(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125936
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】タイヤ用スチールコード及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/00 20060101AFI20240911BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20240911BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20240911BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20240911BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B60C9/00 M
B60C9/18 K
B60C9/18 G
B60C9/20 E
B60C9/22 G
B60C9/22 F
D07B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034080
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】尾花 直彦
【テーマコード(参考)】
3B153
3D131
【Fターム(参考)】
3B153AA08
3B153CC52
3B153FF16
3B153GG05
3D131AA39
3D131AA44
3D131AA47
3D131AA48
3D131BA02
3D131BA20
3D131BB03
3D131BC31
3D131BC34
3D131BC51
3D131DA34
3D131DA52
(57)【要約】
【課題】本発明は、空気入りタイヤの径成長抑制効果と耐切れ性とを両立させた、タイヤ用スチールコード、及び、径成長の抑制と耐久性とを両立させた、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のタイヤ用スチールコードは、複数本のフィラメントを有し、全ての前記フィラメントについて、コード径Aに対するフィラメント径Bの比B/Aが0.13以下であり、前記スチールコードからなる解剖コードの変曲点は、歪0.3~0.7%、且つ、荷重100~350Nの範囲内にあり、前記解剖コードの高歪領域における弾性率E1は、30~80GPaである。本発明の空気入りタイヤは、前記タイヤ用スチールコードのゴム引き層からなる1層以上の周方向ベルト層を備え、前記タイヤ用スチールコードは、タイヤ周方向に延び、又は、タイヤ周方向に対して5°以下の傾斜角度で傾斜して延びる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のフィラメントを有する、タイヤ用スチールコードであって、
全ての前記フィラメントについて、コード径Aに対するフィラメント径Bの比B/Aが0.13以下であり、
前記スチールコードからなる解剖コードの変曲点は、歪0.3~0.7%、且つ、荷重100~350Nの範囲内にあり、
前記解剖コードの高歪領域における弾性率E1は、30~80GPaであることを特徴とする、タイヤ用スチールコード。
【請求項2】
前記解剖コードの高歪領域における弾性率E1の、前記解剖コードの低歪領域における弾性率E2に対する比E1/E2は、1.1~3.0である、請求項1に記載のタイヤ用スチールコード。
【請求項3】
前記解剖コードの低歪領域の弾性率E2は、15~60GPaである、請求項2に記載のタイヤ用スチールコード。
【請求項4】
前記複数本のフィラメントを撚り合わせてなるストランドを、さらに撚り合わせてなり、ストランド数が3~5本である、請求項1又は2に記載のタイヤ用スチールコード。
【請求項5】
前記ストランドの構造は、1+N構造であり、
Nは、4~7の整数であり、
前記フィラメントのフィラメント径は、0.3mm以下である、請求項4に記載のタイヤ用スチールコード。
【請求項6】
層間で互いに交差して延びる補強コードのゴム引き層からなる2層以上の傾斜ベルト層と、
請求項1又は2に記載のタイヤ用スチールコードのゴム引き層からなる1層以上の周方向ベルト層と、を備え、
前記周方向ベルト層は、前記傾斜ベルト層に隣接して配置され、
前記タイヤ用スチールコードは、タイヤ周方向に延び、又は、タイヤ周方向に対して5°以下の傾斜角度で傾斜して延びることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用スチールコード及び空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの径成長を抑制するために周方向ベルト層を配置することが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-090509号公報
【特許文献2】特開2011-178373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、周方向ベルト層のタイヤ用スチールコードは、タガの作用を果たすことで空気入りタイヤの径成長を抑制する一方で、走行中に大きな負担を負うため、コードの繰り返し引張変動による螺旋フィラメントの収縮曲げ変形に起因するコードの切れが発生しやすくなる。このため、空気入りタイヤの径成長抑制効果のみならず、耐切れ性にも優れるタイヤ用スチールコードが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、空気入りタイヤの径成長抑制効果と耐切れ性とを両立させた、タイヤ用スチールコード、及び、径成長の抑制と耐久性とを両立させた、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)複数本のフィラメントを有する、タイヤ用スチールコードであって、
全ての前記フィラメントについて、コード径Aに対するフィラメント径Bの比B/Aが0.13以下であり、
前記スチールコードからなる解剖コードの変曲点は、歪0.3~0.7%、且つ、荷重100~350Nの範囲内にあり、
前記解剖コードの高歪領域における弾性率E1は、30~80GPaであることを特徴とする、タイヤ用スチールコード。
ここで、「変曲点」とは、解剖コードの荷重-歪曲線において、0.25%歪の接線と1.0%歪の接線との交点をいうものとする。
また、「解剖コード」とは、加硫済みの空気入りタイヤを解剖して、取り出したゴム付きのコードをいう。
また、「高歪領域における弾性率」とは、解剖コードの荷重-歪曲線上、1.0%歪における当該曲線の接線の傾きを、コードを構成するフィラメントの断面積の総和で除した値をいう。
【0007】
(2)前記解剖コードの高歪領域における弾性率E1の、前記解剖コードの低歪領域における弾性率E2に対する比E1/E2は、1.1~3.0である、上記(1)に記載のタイヤ用スチールコード。
ここで、「低歪領域における弾性率」とは、解剖コードの荷重-歪曲線上、0.25%歪における当該曲線の接線の傾きを、コードを構成するフィラメントの断面積の総和で除した値をいう。
【0008】
(3)前記解剖コードの低歪領域の弾性率E2は、15~60GPaである、上記(2)に記載のタイヤ用スチールコード。
【0009】
(4)前記複数本のフィラメントを撚り合わせてなるストランドを、さらに撚り合わせてなり、ストランド数が3~5本である、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載のタイヤ用スチールコード。
【0010】
(5)前記ストランドの構造は、1+N構造であり、
Nは、4~7の整数であり、
前記フィラメントのフィラメント径は、0.3mm以下である、上記(4)に記載のタイヤ用スチールコード。
【0011】
(6)層間で互いに交差して延びる補強コードのゴム引き層からなる2層以上の傾斜ベルト層と、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載のタイヤ用スチールコードのゴム引き層からなる1層以上の周方向ベルト層と、を備え、
前記周方向ベルト層は、前記傾斜ベルト層に隣接して配置され、
前記タイヤ用スチールコードは、タイヤ周方向に延び、又は、タイヤ周方向に対して5°以下の傾斜角度で傾斜して延びることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、空気入りタイヤの径成長抑制効果と耐切れ性とを両立させた、タイヤ用スチールコード、及び、径成長の抑制と耐久性とを両立させた、空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるタイヤ用スチールコードの解剖コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかるタイヤ用スチールコードの生コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)の一例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかるタイヤ用スチールコードの断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
【
図7】実施例における各タイヤ用スチールコードの解剖コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)を示す図である。
【
図8】実施例における各タイヤ用スチールコードの生コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0015】
<タイヤ用スチールコード>
[解剖コードの物性]
