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特開2024-125852金属錯体、金属錯体の製造方法、水の酸化触媒
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  • 特開-金属錯体、金属錯体の製造方法、水の酸化触媒 図1
  • 特開-金属錯体、金属錯体の製造方法、水の酸化触媒 図2
  • 特開-金属錯体、金属錯体の製造方法、水の酸化触媒 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125852
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】金属錯体、金属錯体の製造方法、水の酸化触媒
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20240911BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240911BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C07D519/00 301
B01J31/22 Z
C07F15/00 A
C07D519/00 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033958
(22)【出願日】2023-03-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行日(公開日) 令和4年9月5日 刊行物 錯体化学会第72回討論会講演要旨集 錯体化学会 発行 *参加者専用アドレスより公開(参加者のみ閲覧可) (公開アドレスURL:http://www.chem.okayama-u.ac.jp/▲~▼reg/jscc72/pdf/2PA-53.pdf) <資 料> 錯体化学会第72回討論会講演要旨集 掲載研究論文要旨 (2)開催日(公開日) 令和4年9月27日 (会期:令和4年9月26日~28日) 集会名、開催場所 錯体化学会第72回討論会 錯体化学会 主催 九州大学 伊那キャンパス(福岡県福岡市西区元岡744) ポスター発表 Room 2202 <資 料> 錯体化学会第72回討論会 開催概要 <資 料> 錯体化学会第72回討論会 プログラム <資 料> 錯体化学会第72回討論会 研究発表ポスター
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】大山 大
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 千紘
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 憲
【テーマコード(参考)】
4C072
4G169
4H050
【Fターム(参考)】
4C072MM02
4C072MM10
4C072UU10
4G169AA06
4G169AA08
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE08A
4G169BE08B
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE41B
4G169CB81
4G169FB06
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB40
4H050WB13
4H050WB14
4H050WB21
(57)【要約】
【課題】安定で単離が可能な金属錯体、金属錯体からなる水の酸化触媒、および金属錯体の製造方法を提供する。
【解決手段】 下記式(1)で表され、かつ、ピリジンのN(窒素)がM3+に配位している、金属錯体。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、かつ、ピリジンのN(窒素)がM3+に配位している、金属錯体。
【化1】
(上記式(1)中、Rは下記式(2)~下記式(5)で表され、Mは三価の金属であり、Lは下記式(6)~下記式(15)で表されるピリジンまたはピリジン置換体である。Rに含まれる窒素の1か所でM3+に配位する。Rが2つあるため、ピリジンの窒素と併せて計3か所の窒素でM3+に配位する。M3+に配位する3つの窒素はすべて同一面上にある。)
【化2】
(上記式(2)中、符号αで示す窒素が上記式(1)中のM3+に配位し、*は結合手を示す。)
【化3】
(上記式(3)中、*は結合手を示す。)
【化4】
(上記式(4)中、*は結合手を示す。)
【化5】
(上記式(5)中、符号αで示す窒素が上記式(1)中のM3+に配位し、*は結合手を示す。)
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【請求項2】
