(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125718
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、誘電体基板、およびマイクロストリップアンテナ
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240911BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20240911BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240911BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240911BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/24
C08K3/04
C08K3/22
H01Q13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033725
(22)【出願日】2023-03-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛志
【テーマコード(参考)】
4J002
5J045
【Fターム(参考)】
4J002CD041
4J002DA037
4J002DE138
4J002DE186
4J002FD097
4J002FD098
4J002FD126
4J002FD206
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002HA09
5J045AA05
5J045AB06
5J045DA09
5J045LA04
5J045NA01
(57)【要約】
【課題】低誘電正接および色味に優れた硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、高誘電フィラーを含む無機充填材(B)と、着色剤(C)と、を含み、着色剤(C)は、カーボンブラックと酸化チタンとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)高誘電フィラーを含む無機充填材と、
(C)着色剤と、を含み、
着色剤(C)は、カーボンブラックと酸化チタンとを含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
カーボンブラックと酸化チタンとの合計量は、前記樹脂組成物の全体100質量%に対して0.1質量%以上8質量%以下である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
カーボンブラック1質量部に対して、酸化チタンを3質量部以上20質量部以下の量で含む、請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
高誘電フィラーが、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
無機充填材(B)100体積%に対して高誘電フィラーが60体積%以上含まれる、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに硬化剤(D)を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに硬化触媒(E)を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物のL*a*b*色座標において、
明度L*の値が、24~40であり、
a*の値が、-3.0~0.0であり、
b*の値が、-5.0~-1.5である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
マイクロストリップアンテナを形成する材料として用いられる、請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
誘電体導波路を形成する材料として用いられる、請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
電磁波吸収体を形成する材料として用いられる、請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化物からなる誘電体基板。
【請求項13】
請求項12に記載の誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
を備える、マイクロストリップアンテナ。
【請求項14】
誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
前記放射導体板に対向配置された高誘電体と、
を備える、マイクロストリップアンテナであって、
前記高誘電体が、請求項12に記載の誘電体基板により構成されている、マイクロストリップアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、誘電体基板、およびマイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信が高速化され、さらに使用される通信機器に対して高性能化および小型化が求められている。さらに、近年、無線通信の容量が急激に増大してきており、それに伴う伝送信号の使用周波数の広帯域化、高周波化が急速に進行している。そのため、通信機器の使用周波数帯は、従来使用されてきたマイクロ波帯だけでは対応できず、ミリ波帯にまで拡大されつつある。そのような背景から通信機器に搭載されるアンテナヘの高性能化が強く求められている。
【0003】
通信機器は、通信機器内部に組み込まれたアンテナ材料(誘電体基板)の誘電率が高くなると、より一層の小型化が図れる。また、誘電体基板の誘電正接が小さくなると、低損失になり、高周波化に有利となる。従って、誘電率が高く、誘電正接が小さい誘電体基板を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器の小型化が図ることができる。
また、製造過程において、製品である誘電体基板に製造番号等を捺印する必要があることから、誘電体基板を黒色にすることが求められている。
【0004】
特許文献1には、エポキシ樹脂と、硬化剤と、所定の量のチタン酸カルシウム粒子およびチタン酸ストロンチウム粒子と、シリカ粒子及びアルミナ粒子とを含有する無機充填材と、を含む、高周波デバイスにおける電子部品の封止に用いられる成形用樹脂組成物が開示されている。当該文献には、着色剤としてカーボンブラックや酸化チタンが例示されており、実施例ではカーボンブラックが使用されている。
【0005】
特許文献2には、エポキシ樹脂と、活性エステル化合物を含む硬化剤と、を含み、カーボンブラックの含有率が封止用樹脂組成物全体に対して0質量%~0.15質量%である封止用樹脂組成物が開示されている。当該文献には、カーボンブラック以外の着色剤として酸化チタンも例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6870778号公報