図1は、本発明の一実施形態にかかるタイヤ用スチールコードの解剖コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)の一例を示す図である。
図1において、一点鎖線は、0.25%歪の接線であり、破線は、1.0%歪の接線であり、変曲点Pは、前記の定義の通り、これらの接線の交点である。前記の定義の通り、弾性率E1は、破線の傾きを、コードを構成するフィラメントの断面積の総和で除した値であり、弾性率E2は、一点鎖線の傾きを、コードを構成するフィラメントの断面積の総和で除した値である。
【0016】
本実施形態のタイヤ用スチールコード(以下、単にコードとも称する)は、解剖コードの高歪領域における弾性率E1が30~80GPaである。また、解剖コードの低歪領域の弾性率E2は、15~60GPaである。
【0017】
解剖コードの高歪領域における弾性率E1が80GPa超だと、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)において、本実施形態のタイヤ用スチールコードが傾斜ベルト層に隣接する周方向ベルト層のコードとして用いられた場合(以下、単に「タイヤに使用した際」とも称する)に、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差が大きくなって当該領域の歪も大きくなり、タイヤ用スチールコード耐切れ性が低下してしまう。一方で、解剖コードの高歪領域における弾性率E1が30GPa未満だと、それと連動して低歪領域における弾性率が低下してしまい、タイヤに使用した際に、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができなくなる。同様の理由により、解剖コードの高歪領域における弾性率E1は、40~70GPaであることが好ましい。
【0018】
また、解剖コードの低歪領域の弾性率E2が15GPa以上であることにより、タイヤに使用した際に、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができる。一方で、解剖コードの低歪領域の弾性率E2が60GPa以下であることにより、解剖コードの高歪領域の弾性率が所望の範囲内となるように設定することができる。同様の理由により、解剖コードの低歪領域の弾性率E2は、25~60GPaであることがさらに好ましい。
【0019】
解剖コードの高歪領域における弾性率E1の、解剖コードの低歪領域における弾性率E2に対する比E1/E2は、1.1~3.0であることが好ましい。比E1/E2が1.1以上であることにより、弾性率E1に対して弾性率E2を適度に大きくして、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができる。一方で、比E1/E2が3.0以下であることにより、弾性率E2に対して弾性率E1を適度に小さくして、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差を低減して当該領域の歪を低減し、タイヤ用スチールコード耐切れ性を向上させ得る。同様の理由により、上記比E1/E2は、1.1~2.5であることがさらに好ましい。
【0020】
ここで、本実施形態では、解剖コードの変曲点Pは、歪0.3~0.7%、且つ、荷重100~350Nの範囲内にある。変曲点Pが、歪0.3%以上0.7%以下の場合、荷重100N未満の範囲だと、低荷重時の弾性率が低く、内圧付与時にタイヤの径成長を十分に抑制することができない。一方で、変曲点Pが、歪0.3%以上0.7%以下の場合、荷重350N超の範囲だと、高荷重時の弾性率が高く、タイヤに使用した際に、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差により、当該領域の歪が大きくなって、タイヤ用スチールコード耐切れ性を十分に得ることができない。また、変曲点Pが、荷重100N以上350N以下の場合、歪0.3%未満の範囲だと高荷重時の弾性率が高く、タイヤに使用した際に、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差により、当該領域の歪が大きくなって、タイヤ用スチールコード耐切れ性を十分に得ることができない。一方で、変曲点Pが、荷重100N以上350N以下の場合、歪0.7%超の範囲だと低歪領域の弾性率が低下してしまい、タイヤに使用した際に、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができなくなる。このような観点から、解剖コードの変曲点Pは、歪0.3~0.6%、且つ、荷重100~320Nの範囲内にあることがより好ましい。
なお、解剖コードは、歪0.8%における弾性率が25~75GPaであることが好ましい。また、解剖コードは、歪1.2%における弾性率が35~80GPaであることが好ましい。
【0021】
[生コードの物性]
