(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125728
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】水素吸蔵システム
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033743
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 均
(72)【発明者】
【氏名】小川 博之
(72)【発明者】
【氏名】間宮 尚
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172DA90
3E172EA13
3E172EA23
3E172EB02
3E172FA01
3E172FA26
3E172FA27
(57)【要約】
【課題】水素吸蔵合金の冷却と加熱の切換時間を短縮する。
【解決手段】水素吸蔵システムOは、水素を吸蔵する水素吸蔵合金11A,11Bと、水素吸蔵合金11A,11Bとの間で熱交換を行う流体が循環する循環回路20A,20Bと、循環回路20A,20Bを流れる流体を冷却する冷却機構30と、循環回路20A,20Bを流れる流体を加熱する加熱機構40Aと、を備える。循環回路20A,20Bは、流体を循環させるためのポンプ21A,21Bと、冷却機構30をバイパスするバイパス流路24A,24Bと、冷却機構30及びバイパス流路24A,24Bへ流れる流量の分配を制御する制御弁25A,25Bと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を吸蔵する水素吸蔵合金と、
前記水素吸蔵合金との間で熱交換を行う流体が循環する循環回路と、
前記循環回路を流れる流体を冷却する冷却機構と、
前記循環回路を流れる流体を加熱する加熱機構と、を備え、
前記循環回路は、
流体を循環させるためのポンプと、
前記冷却機構をバイパスするバイパス流路と、
前記冷却機構及び前記バイパス流路へ流れる流量の分配を制御する制御弁と、を有する水素吸蔵システム。
【請求項2】
請求項1に記載された水素吸蔵システムであって、
前記加熱機構は、前記水素吸蔵合金から脱着された水素が化学反応することでエネルギーを作り出すエネルギー発生源からの排熱を用いて前記循環回路を流れる流体を加熱する、水素吸蔵システム。
【請求項3】
請求項1に記載された水素吸蔵システムであって、
前記冷却機構は、前記循環回路を流れる流体の熱を大気へ放熱する放熱器である、水素吸蔵システム。
【請求項4】
請求項1に記載された水素吸蔵システムであって、
前記水素吸蔵合金の周囲の水素の圧力を検出する圧力センサをさらに備え、
前記水素吸蔵合金に水素を吸着させる際に、前記圧力センサによって検出された圧力に基づいて、前記制御弁を制御する、水素吸蔵システム。
【請求項5】
請求項1に記載された水素吸蔵システムであって、
前記水素吸蔵合金の周囲の水素の圧力を検出する圧力センサをさらに備え、
前記水素吸蔵合金から水素を脱着させる際に、前記圧力センサによって検出された圧力に基づいて、前記制御弁及び前記加熱機構の少なくとも一方を制御する、水素吸蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素吸蔵合金が収容される水素吸蔵合金容器と、水素吸蔵合金との伝熱が行われる熱媒体が移動する熱媒体移動路と、熱媒体移動路で移動する熱媒体の温度調整を行う温度調整部とを備えた水素貯蔵システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明では、水素吸蔵合金を加熱する際に、ヒータによって水タンク内の水(熱媒体)を加熱して、その加熱された水によって水素吸蔵合金を加熱している。また、特許文献1に記載された発明では、水素吸蔵合金を冷却する際にも、水タンク内の水(熱媒体)を冷却している。
【0005】
このため、特許文献1に記載された発明では、冷却と加熱とを切り換える際に、水タンク内の水の全量を冷却または加熱する必要があり、冷却と加熱の切り換えに時間がかかってしまう。
【0006】
