(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125895
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】耐火構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 5/43 20060101AFI20240911BHJP
E04B 5/40 20060101ALI20240911BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
E04B5/43 F
E04B5/40 D
E04B1/94 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034017
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】小野木 武司
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】新谷 祐介
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊彦
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA11
2E001HA06
(57)【要約】
【課題】非耐火性能梁の下方に配置された防火壁が高温時に非耐火性能梁により損傷するのを抑制しつつ、床部のたわみを抑えた耐火構造物を提供する。
【解決手段】耐火構造物1は、コンクリート中に引張力伝達部材が設けられた床部10と、所定の耐火性能を有する複数の耐火性能梁25と、所定の耐火性能を有し、複数の耐火性能梁に接合され、自身の一部及び複数の耐火性能梁全体が構成する環状の耐火環状体48が床部を全周にわたって床部の下方から支持する複数の耐火性能柱45と、耐火環状体内に配置され、床部を下方から支持し、高温時に燃焼又は溶融する材料で形成された非耐火性能梁50と、を備え、床部の平面内で互いに交差する方向を第1交差方向X、第2交差方向Yと規定したときに、引張力伝達部材は、床部の第1交差方向の端部間の引張力、及び、床部の第2交差方向の端部間の引張力をそれぞれ伝達する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に引張力伝達部材が設けられた床部と、
所定の耐火性能を有する複数の耐火性能梁と、
前記所定の耐火性能を有し、前記複数の耐火性能梁に接合され、自身の一部及び前記複数の耐火性能梁全体が構成する環状の耐火環状体が前記床部を全周にわたって前記床部の下方から支持する複数の耐火性能柱と、
前記耐火環状体内に配置され、前記床部を下方から支持し、高温時に燃焼又は溶融する材料で形成された非耐火性能梁と、
を備え、
前記床部の平面内で互いに交差する方向を第1交差方向、第2交差方向と規定したときに、
前記引張力伝達部材は、前記床部の前記第1交差方向の端部間の引張力、及び、前記床部の前記第2交差方向の端部間の引張力をそれぞれ伝達する、耐火構造物。
【請求項2】
前記非耐火性能梁は、木材、プラスチック、及びアルミニウムの少なくとも1つで形成されている、請求項1に記載の耐火構造物。
【請求項3】
前記非耐火性能梁を複数備え、
それぞれの前記非耐火性能梁である対象非耐火性能梁の端部は、前記複数の非耐火性能梁のうち前記対象非耐火性能梁以外の前記非耐火性能梁及び前記所定の耐火性能を有する連結耐火性能梁の少なくとも一方を介して、又は直接、前記複数の耐火性能梁に接合されている、請求項1又は2に記載の耐火構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火災時(高温時)でも一定の剛性及び耐力を維持できるように構成された耐火構造物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
耐火構造物のスラブ(床部)は、大梁と、鉄骨小梁(非耐火性能梁)とによって支持されている。大梁は、鉄筋コンクリート製であって、柱間に架け渡されている。鉄骨小梁は、大梁間に架け渡されている。
