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特開2024-125677車載機器、車載機器制御方法、車載機器制御プログラムおよび車載機器制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125677
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】車載機器、車載機器制御方法、車載機器制御プログラムおよび車載機器制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240911BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
F02D45/00 345
B60R16/02 660M
F02D45/00 360Z
F02D45/00 395
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033654
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】391008559
【氏名又は名称】株式会社トランストロン
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】鬼丸 浩
(72)【発明者】
【氏名】奥秋 克夫
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384CA01
3G384CA25
3G384DA04
3G384DA11
3G384DA27
3G384DA42
3G384EE28
3G384FA66
(57)【要約】
【課題】バッテリーで動作する車載機器における不要な退避処理を低減する。
【解決手段】車載バッテリー100を電源として動作する車載機器1は、車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得部21と、車載機器に当該車載機器の不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理部26と、供給電圧に基づいて退避処理の要否を決定する決定部25と、を備える。決定部25は、供給電圧が第1閾値より低い場合に、最初に電圧取得部21により取得された初期電圧および供給電圧の低下の速度に基づいて退避処理の要否を決定する。
【選択図】 図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載バッテリーを電源として動作する車載機器であって、
前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得部と、
不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理部と、
前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を判定する決定部と、
を備え、
前記決定部は、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、最初に前記電圧取得部により取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定する
ことを特徴とする車載機器。
【請求項2】
前記電圧取得部により取得された電圧に基づいて、前記供給電圧の低下の要因を判定する要因判定部と、
前記第1閾値より小さい第2閾値を設定する閾値設定部をさらに備え、
前記第1閾値は、クランキング動作中における最低電圧より高く、
前記閾値設定部は、前記供給電圧が前記第1閾値より低くなった場合に、前記初期電圧と前記供給電圧の低下の速度に基づいて要因を判定し、
前記閾値設定部は、前記要因判定部による判定結果に基づいて前記第2閾値を設定し、
前記決定部は、前記供給電圧が前記第2閾値より低い場合に前記退避処理を行うことを決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載機器。
【請求項3】
前記閾値設定部は、前記供給電圧が前記第1閾値より低い場合に、前記供給電圧の低下の速度と傾き閾値とを比較した結果に基づいて前記第2閾値を異ならせる
ことを特徴とする請求項2に記載の車載機器。
【請求項4】
前記初期電圧と前記供給電圧の低下の速度と前記最低電圧との対応関係を示すマトリクス表が記憶された記憶部を備え、
前記閾値設定部は、前記マトリクス表に基づいて前記最低電圧を推定し、当該推定した結果に基づいて前記第2閾値を設定する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車載機器。
【請求項5】
前記マトリクス表には、前記供給電圧の最低値が前記最低電圧として、前記初期電圧及び前記供給電圧の低下の速度と対応付けて格納される
ことを特徴とする請求項4に記載の車載機器。
【請求項6】
車載バッテリーを電源として動作する車載機器を制御する車載機器制御方法であって、
前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得ステップと、
前記車載機器に当該車載機器の不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理ステップと、
