(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125769
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20240911BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K1/16 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033819
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】角田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅志
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601AA26
5H601CC01
5H601EE03
5H601EE19
5H601EE35
5H601EE39
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GC05
5H601GC12
5H601GC22
5H601JJ08
5H601KK08
(57)【要約】
【課題】トルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる安価なステータを提供する。
【解決手段】ステータ10は、周方向に並ぶ複数のティース110を有するステータコア11と、ティース110に巻回される励磁用のコイル12と、を備える。ステータコア11は、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117とを積層して形成される。第1電磁鋼板116は、周方向で隣り合う2つのティース110同士を連結する磁性楔13を有する。磁性楔13は、ステータコア11に対して回転自在に設けられるロータとコイル12との間に配置される。第2電磁鋼板117は、周方向で隣り合う2つのティース110の間のロータ側が開口されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並ぶ複数のティースを有するステータコアと、
前記ティースに巻回される励磁用のコイルと、
を備え、
前記ステータコアは、第1鋼板と第2鋼板とを積層して形成され、
前記第1鋼板は、周方向で隣り合う2つの前記ティース同士を連結する磁性楔を有し、
前記磁性楔は、前記ステータコアに対して回転自在に設けられるロータと前記コイルとの間に配置され、
前記第2鋼板は、周方向で隣り合う2つの前記ティースの間の前記ロータ側が開口されている、
ことを特徴とするステータ。
【請求項2】
前記磁性楔は、前記ロータ側に設けられた凸部を有し、
前記凸部は、
前記ロータと径方向で対向する対向面と、
前記対向面の周方向両側から前記ロータから離間する方向に延びる側面と、
を有し、
前記側面は前記ティースから離間している、
ことを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記第1鋼板に前記磁性楔が一体成形されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項4】
前記第1鋼板と前記第2鋼板とが交互に積層されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機として、例えば同期電動機(以下、電動モータという)は、励磁用のコイルが巻回されたステータと、ステータに対して回転自在に設けられたロータと、を備える。ステータは、周方向に並ぶ複数のティースを有する。周方向で隣り合うティースの間に、スロットが形成される。このスロットにコイルを挿通し、各ティースにコイルを巻回する。コイルに通電を行うと各ティースに所定の鎖交磁束が形成される。この鎖交磁束と例えばロータに設けられるマグネットとの間で磁気的な吸引力や反発力が生じ、ロータが継続的に回転される。
【0003】
ここで、電動モータのスロットに起因するトルクリップルを低減するために、周方向に並ぶティース同士を連結する磁性楔を設ける技術が知られている。磁性楔は、コイルとロータとの間に配置される。
ところで、磁性楔の影響により、トルクが低下したり、ステータの鉄損が増大したりする場合があった。このため、磁性楔のロータと対向する側の凸部を形成し、凸部の形状を所定の形状とすることでトルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルの低減も図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、凸部の形状を変更するとなると磁性楔を形成するための工具を変更する必要がある。このため、トルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる最適な凸部の形状を導き出すために、加工コストがかかるという課題があった。
