位置に配置されている。前処理ヘッド5は、搬送方向Fにおいてインクヘッド4に対して上流側に配置されている。図3では、1個の前処理ヘッド5がインクヘッド4の配列体の右端部付近に配置されている例を示している。同様に、後処理ヘッド6は、搬送方向Fにおいてインクヘッド4に対して下流側に配置されている。図3では、1個の後処理ヘッド6がインクヘッド4の配列体の右端部に配置されている例を示している。他の実施形態において、複数の前処理ヘッド5または複数の後処理ヘッド6が配置されてもよい。すなわち、キャリッジ3には、少なくとも一つ前処理ヘッド5および少なくとも一つの後処理ヘッド6がそれぞれ備えられる。
【0026】
前処理ヘッド5は、ワークWに対して所定の前処理を施すための前処理液を吐出する。前処理液は、インクヘッド4からワークWの、まだインクヘッド4からインクが吐出されていない位置に、前処理ヘッド5から吐出される。前処理液は、ワークWに付着しても発色しない非発色性の処理液であって、例えばワークWへのインクの定着性やインク顔料(色素)の凝集性を高める機能等を発現する処理液である。このような前処理液としては、溶媒に結着性樹脂を配合した処理液、或いは、溶媒にプラス帯電するカチオン樹脂を配合した処理液等を用いることができる。
【0027】
後処理ヘッド6は、インクが付着したワークWに対して所定の後処理を施すための後処理液を吐出する。後処理液は、ワークWの、インクヘッド4からインクが吐出された後の位置に、後処理ヘッド6から吐出される。後処理液は、同様にワークWに付着しても発色しない非発色性の処理液であって、インクヘッド4によりワークW上に印画されたインク画像の定着性や堅牢性(擦れや削れに対する耐性)を高める機能を発現する処理液である。このような後処理液としては、シリコーン系の処理液等を用いることができる。なお、後処理液と前処理液とは異なる処理液である。具体的には、後処理液と前処理液とでは、含まれる成分が異なる。
【0028】
ここで、非発色性の処理液とは、記録媒体に単独で印刷した場合に、人に肉眼では発色したと認識されないものを表す。ここでの色とは、黒、白及び灰色などの彩度が0のものも含める。非発色性の処理液は、基本的には、透明な液体であるが、例えば、1リットルの処理液を液体の状態で見ると、完全に透明ではなく、わずかに白色などに見えることもある。そのような色は、非常に薄いので、記録媒体に単独で印刷した場合に、人が肉眼で発色したとは認識できない。なお、処理液の種類によっては、記録媒体に単独で印刷した場合に、記録媒体に光沢が生じるなどの変化があることもあるが、そのような状態は、発色ではない。
【0029】
本実施形態では、前処理液及び後処理液は、ワークWの略全面に吐出してもよいし、前処理液及び後処理液は、インクと同様に、印刷する画像に合わせて、選択的に吐出してもよい。
【0030】
続いて、前処理液及び後処理液を選択的に吐出する場合について説明する。上述したように、画像に合わせて色を印刷する部分のワークWには、前処理液、インク、後処理液の順で吐出される。この場合、インクは、一色であったり、複数の色であったりする。色を印刷しない部分、すなわち、インクが吐出されない部分には、基本的には前処理液及び後処理液も吐出されない。なお、印刷する画像の画質や、ワークWの風合いなどを調整するために、前処理液及び後処理液の吐出の選択の一部を、インクの吐出と異ならせてもよい。
【0031】
ヘッド支持フレーム31の各ヘッドの配置箇所には、開口31H(図3)がそれぞれ設けられている。インクヘッド4A~4F、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6は、各々の開口31Hに嵌め込まれるように、ヘッド支持フレーム31に組み付けられている。各開口31Hからは、各ヘッド4、5、6の下端面に配置されているノズルがそれぞれ露出している。
【0032】
サブタンク7は、図略の保持フレームを介して、ヘッド4、5、6の上方側においてキャリッジ3に支持されている。サブタンク7は、ヘッド4、5、6の各々に対応して設けられる。各サブタンク7には、図略のインク及び処理液が収容されているカートリッジ又はメインタンクから、インク又は処理液が供給される。各サブタンク7は、前記インク又は処理液をヘッド4、5、6の各々に供給する。各サブタンク7とヘッド4、5、6とは、図3では図略の管路によって接続される。
【0033】
以上の通り、本実施形態に係るインクジェット式プリンター1は、インクヘッド4、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6の3種類のヘッドが、一つのキャリッジ3に搭載されたオールインワン型のプリンターである。このインクジェット式プリンター1によれば、例えばデジタル捺染印刷における、生地にインクジェット印刷を行う印捺工程において、前処理液の吐出工程及び後処理液の吐出工程を一体的に実行させることができる。従って、捺染工程の簡素化、捺染装置のコンパクト化を図ることができる。
【0034】
[印刷方式]
続いて、本実施形態に係るインクジェット式プリンター1が実行する印刷方式について説明する。インクジェット式プリンター1は、シリアル印刷方式でワークWに対して印刷処理を行う。図4は、前記シリアル印刷方式を示す模式図である。図4では、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6を省いて簡略的にキャリッジ3を描いている。
