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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125695
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/14 20200101AFI20240911BHJP
   B60W 30/16 20200101ALI20240911BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20240911BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20240911BHJP
   B60W 50/10 20120101ALI20240911BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B60W50/14
B60W30/16
B60W30/095
B60W40/04
B60W50/10
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033689
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒野 洸
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA02
3D241BA32
3D241BA51
3D241BA60
3D241BB37
3D241CE01
3D241CE05
3D241DC21Z
3D241DC25Z
5H181AA01
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】運転者に対して死角となる方向からの移動障害物の接近に対し、運転者にとって最適なタイミングで警告を行う。
【解決手段】
運転者に対して死角となる方向からの移動障害物の接近を検知した場合に(後続車位置算出部117)、運転者に対して警告を実施する(警告実施判定部118)。安全性に関する運転者の嗜好を判定し(運転者嗜好判定部115)、他車両の接近に対する警告を行うタイミングを、判定された運転者の嗜好に応じて変更する(後方警告距離設定部116)。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者に対して死角となる方向からの移動障害物の接近を検知する外界監視手段と、
安全性に関する前記運転者の嗜好を判定する嗜好判定手段と、
前記外界監視手段により前記移動障害物の接近を検知した場合に、前記運転者に対して警告を行う警告手段と、を備え、
前記警告手段は、前記警告を行うタイミングを、前記嗜好判定手段により判定した前記運転者の嗜好に応じて変更する、車両の運転支援装置。
【請求項2】
自車両の前方を走行する他車両との車間距離を所定の第1設定距離に近付けるように、前記自車両の走行状態を自動的に制御する走行制御手段をさらに備え、
前記走行制御手段は、前記第1設定距離を前記運転者による設定に基づき変更可能であり、
前記嗜好判定手段は、前記運転者による設定に基づき前記運転者の嗜好を判定し、
前記警告手段は、前記第1設定距離が長いときほど、前記移動障害物の接近に対して早いタイミングで前記警告を行う、請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記警告手段は、
前記移動障害物が前記自車両に対して所定の第2設定距離にまで近付いた時点で前記警告を行い、
前記第1設定距離が長いときほど、前記第2設定距離を延長する、請求項2に記載の車両の運転支援装置。
【請求項4】
前記走行制御手段は、前記自動的な制御を前記運転者が行う所定の解除操作に基づき解除可能であり、
前記運転者が前記解除操作を行う頻度を検出する解除頻度検出手段をさらに備え、
前記警告手段は、前記解除頻度検出手段により検出した前記解除操作の頻度が高いときほど、前記第2設定距離を延長する、請求項3に記載の車両の運転支援装置。
【請求項5】
前記走行制御手段は、前記自動的な制御を前記運転者のブレーキ操作に基づき解除可能であり、
前記解除頻度検出手段は、前記前方を走行する他車両の接近に対して前記運転者が前記ブレーキ操作を行う頻度を検出する、請求項4に記載の車両の運転支援装置。
【請求項6】
前記解除操作に、前記運転者のブレーキ操作を含み、
