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特開2024-125981骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物
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  • 特開-骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125981
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20240911BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240911BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240911BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240911BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61K35/747
A61P19/02
A23L33/135
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118465
(22)【出願日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】112108073
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Nutrients 2022,14,3170に公開された「Therapeutic Effects of Live Lactobacillus plantarum GKD7 in a Rat Model of Knee Osteoarthritis」
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519298765
【氏名又は名称】葡萄王生技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 勁初
(72)【発明者】
【氏名】陳 炎▲錬▼
(72)【発明者】
【氏名】林 詩偉
(72)【発明者】
【氏名】林 子淳
(72)【発明者】
【氏名】蔡 侑珊
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲啓▼憲
(72)【発明者】
【氏名】侯 毓欣
(72)【発明者】
【氏名】石 仰慈
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲静▼▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 雅君
(72)【発明者】
【氏名】江 佳琳
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 姿和
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲彦▼博
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF03
4B018MF04
4B018MF06
4B018MF14
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA13
4C087MA16
4C087MA31
4C087MA35
4C087MA38
4C087MA41
4C087MA43
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物を提供する。
【解決手段】上記の組成物は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7を有効成分として含み、骨関節炎による関節痛を緩和することができ、軟骨組織及び/又は滑膜組織におけるIL-1βの発現量を低下させ、骨関節炎を改善することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)GKD7の死菌を有効投与量で含み、骨関節炎による受験者の関節痛を緩和し、前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary)に寄託され、受託番号がNITE BP-03313である、骨関節炎を改善するための組成物。
【請求項2】
前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7が発酵工程及び不活性化工程を経てから得られ、前記発酵工程は、25℃~40℃の嫌気性雰囲気で発酵基質により16時間~24時間行われる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記不活性化工程は、熱不活性化工程、化学的不活性化工程及び/又は放射線不活性化工程を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記受験者がラットである場合、前記有効投与量は、10mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記受験者がヒトである場合、前記有効投与量は、1mg/kg体重/日~165mg/kg体重/日である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含み、受験者の関節痛を緩和し、前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、受託番号がNITE BP-03313である、変形性関節炎を改善するための経口組成物。
【請求項7】
前記経口組成物が投与されていない対照受験者に比べ、前記経口組成物が投与された前記受験者は、荷重の左右差が小さい、請求項6に記載の経口組成物。
