IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社の特許一覧

特開2024-125813正極活物質の製造方法およびリチウムイオン二次電池の製造方法
<>
  • 特開-正極活物質の製造方法およびリチウムイオン二次電池の製造方法 図1
  • 特開-正極活物質の製造方法およびリチウムイオン二次電池の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125813
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】正極活物質の製造方法およびリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240911BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033893
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄治
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050CB08
5H050GA02
5H050GA06
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】エネルギー密度が高くかつサイクル特性にも優れたリチウムイオン二次電池を実現できる正極活物質(高Ni含有リチウム複合酸化物)の製造方法を提供する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、Ni源として、BET比表面積が10m/g以上30m/g以下であり、かつD50粒径が2μm以上10μm以下である、粉末状の水酸化ニッケルを用意する用意工程と、少なくとも上記水酸化ニッケルとLi源とを混合して焼成することにより、固相反応法でNi含有リチウム複合酸化物を得る反応工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li以外の金属元素の原子量の合計に対するNiの原子量の割合が、50atm%以上であるNi含有リチウム複合酸化物を含む正極活物質の製造方法であって、
Ni源として、窒素吸着法に基づくBET比表面積が10m/g以上30m/g以下であり、かつレーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積50体積%に相当するD50粒径が2μm以上10μm以下である、粉末状の水酸化ニッケルを用意する用意工程と、
少なくとも前記水酸化ニッケルとLi源とを混合して焼成することにより、固相反応法でNi含有リチウム複合酸化物を得る反応工程と、
を含む、正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記水酸化ニッケルは、前記粒度分布におけるモード径が、前記D50粒径よりも大きい、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化ニッケルは、前記粒度分布において、
モード径の頻度が、10体積%以上20体積%以下であり、かつ、
粒径の小さい方から累積20体積%に相当するD20粒径に対する、前記D50粒径の比(D50粒径/D20粒径)が、1.1以上1.9以下である、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程は、
少なくとも前記水酸化ニッケルと前記Li源とを乾式混合して、混合物を得る混合物調製工程と、
前記混合物を焼成する焼成工程と、
を含む、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程は、
少なくとも前記水酸化ニッケルと前記Li源とを溶媒中に分散して、スラリーを調製するスラリー調製工程と、
噴霧造粒法によって前記スラリーを噴霧乾燥し、造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を焼成する焼成工程と、
を含む、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記Ni含有リチウム複合酸化物が、Ni以外の遷移金属をさらに含み、
前記反応工程において、前記水酸化ニッケルと、Li源と、Ni以外の遷移金属源と、を混合する、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の製造方法によって製造された正極活物質を用いて正極を作製する正極作製工程を含む、
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質の製造方法およびリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、その普及に伴い、さらなる高容量化が求められている。そこで近年、エネルギー密度を向上する観点等から、正極活物質として、Ni含有量を高めたNi含有リチウム複合酸化物が用いられている(特許文献1,2参照)。例えば特許文献1には、原料を粉砕及び混合してスラリーを得る粉砕混合工程と、スラリーを噴霧乾燥して造粒する造粒工程と、得られた造粒粉を焼成して(固相反応させて)Ni含有リチウム複合酸化物を得る焼成工程とを含み、粉砕混合工程において、粉砕した原料粉末のD50粒径を0.1~1μmまで微細化する、正極活物質の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-129140号公報
