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特開2024-125742鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法
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  • 特開-鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法 図1
  • 特開-鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法 図2
  • 特開-鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法 図3
  • 特開-鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125742
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 46/00 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
B22D46/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033782
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文和
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀明
(72)【発明者】
【氏名】石本 淳
(72)【発明者】
【氏名】仲野 是克
(57)【要約】
【課題】解析計算時間の短縮を図ることが可能な鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法を提供する。
【解決手段】金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣を解析する鋳巣解析装置であって、鋳造体の全体に関するフルモデル及び鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、部分モデルに溶湯の流れ解析を実行し、フルモデルのうち部分モデルを除く部分について溶湯の流れ解析と溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を実行する解析部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣を解析する鋳巣解析装置であって、
前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を実行し、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を実行する解析部を備えることを特徴とする鋳巣解析装置。
【請求項2】
前記部分モデルは、前記金型において前記溶湯を受け入れる溶湯流入ゲート部に相当することを特徴とする請求項1に記載の鋳巣解析装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記溶湯に発生する気泡を消滅させることなく前記溶湯の流れ解析を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳巣解析装置。
【請求項4】
金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣をコンピュータに解析させる鋳巣解析プログラムであって、
前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を前記コンピュータに実行させ、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を前記コンピュータに実行させることを特徴とする鋳巣解析プログラム。
【請求項5】
金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣を解析する鋳巣解析方法であって、
前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を実行し、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を実行することを特徴とする鋳巣解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、溶融材料の成型に用いる型の形状を座標系上に位置づけ、該座標系の空間を複数の微小要素に分割する要素作成ステップと、該微小要素のそれぞれについて、該型の型領域に位置する型要素と該型のキャビティ領域に位置するキャビティ要素とを定義する要素定義ステップと、をもつ前処理工程と、該溶融材料が充填された該キャビティ要素である溶融材料充填要素の圧力および速度を算出するステップと、該溶融材料が充填されていない該キャビティ要素であるガス巣要素のガスの物理量を算出するステップと、算出された該ガス巣要素の該ガスの物理量を利用して該溶融材料充填要素と該ガス巣要素のそれぞれの要素間の伝熱および鋳造型最表面に位置する該型要素とそれに接する該溶融材料充填要素または該ガス巣要素のそれぞれの要素間の伝熱を解析して、該溶融材料充填要素の温度を算出する伝熱解析ステップと、該溶融材料充填要素の該温度から算出される該溶融材料充填要素の潜熱放出量に応じて、該溶融材料の固相率を算出する固相率算出ステップと、をもつ凝固解析ステップと、該溶融材料充填要素の固相率が溶湯の流動限界を超えている場合に当該溶融材料充填要素を充填解析の解析対象から除外するステップと、プランジャ直前部の該溶融材料充填要素の平均圧力が所定圧力を超えた時もしくは溶湯充填率が所定充填率を超えた時に、該溶湯の流入条件を溶湯速度条件から溶湯圧力条件に切り替えるステップと、を備え、該キャビティ要素について、該溶融材料の充填領域を解析する充填解析ステップと、該固相率が100%未満であるそれぞれの該溶融材料充填要素について、該固相率が100%未満である該溶融材料充填要素以外の該微小要素によって囲繞される閉領域を検出する閉領域検出ステップと、直前に検出された該閉領域と現在の該閉領域とを対比して該閉領域内に含まれる該溶融材料の体積変動を求めて、該閉領域の発生後に該閉領域内で発生する凝固収縮を該閉領域内の該溶融材料充填要素のうち該固相率が低い要素に対応づける凝固収縮検出ステップと、を備え、すべての該溶融材料充填要素が完全に凝固するまで対応づけを行う凝固収縮解析ステップと、をもち、各該微小要素について該充填解析ステップおよび該凝固収縮解析ステップの全てのステップを行った後に微小時間間隔に相当するタイムステップを進めて、該充填解析ステップおよび該凝固収縮解析ステップの各ステップを繰り返し行う解析工程と、を有することを特徴とするダイカスト鋳造鋳物の鋳巣解析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5442242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した背景技術では、鋳造欠陥である鋳巣や引け巣に対して予測ができるが、解析計算時間が長いという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、解析計算時間の短縮を図ることが可能な鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、鋳巣解析装置に係る解決手段として、金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣を解析する鋳巣解析装置であって、前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を実行し、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を実行する解析部を備える、という手段を採用する。
【0007】
本発明では、鋳巣解析プログラムに係る解決手段として、金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣をコンピュータに解析させる鋳巣解析プログラムであって、前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を前記コンピュータに実行させ、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を前記コンピュータに実行させる、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、鋳巣解析方法に係る解決手段として、金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣を解析する鋳巣解析方法であって、前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を実行し、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を実行する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、解析計算時間の短縮を図ることが可能な鋳巣解析装置、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る鋳巣解析装置の機能構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態における鋳造体モデルを示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る鋳巣解析方法の効果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態の鋳巣解析装置Aは、ダイカスト金型等の鋳造金型に原料となる溶湯(液体状金属)を充填・固化させることによって製造される鋳造体について、鋳巣の発生をシミュレーションするシミュレーション装置である。
【0012】
この鋳巣解析装置Aは、汎用コンピュータ(ハードウエア要素)にアプリケーションプログラムである鋳巣解析プログラム(ソフトウエア要素)をインストールしたものである。すなわち、鋳巣解析装置Aは、ハードウエア要素とソフトウエア要素との協働によって、鋳巣の発生をシミュレーションするものである。
【0013】
