(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125965
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】発電デバイス、発電装置、および冷却デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 10/13 20230101AFI20240911BHJP
H10N 10/853 20230101ALI20240911BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20240911BHJP
【FI】
H10N10/13
H10N10/853
H10N10/17 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034130
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 厚介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 智英
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康次
(57)【要約】
【課題】熱電発電技術を用いた強制冷却が不要で昼夜を問わず1日中自発的に温度差をつけて高出力の発電が可能な発電デバイス、発電装置、並びに素子の面内方向において十分な温度差を生じさせる冷却デバイスを提供する。
【解決手段】膜状の熱電素子である熱電層1と、熱電層1上に太陽光を反射しかつ熱放射する放射冷却層2と太陽光を透過する透過層3とをそれぞれ設け、放射冷却層2を積層した側の熱電層1と透過層3を積層した側の熱電層1との間の温度差により起電力を生じさせる。また、主面を備えた基板5と、基板上の主面の一部に設けられた放射冷却層2とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜状の熱電素子である熱電層と、前記熱電層上に光を反射しかつ熱放射する放射冷却層と光を透過する透過層とをそれぞれ設け、
前記放射冷却層を積層した側の前記熱電層と前記透過層を積層した側の前記熱電層との面内方向間の温度差により起電力を生じる、発電デバイス。
【請求項2】
膜状の熱電素子である熱電層と、前記熱電層上の一部領域に光を反射しかつ熱放射する放射冷却層を設け、
前記放射冷却層を積層した側の前記熱電層と前記放射冷却層を積層していない側の前記熱電層との面内方向間の温度差により起電力を生じる、発電デバイス。
【請求項3】
光照射環境下で熱電層の横方向に自発的に15℃以上、かつ光が照射されていない環境下で5℃以上の温度差が得られる請求項1または請求項2に記載の発電デバイス。
【請求項4】
前記放射冷却層は、30μm以上の酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウムのいずれかから選択された膜であり、その膜の上面から見た形状は円形、長方形、台形、縞状形状およびその組み合わせから成る請求項1または請求項2に記載の発電デバイス。
【請求項5】
前記透過層は、光透過性樹脂(アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂)のうちいずれかから選択される請求項1に記載の発電デバイス。
【請求項6】
基板と、前記基板上に設けた複数の電極と、膜状の熱電素子である熱電層と、前記熱電層上に光を反射しかつ熱放射する放射冷却層と光を透過する透過層とをそれぞれ設け、
前記複数の電極の一方の電極は前記放射冷却層を積層した側の前記熱電層に接し、かつ前記複数の電極の他方の電極は前記透過層を積層した側の前記熱電層に接する構造であり、前記放射冷却層を積層した側の前記熱電層と前記透過層を積層した側の前記熱電層との面内方向間の温度差により生じた起電力で発電する、発電装置。
【請求項7】
基板と、前記基板上に設けた複数の電極と、膜状の熱電素子である熱電層と、前記熱電層上の一部に光を反射しかつ熱放射する放射冷却層を設け、
前記複数の電極の一方の電極は前記放射冷却層を積層した側の前記熱電層に接し、かつ前記複数の電極の他方の電極は前記放射冷却層を積層していない側の前記熱電層に接する構造であり、前記放射冷却層を積層した側の前記熱電層と前記放射冷却層を積層していない側の前記熱電層との面内方向間の温度差により生じた起電力で発電する、発電装置。
【請求項8】