【特許文献2】特開2000-123836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が新たに得た知見によれば、固相反応を利用して生成物(Ni含有リチウム複合酸化物)を得る場合、原料の性状(粒子形態)がNi含有リチウム複合酸化物の性状に大きな影響を及ぼし、ひいては電池の特性にも影響を及ぼす。このとき、Ni含有量が高いNi含有リチウム複合酸化物では、Ni源としての水酸化ニッケルの影響が殊に大きくなるため、その性状が重要となる。ところが、例えば特許文献1に記載されるように、原料粉末のD50粒径を0.1~1μmまで微細化してしまうと、生成物としてのNi含有リチウム複合酸化物に微粉が多く混入し、その結果、電池のサイクル特性(耐久特性)が低下しやすくなることが新たに判明した。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、エネルギー密度が高くかつサイクル特性にも優れたリチウムイオン二次電池を実現できる正極活物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、Li以外の金属元素の原子量の合計に対するNiの原子量の割合が、50atm%以上であるNi含有リチウム複合酸化物を含む正極活物質の製造方法が提供される。この製造方法は、Ni源として、窒素吸着法に基づくBET比表面積が10m/g以上30m/g以下であり、かつレーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積50体積%に相当するD50粒径が2μm以上10μm以下である、粉末状の水酸化ニッケルを用意する用意工程と、少なくとも上記水酸化ニッケルとLi源とを混合して焼成することにより、固相反応法でNi含有リチウム複合酸化物を得る反応工程と、を含む。
【0007】
ここに開示される製造方法では、水酸化ニッケルの性状、具体的には、比表面積およびD50粒径を所定の範囲としている。このことにより、Ni含有リチウム複合酸化物への微粉の混入を抑制でき、リチウムイオン二次電池への使用に適した正極活物質を製造できる。ひいては、エネルギー密度が高く、かつ相対的にサイクル特性にも優れたリチウムイオン二次電池を実現できる。
【0008】
また、本発明により、上記製造方法によって製造された正極活物質を用いて正極を作製する正極作製工程を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。このような構成によれば、エネルギー密度が高くかつサイクル特性にも優れた電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
図2図2Aは、例16の頻度分布であり、図2Bは、例16の積算分布である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明のいくつかの好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けないリチウムイオン二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0011】
なお、本明細書において「リチウムイオン二次電池」(以下、単に「電池」ということもある)とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般をいう。また、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「Aより大きい」、「Bより小さい」の意を包含するものとする。
【0012】
〔正極活物質〕
まず、後述する製造方法によって得られる正極活物質について説明する。本実施形態に係る正極活物質は、必須として、高Ni含有リチウム複合酸化物を含有する。高Ni含有リチウム複合酸化物は、ここに開示される「Li以外の金属元素の原子量の合計に対するNiの原子量の割合が、50atm%以上であるNi含有リチウム複合酸化物」の一例である。
【0013】
高Ni含有リチウム複合酸化物は、必須元素としてLiとNiとOとを含み、電池のエネルギー密度を向上する観点から、Li以外の金属元素の原子量の合計に対するNiの原子量の割合が50atm%以上の化合物である。Niの割合は60atm%以上が好ましく、70atm%以上がより好ましく、80atm%以上がさらに好ましい。高Ni含有リチウム複合酸化物の具体例としては、例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムニッケルコバルト系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。高Ni含有リチウム複合酸化物は、Niに加えて、Ni以外の遷移金属元素をさらに含むことが好ましく、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むことがより好ましい。なかでも、初期抵抗が小さい等、電池特性に優れることから、遷移金属元素として、少なくともNi、Co、Mnを含むリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が好ましい。
【0014】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ba、Sr、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、K、Fe、Cu、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムニッケルコバルト系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0015】
リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物は、下式(I)で表される組成を有することが好ましい。
Li1+xNiCoMn(1-y-z)α2-ββ (I)
上記式(I)中の、x、y、z、α、およびβはそれぞれ、-0.3≦x≦0.3、0.5≦y≦0.95、0.01≦z≦0.3、0≦α≦0.1、0≦β≦0.5を満たす。Mは、Al、Zr、B、Mg、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Sr、Ca、W、Mo、Nb、Ti、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。Qは、F、ClおよびBrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。
【0016】
