(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125815
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】茹で卵黄様食品素材
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240911BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20240911BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20240911BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20240911BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
A23L5/00 L
A23L15/00 Z
A23J3/14
A23L5/00 M
A23L29/238
A23L15/00 A
A23D7/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033895
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公祐
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀章
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 由里菜
【テーマコード(参考)】
4B026
4B035
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC05
4B026DG04
4B026DP01
4B026DP03
4B026DX04
4B035LC03
4B035LC06
4B035LE02
4B035LE04
4B035LG12
4B035LG14
4B035LG15
4B035LG23
4B035LG54
4B035LK01
4B035LK04
4B035LP01
4B035LP21
4B041LC03
4B041LD01
4B041LH07
4B041LK13
4B041LK15
4B041LK18
4B041LK24
4B041LK25
4B041LP01
4B041LP04
4B042AC04
4B042AD37
4B042AE03
4B042AE08
4B042AK06
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK13
4B042AK16
4B042AP02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】卵を殻付のまま加熱して得られる茹で卵の卵黄や、割卵する時に卵黄膜を破らずに加熱して得られる凝固卵黄で感じる、ホクホクとした食感は良好である。このホクホク感を有した卵黄様食品素材を、植物性の原料を用いて、容易な工程で提供する。
【解決手段】粉末状豆類たん白素材10質量部、水25~60質量部および油脂を含む水中油型乳化物に、豆類由来水溶性多糖類を添加し、成型後に加熱することで、茹で卵黄様食品素材を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状豆類たん白素材10質量部、水25~60質量部、油脂、および豆類由来水溶性多糖類を含む水中油型乳化物である、茹で卵黄様食品素材。
【請求項2】
粉末状豆類たん白素材10質量部、水25~60質量部、油脂、および豆類由来水溶性多糖類を含む水中油型乳化物を加熱する、茹で卵黄様食品素材の製造方法。
【請求項3】
粉末状豆類たん白素材10質量部、水25~60質量部、および油脂を含む水中油型乳化物に、豆類由来水溶性多糖類を添加し加熱する、茹で卵黄様食品の製造方法。
【請求項4】
卵を含まないものである、請求項1に記載の茹で卵黄様食品素材。
【請求項5】
卵を使用しない、請求項2または請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茹で卵黄様の食感を有する食品素材に関する。
【背景技術】
【0002】
卵を殻付のまま加熱して得られる茹で卵の卵黄や、割卵する時に卵黄膜を破らずに加熱して得られる凝固卵黄で感じる、ホクホクとした食感は良好である。しかしながら、割卵し卵黄膜を破壊した後加熱凝固した卵黄は、弾力に富むゴム様の食感となり、ゆで卵黄独特の良好な食感が感じられない。
