(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125835
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】電動車椅子
(51)【国際特許分類】
A61G 5/06 20060101AFI20240911BHJP
A61G 5/04 20130101ALI20240911BHJP
【FI】
A61G5/06
A61G5/04 701
A61G5/04 707
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033926
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 陽太郎
(72)【発明者】
【氏名】川崎 宏治
(72)【発明者】
【氏名】仙波 快之
(57)【要約】
【課題】従来よりも高い段差を上ることができる電動車椅子を提供する。
【解決手段】本明細書が開示する電動車椅子は、椅子と、椅子の両側に配置されておりモータで駆動される主輪と、前支持棒と、後支持棒と、コントローラを備える。前支持棒は、椅子の前方へ延びており、アクチュエータによって前端部が上下に揺動する。後支持棒は、椅子の後方へ延びており、アクチュエータによって後端部が上下に揺動する。コントローラは、前方に上りの段差がある場合、次のシーケンスで前支持棒と後支持棒と主輪を制御する。(1)後端部を持ち上げて椅子を後傾させるとともに前端部を段差よりも高く持ち上げる。(2)前端部が段差の上に位置するように主輪で前進する。(3)後端部を下げて主輪を持ち上げるとともに、椅子の後傾を元に戻す。(4)主輪が段差の側面に当接するまで前端部を上げる。(5)主輪を正回転させて椅子を段差の上へ移動させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子と、
前記椅子の両側に配置されており、モータで駆動される主輪と、
前記椅子の前方へ延びており、前端部が上下に揺動する前支持棒と、
前記椅子の後方へ延びており、後端部が上下に揺動する後支持棒と、
前記前支持棒と前記後支持棒と前記主輪を制御するコントローラと、
を備えており、
前記コントローラは、前方に上りの段差がある場合、前記前支持棒と前記後支持棒と前記主輪を制御して、
(1)前記後端部を上げて前記椅子を後傾させるとともに前記前端部を前記段差よりも高く上げ、
(2)前記前端部が前記段差の上に位置するように前記主輪で前進し、
(3)前記後端部を下げて主輪を持ち上げるとともに、前記椅子の前記後傾を元に戻し、
(4)前記主輪が前記段差の側面に当接するまで前記前端部を上げ、
(5)前記主輪を正回転させて前記椅子を前記段差の上へ移動させる、
電動車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電動車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の電動車椅子は、段差を上ることができる。特許文献1の電動車椅子は、椅子の両側に配置されている主輪と、椅子から後方へ延びている支持棒を備える。主輪はモータで駆動される。支持棒の後端部がアクチュエータによって上下に揺動する。この電動車椅子は、支持棒の後端部を床(階段)に接地させて椅子の後方回転を防ぎつつ、主輪の駆動力で段差を上ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、段差の高さが高すぎると段差を上ることができない。本明細書は、従来の電動車椅子が上ることができる最大高さよりも高い段差を上ることができる電動車椅子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する電動車椅子は、椅子と、椅子の両側に配置されている主輪と、前支持棒と、後支持棒と、コントローラを備える。主輪はモータで駆動される。前支持棒は、椅子の前方へ延びており、アクチュエータによって前端部が上下に揺動する。後支持棒は、椅子の後方へ延びており、アクチュエータによって後端部が上下に揺動する。コントローラは、前方に上りの段差がある場合、次のシーケンスで前支持棒と後支持棒と主輪を制御する。(1)後端部を上げて椅子を後傾させるとともに前端部を段差よりも高く上げる。(2)前端部が段差の上に位置するように主輪で前進する。(3)後端部を下げて主輪を持ち上げるとともに、椅子の後傾を元に戻す。(4)主輪が段差の側面に当接するまで前端部を上げる。(5)主輪を正回転させて椅子を段差の上へ移動させる。なお、「正回転」とは、前進する側の回転を意味する。
