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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125790
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】洗浄評価用インジケータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/70 20160101AFI20240911BHJP
【FI】
A61B90/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033856
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 朋子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慎二
(57)【要約】
【課題】使用済の医療器具に近い性状の洗浄評価用インジケータを提供すること。
【解決手段】医療器具20の洗浄評価用インジケータ1の製造方法は、第1疑似汚染物4が塗布された基材2を加熱する第1処理S1を行うことと、第1処理S1された後の基材2に第2疑似汚染物3Pを塗布する第2処理S2を行うことと、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具の洗浄評価用インジケータの製造方法であって、
第1疑似汚染物が塗布された基材を加熱する第1処理を行うことと、
前記第1処理された後の前記基材に第2疑似汚染物を塗布する第2処理を行うことと、を含む、
洗浄評価用インジケータの製造方法。
【請求項2】
前記第2処理された後の前記基材を加熱する第3処理を行うことを含む、
請求項1に記載の洗浄評価用インジケータの製造方法。
【請求項3】
前記第1処理において前記基材を加熱する温度は、60℃以上である、
請求項1に記載の洗浄評価用インジケータの製造方法。
【請求項4】
前記第1処理において、前記基材に前記第1疑似汚染物を塗布した後、前記基材を加熱する前に、前記基材を水で濯ぐ、
請求項1に記載の洗浄評価用インジケータの製造方法。
【請求項5】
前記基材は、ステンレス、ガラス、アルミニウム、及びチタンの少なくとも一つにより形成される、
請求項1に記載の洗浄評価用インジケータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、洗浄評価用インジケータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関において、使用済の医療器具は、洗浄装置で洗浄後に再利用される。洗浄装置による医療器具の洗浄効果を評価するために洗浄評価用インジケータが使用される。特許文献1には、洗浄評価用インジケータの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-346136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療器具として、エネルギーデバイスが使用される場合がある。エネルギーデバイスは、発熱する医療器具である。エネルギーデバイスにより、組織が加熱される可能性がある。組織の加熱により、医療器具に熱変性タンパク質が固着する可能性がある。熱変性タンパク質が固着した医療器具の洗浄効果を適正に評価するために、熱変性タンパク質が固着した医療器具を十分に模した洗浄評価用インジケータが要望される。
【0005】
本明細書で開示する技術は、使用済の医療器具に近い性状の洗浄評価用インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、医療器具の洗浄評価用インジケータの製造方法を開示する。洗浄評価用インジケータの製造方法は、第1疑似汚染物が塗布された基材を加熱する第1処理を行うことと、第1処理された後の基材に第2疑似汚染物を塗布する第2処理を行うことと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本明細書で開示する技術によれば、使用済の医療器具に近い性状の洗浄評価用インジケータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る洗浄評価用インジケータを示す斜視図である。
図2図2は、実施形態に係る洗浄装置を模式的に示す図である。
図3図3は、実施形態に係る洗浄評価用インジケータの製造方法を示すフローチャートである。
図4図4は、実施形態に係る第1処理を模式的に示す図である。
図5図5は、実施形態に係る第2処理を模式的に示す図である。
図6図6は、実施形態に係る第3処理を模式的に示す図である。
