(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125843
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/348 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033941
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 基博
【テーマコード(参考)】
3D043
【Fターム(参考)】
3D043AA07
3D043AB17
3D043EA18
3D043EB03
3D043EB06
3D043EB13
3D043ED00
3D043EE02
3D043EE03
3D043EF09
3D043EF19
3D043EF24
(57)【要約】
【課題】摩擦クラッチを適切に保護する。
【解決手段】車両用駆動装置は、駆動輪のトルク分配比を制御する摩擦クラッチと、前記摩擦クラッチのスリップ状態を抑制するクラッチ保護制御を実行する制御システムと、を有する。前記制御システムは、前記摩擦クラッチが前記第1潤滑状態である状況では、前記摩擦クラッチのスリップ量が第1閾値を上回る場合に、前記クラッチ保護制御を実行する。前記制御システムは、前記摩擦クラッチが第1潤滑状態よりもオイルの少ない前記第2潤滑状態である状況では、前記摩擦クラッチのスリップ量が前記第1閾値よりも小さい第2閾値を上回る場合に、前記クラッチ保護制御を実行する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる車両用駆動装置であって、
動力源と駆動輪とを連結する動力伝達経路に設けられ、前記駆動輪のトルク分配比を制御する摩擦クラッチと、
オイルを吐出するオイルポンプを備え、前記摩擦クラッチに前記オイルを供給する潤滑システムと、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記摩擦クラッチのスリップ状態を抑制するクラッチ保護制御を実行する制御システムと、
を有し、
前記摩擦クラッチの潤滑状態として、第1潤滑状態と、前記第1潤滑状態よりも前記オイルの少ない第2潤滑状態と、があり、
前記制御システムは、
前記摩擦クラッチが前記第1潤滑状態である状況では、前記摩擦クラッチのスリップ量が第1閾値を上回る場合に、前記クラッチ保護制御を実行し、
前記摩擦クラッチが前記第2潤滑状態である状況では、前記摩擦クラッチのスリップ量が前記第1閾値よりも小さい第2閾値を上回る場合に、前記クラッチ保護制御を実行する、
車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記制御システムは、前記摩擦クラッチに対する前記オイルの供給停止時間が時間閾値を上回る場合に、前記摩擦クラッチが前記第2潤滑状態であると判定する、
車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用駆動装置において、
前記供給停止時間は、運転手によって前記制御システムの起動スイッチがOFF操作されてからON操作されるまでの時間である、
車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記摩擦クラッチの締結トルクが大きくなるにつれて、前記第1閾値および前記第2閾値は小さく設定される、
車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記オイルポンプのロータは、前記動力源であるエンジンのクランク軸と、前記動力伝達経路を構成する回転軸と、の双方に連結されており、
前記潤滑システムは、前記エンジンが停止状態であり、かつ走行速度が速度閾値を下回る場合に、前記摩擦クラッチに対する前記オイルの供給を停止する、
車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、駆動輪のトルク分配比を制御する摩擦クラッチを有している(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-245318号公報
【特許文献2】特開2011-149515号公報
【特許文献3】特開2020-122561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、摩擦クラッチのスリップを過度に増加させると、発熱等によって摩擦クラッチを劣化させてしまう虞がある。このため、摩擦クラッチを適切に保護することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、車両用駆動装置は、車両に設けられる車両用駆動装置であって、動力源と駆動輪とを連結する動力伝達経路に設けられ、前記駆動輪のトルク分配比を制御する摩擦クラッチと、オイルを吐出するオイルポンプを備え、前記摩擦クラッチに前記オイルを供給する潤滑システムと、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記摩擦クラッチのスリップ状態を抑制するクラッチ保護制御を実行する制御システムと、を有し、前記摩擦クラッチの潤滑状態として、第1潤滑状態と、前記第1潤滑状態よりも前記オイルの少ない第2潤滑状態と、があり、前記制御システムは、前記摩擦クラッチが前記第1潤滑状態である状況では、前記摩擦クラッチのスリップ量が第1閾値を上回る場合に、前記クラッチ保護制御を実行し、前記摩擦クラッチが前記第2潤滑状態である状況では、前記摩擦クラッチのスリップ量が前記第1閾値よりも小さい第2閾値を上回る場合に、前記クラッチ保護制御を実行する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、摩擦クラッチを適切に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態の車両用駆動装置を備えた車両の一例を示す図である。
【
図2】パワーユニットおよび制御システムの一例を示す図である。
【
図4】制御ユニットの基本構造の一例を示す図である。
【
図5】クラッチ潤滑判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】時間閾値とオイル温度との関係の一例を示す図である。
【
図7】漏れ時間判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】漏れ時間の推移の一例を示すタイミングチャートである。
【
図9】クラッチ負荷判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】クラッチ負荷判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】トランスファクラッチの潤滑状態がオイル適量状態である場合に用いられる特性線の一例を示す図である。
