(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012589
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/035 20060101AFI20240123BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240123BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240123BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
H01G9/00 290C
H01G9/15
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193631
(22)【出願日】2023-11-14
(62)【分割の表示】P 2020164404の分割
【原出願日】2019-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2019084615
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190091
【氏名又は名称】ルビコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真之
(72)【発明者】
【氏名】小川原 鉄志
(72)【発明者】
【氏名】桜井 美成
(72)【発明者】
【氏名】飯島 聡
(57)【要約】
【課題】分子量が小さくて水酸基の多いジグリセリンを固体電解質に積極的に含有させたことで酸化皮膜との接触を良好にし、尚且つ、平均分子量のオーダーを調整した水溶性化合物を含有させた水溶性化合物溶液によって所望の静電容量とし、使用周波数におけるESRを従来よりも小さくし、さらに酸化皮膜修復性能を向上させて漏れ電流の低減効果をより一層高めた構成の固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサ1は、固体電解質20を取り囲むように導入された水溶性高分子溶液30を備え、固体電解質20は水溶性化合物2f1としてジグリセリンを含有しており、水溶性高分子溶液30は水溶性化合物2f2として液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを1種以上含有しているとともに、水を含有しており、水溶性化合物2f2の平均分子量をジグリセリンの分子量に近づけた構成である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に導電性高分子化合物によって形成された固体電解質と、前記固体電解質を取り囲むように導入された水溶性化合物溶液とを備え、前記固体電解質はジグリセリンを80wt%以上含有しており、前記水溶性化合物溶液は水溶性化合物として液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを1種以上含有しているとともに水を0.5wt%以上含有しており、前記水溶性化合物の平均分子量を106~300の範囲内としたこと
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記固体電解質は前記導電性高分子化合物を2wt%以上含有しているとともに、前記水溶性化合物溶液は前記水溶性化合物を80wt%以上含有しており、前記水溶性化合物の平均分子量を250以下としたこと
を特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に導電性高分子化合物によって形成された固体電解質と、前記固体電解質を取り囲むように導入された水溶性化合物溶液とを備え、前記固体電解質はジグリセリンを含有しており、前記水溶性化合物溶液は水溶性化合物を含有しているとともに水を含有している固体電解コンデンサの製造方法であって、微粒子状の前記導電性高分子化合物と前記ジグリセリンとを含んだ分散液を前記コンデンサ素子に導入する第1導入ステップと、前記第1導入ステップによって前記コンデンサ素子に形成された前記固体電解質を取り囲むように、前記導電性高分子化合物を含まない液体であって、前記水溶性化合物と水とを含んだ前記水溶性化合物溶液を導入する第2導入ステップを有し、
前記固体電解質は前記ジグリセリンを80wt%以上含有させるとともに、前記水溶性化合物溶液は前記水溶性化合物として液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを1種以上含有させるとともに水を0.5wt%以上含有させて、前記水溶性化合物の平均分子量を106~300の範囲内とすること
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質は前記導電性高分子化合物を2wt%以上含有しているとともに、前記水溶性化合物溶液は前記水溶性化合物を80wt%以上含有しており、前記水溶性化合物の平均分子量を250以下とすること
を特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子状の導電性高分子化合物を用いた固体電解コンデンサは、温度安定性に優れており、等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance:略称はESR)が小さい等の特長がある。一例として、微粒子状の導電性高分子化合物を分散液に分散させた状態でコンデンサ素子に導入し、乾燥させて、固体電解質層を形成する。固体電解質層が形成された状態のコンデンサ素子に、液体状の水溶性化合物が含まれた水溶性化合物溶液を導入することで、水溶性化合物溶液が保持している水分を陽極酸化皮膜の修復に使用することが可能となる。以下、本明細書では、等価直列抵抗をESRとして表記する場合がある。
【0003】
従来、酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に形成された固体電解質層と、液状成分とを備えた固体電解コンデンサにおいて、液状成分は第1成分がグリセリン、ポリグリセリンまたはジエチレングリコールであり、第2成分がポリエチレングリコールである構成が提案されている(特許文献1:国際公開第2017/094242号公報)。また、固体電解コンデンサにおいて、微粒子状の導電性高分子化合物を含んだ分散液をジグリセロールとともに撹拌して得た分散液にコンデンサを含浸した例が記載されている(特許文献2:特開2012-186452号公報)。そして、固体電解コンデンサにおいて、酸化皮膜の修復を行うために、ポリエチレングリコールを含ませることが開示されている(特許文献3:特開2018-026542号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/094242号公報