図7図7は、実施形態に係る第1処理された基材の評価結果を示す図である。
図8図8は、実施形態に係る第1処理された基材の評価結果を示す図である。
図9図9は、実施形態に係る洗浄評価用インジケータの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[洗浄評価用インジケータ]
図1は、実施形態に係る洗浄評価用インジケータ1を示す斜視図である。図2は、実施形態に係る洗浄装置10を模式的に示す図である。洗浄装置10は、洗浄対象である使用済の医療器具20を洗浄する。洗浄装置10として、噴射式洗浄装置又は超音波式洗浄装置が例示される。医療器具20として、メス、鋏、及び鉗子が例示される。
【0010】
洗浄評価用インジケータ1は、洗浄装置10による医療器具20の洗浄効果を評価するために使用される。洗浄評価用インジケータ1は、基材2と、基材2の表面に塗布された疑似汚染物3とを有する。
【0011】
洗浄評価用インジケータ1は、使用済の医療器具20と一緒に、洗浄装置10の洗浄槽に収容される。洗浄評価用インジケータ1は、ホルダ11に収容された状態で、洗浄装置10の洗浄槽に収容される。洗浄評価用インジケータ1は、使用済の医療器具20と一緒に、洗浄装置10により洗浄される。ホルダ11の一例が特開2017-205413号公報に開示されている。
【0012】
洗浄装置10の洗浄槽において、医療器具20は、洗浄バスケット12に支持される。洗浄バスケット12は、網目状に編まれた複数のワイヤからなる収容容器である。洗浄評価用インジケータ1を収容したホルダ11は、洗浄バスケット12に固定される。図2に示す例において、ホルダ11は、洗浄バスケット12の底部に固定される。
【0013】
洗浄装置10は、医療器具20を自動洗浄する。医療器具20及び洗浄評価用インジケータ1が洗浄装置10の洗浄槽に収容されると、洗浄装置10は、予め設定された複数の洗浄パラメータに従って、医療器具20及び洗浄評価用インジケータ1を洗浄する。洗浄パラメータとして、給水量、給水温度、洗浄剤の量、洗浄剤の種類、洗浄槽の温度、及び洗浄時間が例示される。
【0014】
図2に示す洗浄装置10は、噴射式洗浄装置である。洗浄装置10が作動すると、ホルダ11の下方及び上方のそれぞれに配置されている噴射ノズル13から洗浄液が噴射される。噴射ノズル13から噴射された洗浄液が医療器具20に接触することにより、医療器具20が洗浄される。噴射ノズル13から噴射された洗浄液がホルダ11に収容されている洗浄評価用インジケータ1に接触することにより、洗浄評価用インジケータ1が洗浄される。
【0015】
洗浄後の洗浄評価用インジケータ1は、ホルダ11から取り出される。疑似汚染物3の残留の有無によって、洗浄装置10による医療器具20の洗浄効果が評価される。疑似汚染物3が残留していない場合、洗浄パラメータの設定が適正であり、医療器具20が適正に洗浄されると判定される。疑似汚染物3が残留している場合、洗浄パラメータの設定が不適正あり、医療器具20が適正に洗浄されない可能性があると判定される。
【0016】
[洗浄評価用インジケータの製造方法]
図3は、実施形態に係る洗浄評価用インジケータ1の製造方法を示すフローチャートである。図3に示すように、実施形態に係る洗浄評価用インジケータ1の製造方法は、疑似汚染物4(第1疑似汚染物)が塗布された基材2を加熱する第1処理S1を行うことと、第1処理S1された後の基材2に疑似汚染物3P(第2疑似汚染物)を塗布する第2処理S2を行うことと、第2処理S2された後の基材2を加熱する第3処理S3を行うことと、を含む。
【0017】
図4は、実施形態に係る第1処理S1を模式的に示す図である。基材2は、洗浄評価用インジケータ1と一緒に洗浄される医療器具20と同じ材料により形成される。医療器具20は、ステンレス、ガラス、アルミニウム、及びチタンの少なくとも一つにより形成される場合が多い。そのため、基材2は、ステンレス、ガラス、アルミニウム、及びチタンの少なくとも一つにより形成される。例えば、医療器具20がステンレス製である場合、基材2もステンレス製である。医療器具20がガラス製である場合、基材2もガラス製である。医療器具20がアルミニウム製である場合、基材2もアルミニウム製である。医療器具20がチタン製製である場合、基材2もチタン製である。実施形態において、基材2は、ステンレス製の円板(SUS304板)である。
【0018】
医療器具20が表面加工されている場合、基材2も、医療器具20と同じ表面加工されてもよい。例えば、医療器具20の表面がヘアライン加工されている場合、基材2の表面もヘアライン加工されてもよい。
【0019】