【
図12】トランスファクラッチの潤滑状態がオイル不足状態である場合に用いられる特性線の一例を示す図である。
【
図13】特性線から得られる回転閾値の一例を示す図である。
【
図14】クラッチ保護制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0009】
<パワーユニット>
図1は一実施形態の車両用駆動装置10を備えた車両11の一例を示す図である。
図1に示すように、車両用駆動装置10は、エンジン12およびモータジェネレータ13からなるパワーユニット14を有している。パワーユニット14の後輪出力軸15は、プロペラ軸16およびリヤデファレンシャル機構17を介して後輪18に連結されている。また、パワーユニット14はフロントデファレンシャル機構19を有しており、フロントデファレンシャル機構19は図示しない駆動軸を介して前輪20に連結されている。
【0010】
図2はパワーユニット14および制御システム70の一例を示す図である。
図2に示すように、パワーユニット14は、エンジン(動力源)12、トルクコンバータ21、入力クラッチ22、モータジェネレータ(動力源)13、変速機構23およびトランスファクラッチ24を有している。エンジン12とモータジェネレータ13とは、トルクコンバータ21、ギヤ列25および入力クラッチ22を介して互いに連結されている。また、モータジェネレータ13と変速出力軸26とは、ギヤ列27、変速入力軸28および変速機構23を介して互いに連結されている。このように、エンジン12と変速出力軸26とは、トルクコンバータ21、ギヤ列25、入力クラッチ22、モータジェネレータ13、ギヤ列27、変速入力軸28および変速機構23からなる動力源駆動経路30を介して互いに連結されている。
【0011】
図1および
図2に示すように、変速出力軸26と前輪(駆動輪)20とは、ギヤ列31、前輪出力軸32およびフロントデファレンシャル機構19等からなる前輪駆動経路33を介して互いに連結されている。また、変速出力軸26と後輪(駆動輪)18とは、トランスファクラッチ24、後輪出力軸15、プロペラ軸16およびリヤデファレンシャル機構17等からなる後輪駆動経路34を介して互いに連結されている。このように、エンジン12と前輪20とは、動力源駆動経路30および前輪駆動経路33からなる動力伝達経路40を介して互いに連結されている。また、エンジン12と後輪18とは、動力源駆動経路30および後輪駆動経路34からなる動力伝達経路41を介して互いに連結されている。
【0012】
<トランスファクラッチ>
図2に示すように、動力伝達経路41を構成する後輪駆動経路34には、前輪20と後輪18とのトルク分配比を制御するトランスファクラッチ(摩擦クラッチ)24が設けられている。トランスファクラッチ24は、変速出力軸26に連結されるクラッチドラム42と、後輪出力軸15に連結されるクラッチハブ43と、を有している。また、トランスファクラッチ24は、クラッチドラム42に取り付けられる複数の摩擦プレート44と、クラッチハブ43に取り付けられる複数の摩擦プレート45と、を有している。さらに、トランスファクラッチ24は、摩擦プレート44,45に対向するピストン46を備えた電磁駆動部47を有している。
【0013】
電磁駆動部47のピストン46を前進位置に向けて移動させ、摩擦プレート44,45を互いに締結させることにより、トランスファクラッチ24は締結状態に切り替えられる。一方、電磁駆動部47のピストン46を前進位置とは反対側の後退位置に向けて移動させ、摩擦プレート44,45の締結を解除することにより、トランスファクラッチ24は解放状態に切り替えられる。また、ピストン46の移動量を前進位置と後退位置との間で調整することにより、摩擦プレート44,45を互いに滑らせながら接触させることができ、トランスファクラッチ24をスリップ状態に制御することができる。
【0014】
トランスファクラッチ24を締結状態に制御することにより、前輪20と後輪18との回転速度を互いに一致させることができ、前輪20と後輪18とのトルク分配比を「50:50」に制御することができる。また、トランスファクラッチ24を解放状態に制御することにより、後輪18に対するトルク伝達を遮断することができ、前輪20と後輪18とのトルク分配比を「100:0」に制御することができる。さらに、トランスファクラッチ24をスリップ状態に制御することにより、前輪20と後輪18とのトルク分配比を所定範囲内で任意に調整することが可能である。
【0015】
<オイル供給システム>
図2に示すように、車両用駆動装置10は、トランスファクラッチ24等にオイルを供給するオイル供給システム(潤滑システム)50を有している。オイル供給システム50は、エンジン12等によって駆動されるオイルポンプ51と、複数の電磁バルブおよび油路等からなるバルブボディ52と、を有している。オイルポンプ51から吐出されたオイルは、バルブボディ52を介して供給先、圧力および流量が調整され、変速機構23およびトランスファクラッチ24等の各デバイスに供給される。なお、バルブボディ52から各デバイスに供給されるオイルは、制御用、潤滑用あるいは冷却用のオイルとして使用される。また、バルブボディ52には、トランスファクラッチ24に潤滑用のオイル(以下、潤滑オイルと記載する。)を供給する潤滑油路53が接続されている。潤滑オイルを案内する潤滑油路53は、変速出力軸26または後輪出力軸15等に形成することが可能である。
【0016】
オイルポンプ51のロータ54は、一方向クラッチを備えたチェーン機構55を介して、トルクコンバータ21のポンプシェル56に連結されている。また、オイルポンプ51のロータ54は、一方向クラッチを備えたチェーン機構57を介して、変速入力軸28に連結されている。このように、オイルポンプ51のロータ54は、エンジン12のクランク軸58に連結されるとともに、動力伝達経路40,41を構成する変速入力軸(回転軸)28に連結されている。これにより、エンジン12が運転状態である場合には、クランク軸58からチェーン機構55を介してオイルポンプ51に駆動力が伝達される。一方、エンジン12が停止状態であっても変速入力軸28が回転するモータ走行時には、変速入力軸28からチェーン機構57を介してオイルポンプ51に駆動力が伝達される。なお、エンジン12を停止させた状態で車両11を走行させるモータ走行においては、パワーユニット14からエンジン12を切り離すため、エンジン12とモータジェネレータ13との間に位置する入力クラッチ22が解放される。
【0017】
図3はオイル供給システム50の一部を示す図である。なお、
図3においては、オイルの圧力および供給先等を制御する電磁バルブが省略されて図示されている。
