(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125863
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】補修ドレインセット
(51)【国際特許分類】
E04D 13/04 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
E04D13/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033974
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000223403
【氏名又は名称】住ベシート防水株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】若山 豊
(57)【要約】
【課題】自在ドレインに補修ドレインを挿入して補修が施された補修ドレインセットにおいて、自在ドレインに対して補修ドレインが優れた液密性をもって挿入され、雨水等の水が補修ドレインセットに対して浸入するのが的確に抑制または防止された補修ドレインセットを提供すること。
【解決手段】本発明の補修ドレインセットは、自在ドレイン70と補修ドレイン80と充填材85とを有し、自在ドレイン70は、筒体711、721と、筒体711、721の内周面から突出する内周フランジ724(突出部)とを有しており、筒体711、721に補修ドレイン80を挿入した際に、画成された第1空隙871と第2空隙872との双方に、充填材85が充填されており、第1空隙871における充填材85の高さをA[mm]とし、第2空隙872における充填材85の高さをB[mm]としたとき、A>Bなる関係を満足する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体が備える排水口に対応して配置される自在ドレインと、該自在ドレインに挿入される補修ドレインと、前記自在ドレインと前記補修ドレインとの間に充填される充填材とを有する補修ドレインセットであって、
前記自在ドレインは、筒体と、該筒体の上端部から突出するフランジと、前記筒体の途中において、前記筒体の内周面から内側に向かって突出する突出部とを有し、
前記筒体は、前記補修ドレインが有する筒状をなす挿入ドレインを挿入可能に構成されており、
前記突出部は、その内径が前記筒体の内径よりも小さく、かつ、前記挿入ドレインの内径よりも小さく、または、前記挿入ドレインの内径とほぼ一致しており、前記筒体に前記挿入ドレインを挿入した際に、前記筒体と前記挿入ドレインとの間に第1空隙が画成され、また、前記挿入ドレインと前記突出部との間に、前記第1空隙に連通する第2空隙が画成されるよう構成され、
前記充填材は、前記第1空隙と第2空隙との双方に、互いに連通して充填され、
前記突出部は、前記挿入ドレインの下端を、前記第2空隙に充填された前記充填材を介して係止する係止部を構成しており、
前記第1空隙における、前記突出部の上面を起点とする前記充填材の高さをA[mm]とし、前記第2空隙における、前記突出部の上面を起点とする前記充填材の高さをB[mm]としたとき、A>Bなる関係を満足することを特徴とする補修ドレインセット。
【請求項2】
前記自在ドレインは、上部筒体と、該上部筒体の上端部から突出する上部フランジとを有する上部ドレインと、
下部筒体と、該下部筒体の上端部から突出する下部フランジとを有する下部ドレインとを備え、
前記上部筒体は、その外周面に形成されたネジ溝を有し、前記下部筒体は、その上端側において、内周面に形成されたネジ溝を有しており、
前記上部筒体の外径が、前記下部筒体におけるネジ溝が形成されている前記上端側の内径とほぼ等しく設定されており、これにより、前記上部筒体が前記下部筒体に螺合されるようになっており、
前記下部筒体は、その前記ネジ溝の下端側において、前記内周面から突出する内周フランジを有し、
螺合された前記上部筒体と前記下部筒体とにより前記筒体が構成され、上部フランジと下部フランジとにより前記フランジが構成され、前記内周フランジにより前記突出部が構成されている請求項1に記載の補修ドレインセット。
【請求項3】
前記上部筒体に、前記挿入ドレインが挿入可能に構成され、前記上部筒体への前記挿入ドレインの挿入により、前記上部筒体と前記挿入ドレインとの間に、前記第1空隙が画成され、
前記内周フランジは、その内径が前記上部筒体の内径よりも小さく設定されている請求項2に記載の補修ドレインセット。
【請求項4】
前記充填材は、シリコーン系充填材である請求項1に記載の補修ドレインセット。
【請求項5】
前記充填材は、その50%引張応力が0.03N/mm2以上0.80N/mm2以下である請求項4に記載の補修ドレインセット。
【請求項6】
前記第1空隙における、前記内周フランジの上面を起点とする前記充填材の高さAは、1.0mm以上10.0mm以下である請求項1に記載の補修ドレインセット。
【請求項7】
前記第2空隙における、前記内周フランジの上面を起点とする前記充填材の高さBは、1.0mm以上4.0mm以下である請求項6に記載の補修ドレインセット。
【請求項8】
前記下部筒体における前記ネジ溝が形成されている前記上端側の内径は、前記下部筒体の下端側の内径よりも大きく、かつ、前記上部筒体の内径は、前記下部筒体の下端側の内径よりも大きくなっている請求項2に記載の補修ドレインセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補修ドレインセットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高耐久化が求められることに伴って、多くの建築物の屋上やベランダ等の躯体(構造体)において、防水シート(樹脂シート)を敷設施工したシート防水構造が採用されている。
【0003】
このシート防水構造では、躯体が備える排水口に対応して、自在ドレインが配置され、この自在ドレインの上端が、シート防水構造が備える防水シートに接合され、さらに、下部ドレインの下端には、躯体が備える排水管が接続されている。これにより、躯体が備える排水口を介して、躯体から、その外部に対して、雨水等の水が排出されることとなる。
【0004】
かかる構成をなすシート防水構造は、施工後に年月を経ると、日光や、雨水に晒されることにより、不可避的に劣化が生じ、その結果、シート防水構造の防水性が低下する。そのため、シート防水構造の防水性を維持することを目的に、シート防水構造の補修、すなわち劣化した防水シートに対する新たな防水シートの敷設が行われる。この補修の際に、通常、自在ドレインには、自在ドレインの内径よりも小さい内径を有する補修ドレインが挿入される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記のようにして、補修が施された後のシート防水構造では、再度、優れた防水性を付与する必要がある。そのため、自在ドレインに対して補修ドレインが挿入された領域において、自在ドレインに補修ドレインが優れた液密性をもって挿入されていることが求められる。しかしながら、現状では、かかる領域における液密性が充分に確保されているとは言えないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、自在ドレインに補修ドレインを挿入して補修が施された補修ドレインセットにおいて、自在ドレインに対して補修ドレインが優れた液密性をもって挿入され、雨水等の水が補修ドレインセットに対して浸入するのが的確に抑制または防止された補修ドレインセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~(8)に記載の本発明により達成される。
