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特開2024-125964イオン選択性を有する化合物、その製造方法およびそれを用いたイオン選択性感応膜
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125964
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】イオン選択性を有する化合物、その製造方法およびそれを用いたイオン選択性感応膜
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20240911BHJP
   G01N 27/333 20060101ALI20240911BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C07F7/18 S
G01N27/333 331A
G01N27/416 351B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034129
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】勝田 正一
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ57
4H049VR22
4H049VR42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イオンを選択的に捕捉する機能を有しかつ簡易に製造可能な特定の構造を有する化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいトリアルキルシリルオキシ基、置換されていてもよいアリール基、または置換されていてもよいアリールアルキル基を表す。)
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいトリアルキルシリルオキシ基、置換されていてもよいアリール基、または置換されていてもよいアリールアルキル基を表す。)
【請求項2】
およびRが、それぞれ独立して、C1~C20アルキル基、トリC1~C20アルキルシリルオキシ基、C6~C20アリール基、またはC7~C20アリールアルキル基を表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
およびRが、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、トリメチルシリルオキシ基、フェニル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基またはフェニルブチル基を表す、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化合物含んでなる、イオン選択試薬。
【請求項5】
前記イオンがアルカリ金属イオンである、請求項4に記載のイオン選択試薬。
【請求項6】
前記イオンがナトリウムイオンである、請求項5に記載のイオン選択試薬。
【請求項7】
請求項1または2に記載の化合物含んでなる、イオン選択性電極用感応膜。
【請求項8】
請求項7に記載のイオン選択性電極用感応膜を備えた、イオン選択性電極。
【請求項9】
下式で表される2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウン-4-エーテルと、下記式(2)で表される化合物とを反応させて、下式(1)で表される化合物を得る工程
を含む、下記式(1)で表される化合物の製造方法。
【化2】
(式中、RおよびRは、請求項1に定義される通りであり、
およびXは、それぞれ独立して、脱離基を表す。)
【請求項10】
およびXは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表す、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン選択性を有する化合物、その製造方法、および、上記化合物を用いたイオン選択性感応膜に関する。より詳細には、アルカリ金属を選択的に補足するイオノホアとして使用可能な化合物、その製造方法、および、上記化合物を用いたイオン選択性感応膜に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中のナトリウムイオン濃度は生体の代謝反応と密接な関係があり、生体中のこのイオン濃度をはじめ、高血圧症状、腎疾患、神経障害等種々の疾病の診断に多く利用されている。その他、環境水や食品管理などの分野においてもナトリウムイオンを分析することは重要である。
【0003】
従来、炎光分析法のようなスペクトル法を用いてナトリウムイオンの測定を行われていたが、スペクトル法は大型の機器が必要であり、測定時間が長いという欠点がある。この問題を解決するため、特定のイオンと選択的に反応するイオノホアを含む感応膜からなる電極がイオンセンサーとして用いられている。
【0004】
このような技術状況下、ナトリウムイオン選択性電極用のイオノホアとして使用可能な種々の化合物が報告されている。このような化合物としては、15-クラウン-5誘導体、4-tert-ブチルカリックス[4]アレーン-四酢酸テトラエチルエステルや、ビス[(12-クラウン-4)メチル]-2-ドデシル-2-メチルマロネートが挙げられる。
【0005】
中でも、下式で表されるビス[(12-クラウン-4)メチル]-2-ドデシル-2-メチルマロネートは、2分子の2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウンー4が1分子のドデシルメチルマロン酸エステルとのエステル結合によって架橋された構造を有しており、2個のクラウン間で1個のナトリウムイオンを挟み込むことにより安定な錯体を生成することが知られている。
【化1】
【0006】
