(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125635
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】医療用長尺体および医療用長尺体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/06 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
A61M25/06 550
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033578
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 望
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 祐八
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267AA28
4C267BB06
4C267BB13
4C267BB14
4C267BB52
4C267CC08
4C267CC19
4C267GG05
4C267GG07
4C267GG10
4C267GG22
4C267GG24
(57)【要約】
【課題】好適な押し込み性および追従性を備えるとともに、微粒子発生量を低減できる医療用長尺体を提供する。
【解決手段】医療用長尺体1であって、医療用長尺体を、一対の当接部材91、92によって500gfで挟み込んだ状態で、チューブを100回移動させるときの抵抗値が、全て10gf以下である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用長尺体であって、
前記医療用長尺体を、一対の当接部材によって500gfで挟み込んだ状態で、前記チューブを100回移動させるときの抵抗値が、全て10gf以下である、医療用長尺体。
【請求項2】
前記医療用長尺体がチューブである、請求項1に記載の医療用長尺体。
【請求項3】
前記チューブは、
第1の非潤滑性樹脂が添加された潤滑性樹脂を含む潤滑層と、
前記潤滑層がコートされ、第2の非潤滑性樹脂を含む外層と、を有し、
前記第1の非潤滑性樹脂の前記潤滑性樹脂に対して添加する量の割合は、1/1000~1である、請求項1または2に記載の医療用長尺体。
【請求項4】
下肢用ガイディングカテーテルである、請求項1または2に記載の医療用長尺体。
【請求項5】
前記第1の非潤滑性樹脂は水に溶けない、請求項3に記載の医療用長尺体。
【請求項6】
前記第1の非潤滑性樹脂は、塩化ビニル樹脂またはウレタン樹脂である、請求項3に記載の医療用長尺体。
【請求項7】
前記第2の非潤滑性樹脂は、ポリアミドエラストマーまたはポリアミドである、請求項3に記載の医療用長尺体。
【請求項8】
前記チューブは、
第1の非潤滑性樹脂が添加された潤滑性樹脂を含む潤滑層と、
前記潤滑層の内側に金属部材を有し、
前記第1の非潤滑性樹脂の前記潤滑性樹脂に対して添加する量の割合は、1/1000~1である、請求項1に記載の医療用長尺体。
【請求項9】
前記金属部材は、SUSまたはNi-Tiである、請求項8に記載の医療用長尺体。
【請求項10】
ガイドワイヤである、請求項9に記載の医療用長尺体。
【請求項11】
前記潤滑性樹脂は、親水性である、請求項3に記載の医療用長尺体。
【請求項12】
前記潤滑性樹脂は、アクリル系樹脂である、請求項3に記載の医療用長尺体。
【請求項13】
第1の非潤滑性樹脂の潤滑性樹脂に対して添加する量の質量比が1/1000~1である前記第1の非潤滑性樹脂および前記潤滑性樹脂を含む溶液を、第2の非潤滑性樹脂を含む外層にコートし、
次いで、110℃以下、6時間以下で加熱して、前記外層の外周に潤滑層を形成する、医療用長尺体の製造方法。
【請求項14】
1時間以下で加熱して、前記外層の外周に前記潤滑層を形成する、請求項13に記載の医療用長尺体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用長尺体に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルの1つであるガイディングカテーテル(医療用長尺体ともいう)は、心臓あるいは下肢動脈を治療するためのバルーンカテーテル等を目的部位まで挿入する際に、ガイドするためのカテーテルである(例えば下記の特許文献1)。
【0003】
特に、手首の橈骨動脈から腸骨動脈(またはより末端の下肢動脈)へ到達させる目的で用いられるガイディングカテーテルでは、外径が大きく直線的な領域および屈曲した領域、さらに石灰化した領域を通過するため、好適な押し込み性および追従性さらに摩擦による抵抗値が小さい、いわゆる表面潤滑性を備える必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2018/092387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