(1) 躯体が備える排水口に対応して配置される自在ドレインと、該自在ドレインに挿入される補修ドレインと、前記自在ドレインと前記補修ドレインとの間に充填される充填材とを有する補修ドレインセットであって、
前記自在ドレインは、筒体と、該筒体の上端部から突出するフランジと、前記筒体の途中において、前記筒体の内周面から内側に向かって突出する突出部とを有し、
前記筒体は、前記補修ドレインが有する筒状をなす挿入ドレインを挿入可能に構成されており、
前記突出部は、その内径が前記筒体の内径よりも小さく、かつ、前記挿入ドレインの内径よりも小さく、または、前記挿入ドレインの内径とほぼ一致しており、前記筒体に前記挿入ドレインを挿入した際に、前記筒体と前記挿入ドレインとの間に第1空隙が画成され、また、前記挿入ドレインと前記突出部との間に、前記第1空隙に連通する第2空隙が画成されるよう構成され、
前記充填材は、前記第1空隙と第2空隙との双方に、互いに連通して充填され、
前記突出部は、前記挿入ドレインの下端を、前記第2空隙に充填された前記充填材を介して係止する係止部を構成しており、
前記第1空隙における、前記突出部の上面を起点とする前記充填材の高さをA[mm]とし、前記第2空隙における、前記突出部の上面を起点とする前記充填材の高さをB[mm]としたとき、A>Bなる関係を満足することを特徴とする補修ドレインセット。
【0009】
(2) 前記自在ドレインは、上部筒体と、該上部筒体の上端部から突出する上部フランジとを有する上部ドレインと、
下部筒体と、該下部筒体の上端部から突出する下部フランジとを有する下部ドレインとを備え、
前記上部筒体は、その外周面に形成されたネジ溝を有し、前記下部筒体は、その上端側において、内周面に形成されたネジ溝を有しており、
前記上部筒体の外径が、前記下部筒体におけるネジ溝が形成されている前記上端側の内径とほぼ等しく設定されており、これにより、前記上部筒体が前記下部筒体に螺合されるようになっており、
前記下部筒体は、その前記ネジ溝の下端側において、前記内周面から突出する内周フランジを有し、
螺合された前記上部筒体と前記下部筒体とにより前記筒体が構成され、上部フランジと下部フランジとにより前記フランジが構成され、前記内周フランジにより前記突出部が構成されている上記(1)に記載の補修ドレインセット。
【0010】
(3) 前記上部筒体に、前記挿入ドレインが挿入可能に構成され、前記上部筒体への前記挿入ドレインの挿入により、前記上部筒体と前記挿入ドレインとの間に、前記第1空隙が画成され、
前記内周フランジは、その内径が前記上部筒体の内径よりも小さく設定されている上記(2)に記載の補修ドレインセット。
【0011】
(4) 前記充填材は、シリコーン系充填材である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の補修ドレインセット。
【0012】
(5) 前記充填材は、その50%引張応力が0.03N/mm2以上0.80N/mm2以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の補修ドレインセット。
【0013】
(6) 前記第1空隙における、前記内周フランジの上面を起点とする前記充填材の高さAは、1.0mm以上10.0mm以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の補修ドレインセット。
【0014】
(7) 前記第2空隙における、前記内周フランジの上面を起点とする前記充填材の高さBは、1.0mm以上4.0mm以下である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の補修ドレインセット。
【0015】
(8) 前記下部筒体における前記ネジ溝が形成されている前記上端側の内径は、前記下部筒体の下端側の内径よりも大きく、かつ、前記上部筒体の内径は、前記下部筒体の下端側の内径よりも大きくなっている上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の補修ドレインセット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自在ドレインに補修ドレインを挿入して補修が施された補修ドレインセットにおいて、自在ドレインと補修ドレインとの間に形成された空隙(間隙)に対して、充填材が充填されており、この空隙に対する充填材の充填が、前述したA>Bなる関係を満足して行われている。したがって、自在ドレインに対して補修ドレインが、充填材を介して優れた液密性をもって挿入されていると言えることから、雨水等の水が補修ドレインセットに対して浸入するのを的確に抑制または防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】躯体に施工されたシート防水構造を、自在ドレインが設けられた領域を中心に、部分的に取り出した部分縦断面図である。
【
図2】
図1に示すシート防水構造の主要部分である自在ドレインが設けられた領域を示す部分斜視図である。
【
図3】
図2に示すシート防水構造の主要部分におけるA-A線縦断面図である。
【
図4】
図1に示すシート防水構造を補修する補修キットを説明するための部分分解斜視断面図である。
【
図5】
図3に示すシート防水構造の主要部分である自在ドレインが設けられた領域において、
図4に示す補修キットを用いて補修が施された、本発明の補修ドレインセットを示す縦断面図である。
【
図6】
図5中の点線で囲まれた領域[X]に位置する充填材の周辺を拡大した拡大縦断面図である。
【
図7】
図4に示す補修キットを用いた補修が適用される自在ドレインの他の第1構成例を示す縦断面図である。
【
図8】
図7中の点線で囲まれた領域[Y]に位置する充填材の周辺を拡大した拡大縦断面図である。
【
図9】
図4に示す補修キットを用いた補修が適用される自在ドレインの他の第2構成例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の補修ドレインセットを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
以下、本発明の補修ドレインセットを説明するのに先立って、まず、本発明の補修ドレインセットが適用される、自在ドレイン70を備えるシート防水構造10について詳述する。
【0020】
<シート防水構造>
図1は、躯体に施工されたシート防水構造を、自在ドレインが設けられた領域を中心に、部分的に取り出した部分縦断面図、
図2は、
図1に示すシート防水構造の主要部分である自在ドレインが設けられた領域を示す部分斜視図、
図3は、
図2に示すシート防水構造の主要部分におけるA-A線縦断面図である。なお、以下の説明では、
図1~
図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図1では、説明の便宜上、シート防水構造の全体を示すことなく、躯体が備える床部と壁部とを部分的に図示している。
