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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125762
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
B01D63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033808
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池永 茂之
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006HA02
4D006HA18
4D006JA02Z
4D006JA10A
4D006JA10C
4D006JA13C
4D006JA25C
4D006JA30A
4D006JA30C
4D006JA30Z
4D006JB04
4D006JB05
4D006JB06
4D006KC24
4D006MA01
4D006MA31
4D006MA33
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PB02
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】中空糸膜の損傷を抑えるようにした中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】保護ネットに挿入された中空糸膜束と、前記保護ネット及び前記中空糸膜束を収納する円筒状ケースと、前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記中空糸膜束の第1の中空糸膜束端部を固定する樹脂封止部と、前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記保護ネットの第1の保護ネット端部を固定する保護ネット固定部と、を備え、前記保護ネット固定部が前記樹脂封止部から離間した位置に設けられている、中空糸膜モジュールとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護ネットに挿入された中空糸膜束と、
前記保護ネット及び前記中空糸膜束を収納する円筒状ケースと、
前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記中空糸膜束の第1の中空糸膜束端部を固定する樹脂封止部と、
前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記保護ネットの第1の保護ネット端部を固定する保護ネット固定部と、を備え、
前記保護ネット固定部が前記樹脂封止部から離間した位置に設けられている、
中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記円筒状ケースは、前記第1の円筒状ケース端部と、その反対側の第2の円筒状ケース端部とを有し、
前記中空糸膜束は、前記第1の中空糸膜束端部と、その反対側の第2の中空糸膜束端部とを有し、
前記保護ネットは、前記第1の保護ネット端部と、その反対側の第2の保護ネット端部とを有し、
前記第2の円筒状ケース端部に、前記第2の中空糸膜束端部を固定する第2の樹脂封止部と、
前記第2の円筒状ケース端部に、前記第2の保護ネット端部を固定する第2の保護ネット固定部と、
前記第1の円筒状ケース端部内に固定された第1のネット固定部材と、
前記第2の円筒状ケース端部内に固定された第2のネット固定部材と、をさらに備え、
前記第2の保護ネット固定部と、前記第2の樹脂封止部とは、離間した位置に設けられており、