【請求項8】
前記経口組成物が投与されていない対照受験者に比べ、前記経口組成物が投与された前記受験者は、軟骨組織及び/又は滑膜組織におけるIL-1βの発現量が低下する、請求項6に記載の経口組成物。
【請求項9】
前記経口組成物は、週に3回~7回の頻度で前記受験者に投与される、請求項6に記載の経口組成物。
【請求項10】
前記経口組成物は、前記受験者に2週間~8週間投与される、請求項6に記載の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋骨格疾患を改善するためのプロバイオティクス含有組成物に関し、特に、骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨関節炎(Osteoarthritis;OA)は、変形性関節炎とも呼ばれ、関節に生じた慢性変形性炎症疾患である。骨関節炎は、通常、休息後に緩和されるが活動後に悪化する関節痛が伴われる。次に、骨関節炎の症状は、活動後に改善されるが休息後に再発する関節強直を更に含む。光学イメージングの分析によると、骨関節炎の患部の滑膜組織、軟骨組織及び/又は軟骨下骨に、関節腔狭窄、骨棘形成、軟骨下骨硬化、軟骨下骨嚢胞、硬骨損傷、軟骨損傷、軟骨組織及び/又は滑膜組織の炎症などの骨関節炎に関連する損傷が生じることが多い。次に、分子生物学的研究の分析によると、健康な一般人と比べると、骨関節炎の患者の血清、滑膜組織及び軟骨組織における炎症性サイトカインのレベルは確かに高い。
【0003】
上記炎症性サイトカインには、インターロイキン(Interleukin;IL)-1β及び腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor;TNF)-αが含まれてよいが、これらに限定されない。骨関節炎についての研究において、炎症性サイトカインは、軟骨の破壊的変化及び軟骨下骨の構造的変化を引き起こす上で重要な役割を果たすため、その低下や抑制が重要な治療目標となる。例えば、骨関節炎の患部の滑膜線維芽細胞及び軟骨細胞から分泌された炎症性サイトカインがタンパク質分解酵素の合成を促進し、タンパク質分解酵素が関節の細胞外マトリックスを分解するため、骨関節炎はより深刻になる。
【0004】
現在、骨関節炎の主な治療方法は、非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAID)又はコルチコステロイドを投与することで、骨関節炎による関節痛、関節腫脹及び強直を軽減することである。しかし、非ステロイド性抗炎症薬又はコルチコステロイドは、望ましくない副作用を有し、幾つかの副作用によって、ひいては骨関節炎を悪化させる可能性がある。関節痛又は機能障害が薬物で治療できないほど深刻になった場合、患者は、最終的に人工関節への置換を考慮するしかできない。
【0005】
プロバイオティクスは、宿主の微生物叢の生態学的バランスを促進して、宿主に健康効果をもたらす生菌を増加させることができる。従来の研究によると、幾つかのプロバイオティクスは、抗炎症効果を有することが実証された。しかし、プロバイオティクスの生菌の成長活性を維持するために、プロバイオティクスは、特定の条件で製造及び/又は保存する必要があり、関連製品の剤形及び/又は種類が制限されている。
【0006】
従って、上記問題を解決するために、骨関節炎を改善する死菌含有組成物が至急に望まれている。
【発明の概要】
【0007】
従って、本発明の一態様は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含み、骨関節炎による受験者の関節痛を緩和する、骨関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)GKD7含有組成物を提供する。
【0008】
本発明の別の態様は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含み、変形性関節炎による受験者の関節痛を緩和する、変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有経口組成物を提供する。
【0009】
本発明の上記態様によれば、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含み、ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary)に寄託され、受託番号がNITE BP-03313である、骨関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物を提案する。
【0010】
本発明の幾つかの実施例によれば、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7が発酵工程及び不活性化工程を経てから得られる。幾つかの実施例において、発酵工程は、25℃~40℃の嫌気性雰囲気で発酵基質により16時間~24時間行われる。
【0011】
本発明の幾つかの実施例によれば、不活性化工程は、熱不活性化工程、化学的不活性化工程及び/又は放射線不活性化工程を含む。
【0012】
本発明の幾つかの実施例によれば、受験者がラットである場合、有効投与量は、10mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日である。
【0013】
本発明の幾つかの実施例によれば、受験者がヒトである場合、有効投与量は、1mg/kg体重/日~165mg/kg体重/日である。
【0014】
本発明の別の態様によれば、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含み、受験者の関節痛を緩和し、ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、受託番号がNITE BP-03313である、変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有経口組成物を提案する。
