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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125928
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】音データ生成方法
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
G10H1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034071
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大野 孝紘
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478DE00
(57)【要約】
【課題】電子楽器において、所望の楽器の音像を実現することができる音データ生成方法を提供する。
【解決手段】演奏情報に基づいて、複数の仮想操作子の何れか1つに対応し、第1音データ及び第2音データを含む第1音データセットを取得し、前記1音データセットに基づいて、複数の再生要素位置にそれぞれ対応する複数の第3音データを含む第2音データセットを生成すること、を含み、前記第1音データ及び前記第2音データは、音情報と所定の聴取位置を基準とした発音位置を示す発音位置情報とを含み、前記第2音データセットを生成することは、前記第1音データ及び前記第2音データの各々の前記発音位置情報が示す発音位置と前記複数の再生要素位置との関係に基づいて、前記第3音データを生成すること、を含む音データ処理方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏情報に基づいて、複数の仮想操作子の何れか1つに対応し、第1音データ及び第2音データを含む第1音データセットを取得し、
前記1音データセットに基づいて、複数の再生要素位置にそれぞれ対応する複数の第3音データを含む第2音データセットを生成すること、
を含み、
前記第1音データ及び前記第2音データは、音情報と所定の聴取位置を基準とした発音位置を示す発音位置情報とを含み、
前記第2音データセットを生成することは、
前記第1音データ及び前記第2音データの各々の前記発音位置情報が示す発音位置と前記複数の再生要素位置との関係に基づいて、前記第3音データを生成すること、を含む音データ処理方法。
【請求項2】
音情報と所定の聴取位置を基準とした発音位置を示す発音位置情報とを各々含む第1音データ及び第2音データを含む第1音データセットの前記発音位置情報をユーザの要求により変更し、
前記第1音データ及び前記第2音データの変更された前記発音位置情報が示す前記発音位置と再生要素位置との関係に基づいて、前記第1音データセットから複数の前記再生要素位置にそれぞれ対応する第3音データを含む第2音データセットを生成すること、
を含む音データ処理方法。
【請求項3】
ユーザからの指示に基づき、前記発音位置情報を変更すること、をさらに含む、請求項1に記載の音データ処理方法。
【請求項4】
前記第1音データに含まれる前記発音位置情報と前記第2音データに含まれる発音位置情報とは互いに異なる、請求項1乃至3の何れか一項に記載の音データ処理方法。
【請求項5】
第1仮想操作子に対応する前記第1音データセットにおける前記第1音データに含まれる前記音情報は、第2仮想操作子に対応する前記第1音データセットにおける前記第1音データに含まれる前記音情報と共通であり、
前記第1仮想操作子に対応する前記第1音データセットにおける前記第2音データに含まれる前記音情報は、前記第2仮想操作子に対応する前記第1音データセットにおける前記第2音データに含まれる音情報と異なる、請求項4に記載の音データ処理方法。
【請求項6】
前記第1仮想操作子及び前記第2仮想操作子にそれぞれ対応する前記第1音データに含まれる前記音情報は、直接音の音情報であり、
前記第1仮想操作子及び前記第2仮想操作子にそれぞれ対応する前記第2音データに含まれる前記音情報は、前記直接音に対応する間接音の音情報である、請求項5に記載の音データ処理方法。
【請求項7】
前記ユーザの要求は楽器の種類を含み、前記変更された発音位置情報は前記楽器に対応して変更された発音位置を示す、請求項2に記載の音データ処理方法。
【請求項8】
前記ユーザの要求は所定の聴取位置を含み、前記変更された発音位置情報は前記所定の聴取位置に対応して変更された発音位置を示す、請求項2に記載の音データ処理方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の音データ処理方法により生成された前記第2音データセットを取得し、
操作子への操作に基づいて、前記再生要素位置に対応する再生要素に提供するために取得した前記第2音データセットを加工する、電子楽器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音データ生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子楽器では、ユーザが所望する音響効果を得るために、放出される音に様々な工夫がなされている。例えば、特許文献1には、仮想スピーカの位置に対応する音信号を生成する電子楽器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-50479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的の一つは、電子楽器において、所望の楽器の音像を実現することができる音データ生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、演奏情報に基づいて、複数の仮想操作子の何れか1つに対応し、第1音データ及び第2音データを含む第1音データセットを取得し、前記第1音データセットに基づいて、複数の再生要素位置にそれぞれ対応する複数の第3音データを含む第2音データセットを生成すること、を含み、前記第1音データ及び前記第2音データは、音情報と所定の聴取位置を基準とした発音位置を示す発音位置情報とを含み、前記第2音データセットを生成することは、前記第1音データ及び前記第2音データの各々の前記発音位置情報が示す発音位置と前記複数の再生要素位置との関係に基づいて、前記第3音データを生成すること、を含む音データ処理方法が提供される。
【0006】
一実施形態によれば、音情報と所定の聴取位置を基準とした発音位置を示す発音位置情報とを各々含む第1音データ及び第2音データを含む第1音データセットの前記発音位置情報をユーザの要求により変更し、前記第1音データ及び前記第2音データの変更された前記発音位置情報が示す前記発音位置と再生要素位置との関係に基づいて、前記第1音データセットから複数の前記再生要素位置にそれぞれ対応する第3音データを含む第2音データセットを生成すること、を含む音データ処理方法が提供される。