好適な押し込み性、追従性および表面潤滑性を備えるためには、血管壁との摩擦による抵抗値を小さくすることが効果的である。しかしながら、長くかつ外径が大きいガイディングカテーテルを、手首の橈骨動脈から下肢動脈まで進めると、ガイディングカテーテルが血管内を通過する距離が長いうえ、外表面積が大きくなり、血管壁との摩擦力を軽減するための親水性コートの表面積も大きくなる。このように、親水性コートの表面積が大きくなると蛇行部分や石灰化部位で摩擦を受けて表面潤滑性が低下したりコートした親水性コートから生じる微粒子の発生量が大きくなる虞がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、好適な押し込み性および追従性を備えるとともに、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、言い換えると摩擦による抵抗値が小さいあるいは低下せず、かつ微粒子発生量を低減できる医療用長尺体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0008】
(1)
医療用長尺体であって、
前記医療用長尺体を、一対の当接部材によって500gfで挟み込んだ状態で、前記医療用長尺体を100回移動させるときの抵抗値が、全て10gf以下である、医療用長尺体。
【0009】
(2)
前記医療用長尺体がチューブである(1)に記載の医療用長尺体。
【0010】
(3)
前記チューブは、
第1の非潤滑性樹脂が添加された潤滑性樹脂を含む潤滑層と、
前記潤滑層がコートされ、第2の非潤滑性樹脂を含む外層と、を有し、
前記第1の非潤滑性樹脂の前記潤滑性樹脂に対して添加する量の割合は、1/1000~1である、(2)に記載の医療用長尺体。
【0011】
(4)
下肢用ガイディングカテーテルである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の医療用長尺体。
【0012】
(5)
前記第1の非潤滑性樹脂は水に溶けない、(3)または(4)に記載の医療用長尺体。
【0013】
(6)
前記第1の非潤滑性樹脂は、塩化ビニル樹脂またはウレタン樹脂である、(3)~(5)のいずれか1つに記載の医療用長尺体。
【0014】
(7)
前記第2の非潤滑性樹脂は、ポリアミドエラストマーまたはポリアミドである、(3)~(6)のいずれか1つに記載の医療用長尺体。
【0015】
(8)
前記医療長尺体は、
第1の非潤滑性樹脂が添加された潤滑性樹脂を含む潤滑層と、
前記潤滑層の内側に金属部材を有し、
前記第1の非潤滑性樹脂の前記潤滑性樹脂に対して添加する量の割合は、1/1000~1である(1)に記載の医療用長尺体。
【0016】
(9)
前記金属部材は、SUSまたはNi-Tiである、(8)に記載の医療用長尺体。
【0017】
(10)
ガイドワイヤである、(9)に記載の医療用長尺体。
【0018】
(11)
前記潤滑性樹脂は、親水性である、(3)~(10)のいずれか1つに記載の医療用長尺体。
【0019】
(12)
前記潤滑性樹脂は、アクリル系樹脂である、(3)~(11)のいずれか1つに記載の医療用長尺体。
【0020】
(13)
第1の非潤滑性樹脂の潤滑性樹脂に対して添加する量の質量比が1/1000~1である前記第1の非潤滑性樹脂および前記潤滑性樹脂を含む溶液を、第2の非潤滑性樹脂を含む外層にコートし、
次いで、110℃以下、6時間以下で加熱して、前記外層の外周に潤滑層を形成する、医療用長尺体の製造方法。
【0021】
(14)
1時間以下で加熱して、前記外層の外周に前記潤滑層を形成する、(13)に記載の医療用長尺体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
上記のように構成した医療用長尺体によれば、後述する試験機を用いて、500gfで挟み込んだ状態で、チューブを移動させるときの抵抗値が10gf以下と低いため、好適な押し込み性および追従性を備える。また、500gfで挟み込んだ状態で、チューブを100回移動させた後でも抵抗値が10gf以下を維持するため、耐久性が高く、微粒子の発生量を低減できる。以上から、好適な押し込み性および追従性を備えるとともに、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、言い換えると摩擦による抵抗値が小さいあるいは低下せず、かつ微粒子発生量を低減できる医療用長尺体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る医療用長尺体を示す全体図である。
【
図2】本実施形態に係る医療用長尺体のチューブを示す正面断面図である。
【
図3】本実施形態に係る医療用長尺体の擦過試験を行うための試験装置を示す概略図であって、一対の当接部材が挟み込んだ様子を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る医療用長尺体の擦過試験を行うための試験装置を示す概略図であって、一対の当接部材から医療用長尺体が離間した様子を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例および比較例に係る医療用長尺体の抵抗値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1、
