(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125633
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】チップ抵抗器およびチップ抵抗器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20240911BHJP
H01C 17/00 20060101ALI20240911BHJP
H01G 2/10 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H01C7/00 110
H01C17/00 100
H01C7/00 400
H01G2/10 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033573
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 誉
(72)【発明者】
【氏名】本島 勇一
【テーマコード(参考)】
5E032
5E033
【Fターム(参考)】
5E032AB10
5E032BA04
5E032BA15
5E032BB01
5E032CA04
5E032CA11
5E033AA43
5E033BA01
5E033BB02
5E033BC01
5E033BD01
5E033BE02
5E033BF05
5E033BG05
5E033BH02
5E033BH04
(57)【要約】
【課題】表電極の硫化腐食を確実に防止して耐食性に優れたチップ抵抗器を提供する。
【解決手段】本発明のチップ抵抗器1は、直方体形状の絶縁基板2と、絶縁基板2の主面における両端部に設けられた一対の表電極4と、一対の表電極4間を接続する抵抗体3と、絶縁基板2の裏面における両端部に設けられた一対の裏電極6と、一対の表電極4の少なくとも内方側の端部に重なるように設けられた耐硫化性の高い材料からなる一対の保護電極5と、一対の保護電極5の内方側の端部と抵抗体3を覆う無機材料からなる第1絶縁層7と、第1絶縁層7上に設けられた有機材料からなる第2絶縁層8と、絶縁基板2の両端面に延在して表電極3と裏電極6を導通する一対の端面電極9と、一対の端面電極9を覆う外部メッキ層10とを備え、端面電極10は保護電極5の上面から第2絶縁層8の端部に至る範囲に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、
前記絶縁基板の主面における両端部に設けられた一対の表電極と、
一対の前記表電極間を接続するように設けられた抵抗体と、
前記絶縁基板の主面と反対側の裏面における両端部に設けられた一対の裏電極と、
一対の前記表電極の少なくとも内方側の端部に重なるように設けられ、該表電極よりも耐硫化性の高い材料からなる一対の保護電極と、
一対の前記保護電極の内方側の端部と前記抵抗体を覆うように設けられた無機材料からなる第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上に設けられた有機材料からなる第2絶縁層と、
前記絶縁基板の両端面に延在して前記表電極と前記裏電極を導通するように設けられた一対の端面電極と、
一対の前記端面電極を覆うように設けられた外部メッキ層と、
を備え、
前記端面電極は、前記保護電極の上面から前記第2絶縁層の端部に至る範囲に形成されている、ことを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項2】
前記第1絶縁層の両端部は前記第1絶縁層から露出していると共に、前記端面電極は、前記保護電極の上面から前記第1絶縁層の露出側端部を通って前記第2絶縁層の端部まで形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項3】
前記抵抗体は前記絶縁基板の主面上に設けられていると共に、一対の前記表電極は前記抵抗体の両端部に重なるように設けられており、前記保護電極は前記表電極の少なくとも内方側の周面を覆っている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のチップ抵抗器。
【請求項4】
