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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125894
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】自己形成光導波路の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/138 20060101AFI20240911BHJP
   G02B 6/26 20060101ALI20240911BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20240911BHJP
   G02B 6/30 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G02B6/138
G02B6/26
G02B6/02 461
G02B6/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034016
(22)【出願日】2023-03-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究/マルチチャネル自動接続を実現する赤外自己形成光接続の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(71)【出願人】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】杉原 興浩
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 英孝
(72)【発明者】
【氏名】行川 毅
【テーマコード(参考)】
2H137
2H147
2H250
【Fターム(参考)】
2H137AB01
2H137AB09
2H137BA18
2H137BA55
2H137BC74
2H137EA02
2H137EA03
2H147CA01
2H147CB01
2H147EA19A
2H147EA20B
2H147FD08
2H147FD10
2H147FE03
2H250AC66
2H250AC78
2H250AC83
2H250AC93
2H250AC96
2H250AD32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自己形成光導波路の新たな製造方法を提供すること。
【解決手段】光硬化性樹脂と複数本のコアを備えるマルチコアファイバを2つ用意することを含み、光硬化性樹脂は、重合及び硬化して屈折率naを有するコア部形成用樹脂と、重合及び硬化し、硬化後の屈折率nbがnb<naであるクラッド部形成用樹脂とを含み、2つのマルチコアファイバを互いに対向配置すると共に、マルチコアファイバの間に光硬化性樹脂を配置すること、コア部形成用樹脂のみの重合が可能な強度の光を2つのマルチコアファイバのコアから光硬化性樹脂に入射し、コア部形成用樹脂の重合及び硬化を発生させて光硬化性樹脂内に光導波路のコア部を形成すること、次にクラッド部を形成して、光硬化性樹脂内に複数本の光導波路を自己形成すること、を更に含み、光のコアからの入射は、隣り合うコアを除く2本以上のコアから光を同時に入射することを含む、自己形成光導波路の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂と複数本のコアを備えるマルチコアファイバを2つ用意することを含み、
前記光硬化性樹脂は、所定の波長帯域の光が入射されて重合及び硬化して屈折率naを有するコア部形成用樹脂と、前記コア部形成用樹脂に入射する光の強度以上の光が入射されて重合及び硬化し、硬化後の屈折率nbが前記nb<前記naであるクラッド部形成用樹脂とを含み、
2つの前記マルチコアファイバを互いに対向配置すると共に、前記マルチコアファイバの間に前記光硬化性樹脂を配置すること、
前記コア部形成用樹脂のみの前記重合が可能な強度の光を2つの前記マルチコアファイバの前記コアから前記光硬化性樹脂に入射し、前記コア部形成用樹脂の前記重合及び前記硬化を発生させて前記光硬化性樹脂内に光導波路のコア部を形成すること、
次にクラッド部を形成して、前記光硬化性樹脂内に前記複数本の光導波路を自己形成すること、
を更に含み、
前記光の前記コアからの入射は、隣り合うコアを除く2本以上のコアから前記光を同時に入射することを含む、自己形成光導波路の製造方法。
【請求項2】
前記2つのマルチコアファイバのそれぞれにおいて、コアの本数は7本であり、
前記7本のコアのうち、1本のコアはマルチコアファイバの中央に配置され、6本のコアはマルチコアファイバの中央を中心とする円の円周上で等角度且つ等間隔に配置されている、請求項1に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【請求項3】