請求項1に記載の金属錯体からなる、水の酸化触媒。
【請求項3】
下記式(16)で表される化合物Aを得る第1工程と、
前記化合物Aと、三価の金属塩とを、アルコールを含む溶液に溶解して溶液Bとする第2工程と、
前記溶液Bにピリジンまたはピリジン置換体を加えて溶液Cとし、前記溶液Cを加熱する第3工程と、
を有する、金属錯体の製造方法。
【化16】
(上記式(16)中、Rは下記式(2)~下記式(5)で表される。)
【化17】
(上記式(2)中、*は結合手を示す。)
【化18】
(上記式(3)中、*は結合手を示す。)
【化19】
(上記式(4)中、*は結合手を示す。)
【化20】
(上記式(5)中、*は結合手を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体、金属錯体の製造方法および金属錯体からなる水の酸化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
モデル化合物を用いた光合成の反応機構の解明や、モデル化合物を触媒とする有機物の酸化反応の開発には、水の酸化プロセスの解明が重要である。触媒的な水の酸化反応における中間体としては、RuIII-OH種の存在が指摘されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M.D.Karkas et al., Inorg. Chem. 57, 10881-10895(2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効率的な触媒反応系を構築するためには、前記の中間体を単離してその性質を調べることが重要である。しかしながら、一般にRuIII-OH種は不安定であるため、単離が難しかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、安定で単離が可能な金属錯体、金属錯体の製造方法、および金属錯体からなる水の酸化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]下記式(1)で表され、かつ、ピリジンのN(窒素)がM3+に配位している、金属錯体。
【0007】
【化1】
(上記式(1)中、Rは下記式(2)~下記式(5)で表され、Mは三価の金属であり、Lは下記式(6)~下記式(15)で表されるピリジンまたはピリジン置換体である。Rに含まれる窒素の1か所でM3+に配位する。Rが2つあるため、ピリジンの窒素と併せて計3か所の窒素でM3+に配位する。M3+に配位する3つの窒素はすべて同一面上にある。)
【0008】
【化2】
(上記式(2)中、符号αで示す窒素が上記式(1)中のM3+に配位し、*は結合手を示す。)
【0009】
【化3】
(上記式(3)中、*は結合手を示す。)
【0010】
【化4】
(上記式(4)中、*は結合手を示す。)
【0011】
【化5】
(上記式(5)中、符号αで示す窒素が上記式(1)中のM3+に配位し、*は結合手を示す。)
【0012】
【化6】
【0013】
【化7】
【0014】
【化8】
【0015】
【化9】
【0016】
【化10】
【0017】
【化11】
【0018】
【化12】
【0019】
【化13】
【0020】
【化14】
【0021】
【化15】
【0022】
[2][1]に記載の金属錯体からなる、水の酸化触媒。
【0023】
[3]下記式(16)で表される化合物Aを得る第1工程と、
前記化合物Aと、三価の金属塩とを、アルコールを含む溶液に溶解して溶液Bとする第2工程と、
前記溶液Bにピリジンまたはピリジン置換体を加えて溶液Cとし、前記溶液Cを加熱する第3工程と、
を有する、金属錯体の製造方法。
【0024】
【化16】
(上記式(16)中、Rは下記式(2)~下記式(5)で表される。)
【0025】
【化17】
(上記式(2)中、*は結合手を示す。)
【0026】
【化18】
(上記式(3)中、*は結合手を示す。)
【0027】
【化19】
(上記式(4)中、*は結合手を示す。)
【0028】
【化20】
(上記式(5)中、*は結合手を示す。)
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、安定で単離が可能な金属錯体、金属錯体の製造方法、および金属錯体からなる水の酸化触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例で得られた金属錯体(L=ピリジン)の分子構造を示す図である。
図2】[Ru(pip)(OH)L錯体(L=ピリジン)のpH変化による吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
図3図2の波長464nmにおけるpHと吸光度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の金属錯体、金属錯体の製造方法、および金属錯体からなる水の酸化触媒の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0032】