上記鋳巣解析プログラムは、コンピュータに予め搭載されたOS(Operating System)上でコンピュータによって実行されることにより、製造時に鋳造体内の発生し得る鋳巣の発生を予測する。詳細については後述するが、鋳巣解析プログラムは、鋳造体を細かく分割した金型モデル(三次元モデル)の各要素(区画)について圧力、溶湯の流速及び乱流等を計算することにより、鋳造体モデルにおける溶湯の流れ解析を行う。
【0014】
また、この鋳巣解析プログラムは、上記溶湯の流れ解析に加えて、鋳巣の発生解析を行う。この鋳巣の発生解析は、先行して行われる溶湯の流れ解析と鋳造金型の温度(金型温度)から計算される溶湯の固相率とに基づいて鋳巣の発生箇所を特定するものである。なお、鋳巣は、周知のようにひけ巣、ピンホール、ブローホール等の総称であり、鋳造体に発生し得る空洞(鋳造欠陥)である。
【0015】
すなわち、本実施形態における鋳巣解析プログラムは、予め作成された鋳造体のメッシュモデル(鋳造体モデル)を用いて溶湯の流れ解析と鋳巣の発生解析とを汎用コンピュータに実行させるアプリケーションプログラムである。
【0016】
図2は、本実施形態における鋳造体モデルMである。この鋳造体モデルMは、鋳造体の全体に関するフルモデルであり、2つの部分モデルM1、M2から構成されている。部分モデルM1は、鋳造体の一部、つまり鋳造金型において溶湯を受け入れる溶湯流入ゲート部に相当する溶湯注入モデルである。
【0017】
一方、部分モデルM2は、鋳造金型において溶湯流入ゲート部に接続するとともに鋳造体の最終製品を含む部分に相当するキャビティモデルである。以下では、部分モデルM1を溶湯注入モデルM1と言い、部分モデルM2をキャビティモデルM2と言う。
【0018】
詳細について後述するが、本実施形態の鋳巣解析装置Aは、鋳巣解析プログラムに基づいて溶湯注入モデルM1に溶湯の流れ解析のみを行う。また、鋳巣解析装置Aは、鋳巣解析プログラムに基づいて三次元鋳造体モデルMにおける溶湯注入モデルM1以外つまりキャビティモデルM2について、溶湯の流れ解析及び鋳巣の発生解析を行う。
【0019】
このような鋳巣解析装置Aは、図1に示すように、システムバス1、演算部2、記憶部3、表示部4、通信部5及び操作部6を備えている。システムバス1は、演算部2、記憶部3、表示部4、通信部5及び操作部6に電気的かつ物理的に接続されており、演算部2、記憶部3、表示部4、通信部5及び操作部6の間におけるデータの授受を仲介するデータ線路である。
【0020】
演算部2は、OS(Operating System)及び鋳巣解析プログラムを実行するマイクロプロセッサである。すなわち、演算部2は、汎用コンピュータに電源が投入されると、OS(Operating System)を先行して実行することにより、鋳巣解析プログラムを実行する上で必要な環境(実行環境)を整え、その上で鋳巣解析プログラムを実行する。
【0021】
記憶部3は、ROM(Read Only Memory)やハードディスク装置等の不揮発性の記憶装置とRAM(Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置とから構成されている。すなわち、この記憶部3は、OS(Operating System)及び鋳巣解析プログラムを予め記憶するとともに、演算部2がOS(Operating System)及び鋳巣解析プログラムを実行する上で演算した各種のデータを一時的に記憶する。
【0022】
表示部4は、演算部2における鋳巣解析プログラムの実行経過及び実行結果(シミュレーション結果)等を画像として表示する表示装置である。この表示部4は、液晶表示装置等の所謂ディスプレイである。詳細について後述するが、表示部4には、鋳造体における鋳巣の発生部位がシミュレーション結果として表示される。
【0023】
通信部5は、OS(Operating System)及び鋳巣解析プログラムの実行に必要な各種のデータを外部から取得する装置である。この通信部5は、予め設定された通信プロトコルに従って外部機器と有線通信又は無線通信を行うことにより、OS(Operating System)及び鋳巣解析プログラムの実行に必要な各種のデータを取得する。
【0024】
鋳巣解析プログラムの実行に必要なデータには、上述した鋳造体モデルMに加えて、鋳造金型の形状、溶湯の材料物性、溶湯の圧力、鋳造金型に対する溶湯の充填速度、また鋳造金型の温度の時系列データ(金型温度データ)等の設定パラメータが含まれる。通信部5は、外部機器から受信した鋳造体モデルM及び設定パラメータを演算部2に出力することにより、演算部2を鋳巣解析プログラムの実行が可能な状態とする。
【0025】
操作部6は、キーボードやマウス等の入力装置である。この操作部6は、操作者の汎用コンピュータに対する各種指示を操作指示として受け付け、当該操作指示を演算部2に出力する。この操作指示は、OS(Operating System)及び鋳巣解析プログラムを実行する上で演算部2に参照される。
【0026】
次に、本実施形態の鋳巣解析装置Aの動作、つまり実施形態に係る鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法について、図3図5を参照して説明する。
【0027】
鋳巣解析装置Aにおいて、演算部2は、最初に鋳造体モデルM及び設定データを外部から取得する(ステップS1)。すなわち、操作者が操作部6に取得指示を入力すると、この取得指示が操作部6から演算部2に入力される。