前記保護ネットは、前記第1のネット固定部材と前記第2のネット固定部材とに挟まれて固定されている、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中空糸を分離膜とした中空糸膜モジュールは、水処理膜などの産業分野、特に医療用精製水の製造などで用いられており、その需要が増大している。一般的に、中空糸膜モジュールは、流体の出入口を有したケース、キャップ、中空糸膜束等で構成されており、医療用精製水の製造工程で使用されるMF膜やUF膜等の用途で、中空糸膜束を保護するネットが使用されることがある。ケースにはキャップを取り付けるヘッダーが一体化されていることが多い。処理原液は、中空糸膜モジュールにより、透過水(ろ過水)と濃縮水とに分けられるが、これらの液体の流出入構造は、多種多様である。例えば、特許文献1に記載される中空糸膜モジュールは、使用中に中空糸膜が揺れて外表面が削れてしまうことを防ぐために、中空糸膜束の外側にポリプロピレン製の保護ネットが巻かれており、中空糸膜と保護ネットの両端がエポキシ接着剤でケースハウジングと接着された構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-206468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される中空糸膜モジュールは、長期間の使用において保護ネットと接着剤が剥離した場合に、保護ネット近傍の中空糸膜が損傷して、リークが発生する恐れがある。特に、中空糸膜モジュールは、その主な構成要素である中空糸膜表面に細菌等が蓄積することから、定期的な熱水洗浄が必要になる。この場合、熱水洗浄によって、保護ネットが接着剤から剥離することがあり、これに伴い、中空糸膜が損傷する恐れがある。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、中空糸膜の損傷を抑えるようにした中空糸膜モジュールの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は以下の態様を有する。
本開示による中空糸膜モジュールは、保護ネットに挿入された中空糸膜束と、前記保護ネット及び前記中空糸膜束を収納する円筒状ケースと、前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記中空糸膜束の第1の中空糸膜束端部を固定する樹脂封止部と、前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記保護ネットの第1の保護ネット端部を固定する保護ネット固定部と、を備え、前記保護ネット固定部が前記樹脂封止部から離間した位置に設けられている。
また、一態様における中空糸膜モジュールは、上記態様において、前記円筒状ケースは、前記第1の円筒状ケース端部と、その反対側の第2の円筒状ケース端部とを有し、前記中空糸膜束は、前記第1の中空糸膜束端部と、その反対側の第2の中空糸膜束端部とを有し、前記保護ネットは、前記第1の保護ネット端部と、その反対側の第2の保護ネット端部とを有し、前記第2の円筒状ケース端部に、前記第2の中空糸膜束端部を固定する第2の樹脂封止部と、前記第2の円筒状ケース端部に、前記第2の保護ネット端部を固定する第2の保護ネット固定部と、前記第1の円筒状ケース端部内に固定された第1のネット固定部材と、前記第2の円筒状ケース端部内に固定された第2のネット固定部材と、をさらに備え、前記第2の保護ネット固定部と、前記第2の樹脂封止部とは、離間した位置に設けられており、前記保護ネットは、前記第1のネット固定部材と前記第2のネット固定部材とに挟まれて固定されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、中空糸膜の損傷によるリークの発生を抑えるようにした中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示における一実施態様に係る中空糸膜モジュールの端部の内部断面図である。
図2】本開示における一実施態様に係る中空糸膜モジュールの断面図である。
図3】本開示における一実施態様に係るリングの斜視図である。
図4】本開示における一実施態様に係る中空糸膜モジュールの変形例を示す図であって、中空糸膜モジュールの長さ方向に直交する方向の断面図である。
図5】従来の中空糸膜モジュールの端部の内部断面図である。
図6】比較例に係る中空糸膜モジュールの端部の内部断面図である。
図7】比較例に係る中空糸膜モジュールの端部の内部断面図である。
図8】熱履歴耐久試験方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について図面を参照して説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。本明細書において数値範囲を示す「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0010】
[中空糸膜モジュール]