主面を備えた基板と、前記基板上であって、前記主面の一部に設けられた放射冷却層とを備え、前記放射冷却層の放射冷却により、前記基板において前記放射冷却層を設けた部分と、前記基板において前記放射冷却層を非配置とした部分の面内方向において温度差を生じさせることが可能な冷却デバイス。
【請求項9】
前記放射冷却層は、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化マグネシウムのいずれかから選択された膜である請求項8記載の冷却デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜状の熱電素子の両端に温度差を生じさせることで起電力が発生し発電させる発電デバイス、発電装置、並びに素子の両端に十分な温度差を生じさせる冷却デバイス、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年地球温暖化に影響を及ぼすとされる二酸化炭素等の温室効果ガスの削減が世界的な課題となっている。再生可能エネルギーの一つとして太陽エネルギーがあり、太陽エネルギーの利用は大きく分けて光利用と熱利用がある。光利用は半導体の太陽電池を用いて太陽光発電を行う技術が良く知られており、熱利用は太陽温水器の利用が知られている。しかし太陽光発電も太陽温水器も夜間は性能を十分に発揮できないという欠点がある。
【0003】
また他の熱利用技術として昼夜を問わず発電することが可能な熱電発電技術、発電デバイスが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
熱電発電技術とは、熱電素子の両端に温度差を形成させることで起電力が発生し、発電させる技術である。この熱電発電技術は熱電素子材料および温度差によって発電量が決まるものであるが、自然環境下にて十分な温度差を形成させる技術は、放熱フィンの装着や水冷などの強制冷却といった方法しかなかった。そのような中で、例えば硫酸バリウムは、太陽光の可視光から近赤外光領域の波長を反射してふく射熱を放出する性質を持ち、放射冷却材料として現在注目されており、夜間においても外気温と10℃の温度差を得られるという特徴を持つ(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ACS Appl. Mater. Interfaces, 13, 21733-21739(2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来技術の熱電素子を用いた発電デバイスは、熱電素子全体を太陽光から遮断し放射冷却することにより膜状の熱電素子に対して垂直方向での温度差を形成する構造であり、硫酸バリウム等の性能の高い材料を用いても、冷却部に放熱フィンの装着や水冷などの強制冷却を使用しなければ夜間には十分な温度差が得られず、高出力の発電を行うことは困難であった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、冷却部に放熱フィンの装着や水冷などの強制冷却を使用しないでも昼夜を問わず1日中高出力の発電が可能な発電デバイス、発電装置、および十分な温度差を生じさせる冷却デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明の発電デバイスは、膜状の熱電素子である熱電層と、前記熱電層上に太陽光を反射しかつ熱放射する放射冷却層と太陽光を透過する透過層とをそれぞれ設け、前記放射冷却層を積層した側の前記熱電層と前記透過層を積層した側の前記熱電層との面内方向間の温度差、すなわち膜状の熱電素子である熱電層に対し、膜の面内方向に温度差を生じさせることにより電力を生じる、発電デバイスである。
また本発明の冷却デバイスは、主面を備えた基板と、前記基板上であって、前記主面の一部に設けられた放射冷却層とを備え、前記放射冷却層の放射冷却により、前記基板において前記放射冷却層を設けた部分と、前記基板において前記放射冷却層を非配置とした部分の面内方向において温度差を生じさせることが可能な冷却デバイスである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、膜状の熱電素子である熱電層に対し、膜の面内方向に温度差を形成させることにより、強制冷却が不要で昼夜を問わず1日中自発的に温度差をつけて高出力の発電が可能である。また、十分な温度差を生じさせる冷却デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態1における発電デバイス、発電装置の模式的な断面図