前記警告手段は、前記第2設定距離を延長する場合に、前記前方を走行する他車両の接近に対して前記運転者が行うブレーキ操作が前記解除操作に占める割合が高いときほど、前記第2設定距離をより長い距離に延長する、請求項4に記載の車両の運転支援装置。
【請求項7】
前記外界監視手段は、自車両の後方からの前記移動障害物の接近を検知する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の後方を外界センサにより監視し、後方からの他車両の接近を検知した場合に、運転者に対して警告を行う技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-184554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
後方からの他車両の接近に対して警告を行うタイミングは、一定に設定されることが多い。例えば、他車両が自車両に対して予め定められた距離にまで近付いた時点で警告を行う。この警告のタイミングは、運転者によっては早いと感じる場合もあるし、遅いと感じる場合もある。
【0005】
警告のタイミングが早い場合は、他車両の接近を運転者が認識し、充分に対応可能な状況にあるにも拘らず、警告を行うことにより、運転者に煩わしさを感じさせることが懸念される。他方で、警告のタイミングが遅い場合は、警告後に運転者が適切な退避動作を行うのに充分な時間が確保されないことが懸念される。
【0006】
警告のタイミングを運転者自身が設定することも考えられる。しかし、運転者にとって、前方については他車両との車間距離を把握し、走行中に確保すべき適切な車間距離を理解することは容易であるが、死角となる後方については他車両との車間距離を把握し、退避動作を行ううえで必要となる車間距離を理解することは必ずしも容易ではない。さらに、通常の運転者は、先行車との車間距離については自身の感覚や好みを意識することはあっても、後続車との車間距離についてまで自身の感覚等を意識することは少ないと推察される。
【0007】
よって、後方からの他車両の接近に対して警告を行うタイミングを運転者自身が設定することが困難な場合も想定される。
【0008】
そこで、本発明は、運転者に対して死角となる方向からの移動障害物の接近に対し、運転者にとって最適なタイミングで警告を行うことを可能とし、もって、快適性と安全性とを両立させることのできる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係る車両の運転支援装置は、運転者に対して死角となる方向からの移動障害物の接近を検知する外界監視手段と、安全性に関する前記運転者の嗜好を判定する嗜好判定手段と、前記外界監視手段により前記移動障害物の接近を検知した場合に、前記運転者に対して警告を行う警告手段と、を備え、前記警告手段は、前記警告を行うタイミングを、前記嗜好判定手段により判定した前記運転者の嗜好に応じて変更する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一形態によれば、運転者に対して死角となる方向からの移動障害物の接近を検知した場合に、安全性に関する運転者の嗜好が反映されたタイミングで警告が実施される。これにより、警告のタイミングが早いことにより運転者に煩わしさを感じさせたり、警告のタイミングが遅いことにより警告後の退避動作が間に合わなかったりする事態を回避し、快適性と安全性との両立を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の運転支援装置の構成を示す概略図である。
図2】同上運転支援装置に備わる演算部(コントローラ)の構成を示す概略図である。
図3】同上運転支援装置により実行される自動クルーズ制御の内容を示すフローチャートである。
図4】同上運転支援装置により実行される後方監視制御の内容を示すフローチャートである。
図5】同上後方監視制御における後方警告距離設定処理(図4のS202)の内容を示すフローチャートである。
図6】自動クルーズ制御の動作状況を表示するインジケータを示す概略図である。
図7】設定車間距離を表示するインジケータを示す概略図である。
図8】後方監視制御により表示される警告のインジケータを示す概略図であり、(a)は、後続車の接近に対して表示されるインジケータを示し、(b)は、斜め後方からの他車両の接近に対して表示されるインジケータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の運転支援装置1の構成を示す概略図である。