大梁には、スラブの四辺が剛接合されている。鉄骨小梁は、全体が耐火被覆処理されていないH形鋼梁からなる。鉄骨小梁の上フランジに溶接された複数のスタッドによって、鉄骨小梁はスラブと一体化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、火災時には、鉄骨小梁は、一定の剛性及び耐力を維持できない。このため、火災時には、鉄骨小梁及びスラブは、下方に向かってたわむ。耐火構造物において、鉄骨小梁の下方に防火壁(防火区画)が配置されている場合がある。この場合には、たわんだ鉄骨小梁が防火壁に接触し、鉄骨小梁の荷重が防火壁に作用すること等により、防火壁が損傷する虞がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、非耐火性能梁の下方に配置された防火壁が高温時に非耐火性能梁により損傷するのを抑制しつつ、床部のたわみを抑えた耐火構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、コンクリート中に引張力伝達部材が設けられた床部と、所定の耐火性能を有する複数の耐火性能梁と、前記所定の耐火性能を有し、前記複数の耐火性能梁に接合され、自身の一部及び前記複数の耐火性能梁全体が構成する環状の耐火環状体が前記床部を全周にわたって前記床部の下方から支持する複数の耐火性能柱と、前記耐火環状体内に配置され、前記床部を下方から支持し、高温時に燃焼又は溶融する材料で形成された非耐火性能梁と、を備え、前記床部の平面内で互いに交差する方向を第1交差方向、第2交差方向と規定したときに、前記引張力伝達部材は、前記床部の前記第1交差方向の端部間の引張力、及び、前記床部の前記第2交差方向の端部間の引張力をそれぞれ伝達する、耐火構造物である。
【0007】
この発明では、常温時には、複数の耐火性能柱の一部及び複数の耐火性能梁全体で構成される耐火環状体、及び非耐火性能梁が、床部を支持する。
一方で、例えば火災時等の高温時には、非耐火性能梁は燃焼又は溶融する。耐火環状体は、一定の剛性及び耐力を維持でき、床部を全周にわたって床部の下方から支持する。床部中に設けられた引張力伝達部材は、床部のコンクリートにおける第1交差方向の端部間の引張力、及び、第2交差方向の端部間の引張力をそれぞれ伝達する。床部に作用する重力等により、床部の平面視における中央部が下方に向かって凸となるようにたわむ。しかし、メンブレン効果により、床部の周囲が耐火環状体により支持される。そして、床部がたわむことにより伸びた引張力伝達部材が第1交差方向及び第2交差方向にそれぞれ引張力を伝達することにより、床部の中央部が支持される。従って、高温時における床部のたわみを抑えることができる。
【0008】
非耐火性能梁が燃焼又は溶融するため、非耐火性能梁の一部が比較的軽量の部材となって非耐火性能梁から分離する。例えば、非耐火性能梁が下方に向かってたわんだ場合でも、分離した部分により、たわんだ非耐火性能梁が防火壁に接触し難くなる。
従って、非耐火性能梁の下方に配置された防火壁が、高温時に非耐火性能梁により損傷するのを抑制することができる。
【0009】
(2)本発明の態様2は、前記非耐火性能梁は、木材、プラスチック、及びアルミニウムの少なくとも1つで形成されている、(1)に記載の耐火構造物であってもよい。
この発明では、木材、プラスチック、及びアルミニウムという、耐火構造物に汎用的に用いられている材料で、非耐火性能梁を確実に構成することができる。
【0010】
(3)本発明の態様3は、前記非耐火性能梁を複数備え、それぞれの前記非耐火性能梁である対象非耐火性能梁の端部は、前記複数の非耐火性能梁のうち前記対象非耐火性能梁以外の前記非耐火性能梁及び前記所定の耐火性能を有する連結耐火性能梁の少なくとも一方を介して、又は直接、前記複数の耐火性能梁に接合されている、(1)又は(2)に記載の耐火構造物であってもよい。
この発明では、常温時において、対象非耐火性能梁の端部を、複数の非耐火性能梁のうち対象非耐火性能梁以外の非耐火性能梁及び連結耐火性能梁の少なくとも一方を介して、又は直接、複数の耐火性能梁に接合して支持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐火構造物では、非耐火性能梁の下方に配置された防火壁が高温時に非耐火性能梁により損傷するのを抑制しつつ、床部のたわみを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の耐火構造物を模式的に示す斜視図である。