【特許文献2】特開2012-186452号公報
【特許文献3】特開2018-026542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンデンサの技術分野においては、従来よりも漏れ電流やESRが低減されたコンデンサが常に求められており、固体電解コンデンサの技術分野においても例外ではない。一方、従来技術は、親水性高分子化合物による皮膜修復性能が十分でないことなどから所望の漏れ電流低減効果が得られなかった。また、導電性高分子化合物を使用することにより従来よりもESRが小さくなったものの、従来技術は、使用周波数におけるESRをさらに小さくした固体電解コンデンサ、一例として使用周波数100[kHz]におけるESRをさらに小さくした固体電解コンデンサの要求に対して、所望のレベルまでESRが小さくならないという問題がある。
【0006】
また従来、固体電解コンデンサの製造時において、微粒子状の導電性高分子化合物と水溶性化合物とを含んだ分散液をコンデンサ素子に導入し、高温で溶媒を除去して固体電解層を形成している。従来技術は、分散液における水溶性化合物にグリセリンを用いており、グリセリンの場合は固体電解層の形成の際に溶媒と一緒に除去されてしまうという問題がある。この問題に対して、グリセリンに比べて沸点が高い物質であるジグリセリンやポリグリセリンは、固体電解質層形成時に高温で溶媒を除去しても固体電解質層に充分な量を残留させることができる。また、固体電解質層に含まれたジグリセリンやポリグリセリンは微粒子状の導電性高分子化合物の配向性を変えて導電性を向上させることができる。一方、ポリグリセリンは固体電解質層に充分な量を残留させた場合、微粒子状の導電性高分子の粒子間に入り込むことで導電性を妨げ、固体電解コンデンサの抵抗増加の要因となるという新たな問題が見つかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、分子量が小さくて水酸基の多いジグリセリンを固体電解質に積極的に含有させたことで酸化皮膜との接触を良好にし、尚且つ、平均分子量のオーダーを調整した水溶性化合物を含有させた水溶性化合物溶液によって所望の静電容量とし、使用周波数におけるESRを従来よりも小さくし、さらに酸化皮膜修復性能を向上させて漏れ電流の低減効果をより一層高めた構成の固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明の固体電解コンデンサは、酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に導電性高分子化合物によって形成された固体電解質と、前記固体電解質を取り囲むように導入された水溶性化合物溶液とを備え、前記固体電解質はジグリセリンを80wt%以上含有しており、前記水溶性化合物溶液は水溶性化合物として液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを1種以上含有しているとともに水を0.5wt%以上含有しており、前記水溶性化合物の平均分子量を106~300の範囲内としたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、固体電解質内にジグリセリンを積極的に含有させたことで均質な固体電解質が陽極酸化皮膜に形成された構造となるとともに、水溶性化合物溶液に液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを積極的に含有させたことで固体電解質内のジグリセリンとの相溶性が飛躍的に向上して酸化皮膜との良好な接触が得られるとともに、漏れ電流の低減効果をより一層高めることができて、所望の静電容量とし、使用周波数におけるESRを従来よりも小さくできる。さらに、リフローなどで固体電解コンデンサが高温環境下であるときや固体電解コンデンサが長時間使用されたときに、固体電解コンデンサが膨れにくくなる。
【0011】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に導電性高分子化合物によって形成された固体電解質と、前記固体電解質を取り囲むように導入された水溶性化合物溶液とを備え、前記固体電解質はジグリセリンを含有しており、前記水溶性化合物溶液は水溶性化合物を含有しているとともに水を含有している固体電解コンデンサの製造方法であって、微粒子状の前記導電性高分子化合物と前記ジグリセリンとを含んだ分散液を前記コンデンサ素子に導入する第1導入ステップと、前記第1導入ステップによって前記コンデンサ素子に形成された前記固体電解質を取り囲むように、前記導電性高分子化合物を含まない液体であって、前記水溶性化合物と水とを含んだ前記水溶性化合物溶液を導入する第2導入ステップを有し、前記固体電解質は前記ジグリセリンを80wt%以上含有させるとともに、前記水溶性化合物溶液は前記水溶性化合物として液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを1種以上含有させるとともに水を0.5wt%以上含有させて、前記水溶性化合物の平均分子量を106~300の範囲内とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の構成によれば、固体電解コンデンサ製造時に除去され難いジグリセリンを積極的に用いることで、微粒子状の導電性高分子化合物の配向性を向上させることができるとともに、導電性高分子化合物と導電性高分子化合物との間の導電性を妨げることがない。そして、平均分子量が400未満の水溶性化合物によって、微粒子状の導電性高分子化合物間への導入がより確実となって、固体電解質の導電性が確保されるとともに漏れ電流が小さくなる。さらに、液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを積極的に含有させた水溶性化合物溶液を用いることで、固体電解質内のジグリセリンとの相溶性を飛躍的に向上させて酸化皮膜との良好な接触が得られるとともに、漏れ電流の低減効果をより一層高めることができて、所望の静電容量とし、使用周波数におけるESRを従来よりも小さくした固体電解コンデンサを製造することができる。