本発明は、水素吸蔵合金の冷却と加熱の切換時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水素を吸蔵する水素吸蔵合金と、水素吸蔵合金との間で熱交換を行う流体が循環する循環回路と、循環回路を流れる流体を冷却する冷却機構と、循環回路を流れる流体を加熱する加熱機構と、を備え、循環回路は、流体を循環させるためのポンプと、冷却機構をバイパスするバイパス流路と、冷却機構及びバイパス流路へ流れる流量の分配を制御する制御弁と、を有する水素吸蔵システムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素吸蔵合金の冷却と加熱の切換時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る水素吸蔵システムが適用される水素エネルギーシステムSの概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る水素吸蔵合金の吸蔵量と水素貯蔵タンク内の圧力との関係を示す特性図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る水素吸蔵合金の吸着時の水(流体)の流れを説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る水素吸蔵合金の吸着時の水の流れを説明するための図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る水素吸蔵合金の脱着時の水の流れを説明するための図である。
【
図6】
図6は、変形例に係る加熱機構の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
水素吸蔵システムOは、水素ガスを燃料とする建物・モビリティ等に搭載されるものであり、水素ガスを吸蔵または放出する。まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る水素吸蔵システムOが適用される水素エネルギーシステムSについて簡単に説明する。
【0012】
図1に示すように、水素エネルギーシステムSは、水素吸蔵システムOと、水素吸蔵システムOに水素を供給する水素発生装置Pと、水素吸蔵システムOから放出された水素を利用する水素利用装置Cと、を備える。
【0013】
水素発生装置Pは、水を電気分解することで水素を発生させる。水素発生装置Pは、発生させた水素の温度を調整する温度調整装置(図示せず)と、発生させた水素の圧力を調整する圧力調整装置(図示せず)と、を備えている。
【0014】
水素利用装置Cは、水素吸蔵システムOから放出された水素が化学反応することでエネルギーを作り出すエネルギー発生源である。具体的には、エネルギー発生源は、燃料電池や水素エンジンである。燃料電池は、水素吸蔵システムOから放出された水素を酸素と反応させて電気エネルギーを作り出し、水素エンジンは、水素吸蔵システムOから放出された水素を燃焼させて回転エネルギーを作り出す。なお、燃料電池及び水素エンジンからは、熱及び水ないし水蒸気が排出される。
【0015】
水素吸蔵システムOは、水素吸蔵する水素吸蔵合金11A,11Bと、水素吸蔵合金11A,11Bがそれぞれ収容される水素貯蔵タンク10A,10Bと、水素吸蔵合金11A,11Bとの間で熱交換を行う水(流体)が循環する循環回路20A,20Bと、循環回路20A,20Bを流れる水を冷却する冷却機構30と、循環回路20A,20Bを流れる水を加熱する加熱機構40A,40Bと、を備える。
【0016】
水素貯蔵タンク10A,10Bは、水素発生装置Pにそれぞれ流路51A,51Bによって接続され、水素利用装置Cにそれぞれ流路52A,52Bによって接続される。つまり、水素貯蔵タンク10A,10Bは、水素発生装置Pと水素利用装置Cとを接続する流路において、並列に設けられている。
【0017】
流路51A,51Bには、流路51A,51Bを開放または遮断する開閉弁53A,53Bが設けられ、流路52A,52Bには、流路52A,52Bを開放または遮断する開閉弁54A,54Bが設けられる。開閉弁53A,53B及び開閉弁54A,54Bは、コントローラ60によって動作が制御される。
【0018】