【0015】
本発明の幾つかの実施例によれば、組成物が投与されていない対照受験者に比べ、経口組成物が投与された受験者は、荷重の左右差が小さい。
【0016】
本発明の幾つかの実施例によれば、組成物が投与されていない対照受験者に比べ、経口組成物が投与された受験者は、軟骨組織及び/又は滑膜組織におけるIL-1βの発現量が低下する。
【0017】
本発明の幾つかの実施例によれば、組成物は、週に3回~7回の頻度で受験者に投与される。
【0018】
本発明の幾つかの実施例によれば、組成物は、受験者に2週間~8週間投与される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含む、骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物を適用することで、関節痛を緩和すると共に、軟骨組織及び/又は滑膜組織におけるIL-1βの発現量を低下させ、骨関節炎を改善することができる。
下記の添付図面についての詳細な説明は、本開示の上記と他の目的、特徴、利点及び実施例をより明らかで分かりやすくするためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一つの実施例による異なる群のラットの手術の6週間後の荷重差の変化を示すグラフである。
図2】本発明の一つの実施例による異なる群のラットの手術の6週間後の荷重差の変化を示すグラフである。
図3図3A図3Gは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群の骨密度、骨含有量、骨体積分率、骨面密度、骨梁厚さ、骨梁数及び骨梁間隙を示す箱ひげ図である。
図4図4A図4Cは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群のOARSIスコア、軟骨変性スコア及び滑膜炎症スコアを示す。
図5図5A図5Bは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群の軟骨組織のIL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコアを示す箱ひげ図である。
図6図6A図6Bは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群の滑膜組織のIL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコアを示す箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
引用文献における用語の定義又は使用が本明細書における当該用語の定義と矛盾するか又は反する場合、本明細書における当該用語の定義が適用されるが、この引用文献における当該用語の定義が適用されない。また、文脈において別途定義されていない限り、単数形の用語は、複数形を含んでもよく、複数形の用語は、単数形を含んでもよい。
【0022】
前述したように、本発明は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含む、骨関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)含有組成物を提供する。上記ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary、住所:日本千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、郵便番号:292-0818)に寄託され、受託番号がNITE BP-03313である。この菌株は、2019年03月06日に台湾食品工業発展研究所(Food Industry Research and Development Institute;FIRDI)の生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center;BCRC、住所:新竹市食品路331号、郵便番号:300193)にも寄託され、受託番号がBCRC 910877である。
【0023】
本明細書に記載のラクトバチルス・プランタルムGKD7の「死菌」とは、成長活性を失ったラクトバチルス・プランタルムGKD7の菌体を指す。幾つかの実施例において、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7が発酵工程及び不活性化工程を経てから得られる。幾つかの実施例において、発酵工程は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7が好ましい成長活性を有し、多くのラクトバチルス・プランタルムGKD7の菌体を得るように、25℃~40℃、又は35℃~40℃、又は37℃で行われる。幾つかの実施例において、発酵工程は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の増殖曲線が対数期から遅滞期までの間にあるように、16時間~24時間、又は18時間行われる。幾つかの実施例において、発酵工程は、嫌気性雰囲気で行われる。嫌気性雰囲気での空気組成は、特に限定されないが、酸素含有量が0でなければならない。一つの具体例において、嫌気性雰囲気は、75%~85%の窒素ガス、5%~15%の水素ガス及び5%~15%の二酸化炭素を含んでもよいが、これらに限定されない。死菌の活性物質は、細胞壁、細胞質及び/又は代謝物における脂質、糖類、余分な水タンパク質、糖タンパク質、糖脂質及び/又は他の生体分子を含んでもよいが、これらに限定されず、その中の単一の物質を利用し、及び/又は分離できない未知の成分を排除することにより、骨関節炎及び変形性関節炎を改善する効果を達成できると合理的に予期できないことに留意されたい。従って、本発明に記載のラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、成分、特性又はパラメータによって定義することができず、即ち、本発明は、成分、特性又はパラメータによる定義が可能ではないか又は実際的ではない場合がある。