【0035】
ワークWが幅広のサイズを有するものである場合、当該ワークWを連続的に送りながら印刷を行うことはできない。シリアル印刷方式は、各色のインクヘッド4を搭載したキャリッジ3の主走査方向Sへの往復移動と、ワークWの搬送方向Fへの間欠送りとを繰り返す印刷方式である。ここでは、インクヘッド4が搬送方向Fに所定の印刷幅Pwを持つものとする。印刷幅Pwは、インクヘッド4のインク吐出用ノズルの配列範囲に略等しい。なお、図4及び次で説明する図5A図5Bでは、各ヘッドの搬送方向Fの幅と、印刷幅Pwを略等しく描いている。実際は、印刷幅Pw及び吐出用ノズルの配列範囲よりも、各ヘッドの搬送方向Fの幅の方が大きい。
【0036】
図4では、キャリッジ3が主走査方向Sにおける往路方向SAに移動し、印刷幅Pwの帯状画像G1の印刷が完了している状態を示している。この往路方向SAの主走査の際、ワークWの送りは停止される。帯状画像G1の印刷後、ワークWは印刷幅Pwに相当するピッチだけ搬送方向Fに送り出される。この際、キャリッジ3は、左端側の折り返しエリア14で待機する。ワークWの送り出し後、キャリッジ3はタイミングベルト16の反転移動に伴って、復路方向SBに折り返す。ワークWは停止状態である。そして、図4に示すように、キャリッジ3は復路方向SBに移動しつつ、帯状画像G1の上流側に、印刷幅Pwを持つ帯状画像G2を印刷する。以下、同様の動作が繰り返される。
【0037】
図5A及び図5Bは、キャリッジ3の往路及び復路での印刷状況を示す模式図である。ここでは、キャリッジ3に搭載されるインクヘッド4、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6を簡略的に示している。インクヘッド4は、互いに異なる第1色、第2色、第3色、第4色のインク吐出用の第1、第2、第3、第4インクヘッド4A、4B、4C、4Dを備え、これら第1~第4インクヘッド4A~4Dが主走査方向Sに一列に並んでいる。インクヘッド4の搬送方向Fの上流側に前処理ヘッド5が、下流側に後処理ヘッド6が各々配置されている。また、図4で説明した場合と同様に、往路の印刷と復路の印刷との間に、ワークWは搬送方向Fに送り出される。この際の搬送方向Fの移動距離は、搬送方向Fにおいて隣接するヘッド同士の間隔ピッチ(ヘッドピッチ)である。また、この移動距離は、各ヘッド4、5、6の印刷幅Pwでもある。
【0038】
図5Aは、キャリッジ3が主走査方向Sにおける往路方向SAに移動しながら、印刷動作を行っている状態(往路主走査)を示している。ワークW上の領域A4は、キャリッジ3の最上流側に搭載されている前処理ヘッド5が対峙する領域である。今回の往路主走査では、領域A4上には、前処理ヘッド5から吐出された前処理液によって、前処理層Lpreが形成される。
【0039】
領域A3は、領域A4よりも1ヘッドピッチ分だけ下流側の領域であって、インクヘッド4が対峙する領域である。領域A3上には、前回の復路主走査によって、前処理層Lpreが主走査方向の全長に亘って既に形成されている。今回の往路主走査では、領域A3の前処理層Lpre上には、第1~第4インクヘッド4A~4Dの並び順に順次吐出される第1色~第4色のインクによって、第1、第2、第3、第4インク層LCA、LCB、LCC、LCDが形成される。なお、図5Aでは、理解を容易とするために第4~第1インク層LCD~LCAが順次積層されるように図示しているのであって、実際は積層されるわけではない。なお、前述の前処理層Lpre及び後述の後処理層Lposについても、ワークW上に形成されるわけではない。
【0040】
領域A2は、領域A3よりも1ヘッドピッチ分だけ下流側の領域であって、キャリッジ3の最下流側に搭載されている後処理ヘッド6が対峙する領域である。領域A2上には、前回の往路主走査による前処理層Lpreと、前回の復路主走査による第1~第4インク層LCA~LCDとが、主走査方向の全長に亘って既に形成されている。今回の往路主走査では、領域A2の第1~第4インク層LCA~LCD上に、後処理ヘッド6から吐出された後処理液によって、後処理層Lposが形成される。
【0041】
領域A1は、領域A2よりも1ヘッドピッチ分だけ下流側の領域であって、キャリッジ3が通過し、印刷処理が完了した領域である。すなわち、領域A1には、前処理層Lpre、第1~第4インク層LCA~LCD及び後処理層Lposが、主走査方向の全長に亘って形成されている。
【0042】
図5Bは、図5Aの往路主走査を終えたあと、キャリッジ3が折り返して復路方向SBに移動しながら、復路主走査を行っている状態を示している。前記折り返しの移動の前に、ワークWは1ヘッドピッチ分だけ搬送方向Fに送り出されている。ワークW上の領域A5は、領域A4よりも1ヘッドピッチ分だけ上流側の領域であって、今回の復路主走査では、前処理ヘッド5が対峙する領域である。領域A5上には、前処理ヘッド5から吐出された前処理液によって、前処理層Lpreが形成される。
【0043】
領域A4、領域A3には、それぞれ第1~第4インク層LCA~LCD、後処理層Lposが、既存の層上に形成される。具体的には、領域A4においては、前処理層Lpre上に第1~第4インク層LCA~LCDが形成される。領域A3においては、第1~第4インク層LCA~LCDの上に後処理層Lposが形成される。領域A2は、領域A1に続いて、印刷処理が完了した領域となる。