非特許文献1および2には、ビス[(12-クラウン-4)メチル]-2-ドデシル-2-メチルマロネートおよび数種の類縁体の合成について報告されている。また、非特許文献3および特許文献1には、ビス[(12-クラウン-4)メチル]-2-ドデシル-2-メチルマロネートは、優れたナトリウムイオンの選択性を有していること、および、この化合物を用いて製造された感応膜を用いたナトリウムイオン選択性電極が開示されている。
【0007】
しかしながら、市販のビス[(12-クラウン-4)メチル]-2ドデシル-2メチルマロネートは高価であるため、比較的に量が必要なイオノホアとしての大規模な工業生産には必ずしも適さない。また、合成原料であるドデシルメチルマロン酸は市販されておらず、ビス[(12-クラウン-4)メチル]-2ドデシル-2メチルマロネートを簡便に合成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭63-051502号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ikeda, I. et al., Tetrohedron Lett. 1981, 22, 3615-3616
【非特許文献2】Shono, T. et al., J.ELectroanal/ Chem. 1982, 132, 99-105
【非特許文献3】Tamura, H. et al., Anal.Chem. 1982, 54, 1224-1227
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明は、優れたイオン選択性を備え、イオノホアとして使用可能な化合物を簡易に製造する新たな技術的手段を提供することを一つの目的としている。
【0011】
本発明者らは、今般、鋭意研究した結果、イオンを選択的に捕捉することが可能な特定構造を有する化合物を簡易に製造しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0012】
したがって、本発明は、イオンを選択的に捕捉する機能を有しかつ簡易に製造可能な特定の構造を有する化合物を提供することを一つの目的としている。
【0013】
本発明の一実施態様によれば、下記化合物(1)が提供される。
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、または置換されていてもよいアリールアルキル基を表す。)
【0014】
また、本発明の一実施態様によれば、化合物(1)を含んでなる、イオン選択試薬が提供される。
【0015】
また、本発明の一実施態様によれば、化合物(1)を含んでなる、イオン選択性電極用感応膜が提供される。
【0016】
また、本発明の一実施態様によれば、上記イオン選択性電極用感応膜を備えた、イオン選択性電極が提供される。
【0017】
また、本発明の一実施態様によれば、下式で表される2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウン-4-エーテルと、化合物(2)とを反応させて、化合物(1)を得る工程
を含む、化合物(1)の製造方法。
【化3】
(式中、RおよびRは、上記で定義される通りであり、
およびXは、それぞれ独立して、脱離基を表す。)
【0018】
本発明によれば、イオン選択性に優れかつ簡易に製造可能な化合物を提供することができる。本発明の化合物は、ナトリウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオンを選択に補足する優れた機能を有し、原材料を入手することが容易で製造方法も簡易であることから、製造コストを低減し、イオン選択性電極やそれに用いる感応膜を工業生産する上で有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図1B】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシランのESI-MSのチャートである。
図2A】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図2B】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シランのESI-MSのチャートである。
図3A】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジオクチルシランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図3B】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジオクチルシランのESI-MSのチャートである。
図4A】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ](メチル)(2-フェニルエチル)シランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図4B】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ](メチル)(2-フェニルエチル)シランのESI-MSのチャートである。
図5A】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジフェニルシランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図5B】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジフェニルシランのESI-MSのチャートである。
図6】ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシランを適用したナトリウムイオン選択性電極を使用した場合の、NaCl水溶液、またはNaClとKCl共存の水溶液中のナトリウムイオンの活量aNaと電極間電位差(起電力)Eとの関係と示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<定義>
以下、本明細書で用いられる用語および表現について説明する。以下の定義は、別段規定される場合を除き、本明細書を通じて適用される。例えば、「アルキル基」の定義は、「アルキル」または「アルキル基」を含む官能基(例えば、トリアルキルシリルオキシ基、アリールアルキル基等)に関しても適用される。