図1及び図2は、この発明の一実施形態として示した中空糸膜モジュール1を示す図である。なお、図1は中空糸膜モジュール1の一方の要部のみを示しており、図2は中空糸膜モジュール1の全体像を示している。図1に示すように、中空糸膜モジュール1は、保護ネット30に挿入された中空糸膜束20と、保護ネット30及び中空糸膜束20を収納する円筒状ケース10と、円筒状ケース10の第1の円筒状ケース端部11に、中空糸膜束20の第1の中空糸膜束端部21を固定する樹脂封止部23と、円筒状ケース10の第1の円筒状ケース端部11に、保護ネット30の第1の保護ネット端部31を固定する保護ネット固定部33と、を備え、保護ネット固定部33が樹脂封止部23から離間した位置に設けられている。
【0011】
円筒状ケース10は、図において左右方向に延びる円筒状パイプ50と、この円筒状パイプ50の端部51に接続されたヘッダー40と、このヘッダー40の端部48に装着されるキャップ80とを備えていてもよい。ヘッダー40は、円筒状の主壁部41と、主壁部41の外方へ突出する液体導出路42とを備えていてもよい。主壁部41の内面には、円筒状パイプ50を嵌合させ、接合させる接合面43と、この接合面43から内方に突出する環状凸部44と、その内方に樹脂封止部23を形成する封止部形成面45とを備えている。環状凸部44の側面(図において右方向に向かう面)には、環状の溝46が形成されていてもよい。液体導出路42の内部は、ヘッダー40及び円筒状パイプ50内部の液体を外部へ導く液体出入口47を構成していてもよい。このヘッダー40の端部48には、キャップ80が嵌着されるようになっていてもよい。
上記の実施形態においては嵌着させた構成としたが、ヘッダー40とキャップ80とは、ネジ山によって液密に接続されてもよく、ヘルールにより液密に接続されてもよく、その際、さらにO-リングを用いてもよい。
【0012】
ヘッダー40の接合面43には、円筒状パイプ50の端部51が嵌合されている。ヘッダー40の内部には、図1から図3に示すリング60が配置することができる。このリング60の端部61(図1において左方向の端部)には、環状溝62が形成されており、この環状溝62の径方向の外方の壁部は環状突起64を形成している。リング60には、内部から外部に向かって貫通する複数の貫通孔65が設けられていいてもよい。このリング60の環状突起64は、ヘッダー40の溝46内に嵌合されており、環状溝62内には第1の保護ネット端部31が嵌合されている。この環状溝62内に第1の保護ネット端部31を嵌合した構成は、保護ネット固定部33を構成している。また、リング60は、その貫通孔65が、液体出入口47に対向する位置に配置されている。
中空糸膜束20は、その第1の中空糸膜束端部21が第1の保護ネット端部31から外方(図1において右方向)へと突出しており、ヘッダー40の端部終端49まで延びている。リング60の他方の端部66もヘッダー40の端部48内方まで延びている。ヘッダー40の封止部形成面45の内部には、リング60の他方の端部66及び第1の中空糸膜束端部21を埋設した状態で樹脂封止部23が形成されている。この構成の下に、中空糸膜束20及びリング60は、樹脂封止部23を介してヘッダー40に固定されている。
図1に示すように、円筒状ケース10は、左方向へ延びる筒状の部材であり、その内部に配置された上記各部材も左方向へ延在するように配置されている。そして、図2に示すように、左方向へ延在する円筒状ケース10の左側端部には、上述したリング60及び樹脂封止部23などを備えた図1に示す構造と対称の構造を持つ構成が備えられている。したがって、中空糸膜モジュール1も全体として一方向に延びる長尺の製品である。
【0013】
上記の構成からなる中空糸膜モジュール1の作用について説明する。中空糸膜モジュール1は、ろ過により液体中の不純物を取り除くために使用できる。例えば、医療用精製水の製造等を目的に使用される。
中空糸膜モジュール1のキャップ80の端部から、一定の圧力を加えた原水を原水流入口81から円筒状ケース10の内部に供給し、中空糸膜25内に供給する。中空糸膜25内に供給された原水は、中空糸膜25の第2の中空糸膜端部から第1の中空糸膜端部26へ流動する一方、中空糸膜25の内部から外部へ透過して液体出入口47方向へ流動する。液体出入口47方向へ流動する液体は、原水が中空糸膜25を透過することによりろ過され、不純物が除去された状態となる。他方、中空糸膜25内を他方の端部まで流動する液体は、上記のろ過作用によって濃縮され、濃縮液となって濃縮水出口82から外部へ導出される。このようにして、原水のろ過がなされる。