【0024】
発酵工程の発酵基質は、特に限定されないが、例えば、MRS培養液などの市販の発酵基質であってよい。幾つかの実施例において、発酵基質は、1wt%~10wt%の糖類、0.1wt%~5.0wt%の酵母エキス、0.1wt%~5.0wt%のペプトン、0.01wt%~2.00wt%の微量元素、0.01wt%~0.10wt%のシステイン、0.05wt%~1.00wt%のTWEEN-80及び残りの量の水を含んでよいが、これらに限定されない。上記糖類は、単糖及び/又は二糖を含んでよいが、これらに限定されない。幾つかの具体例において、糖類は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、ラクトース、スクロース及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。上記微量元素は、例えば、マグネシウムイオン、カリウムイオン、硫酸イオン、亜リン酸水素イオン及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。
【0025】
幾つかの実施例において、発酵工程の後、発酵基質を除去するために、固液分離工程を選択的に行ってよい。固液分離工程は、特に限定されないが、発酵基質を除去すればよい。幾つかの具体例において、固液分離工程は、ろ過工程及び/又は遠心分離工程を含んでよいが、これらに限定されない。
【0026】
不活性化工程の方法は、特に限定されないが、ラクトバチルス・プランタルムGKD7が成長活性を失うようにすればよい。幾つかの実施例において、不活性化工程は、熱不活性化工程、化学的不活性化工程及び/又は放射線不活性化工程を含んでよいが、これらに限定されない。幾つかの具体例において、熱不活性化工程は、110℃~120℃の飽和蒸気圧で10分間~20分間行われる。注意すべきのは、実験により、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、成長活性を失ったが、骨関節炎を改善する活性を有することが実証されたことに留意されたい。
【0027】
幾つかの実施例において、上記ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、更に乾燥工程を経てよく、それにより凍結乾燥粉末が得られ、その保存時間が延長される。幾つかの実施例において、凍結乾燥粉末に含まれるラクトバチルス・プランタルムGKD7は、5.5×10CFU/gに相当する。
【0028】
ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、骨関節炎を改善することができる。本明細書に記載の骨関節炎は、変形性関節疾患であり、関節軟骨及び軟骨下骨の破壊を引き起こし、関節痛をもたらし、更に軟骨及び/又は硬骨の構造を変化させてしまう。本明細書に記載の「骨関節炎を改善する」とは、関節痛を緩和し、軟骨、硬骨の損傷を低下させ、及び/又は炎症性サイトカインのレベルを低下させることを意味する。幾つかの実施例において、骨関節炎が改善されたか否かを評価するための評価項目は、関節痛の度合い、軟骨組織及び滑膜組織における炎症性サイトカインの発現量、硬骨損傷の度合い及び/又は軟骨損傷の度合いを含んでよいが、これらに限定されない。幾つかの具体例において、骨関節炎が一般的に対称性を有していないため、関節痛の度合いは、荷重差によって評価されてよい。荷重差が小さいほど、骨関節炎の患部の痛みの度合いが低いことを示す。幾つかの具体例において、上記炎症性サイトカインは、インターロイキン(Interleukin;IL)-1β及び腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor;TNF)-αを含んでよいが、これらに限定されない。
【0029】
幾つかの具体例において、硬骨損傷の度合いは、骨密度(Bone mineral density;BMD)、骨含有量(Bone mineral content;BMC)、骨体積分率(Bone volume fraction)、骨面密度(Bone area fraction)、骨梁厚さ(Trabecular thickness)、骨梁数(Trabecular number)及び骨梁間隙(Trabecular separation)によって評価されてよい。幾つかの具体例において、軟骨損傷の度合いは、国際変形性関節症学会(Osteoarthritis Research Society International;OARSI)により推奨されたラット関節の組織学的スコアリングシステムによってスコア付けされてよい。
【0030】
実験により、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の生菌及び/又は死菌は、経口投与されることにより、骨関節炎を改善することができることが実証された。具体的には、ラクトバチルス・プランタルムGKD7が投与されていない対照受験者に比べ、ラクトバチルス・プランタルムGKD7が投与された受験者は、痛みの度合い、硬骨損傷の度合い、軟骨損傷の度合い、軟骨組織及び滑膜組織における炎症性サイトカインの発現量が低下する。従って、ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、骨関節炎及び変形性関節炎を改善するための組成物に適用することができる。上記実施例において、組成物は、有効投与量のラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含んでよいが、これに限定されない。
【0031】