図2を参照して、本発明の実施形態に係る医療用長尺体1を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る医療用長尺体1を示す全体図である。
図2は、本実施形態に係る医療用長尺体1のチューブ10を示す正面断面図である。
【0025】
本実施形態に係る医療用長尺体1は、下肢の血管内の病変部を診断・治療する際の手術に使用される下肢用のガイディングカテーテルである。
【0026】
医療用長尺体1は、
図1に示すように、チューブ10と、チューブ10の先端側に設けられた柔軟な先端チップ20と、チューブ10の基端側に設けられたハブ(ハブチューブ)30と、を有し、ハブ30の先端側に耐キンクプロテクター40が設けられている。
【0027】
チューブ10は、可撓性を有する管状体で構成されている。チューブ10には、チューブ10の全長にわたって、ルーメン10Hが形成されている。ルーメン10Hは、先端チップ20の先端において開放している。
【0028】
チューブ10は、
図2に示すように、内面側に配置される内層11と、内層11の外周に配置される外層12と、外層12の外周のすくなくとも先端側に配置される潤滑層14と外層12の内部に配置される補強材層13と、を有する。
【0029】
外層12は、第2の非潤滑性樹脂によって構成されている。
【0030】
潤滑層14の潤滑性樹脂は、親水性である。このため、当該潤滑性樹脂は、親水性材料であることが好ましい。親水性材料としては、グリシジルメタクリレート-ジメチルアクリルアミドのブロック共重合体が挙げられる。
【0031】
特に、潤滑層14の潤滑性樹脂はアクリル系樹脂であることが好ましい。当該アクリル系樹脂としては、反応性単量体由来の構成単位を含むことが好ましい。このような反応性単量体由来の構成単位を導入することにより、重合体同士が反応性単量体であるエポキシ基を介して架橋または高分子化して網目構造を形成するため、医療用長尺体は、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、言い換えると摩擦による抵抗値が小さいあるいは低下せず、かつ微粒子発生量を低減できる。
【0032】
反応性単量体は、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、なかでも、重合体の架橋または高分子化の制御がしやすいことから、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、およびβ-メチルグリシジルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいると好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートがより好ましく、グリシジルメタクリレート(GMA)がさらに好ましい。なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの双方を包含する。上記反応性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、アクリル系樹脂は、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有することが好ましく、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)からなることがより好ましい。
【0034】
上記親水性単量体としては、例えば、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの誘導体、ポリエチレングリコールアクリレートおよびその誘導体、糖やリン脂質を側鎖に有する単量体、無水マレイン酸などの水溶性の単量体などを例示できるが、親水性単量体は、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)が好ましい。上記親水性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
アクリル系樹脂の製造方法は、特に制限されず、例えば特開平9-131396号公報等に記載される方法で親水性部位と反応性部位とを有するブロック共重合体を作製することができる。
【0036】
潤滑層14の第1の非潤滑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、ウレタン樹脂が好ましい。
【0037】
ウレタン樹脂としては、例えばポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂などを用いることができ、ウレタンエラストマーでもよく、ポリエーテルセグメントを有するLubrizol社製ペレセン2363やBASF社製エラストランなど市販のウレタンエラストマーが好ましい。
【0038】
また、潤滑層14の第1の非潤滑性樹脂としては、水に溶けないことが好ましい。この構成によれば、耐久性が向上する。「水に溶けない」とは、室温(23℃)、常圧下(1気圧下)で、水に不溶(もしくは難溶)の物質を示す。例えば、室温、常圧下での水100mlに対する溶解が1g未満の物質を示すが、これに制限されない。