図3に示すように、オイルポンプ51の吸入ポート51iには、オイルパン60内に配置されるストレーナ61が吸入油路62を介して接続されている。また、オイルポンプ51の吐出ポート51oには、バルブボディ52を介して第1デバイス群63および第2デバイス群64が接続されている。つまり、オイルポンプ51の駆動によってオイルパン60からバルブボディ52に供給されたオイルは、バルブボディ52を経て第1デバイス群63および第2デバイス群64に供給される。ここで、第1デバイス群63は、消費オイル量の多い変速機構23等の各種デバイスからなるデバイス群であり、第2デバイス群64は、消費オイル量の少ないトランスファクラッチ24等の各種デバイスからなるデバイス群である。後述するように、バルブボディ52に設けられた潤滑バルブ69の作動により、第1デバイス群63には第2デバイス群64よりも優先的にオイルが供給される。
【0018】
バルブボディ52は、オイルポンプ51の吐出ポート51oに接続されるライン圧路65と、ライン圧路65に接続されて第1デバイス群63にオイルを供給する第1供給油路66と、ライン圧路65に接続されて第2デバイス群64にオイルを供給する第2供給油路67と、を有している。また、バルブボディ52は、ライン圧路65に接続されてライン圧路65のオイルを調圧するリリーフバルブ68と、第2供給油路67に設けられて第2供給油路67を遮断する潤滑バルブ69と、を有している。バルブボディ52の潤滑バルブ69は、ライン圧路65内の油圧が所定油圧を下回る場合に、第2供給油路67を遮断するクローズ状態に作動する一方、ライン圧路65内の油圧が所定油圧を上回る場合に、第2供給油路67を連通させるオープン状態に作動する。
【0019】
オイルポンプ51の回転速度が低く吐出オイル量が少ない場合には、ライン圧路65内の油圧低下に伴って潤滑バルブ69がクローズ状態に作動するため、トランスファクラッチ24を含む第2デバイス群64に対するオイル供給が停止される。このように、油圧低下によって潤滑バルブ69が遮断された状態のもとでは、第2デバイス群64に対するオイル供給が停止される一方、第1デバイス群63に対するオイル供給が実行される。これに対し、オイルポンプ51の回転速度が高く吐出オイル量が多い場合には、ライン圧路65内の油圧上昇に伴って潤滑バルブ69がオープン状態に作動するため、第1デバイス群63と第2デバイス群64との双方に対するオイル供給が実行される。
【0020】
前述したように、オイルポンプ51の回転速度が低下して潤滑バルブ69がクローズ状態に作動すると、第2デバイス群64のトランスファクラッチ24に対する潤滑オイルの供給が停止される。この潤滑バルブ69がクローズ状態に作動する状況とは、エンジン12を停止させるモータ走行で走り始めた状況であり、車速が低く変速入力軸28の回転速度が遅い状況である。つまり、オイル供給システム50は、エンジン12が停止状態であり、かつ車両11の走行速度が所定の速度閾値を下回る場合に、トランスファクラッチ24に対する潤滑オイルの供給を停止させる。
【0021】
また、モータ走行の走り始めにおいてトランスファクラッチ24に対するオイル供給が停止されていると、後述するように、潤滑オイルの流出時間に相当する漏れ時間Tb1つまりソーク時間の長さによっては、トランスファクラッチ24の潤滑状態が、潤滑オイルの少ないオイル不足状態(第2潤滑状態)になる。なお、トランスファクラッチ24は、クラッチドラム42からオイルパン60に向けて潤滑オイルを徐々に落下させる構造を有している。後述するように、ソーク時間とは、運転者によって起動スイッチ90がOFF操作されてからON操作されるまでの時間である。
【0022】
前述したように、オイルポンプ51の回転速度が上昇して潤滑バルブ69がオープン状態に作動すると、第2デバイス群64のトランスファクラッチ24に潤滑オイルが供給される。このように、潤滑バルブ69がオープン状態に作動する状況とは、運転状態のエンジン12によってオイルポンプ51が駆動される状況、或いはモータ走行であっても車速が高い状況である。また、潤滑バルブ69が開いてトランスファクラッチ24に潤滑オイルが供給されると、後述するように、トランスファクラッチ24の潤滑状態は、適切に潤滑オイルが供給されるオイル適量状態(第1潤滑状態)になる。つまり、前述のトランスファクラッチ24のオイル不足状態とは、トランスファクラッチ24のオイル適量状態よりも潤滑オイルの少ない状態である。
【0023】
<制御システム>
図2に示すように、車両用駆動装置10は、複数の電子制御ユニットからなる制御システム70を有している。制御システム70を構成する電子制御ユニットとして、ミッション制御ユニット71、エンジン制御ユニット72およびモータ制御ユニット73がある。ミッション制御ユニット71は、バルブボディ52および電磁駆動部47等に制御信号を出力する電子制御ユニットである。エンジン制御ユニット72は、スロットルバルブ74、インジェクタ75および点火デバイス76等に制御信号を出力する電子制御ユニットである。また、モータ制御ユニット73は、モータジェネレータ13に接続されるインバータ77等に制御信号を出力する電子制御ユニットである。なお、電力変換機器であるインバータ77には、バッテリパック78が接続されている。
【0024】
また、制御システム70を構成する電子制御ユニットとして、前述した各制御ユニット71,72,73に制御信号を出力する車両制御ユニット80がある。これらの制御ユニット71,72,73,80は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワーク81を介して互いに通信可能に接続されている。車両制御ユニット80は、各種制御ユニットや後述する各種センサからの入力情報に基づき、パワーユニット14等の作動目標を設定する。また、車両制御ユニット80は、パワーユニット14等の作動目標に応じた制御信号を生成し、これらの制御信号をエンジン制御ユニット72、モータ制御ユニット73およびミッション制御ユニット71等に出力する。
【0025】
車両制御ユニット80に接続されるセンサとして、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ82があり、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキセンサ83がある。また、車両制御ユニット80に接続されるセンサとして、車両11の走行速度である車速を検出する車速センサ84があり、オイルの温度を検出する温度センサ85がある。また、車両制御ユニット80に接続されるセンサとして、クランク軸58の回転速度を検出する回転センサ86、変速入力軸28の回転速度を検出する回転センサ87、変速出力軸26の回転速度を検出する回転センサ88、および後輪出力軸15の回転速度を検出する回転センサ89がある。
【0026】