【0014】
この中空糸膜モジュールは、保護ネット固定部33を、樹脂封止部23から離間した位置に設けたことにより、中空糸膜モジュール1の樹脂封止部23への固定状態が保護ネット固定部33の体積膨張収縮変動の影響を受けることがなく、したがって、保護ネット固定部33に関わりなく、中空糸膜束20の固定を永続的に維持することができ、中空糸膜25の損傷を防止して、中空糸膜25からのリークを有効適切に防止することができる。
特に、中空糸膜モジュール1は、使用により雑菌が蓄積し、漸次増加する危惧があることから、医療用途においては定期的に熱水で殺菌処理を行う必要がある。通常、このような殺菌処理を行うと、樹脂封止部23が、熱水により体積膨張し、室温まで温度が下がる際には、体積収縮する。体積膨張収縮を繰り返すことにより、樹脂封止部23内部で体積膨張収縮率がある程度異なる材料が接着固定されていると剥離を生じることがある。従来の中空糸膜モジュールでは、保護ネットが接着剤から剥離して、中空糸膜が損傷し、リークが発生する問題が生じたが、本実施形態による中空糸膜モジュール1においては、保護ネット固定部33を樹脂封止部23から離間させたので、保護ネット固定部33の存在に関わらず、中空糸膜25の損傷を防止して、リークの発生を防止することができる。
【0015】
(円筒状ケース)
円筒状ケース10の構成としては、医療・バイオ、食品、エネルギー、機械・化学等の産業分野で用いられている公知の中空糸膜モジュールのケースの構成を用いることができる。円筒状ケース10の大きさ(内容量の大きさ)は、その内に収容する中空糸膜の合計本数などに応じて決めることができる。円筒状ケース10の幅方向の断面形状は円形であるが、多角形(好ましくは円形に近い多角形)などにすることもできる。また、円筒状ケース10の材質としては、特に制限はないが、例えば、ポリサルホン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、セルロース誘導体樹脂などの樹脂や、セラミック、金属類、樹脂ファイバー、カーボンファイバー、グラスファイバーなどの複合樹脂でもよい。
液体出入口47の内径は、例えば、10~60mmであって、20~40mmであることが好ましい。
【0016】
(中空糸膜束)
中空糸膜束20は、数百~数千本の中空糸膜25が束ねられたものである。中空糸膜束20における各中空糸膜25は、同一の性質を有する中空糸膜25でもよく、異なる性質を有する中空糸膜25でもよいが、同一の性質を有する中空糸膜25であることが好ましい。
中空糸膜束20に含まれる中空糸膜25の本数は、本開示の効果を奏する限り特に制限されないが、100本以上10000本以下、好ましくは500本以上8000本以下、さらに好ましくは1000本以上7000本以下である。
【0017】
・中空糸膜
本実施形態における中空糸膜25の長さは、好ましくは15~200cmであり、より好ましくは20~150cmであり、さらに好ましくは25~120cmである。なお、樹脂封止部23の長さも含めた中空糸膜25全体の長さは3箇所程度を測定し、その平均値を「中空糸膜の長さ」とする。
中空糸膜25の平均内径は、400~1,200μmである。なお、本開示における「中空糸膜の平均内径」は、1本の中空糸膜を長手方向に対して垂直な任意の面で切断し、その切断面の中空部と内接する最小の円の直径より算出した値である。本開示では、上記の切断面における任意の10箇所以上100箇所以下の前記直径を測定し、その平均値を「平均内径」とする。
一実施形態において、中空糸膜25の平均外径は、700~2,000μmであることが好ましい。なお、「中空糸膜の平均外径」は、前述の中空糸膜25の平均内径と同じ方法で切断した中空糸膜25において、その切断面の外縁を内包する最小の円の直径より算出した値である。本開示では、上記の切断面における任意の10箇所以上100箇所以下の前記直径を測定し、その平均値を「平均外径」とする。
一実施形態において、中空糸膜25の膜厚は、150~400μmであることが好ましい。
中空糸膜の分画分子量は、好ましくは5~500kDa、より好ましくは6~150kDa、さらに好ましくは6~100kDaである。
【0018】
また、中空糸膜25の材質は、本開示の効果を阻害するものでなければ特に制限されないが、例えば、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリアクリトニトリル、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0019】
