(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125661
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/02 20060101AFI20240911BHJP
D06F 57/12 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
E04H1/02
D06F57/12 C
D06F57/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033627
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】藤山 晴司
【テーマコード(参考)】
2E025
【Fターム(参考)】
2E025AA01
2E025AA03
2E025AA15
2E025AA22
(57)【要約】
【課題】 洗濯物等の室内干しを効率よく行うことが可能な建物を提供する。
【解決手段】 本発明の住宅Hは、複数の階を有し、互いに隣り合う2つの階に跨る吹き抜け空間Fと、2つの階のうち、上方に位置する階の天井に敷設されたレール10と、洗濯物を吊るためのハンガー40を保持しながら、レール10に沿って移動可能な移動体30と、を備える。レール10の敷設経路は、天井から下方を見た場合に無端状である循環経路Uを含み、循環経路Uの一部分が吹き抜け空間F内に位置する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階を有する建物であって、
互いに隣り合う2つの階に跨る吹き抜け空間と、
前記2つの階のうち、上方に位置する階の天井に敷設されたレールと、
被乾燥体を吊るための吊り具を保持しながら、前記レールに沿って移動可能な移動体と、を備え、
前記レールの敷設経路が、前記天井から前記レールを見た場合に無端状である循環経路を含み、
前記循環経路の一部分が前記吹き抜け空間内に位置する、建物。
【請求項2】
前記レールに沿って移動するための駆動力を前記移動体に付与する駆動力付与装置と、
前記循環経路において前記移動体が循環するように前記駆動力付与装置を制御する制御装置と、を備える、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記制御装置は、前記駆動力付与装置を制御することにより、前記レールの敷設経路における前記移動体の位置を変更する、請求項2に記載の建物。
【請求項4】
前記制御装置は、前記駆動力付与装置を制御することにより、前記移動体が前記循環経路を移動する際の移動速度を変更する、請求項2に記載の建物。
【請求項5】
前記制御装置は、前記駆動力付与装置を制御することにより、前記移動体が前記循環経路を移動する際の方向を切り換える、請求項2に記載の建物。
【請求項6】
前記レールの敷設経路は、前記循環経路としての複数の循環経路を含み、
前記複数の循環経路のうち、前記移動体が移動する一つの循環経路を切り換えるための経路切り換え機構が設けられ、
前記制御装置は、前記経路切り換え機構を制御することにより、前記移動体が循環する一つの循環経路を切り換える、請求項2に記載の建物。
【請求項7】
前記複数の循環経路には、第1循環経路及び第2循環経路が含まれ、
前記第2循環経路のうち、前記吹き抜け空間内に位置する部分の割合が、前記第1循環経路のうち、前記吹き抜け空間内に位置する部分の割合に比べて大きい、請求項6に記載の建物。
【請求項8】
前記移動体が複数備えられ、複数の前記移動体の各々が前記レールに沿って移動可能であり、
前記駆動力付与装置が前記移動体毎に備えられており、
前記制御装置は、前記移動体毎に備えられた前記駆動力付与装置を前記駆動力付与装置毎に制御する、請求項2に記載の建物。
【請求項9】
前記吹き抜け空間内には、前記上方に位置する階の天井に取り付けられた送風機が設けられている、請求項1に記載の建物。
【請求項10】
前記送風機は、鉛直方向に沿った回転軸を中心に回転し、前記吹き抜け空間の下方に向かって送風するファンである、請求項9に記載の建物。
【請求項11】
前記上方に位置する階には、前記吹き抜け空間を含む複数の空間が存在し、