【0014】
車両の運転支援装置1は、本実施形態に関わる主な要素として、コントローラ11、外界センサ12、インストルメントパネル13およびステアリングスイッチ14を備える。
【0015】
コントローラ11は、運転支援装置1の演算部を構成し、演算の結果に応じた指令信号を生成し、出力する。
【0016】
外界センサ12は、運転支援装置1の検出部を構成し、車両の周囲を監視し、周辺の環境または状況に関する情報を取得する。外界センサ12は、前方監視用のセンサとして、車外前方監視カメラ(以下「前方カメラ」という)121および前方ミリ波レーダ122を備え、後方監視用のセンサとして、後方ミリ波レーダ123を備える。
【0017】
前方カメラ121は、車両の前方に視野が設定され、撮影された画像を解析して、前方に存在する歩行者および障害物等を検知する。以下の説明において、「障害物」には、道路に設置された路上障害物のほか、自車両以外の他車両を含むものとし、いわゆる障害物との区別ため、他車両等、自律的に移動する障害物を、特に「移動障害物」という場合がある。
【0018】
前方ミリ波レーダ122は、車両の前方にミリメートル波長の電波を発射するとともに、障害物等により反射された電波を受信することにより、自車両から障害物等までの距離、障害物等に対する自車両の相対速度等を検出する。本実施形態では、前方カメラ121とミリ波レーダ122とにより、自車両に対して同一車線の前方を走行する他車両(以下「先行車」という場合がある)を検知し、先行車が存在する場合に、自車両から先行車までの距離、先行車に対する自車両の相対速度、自車両が先行車に衝突するまでの衝突予測時間等を算出する。
【0019】
後方ミリ波レーダ123は、運転者にとって死角となる方向にミリメートル波長の電波を発射可能に設定されている。本実施形態において、後方ミリ波レーダ123は、自車両の後端部、例えば、後部バンパに設置され、自車両の後方および斜め後方に電波を発射する。後方ミリ波レーダ123により、自車両に対して後方から接近する他車両、具体的には、自車両に対して同一車線の後方を走行し、自車両に接近しつつある他車両(以下「後続車」という場合がある)を検知する。
【0020】
外界センサ12の検出信号は、コントローラ11に出力される。後方監視用のセンサとして、後方ミリ波レーダ123に加えるかまたはこれに代えて、車両の後方に視野が設定された車外後方監視カメラが設けられてもよい。
【0021】
インストルメントパネル13は、運転者に状況の認識や注意を促したり、対応を求めたりするためのインジケータを表示する。インストルメントパネル16は、各種の表示灯131、警告灯132および警報器133を備える。表示灯131は、トラクションコントロールや車両安定制御等の各種制御およびイモビライザ等の各種装置の作動状態を表示する。警告灯132は、シートベルト非装着や燃料残量不足等、運転者に対する各種の警告を表示する。表示灯131および警告灯132は、運転席のダッシュボード等、運転者が運転中に視認可能な位置に設置される。警報器133は、警告灯132と連動し、聴覚的な情報の提供により警告に対する運転者の認識を促す。
【0022】
インストルメントパネル13は、さらに、運転支援装置1の出力部を構成し、表示灯131、警告灯132および警報器133は、運転支援装置1の作動状態を表示するとともに、運転支援制御に関して運転者に行う警告を表示または報知する。具体的には、表示灯131は、運転支援装置1が行う自動クルーズ制御が作動中であることを表示するとともに、自動クルーズ制御における設定車間距離および設定車速等を表示する。警告灯132は、自車両が先行車に接近した場合の警告、後続車が自車両に接近した場合の警告等を表示する。警報器133は、警告灯132と連動し、自車両に対する他車両の接近をブザー等の聴覚的な情報により運転者に報知する。
【0023】
ステアリングスイッチ14は、運転支援装置1を含む各種の車載機器の稼働に際して運転者により操作される。本実施形態において、ステアリングスイッチ14は、運転支援装置1の操作部を構成し、自動クルーズ制御に関わる各種の操作スイッチ141~144を含み、運転席に備わるステアリングホイールのうち、運転者が操作しやすい箇所に設置される。
【0024】
ステアリングスイッチ14は、クルーズスイッチ141、クルーズ解除スイッチ142、車速設定スイッチ143および車間距離設定スイッチ144を備える。