【0006】
そこで、この発明は、トルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる安価なステータを提供する。延いてはエネルギーの効率化に寄与できるステータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明に係るステータ(例えば、実施形態のステータ10)は、周方向に並ぶ複数のティース(例えば、実施形態のティース110、第1ティース鋼板116T、第2ティース鋼板117T)を有するステータコア(例えば、実施形態のステータコア11)と、前記ティースに巻回される励磁用のコイル(例えば、実施形態のコイル12)と、を備え、前記ステータコアは、第1鋼板(例えば、実施形態の第1電磁鋼板116)と第2鋼板(例えば、実施形態の第2電磁鋼板117)とを積層して形成され、前記第1鋼板は、周方向で隣り合う2つの前記ティース同士を連結する磁性楔(例えば、実施形態の磁性楔13)を有し、前記磁性楔は、前記ステータコアに対して回転自在に設けられるロータ(例えば、実施形態のロータ20)と前記コイルとの間に配置され、前記第2鋼板は、周方向で隣り合う2つの前記ティースの間の前記ロータ側が開口されている。
【0008】
このように構成することで、磁性楔の形状を変更することなく、第1鋼板と第2鋼板とを積層する際、それぞれの割合を調整するだけで磁性楔の占積率を調整できる。占積率を調整することで、トルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減するために磁性楔を容易に最適化できる。このため、ステータの加工コストを低減できる。延いては安価にエネルギーの効率化に寄与できる。
【0009】
(2)上記構成において、前記磁性楔は、前記ロータ側に設けられた凸部(例えば、実施形態の凸部131)を有し、前記凸部は、前記ロータと径方向で対向する対向面(例えば、実施形態の対向面13A)と、前記対向面の周方向両側から前記ロータから離間する方向に延びる側面(例えば、実施形態の側面13B)と、を有し、前記側面は前記ティースから離間していてもよい。
【0010】
このように構成することで、磁性楔及びティースにおけるロータ側端部の磁束密度の周方向での分布変化をなだらかにできる。このため、確実にトルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる。
【0011】
(3)上記構成において、前記第1鋼板に前記磁性楔が一体成形されていてもよい。
【0012】
このように構成することで、第1鋼板と磁性楔とを別体で形成する場合と比較してステータの加工コストを低減できる。
【0013】
(4)上記構成において、前記第1鋼板と前記第2鋼板とが交互に積層されていてもよい。
【0014】
このように構成することで、ステータコアを形成しやすくでき、ステータの加工コストをさらに低減できる。また、ステータコアの軸方向(各鋼板の積層方向)において、磁性楔の密度分布が一定になるので、確実にトルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トルクの低下やステータの鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる安価なステータを提供できる。延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態における電動モータの一部を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるステータを内周面側からみた斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態における第1電磁鋼板の一部を軸方向からみた平面図である。
【
図5】本発明の実施形態における第2電磁鋼板の一部を軸方向からみた平面図である。
【
図6】本発明の実施形態における軸方向からみたステータの一部拡大図であり、(a)から(c)は、凸部の幅とコイルの幅とを変化させて示している。
【
図7】本発明の実施形態における電動モータのトルクの変化を示すグラフであり、条件(1)~(3)を比較している。
【
図8】本発明の実施形態における電動モータのトルクリップルの変化を示すグラフであり、条件(1)~(3)を比較している。
【
図9】本発明の実施形態におけるステータの鉄損の変化を示すグラフであり、条件(1)~(3)を比較している。
【
図10】本発明の実施形態における条件(1)~(3)の鉄損分布と磁束密度分布の解析結果を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態における磁性楔に溝が形成されている場合と、磁性楔に溝が形成されていない場合と、でステータの鉄損密度を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