特許文献1には、卵液と平均粒子径50~500μmとした水不溶性蛋白質を混合し加熱凝固させて、硬ゆで卵の卵黄部と同等のホクホク感を有する凝固卵を得ることが提案されている。特許文献2には、大豆たん白素材とカルシウム等を混合し、加熱凝固・攪拌することで、ホクホクした食感を持つ茹で卵黄様食品が得られる旨が、特許文献3には、壊れていない細胞壁に囲まれた植物性の粒子で構成された茹で卵黄様食品が、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-304866号公報
【特許文献2】国際公開2008/001588号パンフレット
【特許文献3】特開平11-308968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2に開示された技術では、煩雑な工程を必要とする一方で、卵黄の一部置換に留まり、全置換には至っていない。特許文献3は特殊な製造方法を必要とするものである。本発明の目的は、茹で卵黄のホクホク感を有した卵黄様食品素材を、植物性の原料を用いて、簡易な工程で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、粉末状豆類たん白素材を用いた水中油型乳化物に、豆類由来水溶性多糖類を併用し加熱することで、ホクホク感を有する食感を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は
(1)粉末状豆類たん白素材10質量部、水25~60質量部、油脂、および豆類由来水溶性多糖類を含む水中油型乳化物である、茹で卵黄様食品素材。
(2)粉末状豆類たん白素材10質量部、水25~60質量部、油脂、および豆類由来水溶性多糖類を含む水中油型乳化物を加熱する、茹で卵黄様食品素材の製造方法。
(3)粉末状豆類たん白素材10質量部、水25~60質量部、および油脂を含む水中油型乳化物に、豆類由来水溶性多糖類を添加し加熱する、茹で卵黄様食品の製造方法。
(4)卵を含まないものである、(1)に記載の茹で卵黄様食品素材。
(5)卵を使用しない、(2)または(3)に記載の製造方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、卵黄様のホクホク感を有する素材を、植物性の原料で調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(茹で卵黄様食品素材)
茹で卵黄様食品素材とは、卵黄膜を破らずに加熱して得られる凝固卵黄に特有のホクホクした食感を有する素材である。具体的には茹で卵黄様食品以外にも目玉焼きの卵黄様食品が例示されるが、本発明ではこれらを総称して代表例である「茹で卵黄様食品素材」と称する。
【0009】
(粉末状豆類たん白素材)
本発明の「粉末状豆類たん白素材」とは、豆類を原料とした蛋白質を主体とする食品素材であって粉末状のものである。豆類とは特に限定されるものではないが、小豆,緑豆,ササゲ,金時豆,花豆,インゲンマメ,バタービーン,ソラマメ,エンドウ,ヒヨコマメ,イナゴマメ,ナタマメ,ルパン豆,レンズマメ,大豆,落花生等が例示できる。好ましくは大豆またはエンドウであり、最も好ましくは大豆である。
典型的な例として大豆の場合の、粉末状大豆たん白素材を説明する。大豆原料として脱脂大豆フレークを用い、これを適量の水中に分散させて水抽出を行い、繊維質を主体とする不溶性画分いわゆるオカラを除去して、抽出大豆たん白(脱脂豆乳)を得る。
該抽出大豆たん白を塩酸等の酸によりpH4.5前後に調整し、蛋白質を等電点沈澱させて酸不溶性画分(カード)を回収し、これを再度適量の水に分散させてカード懸濁物(スラリー)を得、水酸化ナトリウム等のアルカリにより中和することで中和スラリーである分離大豆たん白を得る。これらの抽出大豆たん白や分離大豆たん白の溶液を高温加熱処理装置によって加熱殺菌した後、該殺菌液をスプレードライヤー等により噴霧乾燥することによって、粉末状大豆たん白素材を得ることができる。
ただし、上記の製造法に限定されるものではなく、大豆蛋白質の純度が大豆原料から高められる方法であればよい。また脱脂大豆からエタノールや酸によりホエーを除去して得られる濃縮大豆たん白も粉末状大豆たん白素材に含まれる。これらのうち、分離大豆たん白は、蛋白質含量が通常固形分中90質量%程度と高い点において、抽出大豆たん白よりもよく利用されており、本発明への使用にも好ましい。
【0010】
(固形分中の蛋白質含量)
本粉末状豆類たん白素材は、固形分中の粗蛋白質含量が80質量%以上が好ましい。85質量%以上又は90質量%以上が更に好ましい。該粗蛋白質含量が高いほど、黄身様食品としての物性が、黄身に近いものとなる。