【特許文献2】特開2021-113253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載のように、着色剤としてカーボンブラックを用いる場合、導電性が生じるため得られる硬化物の誘電正接が悪化することがあった。一方、着色剤として酸化チタンを用いた場合、カーボンブラックに比べて誘電正接の悪化が抑制されるものの、硬化物の色味(黒色性)に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこのような課題に鑑みて検討したところ、着色剤としてカーボンブラックと酸化チタンとを併用することで得られる硬化物の低誘電正接および色味の何れもが改善されることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0009】
[1](A)エポキシ樹脂と、
(B)高誘電フィラーを含む無機充填材と、
(C)着色剤と、を含み、
着色剤(C)は、カーボンブラックと酸化チタンとを含む、熱硬化性樹脂組成物。
[2] カーボンブラックと酸化チタンとの合計量は、前記樹脂組成物の全体100質量%に対して0.1質量%以上8質量%以下である、[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3] カーボンブラック1質量部に対して、酸化チタンを3質量部以上20質量部以下の量で含む、[1]または[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4] 高誘電フィラーが、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5] 無機充填材(B)100体積%に対して高誘電フィラーが60体積%以上含まれる、[1]~[4]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6] さらに硬化剤(D)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7] さらに硬化触媒(E)を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8] 前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物のL*a*b*色座標において、
明度L*の値が、24~40であり、
a*の値が、-3.0~0.0であり、
b*の値が、-5.0~-1.5である、[1]~[7]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9] マイクロストリップアンテナを形成する材料として用いられる、[1]~[8]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[10] 誘電体導波路を形成する材料として用いられる、[1]~[8]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[11] 電磁波吸収体を形成する材料として用いられる、[1]~[8]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[12] [1]~[8]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化物からなる誘電体基板。
[13] [12]に記載の誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
を備える、マイクロストリップアンテナ。
[14] 誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
前記放射導体板に対向配置された高誘電体と、
を備える、マイクロストリップアンテナであって、
前記高誘電体が、[12]に記載の誘電体基板により構成されている、マイクロストリップアンテナ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低誘電正接および色味(黒色性)に優れた硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。言い換えれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、低誘電正接および色味(黒色性)のバランスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のマイクロストリップアンテナを示す上面斜視図である。
【
図2】本実施形態のマイクロストリップアンテナの別の態様を示す断面図である。
【
図3】実施例および比較例の熱硬化性樹脂組成物から得られた硬化物の色味(黒色性)を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0013】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、高誘電フィラーを含む無機充填材(B)と、着色剤(C)と、を含み、着色剤(C)は、カーボンブラックと酸化チタンとを含む。
【0014】
このような熱硬化性樹脂組成物は、低誘電正接および色味に優れた硬化物を得ることができ、さらに高誘電率でもある。言い換えれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、低誘電正接、高誘電率および色味のバランスに優れる。
【0015】
[エポキシ樹脂(A)]
エポキシ樹脂(A)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂実施例等を挙げることができ、これらから選択される少なくとも1種を含む。
【0016】
本実施形態において、エポキシ樹脂(A)は、本発明の効果の観点から、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が好ましく、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂がより好ましい。
エポキシ樹脂(A)は、その他のエポキシ樹脂として、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等を組み合わせて含むことができる。
【0017】
エポキシ樹脂(A)は、本発明の効果の観点から、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは2質量%以上25質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上10質量%以下含むことができる。
【0018】
[無機充填材(B)]