受験者は、特に限定されないが、例えばラット、マウス、ウサギ、ネコ、イヌ又はヒトなどの哺乳類動物であってよい。幾つかの実施例において、受験者がラットである場合、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の有効投与量は、例えば10mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日であってよく、10mg/kg~500mg/kg又は10mg/kg~100mg/kgなどの比較的に少ない投与量で好ましい効果を達成する。幾つかの実施例において、受験者がヒトである場合、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の有効投与量は、例えば、1mg/kg体重/日~100mg/kg体重/日、又は1mg/kg体重/日~50mg/kg体重/日などの1mg/kg体重/日~165mg/kg体重/日であってよい。動物実験により、100mg/kg~1000mg/kgのラクトバチルス・プランタルムGKD7を投与すれば、確かに骨関節炎を改善することができるが、この動物実験では、以前の十字靭帯切断手術によって骨関節炎を誘発したため、骨関節炎の経過が非常に速く、臨床応用では、比較的に少ない投与量によって同じ効果を達成することができることに留意されたい。幾つかの実施例において、受験者がヒトである場合、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の有効投与量は、1mg/kg体重/日~10mg/kg体重/日である。上記実施例において、受験者は、骨関節炎を予防しようとしているか、又は早期の骨関節炎(少なくとも1つで4つ未満の関節炎症、且つ発病から2年以内)に罹患している。
【0032】
ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、受験者に一定の時間にわたって連続して投与する必要がある。幾つかの実施例において、ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、例えば、週に5回など、週に3回~7回の頻度で受験者に投与されてよい。幾つかの実施例において、ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、例えば、受験者に2週間~8週間投与されてよく、又はそれよりも長くても短くてもよい。
【0033】
適用で、上記組成物は、例えば経口組成物であってよい。幾つかの実施例において、上記組成物は、例えば、医薬組成物又は食品組成物であってよい。一つの実施例において、経口組成物は、食品的又は医学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、補助剤、防腐剤、充填剤及び/又は添加剤を選択的に含んでよい。
【0034】
以下、複数の実施例を利用して本発明の適用を説明するが、それらは、本発明を限定するものではなく、当業者は、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、各種の変更や修飾を行うことができる。
【実施例0035】
1. 調製例1
1.1 菌株の由来
ラクトバチルス・プランタルムGKD7(以下、菌株GKD7と略称される)は、2020年11月6日にNITEに寄託され、受託番号がNITE BP-03313であり、2019年03月06日にBCRCに寄託され、受託番号がBCRC 910877である。菌株GKD7の微生物学的特性及び培養方法は、台湾特許TW I733207Bのケースを参照し、ここでこのケースも共に参照文献として列挙される。
【0036】
1.2 凍結乾燥粉末の調製
菌株GKD7の菌液をMRS培地に塗布し、37℃の嫌気性雰囲気(80%のN、10%のH及び10%のCO)で18時間培養することで、単一コロニーが得られた。次に、単一コロニーを培養液に接種し、更に37℃の嫌気性雰囲気で発酵工程を18時間行うことにより、液体培養物が得られた。培養液には、1%~10%のグルコース、0.1%~5%の酵母エキス、0.1%~0.5%のペプトン、0.01%~2.00%の微量元素、0.01%~0.10%のシステイン、0.05%~1.00%のTWEEN80及び残りの量の水が含まれ、微量元素は、マグネシウムイオン、カリウムイオン、硫酸イオン、亜リン酸水素イオン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。培地の種類は、菌株GKD7の骨関節炎に対する改善効果に影響を与えず、上記に挙がられた培養液は、本発明を制限することを意図するものではないことを補足して説明しておきたい。
【0037】
次に、液体培養物に15wt%の脱脂粉乳を加え、1000rpm~15000rpmの遠心分離工程を行うことにより、菌株GKD7の生菌の菌体が得られた。遠心分離工程の前に先に液体培養物と15wt%の脱脂粉乳とを混合することで、菌体が団子状に凝集することに役立ち、菌体回収率を増やすことができる。その後、菌体と6wt%~50wt%の脱脂粉乳とを混合してから、凍結乾燥工程を行うことにより、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末が得られた。凍結乾燥は、単に投与、定量及び保存を容易にするためのものであり、本発明を制限することを意図するものではないことを補足して説明しておきたい。
【0038】
2. 調製例2
液体培養物に対して110℃の飽和蒸気圧で熱不活性化工程を行うことにより、熱不活性化された液体培養物が得られた。その後、熱不活性化された液体培養物に対して遠心分離工程を行うことにより、菌株GKD7の死菌の菌体が得られた。続いて、菌株GKD7の死菌の菌体に凍結乾燥工程を行うことにより、菌株GKD7の死菌凍結乾燥粉末が得られた。
【0039】
3. 評価方法及び結果
3.1. 動物モデル
8週齢の雄性スプラーグ・ドーリー(Sprague Dawley;SD)ラットをステンレス製のラットケージに飼育し、飼育環境の温度は22±2℃であり、湿度は60%~80%であり、明期と暗期はそれぞれ12時間とした。試験中に、ラットは、飼料と蒸留水とを自由に摂取できるようにした。上記ラットの体重は、300g~350gであり、骨格の発育が成熟していた。
【0040】
