(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125938
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20240911BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240911BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20240911BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20240911BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B60C9/18 N
B60C9/18 G
B60C9/00 M
B60C9/18 K
B60C9/22 G
B60C9/22 F
B60C9/20 E
D07B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034082
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 紗生
【テーマコード(参考)】
3B153
3D131
【Fターム(参考)】
3B153AA08
3B153AA10
3B153FF16
3D131AA39
3D131AA44
3D131AA47
3D131BA02
3D131BB03
3D131BC31
3D131BC34
3D131BC51
3D131DA33
3D131DA34
3D131DA43
3D131DA52
3D131LA20
3D131LA24
(57)【要約】
【課題】接地領域のタイヤ幅方向の端部での偏摩耗の抑制、及び、周方向ベルト層のタイヤ幅方向の端部での周方向ベルトコードの破断の抑制、を両立可能な空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】本発明に係る空気入りタイヤは、タイヤ周方向に対して5°より大きい傾斜角度で互いに反対側に傾斜して延在している傾斜ベルトコードを含む、2層の傾斜ベルト層と、タイヤ周方向に対して0~5°の方向に延在している周方向ベルトコードを含み、前記2層の傾斜ベルト層の少なくとも一方の傾斜ベルト層に対してタイヤ径方向に隣接して配置されている周方向ベルト層と、を備え、前記周方向ベルトコードの1.0%歪での弾性率E1が30~80GPaであり、前記周方向ベルト層のタイヤ幅方向での幅は、トレッド幅に対して、70~85%である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に対して5°より大きい傾斜角度で互いに反対側に傾斜して延在している傾斜ベルトコードを含む、2層の傾斜ベルト層と、
タイヤ周方向に対して0~5°の方向に延在している周方向ベルトコードを含み、前記2層の傾斜ベルト層の少なくとも一方の傾斜ベルト層に対してタイヤ径方向に隣接して配置されている周方向ベルト層と、を備え、
前記周方向ベルトコードの1.0%歪での弾性率E1が30~80GPaであり、
前記周方向ベルト層のタイヤ幅方向での幅は、トレッド幅に対して、70~85%である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記周方向ベルト層の前記タイヤ幅方向での幅は、前記2層の傾斜ベルト層の前記タイヤ幅方向での最大幅に対して、70~90%である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記傾斜ベルトコードの前記タイヤ周方向に対する傾斜角度は、15~50°である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記周方向ベルトコードの1.0%歪での弾性率E1の、前記周方向ベルトコードの0.25%歪での弾性率E2に対する比E1/E2は、1.1~3.0である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記周方向ベルトコードの0.25%歪での弾性率E2は、15~60GPaである、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記周方向ベルトコードは、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるストランドを、さらに撚り合わせてなる複撚り構造である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの径成長を抑制するために周方向ベルト層を配置することが提案されている。特許文献1には、この種の空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周方向ベルト層を設けることで、規定内圧充填時のタイヤの径成長を抑制できると共に、タイヤ走行時の接地領域での径成長についても抑制できる。但し、周方向ベルト層のタイヤ幅方向の幅が小さいと、接地領域におけるタイヤ幅方向の端部での径成長が抑制できず、接地領域の端部で偏摩耗が生じる場合がある。
【0005】
これに対して、周方向ベルト層のタイヤ幅方向の幅を大きくすると、接地領域の端部での偏摩耗は抑制できる。しかしながら、タイヤ走行時に周方向ベルト層にかかる負担は大きく、特に、周方向ベルト層のタイヤ幅方向の端部付近では、タイヤ走行時において周方向ベルト層のコード(以下、「周方向ベルトコード」と記載する。)をタイヤ周方向に引っ張る引張入力が繰り返し作用することにより、周方向ベルト層のタイヤ幅方向の端部で、周方向ベルトコードが疲労破断し易い。
【0006】
本発明は、接地領域のタイヤ幅方向の端部での偏摩耗の抑制、及び、周方向ベルト層のタイヤ幅方向の端部での周方向ベルトコードの破断の抑制、を両立可能な空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様としての空気入りタイヤは、
(1)
タイヤ周方向に対して5°より大きい傾斜角度で互いに反対側に傾斜して延在している傾斜ベルトコードを含む、2層の傾斜ベルト層と、
タイヤ周方向に対して0~5°の方向に延在している周方向ベルトコードを含み、前記2層の傾斜ベルト層の少なくとも一方の傾斜ベルト層に対してタイヤ径方向に隣接して配置されている周方向ベルト層と、を備え、
前記周方向ベルトコードの1.0%歪での弾性率E1が30~80GPaであり、
前記周方向ベルト層のタイヤ幅方向での幅は、トレッド幅に対して、70~85%である、空気入りタイヤ、である。
【0008】
本発明の1つの実施形態としての空気入りタイヤは、
(2)
前記周方向ベルト層の前記タイヤ幅方向での幅は、前記2層の傾斜ベルト層の前記タイヤ幅方向での最大幅に対して、70~90%である、上記(1)に記載の空気入りタイヤ、である。
【0009】