【0021】
本実施形態では、シート防水構造10が施工された、屋上やベランダのような躯体100(構造体)を一例にして説明する。
【0022】
躯体100は、床部101と、この床部101の外縁を取り囲むように沿って立設して設けられた壁部102とを有している。また、床部101は、
図1に示すように、その厚さ方向に貫通する排水口105を有している。そして、この排水口105には、雨水等の水を排水として排出する機能を発揮させるために、開口部515を備える配置部材50と、この開口部515に装着された自在ドレイン70とが配置され、この自在ドレイン70に、躯体100に設けられた排水管150が接続されており、これにより、排水口105を介して、躯体100から、その外部に対して、雨水等の水が排出されることとなる。
【0023】
シート防水構造10は、本実施形態では、この躯体100、すなわち枠体をなす壁部102と、底部を構成し、排水口105を備える床部101とに対して施工されたものであり、本実施形態では、防水シート20と、配置部材50と、自在ドレイン70と、敷設部材90とを有している。
【0024】
<<敷設部材>>
敷設部材90は、その全体形状が平板状をなし、床部101が備える排水口105が露出するように、床部101に敷設されている。この敷設部材90は、例えば、断熱材と、この断熱材の上面を被覆する被覆材とを有する積層体で構成される。このように、敷設部材90を、断熱材を備えるものとすることにより、躯体100における断熱性の向上が図られる。
【0025】
断熱材としては、通常、建物の断熱に用いられる断熱材が用いられ、例えば、発泡ポリスチレン、ポリウレタンフォーム、ポリイソシアヌレートフォーム、フェノールフォーム等で構成される断熱層が挙げられる。
【0026】
また、被覆材としては、例えば、ポリエチレン製の織布からなる絶縁クロスシート、ガラス繊維製の防火用シート、ピンホール検査用のアルミ箔ラミネートシート等や、人の歩行を可能にする目的で、歩行用ボードとして、繊維強化セメント板、石こうボード製品、木質系セメント板等の高剛性板が挙げられる。
【0027】
すなわち、本実施形態では、断熱性を有する断熱材と、その上に敷設された絶縁クロスシート、防火用シート、アルミ箔ラミネートシートもしくは高剛性板等で構成される被覆材との積層体により、敷設部材90が構成される。
【0028】
なお、敷設部材90は、上記のような積層体で構成される場合の他、断熱材または被覆材の単体で構成される単層体であってもよい。
【0029】
ここで、床部101が備える排水口105が露出するように床部101に敷設部材90が敷設された躯体100において、壁部102と床部101上の敷設部材90との境界部103の近傍で、排水口105を有する配置部材50は、固定ビス等(図示せず)を用いて敷設部材90を介して床部101に固定されている。そして、この状態で、防水シート20は、配置部材50および敷設部材90とともに床部101と壁部102とを覆っており、これにより、躯体100の防水性が確保される。
【0030】
換言すれば、日光や雨水には防水シート20が晒されることとなり、躯体100すなわち壁部102と床部101とが直接的に日光や雨水に晒されることが防止されるため、躯体100の防水性が確保される。
【0031】
上記のように、躯体100すなわち壁部102と床部101とを、敷設部材90、配置部材50等とともに、防水シート20で被覆することにより、躯体100の防水性が確保される。そして、配置部材50は、開口部515を有し、この開口部515には自在ドレイン70が装着されており、さらに、排水口105において、この自在ドレイン70に、躯体100に設けられた排水管150が接続されている。これにより、排水口105を介して、躯体100から、その外部に対して、雨水等の水が排出されることとなる。
【0032】
以下、床部101が備える排水口105において、床部101に防水を施しつつ、躯体100から、その外部に対して、排水口105を介して、雨水等の水を排出する際に、この水の排出に関与する各部の構成について、順次、説明する。
【0033】
<<配置部材>>
配置部材50は、壁部102と床部101上の敷設部材90との境界部103の近傍において、床部101が備える排水口105に配置部材50が備える開口部515が対応するように配置され、固定ビス等を用いて、敷設部材90を介して床部101に固定されている。
【0034】
なお、
図1では、配置部材50が境界部103に配置されているが、防水が施工される躯体100の形状は、当然、様々であることから、配置部材50としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される躯体100が備える境界部103の形状に合致するものが選択され、配置部材50は、境界部103に、その形状に対応するように、配置される。
【0035】
この配置部材50は、
図2に示すように、基部51と、立ち上がり面52とを有している。
【0036】
基部51は、敷設部材90が敷設された床部101に対応して配置され、
図1、
図2の上側から見た平面視で、矩形状をなしている。この基部51は、敷設部材90に対応する平部510と、この平部510に傾斜して設けられ、境界部103に対応する傾斜部511と、これら平部510および傾斜部511の中央部において、平部510から傾斜部511に亘って延設された溝部を構成する凹部512とを有している。
【0037】
凹部512は、側壁を構成する段差513と、底面を構成する底部514とからなり、この底部514は、その厚さ方向に貫通する開口部515を有している。
【0038】
かかる構成をなしている配置部材50を躯体100内に配置すると、境界部103に対応して配置される傾斜部511が、雨水等の水が流れる流路を構成し、この流路としての傾斜部511から凹部512に雨水等の水が供給され、その後、凹部512の底部514が備える開口部515を介して、この水は、最終的に床部101が備える排水口105から、躯体100の外側に排出されることとなる。なお、配置部材50が備える開口部515には、自在ドレイン70が、その上端において装着され、さらに自在ドレイン70の下端には、躯体100に設けられた排水管150が接続されているが、その詳細な説明は、後に行うこととする。
【0039】
また、立ち上がり面52は、基部51(傾斜部511)の縁部から立設している。この立ち上がり面52は、配置部材50を境界部に対応して配置した際に、壁部102に沿うように、基部51に対して屈曲した構造をなしている。
【0040】
また、立ち上がり面52は、厚さ方向に貫通する貫通孔(図示せず)を有しており、ビス等を、この貫通孔に挿通した状態で、壁部102に固定することにより、配置部材50(立ち上がり面52)が躯体100に取り付けられる。
【0041】
この配置部材50は、金属板と、この金属板の表面を被覆する樹脂層とで構成されている。このように、金属板の表面を樹脂層で被覆することで、金属板の腐食を確実に防止することができる。さらに、この樹脂層により、配置部材50の上面において、防水シート20の下面に対して確実に接合することができる。
【0042】
金属板は、例えば、ステンレス鋼板、鉄板のような鋼板、アルミ板、銅板等で構成されるが、鋼板であるのが好ましい。これにより、配置部材50を優れた強度を有するものとすることができる。
【0043】