<電動モータ>
図1は、本発明の実施形態に係るステータ10を備えた電動モータ1の一部を示す断面図である。
図1に示すように、電動モータ1は、円筒状のステータ10と、ステータ10の径方向中心に配置され、ステータ10に対して回転自在に支持されたロータ20と、を備える。電動モータ1は、例えば、同期電動機である。本実施形態では、ロータ20は8極で構成されている。
図1に示す断面は、径方向に沿う断面である。
図1では、ロータ20の1極分、つまり、1/8周の周角度領域分のみを示している。
以下の説明では、ロータ20の回転軸線Pと平行な方向を単に軸方向と称する。ロータ20の回転方向を周方向と称する。軸方向及び周方向に直交するロータ20の径方向を単に径方向と称する。
【0019】
<ステータ>
図2は、
図1のII部拡大図である。
図3は、ステータ10を内周面側からみた斜視図である。
図1から
図3に示すように、複数のティース110を有するステータコア11と、各ティース110に巻回される励磁用のコイル12と、を備える。
【0020】
<ステータコア>
ステータコア11は、円筒状のバックヨーク11Bを有している。バックヨーク11Bの内周面から複数のティース110が径方向内側に突出されている。
複数のティース110は、周方向に等間隔に並んで配置されている。ティース110における径方向に沿う断面形状は、径方向に長い長方形状である。ティース110は、軸方向に沿って一様に形成されている。
【0021】
周方向で隣り合うティース110の間には、スロット11Sが形成される。本実施形態では、ティース110及びスロット11Sは、例えばそれぞれ48個形成されている。各スロット11Sにコイル12が挿通され、対応するティース110にそれぞれコイル12が巻回される。
ここで、ステータコア11は、2種類の電磁鋼板116,117(第1電磁鋼板116、第2電磁鋼板117)を軸方向に交互に積層して形成されている。2種類の電磁鋼板116,117は、母材となる図示しない電磁鋼板にプレス加工を施して形成される。
【0022】
<第1電磁鋼板>
図4は、第1電磁鋼板116の一部を軸方向からみた平面図である。
図4に示すように、2種類の電磁鋼板116,117のうちの第1電磁鋼板116は、バックヨーク11Bを構成する第1バックヨーク鋼板116Bと、ティース110を構成する第1ティース鋼板116Tと、第1ティース鋼板116Tに設けられた磁性楔13と、が一体成形されたものである。
【0023】
第1バックヨーク鋼板116Bは、軸方向からみて円環状に形成されている。第1ティース鋼板116Tは、第1バックヨーク鋼板116Bの内周縁から径方向内側に突出している。第1ティース鋼板116Tは、軸方向からみて径方向に長い長方形状に形成されている。周方向で隣り合う2つの第1ティース鋼板116Tの間には、スロット11Sが形成される。
【0024】
<磁性楔>
図2から
図4に詳細示するように、磁性楔13は、第1ティース鋼板116Tにおける径方向内側の端部において、周方向で隣り合う2つの第1ティース鋼板116T同士を連結するように形成されている。磁性楔13は、スロット11Sの径方向内側を塞いでいる。磁性楔13は、第1ティース鋼板116Tに一体成形されている。磁性楔13は、母材となる電磁鋼板から第1電磁鋼板116を打ち抜く際に同時に形成される。
【0025】
磁性楔13は、径方向内側に凸となるように、軸方向からみてハット形状に形成されている。具体的には、磁性楔13における径方向外側の外面13Dには、径方向の内側に凹む凹部134が形成されている。凹部134は、磁性楔13の周方向における中央の大部分に形成されている。磁性楔13は、ロータ20側(径方向内側)に設けられた凸部131を有する。
凸部131は、ロータ20と径方向で対向する対向面13Aと、対向面13Aにおける周方向の両側からロータ20から離間する方向に延びる側面13Bと、を有する。
【0026】
対向面13Aは、ステータ10の内周面113(ティース110における径方向内側の端面)に沿う延長面M上に位置している。以下、対向面13Aにおける周方向の幅を凸部131の幅と称する。
側面13Bは、ティース110における周方向の側面111から離間して配置されている。換言すれば、凸部131は、ティース110の側面111との間に空隙を介して配置されている。さらに、換言すれば、磁性楔13の周方向両側には、対向面13A側から径方向外側に凹む溝135が形成される。
【0027】
<第2電磁鋼板>
図5は、第2電磁鋼板117の一部を軸方向からみた平面図である。
図5に示すように、第2電磁鋼板117と第1電磁鋼板116との相違点は、第1電磁鋼板116は磁性楔13を備えているのに対し、第2電磁鋼板117は磁性楔13を備えていない点にある。具体的には、第2電磁鋼板117は、バックヨーク11Bを構成する第2バックヨーク鋼板117Bと、ティース110を構成する第2ティース鋼板117Tと、が一体成形されたものである。