【0028】
演算部2は、この取得指示に基づいて取得命令を通信部5に出力することにより、鋳造体モデルM及び鋳造金型の形状、溶湯の材料物性、溶湯の圧力及び鋳造金型に対する溶湯の充填速度を取得する。そして、演算部2は、鋳造体モデルM及び設定データを記憶部3に記憶させる。
【0029】
続いて、演算部2は、内部タイマの時間を更新し(ステップS2)、この上で鋳造体モデルMにおける溶湯注入モデルM1、つまり鋳造金型の溶湯流入ゲート部に相当する部位について溶湯の流れ解析を実行する(ステップS3)。
【0030】
すなわち、演算部2は、記憶部3から溶湯注入モデルM1及び設定データの一部である鋳造金型の形状、溶湯の材料物性、溶湯の圧力及び鋳造金型に対する溶湯の充填速度を取得し、乱流モデルの一種である高精度乱流モデル(LES:Large Eddy Simulation)に基づく溶湯の流れ解析を溶湯注入モデルM1について実行する。
【0031】
そして、演算部2は、内部タイマの時間が書込み時刻に到達したか否かを判定し(ステップS4)、書き込み時刻に到達した場合は溶湯の流れ解析の結果(流れ解析結果)を記憶部3に保存(記憶)させる(ステップS5)。なお、演算部2は、内部タイマの時間が書込み時刻に到達していない場合には、ステップS5の処理を実行することなくステップS6の処理を実行する。
【0032】
続いて、演算部2は、溶湯注入モデルM1に関する溶湯の流れ解析が完了したか否かを判断する(ステップS6)。そして、演算部2は、溶湯注入モデルM1に関する溶湯の流れ解析が完了したと判断すると、解析対象を溶湯注入モデルM1から鋳造体モデルM(フルモデル)に入れ替える(ステップS7)。すなわち、演算部2は、記憶部3から鋳造体モデルM(フルモデル)を取得することにより、解析対象を鋳造体モデルM(フルモデル)に設定する。
【0033】
なお、演算部2は、ステップS6において溶湯注入モデルM1に関する溶湯の流れ解析が完了していないと判断した場合には、ステップS2~S6の処理を繰り返す。すなわち、演算部2は、ステップS2~S6の繰返し処理によって、溶湯が溶湯注入モデルM1(溶湯流入ゲート部)に充填されて固化するまでの期間に亘る溶湯の挙動を予測することができる。
【0034】
続いて、演算部2は、内部タイマの時間を更新し(ステップS8)、この上で鋳造体モデルM(フルモデル)つまり鋳造金型の全体のうち、溶湯注入モデルM1(溶湯流入ゲート部)以外について、溶湯の流れ解析を実行する(ステップS9)。
【0035】
すなわち、演算部2は、鋳造体モデルM(フルモデル)の一部である溶湯注入モデルM1(溶湯流入ゲート部)に関する溶湯の流れ解析がステップS3で完了しているので、鋳造体モデルM(フルモデル)から溶湯注入モデルM1(溶湯流入ゲート部)を除いたキャビティモデルM2(最終製品を含む部分)についてのみ溶湯の流れ解析を実行する。
【0036】
なお、このステップS9における溶湯の流れ解析では、高精度乱流モデル(LES:Large Eddy Simulation)を用いることにより、溶湯の充填過程にてキャビティモデルM2内に発生する気泡を消滅させることなく溶湯の流れ解析を行う。すなわち、一般的な流れ解析では、流れ場に発生した気泡を順次消滅させるが、演算部2は、キャビティモデルM2について気泡を残したまま溶湯の流れ解析を行う。
【0037】
続いて、演算部2は、設定データの一部である鋳造金型の金型温度データを記憶部3から取得する(ステップS10)、そして、演算部2は、ステップS9で得られた流れ解析結果とステップS10で取得した金型温度データとに基づいて、キャビティモデルM2(最終製品を含む部分)に関する固相率を算出する(ステップS11)。
【0038】
すなわち、演算部2は、ステップS8で設定された時間におけるキャビティモデルM2(最終製品を含む部分)の固相率を示すデータ(固相率データ)を取得する。この固相率データは、キャビティモデルM2(最終製品を含む部分)を構成する各要素について、初期的に液体である溶湯の凝固率を示すデータである。
【0039】
演算部2は、このような固相率の算出が完了すると、内部タイマの時間が書込み時刻に到達したか否かを判定し(ステップS12)、書き込み時刻に到達した場合は固相率データを記憶部3に保存(記憶)させる(ステップS13)。なお、演算部2は、内部タイマの時間が書込み時刻に到達していない場合には、ステップS13の処理を実行することなくステップS14の処理を実行する。
【0040】
すなわち、演算部2は、キャビティモデルM2に関する鋳巣の発生解析が完了したか否かを判断し(ステップS14)、キャビティモデルM2に関する鋳巣の発生解析が完了したと判断すると、全ての処理を終了する。一方、演算部2は、ステップS14においてキャビティモデルM2に関する固相率の取得が完了していないと判断すると、ステップS8~S14の処理を繰り返す。
【0041】
すなわち、ステップS8~S14の繰返し処理は、溶湯が溶湯注入モデルM1(溶湯流入ゲート部)に充填されて固化するまでの期間、つまり溶湯が完全に固化した状態における固相率の時系列データを取得する処理であり、本発明における鋳巣の発生解析に相当する。ステップS9では、キャビティモデルM2に発生した気泡を消滅させることなく溶湯の流れ解析を行うので、流れ解析結果は、気泡の位置情報を含むものである。