第1処理S1においては、基材2に疑似汚染物4を塗布する塗布処理S11が実施される。なお、疑似汚染物4を基材2に塗布する前に、基材2の表面が脱脂処理されてもよい。例えば、基材2の表面がジクロロメタンで洗浄された後、イソプロピルアルコールで拭き上げられてもよい。
【0020】
実施形態において、疑似汚染物4は、羊血液である。実施形態において、基材2が疑似汚染物4に浸漬される。なお、市場に流通している羊血液には凝固防止剤が添加されている場合がある。羊血液に凝固防止剤が添加されている場合、基材2を羊血液に浸漬する前に、凝固防止剤の機能を解除する薬剤が羊血液に添加されてもよい。
【0021】
塗布処理S11が実施された後、基材2を水で濯ぐ濯ぎ処理S12が実施される。実施形態において、基材2は、蒸留水で濯がれる。
【0022】
濯ぎ処理S12が実施された後、基材2を加熱する加熱処理S13が実施される。第1処理S1において基材2を加熱する温度は、60℃以上である。なお、第1処理S1において基材2を加熱する温度は、70℃以上でもよいし、80℃以上でもよいし、90℃以上でもよいし、100℃以上でもよい。第1処理S1において基材2を加熱する温度の上限値は、特に限定されないが、例えば300℃以下でもよい。また、第1処理S1において、基材2は、乾式加熱される。実施形態において、基材2は、200℃で乾式加熱される。基材2は、例えばオーブンにより乾式加熱される。以上により、第1処理S1が終了する。
【0023】
図5は、実施形態に係る第2処理S2を模式的に示す図である。第2処理S2においては、第1処理S1された後の基材2に疑似汚染物3P(第2疑似汚染物)を塗布する塗布処理S21が実施される。疑似汚染物4(第1疑似汚染物)と疑似汚染物3P(第2疑似汚染物)とは、同じ疑似汚染物である。実施形態において、疑似汚染物4が羊血液なので、疑似汚染物3Pは、羊血液である。疑似汚染物3Pは、基材2の表面に例えば50μL塗布される。
【0024】
塗布処理S21が実施された後、基材2を25℃75%RHの環境下で放置する凝固処理S22が実施される。疑似汚染物3は、基材2の表面において凝固する。
【0025】
図6は、実施形態に係る第3処理S3を模式的に示す図である。基材2において疑似汚染物3が凝固した後、基材2を加熱する加熱処理S31が実施される。基材2が加熱されることにより、疑似汚染物3Pが熱変性して、図1を参照して説明したような疑似汚染物3が生成される。疑似汚染物3は、熱変性タンパク質を含む。
【0026】
なお、疑似汚染物3が凝固することなく、加熱処理S31が実施されてもよい。
【0027】
第3処理S3において基材2を加熱する温度は、60℃以上である。なお、第3処理S3において基材2を加熱する温度は、疑似汚染物3Pに含まれるタンパク質が熱変性する温度であればよく、70℃以上でもよいし、80℃以上でもよいし、90℃以上でもよいし、100℃以上でもよい。第3処理S3において基材2を加熱する温度の上限値は、疑似汚染物3Pに含まれるタンパク質が熱変性する温度であればよく、特に限定されないが、例えば300℃以下でもよい。また、第3処理S3において、基材2は、乾式加熱される。実施形態において、基材2は、180℃で10分間乾式加熱される。基材2は、例えばオーブンにより乾式加熱される。
【0028】
加熱処理S31が実施された後、基材2を室温で静置する後処理S32が実施される。以上により、洗浄評価用インジケータ1が製造される。
【0029】
上述のように、洗浄評価用インジケータ1は、医療器具20と一緒に、洗浄装置10により洗浄される。疑似汚染物3の残留の有無によって、洗浄装置10による医療器具20の洗浄効果が評価される。洗浄評価用インジケータ1を用いて医療器具20の洗浄効果を適正に評価するためには、洗浄評価用インジケータ1は、使用済の医療器具20を十分に模している必要がある。すなわち、洗浄評価用インジケータ1を用いて医療器具20の洗浄効果を適正に評価するためには、洗浄評価用インジケータ1は、使用済の医療器具20に近い性状である必要がある。
【0030】
医療器具20として、エネルギーデバイスが使用される場合がある。エネルギーデバイスは、発熱する医療器具である。エネルギーデバイスとして、超音波デバイス及び高周波デバイスが例示される。エネルギーデバイスにより、組織が加熱される可能性がある。組織の加熱により、使用済の医療器具20に熱変性タンパク質が固着する可能性がある。熱変性タンパク質は、医療器具20に強固に固着する。洗浄評価用インジケータ1を用いて医療器具20の洗浄効果を適正に評価するためには、基材2と疑似汚染物3との固着強度が医療器具20と熱変性タンパク質との固着強度に近い必要がある。固着強度は、基材2(医療器具20)からの疑似汚染物3(熱変性タンパク質)の剥がれ難さ(除去のし難さ)を意味する。固着強度が高いほど、基材2(医療器具20)から疑似汚染物3(熱変性タンパク質)が剥がれ難い。熱変性タンパク質が医療器具20から剥がれ難い場合、疑似汚染物3も基材2から剥がれ難い必要がある。