なお、水素貯蔵タンク10A,10B、循環回路20A,20B、及び加熱機構40A,40Bは同じ構成であるため、以下では、水素貯蔵タンク10A、循環回路20A、及び加熱機構40Aを中心に説明し、水素貯蔵タンク10B、循環回路20B、及び加熱機構40Bについては、水素貯蔵タンク10A、循環回路20A、及び加熱機構40Aと同一の構成には図中に同じ数字の符号を付して説明を省略する。水素貯蔵タンク10A、循環回路20A及び加熱機構40Aの構成には符号に「A」を付し、水素貯蔵タンク10B、循環回路20B、及び加熱機構40Bの構成には符号に「B」を付して区別する。
【0019】
水素貯蔵タンク10Aは、圧力容器によって構成され、水素貯蔵タンク10A内には、水素吸蔵合金11Aが収容される。水素吸蔵合金11Aとしては、AB5型、AB2型、A2B型、固溶体型(BCC合金)などを用いることができる。
【0020】
流路51Aにおける開閉弁53Aより下流側には、圧力センサ55Aが設けられる。圧力センサ55Aは、水素吸蔵合金11Aの周囲の圧力(水素貯蔵タンク10Aの水素の圧力)を検出する。なお、圧力センサ55Aは、流路52Aにおける開閉弁54Aより上流側に設けられていてもよい。
【0021】
水素エネルギーシステムSでは、開閉弁53Aを開弁することで、水素発生装置Pによって発生した水素は、流路51Aを通じて水素貯蔵タンク10Aに供給される。また、開閉弁53Aを閉弁することで、水素発生装置Pによって発生した水素の水素貯蔵タンク10Aへの供給が遮断される。
【0022】
また、水素エネルギーシステムSでは、開閉弁54Aを開弁することで、水素貯蔵タンク10A内の水素は、流路52Aを通じて水素利用装置Cに供給される。また、開閉弁54Aを閉弁することで、水素貯蔵タンク10A内の水素の水素利用装置Cへの供給が遮断される。
【0023】
次に、循環回路20Aについて説明する。
【0024】
循環回路20Aは、水を循環させて、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行い、水素吸蔵合金11Aの温度調整を行う。循環回路20Aは、タンクを有していない、いわゆる閉回路によって構成される。
【0025】
図1に示すように、循環回路20Aには、水の流れ方向の順番に、循環回路20A内の水を循環させるためのポンプ21Aと、加熱機構40Aとの間で熱交換を行う第1熱交換部4と、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行う第2熱交換部23Aと、循環回路20A内を流れる水を冷却する冷却機構30と、が設けられる。
【0026】
また、循環回路20Aには、冷却機構30をバイパスするバイパス流路24Aと、冷却機構30及びバイパス流路24Aへ流れる流量の分配を制御する制御弁25Aと、第2熱交換部23Aの入口側の水温を検出する第1温度センサ26Aと、第2熱交換部23Aの出口側の水温を検出する第2温度センサ27Aと、が設けられる。
【0027】
ポンプ21Aは、図示しないモータによって駆動される。ポンプ21Aの種類は特に限定はないが、ポンプ21Aは、遠心ポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどによって構成される。
【0028】
第1熱交換部22Aは、加熱機構40Aとの間で熱交換を行い、加熱機構40Aからの熱を受け取ることで、循環回路20A内を循環する水を加熱する。
【0029】
第2熱交換部23Aは、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行うことで、水素吸蔵合金11Aの温度を調整する。
【0030】
制御弁25Aは、第2熱交換部23Aを通過した水を冷却機構30とバイパス流路24Aに分配する。具体的には、制御弁25Aは、三方弁によって構成される。制御弁25Aは、コントローラ60によって制御され、冷却機構30とバイパス流路24Aに分配される水の流量を制御する。本実施形態では、制御弁25Aを三方弁によって構成した場合を例に示しているが、制御弁25Aを2つの二方弁によって構成してもよい。
【0031】
冷却機構30は、例えば、冷却塔によって構成される。冷却塔は、開放式であっても密閉式であってもよい。冷却機構30として冷却塔を用いることにより、冷凍装置が不要となるため、コスト及びエネルギー消費の上昇を抑制できる。なお、冷却機構30は、少なくとも循環回路20A内を循環する水の熱を大気へ放出する放熱器としての機能を有していればよく、例えば、ラジエータなどであってもよい。