ラットを偽手術対照群(n=6)、手術対照群(n=6)及び実験群1(n=6)に分けた。偽手術対照群、手術対照群、実験群1のラットの右後肢に、対応する手術を実施し、手術対照群、実験群1のラットの右後肢は、関節切開術及び前十字靭帯線維切断を含む前十字靭帯切断(Anterior cruciate ligament transaction;ACLTと略称される)を受け、ラットの右後肢にACLTによって骨関節炎を誘発し、偽手術対照群のラットの右後肢は、関節切開術を受けたが、その前十字靭帯線維が切断されなかった。
【0041】
手術の2日後、各群の飼料に1mLの蒸留水を加えた。実験群1のラットが100mg/kg bw/日(5×1011CFU/gに相当し、ヒトの投与量に換算すれば16.1mg/kg体重/日となる)の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末を得るように、実験群1の蒸留水に菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末を週に5日加えた(調製例1)。
【0042】
その後、それぞれ異なる投与量の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末及び死菌凍結乾燥粉末で試験した。8週齢のラットを6群に分け、それぞれ偽手術対照群2、手術対照群2、実験群2、実験群3、実験群4、及び陽性対照群とした。1群あたりの試験動物が8匹であった。偽手術対照群2のラットの右後肢は、関節切開術を受けたが、その前十字靭帯線維が切断されなかった。手術対照群2、実験群2、実験群3、実験群4、及び陽性対照群のラットの右後肢は、前十字靭帯切断手術を受けた。
【0043】
ラットが1日~2日の回復期を経た後、各群の飼料に1mLの蒸留水を週に5日加えると共に、異なる群の蒸留水に対応する投与量のGKD7の生菌凍結乾燥粉末及びGKD7の死菌凍結乾燥粉末を加えることにより、実験群2のラットが低投与量(100mg/kg bw/日、実験群1の投与量と同じ)の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末を得ることができ(調製例1)、実験群3のラットが高投与量(1g/kg bw/日、ヒトの投与量に換算すれば161.3mg/kg体重/日)の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末を得ることができ(調製例1)、実験群4のラットが1g/kg bw/日の菌株GKD7の死菌凍結乾燥粉末を得ることができる(調製例2)ようにした。陽性対照群の蒸留水に50mg/kgのセレコキシブ(Celecoxib)を加え、セレコキシブは、市販されている鎮痛薬であり、シクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase;COX)の活性を抑制する役割を果たすため、プロスタグランジン(Prostaglandin E2;PGE)の合成を抑制することで、炎症性疼痛を軽減することができる。
3.2 静的荷重試験(Static weight bearing test、又はIncapacitance testと称される)
【0044】
手術前に、偽手術対照群、手術対照群、実験群1のラットの左右後肢を別々のセンサプレートに10秒置き、ラットが後肢で立つ時、左右後肢間の荷重差(単位:坪量、ラットの体重で標準化された)を測定した。手術後、上記測定を毎週行った。一般的には、正常なラットは、体重を左右後肢に均等に割り当てるため、左右後肢間の荷重差が大きいほど、ラットの右後肢の痛みの度合いが高くなることを示す。対応のあるt検定(Paired t-test)によって異なる群の結果を比較した。
【0045】
図1は、本発明の一つの実施例による異なる群のラットの手術の6週間後の荷重差の変化を示すグラフであり、横軸は、時間(単位:週間)を表し、縦軸は、荷重差(単位:g)を表し、曲線110、曲線120及び曲線130は、それぞれ偽手術対照群、手術対照群、及び実験群1を表し、符号「*」は、偽手術対照群との間で統計的有意差(p<0.05)を有することを表し、符号「#」は、手術対照群との間で統計的有意差(p<0.05)を有することを表す。
【0046】
図1に示すように、手術対照群(曲線120)の荷重差は、偽手術対照群(曲線110)の荷重差よりも有意に高く、且つ荷重差が時間の経過につれて大きくなり、これは、ACLTが確かに骨関節炎を誘発し、関節痛を引き起こすことを意味する。逆に、実験群1の荷重差は、手術の2週間後に有意に低下し、手術の6週間後、実験群1の荷重差は、手術対照群の荷重差の約50%に過ぎなかった。この結果により、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末は、14日間(2週間)連続して投与された後に骨関節炎による関節痛を顕著に緩和することができることが示された。手術前、手術後の6週間の各々の体重測定によって示されたように、各群間のラットの体重に統計的有意差(図示しない)がなく、ACLTがラットの体重に影響を与えないことが示されたことを補足して説明しておきたい。
【0047】
偽手術対照群2、手術対照群2、実験群2、実験群3、実験群4及び陽性対照群にも静的荷重試験を行い、その方法は、以上に説明した通りであり、ここで繰り返して説明しない。
【0048】
図2は、本発明の一つの実施例による異なる群のラットの手術の6週間後の荷重差の変化を示すグラフであり、横軸は、時間(単位:週間)を表し、縦軸は、荷重差(単位:g)を表し、曲線210、曲線220、曲線230、曲線240、曲線250及び曲線260は、それぞれ偽手術対照群2、手術対照群2、実験群2、実験群3、実験群4及び陽性対照群を表し、符号「#」は、偽手術対照群2(曲線210)との間で統計的有意差を有することを表し、符号「*」は、手術対照群2(曲線220)との間で統計的有意差を有することを表す。
【0049】
