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  • 特開-ポリアミド樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125642
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240911BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20240911BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240911BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L61/06
C08L77/06
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033586
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 彰太
(72)【発明者】
【氏名】牧口 航
(72)【発明者】
【氏名】前田 正信
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB02
4J001EB08
4J001EB36
4J001EB37
4J001EC08
4J001EE16E
4J001FB06
4J001FC03
4J001FD01
4J001GA14
4J001GA15
4J001GB02
4J001GB03
4J001GB11
4J001GB16
4J001GD01
4J001HA01
4J001JA07
4J001JB02
4J001JB06
4J002BC11Y
4J002CC03X
4J002CL031
4J002FD13Y
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】成形加工性が良好であり、さらに機械的強度も良好であるポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】上記樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、軟化点が100℃以下のノボラック型フェノール樹脂(B)と、を含み、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)および前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の合計質量に対して10質量%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)と、
軟化点が100℃以下のノボラック型フェノール樹脂(B)と、
を含み、
前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)および前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の合計質量に対して10質量%未満である、
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
難燃剤をさらに含む、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量が1000以下である、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来するジカルボン酸成分単位(Aa)と、ジアミンに由来するジアミン成分単位(Ab)とを含み、
前記ジカルボン酸成分単位(Aa)および前記ジアミン成分単位(Ab)の少なくとも一方が、芳香環を有する成分単位を含む、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ジカルボン酸成分単位(Aa)および前記ジアミン成分単位(Ab)の少なくとも一方が、前記芳香環を有する成分単位と、芳香環を有さない成分単位とを有する、
請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来するジカルボン酸成分単位(Aa)と、ジアミンに由来するジアミン成分単位(Ab)とを含み、
前記ジカルボン酸成分単位(Aa)が、テレフタル酸に由来する成分単位と、炭素原子数が4~15である脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位と、を含む、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記炭素原子数が4~15である脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位のモル数が、前記ジカルボン酸成分単位(Aa)の総モル数に対して、30モル%以上70モル%以下である、
請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物は、成形加工性や機械的物性、耐薬品性等に優れており、産業資材用、自動車用、電気・電子用、工業用等、様々な分野で使用されている。これらの中でも、機械的強度や、耐熱性に優れるという利点を活かし、特に電気・電子分野でポリアミド樹脂は多用されている。
【0003】
ここで近年、電子機器等の小型化や、製品の軽量化に伴い、ポリアミド樹脂組成物を射出成形等によって複雑な形状に加工したり、薄肉化したりすることが求められている。射出成形性を高めるためには、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性を高めることが重要であり、流動性を高めるための各種方法が提案されている。特許文献1では、ポリアミド樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを混合することで、ポリアミド樹脂組成物の流動性を高めることが提案されている。
【0004】
一方で、ポリアミド樹脂組成物の強度向上や耐熱エージング性の向上を目的として、ポリアミド樹脂組成物にノボラック型フェノール樹脂を使用することも提案されている(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-104577号公報
【特許文献2】特開2016-113603号公報
【特許文献3】特開2014-5357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが鋭意検討したところ、特許文献1のように、ポリアミド樹脂に一般的なノボラック型フェノール樹脂を添加しただけでは、成形加工時の流動性が十分に高まらないこと、さらにノボラック型フェノール樹脂の添加によって、却ってポリアミド樹脂組成物の機械的強度が低下してしまうこと、が明らかとなった。
【0007】