粗蛋白質含量はケルダール法により測定する。具体的には、蛋白素材重量に対して、ケルダール法により測定した窒素の質量を、乾燥物中の粗蛋白質含量として「質量%」で表す。なお、窒素換算係数は6.25とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0011】
(豆類由来の水溶性多糖類)
本発明でいう豆類由来の水溶性多糖類とは、豆類の種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。豆類とは特に限定されるものではないが、小豆,緑豆,ササゲ,金時豆,花豆,インゲンマメ,バタービーン,ソラマメ,エンドウ,ヒヨコマメ,イナゴマメ,ナタマメ,ルパン豆,レンズマメ,大豆,落花生等が例示できる。本発明で使用する豆類由来の水溶性多糖類としては、特に水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類が好ましく、大豆水溶性多糖類が最も好ましい。
【0012】
(水溶性大豆多糖類)
本発明でいう水溶性大豆多糖類とは大豆種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。好ましくは大豆種子の子実部から抽出されたものであり、更に好ましくは豆腐や分離大豆たん白などを生産する場合に副産物として生じるオカラから抽出されたものである。脱脂大豆から得られたオカラを使用するのが更に好ましい。その製造法は、例えばオカラを原料とし、アルカリ性域乃至は弱酸性域の条件下で100℃を超える温度で抽出し、固液分離することにより得られる。商品名としてはソヤファイブ-S(不二製油株式会社製)が例示される。
【0013】
(水溶性エンドウ多糖類)
本発明でいう水溶性エンドウ多糖類とは、エンドウ豆種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。好ましくはエンドウ豆種子の子実部から抽出されたものであり、更に好ましくは黄色エンドウの種子から抽出されたものである。その製造法は、例えば国際公開2012/176852号パンフレットに記載される製造例で得ることが出来る。商品名としてはFIPEA-D(不二製油株式会社製)が例示される。
【0014】
(油脂)
本発明には、各種の油脂を使用することができる。具体的には、大豆油,菜種油,米油,コーン油,パーム油,牛脂,豚脂,及びこれらの分別油,硬化油,エステル交換油等をあげることができ、これらを適宜選択し、使用できる。好ましくは常温で液体の油脂である。
【0015】
(生地の調製)
粉末状豆類たん白素材10質量部に対し、水を25~60質量部加水する。豆類たん白素材が大豆の場合は、35~55質量部が好ましく、40~55質量部が最も好ましい。エンドウの場合は、25~40質量部が好ましい。加水後に全体を攪拌均質化した後に、必要量の油脂を、好ましくは2.5~25質量部、更に好ましくは5~15質量部添加し、更に攪拌均質化することで水中油型の乳化物の生地を調製する。攪拌にはミキサー,フードプロセッサー,サイレントカッター,ハンドブレンダー,ステファンミキサー等を用いてシェアをかけることが好ましい。
油脂は粉末状豆類たん白素材および水と同時に添加することも可能であるが、上記の様にたん白の懸濁物(スラリー)を調製後に添加する方が、乳化状態が良好となり、好ましい。
【0016】
(水溶性多糖類の添加)
上記の生地を作成後、または生地の調製時に、水溶性多糖類を添加する。添加量は粉末状豆類たん白素材10質量部に対し、0.1~2質量部である。0.15~1.5質量部が好ましく、0.3~0.7質量部が最も好ましい。水溶性多糖類の添加後、再び攪拌を行い多糖類添加生地を均質化する。また、水溶性多糖類は同時ではなく、他の原材料を混合した後、生地調製の最終段階で添加することで、より茹で卵黄様の物性となり、好ましい。
【0017】
(色素)
卵黄様素材として使用するには、卵黄様の色調を帯びていることが好ましい。そこで色素を添加することができる。色素としては、カロチン,ウコン,クチナシ,コチニール,ベニコウジ,タール系等の色素や着色剤が挙げられる。使用量は、用いる物により異なるので限定できないが、主に黄色~朱色である卵黄様素材の色調として、適切な量であれば良い。
【0018】
(他の添加物)
生地には、上記以外の糖質,澱粉,甘味料,香辛料,塩,風味付与材,調味料、また、カボチャ,サツマイモ,白いんげん等の粒感を有した素材や、カボチャ,パブリカ,人参等の色素成分を有した素材等の他の成分を、本発明の効果を妨げない範囲で添加することもできる。この添加は本乳化物調製工程の前後で行うことができる。また、鶏卵等の卵を使用しないものが好ましく、動物性原料を使用しないものが更に好ましい。
【0019】
(加熱)