【0025】
クルーズスイッチ141は、自動クルーズ制御に関わるシステムのオン(待機)およびオフを切り替える。
【0026】
クルーズ解除スイッチ142は、自動クルーズ制御を一時的に解除する。自動クルーズ制御に復帰するための別個のスイッチが設けられてもよいが、本実施形態では、クルーズ解除スイッチ142の再度の操作により、自動クルーズ制御へ復帰可能である。
【0027】
車速設定スイッチ143は、定速走行時における目標車速を設定する。クルーズスイッチ141の操作によりシステムを待機状態とした後、車両が目標とする車速にあるときに車速設定スイッチ143を操作することで、その時点での車速が目標車速に設定される。
【0028】
車間距離設定スイッチ144は、前車追従時における先行車との目標車間距離を設定する。本実施形態では、目標車間距離を「短」、「中」および「長」の3段階で切替可能である。車間距離設定スイッチ144を操作するたびに、目標車間距離が「短」、「中」、「長」の順に切り替えられる。目標車間距離の切り替えは、3段階に限らず、5段階で行うことも可能である。本実施形態では、自動クルーズ制御により、自車両に対する先行車が存在する場合はその先行車に対して目標車間距離を保つように追従し(前車追従モード)、先行車が存在しない場合は、実際の車速を目標車速に近付けるように走行する(定速走行モード)。
【0029】
図6は、自動クルーズ制御の動作状況を表示するものとして、表示灯131に表示されるインジケータ(以下「自動クルーズインジケータ」という)201の概略図である。
【0030】
自動クルーズインジケータ201は、自動クルーズ制御のオン・オフを示すクルーズ起動・解除インジケータ211、先行車が存在することを示す先行車検知インジケータ212、設定された目標車間距離(以下「設定車間距離」という場合がある)を示す車間距離インジケータ213、目標車速を示す車速インジケータ214、目標車速の設定が完了したことを示す車速設定インジケータ215を含む。
【0031】
クルーズ起動・解除インジケータ211は、自動クルーズ制御の作動時に点灯し、解除時に消灯する。
【0032】
先行車検知インジケータ212は、先行車を検知した場合、つまり、自車両に対する先行車が存在する場合に点灯し、先行車が存在しない場合に消灯する。
【0033】
車間距離インジケータ213は、単位車間距離ごとに設定された複数(本実施形態では、3つ)の距離表示セグメント213a、213b、213cを有する。
【0034】
図7は、車間距離インジケータ213を示す概略図である。同図(a)に示すように、車間距離インジケータ213は、設定車間距離が長いときほど点灯させる距離表示セグメントの数を増やすことにより、設定車間距離を「短」、「中」および「長」の3段階で表示する。具体的には、設定車間距離が「短」の場合は、先行車検知インジケータ212に最も近い「短」表示セグメント213aを点灯させ、設定車間距離が「長」の場合は、「短」表示セグメント213aに加え、先行車検知インジケータ212から最も遠い「長」表示インジケータ213cおよびこれらの間の「中」表示セグメント213bの全てを点灯させる。
【0035】
車速インジケータ214は、設定された目標車速を表示する。
【0036】
車速設定インジケータ215は、目標車速の設定が完了した場合に点灯し、完了していない場合に消灯する。
【0037】
図2は、コントローラ11の構成を模式的に示す概略図である。
【0038】
本実施形態において、コントローラ11は、先行車に対する自車両の車間距離または車速(つまり、相対速度)を自動的に制御して走行する自動クルーズ制御を実行する。これに併せ、コントローラ101は、運転支援制御の一環として後方監視制御を実行する。後方監視制御は、後方ミリ波レーダ123により自車両の後方を監視し、自車両に対する後続車の接近を検知した場合に、運転者に対する警告を実施する制御である。
【0039】
車速設定部111は、運転者による車速設定スイッチ143の操作を検出し、目標車速を設定する。
【0040】
車間距離設定部112は、運転者による車間距離設定スイッチ144の操作を検出し、目標車間距離を設定する。
【0041】
クルーズ解除頻度算出部113は、自動クルーズ制御による走行中に、自動クルーズ制御が運転者による所定の解除操作により解除された頻度(以下「クルーズ解除頻度」という)を算出する。
【0042】
