(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125730
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】スライドドアの開閉治具
(51)【国際特許分類】
B62D 65/06 20060101AFI20240911BHJP
B60J 5/06 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B62D65/06 A
B60J5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033748
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】里内 太郎
(72)【発明者】
【氏名】平垣 康成
【テーマコード(参考)】
3D114
【Fターム(参考)】
3D114AA04
3D114BA13
3D114CA06
3D114DA17
(57)【要約】
【課題】ロボットでスライドドアを開閉する際、簡易な構造にてスライドドアを所定の位置で固定できるスライドドアの開閉治具を提供する。
【解決手段】スライドドアの開閉治具は、車両のボディに取り付けられる第一治具を備え、前記第一治具は、前記車両のスライドドアに取り付けられた第二治具の吸着面に対して吸着される磁石を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディに取り付けられる第一治具を備え、
前記第一治具は、前記車両のスライドドアに取り付けられた第二治具の吸着面に対して吸着される磁石を有する、
スライドドアの開閉治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドアの開閉治具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、自動車の製造時、スライドドアをボディに仮付けすると共に、スライドドアを所定の開度でロックできるスライドドアの開閉治具を開示する。この開閉治具で仮付けされたスライドドアとボディとは、同時に塗装される。この同時塗装により、ボディとスライドドアとの間に色差が生じないようにしている。
【0003】
上記開閉治具は、スライドドアが取り付けられるドア取付部材と、自動車に固定される取付ベース部と、ドア取付部材と取付ベース部とを接続する所定のリンク機構とを有する。さらに、この開閉治具は、スライドドアを所定の開度でロックするロック装置を有する。ロック装置は、例えばリンク機構を構成するアームに設けられたピンと、スライドドアの開閉操作に伴いピンに対して距離が変化する位置に設けられた支持ポールと、支持ポールに回転可能に設けられた一対のピン挟持アームとを有する。ピン挟持アームは、弾性体によって引き寄せられることによりピンを挟む。ピン挟持アームがピンを挟持する面は、ピンが係合する複数の切欠部を有する。ピンが係合する切欠部の位置により、スライドドアは所定の開度でロックされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スライドドアを開閉する際、簡易な構成にてスライドドアを所定の位置で固定できる開閉治具が望まれている。上記の開閉治具におけるロック装置は、ピン、支持ポール、ピン挟持アーム、および弾性体といった多数の部材を必要とする。そのため、開閉治具の構造も複雑である。
【0006】
本発明の目的の一つは、ロボットでスライドドアを開閉する際、簡易な構造にてスライドドアを所定の位置で固定できるスライドドアの開閉治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様に係るスライドドアの開閉治具は、車両のボディに取り付けられる第一治具を備え、前記第一治具は、前記車両のスライドドアに取り付けられた第二治具の吸着面に対して吸着される磁石を有する。
(2)本発明の別の一態様に係るスライドドアの開閉治具は、車両のスライドドアに取り付けられる第二治具を備え、前記第二治具は、前記車両のボディに取り付けられた第一治具の磁石に吸着される吸着面を有する。