前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を決定する決定ステップと、
を含み、
前記決定ステップは、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、前記電圧取得ステップにより最初に取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定する
ことを特徴とする車載機器制御方法。
【請求項7】
車載バッテリーを電源として動作する車載機器を制御する車載機器制御プログラムであって、
コンピュータを、
少なくとも
前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得部と、
前記車載機器に当該車載機器の不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理部と、
前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を判定する決定部と、
として機能させ、
前記決定部は、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、最初に前記電圧取得部により取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定する
ことを特徴とする車載機器制御プログラム。
【請求項8】
車載バッテリーを電源として動作する車載機器を制御する車載機器制御装置であって、
前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得部と、
前記車載機器に当該車載機器の不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理部と、
前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を決定する決定部と、
を備え、
前記決定部は、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、最初に前記電圧取得部により取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定する
ことを特徴とする車載機器制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載機器、車載機器制御方法、車載機器制御プログラムおよび車載機器制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリーで動作する車載機器において、バッテリー電圧を監視し、バッテリー電圧が閾値以下になった場合にリセット等の退避処理を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、エンジン始動時のバッテリー電圧低下時においてもCPUのリセットを適切に実行する車載電子機器の制御システムであって、CPUをリセットするためのリセット閾値電圧を、エンジン始動期間において低く設定する車載機器の制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-088921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
閾値電圧を下回る場合と言っても、一度閾値電圧を下回るとそのまま低い電圧のままとなる場合(例えば、バッテリーラインの切断、外れ)や、一時的に電圧が低下しても時間の経過とともに回復する場合(例えば、エンジン始動時の電圧低下)があり得る。しかしながら、特許文献1に記載の制御システムにおいては、閾値電圧を下回ると全て退避処理(例えば、CPUのリセット)を行うため、一時的に電圧が低下しても時間の経過とともに回復する場合にも退避処理を行ってしまい、処理が中断されて正常動作ができなかったり、システムの再起動が必要になる等のおそれがある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、バッテリーで動作する車載機器における不要な退避処理を軽減することができる車載機器制御装置、車載機器制御方法、車載機器制御プログラム、および車載機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る車載機器は、例えば、車載バッテリーを電源として動作する車載機器であって、前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得部と、前記車載機器に当該車載機器の不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理部と、前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を判定する決定部と、を備え、前記決定部は、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、最初に前記電圧取得部により取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定することを特徴とする。
【0007】