【0044】
上述のような往路主走査及び復路主走査の双方において印刷処理が可能となるのは、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6を、インクヘッド4に対して搬送方向Fにシフトして配置しているからである。仮に、キャリッジ3において、前処理ヘッド5、インクヘッド4及び後処理ヘッド6が、この順で主走査方向Sに一列に並んでいる場合、前処理液及び後処理液を望ましい着弾順にできる印刷処理は、往路又は復路主走査の一方でしか実現できない。双方向での印刷処理を可能とするには、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6のペアを、インクヘッド4の配列体の両サイドにそれぞれ配置せねばならない。この場合、キャリッジ3の主走査方向Sの幅が大型化してしまう。このような配置は本実施形態では不要となるので、キャリッジ3の主走査方向Sの幅を小型化することができる。
【0045】
なお、インクヘッド4の列を複数列にすれば、ワークWに着弾させるインク量を多くすることができる。例えば、インクヘッド4の列が2列ある場合、次のように印刷できる。1列目のインクヘッド4によって、上述のように第1~第4インク層LCA~LCDを形成した後、ワークWを1ヘッドピッチ分だけ搬送方向Fに搬送し、2列目のインクヘッド4によって、第1~第4インク層LCA~LCDを形成する。このようにすることで、ワークWに2層分の量のインクを印刷することができる。
【0046】
図6は、本実施形態に係るキャリッジ3上のヘッド配置を概略的に示す平面図であって、図3に示すキャリッジ3におけるインクヘッド4、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6(複数の処理ヘッド)の配置を示した図でもある。既述の通り、キャリッジ3には、互いに異なる6色のインクを各々吐出する第1~第6インクヘッド4A~4F、前処理ヘッド5及び後処理ヘッド6が搭載されている。各色のインクヘッド4A~4F、前処理ヘッド5および後処理ヘッド6はそれぞれ1個備えられている。インクヘッド4を構成する第1~第6インクヘッド4A~4Fの群は、キャリッジ3の搬送方向Fの中央領域において主走査方向Sに並ぶように配列されている。また、主走査方向Sに沿って見た場合、前処理ヘッド5の搬送方向Fの下流側端部は、インクヘッド4の搬送方向Fの上流側端部に重なるように(オーバーラップして)配置されている。同様に、主走査方向Sに沿って見た場合、インクヘッド4の搬送方向Fの下流側端部は、後処理ヘッド6の搬送方向Fの上流側端部に重なるように配置されている。
【0047】
なお、特に説明しない限り、図6を含む各図では、主走査方向Sにおいて隣接するヘッド同士の間隔(各ヘッドの中心同士の間隔)は互いに同じである。同様に、搬送方向Fにおいて隣接するヘッド同士の間隔(各ヘッドの中心同士の間隔)は互いに同じである。
【0048】
図6では、各ヘッドの外観形状の内側に、ヘッドの下面部に配置されたノズル領域が模式的に破線で図示されている。ノズル領域は、各ヘッドの下面部に配置された、印刷を行う際に液体を吐出するノズルによって画定される領域である。各ヘッドでは、当該ノズル領域に、複数のノズルが主走査方向Sおよび搬送方向Fに沿って並んで形成されている。
【0049】
そして、第1インクヘッド4A~第6インクヘッド4Fのノズル領域の搬送方向Fの上流側端部および下流側端部は、搬送方向Fにおいて互いに同じ位置に配置されている。また、第1インクヘッド4A~第6インクヘッド4Fのノズル領域の搬送方向Fの上流側端部は、前処理ヘッド5のノズル領域の搬送方向Fの下流側端部に対して、搬送方向Fにおいて連続して配置されている(接している、隣り合っている)。また、後処理ヘッド6のノズル領域の搬送方向Fの上流側端部は、第1インクヘッド4A~第6インクヘッド4Fのノズル領域の搬送方向Fの下流側端部に対して、搬送方向Fにおいて連続して配置されている。
【0050】
各ノズルの配置領域は、インクおよび各処理液が解像度の単位で隣り合って着弾するように配置されている。したがって、前処理液の着弾領域と第1インクヘッド4A~第6インクヘッド4Fのインクの着弾領域とは前処理・インクヘッド境界線L1において連続(隣接)しており、第1インクヘッド4A~第6インクヘッド4Fのノズル領域のインクの着弾領域と後処理液の着弾領域とはインク・後処理ヘッド境界線L2において連続している。
【0051】
図7は、本実施形態に係るインクジェット式プリンター1のブロック図である。インクジェット式プリンター1は、当該インクジェット式プリンター1の各部の動作を統括的に制御する制御部90と、キャリッジ駆動部3Sと、I/F91と、画像メモリ92とを更に備える。制御部90は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。また、制御部90には、前述の第1モーターM1および第2モーターM2、インクヘッド4、前処理ヘッド5および後処理ヘッド6に加え、キャリッジ駆動部3S、I/F91、画像メモリ92などが電気的に接続されている。キャリッジ駆動部3Sは、キャリッジ3を主走査方向Sに沿って往復移動させるためにタイミングベルト16を周回させる不図示のモーターなどを含む。