【0013】
前記水溶性化合物の平均分子量は200以上かつ300以下であることが特に好ましい。平均分子量が300以下のポリエチレングリコールを用いたことで、低温でESRがより小さくなる。また、平均分子量が200以上のポリエチレングリコールを用いたことで、外部への飛散が特に防止できる。
【0014】
前記固体電解質は前記導電性高分子化合物を2wt%以上含有しているとともにジグリセリンを80wt%以上含有していることが特に好ましい。これにより、固体電解質が陽極酸化皮膜に良好に形成された構造となる。
【0015】
前記水溶性化合物溶液は水を0.5wt%以上含有しているとともに前記水溶性化合物を80wt%以上含有していることが特に好ましい。これにより、水溶性化合物溶液の陽極酸化皮膜修復能力が十分に発揮できる構成となって、酸化皮膜の欠損修復効率を十分に高くできる。前記水溶性化合物溶液における水の含有量は0.7[wt%]以上であることがより一層好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、固体電解質内にジグリセリンを積極的に含有させたことで均質な固体電解質が陽極酸化皮膜に形成された構造となるとともに、水溶性化合物溶液として液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを積極的に含有させたことで固体電解質内のジグリセリンとの相溶性が飛躍的に向上して酸化皮膜との良好な接触が得られるとともに、漏れ電流の低減効果をより一層高めることができる。これにより、一例として、使用周波数100[kHz]の場合におけるESRを従来よりも小さくできて、また、一例として、静電容量を従来技術よりも大きくして所望の静電容量とすることが可能な構成の固体電解コンデンサが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は本発明の実施形態におけるコンデンサ素子の要部を模式的に示す図である。
【
図2】
図2Aは
図1に示す要部を有する固体電解コンデンサの構造を示す概略の部分断面図であり、
図2Bは
図1に示す要部を有する固体電解コンデンサをケース開口側から見た概略の図である。
【
図3】
図3は本実施形態において、リード端子が接合された陽極箔とリード端子が接合された陰極箔とセパレータとをそれぞれ重ね合わせて巻回している状態の図である。
【
図4】
図4Aは本実施形態において、化成処理における準備段階の図であり、
図4Bは化成処理の準備段階に続く浸漬段階の図であり、
図4Cは化成処理の浸漬段階に続く引き上げ段階の図である。
【
図5】
図5Aは本実施形態において、分散液充填処理における準備段階の図であり、
図5Bは分散液充填処理の準備段階に続く浸漬段階の図であり、
図5Cは分散液充填処理の浸漬段階に続く引き上げ段階の図である。
【
図6】
図6Aは本実施形態において、水溶性化合物溶液導入処理における準備段階の図であり、
図6Bは水溶性化合物溶液導入処理の準備段階に続く浸漬段階の図であり、
図6Cは水溶性化合物溶液導入処理の浸漬段階に続く引き上げ段階の図である。
【
図7】
図7Aは本実施形態において、嵌合処理における準備段階の図であり、
図7Bは嵌合処理の準備段階に続く挿通段階の図であり、
図7Cは嵌合処理の挿通段階に続く嵌合段階の図である。
【
図8】
図8は本実施形態の固体電解コンデンサの製造手順を示すフローチャート図である。
【
図9】
図9Aは本発明の実施例と比較例とについて、水溶性化合物の平均分子量と、周波数120[Hz]における静電容量との関係を比較して示すグラフ図であり、
図9Bは本発明の実施例と比較例とについて、水溶性化合物の平均分子量と、周波数10[kHz]における静電容量との関係を比較して示すグラフ図である。
【
図10】
図10Aは本発明の実施例と比較例とについて、水溶性化合物の平均分子量と、周波数10[kHz]におけるESRとの関係を比較して示すグラフ図であり、
図10Bは本発明の実施例と比較例とについて、水溶性化合物の平均分子量と、周波数100[kHz]におけるESRとの関係を比較して示すグラフ図である。
【
図11】
図11は本発明の実施例と比較例とについて、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールの平均分子量と、リフロー後の漏れ電流との関係を比較して示すグラフ図である。
【
図12】
図12は本発明の実施例と比較例とについて、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールの平均分子量と、高温試験後の静電容量変化率との関係を比較して示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明の実施形態に係るコンデンサ素子2の構造等について説明する。
【0019】
図1は本実施形態の固体電解コンデンサ1におけるコンデンサ素子2の要部を模式的に示す図である。陽極箔2aと陰極箔2cとはアルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁金属から形成されている。陽極箔2aの表面は、エッチング処理により粗面化された後、化成処理によって陽極酸化皮膜2bが形成されている。また、陰極箔2cの表面は、陽極箔2aと同様にエッチング処理により粗面化された後、自然酸化皮膜2hが形成されている。一例として、陽極箔2aおよび陰極箔2cは、アルミニウムからなる。なお、実施形態を
説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
陽極箔2aと陰極箔2cとの間にはセパレータ2dが配設されている。セパレータ2dは、一例として、導電性の高分子や水溶性の高分子と化学的に馴染み易いセルロース繊維、または、耐熱性に優れたナイロン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の合成樹脂で形成されたものが適用される。一例として、セパレータ2dに耐熱性セルロース紙が適用される。
【0021】
本実施形態は、
図1に示すように、陽極箔2aと陰極箔2cとの間の空隙に、固体電解質層20と水溶性化合物溶液30とが、水溶性化合物溶液30が固体電解質層20を取り囲むように導入されている。陽極側では、陽極箔2aの酸化皮膜2bを覆うように固体電解質層20が形成されている。固体電解質層20は、サイズがナノメートルオーダーの微粒子状の導電性高分子化合物2eとジグリセリン2f1とを含んでいる。そして、固体電解質層20を取り囲むように水溶性化合物溶液30が導入されている。水溶性化合物溶液30は、液体状の水溶性化合物2f2と水とを含んでいる。水溶性化合物溶液30は、水を含んでいるので、陽極箔2aの酸化皮膜2bを修復する優れた酸化膜修復性能を有する。