本発明の他態様に係る車載機器制御方法は、例えば、車載バッテリーを電源として動作する車載機器を制御する車載機器制御方法であって、前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得ステップと、前記車載機器に当該車載機器の不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理ステップと、前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を決定する決定ステップと、を含み、前記決定ステップは、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、前記電圧取得ステップにより最初に取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定することを特徴とする。
【0008】
本発明の他態様に係る車載機器制御プログラムは、例えば、車載バッテリーを電源として動作する車載機器を制御する車載機器制御プログラムであって、コンピュータを、少なくとも前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得部と、前記車載機器に当該車載機器の不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理部と、前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を判定する決定部と、として機能させ、前記決定部は、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、最初に前記電圧取得部により取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定することを特徴とする。
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、CD-ROMなどのコンピュータ読取可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【0009】
本発明の他態様に係る車載機器制御装置は、例えば、車載バッテリーを電源として動作する車載機器を制御する車載機器制御装置であって、前記車載バッテリーから供給される供給電圧を取得する電圧取得部と、不具合を回避する退避処理を行わせる退避処理部と、前記供給電圧に基づいて前記退避処理の要否を判定する決定部と、を備え、前記決定部は、前記供給電圧が第1閾値より低い場合に、最初に前記電圧取得部により取得された初期電圧および前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記退避処理の要否を決定することを特徴とする。
【0010】
本発明の上記いずれかの態様では、初期電圧および供給電圧の低下の速度(グラフにしたときの傾き)に基づいて電圧低下がクランキング動作によるものか否かを判定し、その結果に基づいて退避処理の要否を決定するため、バッテリーで動作する車載機器における不要な退避処理を低減し、必要な場合にのみ退避処理を行わせることができる。なお、クランキング動作はエンジンを始動させる時の動作であり、エンジン始動時は大きな電力が必要となるため、バッテリー電圧の低下が発生する。
【0011】
前記第1閾値より小さい第2閾値を設定する閾値設定部をさらに備え、前記第1閾値は、クランキング動作中における最低電圧より高く、前記閾値設定部は、前記供給電圧が前記第1閾値より低くなった場合に、前記初期電圧と前記供給電圧の低下の速度に基づいて前記第2閾値を設定し、前記決定部は、前記供給電圧が前記第2閾値より低い場合に前記退避処理を行うことを決定してもよい。これにより、初期電圧および電圧低下の速度に応じてクランキング動作か否かを判定し、この結果に基づいて適切な第2閾値を設定することができる。また、供給電圧が第1閾値より低くなった場合であっても直ちに退避処理を行うことがないため、不要な退避処理を軽減できる。
【0012】
ここで、前記閾値設定部は、前記供給電圧が前記第1閾値より低い場合に、前記供給電圧の低下の速度と傾き閾値とを比較した結果に基づいて前記第2閾値を異ならせるものとしてもよい。これにより、第2閾値を適切な値とし、不要な退避処理を軽減できる。
【0013】
ここで、前記初期電圧と前記供給電圧の低下の速度と前記最低電圧との対応関係を示すマトリクス表が記憶された記憶部を備え、前記閾値設定部は、前記マトリクス表に基づいて前記最低電圧を推定し、当該推定した結果に基づいて前記第2閾値を設定するものとしてもよい。これにより、マトリクス表に則してクランキング動作中の最低電圧を精度よく推定することができる。また、最低電圧の推定精度が高くなることで、適切な第2閾値を設定することができる。
【0014】
ここで、前記マトリクス表には、前記供給電圧の最低値が前記最低電圧として、前記初期電圧及び前記供給電圧の低下の速度と対応付けて格納されていてもよい。これにより、本車両におけるクランキング動作中の最低電圧の実績値を収集し、学習することができるので、次回以降の処理においてクランキング動作をより精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バッテリーで動作する車載機器における不要な退避処理を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る車載機器1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2】車載機器1の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