図2に示すように、手術対照群2(曲線220)に比べ、実験群2(曲線230)、実験群3(曲線240)、実験群4(曲線250)及び陽性対照群(曲線260)は、荷重差が小さく、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末及びGKD7の死菌凍結乾燥粉末は、確かに骨関節炎による関節痛を緩和することができることが示され、実験群3(高投与量の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末)を表す曲線240と、陽性対照群を表す曲線260とは、手術の4週間~6週間後にほぼ重なり、高投与量の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末による関節痛緩和効果が、市販されている鎮痛薬(セレコキシブ)に相当することが示された。次に、実験群2(低投与量の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末)を表す曲線230と、実験群4(菌株GKD7の死菌凍結乾燥粉末)を表す曲線250とは、手術後の1週間~6週間の間で同じ傾向を有し、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末及び死菌凍結乾燥粉末は、同じ関節痛緩和効果を有し得ることが示された。そのため、後続きの評価は、実施例1のラットに対する低投与量の菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末の影響を分析するものであるが、当業者であれば、菌株GKD7の死菌凍結乾燥粉末を投与することによっても同様の効果を達成できるはずであることを理解できるであろう。
【0050】
3.3 硬骨画像分析
ACLT手術の6週間後、偽手術対照群、手術対照群及び実験群1のラットを犠牲にし、マイクロコンピュータ断層撮影(Micro-computerized tomography;Micro-CT、μ-CT)によってラットの右後肢の膝関節の骨パラメータを分析し、前記骨パラメータは、骨密度、骨含有量、骨体積分率、骨面密度、骨梁厚さ、骨梁数及び骨梁間隙を含む。マイクロコンピュータ断層撮影により、手術対照群のラットには確かに軟骨下骨の骨損失を含めた硬骨損傷がある(図示しない)が、実験群1のラットの硬骨損失の度合いが手術対照群のラットよりも低い(図示しない)ことが示された。
【0051】
図3A図3Gは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群の骨密度(図3A)、骨含有量(図3B)、骨体積分率(図3C)、骨面密度(図3D)、骨梁厚さ(図3E)、骨梁数(図3F)及び骨梁間隙(図3G)を示す箱ひげ図であり、横軸は、群を表し、左から右へそれぞれ偽手術対照群、手術対照群及び実験群1であり、縦軸は、それぞれ骨密度(単位:g/cm)、骨含有量(単位:mg)、骨体積分率(即ち、骨体積と総体積の比、BV/TVと略称され、単位:%)、骨面密度(即ち、骨表面積と総体積の比、BS/TVと略称され、単位:1/mm)、骨梁厚さ(Tb.Thと略称され、単位:mm)、骨梁数(Tb.Nと略称され、単位:1/mm)及び骨梁間隙(Tb.Spと略称され、単位:mm)を表し、符号「*」は、偽手術対照群との間で統計的有意差(p<0.05)を有することを表し、符号「#」は、手術対照群との間で統計的有意差(p<0.05)を有することを表す。
【0052】
図3A図3Gに示すように、偽手術対照群に比べ、手術対照群は、ラットの右後肢の膝関節の骨密度、骨含有量、骨体積分率、骨面密度、骨梁厚さ及び骨梁数が有意に低下するが、骨梁間隙が有意に上昇し、ACLTにより骨関節炎を誘発することで、確かに骨損失や骨破壊などの硬骨損傷を引き起こし得ることが示された。逆に、実験群1は、ラットの右後肢の膝関節の上記骨パラメータが顕著に改善され、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末が確かに骨関節炎による硬骨損傷を改善することができることが示された。
3.4 組織学的分析
【0053】
硬骨画像を分析した後、ラットの右後肢の膝関節組織を37℃で4%パラホルムアルデヒド(Paraform aldehyde)のリン酸塩緩衝液(Phosphate-buffered saline;PBS)で24時間固定してから、10%のエチレンジアミン四酢酸(Ethylene diamine tetraacetic acid;EDTA)で2週間脱灰させた。濃度が漸進的に増加するエタノールで脱水した後、膝関節組織は、パラフィンブロックに包埋され、更に厚さ5μmの組織切片に切られた。次に、組織切片をヘマトキシリン-エオシン(Hematoxylin and eosin;H&E)及びサフラニンO/ファストグリーン(Safranin-O/Fast Green)で染色すると共に、光学顕微鏡で膝関節組織の組織病理学的変化を観察した。組織切片から分かるように、手術対照群のラットの膝関節組織には、確かに軟骨組織の病理学的変化及び滑膜組織の過形成などの軟骨損傷(図示しない)が生じたが、実験群1のラットの軟骨損傷の度合いが手術対照群のラットよりも低い(図示しない)。
【0054】
OARSIにより推奨されたラット関節の組織学的スコアリングシステム(国際変形性関節症学会(OARSI)によるスコア、軟骨変性スコア及び滑膜炎症スコアを含む)を利用して膝関節組織の軟骨損傷の度合いを定量化した。国際変形性関節症学会によるスコア、軟骨変性スコア及び滑膜炎症スコアは、当業者によく知られており、ここで繰り返して説明しない。
【0055】
図4A図4Cは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群の国際変形性関節症学会によるスコア、軟骨変性スコア及び滑膜炎症スコアを表し、横軸は、群を表し、左から右へそれぞれ偽手術対照群、手術対照群、及び実験群1であり、縦軸は、それぞれ国際変形性関節症学会によるスコア、軟骨変性スコア、及び滑膜炎症スコア(単位:点)を表し、符号「*」は、偽手術対照群との間で統計的有意差(p<0.05)を有することを表し、符号「#」は、手術対照群との間で統計的有意差(p<0.05)を有することを表す。