【0052】
画像メモリ92は、例えばパーソナルコンピューターなどの外部機器から与えられる印刷用画像データを一時的に記憶する。
【0053】
I/F91は、外部機器とのデータ通信を実現させるためのインターフェイス回路であり、例えばインクジェット式プリンター1と外部機器とを接続するネットワークの通信プロトコルに従った通信信号を作成すると共に、ネットワーク側からの通信信号をインクジェット式プリンター1が処理可能な形式のデータに変換する。パーソナルコンピューター等から送信される印刷指示信号はI/F91を介して制御部90に与えられ、また画像データは、I/F91を介して画像メモリ92に記憶される。
【0054】
制御部90は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部901、吐出制御部902、吐出パターン指定部903および記憶部904を備えるように機能する。
【0055】
駆動制御部901は、ワーク搬送部20の第1モーターM1および第2モーターM2を制御することで、ワークWの搬送動作を制御する。また、駆動制御部901は、キャリッジ駆動部3Sを制御することで、キャリッジ3の主走査方向Sに沿った往復移動を制御する。
【0056】
吐出制御部902は、インクヘッド4、前処理ヘッド5および後処理ヘッド6に所定の指令信号を入力し、各色のインク、前処理液および後処理液の吐出動作を制御する。
【0057】
吐出パターン指定部903は、I/F91または画像メモリ92から受け付ける画像情報に応じて、ワークW上の所定の位置にインクを着弾させるために、各ヘッドの吐出パターンを指定する。より詳しくは、吐出パターン指定部903は、各色のインクヘッド4におけるインクの吐出量(吐出パターン)を指定し、当該吐出量およびその吐出タイミングに対応する信号を吐出制御部902に入力する。吐出パターン指定部903は、前処理液を吐出する前処理ヘッド5および後処理液を吐出する後処理ヘッド6についても、上記と同様の制御を行う。
【0058】
記憶部904は、制御部90の駆動制御部901、吐出制御部902および吐出パターン指定部903によって参照される各種の閾値、パラメータなどを予め記憶している。
【0059】
なお、制御部90の構造は上記の態様に限定されるものではなく、装置およびプログラムの構造などによって上記とは異なる態様でもよい。換言すれば、上記の駆動制御部901、吐出制御部902、吐出パターン指定部903および記憶部904の各機能は、制御部90が実行するということができる。
【0060】
<各処理液およびインクの吐出について>
図6に示すように、本実施形態におけるヘッド配置では、搬送方向Fにおいてインクヘッド4の上流側に1個の前処理ヘッド5が、下流側に1個の後処理ヘッド6が各々配置されている。すなわち、前処理液、インク及び後処理液の吐出用ヘッドの3種類のヘッドを、一つのキャリッジ3に搭載したオールインワン型のインクジェット式プリンター1を提供することができる。また、前処理ヘッド5、インクヘッド4及び後処理ヘッド6が順次搬送方向Fに配置されているので、往路主走査及び復路主走査の双方において、前処理液、インク及び後処理液を望ましい着弾順となるように吐出できる。
【0061】
以上のように、本実施形態では、インクジェット式プリンター1が、ワークWを所定の搬送方向Fに搬送するワーク搬送部20と、搬送方向Fと交差する主走査方向Sに沿って往復移動するキャリッジ3と、キャリッジ3に搭載され非発色性の前処理液を吐出する前処理ヘッド5と、キャリッジ3に搭載されインクを吐出するインクヘッド4と、キャリッジ3に搭載され非発色性の後処理液を吐出する後処理ヘッド6とを備えている。キャリッジ3の主走査方向Sにおける移動に応じて吐出制御部902が各ヘッドの吐出を制御する際に、主走査方向Sに沿ったキャリッジ3の第1の移動に伴って前処理ヘッド5がワークW上の所定の記録領域(画素)に前処理液を吐出したのち、ワーク搬送部20がワークWを搬送方向F(図6)に所定のピッチで搬送し、更に、主走査方向Sに沿ったキャリッジ3の第2の移動に伴ってインクヘッド4が前記記録領域にインクを吐出したのち、ワーク搬送部20がワークWを搬送方向Fに更に搬送し、主走査方向Sに沿ったキャリッジ3の第3の移動に伴って後処理ヘッド6が前記記録領域に後処理液を吐出することで、前記記録領域に前処理液、インクおよび後処理液を含むインク画像を形成する。このため、本実施形態では、前処理ヘッド5、インクヘッド4および後処理ヘッド6が、搬送方向Fにおいて互いにずれて配置されている(図6)。このため、前処理液、インクおよび後処理液をこの順序で確実かつ安定してワークWに塗布することができる。この結果、ワークW上に高品質の印刷を確実に実現することができる。なお、一例として、上記のキャリッジ3の第1の移動は、主走査方向Sにおける一方の方向(図6の右から左)であり、前記第2の移動は、主走査方向Sにおける他方の方向(図6の左から右)であり、前記第3の移動は、主走査方向Sにおける前記一方の方向である。
【0062】