図3】車両のクランキング動作時における、車載バッテリー100からの供給電圧Vtの様子を示す模式的なグラフである。
図4】車載機器1が備える記憶部に記憶されている、マトリクス表T1の一例を示す図である。
図5】車載機器1による処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】最低電圧Us6と傾きVBgとの相関を示す図の一例である。
図7】相関を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る車載機器1の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。車載機器1は、バッテリーで動作し、かつ、バッテリーから印加される供給電圧を監視し、所定の条件に基づいてデータの退避やリセット等の退避処理を行う装置である。
【0018】
図1は、車載機器1の構成例を示すブロック図である。車載機器1は、車載バッテリー100に接続されている。本実施の形態では、車載機器1は、車両に搭載されたECU(Electronic Control Unit)に含まれる。
【0019】
なお、本発明は、車載機器に限られず、車載機器と車載バッテリー100の間に設けられた車載機器制御装置でもよい。車載機器制御装置は、本実施の形態のように車載機器とは別の装置であってもよいし、車載機器に内蔵される装置であってもよい。また、車載機制御装置は、車両に搭載されていてもよいし、車両以外に設けられていてもよい。車載機制御装置が車両以外に設けられている場合には、車載機制御装置、車載バッテリー100及び車載機器が無線通信等により接続されていればよい。
【0020】
車載機器1は、主として、入力回路11、ADコンバータ12、CPU(Central Processing Unit)13、RAM(Random Access Memory)14及びフラッシュROM15を備える。
【0021】
入力回路11は、車載バッテリー100と接続され、車載バッテリー100からの供給電圧が印加される回路である。入力回路11から出力される電圧は、ADコンバータ12を介してCPU13に入力される。
【0022】
CPU13は、中央演算装置であり、フラッシュROM15に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、車載機器1の動作を統括制御する。その結果、例えば、車載機器1に電圧が供給されるか否かが制御される。
【0023】
RAM14は、CPU13の主記憶装置である。RAM14は、一時的にデータを呼び出して処理するためのワークエリアである。
【0024】
フラッシュROM15は、CPU13の補助記憶装置であって、プログラムをはじめとしてCPU13が利用する各種の情報を記憶する。
【0025】
図2は、車載機器1の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。例えば、車載機器1は、上記したハードウェア構成により、主として、電圧取得部21と、要因判定部22と、閾値設定部23と、記憶部24と、決定部25と、退避処理部26の各機能部を備える。なお、記憶部24は車載機器1の外部に設けられていてもよく、記憶部24が車載機器1の外部に設けられている場合には記憶部24と車載機器1とが無線通信等により接続されていればよい。
【0026】
電圧取得部21は、車載バッテリー100から車載機器1に供給される電力の供給電圧を取得する機能部である。電圧取得部21には、電子回路等を用いた適宜の構成が採用できる。
【0027】
要因判定部22は、電圧取得部21により取得された電圧に基づいて、供給電圧の低下の要因を判定する機能部である。例えば、要因判定部22は、電圧低下が一時的であり回復が見込める要因であるか、回復が見込めない要因であるかを判定する。より具体的には、要因判定部22は、電圧低下がクランキング動作によるものか否かを判定する。
【0028】
図3は、車両のクランキング動作時における、車載バッテリー100から供給される電圧(供給電圧Vt)の様子を示す模式的なグラフである。車載バッテリー100から最初に供給される供給電圧Vtは初期電圧VBである。クランキング動作が開始されると、時間tfの間、初期電圧VBから電圧降下が起こり、供給電圧Vtは電圧Us6(以下、最低電圧Us6という)となる。時間tfの間に降下した電圧に基づいて、立ち下がり勾配、すなわち電圧低下の速度である傾きVBg(V/msec)が求められる。なお、最低電圧Us6は、クランキング動作中における最低電圧である。
【0029】
電圧の降下が停止すると、供給電圧Vtは持続時間t6だけ最低電圧Us6のまま維持される。次いで、供給電圧Vtは、時間t7の間上昇し、その後時間t8の間だけ周期的に変動する。クランキング動作中に周期変動する供給電圧Vtの最低電圧(電圧Us8)は、最低電圧Us6より高い。次いで、供給電圧Vtは、時間trの間上昇し、初期電圧VBまで回復する。すなわち、クランキング動作においては、供給電圧Vtは初期電圧VBから所定の勾配で一時的に低下し、所定の推移の後に当初の初期電圧VBまで回復する。
【0030】