(3)本発明の別の一態様に係るスライドドアの開閉治具は、車両のボディに取り付けられる第一治具と、前記車両のスライドドアに取り付けられる第二治具と、を備え、前記第一治具および前記第二治具の一方は磁石を有し、前記第一治具および前記第二治具の他方は前記磁石に吸着される吸着面を有する。
【発明の効果】
【0008】
第一治具を備える上記スライドドアの開閉治具は、車両のボディに取り付けられる第一治具が磁石を有する。そのため、磁石をスライドドアに取り付けられた第二治具の吸着面に対して吸着させることで、車両のボディに対してスライドドアを固定することができる。
【0009】
第二治具を備える上記スライドドアの開閉治具は、スライドドアに取り付けられる第二治具が磁石に吸着される吸着面を有する。そのため、車両のボディに取り付けられた第一治具の磁石を吸着面に吸着させることで、車両のボディに対してスライドドアを固定することができる。
【0010】
第一治具および第二治具を備える上記スライドドアの開閉治具は、車両のボディに取り付けられる第一治具および第二治具の一方の磁石とスライドドアに取り付けられる第一治具および第二治具の他方の吸着面とを吸着させることで、車両のボディに対してスライドドアを固定することができる。
上記のいずれのスライドドアの開閉治具も、磁石または磁石に吸着される吸着面を備える簡易な構成にて、車両のボディに対してスライドドアを固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係るスライドドアの開閉治具が取り付けられた車両の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るスライドドアの開閉治具における第一治具と第二治具とが結合された状態を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るスライドドアの開閉治具における第一治具と第二治具とが分離された状態を示す概略斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るスライドドアの開閉治具における第一治具のボディへの取付前の状態を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るスライドドアの開閉治具における第一治具のボディへの取付後の状態を示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るスライドドアの開閉治具における第一治具の磁石周辺の構造を示す拡大斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るスライドドアの開閉治具における第二治具のスライドドアへの取付前の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係るスライドドアの開閉治具の詳細を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面が示す部材の大きさなどは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係などを表すものではない。なお、図中、「FR」は車両の前、「RR」は後、「UP」は上、「LWR」は下、「LH」は左、「RH」は右を示す。車両の左右は車幅方向に相当する。車幅方向において、車幅の二等分線に近づく側を内側とし、二等分線から遠ざかる側を外側とする。
【0013】
《実施形態》
本発明の実施形態に係るスライドドアの開閉治具は、
図1、
図2、
図3に示すように、車両CのボディBに取り付けられる第一治具1と、車両CのスライドドアRdに取り付けられる第二治具2とを備える。
図2、
図3は、左側のスライドドアRdが取り付けられたボディBを車内から見た斜視図である。このスライドドアRdの開閉治具の特徴の一つは、第一治具1が磁石10mを有することにある。このスライドドアRdの開閉治具の別の特徴の一つは、第二治具2が磁石10mに吸着される吸着面27を有することにある。
【0014】