一対の前記表電極は前記絶縁基板の主面上における両端部に設けられていると共に、前記抵抗体は一対の前記表電極の両端部上に重なるように設けられており、前記保護電極は前記表電極に重なる前記抵抗体の両端部を覆っている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のチップ抵抗器。
【請求項5】
前記抵抗体が薄膜形成された抵抗体材料であると共に、前記表電極と前記保護電極が薄膜形成された導電性の金属皮膜である、ことを特徴とする請求項3または4に記載のチップ抵抗器。
【請求項6】
絶縁基板の主面上に抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、
前記抵抗体の両端部に所定間隔を存して一対の表電極を形成する表電極形成工程と、
一対の前記表電極の全体が覆われるように該表電極よりも耐硫化性の高い材料からなる一対の保護電極を形成する保護電極形成工程と、
前記大判基板の主面と反対面に所定間隔を存して一対の裏電極を形成する裏電極形成工程と、
一対の前記保護電極の内方側の端部と前記抵抗体が覆われるように無機材料からなる第1絶縁層を形成する第1絶縁層形成工程と、
前記第1絶縁層の上からレーザー光を照射して前記抵抗体の抵抗値を調整する抵抗値調整工程と、
前記第1絶縁層上に有機材料からなる第2絶縁層を形成する第2絶縁層形成工程と、
前記保護電極と前記裏電極が覆われるように前記絶縁基板の両端面に一対の端面電極を形成する端面電極形成工程と、
一対の前記端面電極が覆われるように外部メッキ層を形成する外部メッキ層形成工程と、
を含み、
前記端面電極工程において、前記端面電極は、前記保護電極の上面から前記第2絶縁層の端部に至る範囲に形成される、ことを特徴とするチップ抵抗器の製造方法。
【請求項7】
前記第2絶縁層形成工程において、前記第2絶縁層が前記第1絶縁層の両端部を露出させた状態で形成されると共に、前記端面電極工程において、前記端面電極が、前記保護電極の上面から前記第1絶縁層の露出側端部を通って前記第2絶縁層の端部まで形成される、ことを特徴とする請求項6に記載のチップ抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ抵抗器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にチップ抵抗器は、直方体形状の絶縁基板と、絶縁基板の表面に所定間隔を存して対向配置された一対の表電極と、これら対をなす表電極どうしを橋絡する抵抗体と、抵抗体を覆う2層構造の保護膜(ガラス層と絶縁樹脂層)と、絶縁基板の裏面に所定間隔を存して対向配置された一対の裏電極と、表電極と裏電極を導通する一対の端面電極と、これら各電極を覆う一対の外部メッキ層等によって主に構成されている。
【0003】
この種のチップ抵抗器において、通常、表電極には比抵抗の低いAg(銀)系の金属材料が用いられており、この表電極を順次覆うように端面電極と外部メッキ層が形成された構成となっているが、外部メッキ層と保護膜の境界部分となる隙間から腐食性の強い硫化ガス等が侵入し易いため、表電極と保護膜の境界位置における表電極部分が硫化ガス等によって腐食されて抵抗値変化や断線等の不具合を招来する虞がある。
【0004】
そこで、保護膜の絶縁樹脂層と表電極の双方に接続する導電性の保護電極を形成し、端面電極を表電極と保護電極に跨るように形成すると共に、外部メッキ層を保護電極と端面電極の境界位置を超えて絶縁樹脂層の端部まで覆うように形成することにより、耐硫化性の向上を図るようにしたチップ抵抗器が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示されたチップ抵抗器は、保護膜を構成する2層構造のガラス層と絶縁樹脂層のうち、上層の絶縁樹脂層と表電極とに跨るように保護電極を形成し、この保護電極を介して表電極の上に外部メッキ層が形成されているため、保護電極によって絶縁保護層の表面との間の境界面の長さが長くなり、硫化ガスが絶縁保護層と外部メッキ層との境界面から表電極に到達するのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたチップ抵抗器では、絶縁樹脂層がガラス層の全体と表電極の一部を覆うように形成されており、この絶縁樹脂層と表電極に跨るように保護電極が形成されているため、絶縁樹脂層の内部に硫化ガスが侵入しても、ガラス層の真下の表電極まで硫化ガスが到達しないように阻止される。