本発明は、成形加工性が良好であり、かつ機械的強度も良好なポリアミド樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアミド樹脂(A)と、軟化点が100℃以下のノボラック型フェノール樹脂(B)と、を含み、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)および前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の合計質量に対して10質量%未満である、ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形加工性が高く、さらに機械的強度も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本願の実施例および比較例にて実施した、リフロー耐熱性試験のリフロー工程の温度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態のポリアミド樹脂組成物について説明する。なお、本明細書において、「AA~BB」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
【0012】
前述のように、従来、ノボラック型フェノール樹脂とポリアミド樹脂とを組み合わせて使用することが検討されてきた。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、ポリアミド樹脂と、一般的なノボラック型フェノール樹脂とを組み合わせると、機械的強度が低下しやすく、所望の性能が得られないことが明らかとなった。
【0013】
これに対し、本実施形態では、ポリアミド樹脂(A)と、軟化点が100℃以下のノボラック型フェノール樹脂(B)と、を組み合わせ、かつノボラック型フェノール樹脂(B)の量を、ポリアミド樹脂(A)およびノボラック型フェノール樹脂(B)の合計質量に対して10質量%未満とする。これにより、ポリアミド樹脂組成物の成形加工時の流動性が良好になり、さらにポリアミド樹脂(A)由来の高い機械的強度を維持できる。その理由は明らかではないが、以下のように考えられる。
【0014】
ポリアミド樹脂を含む組成物では、ポリアミド樹脂のアミド結合間で水素結合が形成される。その結果、溶融時の流動性が低く、成形加工性が低くなりやすいと考えられる。一方、ノボラック型フェノール樹脂では、フェノールモノマーの残留量が多いほど軟化点が低くなりやすく、耐熱性が低くなる。したがって、フェノールモノマーの残留量が少なくなるよう(軟化点が高くなるよう)に設計されるのが一般的である。しかしながら、このような軟化点の高いノボラック型フェノール樹脂とポリアミド樹脂とを混合しても、ポリアミド樹脂とノボラック型フェノール樹脂との水素結合を分断し難いことから、樹脂組成物の流動性を高められなかった。これに対し、本願では敢えて、フェノールモノマー残留量が比較的多い、軟化点の低いノボラック型フェノール樹脂(B)を、ポリアミド樹脂(A)と組み合わせる。フェノールモノマーは、分子量が小さく、かつ立体障害が生じ難いこと等から、容易にポリアミド樹脂どうしの間に入り込む。そして、当該フェノールモノマーがアミド結合間の水素結合を分断することで、ポリアミド樹脂組成物の流動性が格段に向上すると考えられる。またこのとき、ノボラック型フェノール樹脂(B)の量を、ポリアミド樹脂(A)およびノボラック型フェノール樹脂(B)の合計質量に対して10質量%未満とすることで、ポリアミド樹脂(A)本来の耐熱性や機械的強度が損なわれ難いと考えられる。
【0015】
ここで、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)およびノボラック型フェノール樹脂(B)を含んでいればよいが、必要に応じて難燃剤やその他の成分をさらに含んでいてもよい。以下、各成分について説明する。
【0016】
・ポリアミド樹脂(A)
ポリアミド樹脂(A)は、アミド結合を複数含む樹脂であればよく、通常、ジカルボン酸とジアミンとを重合して得られる樹脂である。このようなポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸由来のジカルボン酸成分単位(Aa)と、ジアミン由来のジアミン成分単位(Ab)とを含む。ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0017】
ポリアミド樹脂(A)は、主に芳香族ジカルボン酸と脂肪族または脂環族ジアミンとを重合して得られる半芳香族ポリアミド樹脂であってもよく、主に脂肪族または脂環族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとを重合して得られる半芳香族ポリアミド樹脂であってもよく、主に脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとを重合して得られる脂肪族ポリアミド樹脂であってもよい。これらの中でも、ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。すなわち、ポリアミド樹脂(A)は、芳香環を有するジカルボン酸成分単位(Aa)および/またはジアミン成分単位(Ab)と、芳香環を有さないジカルボン酸成分単位(Aa)および/またはジアミン成分単位(Ab)と、を有する半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)が半芳香族ポリアミド樹脂であると、ポリアミド樹脂(A)の溶融粘度と、後述のノボラック型フェノール樹脂(B)との溶融粘度と、の差が小さくなる。その結果、これらの相溶性が良好になり、成形加工性がさらに良好になる。
【0018】
また、ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸成分単位(Aa)およびジアミン成分単位(Ab)の少なくとも一方が、芳香環を有する成分単位と、芳香環を有さない成分単位と、の両方を有することが好ましく、ジカルボン酸成分単位(Aa)が、芳香環を有する芳香族ジカルボン酸成分単位と、芳香環を有さない非芳香族ジカルボン酸成分単位と、を有することがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)がこのように構成されていると、ノボラック型フェノール樹脂(B)との相互作用性がさらに良好になりやすい。
【0019】
なお、ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸由来のジカルボン酸由来のジカルボン酸成分単位(Aa)は、バイオマス由来のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよいし、ジアミン由来のジアミン成分単位(Ab)は、バイオマス由来のジアミンに由来する成分単位を含んでもよい。また、ポリアミド樹脂(A)は、バイオマス由来の原料を含む原料群を重合してなる、バイオマス由来のポリアミド樹脂(A)であってもよい。以下、ポリアミド樹脂(A)が半芳香族ポリアミド樹脂である場合を例に説明する。
【0020】
なお、ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分単位(Aa)の種類は特に制限されず、例えば、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位、脂環族ジカルボン酸に由来する成分単位、脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位などを含むことができる。また、ポリアミド樹脂(A)は、一分子中に一種のみ、ジカルボン酸成分単位(Aa)を含んでいてもよいが、上述のように芳香族ジカルボン酸成分単位および非芳香族ジカルボン酸単位を含むことが好ましい。ポリアミド樹脂(A)やこれを含むポリアミド樹脂組成物の耐熱性の観点から、ジカルボン酸成分単位(Aa)の少なくとも一部が、テレフタル酸由来のテレフタル酸成分単位であることが好ましい。テレフタル酸成分単位の量は、ジカルボン酸成分単位(Aa)の総モル数に対して、30モル%以上85モル%以下であることが好ましく、30モル%以上70モル%以下であることがより好ましい。