【0007】
一実施形態によれば、前記何れかの音データ処理方法により生成された第2音データセットを取得し、操作子への操作に基づいて、再生要素位置に対応する再生要素に提供するために取得した前記第2音データセットを加工する、電子楽器が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電子楽器において、所望の楽器の音像を実現することができる音データ生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る電子楽器の構成を示す図である。
図2】一実施形態に係る音源の機能構成を説明するブロック図である。
図3】音データを説明するための図である。
図4】所定の聴取位置を基準とした発音位置を説明するための図である。
図5】一実施形態に係る再生音データ生成部の機能構成の一例を説明するためのブロック図である。
図6】調整部の機能構成の一例を説明するためのブロック図である。
図7】音像調整部の構成の一例を示すブロック図である。
図8】波形調整部の機能構成の一例を説明するためのブロック図である。
図9】電子楽器の音源による再生音データ生成処理のフローを示すフローチャートである。
図10】電子楽器の音源によるパラメータ設定処理のフローを示すフローチャートである。
図11】一実施形態に係る音源の機能構成を説明するブロック図である。
図12】一実施形態に係る再生音データ生成部の機能構成の一例を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は一例であって、本開示はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。図面は、説明を明確にするために、寸法比率が実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりして、模式的に説明される場合がある。
【0011】
[第1実施形態]
[電子楽器の構成]
図1は、一実施形態に係る電子楽器1の構成を示す図である。本実施形態において、電子楽器1は電子鍵盤楽器である。電子楽器1は、例えば、電子ピアノであって、演奏操作子として複数の鍵70を有する鍵盤楽器である。ユーザが鍵70を操作すると、スピーカ60(60-1~60-5)から音が発生する。スピーカ60-1は電子鍵盤楽器1の左側に配置され、スピーカ60-5は電子鍵盤楽器1の右側に配置され、スピーカ60-2~60-4は、スピーカ60-1とスピーカ60-5との間にそれぞれ配置される。スピーカ60-1~60-5を特に区別しない場合には、単にスピーカ60と称する。本実施形態において、電子楽器1は、アコースティックピアノに近い音像での発音をすることもできる。
【0012】
続いて、電子楽器1の各構成について、詳述する。電子楽器1は、操作子(実操作子)として複数の鍵70、筐体50、及びペダル装置90を備える。複数の鍵70は、筐体50に回動可能に支持されている。筐体50には、操作部21、表示部23、スピーカ60が配置されている。筐体50の内部には、制御部10、記憶部30、第1検出部75および音源80が配置されている。筐体50内部に配置された各構成は、図示しないバスを介して接続されている。ペダル装置90は、ダンパペダル91、シフトペダル93、及び第2検出部95を備える。
【0013】
電子楽器1は、図示しないインターフェイスを含んでいる。インターフェイスは、外部装置と信号の入出力をするものであって、例えば、外部装置に音信号を出力する端子、MIDIデータの送受信をするためのケーブル接続端子などである。本実施形態では、インターフェイスにペダル装置90が接続されることによって、第2検出部95が上述したバスを介して筐体50の内部に配置された各構成に接続される。
【0014】
制御部10は、CPUなどの演算処理回路、RAM、ROMなどの記憶装置を含む。制御部10は、記憶部30に記憶された制御プログラムをCPUにより実行して、各種機能を電子楽器1において実現させる。
【0015】
操作部21は、操作ボタン、タッチセンサおよびスライダなどの装置であり、入力された操作に応じた信号を制御部10に出力する。表示部23は、制御部10による制御に基づいた画面が表示される。
【0016】
記憶部30は、不揮発性メモリ等の記憶装置である。記憶部30は、制御部10によって実行される制御プログラムを記憶する。また、記憶部30は、音源80において用いられるパラメータ、音データ等を記憶してもよい。記憶部30は、後述する音データ記憶部32(図2参照)を含む。音データ記憶部32は、複数の操作子の各々に対応する第1音データセットを記憶している。第1音データセットは、第1音データ及び第2音データを含む。第1音データセットについては後述する。
【0017】
スピーカ(再生要素)60は、制御部10または音源80から出力される音信号を増幅して出力することによって、第1音データ及び第2音データに基づいて生成された第3音データに応じた音を発生する。後述するように、スピーカ60は、放音装置6(図2参照)の一部を構成する。
【0018】
第1検出部75は、複数の鍵70のそれぞれに対して配置されたセンサを含む。センサは、所定の位置で鍵70を検出し、鍵70の位置に応じた第1検出信号を生成する。第2検出部95は、ダンパペダル91及びシフトペダル93のそれぞれの挙動を測定し、測定結果を示す第2検出信号を出力する。第2検出信号は、情報(PC、PS)を含む。情報PCは操作されたペダルがダンパペダル91であるかシフトペダル93であるかを示す情報である。情報PSはペダルに対する操作(ペダルのオンまたはオフ)を示す情報である。情報PC、PSが関連付けられて出力されることにより、操作されたペダル(ダンパペダル91またはシフトペダル93)とそのペダルに対する操作内容(オンまたはオフ)が、第2検出部95から出力される第2検出信号によって特定される。なお、ペダル装置90のペダルがダンパペダル91のみである場合には、情報PCは省略される。以下では、一例として、ペダル装置90のペダルがダンパペダル91である場合を説明する。
【0019】
音源80は、第1検出部75から出力される第1検出信号及び第2検出部95から出力される第2検出信号に基づいて、再生音データを生成して放音装置6(スピーカ60)に出力する。音源80が生成する再生音データは、鍵70への操作毎に得られる。そして、同時に複数の押鍵があった場合、該複数の押鍵によって得られた複数の再生音データは、合成されて音源80から出力される。
【0020】
続いて、音源80の構成について詳述する。なお、以下に説明する音源80の機能構成は、ハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアによって実現されてもよい。後者である場合、音源80の機能構成は、メモリ等に記憶されたプログラムをCPUにより実行することによって実現されてもよい。また、音源80の機能構成の一部分がソフトウェアによって実現され、残りの部分がハードウェアによって実現されてもよい。
【0021】
[音源の構成]