本実施形態において、自動クルーズ制御は、クルーズ解除スイッチ142の操作により解除されるほか、自動クルーズ制御を起動した後のクルーズスイッチ141の再操作により解除される。さらに、自動クルーズ制御は、運転者がブレーキペダルを操作し、ブレーキをかけることによっても解除可能である。
【0043】
クルーズ解除頻度算出部113は、自動クルーズ制御による車両の累積走行距離を測定するとともに、運転者による以上の解除操作により自動クルーズ制御が解除された回数(以下「クルーズ解除総回数」という)を算出する。ここで、自動クルーズ制御は、ステアリングスイッチ14の操作等、運転者が能動的または積極的に行う解除操作により解除されるほか、シートベルトを外したり、ドアを開けたりすることによっても解除される。クルーズ解除総回数の算出には、これらの操作のうち、運転者が能動的に行う解除操作のみを計上し、シートベルトを外すといった消極的な操作は計上しない。
【0044】
そして、クルーズ解除頻度算出部113は、クルーズ解除総回数を累積走行距離で除することにより、クルーズ解除頻度を算出する。つまり、クルーズ解除頻度は、運転者が能動的に行う解除操作により自動クルーズ制御が単位走行距離当たりに解除された回数を示す。クルーズ解除頻度は、単位走行時間当たりの解除回数として算出してもよいし、車両の電源投入から遮断までの期間、つまり、一トリップ当たりの解除回数として算出してもよい。
【0045】
ブレーキ解除割合算出部114は、先行車への接近に対して運転者がブレーキペダルの操作により自動クルーズ制御を解除した回数を算出し、算出された回数をクルーズ解除総回数で除することにより、ブレーキ解除割合を算出する。つまり、ブレーキ解除割合は、自動クルーズ制御が所定の解除操作により解除された回数全体のうち、先行車への接近に対して運転者が行うブレーキ操作により解除された回数が占める割合である。
【0046】
運転者嗜好判定部115は、設定車間距離、クルーズ解除頻度およびブレーキ解除割合をもとに、安全性に対する運転者の嗜好(以下「運転者の安全嗜好」という)を判定する。運転者の安全嗜好は、設定車間距離が長いときほど、クルーズ解除頻度が高いときほど、そして、ブレーキ解除割合が高いときほど高いと判定することが可能である。
【0047】
目標車間距離を長く設定する運転者は、先行車との間に充分な車間距離を確保し、自動クルーズ制御により余裕のある走行を好む傾向にある。クルーズ解除頻度が高い運転者は、自動クルーズ制御を頻繁に解除し、自らの運転操作による機敏な走行を好む傾向にある。ブレーキ解除割合が高い運転者は、先行車への接近に対し、自動クルーズ制御による制動前のより早いタイミングでブレーキ操作を行うことから、より余裕のある対応を好む傾向にある。この意味で、運転者の安全嗜好とは、自動クルーズ制御ないし運転支援制御に対する運転者の依存度と言い換えることが可能である。
【0048】
後方警告距離設定部116は、基本警告距離および運転者の安全嗜好をもとに、後方警告距離を設定する。後方警告距離は、後続車の接近に対して運転者に警告を行うタイミングを定め、本実施形態では、警告を行う際の自車両と後続車との車間距離として設定する。後方警告距離設定部116は、基本警告距離を初期値として有し、通常は、基本警告距離を後方警告距離に設定する一方、運転者の安全嗜好が高いと判定された場合に、後方警告距離を基本警告距離よりも延長する。警告を行うタイミングは、時間によっても設定可能であり、その場合は、衝突予測時間よりも長い時間に設定する。
【0049】
後方警告距離の延長は、例えば、図7(b)に示すように、車間距離インジケータ213の「長」表示セグメント213c’を通常時とは異なる色で点灯させることにより表示可能である。目標車間距離の設定を5段階で行う場合は、例えば、5つの距離表示セグメントにより表示し、後方警告距離の延長に際して「中」設定に相当するセグメントよりも長い設定のセグメントの表示色を変化させる。
【0050】
後続車位置算出部117は、後方ミリ波レーダ123からの情報を解析し、後続車を検知した場合に、自車両に対する後続車の距離、つまり、自車両から後続車までの車間距離を算出する。
【0051】
警告実施判定部118は、後続車が自車両に対して後方警告距離の位置にまで接近した場合に、運転者に対する警告を実施する。この警告は、警告灯132および警報器133による。
【0052】
図8は、後方監視制御により表示される警告のインジケータ(以下「後方警告インジケータ」という)を示す概略図である。同図(a)に示すように、後続車の接近に対して表示される後方警告インジケータ301は、インストルメントパネル13に設置された警告灯132によるほか、車内のルームミラーに表示してもよい。