【0006】
本明細書が開示する電動車椅子では、(4)の動作で主輪が段差に接したとき、主輪は段差手前の床から(例えば)Hだけ浮き上がっている。従来の電動車椅子が上れる段差の最大高さがSの場合、本明細書が開示する電動車椅子は、(S+H)の高さの段差を上ることができる。
【0007】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例の電動車椅子の側面図である(段差を上る前)。
【
図2】実施例の電動車椅子の側面図である(シーケンス(1):椅子を後傾させつつ前端部を上げる)。
【
図3】実施例の電動車椅子の側面図である。
図3(A)は、シーケンス(2)の図であり、
図3(B)はシーケンス(3)の図であり、
図3(C)はシーケンス(4)の図である。
【
図4】実施例の電動車椅子の側面図である(シーケンス(5):さらに前進)。
【
図5】段差に上るときの主輪と段差の関係を説明する図である。
【
図6】高さSの段差に上る場合に主輪を持ち上げるべき高さHの条件を説明する図である。
【
図7】段差の高さを計測するセンサの一例の図である。
【
図8】段差の高さを計測するセンサの別の例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照しつつ実施例の電動車椅子を説明する。
図1に実施例の電動車椅子10の側面図を示す。実施例の電動車椅子10は、椅子11、主輪12、モータ13を備える。主輪12は、椅子11の両側に配置されており、モータ13で駆動される。なお、
図1(および以降の図)では、電動車椅子10の構造がよくわかるように、主輪12は破線で描いてあり、主輪12の奥側に位置するデバイス(本来は主輪12に隠れて見えないデバイス)を実線で描いてある。
【0010】
電動車椅子10は、ほかに、前支持棒14、後支持棒15、アクチュエータ16、17を備えている。前支持棒14は、椅子11の前方へ延びている。前支持棒14の後端はピボット18に揺動可能に支持されている。椅子11と前支持棒14との間にはアクチュエータ16が取り付けられている。アクチュエータ16は直動型であり、伸縮すると、前支持棒14の前端部14aが上下に揺動する。
【0011】
後支持棒15は椅子11の後方へ延びている。後支持棒15の前端はピボット18に揺動可能に支持されている。椅子11と後支持棒15との間にはアクチュエータ17が取り付けられている。アクチュエータ17は直動型であり、伸縮すると、後支持棒15の後端部15aが上下に揺動する。ピボット18は、主輪12の軸12aよりも後ろであって、軸12aよりも下側に位置する。別言すれば、ピボット18は軸12aの後下方に位置する。
【0012】
後支持棒15の後端部15aは、そりの形状を有している。後端部15aは、床Fに接する。後端部15aを上下に動かすことで、椅子11の傾斜角(軸12aを中心とした椅子11の回転角)を変えることができる。
【0013】
モータ13とアクチュエータ16、17は、コントローラ20によって制御される。コントローラ20は、椅子11に内蔵されている。また、各種センサ21も椅子11に取り付けられている。センサ21には、電動車椅子10の速度を計測する車速センサ、椅子11の傾斜角を計測する角度センサ、前方の段差を検知する前方障害物センサなどが含まれる。個々のセンサの図示は省略した。
【0014】
電動車椅子10は、前支持棒14と後支持棒15を巧みに使い、従来の電動車椅子が上ることのできる段差よりも高い段差を上ることができる。
図2-
図4を用いて、電動車椅子10が段差を上るときの制御シーケンスを説明する。
【0015】
シーケンス(1):後端部15aを持ち上げて椅子11を後傾させるとともに前端部14aを段差90よりも高く持ち上げる。
図2の太い矢印線がシーケンス(1)のときの動作を示している。コントローラ20は、アクチュエータ17を縮ませ、後端部15aが持ち上がるように後支持棒15を揺動させる。電動車椅子10の重心(着座しているユーザの質量を含む)は、軸12aよりも後方に位置しており、後支持棒15は椅子11が後回転しないように支えている。後端部15aが持ち上がると、椅子11は後傾する。同時に前支持棒14の前端部14aが持ち上がる。椅子11が後傾すると、軸12aの位置Ceとピボット18の位置Pvの間の水平方向の距離dEが短くなる。また、椅子11を後傾させただけでは前支持棒14の前端部14aが段差90よりも高くならない場合には、コントローラ20は、前端部14aが上がるようにアクチュエータ16を制御する。