無機充填材(B)は、高誘電フィラー(b1)を含む。さらに、無機充填材(B)は、高誘電フィラー(b1)以外の他の無機充填材(b2)を含むことができる。
【0019】
(高誘電フィラー(b1))
高誘電フィラー(b1)としては、本発明の効果を奏する範囲で公知の高誘電フィラーを用いることができるが、例えば、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、またはジルコン酸カルシウム等を挙げることができ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて含むことができる。
【0020】
本発明の効果の観点から、高誘電フィラー(b1)としては、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種であることが好ましく、チタン酸カルシウムまたはチタン酸マグネシウムを含むことがより好ましく、チタン酸カルシウムを含むことがさらに好ましい。
【0021】
高誘電フィラー(b1)の形状は、粒状、不定形、フレーク状などであり、これらの形状の高誘電フィラーを任意の比率で用いることができる。高誘電フィラー(b1)の平均粒子径は、本発明の効果の観点や流動性・充填性の観点から、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.3μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上10μm以下である。
【0022】
高誘電フィラー(b1)は、本発明の効果の観点から、無機充填材(B)100質量%に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含むことができる。
【0023】
高誘電フィラー(b1)は、本発明の効果の観点から、無機充填材(B)100体積%に対して、好ましくは60体積%以上、より好ましくは65体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上含むことができる。
【0024】
高誘電フィラー(b1)の配合量は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上の範囲である。上限値は80質量%以下である。
高誘電フィラー(b1)の添加量が上記範囲であると、得られる硬化物の高誘電率および低誘電正接により優れるとともに、成形品の製造にも優れる。
【0025】
(無機充填材(b2))
高誘電フィラー(b1)以外の他の無機充填剤(b2)としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、またはこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。これらの無機充填材は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
無機充填材(b2)の配合量は、成形性、熱膨張性の低減、および強度向上の観点から、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは5質量%以上、30質量%以下、より好ましくは8質量%以上、20質量%以下の範囲とすることができる。上記範囲であれば、熱膨張性低減および成形性に優れる。
【0027】
[着色剤(C)]
着色剤(C)は、カーボンブラックと酸化チタンとを含む。
酸化チタンとしては、TiOx(ただし、Xは1以上、2未満を示す)で表される黒色酸化チタンを含むことがより好ましい。
【0028】
カーボンブラックと酸化チタンとの合計量は、本発明の効果の観点から、前記樹脂組成物の全体100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上7質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上6質量%以下である。
【0029】
本実施形態においては、カーボンブラック1質量部に対して、酸化チタンを、好ましくは3質量部以上20質量部以下、より好ましくは5質量%以上18質量%以下、さらに好ましくは7質量%以上15質量%以下の量で含むことができる。
これにより、低誘電正接、高誘電率および色味により優れる硬化物を得ることができ、これらのバランスにより優れる。
【0030】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、着色剤(C)以外に他の着色剤を含むこともできる。
他の着色剤としては、有機染料、有機顔料、鉛丹、ベンガラ等の公知の着色剤を挙げることができる。他の着色剤の含有量は、目的等に応じて適宜選択できる。
【0031】
[硬化剤(D)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、さらに硬化剤(D)を含むことができる。硬化剤(D)としては、本発明の効果を奏する範囲で公知の硬化剤を用いることができるが、例えば活性エステル硬化剤やフェノール系硬化剤等を挙げることができ、活性エステル硬化剤を用いることが好ましい。
【0032】
活性エステル硬化剤としては、1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を用いることができる。中でも、活性エステル硬化剤としては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の、反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましい。
【0033】
活性エステル硬化剤の好ましい具体例としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル硬化剤、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル硬化剤が挙げられ、少なくとも1種を含むことができる。中でも、ナフタレン構造を含む活性エステル硬化剤、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル硬化剤がより好ましい。「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造単位を表す。
【0034】
本実施形態において、活性エステル硬化剤は、例えば、以下の一般式(1)で表される構造を有する樹脂を用いることができる。
【0035】
【0036】
一般式(1)において、「B」は、一般式(B)で表される構造である。
【0037】
【0038】
一般式(B)中、Arは、置換または非置換のアリーレン基である。置換されたアリーレン基の置換基は炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基等が挙げられる。