xは、好ましくは0≦x≦0.3を満たし、より好ましくは0≦x≦0.15を満たし、さらに好ましくは0≦x≦0.05である。高エネルギー密度化と優れたサイクル特性とをバランスする観点から、yは、好ましくは0.6≦y≦0.95を満たし、例えば0.7≦y≦0.9、0.8≦y≦0.9であり、zは、好ましくは0.03≦z≦0.25を満たし、より好ましくは0.10≦z≦0.2を満たす。αは、好ましくは0≦α≦0.05を満たし、より好ましくは0である。βは、好ましくは0≦β≦0.1を満たし、より好ましくは0である。
【0017】
高Ni含有リチウム複合酸化物は層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。このような結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物等が挙げられる。ただし、高Ni含有リチウム複合酸化物の結晶構造は、スピネル構造等であってもよい。なお、結晶構造は、X線回折法等で確認できる。
【0018】
高Ni含有リチウム複合酸化物は、典型的には略球状である。ただし、不定形状等であってもよい。なお、本明細書において「略球状」とは、全体として概ね球体と見なせる形態を示し、電子顕微鏡の断面観察画像に基づく平均アスペクト比(長径/短径比)が、概ね1~2、例えば1~1.5であることをいう。高Ni含有リチウム複合酸化物は、典型的には、複数の一次粒子が物理的または化学的な結合力によって凝集してなる二次粒子状である。言い換えれば、高Ni含有リチウム複合酸化物(すなわち二次粒子)は、多数の一次粒子が集合して1つの粒子が形成された一次粒子の集合体である。
【0019】
高Ni含有リチウム複合酸化物は、典型的には粉末状である。高Ni含有リチウム複合酸化物のD50粒径(平均粒子径)は、特に限定されないが、電池特性(例えばエネルギー密度や出力特性)を向上する観点から、概ね25μm以下であるとよく、一実施形態において、0.05~25μmであり、好ましくは10~20μmである。なお、本明細書において「D50粒径(平均粒子径)」とは、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布(積算分布)において、粒径の小さい方(微粒子側)から累積50体積%に相当する粒径(メジアン径)を意味する。
【0020】
高Ni含有リチウム複合酸化物のD20粒径は、特に限定されないが、概ね20μm以下であるとよく、一実施形態において、5~15μmであり、好ましくは6~14μmである。高Ni含有リチウム複合酸化物のD10粒径は、特に限定されないが、概ね3μm以下であるとよく、一実施形態において、0.1~2μmであり、好ましくは0.6~1.4μmである。このように微粉の混入を抑えることで、サイクル特性に優れた電池を実現できる。なお、本明細書において「D20粒径」、「D10粒径」とは、それぞれ、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布(積算分布)において、粒径の小さい方(微粒子側)から累積20体積%、10体積%に相当する粒径を意味する。
【0021】
〔正極活物質の製造方法〕
次に、上記したような正極活物質の製造方法について説明する。本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、水酸化ニッケルを用意する用意工程S1と、高Ni含有リチウム複合酸化物(生成物)を得る反応工程S2とを、この順に含む。ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
【0022】
用意工程S1は、高Ni含有リチウム複合酸化物のNi源となる水酸化ニッケルを用意する工程である。水酸化ニッケルは、粉末状である。本発明者が新たに得た知見によれば、固相反応を利用して生成物を得る場合、Ni源としての水酸化ニッケルの性状(粒子形態)がNi含有リチウム複合酸化物の性状に影響を及ぼし、ひいては、電池のサイクル特性にも影響を及ぼす。Ni含有量が50atm%以上と高い高Ni含有リチウム複合酸化物では、Ni源となる水酸化ニッケルの影響が特に大きくなる。したがって、電池への使用に適した高Ni含有リチウム複合酸化物を製造するためには、水酸化ニッケルの性状を調整することが重要である。
【0023】
そこで、ここに開示される製造方法では、水酸化ニッケルとして、次の条件:(1)BET比表面積が10~30m/gである;(2)D50粒径が2~10μmである;を、いずれも満たすものを用意する。これにより、後述する実施例にも記載される通り、例えば上記BET比表面積の範囲を満たさない水酸化ニッケルや、上記D50粒径の範囲を満たさない水酸化ニッケルを用いる場合と比べて、高Ni含有リチウム複合酸化物への微粉の混入を抑制でき、相対的にサイクル特性に優れた電池を実現できる。なお、上記のような性状の水酸化ニッケルは、例えば、市販の試薬を購入してもよく、あるいは市販の試薬を適宜粉砕、分級等することによって用意することもできる。粉砕には、例えば、ボールミルを使用しうる。
【0024】
(1)水酸化ニッケルのBET比表面積は、10~30m/gが適正である。BET比表面積がこれよりも低い場合、水酸化ニッケルの粒子が大きくなりすぎて、後述する反応工程S2において粒子同士がうまく接着ないし付着されないことがある。これにより、得られる高Ni含有リチウム複合酸化物に微粉が多く混ざることがある。その結果、サイクル特性が悪化する傾向がある。一方、BET比表面積がこれよりも高い場合、例えば水酸化ニッケルの粒子が小さくなりすぎて、得られる高Ni含有リチウム複合酸化物にも微粉が多く残留することがある。この場合も、電池のサイクル特性が悪化する傾向がある。
【0025】
水酸化ニッケルのBET比表面積は、例えば15m/g以上であってもよいし、あるいは25m/g以下であってもよいし、20m/g以下であってもよい。なお、本明細書において「BET比表面積」とは、窒素吸着法によって測定された表面積をBET法で解析した値をいう。
【0026】