なお、図3では、後に詳述する処理に用いられる第1閾値VS1及び2つのデフォルト値(第1デフォルト値VD1及び第2デフォルト値VD2)が図示されている。第1閾値VS1は最低電圧Us6より高い。第1デフォルト値VD1は最低電圧Us6より高く、第2デフォルト値VD2は最低電圧Us6より低い。第1デフォルト値VD1及び第2デフォルト値VD2は、第2閾値VS2(後に詳述)の設定に用いられる。
【0031】
図2の説明に戻る。要因判定部22は、車載バッテリー100から供給される電圧の推移を分析することにより、電圧低下がクランキング動作によるものか否かを判定することができる。要因判定部22が行う処理の詳細については、後に詳述する。
【0032】
閾値設定部23は、要因判定部22による判定結果に基づいて退避処理の要否判定に用いられる第2閾値VS2を設定する機能部である。第2閾値VS2は、第1閾値VS1より小さい。閾値設定部23は、初期電圧VBと傾きVBgに基づいて第2閾値VS2を設定する。閾値設定部23が行う処理の詳細については、後に詳述する。
【0033】
記憶部24は、記憶部24は、クランキング動作の判定および退避処理要否の判定において参照される各種のデータを記憶する機能部である。記憶部24には、閾値に関する情報、マトリクス表T1及び退避データ(後に詳述)が記憶されている。閾値に関する情報には、第1閾値VS1、傾き閾値Vgs、第1デフォルト値VD1及び第2デフォルト値VD2が含まれる。
【0034】
図4は、記憶部24に記憶されているマトリクス表T1の一例を示す図である。マトリクス表T1は、初期電圧VB、傾きVBgおよび最低電圧Us6との対応関係を示す情報である。図4に示すマトリクス表T1には、サンプル番号、初期電圧VB、傾きVBg及び最低電圧Us6が関連付けて格納されている。
【0035】
マトリクス表T1には、複数の車両のデータや、車載バッテリー100の劣化具合の異なる同一車両のデータが含まれる。このため、要因判定部22は、当該マトリクス表T1を参照することにより、個体差や車載バッテリー100の劣化状態を考慮してクランキング動作の有無を判定できる。
【0036】
また、マトリクス表T1には、車載機器1が設けられている車両のクランキング動作における各電圧値が随時追加されて格納されてもよい。このような構成によれば、クランキング動作における各電圧の実績値を学習するため、学習が進むにつれて電圧低下がクランキング動作によるものか否かをより精度よく判定可能になる。
【0037】
また、記憶部24は、処理の過程で取得される初期電圧VBや閾値設定部23により設定される第2閾値VS2を一時的に格納する。
【0038】
図2の説明に戻る。決定部25は、供給電圧Vtに基づいて退避処理の要否を決定する機能部である。決定部25は、供給電圧Vtが第1閾値VS1より低い場合に、記憶部24に格納される初期電圧VBを参照し、初期電圧VBおよび電圧の変化の傾きVBgに基づいて退避処理の要否を決定する。決定部25は、特許請求の範囲における決定手段の別の例である。決定部25が行う処理の詳細については、後に詳述する。
【0039】
退避処理部26は、車載機器1に退避処理を行わせる機能部である。例えば、退避処理部26は、車載機器1に対し、退避処理を実行する命令を送信する。ここで、退避処理とは、車載機器1の不具合を回避する処理であり、例えば車載機器1で用いる各種データのバックアップ処理、車載機器1の安全な停止処理である。車載機器1で用いる各種データのバックアップ処理を退避処理として行う場合には、退避処理部26は、車載機器1から退避が必要なデータ(退避データ)を取得し、退避データを記憶部24に記憶させる。
【0040】
ここで、図5を参照して、車載機器1が退避処理を制御する処理の流れを説明する。図5は、車載機器1による処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、以後の説明において、ステップの順番は、適宜変更することができる。
【0041】
(ステップSP11)
まず、使用変数を初期化する。そして、処理は、ステップSP12に移行する。
【0042】
(ステップSP12)
電圧取得部21は、車載バッテリー100からの供給電圧Vtを取得する。そして処理は、ステップSP13に移行する。
【0043】
(ステップSP13)
ステップSP12において取得された供給電圧Vtを初期電圧VBとして記憶部24に格納する。そして処理は、ステップSP14に移行する。
【0044】
(ステップSP14)
電圧取得部21は、継続して供給電圧Vtを取得する。そして処理は、ステップSP15に移行する。
【0045】
(ステップSP15)
要因判定部22は、ステップSP14で取得された供給電圧Vtと、記憶部24に格納された第1閾値VS1とを比較する。供給電圧Vtが第1閾値VS1より小さくない場合(ステップSP15でNo)には、ステップSP14に戻り、定期的に処理を繰り返す。これにより、要因判定部22は、供給電圧の推移を取得する。供給電圧Vtが第1閾値VS1より小さい場合(ステップSP15でYes)には、ステップSP16に移行する。
【0046】
(ステップSP16)
要因判定部22は、傾きVBgを算出する。そして処理は、ステップSP17に移行する。なお、傾きVBgは、降下した電圧を時間で除算して求めることができる。また、取得された複数の供給電圧Vtを線形近似し、当該近似式の傾きを傾きVBgとして求めることもできる。
【0047】
(ステップSP17)
要因判定部22は、傾きVBgと記憶部24に格納されている傾き閾値Vgs(例えば5V/msec)とを比較し、供給電圧の低下の傾きVBgが傾き閾値Vgsより低いか否かを判定する。