Yは、単結合、置換または非置換の炭素原子数1~6の直鎖のアルキレン基、または置換または非置換の炭素原子数3~6の環式のアルキレン基、置換または非置換の2価の芳香族炭化水素基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、あるいはスルホン基である。前記基の置換基としては、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基等が挙げられる。
Yとして好ましくは、単結合、メチレン基、-CH(CH3)2-、エーテル結合、置換されていてもよいシクロアルキレン基、置換されていてもよい9,9-フルオレニレン基等が挙げられる。
nは0~4の整数であり、好ましくは0または1である。
Bは、具体的には、下記一般式(B1)または下記一般式(B2)で表される構造である。
【0039】
【0040】
上記一般式(B1)および上記一般式(B2)中、ArおよびYは、一般式(B)と同義である。
【0041】
Aは、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、
Ar’は、置換または非置換のアリール基であり、
kは、繰り返し単位の平均値であり、0.25~3.5の範囲である。
【0042】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、特定の活性エステル硬化剤を含むことにより、得られる硬化物は優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接に優れる。
【0043】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる活性エステル硬化剤は、式(B)で表される活性エステル基を有する。エポキシ樹脂と活性エステル硬化剤との硬化反応において、活性エステル硬化剤の活性エステル基はエポキシ樹脂のエポキシ基と反応して2級の水酸基を生じる。この2級の水酸基は、活性エステル硬化剤のエステル残基により封鎖される。そのため、硬化物の誘電正接が低減される。
【0044】
一実施形態において、上記式(B)で表される構造は、以下の式(B-1)~式(B-6)から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0045】
【0046】
式(B-1)~(B-6)において、
R1はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、
【0047】
R2はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基の何れかであり、Xは炭素原子数2~6の直鎖のアルキレン基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、スルホン基のいずれかであり、
nは0~4の整数であり、pは1~4の整数である。
【0048】
上記式(B-1)~(B-6)で表される構造は、いずれも配向性が高い構造であることから、これを含む活性エステル硬化剤を用いた場合、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、低誘電正接を有するとともに、金属に対する密着性に優れ、そのため半導体封止材料として好適に用いることができる。
中でも、低誘電正接の観点から、式(B-2)、式(B-3)または式(B-5)で表される構造を有する活性エステル硬化剤が好ましく、さらに式(B-2)のnが0である構造、式(B-3)のXがエーテル結合である構造、または式(B-5)において二つのカルボニルオキシ基が4,4’-位にある構造を有する活性エステル硬化剤がより好ましい。また各式中のR1はすべて水素原子であることが好ましい。
【0049】
式(1)における「Ar’」はアリール基であり、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、3,5-キシリル基、o-ビフェニル基、m-ビフェニル基、p-ビフェニル基、2-ベンジルフェニル基、4-ベンジルフェニル基、4-(α-クミル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等であり得る。中でも、特に誘電正接の低い硬化物が得られることから、1-ナフチル基または2-ナフチル基であることが好ましい。
【0050】
本実施形態において、式(1)で表される活性エステル硬化剤における「A」は、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、このようなアリーレン基としては、例えば、1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物と、フェノール性化合物とを重付加反応させて得られる構造が挙げられる。
【0051】
前記1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物は、例えば、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエンの多量体、テトラヒドロインデン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニル-2-ノルボルネン、リモネン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、耐熱性に優れる硬化物が得られることからジシクロペンタジエンが好ましい。尚、ジシクロペンタジエンは石油留分中に含まれることから、工業用ジシクロペンタジエンにはシクロペンタジエンの多量体や、他の脂肪族或いは芳香族性ジエン化合物等が不純物として含有されることがあるが、耐熱性、硬化性、成形性等の性能を考慮すると、ジシクロペンタジエンの純度90質量%以上の製品を用いることが望ましい。
【0052】
一方、前記フェノール性化合物は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クロルフェノール、ブロムフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられ、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、硬化性が高く硬化物における誘電特性に優れる活性エステル硬化剤となることからフェノールが好ましい。
【0053】
好ましい実施形態において、式(1)で表される活性エステル硬化剤における「A」は、式(A)で表される構造を有する。式(1)における「A」が以下の構造である活性エステル硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物は、その硬化物が低誘電正接であり、インサート品に対する密着性に優れる。
【0054】
【0055】
式(A)において、
R3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、
lは0または1であり、mは1以上の整数である。
【0056】