【0021】
本明細書において、例えば、「C~C」とは炭素数1~6個を有することを意味する。
【0022】
「アルキル基」は、アルカンから1個の水素原子を除去することにより生成される1価の官能基を意味する。アルキル基は、鎖状、環状およびこれらの組み合わせのいずれであってもよい。なお、環状のアルキル基は「シクロアルキル基」と同義である。鎖状は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。アルキル基は、好ましくは、直鎖状または分岐鎖状である。直鎖状のアルキル基の炭素数は、通常1~20個、好ましくは、1~10個、1~8個、1~6個、1~4個、または1~3個である。分岐鎖状のアルキル基の炭素数は、通常3~20個、好ましくは、3~10個、3~8個、3~6個、または3~4個である。環状のアルキル基の炭素数は、通常3~20個、好ましくは、3~10個、3~8個、または3~6個である。直鎖状または分岐鎖状部分と環状部分とを有するアルキル基の炭素数は、通常4~20個、好ましくは、4~10個、4~8個、または4~6個である。
【0023】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のC~Cアルキル基;ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、1,2,2-トリメチルブチル基、1,3,3-トリメチルブチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、2,3,3-トリメチルブチル基、1-プロピルブチル基、1,1,2,2-テトラメチルプロピル基、オクチル基、1-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1-エチル-1-メチルペンチル基、ノニル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、7-メチルオクチル基、1-エチルヘプチル基、1,1-ジメチルヘプチル基、6,6-ジメチルヘプチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、6-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-プロピルヘプチル基等の基を挙げることができるが、C~C10アルキル基またはC~C20アルキル基が好ましい。このようなアルキル基の好ましい例は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基またはオクチル基等の直鎖状または分岐鎖状部分と環状部分とを有するアルキル基等が挙げられる。
【0024】
「トリアルキルシリルオキシ基」は、式:(*)-O-Si-(アルキル基)で表される。(*)は、酸素原子(O)の結合手を表す。
【0025】
トリアルキルシリルオキシ基としては、例えば、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリプロピルシリルオキシ基、トリブチルシリルオキシ基等が挙げられる。
【0026】
「アリール基」は、芳香族炭化水素環から水素原子を除去することにより生成される単環式または多環式(例えば、2環式または3環式)の芳香族炭素水素環基を意味する。「芳香族炭化水素環基」は、文脈に応じて、1価または2価の官能基を意味し得るが、好ましくは1価の官能基である。
【0027】
アリール基は、通常1~4環式、好ましくは1~3環式、より好ましくは1または2環式の芳香族炭素水素環基である。アリール基における環構成炭素原子の数は、通常6~18個、好ましくは6~14個、より好ましくは6~10個である。
【0028】
単環式のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0029】
アリール基には、縮合多環式の芳香族炭化水素環基および部分的に飽和された縮合多環式の芳香族炭化水素環基も包含される。部分的に飽和された縮合多環式の芳香族炭化水素環基は、環を構成する結合の一部が水素化された縮合多環式の芳香族炭化水素環基である。縮合多環式の芳香族炭化水素環基としては、例えば、ナフチル基、アントリル基、フェナントレニル基、テトラセニル基、ピレニル基等の2~4環式の芳香族炭素水素環基に加えて、フルオレニル基、インデニル基、アセナフチレニル等が挙げられる。部分的に飽和された縮合多環式の芳香族炭化水素環基としては、例えば、ジヒドロナフチル基、インダニル基、アセナフテニル基等が挙げられる。
【0030】
より具体的には、アリール基は、好ましくは単環式または2環式芳香族性炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基、ナフチル基等の炭素数6~10のアリール基であり、より一層好ましくはフェニル基である。
【0031】
アリールアルキル基の炭素数は、通常7~20個、好ましくは7~15個である。アリールアルキル基としては、例えば、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニルなどのアリール基で置換されたアルキル基が挙げられるが、好ましくはベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、2-フェニルプロピル基、1-フェニルプロピル基、α-ナフチルメチル基、α-ナフチルエチル基、β-ナフチルメチル基、β-ナフチルエチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基等であり、より好ましくは2-フェニルエチル基である。
【0032】
「アリールアルキル基」は、式:(*)-アルキル基-アリール基で表される。(*)は、アルキル基の結合手を表す。
【0033】
より具体的には、アリールアルキル基は、好ましくはフェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、またはフェニルブチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ヘキシル基、フェニル基、フェニルメチル基または2-フェニルエチル基等である。