図2は、本実施形態における音源80の機能構成を説明するブロック図である。音源80は、制御信号生成部81、音データ取得部82、再生音データ生成部100、及び波形調整部83を備える。
【0022】
制御信号生成部81は、第1検出部75から出力された第1検出信号、第2検出部95から検出された第2検出信号、又はユーザの操作に基づいて、発音内容を規定する制御信号(演奏情報)を生成する。この制御信号は、本実施形態では、MIDI形式のデータであって、ノート番号Note、ベロシティV、ノートオンNonおよびノートオフNoffを含む。制御信号は、ダンパペダル91のオンを示すペダルオンPon又はオフを示すペダルオフPoffを含んでもよい。制御信号生成部81は、生成した制御信号を音データ取得部82に出力する。
【0023】
音データ取得部82は、制御信号生成部81からの制御信号に応じて、記憶部30の音データ記憶部32から対応する第1音データセットを取得する。第1音データセットは、第1音データ及び第2音データを含み、複数の仮想操作子の何れかの操作子に対応する。第1音データ及び第2音データの各々は、仮想操作子に対応する音情報と第1発音位置情報とを含む。第1発音位置情報は、所定の聴取位置を基準とした発音位置を示す情報である。仮想操作子とは、仮想楽器の操作子を意味する。仮想楽器は、電子楽器1において音像を再現しようとしている所望の楽器である。ここでは一例として、仮想楽器がアコースティックピアノである場合を説明する。仮想楽器がアコースティックピアノ(例えば、グランドピアノ)である場合、音情報は、アコースティックピアノの音(押鍵に伴う打弦によって生じた音)を示す波形データである。波形データは、実際のアコースティックピアノの音を録音したサンプリングデータであってもよく、物理モデル音源などによって生成されたデータであってもよい。尚、音データ記憶部32は、一つの仮想操作子に対して、2つ以上の第1音データセットを記憶してもよい。この場合、各第1音データセットに含まれる各音データの音情報が異なる。例えば、一つの仮想操作子に対応する、所定の第1音データセットに含まれる各音データの音情報は、ダンパペダル91が踏み込まれていない場合(ダンパペダル91がオフの場合)の波形データであり、別の第1音データセットに含まれる各音データの音情報は、ダンパペダル91が踏み込まれている場合(ダンパペダル91がオンの場合)の波形データである。音データ取得部82は、制御信号に含まれるペダルオンPon又はペダルオフPoffに基づいて、第1音データセットを選択して取得する。
【0024】
本実施形態において、第1音データセットに含まれる第1音データは、所定の仮想操作子の打弦に伴う一つ以上の共鳴音データであり、第2音データは、所定の仮想操作子に対応する打弦音データである。打弦音データは、所定の仮想操作子に対応する打弦音情報と打弦音発音位置情報とを音情報及び第1発音位置情報として含んでいる。打弦音情報は、所定の仮想操作子に対応する音波形データである。換言すると、打弦音情報は、所定の仮想操作子に対応する弦の振動音(直接音)の音波形データである。共鳴音データは、所定の仮想操作子に対応する共鳴音情報と共鳴音発音位置情報とを音情報及び第1発音位置情報として含んでいる。共鳴音情報は、所定の仮想操作子に対応する弦を除くアコースティックピアノ(仮想楽器)の各構成の共鳴音(間接音)の音波形データである。所定の仮想操作子に対応する弦を除くアコースティックピアノの構成は、例えば、その他の仮想操作子に対応する弦、響板、フレーム、駒、側板などを含む。一つ以上の共鳴音情報は、所定の聴取位置を基準とした、一つ以上の各共鳴音の発音位置における共鳴音を示す波形データである。本実施形態では、第1音データを共鳴音データとし、第2音データを打弦音データとする。
【0025】
第1発音位置情報は、所定の聴取位置を基準とした、打弦音または共鳴音の発音位置を示す情報である。図3は、音データ記憶部32に記憶された、所定の仮想操作子に対応する第1音データセットを説明するための図である。図4は、所定の聴取位置を基準とした発音位置を説明するための図である。図4では、仮想楽器(アコースティックピアノ)がグランドピアノである場合を一例として示している。
【0026】
本実施形態では、図3に示すように、アコースティックピアノ(仮想楽器)の所定の仮想操作子(所定の鍵)に対応する第1音データセットは、第1音データ及び第2音データを含む複数の音データを含む。図3では、一例として、第1音データセットが六つの音データA~Fを含み、音データA~Fのうち、音データDが、仮想操作子(鍵)に対応する打弦音データ(第2音データ)であり、残りの音データA~C、E~Fが仮想操作子(鍵)に対応する共鳴音データ(第1音データ)である場合を示している。尚、一つの第1音データセットに含まれる音データの数は、六つに限定されるわけではない。上述したように、第1音データセットに含まれる打弦音データ及び共鳴音データには、所定の聴取位置を基準とした発音位置を示す第1発音位置情報が含まれる。以下、共鳴音データ(第1音データ)及び打弦音データ(第2音データ)の区別をつけない場合、単に音データと称する。
【0027】
図4は、所定の聴取位置を基準とした発音位置を説明するための図である。一例として、所定の聴取位置は図4におけるXで示す位置である。所定の聴取位置Xは、例えば、演奏者がアコースティックピアノ(仮想楽器)を演奏する際に座る位置であってもよい。例えば、図3に示した第1音データセットに含まれる音データA~Fの第1発音位置情報が図4に示す発音位置A~Fに対応している場合、音データDは、図4におけるDで示す位置(発音位置D)で鍵k1に対応する弦の振動音を示す打弦音データ(第2音データ)である。音データDに含まれる音情報は、仮想楽器であるグランドピアノの鍵k1に対応する打弦音情報である。また、音データA~C、E~Fは、図4におけるA,B,C,E,Fで示す位置(発音位置A,B,C,E,F)での鍵k1の押鍵に伴う音、つまり共鳴音データ(第1音データ)である。音データA~C、E~Fに含まれる音情報は、鍵k1に対応する弦の振動音を除いた共鳴音情報である。
【0028】
音データAに割り当てられる第1発音位置情報(共鳴音発音位置情報A)は、音情報(共鳴音情報A)に対応する発音位置Aを示す情報である。同様に、音データB、C、E、Fに割り当てられる第1発音位置情報(共鳴音発音位置情報)は、音情報(共鳴音情報)にそれぞれ対応する発音位置B、C、E、Fを示す情報である。音データDに割り当てられる第1発音位置情報(打弦音発音位置情報D)は、音情報(打弦音情報D)に対応する発音位置Dを示す情報である。
【0029】