式(1)で表される活性エステル硬化剤のうち、より好ましいものとして、下記式(1-1)、式(1-2)および式(1-3)で表される樹脂が挙げられ、特に好ましいものとして、下記式(1-3)で表される樹脂が挙げられる。
【0057】
【0058】
式(1-1)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0059】
【0060】
式(1-2)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0061】
【0062】
式(1-3)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0063】
本発明で用いられる活性エステル硬化剤は、脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール性水酸基を有するアリール基が複数結節された構造を有するフェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)とを反応させる、公知の方法により製造することができる。
【0064】
上記フェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)との反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜調整することができるが、中でも、より硬化性の高い活性エステル硬化剤が得られることから、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)が有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計1モルに対し、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.25~0.90モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.10~0.75モルの範囲となる割合で各原料を用いることが好ましく、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.50~0.75モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.25~0.50モルの範囲となる割合で各原料を用いることがより好ましい。
【0065】
また、活性エステル硬化剤の官能基当量は、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基およびフェノール性水酸基の合計を樹脂の官能基数とした場合、硬化性に優れ、誘電率及び誘電正接の低い硬化物が得られることから、200g/eq以上230g/eq以下の範囲であることが好ましく、210g/eq以上220g/eq以下の範囲であることがより好ましい。
【0066】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物において、活性エステル硬化剤とエポキシ樹脂(A)との配合量は、硬化性に優れ、誘電正接の低い硬化物が得られることから、活性エステル硬化剤中の活性基の合計1当量に対して、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。ここで、活性エステル硬化剤中の活性基とは、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基及びフェノール性水酸基を指す。
【0067】
硬化剤(D)としては、フェノール系硬化剤を用いることもできる。
フェノール系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0068】
硬化剤(D)の配合量は、エポキシ樹脂(A)に対して、好ましくは、70質量%以上90質量%以下の量である。上記範囲の量で硬化剤を使用することにより、優れた硬化性を有する樹脂組成物が得られる。
【0069】
硬化剤(D)は、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上8質量%以下の量で用いられる。
硬化剤(B)を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0070】
[硬化触媒(E)]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、さらに硬化触媒(E)を含むことができる。
硬化触媒(E)は、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。硬化触媒(E)は、熱硬化性樹脂の硬化反応を早めるものである限り特に限定されず、公知の硬化触媒を用いることができる。
【0071】
硬化触媒(E)としては、具体的に、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
これらの中でも、硬化性を向上させ、曲げ強度などの機械強度に優れた磁性材料を得る観点からはリン原子含有化合物を含むことが好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
潜伏性を有する硬化触媒を用いることにより、成形性により優れるとともに、曲げ強度などの機械強度により優れた磁性材料を得ることができる。
【0073】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
テトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0074】
【0075】
一般式(6)において、
Pはリン原子を表す。
R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に、芳香族基またはアルキル基を表す。
Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。
AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。
x、yは1~3、zは0~3であり、かつx=yである。
【0076】
一般式(6)で表される化合物は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR4、R5、R6およびR7がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。上記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノールなどの縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノールなどの多環式フェノール類などが例示される。
【0077】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0078】
【0079】
一般式(7)において、
Pはリン原子を表す。