ここでの車両Cは、製造途中の車両である。この車両Cは、ボディB、スイングドアFdおよびスライドドアRdを備える。ボディBはウィンドシールドが取り付けられておらず、スイングドアFdおよびスライドドアRdは窓ガラスが取り付けられていない。車両Cのいずれの構成部材も未塗装の状態であり、開閉治具を取り付けてから塗装工程に供される。この塗装工程は、例えば内板塗装工程である。スイングドアFdは左右の前部ドアである。スライドドアRdは左右の後部ドアである。ボディB、スイングドアFdおよびスライドドアRdは、いずれも多数の鋼板を組み合わせて構成される。ボディBの左右の各側部には、図示しないアッパレール、センターレールおよびロアレールの3つのレールが設けられている。左右の各スライドドアRdは、これら3つのレールに対してスライド自在に取り付けられている。以下、第一治具1および第二治具2の詳細を順に説明する。第一治具1のボディBへの取付手順および第二治具2のスライドドアRdへの取付手順は、各治具の構成の後に説明する。
【0015】
[第一治具]
第一治具1は、
図2から
図6に示すように、第一基部10、第一取付部11および磁石10mを備える。後述するように、本例の第一治具1は、さらに磁石10mの首振り機構12と、第一基部10の振れ止め14と、を備える。
【0016】
(第一基部)
第一基部10は、第一治具1の主たる構成部材である。第一基部10は、ボディBに取り付け可能なものであれば特定の形状に限定されるわけではない。本例の第一基部10は、縦片10vと横片10hとを備える。縦片10vと横片10hとは、略十字状に固定されている。縦片10vと横片10hとは、いずれも細長い金属片である。縦片10vの全長と横片10hの一部の各々は、概ね断面がT字状に構成されている。
【0017】
<縦片>
縦片10vは、車両CのボディBに対して、上下に沿って取り付けられる。本例では、ボディBのCピラーPを構成するインナパネルPiに対して縦片10vが取り付けられる。縦片10vは、
図4に示すように、第一取付部11を有する。第一取付部11は、第一治具1を車両Cに固定するための部位である。本例の第一取付部11は、固定フック11fと可動フック11mとを有する。
【0018】
・固定フック
固定フック11fは、縦片10vの第一の端部から突出されている。縦片10vの第一の端部は、第一治具1をボディBに取り付けた状態で、縦片10vの上端となる端部である。固定フック11fは、より具体的には、縦片10vのうち上記インナパネルPiに向き合う面から突出されている。本例の固定フック11fの形状は概ねL字状の棒材である。この棒材は、縦片10vのうち上記インナパネルPiに向き合う面に溶接されている。つまり、第一治具1をボディBに取り付けた際、固定フック11fは、上記インナパネルPiに向き合う面から水平方向に突出され、さらに屈曲されて上方に延びる。このL字状の固定フック11fは、
図4を参照して後述するように、インナパネルPiの上孔H1に嵌められる。本例の上孔H1は円孔である。
【0019】
・可動フック
可動フック11mは、縦片10vの第二の端部から突出されている。縦片10vの第二の端部は、第一治具1をボディBに取り付けた状態で、縦片10vの下端となる端部である。可動フック11mは、より具体的には、縦片10vのうち上記インナパネルPiに向き合う面から突出されている。本例の可動フック11mの形状は概ねL字状の棒材である。この棒材は、縦片10vのうち上記インナパネルPiに向き合う面に回転自在に貫通されている。縦片10vのうち上記インナパネルPiに向き合う面の背面には、可動フック11mを回転自在に支持する筒部が設けられている。L字状の棒材のうち、長軸部が筒部を貫通し、短軸部が上記インナパネルPiに向き合う面から突出されている。長軸部のうち、筒部から露出する端部には、レバー11Lが設けられている。レバー11Lは、着脱位置と固定位置との間の180°の範囲で回動自在に構成される。着脱位置は、第一治具1をボディBに着脱するために、レバー11Lが長軸部から縦片10vに沿って上方に延びる位置である。固定位置は、第一治具1をボディBに固定するために、レバー11Lが長軸部から縦片10vに沿って下方に延びる位置である。着脱位置では、可動フック11mの短軸部は長軸部から下方に向けて延びる。固定位置では、可動フック11mの短軸部は長軸部から上方に向けて延びる。このL字状の固定フック11fは、
図4を参照して後述するように、インナパネルPiの下孔H2に嵌められる。本例の下孔H2は長孔である。
【0020】
さらに、第一治具1をボディBに取り付けた状態において、筒部の斜め上部と斜め下部の各々には、