前記レールは、前記複数の空間のうち、2以上の空間を通過するように敷設されている、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の階を有する建物に係り、特に、洗濯物等の室内干しに適した構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉等の付着を防止する目的、夜間に洗濯を行う生活スタイルへの移行、あるいは、プライバシー保護等の観点から、洗濯物を建物内で干すこと、いわゆる室内干しを行う人が増えている。室内干しを行う上では、建物内において洗濯物を干すスペースを確保しつつ、洗濯物を効率よく乾かせるような建物の構成が求められる。
【0003】
室内干しが実施可能な建物の一例としては、特許文献1に記載の建物が挙げられる。特許文献1に記載の建物では、2階から開口を通って吹き抜け空間に抜けるレールを外壁内面に取り付けるとともに、当該レールに物干し竿を走行自在に取り付けており、物干し竿を駆動機構の動力によってレールに沿って走行させることができる。このような構成によれば、2階の空間にて物干し竿に掛けた洗濯物を吹き抜け空間に向けて前進させることができ、乾燥が終了した洗濯物を吹き抜け空間から回収することができるため、吹き抜け空間を物干しスペースとして有効に利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の建物では、物干し竿が吹き抜け空間に対して出入りするようにレールが直線状に敷設されているが、かかるレールの敷設経路では、物干し竿及び物干し竿に掛けられた洗濯物の移動範囲が制限されてしまう。一方で、洗濯物の移動範囲については、より効率よく室内干しを行うことができる観点で設計されることが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、洗濯物等の室内干しを効率よく行うことが可能な建物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、本発明の建物によれば、複数の階を有する建物であって、互いに隣り合う2つの階に跨る吹き抜け空間と、2つの階のうち、上方に位置する階の天井に敷設されたレールと、被乾燥体を吊るための吊り具を保持しながら、レールに沿って移動可能な移動体と、を備え、レールの敷設経路が、天井からレールを見た場合に無端状である循環経路を含み、循環経路の一部分が吹き抜け空間内に位置することにより解決される。
上記の構成であれば、レールの敷設経路が循環経路をなし、その一部分が吹き抜け空間内に位置する。この循環経路において被乾燥体を移動させることで、被乾燥体を効率よく乾燥させることができ、建物において室内干しに係る作業を効率よく行うことができる。
【0008】
また、上記の建物は、レールに沿って移動するための駆動力を移動体に付与する駆動力付与装置と、循環経路において移動体が循環するように駆動力付与装置を制御する制御装置と、を備えると、好適である。
上記の構成によれば、駆動力付与装置を制御して、循環経路における移動体の位置を調整することで、被乾燥体を効率よく乾燥させることができる。
【0009】
また、上記の建物において、制御装置は、駆動力付与装置を制御することにより、レールの敷設経路における移動体の位置を変更すると、より好適である。
上記の構成によれば、被乾燥体を効率よく乾燥させることができるように移動体の位置を変更することができる。
【0010】
また、上記の建物において、制御装置は、駆動力付与装置を制御することにより、移動体が循環経路を移動する際の移動速度を変更すると、さらに好適である。
上記の構成によれば、被乾燥体を効率よく乾燥させることができるように移動体を適当な移動速度にて循環経路において循環させることができる。
【0011】
また、上記の建物において、制御装置は、駆動力付与装置を制御することにより、移動体が循環経路を移動する際の方向を切り換えると、なお一層好適である。
上記の構成によれば、被乾燥体を効率よく乾燥させることができるように、移動体が循環経路を移動する際の方向を切り換えることができる。
【0012】
また、上記の建物において、レールの敷設経路は、循環経路としての複数の循環経路を含んでもよい。また、複数の循環経路のうち、移動体が循環する一つの循環経路を切り換えるための経路切り換え機構が設けられてもよい。この場合、制御装置は、経路切り換え機構を制御することにより、移動体が移動する一つの循環経路を切り換えると、より好適である。