R8は炭素数1~3のアルキル基、R9はヒドロキシル基を表す。
fは0~5であり、gは0~3である。
【0080】
一般式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。
【0081】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0082】
【0083】
一般式(8)において、
Pはリン原子を表す。
R10、R11およびR12は、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0084】
R13、R14およびR15は水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R14とR15が結合して環状構造となっていてもよい。
【0085】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1~6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0086】
また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0087】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0088】
一般式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR10、R11およびR12がフェニル基であり、かつR13、R14およびR15が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が封止用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0089】
【0090】
一般式(9)において、
Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。
【0091】
R16、R17、R18およびR19は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
R20は、基Y2およびY3と結合する有機基である。
R21は、基Y4およびY5と結合する有機基である。
【0092】
Y2およびY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
【0093】
Y4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
R20、およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。
Z1は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0094】
一般式(9)において、R16、R17、R18およびR19としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等のアルキル基、アルコキシ基、水酸基などの置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0095】
一般式(9)において、R20は、Y2およびY3と結合する有機基である。同様に、R21は、基Y4およびY5と結合する有機基である。Y2およびY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基R20およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(9)中の-Y2-R20-Y3-、およびY4-R21-Y5-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2'-ビフェノール、1,1'-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0096】
一般式(9)中のZ1は、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基等のグリシジルオキシ基、メルカプト基、アミノ基を有するアルキル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法は、例えば以下である。
【0097】
メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。
【0098】
硬化触媒を用いる場合、その含有量は、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~2質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
【0099】
[その他の成分]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上記成分に加え、必要に応じて、シランカップリング剤、離型剤、着色剤、分散剤、低応力化剤等の種々の成分を含むことができる。
【0100】
<熱硬化性樹脂組成物>
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述の各成分を均一に混合することにより製造できる。
製造方法としては、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、ニーダ、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。得られた熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、成形条件に合うような寸法および質量でタブレット化してもよい。
【0101】
<硬化物>
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、高周波帯において高誘電率および低誘電正接に優れることから、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器等の小型化を図ることができ、マイクロストリップアンテナを形成する材料、誘電体導波路を形成する材料、さらに電磁波吸収体を形成する材料等として好適に用いることができる。
【0102】
さらに、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物(成形温度175℃、硬化時間100秒、成形圧力8MPa)は、好ましくは、L*a*b*色座標において、明度L*の値が、24~40であり、a*の値が、-3.0~0.0であり、b*の値が、-5.0~-1.5である。
硬化物のL*、a*およびb*が上記数値範囲であることで、色味(黒色性)に優れることから捺印性に優れ、さらに誘電特性を低減することもできる。
L*、a*およびb*の数値は、公知の方法によって制御でき、着色剤の種類を選択したり、含有量を調整することによって、制御できる。