【0039】
第1の非潤滑性樹脂の潤滑性樹脂に対して添加する量の質量比は、1/1000~1であることが好ましい。
【0040】
このように、潤滑性樹脂を第1の非潤滑性樹脂に添加することによって、チューブ10を、後述する一対の当接部材91、92によって500gfで挟み込んだ状態で、チューブ10を100回移動させるときの抵抗値が、全て0gfを超え、10gf以下となる。したがって、500gfで挟み込んだ状態で、チューブ10を移動させるときの抵抗値が10gf以下と低いため、好適な押し込み性および追従性を備える。また、500gfで挟み込んだ状態で、チューブを100回移動させた後でも抵抗値が10gf以下を維持するため、耐久性が高く、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、言い換えると摩擦による抵抗値が小さいあるいは低下せず、かつ微粒子の発生量を低減できる。
【0041】
外層12の第2の非潤滑性樹脂の構成材料は、耐キンク性好適な押し込み性および追従性を備えるやポリアミドエラストマーおよび/またはポリアミド樹脂、あるいはポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン樹脂を用いることができる。
【0042】
補強材層13は、チューブ10を補強する複数の補強線を有している。この補強線としては、例えば、らせん状や編組状にしたものが挙げられる。補強線は、ステンレス等の金属で構成されている。具体例を挙げると、チューブ10の径方向の肉厚が薄くなるように、ステンレス鋼の線を平板状に潰し加工し、それを8本~32本程度の複数本使用してらせん状にしたものや、編んだもの(編組体)等が挙げられる。補強線の本数は、管状にバランス良く補強するため、8の倍数とすることが好ましい。
【0043】
補強線を平板にすることによって、楕円にくらべ、外部応力に対し均等に力を受けるため、物性が一定となる。
【0044】
内層11は、ルーメン10H内に処置用カテーテルやガイドワイヤ等のデバイスを挿入する際に、少なくともこれらデバイスと接する部分が低摩擦となるような材料で構成されているのが好ましい。この構成によれば、チューブ10に対し挿入されたデバイスを、より小さい摺動抵抗で長手方向に移動することができ、操作性を向上することができる。具体的には、内層11の構成材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂材料が挙げられる。
【0045】
なお、チューブ10を構成する層の数や各層の構成材料は、チューブ10の長手方向に沿って異なっていてもよい。例えば、チューブ10の先端側の部分は、より柔軟性を持たせるために、層の数を減らしたり、より柔軟な材料を用いたり、当該部分にのみ補強材を配置しなかったりすることができる。
【0046】
医療用長尺体1の体内への挿入は、X線透視下でその位置を確認しつつ行われるため、外層12の構成材料中には、X線不透過材料(X線造影剤)が配合されているのが好ましい。X線不透過材料としては、例えば、硫酸バリウム、酸化ビスマス、タングステン等が使用可能である。
【0047】
また、このようなX線不透過材料は、チューブ10の全長にわたって存在している場合に限らず、チューブ10の一部、例えば、先端部のみや、先端チップ20のみに存在していてもよい。
【0048】
チューブ10の先端部は、左冠動脈、右冠動脈等のチューブ10の先端部を挿入する部位に適した所望の形状に湾曲している。特に、先端部は、冠動脈口に係合させる操作(エンゲージの操作)がし易いような形状、あるいは冠動脈口に係合した状態(エンゲージ)をより確実に維持し得るような形状をなしているが、下肢動脈用であれば先端に形状が無くてもよい。
【0049】
また、チューブ10の先端には、先端チップ20が連結されている。この先端チップ20は、柔軟性に富む材料で構成されており、その先端が好ましくは丸みを帯びた形状をなしている。このような先端チップ20を設けることにより、湾曲、屈曲、分岐した血管内でも、円滑かつ安全に走行させることができる。先端チップ20の構成材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレン-ブタジエンゴム等の各種ゴム材料や、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマーが挙げられるが、ポリアミドエラストマーが好ましい。
【0050】
また、先端チップ20の構成材料中には、前述したようなX線不透過材料(X線造影剤)が配合されていてもよい。
【0051】
先端チップ20の長さは、特に限定されないが、通常、0.5~3mm程度が好ましく、1~2mm程度がより好ましい。
【0052】
チューブ10の基端には、ハブ30が装着(固定)されている。このハブ30には、ルーメン10Hと連通する内腔が形成されている。この内腔は、ルーメン10Hの内径とほぼ等しい内径を有し、ルーメン10Hの基端部内面に対し、段差等を生じることなく連続している。