【
図2】本発明の実施形態1における他の発電デバイス、発電装置の模式的な断面図
【
図3】本発明に係る発電デバイス、発電装置の製造工程を説明するための図
【
図4】本発明に係る発電デバイス、発電装置の製造工程の一部である電極トリミング工程を説明するための図
【
図5】本発明に係る発電デバイスの製造工程の一部工程の変形例を説明するための図
【
図6】本発明に係る発電デバイスの電極の様々な構成例を示す模式図
【
図7】本発明に係る発電デバイスの熱電層の様々な構成例を示す模式図
【
図8】本発明に係る発電デバイスの放射層の様々な構成例を示す模式図
【
図9】本発明の実施形態2における冷却デバイスを示す模式図
【
図10】本発明に係る冷却デバイスの実施例における測定方法を示す模式図
【
図11(A)】本発明に係る冷却デバイスの実施例における設定温度25℃および30℃の測定データを示すグラフ
【
図11(B)】本発明に係る冷却デバイスの実施例における設定温度50℃および75℃の測定データを示すグラフ
【
図11(C)】本発明に係る冷却デバイスの実施例における設定温度100℃および150℃の測定データを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は以下の実施の形態には限定されない。
【0013】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る発電デバイスは、膜状の熱電素子である熱電層と、熱電層上に太陽光を反射しかつ熱放射する放射冷却層と太陽光を透過する透過層とをそれぞれ設け、放射冷却層を積層した側の熱電層と透過層を積層した側の熱電層との面内方向間の温度差により電力を生じさせる、発電デバイスであり、発電装置としては、電力を取り出すための電極等を備えている。
【0014】
以下、図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態1における発電デバイス、発電装置の模式的な断面図である。発電デバイス、発電装置は、熱電層1、放射冷却層2、透過層3、電極4、基板5を備えている。
【0015】
熱電層1は、積層させた膜状の熱電素子であり、熱電素子の両端に温度差を形成させることで起電力が発生し発電させることができる。発電素子材料と温度差によって発電量は決まる。
【0016】
放射冷却層2は、太陽光を反射しかつ熱放射する材料からなり、30um以上の二酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウムのいずれかから選択された膜であり、円形、長方形、台形、縞状形状およびその組み合わせが望ましい。なお放射冷却層2の上面から見た形状とその配置は、種々の構成が考えられ、別途詳細に後述する。なお、本実施の形態では、太陽光を例示したが、特に自然光の一つである太陽光に限定するものではなく、LED、蛍光灯や電熱球等の人工の光でもよいし、自然光と人工光を混合させたものでも良い。また、別の観点においては、可視光や紫外光でもよい。
【0017】
透過層3は、光透過性樹脂(アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂)のうちいずれかから選択される材料が望ましい。なお透過層3の上面から見た形状とその配置は、種々の構成が考えられ、別途詳細に後述する。
【0018】
電極4は、熱電層1で発生した電力を取り出すための電極である。
図1に示すように電極4は、熱電層1の両端にそれぞれ取り付けられ熱電層1の両端間の温度差に起因してゼーベック効果により電位差が発生して、電流を取り出すことができる。
【0019】
図1に示すように電極4の両端に金、銅、アルミニウムなどの一般的な材料の配線を接続して、電流を取り出すことができる。電極4の材料としては、金、銀、アルミニウム、ニッケル、モリブデン、それらの合金などを用いる。なお電極4の上面から見た形状とその配置は、種々の構成が考えられ、別途詳細に後述する。
【0020】
基板5は、上述の熱電層1、放射冷却層2、透過層3、電極4を下面から保持するためのものであり、絶縁性を有することが望ましく、材料としては例えばガラス、アルミナ、ポリイミドなどが挙げられる。また、仕様によっては、基板5に可撓性を持たせることもできる。
【0021】
図2は、本実施の形態1における他の発電デバイス、発電装置の模式的な断面図であり、