上記の構成によれば、被乾燥体をより効率よく乾燥させることができるように、複数の循環経路のうち、移動体が移動する循環経路を状況等に応じて切り換えることができる。
【0013】
また、上記の建物において、複数の循環経路には、第1循環経路及び第2循環経路が含まれてもよい。かかる構成において、第2循環経路のうち、吹き抜け空間内に位置する部分の割合が、第1循環経路のうち、吹き抜け空間内に位置する部分の割合に比べて大きいと、より好適である。
上記の構成によれば、第1循環経路と第2循環経路のうち、移動体が移動する循環経路を状況等に応じて切り換えることができる。例えば、被乾燥体をより効率よく乾燥させる場合には、吹き抜け空間に位置する部分の割合がより大きい第2循環経路において移動体を移動させることができる。
【0014】
また、上記の建物において、移動体が複数備えられ、複数の移動体の各々がレールに沿って移動可能であり、駆動力付与装置が移動体毎に備えられてもよい。かかる構成においいて、制御装置は、移動体毎に備えられた駆動力付与装置を駆動力付与装置毎に制御すると、より好適である。
上記の構成によれば、各移動体が保持する吊り具に吊るされた被乾燥体の状態に応じて、各移動体の位置、移動速度、及び、移動する循環経路等を移動体毎に個別に調整することができる。これにより、建物内において、被乾燥体をより一層効率よく乾燥させることができる。
【0015】
また、上記の建物において、吹き抜け空間内には、上方に位置する階の天井に取り付けられた送風機が設けられてもよい。この場合、送風機は、鉛直方向に沿った回転軸を中心に回転し、吹き抜け空間の下方に向かって送風するファンであってもよい。
上記の構成によれば、吹き抜け空間において、送風機から送られてくる風を利用して、被乾燥体の乾燥を促進させることができる。
【0016】
また、上記の建物において、上方に位置する階には、吹き抜け空間を含む複数の空間が存在してもよい。かかる構成において、レールは、複数の空間のうち、2以上の空間を通過するように敷設されていると、より好適である。
上記の構成によれば、移動体が、レールに沿って移動することで、上方に位置する階に存在する複数の空間の各々に移動することができる。これにより、移動体が保持する吊り具に吊るされた被乾燥体を、状況等に応じて適当な空間内に移動させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、洗濯物等の室内干しを効率よく行うことが可能な建物が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】本発明の一つの実施形態に係る建物の1階の間取りを示す図である。
【
図1B】本発明の一つの実施形態に係る建物の2階の間取りを示す図である。
【
図2】吹き抜け空間における物干し構造を示す図である。
【
図3】本発明の一つの実施形態に係る建物におけるレールの敷設経路を示す図である。
【
図4】本発明の一つの実施形態に係る建物内で利用されるレール及び移動体を示す図である。
【
図5】本発明の一つの実施形態に係る制御装置を含む制御系統を示す図である。
【
図6】移動体が移動する循環経路についての説明図である。
【
図7】本発明の変形例に係る建物の上階における間取りを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<<本発明の一つの実施形態に係る建物について>>
以下、本発明の一つの実施形態(以下、本実施形態)に係る建物について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0020】
なお、図面では、説明を分かり易くするために幾分簡略化及び模式化して各部材を図示している。また、図中に示す各部材のサイズ(寸法)及び部材間の間隔等についても、実際のものとは異なっている。
また、以下に説明する各部材の位置、向き及び姿勢等は、特に断る場合を除き、その部材が使用されている状態にあるときの位置、向き及び姿勢等であることとする。
【0021】
また、以降の説明では、住宅を建物の一例として挙げることとする。ただし、本発明の建物は、その内部で洗濯物等が干されるもの、すなわち、室内干しが行われる建物であればよく、住宅以外の建物、例えば、施設、工場及び建屋等でもよい。ここで、洗濯物等は、本発明の「被乾燥体」に相当し、洗濯物、及び、洗濯物以外に乾かす必要がある物(例えば、意図せずに水に濡れてしまった物)を含む。
【0022】