【0053】
ハブ30からは、例えば、ガイドワイヤ、カテーテル類(例えば、バルーンカテーテル、ステント搬送用カテーテル)、内視鏡、超音波プローブ、温度センサー等の長尺物(線状体)を挿入または抜去したり、造影剤(X線造影剤)、薬液、生理食塩水等の各種液体を注入することができる。また、ハブ30は、例えば、Y型分岐コネクタ等、他の器具と接続することもできる。
【0054】
次に、本実施形態に係る医療用長尺体1の製造方法について説明する。
【0055】
まず、第2の非潤滑性樹脂を含む外層12を備える医療用長尺体を準備する。
【0056】
次に、第1の非潤滑性樹脂および潤滑性樹脂を含むコート液を準備する。
【0057】
第1の非潤滑性樹脂および潤滑性樹脂を溶解または分散させる溶媒としては、本発明に係る第1の非潤滑性樹脂および潤滑性樹脂を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよく、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)である。
【0058】
そして、第1の非潤滑性樹脂を潤滑性樹脂に添加して得られた溶液を、第2の非潤滑性樹脂を含む外層12にコートまたは浸漬する。
【0059】
そして、110℃以下、6時間以下(好ましくは1時間以下)加熱して、第2の非潤滑性樹脂を含む外層12の外周に潤滑層14を形成する。以上の工程によって、本実施形態に係る医療用長尺体1を製造することができる。加熱温度は、90~150℃であることが好ましく、100~140℃であることがより好ましい。特に、100~130℃とすることにより、熱処理を短時間で行い、基材層に過剰な熱負荷を与えることなく、架橋することができ、耐熱性の比較的低い基材であっても潤滑性の付与や制御をより容易に行うことが可能となる。なお、上記温度は、熱処理工程の途中で変更してもよい。
【0060】
また、乾燥または加熱処理の時間も特に制限されないが、好ましくは30分~30時間、より好ましくは1~25時間、特に好ましくは1~6時間である。かような時間とすることにより、高分子化が効果的に促進され、強固な外層が形成される。よって、高い潤滑性(表面潤滑性)をより長期間にわたり維持できる。また、かような時間とすることにより、上記架橋または高分子化が過剰に進行してしまうのを抑制することができる。よって、潤滑層が硬くなりすぎることに起因する膨潤性の低下を抑制でき、結果として、良好な潤滑性(表面潤滑性)を維持できる。
【0061】
本工程において、架橋または高分子化を特に効果的に(効率よく)促進させるという観点から、乾燥処理を行った後、さらに加熱処理を行うことが好ましい。このように、乾燥および加熱処理を経ることで、溶媒が留去された状態でさらに加熱処理を行うため、重合体の架橋または高分子化を促進する効果がより向上する。したがって、加熱処理をより短時間とすることができるため、熱により変形または可塑化しやすい高分子材料であっても、基材層として用いることができる。
【0062】
次に、
図3、
図4を参照して、本実施形態に係る医療用長尺体1の擦過試験を行うための試験装置90を説明する。
図3は、本実施形態に係る医療用長尺体1の擦過試験を行うための試験装置90を示す概略図であって、一対の当接部材91、92が挟み込んだ様子を示す図である。
図4は、本実施形態に係る医療用長尺体1の擦過試験を行うための試験装置90を示す概略図であって、一対の当接部材91、92によって医療用長尺体1を挟離間している様子を示す図である。
【0063】
試験装置90は、
図3、
図4に示すように、一対の当接部材91、92を有する。一対の当接部材91、92は、互いに接近離間可能に構成されており、一対の当接部材91、92が接近した状態で、芯金を入れた状態で医療用長尺体1を所定の力で挟み込むことができる。試験装置90としては、OAKRIVER TECHNOLOGY社製、DL1000を用いることができる。
【0064】
次に、試験装置90を用いた抵抗値の測定方法について説明する。
【0065】
まず、水中で、試験装置90に医療用長尺体1をセットする。このとき水の温度は、常温である。
【0066】
次に、一対の当接部材91、92を互いに接近させて、500gfでショアA60のシリコーン製、パッド厚さ12.35mmで医療用長尺体1を挟み込む。
【0067】
次に、所定の速度で、医療用長尺体1を引き上げつつ、抵抗値を測定する。医療用長尺体1を引き上げる速度は、例えば8.3mm/sであって、引き上げる距離は、例えば25mmである。
【0068】
次に、一対の当接部材91、92を互いに離間させて、挟み込んだ状態を解除する。そして、医療用長尺体1を初期の位置まで戻す。
【0069】
以上の工程を、所定の回数繰り返して、抵抗値を所定の回数だけ測定する。測定する回数は、例えば100回である。
【0070】
以下、
図5を参照して、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
図5は、実施例および比較例に係る医療用長尺体の抵抗値を示す図である。
図5において、横軸は、測定回数を示し、縦軸は抵抗値を示す。
【実施例0071】
[合成例1:ブロック共重合体(1)の合成]