【0034】
ある官能基に関して「置換基を有していてもよい」という表現は、当該官能基の1個以上の水素原子が、それぞれ独立して、他の原子または原子団で置き換えられていてもよいことを意味し、置換基を有していてもまたは無置換であってもよいことと同義である。
【0035】
基または基の一部としてのアルキル基の炭素数が1~4個である場合、アルキル基が有し得る置換基の数は、通常1~3個、好ましくは1または2個、より好ましくは1個である。アルキル基の炭素数が5~9個である場合、アルキル基が有し得る置換基の数は、通常1~6個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、より一層好ましくは1または2個である。アルキル基の炭素数が10個以上である場合、アルキル基が有し得る置換基の数は、通常1~9個、好ましくは1~5個、より一層好ましくは1~4個、より一層好ましくは1または2個である。
【0036】
基または基の一部としてのアリール基が有し得る置換基の数は、芳香族炭化水素環基の炭素数、員数等に応じて適宜決定することができる。芳香族炭化水素環基は、置換可能位置に、例えば1~5個、好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、より一層好ましくは1または2個の置換基を有することができる。芳香族炭化水素環基が2個以上の置換基を有する場合、2個以上の置換基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
置換基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、スルホニル、スルホニル基、カルボキシル基またはアシル基等が挙げられるが、好ましい置換基の例としては、C~Cアルコキシ基またはハロゲン原子(好ましくはフッ素原子または塩素原子等)である。
【0038】
アルコキシ基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0039】
アシル基の例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、iso-ブチリル基、バレリル基、カプロイル基、ベンゾイル基等を挙げられる。
【0040】
アリールアルキル基、トリアルキルシリルオキシ基における置換基は、アルキル基およびアリール基における置換基と同様とされる。
【0041】
「脱離基」とは、当業者に公知の脱離基であり、Green’s Protective Groups in Organic Synthesis(Wuts, Peter G.M., John WIley & Sons Inc.)等に記載のものが挙げられ、好ましくはハロゲン原子とされる。
【0042】
「室温」とは、10℃~35℃を示す。
【0043】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を示す。
【0044】
<式(1)で表される化合物>
本発明の一実施態様によれば、化合物(1)が提供される。式(1)で表される化合物が、顕著なイオン選択性を有し、アルカリ金属イオンをはじめとするイオンの効率的な抽出に使用しうることは意外な事実である。
【0045】
【化4】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいトリアルキルシリルオキシ基、置換されていてもよいアリール基、または置換されていてもよいアリールアルキル基を表す。)
【0046】
本発明の一実施態様によれば、上記式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基またはアリールアルキル基を表す。
【0047】
また、本発明の好ましい実施態様によれば、上記式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、C1~C20アルキル基、トリC1~C20アルキルシリルオキシ基、C6~C20アリール基、またはC7~C20アリールアルキル基を表す。
【0048】
また、本発明のより好ましい実施態様によれば、上記式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、C1~C10アルキル基、トリC1~C10アルキルシリルオキシ基、C6~C10アリール基、またはC7~C10アリールアルキル基を表す。
【0049】
また、本発明の具体的な実施態様によれば、上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、トリメチルシリルオキシ基、フェニル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、またはフェニルブチル基を表す。
【0050】
また、本発明の具体的な実施態様によれば、上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基、トリメチルシリルオキシ基、フェニル基、フェニルメチル基または2-フェニルエチル基を表す。
【0051】
化合物(1)は、2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウン-4-エーテルと、シラン化合物(2)を使用して、簡易かつ効率的に製造することができる。したがって、本発明の別の実施態様によれば、下式で表される2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウン-4-エーテルと、化合物(2)とを反応させて、化合物(1)を得る工程を含む、化合物(1)の製造方法が提供される。
【0052】
【化5】
(式中、RおよびRは、上記の通りであり、
およびXは、それぞれ独立して、脱離基を表す。)
【0053】
本発明の一実施態様によれば、XおよびXは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、好ましくは塩素原子である。