(2)水酸化ニッケルのD50粒径は、2~10μmが適正である。D50粒径がこれよりも小さい場合(例えば、特許文献1に開示されるように0.1~1μmである場合)、得られる高Ni含有リチウム複合酸化物にも微粉が多く残留することがある。その結果、サイクル特性が悪化する傾向がある。一方、D50粒径がこれよりも大きい場合、後述する反応工程S2において粒子同士がうまく接着ないし付着されないことがある。この場合も、サイクル特性が悪化する傾向がある。
【0027】
水酸化ニッケルのD50粒径は、例えば3μm以上であってもよいし、あるいは8μm以下であってもよいし、5μm以下であってもよい。なお、「D50粒径」とは、上述した通り、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布(積算分布)において、累積50体積%に相当する粒径(メジアン径)をいう。積算分布は、例えば図2Bに示すように、横軸を粒子径(μm)、縦軸を累積頻度(体積%)としたグラフで表される。
【0028】
好適な一態様では、水酸化ニッケルとして、(3)モード径がD50粒径よりも大きい(すなわち、D50粒径<モード径);を満たすものを用いる。これにより、後述する実施例にも記載される通り、例えば上記大小関係を満たさない水酸化ニッケルを用いる場合と比べて、より一層サイクル特性に優れた電池を実現できる。水酸化ニッケルのモード径は、1.9~10μmが好ましく、5~8μmがより好ましい。
【0029】
なお、本明細書において「モード径」とは、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布(頻度分布)において最も頻度の高い粒子径(最頻度粒子径)をいう。頻度分布は、例えば図2Aに示すように、横軸を粒子径(μm)、縦軸を頻度(体積%)としたグラフで表される。なお、頻度分布は、粒子径幅あたりの粒子量の割合を表すため、ヒストグラム表示の場合は幅がある。その場合は、幅の中央値をモード径とする。
【0030】
他の好適な一態様では、水酸化ニッケルとして、次の条件:(4)モード径の頻度が、10~20体積%である;(5)D20粒径に対するD50粒径の比が1.1~1.9である;を、いずれも満たすものを用いる。なお、本明細書において「比(D50粒径/D20粒径)」とは、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布(積算分布)において、D20粒径に対するD50粒径の比をいう。モード径の頻度および上記比(D50粒径/D20粒径)は、粒度分布の広がりを表す1つの指標となりうる。モード径の頻度が所定値以下であること、および上記比(D50粒径/D20粒径)が所定値以上であることは、粒度分布に所定の幅があることを意味しうる。
【0031】
上記(4)、(5)をいずれも満たす水酸化ニッケルを用いることにより、微粉発生と接着バランスを最適化でき、高Ni含有リチウム複合酸化物に微粉が混入することをさらに抑制できる。これにより、後述する実施例にも記載される通り、例えば上記モード径の範囲を満たさない水酸化ニッケルや、上記比(D50粒径/D20粒径)の範囲を満たさない水酸化ニッケルを用いる場合と比べて、より一層サイクル特性に優れた電池を実現できる。モード径の頻度は、12体積%以上がより好ましく、17体積%以下がより好ましい。上記比(D50粒径/D20粒径)は、1.3以上がより好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0032】
水酸化ニッケルは、典型的には、複数の一次粒子が物理的または化学的な結合力によって凝集してなる二次粒子状である。言い換えれば、水酸化ニッケル(すなわち二次粒子)は、多数の一次粒子が集合して1つの粒子が形成された一次粒子の集合体である。
【0033】
反応工程S2は、固相反応法を利用するものであり、少なくとも上記用意工程S1で用意した粉末状の水酸化ニッケル(Ni源)とLi源とを混合して、焼成することにより、Ni含有リチウム複合酸化物を得る工程である。固相反応法とは、必要な元素を含む化合物(例えば、炭酸塩、水酸化物等)の粉末原料を、所定の組成比となるように秤量し、混合した後、焼成することによって目的物質を合成する方法である。
【0034】
混合方法は特に限定されず、従来公知の乾式混合法や湿式混合法を採用することができる。混合は、例えば、ボールミル、ジェットミル、プラネタリーミキサー、ディスパー、乳鉢等で行い得る。
【0035】
第1実施形態において、反応工程S2は、乾式混合法によって混合物を得る混合物調製工程と、混合物を焼成して高Ni含有リチウム複合酸化物を得る焼成工程とを、この順に含んでいる。溶媒を使用しない乾式混合法は簡便であり、製造コストも抑えられる。また環境負荷も低減できる。なお、以下では、Ni含有リチウム複合酸化物として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る場合を例に、具体的に説明する。
【0036】
混合物調製工程は、金属元素源として、少なくともNi源となる水酸化ニッケルと、Li源と、を乾式混合して、混合物を得る工程である。ここでは、少なくともNi源となる水酸化ニッケルと、Li源と、Co源と、Mn源と、を乾式混合して、混合物を得る工程である。混合の順序は特に限定されないが、例えばまず、遷移金属元素源(Ni源、Co源、Mn源)を混合することによって予備混合物を調製し、次に、予備混合物にLi源を添加して混合してすることにより、2段階で混合物を調製してもよい。
【0037】
Ni源以外の金属元素源(Li源、Co源、Mn源)は、例えば、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩等の化合物であってよい。なかでも炭酸塩が好ましい。Ni源以外の金属元素源(Li源、Co源、Mn源)は、典型的には粉末状である。Ni源を含めた金属元素源の混合比は、例えば上記した式(I)におけるx、y、zが所望の値となるように、決定すればよい。これにより、高Ni含有リチウム複合酸化物に含まれるすべての金属元素(すなわち、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の場合は、Li、Ni、Co、Mn)を含んだ混合物を得る。混合物は、典型的には粉末状である。混合物は、例えば上記した式(I)におけるM元素源やQ元素源をさらに含んでもよい。