下記反応を行い、ブロック共重合体(1)を製造した。
【0072】
【0073】
50℃のアジピン酸2塩化物72.3gにトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44g及び水120gよりなる溶液中に滴下し、-5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。
【0074】
次に、このPPOを0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)を9.5g、さらにベンゼン30gを溶媒として、80℃で2時間、減圧下で撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をジエチルエーテルで再沈殿して、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリグリシジルメタクリレート(PPO-GMA)を得た。
【0075】
続いて、得られたPPO-GMA1.0g(GMA 7mmol相当)を、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)9.0g、溶媒としてのジメチルスルホキシド90gに仕込み、80℃で18時間、反応させた。反応後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、ブロック共重合体(1)(構成単位(A):構成単位(B)=GMA:DMAA=1:14(モル比))を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)によって測定されたブロック共重合体(1)の重量平均分子量(Mw)は、約150万であった。
【0076】
[実施例1:被覆チューブ(1)の作製]
上記合成例1で得られたブロック共重合体(1)およびポリ塩化ビニル樹脂(富士フイルム和光純薬社製)を質量比(第1の非潤滑性樹脂/第1の潤滑性樹脂)=1/45、コート液中の第1の非潤滑性樹脂が0.1質量%になるようN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、コート液を調製した。ポリアミドエラストマー(第2の非潤滑性樹脂、ショア硬度60D、(Vestamid E62、EVONIK社製)から成型した外径2.37mmのチューブを、上記コート液に浸漬し、室温(25℃)で1時間乾燥させ塗膜を形成した。さらに、チューブを110℃のオーブン中で1時間塗膜を加熱処理した後、室温まで冷却した。このようにして、潤滑層14が形成された医療用長尺体1を作製した。
【0077】
[比較例1]
上記実施例1において、ポリ塩化ビニル樹脂を配合していないコート液を用いて130℃12時間加熱した潤滑層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして医療用長尺体を作製した。
[比較例2]
上記実施例1において、ポリ塩化ビニル樹脂を配合していないコート液を用いて110℃1時間加熱した潤滑層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして医療用長尺体を作製した。
【0078】
[結果]
図5に示すように、比較例1に係る医療用長尺体では、抵抗値が10gfを超えているのに対して、実施例1に係る医療用長尺体1では、抵抗値が6gf未満であった。比較例2は、抵抗値が8gfであったが、23回で抵抗値が急激に上昇したので中止した(図示せず)。
【0079】
このように、チューブ10を、一対の当接部材91、92によって500gfで挟み込んだ状態で、チューブ10を100回移動させるときの抵抗値が、全て10gf以下であるため、好適な押し込み性および追従性を備えるとともに、摩擦を受けても表面潤滑性を維持、言い換えると摩擦による抵抗値が小さいあるいは低下せず、かつ微粒子発生量を低減できる医療用長尺体を提供することができる。
【0080】
以上、実施形態を通じて本発明に係る医療用長尺体1を説明したが、本発明は実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0081】
例えば、上述した実施形態では、医療用長尺体1は、下肢用のガイディングカテーテルとして用いられたが、造影用カテーテル、マイクロカテーテル、ガイドワイヤサポートカテーテル、バルーンカテーテル、ステントデリバリーカテーテル、画像診断カテーテル、アテレクトミーカテーテル、イントロデューサーシース、ダイレータなどでもよく、ガイドワイヤに用いられてもよい。
【0082】
例えば、上述した実施形態では、外層は第2の非潤滑性樹脂から構成されたが、第1の非潤滑性樹脂が添加された潤滑性樹脂を含む潤滑層を金属内芯にコートしたものでもよい。金属内芯はSUSやNi-Tiのような金属部材によって構成されていてもよい。例えば、Ni-Ti系合金、SUS302、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F等のステンレス鋼、ピアノ線、コバルト系合金、超弾性合金などの各種金属材料を用いることができる。