また、車両制御ユニット80には、制御システム70の起動時および停止時に操作される起動スイッチ90が接続されている。運転手によって起動スイッチ90が押される度に、制御システム70は電源モードをONモードとOFFモードとに切り替える。例えば、電源モードがOFFモードであるときに起動スイッチ90が押された場合、つまり運転手によって起動スイッチ90がON操作された場合には、電源モードがOFFモードからONモードに切り替えられる。また、電源モードがONモードであるときに起動スイッチ90が押された場合、つまり運転手によって起動スイッチ90がOFF操作された場合には、電源モードがONモードからOFFモードに切り替えられる。なお、ONモードとは、制御システム70が起動して車両走行が可能となる電源モードであり、OFFモードとは、制御システム70が停止して車両走行が不可能となる電源モードである。また、起動スイッチ90は、イグニッションスイッチとも呼ばれている。
【0027】
図4は制御ユニット71,72,73,80の基本構造の一例を示す図である。
図4に示すように、電子制御ユニットである制御ユニット71,72,73,80は、プロセッサ100およびメインメモリ(メモリ)101等が組み込まれたマイクロコントローラ102を有している。メインメモリ101には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ100によってプログラムが実行される。プロセッサ100とメインメモリ101とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ102に複数のプロセッサ100を組み込んでも良く、マイクロコントローラ102に複数のメインメモリ101を組み込んでも良い。
【0028】
また、制御ユニット71,72,73,80は、入力回路103、駆動回路104、通信回路105、外部メモリ106および電源回路107を有している。入力回路103は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ102に入力可能な信号に変換する。駆動回路104は、マイクロコントローラ102から出力される信号に基づき、前述したバルブボディ52および電磁駆動部47等のデバイスに対する駆動信号を生成する。通信回路105は、マイクロコントローラ102から出力される信号を、他の制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路105は、他の制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ102に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路107は、マイクロコントローラ102、入力回路103、駆動回路104、通信回路105および外部メモリ106等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等からなる外部メモリ106には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0029】
<トランスファクラッチの保護>
ところで、制御システム70は、トランスファクラッチ24を過度な発熱等から保護するため、トランスファクラッチ24のスリップ状態を抑制するクラッチ保護制御を実行する。また、前述したように、トランスファクラッチ24の潤滑状態として、トランスファクラッチ24に潤滑オイルが適切に供給されるオイル適量状態と、オイル適量状態よりも潤滑オイルの少ないオイル不足状態と、がある。このため、トランスファクラッチ24の潤滑状態に応じて、クラッチ保護制御を適切に実行することが求められている。つまり、モータ走行の走り始めにおいては、潤滑オイルの少ないオイル不足状態であることも想定されるため、トランスファクラッチ24の潤滑状態に応じてクラッチ保護制御を適切に実行することが必要である。
【0030】
以下、クラッチ潤滑判定、漏れ時間判定およびクラッチ負荷判定について説明した後に、クラッチ保護制御について説明する。後述するクラッチ潤滑判定、漏れ時間判定、クラッチ負荷判定およびクラッチ保護制御の各ステップは、制御システム70を構成するプロセッサ100によって実行されるステップである。また、クラッチ潤滑判定、漏れ時間判定、クラッチ負荷判定およびクラッチ保護制御は、制御システム70によって所定周期毎に実行される制御である。
【0031】
<クラッチ潤滑判定>
図5はクラッチ潤滑判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、
図6は時間閾値Xa1とオイル温度との関係の一例を示す図である。
図5に示すように、制御システム70は、ステップS10に進み、潤滑バルブ69がオープン状態であるか否かを判定する。前述したように、潤滑バルブ69は、オイルポンプ51が駆動されてライン圧路65内の油圧が所定油圧を上回る場合に、オープン状態に作動する。このため、制御システム70は、クランク軸58の回転速度が所定速度を上回る場合、または変速入力軸28の回転速度が所定速度を上回る場合に、潤滑バルブ69がオープン状態であると判定する。また、例えば、制御システム70は、車速が所定速度を上回る場合に潤滑バルブ69がオープン状態であると判定しても良く、ライン圧路65内の油圧が所定油圧を上回る場合に潤滑バルブ69がオープン状態であると判定しても良い。
【0032】
制御システム70は、ステップS10において潤滑バルブ69がオープン状態であると判定すると、ステップS11に進み、潤滑バルブ69が開いてからの経過時間である供給時間Ta1をカウントする。続いて、制御システム70は、ステップS12に進み、供給時間Ta1が所定の時間閾値Xa1を上回るか否かを判定する。ここで、
図6に示すように、時間閾値Xa1はオイル温度が上昇するつれて短く設定されている。つまり、オイル温度が高い場合にはオイル粘度が低くオイルが流れ易いことから、オイル温度が上昇するつれて時間閾値Xa1は短く設定されている。
【0033】
図5に示すように、制御システム70は、ステップS12において供給時間Ta1が時間閾値Xa1を上回ると判定した場合には、トランスファクラッチ24に対して潤滑オイルが十分に供給されている状況であることから、ステップS13に進み、オイル適量フラグFLaを設定する(FLa=1)。このオイル適量フラグFLaが設定される状況とは、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル適量状態であることを意味している。なお、制御システム70は、ステップS12において供給時間Ta1が時間閾値Xa1以下であると判定した場合には、潤滑バルブ69の開放から十分な時間が経過していないことから、ステップS10に進み、再び潤滑バルブ69がオープン状態であるか否かを判定する。
【0034】