【
図4】第1耐火性能梁と第1非耐火性能梁との接続部分を分解した斜視図である。
【
図7】比較例の耐火構造物をモデル化した斜視図である。
【
図8】火災時における本実施形態の耐火構造物の要部の断面図である。
【
図10】火災時における比較例の耐火構造物の要部の断面図である。
【
図11】時間に対する床部の中央のたわみの変化を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態の第1変形例の耐火構造物を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る耐火構造物の一実施形態を、
図1から
図12を参照しながら説明する。以下に説明する耐火構造物の構成は、耐火構造物の常温における構成である。ここで言う常温とは、例えば、0℃以上40℃以下のことを意味する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の耐火構造物1は、床部10と、複数の耐火性能梁25と、複数の耐火性能柱45と、第1非耐火性能梁(非耐火性能梁)50と、複数の第2非耐火性能梁60と、を備える。なお、
図1では、床部10を透過して示している。
図1では、後述する所定の耐火性能を有する柱及び梁に、ハッチングを付して示している。
【0015】
本実施形態では、床部10は、床部10の厚さ方向に見たときに矩形状を呈する平板状である。床部10は、床部10の厚さ方向が上下方向Zに沿うように配置されている。なお、床部10は、厚さ方向が上下方向Zに交差するように配置されてもよい。
ここで、床部10の上面(平面)内で互いに直交(交差)する方向を第1交差方向X、第2交差方向Yと規定する。第1交差方向Xは、上下方向Zに見たときの床部10の長手方向である。第2交差方向Yは、上下方向Zに見たときの床部10の短手方向である。
なお、第1交差方向X及び第2交差方向Yは、床部10の上面内で互いに交差する方向であれば、特に限定されない。
【0016】
図2に示すように、床部10は、いわゆる鉄筋トラス付デッキスラブである。床部10は、デッキプレート11と、コンクリート12と、鉄筋(引張力伝達部材)13と、を備えている。
例えば、デッキプレート11は、詳細には図示しないが、鋼板を曲げ加工して形成されている。ただし、この例では、デッキプレート11はコンクリート12の捨型枠として扱われ、コンクリート12との合成効果を発揮しないとして設計されている。
コンクリート12は、上下方向Zに見たときに床部10と同一形状を呈する。コンクリート12は、デッキプレート11上に配置されている。鉄筋13は、コンクリート12中に設けられている。
【0017】
鉄筋13の構成は、第1交差方向Xに沿って延びる第1鉄筋と、第2交差方向Yに沿って延びる第2鉄筋と、を有していれば、特に限定されない。
図2及び
図3に示すように、本実施形態では、鉄筋13は、複数の第1鉄筋15,16と、複数の第2鉄筋17と、を有する。
【0018】
各第1鉄筋15,16は、それぞれ第1交差方向Xに沿って延びている。第1鉄筋15は、第1鉄筋16の上方に配置されている。第1鉄筋15,16は、上下方向Zに互いに間隔を空けて並べて配置されている。複数の第1鉄筋15は、第2交差方向Yに互いに間隔を空けて配置されている。複数の第1鉄筋16についても、複数の第1鉄筋15と同様である。
第1鉄筋15,16は、それぞれコンクリート12における第1交差方向Xの各端部まで延びている。第1鉄筋15,16は、それぞれコンクリート12(床部10)の第1交差方向Xの端部間の引張力を伝達する。
【0019】
図3に示すように、第1鉄筋15,16は、第1連結部材19により互いに接合されている。第1連結部材19は、第1交差方向Xに沿って延びるとともに、上下方向Zに交互に折れるジグザグ状である。
複数の第1鉄筋15は、複数の第2連結部材20により互いに接合されている。各第2連結部材20は、第2交差方向Yに沿って延びるとともに、上下方向Zに交互に折れるジグザグ状である。各第2連結部材20では、第2交差方向Yに山部及び谷部が交互に並べて配置されている。
第2連結部材20における山部の上端部には、第1鉄筋15が接合されている。
【0020】