【0042】
そして、鋳巣は、溶湯が完全に固化した状態において、気泡に起因してキャビティモデルM2(最終製品を含む部分)中に形成される。したがって、ステップS8~S14の繰返し処理によって、キャビティモデルM2(最終製品を含む部分)について、溶湯が完全に固化した状態における鋳巣の発生箇所を特定することができる。
【0043】
本実施形態では、鋳造金型の全体に関する鋳造体モデルM(フルモデル)と鋳造金型の一部に関する溶湯注入モデルM1とについて、溶湯の流れ解析と、当該溶湯の流れ解析と溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析とのうち、鋳造体モデルM(フルモデル)の溶湯注入モデルM1以外のキャビティモデルM2について溶湯の流れ解析及び鋳巣の発生解析を行い、溶湯注入モデルM1について溶湯の流れ解析を行う。
【0044】
すなわち、本実施形態によれば、鋳巣の発生解析が不要な溶湯注入モデルM1については鋳巣の発生解析を割愛し、溶湯の流れ解析のみを実行する。したがって、本実施形態によれば、解析計算時間の短縮を図ることが可能な鋳巣解析装置A、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法を提供することが可能である。
【0045】
図4は、本実施形態における解析計算時間の短縮効果を示す模式図である。この図4に示すように、本実施形態に係る鋳巣解析装置A、鋳巣解析プログラム及び鋳巣解析方法によれば、溶湯注入モデルM1(部分モデル)の解析時間が4時間、また鋳造体モデルM(フルモデル)の解析時間が308時間である。
【0046】
すなわち、本実施形態における総計算時間は312時間である。この312時間は、鋳造体モデルM(フルモデル)について溶湯の流れ解析と鋳巣の発生解析とを両方とも行う場合に比較して54.8%の時間短縮である。したがって、本実施形態によれば、鋳造体について大幅な解析計算時間の短縮を実現することができる。
【0047】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。
【0048】
また、技術的に矛盾しない範囲において、特定の実施形態について説明した事項を他の実施形態に適用することができる。
【0049】
また、各構成要素は、名称が同一で、参照符号が異なる他の構成要素と同様の特徴を有してもよい。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0050】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」、「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0051】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【0052】
また、上記実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、上記実施形態の図面における要素の形状及び大きさなどは便宜的に誇張されていることがある。
【0053】
〔付記1〕
金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣を解析する鋳巣解析装置であって、
前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を実行し、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を実行する解析部を備えることを特徴とする鋳巣解析装置。
【0054】
〔付記2〕
前記部分モデルは、前記金型において前記溶湯を受け入れる溶湯流入ゲート部に相当することを特徴とする付記1に記載の鋳巣解析装置。
【0055】
〔付記3〕
前記充填解析部は、前記溶湯に発生する気泡を消滅させることなく前記溶湯の流れ解析を行うことを特徴とする付記1又は2に記載の鋳巣解析装置。
【0056】
〔付記4〕
金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣をコンピュータに解析させる鋳巣解析プログラムであって、
前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を前記コンピュータに実行させ、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を前記コンピュータに実行させることを特徴とする鋳巣解析プログラム。
【0057】
〔付記5〕
金型に溶湯を充填・固化して製造される鋳造体の鋳巣を解析する鋳巣解析方法であって、
前記鋳造体の全体に関するフルモデル及び前記鋳造体の一部に関する部分モデルのうち、前記部分モデルに溶湯の流れ解析を実行し、前記フルモデルのうち前記部分モデルを除く部分について前記溶湯の流れ解析と前記溶湯の固相率とに基づく鋳巣の発生解析を実行することを特徴とする鋳巣解析方法。
【符号の説明】
【0058】
A 鋳巣解析装置
M 鋳造体モデル(フルモデル)
M1 溶湯注入モデル(部分モデル)
M2 キャビティモデル(部分モデル)
1 システムバス
2 演算部
3 記憶部
4 表示部
5 通信部
6 操作部
図1
図2
図3
図4