【0053】
図3は、自動クルーズ制御の基本的な流れを示すフローチャートである。コントローラ101は、図3に示すルーチンによる制御を所定の時間ごとに繰り返し実行する。
【0054】
S101では、前方ミリ波レーダ122からの情報等、各種のセンサ情報を読み込む。
【0055】
S102では、先行車を検知した否か、具体的には、自車両に対して同一車線の前方を所定の距離以内の範囲で走行する他行車が存在するか否かを判定する。先行車を検知した場合は、S103へ進み、検知していない場合は、今回の制御を終了する。
【0056】
S103では、設定車間距離Df_setを読み込む。
【0057】
S104では、自車両から先行車までの実際の車間距離である前方車間距離Dfを検出する。
【0058】
S105では、前方車間距離Dfと設定車間距離Df_setとの乖離量(例えば、差)をもとに、前方車間距離Dfを設定車間距離Df_setに近付けるための車両の目標加速度Atrgを設定する。例えば、前方車間距離Dfを短縮する場合は、目標加速度Atrgを増加させ、前方車間距離Dfを延長する場合は、目標加速度Atrgを減少させる。
【0059】
S106では、車両の実際の加速度Aが目標加速度Atrgよりも低いか否かを判定する。目標加速度Atrgよりも低い場合は、S108へ進み、目標加速度Atrg以上である場合は、S107へ進む。
【0060】
S107では、車両の実際の加速度Aが目標加速度Atrgよりも高いか否かを判定する。目標加速度Atrgよりも高い場合は、S109へ進み、目標加速度Atrg以下である(つまり、目標加速度Atrgに等しい)場合は、今回の制御をそのまま終了し、現在の加速度Aを維持する。
【0061】
S108では、自車両に加速を生じさせるべく車両の駆動力を増加させる。
【0062】
S109では、自車両に減速を生じさせるべく車両の制動力を増加させる。
【0063】
図4は、後方監視制御の基本的な流れを示すフローチャートである。コントローラ101は、図4に示すルーチンによる制御を所定の時間ごとに繰り返し実行する。
【0064】
S201では、後方ミリ波レーダ123からの情報等、各種のセンサ情報を読み込む。
【0065】
S202では、後方警告距離Dwrnを設定する。
【0066】
S203では、後続車を検知したか否か、具体的には、自車両に対して同一車線の後方を走行し、自車両に接近しつつある他行車が存在するか否かを判定する。後続車を検知した場合は、S204へ進み、検知していない場合は、今回の制御を終了する。
【0067】
S204では、自車両から後続車までの実際の車間距離である後方車間距離Drを検出する。
【0068】
S205では、自車両に対して後続車が接近し、後方車間距離Drが後方警告距離Dwrnにまで減少したか否か、つまり、後続者が自車両に対して後方警告距離Dwrnの位置にまで接近したか否かを判定する。後方警告距離Dwrnにまで減少した場合は、S206へ進み、減少していない場合は、今回の制御を終了する。
【0069】
S206では、警告灯132を点灯させるとともに、警報器133を鳴動させ、運転者に対して後続車の接近を警告する。
【0070】
図5は、後方警告距離設定処理(図4のS202)の内容を示すフローチャートである。
【0071】
S301では、ステアリングスイッチ14からの信号等、各種のセンサ情報を読み込む。
【0072】
S302では、自動クルーズ制御による車両の累積走行距離Dcrsを算出する。
【0073】
S303では、累積走行距離Dcrsのうち、目標車間距離が「長」に設定されていた走行距離である「長」設定距離Ds_lngを算出する。コントローラ101は、累積走行距離Dcrsおよび「長」設定距離Ds_lngを車両の停止時、つまり、電源遮断後も保持する。
【0074】
S304では、累積走行距離Dcrsが所定の距離Dthr1以上であるか否かを判定する。所定の距離Dthr1以上である場合は、S305へ進み、所定の距離Dthr1未満である場合は、今回の制御を終了する。
【0075】
S305では、累積走行距離Dcrsのうち、「長」設定距離Ds_lngが占める割合Rlng(=Ds_lng/Dcrs)を算出し、算出された割合Rlngが所定の割合Rthr1以上であるか否かを判定する。所定の割合Rthr1以上である場合は、S306へ進み、所定の割合Rthr1未満である場合は、今回の制御を終了する。つまり、自動クルーズ制御による累積走行距離Dcrsが所定の距離Dthr1に到達した時点で、所定の割合Rthr1以上の距離で目標車間距離が「長」に設定されていた場合に、S306以降の処理を実行する。