本発明の1つの実施形態としての空気入りタイヤは、
(3)
前記傾斜ベルトコードの前記タイヤ周方向に対する傾斜角度は、15~50°である、上記(1)又は(2)に記載の空気入りタイヤ、である。
【0010】
本発明の1つの実施形態としての空気入りタイヤは、
(4)
前記周方向ベルトコードの1.0%歪での弾性率E1の、前記周方向ベルトコードの0.25%歪での弾性率E2に対する比E1/E2は、1.1~3.0である、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ、である。
【0011】
本発明の1つの実施形態としての空気入りタイヤは、
(5)
前記周方向ベルトコードの0.25%歪での弾性率E2は、15~60GPaである、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ、である。
【0012】
本発明の1つの実施形態としての空気入りタイヤは、
(6)
前記周方向ベルトコードは、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるストランドを、さらに撚り合わせてなる複撚り構造である、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接地領域のタイヤ幅方向の端部での偏摩耗の抑制、及び、周方向ベルト層のタイヤ幅方向の端部での周方向ベルトコードの破断の抑制、を両立可能な空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態としてのタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
【
図2】
図1に示すタイヤのベルトの構成を示す図である。
【
図3】
図1に示すタイヤの周方向ベルト層における周方向ベルトコードの解剖コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)の一例を示す図である。
【
図4】
図1に示すタイヤの周方向ベルト層における周方向ベルトコードの生コードの断面図である。
【
図6】傾斜ベルト層の傾斜ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度による効果を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態について図面を参照して例示説明する。各図において同一の構成には同一の符号を付している。本明細書において、タイヤ幅方向とは、タイヤの中心軸と平行な方向をいう。タイヤ径方向とは、タイヤの中心軸と直交し、中心軸を中心とした半径方向をいう。タイヤ周方向とは、タイヤの中心軸を中心にタイヤが回転する方向をいう。
【0016】
以下、特に断りのない限り、各要素の寸法、長さ関係、位置関係等は、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷状態とした、基準状態で測定されるものとする。
【0017】
ここで、「適用リム」とは、タイヤサイズに応じて下記の規格に規定された標準リム(下記TRAのYEAR BOOKでは“Design Rim”。下記ETRTOのSTANDARDS MANUALでは“Measuring Rim”。)をいう。その規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって決められたものであり、例えば、米国では、“The Tire and Rim Association, Inc.(TRA)”の“YEAR BOOK”であり、欧州では、“The European Tyre and Rim Technical Organisation(ETRTO)”の“STANDARDS MANUAL”であり、日本では、“日本自動車タイヤ協会(JATMA)”の“JATMA YEAR BOOK”である。なお、上記「適用リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズの例としては、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができるが、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、空気入りタイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
【0018】
また、「規定内圧」とは、上記のJATMA YEAR BOOK等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいい、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、空気入りタイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。また、後述する「最大負荷荷重」は、適用サイズの空気入りタイヤにおける上記JATMA等の規格のタイヤ最大負荷能力、又は、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、空気入りタイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する荷重を意味する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態としての空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ1」と記載する。)の、基準状態でのタイヤ幅方向断面を示している。タイヤ1のタイヤ幅方向断面とは、タイヤの中心軸を通り、タイヤ中心軸に平行な平面での、タイヤ1の断面を意味する。なお、タイヤ1は、タイヤ赤道面CLに対して対称な構成であるため、
図1では、タイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向Aの一方側のみのタイヤ幅方向断面を示している。
【0020】
図1に示すように、本実施形態のタイヤ1は、一対のビード部2と、各々がビード部2に連なる一対のサイドウォール部3と、一対のサイドウォール部3に連なるトレッド部4と、を備えている。また、このタイヤ1は、一対のビード部2間にトロイダル状に跨るカーカス5と、カーカス5のクラウン部のタイヤ径方向Bの外側に配置されたベルト6と、を備えている。また、タイヤ1は、トレッド部4において、カーカス5及びベルト6のタイヤ径方向Bの外側に、トレッドゴム21を備えている。更に、タイヤ1は、サイドウォール部3において、カーカス5のタイヤ幅方向Aの外側に、トレッドゴム21に連なるサイドゴム22を備えている。本実施形態において、トレッドゴム21のタイヤ径方向Bの外側のトレッド面21aには、タイヤ周方向Cに延在する複数の周方向溝21a1が形成されている。また、トレッド面21aには、複数の周方向溝21a1の間に区画される少なくとも1つ以上の中央陸部21a2と、周方向溝21a1とトレッド端TEとの間に区画されるショルダ陸部21a3と、が形成されている。なお、「トレッド端TE」とは、タイヤ1を上述の適用リムに装着し、上述の規定内圧を充填し、最大負荷荷重を負荷した状態で、接地面のタイヤ幅方向Aの最外側となる位置を意味する。