しかし、絶縁樹脂層がガラス層の端部を覆って表電極に接触している構造であるため、絶縁樹脂層の内部に硫化ガスが侵入すると、その硫化ガスがガラス層の外側を通って表電極に到達してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、第1の目的は、表電極の硫化腐食を確実に防止して耐食性に優れたチップ抵抗器を提供することにあり、第2の目的は、そのようなチップ抵抗器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の目的を達成するための一形態として、本発明のチップ抵抗器は、直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における両端部に設けられた一対の表電極と、一対の前記表電極間を接続するように設けられた抵抗体と、前記絶縁基板の主面と反対側の裏面における両端部に設けられた一対の裏電極と、一対の前記表電極の少なくとも内方側の端部に重なるように設けられ、該表電極よりも耐硫化性の高い材料からなる一対の保護電極と、一対の前記保護電極の内方側の端部と前記抵抗体を覆うように設けられた無機材料からなる第1絶縁層と、前記第1絶縁層上に設けられた有機材料からなる第2絶縁層と、前記絶縁基板の両端面に延在して前記表電極と前記裏電極を導通するように設けられた一対の端面電極と、一対の前記端面電極を覆うように設けられた外部メッキ層と、を備え、前記端面電極は、前記保護電極の上面から前記第2絶縁層の端部に至る範囲に形成されている、ことを特徴としている。
【0010】
また、上記第2の目的を達成するための一形態として、本発明によるチップ抵抗器の製造方法は、絶縁基板の主面上に抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、前記抵抗体の両端部に所定間隔を存して一対の表電極を形成する表電極形成工程と、一対の前記表電極の全体が覆われるように該表電極よりも耐硫化性の高い材料からなる一対の保護電極を形成する保護電極形成工程と、前記大判基板の主面と反対面に所定間隔を存して一対の裏電極を形成する裏電極形成工程と、一対の前記保護電極の内方側の端部と前記抵抗体が覆われるように無機材料からなる第1絶縁層を形成する第1絶縁層形成工程と、前記第1絶縁層の上からレーザー光を照射して前記抵抗体の抵抗値を調整する抵抗値調整工程と、前記第1絶縁層上に有機材料からなる第2絶縁層を形成する第2絶縁層形成工程と、前記保護電極と前記裏電極が覆われるように前記絶縁基板の両端面に一対の端面電極を形成する端面電極形成工程と、一対の前記端面電極が覆われるように外部メッキ層を形成する外部メッキ層形成工程と、を含み、前記端面電極工程において、前記端面電極は、前記保護電極の上面から前記第2絶縁層の端部に至る範囲に形成される、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表電極の硫化腐食を確実に防止して耐食性に優れたチップ抵抗器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るチップ抵抗器の断面図である。
【
図3】該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
【
図4】該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
【
図5】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【
図6】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るチップ抵抗器の断面図である。
【
図9】該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
【
図10】該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
【