図4では、所定の聴取位置を仮想楽器であるグランドピアノの鍵盤の略正面であるXで示す位置としたが、所定の聴取位置は、Xで示す位置に限定されない。グランドピアノの鍵盤が位置する側を正面とすると、所定の聴取位置は、例えば、グランドピアノの背面側に設定されてもよく、グランドピアノの左右側面側の一方に設定されてもよい。ユーザは、操作部21を介して所定の聴取位置を設定することができる。この場合、音データには、予め設定された任意の発音位置情報が第1発音位置情報として含まれていてもよい。ユーザが操作部21を介して、所望の聴取位置を設定すると、各音データに含まれる第1発音位置情報が、ユーザによって設定された聴取位置に基づいて変更される。また、ユーザは、操作部21を介して、各音データの各々に所望の発音位置を設定してもよい。また、各音データに含まれる予め設定された任意の第1発音位置情報は、変更されなくてもよい。
【0030】
図2に示すように、音データ取得部82は、音データ記憶部32から取得した、第1音データセットを再生音データ生成部100に出力する。再生音データ生成部100は、音データ取得部82から取得した第1音データセットに含まれる各音データの音像を調整して再生用の第3音データを含む第2音データセットを生成する。
【0031】
図5は、再生音データ生成部100の機能構成の一例を説明するためのブロック図である。再生音データ生成部100は、パラメータ設定部102及び調整部104を含む。
【0032】
パラメータ設定部102は、所定の聴取位置を示す情報に基づいて、第1音データセットに含まれる複数の音データの各々の発音位置とスピーカ60の位置(再生要素位置)との関係に基づき音像を調整するためのパラメータを設定する。ユーザによって所定の聴取位置が設定された場合、パラメータ設定部102は、操作部21から、ユーザによって設定された所定の聴取位置を示す情報を取得する。この所定の聴取位置を示す情報は、音データ取得部82から出力された第1音データセットに含まれる各音データの第1発音位置情報の基準となる所定の聴取位置を示す情報である。また、パラメータ設定部102には、予め設定された任意の第1発音位置情報の基準となる所定の聴取位置を示す情報が記憶されていてもよい。各音データに含まれる第1発音位置情報が、予め設定された任意の発音位置情報であり、且つ発音位置情報が変更されない場合は、パラメータ設定部102は、記憶された所定の聴取位置を示す情報に基づいて、パラメータを設定する。ここで、パラメータは、各音データに対応する音の発音タイミングを設定するためのパラメータ、及び各音データに対応する音の音量を設定するためのパラメータを含む。以下では、発音タイミングを設定するためのパラメータを第1パラメータと呼び、音の音量を設定するためのパラメータを第2パラメータと呼ぶ。
【0033】
第1パラメータ及び第2パラメータは、第1音データセットに含まれる各音データに対し、電子楽器1のスピーカ60(再生要素)ごとに設定される。本実施形態では、電子楽器1の五つのスピーカ60-1、60-2、60-3、60-4、60-5が設けられている。そのため、スピーカ60-1、60-2、60-3、60-4、60-5ごとに、それぞれのスピーカ60から発音される各音データに対し、第1パラメータ及び第2パラメータが設定される。尚、ここでは、音データを再生する再生要素として電子楽器1に設けられた五つのスピーカ60-1~60-5を挙げているが、再生要素は電子楽器1に設けられたスピーカに限定されない。再生要素は、外部のスピーカ装置であってもよく、ヘッドホンであってもよい。
【0034】
パラメータ設定部102は、所定の聴取位置を示す情報に基づき、各音データに対応する発音位置を取得する。この発音位置は、所定の聴取位置を基準とした各音データの発音位置の座標情報であってもよい。パラメータ設定部102は、各音データの発音位置と各スピーカ60の位置との関係に基づいて、各音データに対応する第1パラメータ及び第2パラメータを決定する。各スピーカ60の位置は、予め決められた基準点を基準とした位置である。各音データの発音位置と各スピーカ60の位置との関係は、所定の聴取位置と、各スピーカ60の位置(再生要素位置)を定めるための予め決められた基準点とを座標軸上で一致させた場合の、各音データに対応する発音位置と各スピーカ60の位置(再生要素位置)との距離である。
【0035】
一例として、図3及び図4を参照して説明した第1音データセットに対するパラメータ決定処理を説明する。例えば、図3に示す第1音データセットに基づく音を、図1に示すスピーカ60-5から放音する場合、パラメータ設定部102は、第1音データセットに含まれる各音データA~Fに対応する発音位置と、スピーカ60-5の位置との関係に基づいて、各音データA~Fに対応する第1パラメータ及び第2パラメータを決定する。このとき、音データDに対する第1パラメータ及び第2パラメータは、所定の聴取位置を基準とした発音位置Dとスピーカ60-5の位置との関係に基づいて決定される。同様に、音データA~C,E,Fについても、所定の聴取位置を基準とした発音位置(A~C,E,F)とスピーカ60-5の位置との関係に基づいて第1パラメータ及び第2パラメータが決定される。尚、ユーザによって所定の聴取位置が変更されて、設定された聴取位置に基づいて各音データに含まれる第1発音位置情報が第2発音位置情報に変更されている場合は、各音データに対応する発音位置は、変更後の第2発音位置情報に対応する発音位置である。
【0036】
スピーカ60-5から第1音データセットに基づく音が放音される場合、該第1音データセットに含まれる音データA~Fのそれぞれに基づく音が発音される発音タイミング及び音量は、所定の聴取位置を基準とした、音データA~Fに対応する各発音位置(発音位置A~F)とスピーカ60-5の位置との距離に応じて異なる。つまり、操作部21を介してユーザが所定の聴取位置を変更して、第1発音位置情報が変更されると、各第1音データに対応する第1パラメータ及び第2パラメータが変更される。
【0037】
例えば、図4に示すグランドピアノ(仮想楽器)の正面の左側で鍵k1の押鍵に伴う音を聴取した場合、つまりグランドピアノの正面の左側を所定の聴取位置に設定した場合、発音位置Dよりも発音位置Fの方が聴取位置(グランドピアノの正面の左側)に近い。そのため、該聴取位置では、音データDに対応する音よりも音データFに対応する音の方が早いタイミングで聴取することができ、音データDに対応する音よりも音データFに対応する音の方が大きく聞こえる。一方、図4に示すように、グランドピアノ(仮想楽器)の略正面の位置Xで鍵k1の押鍵に伴う音を聴取した場合、つまりグランドピアノの略正面の位置Xを所定の聴取位置に設定した場合、発音位置Dの方が発音位置Fよりも聴取位置(グランドピアノの略正面)に近い。そのため、該聴取位置では、音データFに対応する音よりも音データDに対応する音の方が早いタイミングで聴取することができ、音データFに対応する音よりも音データDに対応する音の方が大きく聞こえる。
【0038】
このような仮想楽器の音像を電子楽器1で再現するために、パラメータ設定部102は、所定の聴取位置を基準とした各音データに対応する発音位置と各スピーカ60の位置との距離に応じた遅延時間及び音量を、所定の演算式を用いてスピーカ60ごとに算出する。遅延時間は、ノートオンから各音データに基づく音が出力されるまでの遅延時間である。パラメータ設定部102は、算出された遅延時間及び音量を各音データに反映させるための第1パラメータ及び第2パラメータを設定する。各音データに対して設定される第1パラメータ及び第2パラメータはそれぞれ、各音データに対応する発音位置と各スピーカ60の位置との距離に応じて同一である場合もあり、異なっている場合もある。