【0022】
導電性高分子化合物2eは、一例として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、ポリピロール(PPy)、ポリアニリン(PANI)、ポリチオフェン(PT)、又はその他既知の導電性高分子化合物を含む。これによれば、高耐電圧化が可能となり、一例として、耐電圧を100[V]まで高めることができる。また、導電性高分子化合物2eは、ポリスチレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のいずれか1種以上をドーパントとした導電性高分子化合物を含むことが好ましい。これによれば、導電性が安定する。
【0023】
一例として、導電性高分子化合物2eの平均粒子径は、1[nm]以上かつ300[nm]以下である。導電性高分子化合物2eの平均粒子径が1[nm]未満である場合には、微粒子状の導電性高分子化合物を作製するのが困難となる場合がある。一方、導電性高分子化合物2eの平均粒子径が300[nm]よりも大きい場合には、陽極箔2a表面のエッチングピット(凹部)に導電性高分子化合物2eを導入するのが困難となる場合がある。このような観点から言えば、導電性高分子化合物2eの平均粒子径は、2[nm]以上であることが特に好ましく、3[nm]以上であることがより一層好ましい。また、導電性高分子化合物2eの平均粒子径は、200[nm]以下であることが特に好ましく、100[nm]以下であることがより一層好ましい。
【0024】
一例として、本実施形態の固体電解コンデンサ1の構造を示す概略の部分断面図を
図2Aに示す。固体電解コンデンサ1は、微粒子状の導電性高分子化合物2eとジグリセリン2f1とを含んだ固体電解質層20が形成されたコンデンサ素子2と、リード端子5及びリード端子6と、貫通穴が二箇所に形成された封口体3と、コンデンサ素子2を収納する有底形状のケース4と、固体電解質層20を取り囲むように導入された水溶性化合物溶液30とを備えており、ケース4の開口側が封口体3によって封止されている構成である。ここで、固体電解コンデンサ1の各部の位置関係を説明し易くするため、図中にX,Y,Zの矢印で向きを示している。固体電解コンデンサ1を実際に使用する際には、これらの向きに限定されず、どのような向きで使用しても支障ない。
【0025】
図2Aと
図2Bの例では、ケース4の開口側の側面に横絞り部が形成され、且つ、開口端部が曲げられている。ケース4の開口側は、コンデンサ素子2が配設されておらず、封口体3の第1面の一部や、リード端子5(6)の引出端子が露出している。封口体3は、ケース4の横絞り部と開口端部とによって支持固定されている。リード端子5(6)は、丸棒部が封口体3の貫通穴に嵌合しており、封口体3によって支持固定されている。
【0026】
ケース4は有底筒状であり、アルミニウム等の金属からなる。封口体3は、水分の浸入や酸化皮膜修復物質の飛散を防止するために高気密性を有し、ケース4の内側形状に合わせた略円柱形状となっている。封口体3は、一例として、絶縁性ゴム組成物からなる。一例として、封口体3に、イソブチレン・イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、又はその他既知のエラストマーが適用される。
【0027】
リード端子5(6)における引出端子は、一例として、錫めっきされた銅被覆鋼線(CP線)からなる。これにより、外部の基板等への半田付けが容易となる。なお、引出端子は、丸ピンとする場合や角ピンとする場合がある。ここで、リード端子5は陽極箔2aに接合される陽極リード端子であり、リード端子6は陰極箔2cに接合される陰極リード端子である。陽極リード端子5の引出端子5fの長さは、陰極リード端子6の引出端子6fの長さよりも長くなっているので、極性を容易に視認できる。一例として、引出端子の長さの違いを除いて、陽極リード端子5と陰極リード端子6とは、同一形状かつ同一構造となっている。陽極リード端子5における扁平部と第1段差部と丸棒部とは、一例として、アルミニウムからなり、プレス加工によって成形される。
【0028】
続いて、本実施形態に係る固体電解コンデンサ1の製造方法について、以下に説明する。
【0029】
図8は、固体電解コンデンサ1の製造手順を示すフローチャート図である。固体電解コンデンサ1は、一例として、接合ステップS1、素子形成ステップS2、第1導入ステップS3、第2導入ステップS4、嵌合ステップS5、封口ステップS6、エージングステップS7の順に製造される。なお、上記の製造手順は一例であり、上記以外に、第2導入ステップS4と嵌合ステップS5との順序を入れ替えることが可能である。そして、エージングステップS7の後に、封口ステップS6を設けることが可能である。また、エージングステップS7の後に、嵌合ステップS5および封口ステップS6を設けることが可能である。
【0030】
接合ステップS1は、一例として、リード端子5の扁平部と陽極箔2aとを重ね合わせて、針等で所定箇所を突き通して複数の接合箇所を所定間隔で形成し、出来たバリ部分をプレス加工して陽極箔2aと接合して電気接続可能とする。陰極箔2cについても同様である。接合箇所は複数個所形成されていれば電気接続状態が安定するので、接続箇所が二箇所の場合、三箇所の場合、四箇所以上の場合がある。
【0031】
素子形成ステップS2は、一例として、
図3に示すように、陽極箔2aと陰極箔2cとの間にセパレータ2dを挟んで両電極箔を隔離した状態とし、陽極箔2aと陰極箔2cとをセパレータ2dを介して巻回して円筒形状とする。そして、テープまたはフィルム等を円筒形状の外周部に貼り付けて巻回状態を保持する(不図示)。次に、素子形成ステップS2における化成処理は、一例として、
図4Aに示すように、化成液11を入れた化成液槽51を準備する。次に、
図4Bに示すように、化成処理前段階のコンデンサ素子2iを化成液槽51内の化成液11に浸漬するとともに、引出端子5fと化成液11との間に所定電圧を所定時間印加する。一例として、100[V]の電圧を、5[分]印加して、陽極箔2aの端部に存在する酸化皮膜欠損部及び表面に存在することがある酸化皮膜欠損部を修復する(不図示)。そして、