図11】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【
図12】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明すると、
図1は本発明の第1実施形態に係るチップ抵抗器1の断面図、
図2は
図1のA部拡大図である。
【0014】
図1と
図2に示すように、第1実施形態に係るチップ抵抗器1は、直方体形状の絶縁基板2と、絶縁基板2の主面(表面)上に長手方向に沿って設けられた抵抗体3と、抵抗体3上の長手方向両端部に設けられた一対の表電極4と、これら表電極4を覆うように設けられた一対の保護電極5と、絶縁基板2の下面における長手方向両端部に設けられた一対の裏電極6と、抵抗体3の上面と一対の保護電極5の内方側の端部を覆うように設けられた第1絶縁層7と、第1絶縁層7の両端部を除く上面を覆うように設けられた第2絶縁層8と、絶縁基板2の両端面に延在して対応する表電極4と裏電極6間を導通するように設けられた一対の端面電極9と、これら端面電極9を覆うように設けられた一対の外部メッキ層10と、により主として構成されている。
【0015】
絶縁基板2はセラミックス等からなり、この絶縁基板2は、後述するシート状の大判基板を縦横に延びる一次分割溝と二次分割溝に沿って分割することにより多数個取りされたものである。
【0016】
抵抗体3は、絶縁基板2の主面にNi/Cr等をスパッタリングして形成された薄膜抵抗体であり、フォトリソグラフィ技術を用いてミアンダ形状(蛇行形状)にパターニングされている。後述するように、この抵抗体3には抵抗値を調整するためのトリミング溝13が形成されている。
【0017】
一対の表電極4は、抵抗体3上にCu等の比抵抗の低い金属粒子をスパッタリングして形成された薄膜電極であり、フォトリソグラフィ技術を用いて抵抗体3の両端部に矩形状に形成されている。
【0018】
一対の保護電極5は、表電極4上にNiやNi/CrやPt等の耐硫化性に富んだ金属粒子をスパッタリングして形成された薄膜電極であり、フォトリソグラフィ技術を用いて表電極4を覆うように矩形状に形成されている。
【0019】
一対の裏電極6は、絶縁基板2の下面にCu等の比抵抗の低い金属粒子をスパッタリングして形成された薄膜電極であり、フォトリソグラフィ技術を用いて絶縁基板2の長手方向両端部に矩形状に形成されている。
【0020】
第1絶縁層7は、抵抗体3の上面と保護電極5の内方側端部が覆われるように、CVD法により形成されたSiO2等の無機材料からなる。第2絶縁層8は、第1絶縁層7の両端部を除く上面が覆われるように、スクリーン印刷により形成されたエポキシ樹脂やフェノー樹脂等の有機材料からなる。なお、これら第1絶縁層7と第2絶縁層8によって2層構造の保護層が形成されている。
【0021】
一対の端面電極9は、絶縁基板2の端面に向けてNi/Cr等をスバッタリングすることによって形成されたものであり、これら端面電極9によって絶縁基板2の端面を介して上下に離間する表電極4と裏電極6間が導通されている。なお、端面電極9は、裏電極6と保護電極5を覆うだけでなく、第2絶縁層8から露出する第1絶縁層7の端部と、第2絶縁層8の湾曲した端部にも被着されている。
【0022】
一対の外部メッキ層10は、それぞれ中間電極11と外部電極12の2層構造からなり、これら外部メッキ層10によって端面電極9が覆われている。内層側の中間電極11は電解めっきによって形成されたNiメッキ層であり、外層側の外部電極12は電解めっきによって形成されたSnメッキ層である。
【0023】
次に、上記の如く構成されたチップ抵抗器1の製造方法について、
図3~
図6を参照しながら説明する。
【0024】
まず、
図3(a)と
図5(a)に示すように、格子状に延びる一次分割溝と二次分割溝が形成された大判基板2Aを準備する。これら一次分割溝と二次分割溝によって大判基板2Aの表裏両面は多数のチップ形成領域に区画され、各チップ形成領域がそれぞれ1個分の絶縁基板2となる。
図3(a)と
図5(a)には1つのチップ形成領域が代表的に示されているが、実際には、このようなチップ形成領域が格子状に多数配列されている。
【0025】
次に、
図3(b)と
図5(b)に示すように、大判基板2Aの表面における各チップ形成領域にNi/Crをスパッタリングして薄膜抵抗体3Aを形成する。