図2から
図5に示すように、回り止め10sが設けられている。回り止め10sは、レバー11Lの回動範囲を規制する。本例の回り止め10sの各々は、シャフトで構成される。筒部の斜め上部に位置するシャフトは、レバー11Lに当接することで、レバー11Lを着脱位置に位置決めする。筒部の斜め下部に位置するシャフトは、レバー11Lに当接することで、レバー11Lを固定位置に位置決めする。
【0021】
<横片>
横片10hは、車両CのボディBに対して水平方向、つまり車両Cの前後方向に沿って配置される。本例の横片10hは、縦片10vをCピラーPのインナパネルPiに取り付けた際、このインナパネルPiに向き合う位置からスライドドアRdの開口に重なる位置まで延びる。第一治具1をボディBに取り付けた状態において、横片10hのインナパネルPiに向き合う第一の端部は、車両Cの後部に対応する。横片10hのスライドドアRdの開口に重なる第二の端部は、車両Cの前部に対応する。
【0022】
本例の横片10hは、第一の端部から第二の端部に向かって順に第一片101から第四片104までの4つの片を有する。第一片101は、縦片10vと交差する片である。第二片102は、縦片10vに対して交差する方向に延びて第三片103につながる片である。第一治具1をボディBに取り付けた状態において、第二片102は第一片101の前端から概ねボディBの車内に向かって延びている。第三片103は、第二片102の車内側の端部からほぼ水平方向、即ち車両Cの前方に延びている。第三片103は第一片101とほぼ平行である。第四片104は、第三片103に対して若干車外に向けて屈曲するように延びている。第四片104の断面形状はL字状である。第一片101から第四片104までの4つの片は、一連に一体化されている。横片10hを構成する個々の片の数は、3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。第四片104は、第一治具1をボディBに取り付けた際、閉じられた状態のスライドドアRdにおけるベルトラインの後部を臨む向きに配置される。
【0023】
(磁石)
横片10hの前端、つまり第四片104には、首振り機構12で支持された磁石10mが取り付けられている。この磁石10mは、第四片104の向きに対応して、閉じられた状態のスライドドアRdにおけるベルトラインの後部を臨む。つまり、本例の磁石10mは、車両Cの左後方を臨む。磁石10mは、後述する第二治具2の吸着面27に吸着される。磁石10mの形状と数は限定されない。本例では、円板状の磁石10mを1つ用いている。磁石10mの表面、即ち磁石10mが吸着面27に吸着される面は、平面で構成されている。この磁石10mは、スライドドアRdに固定された第二治具2の吸着面27に吸着された際、容易にドアがスライドしないようにスライドドアRdの開閉位置を保持できる程度の磁力があればよい。磁石10mがスライドドアRdに取り付けられた第二治具2の吸着面27に吸着することで、ボディBに対してスライドドアRdの位置が固定される。磁石10mが吸着面27から離れることで、ボディBに対してスライドドアRdをスライドすることができる。
【0024】
(首振り機構)
首振り機構12は、
図2、
図3に示されるように、磁石10mの表面、つまり第二治具2の吸着面27に向き合う面を吸着面27に対して平行となるように調整する機構である。磁石10mは、その表面が吸着面27と平行に接した場合に最も高い吸着力を発揮する。磁石10mの表面が吸着面27に対して傾いた状態では、両面を適切に面接触させることができず、十分な吸着力を発揮できない。第一治具1はボディBに取り付けられ、第二治具2はスライドドアRdに取り付けられる。第一治具1、第二治具2および車両Cの構成部材はいずれも製造誤差があり、各治具の車両Cの構成部材に対する取付誤差もある。首振り機構12は、これら製造誤差および取付誤差による磁石10mの表面と第二治具2の吸着面27との傾きを是正して、両者を全面で面接触させることができる。
【0025】
首振り機構12は、
図6に示すように、第一基部10、つまり本例では横片10hに対して磁石10mを首振り自在に支持する。本例の首振り機構12は、固定片121と可動片122と軸部123と弾性部材124とを有する。
【0026】