(保護ネット)
本開示に使用する保護ネット30は、中空糸膜束20を保護するためのネット状のシートから形成された筒状の部材であり、好ましくは円筒状である。また、保護ネット30は、原水あるいは透過水等の液体に対する透過性を有することが必要であり、その透過性は使用する中空糸膜束20のろ過に影響を与えない程度であることが好ましい。中空糸膜束20が保護ネット30と共に円筒状ケース10内に収納された後、原水または透過水が円筒状ケース10内を自由に移動することができるからである。従って、例えば、ネット状のものの他、表面に細孔を有する多孔体などを使用することができる。保護ネットの切断形状は円形であることが好ましく、その直径は一定であることが好ましい。保護ネット30の平均内径は、保護ネット固定部33に合わせて適宜選択することができる。また、材質についてはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素含有樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ステンレス等の金属、セラミックス等が例示できる。一般的にはポリオレフィン系樹脂が安価で加工性もよく、厚さが0.5~3mm程度のネット状のものが保護ネット30としての適度な強度を有するので好ましい。保護ネット30は、一重で用いてもよいが、二重や三重で用いてもよい。
【0020】
(樹脂封止部)
樹脂封止部23の中空糸膜束20の長さ方向の長さは、5~50mmが好ましく、10~40mmがより好ましく、20~30mmがさらに好ましい。つまり、樹脂封止部23は、両側に設けられる場合には、10~100mmが好ましく、20~80mmがより好ましく、40~60mmがさらに好ましい。
樹脂封止剤としては、本実施形態による中空糸膜モジュール1において、保護ネット固定部33を樹脂封止部23から離間させたため、保護ネット30の体積膨張収縮率や保護ネット30との密着(接着)性を考慮する必要がなく、他の観点を含めた上で適宜のものが使用できる。
特に、医療用精製水の製造で使用される場合においては、円筒状ケース10の体積膨張収縮率との差が少なく、円筒状ケース10との密着(接着)性の高い樹脂封止剤の適用が好ましい。
さらには、耐熱性の高い封止剤が好ましく、薬事法やGMP管理面などにおいて特なる制約等を受けない医療用中空糸膜モジュール用の樹脂封止剤であることも好ましい。
特に円筒状ケース10がポリサルホン樹脂等である場合、ポリサルホン樹脂の体積膨張収縮率との差が小さく、ポリサルホン樹脂との密着(接着)性の高いものが好ましく、例えばエポキシ樹脂、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂と芳香族ジアミンとを含むエポキシ系封止剤が挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、2,4-ジアミノトルエン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、テトラクロロ-p-キシリレンジアミンなどの単環式芳香族ジアミン;ジアミノジフェニルメタン類;ジアミノジフェニルスルホン類;4,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。前記芳香族アミンは、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどの直鎖アミンやポリアミンと併用してもよい。
【0021】
(リング)
リング60の大きさは、リング60を配置する円筒状ケース10の大きさや、収容する中空糸膜25の合計本数などに応じて決めることができる。また、リング60は、原水あるいは透過水等の液体に対する透過性を有することが必要であり、使用する中空糸膜束20のろ過に影響を与えない程度に多くの孔が設けられた多孔リングであってもよい。リング60の材質は、樹脂封止剤の体積膨張収縮率との差が少なく、樹脂封止剤との密着(接着)性の高いものが好ましく、円筒状ケース10と同じ材質とすることもできる。
例えば、ポリサルホン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、セルロース誘導体樹脂などの樹脂や、セラミック、金属類、樹脂ファイバー、カーボンファイバー、グラスファイバーなどの複合樹脂を用いることができる。