各第2鉄筋17は、それぞれ第2交差方向Yに沿って延びている。複数の第2鉄筋17は、第1交差方向Xに互いに間隔を空けて配置されている。第2鉄筋17は、コンクリート12における第2交差方向Yの各端部まで延びている。第2鉄筋17は、コンクリート12の第2交差方向Yの端部間の引張力を伝達する。
前記複数の第2鉄筋17は、複数の第1鉄筋15に溶接や番線等により接合されている。
【0021】
以上のように、鉄筋13は、全体としてブロック状に一体化されている。第1鉄筋15,16が延びる主筋方向Wは、第1交差方向Xである(
図1参照)。
なお、床部10は、いわゆる合成スラブや、デッキプレート11を有さない、いわゆる鉄筋コンクリートスラブであってもよい。
【0022】
耐火性能梁25は、大梁である。
図1に示すように、複数の耐火性能梁25は、一対の第1耐火性能梁26と、一対の第2耐火性能梁27と、を有している。
図4に示すように、例えば、第1耐火性能梁26は、耐火被覆30が施されたH形鋼31である。すなわち、第1耐火性能梁26には、耐火被覆30が施されている。なお、
図4では、第1耐火性能梁26を破断して示している。
耐火被覆30には、ロックウール、グラスウール等の断熱材が用いられる。この場合、耐火被覆30は、吹付け工法により、このH形鋼31に施されている。
【0023】
例えば、第1耐火性能梁26におけるロックウール等の耐火被覆30の厚さは、「吹付けロックウール被覆耐火構造 施工品質管理指針(ロックウール工業会 吹付け部会)」に準拠して設定される。第1耐火性能梁26に1時間耐火が要求される場合には、耐火被覆30の厚さを25mmとする。同様に、第1耐火性能梁26に2時間耐火が要求される場合には、耐火被覆30の厚さを45mmとする。第1耐火性能梁26に3時間耐火が要求される場合には、耐火被覆30の厚さを60mmとする。以下では、この吹付けロックウール被覆耐火構造 施工品質管理指針に基づいた耐火性能を、被覆耐火性能(所定の耐火性能)と言う。
なお、所定の耐火性能は、被覆耐火性能に限定されない。
第2耐火性能梁27の耐火被覆についても、第1耐火性能梁26と同様である。複数の耐火性能梁25は、被覆耐火性能を有する。
【0024】
耐火性能梁は、耐火被覆が施されない、鉄筋コンクリート造、又は鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。コンクリート自体が耐火性能を有するため、鉄筋コンクリート造及び鉄骨鉄筋コンクリート造の耐火性能梁に、耐火被覆を施す必要がない。
耐火被覆は、成形板工法、又は巻付け工法により、耐火性能梁26,27に施されてもよい。
【0025】
H形鋼31は、ウェブ31aと、ウェブ31aを挟むように配置された上フランジ31b及び下フランジ31cと、を有する。上フランジ31bは、下フランジ31cよりも上方に配置されている。
図1に示すように、第2耐火性能梁27は、第1耐火性能梁26と同様に、耐火被覆34が施されたH形鋼(不図示)である。
一対の第1耐火性能梁26は、第1交差方向Xに沿って延びている。一対の第1耐火性能梁26は、第2交差方向Yに互いに間隔を空けて配置されている。一対の第2耐火性能梁27は、第2交差方向Yに沿って延びている。一対の第2耐火性能梁27は、第1交差方向Xに互いに間隔を空けて配置されている。
第1耐火性能梁26と第2耐火性能梁27との間には、耐火性能柱45が配置される隙間が形成されている。
【0026】
図4に示すように、第1耐火性能梁26には、接続金具37と、図示しない頭付きスタッド及びガセットプレートが固定されている。
接続金具37は、第1耐火性能梁26における第1非耐火性能梁50に接合される部分に設けられている。例えば、接続金具37は、第1板片38と、第2板片39と、を有する。板片38,39は、鋼板等で形成されている。
第2板片39は、第2板片39の厚さ方向に貫通する複数の貫通孔39aが形成されている。第2板片39は、第1板片38の第1面から、第1板片38の厚さ方向に突出している。第1板片38及び第2板片39は、溶接等により互いに接合されている。
接続金具37は、第1板片38及び第2板片39のそれぞれの厚さ方向に直交する方向に見たときに、T字状を呈する。なお、接続金具をCT形鋼等で構成してもよい。