前記光の前記コアからの入射は、
前記円周上の6本のコアのうち、隣り合わない3本のコアからの前記光の同時入射、
前記円周上の6本のコアのうち、残り3本のコアからの前記光の同時入射、
マルチコアファイバの中央に配置された1本のコアからの前記光の入射、
を任意の順序で行うことを含む、請求項2に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【請求項4】
前記円周上の6本のコアのうち、隣り合わない3本のコアからの前記光の同時入射および残り3本のコアからの前記光の同時入射を行った後、マルチコアファイバの中央に配置された1本のコアからの前記光の入射を行う、請求項3に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己形成光導波路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光技術を利用した光通信、光情報処理、電子機器、或いは光学機器等の分野が進展しており、各種光デバイス間に於ける光導波路の開発が課題となっている。各種光デバイスは光ファイバ等の光導波路によって光学的に接続されるが、その接続には極めて高い位置精度が要求される。従来このような接続作業は、手作業若しくは高精度な調芯設備により行われている為、接続コストが上がってしまうという問題があった。
【0003】
そこでこのような問題を解決する為、自己形成光導波路が開発されている。この光導波路は、光硬化性樹脂から光導波路のコアを自己形成した光導波路である。光ファイバ等の端部を光硬化性樹脂に浸漬し、その光ファイバ等から光硬化性樹脂に光を入射して光硬化性樹脂を徐々に硬化させることで、光ファイバ等の端部に自己形成光導波路を形成する。
【0004】
このような自己形成光導波路として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1に依れば光コネクタが、少なくともフェルールと、n本(n:0を含まない自然数)の自己形成光導波路を備える。フェルールは、n本の光ファイバ挿入孔を備え、各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されている。
【0005】
更に、光導波路の形成後120秒間放置し、コアとクラッドとの境界面でのモノマーの相互拡散を促し、その後UV照射でクラッドを形成している。光硬化性樹脂のうち、コア領域中では一方のモノマーのみが消費されて重合するので、コアとクラッドとの境界面ではモノマーの濃度勾配が生じて相互拡散が進行し、クラッドの機能を果たす。また、光硬化性樹脂全体をUV照射することで、コア及びクラッド全体が硬化形成されて、光導波路が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/209364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、自己形成光導波路の新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1のように複数の自己形成光導波路を形成しようとすると、各光ファイバのコアから、同時に光を光硬化性樹脂内部に照射した場合、隣り合うコア同士の光照射で形成される、それぞれの自己形成光導波路が互いに結合して形成され、結合不良を招くおそれが有った。
これに対し、複数のコアを有する光ファイバについて、1つのコアからの光入射時に他のコアからの光入射を行わずに各コアから順次光を入射すれば、上記の結合不良を防止することはできる。しかし、そのように自己形成光導波路を製造すると、コアの本数が増えるほど光照射に要する時間が長くなり、自己形成光導波路の製造時間は長くなってしまう。
そこで本発明者らは更に鋭意検討を重ねた結果、隣り合うコアを避けると共に2本以上のコアからの光入射を同時に行うことによって、結合不良を防止しつつ製造時間の短縮が可能になることを新たに見出した。
【0009】
本発明によれば、以下に記載の自己形成光導波路の製造方法が提供される。
[1]光硬化性樹脂と複数本のコアを備えるマルチコアファイバを2つ用意することを含み、
上記光硬化性樹脂は、所定の波長帯域の光が入射されて重合及び硬化して屈折率naを有するコア部形成用樹脂と、上記コア部形成用樹脂に入射する光の強度以上の光が入射されて重合及び硬化し、硬化後の屈折率nbが上記nb<上記naであるクラッド部形成用樹脂とを含み、
2つの上記マルチコアファイバを互いに対向配置すると共に、上記マルチコアファイバの間に上記光硬化性樹脂を配置すること、
上記コア部形成用樹脂のみの上記重合が可能な強度の光を2つの上記マルチコアファイバの上記コアから上記光硬化性樹脂に入射し、上記コア部形成用樹脂の上記重合及び上記硬化を発生させて上記光硬化性樹脂内に光導波路のコア部を形成すること、