【0038】
焼成工程は、上記混合物調製工程で得られた混合物を焼成する工程である。焼成条件は、従来と同様でよく、例えば混合物の性状等によって適宜に調整できる。特に限定されるものではないが、焼成温度は、概ね650℃以上、好ましくは700℃以上、750℃以上、例えば800℃以上であって、概ね1000℃以下、例えば900℃以下とするとよい。焼成時間は、概ね2~24時間、好ましくは5~12時間とするとよい。昇温速度は、例えば5~40℃/分とするとよい。焼成雰囲気は、酸素含有雰囲気、例えば、酸素雰囲気ないし大気雰囲気とすることが好ましい。第1実施形態では、このようにして高Ni含有リチウム複合酸化物を得ることができる。
【0039】
第2実施形態において、反応工程S2は、スラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーを噴霧乾燥して造粒粉を得る造粒工程と、造粒粉を焼成する焼成工程とを、この順に含んでいる。いったん造粒粉を作製してから焼成することにより、粉末原料(金属元素源)の分散性や均質性が向上し、粒子同士が接着ないし付着されやすくなる。その結果、高Ni含有リチウム複合酸化物に微粉が混入することをさらに抑制できる。これにより、電池のサイクル特性を一層向上することができる。
【0040】
スラリー調製工程は、金属元素源として、少なくともNi源となる水酸化ニッケルと、Li源とを溶媒中に分散して、スラリー(懸濁液)を調製する工程である。ここでは、少なくともNi源となる水酸化ニッケルと、Li源と、Co源と、Mn源とを溶媒中に分散して、スラリーを調製する工程である。Ni源以外の金属元素源(Li源、Co源、Mn源)や混合比は、上記した第1実施形態の混合物調製工程と同様であってよい。溶媒は、典型的には水であるが、水を主体とする混合溶媒であってもよい。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤、例えば低級アルコール、低級ケトン等を用いうる。スラリーの性状(粘度)は、例えば特許文献1に記載されるように、噴霧造粒法に適するよう適宜調整することが好ましい。
【0041】
造粒工程は、噴霧造粒法(スプレードライ法)を利用して、スラリーから造粒粉を得る工程である。具体的には、上記スラリーを乾燥雰囲気中に噴霧し、乾燥させることで、複数の造粒粒子を造粒(成形)する。この手法では、噴霧される液滴中に含まれる粒子が概ね1つの塊になって造粒される。本発明者の検討によれば、特に噴霧造粒法を経由する場合、原料のD50粒径が小さすぎると、得られる高Ni含有リチウム複合酸化物に微粉が多く混ざり、サイクル特性が低下しがちである。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。造粒の条件や造粒粉のD50粒径は、従来と同様でよく、さらにスラリーの性状等によって適宜に調整できる。これにより、典型的には、高Ni含有リチウム複合酸化物に含まれるすべての金属元素(すなわち、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の場合は、Li、Ni、Co、Mn)を各造粒粒子にそれぞれ含んだ造粒粉を好適に得ることができる。
【0042】
なお、第2実施形態では、造粒の手法として、噴霧造粒法を採用しているが、他の実施形態において、他の従来公知の造粒方法、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法等を採用することもできる。
【0043】
焼成工程は、上記造粒工程で得られた造粒粉を焼成する工程である。焼成条件は、上記した第1実施形態の混合物調製工程と同様であってよく、さらに造粒粉の性状等によって適宜に調整できる。第2実施形態では、このようにして高Ni含有リチウム複合酸化物を得ることができる。
【0044】
〔リチウムイオン二次電池〕
上記製造方法によって得られた正極活物質は、微粉の混入が抑えられ、リチウムイオン二次電池への使用に適したものである。したがって、正極活物質を含有するリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れたものとなり、長期に亘って高いエネルギー密度を維持できるものとなる。
【0045】
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の内部構造を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の電極体20と、非水電解質80とが、扁平な角形の電池ケース30に収容され密閉されてなる角型電池である。なお、図1は、例示であり図示されたものに限定されない。リチウムイオン二次電池は、他の実施形態において、コイン型、ボタン型、円筒型、ラミネートケース型等であってもよい。
【0046】
電池ケース30は、電極体20と非水電解質80とを収容する外装容器である。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。電池ケース30の外表面には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36と、が設けられている。正極端子42は正極集電板42aと電気的に接続され、負極端子44は負極集電板44aと電気的に接続されている。
【0047】
電極体20は、ここでは、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の帯状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態の捲回電極体である。ただし、他の実施形態において、電極体は、矩形状の正極と矩形状の負極とが矩形状のセパレータを介して積層されてなる積層電極体であってもよい。図1に一部破断して示すように、正極シート50は、帯状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に、長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、帯状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に、長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。