図4Cに示すように、化成液槽51から引き上げて、乾燥し、化成処理された状態のコンデンサ素子2jにする。化成液11は、例えば、アジピン酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、グルタル酸アンモニウム、アゼライン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、ピメリン酸アンモニウム、スベリン酸アンモニウム等の水溶液が挙げられる。
【0032】
第1導入ステップS3は、微粒子状の導電性高分子化合物2eとジグリセリン2f1とを含んだ分散液を、化成処理された状態のコンデンサ素子2jに導入して、乾燥し、固体電解質層20を形成する。分散液の媒質は、水または水溶性液体のいずれかないしは両方である。
【0033】
第1導入ステップS3は、一例として、
図5Aに示すように、分散液12を入れた分散液槽52を準備する。次に、
図5Bに示すように、化成処理された状態のコンデンサ素子2jを分散液槽52内の分散液12に浸漬する。そして、
図5Cに示すように、分散液槽52から引き上げて、乾燥し、第1導入処理された状態のコンデンサ素子2kにする。乾燥回数は1回以上であり、乾燥を複数回繰り返す場合がある。
【0034】
本実施形態は、分散液12における導電性高分子化合物2eの濃度は、一例として、0.1[vol%]以上かつ10[vol%]以下である。導電性高分子化合物2eの濃度が0.1[vol%]よりも低い場合には、導電性高分子化合物2eの量が少なく、所望のコンデンサ特性を発揮できない可能性がある。一方、導電性高分子化合物2eの濃度が10[vol%]よりも高い場合には、分散液12に導電性高分子化合物2eが均質に分散しない可能性がある。このような観点から言えば、導電性高分子化合物2eの濃度は、1[vol%]以上であることが好ましく、また、導電性高分子化合物2eの濃度は、2[vol%]以上であることがより好ましい。そして、導電性高分子化合物2eの濃度は、7[vol%]以下であることが好ましく、また、導電性高分子化合物2eの濃度は、3[vol%]以下であることがより好ましい。
【0035】
第2導入ステップS4は、陽極箔2aの酸化皮膜2bを修復可能な水溶性化合物2f2を含んだ水溶性化合物溶液30を導入する。一例として、
図6Aに示すように、陽極箔2aの酸化皮膜2bを修復可能な水溶性化合物2f2を含んだ水溶性化合物溶液30を入れた溶液槽53を準備する。次に、
図6Bに示すように、固体電解質層20が形成された状態のコンデンサ素子2kを溶液槽53内の水溶性化合物溶液30に浸漬する。そして、
図6Cに示すように、溶液槽53から引き上げて、水溶性化合物溶液30が導入処理された状態のコンデンサ素子2にする。
【0036】
第2導入ステップS4は、一例として、水溶性化合物溶液30として、ジグリセリンを含んでいない液体を用いる。これによって、水溶性化合物溶液30の調合が容易にできるとともに、固体電解コンデンサ1におけるジグリセリンの割合を精度良く調整することが容易にできて、静電容量、誘電正接(tanδ)、ESR、並びに絶縁破壊電圧等の電気特性のばらつきが小さくなる。
【0037】
嵌合ステップS5は、一例として、
図7Aに示すように、ケース4と封口体3とを準備する。次に、
図7Bに示すように、水溶性化合物溶液30が導入処理された状態のコンデンサ素子2をケース4に収納するとともに、陽極リード端子5の丸棒部と、陰極リード端子6の丸棒部を封口体3の2箇所の貫通穴にそれぞれ嵌合する。これにより、
図7Cに示すように、ケース4と封口体3とが嵌合状態となる。
【0038】
封口ステップS6は、一例として、ケース4の開口側にカシメ加工を施して、ケース4の開口側の側面に横絞り部を形成し、尚且つ、開口端部を曲げる。このカシメ加工によって、
図2に示すように、ケース4の横絞り部と開口端部とによって封口体3を支持固定する。つまり、封口体3とコンデンサ素子2とは、有底形状のケース4に収納されており、封口体3は、ケース4の開口側の成形加工によって支持固定されている。
【0039】
エージングステップS7は、ケース4の開口側が封口体3とリード端子5(6)とによって封口された後に、外装スリーブをケース4に取り付ける等して、当該外装スリーブを熱加工するとともに、エージング処理を行う。エージング処理は、高温条件下で所定時間、電圧印加を行い、水溶性化合物溶液30の酸化皮膜修復作用を用いて、陽極箔2aの接合箇所や断面等の金属地金部分と酸化皮膜2bの弱い部分を再化成する。これにより、漏れ電流を抑制した状態で安定させる。また、エージング処理には、予期しない初期不良の除去といったデバッキング効果もある。
【0040】
上述した本実施形態の固体電解コンデンサ1は、微粒子状の導電性高分子化合物2eと、水溶性化合物と分子量のオーダーが近くなっているとともに水酸基が多いジグリセリン2f1とが固体電解質層20に含まれているので、酸化皮膜2bとの良好な接触が得られる。よって、固体電解質層20内のジグリセリン2f1による酸化皮膜修復性能がさらに向上し、漏れ電流の低減効果を高めた構成となる。さらに、固体電解質層20内のジグリセリン2f1と水溶性化合物溶液30との良好な相溶性、すなわちジグリセリン2f1の分子量にオーダーが近くなるように平均分子量のオーダーを調整した水溶性化合物2f2を含有させた水溶性化合物溶液によって固体電解コンデンサを所望の静電容量とし、使用周波数におけるESRを従来よりも小さくし、さらに酸化皮膜修復性能を向上させて漏れ電流の低減効果をより一層高めた構成となる。さらに、固体電解質層20内のジグリセリン2f1による酸化皮膜修復性能が損なわれたときでも、水溶性化合物溶液30内の水溶性化合物2f2が同様の酸化皮膜修復作用を補うことによって、長期間に亘り、酸化皮膜修復能力を維持することができる。したがって、陽極酸化皮膜修復能力に優れ、漏れ電流を低減し、静電容量を向上させ、使用周波数におけるESRを従来よりも小さくした構造の固体電解コンデンサ1となる。
【0041】
続いて、固体電解コンデンサ1の実施例1~4、また、比較例1~3について、以下に説明する。
【0042】
[実施例1]
実施例1は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリンの含有量が91[wt%]となるように調合した。また、液体状の水溶性化合物2f2として平均分子量が62のエチレングリコールと水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。実施例1では、水溶性化合物溶液30におけるエチレングリコールの割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。