固定片121と可動片122は、いずれもU字状の金属片である。本例では、固定片121の幅が可動片122の幅よりも広い。固定片121と可動片122は、互いに向き合わせた状態で軸部123により連結されている。固定片121と可動片122の各々は、矩形の主片と、主片の両端部から実質的に直角に延びる突片と、を備える。固定片121の主片は横片10hの第四片104に固定される。可動片122の主片には磁石10mが固定される。これらの固定手段は、例えば溶接またはねじ止めである。可動片122の突片は、固定片121の突片に重ねられるように配置される。つまり、可動片122の突片は、固定片121の突片の間に挟まれるように配置される。固定片121の突片には長孔12eが設けられている。長孔12eの長軸は、固定片121の主片から突片が突出する方向に沿っている。可動片122の突片には円孔12hが設けられている。固定片121の長孔12eと可動片122の円孔12hとは重ねられる。重ねられた長孔12eと円孔12hとをボルトで貫通してナット125で締め付けることで、固定片121と可動片122が連結される。この連結により、可動片122は固定片121に対してボルトの軸部123を回転軸として上下に首振りすることができる。また、固定片121の突片と可動片122の突片との間にはクリアランスが設けられている。このクリアランスにより、磁石10mは水平方向にも首振りすることができる。
【0027】
固定片121の主片と可動片122の主片との間には、弾性部材124が配置される。本例の弾性部材124は圧縮ばねである。この圧縮ばねは、固定片121の主片から可動片122の主片を離すように押圧する。この押圧により、磁石10mの表面は、磁石10mに外力が作用しなければ、圧縮ばねの軸と直交する向きに配置される。圧縮ばねの伸縮により、可動片122の主片は固定片121の主片と離れたり近づいたりできる。換言すれば、圧縮ばねは、基部、つまり本例の第四片104から磁石10mまでの距離を可変させる。
【0028】
一方、本例の首振り機構12は、上記距離の最大値を制限する規制部も有する。規制部は、固定片121の長孔12e、可動片122の円孔12hおよびボルトの軸部123の組み合わせにより構成される。可動片122と一体の磁石10mは、ボルトの可動範囲が長孔12eの長軸の範囲に規制されているため、基部から磁石10mまでの距離の最大値が長孔12eの長軸の範囲に規制される。
【0029】
本例とは異なり、首振り機構12は、第四片104と磁石10mとの間に設けられる自在接手であってもよい。
【0030】
横片10hの後端、つまり第一片101には、
図2から
図5に示すように、振れ止め14が設けられている。振れ止め14は、第一治具1をボディBに取り付けた際、縦片10vの軸を中心に横片10hが回転して振れることを抑制する。本例の振れ止め14は、シャフトで構成される。第一片101の前端には短いシャフト141が、第一片101の後端には長いシャフト142が固定されている。短いシャフト141は、CピラーPにおけるスライドドアRdの開口を構成する縁部に当接される。長いシャフト142は、CピラーPのインナパネルPiのうち、上記縁部よりも後部に当接される。
【0031】
[第二治具]
第二治具2は、
図2、
図3および
図7に示すように、第二基部20、吸着面27および保持面28を備える。
【0032】
(第二基部)
第二基部20は、第二治具2の主たる構成部材である。第二基部20はスライドドアRdに取り付け可能なものであれば、特定の形状に限定されるわけではない。本例の第二基部20は、第一主片21、第二主片22および第二取付部を有する。
【0033】
第一主片21と第二主片22は、いずれも細長い金属板である。第一主片21と第二主片22は、互いに間隔をあけて平行に配置される。本例の第一主片21は、スライドドアRdのインナパネルDiに向き合って配置される。本例の第二主片22は、第一主片21よりもスライドドアRdのインナパネルDiから遠位に配置される。つまり、第二主片22は第一主片21の車内側に配置される。本例の第一主片21は第二主片22よりも短い。
【0034】
第二取付部は、第二治具2をスライドドアRdに対して取り付けるための部位である。第二治具2は、スライドドアRdのベルトライン近傍のインナパネルDiに取り付けられる。本例の第二取付部は、
