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  • 特開-溶銑の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125712
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】溶銑の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20240911BHJP
   F27B 3/08 20060101ALI20240911BHJP
   F27B 3/19 20060101ALI20240911BHJP
   F27D 3/15 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C21C5/52
F27B3/08
F27B3/19
F27D3/15 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033713
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩
【テーマコード(参考)】
4K014
4K045
4K055
【Fターム(参考)】
4K014CD14
4K045AA04
4K045BA02
4K045RB02
4K045RC11
4K045RC12
4K045RC18
4K045RC20
4K055AA03
4K055JA17
4K055JA18
4K055JA19
4K055LA01
(57)【要約】
【課題】還元鉄を溶解して高い歩留まりで溶銑を製造する溶銑の製造方法を提供する。
【解決手段】炉体の側面に配置された排滓口からスラグを排滓する電気炉において、アーク加熱により固体還元鉄を溶解して溶銑を製造する溶銑の製造方法であって、電気炉が固定方式の場合は、排滓口の下端と溶銑面との距離を100mm以上確保するように溶銑を出銑し、電気炉が傾動方式の場合は、炉体を傾動した状態において、排滓口の下端の最も高い位置と溶銑面との高さの差を100mm以上確保するように、炉体を傾動してスラグを排滓する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体を傾動させずに前記炉体の側面に配置された排滓口からスラグを排滓する電気炉において、アーク加熱により固体還元鉄を溶解して溶銑を製造する溶銑の製造方法であって、
前記排滓口の下端と溶銑面との距離を100mm以上確保するように、前記溶銑を出銑することを特徴とする溶銑の製造方法。
【請求項2】
炉体を傾動させて前記炉体の側面に配置された排滓口からスラグを排滓する電気炉において、アーク加熱により固体還元鉄を溶解して溶銑を製造する溶銑の製造方法であって、
前記炉体を傾動した状態において、前記排滓口の下端の最も高い位置と溶銑面との高さの差を100mm以上確保するように、前記炉体を傾動して前記スラグを排滓し、その後、前記溶銑を出銑することを特徴とする溶銑の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉を用いた溶銑の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2削減という観点から、電気炉において固体還元鉄を溶解するとともに未還元の酸化鉄分を還元して溶銑を製造する方法が多く採用されてきている。未還元の酸化鉄分を還元する場合には、還元剤として炭材が投入される。また、固体還元鉄には脈石成分として多くのSiO2やAl23といった成分が含まれており、これらの成分がスラグとなることから塩基度を調整する必要があり、そのために生石灰などが投入される。このように固体還元鉄の溶解により大量のスラグが生成されることから、連続的に固体還元鉄の溶解を行う場合には、スラグの排滓も逐次行う必要がある。
【0003】
そこで、スラグの排滓と溶銑の出銑とを効率良く行い、生産性を向上させるために様々な技術が提案されている。特許文献1には、アークによる固体還元鉄の溶解と排滓口からのスラグの排出とを交互に複数回繰り返し、所定量の溶銑が生成された段階で出銑を行う溶銑の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-57431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に固体還元鉄は電気炉へ連続的に投入されるため、スラグを排出する直前では未溶解の固体還元鉄が残存する場合がある。その場合、固体還元鉄の比重はスラグよりも大きく溶銑よりも小さいことから溶銑とスラグとの界面で溶銑面の上側に未溶解の固体還元鉄が残存しやすい。特許文献1に記載の方法では、スラグを排滓口から排出する際に未溶解の固体還元鉄までも排出されてしまう可能性があり、その場合には鉄の歩留まりが低下してしまう。