【0076】
S306では、クルーズ解除頻度Fcclを算出する。
【0077】
S307では、ブレーキ解除割合Rbrkを算出する。
【0078】
S308では、クルーズ解除頻度Fcclが所定の頻度Fthr1以上であるか否かを判定する。所定の頻度Fthr1以上である場合は、S309へ進み、所定の頻度Fthr1未満である場合は、今回の制御を終了する。
【0079】
S309では、ブレーキ解除割合Rbrkが所定の割合Rthr2以上であるか否かを判定する。所定の割合Rthr2以上である場合は、S310へ進み、所定の割合Rthr2未満である場合は、今回の制御を終了する。
【0080】
S310では、後方警告距離Dwrnを変更する。本実施形態では、後方警告距離Dwrnを初期値である基本警告距離よりも延長する。
【0081】
以下に、本実施形態により得られる作用および効果について説明する。
【0082】
第1に、後続車の接近に対して警告を行うタイミングの設定に、運転者の安全嗜好が反映される。これにより、運転者に対して死角となる方向からの移動障害物の接近、本実施形態では、後続車の接近を検知した場合に、運転者の安全嗜好が反映されたタイミングで警告が実施される。
【0083】
このように、運転車の安全嗜好が反映されたタイミングで警告を行うことが可能となり、警告のタイミングが早すぎることにより運転者に煩わしさを感じさせたり、警告のタイミングが遅すぎることにより警告後の退避動作が間に合わなかったりする事態を回避することができる。よって、快適性と安全性との両立を図ることが可能となる。
【0084】
第2に、自車両と先行車との間で自動制御により確保される車間距離、つまり、設定車間距離Df_setを運転者による設定に基づき変更可能である場合に、運転者による設定に基づき運転者の安全嗜好が判定され、後続車の接近に対し、設定車間距離Df_setが長いときほど早いタイミングで警告が実施される。つまり、運転者により設定車間距離Df_setを延長する変更がなされた場合は、運転者の安全嗜好が相対的に高いと判定され、早めのタイミングで警告が実施される。これにより、警告を行うタイミングの設定に運転者の安全嗜好を適切に反映させ、快適性と安全性との両立を積極的に促すことが可能となる。
【0085】
運転者に対する警告は、設定車間距離Df_setが長く、運転者の安全嗜好が高いときほど早めのタイミングで実施するだけでなく、設定車間距離Df_setが短く、運転者の安全嗜好が低いときほど遅めのタイミングで実施するようにしてもよい。
【0086】
そして、自車両に対する後続車の位置を検出し、後続車が後方警告距離Dwrnの位置にまで近付いたタイミングで警告を実施する場合に、変更後の設定車間距離Df_setが長いときほど後方警告距離Dwrnが延長され、より早いタイミングで警告が実施される。これにより、後続車の接近に対し、自車両と後続車との間で警告時に確保すべき距離を設定し、警告を行うタイミングの最適化を促すことが可能となる。
【0087】
第3に、自動クルーズ制御を解除する運転者の解除操作、本実施形態では、ステアリングスイッチ14(クルーズスイッチ141、クルーズ解除スイッチ142)の操作に加え、ブレーキ操作等の頻度が検出され、これらの解除操作の頻度が高いときほど、運転者の安全嗜好が高いとして、後方警告距離Dwrnが延長される。これにより、運転者の安全嗜好を運転者自身が能動的に行う解除操作の頻度をもとに判定するとともに、警告を行うタイミングの設定に反映させ、より適切なタイミングで警告を実施することが可能となる。
【0088】
ここで、自車両に対する相対速度が低い先行車への接近に対し、自動クルーズ制御による制動または減速よりも先にブレーキ操作を行って自車両を減速させる運転者は、安全性に関する嗜好が特に高い運転者であると推定される。よって、解除操作の頻度として、特に先行車への接近に対して運転者が行うブレーキ操作の頻度を検出し、その頻度が高いときほど後方警告距離Dwrnを延長することで、運転者の安全嗜好を後方警告距離Dwrnの設定により的確に反映させ、警告を行うタイミングの最適化を促すことが可能となる。
【0089】