【0021】
ポリアミド樹脂(A)は、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸由来の成分単位を含んでいてもよい。テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が含まれる。ポリアミド樹脂(A)は、これら由来の成分単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸由来の成分単位の総モル数は、ジカルボン酸成分単位(Aa)の総モル数に対して、70モル%以下であることが好ましく、20モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
ポリアミド樹脂(A)は、脂肪族ジカルボン酸由来の成分単位を含むことが好ましい。脂肪族ジカルボン酸の炭素原子数は4~20が好ましく、6~12がより好ましく、6~10がさらに好ましい。脂肪族ジカルボン酸中の炭化水素構造は、分岐していてもよいが、直鎖状であることが好ましい。すなわち、脂肪族ジカルボン酸が、直鎖状脂肪族ジカルボン酸であることがより好ましい。脂肪族ジカルボン酸の例には、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等が含まれ、半芳香族ポリアミド樹脂は、これら由来の成分を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。上記の中でも、アジピン酸がポリアミド樹脂(A)の機械的強度の向上の観点で特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸由来の成分単位の量は、ジカルボン酸成分単位(Aa)の総モル数に対して、15モル%以上70モル%以下であることが好ましく、30モル%以上70モル%以下であることがより好ましい。
【0023】
ポリアミド樹脂(A)は、脂環族ジカルボン酸由来の成分単位を含んでいてもよい。脂環族ジカルボン酸の炭素原子数は4~20が好ましく、6~12がより好ましく、6~10がさらに好ましい。脂環族ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸が含まれる。脂環族ジカルボン酸由来の成分単位の量は、ジカルボン酸成分単位(Aa)の総モル数に対して、80モル%以下であることが好ましく、10モル%超70モル%以下であることがより好ましく、20モル%以上60モル%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
ここで、ポリアミド樹脂(A)は、上記ジカルボン酸成分単位(Aa)として、テレフタル酸成分単位およびアジピン酸成分単位を含むことが特に好ましい。このとき、テレフタル酸成分単位の量は、ジカルボン酸成分単位(Aa)の総モル数に対して30モル%以上70モル%以下が好ましく、40モル%以上65モル%以下がより好ましい。また、アジピン酸成分単位の量は、ジカルボン酸成分単位(Aa)の総モル数に対して30モル%以上70モル%以下が好ましく、35モル%以上60モル%以下がより好ましい。
【0025】
ポリアミド樹脂(A)を構成するジアミン成分単位(Ab)の種類は特に制限されず、例えば、芳香族ジアミンに由来する芳香族ジアミン成分単位、脂環族ジアミンに由来する脂環族ジアミン成分単位、脂肪族ジアミンに由来する脂肪族ジアミン成分単位などを含むことができる。ポリアミド樹脂(A)は、一分子中に一種のみ、ジアミン成分単位(Ab)を含んでいてもよく、二種以上のジアミン成分単位(Ab)を含んでいてもよい。ポリアミド樹脂(A)は、主に脂肪族ジアミン成分単位および脂環族ジアミン成分単位の少なくとも一方を含むことが好ましく、脂肪族ジアミンジアミン成分単位および脂環族ジアミン成分単位を合計で、ジアミン成分単位(Ab)の総モル数に対して80モル%以上100モル%以下含むことがより好ましく、90モル%以上100モル%以下含むことがさらに好ましく、実質的に全てのジアミン成分単位(Ab)が、脂肪族ジアミン成分単位および脂環族ジアミン成分単位の少なくとも一方であることが特に好ましい。また、当該脂肪族ジアミン成分単位は、炭素原子数が4以上6以下である脂肪族ジアミン由来の成分単位を含むことが好ましい。脂肪族ジアミンの炭素原子数が4以上6以下であると、後述のノボラック型フェノール樹脂(B)との相溶性がさらに良好になりやすい。炭素原子数4以上6以下の脂肪族ジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、が含まれる。炭素原子数4以上6以下の脂肪族ジアミン成分単位の量は、ジアミン成分単位(Ab)の総モル数に対して、50モル%以上100モル%以下含むことが好ましく、60モル%以上100モル%以下含むことがより好ましい。
【0026】
また、ポリアミド樹脂(A)は、炭素原子数4以上6以下の脂肪族ジアミン由来の成分単位以外の脂肪族ジアミン、例えば炭素原子数7以上15以下の脂肪族ジアミンを含んでいてもよい。これらの脂肪族ジアミン中の炭化水素構造は、分岐していてもよいが、直鎖状であることがより好ましい。
【0027】
炭素原子数が7以上15以下である脂肪族ジアミンの例には、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等の直鎖状脂肪族ジアミン;2-メチル-1,6ージアミノヘキサン、2-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2-メチル-1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,10-ジアミノデカン、2-メチル-1,11-ジアミノウンデカン等の分岐鎖状脂肪族ジアミンが含まれる。
【0028】
さらに、脂環族ジアミンに由来する成分を含んでいてもよい。脂環族ジアミンに由来する成分単位の例には、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナン、2,6-ビスアミノメチルノルボルナン、イソホロンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルプロパン、4,4'-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチル-5,5'-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチル-5,5'-ジメチルジシクロヘキシルプロパン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α′-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-1,4-シクロヘキサン、及びα,α'-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-1,3-シクロヘキサンから誘導される成分単位が含まれる。これらの中でも、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナン、2,6-ビスアミノメチルノルボルナン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、及び4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルメタンから誘導される成分単位が好ましく、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナン、2,6-ビスアミノメチルノルボルナン、及びビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンから誘導される成分単位がより好ましい。