解剖コードにおける前記の各物性を得るために、生コードの物性は、以下のようにすることができる。
図2は、本発明の一実施形態にかかるタイヤ用スチールコードの生コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)の一例を示す図である。
【0022】
生コードの高歪領域の弾性率E3は、30~80GPaであることが好ましく、35~75GPaであることがより好ましい。ここで、「生コードの高歪領域の弾性率」とは、生コードの荷重-歪曲線において荷重が200Nの接線の傾きを、コードを構成するフィラメントの断面積の総和で除した値をいう。また、生コードの低歪領域の弾性率E4が1~5GPaであることが好ましく、1~3GPaであることがより好ましい。ここで、「生コードの低歪領域の弾性率」とは、生コードの荷重-歪曲線において荷重が10Nの接線の傾きを、コードを構成するフィラメントの断面積の総和で除した値をいう。生コードの低歪領域の弾性率が1~5GPaであることにより、ベルト成型、タイヤ加硫の工程において、適正なタイヤを製造することができ、加硫後のタイヤのバックリングの発生も有効に抑制することができる。
【0023】
生コードの高歪領域の弾性率E3の、生コードの低歪領域の弾性率E4に対する比E3/E4は、20~50であることが好ましく、25~45であることがより好ましい。
【0024】
生コードの変曲点は、歪1.5~3.0%、荷重30~80Nの範囲内にあることが好ましく、歪1.5~3.0%、荷重30~70Nの範囲内にあることがより好ましい。ここで、「生コードの変曲点」とは、生コードの荷重―歪曲線における、10N荷重での接線と200N荷重での接線との交点をいう。
【0025】
[タイヤ用スチールコードの構造]
[[コード構造]]
図3は、本発明の一実施形態にかかるタイヤ用スチールコードの断面図である。
図3に示すように、本例では、コード10は、複数のシースストランド11からなる(コアストランドは有していない)。各シースストランド11は、1本のコアフィラメント12の周りにN本(図示例では6本)のシースフィラメント13が配置された、いわゆる「1+N構造」である。Nは、4~7の整数であることが好ましい。このように、本実施形態のコード10は、複数本のフィラメント(図示例では1本のコアフィラメント12及び6本のシースフィラメント13)を撚り合わせてなる(図示例で5つの)ストランド(シースストランド11)を、さらに撚り合わせてなる、複撚り構造である。ストランド数は、3~5本であることが好ましい。ストランド数を3本以上とすることにより、後述のように、フィラメント径を比較的小さくしても周方向ベルト層としての強度を確保することができ、一方で、ストランド数を5本以下とすることで、ストランドの落ち込みの発生を抑制し、撚り性状を安定にすることができる。また、コアフィラメント12を1本とすることにより、コアフィラメント12とシースフィラメント13の撚り縮み量の差に起因する撚り不良の発生を抑制することができる。また、シースフィラメント13を4本以上とすることにより、シースフィラメント間の隙間が大きくならないようにして撚り形状を安定させることができ、一方で、シースフィラメント13を7本以下とすることにより、ゴムが浸入するための充分な隙間を確保することができる。また、コアストランドを設けないことで、コード10をタイヤに用いる際に、コード10の中心部の空間がゴムで満たされてストランド間の締め付け応力が分散され、接触部となるシースフィラメント13の先行破断が抑制される結果、良好なスチールコード強力を得ることができる。なお、ストランドの撚り方向とコードの撚り方向とは、同一方向であることが好ましい。
【0026】
[[コード径及びフィラメント径]]
本実施形態では、全てのフィラメント(本例では、1本のコアフィラメント12及び6本のシースフィラメント13)について、コード径Aに対するフィラメント径Bの比B/Aが0.13以下(好ましくは0.11以下)である。比B/Aが0.13超だと、コード径Aに対してフィラメント径Bが大きくなり、コードの引張により生じるフィラメントの曲げ変形によるフィラメントの破断が生じやすくなってしまう。一方で、フィラメント径Bが小さすぎると十分なコード強力を得られなくなるため、比B/Aは、0.09以上とすることが好ましい。
本実施形態のコードのコード径Aは、1.5~2.2mmとすることが好ましく、1.9~2.2mmとすることがより好ましい。コード径Aを1.5mm以上(より好ましくは1.9mm以上)とすることにより、タイヤに使用した際に、周方向ベルト層としての強度を確保することができ、一方で、2.2mm以下とすることにより、タイヤに使用した際に、タイヤの軽量化を図ることができる。