樹脂層は、樹脂で構成されるものであり、この樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ポリ塩化ビニルであるのが好ましい。すなわち、後述する防水シート20を構成する樹脂と、同種または同一であることが好ましい。これにより、樹脂層と防水シート20との密着性を向上させることができる。さらに、ポリ塩化ビニルは、溶剤溶着性や熱融着性に優れるため、前記効果をより顕著に発揮させることができるとともに、金属板の腐食をより確実に防止することができる。
【0044】
また、この樹脂層を構成する樹脂には、後述する防水シート20の構成材料で挙げる可塑剤、安定化剤等の他の材料が含まれていてもよい。
【0045】
<<自在ドレイン>>
自在ドレイン70は、その上端(一端)において、配置部材50が備える開口部515に固定されており、躯体100が備える排水口105に対応して配置された際に、さらに、その下端(他端)において、躯体100に設けられた排水管150が接続されており、これにより、配置部材50に供給された雨水等の水を、排水管150に供給する流路を構成する。
【0046】
この自在ドレイン70は、
図1~
図3に示すように、上部ドレイン71と、下部ドレイン72とを有し、底部514が備える開口部515の上側および下側に、開口部515を挟んで、それぞれ、上部ドレイン71および下部ドレイン72が配設されている。
【0047】
上部ドレイン71は、開口部515に挿入される上部筒体711と、この上部筒体711の上端部から突出し、底部514の上面に接触する上部フランジ712とを有している。また、上部筒体711は、その外周面に形成されたネジ溝715を有している。
【0048】
下部ドレイン72は、上部筒体711が螺合可能に挿入される下部筒体721と、この下部筒体721の上端部から突出し、底部514の下面に接触する下部フランジ722とを有している。また、下部筒体721は、その上端側において、内周面に形成されたネジ溝725を有している。
【0049】
かかる構成をなす上部ドレイン71および下部ドレイン72は、
図1~
図3に示すように、上部ドレイン71の上部筒体711の外径が、下部ドレイン72の下部筒体721におけるネジ溝725が形成されている上端側の内径とほぼ等しく設定されており、これにより、上部ドレイン71を、下部ドレイン72に対して挿入する際に、上部筒体711が下部筒体721に螺合される。
【0050】
この上部筒体711と下部筒体721との螺合により、上部ドレイン71の上部フランジ712と、下部ドレイン72の下部フランジ722とが配置部材50の底部514を挟持することとなり、その結果、開口部515が水密に保たれる。
【0051】
以上のような、上部筒体711と下部筒体721とが螺合された自在ドレイン70において、上部筒体711と下部筒体721とにより、自在ドレイン70における筒体が構成される。また、上部フランジ712と下部フランジ722とにより、自在ドレイン70における、筒体の上端部から外側に向かって突出するフランジが構成される。
【0052】
また、下部ドレイン72の下部筒体721は、前述の通り、その内周面にネジ溝725を備えるが、このネジ溝725は、下部筒体721の内周面の上側に形成されており、下部筒体721は、ネジ溝725の下端側において、その内周面から内側に向かって突出する内周フランジ724(突出部)を有している。この内周フランジ724は、下部筒体721に上部筒体711を螺合により挿入した際に、上部筒体711の下端を係止する係止部を構成する。そのため、この螺合による挿入の際に、上部ドレイン71の上部フランジ712と、下部ドレイン72の下部フランジ722とにより、配置部材50の底部514に対して、過剰な負荷が掛かるのを的確に抑制または防止することができる。
【0053】
自在ドレイン70、すなわち、上部ドレイン71および下部ドレイン72は、樹脂で構成されるものであり、この樹脂としては、前記配置部材50が備える樹脂層を構成する樹脂で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0054】
かかる構成をなしている自在ドレイン70は、シート防水構造10が施工される躯体100や、躯体100が備える開口部515等の形状や大きさに応じて、その大きさが適宜設定されるが、具体的には、上部筒体711の内径DAは、好ましくは51mm以上129mm以下程度、より好ましくは64mm以上104mm以下程度に設定される。また、下部筒体721の内周面から突出する内周フランジ724の内径DBは、好ましくは34mm以上100mm以下程度、より好ましくは44mm以上74mm以下程度に設定される。
【0055】
前記内径DA、DBが前記範囲内である自在ドレイン70を備えるシート防水構造10に対して、後述する補修キット300を用いた補修が好適に実施される。
【0056】
<<防水シート>>
防水シート20は、シート状(板状)をなし、配置部材50の縁部と、敷設部材90とともに、床部101と壁部102とを覆うものであり、防水シート20の下面と、配置部材50の上面とが接合されている。
【0057】
これにより、日光や雨水には防水シート20が晒され、躯体100が直接的に日光や雨水に晒されることが防止されることから、躯体100の防水性が確保される。
【0058】
このような防水シート20は、樹脂材料を含有する樹脂シートで構成される。
樹脂材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂であることが好ましい。これにより、防水シート20の溶剤溶着性や熱融着性を優れたものとすることができる。
【0059】
なお、塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルを含む重合体、すなわちオリゴマー、プレポリマーおよびポリマーであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニルの単量重合体、または塩化ビニルと、酢酸ビニル、エチレン、もしくはプロピレン等との共重合体、およびこれらの2種以上の重合体の混合物等が挙げられる。
【0060】
また、樹脂材料には、さらに、各種可塑剤、各種安定化剤、各種酸化防止剤、各種紫外線吸収剤、加工助剤、滑剤、充填材、難燃剤および色材等を含んでいてもよく、特に、可塑剤が含まれることが好ましい。これにより、防水シート20をより優れた柔軟性を有するものとすることができる。
【0061】
なお、可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DIBP(ジイソブチルフタレート)、DHP(ジヘプチルフタレート)のようなフタル酸エステル系可塑剤、DOA(ジ-2-エチルヘキシルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)、DOS(ジ-2-エチルヘキシルセバセート)のような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エチレングリコールのベンゾエート類のような芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、およびTOTM(トリオクチルトリメリテート)のようなトリメリット酸エステル系可塑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