多糖類を添加した生地を加熱する。生地はケーシング等に充填したり、型を使用すること等で、所望の形態に予め成型しておくこともできる。加熱は粉末状豆類たん白素材がゲル化する温度であれば良く、粉末状大豆たん白素材の場合は70~100℃,10~90分間が例示できる。加熱には蒸し加熱,ボイル加熱,焼成加熱等の手段を適宜選択ないしは組み合わせて用いることができる。加熱放冷後は冷凍することができる。
【0020】
(利用)
生地を加熱した固化物は、茹で卵黄様のホクホクした食感を有し、卵黄の代替物として使用できる。具体的には、そのまま茹で卵代替としての使用や、サラダ,トッピング,ソース等に使用することができる。
また、卵白または白身代替物と併せることで、茹で卵や目玉焼きの代替物の調製も可能となる。
【実施例0021】
以下に実施例を記載することで本発明を説明する。文中の数値は特に断りのない限りは、全て質量部または質量%を表す。
【0022】
○副原料の比較(実施例1~2,比較例1~7)
粉末状大豆たん白素材,水,菜種油を表1の配合で加え、フードプロセッサー(ロボクープ社製)で5分間撹拌した。ここに各種の多糖類またはペプチド等の副原料を加え、若しくは加えず、調味料,色素を加えて更に攪拌し、生地を調製した。
これら生地をφ35cmのケーシングに充填し、95℃,15分間ボイルすることで固化した。冷却した各試料は、20mm厚に切断し官能評価に供した。
尚、試料には以下のものを用いた。粉末状大豆たん白素材(フジプロFR,粗蛋白質含量92質量%,不二製油社製),水溶性大豆多糖類(ソヤファイブ-S-DN,不二製油社製),水溶性エンドウ多糖類(Fipea-D,不二製油社製),シトラスファイバー(シトリファイ,鳥越製粉社製),イソマルトデキストリン(ファイバリクサ,林原社製),イヌリン(Fuji FF,フジ日本精糖社製),難消化性デキストリン(ファイバーソル,松谷化学工業社製),大豆ペプチド(ハイニュートAMF,不二製油社製),デキストリン(サンデック,三和澱粉工業社製),アミノ酸(スーパー04,富士食品工業社製),酵母エキス(ハイマックスSA・富士食品工業社製),カロチン(リケンカロテンNDC-50,理研ビタミン社製)。
【0023】
(官能評価)
熟練したパネラー5名にて官能評価を行った。茹で卵黄様のホクホクした食感の有無を基に食感を総合的に評価し、合議により判定した。以下の様に評価を行い、◎~△評価を合格とした。
◎:卵黄様で積極的に利用できる
○:卵黄様として利用できる
△:卵黄様として代替は可能
×:卵黄様ではない
【0024】
表1下段に結果を示した。水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類以外の多糖類,糖類およびペプチドでは、茹で卵黄様のホクホクした食感を得ることができなかった。
【0025】
【0026】
○水添加量の検討(実施利3~4,比較例8~10)
実施例1と同様に、表2の配合にて試料を調製し評価した。尚、実施例4は実施例1と同配合であり、粉末状大豆たん白素材,水,油を混合する際に、同時に水溶性大豆多糖類を添加した。比較例10は油を添加せず、粉末状大豆たん白素材と水で作製した懸濁物(スラリー)に水溶性大豆多糖類を添加した。
結果を表2下段に示した。粉末状大豆たん白素材10質量部に対する水添加量は、43~50質量部(実施例1,3)で可能なことが確認できた。また、水溶性大豆多糖類を副原料と同時に添加混合した実施例4は、生地調製の最終段階で添加した実施例1に比べ、固化物であるゲルがやや緩いものだった。油を添加しない比較例10は、崩れやすいゲルで、不適であると判断した。
【0027】
○表2 水添加量及び水溶性大豆多糖類の添加時期の検討
【0028】
○水溶性大豆多糖類添加量の検討(実施例5~7)
実施例1と同様に、表3の配合にて試料を調製し評価した。結果を表3下段に示したが、今回試験した水溶性大豆多糖類の全ての配合で効果が認められた。但し、水溶性大豆多糖類の配合が極端に多い実施例7は、ねちゃつきのある物性だった。
【0029】
【0030】
○他たん白素材の検討(実施例8,比較例11)
実施例1と同様に、粉末状エンドウたん白素材(NUTRALYS F85M, ロケットジャパン社製)を使用して、表4の配合にて試料を調製し評価した。結果を表4下段に示したが、エンドウたん白でも、大豆に近い物性を有した、茹で卵黄様食品素材を得ることが出来た。
【0031】
本発明により、茹で卵黄様の食品素材を植物性の原材料を用いて製造することが可能となった。通常の卵黄でホクホク感を保持する為の卵黄膜の保護が不要で、作業性が高いことは産業上の大きな利点となる。また、卵黄はコレステロール含量が高く、これを忌避する対象者も少なくない為、多くの需要に対応することができる。