【0048】
電極体20の捲回軸方向(上記長手方向に直交する幅方向)の両端には、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した正極活物質層非形成部分52a、および負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した負極活物質層非形成部分62aが、外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aは、それぞれ集電部として機能する。正極活物質層非形成部分52aには、正極集電板42aが設けられ、負極活物質層非形成部分62aには、負極集電板44aが設けられている。なお、正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aの形状は、図示例のものに限られない。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aは、所定の形状に加工された集電タブとして形成されていてもよい。
【0049】
正極集電体52は、ここでは帯状である。正極集電体52は、金属製であることが好ましく、金属箔からなることがより好ましい。正極集電体52は、ここではアルミニウム箔である。正極活物質層54は、少なくともここに開示される製造方法によって製造された正極活物質(高Ni含有リチウム複合酸化物)を含んでいる。正極活物質層54は、ここに開示される製造方法によって製造された正極活物質以外の種類の正極活物質をさらに含んでもよい。正極活物質層54に含まれる正極活物質全体を100質量%としたときに、ここに開示される製造方法によって製造された正極活物質の割合は、概ね50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、例えば85~100質量%であるとよい。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。
【0050】
正極活物質層54は、さらに正極活物質以外の添加成分を含んでもよい。添加成分としては、例えば、導電材、バインダ、リン酸三リチウム等が挙げられる。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、グラファイト等の炭素材料が挙げられる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂が挙げられる。
【0051】
特に限定されないが、正極活物質層54の全体を100質量%としたときに、正極活物質の割合は、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80~99質量%であり、さらに好ましくは85~98質量%である。導電材の割合は、0.5~15質量%が好ましく、例えば1~10質量%、さらには1~5質量%がより好ましい。バインダの割合は、0.5~15質量%が好ましく、例えば0.8~10質量%、さらには1~5質量%がより好ましい。
【0052】
負極集電体62は、ここでは帯状である。負極集電体62は、金属製であることが好ましく、金属箔からなることがより好ましい。負極集電体62は、ここでは銅箔である。負極活物質層64は負極活物質を含んでいる。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。負極活物質層64は、負極活物質以外の添加成分を含んでもよい。添加成分としては、例えば、バインダ、増粘剤等が挙げられる。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)等のゴム類、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂が挙げられる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース類が挙げられる。
【0053】
セパレータシート70は、ここでは帯状である。セパレータシート70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル等の樹脂製の多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータシート70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0054】
非水電解質80は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する非水電解液である。ただし、他の実施形態において、ポリマー電解質であってもよい。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類等の有機溶媒を、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が挙げられる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF等のリチウム塩が挙げられる。
【0055】
このようなリチウムイオン二次電池100は、上記製造方法によって製造された正極活物質(高Ni含有リチウム複合酸化物)を用いて正極シート50を作製する正極作製工程を含む、製造方法によって製造することができる。
【0056】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能であるが、エネルギー密度が高くかつサイクル特性にも優れることから、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。
【0057】
以下、本発明に関する例を説明するが、本発明をかかる例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0058】