次にクラッド部を形成して、上記光硬化性樹脂内に上記複数本の光導波路を自己形成すること、
を更に含み、
上記光の上記コアからの入射は、隣り合うコアを除く2本以上のコアから上記光を同時に入射することを含む、自己形成光導波路の製造方法。
[2]上記2つのマルチコアファイバのそれぞれにおいて、コアの本数は7本であり、
上記7本のコアのうち、1本のコアはマルチコアファイバの中央に配置され、6本のコアはマルチコアファイバの中央を中心とする円の円周上で等角度且つ等間隔に配置されている、[1]に記載の自己形成光導波路の製造方法。
[3]上記光の上記コアからの入射は、
上記円周上の6本のコアのうち、隣り合わない3本のコアからの上記光の同時入射、
上記円周上の6本のコアのうち、残り3本のコアからの上記光の同時入射、
マルチコアファイバの中央に配置された1本のコアからの上記光の入射、
を任意の順序で行うことを含む、[2]に記載の自己形成光導波路の製造方法。
[4]上記円周上の6本のコアのうち、隣り合わない3本のコアからの上記光の同時入射および残り3本のコアからの上記光の同時入射を行った後、マルチコアファイバの中央に配置された1本のコアからの上記光の入射を行う、[3]に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る自己形成光導波路の製造方法に依れば、結合不良の防止と製造時間の短縮とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る自己形成光導波路の製造方法で用いる、マルチコアファイバの構成を示す正面図である。
図2図1に示すマルチコアファイバへの光入射工程の一例を示す。
図3A図2(A)の光照射後の状態を示す、実体顕微鏡観察像である。
図3B図2(B)の光照射後の状態を示す、実体顕微鏡観察像である。
図3C図2(C)の光照射後の状態を示す、実体顕微鏡観察像である。
図4】参考例に係る自己形成光導波路の製造方法で用いる、マルチコアファイバの構成を示す正面図である。
図5】参考例に係る自己形成光導波路の製造方法に於ける、2つのマルチコアファイバ間に光硬化性樹脂を配置した状態の一部を示す説明図である。
図6図5の状態から、2つのマルチコアファイバの各コアから光硬化性樹脂内に光を入射し、自己形成光導波路のコア部を形態した状態を示す説明図である。
図7図6の状態から、光硬化性樹脂と透明容器を除外して示した斜視図である。
図8図6の状態から、コア部に光を入射及び伝搬させ、各コア部から漏光を発生させる状態を示す説明図である。
図9図8の状態から、各クラッド部と、複数本の自己形成光導波路を形態した状態を示す説明図である。
図10図9の状態を示す、実体顕微鏡観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の自己形成光導波路の製造方法は、光硬化性樹脂と複数本のコアを備えるマルチコアファイバを2つ用意することを含む。光硬化性樹脂は、所定の波長帯域の光が入射されて重合及び硬化して屈折率naを有するコア部形成用樹脂と、コア部形成用樹脂に入射する光の強度以上の光が入射されて重合及び硬化し、硬化後の屈折率nbがnb<naであるクラッド部形成用樹脂とを含む。上記製造方法は、2つの上記マルチコアファイバを互いに対向配置すると共に、上記マルチコアファイバの間に上記光硬化性樹脂を配置すること、上記コア部形成用樹脂のみの上記重合が可能な強度の光(以下において、単に「光」とも記載する)を2つの上記マルチコアファイバの上記コアから上記光硬化性樹脂に入射し、上記コア部形成用樹脂の上記重合及び上記硬化を発生させて上記光硬化性樹脂内に光導波路のコア部を形成すること、次にクラッド部を形成して、上記光硬化性樹脂内に上記複数本の光導波路を自己形成すること、を更に含む。更に上記製造方法は、上記光の上記コアからの入射は、隣り合うコアを除く2本以上のコアから上記光を同時に入射することを含む。
【0013】
以下に、まず参考例として、図4乃至図10を参照して、参考例に係る製造方法を説明する。参考例では、コア部形成用樹脂のみの重合が可能な強度の光を、マルチコアファイバのコアから順に光硬化性樹脂に入射させる。
【0014】
参考例の製造方法では、最初に光硬化性樹脂1とn本(n:2以上の自然数)のコアを備えるマルチコアファイバ(3a、3b)を用意する。マルチコアファイバ(3a、3b)としては、同一構造の物を2つ用意する。nは2以上の自然数であり、例えば2以上4以下である。ただし、nはここに例示した範囲に限定されない。
【0015】
透明容器4に光硬化性樹脂1を充たし、各マルチコアファイバ(3a、3b)の片側の端部を、それぞれ光硬化性樹脂1内に浸漬させる。従って、マルチコアファイバ(3a、3b)の間に光硬化性樹脂1を配置すると共に、光硬化性樹脂1を挟んで2つのマルチコアファイバ(3a、3b)を互いに対向配置する。
【0016】