【0029】
上記脂環族ジアミン由来の成分単位の量は、ジアミン成分単位(Ab)の総モル数に対して、80モル%以下であることが好ましく、10モル%超70モル%以下であることがより好ましく、20モル%以上60モル%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
なお、ポリアミド樹脂(A)は、上記ジアミン成分単位(Ab)として、1,6-ジアミノヘキサン成分単位を50モル%以上100モル%以下含むことがさらに好ましく、1,6-ジアミノヘキサン成分単位を60モル%以上100モル%以下含むことがより好ましく、1,6-ジアミノヘキサン成分単位を80モル%以上100モル%以下含むことがさらに好ましく、1,6-ジアミノヘキサン成分単位を90モル%以上100モル%以下含むことがさらに好ましく、実質的に全てのジアミン成分単位(Ab)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位であることが特に好ましい。
【0031】
上記ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量測定(DSC)より測定される融点(Tm)は280~330℃であることが好ましく、290~330℃であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融点が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性を良好にできる一方で、成形温度を過度に高める必要がないことから好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融点は、ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分単位(Aa)や、ジアミン成分単位(Ab)の種類、ポリアミド樹脂(A)の分子量等で調整される。
【0032】
上記融点(Tm)は、示差走査熱量計(例えば、PerkinElemer社製DSC7)にて測定される。具体的には、ポリアミド樹脂(A)約5mgを測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで340℃まで加熱する。ポリアミド樹脂(A)を完全融解させるために、340℃で5分間保持し、次いで、10℃/分で23℃まで冷却する。そして、23℃で5分間置いた後、10℃/minで340℃まで2度目の加熱を行なう。この2度目の加熱でのピーク温度(℃)をポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)とする。
【0033】
また、ポリアミド樹脂(A)の温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は0.5~1.2dl/gであることが好ましく、0.5~0.9dl/gであることがより好ましく、0.7~0.85dl/gであることがさらに好ましい。極限粘度[η]がこの範囲にあると、成形時の流動性がさらに良好になりやすい。また、極限粘度[η]が上記範囲であると、後述のノボラック型フェノール樹脂(B)との相溶性がさらに良好になったり、難燃剤の分散性がさらに良好になったりしやすい。
【0034】
上記極限粘度は、JIS K6810-1977に準拠して測定される値であり、約0.5gのポリアミド樹脂(A)を96.5%濃硫酸50mlに溶解させ、得られた溶液の、25度±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、以下の式に基づき算出される値である。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
ηSP=(t-t0)/t0
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0035】
ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂(A)の量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の量が当該範囲であると、ポリアミド樹脂(A)本来の機械的強度やリフロー耐熱性等をさらに発揮しやすくなる。
【0036】
・ノボラック型フェノール樹脂(B)
ノボラック型フェノール樹脂(B)は、例えばフェノール系モノマーとアルデヒド類とを酸触媒の存在下で縮合重合させた樹脂であり、その軟化点が100℃以下の樹脂であればよい。ポリアミド樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂(B)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0037】
上記フェノール系モノマーの例には、フェノール、クレゾール、トリメチルフェノール、キシレノール、レゾルシノール、カテコール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、ジヒドロキシベンゼン、ビスフェノールA、ナフトール等の1価または多価のフェノール類、ならびにこれらの置換体が含まれる。ノボラック型フェノール樹脂(B)は、これら由来の構造を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの中でも、上記ポリアミド樹脂(A)との相溶性がより良好になりやすいとの観点で、ノボラック型フェノール樹脂(B)は、フェノール、クレゾール、およびビスフェノールA由来の構造を含むことが好ましい。
【0038】
上記アルデヒド類の例には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、グリオキザール、n-プロパナール、n-ブタナール、イソプロパナール、イソブチルアルデヒド、3-メチル-n-ブタナール、ベンズアルデヒド、p-トリルアルデヒド、2-フェニルアセトアルデヒド等が含まれる。上記ノボラック型フェノール樹脂(B)は、これら由来の構造を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの中でも、ノボラック型フェノール樹脂(B)の熱的安定性の観点から、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドが好ましい。
【0039】
さらに、上記フェノール系モノマーおよびアルデヒド類を反応させる際の酸触媒の例には、シュウ酸、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、蟻酸、マレイン酸、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛等が含まれる。
【0040】