【0016】
シーケンス(2):前端部14aが段差90の上に位置するように主輪12で前進する(
図3(A))。コントローラ20は、モータ13で主輪12を正回転させて電動車椅子10を前進させる。前端部14aが段差90の角(段差90の上角)に接したらコントローラ20は前進を停止する。前端部14aには接触センサが備えられており、コントローラ20は接触センサの計測値に基づいて主輪12(モータ13)を止める。
【0017】
図3(B)はシーケンス(3)のときの様子を示しており、
図3(C)はシーケンス(4)のときの様子を示している。
図3(A)、(B)、(C)は、位置が揃えてある。破線Psは、段差90の位置(段差位置Ps)を示している。符号Ce1、Ce2、Ce3は、それぞれ、
図3(A)における軸12aの中心位置(軸位置Ce1)、
図3(B)における軸12aの位置(軸位置Ce2)、
図3(C)における軸12aの位置(軸位置Ce3)を示している。符号Pt1、Pt2、Pt3は、それぞれ、
図3(A)における主輪12の前端位置(主輪位置Pt1)、
図3(B)における主輪12の前端位置(主輪位置Pt2)、
図3(C)における主輪12の前端位置(主輪位置Pt3)を示している。
【0018】
前支持棒14の前端部14aの下面の摩擦係数は、後支持棒15の後端部15aの下面の摩擦係数よりも大きい。それゆえ、
図3(A)(シーケンス(2))から
図3(C)(シーケンス(4))に遷移する間、前端部14aの動きに引っ張られて後端部15aは床上を滑りながら前方へずれていく。
【0019】
シーケンス(3):後端部15aを下げて主輪12を持ち上げるとともに、椅子11の後傾を元に戻す(
図3(B))。アクチュエータ17を伸ばすと後支持棒15の後端部15aが下がる。前支持棒14と後支持棒15に支えられて主輪12が浮き上がる。同時に、ピボット18に対して軸12aが前方に押し出されるように移動し、軸12aの位置Ce2とピボット18の位置Pvの間の水平方向の距離dEが長くなる(dE1→dE2)。
【0020】
椅子11の後傾が元に戻ることで、軸12aの位置が前方へ移る(Ce1→Ce2)。すなわち、主輪12の前端の位置が前方へ移動する(Pt1→Pt2)。
図3(B)に示されているように、主輪12の前端の位置(主輪位置Pt2)が、段差位置Psよりも前方へ出る。
【0021】
シーケンス(4):主輪12が段差90の側面90aに当接するまで前端部14aを上げる。このとき、必要であれば、後端部15aも上げる。前端部14aを上げることで相対的に主輪12が下がり、主輪12が段差90の側面90aに当接する。主輪12の前端の位置(主輪位置Pt3)は段差位置Psよりも前である。
図3(C)に示すように、主輪位置Pt3が段差位置Psよりも前に位置するので、主輪12は高さHだけ浮いたまま段差90に接する。主輪12は段差90の上角に接する。従来の電動車椅子が上ることのできる最大段差高さが高さS0の場合、電動車椅子10は、高さS(=S0+H)の段差に上ることができる。
【0022】
シーケンス(5):主輪12を正回転させて椅子11を段差90の上へ移動させる(
図4)。「正回転」とは、電動車椅子10を前進させる方向の回転を意味する。別言すれば、コントローラ20は、主輪12の上端が前方へ移動し下端が後方へ移動するように主輪12を駆動する。シーケンス(1)~(5)により、電動車椅子10は高さSの段差90を上ることができる。
【0023】
図5と
図6を参照して電動車椅子10が上るときの主輪と段差の関係を説明する。
図5は、段差190と電動車椅子の主輪112の関係を模式的に示した図である。電動車椅子は、主輪112のみを円で示した。符号Ceは主輪112の中心を示している。符号Q、Wは、それぞれ、主輪112を駆動するモータの駆動力、電動車椅子の重量(着座するユーザの最大体重を含む)を示している。記号θは、中心Ceと接触点P(主輪112と段差190の接触点P)とを結ぶ線分と鉛直方向がなす角度を示している。駆動力Q、重量W、角度θの間には、
図5に示すように、Q>Wtan(θ)の関係が成立する。
【0024】
図6は、本実施例の電動車椅子10が高さSの段差を上る場合に主輪12を持ち上げるべき高さHの条件を説明する図である。
図6でも、電動車椅子10は主輪12のみを円で示した。記号Qa、Wは、それそれ、主輪12を駆動するモータの駆動力、電動車椅子10の重量(着座するユーザの最大体重を含む)を示している。記号θHは、中心Ceと接触点P(主輪12と段差90の接触点P)とを結ぶ線分と鉛直方向がなす角度を示している。主輪12は段差90の上角に接する。記号Rは主輪12の半径を示している。