【0039】
パラメータ設定部102は、設定された第1パラメータ及び第2パラメータを、調整部104に出力する。また、第1パラメータ及び第2パラメータは、予め決められた所定の聴取位置に基づいて、予め設定されていてもよい。この場合、パラメータ設定部102は、操作部21を介してユーザから所定の聴取位置の変更リクエストがあった場合に、変更後の所定の聴取位置に基づいて、第1パラメータ及び第2パラメータを変更してもよい。
【0040】
調整部104は、第1パラメータ及び第2パラメータに基づいて、音データに遅延処理、増幅処理、及び加算処理を行うことにより、スピーカ60の数に対応する複数のチャンネルの第3音データを含む第2音データセットを生成する。図6は、調整部104の機能構成の一例を説明するためのブロック図である。調整部104は、音像調整部700(音像調整部700-k;k=1~n)を含む。音像調整部700はそれぞれ、遅延部702(遅延部702-k;k=1~n)、増幅部704(増幅部704-k;k=1~n)、及び加算部706(加算部706k;k=1~n)を備える。上記の「n」は、同時に発音できる数に対応し、この例では32である。遅延部702は、第1パラメータに基づいて各音データに含まれる音情報に遅延処理を行う。増幅部704は、第2パラメータに基づく増幅率で、各音データに含まれる音情報を増幅させる。加算部706は、増幅された各音データに含まれる音情報を加算して第3音データを生成する。
【0041】
図7は、図6に示した一つの音像調整部700における遅延部702、増幅部704及び加算部706の構成の一例を示すブロック図である。一つの遅延部702は、複数の遅延器群720(遅延器群720-j;j=1~m)を備える。各遅延器群720は、遅延器(DLY)722(遅延器722-i;i=1~p)を備える。一つの増幅部704は、複数の増幅器群740(増幅器群740-j;j=1~m)を備える。各増幅器群740は、増幅器744(増幅器744-i;i=1~p)を備える。一つの加算部706は、複数の加算器760(加算器-j;j=1~m)を備える。上記の「m」は、電子楽器1に設けられるスピーカ60の数に対応しており、本実施形態では、電子楽器1に五つのスピーカ60-1、60-2、60-3、60-4、60-5が設けられているため、上記「m」は5である。つまり、遅延器群720-1~720-5、増幅器群740-1~740-5、及び加算器760-1~760-5はそれぞれ、スピーカ60-1、60-2、60-3、60-4、60-5に対応している。上記「p」は、一つの第1音データセットに含まれる音データの数に対応している。本実施形態では、一つの第1音データセットに、六つの音データA~Fが含まれているため、上記「p」は、6である。図示はしないが、各遅延器群720-2~720-5は、遅延器群720-1と同様に、六つの遅延器722を含む。同様に、各増幅器群740-2~740-5は、六つの増幅器744を含む。
【0042】
各遅延器群720には、音データ取得部82から出力された第1音データセットがそれぞれ入力される。一つの遅延器群720-1を例にすると、第1音データセットに含まれる音データA~Fは、第1発音位置情報に基づき、六つのチャンネルに分けられて遅延器群720-1の六つの遅延器722-1~722-6にそれぞれ入力される。遅延器群720-1は、スピーカ60-1に対応するものとする。
【0043】
各遅延器722-1~722-6には、パラメータ設定部102から取得した、音データA~Fのそれぞれに対応する第1パラメータに基づいて、遅延時間がそれぞれ設定される。ここで、第1パラメータは、例えば、各遅延器722-1~722-6に入力される各音データA~Fに対応する発音位置(発音位置A~F)とスピーカ60-1の位置との距離に応じて決定された第1パラメータである。
【0044】
遅延器722-1~722-6は、対応する音データA~Fに含まれる音情報のいずれかに設定された遅延時間をそれぞれ適用して、音データA~Fの発音タイミングをそれぞれ調整する。遅延時間が適用された音データA~Fは、増幅部704の増幅器群740-1にそれぞれ出力される。
【0045】
遅延器群720-1と同様に、遅延器群720-2~720-5にも音データA~Fを含む第1音データセットが入力される。遅延器群720-2~720-5は、入力された第1音データセットに含まれる音データA~Fのそれぞれに対応する第1パラメータに基づいて、音データA~Fに含まれる音情報の発音タイミングをそれぞれ調整し、増幅部704の増幅器群740-2~740-5に出力する。例えば、遅延器群720-2の各遅延器722に適用される第1パラメータは、各音データA~Fに対応する発音位置(発音位置A~F)とスピーカ60-2の位置との距離に応じて決定された第1パラメータである。同様に、遅延器群720-3~720-5の各遅延器722に適用される第1パラメータは、各音データA~Fに対応する発音位置(発音位置A~F)とスピーカ60-3~60-5それぞれの位置との距離に応じて決定された第1パラメータである。
【0046】
増幅器群740-1~740-5には、対応する遅延器群720-1~720-6から、遅延時間が適用された音データA~Fがそれぞれ入力される。図7に示すように、本実施形態では、増幅器群740-1には、遅延時間が適用された音データA~Fが遅延器群720-1から入力される。同様に、増幅器群740-2~740-5には、遅延時間が適用された音データA~Fが遅延器群720-2~720-5からそれぞれ入力される。
【0047】
一つの増幅器群740-1を例にすると、遅延器群720-1から出力された音データA~Fはそれぞれ、増幅器群740-1に含まれる増幅器744-1~744-6に入力される。増幅器群740-1は、スピーカ60-1に対応するものとする。
【0048】
増幅器744-1~744-6には、パラメータ設定部102から取得した、音データA~Fのそれぞれに対応する第2パラメータに基づいて、増幅率が設定される。ここで、第2パラメータは、例えば、各音データA~Fに対応する発音位置(発音位置A~F)とスピーカ60-1の位置との距離に応じて決定された第2パラメータである。
【0049】
増幅器744-1~744-6は、設定された増幅率で対応する音データA~Fに含まれる音情報のいずれかを増幅する。即ち、増幅器744-1~744-6は、音データA~Fの音量をそれぞれ調整する。
【0050】
増幅器群740-2~740-5にも遅延時間が適用された音データA~Fが対応する遅延器群720-2~720-5からそれぞれ入力される。増幅器群740-2~740-5は、増幅器群740-1と同様に、入力される音データA~Fのそれぞれに対応する第2パラメータに基づいて、音データA~Fの音量をそれぞれ調整する。例えば、増幅器群740-2の各増幅器744に適用される第2パラメータは、各音データA~Fに対応する発音位置(発音位置A~F)とスピーカ60-2の位置との距離に応じて決定された第2パラメータである。同様に、増幅器群740-3~740-5の各増幅器744に適用される第2パラメータは、各音データA~Fに対応する発音位置(発音位置A~F)とスピーカ60-3~60-5それぞれの位置との距離に応じて決定された第2パラメータである。