すなわち、本実施形態では、ワークW上の所定領域に対して前処理ヘッド5が主走査方向Sに沿って移動しながら前処理液を吐出するときのキャリッジ3の移動を第1走査、前記所定領域に対してインクヘッド4が主走査方向Sに沿って移動しながらインクを吐出するときのキャリッジ3の移動を第2走査、前記所定領域に対して後処理ヘッド6が主走査方向Sに沿って移動しながら後処理液を吐出するときのキャリッジ3の移動を第3走査とすると、前記第1走査、前記第2走査および前記第3走査は、互いに異なる走査であり、前記第1走査、前記第2走査および前記第3走査が、各々少なくとも1回この順序で行われる。この結果、前処理液、インクおよび後処理液を、この順序で更に確実にワークWに塗布することができる。なお、前記ワークW上の所定領域とは、1回の走査で印刷される領域と同等以下の領域である。
【0063】
なお、本開示は、本実施形態のように1列のインクヘッド4が主走査方向Sに沿って配列される態様に限定されるものではなく、搬送方向Fに2列以上のインクヘッド4が配置され、各列のインクヘッド4が主走査方向Sに沿って配置される態様でもよい。また、インクヘッド4は、複数の色の画像を形成するものに限定されるものではなく、単色のインクを吐出する1つのインクヘッド4がキャリッジ3に搭載されてもよい。この場合も、前処理ヘッド5、インクヘッド4および後処理ヘッド6がこの順で搬送方向にずれて配置されればよい。
【0064】
更に、本実施形態では、キャリッジ3は、ガイドレール17(保持部材)によって片持ち状態で保持されるバックフレーム32(係合部)を有する。キャリッジ3をタイミングベルト16に片持ち支持させることにより、構造を簡略化できる。また、片持ち支持させることにより、容易に当該キャリッジ3の下流側を開放させた構造とすることができ、インクヘッド4及び処理ヘッド5、6のメンテナンスを行い易くすることができる。
【0065】
このように片持ち支持されるキャリッジ3において、前処理ヘッド5はヘッド支持フレーム31の基端側311(係合部に近い側)に、後処理ヘッド6は先端側312(係合部から遠い側)に、それぞれ配置されている。タイミングベルト16に固定されるバックフレーム32に近い基端側311と異なり、自由端である先端側312では位置精度が低下することが想定される。しかし、先端側312には、比較的吐出精度に高度なシビアさを求められない後処理ヘッド6が搭載されている。後処理液は、ワークW上に印画されたインク画像上をコーティングするものであるため、着弾位置ズレが生じたとしても、前処理液に同程度の着弾位置ズレが生じるよりは、画像品質に与える相対的な影響度を小さくできる。従って、片持ち支持されるキャリッジ3を使用する場合でも、画像の品質低下を起こしに難くできる。
【0066】
<キャリッジの走査における課題>
図10は、キャリッジ3の移動とともにワークWの表面上にインク4Mが着弾する様子を示す模式図である。ワークWが織物や編物等の生地からなる場合や、紙繊維から構成される用紙である場合、その表面にはさまざまな凹凸が存在する。生地の場合には、織り工程や編み工程によって生じる表面のうねりや、糸の太さや撚り方に応じて隣接する糸同士の間に凹凸が存在する。一般的に、これらの凹凸形状は、数十ミクロン程度のインクドット径よりも大きく、そうでないとしても、インクドット径に対して無視できない大きさである。また、用紙の場合には、表面上の紙繊維のランダムな分布によって、微小な凹凸が存在し、用紙の種類によっては、凹凸がインクドット径に対して無視できない大きさのものもある。換言すれば、生地やある種の用紙などの記録媒体は、その表面上に、吐出されるインクのドット径に対して無視できない大きさの周期の凹凸形状を有していることがある。
【0067】
図10において、不図示のキャリッジの移動によって、インクヘッド4が紙面右から左に向かう主走査方向S1に移動しながらインク4Mを吐出する場合、インクヘッド4の移動速度とインク4Mの吐出速度とが合わさることで、図10の矢印で示すような方向に沿って、各インク4Mが傾斜しながらワークW上に着弾する。この際、たとえばワークW上に、それぞれ傾斜した第1面K1と第2面K2とが交互に存在するような凹凸形状があるとすると、図10に示すように、インク4Mの吐出方向に対して平行に近い第1面K1では、単位面積当たりのインク4Mの着弾量(塗布量)が相対的に少なくなる一方、インク4Mの吐出方向に対して垂直に近い第2面K2では、単位面積当たりのインク4Mの着弾量が相対的に多くなる。このような現象は、第1面K1では同じ量のインク4Mが着弾する面積が、第2面K2よりも大きくなるためである。
【0068】
更に、上記のようなインク4Mの着弾に先立って、前処理ヘッド5が図10の主走査方向S1に移動しながら前処理液を吐出する場合、第1面K1では単位面積当たりの前処理液の着弾量が相対的に少なくなる一方、第2面K2では単位面積当たりの前処理液の着弾量が相対的に多くなる。この結果、第1面K1では少ない量の前処理液に少ない量のインクが着弾する一方、第2面K2では多い量の前処理液に多い量のインクが着弾することになる。
【0069】
前述のように、前処理液はワークWの表面におけるインクの定着性を高める機能を有している。たとえば、使用するインクの浸透性が高い場合には、その浸透を抑制し、表面で凝固させる(定着するインク量を増やす)ように、前処理液が作用する。また、使用するインクの浸透性が低い場合には、インクを表面で留めるように、前処理液が作用する。このように、使用するインクの特性に応じて前処理液の特性は異なるが、いずれの場合においても、前処理液は、ワークWの表面におけるインクの定着性を高める機能を発現する。