【0032】
本実施形態では、1つの冷却機構30によって、循環回路20A及び循環回路20B内を循環する水を冷却している、言い換えると、本実施形態では、冷却機構30が、循環回路20A及び循環回路20Bに対して共通化されているが、冷却機構30は、循環回路20A及び循環回路20Bに個別に設けられていてもよい。
【0033】
加熱機構40Aは、熱媒体としての水が循環する循環回路41Aと、循環回路41A内の水を循環させるためのポンプ42と、循環回路41Aに設けられ第1熱交換部22Aとの間で熱交換を行う第3熱交換部43Aと、循環回路41Aに設けられ水素利用装置Cとの間で熱交換を行う第4熱交換部44と、循環回路41Aにおけるポンプ42と第3熱交換部43Aの間に設けられ、ポンプ42から第3熱交換部43Aへの水の流れを許容または遮断する開閉弁45Aと、を有する。
【0034】
循環回路41Aは、内部の水が循環することによって水素利用装置Cで発生した排熱を循環回路20Aに伝達する。
【0035】
ポンプ42は、図示しないモータによって駆動される。ポンプ42の種類は特に限定はないが、ポンプ42は、遠心ポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどによって構成される。
【0036】
第3熱交換部43Aは、第1熱交換部22Aとの間で熱交換を行い、循環回路41A内を循環する水の熱によって循環回路20A内を循環する水を加熱する。
【0037】
第4熱交換部44は、水素利用装置Cとの間で熱交換を行い、水素利用装置Cを駆動した際に発生する排熱によって循環回路41A内を循環する水を加熱する。
【0038】
このように、加熱機構40Aは、水素利用装置Cを駆動した際に発生する排熱を利用して、循環回路41A内を循環する水を加熱する。
【0039】
なお、本実施形態では、1つのポンプ42によって、循環回路41A及び循環回路41B内の水を循環させるとともに、1つの第4熱交換部44によって循環回路41A及び循環回路41B内を循環する水を加熱している、言い換えると、本実施形態では、ポンプ42及び第4熱交換部44は、循環回路41A及び循環回路41Bに対して共通化されているが、ポンプ42及び第4熱交換部44は、循環回路41A及び循環回路41Bにそれぞれ個別に設けられていてもよい。
【0040】
次に、水素吸蔵合金11Aにおける水素の吸着及び脱着について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、水素吸蔵合金11A,11B(水素貯蔵タンク10A,10B)の圧力と、温度と、水素の吸蔵量との関係を示すグラフである。なお、
図2における実線は、吸着時の特性を示し、点線は、脱着時の特性を示している。
【0041】
まず、水素吸蔵合金11Aへの水素の吸着について説明する。水素発生装置Pによって発生した水素は、開閉弁53Aを開弁することによって、流路51Aを通じて水素貯蔵タンク10A内に導かれる。本実施形態では、水素発生装置Pから供給される水素の圧力は、0.8MPa程度である。水素貯蔵タンク10A内に導かれた水素は、水素吸蔵合金11Aによって吸着される。水素吸蔵合金11Aが水素を吸着する際には、発熱反応により水素吸蔵合金11Aの温度が上昇する。
【0042】
図2に示すように、水素吸蔵合金11Aは、同じ圧力では、温度が高くなるほど吸蔵量が減少する。そのため、本実施形態では、吸着時には、ポンプ21Aを駆動して、循環回路20A内の水を
図3に示す太線のように循環させる。なお、本実施形態では、ポンプ21Aは、吐出流量が一定となるように駆動される。
【0043】
ポンプ21Aから吐出された水は、第2熱交換部23Aにおいて、水素吸蔵合金11Aを冷却する。水素吸蔵合金11Aと熱交換することによって温度が上昇した水(第2熱交換部23Aを通過した水)は、制御弁25Aを通って冷却機構30に導かれる。冷却機構30では、通過する水の熱が除熱され、水の温度が低下する。冷却機構30によって冷却された水は、ポンプ21Aに導かれ、再びポンプ21Aから吐出される。このように循環回路20A内の水を循環させることで、水素吸蔵合金11Aによって発生した熱を外部へ放出することができる。なお、吸着時には、加熱機構40Aのポンプ42を停止する、あるいは、開閉弁45Aを閉弁することで、第1熱交換部22Aにおいて熱交換が行われない。これにより、循環回路20A内の水が加熱されることはない。