【0051】
増幅部704によって音量が調節された音データA~Fは、加算部706に出力される。加算部706の加算器760-1~760-5には、対応する増幅器群740-1~740-5から、遅延部702及び増幅部704によって音像が調整された音データA~Fがそれぞれ入力される。加算器760-1~760-5は、スピーカ60-1~60-5にそれぞれ対応している。
【0052】
加算器760-1がスピーカ60-1に対応する場合を例にすると、加算器760-1には、対応する増幅器群740-1から出力された音データA~Fが入力される。加算器760-1は、入力された音データA~Fの音情報を加算して生成された第3音データ1を生成する。ここで、第3音データ1は、スピーカ60-1に出力されるための音データである。
【0053】
同様に、加算器760-2~760-5には、対応する増幅器群740-2~740-5から出力された音データA~Fが入力される。加算器760-2~760-5はそれぞれ、入力された音データA~Fに含まれる音情報を加算して第3音データ2~5をそれぞれ生成する。ここで、第3音データ2~5は、スピーカ60-2~60-5にそれぞれ出力される音データである。つまり、加算部706は、スピーカ60の位置にそれぞれ対応する複数のチャンネル(本実施形態においては5チャンネル)の第3音データを生成する。加算部706は、生成された複数チャンネルの第3音データを第2音データセットとして波形調整部83に出力する。
【0054】
図2に示す波形調整部83は、再生音データ生成部100から出力された第2音データセットにおける各第3音データの波形を調整する。図8は、波形調整部83の機能構成の一例を説明するためのブロック図である。波形調整部83は、エンベロープ調整部802及び音量調整部804を含む。
【0055】
エンベロープ調整部802は、制御信号生成部81によって生成された制御信号に基づいて、第3音データのエンベロープを調整する。特に、第3音データが減衰するときのエンベロープが調整される。エンベロープの調整は、既存のエンベロープの制御方法を用いることができる。
【0056】
音量調整部804は、制御信号生成部81によって生成された制御信号に基づく増幅率で、第3音データを増幅させる。具体的には、音量調整部804は、ベロシティVに基づく増幅率で、第3音データを増幅させる。図示はしないが、音量調整部804は、複数の増幅器を含む。図2に示すように、増幅された第3音データを含む第2音データセットは、放音装置6に出力される。
【0057】
図2に示すように、音源80から出力された第2音データセットは、放音装置6における対応するスピーカ60に出力される。放音装置6に入力された第2音データセットに含まれる第3音データは、増幅器65によって所定の増幅率で増幅され、対応するスピーカ60から放音される。
【0058】
このように、所定の聴取位置を基準とした仮想楽器の発音位置と各スピーカ60の位置とに基づいて、音データの音像を調整することにより、電子楽器1において、仮想楽器を演奏した際の所定の聴取位置での音像を再現することができる。
【0059】
図9は、電子楽器1の音源80における再生音データ生成処理のフローを示すフローチャートである。
【0060】
音源80は、電子楽器1の鍵(実操作子)70への操作、つまり押鍵を検知すると、再生音データ生成処理を実行する。音源80は、第1検出部75及び第2検出部95からの検出信号(第1検出信号、第2検出信号)に基づき、制御信号を生成する(S902)。
【0061】
次に、音源80は、制御信号に基づき、複数の音データを含む第1音データセットを取得する(S904)。詳細には、制御信号のノート番号Noteに基づいて、音データ記憶部32から第1音データセットを選択して取得する。取得した第1音データセットに含まれる複数の音データにはそれぞれ音情報及び第1発音位置情報が含まれている。
【0062】
次に、音源80は、第1パラメータに基づく遅延時間、及び第2パラメータに基づく増幅率での増幅を第1音データセットに適用して、各音データの音像を調整する(S906)。
【0063】
音源80は、各スピーカ60に対応する、音像を調整した音情報を加算して生成された複数チャンネルの第3音データを生成する(S908)。これにより、音源80は、第3音データを生成する一連の処理を終了する。音源80は、電子楽器1の鍵70の押鍵を検知するごとにS902~S908の処理を実行する。
【0064】
図10は、電子楽器1の音源80におけるパラメータ設定処理のフローを示すフローチャートである。
【0065】
音源80は、操作部21を介してユーザから所定の聴取位置が設定されると、パラメータ設定処理を実行する。音源80は、所定の聴取位置が設定されると、設定された所定の聴取位置を基準とした各音データに対応する発音位置と再生要素との位置との関係に基づいて、第1パラメータ及び第2パラメータを設定する(S1002)。
【0066】
音源80は、設定された第1パラメータ及び第2パラメータを調整部104の音像調整部700に適用する(S1004)。詳細には、第1パラメータは、音像調整部700の遅延部702に適用される。また、第2パラメータは、音像調整部700の増幅部704に適用される。
【0067】
音源80は、操作部21を介してユーザから所定の聴取位置が設定されるごとに、S1002及びS1004の処理を実行して、所定の聴取位置を基準とする、各第1音データに対応する発音位置と再生要素との位置との関係に応じて第1パラメータと第2パラメータを設定する。
【0068】
[第2実施形態]
以上に述べた第1実施形態では、ユーザが電子楽器1の鍵(操作子)70を操作することなどにより生成される制御信号(演奏情報)に基づいて、第1音データセットに含まれる音データを処理して第3音データを生成している。しかしながら、第1音データセットから第3音データを生成する処理は、予め行われていてもよい。
【0069】
本実施形態では、スピーカ60の数に対応する複数のチャンネルの第3音データを含む第2音データセットが予め生成されている態様を説明する。本実施形態に係る電子楽器は、記憶部及び音源の構成を除いて、上述した第1実施形態に係る電子楽器1と同様である。そのため、以下では、本実施形態に係る記憶部及び音源の構成について、第1実施形態における記憶部30及び音源80とは異なる部分を主に説明し、第1実施形態と同一又は類似の構成については、重複する説明を省略する。
【0070】
[音源の構成]
図11は、本実施形態における音源80Aの機能構成を説明するブロック図である。音源80Aは、制御信号生成部81、音データ取得部82、再生音データ生成部100A、及び波形調整部83Aを備える。図12は、再生音データ生成部100Aの機能構成を説明するブロック図である。再生音データ生成部100Aは、パラメータ設定部102、調整部104、発音位置情報設定部106、及び出力先設定部108を含む。