本実施形態に係る住宅は、複数の階を有する住宅(以下、住宅H)であり、例えば、
図1A及び1Bに示すように、2階建ての住宅である。なお、住宅Hが有する階の数は、2以上であればよく、任意の数であってもよい。
【0023】
住宅Hにおいて互いに隣り合う2つの階、すなわち1階及び2階の各々には、
図1A及び1Bに示すように、複数の空間(具体的には、部屋及びスペース)が存在する。特に、上方に位置する階である2階には、衣服用の収納空間としてのウォークインクローゼットW、主寝室S、及び部屋間の通路等が存在する。
【0024】
また、住宅Hには、
図2に示すように、1階及び2階に跨る吹き抜け空間Fが設けられている。また、住宅Hにおいて、吹き抜け空間Fと隣接する外壁、詳しくは2階に位置する外壁には、採光用の窓Mが設けられている。これにより、吹き抜け空間Fの上部では、窓Mを透過した日光によって空気が温められる。また、1階で暖房機器等の使用によって温められた空気が吹き抜け空間Fに流入して上昇することにより、吹き抜け空間Fの上部が温められる。
【0025】
また、
図2に示すように、吹き抜け空間F内には、2階の天井に取り付けられた送風機としてのシーリングファンCが設けられている。シーリングファンCは、鉛直方向に沿った回転軸を中心に回転することで、吹き抜け空間Fの下方に向かって送風するファンである。
【0026】
なお、2階に存在する複数の空間は、吹き抜け空間Fを含んでいればよく、空間の数、及び各空間の用途については、特に限定されるものではない。また、2階における空間のレイアウトについても特に限定されない。また、
図1B等に示すように、2階に存在する複数の空間のうち、吹き抜け空間Fと隣り合う空間と吹き抜け空間Fとの境界位置には、腰壁Kが設けられているとよい。
【0027】
住宅Hは、室内干しに適した構造を有しており、この構造により、
図2に示すように吹き抜け空間Fを利用して洗濯物を干すことができる。この結果、例えば、ベランダのような洗濯物を干すためのスペースを住宅Hの外(屋外)に確保する必要がなくなる。
【0028】
また、住宅Hにおける室内干し用の構造では、洗濯物を吊るための吊り具としてのハンガー40を、2階において自由に移動させることができ、例えば、乾いた洗濯物を吊るしたハンガー40をウォークインクローゼットWに置いておくことができる。
【0029】
住宅Hにおける室内干し用の構造について説明すると、この構造は、
図2~6に示すように、レール10、及び移動体30を主たる構成要素として備えている。レール10は、
図2に示すように2階の天井に敷設されたレールであり、移動体30は、レール10に沿って移動可能に構成されている。つまり、レール10は、住宅H内における移動体30の移動範囲を規定している。
【0030】
なお、住宅Hが3以上の階を有し、吹き抜け空間Fが、3以上の階に跨って設けられている場合には、3以上の階のうち、最上階の天井にレール10が敷設されるとよい。また、レール10の構造としては、住宅の天井に設置され公知のレール、例えば、ライトレール及びピクチャレール等と同様の構造が利用可能である。
【0031】
レール10は、略水平方向に延出している。レール10の敷設経路は、特に限定されないが、本実施形態では、
図3に示すように、レール10が、2階に存在する2以上の空間(詳しくは、吹き抜け空間F、ウォークインクローゼットW、及び主寝室S)のそれぞれを通過するように敷設されている。つまり、レール10の一部分が、
図3に示すように、吹き抜け空間F内に位置しており、レール10のうち、吹き抜け空間F内に位置する部分とは異なる部分が、ウォークインクローゼットW及び主寝室S等に位置している。
【0032】
レール10の構成について詳しく説明すると、レール10は、
図3に示すように、互いに平行となるように敷設された第1レール部分12及び第2レール部分14とを有する。第1レール部分12は、その延出方向の一端側の部分が吹き抜け空間F内に位置し、且つ、他端側の部分が主寝室S内に位置するように直線状に敷設されている。第2レール部分14は、その延出方向の一端側の部分がウォークインクローゼットW内に位置し、且つ、他端側の部分が主寝室S内に位置するように直線状に敷設されている。
【0033】
また、レール10は、
図3に示すように、第1レール部分12及び第2レール部分14のそれぞれの、主寝室S側に位置する端部同士を連絡する第3レール部分16と、主寝室Sとは反対側の端部同士を連結する第4レール部分18と、を有する。つまり、本実施形態において、第1~第4レール部分12、14、16、18は、