【0028】
第2バックヨーク鋼板117Bは、軸方向からみて円環状に形成されている。第2バックヨーク鋼板117Bは、第1バックヨーク鋼板116Bと同一形状である。第2ティース鋼板117Tは、第2バックヨーク鋼板117Bの内周縁から径方向内側に突出している。第2ティース鋼板117Tは、軸方向からみて径方向に長い長方形状に形成されている。第2ティース鋼板117Tは、第1ティース鋼板116Tと同一形状である。周方向で隣り合う2つの第2ティース鋼板117Tの間には、スロット11Sが形成される。スロット11Sは、径方向内側(ロータ20側)が開口されている。
【0029】
このように構成された2つの電磁鋼板116,117を軸方向に交互に積層しているので、ステータコア11の全体として、磁性楔13の占積率は50%程度になる。
磁性楔13の占積率とは、ステータコア11の全体のうち、磁性楔13が配置される箇所での磁性楔13の割合をいう。すなわち、軸方向全体に渡って磁性楔13が配置されている場合、つまり、ステータコア11を、全て磁性楔13を備える第1電磁鋼板116を積層して形成した場合、磁性楔13の占積率は100%となる。これに対し、ステータコア11を、全て磁性楔13を備えない第2電磁鋼板117を積層して形成した場合、磁性楔13の占積率は0%となる。このように、磁性楔13の占積率は、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117との割合を調整することで可能である。
【0030】
このような磁性楔13は、各スロット11Sからのコイル12の脱落を防止したり、電動モータ1のトルク性能の低下を抑えつつ、ステータ10の鉄損を低減するとともに、トルクリップルを抑制したりする。磁性楔13の作用、効果の詳細については後述する。
【0031】
<コイル>
スロット11Sに挿通されるコイル12は、磁性楔13よりも径方向外側に位置する。すなわち、磁性楔13は、第1ティース鋼板116Tにおける径方向内側の端部で、かつロータ20とコイル12との間に配置される。磁性楔13とコイル12とは、空隙を介して離間されている。これにより、磁性楔13とコイル12との間の絶縁性が高まる。
【0032】
コイル12は、例えば、銅製の平角線である。コイル12が平角線である場合、コイル12は、平角線の断面における短辺を径方向に沿わせる。また、コイル12は、長辺を周方向に沿わせる。この状態で、スロット11Sの中にコイル12が径方向に重ねて束ねられている。以下、コイル12の長辺の幅(周方向の幅)を、単位コイル12の幅と称する。
コイル12とティース110の側面111との間には、絶縁シートが介在されている。これにより、コイル12とティース110との絶縁が確保されている。また、スロット11Sには、ワニス等の絶縁材が充填されている。
【0033】
<電動モータの動作及び磁性楔の作用>
次に、電動モータ1の動作及び磁性楔13の作用について説明する。
所定のコイル12に通電を行うと、対応するティース110に鎖交磁束が形成される。この鎖交磁束とロータ20との間で磁気的な吸引力や反発力が生じ、ロータ20が継続的に回転される。
【0034】
ここで、スロット11Sの径方向内側が開口されている場合、ティース110とスロット11Sとの間で急激な鎖交磁束密度の変化が生じる。これに起因してトルクリップルが増大してしまう。
これに対し、スロット11Sの径方向内側を塞ぐように磁性楔13を設けると、ティース110とスロット11Sとの間での急激な鎖交磁束密度の変化を抑制できるので、トルクリップルを抑制できる。
【0035】
但し、単純に磁性楔13を設けただけでは、磁性楔13を通る鎖交磁束が単なる漏れ磁束となるとともに、ロータ20からの磁束がステータコア11に通りやすくなってしまう。このため、ステータ10の鉄損が増大したり、トルクリップルを抑制できなかったりする。これに加え、電動モータ1のトルク性能も低下してしまう。そこで、本実施形態では、磁性楔13の形状や磁性楔13の占積率を調整している。これにより、電動モータ1のトルク性能の低下を抑えつつ、ステータ10の鉄損を低減するとともに、トルクリップルを抑制している。
【0036】
より具体的には、磁性楔13の凸部131の側面13Bとティース110とが離間されているので、ステータ10の内周面113に鎖交磁束が集中しないようにできる。このため、ステータ10の内周面113近傍から磁性楔13における径方向内側の端面近傍に至る間に生じる鎖交磁束密度の変化をなだらかにできる。また、磁性楔13の凸部131の側面13Bとティース110とが離間されている。このため、ステータ10の内周面113近傍から磁性楔13の対向面13A近傍への鎖交磁束の流れを抑制できる。磁性楔13に無駄に鎖交磁束が漏れ出てしまうことがない。この結果、ステータ10の内周面113近傍における磁束密度を、周方向で均一に近づけることができる。よって、ステータ10の鉄損及びトルクリプルを抑制できる。