【0031】
実施形態においては、基材2に疑似汚染物3Pを塗布する前に、第1処理S1が実施される。第1処理S1が実施されることにより、基材2と疑似汚染物3とを強固に固着するための接着層が基材2の表面に形成されると考えられる。基材2の表面はステンレスの表面であり、基材2の表面に水酸基が存在する。また、第1処理S1において使用される疑似汚染物4は、カルボキシル基及びチオール基若しくはジスルフィド結合を有する。第1処理S1において、基材2の表面(ステンレスの表面)とカルボキシル基、チオール基、ジスルフィド結合をもつ有機物との分子間で相互作用が働き、有機物が基材2に点接触(train)で吸着し、分子鎖が溶液側に伸長(tail)していると考えられる。この基材2を第1処理S1において加熱することで、有機物のステンレスの表面への吸着が強まる。そこへ第2処理S2において疑似汚染物3Pを塗布すると、伸長した分子間にジスルフィド結合やイオン結合等が生じ、更に第3処理S3において基材2を加熱することで、基材2に強固に固着する疑似汚染物3が形成される。医療器具20と熱変性タンパク質との固着強度と同様に、基材2と疑似汚染物3との固着強度が高まるので、洗浄評価用インジケータ1を用いて医療器具20の洗浄効果を適正に評価することができる。
【0032】
[評価結果]
図7は、実施形態に係る第1処理S1された基材2の評価結果を示す図である。第1処理S1が実施された基材2の表面と蒸留水との接触角は、第1処理S1が実施されない基材2と蒸留水との接触角よりも小さい。すなわち、第1処理S1が実施されることにより、基材2の表面の濡れ性が変化することが確認できた。
【0033】
図8は、実施形態に係る第1処理S1された基材2の評価結果を示す図である。第1処理S1が実施された基材2の表面をフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)により分析したところ、アミド結合の吸収があることが確認できた。一方、第1処理S1が実施されない基材2の表面においてはアミド結合の吸収がない。すなわち、第1処理S1が実施されることにより、基材2の表面にタンパク質が残留し、接着層が形成されていることが確認できた。
【0034】
図9は、実施形態に係る洗浄評価用インジケータ1の評価結果を示す図である。8種類の比較例に係る洗浄評価用インジケータ及び実施例に係る洗浄評価用インジケータ1について評価試験を実施した。1種類の洗浄評価用インジケータについて、サンプルを3個作成した(N数=3)。
【0035】
図9に示す「前処理」において、「なし」は、第1処理S1を実施しなかったことを意味し、「加熱のみ」は、第1処理S1のうち加熱処理S13を実施し濯ぎ処理S12及び塗布処理S11を実施しなかったことを意味し、「洗浄・加熱のみ」は、第1処理S1のうち加熱処理S13及び濯ぎ処理S12を実施し塗布処理S11を実施しなかったことを意味し、「あり」は、第1処理S1を実施したことを意味する。
【0036】
図9に示す「羊血液熱変性」において、「なし」は、第2処理S2を実施し第3処理S3を実施しなかったことを意味し、「あり」は、第2処理S2及び第3処理S3を実施したことを意味する。「羊血液熱変性」が「なし」の場合、基材2には熱変性していない疑似汚染物3Pが存在し、「羊血液熱変性」が「あり」の場合、基材2には熱変性した疑似汚染物3が存在する。
【0037】
「前処理」及び「羊血液熱変性」のそれぞれの条件で製造された3個のサンプルを、「浸漬」、「振とう」、及び「揉み洗い」の3パターンの洗浄方法で洗浄した後、基材2に疑似汚染物3(3P)が残留しているか否かを評価した。「浸漬」、「振とう」、及び「揉み洗い」のうち、「浸漬」の洗浄強度が最も弱く、「浸漬」に次いで「振とう」の洗浄強度が弱く、「揉み洗い」の洗浄強度が最も強い。
【0038】
「浸漬残留」は、「前処理」及び「羊血液熱変性」のそれぞれの条件で製造された3個のサンプルを洗浄剤に「浸漬」した後、疑似汚染物3(3P)が残留しているサンプルの数を示す。
【0039】
「振とう残留」は、「前処理」及び「羊血液熱変性」のそれぞれの条件で製造された3個のサンプルを洗浄剤に浸漬して「振とう」させた後、疑似汚染物3(3P)が残留しているサンプルの数を示す。
【0040】
「揉み洗い残留」は、「前処理」及び「羊血液熱変性」のそれぞれの条件で製造された3個のサンプルを洗浄剤で「揉み洗い」した後、疑似汚染物3(3P)が残留しているサンプルの数を示す。
【0041】
疑似汚染物3(3P)が残留しているサンプルの数が多いほど、基材2と疑似汚染物3(3P)との固着強度が高いことを意味する。また、「揉み洗い」されても疑似汚染物3(3P)が残留しているサンプルの数が多いほど、基材2と疑似汚染物3(3P)との固着強度が高いことを意味する。