[金属錯体]
本発明の一実施形態に係る金属錯体は、下記式(1)で表される。本実施形態の金属錯体の電荷は、+1である。金属イオン(M)は+3価、配位子はR部位のN-Hが金属に配位する際に、水素イオン(H)を2つ解離して配位するため、金属に結合した配位子は形式的に-2価となる。よって、金属錯体は+1価となる。
【0033】
【化21】
(上記式(1)中、Rは下記式(2)~下記式(5)で表され、Mは三価の金属であり、Lは下記式(6)~下記式(15)で表されるピリジンまたはピリジン置換体である。Rに含まれる窒素の1か所でM3+に配位する。Rが2つあるため、ピリジンの窒素と併せて計3か所の窒素でM3+に配位する。M3+に配位する3つの窒素はすべて同一面上にある。)
【0034】
【化22】
(上記式(2)中、符号αで示す窒素が上記式(1)中のM3+に配位し、*は結合手を示す。)
【0035】
【化23】
(上記式(3)中、*は結合手を示す。)
【0036】
【化24】
(上記式(4)中、*は結合手を示す。)
【0037】
【化25】
(上記式(5)中、符号αで示す窒素が上記式(1)中のM3+に配位し、*は結合手を示す。)
【0038】
【化26】
【0039】
【化27】
【0040】
【化28】
【0041】
【化29】
【0042】
【化30】
【0043】
【化31】
【0044】
【化32】
【0045】
【化33】
【0046】
【化34】
【0047】
【化35】
【0048】
上記式(1)において、ピリジンと2つのRは同一平面上にある。また、上記式(1)において、Rが上記式(2)~上記式(5)で表される化合物の場合、ピリジンと2つのRに含まれる複素環とピリジンから構成される構造は剛直であり、複素環はR中のピリジンに対して、自由に回転できない。
【0049】
上記式(1)においてMで表される三価の金属としては、例えば、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、Os(オスミウム)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等が挙げられる。
【0050】
上記式(1)においてLは、上記式(6)で表されるピリジン、上記式(7)で表される4-メチルピリジン(4-ピコリン)、上記式(8)で表される4-tert-ブチルピリジン等のピリジン置換体が好ましい。
【0051】
上記式(1)で表される金属錯体としては、具体的に、下記式(17)で表される[Ru(pip)(OH)L錯体が挙げられる。[Ru(pip)(OH)L錯体では、下記式(18)で表されるHpipから2つのHが脱離して、pipの3つの窒素(上記式(1)のピリジンの窒素、上記式(1)のRのピリジン側の2つの窒素)が三価の金属であるRuに結合するとともに、pipの2つの窒素(上記式(1)のピリジンから離れた位置にある2つの窒素)がRuに結合した水(HO)に水素結合する。これにより、Ru(III)-ОH結合が維持される。なお、Rが上記式(3)の場合は、酸素、Rが上記式(4)の場合は、硫黄が、Ruに結合した水(HO)に水素結合する。これにより、Ru(III)-ОH結合が維持される。
【0052】
【化36】
【0053】
【化37】
【0054】
本実施形態の金属錯体によれば、安定で単離が可能な金属錯体を提供することができる。
【0055】
[水の酸化触媒]
本発明の一実施形態に係る水の酸化触媒は、本発明の一実施形態に係る金属錯体からなる。
【0056】
本実施形態の水の酸化触媒によれば、水の酸化を効率的に行うことができる。
【0057】
[金属錯体の製造方法]
本発明の一実施形態に係る金属錯体の製造方法は、上記式(1)で表される金属錯体の製造方法である。
本実施形態の金属錯体の製造方法は、下記式(16)で表される化合物Aを得る第1工程と、前記化合物Aと、三価の金属塩とを、アルコールを含む溶液に溶解して溶液Bとする第2工程と、前記溶液Bにピリジンまたはピリジン置換体を加えて溶液Cとし、前記溶液Cを加熱する第3工程と、を有する。
【0058】
【化38】
(上記式(16)中、Rは上記式(2)~上記式(5)で表される。)
【0059】
(第1工程)
第1工程では、上記式(16)で表される化合物Aを得る。
が上記式(2)~上記式(5)で表される場合、化合物Aの合成経路は、例えば、8-ヒドラジノキノリン→2,6-ジアセチルピリジン-ビス(8-キノリニルヒドラゾン)→2,6-ビス(ピリド[3,2-ジ]インド-2’-イル)ピリジン(=Rが上記式(2)~上記式(5)である場合の化合物A)で合成することができる。