2つのマルチコアファイバ(3a、3b)はどちらも、外形形状が図4に示す円形で、コア径が8.0μm、クラッド径が125μm、更にn=4本のコア(3a1、3a2、3a3、3a4、又は3b1、3b2、3b3、3b4)を備える。また、4本のコア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)は図4に示すように、マルチコアファイバ(3a、3b)の中央を中心とする円の円周上で等角度(図4では90°)且つ等間隔に2列×2芯に配置されている。また、参考例では、2つのマルチコアファイバ(3a、3b)において、各コア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)の間隔dは、50μmである。間隔dは、2つのコアの中心間の距離である。
【0017】
例えば、カットオフ波長は1300nm~1500nmであり、モードフィールド径は7.4μm~8.5μm(伝搬光波長1550nm)である。
【0018】
光硬化性樹脂1に浸漬されるマルチコアファイバ(3a、3b)の端面(3a5、3b5)は、図5に示すように各コア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)の光軸方向に対して垂直に、平面形状となるように形成されている。端面(3a5、3b5)には、平面加工が施される。平面加工は、研磨、レーザーカット、クリーブカット等の平面加工が可能な公知の方法によって行うことができる。
【0019】
光硬化性樹脂1は、コア部形成用樹脂とクラッド部形成用樹脂とを含む。コア部形成用樹脂は、所定の波長帯の光が入射されて重合及び硬化することで、屈折率naを有する。またクラッド部形成用樹脂は、コア部形成用樹脂に入射される光の波長帯域と同一又は異なる波長帯域であり、且つコア部形成用樹脂に入射される光の強度以上の光が入射されて、重合及び硬化する。更に、硬化後のクラッド部形成用樹脂の屈折率nbは、nb<naである。
【0020】
コア部形成用樹脂及びクラッド部形成用樹脂としては、互いに異なる重合反応を経て光重合が起こる樹脂を選択する。参考例では、コア部形成用樹脂はアクリル系樹脂であり、クラッド部形成用樹脂はエポキシ系樹脂である。アクリル系樹脂とエポキシ系樹脂との組み合わせでは、アクリル系樹脂の方が、エポキシ系樹脂よりも重合反応速度が速い為、弱い強度の光によってアクリル系樹脂だけが選択的に重合する。
【0021】
またアクリル系樹脂とエポキシ系樹脂は、2種類以上のモノマーから成る混合液に光重合開始剤を添加した溶液である。
【0022】
次に、2つのマルチコアファイバ(3a、3b)のコア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)から、所定の波長帯域の光を光硬化性樹脂1の内部に入射させる。光硬化性樹脂1に入射する光は、コア部形成用樹脂のみの重合が可能な強度のレーザ光である。光の波長λwは光重合開始剤に応じて任意に設定可能であるが、一例として365nm~1675nmが挙げられ、参考例ではλw=405nmに設定する。併せて、光重合開始剤が感度を有する波長帯域も、405nm近辺とする。
【0023】
コア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)からの光の入射により、コア部形成用樹脂の重合及び硬化を発生させ、コア部形成用樹脂のモノマーがポリマーとなり、光硬化性樹脂1内に、図6及び図7に示す光導波路の複数本のコア部(2a1、2b1、2c1、2d1)が自己形成する。
【0024】
コア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)から光硬化性樹脂1への光の入射の際に、各マルチコアファイバ(3a、3b)において、n本のコアに順に光を入射させる。ここで、「順に」とは、各マルチコアファイバ(3a、3b)においてn本のコアからの光の入射を順次行う際、ある1本のコアから光を入射させている時間中、同じマルチコアファイバの他のいずれのコアにも光を入射させないことを意味する。例えば、マルチコアファイバ3aにおいて、コア3a1に光を入射させている時間中にはコア3a2、3a3及び3a4には光を入射させず、マルチコアファイバ3bにおいて、コア3b1に光を入射させている時間中にはコア3b2、3b3及び3b4には光を入射させない。なお、2つのマルチコアファイバ(3a、3b)の一方のマルチコアファイバのコアからの光の入射を行っている時間中、他方のマルチコアファイバのコアからの光の入射を行ってもよく、行わなくてもよい。図4図6に示した例では、コア3a1(又は3b1)→3a2(又は3b4)→3a3(又は3b3)→3a4(又は3b2)の順に1本ずつのコア間でコア部を順次形成し、各コア間でコア部の自己形成が完了した後に次のコア間のコア部の自己形成を行う。このような光の入射工程とする理由は、各マルチコアファイバ(3a、3b)に於いて、隣り合うコア同士の光照射で形成されるそれぞれのコア部が、互いに結合して形成されることを防止することが可能となり、コア部の結合不良が防止可能な為である。