【0054】
2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウン-4-エーテルの使用量は、化合物(2)1モル対して、通常2~3当量、好ましくは2~2.5当量、より好ましくは2~2.2当量である。化合物(2)におけるR、R2の具体的態様および組合せは、上記化合物(1)におけるR、R2の具体的態様および組合せと同様とされる。
【0055】
(溶媒)
上記反応において、溶媒を使用しなくともよいが、反応を妨げない限り溶媒を使用してもよい。溶媒の種類は、反応を妨げない限り特に限定されず、当該技術分野で用いられるものを使用してよいが、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン等が挙げられる。溶媒の使用量は、反応が進行する限りは、いずれの量でもよい。反応における溶媒の使用量は、当業者であれば適切に調整できる。
【0056】
(反応温度)
反応温度は、特に限定されない。一つの様態においては、収率の向上、副生成物の抑制、および経済効率等の観点から、上記反応温度は、例えば、10℃~50℃の範囲であり、好ましくは室温であり、より好ましくは10℃~30℃の範囲である。
【0057】
(反応時間)
反応時間は、特に限定されない。一つの様態においては、収率の向上、副生成物の抑制、および経済効率等の観点から、上記反応時間は、例えば、6時間~48時間の範囲である。しかしながら、反応時間は、当業者であれば適切に調整でき、例えば、反応によって発生するX,Xと水素との反応物の発生が終了するまで反応を継続してもよい。
【0058】
(後処理)
上記反応の後処理としては、反応液からの生成物を取得するための一般的な処理を行えばよい。例えば、反応終了後の反応液に水を添加し、一般的な抽出溶媒、例えば、ジクロロメタン、トルエン、ヘキサン等を用いて抽出操作を行う。得られた抽出液から反応溶媒および抽出溶媒を減圧留去すると、目的物が得られる。このようにして得られる目的物は、必要であれば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の一般的精製を行い、さらに純度を高めてもよい。
【0059】
<イオン選択試薬>
化合物(1)は、上述の通り、優れたイオン選択機能を有しており、イオノホア、ないしイオン選択試薬として有利に利用することができる。したがって、本発明の一実施態様によれば、化合物(1)を含んでなるイオン選択試薬が提供される。
【0060】
化合物(1)により選択されるイオンは、好ましくはアルカリ金属イオンであり、より好ましくは、ナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンであり、より一層好ましくはナトリウムイオンである。
【0061】
<イオン選択性電極用感応膜>
また、本発明の一実施態様によれば、化合物(1)を含んでなる、イオン選択性電極用感応膜が提供される。
【0062】
イオン選択性電極用感応膜における化合物(1)の量は、特に限定されないが、感応膜全量に対して、乾燥質量換算で、例えば0.5~20質量%、好ましくは1~10質量%である。
【0063】
本発明の一実施態様によれば、上記感応膜は固体膜または液膜として用いられる。固体膜は、支持体としての水不溶性固体有機重合体中に化合物(1)を均一に分散させて形成することができる。ここに、重合体は、ニュートラルキャリヤーである化合物(1)を膜状に支持するためのマトリックスを形成して、ニュートラルキャリヤーが試料水溶液中のアルカリ金属イオンがマトリックス内に適度に拡散し得る性質を有すれば任意の水不溶性固体重合体を用いることができる。水不溶性固体重合体としては、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、シリコンゴム、パラフィン、コロジオン等の一種又は二種以上の混合物が挙げられるが、ポリ塩化ビニルを使用することが好ましい。
【0064】
イオン選択性電極用感応膜における支持体の量は、特に限定されないが、感応膜全量に対して、乾燥質量換算で、例えば、10~50質量%、好ましくは20~40質量%である。
【0065】
化合物(1)を用いるイオン選択性電極用感応膜は、親油性陰イオンにより妨害を受け、分析結果に影響を与えることがある。そのため、陰イオンによる妨害を排除するため、通常、化合物(1)を用いるイオン選択性電極には、アニオン排除剤を含有させることが好ましい。
【0066】
アニオン排除剤として、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaTPB)、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム(NaTFPB)、テトラキス[3,5-ビス](2-メトキシヘキサフルオロ-2-プロピル)フェニル]ホウ酸ナトリウム(NaHFPB)等が挙げられる。
【0067】
イオン選択性電極用感応膜におけるアニオン排除剤の量は、特に限定されないが、感応膜全量に対して、乾燥質量換算で、例えば、0~20質量%、好ましくは0.1~10質量%である。
【0068】
また、イオン選択性電極用感応膜には、可塑剤やその他必要な添加剤を適宜含有させてもよい。可塑剤として、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、フタル酸ジペンチル(DPP)、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)(以TEHP)、o-ニトロフェニルオクチルエーテル(NPOE)またはその誘導体である2-フルオロ-2′-ニトロジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0069】
イオン選択性電極用感応膜の調製方法は、公知の製造方法を適用することができる。例えば、化合物(1)、支持体、アニオン排除剤、およびその他の添加剤を溶媒(THF等)に溶解して化合物(1)溶液を得る。そして、メンブレンフィルターを電極キャップの先に貼り、化合物(1)溶液滴下した後、溶媒を蒸発除去し、乾燥させ、イオン選択性電極用固体膜を得ることができる。
【0070】