また、安定剤としては、例えば、グリシン亜鉛等が挙げられ、この場合の安定助剤としては、例えば、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリキシリル(TXP)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸2-エチルヘキシル・ジフェニルのような有機リン酸エステル等が挙げられる。
【0063】
以上のことから、防水シート20は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する塩化ビニル系樹脂シートで構成されることが好ましい。これにより、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
【0064】
なお、防水シート20は、前記樹脂シートの単層で構成されるものの他、例えば、その厚さ方向の途中に繊維層が介挿されたもの、すなわち、厚さ方向に積層された第1樹脂層と第2樹脂層との間に繊維層(繊維シート)が挾持された構成のものであってもよい。
【0065】
この繊維層は、繊維の集合体で構成されたものであり、例えば、織布や不織布等のクロス、縦糸と横糸とで複数の格子を形成したネット等の繊維シートが挙げられるが、防水シート20を、このような繊維層を備えるものとすることにより、防水シート20の強度(引き裂き強度や引っ張り強度等)および耐久性(耐繰り返し疲労特性)を向上させることができる。
【0066】
また、防水シート20の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.5mm以上3mm以下程度であるのが好ましく、0.8mm以上3mm以下程度であるのがより好ましい。これにより、床部101と壁部102とを、防水シート20により確実に覆うことができる。また、防水シート20が風で煽られることに起因して、この防水シート20に応力が作用したとしても、早期に防水シート20に亀裂が生じるのを的確に抑制することができる。
【0067】
以上のような構成のシート防水構造10は、施工後に年月を経ると、日光や、雨水に晒されることにより、特に、樹脂で構成される、防水シート20や、自在ドレイン70において、その年月に差異が認められるものの、不可避的に劣化が生じ、その結果、シート防水構造10の防水性が低下する。
【0068】
そのため、例えば、以下に示す補修キットを用いたシート防水構造の補修方法を、シート防水構造10に施して、シート防水構造10の主要部分である自在ドレイン70が設けられた領域において、自在ドレイン70と補修キットとにより、補修ドレインセット(本発明の補修ドレインセット)を形成することで、シート防水構造10の防水性を、再度、確保することが実施されている。
【0069】
以下、まず、シート防水構造10の補修に用いられる補修キット、ならびに、この補修キットと自在ドレイン70とにより形成される補修ドレインセットについて説明し、次いで、この補修キットを用いた補修方法を説明する。
【0070】
<補修キット>
図4は、
図1に示すシート防水構造を補修する補修キットを説明するための部分分解斜視断面図、
図5は、
図3に示すシート防水構造の主要部分である自在ドレインが設けられた領域において、
図4に示す補修キットを用いて補修が施された、本発明の補修ドレインセットを示す縦断面図、
図6は、
図5中の点線で囲まれた領域[X]に位置する充填材の周辺を拡大した拡大縦断面図である。なお、以下の説明では、
図4~
図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0071】
補修キット300は、補修配置部材60と、充填材85と、補修ドレイン80とを有している。そして、これらのうち、補修配置部材60を配置部材50に対応して配置し、さらに、補修ドレイン80と自在ドレイン70との間に形成される空隙に充填材85を介在させつつ、補修ドレイン80を自在ドレイン70に対して挿入するように配置した状態で、補修配置部材60の縁部を、補修すべき防水シート20とともに、新たに用意した防水シート20で被覆することで、補修キット300により、シート防水構造10の防水性が、再度、確保されることとなる。
【0072】
<<補修配置部材>>
補修配置部材60は、
図4、
図5に示すように、配置部材50に対応して、配置部材50が備える開口部515に、補修配置部材60が備える開口部615が重なるように配置して固定されるものである。
【0073】
この補修配置部材60は、上記の通り、配置部材50に対して重ね合わせ得るように、その全体形状が配置部材50に対して相似関係にあり、配置部材50よりも若干小さく形成されている。
【0074】
より具体的には、補修配置部材60は、
図4に示すように、配置部材50と同様の構成をなし、基部61と、立ち上がり面62とを有している。
【0075】
そして、基部61は、平部610と、この平部610に傾斜して設けられた傾斜部611と、これら平部610および傾斜部611の中央部に設けられた凹部612とを有している。
【0076】
また、凹部612は、側壁を構成する段差613と、底面を構成する底部614とからなり、この底部614は、その厚さ方向に貫通する開口部615を有している。
【0077】
これらのうち、凹部612の大きさ、すなわち段差613および底部614の大きさが、凹部512の大きさ、すなわち段差513および底部514の大きさよりも若干小さく形成され、開口部615は、開口部515とほぼ等しい大きさで形成されている。これにより、補修配置部材60を配置部材50に対して重ね合わせることができ、さらに、この重ね合わせの際に、補修配置部材60が備える開口部615を、配置部材50が備える開口部515に対して、その開口面積が小さくなることなく、配置させることができる。
【0078】
<<補修ドレイン>>
補修ドレイン80は、自在ドレイン70に挿通して用いられ、自在ドレイン70に接続された排水管150に連通することで、補修配置部材60に供給された雨水等の水を、排水管150に供給する流路を構成する。
【0079】
この補修ドレイン80は、
図4~
図6に示すように、自在ドレイン70に挿入される筒体をなす挿入ドレイン81と、この挿入ドレイン81の上端部から外側に向かって突出し、底部614の上面を被覆するフランジシート82とを有している。
【0080】
挿入ドレイン81は、
図5に示すように、筒体をなす挿入ドレイン81の外径が、自在ドレイン70が備える上部ドレイン71の上部筒体711の内径よりも小さく設定されており、これにより、挿入ドレイン81を、自在ドレイン70(上部ドレイン71)に対して挿入することが可能となっている。また、挿入ドレイン81を、自在ドレイン70(上部ドレイン71)に挿入したときに、挿入ドレイン81の先端が、内周フランジ724(突出部)に対して接触しないように、挿入ドレイン81の長さが設定されている。上部筒体711に挿入される挿入ドレイン81が、かかる構成をなしていることから、上部筒体711に対する挿入ドレイン81の挿入により、自在ドレイン70(上部ドレイン71)と挿入ドレイン81との間に空隙(間隙)が形成される。この空隙を介した雨水等の水の浸入を防止することを目的に、本発明では、空隙に対応して、後に詳述する充填材85が充填されている。
【0081】