第1板片38における第1面とは反対側の第2面は、H形鋼31のウェブ31aに接触している。第1板片38は、ボルト40によりH形鋼31のウェブ31aに固定されている。接続金具37は、第1耐火性能梁26における第1交差方向Xの中心に固定されている。なお、第1板片38を、溶接等によりH形鋼31のウェブ31aに固定してもよい。
【0027】
頭付きスタッドは、H形鋼31における上フランジ31bの上面に溶接等により固定されている。頭付きスタッドは、床部10のデッキプレート11を貫通し、コンクリート12内に埋め込まれている。
ガセットプレートは、第1耐火性能梁26における第2非耐火性能梁60に接合される部分に設けられている。例えば、ガセットプレートは、H形鋼31のウェブ31a及びフランジ31b,31cに固定されている。ガセットプレートは、H形鋼31からH形鋼31の幅方向(第2交差方向Y)に突出している。
第2耐火性能梁27には、第1耐火性能梁26と同様に、図示しない頭付きスタッドが固定されている。
【0028】
図1に示すように、例えば、耐火性能柱45は、耐火被覆46が施された角形鋼管(不図示)である。すなわち、耐火性能柱45に、耐火被覆46が施されている。
複数の耐火性能柱45は、上下方向Zに沿って延びている。本実施形態では、複数の耐火性能柱45は、床部10の複数の隅部の下方にそれぞれ配置されている。複数の耐火性能柱45の上端部(一部)には、複数の耐火性能梁25の端部が、剛接合により接合されている。
すなわち、各耐火性能柱45の上端部には、第1耐火性能梁26及び第2耐火性能梁27にそれぞれ接合されている。複数の耐火性能柱45は、複数の耐火性能梁25を架設している。本実施形態では、複数の耐火性能柱45は、複数の耐火性能梁25全てに接合されている。
【0029】
耐火性能柱45の耐火被覆46は、耐火性能梁25の耐火被覆30,34と同様に構成されている。すなわち、複数の耐火性能柱45は、被覆耐火性能を有する。
複数の耐火性能柱45の上端部、及び、複数の耐火性能梁25全体で、環状の耐火環状体48を構成する。
【0030】
耐火環状体48は、床部10を全周にわたって、床部10の下方から支持する。
なお、耐火性能柱は、耐火被覆が施されたH形鋼、耐火被覆が施された円形鋼管であってもよい。
耐火性能柱は、耐火被覆が施されない、コンクリート充填鋼管造、鉄筋コンクリート造、又は鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。
【0031】
第1非耐火性能梁50及び第2非耐火性能梁60は、小梁である。
第1非耐火性能梁50は、高温時に燃焼する材料で形成されている。具体的には、第1非耐火性能梁50は、木材で形成されている。ここで言う高温とは、例えば、ISO 834-11:2014で規定される加熱曲線による温度や、260℃以上のことを意味する。木材としては、ベイマツ、ジマツ、カラマツ、杉、ヒノキ等が好ましい。第1非耐火性能梁50は、無垢材でもよいし、集積材でもよい。
図1及び
図4に示すように、第1非耐火性能梁50は、第2交差方向Yに沿って延びている。
図4に示すように、第1非耐火性能梁50における第2交差方向Yの各端部には、嵌合溝51及び複数の貫通孔52が形成されている。
【0032】
嵌合溝51は、幅広部51aと、幅狭部51bと、を有する。幅広部51aは、第1非耐火性能梁50の第2交差方向Yの端面における第1交差方向Xの中間部に形成されている。幅広部51aは、第1非耐火性能梁50における第2交差方向Yの内側に向かって突出している。幅広部51a内には、接続金具37の第1板片38が配置される。
幅狭部51bは、幅広部51aの底面における第1交差方向Xの中間部に形成されている。幅狭部51bは、第1非耐火性能梁50における第2交差方向Yの内側に向かって突出している。幅狭部51bの第1交差方向Xの長さは、幅広部51aの第1交差方向Xの長さよりも短い。幅狭部51b内には、接続金具37の第2板片39が配置される。
この例では、幅広部51a及び幅狭部51bは、第1非耐火性能梁50を上下方向Zに貫通している。
【0033】
複数の貫通孔52は、第1交差方向Xに沿ってそれぞれ延びている。複数の貫通孔52は、嵌合溝51の幅狭部51bに開口している。複数の貫通孔52は、上下方向Zに並べて配置されている。