【0070】
そして、前処理液がこのような機能を有しており、図10の第1面K1において前処理液およびインクの両方が少ない場合には、表面に定着するインク量が少なくなり、ワークW上の濃度が相対的に低くなる。この結果、前処理液およびインクの両方が多い第2面K2との間で、相対的な濃度差が顕著となり、ワークW上に濃度ムラが発生する。
【0071】
同様に、図10のようなインク4Mの着弾のあとに、後処理ヘッド6が図10の主走査方向S1に移動しながら後処理液を吐出する場合、第1面K1では単位面積当たりの後処理液の着弾量が相対的に少なくなる一方、第2面K2では単位面積当たりの後処理液の着弾量が相対的に多くなる。この結果、第1面K1では少ない量のインクに少ない量の後処理液が着弾する一方、第2面K2では多い量のインクに多い量の後処理液が着弾することになる。
【0072】
後処理液が、ワークW上に印画されたインク画像の定着性や堅牢性(擦れや削れに対する耐性、耐擦過性)を高める機能を有する場合、第1面K1においてインクおよび後処理液の両方が少ないと、塗布されるインク量が少ない上に耐擦過性が低いため、ワークWへの印字後に長時間経過すると、第2面K2などの他の部分よりも濃度が相対的に低くなり、ワークW上に濃度ムラが発生する。上記のような濃度の低下は、洗濯、擦れ、風雨などによっても増長される。
【0073】
本実施形態では、上記のように各ヘッドの走査方向に起因して各処理液およびインクがいずれも少ない領域といずれも多い領域とが発生し両者の間に濃度差が発生することを解消するために、キャリッジ3上にインクヘッド4、前処理ヘッド5および後処理ヘッド6が好適に配置されるとともに、制御部90が各インクヘッドからの液体の吐出タイミングを好適に制御する。
【0074】
すなわち、本実施形態では、前述のように、前処理ヘッド5が主走査方向Sに沿って移動しながら前処理液を吐出するときのキャリッジ3の移動を第1走査、インクヘッド4が主走査方向Sに沿って移動しながらインクを吐出するときのキャリッジ3の移動を第2走査、後処理ヘッド6が主走査方向Sに沿って移動しながら後処理液を吐出するときのキャリッジ3の移動を第3走査とした場合、互いに連続する前記第1走査と前記第2走査とで、キャリッジ3の移動方向が互いに異なっている。この結果、たとえば、図6の第1面K1には少ない量の前処理液と多い量のインクが塗布される一方、第2面K2には多い量の前処理液と少ない量のインクが塗布される。したがって、前述のように、前処理ヘッド5およびインクヘッド4の走査方向に起因して前処理液およびインクがいずれも少ない領域といずれも多い領域とがワークW上に発生することがなく、両者の間に濃度差が発生することが防止できる。特に、ワークWの表面に存在するインクの量が極端に少ない部分の発生を低減することで、ワークW上のインク量を均一化し、濃度ムラを低減することができる。この結果、ワークWの画像品質を向上することができる。なお、インクヘッド4が2列以上配置されている場合には、前処理ヘッド5の直下流(直後)に位置するインクヘッド4と前処理ヘッド5とが、上記の関係を満たしていればよい。前処理ヘッド5が2列以上配置される場合も同様である。すなわち、互いに連続する、第1走査のうちの1走査と、第2走査のうちの1走査とで、キャリッジ3の移動方向が互いに異なっていればよい。
【0075】
同様に、本実施形態では、互いに連続する前記第2走査と前記第3走査とで、キャリッジ3の移動方向が互いに異なっている。この場合も、図6の第1面K1には少ない量のインクと多い量の後処理液が塗布される一方、第2面K2には多い量のインクと少ない量の後処理液が塗布される。したがって、前述のように、インクヘッド4および後処理ヘッド6の走査方向に起因してインクおよび後処理液がいずれも少ない領域といずれも多い領域とが発生することがなく、両者の間に濃度差が発生することが防止できる。特に、インク量が少なく耐擦過性も低い部分が発生することが低減されるため、長時間経過後の濃度が他の部分よりも極端に低下する部分の発生を低減することができる。この結果、印刷後に長時間経過した際の濃度ムラが低減され、長期に亘って安定した画像を維持し印刷物の品質を向上することができる。なお、インクヘッド4が2列以上配置されている場合には、後処理ヘッド6の直上流(直前)に位置するインクヘッド4と後処理ヘッド6とが、上記の関係を満たしていればよい。後処理ヘッド6が2列以上配置される場合も同様である。すなわち、互いに連続する、第2走査のうちの1走査と、第3走査のうちの1走査とで、キャリッジ3の移動方向が互いに異なっていればよい。
【0076】
図10の例では、ワークWの着弾面が傾斜していることにより、主走査の方向によって、液体の着弾量が変わることを説明した。生地などでは、着弾面が単に傾斜している場合以外にも、凸部や凹部の形状が歪なことにより、主走査の方向によって、液体の着弾量が変わることある。そのような場合にも、前記第1の移動(第1走査)におけるキャリッジ3の走査方向と、前記第2の移動(第2走査)におけるキャリッジ3の走査方向とを逆向きにすることで、上述のように、改善できる。同様に、前記第2の移動におけるキャリッジ3の走査方向と、前記第3の移動(第3走査)におけるキャリッジ3の走査方向とを逆向きにすることで、上述のように、改善できる。