【0037】
しかも、磁性楔13における径方向外側の外面13Dには、凹部134が形成されている。凹部134が形成されている分、磁性楔13に対して鎖交磁束を流れにくくできる。これにより、磁性楔13への鎖交磁束の漏れが増大してしまうことを抑制できる。
【0038】
<磁性楔における凸部の幅とコイルの幅との関係、及び磁性楔の占積率>
次に、
図6から
図11に基づいて、磁性楔13における凸部131の幅とコイル12の幅との関係、及び磁性楔13の占積率について詳細に説明する。以下の説明では、凸部131の幅をXとし、コイル12の幅のうち、最内面12A(
図2参照)の幅をYとする。
【0039】
図6は、軸方向からみたステータ10の一部拡大図であり、(a)から(c)は、凸部131の幅Xとコイル12の幅Yとを変化させて示している。
すなわち、
図6(a)において、幅X,Yは、X<Yを満たす。この条件を条件(1)とする。
図6(b)において、幅X,Yは、X≒Yを満たす。この条件を条件(2)とする。
図6(c)において、幅X,Yは、X>Yを満たす。この条件を条件(3)とする。
図6(c)では、磁性楔13の溝135が形成されていない状態を示している。
【0040】
図7は、縦軸を電動モータ1のトルク(以下、単にトルクと称する)とし、横軸を磁性楔13の占積率としたときのトルクの変化を示すグラフであり、条件(1)~(3)を比較している。
図7に示すように、磁性楔13の占積率の変化に伴い、トルクが変化することが確認できる。このうち、条件(1)及び条件(2)では条件(3)と比較してトルクの低下が抑制できることが確認できる。また、磁性楔13の占積率が30%程度の場合にトルクが最大となることが確認できる。
【0041】
図8は、縦軸を電動モータ1のトルクリップル(以下、単にトルクリップルと称する)とし、横軸を磁性楔13の占積率としたときのトルクリップルの変化を示すグラフであり、条件(1)~(3)を比較している。
図8に示すように、磁性楔13の占積率の変化に伴い、トルクリップルが変化することが確認できる。このうち、条件(1)及び条件(2)では条件(3)と比較してトルクリップルの低下が大きくなることが確認できる。また、磁性楔13の占積率が40%程度の場合にトルクリップルが最小となることが確認できる。
【0042】
図9は、縦軸をステータ10の鉄損とし、横軸を磁性楔13の占積率としたときのステータ10の鉄損の変化を示すグラフであり、条件(1)~(3)を比較している。
図9に示すように、磁性楔13の占積率の変化に伴い、ステータ10の鉄損が変化することが確認できる。このうち、条件(1)及び条件(2)では条件(3)と比較して鉄損の低下が大きくなることが確認できる。また、磁性楔13の占積率が50%程度の場合に鉄損が最小となることが確認できる。
【0043】
図10は、条件(1)~(3)における鉄損分布と磁束密度分布の解析結果を示す図である。
図10に示すように、条件(1)では、ロータ20の鉄損が大きくなってしまうことが確認できる。また、磁性楔13に鎖交磁束が流れにくいことに起因して、ティース110と磁性楔13との間での鎖交磁束密度の変化が大きくなってしまうことが確認できる。
【0044】
一方、条件(3)では、磁性楔13に鎖交磁束が流れやすく、ステータ10の鉄損が大きくなってしまうとともに、ティース110と磁性楔13との間での鎖交磁束密度の変化が大きくなってしまうことが確認できる。
これらの結果、条件(2)では、ロータ20の鉄損及びステータ10の鉄損を低減できることが確認できる。また、ティース110と磁性楔13との間での鎖交磁束密度の変化をできるかぎり抑制できることが確認できる。
【0045】
図11は、磁性楔13に溝135が形成されている場合(溝あり)と、磁性楔13に溝135が形成されていない場合(溝なし)と、でステータ10の鉄損密度を比較した図である。
図11に示すように、磁性楔13に溝135が形成されている場合、ステータ10の内周面113近傍のみ、鉄損密度が高くなっていることが確認できる。これに対し、磁性楔13に溝135が形成されていない場合、ティース110の全体に渡って鉄損密度が高くなっていることが確認できる。この結果、磁性楔13に溝135が形成されている場合、ティース110の鎖交磁束を均一に分散でき、ティース110と磁性楔13との間での鎖交磁束密度の変化を抑制できる。
【0046】
このように、上述の実施形態では、ステータコア11は、磁性楔13を備えた第1電磁鋼板116と、磁性楔13を備えない第2電磁鋼板117と、を積層して形成されている。このため、磁性楔13の形状を変更することなく、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117とを積層する際、それぞれの割合を調整するだけで磁性楔13の占積率を調整できる。磁性楔13の占積率を調整することにより、電動モータ1のトルクの低下やステータ10の鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減するために磁性楔13を容易に最適化できる。よって、ステータ10の加工コストを低減でき、延いては安価にエネルギーの効率化に寄与できる。