【0025】
コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の径は、マルチコアファイバ(3a、3b)の各コア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)径と同一とすることが望ましく、且つ、各コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の光軸方向で一様な直径が望ましい。更に各コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)のモードフィールド径は、マルチコアファイバ(3a、3b)の各コア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)のモードフィールド径と同一(7.4μm~8.5μm)とする。
【0026】
次に、クラッド部の自己形成について説明する。コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の形成後、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の周囲(コア部2a1、2b1、2c1、2d1と、その他の光硬化性樹脂1との境界面)に於ける、光硬化性樹脂1内のクラッド部形成用樹脂に於いて、モノマーの相互拡散を発生させる。コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)領域中ではモノマーが消費されて重合しているのに対し、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)以外の光硬化性樹脂1のモノマーは重合反応しておらず、未硬化且つ未消費なので、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の周囲でモノマーの濃度勾配が生じ、相互拡散が進行する。参考例ではコア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の形成後120秒間放置して、モノマーの相互拡散を促した。
【0027】
次に、参考例ではコア部形成用樹脂を重合させた波長帯域と同一波長帯域(λw=405nm)のレーザ光を、マルチコアファイバ(3a、3b)の各コア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)からコア部(2a1、2b1、2c1、2d1)に入射させて、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)内部に伝搬させる。コア部形成用樹脂を重合させた光の強度以上の光を、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)に入射させる。無論その強度は、クラッド部形成用樹脂を重合させることが可能な強度とする。
【0028】
更に光の伝搬を継続して、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)からコア部(2a1、2b1、2c1、2d1)周囲の未硬化のクラッド部形成用樹脂へと、漏光を発生させる。するとコア部(2a1、2b1、2c1、2d1)周囲のクラッド部形成用樹脂が、図8の矢印に示す漏光によって重合及び硬化して、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)表面を包囲する形態でクラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)が自己形成される。なお、図8の矢印は、1つのコア部2a1のみに図示しているが、漏光はその他のコア部(2b1、2c1、2d1)でも発生する。また、クラッド部2d2は図示していないが、コア部2d1表面を包囲して自己形成されるクラッド部である。
【0029】
硬化後に自己形成されたクラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)の屈折率nbは、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の屈折率naに対してnb<naを示す。よってコア部(2a1、2b1、2c1、2d1)とクラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)によって、複数本の自己形成光導波路(2a、2b、2c、2d)が自己形成される。自己形成光導波路2aがコア部2a1とクラッド部2a2から成る。また、自己形成光導波路2bがコア部2b1とクラッド部2b2から成り、自己形成光導波路2cがコア部2c1とクラッド部2c2から成り、自己形成光導波路2dがコア部2d1とクラッド部2d2から成る。