また、化合物Aは、例えば、R.A.Taylor et al., Polyhedron 131 34-39(2017)、V.Hegde et al., J.Am.Chem.Soc.115 872-878(1993)、S.F.Liu et al.,J.Am.Chem.soc.122 3671-3678(2000)、W.L.Jia et al., Organometallics 22 4070-4078(2003)に記載の方法で合成することができるが、これに限定されない。
【0060】
(第2工程)
第2工程では、化合物Bと三価の金属を反応させる。まず、アルコールに金属塩を溶解させ、溶液Bとする。この際、金属塩を溶解させることができれば、アルコールに金属塩を溶解させる方法は特に限定されず、例えば、加熱還流を行うこともできる。
【0061】
金属塩としては、例えば、ハロゲン化物、硝酸塩等が挙げられ、具体的には、RuCl、CoF、FeCl、FeBr、Fe(NO、OsCl、RhCl、Rh(NO、IrCl、IrBr等が挙げられる。
【0062】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0063】
溶液Bの濃度は、0.005mol/L~0.05mol/Lが好ましい。
【0064】
次に、第1工程で合成した化合物Aを、アルコールを含む溶媒Aに溶解して、溶液Aとする。
【0065】
溶媒Aは、アルコールを含んでいればよいが、収率向上の観点でジメチルホルムアミドを混合することがより好ましい。ジメチルホルムアミドを混合する場合におけるジメチルホルムアミドとアルコールの混合比は、体積比で、2/10以上8/10以下が好ましい。
【0066】
アルコールは、溶液Bの溶媒と同じものを用いるのが好ましい。
【0067】
溶液Aの濃度は、0.0015mol/L~0.02mol/Lが好ましい。
【0068】
次に、溶液Aと溶液Bを混合し、溶液Cを得る。溶液Aと溶液Bの混合方法や混合時間は、溶液Aと溶液Bが均一になりさえずれば、特に限定されないが、加熱還流することが好ましい。加熱還流する場合も、溶液Aと溶液Bが均一に混合できさえすれば、特にその加熱還流時間は限定されないが、3時間から12時間程度、加熱還流することが好ましい。また、溶液Aと溶液Bの混合割合は、溶液Aに含まれる金属塩の量と、溶液Bに含まれる化合物Bがモル換算でおおよそ同程度になるようにすればよいが、好ましくは、金属塩の量と化合物Bの量の差が20%以内に収まるようにする。
【0069】
(第3工程)
第3工程では、さらに、ピリジンまたはピリジン置換体を反応させて、上記式(1)で表される金属錯体を得る。まず、水にピリジンまたはピリジン置換体を溶解させて、溶液Dとする。ピリジンまたはピリジン置換体と水との混合比は、体積比で0.1/8以上1/8以下が好ましい。
【0070】
ピリジン置換体としては、上記式(7)~上記式(15)で表される化合物等が挙げられる。
【0071】
次に、上記溶液Cに上記溶液Dを加えて溶液Eとし、前記溶液Eを加熱還流する。溶液Cと溶液Dの混合割合は、溶液Cに含まれる金属の量に対して、溶液Dに含まれるピリジンまたはピリジン置換体の量がおおよそ2倍程度になるようにすればよいが、好ましくは、金属の量に対するピリジンまたはピリジン置換体の量が、モル換算で1.5倍~3倍とするのが好ましい。
【0072】
溶液Eを還流する時間は、特に限定されないが、例えば、12時間以上40時間以下である。
【0073】
以上の第1工程から第3工程により、上記式(1)で表される金属錯体が得られる。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
[実施例]
下記の合成方法により、上記式(18)で表されるHpipを合成した(第1工程)。
遮光および窒素雰囲気にした三口フラスコにヒドラジン一水和物(24mL)と8-キノリノール(3.06g、21.1mmol)を加えた。130℃で5日間、加熱還流した。放冷後、冷蔵庫に一晩放置した。析出した固体を吸引ろ過し、少量の冷水で洗浄し、一晩デジケーターで乾燥させ、黄色の針状固体として、8-ヒドラジノキノリン2.70g(16.9mmol)を得た。収率は、81%だった。
次に、窒素雰囲気にした三口フラスコに、2,6-ジアセチルピリジン(219.2mg、2.72mmol)と8-ヒドラジノキノリン(427.1mg、2.69mmol)をエタノール(25ml)で溶解させた。90℃で2時間加熱還流した。放冷後、冷蔵庫に一晩放置した。析出した固体を吸引ろ過し、エタノールで洗浄し、一晩、デジケーターで減圧乾燥し、黄色固体として、2,6-ジアセチルピリジン-ビス(8-キノリニルヒドラゾン)442.0mg(0.99mmol)を得た。収率は37%だった。