【0026】
次に、
図3(c)と
図5(c)に示すように、薄膜抵抗体3Aの表面にCuをスパッタリングして薄膜表電極4Aを形成する。
【0027】
次に、フォトリソグラフィ技術により薄膜表電極4Aをパターニングすることにより、
図3(d)と
図5(d)に示すように、薄膜抵抗体3Aの両端部に矩形状をなす一対の表電極4を形成する。
【0028】
次に、フォトリソグラフィ技術により薄膜抵抗体3Aをパターニングすることにより、
図3(e)と
図5(e)に示すように、ミアンダ形状の抵抗体3を形成する。この抵抗体3には、複数の開口を短手方向に沿って配列させた抵抗値調整部3aが形成されており、後述する工程で各開口間を繋ぐ部分を切断することにより、抵抗体3の抵抗値が目標抵抗値に設定されるようになっている。
【0029】
次に、一対の表電極4を不図示のマスキング材で包囲した状態で大判基板2Aの上方からNiをスパッタリングすることにより、
図3(f)と
図5(f)に示すように、表電極4の上面だけでなく3つの端面を全て覆う保護電極5を形成する。また、これに前後して、大判基板2Aの裏面に不図示のマスキング材で包囲した状態でCuをスパッタリングすることにより、大判基板2Aの裏面における各チップ形成領域の長手方向両端部に一対の裏電極6を形成する。
【0030】
次に、大判基板2Aの表面側にCVD法によりSiO
2膜を形成した後、これをフォトリソグラフィ技術によりパターニングすることにより、
図4(g)と
図6(g)に示すように、抵抗体3の上面と保護電極5の内方側端部を覆う第1絶縁層7を形成する。
【0031】
しかる後、第1絶縁層7の上から抵抗体3に対してレーザー光を照射し、このレーザー光を抵抗値調整部3aに沿って走査することにより、
図4(h)と
図6(h)に示すように、第1絶縁層7と抵抗体3に直線状に延びるトリミング溝13を形成する。このトリミング溝13を延ばして抵抗値調整部3aの開口間を繋ぐ部分が順次切断されていくと、抵抗体3の抵抗値が段階的に切り上げられて目標抵抗値に設定される。
【0032】
次に、第1絶縁層7の上からエポキシやフェノール等の樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化(焼付け)することにより、
図4(i)と
図6(i)に示すように、第1絶縁層7の両端部を除く上面を覆う第2絶縁層8を形成する。
【0033】
これまでの工程は大判基板2Aに対する一括処理であるが、次なる工程では、大判基板2Aを一次分割溝に沿って短冊状に一次分割することにより、チップ形成領域の長手方向を幅寸法とする短冊状基板2Bを得る。
【0034】
そして、この短冊状基板2Bの分割面(端面)に向けてNi/Crをスパッタリングすることにより、
図4(j)と
図6(j)に示すように、短冊状基板2B2の端面を介して上下に離間する表電極4と裏電極6間を導通する一対の端面電極9を形成する。その際、端面電極9は、裏電極6と保護電極5を覆うように断面コ字状に形成され、さらに、第2絶縁層8から露出する第1絶縁層7の端部と、第2絶縁層8の湾曲した端部にも被着される。
【0035】
次に、短冊状基板2Bを二次分割溝に沿って複数のチップ状基板2Cに2次分割した後、これらチップ状基板2Cに対して電解Niめっきを施すことにより、
図4(k)と
図6(k)に示すように、端面電極9を被覆する中間電極11を形成する。
【0036】
しかる後、チップ状基板2Cに対して電解Snめっきを施すことにより、
図4(l)と
図6(l)に示すように、中間電極11を被覆する外部電極12を形成する。これにより、Niメッキ層とSnメッキ層の2層構造からなる外部メッキ層10が形成され、
図1に示すチップ抵抗器1が完成する。
【0037】
以上説明したように、第1実施形態に係るチップ抵抗器1は、表電極4上に耐硫化性の高い材料からなる保護電極5が形成されており、端面電極9がこの保護電極5の上面から第2絶縁層8の端部に至る範囲まで形成されているため、端面電極9と第2絶縁層8の境界面から硫化ガスが侵入したとしても、その硫化ガスが表電極4に到達してしまうことを保護電極5によって阻止できる。しかも、表電極4と保護電極5の内方側端部が無機材料からなる第1絶縁層7によって覆われているため、第2絶縁層8の内部に硫化ガスが侵入しても、その硫化ガスが表電極4に到達してしまうことを第1絶縁層7によって阻止できる。したがって、表電極4が硫化ガスによって腐食しまうことがなくなり、耐食性に優れたチップ抵抗器1を実現することができる。