【0103】
ここで、L*、a*およびb*の値は、国際照明委員(CIE)の1976年の定義下での値である。L*、a*およびb*は、市販の測色計を用いることで測定することができる。
【0104】
本実施形態の高周波デバイスは、熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物を備える。
以下、高周波デバイスの一例を説明する。
【0105】
<マイクロストリップアンテナ>
図1に示すように、マイクロストリップアンテナ10は、上述の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板12と、誘電体基板12の一方の面に設けられた放射導体板(放射素子)14と、誘電体基板12の他方の面に設けられた地導体板16と、を備える。
放射導体板の形状は矩形または円形が挙げられる。本実施形態においては、矩形の放射導体板14を用いた例によって説明する。
【0106】
放射導体板14は、金属材料、金属材料の合金、金属ペーストの硬化物、および導電性高分子のいずれかを含む。金属材料は、銅、銀、パラジウム、金、白金、アルミニウム、クロム、ニッケル、カドミウム鉛、セレン、マンガン、錫、バナジウム、リチウム、コバルト、およびチタン等を含む。合金は、複数の金属材料を含む。金属ペースト剤は、金属材料の粉末を有機溶剤、およびバインダとともに混練したものを含む。バインダは、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂を含む。導電性ポリマーは、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー等を含む。
【0107】
本実施形態のマイクロストリップアンテナ10は、
図1に示すように、長さL、幅Wの放射導体板14を有しており、Lが1/2波長の整数倍に一致する周波数で共振する。本実施形態のように、高誘電率である誘電体基板12を用いる場合、誘電体基板12の厚さhと放射導体板14の幅Wは波長に対して十分小さくなるように設計される。
【0108】
地導体板16は、銅や銀、金などの導電性の高い金属で構成される薄い板である。その厚さは、アンテナ装置の中心動作周波数に対して十分薄く、中心動作周波数の50分の1波長から1000分の1波長程度であればよい。
【0109】
マイクロストリップアンテナの給電方法としては,背面同軸給電および共平面給電のような直接給電方式や、スロット結合給電および近接結合給電のような電磁結合給電方式が挙げられる。
背面同軸給電は、地導体板16と誘電体基板12を貫く同軸線路やコネクタを用いてアンテナ背面から放射導体板14に給電することができる。
共平面給電は、放射導体板14と同一面上に配置されたマイクロストリップ線路(不図示)で放射導体板14に給電することができる。
【0110】
スロット結合給電においては,地導体板16を挟み込む形でさらに別の誘電体基板(不図示)を設け、放射導体板14とマイクロストリップ線路とを別々の誘電体基板に形成する。地導体板16に空けられたスロットを介して,放射導体板14とマイクロストリップ線路とを電磁結合させることによって放射導体板14が励振される。
【0111】
近接結合給電においては、誘電体基板12が積層構造を有し、放射導体板14が形成された誘電体基板と,マイクロストリップ線路のストリップ導体および地導体板16が配置された誘電体基板とが積層されている.マイクロストリップ線路のストリップ導体を放射導体板14の下部に延長し、放射導体板14とマイクロストリップ線路を電磁結合させることにより、放射導体板14が励振される。
【0112】
図2(a)(b)に、他のマイクロストリップアンテナの態様を示す。なお、
図1と同一の構成には同一の番号を付して適宜説明を省略する。
【0113】
図2(a)に示すように、マイクロストリップアンテナ20は、誘電体基板22と、誘電体基板22の一方の面に設けられた放射導体板14と、誘電体基板22の他方の面に設けられた地導体板16と、放射導体板14に対向配置された高誘電体基板(高誘電体)24と、を備える。誘電体基板22および放射導体板14と、高誘電体基板24とは、スペーサー26を介して所定距離離間するように構成することができる。
誘電体基板22としては、テフロン基板等の低誘電率の基板から構成される。
【0114】
高誘電体基板24は、上述の樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板により構成されている。
誘電体基板22と高誘電体基板24との空隙部は空間であってもよく、誘電体材料が充填されていてもよい。
また、
図2(b)のマイクロストリップアンテナ20'に示されるように、放射導体板14の上面に高誘電体基板24を当接させた構造とすることもできる。
【0115】
<誘電体導波路>
本実施形態において、誘電体導波路は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体と、当該誘電体の表面を覆う導体膜と、を備える。誘電体導波路は、電磁波を誘電体(誘電体媒質)中に閉じこめて伝送させるものである。
前記導体膜は、銅等の金属や、酸化物高温超伝導体等から構成することができる。
【0116】
<電磁波吸収体>
本実施形態において、電磁波吸収体は、支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層が積層した構造を備える。当該電磁波吸収体は、高い電波吸収性能を備えるλ/4型電波吸収体として用いることができる。
支持体としては樹脂基材等が挙げられる。支持体により、抵抗皮膜を保護することができ、電波吸収体としての耐久性を高めることができる。
【0117】
抵抗皮膜としては、酸化インジウムスズ、モリブデン含有抵抗皮膜等が挙げられる。
誘電体層は本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる。その厚みは、10μm以上2000μm以下程度である。
反射層は電波の反射層として機能し得るものであり、例えば金属膜が挙げられる。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0118】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0119】
(比較例1~2、実施例1)
以下の原料を表1に示す配合量で、常温でミキサーを用いて混合した後、70~100℃でロール混錬した。次いで、得られた混錬物を冷却した後、これを粉砕して粉粒状の熱硬化性樹脂組成物を得た。ついで、高圧で打錠成形することにより、タブレット状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0120】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(NC3000L、日本化薬社製)
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(YX-4000K、三菱ケミカル社製)