接続金具37と第1非耐火性能梁50との接続に、複数のダボ53が用いられる。各ダボ53は、木材等で棒状に形成されている。複数のダボ53は、第1非耐火性能梁50の複数の貫通孔52内及び接続金具37の複数の貫通孔39a内にそれぞれ配置されている。例えば、複数のダボ53は、図示しない接着剤により第1非耐火性能梁50に固定されている。
こうして、一対の第1耐火性能梁26に第1非耐火性能梁(対象非耐火性能梁)50の両端部が接合されている。すなわち、第1非耐火性能梁50の両端部は、一対の第1耐火性能梁26に直接接合されている。
図1に示すように、この例では、第1非耐火性能梁50は、第1耐火性能梁26における第1交差方向Xの中心に配置されている。
【0034】
図2に示すように、第1非耐火性能梁50の上面には、ネジ部材56が固定されている。例えば、ネジ部材56は、ナベ頭タッピングネジである。ネジ部材56のネジ部56aは、第1非耐火性能梁50の上面にネジ込まれることにより第1非耐火性能梁50に固定されている。ネジ部材56の頭部56bは、床部10のデッキプレート11を貫通し、コンクリート12内に埋め込まれている。
第1非耐火性能梁50は、床部10を、床部10の下方から支持している。
なお、プラスチックは、高温時に燃焼する材料である。アルミニウムは、高温時に溶融する材料である。第1非耐火性能梁は、木材、プラスチック、及びアルミニウムの少なくとも1つで形成されてもよい。
第1非耐火性能梁をプラスチックで形成する場合には、第1非耐火性能梁を3Dプリンタで形成してもよい。
【0035】
例えば、複数の第2非耐火性能梁60は、耐火被覆が施されていないH形鋼である(
図9参照)。
図1に示すように、複数の第2非耐火性能梁60は、第2交差方向Yに沿ってそれぞれ延びている。複数の第2非耐火性能梁60は、第1交差方向Xに互いに間隔を空けて配置されている。第2非耐火性能梁60における第2交差方向Yの両端部は、一対の第1耐火性能梁26に設けられたガセットプレートに、図示しない高力ボルト等により接合されている。
複数の第2非耐火性能梁60は、第1非耐火性能梁50を第1交差方向Xに挟むように配置されている。第1非耐火性能梁50及び複数の第2非耐火性能梁60は、それぞれ耐火環状体48内に配置されている。
【0036】
図5に示すように、耐火構造物1は、第1非耐火性能梁50の下方に配置された防火壁65を備える。例えば、防火壁65は、耐火構造物1の火災時に、耐火構造物1内を所定の広さ以下の範囲に仕切る。
以上のように構成された耐火構造物1は、例えば、床部10上に、机や書類棚等の設備を置いて使用される。
【0037】
なお、耐火構造物1は、複数の第2非耐火性能梁60を備えなくてもよい。耐火構造物1が備える第1非耐火性能梁50の数は制限されず、複数でもよい。耐火構造物1が、被覆耐火性能を有する小梁を備えてもよい。
【0038】
(シミュレーション結果)
図6に示すように、耐火構造物1をモデル化した。
なお、
図6及び
図7では、第1非耐火性能梁50を二点鎖線で示し、第2非耐火性能梁60を点線で示している。なお、
図6及び
図7では、床部10を示していない。
図6において、耐火性能梁26,27のH形鋼の断面寸法は、H-1000×400×19×28とした。第1耐火性能梁26の長さ(L)は、19,200mmとした。第2耐火性能梁27の長さ(l)は、7,200mmとした。
耐火構造物1の火災時に、第1非耐火性能梁50は、燃焼して消失するとした。
第2非耐火性能梁60のH形鋼の断面寸法は、H-500×200×10×16とした。第2非耐火性能梁60には、耐火被覆が施されないとした。
【0039】
なお、火災時には、第1非耐火性能梁50には、剛性及び耐力が無くなると仮定した。
第2非耐火性能梁60は、文献1に基づいて剛性が低下すると仮定した。具体的には、第2非耐火性能梁60の剛性は100℃以下では常温での剛性に等しい。100℃を超えると第2非耐火性能梁60の剛性が低下していき、1200℃で第2非耐火性能梁60の剛性が無くなる。
文献1:"Eurocode 3: Design of steel structures - Part 1-2: General rules - Structural fire design" en. 1993-1-2, 2005
【0040】
図6に示すように、各耐火性能柱45の上端に対して、耐火性能梁26,27は、第1交差方向X周り、第2交差方向Y周り、及び上下方向Z周りにそれぞれ回転できるとした。