上記フェノール系モノマーとアルデヒド類との反応(縮合重合)は、公知の方法で行うことができる。一方で、ノボラック型フェノール樹脂(B)は市販品であってもよい。
【0041】
上記ノボラック型フェノール樹脂(B)の具体例には、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール-ホルムアルデヒド樹脂、キシレノール-ホルムアルデヒド樹脂、ビスフェノールA-ホルムアルデヒド樹脂等が含まれる。これらの中でも、上述のポリアミド樹脂(A)との相溶性の観点で、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール-ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。
【0042】
上記ノボラック型フェノール樹脂(B)の軟化点は、100℃以下であればよく、40℃以上100℃以下であることが好ましく、60℃以上100℃以下であることがより好ましい。ノボラック型フェノール樹脂(B)の軟化点は、主に重合の際に使用するフェノール系モノマーの残存量によって調整可能であり、例えば、重合時におけるフェノール系モノマーとアルデヒド類との比を調整したり、重合条件を調整したりすることで調整可能である。上記軟化点の測定方法は、JIS K6910:2007によって測定される。
【0043】
一方、ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量(Mn)は、上記軟化点を満たす限り特に制限されないが、1000以下であることが好ましく、300以上900以下であることがより好ましく、400以上800以下であることがより好ましい。ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量が1000以下であると、ノボラック型フェノール樹脂(B)を添加したときのポリアミド樹脂組成物に、靭性低下や曲げ強度低下が生じ難い。上記ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量は、テトラヒドロフラン等を移動相として用いた、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算値である。
【0044】
ポリアミド樹脂組成物中でのノボラック型フェノール樹脂(B)の量は、上述のポリアミド樹脂(A)およびノボラック型フェノール樹脂(B)の量の合計質量に対して10質量%未満であればよく、1質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。上述のように、ノボラック型フェノール樹脂(B)の量が10質量%未満であると、ポリアミド樹脂(A)本来の機械的強度やリフロー耐熱性等を損なうことなく、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性を高めることが可能となる。
【0045】
・難燃剤および難燃助剤
ポリアミド樹脂組成物は難燃剤や難燃助剤を含んでいてもよい。難燃剤は、ポリアミド樹脂組成物に難燃性を付与することが可能な化合物であればよい。ポリアミド樹脂組成物を電気電子部品や表面実装部品に使用する場合には、ポリアミド樹脂組成物に、アンダーライターズ・ラボラトリーズ・スタンダードUL94で規定されている、V-0といった高い難燃性や耐炎性が要求される。したがって、ポリアミド樹脂組成物に、当該難燃剤を含め、その難燃性を高めてもよい。
【0046】
難燃剤は公知のものを使用でき、その例には、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル等のハロゲン系難燃剤;リン酸化合物の金属塩、ホスファゼン化合物、ポリリン酸メラミン物等のノンハロゲン系難燃剤;が含まれる。これらの中でも、ノボラック型フェノール樹脂(B)との相溶性が良好である等の観点で、臭素化ポリスチレンおよびポリ臭素化スチレンが好ましく、臭素化ポリスチレンがより好ましい。
【0047】
臭素化ポリスチレンは、ポリスチレンまたはポリα-メチルスチレンを臭素化して得られる難燃剤である。当該臭素化ポリスチレンは、芳香環を構成する炭素原子に臭素原子が結合しているが、製造方法によっては、ポリマーの主骨格をなすアルキル鎖にも臭素原子が結合している場合がある。難燃剤は、いずれの臭素化ポリスチレンであってもよいが、芳香環を構成する炭素原子に臭素原子が主に結合しているタイプが好ましく、ポリマーの主骨格をなすアルキル鎖には、実質的に臭素原子が結合していないほうが好ましい。また、当該臭素化ポリスチレンにおける臭素含有量は65~71質量%が好ましく、67~71質量%がより好ましい。また、ポリマーの主骨格をなすアルキル鎖に実質的に臭素原子が結合していないとは、ポリマーの主骨格を構成するアルキル鎖に臭素原子が結合している割合が0~0.5質量%であることをいう。当該割合は、0~0.2質量%がより好ましい。このような臭素化ポリスチレンは熱安定性が良好であり、さらにはそれを用いて得られたポリアミド樹脂組成物の熱安定性も向上する。
【0048】
臭素化ポリスチレンの重量平均分子量は、1000以上4800以下であることが好ましく、2000以上4500以下であることがより好ましい。また、数平均分子量(Mn)は800~4800であることが好ましく、分子量分布(Mw/Mn)はが1.05~1.25であることが好ましい。当該重量平均分子量や数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって移動層をクロロホルム、カラム温度40℃、示差屈折計検出器を使用して、測定されるポリスチレン換算値である。また臭素化ポリスチレンのメルトフローレート(MFR)は200~1000g/10分であることが好ましく、400~900g/10分であることがより好ましい。MFRは、荷重1200g、温度270℃、オリフィス内径2.095mmで測定した時の値である。臭素化ポリスチレンの分子量が上記範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の難燃性および靭性が良好になりやすい。
【0049】
当該難燃剤の量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。難燃剤の量が当該範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の難燃性が高まりやすい。
【0050】
ポリアミド樹脂組成物は、上記難燃剤と共に、難燃助剤を含んでいてもよい。難燃助剤は、難燃剤の難燃化作用を高めるものであればよく、公知のものを使用できる。難燃助剤の具体例には、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等のアンチモン化合物;ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、リン酸亜鉛などの亜鉛化合物;ホウ酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム等が含まれる。これらは、一種単独で、または二種類以上を組合せて使用してもよい。これらの中で、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、リン酸亜鉛が好ましく、特に熱安定性の観点からアンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛の無水物(2ZnO・3B)が好ましい。