イオン選択性電極用感応膜が液膜である場合、液膜は、化合物(1)を水不溶性極性有機溶剤に溶解することにより形成することができる。水不溶性極性有機溶剤としては、高級アルコール、芳香族及び脂肪族炭化水素のニトロ置換体やハロゲン置換体、芳香族エーテル、有機リン化合物等が挙げられる。好ましい具体例としては、1-デカノール、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジフェニルエーテル、1,2-ジクロルエタン又はジオクチルフェニルホスホナート等が挙げられる。
【0071】
液膜における化合物(1)の量は液膜全量に対して、例えば、0.5~20質量%、好ましくは1~10質量%である。
【0072】
液膜は通常、セラミックスやセルロース質の多孔性支持体中に保有されて電極として用いられる。フッ素樹脂からなる多孔性フィルム、例えばミリポア膜も好ましい支持体の一つである。
【0073】
<イオン選択性電極>
また、本発明の一実施態様によれば、上記イオン選択性電極用感応膜を備えた、イオン選択性電極が提供される。
【0074】
イオン選択性電極は、例えば、化合物(1)を含むイオン選択性電極用感応膜を成型し、プローブ形電極筒の端部に溶媒(THF等)を用いて接着させることにより製造することができる。
【0075】
本発明の一実施態様によれば、以下が提供される。
[1]下記式(1)で表される化合物。
【化6】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいトリアルキルシリルオキシ基、置換されていてもよいアリール基、または置換されていてもよいアリールアルキル基を表す。)
[2]RおよびRが、それぞれ独立して、C1~C20アルキル基、トリC1~C20アルキルシリルオキシ基、C6~C20アリール基、またはC7~C20アリールアルキル基を表す、[1]に記載の化合物。
[3]RおよびRが、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、トリメチルシリルオキシ基、フェニル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基またはフェニルブチル基を表す、[1]または[2]に記載の化合物。
[4][1]または[2]に記載の化合物含んでなる、イオン選択試薬。
[5]前記イオンがアルカリ金属イオンである、[4]に記載のイオン選択試薬。
[6]前記イオンがナトリウムイオンである、4]に記載のイオン選択性電極用感応膜。
[7][1]または[2]に記載の化合物含んでなる、イオン選択性電極用感応膜。
[8][7]に記載のイオン選択性電極用感応膜を備えた、イオン選択性電極。
[9]下式で表される2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウン-4-エーテルと、下記式(2)で表される化合物とを反応させて、下式(1)で表される化合物を得る工程
を含む、下記式(1)で表される化合物の製造方法。
【化7】
(式中、RおよびRは、請求項1に定義される通りであり、
およびXは、それぞれ独立して、脱離基を表す。)
[10]XおよびXは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表す、[9]に記載の方法。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0077】
製造例
例1:ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシランの製造
【化8】
【0078】
モレキュラーシーブで乾燥させた2-(ヒドロキシメチル)-12-クラウン-4(0.75g、0.0036mol)とジブチルジクロロシラン(0.38g、0.0018mol)とを混合し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌し続けながら室温で30時間反応させた。気体として生成したHClを検出し、検出されなくなった点を終点とした。得られた反応液にトルエン10mLを加え、水10mLで3回洗浄した後、有機相を分離し、溶媒を留去し、五酸化二リンを入れたデシケータ中で減圧乾燥し、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシラン81mg(収率は82%)を得た。
【0079】
図1Aは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図1Bは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシランのESI-MSのチャートである。
【0080】
H NMR(CDCl)δ0.61(4H,t,CHJ6.6,butyl),0.88(6H,t,CHJ7.0,butyl),1.31-1.35(8H,m,CHCH,butyl),3.62-3.76(34H,m,crown)
【0081】
ESI-MS:[C265210Si(M)+NH ]=570.3668、[C265210Si(M)+Na]=575.3221、[C265210Si(M)+K]=591.2958
【0082】
例2:ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シランの製造
【化9】
【0083】
ジブチルジクロロシランに代えて、ジクロロビス(2-エチルヘキシル)シランを用いる以外、製造例1と同様の手法により、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シラン(収率83%)を得た。
【0084】
図2Aは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図2Bは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シランのESI-MSのチャートである。
【0085】
H NMR(CDCl)δ0.60(4H,d,CHJ7.2,hexyl),0.83(6H,t,CHJ7.6,hexyl),0.89(6H,t,CHJ7.6,ethyl),1.19-1.37(14H,m,CH,CH,hexyl),1.46-1.51(4H,m,CH,ethyl),3.65-3.76(34H,m,CH,CH,crown)