【0048】
傾きVBgが傾き閾値Vgsより大きい場合(ステップSP17でYes)には、要因判定部22は、電圧低下の要因はクランキング動作とは異なる要因であると判定し、ステップSP18に移行する。傾きVBgが傾き閾値Vgsより大きくない場合(ステップSP17でNo)には、要因判定部22は、電圧低下の要因はクランキング動作であると判定し、ステップSP19に移行する。ステップSP19~ステップSP22は、マトリクス表T1に基づいて最低電圧を推定し、推定結果に基づいて第2閾値を設定する処理である。
【0049】
(ステップSP18)
閾値設定部23は、傾きVBgが傾き閾値Vgsより大きくない、すなわち要因判定部22により電圧低下の要因がクランキング動作以外であると判定される場合には、第2閾値VS2を、最低電圧Us6と電圧Us8との間の値となる蓋然性の高い値としてあらかじめ選定されている所定の第1デフォルト値VD1に設定する。
【0050】
(ステップSP19)
閾値設定部23は、マトリクス表T1を参照し、ステップSP12~SP17で得られた結果とマトリクス表T1のデータとの相関を計算する。例えば、閾値設定部23は、マトリクス表T1に記憶されたデータを、任意の電圧範囲(例えば、±0.5V)毎にグループ化し、グループ毎に傾きVBgと最低電圧Us6の相関を求める。
【0051】
例えば、ステップSP12で取得された供給電圧Vt、すなわち初期電圧VBが13Vであるとすると、閾値設定部23は、マトリクス表T1のデータを、初期電圧VBが13V±0.5VのグループA、初期電圧VBが12.5V±0.5VのグループB、初期電圧VBが13.5V±0.5VのグループCの3つのグループを作成する。そして、閾値設定部23は、グループA、B、Cのそれぞれに対して、グループ内のデータに基づいて傾きVBgと最低電圧Us6の相関を求める。
【0052】
図6は、グループAにおける最低電圧Us6と傾きVBgとの相関を示す図の一例である。図7は、相関を説明する図である。図6に示すグループは、図7における相関値r=-0.9のグラフに近いため、閾値設定部23は、グループAの相関値rを-0.9とする。閾値設定部23は、グループB、Cについても同様に相関値rを求める。そして処理は、ステップSP20に移行する。
【0053】
(ステップSP20)
閾値設定部23は、ステップSP19で求められた相関値rの絶対値が所定値以上であるか否か、すなわち、関連性が高いか否かを判定する。
【0054】
ステップSP19でグループ分けをした場合には、閾値設定部23は、相関値rの絶対値が所定値以上であるグループが1つだけある場合には、そのグループを関連性が高いグループとして抽出する。また、閾値設定部23は、相関値rの絶対値が所定値以上であるグループが複数ある場合には、相関値rの絶対値が最も大きいグループを関連性が高いグループとして抽出する。
【0055】
ステップSP19で求められた相関値rの絶対値が所定値以上である場合(ステップS20でYes)には、ステップS21に移行する。相関値rの絶対値が所定値以上でない場合(ステップS20でNo)には、ステップS22に移行する。
【0056】
なお、ステップSP19~SP20の処理はこれに限られない。例えば、ステップSP19でグループ分けを行わず、マトリクス表T1のデータ全てを用いて1つのグループのみ作成して相関値rを求め、この相関値の絶対値が所定値以上か否かをステップSP20で判定してもよい。
【0057】
(ステップSP21)
閾値設定部23は、ステップSP20で抽出された関連性が高いグループのデータに基づいて第2閾値VS2を設定する。以下、ステップSP20でグループAが関連性が高いグループとして抽出された場合を例に説明する。
【0058】
閾値設定部23は、グループAにおける最低電圧Us6と傾きVBgとの関係を示す近似式(ここでは、線形)を求める。そして、閾値設定部23は、この近似式にステップSP16で求められた傾きVBgを代入して最低電圧Us6の推定値(以下、推定最低電圧Vminという)を予測する。
【0059】
閾値設定部23は、推定最低電圧Vminに基づいて第2閾値VS2を設定する。例えば、閾値設定部23は、推定最低電圧Vminから所定の値(例えば0.5V)を引いたものを第2閾値VS2として設定する。この所定の値は、例えば、個体差等のばらつきを考慮したものである。そして処理は、ステップSP23に移行する。
【0060】
(ステップSP22)
閾値設定部23は、記憶部24に格納されている第2デフォルト値VD2を第2閾値VS2に設定する。第2デフォルト値VD2は、最低電圧Us6より小さい値となる蓋然性の高い値としてあらかじめ選定されている値である。そして処理は、ステップSP23に移行する。
【0061】
(ステップSP23)
電圧取得部21は、供給電圧Vtを取得する。ここでは、電圧取得部21は、供給電圧Vtを複数回取得し、クランキング動作が行われている場合(供給電圧Vtの低下が止まる場合)にはその最低電圧Us6を取得する。そして処理は、ステップSP24に移行する。
【0062】
(ステップSP24)
決定部25は、ステップSP23で取得された供給電圧Vtと第2閾値VS2を比較する。供給電圧Vtが第2閾値VS2より小さい場合(ステップSP25でYes)には、決定部25は、クランキング動作とは異なる要因(例えば、瞬断)で供給電圧Vtが低下してとして、退避処理を行うことを決定し、ステップSP25に移行する。供給電圧Vtが第2閾値VS2より小さくない場合(ステップSP25でNo)には、処理はステップSP26に移行する。