【0043】
実施例1の製造方法は上述の実施形態のとおりであり、リード端子5が接合された陽極箔2aと、リード端子6が接合された陰極箔2cとの間にセパレータ2dを介在させて巻回することにより、巻回形のコンデンサ素子2を形成した。次に、コンデンサ素子2を化成液層中のアジピン酸アンモニウム水溶液に浸漬するとともに、陽極箔2a側のリード端子5と化成液の間に100[V]の電圧を5[分]印加して、陽極箔2aの端部に存在する酸化皮膜欠損部及び陽極箔2a表面の酸化皮膜欠損部を修復し、その後、105[℃]の温度で5[分]乾燥した。
【0044】
次に、コンデンサ素子2における陽極箔2aの酸化皮膜2bに、微粒子状の導電性高分子化合物2eとジグリセリン2f1とを含んだ固体電解質層20を形成した。そして、陽極箔2aと陰極箔2cとの間の空隙に、液体状の水溶性化合物2f2と水とを含んだ水溶性化合物溶液30を、固体電解質層20を取り囲むように導入した。これにより、固体電解質層20は、導電性高分子化合物2eを2[wt%]以上含有しているとともに、ジグリセリン2f1を98[wt%]以下で含有している。また、水溶性化合物溶液30は、水を0.5[wt%]以上含有しているとともに、水溶性化合物2f2を99.5[wt%]以下で含有している構成となる。
【0045】
そして、イソブチレン・イソプレンゴムからなる封口体3を用いて、コンデンサ素子2のリード端子5(6)における丸棒部を、封口体3の貫通穴に嵌合するとともに、コンデンサ素子2を金属ケース4に挿入し、その後、金属ケース4の開口端近傍にカシメ加工を施し、封口体3を支持固定した。
【0046】
そして、約85[℃]の温度で、所定電圧を60[分]印加することでエージング処理を行って、定格電圧は25[WV]の固体電解コンデンサ1を作製した。
【0047】
[実施例2]
実施例2は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリンの含有量が91[wt%]となるように調合した。また、液体状の水溶性化合物2f2として平均分子量が106のジエチレングリコールと水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。実施例2は、水溶性化合物溶液30におけるジエチレングリコールの割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本実施例の製造方法は、ジエチレングリコールと水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた点以外は、上述の実施例1と同じである。
【0048】
[実施例3]
実施例3は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が91[wt%]となるように調合した。また、液体状の水溶性化合物2f2として平均分子量が200のポリエチレングリコール(PEG200)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。実施例2は、水溶性化合物溶液30におけるPEG200の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本実施例の製造方法は、PEG200と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた点以外は、上述の実施例1と同じである。
【0049】
[実施例4]
実施例4は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が91[wt%]となるように調合した。また、液体状の水溶性化合物2f2として平均分子量が300のポリエチレングリコール(PEG300)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。実施例2は、水溶性化合物溶液30におけるPEG300の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本実施例の製造方法は、PEG300と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた点以外は、上述の実施例1と同じである。
【0050】
続いて、上述した実施例1~4の試作と並行して試作した比較例1~3の固体電解コンデンサについて、以下に説明する。
【0051】
[比較例1]
比較例1は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリンの含有量が91[wt%]となるように調合した。ここで、本比較例は水溶性化合物溶液30を用いていない。本比較例の製造方法は、水溶性化合物溶液30を用いていない点以外は、上述の実施例1~4と同じである。
【0052】
[比較例2]
比較例2は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が91[wt%]となるように調合した。また、平均分子量が400のポリエチレングリコール(PEG400)と水との混合体を水溶性化合物溶液として用いた。そして、水溶性化合物溶液におけるPEG400の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本比較例の製造方法は、PEG400と水との混合体を水溶性化合物溶液として用いた点以外は、上述の実施例1~4と同じである。
【0053】
[比較例3]
比較例3は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が91[wt%]となるように調合した。また、平均分子量が600のポリエチレングリコール(PEG600)と水との混合体を水溶性化合物溶液として用いた。そして、水溶性化合物溶液におけるPEG600の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本比較例の製造方法は、PEG600と水との混合体を水溶性化合物溶液として用いた点以外は、上述の実施例1~4と同じである。
【0054】
上述の実施例1~4、また、比較例1~3の各固体電解コンデンサについて、周波数120[Hz]における静電容量、周波数10[kHz]における静電容量、周波数10[kHz]におけるESR、周波数100[kHz]におけるESRを測定した。測定結果を表1に示す。また、表1の結果に基づくグラフ図を