続いて、ビーカーに2,6-ジアセチルピリジン-ビス(8-キノリニルヒドラゾン)(202.7mg、0.455mmol)とポリリン酸(3.0g)を加え、ホットスターラーを用いて、160℃で12時間加熱撹拌した。放冷後、撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで滴下した。ジクロロメタン(150mL)で3回抽出した後、水(75mL)で3回洗浄し、硫酸ナトリウム(無水)で脱水した。ロータリーエバポレーターで乾固させ、デジケーターで減圧乾燥し、黄色固体として、2,6-ビス(ピリド[3,2-ジ]インド-2’-イル)ピリジン154.3mg(0.376mmol)を得た。収率は83%だった。得られた黄色固体が2,6-ビス(ピリド[3,2-ジ]インド-2’-イル)ピリジン(Hpip)であることは、TOF-MS(飛行時間型質量分析装置 ESI-TOF/microOTOF(Bruker Daltonics社製)とH-NMR(NMR:核磁気共鳴法、AL300型核磁気共鳴装置(JEOL社製))で確認した。
【0076】
第2工程として、以下のようにHpipとRu3+を反応させた。
フラスコに塩化ルテニウム三水和物(31.4mg、0.109mmol)とエタノール(6mL)を加え、100℃で加熱還流し、溶液Bとした。
pip(42.6mg,0.104mmol)を、エタノール(10mL)とジメチルホルムアミド(5mL)に溶解させ溶液Aとした。
【0077】
溶液Bに溶液Aを滴下して加え、6時間、加熱還流し、溶液Cを得た。
【0078】
第3工程として、さらに、以下のようにピリジンと反応させた。
水(4mL)にピリジン(0.2mL)を溶解させ、溶液Dを得た。
溶液Cに溶液Dを加え、溶液Eを得て、溶液Eを24時間、加熱還流した。
【0079】
得られた生成物を放冷後、吸引ろ過により不純物を取り除き、その後、ヘキサフルオロリン酸カリウム(55.2mg、3当量)を加え、冷却後に水を加えて析出した緑色固体を吸引ろ過した後、水およびジエチルエーテルで洗浄し、一晩、デジケーターで減圧乾燥した。得られた粗結晶をアセトン溶解した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、[Ru(pip)(py)(OH)(PF)(L=ピリジン)を緑色固体として回収した。
回収した生成物から蒸気拡散法でその単結晶を得て、X線回折(XRD、Saturn -CCD回折計、Rigaku社製))を行った。
その結果、得られた生成物は図1に示す分子構造を有するものであり、上記式(17)で表される[Ru(pip)(OH)L錯体(L=ピリジン)であることが確認された。
【0080】
得られた生成物の収率は42%であった。
また、ピリジンを上記式(7)で表される4-ピコリンに替えて、同様の方法で、[Ru(pip)(OH)L錯体(L=4-ピコリン)が得られ、その収率は50%であった。
さらに、ピリジンを上記式(8)で表される4-tert-ブチルピリジンに替えて、同様の方法で、[Ru(pip)(OH)L錯体(L=4-tert-ブチルピリジン)が得られ、その収率は49%であった。
また、得られた生成物が、それぞれ目的の錯体であることを、TOF-MSとFT-IR(赤外線吸収分析法、フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-4100(JASCO社製)で確認した。
【0081】
(評価)
実施例1で得られた[Ru(pip)(OH)L錯体の酸解離定数(pK)を測定した。
酸解離定数の測定方法は、溶液のpHを変化させて分光光度計で吸光度を測定することにより行った。用いた分光光度計は、紫外-可視分光光度計 V-560DS(JASCO社製)で、サンプル濃度は0.05mmol、溶媒はアセトンを用いて、石英セルで行った。
[Ru(pip)(OH)L錯体に対して、塩基(例えば、飽和水酸化ナトリウム水溶液を添加した際の脱プロトン化反応を下記式(19)に示す。下記式(19)において、RuIII-OHは、[Ru(pip)(OH)L錯体である。
【0082】
【化39】
【0083】
[Ru(pip)(OH)L錯体(L=ピリジン)の吸光度等の測定結果を図2図3に示す。
上記式(19)において、Kが小さい、すなわち、反応が左側から右側に進行しにくいほど、[Ru(pip)(OH)L錯体は安定であると言える。
図2図3に示す結果から、[Ru(pip)(OH)L錯体(L=ピリジン)は、pHが大きくなるに従って波長464nmの吸光度が増大することが分かった。また、[Ru(pip)(OH)L錯体(L=ピリジン)の酸解離定数(pK)は少なくとも13以上であること分かった。さらに、Lが、ピリジン置換体である場合の酸解離定数(pK)も、Lが、ピリジンであるときと同程度であることがわかった。酸解離定数(pK)が大きい程、[Ru(pip)(OH)L錯体は安定であると言える。例えば、RuIII(iba)(4-pic)(OH)、すなわち、下記式(20)で表される錯体の酸解離定数(pK)は5.6であることから、[Ru(pip)(OH)L錯体は、従来の錯体よりもかなり安定であることが分かった。このように、本発明の金属錯体は、安定であり、水の酸化プロセスの検討および水の酸化触媒としても有用である。
【0084】
【化40】
図1
図2
図3