【0030】
最後に、透明容器4の周囲から紫外線(UV)を一様に照射して、全ての未反応の光硬化性樹脂1を硬化させる(図9図10参照)。
【0031】
なお、クラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)形成用の光を、各マルチコアファイバ(3a、3b)の全てのコア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)から同時に全コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)に入射させても、各コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)に順に1本ずつ入射させてもよい。クラッド部形成用の光を、全てのコア(3a1~3a4、又は3b1~3b4)から同時に全コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)に入射させることにより、複雑な入射時間制御が必要無くなると共に、クラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)形成時間の短縮も図ることができるので好ましい。
【0032】
以上、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)からの漏光によりクラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)を形成することで、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)を除いた光硬化性樹脂1全体の硬化収縮の発生が防止され、クラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)形成時に硬化する樹脂をクラッド部形成用樹脂のみとすることが可能となる。従って、光硬化性樹脂1全体での応力の発生が防止され、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)の変形を抑制可能となり、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)への光挿入損失の増加を抑制することができる。
【0033】
更に、先に記載したように漏光によりクラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)を形成することで、各クラッド部の径や厚みを制御可能となり、自己形成光導波路(2a、2b、2c、2d)の光学特性や機械的特性の安定化も図ることができる。
【0034】
更に参考例では、複数本の自己形成光導波路(2a、2b、2c、2d)を形成する際、クラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)形成時に光硬化性樹脂1の周囲からのUV照射を行わずに全てのクラッド部(2a2、2b2、2c2、2d2)の硬化を完了させることができるので、コア部(2a1、2b1、2c1、2d1)毎の光挿入損失の増加が防止可能となる。
【0035】
ただし、先に記載したように、参考例に係る製造方法では、自己形成光導波路の製造時間は長くなってしまう。これに対し、本発明の自己形成光導波路の製造方法では、隣り合うコアを避けると共に2本以上のコアからの光入射を同時に行うことによって、結合不良を防止しつつ製造時間の短縮が可能になる。
【0036】
以下、図1及び図2を参照して、本発明の自己形成光導波路の製造方法について更に詳細に説明する。本発明の自己形成光導波路の製造方法について、以下に記載する点以外は参考例に関する先の記載を参照できる。
【0037】
図1は、本発明の一態様に係る自己形成光導波路の製造方法で用いる、2つのマルチコアファイバ(3a、3b)の構成を示す正面図である。図1に示す2つのマルチコアファイバ(3a、3b)は、外形形状が図1に示す円形で、コア径が6.1μm、クラッド径が125μm、更にn=7本のコア(3a1、3a2、3a3、3a4、3a5、3a6、3a7、又は3b1、3b2、3b3、3b4、3b5、3b6、3b7)を備える。また、7本のコア(3a1~3a7、又は3b1~3b7)は、図1に示すように、マルチコアファイバ(3a、3b)の中央を中心とする円の円周上で等角度(図1では60°)且つ等間隔に配置されている。2つのマルチコアファイバ(3a、3b)において、各コア(3a1~3a7、又は3b1~3b7)の間隔dは、35μmである。間隔dは、2つのコアの中心間の距離である。
【0038】
図1中、2つのマルチコアファイバ(3a、3b)のそれぞれにおいて、コアの本数は7本である。ただし、本発明は図1に示す実施形態に限定されない。1つのマルチコアファイバにおけるコアの本数は、例えば5~10本であることができる。