【0021】
本実施形態では、一対のビード部2の各々には、ビードコア2aが埋設されており、ビードコア2aのタイヤ径方向Bの外側には、ビードフィラ2bが配置されている。
【0022】
また、本実施形態では、カーカス5は、1枚以上のカーカスプライからなる。また、カーカス5は、一対のビード部2間をトロイダル状に跨って延びるカーカス本体部5aと、該カーカス本体部5aから延びてビードコア2a周りに巻き付けられてなるカーカス巻き付け部5bと、からなる。また、本実施形態では、ビードコア2aの周りであって、カーカス巻き付け部5bの外周に、ワイヤーチェーファー7が配置されている。また、本実施形態では、ワイヤーチェーファー7を覆うようにゴムチェーファー8が配置されている。
【0023】
図1に示すように、本実施形態のベルト6は、5層のベルト層からなる。具体的に、5層のベルト層は、ベースベルト層6a、周方向ベルト層6b、2層の傾斜ベルト層6c、6d、及び、保護ベルト層6eである。
図2は、ベルト6の5層のベルト層の構成を示す図である。
【0024】
図2に示すように、本実施形態のベースベルト層6aは、タイヤ周方向Cに対して略50°の傾斜角度で傾斜して延びる補強コード6a1を含む。本実施形態の補強コード6a1はスチールコードである。より具体的に、本実施形態のベースベルト層6aは、並列に配置されている複数の補強コード6a1が被覆ゴムにより被覆されているゴム引き層である。
【0025】
図2に示すように、周方向ベルト層6bは、タイヤ周方向Cに対して0~5°の方向(本実施形態では0°の方向でありタイヤ周方向Cに平行な方向)に延在している補強コードとしての周方向ベルトコード10を含む。本実施形態の周方向ベルトコード10はスチールコードである。より具体的に、本実施形態の周方向ベルト層6bは、タイヤ幅方向Aに配列に配置されている複数の周方向ベルトコード10が被覆ゴムにより被覆されているゴム引き層である。
【0026】
図2に示すように、2層の傾斜ベルト層6c、6dは、タイヤ周方向Cに対して5°より大きい傾斜角度(本実施形態では15~50°)で互いに反対側に傾斜して延在している補強コードとしての傾斜ベルトコード6c1、6d1を含む。本実施形態の傾斜ベルトコード6c1、6d1はスチールコードである。より具体的に、本実施形態の傾斜ベルト層6cは、並列に配置されている複数の傾斜ベルトコード6c1が被覆ゴムにより被覆されているゴム引き層である。また、本実施形態の傾斜ベルト層6dは、並列に配置されている複数の傾斜ベルトコード6d1が被覆ゴムにより被覆されているゴム引き層である。
【0027】
図2に示すように、本実施形態の保護ベルト層6eは、タイヤ周方向Cに対して例えば50°の傾斜角度で傾斜して延びる補強コード6e1を含む。本実施形態の補強コード6e1はスチールコードである。より具体的に、本実施形態の保護ベルト層6eは、並列に配置されている複数の補強コード6e1が被覆ゴムにより被覆されているゴム引き層である。
【0028】
図2に示すように、本実施形態では、タイヤ径方向Bの外側に位置する一方の傾斜ベルト層6dの傾斜ベルトコード6d1と、保護ベルト層6eの補強コード6e1とは、タイヤ赤道面CLを境界とする同一のタイヤ幅方向Aの半部においては、タイヤ幅方向Aの内側から外側へ向かって、タイヤ周方向Cの同一方向に延びている。また、本実施形態では、ベースベルト層6aの補強コード6a1と、保護ベルト層6eの補強コード6e1とは、タイヤ周方向Cに対して互いに反対側に傾斜して延在している。
【0029】
図2に示すように、本実施形態では、ベースベルト層6aの補強コード6a1と、傾斜ベルト層6cの傾斜ベルトコード6c1とは、タイヤ周方向Cに対して同じ側に傾斜して延在している。また、本実施形態では、ベースベルト層6aの補強コード6a1と、傾斜ベルト層6dの傾斜ベルトコード6d1とは、タイヤ周方向Cに対して互いに反対側に傾斜して延在している。
【0030】
図2に示すように、本実施形態では、保護ベルト層6eの補強コード6e1と、傾斜ベルト層6dの傾斜ベルトコード6d1とは、タイヤ周方向Cに対して同じ側に傾斜して延在している。また、本実施形態では、保護ベルト層6eの補強コード6e1と、傾斜ベルト層6cの傾斜ベルトコード6c1とは、タイヤ周方向Cに対して互いに反対側に傾斜して延在している。
【0031】
また、本実施形態では、ベースベルト層6aの補強コード6a1のタイヤ周方向Cに対する鋭角の傾斜角度θaは、傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する鋭角の傾斜角度θc、θdより大きい。更に、本実施形態では、保護ベルト層6eの補強コード6e1のタイヤ周方向Cに対する鋭角の傾斜角度θeは、傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する鋭角の傾斜角度θc、θdより大きい。
【0032】
図1に示すように、本実施形態では、タイヤ径方向Bの内側から外側に向かって、ベースベルト層6a、周方向ベルト層6b、傾斜ベルト層6c、傾斜ベルト層6d、保護ベルト層6e、の順で配置されている。すなわち、本実施形態では、周方向ベルト層6bは、2層の傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ径方向Bの内側に隣接して、すなわち、2層の傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ径方向Bの内側に別のベルト層が介在することなく、配置されている。なお、本実施形態の周方向ベルト層6bは、2層の傾斜ベルト層6c、6dに対してタイヤ径方向Bの内側に隣接しているが、この構成に限られない。周方向ベルト層6bは、2層の傾斜ベルト層6c、6dに対してタイヤ径方向Bの外側に隣接していてもよい。また、周方向ベルト層6bは、2層の傾斜ベルト層6c、6dの相互間で、2層の傾斜ベルト層6c、6dそれぞれに隣接して配置されていてもよい。つまり、周方向ベルト層6bは、2層の傾斜ベルト層6c、6dの少なくとも一方に対してタイヤ径方向Bの内側又は外側で隣接して配置されてよい。
【0033】
本実施形態では、5層のベルト層のタイヤ幅方向Aの幅は、大きい方から順に、傾斜ベルト層6c、傾斜ベルト層6d、周方向ベルト層6b、保護ベルト層6e、ベースベルト層6aとなっているが、この構成に限られない。但し、