この挿入ドレイン81は、樹脂で構成されるものであり、この樹脂としては、前記配置部材50が備える樹脂層を構成する樹脂で説明したのと同様のものを用いることができる。
【0082】
このような挿入ドレイン81は、挿入する自在ドレイン70(上部ドレイン71)の形状や大きさに応じて、その大きさが適宜設定されるが、具体的には、挿入ドレイン81の内径DCは、好ましくは40mm以上107mm以下程度、より好ましくは51mm以上83mm以下程度に設定され、挿入ドレイン81の外径DDは、好ましくは45mm以上115mm以下程度、より好ましくは57mm以上95mm以下程度に設定される。
【0083】
前記内径DC、外径DDが前記範囲内である挿入ドレイン81(補修ドレイン80)を備える補修キット300とすることで、前記内径DA、DBが前記範囲内である自在ドレイン70を備えるシート防水構造10に対して、補修キット300を用いた補修が好適に実施される。
【0084】
フランジシート82は、挿入ドレイン81の上端側を被覆する被覆部821と、挿入ドレイン81の上端部から突出し、底部614の上面を被覆するフランジ部822とを有しており、挿入ドレイン81が上部ドレイン71に挿入された際に、底部614の上面に接合されることで、底部614の上面を被覆することが可能となっている。
【0085】
このフランジシート82は、シート状をなすものであり、防水シート20で説明したのと同様のもので構成することができる。
【0086】
<<充填材>>
充填材85は、自在ドレイン70への補修ドレイン80の挿通により、自在ドレイン70と挿入ドレイン81との間に形成された空隙(間隙)に充填され、これにより、この空隙を介した雨水等の水の浸入を、抑制または防止するために、いわゆるシーリング材で構成されるものである。
【0087】
ここで、自在ドレイン70への補修ドレイン80(挿入ドレイン81)の挿通において、前述の通り、挿入ドレイン81の外径が、上部筒体711の内径よりも小さく設定されていることから、
図6に示すように挿入ドレイン81の外周面と上部筒体711の内周面との間に第1空隙871が画成され、また、挿入ドレイン81の先端が、内周フランジ724(突出部)に対して接触しないように、挿入ドレイン81の長さが設定されていることから、挿入ドレイン81の先端(下端)と内周フランジ724(突出部)の上面との間に、第1空隙871に連通する第2空隙872が画成されている。なお、本実施形態では、
図5、
図6に示すように、内周フランジ724の内径は、上部筒体711の内径よりも小さくして、挿入ドレイン81の内径とほぼ一致しており、これにより、上記の通り、挿入ドレイン81の先端が、内周フランジ724に接触しないように、上部筒体711に挿入ドレイン81を挿入することで、挿入ドレイン81と内周フランジ724との間に第2空隙872が画成される。
【0088】
このように、自在ドレイン70への補修ドレイン80の挿通により、空隙として、自在ドレイン70と補修ドレイン80との間に、第1空隙871と、この第1空隙871に連通する第2空隙872とが形成されている。
【0089】
充填材85は、かかる構成をなす空隙に対して充填される。すなわち第1空隙871と第2空隙872との双方に、互いに連通して充填されるが、本発明では、
図6に示すように、第1空隙871における、内周フランジ724(突出部)の上面を起点とする充填材85の高さをA[mm]とし、第2空隙872における、内周フランジ724(突出部)の上面を起点とする充填材85の高さをB[mm]としたとき、A>Bなる関係を満足している。かかる関係を満足して、第1空隙871と第2空隙872との双方に充填材85が充填されることで、自在ドレイン70に対して補修ドレイン80が優れた液密性をもって挿入される。そのため、補修キット300により、再度、確保されたシート防水構造10の防水性をもって、雨水等の水がシート防水構造10に浸入するのを的確に抑制または防止することができる。
【0090】
また、第1空隙871における充填材85の高さA[mm]と第2空隙872における充填材85の高さB[mm]とは、A>Bなる関係を満足すればよいが、好ましくはA>2Bなる関係、より好ましくはA>3Bなる関係を満足している。これにより、空隙(第1空隙871と第2空隙872との双方)に充填材85を充填することにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。そのため、自在ドレイン70に対して補修ドレイン80を、より優れた液密性をもって挿入することができる。
【0091】
さらに、第1空隙871における充填材85の高さAは、1.0mm以上10.0mm以下であることが好ましく、3.5mm以上7.0mm以下であることがより好ましい。また、第2空隙872における充填材85の高さBは、1.0mm以上4.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以上2.5mm以下であることがより好ましい。これにより、空隙(第1空隙871と第2空隙872との双方)に充填材85を充填することにより得られる効果をさらに顕著に発揮させることができる。
【0092】
この充填材85(シーリング材)としては、例えば、シリコーンシーリング材、変成シリコーンシーリング材のようなシリコーン系シーリング材(シリコーン系充填材)、フッ素系ポリマーシーリング材、ポリサルファイド系シーリング材、アクリルウレタン系シーリング材、ポリイソブチレン系シーリング材等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、シリコーン系シーリング材であるのが好ましい。シリコーン系シーリング材は、耐久性、耐候性に優れることから、長期に亘って充填材85としての機能を発揮させることができるとともに、作業性(塗装性)に優れることから、後述する補修キットを用いた補修方法において、A>Bなる関係を満足させて、挿入ドレイン81と上部筒体711との間に画成された空隙に対応して、充填材85を、確実に形成することができる。
【0093】
さらに、充填材85は、その50%引張応力が0.03N/mm2以上0.80N/mm2以下であるのが好ましく、0.07N/mm2以上0.60N/mm2以下であるのがより好ましい。また、その伸びが100%以上1200%以下であるのが好ましく、300%以上1000%以下であるのがより好ましい。これにより、例えば、地震や、人が補修キット300を踏みつけたりすること等に基づく外力により、充填材85に応力が作用したとしても、充填材85の内部において亀裂が生じたり、充填材85と挿入ドレイン81等との間で剥離が生じたりするのを的確に抑制または防止することができる。なお、前記50%引張応力および前記伸びは、ともに、JIS A 1439に準拠して測定することができる。
【0094】
また、充填材85は、JIS硬度計A型を用いて測定されるゴム硬度Aが5以上40以下であるのが好ましく、5以上30以下であるのがより好ましい。これにより、この充填材85により、第1空隙871および第2空隙872を介して、雨水等の水が補修ドレインセットに対して浸入するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0095】