一方、制御システム70は、ステップS10において潤滑バルブ69がクローズ状態であると判定すると、ステップS14に進み、潤滑オイルの流出時間である漏れ時間Tb1を取得する。なお、漏れ時間Tb1については、後述する漏れ時間判定において詳細に説明する。制御システム70は、ステップS14において漏れ時間Tb1を取得すると、ステップS15に進み、漏れ時間Tb1が所定の時間閾値Xb1を上回るか否かを判定する。制御システム70は、ステップS15において漏れ時間Tb1が時間閾値Xb1を上回ると判定した場合には、トランスファクラッチ24から多くの潤滑オイルが流出している状況であることから、ステップS16に進み、オイル適量フラグFLaの設定を解除する(FLa=0)。このオイル適量フラグFLaの設定が解除される状況とは、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル不足状態であることを意味している。なお、制御システム70は、ステップS15において漏れ時間Tb1が時間閾値Xb1以下であると判定した場合には、トランスファクラッチ24内に十分な潤滑オイルが保持されていることから、ステップS13に進み、オイル適量フラグFLaを設定する(FLa=1)。
【0035】
<漏れ時間判定>
図7は漏れ時間判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、
図8は漏れ時間Tb1の推移の一例を示すタイミングチャートである。
図7に示すように、制御システム70は、ステップS20に進み、電源モードがONモードであるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS20においてONモードであると判定した場合、つまり車両11が走行可能な状態であると判定した場合には、ステップS21に進み、オイル適量フラグFLaが設定されているか否かを判定する。制御システム70は、ステップS21においてオイル適量フラグFLaが設定されていると判定すると、ステップS22に進み、漏れ時間Tb1をリセットする(Tb1=0)。
【0036】
一方、制御システム70は、ステップS21においてオイル適量フラグFLaが解除されていないと判定すると、ステップS23に進み、電源モードがOFFモードであるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS23においてOFFモードであると判定した場合、つまり車両11が走行不可能な状態であると判定した場合には、ステップS24に進み、漏れ時間Tb1のカウント処理を実行する。制御システム70は、ステップS24において漏れ時間Tb1をカウントすると、ステップS25に進み、電源モードがONモードであるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS25においてOFFモードであると判定した場合、つまり電源モードがOFFモードに維持されている場合に、ステップS24に進み、漏れ時間Tb1のカウント処理を継続する。一方、制御システム70は、ステップS25においてONモードであると判定した場合、つまり電源モードがOFFモードからONモードに切り替えられた場合に、ルーチンを抜ける。
【0037】
すなわち、制御システム70は、オイルポンプ51が駆動されることのないOFFモードである場合に、トランスファクラッチ24からのオイル流出時間である漏れ時間Tb1をカウントする。この漏れ時間Tb1は、トランスファクラッチ24に対する潤滑オイルの供給停止時間である。また、換言すれば、漏れ時間Tb1は、運転者によって起動スイッチ90がOFF操作されてからON操作されるまでの時間つまりソーク時間である。なお、OFFモードであっても制御システム70が備える機能の一部は維持されており、制御システム70による漏れ時間Tb1のカウント処理は可能である。
【0038】
図8に示すように、時刻t1においては、電源モードがONモードであり(符号a1)、オイル適量フラグFLaが設定されており(符号b1)、潤滑バルブ69はオープン状態である(符号c1)。時刻t2で示すように、電源モードがONモードからOFFモードに切り替えられると(符号a2)、漏れ時間Tb1のカウントが開始される(符号d1)。また、時刻t3で示すように、電源モードがOFFモードからONモードに切り替えられると(符号a3)、漏れ時間Tb1のカウントが停止される(符号d2)。その後、時刻t4で示すように、再び電源モードがONモードからOFFモードに切り替えられると(符号a4)、再び漏れ時間Tb1のカウントが開始される(符号d3)。そして、時刻t5においては、OFFモードの継続に伴って増加する漏れ時間Tb1が、所定の時間閾値Xb1を上回る状態となる(符号d4)。
【0039】
続いて、時刻t6で示すように、電源モードがOFFモードからONモードに切り替えられると(符号a5)、既に漏れ時間Tb1が時間閾値Xb1を上回る状態であるため(符号d5)、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル不足状態であると判定され、オイル適量フラグFLaの設定が解除される(符号b2)。そして、時刻t7で示すように、エンジン始動または車速上昇に伴って潤滑バルブ69がオープン状態に切り替えられ(符号c2)、その後の経過時間が時間閾値Xa1を超えると、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル適量状態であると判定され、オイル適量フラグFLaが設定される(符号b3)。また、時刻t8で示すように、オイル適量フラグFLaが設定されると(符号b3)、漏れ時間Tb1がリセットされる(符号d6)。
【0040】
このように、制御システム70は、OFFモードの継続時間に相当する漏れ時間Tb1が、所定の時間閾値Xb1を上回ると(符号d5)、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル不足状態であると判定する(符号b2)。その後、制御システム70は、潤滑バルブ69がオープン状態に切り替えられてから所定時間が経過すると、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル適量状態であると判定する(符号b3)。このように、制御システム70は、トランスファクラッチ24から潤滑オイルが流出する漏れ時間Tb1に基づいて、トランスファクラッチ24のオイル不足状態を適切に判定することができる。なお、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル適量状態であると判定するまで、漏れ時間Tb1のリセット処理を実行しないことから、トランスファクラッチ24のオイル不足状態を適切に判定することができる。
【0041】
<クラッチ負荷判定>
図9および
図10はクラッチ負荷判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図9および