【0038】
また、第1実施形態に係るチップ抵抗器1では、無機材料からなる第1絶縁層7の端部を第2絶縁層8から露出させており、第1絶縁層7が第2絶縁層8よりも大きくなる設計としているため、第2絶縁層8の内部を透過して侵入する硫化ガスに起因する表電極4の腐食を確実に防止することができる。すなわち、エポキシ樹脂等の有機材料からなる第2絶縁層8の端部は、膜厚が薄くて硫化ガスが侵入する経路の短い部分となっているが、当該部分の真下に無機材料からなる第1絶縁層7の露出側端部が延在しているため、第2絶縁層8の端部から侵入した硫化ガスは第1絶縁層7の露出側端部で阻止されて保護電極5まで到達せず、保護電極5で覆われた表電極4に硫化ガスが接触することを確実に防止できる。
【0039】
また、第1実施形態に係るチップ抵抗器1は、絶縁基板2上にNi/Cr等の金属薄膜を抵抗体3として形成したものであり、抵抗温度係数(TCR)や抵抗値変化率等に優れた薄膜チップ抵抗器となっている。そして、抵抗体3上の両端部にCu等の比抵抗の低い金属粒子をスパッタリングして一対の表電極4を薄膜形成した後、これら表電極4の上からNi等の硫化し難い金属粒子をスパッタリングして保護電極5を薄膜形成したので、保護電極5が表電極4の上面だけでなく側端面も覆う構造となっている。そのため、保護電極5を構成するNi皮膜等の表面が硫化しても、それ以上の硫化は進行せず、保護電極5に覆われた表電極4の硫化腐食を確実に防止することができる。
【0040】
なお、第1実施形態に係るチップ抵抗器1では、抵抗体3が全長の長いミアンダ形状に形成されているが、抵抗体3は矩矩形等の他の形状であっても良い。
【0041】
次に、本発明を厚膜チップ抵抗器に適用した第2実施形態について説明すると、
図7は第2実施形態に係るチップ抵抗器21の断面図、
図8は
図7のB部拡大図である。
【0042】
図7と
図8に示すように、第2実施形態に係るチップ抵抗器21は、直方体形状の絶縁基板22と、絶縁基板22の主面(表面)における長手方向両端部に設けられた一対の表電極24と、これら表電極24の内方側端部に重なるように設けられた抵抗体23と、表電極24と抵抗体23の両端部とを覆うように設けられた一対の保護電極25と、絶縁基板22の下面における長手方向両端部に設けられた一対の裏電極26と、抵抗体23の上面と一対の保護電極25の内方側端部とを覆うように設けられた第1絶縁層27と、第1絶縁層27の両端部を除く上面を覆うように設けられた第2絶縁層28と、絶縁基板22の両端面に延在して対応する表電極24と裏電極26間を導通するように設けられた一対の端面電極29と、これら端面電極29を覆うように設けられた一対の外部メッキ層30と、により主として構成されている。
【0043】
絶縁基板22はセラミックス等からなり、この絶縁基板22は、後述するシート状の大判基板を縦横に延びる一次分割溝と二次分割溝に沿って分割することにより多数個取りされたものである。
【0044】
一対の表電極24と一対の裏電極26は、AgペーストまたはPdを含有するAg系ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させた厚膜電極である。
【0045】
抵抗体23は、酸化ルテニウム等の抵抗ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させた厚膜抵抗体であり、この抵抗体23の長手方向の両端部は表電極24上に重なっている。また、抵抗体23には抵抗値を調整するためのトリミング溝33が形成されている。
【0046】
一対の保護電極25は、NiやNi/CrやPt等の耐硫化性に富んだ金属粒子を表電極24上にスパッタリングして形成された薄膜電極、または、NiやPt等の耐硫化性に富んだ金属粒子を充填した樹脂ペーストを表電極24上にスクリーン印刷して加熱硬化させた厚膜電極である。これら保護電極25は、表電極4上に重なる抵抗体23の両端部を含めて表電極4の全体を覆うように矩形状に形成されている。