【0051】
ポリアミド樹脂組成物中の難燃助剤の量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
・その他
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、上記ポリアミド樹脂(A)、ノボラック型フェノール樹脂(B)、および難燃剤のほかに、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例には充填材が含まれる。
【0053】
充填材は繊維状であってもよく、粒子状や扁平状であってもよいが、繊維状であることが好ましい。繊維状の充填材の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、ゾノトライト、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー、カットファイバー、全芳香族ポリアミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維及びジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸又はイソフタル酸との縮合物から得られる繊維等)、ホウ素繊維液晶ポリエステル繊維、炭素繊維等が含まれる。これらの中でも、得られるポリアミド樹脂組成物の強度(剛性)や耐熱性を高めやすいことから、ガラス繊維、ワラストナイトや炭素繊維が好ましい。ポリアミド樹脂組成物は、繊維状の充填材を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0054】
繊維状の充填材の重量平均繊維長さは、100μm以上20mm以下であることが好ましく、500μm以上10mm以下であることがより好ましく、700μm以上10mm以下であることがさらに好ましい。また、重量平均繊維径は、15μm以上40μm以下であることが好ましく、15μm以上30μm以下であることがより好ましい。当該重量平均繊維長さおよび、重量平均繊維径は、以下のように特定できる。
1)ポリアミド樹脂組成物またはこれから得られる成形品を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させる。その後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)上記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本について、それぞれの繊維長(Li)と径(Di)を計測する。
3)測定された繊維長(Li)および径(Di)、ならびにこれらの分布から、下記式に基づき、重量平均径および重量平均長さを特定する。
重量平均繊維長さ=(Σqi×Li)/(Σqi×Li)
上記式において、Liは充填材(D)の繊維長さを表し、qiは繊維長さがLiである充填材(D)の個数を表す。
重量平均径=(Σri×Di)/(Σri×Di)
上記式において、Diは充填材(D)の径を表し、riは、径がDiである充填材(D)の個数を表す。
【0055】
上記繊維状の充填材は、上述の半芳香族ポリアミド樹脂(A)やノボラック型フェノール樹脂(B)等との相溶性を高めるために、公知の表面処理剤、例えばシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等のカップリング剤や、集束剤によって処理されていてもよい。
【0056】
ポリアミド樹脂組成物中の繊維状の充填材の量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。繊維状の充填材の量が当該範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の剛性が所望の範囲に収まりやすい。一方で、ポリアミド樹脂由来の靭性等をさらに発揮しやすくなる。
【0057】
また、ポリアミド樹脂組成物は、繊維状以外の形状の充填材を含んでいてもよい。具体的には、粉末状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状等の形状を有する他の充填材の例には、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、ワラストナイト、ケイソウ土、クレー、カオリン、球状ガラス、マイカ、セッコウ、ベンガラ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等の粉状或いは板状の無機化合物、チタン酸カリウム等の針状の無機化合物;有機粒子;が含まれる。これらの充填材は、一種単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0058】
上記繊維状以外の充填材も、上述の半芳香族ポリアミド樹脂(A)やノボラック型フェノール樹脂(B)等との相溶性を高めるために、公知の表面処理剤、例えばシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等のカップリング剤によって処理されていてもよい。
【0059】
ポリアミド樹脂組成物中の、繊維状以外の形状の充填材の量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。これらの充填材の量が当該範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度が所望の範囲に収まりやすくなる。
【0060】
ポリアミド樹脂組成物はさらに、発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の重合体や、任意の添加剤を含んでいてもよい。他の重合体の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、ポリオレフィンエラストマー等のポリオレフィン;ポリスチレン;ポリカーボネート;ポリアセタール;ポリスルフォン;ポリフェニレンオキシド;フッ素樹脂;シリコーン樹脂;PPS(ポリフェニレンサルファイド);LCP(液晶ポリマー);テフロン(登録商標)等が含まれる。上記以外にもポリオレフィンの変性体等も含まれ、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基などで変性された、変性ポリエチレン、変性SEBS等の変性芳香族ビニル化合物・共役ジエン共重合体またはその水素化物、変性エチレン・プロピレン共重合体などの変性ポリオレフィンエラストマー等が含まれる。
【0061】
添加剤の例には、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類、リン類等)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類、オギザニリド類等)、滑剤(ワックス)、蛍光増白剤、可塑剤、増粘剤、帯電防止剤、離型剤、顔料、結晶核剤、ドリップ防止剤、ハロゲンキャッチャー等、種々公知の添加剤が含まれる。
【0062】
ポリアミド樹脂組成物中の添加剤の量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。添加剤の量が当該範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性および機械的強度を高めることができる。