複数の耐火性能柱45の1つである耐火性能柱45Aに対して、耐火性能梁26,27は、第1交差方向X、第2交差方向Y、及び上下方向Zにそれぞれ固定されているとした。複数の耐火性能柱45のうち、耐火性能柱45A以外の耐火性能柱45Bに対して、耐火性能梁26,27は、第1交差方向X及び第2交差方向Yにそれぞれ移動できるとした。耐火性能柱45Bに対して、耐火性能梁26,27は、上下方向Zに固定されているとした。
図6中には、鉄筋13の主筋方向Wを示す。
【0041】
図7に示す比較例の耐火構造物1Aでは、実施例の耐火構造物1の第1非耐火性能梁50に代えて、第2非耐火性能梁60を備える。
耐火構造物1,1Aでは、以下の仕様とした。
床部10の厚さは、140mmとした。第1鉄筋15,16は、D13@200とした。第2鉄筋17は、D10@150とした。鉄筋13全体としての上下方向Zの長さ(厚さ)を、100mmとした。耐火性能梁26,27の耐火被覆は、厚さ45mmの半乾式のロックウール(RW)で、吹付け工法により施されるとした。
床部10に、10kN/m
2の鉛直荷重を作用させた。
耐火構造物1,1Aを、ISO 834-11:2014に規定された標準加熱曲線に基づいて、120分(2時間)加熱することを想定した。
【0042】
ここで、火災時における耐火構造物の変形について説明する。
耐火構造物1は、第1非耐火性能梁50が燃焼し、第1非耐火性能梁50の一部が灰等の比較的軽量の部材となって第1非耐火性能梁50から分離する。第1非耐火性能梁50全体が燃焼すると、
図8に示すように、第1非耐火性能梁50が消失する。
図8中に、火災による炎Fを示す。このように、第1非耐火性能梁50の火災時の材軸方向(長手方向)に直交する断面積は、第1非耐火性能梁50の常温時の材軸方向に直交する断面積よりも減少する。この例では、第1非耐火性能梁50の火災時の断面積は、0になる。
第1非耐火性能梁50が消失するため、床部10の平面視における中央部が下方に向かって凸となるようにたわんでも、床部10が防火壁65に接触し難い。
【0043】
一方で、
図9に示すように、比較例の耐火構造物1Aでは、第2非耐火性能梁60の下方に防火壁65が配置されている。
この場合、火災時には、
図10に示すように、第2非耐火性能梁60及び床部10が、下方に向かって凸となるようにたわむ。このため、たわんだ第2非耐火性能梁60が防火壁65に接触し、第2非耐火性能梁60による荷重が防火壁65に作用すること等により、防火壁65が損傷する虞がある。
【0044】
次に、シミュレーション結果を、
図11に示す。
図11には、時間に対する床部10の中央におけるたわみの変化を示す。床部10の中央とは、上下方向Zに見たときの床部10の中央である。
図11において、横軸は時間(分)を表し、縦軸は床部10の中央のたわみ(mm)を表す。
耐火構造物1,1Aのシミュレーション結果を、線L
1,L
1Aでそれぞれ示す。
いずれの時間(時刻)においても、耐火構造物1のたわみは、耐火構造物1Aのたわみ
よりも大きくなる。しかし、両耐火構造物1,1Aのたわみの差は100mmもなく、耐火構造物1のたわみの大きさは、問題がないと考えられる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の耐火構造物1では、常温時には、複数の耐火性能柱45の上端部及び複数の耐火性能梁25全体で構成される耐火環状体48、第1非耐火性能梁50、及び複数の第2非耐火性能梁60が、床部10を床部10の下方から支持する。
一方で、例えば火災時には、第1非耐火性能梁50は燃焼する。耐火環状体48は、一定の剛性及び耐力を維持でき、床部10を全周にわたって床部10の下方から支持する。床部10中に設けられた鉄筋13は、床部10のコンクリート12における第1交差方向Xの端部間の引張力、及び、第2交差方向Yの端部間の引張力をそれぞれ伝達する。床部10に作用する重力等により、床部10の平面視における中央部が下方に向かって凸となるようにたわむ。しかし、メンブレン効果により、床部10の周囲が耐火環状体48により支持される。そして、床部10がたわむことにより伸びた鉄筋13が第1交差方向X及び第2交差方向Yにそれぞれ引張力を伝達することにより、床部10の中央部が支持される。従って、高温時における床部10のたわみを抑えることができる。