【0086】
ESI-MS:[C346810Si(M)+NH ]=682.4922、[C346810Si(M)+Na]=687.4473、[C346810Si(M)+K]=703.4213
【0087】
例3:ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジオクチルシランの製造
【化10】
【0088】
ジブチルジクロロシランに代えて、ジクロロジオクチルシランを用いる以外、製造例1と同様の手法により、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジオクチルシラン(収率88%)を得た。
【0089】
図3Aは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジオクチルシランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図3Bは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジオクチルシランのESI-MSのチャートである。
【0090】
H NMR(CDCl)δ0.60(4H,t,CHJ8.2,octyl),0.88(6H,t,CHJ7.0,octyl),1.26-1.43(24H,m,(CH,octyl),3.62-3.76(34H,m,crown)
【0091】
ESI-MS:[C346810Si(M)+NH ]=682.4922、[C346810Si(M)+Na]=687.4469、[C346810Si(M)+K]=703.4207
【0092】
例4:ビス[(12-クラウン-4)メトキシ](メチル)(2-フェニルエチル)シランの製造
【化11】
【0093】
ジブチルジクロロシランに代えて、ジクロロ(メチル)(2-フェニルエチル)シランを用いる以外、製造例1と同様の手法により、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ](メチル)(2-フェニルエチル)シラン(収率79%)を得た。
【0094】
図4Aは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ](メチル)(2-フェニルエチル)シランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図4Bは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ](メチル)(2-フェニルエチル)シランのESI-MSのチャートである。
【0095】
H NMR(CDCl)δ0.12(3H,s,CH),0.98(2H,t,CHJ9.4,CH),2.69(2H,t,CHJ9.0,CH),3.63-3.75(34H,m,CH,CH,crown),δ7.15-7.29(5H,m,CH,phenyl)
【0096】
ESI-MS:[C274610Si(M)+NH ]=576.3188、[C274610Si(M)+Na]=581.2744、[C274610Si(M)+K]=597.2482
【0097】
例5:ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジフェニルシランの製造
【化12】
【0098】
ジブチルジクロロシランに代えて、ジクロロジフェニルシランを用いる以外、製造例1と同様の手法により、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジフェニルシラン(収率89%)を得た。
【0099】
図5Aは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジフェニルシランのH NMR(400MHZ,CDCl)チャートである。
図5Bは、ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジフェニルシランのESI-MSのチャートである。
【0100】
H NMR(CDCl)δ3.60-3.78(34H,m,CH,CH,crown),7.35-7.43(6H,m,CH,phenyl),7.63-7.66(4H,m,CH,phenyl)
【0101】
ESI-MS:[C304410Si(M)+NH ]=610.3041、[C304410Si(M)+Na]=615.2590、[C304410Si(M)+K]=631.2328
【0102】
参考例1:ビス[(12-クラウン-4)メチル]-2-ドデシル-2-メチルマロネート
参考例1として、以下の式で表される市販のビス[(12-クラウン-4)メチル]-2-ドデシル-2-メチルマロネート(富士フィルム和光純薬株式会社製)を以下の試験で使用した。
【0103】
【化13】
【0104】
参考例2:ビス[(12-クラウン-4)メチル]マロネート
【化14】
【0105】
参考例2として、以下の式で表されるビス[(12-クラウン-4)メチル]マロネートを採用し、T.Maeda,M.Ouchi,K.Kimura,and T.Shono,Chem. Lett.1981,1573-1574に記載の分配比(D)を参考値として以下の試験に使用した。
【0106】
参考例3:15-クラウン-5
【化15】
【0107】
参考例3として、以下の式で表される15-クラウン-5を採用し、Y. Takeda,N.Ikeo,and N.Sakata,Talanta 1991,38,1325-1333に記載の分配比(D)を参考値として以下の試験に使用した。
【0108】
参考例4:ベンゾ-15-クラウン-5
【化16】
【0109】
参考例4として、以下の式で表されるベンゾ-15-クラウン-5を採用し、Y. Takeda,K.Hashimoto,D.Yoshiyama,and S.Katsuta,J.Incl.Phenom.Macrocycl.Chem.2002,42,313-321に記載の分配比(D)を参考値として以下の試験に使用した。
【0110】