図10に示すフローチャートにおいては、符号Aの箇所で互いに接続されている。
図11は、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル適量状態である場合に用いられる特性線La1,La2の一例を示す図である。また、
図12は、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル不足状態である場合に用いられる特性線Lb1,Lb2の一例を示す図である。さらに、
図13は、特性線La1,La2,Lb1,Lb2から得られる回転閾値の一例を示す図である。なお、後述するトランスファクラッチ24の差回転(スリップ量)ΔNは、変速出力軸26の回転速度と後輪出力軸15の回転速度との回転速度差、つまりトランスファクラッチ24の入力回転速度と出力回転速度との回転速度差である。また、トランスファクラッチ24の締結指示トルクTtは、制御システム70がトランスファクラッチ24の電磁駆動部47に指示する制御目標値である。
【0042】
<クラッチ負荷判定:オイル適量状態>
図9に示すように、制御システム70は、ステップS30に進み、オイル適量フラグFLaが設定されているか否か、つまりトランスファクラッチ24がオイル適量状態であるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS30においてオイル適量状態であると判定すると、ステップS31に進み、トランスファクラッチ24の差回転ΔNおよび締結指示トルクTtに基づいてトランスファクラッチ24の負荷(以下、クラッチ負荷と記載する。)を算出する。また、制御システム70は、ステップS31においてクラッチ負荷を算出すると、ステップS32に進み、特性線La1,La2に基づいてクラッチ負荷が属する領域を判定する。ここで、
図11に示すように、特性線La1を上回る領域が高負荷領域であり、特性線La1よりも低い特性線La2を下回る領域が低負荷領域である。また、特性線La1を下回り且つ特性線La2を上回る領域が中負荷領域である。
【0043】
図9に示すように、制御システム70は、ステップS33に進み、クラッチ負荷が中負荷領域であるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS33において中負荷領域であると判定すると、ステップS34に進み、所定の判定時間が経過したか否かを判定する。制御システム70は、ステップS34において判定時間が経過したと判定した場合、つまり中負荷領域が判定時間に亘って継続された場合に、ステップS35に進み、クラッチ保護フラグFLbを設定する(FLb=1)。なお、クラッチ保護フラグFLbが設定される状況とは、トランスファクラッチ24を発熱等から保護することが必要な状況である。一方、制御システム70は、ステップS34において判定時間が経過していない判定した場合に、ステップS31に進み、再び差回転ΔNおよび締結指示トルクTtに基づいてクラッチ負荷を算出する。
【0044】
制御システム70は、ステップS33において中負荷領域ではないと判定すると、ステップS36に進み、クラッチ負荷が高負荷領域であるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS36において高負荷領域であると判定すると、ステップS35に進み、クラッチ保護フラグFLbを設定する(FLb=1)。一方、制御システム70は、ステップS36において高負荷領域ではないと判定した場合、つまりクラッチ負荷が低負荷領域である場合には、ステップS36に進み、クラッチ保護フラグFLbの設定を解除する(FLb=0)。なお、クラッチ保護フラグFLbの設定が解除される状況とは、トランスファクラッチ24に過度な発熱等が生じていない状況であり、トランスファクラッチ24の保護が不要な状況である。
【0045】
このように、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル適量状態である場合に、特性線La1,La2に基づいてクラッチ負荷の大きさを判定し、この判定結果に基づいてトランスファクラッチ24のクラッチ保護フラグFLbを設定する。つまり、
図11に示すように、制御システム70は、クラッチ負荷が「C1a」であると算出した場合に、クラッチ負荷が特性線La1を上回る高負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbを設定する。また、制御システム70は、クラッチ負荷が「C1b」であると算出した場合に、クラッチ負荷が特性線La2を下回る低負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbの設定を解除する。さらに、制御システム70は、クラッチ負荷が「C1c」であると算出した場合、つまりクラッチ負荷が特性線La1を下回りかつ特性線La2を上回る中負荷領域に属すると判定した場合には、この状況が所定時間に亘って継続された場合に、クラッチ保護フラグFLbを設定する。
【0046】
すなわち、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル適量状態である場合に、特性線La1,La2から得られる回転閾値に基づき差回転ΔNの大きさを判定し、この判定結果に基づいてトランスファクラッチ24のクラッチ保護フラグFLbを設定する。例えば、
図13に示すように、制御システム70は、締結指示トルクTtが「Tx」である場合に、特性線La1,La2に従って回転閾値(第1閾値)Na1,Na2を算出する。そして、制御システム70は、差回転ΔNが回転閾値Na1を上回る場合に、クラッチ負荷が特性線La1を上回る高負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbを設定する。
【0047】
また、制御システム70は、差回転ΔNが回転閾値Na2を下回る場合に、クラッチ負荷が特性線La2を下回る低負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbの設定を解除する。さらに、制御システム70は、差回転ΔNが回転閾値Na1を下回りかつ回転閾値Na2を上回る場合に、クラッチ負荷が特性線La1を下回りかつ特性線La2を上回る中負荷領域に属すると判定し、この状況が所定時間に亘って継続された場合に、クラッチ保護フラグFLbを設定する。
【0048】
<クラッチ負荷判定:オイル不足状態>
図9および
図10に示すように、制御システム70は、ステップS30においてオイル適量フラグFLaが設定されていないと判定した場合、つまりトランスファクラッチ24がオイル不足状態であると判定すると、ステップS41に進む。