図2に示すように、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aの幅W1は、2層の傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ幅方向Aの幅W2、W3より、小さいことが好ましい。特に、周方向ベルト層6bの幅W1は、2層の傾斜ベルト層6c、6dの最大幅(本実施形態では傾斜ベルト層6cの幅W2)に対して、70~90%であることが好ましい。この詳細は後述する。
【0034】
また、
図1、
図2に示すように、2層の傾斜ベルト層6c、6dは、タイヤ幅方向Aの両側で、周方向ベルト層6bよりタイヤ幅方向Aの外側まで延在している。更に、一方の傾斜ベルト層6cは、タイヤ幅方向Aの両側で、他方の傾斜ベルト層6dよりタイヤ幅方向Aの外側まで延在している。また更に、周方向ベルト層6bは、タイヤ幅方向Aの両側で、ベースベルト層6a及び保護ベルト層6eよりタイヤ幅方向Aの外側まで延在している。また、保護ベルト層6eは、タイヤ幅方向Aの両側で、ベースベルト層6aよりタイヤ幅方向Aの外側まで延在している。
【0035】
特には限定されないが、本実施形態のタイヤ1は、例えばトラック・バス用タイヤ等の、重荷重用タイヤとして好適に用いることができる。
【0036】
周方向ベルトコード10の1.0%歪(引張歪)での弾性率E1は、30~80GPaである。周方向ベルトコード10の弾性率は、周方向ベルトコード10の解剖コードで測定された値である。「解剖コード」とは、加硫済みのタイヤ1を解剖して取り出したゴム付きのコードをいう。
図3は、周方向ベルトコード10としてのタイヤ用スチールコードの解剖コードのS-S曲線(荷重-歪曲線)の一例を示す図である。
図3において、二点鎖線は、高歪領域(歪が0.7%より大きい領域)である1.0%歪での接線である。周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1とは、
図3に示す二点鎖線の傾きを、周方向ベルトコード10の断面積で除した値である。詳細は後述するが、本実施形態の周方向ベルトコード10は、コアフィラメント12及びシースフィラメント13から構成されている(
図4参照)。かかる場合に、周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1とは、
図3に示す二点鎖線の傾きを、周方向ベルトコード10を構成するフィラメント12、13の断面積の総和で除した値を意味する。
【0037】
周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1を80GPa以下とすることで、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aの端部で、周方向ベルトコード10にかかる引張応力を低くでき、周方向ベルトコード10の破断を抑制できる。また、周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1を30GPa以上とすることで、規定内圧充填時のタイヤ1の径成長を有効に抑制できる。同様の理由により、周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1は、40~70GPaであることが、より好ましい。
【0038】
また、
図2に示すように、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1は、トレッド幅W4に対して、70~85%である。ここでトレッド幅W4とは、タイヤ幅方向Aの両側のトレッド端TE間の距離を意味する。
【0039】
周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1を、トレッド幅W4に対して70%以上とすることで、接地領域におけるタイヤ幅方向Aの端部での径成長が抑制でき、接地領域のタイヤ幅方向Aの端部で偏摩耗を抑制できる。周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1を、トレッド幅W4に対して85%以下とすることで、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aの端部で、周方向ベルトコード10が破断することを抑制できる。
【0040】
すなわち、タイヤ1では、傾斜ベルト層に隣接(本実施形態では傾斜ベルト層6cに隣接)して配置される周方向ベルト層6bの周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1が、30~80GPaとされている。また、タイヤ1では、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1が、トレッド幅W4に対して85%以下とされている。これらの構成により、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aの端部で、周方向ベルトコード10が破断することを抑制できる。更に、タイヤ1では、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1が、トレッド幅W4に対して70%以上とされている。これにより、接地領域におけるタイヤ幅方向Aの端部での径成長が抑制でき、その結果、接地領域のタイヤ幅方向Aの端部での偏摩耗を抑制することができる。つまり、タイヤ1では、上記構成とすることで、接地領域のタイヤ幅方向Aの端部での偏摩耗の抑制、及び、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aの端部での周方向ベルトコード10の破断の抑制、を両立できる。
【0041】
また、本実施形態では、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1は、2層の傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ幅方向Aでの最大幅(本実施形態では傾斜ベルト層6cの幅W2)に対して、70~90%である。
【0042】
周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1を、2層の傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ幅方向Aでの最大幅(本実施形態では傾斜ベルト層6cの幅W2)に対して、70%以上とすることで、周方向ベルト層6bと最大幅を有する傾斜ベルト層(本実施形態では傾斜ベルト層6c)とがタイヤ径方向Bで重なる、タイヤ幅方向Aの重複領域を広く確保できる。逆に言えば、周方向ベルト層6bと最大幅を有する傾斜ベルト層(本実施形態では傾斜ベルト層6c)とがタイヤ径方向Bで重ならない、タイヤ幅方向Aの非重複領域を狭くすることができる。そのため、接地領域の全体又は大部分を、上述の重複領域により構成できる。これにより、タイヤ1の非重複領域での剛性がタイヤ1の重複領域での剛性より小さいことで発生する、接地領域における非重複領域での偏摩耗を、抑制できる。