【0047】
第1絶縁層27は、CVD法により形成されたSiO2や、ガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させた無機材料からなり、抵抗体23の上面と一対の保護電極25の内方側端部は第1絶縁層27によって覆われている。第2絶縁層28は、スクリーン印刷により形成されたエポキシ樹脂やフェノー樹脂等の有機材料からなり、第1絶縁層27の両端部を除く上面は第2絶縁層28によって覆われている。なお、これら第1絶縁層27と第2絶縁層28によって2層構造の保護層が形成されている。
【0048】
一対の端面電極29は、絶縁基板22の端面に向けてNi/Cr等をスバッタリングすることによって形成されたものであり、これら端面電極29によって絶縁基板22の端面を介して上下に離間する表電極24と裏電極26間が導通されている。これら端面電極29は、裏電極26と保護電極25を覆うように断面コ字状に形成されており、かつ、第2絶縁層28から露出する第1絶縁層27の端部と、第2絶縁層28の湾曲した端部を覆うように形成されている。
【0049】
一対の外部メッキ層30は、それぞれ中間電極31と外部電極32の2層構造からなり、これら外部メッキ層30によって端面電極29が覆われている。内層側の中間電極31は電解めっきによって形成されたNiメッキ層であり、外層側の外部電極32は電解めっきによって形成されたSnメッキ層である。
【0050】
次に、上記の如く構成されたチップ抵抗器21の製造方法について、
図9~
図12を参照しながら説明する。
【0051】
まず、
図9(a)と
図11(a)に示すように、格子状に延びる一次分割溝と二次分割溝が形成された大判基板22Aを準備する。これら一次分割溝と二次分割溝によって大判基板22Aの表裏両面は多数のチップ形成領域に区画され、これらチップ形成領域がそれぞれ1個分の絶縁基板22となる。
図9(a)と
図11(a)には1つのチップ形成領域が代表的に示されているが、実際には、このようなチップ形成領域が格子状に多数配列されている。
【0052】
そして、大判基板22Aの表面にAgペーストまたはAg-Pdペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、
図9(b)と
図11(b)に示すように、各チップ形成領域の長手方向両端部に所定間隔を存して対向する一対の表電極24を形成する。
【0053】
次に、大判基板2Aの裏面にAgペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、
図9(c)と
図11(c)に示すように、各チップ形成領域の長手方向両端部に所定間隔を存して対向する一対の裏電極26を形成する。なお、表電極24と裏電極26の形成順序は逆であっても良く、表電極24と裏電極26を同時に形成するようにしても良い。
【0054】
次に、大判基板22Aの表面に酸化ルテニウム等を含有した抵抗ペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、
図9(d)と
図11(d)に示すように、両端部を表電極24上に重ね合わせた矩形状の抵抗体23を形成する。
【0055】
次に、Ni等の金属粒子を表電極24上にスパッタリングするか、あるいはNi等の金属粒子を充填した樹脂ペーストを表電極24上にスクリーン印刷して加熱硬化することにより、
図9(e)と
図11(e)に示すように、表電極24を覆う一対の保護電極25を形成する。これにより、抵抗体23との重なり部分を含めた表電極4の全体が耐硫化性に優れた材料からなる保護電極25によって覆われる。
【0056】
次に、大判基板22Aの表面側にCVD法によりSiO
2膜を形成するか、あるいはガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、
図9(f)と
図11(f)に示すように、抵抗体23の上面と保護電極25の内方側端部とを覆う第1絶縁層27を形成する。
【0057】
しかる後、第1絶縁層27の上から抵抗体23に対してレーザー光を照射することにより、
図10(g)と