【0121】
(高誘電率充填剤)
・高誘電率充填剤1:チタン酸カルシウム(平均粒子径2.0μm、チタン工業社製)
・高誘電率充填剤2:チタン酸マグネシウム、(平均粒径0.8μm、チタン工業社製)
【0122】
(無機充填剤)
・無機充填剤1:溶融球状シリカ(平均粒子径10μm、デンカ株式会社製)
【0123】
(着色剤)
・カーボンブラック:目開き25μmの篩残分0.001質量%
・黒色酸化チタン:赤穂化成社製(平均粒子径D50:0.6μm、D10:0.1μm)
【0124】
(カップリング剤)
・カップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(CF4083、東
【0125】
(硬化剤)
・硬化剤1:下記調製方法で調製した活性エステル硬化剤
(活性エステル硬化剤の調製方法)
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、1,3-ベンゼンジカルボン酸ジクロリド203.0g(酸クロリド基のモル数:2.0モル)とトルエン1338gとを仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。次いで、α-ナフトール96.5g(0.67モル)、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂を219.5g(フェノール性水酸基のモル数:1.33モル)を仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン相に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し不揮発分65%のトルエン溶液状態にある活性エステル樹脂を得た。得られた活性エステル樹脂の構造を確認したところ、上述の式(1-3)においてR
1及びR
3が水素原子、Zがナフチル基、lが0の構造を有していた。活性エステル樹脂の繰り返し単位の平均値kは、反応等量比から算出したところ0.5~1.0の範囲であった。得られた活性エステル樹脂は具体的に以下の化学式で表される構造を有していた。下記式中、繰り返し単位の平均値kは0.5~1.0であった。
【化13】
【0126】
(触媒)
・触媒1:テトラフェニルフォスフォニウム-4,4’-スルフォニルジフェノラート
・触媒2:テトラフェニルホスホニウムビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート
【0127】
(離型剤)
・離型剤1:酸化ポリエチレン(リコワックス PED191、クラリアントジャパン社製)
・離型剤2:グリセリントリモンタン酸エステル(リコルブWE-4、クラリアントジャパン社製)
【0128】
(スパイラルフロー)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で、得られた熱硬化性樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。
【0129】
(ゲルタイム(GT))
175℃に加熱した熱板上で、得られた熱硬化性樹脂組成物をそれぞれ溶融後、へらで練りながら硬化するまでの時間(単位:秒)を測定した。
【0130】
(空洞共振器法による誘電率および誘電正接の評価)
まず、樹脂組成物を用いて、試験片を得た。
具体的には、得られた熱硬化性樹脂組成物を、Si基板に塗布し、120℃で4分間プリベークを行い、塗布膜厚12μmの樹脂膜を形成した。
これを、窒素雰囲気下、オーブンを用いて200℃で90分加熱し、フッ酸処理(2質量%フッ酸水溶液に浸漬)した。フッ酸から基板を取り出した後に、硬化膜をSi基板から剥離して、これを試験片とした。
測定装置は、ネットワークアナライザHP8510C、シンセサイズドスイーパHP83651AおよびテストセットHP8517B(全てアジレント・テクノロジー社製)を用いた。これら装置と、円筒空洞共振器(内径φ42mm、高さ30mm)とを、セットアップした。
上記共振器内に試験片を挿入した状態と、未挿入状態とで、共振周波数、3dB帯域幅、透過電力比などを、周波数50GHzで測定した。そして、これら測定結果をソフトウェアで解析的に計算することで、誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の誘電特性を求めた。なお、測定モードはTE011モードとした。
【0131】
<色味(黒色性)の評価>
得られた熱硬化性樹脂組成物を、圧縮成形法により、成形温度175℃、硬化時間100秒、成形圧力8MPaの条件で硬化させて、短冊形状の硬化物を得た。
硬化物の表面のL
*値、a
*値およびb
*を、カラーリーダーCR-13(コニカミノルタセンシング社製)を用いて測定した。実施例1、2、比較例1,2の熱硬化性樹脂組成物から得られた硬化物の色味を
図3に示す。
【0132】
(線膨張係数α1、α2)
得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて175℃、4時間の加熱処理を行い、4mm×20mmの試験片を作製した。得られた試験片について、線膨張係数を測定した。TMA(Thermal Mechanical Analyzer)試験装置(セイコーインスツメルツ社製TMA/SS6100)を用いて、昇温速度5℃/分、荷重0.05N、引張モード、測定温度範囲30~320℃の条件で、熱機械分析(TMA)を2サイクル測定した。得られた結果から、50℃~100℃の範囲におけるZ軸方向の線膨張係数α1の平均値、200℃~250℃の範囲におけるZ軸方向の線膨張係数α2の平均値を算出した。なお、線膨脹係数(ppm/℃)は、2サイクル目の値を採用した。
【0133】
(ガラス転移温度)
誘電率および誘電正接の評価において作成された前記試験片に対し、動的粘弾性測定(DMA装置、TAインスツルメント社製、Q800)を用いて、昇温速度5℃/min、周波数1Hzで動的粘弾性測定を行った。ガラス転移温度は、損失正接tanδが最大値を示す温度とした。
【0134】
(機械強度の評価(曲げ強度))
得られた熱硬化性樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形した。これにより、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させた。これにより、機械的強度の評価用の試験片を作製した。そして、試験片の室温(25℃)または260℃における曲げ強度(MPa)を、JIS K 6911に準拠して、ヘッドスピード5mm/minで測定した。
【0135】
【0136】
表1の結果から、本発明に係る実施例の熱硬化性樹脂組成物によれば、低誘電正接および色味(黒色性)に優れた硬化物が得られることが明らかとなった。言い換えれば、実施例の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、低誘電正接および色味(黒色性)のバランスに優れていた。