【0043】
一方で、重複領域では、タイヤ幅方向Aの位置によるタイヤ周方向Cの剛性の変動は小さいが、非重複領域では、タイヤ幅方向Aの外側に向かうにつれて、タイヤ周方向Cの剛性が低下する。そのため、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aでの幅W1を、2層の傾斜ベルト層6c、6dのタイヤ幅方向Aでの最大幅(本実施形態では傾斜ベルト層6cの幅W2)に対して、90%以下とすることで、タイヤ幅方向Aにおける重複領域と非重複領域との境界の位置で、タイヤ周方向Cでの剛性段差が大きくなることを抑制できる。その結果、タイヤ幅方向Aにおける重複領域と非重複領域との境界の位置、すなわち、周方向ベルト層6bのタイヤ幅方向Aの端部で、周方向ベルトコード10が破断することを、より抑制できる。
【0044】
また、
図2に示すように、傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度は、15~50°であることが好ましい。傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度を、15°以上とすることで、接地領域のタイヤ幅方向Aの端部での偏摩耗を抑制できる。また、傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度を、50°以下とすることで、上述したタイヤ1の重複領域と非重複領域との間でのタイヤ周方向Cでの剛性段差を軽減でき、接地領域に非重複領域が含まれる場合であっても、接地領域における非重複領域での偏摩耗を、より抑制できる。すなわち、傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度は、15~50°とすることで、接地領域のタイヤ幅方向Aの端部での偏摩耗を、より抑制できる。
【0045】
図6は、本実施形態のタイヤ1について、傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度のみを変動させて、FEM解析を行った結果を示す図である。傾斜ベルトコード6c1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度と、傾斜ベルトコード6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度と、はタイヤ周方向Cに対して逆向きの等しい角度としている。
図6の横軸は、傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度である。また、
図6の縦軸は、ショルダ陸部21a3のタイヤ幅方向Aの外側1/3の領域においてタイヤ周方向Bに加わる摩耗エネルギーであり、タイヤ踏み込み側をプラス、タイヤ蹴り出し側をマイナスとして示している。ここで、摩耗エネルギーとは、タイヤ転動時にタイヤの接地面に作用する力とタイヤの接地面と路面との間の滑りの積に相当するエネルギーである。
図6の縦軸がプラスであるほど、ショルダ陸部21a3のタイヤ幅方向Aの外側1/3の領域での偏摩耗を抑制できる。したがって、
図6に示すように、傾斜ベルト層6c、6dの傾斜ベルトコード6c1、6d1のタイヤ周方向Cに対する傾斜角度は、上述したように、15~50°であることが好ましい。
【0046】
更に、周方向ベルトコード10の0.25%歪(引張歪)での弾性率E2は、15~60GPaであることが好ましい。
図3において、一点鎖線は、低歪領域(歪が0.3%より小さい領域)である0.25%歪での接線である。周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2とは、
図3に示す一点鎖線の傾きを、周方向ベルトコード10の断面積で除した値である。詳細は後述するが、本実施形態の周方向ベルトコード10は、コアフィラメント12及びシースフィラメント13から構成されている(
図4参照)。かかる場合に、周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2とは、
図3に示す一点鎖線の傾きを、周方向ベルトコード10を構成するフィラメント12、13の断面積の総和で除した値を意味する。
【0047】
周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2を15GPa以上とすることにより、規定内圧充填時のタイヤ1の径成長を有効に抑制することができる。一方で、周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2を60GPa以下とすることにより、周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1が、所望の範囲(30~80GPa)内になり易い。同様の理由により、周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2は、25~60GPaであることが、より好ましい。
【0048】
周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1の、周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2に対する比E1/E2は、1.1~3.0であることが好ましい。比E1/E2が1.1以上であることにより、弾性率E1に対して弾性率E2を適度に大きくして、規定内圧充填時のタイヤ1の径成長を有効に抑制することができる。一方で、比E1/E2が3.0以下であることにより、弾性率E2に対して弾性率E1を適度に小さくして、周方向ベルト層6bと傾斜ベルト層6c、6dとの剛性段差を低減して当該領域の歪を低減し、周方向ベルトコード10の破断を抑制し得る。同様の理由により、上記比E1/E2は、1.1~2.5であることが、より好ましい。
【0049】
図4は、本実施形態の周方向ベルト層6bの周方向ベルトコード10の断面図である。より具体的に、
図4は、周方向ベルトコード10の延在方向と直交する、周方向ベルトコード10の断面を示す。
図4では、周方向ベルトコード10の解剖コードではなく、生コードの断面を示している。つまり、
図4では、複数のストランド11間、及び、複数のフィラメント12、13間に、ゴムが付着していない周方向ベルトコード10を示している。本実施形態の周方向ベルトコード10は、スチールコードである。