【0077】
更に、図6に示すように、本実施形態では、前処理ヘッド5は前処理ノズル領域5Zを有し、各インクヘッド4はインクノズル領域4Zを有し、後処理ヘッド6は後処理ノズル領域6Zを有している。前処理ノズル領域5Zは、画像形成位置においてワークWに対向するように配置され、キャリッジ3の前記第1の移動に伴って前処理液をそれぞれ吐出する複数の前処理ノズルによって画定される領域である。同様に、インクノズル領域4Zは、画像形成位置においてワークWに対向するように配置され、キャリッジ3の前記第2の移動に伴ってインクをそれぞれ吐出する複数のインクノズルによって画定される領域である。更に、後処理ノズル領域6Zは、画像形成位置においてワークWに対向するように配置され、キャリッジ3の前記第3の移動に伴って後処理液をそれぞれ吐出する複数の後処理ノズルによって画定される領域である。そして、図6において、主走査方向Sに沿って見た場合、前処理ノズル領域5Z、インクノズル領域4Zおよび後処理ノズル領域6Zが互いに重ならないように配置されているとともに、搬送方向Fに沿って連続して(連なるように、隣接して)配置されている。
【0078】
また、本実施形態では、前処理ノズル領域5Z、インクノズル領域4Zおよび後処理ノズル領域6Zのそれぞれの搬送方向Fにおける長さは、ワークWの搬送ピッチの最大値(最大送りピッチ)以上に設定されている。
【0079】
このような構成によれば、ワーク搬送部20がワークWを最大の搬送ピッチで間欠的に搬送した場合であっても、ワークW上に画像の隙間が形成されないため、高品質の画像を短時間で形成することが可能となる。
【0080】
更に、インクノズル領域4Zの搬送方向Fの下流側端部から、後処理ノズル領域6Zの搬送方向Fの下流側端部までの搬送方向Fにおける距離は、インクノズル領域4Zの搬送方向Fにおける長さ以上に設定されていることが望ましい。
【0081】
このような構成によれば、インクを印刷可能なピッチで後処理液を確実に印刷することが可能となるため、後処理液の抜けが生じることなく、高品質の印刷を短時間で実行することが可能となる。なお、この場合、後処理ノズル領域6Zは、図6の範囲よりも、その搬送方向Fの上流側または下流側に長く延びているものでもよい。また、インクヘッド4が複数列ある場合は、搬送方向Fにおいて最も下流側のインクヘッド4におけるインクノズル領域4Zの搬送方向Fの下流側端部から、後処理ノズル領域6Zの搬送方向Fの下流側端部までの搬送方向Fにおける距離が、インクノズル領域4Zの搬送方向Fにおける長さ以上に設定されていればよい。換言すれば、複数列あるインクヘッド4のインクノズル領域4Zを一つのインクノズル領域と見做した場合の搬送方向Fの下流側端部から、後処理ノズル領域6Zの搬送方向Fの下流側端部までの搬送方向Fにおける距離が、インクノズル領域4Zの搬送方向Fにおける長さ以上に設定されていればよい。
【0082】
図6では、前処理ヘッド4と後処理ヘッド6とは、主走査方向Sにおいて、同じ位置に配置されている。そのように配置することで、キャリッジ3の主走査方向Sの長さを短くできる。前処理ヘッド4および後処理ヘッド6の主走査方向Sの位置は、第1~第6インクヘッド4A~4Fに対してどのような位置でも構わない。図6では、前処理ヘッド4および後処理ヘッド6は、主走査方向Sに並んでいる第1~第6インクヘッド4A~4Fの右端に配置されている。そのように右端に配置するか、逆の左端に配置すれば、インクと反応するような前処理液あるいは後処理液を使用する場合に、キャリッジ3に付着したミストが反応して固着することなどを起き難くできる。
【0083】
図8および図9は、本実施形態に係るインクジェット式プリンター1における、ワークW上の前処理液着弾領域とインク着弾領域との関係をそれぞれ示す平面図である。本実施形態では、所定の画像情報に対応して前処理液が着弾する領域がインクの着弾する領域よりも広くなるように、吐出パターン指定部903(制御部90)が前記画像情報に応じて前処理ヘッド5およびインクヘッド4の吐出タイミングを指定する。
【0084】
図8に示すように、ワークW上の広い範囲にインク画像が形成される場合には、予め当該インク画像よりも広い範囲に、前処理液着弾領域5Hが設定され、前処理ヘッド5から吐出された前処理液が着弾する。そして、前記インク画像に対応したインク着弾領域4Hに、インクヘッド4から吐出されたインクが着弾する。一方、図9に示すように、ワークW上に部分的にインク画像が形成される場合であっても、前処理液着弾領域5Hがインク着弾領域4Hよりも広く設定されればよい。このような制御によって、インクが塗布される領域全体に、確実に前処理液を塗布することが可能となるため、前処理液とインクとの作用を安定して発現させることにより、印刷品質を向上することができる。
【0085】
特に、本実施形態では、吐出パターン指定部903(制御部90)は、図8図9に示すように前処理液が着弾する領域5Hが、インクが着弾する領域4Hを周囲から包含するように前処理ヘッド5およびインクヘッド4の吐出タイミングを指定する。この結果、インクが塗布される領域全体に、より確実に前処理液を塗布することが可能となる。
【0086】