図7に示すように、片持ち軸23、連結軸24、第一連結片25および第二連結片26を有する。
【0035】
・片持ち軸
片持ち軸23は、第二主片22の第一の端部に設けられている。第一の端部は、スライドドアRdの後部に対応する端部である。この片持ち軸23は、第二主片22のうち第一主片21と並列されない箇所に設けられている。片持ち軸23は、第二主片22から第一主片21に向かって延びている。片持ち軸23は、スライドドアRdを構成するインナパネルDiのうち、ベルトラインの後端部近傍に設けられた貫通孔Htに差し込まれる。本例の貫通孔Htは円孔である。
【0036】
・連結軸
連結軸24は、第一主片21の第一の端部と第二主片22の第一の端部とをつなぐ軸である。本例の連結軸24は、片持ち軸23の近傍で、第一主片21と第二主片22とが並列される箇所に配置されている。本例の連結軸24は片持ち軸23と実質的に平行に設けられている。連結軸24は、スライドドアRdを構成するインナパネルDiのうち、ベルトラインの後端部近傍に設けられたU字状の切欠Ucに嵌められる。この切欠Ucは、貫通孔Htよりも前方に設けられている。
【0037】
・第一連結片および第二連結片
第一連結片25および第二連結片26は、第一主片21と第二主片22との間に架け渡されるブロック片である。いずれの連結片も、スライドドアRdのベルトライン近傍のインナパネルDiの上縁が嵌められるスリット25s、26sを有する。第一連結片25は、第一主片21および第二主片22の第一の端部と近位の位置に設けられている。つまり、第一主片21の第一の端部から順に片持ち軸23、連結軸24および第一連結片25が設けられている。第二連結片26は、第一主片21および第二主片22の第二の端部に設けられている。第二の端部は、第一の端部よりも前方に位置する。ベルトライン近傍のインナパネルDiの上縁は、第二連結片26のスリット26sに対応した位置に矩形状の切欠Rcが設けられている。この切欠Rcは、切欠Ucよりも前方に設けられている。
【0038】
(吸着面)
吸着面27は、
図2、
図3および
図7に示すように、第一治具1が有する磁石10mに吸着される面である。吸着面27は、磁石10mの表面よりも広い面積を有するサイズであれば形状は問わない。本例の吸着面27は、磁石10mの表面のサイズにほぼ対応した円形状である。吸着面27の設けられる位置は、閉じられたスライドドアRdに第二治具2を取り付けた際、磁石10mに対して向き合うような位置である。本例の吸着面27は、第二主片22の第一の端部付近から車内側に突出された支持片の先端に設けられている。この吸着面27は、車両Cの右前方を臨む。吸着面27の材質は磁石10mに吸着されるものであればよい。本例の吸着面27は鋼で構成されている。
【0039】
(保持面)
保持面28は、主に
図3に示すように、ロボットアームAの先端で保持される面である。ロボットアームAの先端は、保持面28に向かい合う面が磁石で構成されていたり、開閉自在のマニピュレータであったりする。本例の保持面28は、ロボットアームAの先端に設けられた磁石に吸着される平面である。ロボットアームAの磁石は、保持面28に吸着した状態で、スライドドアRdを開閉する際に脱落しない程度の磁力を有する。保持面28のサイズと形状は、ロボットアームAが十分に第二治具2ごとスライドドアRdをスライドできるサイズと形状であればよい。本例の保持面28の形状は矩形である。保持面28を設ける位置は、吸着面27から離れた位置である。本例の保持面28は、第一主片21と第二主片22の第二の端部、つまり第二連結片26に対して取り付けられている。さらに本例の保持面28の両端部、つまり第二治具2をスライドドアRdに取り付けた状態における前端と後端には、折り曲げ片28bが設けられている。ロボットアームAの磁石が保持面28に吸着された状態でスライドドアRdをスライドした際、ロボットアームAの磁石が保持面28に対して前後に滑ることがある。その場合、折り曲げ片28bがロボットアームAの当て止めとなることで、ロボットアームAが保持面28から脱落することを防止できる。
【0040】
[第一治具と第二治具の着脱手順]
まず、第一治具1を車両CのボディBに取り付ける手順を説明する。