<水酸化ニッケルの用意>
比較例1~4、例1~24では、まず、粉砕原料として市販の水酸化ニッケル(二次粒子状)を用意した。これをボールミルで粉砕し、このときのボールミルのボール径と回転数、粉砕時間を異ならせることにより、水酸化ニッケルの性状(特にはBET比表面積と粒度分布)を調整した。具体的には、BET比表面積を高める、あるいはD50粒径を小さくする場合には、回転数を高くしたり、粉砕時間を長くしたり、ボール径を小さくした。また、粒度分布を広くする場合には、回転数を低くしたり、粉砕時間を短くしたりした。さらに、乾式の分級機を用い、分級点を調整することによって粒度分布(具体的には最大粒子径)を調整し、それぞれ性状の異なる水酸化ニッケル(比較例1~4、例1~24)を用意した。
【0059】
<水酸化ニッケルの性状の測定>
・BET比表面積
吸着質ガスとして窒素を用い、市販の比表面積・細孔径分析装置を使用して、定容量式吸着法により各例の水酸化ニッケルのBET比表面積を測定した。結果を表1に示す。
・粒度分布
まず、市販のレーザ回折・散乱式の粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製の、型式「LA-950」)を用意して、測定セルに、試料(水酸化ニッケル)と純水(溶媒)を投入した。次に、測定セルに超音波を4分間照射して前処理した後、屈折率1.240-0、水溶媒(屈折率1.333)で、透過モードにて測定を行った。そして、付属の解析ソフトウエアを用いて、D50粒径(メジアン径)と、モード径およびその頻度と、D20粒径に対するD50粒径の比(D50粒径/D20粒径)と、を算出した。結果を表1に示す。また代表例として、図2Aには、例16の頻度分布を示し、図2Bには、例16の積算分布を示す。なお、頻度分布は、ここでは粒子径幅を1μmとしている。
【0060】
<正極活物質の準備>
比較例1~4、例1~23では、乾式混合法により混合物を調製し、得られた混合物を固相反応法で反応させた。具体的には、まず粒度調整後の粉末状の水酸化ニッケル(Ni源)と、CoCO(Co源)と、MnCO(Mn源)とを予備混合し、得られた予備混合物にLiCO(Li源)を添加し、さらに混合して、混合物を得た。なお、Li以外の金属元素(Ni+Co+Mn)の原子量の合計に対するNiの原子量比は、表1に示す値とした。また、遷移金属元素(Ni+Co+Mn)の原子量の合計に対するLiの原子量の割合(Li/遷移金属比)は、1.05atm%とした。その後、得られた混合物を、酸素雰囲気下において、900℃で10時間焼成した。これにより、高Ni含有リチウム複合酸化物(正極活物質)を得た。
【0061】
例24では、噴霧造粒法を利用して造粒粉を得て、得られた造粒粉を固相反応法で反応させた。具体的には、まず粒度調整後の粉末状の水酸化ニッケル(Ni源)と、CoCO(Co源)と、MnCO(Mn源)とを予備混合し、得られた予備混合物にLiCO(Li源)を添加し、さらに混合して、混合物を得た。なお、Li以外の金属元素(Ni+Co+Mn)の原子量の合計に対するNiの原子量比は、表1に示す値とした。また、遷移金属元素(Ni+Co+Mn)の原子量の合計に対するLiの原子量の割合(Li/遷移金属比)は、1.05atm%とした。次いで、得られた混合物を水中に分散し、スラリーを調製した。このスラリーを乾燥雰囲気中に噴霧し、乾燥させることで、造粒粉を造粒した。その後、得られた造粒粉を、酸素雰囲気下において、900℃で10時間焼成した。これにより、高Ni含有リチウム複合酸化物(正極活物質)を得た。
【0062】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記で得られた正極活物質(高Ni含有リチウム複合酸化物)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、正極活物質:AB:PVdF=85:10:5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極活物質層形成用スラリーを調製した。次に、この正極活物質層形成用スラリーを、アルミニウム箔(正極集電体)の表面に塗布し、乾燥することにより、正極シートを作製した。
【0063】
また、負極活物質としての黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比で混合し、イオン交換水を適量加えて、負極活物質層形成用スラリーを調製した。この負極活物質層形成用スラリーを、銅箔(負極集電体)の表面に塗布し、乾燥することにより、負極シートを作製した。
【0064】
また、セパレータとして、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。次に、正極シートと負極シートとを、セパレータを介在させた状態で重ね合わせて、電極体を作製した。次に、電極体に電極端子を取り付け、これを電池ケースに挿入して、非水電解液を注液した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、EC:DMC:EMC=30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。その後、電池ケースを封止することによって、各例に係る評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0065】
<リチウムイオン二次電池の活性化処理>
まず、各例に係る評価用リチウムイオン二次電池を活性化処理した。具体的には、各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの充電レートで4.2Vまで定電流充電した後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電して、満充電状態(SOC100%の状態)とした。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電した。
【0066】