図4に示すように、本実施形態の周方向ベルトコード10は、コアストランドを有しておらず、複数のシースストランド11からなる。各シースストランド11は、1本のコアフィラメント12の周りにN本(本実施形態では6本)のシースフィラメント13が配置された、いわゆる「1+N構造」である。Nは、4~7の整数であることが好ましい。このように、本実施形態の周方向ベルトコード10は、複数本のフィラメント(本実施形態では1本のコアフィラメント12及び6本のシースフィラメント13)を撚り合わせてなる複数(本実施形態では5本)のストランド(本実施形態ではシースストランド11)を、さらに撚り合わせてなる、複撚り構造である。ストランド数は、3~5本であることが好ましい。ストランド数を3本以上とすることにより、後述のように、フィラメント径を比較的小さくしても周方向ベルト層6bとしての強度を確保することができ、一方で、ストランド数を5本以下とすることで、ストランドの落ち込みの発生を抑制し、撚り性状を安定化させることができる。また、コアフィラメント12を1本とすることにより、コアフィラメント12とシースフィラメント13の撚り縮み量の差に起因する撚り不良の発生を抑制することができる。また、シースフィラメント13を4本以上とすることにより、複数のシースフィラメント13間の隙間が大きくならないようにして撚り形状を安定化させることができ、一方で、シースフィラメント13を7本以下とすることにより、ゴムが浸入するための充分な隙間を確保することができる。また、コアストランドを設けないことで、周方向ベルトコード10の中心部の空間がゴムで満たされてストランド間の締め付け応力が分散され、接触部となるシースフィラメント13の先行破断が抑制される結果、良好なスチールコード強力を得ることができる。なお、ストランドの撚り方向とコードの撚り方向とは、同一方向であることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態では、全てのフィラメント(本実施形態ではコアフィラメント12及びシースフィラメント13)について、コード径D1に対するフィラメント径D2の比D2/D1が0.13以下である。比D2/D1を0.13以下とすることで、コード径D1に対してフィラメント径D2が大きくなり過ぎず、周方向ベルトコード10の引張により生じるフィラメントの曲げ変形によるフィラメントの破断が生じ難くなる。この観点では、比D2/D1は、0.11以下であることが、より好ましい。一方で、フィラメント径D2が小さすぎると、十分なコード強力を得られなくなるため、比D2/D1は、0.09以上とすることが好ましい。
【0051】
本実施形態の周方向ベルトコード10のコード径D1は、1.5~2.2mmとすることが好ましい。コード径D1を1.5mm以上とすることにより、周方向ベルト層6bとしての強度を確保することができる。また、コード径D1を2.2mm以下とすることにより、タイヤ1の軽量化を図ることができる。
【0052】
フィラメント(本実施形態ではコアフィラメント12及びシースフィラメント13)のフィラメント径D2は、0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下であることがより好ましい。フィラメント径D2を0.3mm以下とすることにより、周方向ベルトコード10の引張により生じるフィラメントの曲げ変形によるフィラメントの破断を抑制することができる。一方で、フィラメント径D2が小さすぎると、十分なコード強力を得られなくなるため、フィラメント径D2は、0.15mm以上であることが好ましい。
【0053】
本実施形態において、コアフィラメント12のフィラメント径D2aの、シースフィラメント13のフィラメント径D2bに対する比D2a/D2bは、1.10~1.16とすることが好ましい。比D2a/D2bを1.16以下とすることにより、シースフィラメント13の配置に偏りが生じないようにして周方向ベルトコード10の撚り性状を均一にすることができる。また、比D2a/D2bを1.10以上とすることにより、ゴムが浸入するための充分な隙間を確保することができる。
【0054】
また、本実施形態のシースストランド11のコード軸に対する撚り角度は、15.0~25.0°とすることが好ましい。なお、「撚り角度」とは、周方向ベルトコード10の延在方向である長手方向に対してストランドのらせん軸がなす角度であり、周方向ベルトコード10の長手方向における平均値とする。撚り角度を15.0°以上とすることにより、1.0%歪での弾性率E1を上限値(80GPa)以下に設定することができる。また、撚り角度を25.0°以下とすることにより、撚り性状を安定化させることができる。
【0055】
本実施形態の周方向ベルトコード10において、フィラメント(本実施形態ではコアフィラメント12及びシースフィラメント13)の材質は、特に限定されないものの、例えば炭素成分が0.80質量%以上である高炭素鋼であることが好ましい。フィラメントの素材を高硬度である炭素成分が0.80質量%以上の高炭素鋼とすることで、十分なコード強力を得ることができる。一方で、耐疲労性の観点からは、炭素成分が1.5%以下であることが好ましい。
【0056】
周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1を30~80GPaの範囲とし、且つ、周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2を15~60GPaの範囲とするためには、例えば、以下のようなコード構造とすることにより調整を行うことができる。すなわち、周方向ベルトコード10の1.0%歪での弾性率E1を上記のような低めの範囲に調整するには、周方向ベルトコード10として、コアストランドを有しない、上記の複数本のフィラメントを撚り合わせてなるストランドをさらに撚り合わせてなるコードを用いることができる。併せて、フィラメントの径、ストランド数、撚り角度、コード等を調整することができる。また、周方向ベルトコード10の0.25%歪での弾性率E2は、上記に加えて、タイヤ製造時の拡張率に応じて決定することができる。
【0057】
本発明に係る空気入りタイヤは、上述した実施形態に示す具体的な構成に限られず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の変形、変更、組み合わせが可能である。タイヤ1は、例えば、RFタグ等の通信装置40を更に備えてもよい。
図5は、通信装置40を備えるタイヤ1のタイヤ幅方向断面図であり、
図1とは通信装置40の有無のみで相違している。
【0058】
図5に示す通信装置40は、符号「P13」で示す位置、すなわち、タイヤ1のサイドウォール部3に埋設されているが、この位置に限られない。通信装置40は、タイヤ1の他の位置に埋設されていてもよい。更に、通信装置40は、タイヤ1のタイヤ内腔に面する内面に取り付けられていてもよい。以下、タイヤ1のタイヤ幅方向断面視で、通信装置40を配置可能な位置について、
図5を参照して例示説明する。
図5では、符号「P13」で示す位置に加えて、通信装置40としてのRFタグを配置可能な位置の例示を黒色の四角により示している。
【0059】