【0063】
・物性
ポリアミド樹脂組成物の物性は特に制限されず、後述の用途に応じて適宜選択される。例えば、ポリアミド樹脂組成物が、電気・電子部品や表面実装部品に使用される場合には、高いリフロー耐熱性を有することが好ましく、特に難燃性や耐炎性を有することが好ましい。難燃性や耐炎性は、アンダーライターズ・ラボラトリーズ・スタンダードUL94規格(1991年6月18日付のUL Test No.UL94)に規定の方法で評価可能である。そして、ポリアミド樹脂組成物を厚さ0.8mmの試験片に加工し、上記規格に準拠して、垂直燃焼試験を行ったときの難燃性がV-0であることが好ましい。
【0064】
・ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、少なくとも上記の半芳香族ポリアミド樹脂(A)、ノボラック型フェノール樹脂(B)、難燃剤、および必要に応じて充填材や添加剤等を、公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダーもしくはタンブラーブレンダー等で混合する方法、または混合後さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー若しくはバンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒若しくは粉砕する方法により製造できる。各成分の混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練し、造粒あるいは粉砕を行ってもよい。
【0065】
・ポリアミド樹脂組成物の用途
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、例えば、射出成形、押出成形等、公知の成形方法により成形することで、成形品を作製することができる。上述のポリアミド樹脂組成物は、成形時の流動性が良好であることから、射出成形法等にも適している。
【0066】
また、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の用途は特に制限されないが、上述のポリアミド樹脂組成物は、機械的強度や流動性が高い。また難燃剤を添加することで、難燃性やリフロー耐性をさらに高めることができる。したがって、電気・電子部品や表面実装部品として非常に有用である。
【実施例0067】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0068】
1.材料の準備
[ポリアミド樹脂(A)]
・6T/66:後述の合成例1で調製の半芳香族ポリアミド樹脂(6T/66=62.5モル%/37.5モル%)
・6T/6I:後述の合成例2で調製の半芳香族ポリアミド樹脂(6T/6I=70%/30%)
【0069】
[ノボラック型フェノール樹脂(B)]
・PH1:LVR-8210DL(群栄化学工業社製ノボラック型フェノール樹脂、数平均分子量(Mn)=466、軟化点=60℃)
・PH2:PSM-4357(群栄化学工業社製ノボラック型フェノール樹脂、数平均分子量(Mn)=735、軟化点=95℃)
・PH3:XL-325(群栄化学工業社製ノボラック型フェノール樹脂、数平均分子量(Mn)=1800、軟化点=95℃)
・PH4:PAPS-PN4(旭有機材工業社製、数平均分子量(Mn)=760、軟化点111℃)
【0070】
[難燃剤および難燃助剤]
・難燃剤:臭素化ポリスチレン(アルベマール社製、HP-3010、臭素含有量:68質量%、数平均分子量(Mn):3400、重量平均分子量(Mw):4000、Mw/Mn:1.2)
・難燃助剤:アンチモン酸ナトリウム(日本精鉱社製、SA-A)
【0071】
[その他]
・ガラス繊維(セントラル硝子社製、ECS03-615)
・タルク(松村産業社製、ハイフィラー#5000PJ)
・ワックス(クラリアントジャパン社製、Licomont CAV102)
・m-SEBS(マレイン化SEBS、旭ケミカルス社製、タフテックM1913)
・ハイドロタルサイト(戸田工業社製、NAOX-33)
【0072】
[合成例1]
テレフタル酸2515g(15.1モル%)、1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1)、アジピン酸1325g(9.0モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gおよび蒸留水554gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.01MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。抜き出した低次縮合物を室温まで冷却し、その後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。
【0073】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて220℃まで昇温させた。その後、低次縮合物を1時間反応させて、室温まで降温させた。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/時間の樹脂供給速度でさらにポリアミド(高縮合物)を溶融重合させて、ポリアミド6T/66(半芳香族ポリアミド樹脂)を得た。ポリアミド6T/66の、後述の方法で測定される極限粘度[η]は0.8dl/gであり、融点(Tm)は320℃であった。
【0074】
[合成例2]
1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.3モル)、テレフタル酸2841g(17.0モル)、イソフタル酸1211g(7.3モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g、および蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧させた。この状態で1時間反応させ、その後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、室温まで冷却後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。
【0075】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温した。その後、1時間30分反応し、室温まで降温させた。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を340℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/時間の樹脂供給速度で溶融重合して、ポリアミド6T/6I(半芳香族ポリアミド樹脂)を得た。当該ポリアミド6T/6Iの後述の方法で測定される極限粘度[η]は0.9dl/gであり、融点(Tm)は330℃であった。
【0076】
<実施例1>
下記表1に示される質量比の各成分をタンブラーブレンダーにて混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)にて、シリンダー温度をポリアミド樹脂(6T/66)の融点(Tm)+15℃に設定し、溶融混錬した。溶融混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却した。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットしてペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0077】