フィラメントのフィラメント径Bは、0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下であることがより好ましい。フィラメント径Bを0.3mm以下とすることにより、コードの引張により生じるフィラメントの曲げ変形によるフィラメントの破断を抑制することができる。一方で、フィラメント径Bが小さすぎると十分なコード強力を得られなくなるため、フィラメント径Bは、0.15mm以上であることが好ましい。
コアフィラメント12のフィラメント径B12の、シースフィラメント13のフィラメント径B13に対する比B12/B13は、1.10~1.16とすることが好ましい。比B12/B13を1.16以下とすることにより、シースフィラメントの配置に偏りが生じないようにしてコードの撚り性状を均一にすることができ、一方で、比B12/B13を1.10以上とすることにより、ゴムが浸入するための充分な隙間を確保することができるからである。
【0027】
[[撚り角度]]
シースストランド11のコード軸に対する撚り角度は、15.0~25.0°とすることが好ましい。なお、撚り角度とは、スチールコードの長手方向に対してストランドのらせん軸がなす角度であり、コードの長手方向における平均値とする。撚り角度を15.0°以上とすることにより、生コード及び解剖コードの高歪領域の弾性率を上限値以下に設定することができ、一方で、25.0°以下とすることにより、撚り性状を安定化することができるからである。
【0028】
[フィラメントの材質]
本実施形態のコードにおいて、フィラメントの材質は、特に限定されないものの、例えば炭素成分が0.80質量%以上である高炭素鋼であることが好ましい。フィラメントの素材を高硬度である炭素成分が0.80質量%以上の高炭素鋼とすることで、十分なコード強力を得ることができる。一方で、耐疲労性の観点からは、炭素成分が1.5%以下であることが好ましい。
【0029】
[調整方法]
解剖コードの高歪領域における弾性率E1を例えば30~80GPaの範囲とし、且つ、解剖コードの低歪領域の弾性率E2を例えば15~60GPaの範囲とするためには、例えば、以下のようなコード構造とすることにより調整を行うことができる。
すなわち、解剖コードの高歪領域における弾性率E1を上記のような低めの範囲に調整するには、コアストランドを有しない、上記の複数本のフィラメントを撚り合わせてなるストランドをさらに撚り合わせてなるコードを用いることができる。併せて、フィラメントの径、ストランド数、撚り角度、コード径等を調整すること等によりできる。また、解剖コードの低歪領域の弾性率E2は、上記に加えて、タイヤ製造時の拡張率に応じて決定することができる。
【0030】
[作用効果(タイヤ用スチールコード)]
前記の通り、変曲点Pが、歪0.3%以上0.7%以下の場合、荷重100N未満の範囲だと、低荷重時の弾性率が低く、内圧付与時にタイヤの径成長を十分に抑制することができない。一方で、変曲点Pが、歪0.3%以上0.7%以下の場合、荷重350N超の範囲だと、高荷重時の弾性率が高く、タイヤに使用した際に、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差により、当該領域の歪が大きくなって、タイヤ用スチールコード耐切れ性を十分に得ることができない。
また、前記の通り、変曲点Pが、荷重100N以上350N以下の場合、歪0.3%未満の範囲だと高荷重時の弾性率が高く、タイヤに使用した際に、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差により、当該領域の歪が大きくなって、タイヤ用スチールコード耐切れ性を十分に得ることができない。一方で、変曲点Pが、荷重100N以上350N以下の場合、歪0.7%超の範囲だと低歪領域の弾性率が低下してしまい、タイヤに使用した際に、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができなくなる。
また、前記の通り、解剖コードの高歪領域における弾性率E1が80GPa超だと、タイヤに使用した際に、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差が大きくなって当該領域の歪も大きくなり、タイヤ用スチールコード耐切れ性が低下してしまう。また、前記の通り、解剖コードの高歪領域における弾性率E1が30GPa未満だと、それと連動して低歪領域における弾性率が低下してしまい、タイヤに使用した際に、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができなくなる。
また、前記の通り、比B/Aが0.13超だと、コード径Aに対してフィラメント径Bが大きくなり、コードの引張により生じるフィラメントの曲げ変形によるフィラメントの破断が生じやすくなってしまう。
このようなことから、本実施形態のタイヤ用スチールコードは、全てのフィラメントについて、コード径Aに対するフィラメント径Bの比B/Aが0.13以下であり、スチールコードからなる解剖コードの変曲点は、歪0.3~0.7%、且つ、荷重100~350Nの範囲内にあり、解剖コードの高歪領域における弾性率E1は、30~80GPaである。