【0047】
磁性楔13は、ロータ20側に設けられた凸部131を備える。ロータ20と径方向で対向する対向面13Aと、対向面13Aにおける周方向の両側からロータ20から離間する方向に延びる側面13Bと、を有する。側面13Bは、ティース110から離間していてもよい。このため、ステータ10の内周面113近傍から磁性楔13における径方向内側の端面近傍に至る間に生じる鎖交磁束密度の変化をなだらかにできる。よって、確実にトルクの低下やステータ10の鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる。
【0048】
磁性楔13は、第1電磁鋼板116と一体成形されている。このため、第1電磁鋼板116と磁性楔13とを別体で形成する場合と比較してステータ10の加工コストを低減できる。
ステータコア11は、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117とを交互に積層して形成されている。このため、ステータコア11を形成しやすくでき、ステータ10の加工コストをさらに低減できる。また、ステータコア11の軸方向において、磁性楔13の密度分布が一定になる。よって、確実にトルクの低下やステータ10の鉄損の増大を抑制しつつ、トルクリップルも低減できる。
【0049】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0050】
例えば、上述の実施形態では、磁性楔13は、母材となる電磁鋼板から第1電磁鋼板116を打ち抜く際に同時に形成され、第1電磁鋼板116と一体成形されている場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、磁性楔13を第1電磁鋼板116と別体としてもよい。例えば、母材となる電磁鋼板から第1電磁鋼板116と磁性楔13とをそれぞれ別々に打ち抜き。この後、第1電磁鋼板116と磁性楔13とを一体化してもよい。磁性楔13を第1電磁鋼板116と別体とすることにより、磁性楔13の材料と第1電磁鋼板116の材料とを変更することも可能である。
【0051】
上述の実施形態では、ステータコア11は、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117とを交互に積層して形成されている場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、ステータコア11は、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117とを交互に積層して形成されていなくてもよい。電動モータ1の仕様に応じて、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117との積層状態を適宜変更可能である。例えば、ステータコア11の軸方向中央寄りにおける磁性楔13の占積率と、ステータコア11の軸方向両端寄りにおける磁性楔13の占積率と、を変更することも可能である。単純に、第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117との割合を変更することも可能である。
【0052】
上述の実施形態では、円筒状のステータ10の径方向内側にロータ20を配置した、いわゆるインナロータ型の電動モータ1について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、ステータ10の周囲を取り囲むようにロータが設けられた、いわゆるアウタロータ型の電動モータについても上述の第1電磁鋼板116と第2電磁鋼板117とを用いた構成を適用することが可能である。
【0053】
上述の実施形態では、電動モータ1のティース110及びスロット11Sの個数は、例えばそれぞれ48個である場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、ティース110及びスロット11Sの個数は、任意に決めることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…電動モータ
10…ステータ
11…ステータコア
11S…スロット
13…磁性楔
13A…対向面
13B…側面
20…ロータ
110…ティース
111…側面
116…第1電磁鋼板(第1鋼板)
116T…第1ティース鋼板(ティース)
117…第2電磁鋼板(第2鋼板)
117T…第2ティース鋼板(ティース)
131…凸部