図4に示すように、CピラーPのインナパネルPiには、円孔である上孔H1と長孔である下孔H2とが設けられている。上孔H1と下孔H2との間隔は、固定フック11fと可動フック11mの間隔に対応する。第一治具1の縦片10vをCピラーPの上下に沿わせた向きに合わせる。
【0041】
先に固定フック11fを上孔H1に差し込む。固定フック11fの先端部を上孔H1に差し込んだら、縦片10vの下端がCピラーPに近づくように縦片10vを傾けて、固定フック11fの根元部も上孔H1に差し込む。差し込まれた固定フック11fは、その先端部が上方に向かって延びる。次に、レバー11Lを着脱位置として、可動フック11mを下孔H2に嵌める。レバー11Lを着脱位置とした際、可動フック11mの短軸部は、下向きに延びて丁度下孔H2に対応した向きに配置されている。そのため、短軸部を下孔H2に嵌めることができる。短軸部を下孔H2に嵌めたら、その状態でレバー11Lを固定位置に回す。
図2、
図3および
図5に示すレバー11Lは、いずれも固定位置である。レバー11Lの回動に伴って、短軸部は上向きに延びる。上向きに延びる短軸部は、下孔H2の上端部からCピラーPのインナパネルPiの裏面、つまりインナパネルPiの外面に引っ掛かるように回り込む。このとき、振れ止め14の短いシャフト141は、CピラーPにおけるスライドドアRdの開口を構成する縁部に当接される。振れ止め14の長いシャフト142は、CピラーPのインナパネルPiのうち、上記縁部よりも後部に当接される。
【0042】
以上の動作により、
図5に示すように、縦片10vは、固定フック11fが上孔H1に掛けられ、可動フック11mが下孔H2に掛けられることで、CピラーPのインナパネルPiに取り付けられる。また、横片10hは、振れ止め14の短いシャフト141と長いシャフト142の双方がインナパネルPiの車内を臨む面に当接されることで、縦片10vの軸を回転軸として第一治具1が振れることを抑制する。
【0043】
第一治具1をボディBから取り外す場合は、上記と逆の手順を行う。まず、レバー11Lを着脱位置に回す。このレバー11Lの回動により、可動フック11mの短軸部は、下向きに延びて長孔に対応した向きとなる。その状態で第一治具1をCピラーPのインナパネルPiから引き離せばよい。
【0044】
次に、第二治具2をスライドドアRdに取り付ける手順を説明する。
図7に示すように、スライドドアRdのインナパネルDiには、ベルトラインに沿った上縁が配置されている。この上縁には、後端から前端に向かって順に貫通孔Ht、U字状の切欠Ucおよび矩形状の切欠Rcが設けられている。第二治具2は、第一主片21をスライドドアRdのインナパネルDiを臨む向きとし、第一主片21および第二主片22の後端部が下、前端部が上となる向きに配置する。まず、第二治具2の片持ち軸23をインナパネルDiの貫通孔Htに差し込む。次に、片持ち軸23を回転軸として、第二治具2の前端部を下げ、順次連結軸24をU字状の切欠Ucに、第一連結片25のスリット25sをインナパネルDiの上縁に、第二連結片26のスリット26sを矩形状の切欠Rcに嵌める。これら片持ち軸23、連結軸24、第一連結片25および第二連結片26とインナパネルDiの係合により、第二治具2は車両Cの前後方向および内外方向にずれないように位置決めされる。
【0045】
第二治具2をボディBから取り外す場合は、上記と逆の手順を行う。第一主片21および第二主片22の前端部を持ち上げ、順次第二連結片26、第一連結片25および連結軸24を矩形状の切欠Rc、インナパネルDiの上縁およびU字状の切欠Ucから外す。さらに片持ち軸23を貫通孔Htから抜くことで、スライドドアRdから第二治具2を取り外す。
【0046】
[スライドドアの開閉]
スライドドアRdを閉じた状態に固定する場合、