本実施形態のタイヤ用スチールコードによれば、空気入りタイヤの径成長抑制効果と耐切れ性とを両立させることができる。
【0031】
ここで、前記の通り、解剖コードの高歪領域における弾性率E1の、解剖コードの低歪領域における弾性率E2に対する比E1/E2は、1.1~3.0であることが好ましい。前記の通り、比E1/E2が1.1以上であることにより、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができ、一方で、比E1/E2が3.0以下であることにより、周方向ベルト層と傾斜ベルト層との剛性段差を低減して当該領域の歪も低減し、タイヤ用スチールコード耐切れ性を向上させ得るからである。
【0032】
また、前記の通り、本実施形態のタイヤ用スチールコードでは、解剖コードの低歪領域の弾性率E2は、15~60GPaであることが好ましい。前記の通り、解剖コードの低歪領域の弾性率E2が15GPa以上であることにより、内圧付与時のタイヤの径成長を有効に抑制することができ、一方で、解剖コードの低歪領域の弾性率E2が60GPa以下であることにより、解剖コードの高歪領域の弾性率が所望の範囲内となるように設定することができるからである。
【0033】
また、前記の通り、本実施形態のタイヤ用スチールコードでは、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるストランドを、さらに撚り合わせてなり、ストランド数が3~5本であることが好ましい。解剖コードの高歪領域における弾性率E1を適度に低くして、コード耐切れ性を向上させることができるからである。また、ストランド数を3本以上とすることにより、フィラメント径を比較的小さくしても周方向ベルト層としての強度を確保することができ、一方で、ストランド数を5本以下とすることで、ストランドの落ち込みが発生を抑制し、撚り性状を安定にすることができるからである。
【0034】
また、前記の通り、本実施形態のタイヤ用スチールコードでは、ストランドの構造は、1+N構造であり、Nは、4~7の整数であり、フィラメントのフィラメント径は、0.3mm以下であることが好ましい。前記の通り、コアフィラメント12を1本とすることにより、コアフィラメント12とシースフィラメント13の撚り縮み量の差に起因するより不良の発生を抑制することができ、また、シースフィラメント13を4本以上とすることにより、シースフィラメント間の隙間が大きくならないようにして撚り形状を安定させることができ、一方で、シースフィラメント13を7本以下とすることにより、ゴムが浸入するための充分な隙間を確保することができるからである。また、コアストランドを設けないことで、コード10をタイヤに用いる際に、コード10の中心部の空間がゴムで満たされてストランド間の締め付け応力が分散され、接触部となるシースフィラメント13の先行破断が抑制される結果、良好なスチールコード強力を得ることができるからである。また、フィラメントのフィラメント径を0.3mm以下とすることにより、コードの引張により生じるフィラメントの曲げ変形によるフィラメントの破断を抑制することができるからである。
【0035】
<空気入りタイヤ>
図4は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図4では、タイヤ赤道面CLを境界とするタイヤ幅方向の一方の半部のみを示しているが、他方の半部についても同様の構成である。
【0036】
図4に示すように、本実施形態のタイヤ1は、一対のビード部2と、各々がビード部2に連なる一対のサイドウォール部3と、一対のサイドウォール部3に連なるトレッド部4と、を備えている。また、このタイヤ1は、一対のビード部2間にトロイダル状に跨るカーカス5と、カーカス5のクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された補強層6と、をさらに備えている。
【0037】
図示例では、一対のビード部2の各々には、ビードコア2aが埋設されており、ビードコア2aのタイヤ径方向外側には、ビードフィラ2bが配置されている。
【0038】
また、図示例では、カーカス5は、1枚以上のカーカスプライからなる。また、カーカス5は、一対のビード部2間をトロイダル状に跨って延びるカーカス本体部5aと、該カーカス本体部5bから延びてビードコア2a周りに巻き付けられてなるカーカス巻き付け部2bとからなる。また、図示例では、ビードコア2aの周りであって、カーカス巻き付け部5bの外周に、ワイヤーチェーファー7が配置されている。
【0039】