図6の(式1)-(式3)から、(式4)の条件が導かれる。
【0025】
電動車椅子10は、前方の段差を上ることができる。上ることができる段差の高さには上限がある。電動車椅子10は、前方の段差の外形状(プロファイル)と高さを検知するセンサを備えている。
図7、8に、センサの例を示す。
図7の電動車椅子10aは、椅子11の側部にLiDARセンサ30を備えている。LiDARとは、「Light Detection And Ranging」の略である。LiDARセンサ30は、レーザを複数の方向に照射し、各方向における障害物(段差)までの距離を計測する。計測した各方向の距離から、障害物(段差)の外形状を取得する。段差90の外形状が取得できれば、段差90の高さも取得可能である。LiDARセンサ30はよく知られているので詳しい説明は割愛する。
【0026】
図8の電動車椅子10bは、椅子11の側部に形状センサ31を備えている。形状センサ31は、複数の距離センサ32を並べたデバイスである。複数の距離センサ32は、レーザ光を平行に照射するように配置されている。形状センサ31は、平行な複数のレーザ光から、各方向における障害物(段差)までの距離を計測する。計測した各方向の距離から、障害物(段差)の外形状を取得する。段差90の外形状が取得できれば、段差90の高さも取得可能である。複数の距離センサ32を用いた形状センサ31はよく知られているので詳しい説明は割愛する。
【0027】
LiDARセンサ30や形状センサ31のほかにも、カメラの画像から障害物(段差)の外形状を特定する3D画像センサなどを用いてもよい。
【0028】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。
【0029】
電動車椅子10は椅子11の下(あるいは椅子11の背の中)に、モータ13、アクチュエータ16、17、コントローラ20、センサ21のための電源を搭載しているが、電源の図示は省略した。
【0030】
前支持棒14は、椅子11の両側に備えられていてもよいし、椅子11の片側のみに設けられていてもよい。後者の場合、前支持棒の先端部には横棒が備えられており、前支持棒と後支持棒で安定して主輪を浮かせられるようになっている。後支持棒も、椅子11の両側に配置されていてもよいし、椅子11の左右方向の中央に1本の後支持棒が配置されていてもよい。
【0031】
実施例の電動車椅子10では、前支持棒14の後端と後支持棒15の前端が同一のピボット18に揺動可能に支持されている。前支持棒14の後端と後支持棒15の前端は、それぞれ別々のピボットに揺動可能に支持されていてもよい。
【0032】
実施例の後支持棒15の後端部15aはそりの形状を有している。後支持棒15の後端部15aには、そりに代えて補助輪が備えられていてもよい。本明細書が開示する電動車椅子は、後端部にそりを備えた第1後支持棒と、後端部に補助輪を備えた第2後支持棒の両方を備えていてもよい。この場合、シーケンス(1)にて、第1後支持棒と第2後支持棒の両方または一方を使って、椅子11を後傾させるとともに前端部14aを段差90よりも高く持ち上げてもよい。
【0033】
実施例のアクチュエータ16、17は直動型であるが、アクチュエータ16、17は回転型、あるいは、他のタイプのアクチュエータであってもよい。
【0034】
シーケンス(2)にて、コントローラ20は、前支持棒14の前端部14aが段差90の上に位置するように主輪12で前進する。このとき、段差90に接する前端部14aとは、前支持棒14のいずれかの箇所であればよい。前端部14aをより高く上げると、段差90に接する前支持棒14の位置は後方へずれる。
【0035】
実施例の電動車椅子10では、コントローラ20が自動的にシーケンス(1)から(5)を実行する。電動車椅子10は、モータ13とアクチュエータ16、17をユーザが動かすためのスイッチを有していてもよい。スイッチは、ジョイスティックなど、ユーザが扱いやすいデバイスが好ましい。ユーザがスイッチを操作し、シーケンス(1)から(5)を実行してもよい。
【0036】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0037】
10、10a、10b:電動車椅子 11:椅子 12、112:主輪 12a:軸 13:モータ 14:前支持棒 14a:前端部 15:後支持棒 15a:後端部 16、17:アクチュエータ 18:ピボット 20:コントローラ 21:センサ 30:LiDARセンサ 31:形状センサ 32:距離センサ 90、190:段差 90a:側面