【0071】
本実施形態において、電子楽器を用いて演奏を行う前に、ユーザは、所望の聴取位置を予め操作部21を介して設定する。操作部21は、設定された聴取位置を示す情報を再生音データ生成部100Aの発音位置情報設定部106に伝達する。
【0072】
発音位置情報設定部106は、操作部21から、ユーザによって設定された聴取位置を示す情報を取得する。さらに、発音位置情報設定部106は、記憶部30Aの音データ記憶部32Aから第1音データセットを取得する。ここで、発音位置情報設定部106は、音データ記憶部32Aに記憶された全ての第1音データセットを取得する。尚、音データ記憶部32Aは、第1実施形態における音データ記憶部32と同様に、一つの仮想操作子に対して、2つ以上の第1音データセットを記憶してもよい。
【0073】
第1音データセットは、第1音データ及び第2音データを含む複数の音データを含み、各音データは、音情報及び第1発音位置情報を含む。第1発音位置情報は、予め設定された発音位置情報である。この発音位置情報は、任意の聴取位置を基準とした音の発音位置(第1発音位置)を示す情報である。
【0074】
発音位置情報設定部106は、ユーザにより設定された聴取位置を第1発音位置情報に反映させて第2発音位置情報を設定する。つまり、第1発音位置情報に対応する発音位置の基準を、予め設定された任意の聴取位置から、ユーザによって設定された聴取位置に変更し、第1発音位置情報に変更後の聴取位置を基準として適用し、第2発音位置情報を設定する。ユーザにより設定された聴取位置が予め設定された任意の聴取位置と同一である場合、発音位置情報設定部106は、第1発音位置情報を第2発音位置情報として用いる。
【0075】
また、各音データは音情報のみを含み、発音位置情報は省略されてもよい。この場合、発音位置情報設定部106は、ユーザにより設定された聴取位置に基づく発音位置情報を各音データに付与する。
【0076】
発音位置情報設定部106は、音情報及び第2発音位置情報をそれぞれ含む音データを複数含む第1音データセットを調整部104に出力する。
【0077】
再生音データ生成部100Aにおける、パラメータ設定部102、調整部104の機能は、上述した第1実施形態における再生音データ生成部100と同様である。
【0078】
即ち、パラメータ設定部102は、操作部21から、ユーザによって設定された聴取位置を示す情報を取得する。パラメータ設定部102は、取得した聴取位置に基づいて、各音データの第2発音位置情報に対応する発音位置とスピーカ60の位置(再生要素位置)との関係に基づき音像を調整するための第1パラメータ及び第2パラメータを設定する。
【0079】
パラメータ設定部102は、設定された第1パラメータ及び第2パラメータを、調整部104に出力する。第1パラメータ及び第2パラメータは、調整部104の遅延部702及び増幅部704に適用される。調整部104は、第1実施形態と同様に、音データに含まれる音情報に遅延処理、増幅処理及び加算処理を行い、スピーカ60の数に対応する複数チャンネルの第3音データを含む第2音データセットを生成する。調整部104は、生成した第2音データセットを出力先設定部108に出力する。
【0080】
出力先設定部108は、第2音データセットに含まれる第3音データに対応する出力先情報を付与する。ここで、出力先情報とは、第2音データセットが出力されるスピーカ60(再生要素)を示す情報である。出力先設定部108は、第1音データセットから第3音データを生成する際に適用された第1パラメータ及び第2パラメータを決定するために用いられたスピーカ60の位置(再生要素位置)に基づいて、第2音データセットに含まれる第3音データに出力先情報を付与する。出力先設定部108は、出力先情報が付与された、スピーカ60の数に対応する複数チャンネルの第3音データを含む第2音データセットを音データ記憶部32Aに出力する。音データ記憶部32Aは、調整部104から取得した第2音データセットを格納する。
【0081】
このように、電子楽器を用いて演奏を行う前に、ユーザによって所望の聴取位置を予め操作部21を介して設定することにより、第1音データセットから第2音データセットが予め生成されて、音データ記憶部32Aに格納されることができる。音データ取得部82は、制御信号生成部81からの制御信号に応じて、記憶部30Aの音データ記憶部32Aから対応する第2音データセットを選択して取得する。
【0082】
音データ取得部82によって取得された第2音データセットは、波形調整部83Aに出力される。波形調整部83Aは、第1実施形態における波形調整部83と同様に、第2音データセットにおける各第3音データのエンベロープ及び音量を制御信号に基づき調整する。
【0083】
[変形例]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の一実施形態は、以下のような形態に変形することもできる。以下に述べる変形例は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わされて本発明の一実施形態に適用されてもよい。
【0084】
(1)上述した実施形態では、仮想楽器(図4に示したグランドピアノ)の各発音位置は固定されているが、各発音位置は、ユーザの指示に基づき変更されてもよい、例えば、各発音位置は、所定の聴取位置を基準にして、所定の倍率で拡大又は縮小されてもよい。この場合、発音情報は、変更された発音位置に基づき設定される。
【0085】
(2)上述した実施形態では、図4に示したグランドピアノを仮想楽器として想定した。しかしながら、仮想楽器はグランドピアノに限定されない。例えば、仮想楽器は、バイオリンなどの弦楽器であってもよく、サクソフォンなどの管楽器であってもよい。
【0086】
(3)上述した実施形態では、電子楽器1に五つのスピーカ60が設置されている。しかしながら、スピーカ60の数は、五つに限定されるわけではなく、二つ以上であればよい。また、スピーカは、電子楽器1の外部に設置されていてもよい。この場合、電子楽器1は、音源80において生成した再生音データを無線又は有線で外部のスピーカ装置に送信する。
【0087】
(4)上述した実施形態では、再生音データが複数のスピーカ60から放音される。しかしながら、再生音データは、ユーザが装着するヘッドホンから放音されてもよい。この場合、再生要素位置は、ヘッドホンを装着するユーザの両耳に接する位置である。また、再生音データが、ユーザが装着するヘッドホンから放音される場合、音像調整部700の遅延部702に設定される遅延時間及び増幅部704に設定される増幅率は、頭部伝達関数に基づき決定されてもよい。
【0088】