図12(g)に示すように、第1絶縁層27と抵抗体23に直線状に延びるトリミング溝33を形成する。このトリミング溝33を延ばすことにより、抵抗体3の抵抗値が切り上げられて目標抵抗値に設定される。なお、トリミング溝33の形状は、1本の切込みを直線状に延ばしたシングルカットに限らず、ダブルカットやL字カット等の公知のものを採用可能である。
【0058】
次に、第1絶縁層27の上からエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化(焼付け)することにより、
図10(h)と
図12(h)に示すように、第1絶縁層27の両端部を除く上面を覆う第2絶縁層28を形成する。
【0059】
これまでの工程は大判基板22Aに対する一括処理であるが、次なる工程では、大判基板22Aを一次分割溝に沿って短冊状に一次分割することにより、チップ形成領域の長手方向を幅寸法とする短冊状基板22Bを得る。
【0060】
次に、この短冊状基板22Bの分割面(端面)に向けてNi/Crをスパッタリングすることにより、
図10(i)と
図12(i)に示すように、保護電極25と裏電極26を導通する一対の端面電極29を形成する。その際、端面電極29は、裏電極26と保護電極25を覆うように断面コ字状に形成され、さらに、第2絶縁層28から露出する第1絶縁層27の端部と、第2絶縁層28の湾曲した端部にも被着される。
【0061】
次に、短冊状基板22Bを二次分割溝に沿って複数のチップ状基板22Cに2次分割した後、これらチップ状基板22Cに対して電解Niめっきを施すことにより、
図10(j)と
図12(j)に示すように、端面電極29を被覆する中間電極31を形成する。
【0062】
しかる後、チップ状基板22Cに対して電解Snめっきを施すことにより、
図10(k)と
図12(k)に示すように、中間電極31を被覆する外部電極32を形成する。これにより、Niメッキ層とSnメッキ層の2層構造からなる外部メッキ層30が形成され、
図7に示すチップ抵抗器21が完成する。
【0063】
以上説明したように、第2実施形態に係るチップ抵抗器21は、表電極24上に耐硫化性の高い材料からなる保護電極25が形成されていると共に、この保護電極25が表電極24上に重なる抵抗体23の両端部を覆っており、端面電極29が保護電極25の上面から第2絶縁層28の端部に至る範囲まで形成されているため、端面電極29と第2絶縁層28の境界面から硫化ガスが侵入したとしても、その硫化ガスが表電極24に到達してしまうことを保護電極25によって阻止できる。しかも、表電極24と保護電極25の内方側端部とが無機材料からなる第1絶縁層27によって覆われているため、第2絶縁層28の内部に硫化ガスが侵入しても、その硫化ガスが表電極24に到達してしまうことを第1絶縁層27によって阻止できる。したがって、表電極24が硫化ガスによって腐食しまうことがなくなり、耐食性に優れたチップ抵抗器21を実現することができる。
【0064】
また、第2実施形態に係るチップ抵抗器21では、無機材料からなる第1絶縁層27の端部を第2絶縁層28から露出させており、第1絶縁層27が第2絶縁層28よりも大きくなる設計としているため、第1実施形態に係るチップ抵抗器1と同様に、第2絶縁層28の内部を透過して侵入する硫化ガスに起因する表電極24の腐食を確実に防止することができる。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0066】
例えば、上記実施形態では、表電極4,24の表面全体を覆うように保護電極5,25が形成されているが、絶縁基板2,22の端面と保護電極5,25の外方側端部との間に隙間を確保し、この隙間から表電極4,24の一部が露出するようにしても良い。すなわち、保護電極5,25が表電極4,24の少なくとも内方側の端部に重なっていれば、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0067】
1,21 チップ抵抗器
2,22 絶縁基板
2A,22A 大判基板
2B,22B 短冊状基板
2C,22C チップ状基板
3,23 抵抗体
4,24 表電極
5,25 保護電極
6,26 裏電極
7,27 第1絶縁層
8,28 第2絶縁層
9,29 端面電極
10,30 外部メッキ層
11,31 中間電極31
12,32 外部電極
13,33 トリミング溝