<初期抵抗の測定>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を、SOC50%の状態に調整した。そして、25℃の環境下において、100mAの電流値で10秒間放電し、電圧降下量ΔVを求めた。かかる電圧降下量ΔVを放電電流値(100mA)で除して、電池抵抗を算出し、これを初期抵抗とした。
【0067】
<抵抗上昇率の測定>
各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の環境下に置き、1Cの充電レートで4.1Vまで定電流充電した後、1Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電する充放電を1サイクルとして、200サイクル繰り返した。そして、200サイクル後の電池抵抗を初期抵抗と同様に測定し、次の式:(200サイクル後の電池抵抗/初期抵抗)×100;から、サイクル後の抵抗上昇率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果より、用意工程において、BET比表面積が10m/g未満、あるいは30m/gを超える水酸化ニッケルを使用した比較例2,3、用意工程において、D50粒径が2μm未満、あるいは10μmを超える水酸化ニッケルを使用した比較例4,5は、サイクル後の抵抗上昇率が相対的に高かった。この理由として、水酸化ニッケルのBET比表面積が10m/g未満(具体的には5m/g)である比較例2、および水酸化ニッケルのD50粒径が10μmを超える(具体的には13μmである)比較例5では、固相反応の際に粒子同士がうまく接着ないし付着されず、高Ni含有リチウム複合酸化物に微粉が多く混ざったことで、固液界面の反応性が高くなったり、正極活物質の表面に多くの被膜が形成されたりしたことが考えられる。また、水酸化ニッケルのBET比表面積が30m/gを超える(具体的には40m/g)である比較例3、および水酸化ニッケルのD50粒径が2μm未満(具体的には1μmである)比較例4では、得られる高Ni含有リチウム複合酸化物に微粉が多く残留したことで、固液界面の反応性が高くなったり、正極活物質の表面に多くの被膜が形成されたりしたことが考えられる。
【0070】
また、Li以外の金属元素の原子量の合計に対するNiの原子量の割合が、50atm%未満(具体的には45atm%)である比較例1は、ここに開示される技術の効果が十分発揮されていなかった。
【0071】
これら比較例に対して、Li以外の金属元素の原子量の合計に対するNiの原子量の割合が50atm%以上であり、用意工程において、(1)BET比表面積が10~30m/g、かつ(2)D50粒径が2~10μmの水酸化ニッケルを使用した例1~24では、相対的にサイクル後の抵抗上昇率が抑えられ、サイクル特性が向上していることがわかる。かかる結果は、ここに開示される発明の技術的意義を示すものである。
【0072】
なかでも、用意工程において、(3)モード径がD50粒径よりも大きい水酸化ニッケルを使用した例9~24では、サイクル後の抵抗上昇率が200%以下に抑えられていた。また、用意工程において、(4)モード径の頻度が10~20体積%であり、かつ(5)D20粒径に対するD50粒径の比が1.1~1.9である水酸化ニッケルを使用した例12~20,24では、サイクル後の抵抗上昇率が180%以下に抑えられていた。さらに、噴霧造粒法を利用して正極活物質を作製した例24では、サイクル後の抵抗上昇率が最も低く抑えられていた。
【0073】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:Li以外の金属元素の原子量の合計に対するNiの原子量の割合が、50atm%以上であるNi含有リチウム複合酸化物を含む正極活物質の製造方法であって、Ni源として、窒素吸着法に基づくBET比表面積が10m/g以上30m/g以下であり、かつレーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積50体積%に相当するD50粒径が2μm以上10μm以下である、粉末状の水酸化ニッケルを用意する用意工程と、少なくとも上記水酸化ニッケルとLi源とを混合して焼成することにより、固相反応法でNi含有リチウム複合酸化物を得る反応工程と、を含む、正極活物質の製造方法。
項2:上記水酸化ニッケルは、上記粒度分布におけるモード径が、上記D50粒径よりも大きい、項1に記載の製造方法。
項3:上記水酸化ニッケルは、上記粒度分布において、モード径の頻度が、10体積%以上20体積%以下であり、かつ、粒径の小さい方から累積20体積%に相当するD20粒径に対する、上記D50粒径の比(D50粒径/D20粒径)が、1.1以上1.9以下である、項1または項2に記載の製造方法。
項4:上記反応工程は、少なくとも上記水酸化ニッケルと上記Li源とを乾式混合して、混合物を得る混合物調製工程と、上記混合物を焼成する焼成工程と、を含む、項1~項3のいずれか一つに記載の製造方法。
項5:上記反応工程は、少なくとも上記水酸化ニッケルと上記Li源とを溶媒中に分散して、スラリーを調製するスラリー調製工程と、噴霧造粒法によって上記スラリーを噴霧乾燥し、造粒粉を得る造粒工程と、上記造粒粉を焼成する焼成工程と、を含む、項1~項3のいずれか一つに記載の製造方法。
項6:上記Ni含有リチウム複合酸化物が、Ni以外の遷移金属をさらに含み、上記反応工程において、上記水酸化ニッケルと、Li源と、Ni以外の遷移金属源と、を混合する、項1~項5のいずれか一つに記載の製造方法。
項7:項1~項6のいずれか一つに記載の製造方法によって製造された正極活物質を用いて正極を作製する正極作製工程を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【0074】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0075】
20 電極体
30 電池ケース
50 正極シート(正極)
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
64 負極活物質層
80 非水電解質
100 リチウムイオン二次電池
S1 用意工程
S2 反応工程
図1
図2