以上のような構成をなしている補修キット300において、挿入ドレイン81を上部ドレイン71(上部筒体711)に挿入した際に、挿入ドレイン81と上部筒体711との間に画成された空隙に対して、A>Bなる関係を満足して、充填材85を介在させつつ、底部614の上面にフランジシート82を接合して、底部614の上面を被覆することで、自在ドレイン70と補修キット300とによる補修ドレインセットが形成され、これにより、自在ドレイン70における水密性が確保される。
【0096】
そして、以上のような構成をなす、補修配置部材60および補修ドレイン80のうち、補修配置部材60について、その縁部を、補修すべき防水シート20とともに、新たに用意した防水シート20で被覆することで、配置部材50および自在ドレイン70の水密性を確保することができるため、シート防水構造10の防水性を、再度、確保することが可能となる。
【0097】
なお、補修キット300を用いて補修されたシート防水構造10において、自在ドレイン70と、補修ドレイン80とにより、本発明の補修ドレインセットが構成される。
【0098】
<シート防水構造の補修方法>
補修キット300を用いたシート防水構造の補修方法は、補修配置部材60を、配置部材50に対応して配置する配置工程と、充填材85を、下部ドレイン72の内周フランジ724に対応して塗布する塗布工程と、補修ドレイン80を、自在ドレイン70に挿通する挿入工程と、補修配置部材60の縁部を、新たに用意した防水シート20で被覆する被覆工程とを有する。
【0099】
以下、これら各工程について、詳述する。
[1]まず、補修配置部材60を、配置部材50に対応して配置する(配置工程)。
【0100】
すなわち、配置部材50が備える開口部515に、補修配置部材60が備える開口部615が重なるようにして、補修配置部材60を、配置部材50に対して配置させる。
【0101】
ここで、前述の通り、補修配置部材60が備える凹部612の大きさが、配置部材50が備える凹部512の大きさよりも若干小さく形成されていることから、補修配置部材60を配置部材50に対して重ね合わせることができる。
【0102】
[2]次に、充填材85を、下部ドレイン72の内周フランジ724に対応して塗布する(塗布工程)。
【0103】
より具体的には、次工程[3]において、挿入ドレイン81を上部筒体711に挿入することで、第1空隙871に充填される充填材85の高さA[mm]と、第2空隙872に充填される充填材85の高さB[mm]とがA>Bなる関係を満足する充填量で、本工程[2]では、内周フランジ724に対して充填材85を供給する。
【0104】
この充填材85(シーリング材)は、23℃における粘度が100Pa・s以上600Pa・s以下であるのが好ましく、250Pa・s以上450Pa・s以下であるのがより好ましい。また、その比重が1.00以上1.70以下であるのが好ましく、1.26以上1.36以下であるのがより好ましい。これにより、次工程[3]において、挿入ドレイン81を上部筒体711に挿入する際に、A>Bなる関係を満足して、比較的容易に、この挿入により画成される第1空隙871と第2空隙872との双方に、充填材85を充填することができる。なお、前記粘度は、JIS A 6833に準拠して測定することができる。
【0105】
[3]次に、補修ドレイン80を、自在ドレイン70に挿通する(挿入工程)。
より具体的には、補修ドレイン80が備える挿入ドレイン81を、自在ドレイン70が備える上部ドレイン71の上部筒体711に挿入する。
【0106】
この挿入ドレイン81の上部筒体711への挿入を、本発明では、挿入ドレイン81と上部筒体711との間に画成される第1空隙871と、挿入ドレイン81と内周フランジ724との間に画成される第2空隙872との双方に充填材85が充填され、かつ、このときに、第1空隙871に充填される充填材85の高さA[mm]と第2空隙872に充填される充填材85の高さB[mm]とがA>Bなる関係を満足するように実施する。
【0107】
このとき、内周フランジ724は、第2空隙872に充填された充填材85を介して、挿入ドレイン81の下端(先端)を係止する係止部を構成し、これにより、充填材85を、第1空隙871側から第2空隙872に向かって移動させ得ることから、A>Bなる関係を満足して、充填材85を、第1空隙871および第2空隙872に充填させることができる。
【0108】
そして、この上部筒体711に対する、挿入ドレイン81の挿入の後に、フランジシート82(フランジ部822)を底部614の上面に接合する。これにより、フランジシート82で底部614の上面を被覆することができる。その結果、自在ドレイン70の水密性が確保される。
【0109】
[4]次に、補修配置部材60の縁部を、新たに用意した防水シート20で被覆する(被覆工程)。
【0110】
このとき、新たに用意した防水シート20で、補修すべき防水シート20をともに被覆する。
【0111】
これにより、補修配置部材60と補修ドレイン80とを有する補修キット300と、新たに用意した防水シート20とで、配置部材50および自在ドレイン70、さらには補修すべき防水シート20の水密性が確保される。その結果、シート防水構造10の防水性が、再度、確保される。
【0112】
以上のようにして、補修キット300を用いて、シート防水構造10の防水性が再度、確保されることとなるが、補修キット300が適用されるシート防水構造10は、このものが備える自在ドレイン70が、以下の他の構成例で示すような形態をなすものであってもよい。
【0113】
<<自在ドレインの他の第1構成例>>
図7は、
図4に示す補修キットを用いた補修が適用される自在ドレインの他の第1構成例を示す縦断面図、
図8は、
図7中の点線で囲まれた領域[Y]に位置する充填材の周辺を拡大した拡大縦断面図である。なお、以下の説明では、
図7、
図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0114】
以下、これら
図7、
図8を参照して自在ドレイン70の他の第1構成例について説明するが、前述した
図1~
図6で示した構成の自在ドレイン70との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0115】
図7、
図8に示す他の第1構成例の自在ドレイン70は、下部ドレイン72が備える内周フランジ724の構成が異なること以外は、
図1~
図6に示す自在ドレイン70と同様である。
【0116】
すなわち、
図7、
図8に示すように、内周フランジ724は、その内径が、上部筒体711の内径よりも小さく、かつ、この上部筒体711に挿入される挿入ドレイン81の内径よりも小さくなっている。
【0117】
そして、内周フランジ724における、挿入ドレイン81と内周フランジ724との間で第2空隙872が画成されている領域よりも内側の領域にも、内周フランジ724上に配置して充填材85が設けられている。
【0118】
さらに、この内側の領域において、内周フランジ724上に設けられた充填材85の高さをC[mm]としたとき、第2空隙872に充填される充填材85の高さB[mm]との関係式がC>Bなる関係を満足している。かかる関係をも満足することで、自在ドレイン70に対して補修ドレイン80を、より優れた液密性をもって挿入させることができる。そのため、補修キット300により、再度、確保されたシート防水構造10の防水性をもって、雨水等の水がシート防水構造10に浸入するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0119】