【0039】
本発明および本明細書において、「隣り合うコア」とは、各マルチコアファイバにおいて、2つのコアの中心間距離が最短となるコア同士をいう。ある1つのコアに対して最短の中心間距離となるコアが複数存在する場合には、それら複数のコアが、その1つのコアと隣り合うコアである。図1中、マルチコア3aにおいて、「コア3a1」と隣り合うコアは、コア3a2、3a6および3a7である。「コア3a2」と隣り合うコアは、コア3a1、3a3および3a7である。「コア3a3」と隣り合うコアは、コア3a2、3a4および3a7である。「コア3a4」と隣り合うコアは、コア3a3、3a5および3a7である。「コア3a5」と隣り合うコアは、コア3a4、3a6および3a7である。「コア3a6」と隣り合うコアは、コア3a1、3a5および3a7である。コア3a7は、他の6本のコア3a1~3a6と隣り合う。マルチコア3bにおいて、「コア3b1」と隣り合うコアは、コア3b2、3b6および3b7である。「コア3b2」と隣り合うコアは、コア3b1、3b3および3b7である。「コア3b3」と隣り合うコアは、コア3b2、3b4および3b7である。「コア3b4」と隣り合うコアは、コア3b3、3b5および3b7である。「コア3b5」と隣り合うコアは、コア3b4、3b6および3b7である。「コア3b6」と隣り合うコアは、コア3b1、3b5および3b7である。コア3b7と隣り合うコアは、他の6本のコア3b1~3b6である。
【0040】
図2は、図1に示すマルチコアファイバへの光入射工程の一例を示す。図2中、黒色で表示したコアは、光入射が行われているコアを示す。図2(A)は、円周上の6本のコアのうち、隣り合わない3本のコアへ光が同時に入射した状態、図2(B)は、円周上の6本のコアのうち、残り3本のコアからの光が同時に入射した状態、図2(C)は、マルチコアファイバの中央に配置された1本のコアへ光が入射した状態を示す。(A)~(C)の光入射は、任意の順序で行うことができる。例えば、(A)~(C)の光照射は、
(A)→(B)→(C)、
(B)→(A)→(C)、
(C)→(A)→(B)、
(C)→(B)→(A)、
(A)→(C)→(B)、または
(B)→(C)→(A)、
の順に行うことができる。図2に示す例では、隣り合うコアからの光照射は同時には行われない。これにより、結合不良を防止することができる。更に、(A)および(B)の状態の光照射では、隣り合うコアを避けると共に2本以上のコアへ光入射が同時に行われる。これにより、参考例のように各コアからの光照射を順に行う場合と比べて、製造時間の短縮が可能になる。
【0041】
図3A図3Cは、それぞれ、図2(A)~(C)の光照射後の状態を示す実体顕微鏡写真像である。図3A図3Cから、図2(A)~(C)の各光照射後に光導波路のコア部が自己形成されたことが確認できる。
【0042】
例えば、図1に示すマルチコアファイバを用いて、参考例に係る製造方法と同様に、7本のコアからの光の入射を順次行う場合、1つのコア部の形成に要する光照射時間が10秒間、モノマーの相互拡散を促すためのコア部形成後の放置時間が120秒間だとすると、コア部形成~上記放置の終了までの所要時間は、7×10秒間+120秒間=190秒間である。
これに対し、図2に示す光照射を行う場合、図2(A)、(B)、(C)の各光照射に要する時間が上記と同じく10秒間、モノマーの相互拡散を促すためのコア部形成後の放置時間が上記と同じく120秒間だとすると、コア部形成~上記放置の終了までの所要時間は3×10秒間+120秒間=150秒間であって、7本のコアからの光の入射を順次行う場合と比べてコア部形成~上記放置の終了までの所要時間を約20%短縮できる。コア部形成の光照射時間の合計(30秒間)は、7本のコアからの光の入射を順次行う場合(70秒間)と比べて半分以下に短縮できる。
【0043】
本発明はマルチコアファイバ間の自己形成光導波路の製造方法のみだけで無く、マルチコアファイバとシリコン光導波路間や、マルチコアファイバとポリマー光導波路間の自己形成光導波路の製造方法等の、高密度光実装分野にも適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 光硬化性樹脂
2a、2b、2c、2d 自己形成光導波路
2a1、2b1、2c1、2d1 自己形成光導波路のコア部
2a2、2b2、2c2、2d2 自己形成光導波路のクラッド部
3a、3b マルチコアファイバ
3a1、3a2、3a3、3a4、3a5、3a6、3a7、3b1、3b2、3b3、3b4、3b5、3b6、3b7 マルチコアファイバのコア
3a5、3b5 マルチコアファイバの端面
4 透明容器
d マルチコアファイバの各コアの間隔
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10