【0063】
(ステップSP25)
退避処理部26は、車載機器1に退避処理を行わせる。そして、車載機器1は一連の処理を終了する。
【0064】
(ステップSP26)
ステップSP23で取得された供給電圧Vtが第2閾値VS2以上である場合には、クランキング動作により供給電圧Vtが低下していると推定されるため、決定部25は、ステップSP27で取得された供給電圧Vtと、第1閾値VS1とヒステリシスVS1hisとの合算値とを比較する。決定部25は、供給電圧Vtが当該合算値より高くない場合(ステップSP26でNo)には、処理をステップSP23に戻す。供給電圧Vtが当該合算値より高い(ステップSP26でYes)場合には、決定部25は、供給電圧Vtが回復したものと推定し、退避処理を行わないことを決定する。そして処理は、ステップSP27に移行する。
【0065】
(ステップSP27)
決定部25は、ステップSP23で得られた供給電圧Vtの最小値を最低電圧Us6として、初期電圧VBおよび傾きVBgとともに記憶部24のマトリクス表T1に格納する。これにより、マトリクス表T1へ車両のクランキング動作における各電圧値が随時追加される、すなわち学習が行われる。そして、車載機器1は一連の処理を終了する。
【0066】
本実施の形態によれば、バッテリーで動作する車載機器における不要な退避処理を低減し、必要な場合にのみ退避処理を行わせることができる。特に、初期電圧および電圧低下の傾きに基づいて(例えば、供給電圧Vtが第1閾値VS1より小さく、かつ、傾きVBgが傾き閾値Vgs以下の場合)、電圧低下がクランキング動作によるものか否かを判定し、クランキング動作の場合には退避処理を行わないようにできる。また、要因判定部22によりクランキング動作が推定された場合であっても、供給電圧Vtが第2閾値VS2を下回った場合には退避処理を行わせることができるので、必要な退避処理を確実に実行できる。
【0067】
なお、本実施の形態では、マトリクス表T1を複数のグループに分け、各グループのデータの相関(ピアソンの積立相関係数)を求め、相関値rの絶対値が最も大きいグループを関連性が高いグループとして抽出したが、関連性の高さを求める方法はこれに限られない。例えば、閾値設定部23は、マトリクス表T1の各データに対して、マトリクス表T1に含まれる初期電圧VBおよび傾きVBgと、計測により得られた初期電圧VBおよび傾きVBgとの差分をそれぞれ2乗した上で、係数を乗じて加算することで相関評価値を求め、相関評価値が最も小さいグループを関連性が高いグループとして抽出してもよい。なお、相関評価値を求める式は以下の数式(1)で示され、相関評価値が小さいほど相関が高いことを示す。
[数式1]
相関評価値= a × (初期電圧値の差)^2 + b × (傾きの差)^2・・・(1)
【0068】
そして、閾値設定部23は、マトリクス表T1の各データのうちの最も関連性の高いもの(相関評価値が最も小さいサンプル)に基づいて推定最低電圧Vminを推定する。なお、演算量を少なくするため、マトリクス表T1のデータから、計測により得られた初期電圧VBに対してある範囲内にある(例えば±0.5V以内)のサンプルについてのみ相関評価値を求めてもよい。
【0069】
また、例えば、閾値設定部23は、AI(人工知能)を用いてパラメータを学習することで、推定最低電圧Vminを推定してもよい。その他、閾値設定部23は、初期電圧VBおよび傾きVBgに基づいて、適宜の手法を用いて推定最低電圧Vminを推定することができる。
【0070】
また、本実施の形態によれば、マトリクス表T1には初期電圧VB、傾きVBgおよび最低電圧Us6の情報が関連付けて記憶されていたが、マトリクス表T1がバッテリー温度の情報を含んでもよい。この場合には、車載バッテリー100のバッテリー温度を温度センサ等の適宜の手法で取得し、閾値設定部23は、ステップSP19においてバッテリー温度が測定値に近いデータのみを用いてグループ化してもよい。このような構成によれば、より現状のバッテリーの状態に則したグループを抽出できるため、推定最低電圧Vminの推定精度を向上させることができる。
【0071】
また、本実施の形態では、マトリクス表T1にサンプル番号、初期電圧VB、傾きVBg、最低電圧Us6及びバッテリー温度が格納されていたが、マトリクス表T1にさらに測定日時が格納されていてもよい。この場合、判定時点までの時間経過に応じて相関評価値を変動させてもよい。例えば、時間経過が小さく、比較的最近取得されたグループほど、相関が大きくなるように相関評価値を算出してもよい。また、一定期間が経過したデータをマトリクス表T1から削除してもよい。このような構成によれば、車載バッテリー100の最近の状況に則した推定が可能であり、推定精度を一層向上できる。なお、マトリクス表T1に第2閾値VS2そのものが格納されていてもよい。
【0072】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 :車載機器
11 :入力回路
12 :ADコンバータ
13 :CPU
14 :RAM
15 :フラッシュROM
21 :電圧取得部
22 :要因判定部
23 :閾値設定部
24 :記憶部
25 :決定部
26 :退避処理部
100 :車載バッテリー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7