また、充填材85の高さC[mm]と充填材85の高さB[mm]とは、C>Bなる関係を満足すればよいが、好ましくはC>1.3Bなる関係、より好ましくはC>1.5Bなる関係を満足している。これにより、第2空隙872が画成されている領域よりも内側の領域にも、内周フランジ724上に充填材85を設けることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。
【0120】
このような他の第1構成例の自在ドレイン70においても、補修キット300を適用して、シート防水構造10の防水性を、再度、確保することができる。
【0121】
図9は、
図4に示す補修キットを用いた補修が適用される自在ドレインの他の第2構成例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、
図9中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0122】
以下、この
図9を参照して自在ドレイン70の他の第2構成例について説明するが、前述した
図1~
図6で示した構成の自在ドレイン70との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0123】
図9に示す他の第2構成例の自在ドレイン70は、下部ドレイン72が備える下部筒体721の構成、上部ドレイン71が備える上部筒体711の構成、および、下部ドレイン72が備える内周フランジ724の構成が異なること以外は、
図1~
図6に示す自在ドレイン70と同様である。
【0124】
すなわち、
図9に示すように、下部ドレイン72は、下部筒体721のネジ溝725が形成されている上端側における内径が、下部筒体721のネジ溝725が形成されていない下端側における内径よりも大きくなっている。そして、上部ドレイン71は、下部筒体721の上端側に挿入される上部筒体711において、その内径が、下部筒体721の下端側における内径よりも大きくなっている。また、内周フランジ724は、その内径が、上部筒体711の内径よりも小さく、かつ、この上部筒体711に挿入される挿入ドレイン81の内径よりも小さくなっている。
【0125】
ここで、上記の通り、下部筒体721の上端側に挿入される上部筒体711の内径が、下部筒体721の下端側における内径よりも大きくなっていることから、上部筒体711に挿入される挿入ドレイン81として、
図1~
図6で示した自在ドレイン70に対応して用いられるものと比較して、内径が大きいものを用いることができる。そのため、内周フランジ724の内径を、上部筒体711に挿入される挿入ドレイン81の内径よりも、比較的容易に小さく設定することができる。
【0126】
そして、
図9に示す他の第2構成例の自在ドレイン70では、
図7、
図8に示した他の第1構成例の自在ドレイン70と同様に、内周フランジ724における、挿入ドレイン81と内周フランジ724との間で第2空隙872が画成されている領域よりも内側の領域にも、内周フランジ724上に配置して充填材85が設けられている。
【0127】
さらに、この内側の領域において、内周フランジ724上に設けられた充填材85の高さをC[mm]としたとき、第2空隙872に充填される充填材85の高さB[mm]との関係式がC>Bなる関係を満足している。かかる関係をも満足することで、自在ドレイン70に対して補修ドレイン80を、より優れた液密性をもって挿入させることができる。そのため、補修キット300により、再度、確保されたシート防水構造10の防水性をもって、雨水等の水がシート防水構造10に浸入するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0128】
また、充填材85の高さC[mm]と充填材85の高さB[mm]とは、C>Bなる関係を満足すればよいが、好ましくはC>1.3Bなる関係、より好ましくはC>1.5Bなる関係を満足している。これにより、第2空隙872が画成されている領域よりも内側の領域にも、内周フランジ724上に充填材85を設けることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。
【0129】
このような他の第2構成例の自在ドレイン70においても、補修キット300を適用して、シート防水構造10の防水性を、再度、確保することができる。
【0130】
なお、補修キット300が適用される自在ドレイン70は、筒体と、この筒体の上端部から外側に向かって突出するフランジと、筒体の途中において、筒体の内周面から内側に向かって突出する内周フランジ(突出部)とを有するものであればよく、上述した各構成のもの以外に、例えば、上部筒体711と下部筒体721とで筒体が一体的に形成され、さらに、上部フランジ712と下部フランジ722とでフランジが一体的に形成されている構成をなすものであってもよい。
【0131】
以上、本発明の補修ドレインセットについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0132】
例えば、本発明の補修ドレインセットを適用して補修がなされたシート防水構造において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【0133】
さらに、本発明の補修ドレインセットを適用して補修がなされたシート防水構造において、前記実施形態では、自在ドレインは、配置部材が備える開口部に固定されている場合について説明したが、この場合に限らず、自在ドレインは、各種部材に対して固定されているものであってもよい。
【0134】
また、本発明の補修ドレインセットを適用して補修がなされたシート防水構造において、補修キットは、補修配置部材が省略されて充填材と補修ドレインとで構成されるものであってもよい。この場合、配置部材への補修配置部材の配置を省略して、自在ドレインに挿入された補修ドレインのフランジシートについて、その縁部を、補修すべき防水シートとともに、新たに用意した防水シートで被覆することで、配置部材および自在ドレインの水密性を確保することができる。
【0135】
さらに、前記実施形態では、配置部材は、その縁部において選択的に防水シートで被覆される場合について説明したが、この配置部材は、その全体が防水シートで被覆されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0136】
10 シート防水構造
20 防水シート
50 配置部材
51 基部
52 立ち上がり面
60 補修配置部材
61 基部
62 立ち上がり面
70 自在ドレイン
71 上部ドレイン
72 下部ドレイン
80 補修ドレイン
81 挿入ドレイン
82 フランジシート
85 充填材
90 敷設部材
100 躯体
101 床部
102 壁部
103 境界部
105 排水口
150 排水管
300 補修キット
510 平部
511 傾斜部
512 凹部
513 段差
514 底部
515 開口部
610 平部
611 傾斜部
612 凹部
613 段差
614 底部
615 開口部
711 上部筒体
712 上部フランジ
715 ネジ溝
721 下部筒体
722 下部フランジ
724 内周フランジ
725 ネジ溝
821 被覆部
822 フランジ部
871 第1空隙
872 第2空隙