図9A、
図9B、
図10Aおよび
図10Bに示す。そして、ピーク温度が260[℃]で10[秒]のリフローを合計2回実施して、漏れ電流[μA]を測定した。さらに、温度150[℃]で500[時間]の高温試験を実施し、高温試験前後でそれぞれ周波数120[Hz]における静電容量を測定して、高温試験前の静電容量を分母とし、高温試験後の静電容量を分子とした静電容量変化率ΔC/C[%]を算出した。測定結果を表2に示す。また、表2の結果に基づくグラフ図を
図11と
図12に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
表1、
図9A、
図9B、
図10Aおよび
図10Bに示すように、実施例1~4は、水溶性化合物を有しない比較例1、平均分子量が400の水溶性化合物を有する比較例2、および、平均分子量が600の水溶性化合物を有する比較例3に比べて、周波数10[kHz]におけるESRを小さくできており、且つ、周波数10[kHz]における静電容量を大きくできている。また、実施例1~4は、平均分子量が400の水溶性化合物を有する比較例2と平均分子量が600の水溶性化合物を有する比較例3に比べて、周波数100[kHz]におけるESRを小さくできているとともに、周波数120[Hz]における静電容量を大きくできている。
【0058】
表1、
図9Aおよび
図10Bの結果から、実施例1~4は、周波数100[kHz]におけるESRを小さくできているとともに、周波数120[Hz]における静電容量を大きくできている。これは、水溶性化合物2f2の分子量を水溶性化合物の分子量にオーダーが近くなるように平均分子量のオーダーを調整したことによるものである。尚且つ、固体電解質層内にジグリセリン2f1を積極的に含有させたことで均質な固体電解質層が陽極酸化皮膜2bに形成された構造となるとともに、水溶性化合物溶液30に、水溶性化合物2f2として平均分子量が400未満の液体状のポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールを1種以上含有したことで固体電解質層内のジグリセリン2f1との相溶性が飛躍的に向上して酸化皮膜との良好な接触が得られて水溶性化合物溶液の陽極酸化皮膜修復能力が十分に発揮できる構造となって漏れ電流の低減効果をより一層高めることができたことによるものである。
【0059】
表2、
図11および
図12に示すように、実施例1~4は、水溶性化合物を有しない比較例1、平均分子量が400の水溶性化合物を有する比較例2、および、平均分子量が600の水溶性化合物を有する比較例3に比べて、リフロー後の漏れ電流を小さくできている。また、実施例1~4は、平均分子量が400の水溶性化合物を有する比較例2と平均分子量が600の水溶性化合物を有する比較例3に比べて、高温試験後の静電容量変化率ΔC/Cをマイナス4[%]以内にできている。
【0060】
表2、
図11および
図12の結果から、実施例1~4は、リフロー後の漏れ電流を小さくできているとともに、高温試験後の静電容量変化率ΔC/Cを小さくできている。これは、水溶性化合物2f2の分子量を水溶性化合物の分子量にオーダーが近くなるように平均分子量のオーダーを調整したことによって、固体電解質層20内のジグリセリン2f1による酸化皮膜修復性能がさらに向上し、漏れ電流が低減できたものであり、さらに、平均分子量のオーダーを調整した水溶性化合物を含有させた水溶性化合物溶液によって酸化皮膜修復性能を向上させて漏れ電流の低減効果をより一層高めたものである。さらに、固体電解質層20内のジグリセリン2f1による酸化皮膜修復性能が損なわれたときでも、水溶性化合物溶液30内の水溶性化合物2f2が同様の酸化皮膜修復作用を補うことによって、長期間に亘り、酸化皮膜修復能力を維持することができたことによるものである。
【0061】
続いて、固体電解コンデンサ1の実施例5、また、比較例4~7について、以下に説明する。
【0062】
[実施例5]
実施例5は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリンの含有量が91[wt%]となるように調合した。また、液体状の水溶性化合物2f2として平均分子量が250のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本実施例では、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本実施例の製造方法は、仕様が異なる点と、液体状の水溶性化合物2f2としてPEG250と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた点以外は、上述の実施例3や実施例4と同じである。
【0063】
続いて、上述した実施例5の試作と並行して試作した比較例4~7の固体電解コンデンサについて、以下に説明する。
【0064】
[比較例4]
比較例4は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が91[wt%]となるように調合した。ここで、本比較例は水溶性化合物溶液30を用いていない。本比較例の製造方法は、水溶性化合物溶液30を用いていない点以外は、上述の実施例5と同じである。
【0065】
[比較例5]
比較例5は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、グリセリンを添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるグリセリンの含有量が91[wt%]となるように調合した。また、液体状の水溶性化合物2f2として平均分子量が250のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本比較例は、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本比較例の製造方法は、ジグリセリン2f1に代えてグリセリンを添加した分散液を用いた点以外は、上述の実施例5と同じである。
【0066】
[比較例6]