図1と異なる点は、透過層3が無く熱電層1の上面には放射冷却層2が積層されている領域と、積層物がなく熱電層1が露出している領域が存在する点である。他の電極4と基板5は
図1と同様である。
図1と比較して、
図2の構成は、熱電層1が露出している領域から太陽光が直射する構造となっている。
図1に示す発電デバイスは、透過層3を設けることで、熱電層1がむき出しになるのを防止でき、熱電層1への物理的損傷や、熱電層1の耐候性(透過層3によって、紫外線をカットできるので、耐紫外線効果を得ることもできる。)を向上させることができる。従って、野外に配置される場合などは、
図1に示す熱電デバイスの構造が好ましい。
図2に示す発電デバイスは、室内などに配置され熱電層1に対して耐候性があまり求められない場合に、好適に用いられる。透過層3を設けないことで、構造が簡単になり、生産性等を向上させることが可能となる。更に透過層3を設けない構造なので、効率的に太陽光にて温度を上げることができる。
なお、上述の説明において、熱電層1、放射冷却層2、透過層3は、単層の膜でも良く複数の膜で積層されていても良い。また複数の膜で積層されている場合は同じ材料から成る膜で積層されていても、異なる材料から成る膜で積層されていても良い。
【0022】
以上が本発明の発電デバイス、発電装置の基本的な構造であるが、以下に本発明の発電デバイス、発電装置の製造工程を説明する。なお本発明の製造工程は、以下に説明する実施の形態のみに適用範囲を限定されるものでは無い。
【0023】
[発電デバイス、充電装置の製造方法1]
図3は、本発明に係る発電デバイス、発電装置の製造工程を説明するための図である。
【0024】
【0025】
(工程1)基板5を用意
ガラス、アルミナ、ポリイミドなどからなる基板5を準備する。基板5の厚みは特に限定されないが、100um~5mm程度が望ましい。基板5の大きさは特に限定されないが、横が18mm~300mmで縦が8mm~30mm程度のものを用意する。
【0026】
基板5上面の形成面の表面粗さはプラズマ処理などで取り除いておくことが望ましい。
【0027】
(工程2)電極4の形成
メッキ、蒸着、フォトレジスト等の技術を用いて基板5上面の全面に電極4を形成する。電極材料は金、銀、アルミニウム、ニッケル、モリブデン、それらの合金など一般的な電極材料を用いればよい。電極4の厚みは電極端子の取り付けができれば特に限定されない。
【0028】
(工程3)電極4のトリミング
フォトレジスト等の技術を用いてトリミングする。電極領域以外の不要な箇所を切り取って整える。この工程の技術は半導体の製造工程でも一般に用いられるリソグラフィー技術であり詳細な説明は省略するが、
図4を用いて簡単に概要を説明する。
【0029】
工程3-1でフォトレジストを塗布する。フォトレジストの材料は市販の一般的な材料で良い。工程3-2で所定形状のマスクを用いてレーザ等で上面から露光を行う。マスクは電極4が残る形状に予め作成しておく。その後工程3-3で現像を行い、工程3-4でドライエッチングし、その後電極部分以外の不要な領域のフォトレジストを除去する。以上の工程により、電極4のトリミングが完成する。
【0030】
(工程4)平坦化層形成
切り取った領域にシリカ膜で平坦化膜(平坦化層)を形成する。なおこの膜はアルミナ膜あるいは熱電材料で敷き詰めてもよい。また膜厚は、デバイス設計上電極と段差が生じない程度の厚さにするのが望ましい。
【0031】
(工程5)熱電層1形成
電極4、平坦化膜の上面に熱電材料膜(熱電層1)を形成する。材料はビスマステルライド(Bi2Te3)やCoSb3等の市販の熱電材料や光吸収効率が高い量子ドットを用いる。スクリーン印刷の塗布等により膜を形成する。膜厚は1~200um程度とする。
【0032】
(工程6)放射冷却層形成
熱電材料膜の上面に放射冷却膜(放射冷却層2)を形成する。材料は酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、硫酸バリウム(BaSO4)、酸化マグネシウム(MgO)のいずれかから選択する。そしてスクリーン印刷の塗布等により膜を形成する。膜厚は1~200um程度とする。なお放射冷却膜の材料は上記以外の材料でも良いが、最低源光反射膜であることが望ましい。スクリーン印刷の塗布等により膜を形成する。膜厚は1~200um程度とする。
【0033】
(工程7)透過層3形成
熱電材料膜の上面に透過膜(透過層3)を形成する。材料はシリカ膜、透明ポリ系膜等を用いるが、透過率が可視光領域で90%以上の材料であれば良い。また膜厚は、デバイス設計上放射冷却膜と同等が望ましい。なお、