図3に示すように、平面視で略矩形状の経路をなすように敷設されている。
【0034】
換言すると、本実施形態におけるレール10の敷設経路は、平面視で無端状の経路を含んでいる。この無端状の経路は、移動体30が移動する循環経路Uをなし、循環経路Uの一部分は、吹き抜け空間F内に位置する。ここで、レール10を平面視するとは、2階の天井からレール10側、すなわち下方を見ることを意味する。
【0035】
さらに、レール10は、
図3に示すように、第1レール部分12の延出方向中途箇所と第2レール部分14の延出方向中途箇所とを連絡する第5レール部分20を有する。この第5レール部分20が設けられていることで、レール10がなす循環経路Uには、
図3に示すように、複数の循環経路が含まれている。
【0036】
具体的に説明すると、
図3に示すように、第1~第4レール部分12、14、16、18によって主循環経路Uaが構成されている。また、第1レール部分12と第2レール部分14と第4レール部分18と第5レール部分20によって東側循環経路Ubが構成されており、第1レール部分12と第2レール部分14と第3レール部分16と第5レール部分20によって西側循環経路Ucが構成されている。
【0037】
以上のように、本実施形態におけるレール10の敷設経路は、循環経路Uとしての複数の循環経路を含んでおり、
図3に示すケースでは、3つの循環経路Ua、Ub、Ucを含んでいる。ここで、主循環経路Ua及び西側循環経路Ucは、第1循環経路に相当し、東側循環経路Ubは、第2循環経路に相当する。第2循環経路は、第1循環経路に比べて、吹き抜け空間F内に位置する部分の割合が大きい循環経路である。吹き抜け空間F内に位置する部分の割合とは、その循環経路を構成するレールの長さ(全長)に対する、吹き抜け空間F内に位置する部分を構成するレールの長さの比率である。
【0038】
また、
図3に示すように、第1レール部分12と第5レール部分20との交差部分、及び、第2レール部分14と第5レール部分20との交差部分には、経路切り換え機構22が設けられている。経路切り換え機構22は、複数の循環経路(具体的には、3つの循環経路Ua、Ub、Uc)のうち、移動体30が移動する一つの循環経路を切り換えるための機構である。経路切り換え機構22は、例えば、公知の分岐器、具体的にはレール構造におけるポイント切換え用の機構等からなる。経路切り換え機構22が作動することで、移動体30が移動する一つの循環経路が、3つの循環経路Ua、Ub、Ucの中で切り換えられる。
【0039】
移動体30は、
図4に示すように、吊り具としてのハンガー40を保持しながらレール10に沿って移動可能に構成されており、走行部32、垂下部34及び保持部36を備える。走行部32は、レール10に係合された状態でレール10に沿って移動する部分である。走行部32は、回転ローラを備え、この回転ローラがモータ38から駆動力を受けてレール10の表面に当接しながら回転することでレール10上を移動する。このように、本実施形態の移動体30は、電動式の機器であり、駆動力付与装置としてのモータ38から駆動力(回転力)が付与されることで、レール10に沿って移動する。
なお、走行部30は、レール10に係合された状態でレール10に沿って移動可能な構成であれば制限なく利用することができ、その構成を採用した公知の機器を利用してもよい。また、駆動力付与装置についても、走行部30に駆動力を付与するものであれば制限なく利用可能であり、その構成を採用した公知の装置を利用してもよい。
【0040】
垂下部34は、その上端部が走行部32に支持された状態で下方に垂下しており、走行部32の移動時には、走行部32と一体的にレール10に沿って移動する。また、垂下部34の下端部には、保持部36が固定されている。また、本実施形態に係る垂下部34は、
図4に示すように、上下に伸縮可能な構成であり、垂下部34内には、垂下部34を伸縮させるためのアクチュエータ(不図示)が搭載されている。垂下部34の長さの上限(最も伸びたときの長さ)と下限(最も縮んだときの長さ)との差、すなわち伸縮可能量は、0.5m~1.5m程度であるとよい。
なお、垂下部34を伸縮させるための構成は、後述するように所望のタイミングで垂下部34を伸縮させることが可能な構成であればよく、公知の構成を利用してもよい。