【0022】
(キャップ)
円筒状ケース10の両端には、キャップ80を取り付けることができ、一方には原水流入口81が設けられており、他方には濃縮水出口82を設けることができる。キャップ80の材質は、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂や金属を用いることができる。
【0023】
(中空糸膜モジュールの製造方法)
中空糸膜モジュール1を製造する方法は特に限定されないが、例えば、次の方法が挙げられる。まず、中空糸膜25を必要本数束ねた後、保護ネット30に挿入する。さらに、中空糸膜束20及び保護ネット30を円筒状ケース10に収納すると共に保護ネット固定部33を形成する。その後、円筒状ケース10の両端に仮のキャップをし、中空糸膜束20の両端部にポッティング剤などの固化する封止剤を入れて樹脂封止部23を形成する。このとき、封止剤を均一に充填するため、遠心機で円筒状ケース10を回転させながら封止剤を入れることができる。封止剤が固化した後、中空糸膜束20の両端が開口するように両端部を切断し、キャップ80を取り付けることで中空糸膜モジュール1が得られる。
また、別の製造方法としては、次の方法が挙げられる。中空糸膜25を必要本数束ねた後、保護ネット30に挿入する。次いで、中空糸膜束20及び保護ネット30を円筒状ケース10に収納する。円筒状ケース10の両端に仮のキャップをし、それぞれの仮キャップに設けられた孔からネット固定部材70を挿入して保護ネット30を挟み込むことで固定する。中空糸膜束20の両端部にポッティング剤などの固化する封止剤を入れて樹脂封止部23を形成する。封止剤が固化した後、中空糸膜束20の両端が開口するように両端部を切断し、キャップ80を取り付けることで中空糸膜モジュール1が得られる。
上記製造方法で用いられる仮キャップの材質としては、シリコーン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の樹脂、ステンレス、アルミニウム等の金属が挙げられる。
【0024】
この開示による中空糸膜モジュール1の構成は、上記の実施の形態の構成に限られることなく、下記のように各種変形した構成も含まれる。
上記の実施の形態においては、保護ネット固定部33を、リング60を備えた構成として説明したが、他の構成としてもよい。
例えば、リング60に替えて、リング60とは異なる形状を有するネット固定部材70を備えた構成であってもよい。ネット固定部材70としては、図4に示すように、複数の固定用支柱71を含むものが挙げられる。固定用支柱71の形状としては、円柱、多角柱等が挙げられ、その数も特に制限されない。固定用支柱71には、螺旋状の溝や、略等間隔に配置された凹凸部や不定形の突起構造部を含む棒状物であってもよい。ネット固定部材70の材質としては、樹脂封止部で用いられる封止剤の体積膨張収縮率との差が小さいものや、保護ネット30との接着性が良好なものが好ましい。この場合、リング60と同様に、ネット固定部材70の一部は封止剤に埋没した状態となる。このとき、少なくともネット固定部材70の樹脂封止部23に埋没する箇所に、封止剤との接着性をさらに高めるための種々の加工をすることができる。加工の一例としては、溝加工、サンドペーパー加工、プラズマ処理等の表面の粗面化をすることや、釣り針の返しを設けること等が挙げられる。
また、保護ネット30を円筒状ケース10に直接固定してもよい。固定する箇所は円筒状ケース10の内側であれば特に限定されないが、例えば、第1の保護ネット端部31を第1の円筒状ケース端部11の内側に接着した構成としてもよい。このとき、保護ネット固定部33は、樹脂封止部23に埋没しない位置に設けられる。接着には接着剤が用いられてもよく、用いる接着剤としては、二液硬化反応型接着剤、ホットメルト型接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線・電子線等の光硬化型接着剤、水分硬化型接着剤等が挙げられる。市販されている接着剤材料における具体例としては、尿素樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤、レソルシノール樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリウレタン接着剤、ビニルウレタン接着剤、シリコーン系接着剤、アクリル系接着剤等を挙げることができる。