図10に示すように、制御システム70は、ステップS41において、トランスファクラッチ24の差回転ΔNおよび締結指示トルクTtに基づいてクラッチ負荷を算出する。また、制御システム70は、ステップS41においてクラッチ負荷を算出すると、ステップS42に進み、特性線Lb1,Lb2に基づいてクラッチ負荷が属する領域を判定する。ここで、
図12に示すように、特性線Lb1を上回る領域が高負荷領域であり、特性線Lb1よりも低い特性線Lb2を下回る領域が低負荷領域である。また、特性線Lb1を下回り且つ特性線Lb2を上回る領域が中負荷領域である。なお、特性線Lb1は、前述の特性線La1よりも低く設定されており、特性線Lb2は、前述の特性線La2よりも低く設定されている。
【0049】
図10に示すように、制御システム70は、ステップS43に進み、クラッチ負荷が中負荷領域であるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS43において中負荷領域であると判定すると、ステップS44に進み、所定の判定時間が経過したか否かを判定する。制御システム70は、ステップS44において判定時間が経過したと判定した場合、つまり中負荷領域が判定時間に亘って継続された場合に、ステップS45に進み、クラッチ保護フラグFLbを設定する(FLb=1)。一方、制御システム70は、ステップS44において判定時間が経過していない判定した場合に、ステップS41に進み、再び差回転ΔNおよび締結指示トルクTtに基づいてクラッチ負荷を算出する。
【0050】
制御システム70は、ステップS43において中負荷領域ではないと判定すると、ステップS46に進み、クラッチ負荷が高負荷領域であるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS46において高負荷領域であると判定すると、ステップS45に進み、クラッチ保護フラグFLbを設定する(FLb=1)。一方、制御システム70は、ステップS46において高負荷領域ではないと判定した場合、つまりクラッチ負荷が低負荷領域である場合には、ステップS46に進み、クラッチ保護フラグFLbの設定を解除する(FLb=0)。
【0051】
このように、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル不足状態である場合に、特性線Lb1,Lb2に基づいてクラッチ負荷の大きさを判定し、この判定結果に基づいてクラッチ保護フラグFLbを設定する。つまり、
図12に示すように、制御システム70は、クラッチ負荷が「C2a」であると算出した場合に、クラッチ負荷が特性線Lb1を上回る高負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbを設定する。また、制御システム70は、クラッチ負荷が「C2b」であると算出した場合に、クラッチ負荷が特性線Lb2を下回る低負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbの設定を解除する。さらに、制御システム70は、クラッチ負荷が「C2c」であると算出した場合、つまりクラッチ負荷が特性線Lb1を下回りかつ特性線Lb2を上回る中負荷領域に属すると判定した場合には、この状況が所定時間に亘って継続された場合に、クラッチ保護フラグFLbを設定する。
【0052】
すなわち、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル不足状態である場合に、特性線Lb1,Lb2から得られる回転閾値に基づき差回転ΔNの大きさを判定し、この判定結果に基づいてトランスファクラッチ24のクラッチ保護フラグFLbを設定する。例えば、
図13に示すように、制御システム70は、締結指示トルクTtが「Tx」である場合に、特性線Lb1,Lb2に従って回転閾値(第2閾値)Nb1,Nb2を算出する。そして、制御システム70は、差回転ΔNが回転閾値Nb1を上回る場合に、クラッチ負荷が特性線Lb1を上回る高負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbを設定する。
【0053】
また、制御システム70は、差回転ΔNが回転閾値Nb2を下回る場合に、クラッチ負荷が特性線Lb2を下回る低負荷領域に属すると判定し、クラッチ保護フラグFLbの設定を解除する。さらに、制御システム70は、差回転ΔNが回転閾値Nb1を下回りかつ回転閾値Nb2を上回る場合に、クラッチ負荷が特性線Lb1を下回りかつ特性線Lb2を上回る中負荷領域に属すると判定し、この状況が所定時間に亘って継続された場合に、クラッチ保護フラグFLbを設定する。なお、
図13に示すように、締結指示トルクTtが「Tx」である場合に、回転閾値Nb1は回転閾値Nb1よりも小さく設定されており、回転閾値Nb2は回転閾値Nb2よりも小さく設定されている。
【0054】
<クラッチ保護制御>
続いて、トランスファクラッチ24のスリップ状態を抑制するクラッチ保護制御について説明する。
図14はクラッチ保護制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図14に示すように、制御システム70は、ステップS50に進み、クラッチ保護フラグFLbが設定されているか否か、つまりトランスファクラッチ24を発熱等から保護することが必要であるか否かを判定する。制御システム70は、ステップS30においてトランスファクラッチ24の保護が必要であると判定すると、ステップS51に進み、トランスファクラッチ24の締結指示トルクTtを所定量だけ増加させる。
【0055】
制御システム70は、ステップS51において締結指示トルクTtを増加させると、ステップS52に進み、トランスファクラッチ24のスリップ状態が解消されたか否か、つまりトランスファクラッチ24の差回転ΔNが解消されたか否かを判定する。制御システム70は、ステップS52においてスリップ状態が解消されたと判定すると、トランスファクラッチ24の過度な発熱等が解消されることから、ルーチンを抜ける。
【0056】
制御システム70は、ステップS52においてスリップ状態が解消されていないと判定すると、ステップS53に進み、電磁駆動部47に対する通電電流が最大値に到達したか否かを判定する。制御システム70は、ステップS53において通電電流が最大値に到達していないと判定すると、再びステップS51に進み、トランスファクラッチ24の締結指示トルクTtを所定量だけ増加させる。なお、ステップS53において通電電流が最大値に達する状況とは、トランスファクラッチ24の締結トルクが最大値まで増加した状況である。
【0057】
制御システム70は、ステップS53において通電電流が最大値に到達したと判定すると、ステップS54に進み、エンジン12およびモータジェネレータ13を制御し、トランスファクラッチ24に対する入力トルクを減少させる。制御システム70は、ステップS54において、エンジントルクとモータトルクとの少なくとも何れか一方を減少させることにより、トランスファクラッチ24に対する入力トルクを減少させる。