【0041】
保持部36は、
図4に示すようにハンガー40を保持する部分であり、例えば、ハンガー40の上端部に設けられたフック部を引っ掛けるリングによって構成されている。保持部36は、走行部32の移動時に走行部32及び垂下部34とともにレール10に沿って移動し、また、垂下部34の伸縮に伴って上下移動する。
なお、保持部36の構成については、特に限定されず、ハンガー40を保持できる構成であれば制限なく利用可能であり、例えば、フック型の保持機構、ハンガー40の上部と嵌合する保持機構、又は磁石を利用した保持機構等を保持部36として用いてもよい。
【0042】
上述した移動体30が設けられていることにより、住宅Hの2階において洗濯物をレール10に沿って移動させることができる。つまり、本実施形態では、住宅Hの2階に存在する複数の空間(詳しくは、吹き抜け空間F、ウォークインクローゼットW、及び主寝室S)のうちのいずれかの空間に洗濯物を配置することができる。
【0043】
また、本実施形態では、
図2に示すように移動体30が複数設けられており、それぞれの移動体30に対して、駆動力付与装置としてのモータ38が備えられている。つまり、モータ38は、移動体30毎に設けられており、各移動体30は、各移動体30専用のモータ38からの駆動力が付与されることで、独立して(換言すると、移動体30同士が分離した状態で)レール10に沿って移動することができる。
【0044】
また、本実施形態において、各移動体30に対して設けられたモータ38は、回転速度、回転方向、及び回転時間等が調整可能な構成となっている。モータ38の回転速度及び回転方向が変わることにより、そのモータ38からの駆動力によって移動する移動体30の移動速度、及び移動方向(詳しくは、循環経路Uを循環する際の向き)が変化する。また、モータ38の回転時間が変わることにより、そのモータ38からの駆動力によって移動する移動体30の移動距離が変化し、その結果、レール10の敷設経路(すなわち、循環経路U)における移動体30の位置が変化する。
【0045】
なお、移動体30及びモータ38のそれぞれの個数については、特に限定されず、任意の個数に設定することができる。
【0046】
また、本実施形態において、住宅Hには、
図5に示すコントローラ50が設けられている。コントローラ50は、制御装置の一例であり、移動体30に対して設けられたモータ38を制御する。具体的に説明すると、コントローラ10は、モータ38(厳密には、モータに搭載された制御回路38a)と無線形式で通信し、モータ38のオンオフ及び回転状態を制御する。
【0047】
そして、本実施形態では、コントローラ10が、レール10がなす循環経路Uにおいて移動体30が循環するようにモータ38を制御する。これにより、移動部30が保持するハンガー40に吊るされた洗濯物が、循環経路Uに沿って2階の各空間を移動する。このように洗濯物が循環経路Uに沿って移動(循環)することで自然気流が発生し、その気流を利用して効率よく洗濯物を乾かすことができる。
【0048】
また、コントローラ50は、モータ38の回転時間を制御することにより、レール10の敷設経路における移動体30の位置を変更する。これにより、2階において洗濯物の配置位置を変えることができる。例えば、モータ38の回転時間を制御することで、移動体30及び洗濯物を吹き抜け空間F内に配置することができ、その結果、洗濯物を吹き抜け空間F内で乾かすことができる。これにより、通常はデッドスペースである吹き抜け空間Fを室内物干し用のスペースとして有効に利用することができる。そして、洗濯物が吹き抜け空間F内に配置された状態でモータ38を停止させておくことにより、洗濯物を吹き抜け空間F内で保持しておくことができる。
【0049】
また、吹き抜け空間Fの上部、すなわち2階に位置する部分は、温かい空気が滞留しているので室内物干しに適しており、この空間に洗濯物を配置することで、より効果的に洗濯物を乾かすことができる。さらに、吹き抜け空間Fの天井には、シーリングファンCが設置されており、シーリングファンCから下方に向かって風が送られるため、吹き抜け空間F内の洗濯物の乾燥を促進させることができる。
【0050】
また、来客時のために吹き抜け空間F内に洗濯物を配置させたくない場合、あるいは乾いた洗濯物を取り込む場合等には、モータ38を制御することで、洗濯物を吹き抜け空間F以外の空間に配置することができる。また、2階の各箇所における日当たりや日射量等に応じてモータ38を制御することで、洗濯物が乾きやすい空間(例えば、南面側の空間)に洗濯物を配置することができる。