接着剤を用いた接着以外の固定方法としては、溶融接着固定、溶融埋込み固定、木工継手を用いた固定、留め具を用いた固定が挙げられる。
溶融接着とは、固定される2つの部材の少なくとも一方を熱等により溶融させ、2つの部材を固着する固定方法である。
溶融埋込みとは、固定される2つの部材の少なくとも一方を熱等により溶融させ、一方をもう一方へ埋込み、固着する固定方法である。その際、埋め込む側の部材に、釣り針の返しのような突起部を設けてもよい。
木工継手を用いた固定方法とは、接着剤や留め具等を用いず、部材の接合部分を凹凸に加工して接合する方法である。
留め具を用いた固定方法とは、フック、ボタン(スナップボタンを含む)、コハゼ、鋲、ビス、鎹等の留め具を用いて固定する方法である。留め具の材質や数は適宜選択することができる。スナップボタンを用いる場合は、その材料の可塑性、弾性回復性を利用することができる。例えば、弾性回復性が高い材料の場合は、狭い孔部を外力で貫いた後は、弾性回復性により孔部の内側では貫通部が広がることで、抜けないような貫通側と孔側での空間構造を設計することができる。一方、塑性変形を利用して、嵌め込み挿入後は抜けないような設計を施すこともできる。さらには、形状記憶性材料を用いることで、嵌め込み挿入後は抜けないような設計を施すこともできる。
【実施例0025】
以下に実施例を示して本開示を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本開示の解釈が限定されるものではない。
【0026】
[中空糸膜モジュールの製造]
(実施例1)
円筒状の保護ネット30(タキロンシーアイ社PP製トリカルパイプ;外径79mm、内径76mm、全長985mm、孔径約3.5mm角)に、ポリエーテルサルホン製中空糸膜25(「FUS0353」内径0.5mm、外径0.8mm、ダイセン・メンブレン・システムズ社製)5200本を収納した。次いで、両端部の液体出入口47付ポリサルフォン製円筒形ヘッダー40内において、中空糸膜束20を収納した保護ネット30を、環状溝62を有するポリサルフォン製の多孔リング60の溝62部分で挟み込むように多孔リング60を設置した。次いで、中空糸膜束20の両端部を封止剤(エポキシ接着剤、JER828『三菱ケミカル社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂』;JER ST-12『三菱ケミカル社製変性脂肪族ポリアミン』、芳香族アミン)で遠心接着封止した。遠心接着工程では、シリコン樹脂製の仮キャップを使用した。仮キャップを外し、硬化後両端の余分の封止剤を切断して両端の中空糸膜束20を開口した。このとき、樹脂封止部の厚みは30mmで、多孔リング60の一部は封止剤に埋没した状態である。原水流入口81又は濃縮水出口82付のポリサルフォン製キャップ80内にO-リングを設置し、両端部のヘッダー40に装着した。最後に、ヘッダー40間に、外径89mm、内径82mm、全長1066mmのポリサルフォン製円筒状パイプ50を装着した。完成した中空糸膜モジュール1の有効膜面積は、7.8mとなった。この中空糸膜モジュール1を図8と同様な装置に接続し、熱履歴耐久性評価を行った。
【0027】
(比較例1)
図5に示すように、ポリサルフォン製多孔リングを設置せずに、保護ネット(タキロンシーアイ社PP製トリカルパイプ;外径79mm、内径76mm、全長1,046mm、孔径約3.5mm角)及び中空糸膜束を設置した以外は、実施例1と全く同様にして中空糸膜モジュールを作製し、熱履歴耐久性評価を行った。このとき、保護ネットの端部は封止剤に埋没した状態である。
【0028】
(比較例2)
図6に示すように、保護ネットの固定部を中空糸膜の固定部から離間させるために、保護ネットの両端4.5cmから約3°の勾配を付け、保護ネットの端部の内径を漸次外方へ向け拡径するように構成した以外は、比較例1と全く同様にして中空糸膜モジュールを作製し、熱履歴耐久性評価を行った。このとき、保護ネットの端部は封止剤に埋没した状態である。
【0029】
(比較例3)
図7に示すように、保護ネットの固定部を中空糸膜の固定部から離間させるために、保護ネットと中空糸膜束との間にエポキシリング67を挿入した以外は、比較例2と全く同様にして中空糸膜モジュールを作製し、熱履歴耐久性評価を行った。このとき、保護ネットの端部及びエポキシリング67は封止剤に埋没した状態である。
【0030】
[評価方法]