図2に示すような構造のデバイス場合、透過膜は形成不要である。
【0034】
(工程8)端子部取り付け
最後に両端の電極4にワイヤボンディングで端子を取り付ける。端子の材料は金、アルミニウム、銅等の一般的な材料を用いる。
【0035】
以上説明した工程により、本発明に係る発電デバイス、発電装置を製造することが可能である。
【0036】
[発電デバイス、発電装置の製造方法2(変形例)]
本変形例の製造工程は、上述の「発電デバイス、発電装置の製造方法1」と工程2から工程4が異なる。工程1と工程5から工程8は「発電デバイス、発電装置の製造方法1」と同様であるので説明を省略する。
【0037】
図5は、本発明に係る発電デバイスの製造工程の一部工程の他の変形例を説明するための図である。以下説明する
図5の工程1から工程3の一連の工程は、
図3の工程2から工程4の一連の工程を置き換えた工程に相当する。
【0038】
(工程1)電極形成1
基板5に最終的に電極4となる領域に凹部を形成する。形成方法は研磨等の一般的な方法でおこなう。
【0039】
(工程2)電極形成2
本工程は「発電デバイス、発電装置の製造方法1」の工程2と同様の工程であり、メッキ、蒸着、フォトレジスト等の技術を用いて基板上面の全面に電極4を形成する。この工程により、基板5上に形成した凹部上にも電極4が形成される。電極材料は金、銀、アルミニウム、ニッケル、モリブデン、それらの合金など一般的な電極材料を用いればよい。電極4の厚みは電極端子の取り付けができれば特に限定されない。
【0040】
(工程3)電極形成3
上面全面を基板5が露出するまで水平に研磨していく。基板5が露出した状態となれば、平面上の両端部に電極4が形成され、電極4の間の領域が平坦な領域となる。
【0041】
この製造方法によれば、「発電デバイス、発電装置の製造方法1」と比較すると、平坦化膜の形成を省略できる。基板5の表面一部を平坦化膜として兼用できるので構成が簡単になる、というメリットがある。
【0042】
次に以下にて発明の実施の形態で説明した電極4、熱電層1、放射冷却層2のそれぞれの形状および配置のバリエーションについて更に説明する。
【0043】
[電極の形状、配置のバリエーション]
図6は、電極4の形状、配置のバリエーションであり、上面から見た模式式な図である。熱電層1の下面の両端領域に左右対称に電極4を配置するのが一般的であるが、左右非対称(アンバランス)、突電極、櫛歯電極、凹曲電極、突曲電極など、用途、目的に応じて電極4の形状、配置を変更可能である。
【0044】
[熱電層の形状、配置のバリエーション]
図7は、熱電層1の形状、配置のバリエーションであり、
図7の例1から例4は模式的な断面図であり、
図7の例5~例7は上面から見た模式的な図である。
なお、熱電層1の膜厚を一部でも厚くすることで、出力電力を大きくすることができる。
[放射冷却層の形状、配置のバリエーション]
図8は、放射冷却層2の形状、配置のバリエーションであり、
図8の例1から例4は上面から見た模式的な図であり、
図8の例5は模式的な断面図である。
【0045】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、熱電層1を設けた発電素子について説明したが、
図9に示すように、単に一つの基板5上の一部に放射冷却層2を間接的あるいは直接的に形成することで、基板5の上において、P1点の温度よりもP2点の温度を低くする冷却デバイスとして用いることも可能となる。P1点とは、基板5の主面5bの放射冷却層2が非配置となった領域に対向する主面5aの点となり、P2点とは、基板5の主面5bの放射冷却層2が配置された領域に対向する主面5aの点となる。
この様に
図9に示すように放射冷却層2を部分的に設けることで、基板5の領域内において、温度差を生じさせることができる。
また、
図1および
図2に示す実施の形態1にも共通して言えるが、このように基板5上の一部に放射冷却層2を設けることで、室温であってしかも真っ暗な空間においても、放射冷却層2から熱放射が行われるので、発電や温度差などを生じさせることができる。しかしながら、当然の様に太陽光などの強い光の下に配置することで、発電量を増やすことができ、温度差を大きくすることができる。
【0046】