【0051】
また、コントローラ50は、モータ38の回転速度を制御することにより、移動体30が循環経路Uを移動する際の移動速度を変更することができる。これにより、例えば、移動速度をより早くする場合には、洗濯物の移動によって発生する自然気流の勢いを強めることができ、この気流を利用して洗濯物の乾燥をより一層促進させることができる。また、移動速度をより遅くした場合には、乾いた洗濯物が吊るされたハンガー40を移動体30から取り外すことが容易になる。
【0052】
また、コントローラ50は、モータ38の回転方向を制御することにより、移動体30が循環経路Uを移動する際の方向を切り換えることができる。これにより、循環経路Uにおいて、例えば、より乾きやすい向きにて洗濯物を移動(循環)させることができる。
【0053】
また、本実施形態では、移動体30毎にモータ38が備えられており、コントローラ50は、移動体30毎に備えられたモータ38をモータ38毎に制御することができる。これにより、各移動体30の位置及び移動速度等を移動体30毎に個別に調整することができる。このように各モータ38を個別に制御することで、例えば、乾かしている途中段階(未乾燥状態)の洗濯物を吹き抜け空間F内に配置する一方で、既に乾いた状態の洗濯物を吹き抜け空間F以外の空間内へ移動させることができる。
【0054】
また、コントローラ50は、前述した経路切り換え機構22(厳密には、経路切り換え機構22に搭載された制御回路)と無線形式で通信して、経路切り換え機構22を制御する。これにより、レール10の敷設経路がなす複数の循環経路Ua、Ub、Ucの中で移動体30が循環する一つの循環経路を切り換えることができる。
【0055】
以上のように本実施形態では、移動体30が循環する循環経路を状況等に応じて切り換えて、その時点で好適な循環経路にて移動体30を循環させることができる。例えば、洗濯物を乾燥させる期間中には、
図6に示すように、吹き抜け空間F内に位置する部分の割合がより大きい東側循環経路Ub(
図6中の黒塗り矢印が示す経路)にて移動体30を循環させる。これにより、洗濯物を吹き抜け空間F内に極力留めておくことができるので、洗濯物を効率よく乾かすことができる。また、吹き抜け空間F以外の空間に洗濯物が置かれることの影響(例えば、洗濯物がその空間の使用の邪魔になること)を緩和させることができる。
【0056】
他方、洗濯物の乾燥が終了した後の期間には、主循環経路Ua(
図6中の白抜き矢印が示す経路)にて移動体30を循環させる。これにより、2階においてユーザ(住宅Hの居住者)がアクセスし易い場所、例えば、主寝室S等を洗濯物が通過するようになるため、乾いた洗濯物を取り込みやすくなる。
【0057】
また、コントローラ50は、移動体30の垂下部34に内蔵されたアクチュエータ(厳密には、アクチュエータに搭載された制御回路)と無線形式で通信して、アクチュエータを制御する。これにより、垂下部34が伸縮して垂下部34の長さ、すなわち上下方向における移動体30の長さを変えることができる。このように移動体30の上下方向長さを変えることで、移動体30に保持されたハンガー40に吊るされた洗濯物の位置を上下方向において調整することができる。例えば、洗濯物を乾かす際には、乾きやすさの観点から、その洗濯物を上昇させる一方で、洗濯物を取り込む際には、その洗濯物を、ユーザが届きやすい位置まで下げることができる。
【0058】
なお、上述したコントローラ50による制御は、住宅H内に設けられた不図示の制御パネルを通じてユーザが指示することで行われてもよい。また、ユーザがスマートフォン又はタブレット端末にインストールされたアプリケーションプログラムを起動した場合に、これをトリガーとして、コントローラ50による制御が行われてもよい。
あるいは、上述したコントローラ50による制御がタイマー制御形式にて行われてもよい。具体的には、予め決まったタイムスケジュールに従って、各時刻において、その時刻に対して設定された制御条件の下でコントローラ50が上述の制御を実行してもよい。
あるいは、コントローラ50に人工知能(AI:Artificial Intelligence)が実装されてもよい。具体的には、ユーザの行動パターンや洗濯物の乾きやすさ等に関する機械学習を行い、その学習結果に基づいてコントローラ50による制御が自動的に行われてもよい。