【0006】
本発明は前述の問題点を鑑み、還元鉄を溶解して高い歩留まりで溶銑を製造する溶銑の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、未溶解の固体還元鉄がスラグとともに排出されないようにするために、未溶解の固体還元鉄が溶銑とスラグとの界面にどのように残存するかについて基礎実験を行ったところ、固体還元鉄にHBI(Hot Briquetted Iron)を用いた場合に、HBIが連続投入されると、未溶解のHBIが溶銑上に平均で2層となって存在することを知見した。つまり、HBIの短径を50mm程度とした場合、溶銑面の上側には100mm程度のHBI層が存在することを知見した。そこで、固体還元鉄の層をスラグとともに排出しないようにすることにより、鉄の歩留まりを向上させることができることを本発明者らは見出した。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
(1)
炉体を傾動させずに前記炉体の側面に配置された排滓口からスラグを排滓する電気炉において、アーク加熱により固体還元鉄を溶解して溶銑を製造する溶銑の製造方法であって、
前記排滓口の下端と溶銑面との距離を100mm以上確保するように、前記溶銑を出銑することを特徴とする溶銑の製造方法。
(2)
炉体を傾動させて前記炉体の側面に配置された排滓口からスラグを排滓する電気炉において、アーク加熱により固体還元鉄を溶解して溶銑を製造する溶銑の製造方法であって、
前記炉体を傾動した状態において、前記排滓口の下端の最も高い位置と溶銑面との高さの差を100mm以上確保するように、前記炉体を傾動して前記スラグを排滓し、その後、前記溶銑を出銑することを特徴とする溶銑の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、還元鉄を溶解して高い歩留まりで溶銑を製造する溶銑の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】固定方式の電気炉における操業を説明するための図である。
図2】傾動方式の電気炉における操業を説明するための図である。
図3】固定方式の電気炉における排滓口付近を拡大した図である。
図4】傾動方式の電気炉における排滓口付近を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明では、電気炉は直流式であっても交流式であってもよく、通電方式は特に限定されないものとする。また、本発明では固体還元鉄の種類についても特に限定はしないが、HBIの場合はサイズが大きく、溶銑とスラグとの界面で溶銑面の上側に未溶解のものが溜まりやすく、より顕著な効果が得られるため好ましい。したがって、固体還元鉄としてHBIを用いた例について以下に説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
本実施形態では、排滓または出銑時に炉体を傾動させない固定方式の電気炉において、高い歩留まりで溶銑を製造する方法について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態において、固定方式の交流式の電気炉10における操業を説明するための図である。電気炉10は、アークにより固体還元鉄、溶銑11およびスラグ12を加熱する電極13と、固体還元鉄や炭材、生石灰などを投入するための投入部14と、固体還元鉄を還元、溶解することによって発生するガスや粉塵を排出するための排気部15とを備えている。なお、図1には、2本の電極13が示されているが、電気炉10はこれらの奥にもう1本の電極(図示せず)を備えており、合計で3本の電極13を備えている。
【0014】
また、電気炉10の炉体の側面には、スラグ12を排滓するための排滓口16が設けられ、排滓口16よりも下方でかつ排滓口16とは反対側の側面には、溶銑11を出銑するための出銑口17が設けられている。排滓口16および出銑口17は、必要に応じてそれぞれ開閉が可能に構成されている。なお、排滓口16の下端は、出銑口17の上端よりも500mm以上高い位置にあるものとする。また、出銑口17は側面ではなく炉底に設けられていてもよい。
【0015】