図9に示す実施の形態2では、野外に配置されるIOT等のデバイスにおける、特定部分の冷却などに用いることが可能となる。別の視点でいうと、基板5の厚み方向での温度差よりも、基板5の主面5a(面積が広い面)の面内方向(基板5の厚み方向とは垂直方向)において、より大きな温度差を生じさせることが可能となる。従って前述の通り、野外配置のデバイスなどの一部を冷却する際に、電力を別途用いずに、効果的な冷却を行うことができる。なお、
図9に示す実施の形態の場合でも、太陽光に限らず、LEDや蛍光灯などの人工光や或いは自然光と人工光の混合した光でも用いることが可能である。
【実施例0047】
以下に、本発明の実施の形態2を実施例に基づいて説明する。本発明の範囲は、実施例に限定されない。
[冷却デバイスの製作]
図10(b)に示すようにガラスの基板5上に放熱冷却層2を形成した。
ガラスの基板5は、ソーダ石灰ガラス(MATUSNAMI社製、横76mm×縦26mm×厚さ1.0mm)を使用し、放射冷却層2を設ける面を、小型真空プラズマ装置(NMR-Gts、株式会社魁半導体製)を用いて、5分間プラズマ処理をした。
放射冷却層2は、放射冷却用粉末として、以下の三種類の材料を用いた。酸化マグネシウム(富士フイルム和光純薬社製、品番133-02281)、酸化チタン(IV)(富士フイルム和光純薬社製、品番207-13642)、硫酸バリウム(富士フイルム和光純薬社製、品番022-00425)の粉末である。
ポリビニルピロリドンK30(富士フイルム和光純薬社製、品番161-17032)を6wt%となるようにエタノールに溶解させた。この溶液に放射冷却用粉末を50wt%となるように混合し、インクとした。このインクをガラスの基板5上に150μmに設定したアプリケーターを用いてスクリーン印刷し放射冷却層2を塗布した後、ホットスターラー(HSH-4D、As One社製)で50℃1時間で乾燥させた。
【0048】
以上の製作工程により、以下に示す4種類のデバイスを製作した。(1)ガラス基板のみ(放射冷却層無し)のデバイス、(2)ガラス基板上に酸化マグネシウムの放射冷却層2を設けたデバイス、(3)ガラス基板上に酸化チタンの放射冷却層2を設けたデバイス、(4)ガラス基板上に硫酸バリウムの放射冷却層2を設けたデバイス、の4種類である。
放射冷却層2の大きさは横65mm×縦26mm×厚さ1.5mm程度とした。
【0049】
[放射冷却の測定方法]
図10(b)に示すように、ガラス基板の一部(横36mm×縦26mm)をホットスターラー(HSH-4D、As One社製)に乗せ、熱源温度(Th)、熱源からの距離10mmにおける基板表面温度(Tm)、熱源からの距離45mmにおける基板表面温度(Tc)を計測した。この際、Thが目的温度に到達して1時間後にTmおよびTcを計測した。温度測定にはデータロガー(midi LOGGER GL240、GRAPHTEC社製)を使用した。
温度差T1=Th-Tm、T2=Th-Tcをそれぞれ算出し、放射冷却層2の効果を見た。
室内温度22.5±0.3℃の条件下で、ホットスターラー温度25、30、50、75、100、150(℃)に設定し、各温度を測定した。
測定に際しては、
図10(c)に示すように、放射冷却層2を削り、K熱電対を固定し温度測定した。
【0050】
[測定結果]
測定結果を以下の表1に示す。また、表1の測定結果を分かりやすくグラフ化した図面を
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)に示す。
図11(A)は設定温度25℃および設定温度30℃での各デバイスの測定結果、
図11(B)は設定温度50℃および設定温度75℃での各デバイスの測定結果、
図11(C)は設定温度100℃および設定温度150℃での測定結果である。
【表1】
【0051】
結論としては、特に熱源から近い場所での温度差T1に有意差が得られ、放射冷却の効果が見られた。また設定温度25℃、30℃の日常の気候程度の温度では、放射冷却の効果が顕著に見られた。ただし遠い場所との温度差T2では放射冷却の効果は少なくなる傾向となった。またデバイスの構成による冷却効果の差は、放射冷却層2を有する構成がガラス基板のみ(放射冷却層無し)の構成より明らかに冷却効果が大きかった。放射冷却層2の材料の違いによる放射冷却の差はわずかではあるものの、酸化チタンと硫酸バリウムがほぼ同等、酸化マグネシウムは若干放射冷却効果が小さかった。
以上、本発明に係る実施の形態、実施例について縷々説明したが、本発明はこれらの実施の形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の改良や変更が可能である。