比較例6は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ポリグリセリン(分子量310)を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるポリグリセリンの含有量が91[wt%]となるように調合した。また、水溶性化合物として平均分子量が250の液体状のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本比較例は、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本比較例の製造方法は、ジグリセリン2f1に代えてポリグリセリン(分子量310)を添加した分散液を用いた点以外は、上述の実施例5と同じである。
【0067】
[比較例7]
比較例7は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ポリグリセリン(分子量500)を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるポリグリセリンの含有量が91[wt%]となるように調合した。また、水溶性化合物として平均分子量が250の液体状のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本比較例は、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本比較例の製造方法は、ジグリセリン2f1に代えてポリグリセリン(分子量500)を添加した分散液を用いた点以外は、上述の実施例5と同じである。
【0068】
上述の実施例5、また、比較例4~7の各固体電解コンデンサについて、周波数120[Hz]における静電容量と、周波数100[kHz]におけるESRを測定した。測定結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
表3に示すように、実施例5は、水溶性化合物溶液30を含まない比較例4に比べて周波数120[Hz]における静電容量を大きくできている。また、水溶性化合物2f2であるポリエチレングリコールを含有した水溶性化合物溶液30を含み、ジグリセリン2f1を含有した実施例3は、水溶性化合物としてグリセリン、ポリグリセリン(分子量310)、ポリグリセリン(分子量500)をそれぞれ含有した比較例5~7に比べて周波数120[Hz]における静電容量を大きくできているとともに、周波数100[kHz]におけるESRを小さくできている。
【0071】
続いて、固体電解コンデンサ1の実施例6~9について、以下に説明する。
【0072】
[実施例6]
実施例6は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が83[wt%]となるように調合した。また、水溶性化合物2f2として平均分子量が250の液体状のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本実施例では、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。
【0073】
[実施例7]
実施例7は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が91[wt%]となるように調合した。また、水溶性化合物2f2として平均分子量が250の液体状のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本実施例では、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本実施例の製造方法は、固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が91[wt%]となるように分散液を調合した点以外は、上述の実施例6と同じである。
【0074】
[実施例8]
実施例8は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が94[wt%]となるように調合した。また、水溶性化合物2f2として平均分子量が250の液体状のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本実施例では、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本実施例の製造方法は、固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が94[wt%]となるように分散液を調合した点以外は、上述の実施例6と同じである。
【0075】
[実施例9]
実施例9は、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を微粒子状の導電性高分子化合物2eとして水に分散させて、さらに、ジグリセリン2f1を添加した分散液を用いた。分散液は固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が95[wt%]となるように調合した。また、水溶性化合物2f2として平均分子量が250の液体状のポリエチレングリコール(PEG250)と水との混合体を水溶性化合物溶液30として用いた。本実施例では、水溶性化合物溶液30におけるPEG250の割合を99[wt%]として、水の割合を1[wt%]とした。本実施例の製造方法は、固体電解質層20におけるジグリセリン2f1の含有量が95[wt%]となるように分散液を調合した点以外は、上述の実施例6と同じである。
【0076】
上述の実施例6~9の各固体電解コンデンサについて、周波数120[Hz]における静電容量と、周波数10[kHz]における静電容量と、周波数10[kHz]におけるESRと、周波数100[kHz]におけるESRを測定した。測定結果を表4に示す。
【0077】
【0078】
表4に示すように、実施例6~9は、いずれも従来品に比べて周波数120[Hz]における静電容量を大きくできており、周波数10[kHz]におけるESRを小さくできており、且つ、周波数100[kHz]におけるESRを小さくできている。
【0079】
本発明は、上述の実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 固体電解コンデンサ
2 コンデンサ素子
2a 陽極箔
2b 酸化皮膜
2c 陰極箔
2d セパレータ
2e 導電性高分子化合物
2f1 ジグリセリン
2f2 水溶性化合物(ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレン
グリコール)
3 封口体
4 ケース
5 リード端子(陽極リード端子)
6 リード端子(陰極リード端子)
20 固体電解質層
30 水溶性化合物溶液