試験例1
アルカリ金属イオン(M=Li、NaまたはK)とピクリン酸イオン(A)とを含む0.010mol/L MA水溶液と、被検化合物L0.0025~0.015mol/Lのジクロロメタン溶液とを混合した。次に、紫外可視光吸光度法により水相中のピクリン酸イオン(A)の濃度を測定し、炎光分析法により有機相(ジクロロメタン)中のアルカリ金属イオンの濃度を測定した(n=5~6)。
【0111】
ここで、水中のアルカリ金属イオンMは、次の式により有機相に抽出される。
【数1】
(式中、添字o有りの場合は有機相の化学種を表す。添字o無しの場合は水相の化学種を示す。)
【0112】
上記抽出反応の平衡定数Kexについて、以下の手順に従い、例1(ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシラン)と、参考例1(ビス[(12-クラウン-4)メチル]-2-ドデシル-2-メチルマロネート)の場合について算出した。ここで、Kexは大きいほどイオン抽出能が高いことを意味している。
【0113】
まず、式(I)で表されるように、アルカリ金属の分配比(D)を算出する。
ここで、添字oは有機相の濃度を表し、添字wは水相の濃度を表す。
【数2】
【0114】
一方で、平衡定数Kexは、式(II)により表される。
【数3】
【0115】
式(II)に式(I)を代入して変形すると、アルカリ金属の分配比(D)は式(III)に示される通りとなる。
【数4】
【0116】
次に、式(III)において、両辺対数をとり、変形すると、下記の数式(IV)に示すようになる。
【数5】
測定したピクリン酸イオン(A)の濃度及びアルカリ金属の分配比(D)を上記数式(4)に代入して、Kexを計算することが可能である。
【0117】
結果は、表1に示される通りであった(平均値)。Kexはその値が大きいほど抽出能が高いことを示すことから、例1および参考例1はいずれもNa選択的であることが判る。
また、全てのアルカリ金属において、例1の方が参考例1よりもKexが高かった。
また、Kex比(Na/K)は、例1(30)の方が参考例1(20)よりも高かった。Kex比(Na/Li)についても、例1(660)の方が参考例1(550)よりも高かった。
【0118】
【表1】
【0119】
試験例2
アルカリ金属イオン(M=NaまたはK)を用いた場合の上記抽出反応の平衡定数KexおよびKex比(Na/K)に関して、例1の化合物と、参考例2~4の化合物とを比較した。例1については、試験例1で得られたKexおよびKex比(Na/K)を用い、参考例2~4については、Maeda,M.Ouchi,K.Kimura,and T.Shono,Chem. Lett.1981,1573-1574に記載の分配比(D)に基づき算出したKexおよびKex比(Na/K)を用いた。
【0120】
結果は、表2に示される通りであった(平均値)。
【表2】
【0121】
例1および参考例2~4はいずれもNa選択的であった。
また、NaのKexおよびKex比(Na/K)において、例1の方が参考例2~4よりも高かった。
【0122】
試験例3
3-1
例2において合成したビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シラン 9.01mg(0.0135mmoL)、ポリ塩化ビニル(PVC)50.32mg、溶媒(2-ニトロフェニルオクチルエーテル(NPOE))130.05mg、およびアニオン排除剤(テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルホウ酸ナトリウム(NaTFPB)]1.53mg(0.00173mmoL)をTHF溶液3mLに溶解した。次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルターを電極キャップの先に貼り、上記THF溶液を1滴滴下後、THFを蒸発除去した。この滴下およびTHF蒸発の操作を10回繰り返した後、一晩常温で乾燥し、PVC膜を感応膜とするイオン選択性電極を作成した。次に、参照電極はダブルジャンクション型銀-塩化銀参照電極(Ag・AgCl/3.3mol/L KCl/0.10mol/L NHNO)を選択し、イオン選択性電極と共に10-6~10-1MのNaCl水溶液に浸し、2つの電極間の起電力を測定した。
また、NaCl溶液において0.05mol/LのKClを共存させて、NaClのみの水溶液と同様に起電力を測定した。
【0123】
結果は、図6に示される通りであった。図6において、縦軸Eは起電力を表し、横軸のaNaはNaの活量(ほぼ濃度に等しい)を表す。
NaClのみの水溶液では、Naの活量10-4mol/L以上の領域において、傾き59mVの直線、すなわちネルンスト応答が確認された。
NaCl溶液において0.05mol/LのKClを共存させた場合には、Naの活量10-3mol/L以上の領域においてネルンスト応答が確認された。
【0124】
3-2
図6のグラフから、例2の化合物について、Nikolsky-Eisenmanの式:
【数6】
を用いて解析することにより、Na-Mの間の選択係数KNa-Mを求めた。具体的には、Na-Kの間の選択係数KNa-Kを求め、また、妨害イオンがLiの場合についても同様の実験を行いNa-Liの間の選択係数KNa-Liを求めた。
また、例2(ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ビス(2-エチルヘキシル)シラン)に代えて、例1(ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジブチルシラン)および例3(ビス[(12-クラウン-4)メトキシ]ジオクチルシラン)を用いて同様の実験を行い、参考例1のKNa-KおよびKNa-Liを求めた。
【0125】
結果は、表3に示される通りであった。
Na-Mは、その値が小さい程、電極応答がMよりもNaに対して選択的であることを示す。例1、例2および例3は、いずれもLiやKよりもNaに対して選択的であることが確認された。
【0126】
【表3】
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6