図2に示すように、第一治具1の磁石10mを第二治具2の吸着面27に吸着させる。磁石10mは首振り機構12で支持されているため、スライドドアRdを閉じた状態において、磁石10mと吸着面27が近接していれば、磁石10mの表面と吸着面27が平行になっていなくても、磁力により両者は吸着される。磁石10mは弾性部材124を有する首振り機構12に支持されていることで、弾性部材124が伸長することにより磁石10mが吸着面27に近づいて吸着することができる。但し、弾性部材124が伸長する範囲、即ち可動片122の主片が固定片121の主片から離れる距離の最大値は、固定片121の長孔12eの範囲に制限されている。そのため、過度に磁石10mが固定片121から離れることはない。この距離の最大値の規制部がなければ、磁石10mと吸着面27の吸着時、弾性部材124の過度の伸長に伴い磁石10mが吸着面27に衝撃的に吸着すると、弾性部材124が収縮して復帰しようとする反動で磁石10mが吸着面27から離れるおそれがある。また、規制部がなければ、磁石10mと吸着面27の分離時、弾性部材124が過度に伸長することで、磁石10mが適切に吸着面27から離れないおそれがある。規制部を有することで、これらの不具合の発生を抑制することができる。このように、磁石10mと吸着面27との吸着により、スライドドアRdは閉じた状態に固定されるため、ボディBおよびスライドドアRdの塗装時にスライドドアRdが不用意に開いたりしない。
【0047】
スライドドアRdを開放する場合、
図3に示すように、ロボットアームAの先端部で第二治具2の保持面28を保持する。本例では、ロボットアームAの先端部に磁石が設けられている。そのため、ロボットアームAを駆動することで、この磁石を保持面28に吸着させられる。ロボットアームAの先端部で保持面28を保持したら、ロボットアームAを駆動してスライドドアRdを開放する。まず、スライドドアRdを車外に向けて斜め後方に引き出し、ボディBの外面の外側に配置させる。その状態でロボットアームAの先端部をボディBの後方に駆動し、スライドドアRdを開放する。ロボットアームAの駆動力は、第一治具1の磁石10mと第二治具2の吸着面27との吸着力を十分に上回っているため、ロボットアームAの先端部をボディBの後方に駆動することで、吸着面27は磁石10mから自動的に離脱される。スライドドアRdを閉じる際は、ロボットアームAの先端部をボディBの前方に駆動すればよい。スライドドアRdの開閉時、保持面28に対してロボットアームAの磁石が滑ったとしても、ロボットアームAの先端部が保持面28の両端部に設けられた折り曲げ片28bに当接する。そのため、ロボットアームAの先端部が保持面28から脱落することが抑制される。
【0048】
このように、スライドドアRdを閉じた状態に固定する場合は磁石10mと吸着面27の吸着という簡単な構成により実現できる。一方、スライドドアRdの開放は、ロボットアームAで第二治具2の保持面28を保持してロボットアームAを駆動するだけで、自動的に磁石10mから吸着面27を離脱させることができる。そのため、磁石10mから吸着面27が離脱したことを検知するためのセンサおよびこの離脱をさせるための機構が不要である。
【0049】
本発明は、これらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0050】
以上の実施形態ではロボットによりスライドドアRdの開閉を行う場合について説明したが、第一治具1および第二治具2を用いて作業者が人力でスライドドアRdを開閉してもよい。
【0051】
また、実施形態ではボディBに取り付けられる第一治具1に磁石10mを設け、スライドドアRdに取り付けられる第二治具2に吸着面27を設けたが、ボディBに取り付けられる第一治具1に吸着面27を設け、スライドドアRdに取り付けられる第二治具2に磁石10mを設けてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 第一治具
10 第一基部
10v 縦片
10s 回り止め
11 第一取付部
11f 固定フック
11m 可動フック
11L レバー
10h 横片
101 第一片
102 第二片
103 第三片
104 第四片
10m 磁石
12 首振り機構
121 固定片
12e 長孔
122 可動片
12h 円孔
123 軸部
124 弾性部材
125 ナット
14 振れ止め
141 短いシャフト
142 長いシャフト
2 第二治具
20 第二基部
21 第一主片
22 第二主片
23 片持ち軸
24 連結軸
25 第一連結片
25s スリット
26 第二連結片
26s スリット
27 吸着面
28 保持面
28b 折り曲げ片
C 車両
B ボディ
P Cピラー
Pi インナパネル
H1 上孔
H2 下孔
Fd スイングドア
Rd スライドドア
Di インナパネル
Ht 貫通孔
Uc U字状の切欠
Rc 矩形状の切欠
A ロボットアーム