補強層(ベルト)6は、図示例では、5層の補強層6a~6eからなる。図示例では、ベルト層6aは、タイヤ周方向に対して略90°の傾斜角度で傾斜して延びる補強コードのゴム引き層からなる。ベルト層6bは、タイヤ周方向に延び、又は、タイヤ周方向に対して5°以下の傾斜角度で傾斜して延びる補強コードからなる。本実施形態の空気入りタイヤでは、前記の実施形態のタイヤ用スチールコードを、ベルト層6bの補強コードに用いている。ベルト層6c、6dは、層間で互いに交差して延び、タイヤ周方向に対して例えば15°~50°の傾斜角度で傾斜して延びる補強コードのゴム引き層からなる、傾斜ベルト層である。傾斜ベルト層のベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度を15°以上とすることにより、耐摩耗性をより一層向上させることができ、一方で、50°以下とすることにより、周方向ベルト層の耐久性及びタイヤの径成長の抑制効果をより高めることができる。ベルト層6eは、タイヤ周方向に対して例えば15°~50°の傾斜角度で傾斜して延びる補強コードのゴム引き層からなる、保護ベルト層である。本例では、ベルト層6dの補強コードと、ベルト層6eの補強コードとは、タイヤ赤道面CLを境界とする同一のタイヤ幅方向半部においては、タイヤ幅方向内側から外側へ向かって、タイヤ周方向の同一方向に延びている。
図示例では、タイヤ径方向内側から、ベルト層6a、6b、6c、6d、6eの順で配置されている。すなわち、本例では、周方向ベルト層6bは、傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ径方向内側に隣接して(本例では間に他のベルト層を介さずに)配置されている。
図示例では、ベルト層のタイヤ幅方向の幅は、大きい方から順に、ベルト層6c、6d、6b、6e、6aとなっているが、この場合に限定されない。ベルト層の層数や、ベルト層のタイヤ幅方向の幅は、様々な構成とすることができる。
【0040】
特には限定されないが、本実施形態のタイヤは、例えばトラック・バス用タイヤ等の、重荷重用タイヤとして好適に用いることができる。
【0041】
前記のように、本実施形態の空気入りタイヤは、層間で互いに交差して延びる補強コードのゴム引き層からなる2層以上の傾斜ベルト層(本例では、ベルト層6c、6d)と、前記の実施形態のタイヤ用スチールコードのゴム引き層からなる1層以上の周方向ベルト層6bと、を備え、周方向ベルト層6bは、傾斜ベルト層6c、6dに隣接して(本例では、傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ径方向内側に隣接して)配置され、該タイヤ用スチールコードは、タイヤ周方向に延び、又は、タイヤ周方向に対して5°以下の傾斜角度で傾斜して延びている。
本実施形態の空気入りタイヤによれば、先のタイヤ用スチールコードの実施形態において説明したのと同様の理由により、径成長の抑制と耐久性とを両立することができる。
【実施例0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
本発明の効果を確かめるため、基準例、比較例、及び発明例にかかるタイヤ用スチールコードを用いた空気入りタイヤを作製し、タイヤの径成長抑制効果及びタイヤ用スチールコードの耐切れ性を評価する試験を行った。
各タイヤ用スチールコードの諸元は、評価結果と共に以下の表1に示している。また、
図7及び
図8に、それぞれ、解剖コード及び生コードのS-S曲線を示している。
【0043】
比較例及び発明例においては、タイヤ径成長抑制効果は、タイヤサイズ445/50R22.5のタイヤをリムに組み込み、内圧690kPaを充填する前後の比較例及び発明例にかかるタイヤのタイヤ径をそれぞれ測定した。基準例については、市場に提供しているタイヤを用いて、比較例及び発明例とのベルト構造は異なるものの、同サイズのタイヤをリムに組み込み、内圧690kPaを充填する前後のタイヤ径を測定した。
表1では、増加したタイヤ径を百分率で表した数値を示している。数値が小さいほど径成長抑制効果に優れていることを示す。なお、基準例のベルト構造が発明例及び比較例と異なるものを用いたが、これは、基準例の位置付けが、発明例と基準例との内圧成長抑制対比により、発明例の効果が基準値に達していることを示すためのものであるため、この意味で効果を示すことに影響はない。
タイヤ用スチールコードの耐切れ性は、タイヤサイズ445/50R22.5のタイヤをリムに組み込み、規定内圧を充填し、最大負荷荷重の130%の荷重を負荷し、速度60km/hで2万kmドラム走行させた際の、走行後のコード切れ本数を計測することにより評価した。評価は、基準例の切れ本数を100とした指数で表し、数値の大きい方が、切れ数が少なく良好であることを示す。
【0044】
【0045】
表1に示すように、発明例は、基準例及び比較例に対して、空気入りタイヤの径成長抑制効果と耐切れ性とを両立できたことがわかる。
【0046】
[国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は「No.12_つくる責任、つかう責任」および「No.13_気候変動に具体的な対策を」などに貢献する技術となり得ると考えられる。