(熱履歴耐久性評価試験)
図8に示すように、作製した中空糸膜モジュールを、原水流入口81を鉛直下方に向けて縦置きして、熱水タンク90から熱水ポンプ91を用いて原水流入口81に98℃の熱水を透過流速約5m/m/day(1日の内、膜面積1m当たり5mの熱水容量)で注入した。注入した98℃の熱水は、図において上側のヘッダー40の液体出入口47からの排出量とキャップ80の濃縮水出口82からの排出量をそれぞれ1/2ずつに調整し、運転を15分続けた。運転終了後、熱水を抜き出し、続いて冷水タンク92から冷水ポンプ93を用いて原水流入口81に15℃の冷水を注入した。注入した15℃の冷水は、ヘッダー40の液体出入口47からの排出量とキャップ80の濃縮水出口82からの排出量をそれぞれ1/2ずつに調整し、運転を15分続けた。上述の熱水および冷水を用いた運転を1サイクルとして運転を実施した。なお、図において下側のヘッダー40の液体出入口47は、ヘルールを用いて閉止している。中空糸膜25のリーク発生の有無を確認し、中空糸膜25のリークが発生した際のサイクル数及びリークが発生した中空糸膜の本数を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0031】
表1に示すように、実施例1の中空糸膜モジュールは、サイクルを200回以上繰り返しても中空糸膜リークは発生しなかった。一方、比較例1~3の中空糸膜モジュールでは、100~160回程度のサイクル数で中空糸膜リークが発生した。
特に、比較例1では、保護ネットの一部が封止剤から剥離することで、封止剤に亀裂が生じ、亀裂近傍の中空糸膜にも亀裂が生じることでリークが発生したように見受けられた。比較例2では、全体的に保護ネットと中空糸膜とに間隔が生まれたものの、部分的には保護ネットと中空糸膜との間隔が狭まり、比較例1と同様に、保護ネットの一部が封止剤から剥離することで、リークが発生したように見受けられた。比較例3では、エポキシリング67の一部が封止剤から剥離することで、封止剤に亀裂が生じ、亀裂近傍の中空糸膜にも亀裂が生じることでリークが発生したように見受けられた。
【0032】
以下、この発明の実施の態様について記載すると、以下の通りである。
この発明の基本的な態様は、保護ネットに挿入された中空糸膜束と、保護ネット及び中空糸膜束を収納する円筒状ケースと、前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記中空糸膜束の第1の中空糸膜束端部を固定する樹脂封止部と、前記円筒状ケースの第1の円筒状ケース端部に、前記保護ネットの前記第1の保護ネット端部を固定する保護ネット固定部と、を備え、前記保護ネット固定部が前記樹脂封止部から離間した位置に設けられている、中空糸膜モジュールである。
また、一態様は、上記の基本的な態様において、前記中空糸膜束をその内部空間に挿通させて前記第1の円筒状ケース端部内に固定されたリングを備え、前記第1の保護ネット端部を前記リングに固定した、上記の中空糸膜モジュールである。このとき、前記リングの前記保護ネットを固定した部分が前記保護ネット固定部を構成している。
また、一態様は、上記の基本的な態様において、前記保護ネット固定部は、前記第1の保護ネット端部を前記第1の円筒状ケース端部に接着した構成である。
また、一態様は、上記の基本的な態様において、前記保護ネット固定部は、前記第1の円筒状ケース端部に設けられた係合部に、前記第1の保護ネット端部を係合させた構成である。
【符号の説明】
【0033】
1 中空糸膜モジュール
10 円筒状ケース
11 第1の円筒状ケース端部
20 中空糸膜束
21 第1の中空糸膜束端部
23 (第1の)樹脂封止部
24 第2の樹脂封止部
25 中空糸膜
26 第1の中空糸膜端部
30 保護ネット
31 第1の保護ネット端部
33 (第1の)保護ネット固定部
40 ヘッダー
41 主壁部
42 液体導出路
43 接合面
44 環状凸部
45 封止部形成面
46 環状の溝
47 液体出入口
48 端部
49 端部終端
50 円筒状パイプ
51 端部
60 リング
61 端部
62 環状溝
64 環状突起
65 貫通孔
66 他方の端部
67 エポキシリング
70 ネット固定部材
71 固定用支柱
80 キャップ
81 原水流入口
82 濃縮水出口
90 熱水タンク
91 熱水ポンプ
92 冷水タンク
93 冷水ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8