通信装置40としてのRFタグは、ICチップとアンテナとを備える。RFタグは、例えば、タイヤ1を構成する同種又は異種の複数の部材の間の位置に挟み込まれて配置されてよい。このようにすることで、タイヤ生産時にRFタグを取り付け易く、RFタグを備えるタイヤ1の生産性を向上させることができる。上述したように、
図5に示すタイヤ1では、RFタグが、サイドウォール部3内で、ビードフィラ2bと、このビードフィラ2bに隣接するその他の部材としてのサイドゴム22と、の間に挟み込まれて配置されているが、他の位置であってもよい。RFタグは、タイヤ1を構成するいずれかの部材内に埋設されていてもよい。このようにすることで、タイヤ1を構成する複数の部材の間の位置に挟み込まれて配置される場合と比較して、RFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。RFタグは、例えば、トレッドゴム21、サイドゴム22等のゴム部材内に埋設されてよい。RFタグは、タイヤ幅方向断面視でのタイヤ外面に沿う方向であるペリフェリ長さ方向において、剛性の異なる部材の境界となる位置に、配置されないことが好ましい。このようにすることで、RFタグは、剛性段差に基づき歪みが集中し易い位置に、配置されない。そのため、RFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。RFタグの数は特に限定されない。タイヤ1は、1個のみのRFタグを備えてもよく、2個以上のRFタグを備えてもよい。ここでは、通信装置の一例として、RFタグを例示説明しているが、RFタグとは異なる通信装置であってもよい。
【0060】
RFタグは、例えば、タイヤ1のトレッド部4に配置されてよい。このようにすることで、RFタグは、タイヤ1のサイドカットにより損傷しない。RFタグは、例えば、タイヤ1のトレッド部4のタイヤ内腔に面する内面(以下、「タイヤ内面」と記載する場合がある。)に配置されてもよい(
図5の符号「P3」参照)。RFタグは、例えば、タイヤ幅方向Aにおいて、トレッド中央部に配置されてよい(
図5の符号「P1」~「P6」参照)。トレッド中央部は、トレッド部4において撓みが集中し難い位置である。このようにすることで、RFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。また、タイヤ幅方向Aでのタイヤ1の両外側からのRFタグとの通信性に差が生じることを抑制できる。本例では、RFタグは、例えば、タイヤ幅方向Aにおいて、タイヤ赤道面CLを中心としてトレッド幅の1/2の範囲内に配置されてよい。RFタグは、例えば、タイヤ幅方向Aにおいて、トレッド端部に配置されてもよい(
図5の符号「P7」、「P8」参照)。RFタグと通信するリーダーの位置が予め決まっている場合には、RFタグは、例えば、このリーダーに近い一方側のトレッド端部に配置されてよい。本例では、RFタグは、例えば、タイヤ幅方向Aにおいて、トレッド端TEを外端とする、トレッド幅の1/4の範囲内に配置されてよい。
【0061】
RFタグは、例えば、ビード部2間に跨る、1枚以上のカーカスプライを含むカーカス5より、タイヤ内腔側に配置されてよい。このようにすることで、タイヤ1の外部から加わる衝撃や、サイドカットや釘刺さりなどの損傷に対して、RFタグが損傷し難くなる。一例として、RFタグは、カーカス5のタイヤ内腔側の面に密着して配置されてよい(
図5の符号「P5」参照)。別の一例として、カーカス5よりタイヤ内腔側に別の部材がある場合に、RFタグは、例えば、カーカス5と、このカーカス5よりタイヤ内腔側に位置する別の部材と、の間に配置されてもよい(
図5の符号「P5」参照)。カーカス5よりタイヤ内腔側に位置する別の部材としては、例えば、タイヤ内面を形成するインナーライナーが挙げられる。別の一例として、RFタグは、タイヤ内面に取り付けられていてもよい(
図5の符号「P3」、「P12」、「P15」参照)。RFタグが、タイヤ内面に取り付けられる構成とすることで、RFタグのタイヤ1への取り付け、及び、RFタグの点検・交換が行い易い。つまり、RFタグの取り付け性及びメンテナンス性を向上させることができる。また、RFタグが、タイヤ内面に取り付けられることで、RFタグをタイヤ本体の内部に埋設する構成と比較して、RFタグがタイヤ故障の核となることを防ぐことができる。また、カーカス5が、複数枚のカーカスプライを備え、複数枚のカーカスプライが重ねられている位置がある場合に、RFタグは、重ねられているカーカスプライの間に配置されていてもよい。
【0062】
RFタグは、例えば、タイヤ1のトレッド部4で、1枚以上のベルト層6a~6eを含むベルト6より、タイヤ径方向Bの外側に配置されてよい(
図5の符号「P1」、「P2」参照)。一例として、RFタグは、ベルト6に対してタイヤ径方向Bの外側で、当該ベルト6に密着して配置されてよい(
図5の符号「P2」参照)。また、別の一例として、RFタグは、ベルト6よりタイヤ径方向Bの外側で、トレッドゴム21内に埋設されていてもよい(
図5の符号「P1」参照)。RFタグが、タイヤ1のトレッド部4で、ベルト6よりタイヤ径方向Bの外側に配置されることで、タイヤ径方向Bでのタイヤ1の外側からのRFタグとの通信が、ベルト6により阻害され難い。そのため、タイヤ径方向Bでのタイヤ1の外側からのRFタグとの通信性を向上させることができる。
また、RFタグは、例えば、タイヤ1のトレッド部4で、ベルト6よりタイヤ径方向Bの内側に配置されていてもよい(
図5の符号「P3」、「P5」、「P6」参照)。このようにすることで、RFタグのタイヤ径方向Bの外側がベルト6に覆われるため、RFタグは、トレッド面21aからの衝撃や釘刺さりなどに対して損傷し難くなる。この一例として、RFタグは、タイヤ1のトレッド部4で、ベルト6と、当該ベルト6よりタイヤ径方向Bの内側に位置するカーカス5と、の間に配置されてよい(
図5の符号「P6」参照)。
また、ベルト6が、複数枚のベルト層6a~6eを備える場合に、RFタグは、タイヤ1のトレッド部4で、任意の2枚のベルト層6a~6eの間に配置されてよい(
図5の符号「P4」参照)。このようにすることで、RFタグのタイヤ径方向Bの外側が1枚以上のベルト層6a~6eに覆われるため、RFタグは、トレッド面21aからの衝撃や釘刺さりなどに対して損傷し難くなる。
【0063】
RFタグは、例えば、クッションゴム23と、トレッドゴム21との間(
図5の符号「P7」参照)や、クッションゴム23と、サイドゴム22と、の間(
図5の符号「P10」参照)に挟み込まれて配置されてよい。このようにすることで、RFタグへの衝撃を、クッションゴム23により緩和できる。そのため、RFタグの耐久性を向上させることができる。
また、RFタグは、例えば、クッションゴム23内に埋設されていてもよい。更に、クッションゴム23は、隣接する同種又は異種の複数のゴム部材から構成されてよい。かかる場合に、RFタグは、クッションゴム23を構成する複数のゴム部材の間に挟み込まれて配置されてもよい(
図5の符号「P8」参照)。