【0059】
<<その他の実施形態について>>
以上までに、本発明の建物に関する一つの実施形態を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれることは勿論である。
【0060】
上記の実施形態では、洗濯物を吊るための吊り具としてハンガー40を例に挙げ、移動体30の保持部36には、ハンガー40の上端部が引っ掛けられて保持されるケースについて説明した。ただし、これに限定されず、保持部36には洗濯物干し用の棒体、すなわち物干し竿が吊り具として保持されてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態では、移動体30がモータ38の駆動力によって動く電動式の機器であることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、移動体は、不図示の牽引ワイヤに接続されていて、当該牽引ワイヤがユーザ(例えば、住宅Hの居住者)によって牽引されることで動く手動型の機器でもよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、移動体30毎にモータ38が備えられており、コントローラ50が、移動体30毎に備えられたモータ38をモータ38毎に個別制御することとした。ただし、これに限定されず、コントローラ50は、移動体30毎に備えられたモータ38を一括して制御することとしてもよい。ただし、上記の実施形態では、各モータ38を個別に制御することにより、それぞれの洗濯物の位置及び移動速度を洗濯物毎に調整できる。かかる点においては、上記の実施形態の方が好ましい。
【0063】
また、
図3に示したレール10の敷設経路は、あくまでも一例であり、レール10が設置される天井を有する階の間取りに応じて適宜設計されるとよい。例えば、
図7に示す間取りであれば、同図に示す経路でレール10を敷設してもよい。
図7に示す間取りは、2階(最上階)の間取りであり、吹き抜け空間F及び渡り廊下Rの空間が存在し、そのうち、吹き抜け空間Fが2階の大半を占めている。
【0064】
上記のような間取りに対しては、互いに平行となるように配置された第1レール部分12及び第2レール部分14と、これらの延出方向端部同士を連結する第3レール部分16及び第4レール部分18とを敷設して、矩形状(無端状)の循環経路Uを形成してもよい。ここで、第1レール部分12は、吹き抜け空間F内で直線状に延出しており、第2レール部分14は、渡り廊下Rに沿って直線状に延出している。また、第3レール部分16及び第4レール部分18のそれぞれの中途箇所の間が、第5レール部分20によって連絡されている。これにより、レールがなす循環経路Uには、
図7に示すように、複数の循環経路が含まれている。これら複数の循環経路のうち、第1レール部分12、第3レール部分16、第4レール部分18及び第5レール部分20によって構成される循環経路は、
図7に示すように、その略全体が吹き抜け空間F内に配置されている。そのため、洗濯物を乾かす際には、かかる循環経路にて移動体30を循環させるのが好ましい。
【0065】
また、上記の実施形態では、2階(上方に位置する階)に存在する複数の空間のすべてを通過するようにレール10が敷設されているケースを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。レール10は、2階に存在する複数の空間のうち、少なくとも2以上の空間を通過するように敷設されていればよく、一部の空間をレール10が通過しない構成であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 レール
12 第1レール部分
14 第2レール部分
16 第3レール部分
18 第4レール部分
20 第5レール部分
22 経路切り換え機構
30 移動体
32 走行部
34 垂下部
36 保持部
38 モータ(駆動力付与装置)
38a 制御回路
40 ハンガー(吊り具)
50 コントローラ(制御装置)
C シーリングファン(送風機、ファン)
F 吹き抜け空間
H 住宅(建物)
K 腰壁
M 窓
R 渡り廊下
S 主寝室
U 循環経路
Ua 主循環経路(第1循環経路)
Ub 東側循環経路(第2循環経路)
Uc 西側循環経路(第1循環経路)
W ウォークインクローゼット