なお、インク着弾領域4Hに対して前処理液着弾領域5Hが相対的に広く設定される態様は、上記のように周囲から包含する態様に限定されるものではなく、前処理液着弾領域5Hがインク着弾領域4Hに対して搬送方向Fのみにおいて広く主走査方向Sにおいて同等に、または、前処理液着弾領域5Hがインク着弾領域4Hに対して主走査方向Sのみにおいて広く搬送方向Fにおいて同等に設定されるものでもよい。更に、インク着弾領域4Hがリング状の場合には、前処理液着弾領域5Hはより幅の広いリング状であればよい。また、インクヘッド4および前処理ヘッド5からインクおよび前処理液が吐出されることで形成されるインク着弾領域4Hおよび前処理液着弾領域5Hは、予め印刷パターン(印刷画像情報)を編集することで設定されるものでもよいし、前記印刷パターンに対応して、各ヘッドの吐出タイミングを早くまたは遅く設定するものでもよい。
【0087】
なお、上記のように、インク画像の大きさに関わらず、前処理液をインクよりも広い範囲の全面に印刷する構成では、予めワークW全体を前処理液に浸漬する場合と比較して、前処理液の使用量を低減することも可能となる。
【0088】
また、前述のように前処理液が選択的に印刷される態様では、滲みの抑制が一層必要になるようなインクの印刷パターンに対応して、インクよりも広い範囲に前処理液を印刷する場合がある。この場合、インク着弾領域4Hと前処理液着弾領域5Hとが同じ範囲に設定されると、必要な部分に印刷できないことがあるため、上記のように前処理液の印刷範囲を拡張することが望ましい。
【0089】
更に、本実施形態では、ワークW上の所定の画素に対する前処理液の着弾から後処理液の着弾までの時間が、ワークW全体において0.5(sec)以上10(sec)以下の範囲に含まれるように、ワークWの搬送速度およびキャリッジ3の走査速度が設定されている。
【0090】
このような構成によれば、ワークWの印刷範囲全体において、高い印刷品質を確保することができる。特に、前処理液の着弾から後処理液の着弾までの時間が0.5(sec)未満の場合、発色、風合い、堅牢性などの画像品質が低下しやすい。また、前処理液の着弾から後処理液の着弾までの時間が10(sec)を超える場合、当該時間の下限値と上限値との間での画像品質の差、すなわち、画像品質のばらつきが増大しやすくなる。
【0091】
以上、本開示の一実施形態に係るインクジェット式プリンター1について説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、たとえば以下のような変形実施形態をとることができる。
【0092】
上記の実施形態では、前処理ヘッド5が前処理ノズル領域5Zを有し、各インクヘッド4がインクノズル領域4Zを有し、後処理ヘッド6が後処理ノズル領域6Zを有する構成において、図6のように、主走査方向Sに沿って見た場合、前処理ノズル領域5Z、インクノズル領域4Zおよび後処理ノズル領域6Zが互いに重ならないように配置される態様にて説明した。一方、各ヘッドのノズルが配置される領域は、主走査方向Sに沿って見た場合、互いの端部同士が部分的に重なるように配置されてもよい。この場合、印刷中に吐出制御部902がインクまたは各処理液を吐出するように制御するノズル(実吐出ノズル)が、主走査方向Sに沿って見て、互いに重ならないように制御されることが望ましい。すなわち、本開示において、キャリッジ3の移動(第1の移動、第2の移動、第3の移動)に伴って液体(前処理液、インク、後処理液)をそれぞれ吐出する複数のノズル(前処理ノズル、インクノズル、後処理ノズル)は、印刷中に実際に各液体を吐出するノズルを意味する。
【0093】
すなわち、各ヘッドのノズルでは、予め配設されるすべてのノズルから液体が吐出されるものに限定されず、その一部のノズルから液体が吐出されるように制御されるものでもよい。また、前記前処理ノズル領域、前記インクノズル領域および前記後処理ノズル領域のうちで、搬送方向Fにおける長さが最短のものの長さは、最長のものの長さの半分より長いことが望ましい。このような制御によれば、品質の高い印刷を短時間で実現することができる。なお、各ヘッドにおいて、複数のノズルは少なくとも搬送方向Fに並んで配置されればよく、主走査方向Sに並ぶノズルの数は限定されない。
【0094】
また、インクジェット式プリンター1の制御部90の一部または全部は、インクジェット式プリンター1に印刷画像情報を送信するパーソナルコンピューターなどでもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 インクジェット式プリンター
3 キャリッジ
4 インクヘッド
4H インク着弾領域
4M インク
5 前処理ヘッド
5H 前処理液着弾領域
6 後処理ヘッド
7 サブタンク
10 装置フレーム
12 印刷エリア
13 メンテナンスエリア
14 折り返しエリア
20 ワーク搬送部
90 制御部
901 駆動制御部
902 吐出制御部
903 吐出パターン指定部(吐出条件指定部)
904 記憶部
91 I/F
92 画像メモリ
F 搬送方向
K1 第1面
K2 第2面
L1 前処理・インクヘッド境界線
L2 インク・後処理ヘッド境界線
M1 第1モーター
M2 第2モーター
S 主走査方向
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10