<実施例2~7、比較例1~6>
組成を表1に示すように組成を変更した以外は実施例1と同様にしてペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0078】
<評価方法>
上記ポリアミド樹脂(A)の極限粘度および融点は以下の方法で測定した。また、ノボラック型フェノール樹脂(B)の軟化点および数平均分子量は以下の方法で測定した。さらに、得られたポリアミド樹脂組成物に対し、曲げ強度、靭性、流動長、吸水率、リフロー耐熱温度、および難燃性を以下の方法でそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0079】
・極限粘度[η]
JIS K6810-1977に準拠して、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させ、ウベローデ粘度計を使用し、25±0.05℃の条件下で試料溶液の流下秒数を測定した。測定結果から、以下の式に基づいてポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]を算出した。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
ηSP=(t-t0)/t0
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0080】
・融点(Tm)
ポリアミド樹脂(A)を、PerkinElemer社製DSC7を用いて加熱し、一旦340℃で5分間保持し、次いで10℃/分の速度で23℃まで降温した後、10℃/分で昇温した。このときの融解に基づく吸熱ピークをポリアミド樹脂の融点とした。
【0081】
・軟化点
ノボラック型フェノール樹脂(B)の軟化点は、JIS K6910:2007に従って測定した。
【0082】
・数平均分子量(Mn)
ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質をスチレンとして測定した。
【0083】
・曲げ強度および靭性 長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片を射出成形で調製した。用いた成形機と、成形機シリンダー温度、金型温度を以下に示す。
成形機:ソディック社製 プラステック、ツパールTR40S3A
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0084】
調製した試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で、曲げ試験機(NTESCO社製 AB5)で曲げ試験を行った。試験条件は、スパン26mm、曲げ速度5mm/分とした。曲げ試験から、曲げ強度、歪量、弾性率、およびその試験片を破壊するのに要するエネルギー(靭性)を測定した。
【0085】
・流動長試験(流動性)
ポリアミド樹脂組成物を、幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用して、以下の条件で射出し、金型内の樹脂の流動長(mm)を測定した。
射出成形機:ソディック社製、ツパールTR40S3A
射出設定圧力:2000kg/cm
シリンダー設定温度:各ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0086】
・吸水率の測定およびリフロー耐熱温度の測定
ポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片を調製した。
成形機:ソディック社製、ツパールTR40S3A
成形機シリンダー温度:各ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
調製した試験片を温度40℃、相対湿度95%で96時間調湿した。調湿前後の試験片の重量変化から吸水率を算出した。
【0087】
調湿処理を行った試験片を、厚み1mmのガラスエポキシ基板上に載置した。この基板上に温度センサーを設置した。試験片を載置したガラスエポキシ基板を、エアーリフローはんだ装置(エイテックテクトロン社製AIS-20-82-C)にセットし、図1に示す温度プロファイルのリフロー工程を行った。図1に示すように、所定の速度で温度230℃まで昇温した。次いで、20秒間で所定の設定温度(aは270℃、bは265℃、cは260℃、dは255℃、eは235℃)まで加熱したのち、230℃まで降温した。このとき、試験片が溶融せず、且つ表面にブリスターが発生しない設定温度の最大値を求め、この設定温度の最大値をリフロー耐熱温度とした。なお、吸湿した試験片のリフロー耐熱温度は、絶乾状態のそれと比較して劣る傾向にある。
【0088】
・燃焼性試験
実施例および比較例で製造したポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、幅13mm、長さ125mm、厚さ0.8mmの試験片を調製した。調製した試験片を用いて、UL94規格(1991年6月18日付のUL Test No.UL94)に準拠して、垂直燃焼試験を行い、難燃性を評価した。評価は、当該規格に記載されている基準に基づいて行った。
成形機:ソディック社製、ツパールTR40S3A
成形機シリンダー温度:各ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0089】
【表1】
【0090】
上記表1に示すように、ポリアミド(A)としてポリアミド6T/66を含むポリアミド樹脂組成物に、軟化点が100℃超であるノボラック型フェノール樹脂(B)を混合した場合(比較例5)、ノボラック型フェノール樹脂(B)を混合しない場合(比較例1)と比較して、流動長が殆ど変化しなかった。これに対し、ポリアミド(A)としてポリアミド6T/66を含むポリアミド樹脂組成物に、軟化点が100℃以下であるノボラック型フェノール樹脂を混合した場合(実施例1~6)には、ノボラック型フェノール樹脂を混合しない場合(比較例1)と比較して、曲げ強度や靭性について、多少の低下が多少見られたものの許容範囲であり、さらに流動長が格段に良好になった。特に、ノボラック型フェノール樹脂の分子量が735である場合(実施例3および4)、および466である場合(実施例1および2)に良好な結果が得られた。ただし、軟化点が100℃以下であるノボラック型フェノール樹脂であっても、その添加量が、ポリアミド樹脂(A)およびノボラック型フェノール樹脂(B)の合計質量に対して10質量%以上になるとリフロー耐熱性が低下し、難燃性も低下した(比較例2~4)。
【0091】
なお、ポリアミド(A)として、ポリアミド6T/6Iを使用した場合、軟化点が100℃以下であるノボラック型フェノール樹脂を添加することで、流動長が長くなり、同様の結果が得られた(比較例6、実施例7)。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば成形時の流動性加工性が良好であり、かつ機械的強度も良好なポリアミド樹脂組成物が提供される。したがって、産業資材用、自動車用、電気・電子用、工業用等、様々な用途において非常に有用である。
図1