【0046】
第1非耐火性能梁50が燃焼するため、第1非耐火性能梁50の一部が灰となって第1非耐火性能梁50から分離する。第1非耐火性能梁50が下方に向かってたわんだ場合でも、分離した部分により、たわんだ第1非耐火性能梁50が防火壁65に接触し難くなる。
従って、第1非耐火性能梁50の下方に配置された防火壁65が、高温時に第1非耐火性能梁50により損傷するのを抑制することができる。
【0047】
第1非耐火性能梁50は、木材で形成されている。従って、木材という耐火構造物に汎用的に用いられている材料で、第1非耐火性能梁50を確実に構成することができる。
木材で形成された第1非耐火性能梁50では、H形鋼造の第2非耐火性能梁60に比べて、意匠性が向上する。
耐火構造物1を施工する現場で、第1非耐火性能梁50の端部等の加工を容易に行うことができる。
【0048】
床部10は、合成スラブである場合がある。この場合には、合成スラブは床部として広く用いられているため、床部10を安価に構成することができる。
複数の耐火性能梁25のそれぞれは、耐火被覆が施されたH形鋼である。H形鋼は梁として広く用いられているため、耐火性能梁25を安価に構成することができる。
【0049】
複数の耐火性能柱45のそれぞれは、耐火被覆46が施されたH形鋼である。H形鋼は柱として広く用いられているため、耐火性能柱45を安価に構成することができる。
第1耐火性能梁26では、耐火被覆30は吹付け工法により施されている。吹付け工法は、H形鋼等に耐火被覆を施すのに広く用いられているため、耐火被覆30を安価に施すことができる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、
図12に示す第1変形例の耐火構造物2のように、本実施形態の耐火構造物1の各構成において、複数の第2非耐火性能梁60の一部に代えて、連結耐火性能梁70を備えている。耐火構造物2は、複数(この第1変形例では、2つ)の第1非耐火性能梁50を備えている。
【0051】
例えば、連結耐火性能梁70は、被覆耐火性能を有するH形鋼である。連結耐火性能梁70は、第2交差方向Yに沿って延びている。連結耐火性能梁70の両端部は、一対の第1耐火性能梁26にそれぞれ接合されている。
複数の第1非耐火性能梁50のうちの1つ(後述する対象非耐火性能梁50A)は、第1交差方向Xに沿って延びている。
ここで、複数の第1非耐火性能梁50のうち、接合を説明する対象となる第1非耐火性能梁50を、対象非耐火性能梁50Aとして説明する。対象非耐火性能梁50Aの第1端部は、複数の第1非耐火性能梁50のうち対象非耐火性能梁50A以外の第1非耐火性能梁50を介して一対の第1耐火性能梁26に接合されている。対象非耐火性能梁50Aにおける第1端部とは反対側の第2端部は、連結耐火性能梁70を介して一対の第1耐火性能梁26に接合されている。
【0052】
以上のように構成された第1変形例の耐火構造物2では、第1非耐火性能梁50の下方に配置された防火壁65が高温時に第1非耐火性能梁50により損傷するのを抑制しつつ、床部10のたわみを抑えることができる。
さらに、常温時において、対象非耐火性能梁50Aの端部を、複数の第1非耐火性能梁50のうち対象非耐火性能梁50A以外の第1非耐火性能梁50及び連結耐火性能梁70を介して、一対の第1耐火性能梁26に接合して支持することができる。
なお、対象非耐火性能梁50Aは、第1非耐火性能梁50及び連結耐火性能梁70の一方を介して一対の第1耐火性能梁26に接合されていてもよい。
【0053】
前記実施形態では、第1耐火性能梁26と第2耐火性能梁27とが、耐火性能柱45を介さずに直接接合されてもよい。この場合、環状の耐火環状体は、複数の耐火性能梁25により構成される。
デッキプレート11が充分厚い場合等には、引張力伝達部材をデッキプレート11としてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1,2 耐火構造物
10 床部
12 コンクリート
13 鉄筋(引張力伝達部材)
25 耐火性能梁
45 耐火性能柱
48 耐火環状体
50 第1非耐火性能梁(非耐火性能梁)
50A 対象非耐火性能梁
60 第2非耐火性能梁
70 連結耐火性能梁
X 第1交差方向
Y 第2交差方向