【0044】
本実施形態では、水素吸蔵合金11Aによって水素を吸着させる際には、水素の圧力が0.8MPa程度で一定になるように制御する。具体的には、コントローラ60は、圧力センサ55Aによって検出した水素の圧力が低下してきた場合には、制御弁25Aを制御して、第2熱交換部23Aを通過した水の一部をバイパス流路24Aに導く(
図4の太線参照)。これにより、バイパス流路24Aに導かれた水は、冷却機構30を通過することなく、つまり、冷却されることなく、再びポンプ21Aから吐出される。
【0045】
水素吸蔵合金11Aの冷却が強すぎる、つまり、第2熱交換部23Aを通過する水の温度が低すぎると、水素の温度が低下してしまい、その結果、水素の圧力が低下してしまう。そこで、第2熱交換部23Aを通過した水の一部をバイパス流路24Aに導いて冷却機構30をバイパスさせることで、第2熱交換部23Aに導かれる水の温度を上昇させる。このように、水素の圧力が低下した場合には、水素吸蔵合金11Aの冷却を抑制することで、水素を一定の圧力に維持することができる。なお、この制御は、予め実験などによって水素の圧力と制御弁25Aの開度(冷却機構30とバイパス流路24Aへの流量の分配量)との関係を求めておき、これらの関係をコントローラ60に記憶させ、この記憶された関係に基づいて制御が行われる。また、圧力センサ55Aによって検出された圧力に基づいて、フィードバック制御を行うようにしてもよい。あるいは、循環回路20Aに設けられた第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aを用いて制御を行ってもよく、圧力センサ55Aと、第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aと、を併用して制御を行ってもよい。
【0046】
水素吸蔵合金11Aによる吸着は、開閉弁53Aを閉じることによって終了する。
【0047】
次に、水素吸蔵合金11Aからの水素の脱着について説明する。水素貯蔵タンク10A内の水素は、開閉弁54Aを開弁することによって、流路52Aを通じて水素利用装置Cに導かれる。
【0048】
コントローラ60は、水素利用装置Cが始動すると、水素利用装置Cに水素を供給するために水素吸蔵合金11Aからの水素を脱着させる。具体的には、まず、コントローラ60は、開閉弁54Aを開弁する。これにより、水素貯蔵タンク10Aから水素利用装置Cに水素が供給される。本実施形態では、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力は、0.8MPa程度で一定になるように制御される。
【0049】
水素吸蔵合金11Aは、水素を脱着する際には、吸熱反応により水素吸蔵合金11Aの温度が低下する。水素吸蔵合金11Aの温度が低下すると、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力が低下し脱着しなくなる。そこで、本実施形態では、加熱機構40Aを駆動して、循環回路20A内を循環する水を加熱機構40Aによって加熱することで、水素吸蔵合金11Aを加熱する。
【0050】
具体的には、コントローラ60は、ポンプ42を駆動するとともに開閉弁45Aを開弁する。また、コントローラ60は、ポンプ21Aを駆動するとともに、循環回路20A内を循環する水の全量がバイパス流路24Aを通過するように制御弁25Aを制御する。これにより、循環回路41A及び循環回路20A内の水は、
図5に太線で示すように循環する。
【0051】
循環回路41A内を循環する水は、第4熱交換部44において水素利用装置Cとの間で熱交換を行うことで、水素利用装置Cの排熱によって加熱される。そして、第4熱交換部44において加熱された水が、第3熱交換部43Aに到達すると、第3熱交換部43Aと第1熱交換部22Aとの間で熱交換が行われ、循環回路20A内を循環する水が加熱される。このように、本実施形態では、水素利用装置Cの排熱を用いて、水素吸蔵合金11Aを加熱する。
【0052】