続いて、固定方式の電気炉10における溶銑の製造方法について詳細に説明する。まず、排滓口16および出銑口17が閉じられ、種湯が残された状態で、投入部14から固体還元鉄(HBI)を投入する。また、投入する固体還元鉄のC濃度および金属化率に応じて還元に必要な量の炭材も投入部14から投入し、さらには、生成されるスラグ12の塩基度を調整するために、生石灰やドロマイトなどの石灰源も投入部14から投入する。その後、電極13を溶銑面近傍まで下降して電極13の下端からアークを発生させ、固体還元鉄を加熱する。これにより、固体還元鉄中の酸化鉄(FeO)が固体還元鉄中の炭素または投入された炭材中の炭素により還元される。そして、固体還元鉄中の金属鉄が溶解して溶銑11となり、固体還元鉄中の脈石成分(SiO2およびAl23)も溶融してスラグ12の一部となる。また、固体還元鉄の還元によりCOガスが発生してスラグ12がフォーミングし、COガスが排気部15から排出され、炭素の一部は溶銑11中に溶解する。
【0016】
以上のように固体還元鉄の還元及び溶解が進行することによって、溶銑11およびスラグ12の量が増加する。なお、投入部14からの固体還元鉄、炭材、石灰源の投入とアークによる加熱は継続して行われ、スラグ面が排滓口16の下端に到達すると、排滓口16を開口することにより排滓口16からスラグ12が排滓される。このとき、固体還元鉄、炭材、石灰源の投入とアークによる加熱は継続しており、出銑口17は閉口された状態であるため、スラグ12を排滓している段階でも溶銑11の量は増加している。なお、排滓口16を開口するタイミングは特に限定はなく、スラグ面が排滓口16の上端よりも高くなった段階で随時行う。
【0017】
図3は、図1の電気炉10における排滓口16付近を拡大した図である。ここで、未溶解の固体還元鉄は、溶銑11とスラグ12との界面で溶銑面11Xの上側に残存する。固体還元鉄としてHBIを投入した場合には2層で形成されることから、溶銑面11Xから概ね100mm上側までは固体還元鉄の層が形成されている。したがって、排滓口16を開口させた状態で溶銑11の量の増加により溶銑面11Xが上昇し、溶銑面11Xと排滓口16の下端16Xとの距離が100mm未満となると、排滓口16から未溶解の固体還元鉄が排出されてしまう。なお、溶銑面11Xと排滓口16の下端16Xとの距離は排滓口の下端16Xから溶銑面11Xにおろした垂線の長さである。
【0018】
そこで本実施形態では、溶銑面11Xと排滓口16の下端16Xとの距離が100mm未満となる前に出銑口17を開口して溶銑12を出銑し、溶銑面11Xと排滓口16の下端16Xとの距離を100mm以上確保するようにする。これにより、未溶解の固体還元鉄が排滓時に排出されることを防止することができ、鉄の歩留まりを向上させることができる。溶銑面11Xと排滓口16の下端16Xとの距離の上限については特に限定しないが、距離の最大値は炉のサイズによって異なり、出銑終了直前の最小溶銑量(種湯のみ)の時の溶銑面11Xと排滓口16の下端16Xとの距離となる。出銑口17を開口して溶銑12を出銑する際には、電極13によるアーク加熱を継続してもいいし停止しても良い。そして、出銑によりスラグ面が排滓口16の下端16Xよりも低くなった場合には、排滓口16を閉口する。なお、溶銑の出銑後に連続して固体還元鉄を投入する場合には、排滓口16を開口したままとしてもよい。
【0019】
また、出銑口17から未溶解の固体還元鉄が排出されないようにするために、溶銑面が出銑口17の上端よりも低くなる前に出銑口17を閉口するようにする。そして、残った溶銑は次チャージの種湯として用いる。なお、本実施形態では、炉体が傾動しない固定方式の電気炉で溶銑を製造する方法いついて説明したが、炉体を傾動させる傾動方式の電気炉において、傾動させずにスラグを排滓する場合においても同様に適用可能である。
【0020】
(第2の実施形態)
本実施形態では、排滓または出銑時に炉体を傾動させる傾動方式の電気炉において、高い歩留まりで溶銑を製造する方法について説明する。
【0021】
図2は、本実施形態において、傾動方式の交流式の電気炉20における操業を説明するための図である。電気炉20は、アークにより固体還元鉄、溶銑21およびスラグ22を加熱する電極23と、固体還元鉄や炭材、生石灰などを投入するための投入部24と、固体還元鉄を還元、溶解することによって発生するガスや粉塵を排出するための排気部25とを備えている。なお、図2には、2本の電極23が示されているが、電気炉20はこれらの奥にもう1本の電極(図示せず)を備えており、合計で3本の電極23を備えている。
【0022】