【0058】
制御システム70は、ステップS54においてトランスファクラッチ24の入力トルクを減少させると、ステップS55に進み、トランスファクラッチ24のスリップ状態が解消されたか否か、つまりトランスファクラッチ24の差回転ΔNが解消されたか否かを判定する。制御システム70は、ステップS55においてスリップ状態が解消されたと判定すると、トランスファクラッチ24の過度な発熱等が解消されることから、ルーチンを抜ける。
【0059】
<まとめ>
これまで説明したように、制御システム70は、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル適量状態である場合に、トランスファクラッチ24の差回転(スリップ量)ΔNが特性線La1,La2から得られる第1閾値を上回ると、トランスファクラッチ24のスリップ状態を抑制するクラッチ保護制御を実行する。また、制御システム70は、トランスファクラッチ24の潤滑状態がオイル不足状態である場合に、トランスファクラッチ24の差回転ΔNが特性線Lb1,Lb2から得られる第2閾値を上回ると、トランスファクラッチ24のスリップ状態を抑制するクラッチ保護制御を実行する。また、特性線Lb1は特性線La1よりも小さく設定されており、特性線Lb2は特性線La2よりも小さく設定されている。これにより、トランスファクラッチ24がオイル不足状態である場合には、早いタイミングでクラッチ保護制御を実行することができ、トランスファクラッチ24を適切に保護することができる。
【0060】
図11に示した例では、トランスファクラッチ24がオイル適量状態である場合に、2つの特性線La1,La2を用いているが、これに限られることはなく、1つの特性線La1だけを用いても良い。同様に、
図12に示した例では、トランスファクラッチ24がオイル不足状態である場合に、2つの特性線Lb1,Lb2を用いているが、これに限られることはなく、1つの特性線Lb1だけを用いても良い。つまり、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル適量状態である場合に、トランスファクラッチ24の差回転ΔNが特性線La1から得られる第1閾値を上回ると、クラッチ保護制御を実行する。また、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル不足状態である場合に、トランスファクラッチ24の差回転ΔNが特性線Lb1から得られる第2閾値を上回ると、クラッチ保護制御を実行する。
【0061】
図11に示すように、トランスファクラッチ24の締結指示トルクTtが大きくなるにつれて、つまりトランスファクラッチ24の締結トルクが大きくなるにつれて、特性線La1,La2から得られる第1閾値は小さく設定されている。また、
図12に示すように、トランスファクラッチ24の締結指示トルクTtが大きくなるにつれて、つまりトランスファクラッチ24の締結トルクが大きくなるにつれて、特性線Lb1,Lb2から得られる第2閾値は小さく設定されている。これにより、クラッチ保護制御を適切なタイミングで実行することができる。
【0062】
図11に示した例では、締結指示トルクTtに応じて特性線La1,La2から得られる第1閾値を変化させているが、これに限られることはない。つまり、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル適量状態である状況のもとで、差回転ΔNが固定値である第1閾値を上回る場合に、クラッチ保護制御を実行しても良い。同様に、
図12に示した例では、締結指示トルクTtに応じて特性線Lb1,Lb2から得られる第2閾値を変化させているが、これに限られることはない。つまり、制御システム70は、トランスファクラッチ24がオイル不足状態である状況のもとで、差回転ΔNが固定値である第2閾値を上回る場合に、クラッチ保護制御を実行しても良い。
【0063】
本開示は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、複数の制御ユニット71,72,73,80によって制御システム70を構成しているが、これに限られることはない。例えば、1つの制御ユニットによって制御システム70を構成しても良い。また、図示するパワーユニット14は、動力源としてエンジン12およびモータジェネレータ13を備えたハイブリッド車両用のパワーユニット14であるが、これに限られることはない。動力源としてエンジン12のみを備えたパワーユニットであっても良く、動力源としてモータジェネレータ13のみを備えた電気自動車用のパワーユニットであっても良い。
【0064】
前述の説明では、前輪20と後輪18とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチとして、トランスファクラッチ24を用いているが、これに限られることはない。例えば、前輪20と後輪18とのトルク分配比を制御する摩擦クラッチとして、例えば、センターデファレンシャル機構に設けられる差動制限クラッチを用いても良い。前述の説明では、電磁駆動部47によってトランスファクラッチ24を制御しているが、これに限られることはない。例えば、油圧制御されるピストンによってトランスファクラッチ24を制御しても良い。図示する例では、トランスファクラッチ24は多板クラッチであるが、これに限られることはなく、トランスファクラッチ24として単板クラッチを採用しても良い。
【0065】
前述の説明では、クラッチ保護制御として、トランスファクラッチ24の締結トルクを上げることでスリップを解消させ、トランスファクラッチ24の入力トルクを下げることでスリップを解消させているが、これに限られることはない。例えば、クラッチ保護制御として、トランスファクラッチ24の締結トルクを下げることにより、トランスファクラッチ24を解放してスリップを解消させても良い。また、起動スイッチ90は機械的に動作する物理スイッチに限られることはなく、起動スイッチ90としてタッチパネル等に表示される仮想スイッチを用いても良いことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0066】
10 車両用駆動装置
11 車両
12 エンジン(動力源)
13 モータジェネレータ(動力源)
18 後輪(駆動輪)
20 前輪(駆動輪)
24 トランスファクラッチ(摩擦クラッチ)
28 変速入力軸(回転軸)
40,41 動力伝達経路
50 オイル供給システム(潤滑システム)
51 オイルポンプ
54 ロータ
58 クランク軸
70 制御システム
90 起動スイッチ
100 プロセッサ
101 メインメモリ(メモリ)
ΔN 差回転(スリップ量)
Na1,Na2 回転閾値(第1閾値)
Nb1,Nb2 回転閾値(第2閾値)
Tb1 漏れ時間(供給停止時間)
Xb1 時間閾値