なお、循環回路20A内を循環する水の温度が高くなりすぎると、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力が上昇してしまう。この場合には、コントローラ60は、開閉弁45Aを制御して、第3熱交換部43Aを通過する水の流量を減少させる。これにより、第1熱交換部22Aにおいて第3熱交換部43Aから受け取る熱量を少なくすることができるので、循環回路20A内を循環する水の温度上昇を抑制できる。なお、この制御は、圧力センサ55Aによって検出された圧力に基づいて、フィードバック制御を行うことで実行される。
【0053】
循環回路20A内を循環する水の温度が高くなりすぎた場合に、開閉弁45Aを制御することに加えて、制御弁25Aを制御して、循環回路20A内を循環する水の一部が冷却機構30を通過するようにしてもよい。冷却機構30を通過した水は、冷却機構30によって冷却され、バイパス流路24Aを通過した水と合流する。これにより、循環回路20A内を循環する水の温度を低下させることができる。また、制御弁25Aのみを制御するようにしてもよい。さらに、循環回路20Aに設けられた第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aを用いて制御を行ってもよく、圧力センサ55Aと、第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aと、を併用して制御を行ってもよい。
【0054】
水素エネルギーシステムSでは、水素吸蔵システムOが、2つの水素貯蔵タンク10A,10Bを備えている。このため、水素貯蔵タンク10A,10Bの一方の水素吸蔵合金11A,11Bが脱着しているときに、一方の水素吸蔵合金11A,11Bにおいて水素を吸着させることができる。これにより、水素利用装置Cに安定的に水素を供給することができる。なお、水素貯蔵タンクは、3つ以上であってもよいし、水素エネルギーシステムSにおける要求が満たされるのであれば、1つであってもよい。
【0055】
以上の実施形態の水素吸蔵システムOによれば、次の作用効果を奏する。
【0056】
水素吸蔵システムOでは、水素吸蔵合金11A、11Bとの間で熱交換を行う流体が流れる回路(循環回路20A,20B)を循環回路としているので、タンクを不要にできる。つまり、水素吸蔵システムOでは、循環回路20A,20B内の水を冷却または加熱する際に、タンクの分の水を冷却または加熱する必要がないので、冷却または加熱する時間を短縮することができる。さらに、加熱時には、冷却機構30をバイパスさせることができるので、冷却機構30の内部の水を加熱する必要がない。よって、水素吸蔵システムOでは、冷却と加熱との切換時間をより短縮することができる。
【0057】
また、水素吸蔵システムOでは、冷却機構30として、冷却塔やラジエータといった放熱器を使用している。これにより、チラーなどのコンプレッサを用いた冷凍装置を有する温度調整装置に比べて、装置の導入コストや電力消費などのランニングコストを低減することができる。
【0058】
水素吸蔵システムOでは、循環回路20A,20Bに設けられた制御弁25A,25Bによって、冷却機構30及びバイパス流路24A,24Bへ流れる流量の分配を調整することで、循環回路20A,20Bを流れる水の温度を簡単に調整できる。
【0059】
また、水素吸蔵システムOでは、水素の脱着時に、圧力が一定になるようにしている。これにより、水素利用装置Cに水素を一定の圧力で供給することができる。
【0060】
さらに、吸着時の水素の圧力を0.8MPa程度で一定にしているので、水素の温度を高い温度(40℃程度)とすることができる。これにより、冷却機構30による冷却温度も30℃~40℃程度でよいので、冷凍装置を用いずとも、冷却塔やラジエータで冷却することが可能になる。
【0061】
【0062】
図6に示す変形例では、循環回路41Aにおける第4熱交換部44より上流側であって第3熱交換部43Aより下流側の流路上にラジエータRが設けられている。また、この変形例では、循環回路41Aにおけるポンプ42の吐出側であって循環回路41Aと循環回路41Bとの分岐点48より上流側の流路と、循環回路41Aにおける第3熱交換部43Aより下流側であってラジエータRより上流側の流路と、を接続するバイパス流路46が設けられる。バイパス流路46には、バイパス流路46を開閉する開閉弁47が設けられる。