本実施形態では、ブレーキ操作の頻度に応じて後方警告距離Dwrnを変更する場合に、先行車の接近に対して運転者が行うブレーキ操作が解除操作全体に占める割合が高いときほど、後方警告距離Dwrnをより長い距離に延長することで、運転者の安全嗜好に対する相関性が特に高い解除操作を他の解除操作よりも強く反映させ、警告を行うタイミングの最適化を促すことが可能となる。例えば、同じブレーキ操作にしても、自動クルーズ制御の解除を目的として日常的にブレーキ操作を繰り返す運転者と、先行車の接近に対する退避行動として積極的にブレーキ操作を実施する運転者とでは、安全性に対する嗜好が相違する。当然ながら、前者の運転者よりも後者の運転者の方が、安全性に対する嗜好が高いといえる。
【0090】
以上の説明では、後方監視制御として、自車両の後方の領域を監視対象とし、自車両に対する後続車の接近、具体的には、自車両に対して同一車線の後方を走行する他車両の接近を検知した場合に、運転者に対する警告を実施した。これにより、後続車が接近しつつある場合に、後続車に対する退避動作を実施する必要があるか否かの判断を運転者に促すことが可能である。
【0091】
後方監視制御は、これに限らず、自車両の斜め後方の領域を監視対象とし、自車両が車線変更を行う際に接近する可能性のある他車両、つまり、隣接車線を走行し、自車両に対して後方から接近しつつある他車両が存在する場合に、運転者に対する警告を実施するものであってもよい。隣接車線を走行する他車両が自車両から後方警告距離の位置にまで近付いた時点で警告灯を点灯させ、さらに、方向指示器の点滅等により運転者の車線変更の意思を確認した場合に、警告灯の点灯に併せて警報器を鳴動させる。そして、前述同様に、運転者の安全嗜好を判定し、運転者の安全嗜好が高い場合に、後方警告距離を延長する。図8(b)は、斜め後方からの他車両の接近に対して表示される後方警告インジケータ302の例を示す。後方警告インジケータ302を表示させる警告灯は、インストルメントパネル13に設置するほか、サイドミラーに組み込んでもよいし、フロントガラスの左右に配置されたAピラーに設置してもよい。
【0092】
以上の説明では、さらに、運転者の安全嗜好を示す指標として、自動クルーズ制御に関して運転者が設定する目標車間距離(設定車間距離)を採用し、設定車間距離が長いときほど、運転者の安全嗜好が高く、安全性に対する意識が高いと判定した。そして、後方からの他車両の接近に対し、安全性に関する嗜好が高いときほど早いタイミングで警告を行うこととした。
【0093】
運転者の安全嗜好は、距離に限らず、時間によっても判定することが可能である。自車両と先行車との間に運転者が確保する時間的な余裕、例えば、自車両が先行車に衝突するまでの時間を運転者が設定可能である場合に、設定された衝突時間が長いときほど運転者の安全嗜好が高いとして、より早いタイミングで警告を実施する。
【0094】
さらに、運転車の安全嗜好は、ブレーキ操作等の直接的な指標によるほか、間接的な指標によっても検出することが可能である。間接的な指標として、例えば、運転中の運転者の視線や心拍数を採用することが可能であり、自車両を車線中央に維持するように操舵を自動的に制御または補助する走行支援制御を実施する車両において、追い越しに際して隣接車線を走行中に自動制御に依存せず、周囲を走行する他車両が存在しない方向に寄って走行する頻度等を採用することも可能である。運転中に運転者が頻繁に視線を動かしたり、運転者の心拍数が平時よりも一定以上に上昇したりする場合は、より早いタイミングで警告を行うようにする。さらに、隣接車線において片側に寄って走行する頻度が高い場合も、より早いタイミングで警告を行う。
【符号の説明】
【0095】
1…車両の運転支援装置、11…コントローラ、12…外界センサ、121…前方カメラ、122…前方ミリ波レーダ、123…後方ミリ波レーダ、13…インストルメントパネル、131…表示灯、132…警告灯、133…警報器、14…ステアリングスイッチ、141…クルーズスイッチ、142…クルーズ解除スイッチ、143…車速設定スイッチ、144…車間距離設定スイッチ、201…自動クルーズインジケータ、211…クルーズ起動・解除インジケータ、212…先行車検知インジケータ、213…車間距離インジケータ、213a、213b、213c…距離表示インジケータ、214…車速インジケータ、215…車速設定インジケータ、301、302…後方警告インジケータ。
図1
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図5
図6
図7
図8