【0042】
図9に示すように、実施例に係る洗浄評価用インジケータ1における基材2と疑似汚染物3との固着強度は、比較例1から比較例8に係る洗浄評価用インジケータにおける基材2と疑似汚染物3(3P)との固着強度よりも高いことを確認できた。
【0043】
[効果]
以上説明したように、医療器具20の洗浄評価用インジケータ1の製造方法は、疑似汚染物4(第1疑似汚染物)が塗布された基材2を加熱する第1処理S1を行うことと、第1処理S1された後の基材2に疑似汚染物3P(第2疑似汚染物)を塗布する第2処理S2を行うことと、を含む。
【0044】
実施形態によれば、第1処理S1が実施されることにより、基材2と疑似汚染物3とを強固に固着するための接着層が基材2の表面に形成される。基材2の表面に接着層が形成された後、基材2の表面に疑似汚染物3Pを塗布する第2処理S2が実施される。熱変性タンパク質を模した疑似汚染物3は、基材2の表面に強固に固着される。これにより、熱変性タンパク質が固着した医療器具20を十分に模した洗浄評価用インジケータ1が製造される。すなわち、使用済の医療器具20(エネルギーデバイス)に近い性状の洗浄評価用インジケータ1が提供される。
【0045】
第2処理S2された後の基材2を加熱する第3処理S3が行われる。第3処理S3が実施されることにより、疑似汚染物3Pが熱変性して疑似汚染物3が形成される。熱変性タンパク質を模した疑似汚染物3は、基材2の表面に強固に固着される。
【0046】
基材2は、医療器具20と同じ材料により形成される。これにより、使用済の医療器具20に近い性状の洗浄評価用インジケータ1が提供される。
【0047】
第1処理S1において基材2を加熱する温度は、60℃以上である。これにより、接着層が形成される。
【0048】
第3処理S3において基材2を加熱する温度は、60℃以上である。これにより、疑似汚染物3Pが熱変性した疑似汚染物3が基材2に形成される。
【0049】
第1処理S1において、基材2は、乾式加熱される。これにより、湿式加熱される場合に比べて、疑似汚染物3が基材2に強固に固着される。
【0050】
第3処理S3において、基材2は、乾式加熱される。これにより、湿式加熱される場合に比べて、疑似汚染物3が基材2に強固に固着される。
【0051】
第1処理S1において、基材2に疑似汚染物4(第1疑似汚染物)を塗布する塗布処理S11が実施された後、基材2を加熱する加熱処理S13の前に、基材2を水で濯ぐ濯ぎ処理S12が実施される。これにより、基材2に疑似汚染物4が過度に残留することが抑制される。
【0052】
疑似汚染物4(第1疑似汚染物)と疑似汚染物3P(第2疑似汚染物)とは、同じ疑似汚染物である。これにより、疑似汚染物3が基材2に強固に固着される。
【0053】
基材2は、ステンレス、ガラス、アルミニウム、及びチタンの少なくとも一つにより形成される。これにより、使用済の医療器具20に近い性状の洗浄評価用インジケータ1が提供される。
【0054】
[その他の実施形態]
上述の実施形態において、第1処理S1において、基材2は、乾式加熱されることとした。第1処理S1において、基材2は、湿式加熱されてもよい。上述の実施形態において、第3処理S3において、基材2は、乾式加熱されることとした。第3処理S3において、基材2は、湿式加熱されてもよい。湿式加熱とは、水分を熱源として(水分を介して)、基材2を加熱する方法をいう。乾式加熱とは、水分を介さずに、基材2を加熱する方法をいう。
【0055】
上述の実施形態において、疑似汚染物4(第1疑似汚染物)と疑似汚染物3(第2疑似汚染物)とは、同じ疑似汚染物であることとした。すなわち、疑似汚染物4及び疑似汚染物3の両方が羊血液であることとした。疑似汚染物4(第1疑似汚染物)と疑似汚染物3(第2疑似汚染物)とは、異なる疑似汚染物でもよい。例えば、疑似汚染物4が豚血液で疑似汚染物3が羊血液でもよい。疑似汚染物4及び疑似汚染物3のそれぞれは、タンパク質を含んでいればよい。
【0056】
上述の実施形態において、基材2は、円板状であることとした。基材2は、四角形板状でもよい。基材2は、医療器具20と同じ形状でもよい。基材2として、医療器具20が使用されてもよい。例えば、基材2として、メス、鋏、及び鉗子の少なくとも一つが使用されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…洗浄評価用インジケータ、2…基材、3…疑似汚染物、3P…疑似汚染物(第2疑似汚染物)、4…疑似汚染物(第1疑似汚染物)、10…洗浄装置、11…ホルダ、12…洗浄バスケット、13…噴射ノズル、20…医療器具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9