【0063】
この変形例では、開閉弁47を開弁することにより、ポンプ42から吐出された水の一部をバイパス流路46によって第3熱交換部43A,43Bをバイパスさせることができる。このため、水素の脱着時に、循環回路20Aあるいは循環回路20B内を循環する水の温度が高くなりすぎた場合に、開閉弁47を開弁してバイパス流路46に水を導くことにより、第3熱交換部43Aを通過する水の流量を減少させることができる。これにより、第1熱交換部22Aにおいて第3熱交換部43Aから受け取る熱量を少なくすることができるので、循環回路20A,20B内を循環する水の温度上昇を抑制できる。
【0064】
また、水素利用装置Cの駆動時に、循環回路20Aあるいは循環回路20B内を循環する水を加熱する必要がない場合には、開閉弁45A,45Bを閉弁し、開閉弁47を開弁した状態で、ポンプ42を駆動することで、第3熱交換部43A,43Bを通過させることなく、水を循環させることができる。これにより、水素利用装置Cで発生した熱を、ラジエータRによって大気へ放熱することができる。つまり、水素利用装置Cを冷却することができる。
【0065】
このように、
図6に示す変形例による構成では、上記実施形態の循環回路20A,20B内を循環する水を加熱する加熱機構としての機能に加え、水素利用装置Cを冷却する冷却機構として機能を発揮することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0067】
上記実施形態では、冷却機構30として、放熱器を例に説明したが、これに限らず、コストなどに制限が無ければ、冷却機構30は、チラーなどのコンプレッサを用いた冷凍装置を有する温度調整装置であってもよい。
【0068】
上記実施形態では、加熱機構40A,40Bとして、水素利用装置Cからの排熱を用いて循環回路41A,41Bを流れる水を加熱する構成を例に説明したが、これに限らず、加熱機構40A,40Bは、循環回路20A,20B内を循環する水を直接加熱するヒータであってもよい。
【0069】
上記実施形態では、循環回路20A,20Bを流れる流体として水を例に説明したが、これに限らない。冷却機構30としてラジエータ、チラーなどを用いる場合には、循環回路20A,20Bを外部と遮断することができるので、水以外の流体を用いることができる。
【0070】
さらに、上記実施形態では、吸着時に吐出流量が一定になるようにしてポンプ21Aを駆動する場合を例に説明したが、これに限らず、水素の圧力や温度の変化に応じて、ポンプ21Aの吐出流量を変化させるようにしてもよい。
【0071】
上記実施形態では、圧力が一定になるように制御を行っている場合を例に説明したが、圧力が所定の範囲内になるように制御を行ってもよい。また、冷却温度を低くできる場合には、吸着時の圧力を0.8MPaよりも低く設定してもよい。
【0072】
水素利用装置Cの入口に減圧弁などの圧力調整装置を設けてもよい。また、
図1などに示す実施例では、便宜上、第1熱交換部22Aと第3熱交換部43Aとによって構成される熱交換器を並流式、第1熱交換部22Bと第3熱交換部43Bとによって構成される熱交換器を向流式として記載しているが、これらは、並流式及び向流式のいずれも採用可能である。
【符号の説明】
【0073】
S・・・水素エネルギーシステム
P・・・水素発生装置
O・・・水素吸蔵システム
C・・・水素利用装置
R・・・ラジエータ
10A,10B・・・水素貯蔵タンク
11A,11B・・・水素吸蔵合金
20A,20B・・・循環回路
21A,21B・・・ポンプ
22A,22B・・・第1熱交換部
23A,23B・・・第2熱交換部
24A,24B・・・バイパス流路
25A,25B・・・制御弁
26A、26B・・・温度センサ
27A、27B・・・温度センサ
30・・・冷却機構
40A,40B・・・加熱機構
41A,41B・・・循環回路
42・・・ポンプ
43A,43B・・・第3熱交換部
44・・・第4熱交換部
45A,45B・・・開閉弁
46・・・バイパス流路
47・・・開閉弁
53A,53B・・・開閉弁
54A,54B・・・開閉弁
55A,55B・・・圧力センサ
60・・・コントローラ