【0064】
RFタグは、例えば、タイヤ1のビード部2又はサイドウォール部3の位置に配置されてよい。RFタグは、例えば、RFタグと通信可能なリーダーに対して近い一方側のサイドウォール部3又は一方側のビード部2に配置されてよい。このようにすることで、RFタグとリーダーとの通信性を高めることができる。一例として、RFタグは、カーカス5とサイドゴム22との間や、トレッドゴム21とサイドゴム22との間に配置されてよい。
RFタグは、例えば、タイヤ径方向Bにおいて、タイヤ最大幅となる位置と、トレッド面21aの位置と、の間に配置されてよい(
図5の符号「P9」、「P10」、「P11」参照)。このようにすることで、RFタグがタイヤ最大幅となる位置よりタイヤ径方向Bの内側に配置される構成と比較して、タイヤ径方向Bでのタイヤ1の外側からのRFタグとの通信性を高めることができる。
RFタグは、例えば、タイヤ最大幅となる位置よりタイヤ径方向Bの内側に配置されていてもよい(
図5の符号「P12」~「P18」参照)。このようにすることで、RFタグは、剛性の高いビード部2近傍に配置される。そのため、RFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。一例として、RFタグは、ビードコア2aとタイヤ幅方向A又はタイヤ径方向Bで隣接する位置に配置されてよい。ビードコア2a近傍は歪みが集中し難い。そのため、RFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。
特に、RFタグは、タイヤ最大幅となる位置よりタイヤ径方向Bの内側であって、かつ、ビード部2のビードコア2aよりタイヤ径方向Bの外側の位置に配置されることが好ましい(
図5の符号「P12」~「P18」参照)。このようにすることで、RFタグの耐久性を向上させることができるとともに、RFタグとリーダーとの通信が、ビードコア2aにより阻害され難く、RFタグの通信性を高めることができる。
また、サイドゴム22がタイヤ径方向Bに隣接する同種又は異種の複数のゴム部材から構成されている場合に、RFタグは、サイドゴム22を構成する複数のゴム部材の間に挟み込まれて配置されていてもよい。
【0065】
RFタグは、ビードフィラ2bと、このビードフィラ2bに隣接する部材と、の間に挟み込まれて配置されてよい(
図5の符号「P13」、「P18」参照)。このようにすることで、ビードフィラ2bを配置することにより歪みが集中し難くなった位置に、RFタグを配置することができる。そのため、RFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。RFタグは、例えば、ビードフィラ2bと、サイドゴム22と、の間に挟み込まれて配置されてよい(
図5の符号「P13」参照)。
また、RFタグは、例えば、ビードフィラ2bと、カーカス5と、の間に挟み込まれて配置されていてもよい(
図5の符号「P18」参照)。カーカス5のうちビードフィラ2bと共にRFタグを挟み込む部分は、ビードフィラ2bに対してタイヤ幅方向Aの外側に位置してもよく、タイヤ幅方向Aの内側に位置してもよい(
図5の符号「P18」参照)。カーカス5のうちビードフィラ2bと共にRFタグを挟み込む部分が、ビードフィラ2bに対してタイヤ幅方向Aの外側に位置する場合には、タイヤ幅方向Aのタイヤ1の外側からの衝撃や損傷により、RFタグに加わる負荷を、より低減できる。これにより、RFタグの耐久性を、より向上させることができる。
ビードフィラ2bは、ゴムチェーファー8と隣接して配置されている部分を備えてもよい。かかる場合に、RFタグは、ビードフィラ2bと、ゴムチェーファー8と、の間に挟み込まれて配置されていてもよい。
ビードフィラ2bは、硬さの異なる複数のゴム部材から構成されてよい(
図5に示す例では3つのゴム部材から構成されている)。かかる場合に、RFタグは、ビードフィラ2bを構成する複数のゴム部材の間に挟み込まれて配置されていてもよい(
図5の符号「P16」参照)。
【0066】
RFタグは、例えば、ゴムチェーファー8と、サイドゴム22と、の間に挟み込まれて配置されてよい(
図5の符号「P14」参照)。このようにすることで、ゴムチェーファー8を配置することにより歪みが集中し難くなった位置に、RFタグを配置することができる。そのため、RFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。
【0067】
RFタグは、ワイヤーチェーファー7と、このワイヤーチェーファー7のタイヤ幅方向Aの内側又は外側で隣接する別の部材と、の間に挟み込まれて配置されていてもよい(
図5の符号「P17」参照)。このようにすることで、タイヤ変形時に、RFタグの位置が変動し難くなる。そのため、タイヤ変形時にRFタグに加わる負荷を低減できる。これにより、RFタグの耐久性を向上させることができる。ワイヤーチェーファー7がタイヤ幅方向Aの内側又は外側で隣接する別の部材は、例えば、ゴムチェーファー8などのゴム部材であってよい(
図5の符号「P17」参照)。また、ワイヤーチェーファー7がタイヤ幅方向Aの内側又は外側で隣接する別の部材は、例えば、カーカス5であってもよい。
【0068】
[国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は「No.12_つくる責任、つかう責任」および「No.13_気候変動に具体的な対策を」などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【符号の説明】
【0070】
1:空気入りタイヤ、 2:ビード部、 2a:ビードコア、 2b:ビードフィラ、 3:サイドウォール部、 4:トレッド部、 5:カーカス、 5a:カーカス本体部、 5b:カーカス巻き付け部、 6:ベルト、 6a:ベースベルト層、 6a1:ベースベルト層の補強コード、 6b:周方向ベルト層、 6c、6d:傾斜ベルト層、 6c1、6d1:傾斜ベルトコード、 6e:保護ベルト層、 6e1:保護ベルト層の補強コード、 7:ワイヤーチェーファー、 8:ゴムチェーファー、 10:周方向ベルトコード、 11:シースストランド、 12:コアフィラメント、 13:シースフィラメント、 21:トレッドゴム、 21a:トレッド面、 21a1:周方向溝、 21a2:中央陸部、 21a3:ショルダ陸部、 22:サイドゴム、 23:クッションゴム、 40:通信装置、 A:タイヤ幅方向、 B:タイヤ径方向、 C:タイヤ周方向、 CL:タイヤ赤道面、 D1:コード径、 D2:フィラメント径、 D2a:コアフィラメントのフィラメント径、 D2b:シースフィラメントのフィラメント径、 TE:トレッド端、 W1:周方向ベルト層の幅、 W2、W3:傾斜ベルト層の幅、 W4:トレッド幅、 θa:ベースベルト層の補強コードの傾斜角度、 θc、θd:傾斜ベルト層の傾斜ベルトコードの傾斜角度、 θe:保護ベルト層の補強コードの傾斜角度