(5)上述した実施形態では、音源80、80Aの再生音データ生成部100、100Aにおいて、第1パラメータ及び第2パラメータに基づいて、第1音データセットに含まれる音データA~Fに遅延処理、増幅処理、及び加算処理を行うことにより、スピーカ60の数に対応する複数のチャンネルの第3音データを生成することを説明した。しかしながら第1音データセットに含まれる各音データから再生用の第3音データを生成するために使用するパラメータは、遅延処理及び増幅処理に使用される2つのパラメータ(第1パラメータ及び第2パラメータ)に限定されない。例えば、リバーブ、イコライザ、及びコンプレッサなどに対応するパラメータが用いられてもよい。また、再生音データがヘッドホンで再生される場合、頭部伝達関数に基づくパラメータが用いられてもよい。パラメータの決定には、例えば、VBAP(Vector-Based Amplitude Panning)、DBAP(Distance-Based Amplitude Panning)、LBAP(Layer-Based Amplitude Panning)、SPCAP(Speaker-Placement Correction Amplitude Panning)、及びKNN(K Nearest Neighbour)などを使用してもよい。
【0089】
(6)上述した実施形態では、仮想楽器の所定の操作子(仮想操作子)の押鍵に対応する第1音データセットは、該所定の操作子に対応する弦の振動音である打弦音データ(第2音データ)、及び該所定の操作子を除く仮想楽器の各構成からの発音である複数の共鳴音データ(第1音データ)を含む複数の音データを含む。しかしながら、互いに異なる二つ仮想操作子の押鍵に対応する各第1音データセットにおいて、共鳴音データ(第1音データ)に含まれる音情報は共通であってもよい。例えば、第1仮想操作子の押鍵に対応する第1音データセットにおける第1音データの音情報は、第1仮想操作子とは異なる第2仮想操作子の押鍵に対応する別の第1音データセットにおける第1音データの音情報と同一であってもよい。また、第1仮想操作子に対応する第1音データセットにおける第2音データの音情報は、第2仮想操作子の押鍵に対応する別の第1音データセットにおける第2音データの音情報と異なっていてもよい。
【0090】
(7)上述した実施形態では、第1音データセットに含まれる複数の音データが、実際の楽器(アコースティックピアノ)の音を録音したサンプリングデータであってもよいことを説明した。しかしながら、音データは、実際の楽器の音を録音したサンプリングデータを加工したデータであってもよい。
【0091】
(8)上述した実施形態では、各音データに対応する発音位置は、所定の聴取位置に基づいて決定された。しかしながら、各音データに割り当てられる発音情報は、音データ取得部82により音データセットが取得された後に割り当てられてもよい。
【0092】
(9)上述した実施形態では、音像調整部700において、各音データの音像は、第1パラメータに基づく遅延時間が設定された遅延器、及び第2パラメータに基づく増幅率が設定された増幅器により調整された。しかしながら、音データの音像を調整する方法はこれに限定されるわけではない。例えば、フィルタなどを用いて音像を調整してもよい。
【0093】
(10)上述した実施形態では、パラメータ設定部102は、各音データの発音位置と各スピーカ60の位置との関係に基づいて、各音データに対応する第1パラメータ及び第2パラメータを決定している。各音データの発音位置と各スピーカ60の位置との関係は、所定の聴取位置と、各スピーカ60の位置(再生要素位置)を定めるための予め決められた基準点とを座標軸上で一致させた場合の、各音データに対応する発音位置と各スピーカ60の位置(再生要素位置)との距離である。しかしながら、各スピーカ60の位置(再生要素位置)を定めるための基準点は、可変であってもよい。各スピーカ60の位置(再生要素位置)を定めるための基準点はユーザが操作部21を介して設定してもよい。また、カメラなどを用いてユーザが存在する空間の画像を取得し、得られた画像を解析することにより、ユーザの位置を特定し、特定されたユーザの位置を各スピーカ60の位置(再生要素位置)を定めるための基準点として用いてもよい。
【0094】
(11)所定の聴取位置と、各スピーカ60の位置(再生要素位置)を定めるための基準点とを座標軸上で一致させた場合、所定の聴取位置を基準とした、音データの発音位置情報(第1発音位置情報)と最も近い再生要素位置に対応するスピーカ60に、前記発音位置情報に対応する音データから生成された第3音データを供給してもよい。
【0095】
(12)上述した実施形態では、第1音データセットには、第1音データ及び第2音データを含む複数の音データが含まれている。しかしながら、第1音データセットに含まれる音データは1つであってもよい。つまり、所定の仮想操作子の押鍵に対応する1つの音データから、スピーカの数に対応する複数チャンネルの第3音データが生成されてもよい。
【0096】
(13)上述した実施形態では、ペダル、特にダンパペダル91のオン又はオフ応じて、一つの仮想操作子に対応する2つ以上の第1音データセットから所定の第1音データセットを選択して取得することを説明した。ここで、一つの仮想操作子に対応する2つ以上の第1音データセットは、ダンパペダル91に対する操作内容(押込量)に応じた第1音データセットを含んでもよい。例えば、一つの仮想操作子に対応する2つ以上の第1音データセットは、ダンパペダル91がレスト位置(ダンパペダル91がオフ)である場合に対応する第1音データセット、ダンパペダル91がエンド位置(ダンパペダル91がオン)である場合に対応する第1音データセット、及びダンパペダル91がハーフペダルである場合に対応する第1音データセットを含んでもよい。この場合、第2検出部95は、ダンパペダル91のオン/オフだけではなく、ペダルの押込量を検出する。
【0097】
(14)上述した実施形態では、ペダル、特にダンパペダル91のオン又はオフ応じて、一つの仮想操作子に対応する2つ以上の第1音データセットから所定の第1音データセットを選択して取得することを説明した。しかしながら、音データ記憶部32から第1音データセットを取得する際、ペダルのオン/オフは考慮されなくてもよい。即ち、一つの仮想操作子に対応する第1音データセットは一つであってもよい。この場合、第2検出部95は省略されてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1・・・電子楽器、6・・・放音装置、10・・・制御部、21・・・操作部、30・・・記憶部、32・・・音データ記憶部、60・・・スピーカ、65・・・増幅器、70・・・鍵、75・・・検出部、80・・・音源、81・・・制御信号生成部、82・・・音データ取得部、83・・・波形調整部、100・・・再生音データ生成部、102・・・パラメータ設定部、104・・・調整部、700・・・音像調整部、702・・・遅延部、722・・・遅延器、704・・・増幅部、744・・・増幅器、706・・・加算部、766・・・加算器、802・・・エンベロープ調整部、804・・・音量調整部

図1
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図12