また、電気炉20の本体の側面には、スラグ22を排滓するための排滓口26が設けられ、電気炉20の本体の底面には、溶銑21を出銑するための出銑口27が設けられている。排滓口26および出銑口27は、必要に応じてそれぞれ開閉が可能に構成されている。また、電気炉20は不図示の傾動装置により排滓口26側へ傾動可能となっている。図2の例では、出銑口27は炉底に設けられているが、排滓口26とは反対側の側面に設けられていてもよい。この場合、電気炉20は、不図示の傾動装置により排滓口26側と出銑口27側とへ傾動可能とする。
【0023】
続いて、傾動方式の電気炉20における溶銑の製造方法について詳細に説明する。まず、電気炉20が傾動していない状態において、排滓口26および出銑口27が閉じられ、種湯が残された状態で、第1の実施形態と同様に、投入部24から固体還元鉄、炭材、石灰源を投入する。その後、電極23を溶銑面近傍まで下降して電極23の下端からアークを発生させ、固体還元鉄を加熱する。これにより、固体還元鉄が還元、溶解して溶銑となり、固体還元鉄中の脈石成分がスラグとなる。以上のように、固体還元鉄の還元及び溶解が進行することによって、溶銑21およびスラグ22の量が増加する。そして、溶銑21およびスラグ22の量が所定量に達するまで、投入部24からの固体還元鉄、炭材、石灰源の投入とアークによる加熱を継続して行う。
【0024】
図2(a)は、スラグ22を排滓している状態を示している。また、図4は、スラグを排滓している時の図3の電気炉20における排滓口26付近を拡大した図である。溶銑21およびスラグ22の量が所定量に達した段階で、投入部24からの固体還元鉄、炭材、石灰源の投入とアークによる加熱を中断し、電気炉20の炉体を排滓口26側へ傾動した後、スラグドア28を開放し、排滓口26を開口してスラグ22を排滓口26から排滓するようにする。このとき、前述したように未溶解の固体還元鉄によって溶銑面から概ね100mm上側までは固体還元鉄の層が形成されていることから、電気炉20の炉体が傾動した状態で溶銑面21Xと排滓口26の下端の最も高い位置26Xとの高さの差を100mm以上確保するようにスラグ22を排滓するようにする。なお、溶銑面21Xと排滓口26の下端の最も高い位置26Xとの距離は排滓口の下端の最も高い位置26Xから溶銑面21Xにおろした垂線の長さである。溶銑面21Xと排滓口26の下端の最も高い位置26Xとの距離の上限については、スラグ22の排滓開始時の溶銑量、スラグ量および傾動角によって異なるが、種湯に固体還元鉄を投入して固体還元鉄の還元、溶解を開始し、最初にスラグ22の排滓を行う場合であって、炉体を傾動しないでスラグ22を排滓する場合が実質的な上限となる。
【0025】
スラグ22の排滓が終了すると、傾動している電気炉20を傾動していない状態へ戻し、スラグドア28を閉じることにより排滓口26を閉口する。そして、図2(b)に示すように、出銑口27を開口して出銑口27から種湯分を除いた分の溶銑21を出銑する。なお、図2では、炉体を傾動せずに溶銑を出銑する例について示したが、出銑口が出滓口の反対側の側面に設けられている場合には、炉体を出銑口側へ傾動し、出銑口を開口することにより溶銑を出銑する。そして、溶銑面が出銑口27の上端の最も高い位置よりも低くなる前に出銑口を閉口して種湯に相当する量の溶銑を残し、次チャージで投入部24からの固体還元鉄、炭材、石灰源の投入とアークによる加熱とを再開する。
【0026】
なお、スラグの排滓を行った後に溶銑を出銑せずに、傾動していない状態へ炉体を戻した後に、投入部24からの固体還元鉄、炭材、石灰源の投入とアークによる加熱とを再開するようにしてもよい。この場合、例えば固体還元鉄の溶解とスラグの排滓とを繰り返すことにより溶銑量のみが増加するが、炉体が傾動した状態で溶銑面と排滓口26の下端の最も高い位置との距離が100mm以上確保できなくなる溶銑量となった段階ではスラグの排滓ができなくなるため、この段階で溶銑を出銑する必要がある。炉体が傾動していない状態では排滓口26は閉口しているため、溶銑の出銑を開始する時点で溶銑面と排滓口26の下端と溶銑面との距離が100mm未満であってもよいが、スラグドア28が鉄製である場合にはスラグドア28が溶解する可能性があるため、溶銑面が排滓口26の下端に到達する前に溶銑の出銑を開始することが好ましい。
【0027】
また、本実施形態では、スラグ22の排滓が終了した後、傾動している電気炉20を傾動していない状態へ戻し、排滓口26を閉口するとしたが、排滓口26は開口したままとしてもよい。排滓口26を開口したまま固体還元鉄の溶解とスラグの排滓とを繰り返す場合には、固体還元鉄が排滓口26から排出されないようにするために、溶銑面と排滓口26の下端との距離が100mm未満となる前に溶銑を出銑するようにする。
【0028】
以上のように第1及び第2の実施形態によれば、未溶解の固体還元鉄がスラグとともに排出することを防止できるため、鉄の歩留まりをより向上させることができる。なお、溶銑面の高さについては、以下の方法により測定することができる。まず、固体還元鉄を投入する前に種湯を残した状態で電極を下降させ、電気伝導度を測定する。スラグと溶銑とでは電気伝導度は異なるので、電気伝導度が大きく変化した位置が初期の溶銑面の高さとなる。また、レーザープロフィールメーターにより炉のプロフィールを測定し、電気炉内の構造を予め把握しておくことにより、溶銑量に対する炉内での溶銑面の高さを予測することができる。そして、投入した固体還元鉄の量から生成される溶銑量を推測し、その推測した溶銑量に対する高さを初期の溶銑面の高さに足し合わせることにより、溶銑面の高さ(傾動した状態も含む)を把握することができる。
【実施例0029】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0030】
(第1の実施例)
炉体側壁に排滓口、炉底に出銑口を設置した100t規模の交流式の電気炉において、種湯として溶銑を10t残した状態で、投入部から固体還元鉄として表1に示す組成のHBIと表2に示す組成の炭材と、塩基度調整用の生石灰とを投入した。そして、電極を溶銑面まで下降してアークを発生させてHBIを加熱し、溶銑を製造した。なお、HBIは、見掛け密度は5g/cm3、サイズは長径が130~150mm、短径が50mmのものを用いた。そして、所定の間隔でHBI、炭材、生石灰を投入し、連続的にHBIを溶解した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
そして、HBIの溶解によりスラグ面が排滓口の上端から300mm上部に到達した段階でスラグドアを開放して排滓口を開口し、炉体を傾動させずにスラグを排滓した。そして、溶銑面の高さが排滓口の下端から100mm下の位置に達した段階で出銑口を開口して出銑を行い、次チャージ用の種湯分(10t)だけ残した。以上の手順で5チャージ分の溶銑を製造し、5チャージの平均の鉄の歩留まりを計算したところ、97.5%であった。なお、鉄の歩留まりは以下の式により算出した。
歩留まり(%)=出銑量(t)/{HBI投入量(t)×0.868}×100
【0034】
比較のため、同様の手順によりHBIを溶解し、溶銑面の高さが排滓口の下端から50mm下の位置に達した段階で出銑口を開口して出銑し、同様に5チャージの平均の鉄の歩留まりを計算したところ、93.5%であった。以上のように、溶銑面が排滓口の下端から100mm下の位置に達した段階で出銑することにより、鉄の歩留まりが向上することが確認できた。
【0035】
(第2の実施例)
第1の実施例と同じ電気炉を用い、第1の実施例と同様の条件で連続的にHBIを溶解し、スラグ面が排滓口の上端から300mm上部に到達した段階で炉体を傾動した後、スラグドアを開放して排滓口を開口し、スラグを排滓口から排滓した。このとき、傾動時の溶銑面の高さが排滓口下端の最も高い位置から150mm下の位置となるように傾動角を調整した。そして、スラグの排滓後、炉体を傾動させない状態に戻し、スラグドアを閉じて排滓口を閉口してHBI等の投入および溶解を再開した。そして、HBIの溶解およびスラグの排滓を繰り返し、HBIの溶解により炉内部の溶銑量が120tになった段階で出銑口を開口して溶銑の出銑を行い、次チャージ用の種湯分(10t)だけ残した。以上の手順で5チャージ分の溶銑を製造し、それぞれのチャージの鉄の歩留まりおよびその平均値を算出した。表3の発明例に歩留まりの算出結果を示す。
【0036】
比較のため、同様の手順によりHBIを溶解し、スラグの排滓時においては傾動時の溶銑面の高さが排滓口の最も高い位置から50mm下の位置となるように傾動角を調整し、スラグを排滓した。それ以外の手順は発明例と同様とした。以上の手順で5チャージ分の溶銑を製造し、それぞれのチャージの鉄の歩留まりおよびその平均値を算出した。表3の比較例に歩留まりの算出結果を示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3に示すように、発明例では鉄の歩留まりが向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0039】
10、20 電気炉
11、21 溶銑
11X、21X 溶銑面
12、22 スラグ
13、23 電極
14、24 投入部
15、25 排気部
16、26 排滓口
16X 排滓口の下端
26X 排滓口の下端の最も高い位置
17、27 出銑口
28 スラグドア
図1
図2
図3
図4