【0056】
図4A図4Cに示すように、偽手術対照群に比べ、手術対照群は、国際変形性関節症学会によるスコア、軟骨変性スコア及び滑膜炎症スコアが有意に向上し、ACLTにより誘発された骨関節炎が確かに軟骨損傷を引き起こし得ることが示された。そして、手術対照群に比べ、実験群1の国際変形性関節症学会によるスコア、軟骨変性スコア及び滑膜炎症スコアが有意に低下し、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末が確かに骨関節炎による軟骨損傷を改善することができることが示された。
【0057】
3.5 免疫組織化学染色分析(Immunohistochemistry;IHC)
内因性カタラーゼ活性を抑制するように、上記組織切片を3%過酸化水素溶液に浸漬してから、非特異的なバックグラウンドの発生を低下させるように、3%ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin)を含むPBS溶液に浸漬した。4℃で抗IL-1β又は抗TNF-αの抗体で一次抗体反応(Incubation)を行った後、室温で組織切片に二次抗体反応を1時間行い、更にジアミノベンジジン(Diaminobenzidine;DAB)で染色した。光学顕微鏡下で組織切片を観察した。IHCスコアでIL-1β及びTNF-αの免疫反応シグナルを表し、IHCスコアが高いほど、免疫反応シグナルが強くなり、即ち、IL-1β又はTNF-αの発現量が高くなることを示す。
【0058】
図5A図5Bは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群の軟骨組織のIL-1βのIHCスコア(図5A)及びTNF-αのIHCスコア(図5B)を示す箱ひげ図であり、横軸は、群を表し、左から右へそれぞれ偽手術対照群、手術対照群、及び実験群1であり、縦軸は、IL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコア(単位:点)を示す。図5A及び図5Bに示すように、偽手術対照群に比べ、手術対照群は、IL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコアが有意に上昇し、ACLTにより誘発された骨関節炎の軟骨組織におけるIL-1β及びTNF-αなどの炎症性サイトカインの発現量が高いことを示した。逆に、手術対照群に比べ、実験群1は、IL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコアが有意に低下し、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末が確かに骨関節炎の軟骨組織における炎症性サイトカインの発現量を低下させることができることを示した。
【0059】
図6A図6Bは、それぞれ本発明の一つの実施例による異なる群の滑膜組織のIL-1βのIHCスコア(図6A)及びTNF-αのIHCスコア(図6B)を示す箱ひげ図であり、横軸は、群を表し、左から右へそれぞれ偽手術対照群、手術対照群及び実験群1であり、縦軸は、IL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコア(単位:点)を示す。図6A及び図6Bに示すように、偽手術対照群に比べ、手術対照群は、IL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコアが有意に上昇し、ACLTにより誘発された骨関節炎の滑膜組織における炎症性サイトカインの発現量が確かに高いことを示した。逆に、手術対照群に比べ、実験群1は、IL-1βのIHCスコア及びTNF-αのIHCスコアが有意に低下し、菌株GKD7の生菌凍結乾燥粉末が確かに骨関節炎の滑膜組織における炎症性サイトカインの発現量を低下させることができることを示した。
【0060】
以上を纏めると、本発明は、特定の投与量、特定の剤形、特定の検出方法、又は特定の評価方法により単に骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物を例示して説明した。しかし、当業者にとって、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、他の投与量、他の剤形、他の検出方法又は他の評価方法も、骨関節炎及び変形性関節炎を改善するための組成物に適用されてもよく、上記に限定されない。例として、組成物は、例えば医薬組成物又は食品組成物であってよく、医学的及び食品的に許容される担体、賦形剤及び/又は添加剤を選択的に含んでよく、粉末剤、錠剤、顆粒剤、座剤、マイクロカプセル、アンプル、液体スプレー又は塞栓剤などの剤形とされてよい。他の例において、ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、他の適切な培地又は他の培養環境を利用して培養されてもよく、得られた菌体も、上記の骨関節炎に対する改善効果を有するはずである。他の実施例において、低投与量の生菌(実験群1)が達成可能な効果は、骨関節炎による硬骨損傷、軟骨損傷、軟骨組織及び/又は滑膜組織の炎症などを改善する効果を含み、高投与量の生菌(実験群2)及び高投与量の死菌(実験群4)によっても達成可能である。
【0061】
上記実施例によれば、本発明による骨関節炎及び変形性関節炎を改善するためのラクトバチルス・プランタルムGKD7含有組成物は、ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を使用することで、骨関節炎による関節痛を緩和することができるだけでなく、骨関節炎による硬骨損傷、軟骨損傷、軟骨組織及び/又は滑膜組織の炎症を改善することもでき、将来、有効成分として各種の組成物の調製に使用し、骨関節炎の改善に適用することができるという利点を有する。
【0062】
本発明は、複数の特定の実施例によって以上のように開示されたが、他の実施例も可能である。従って、本発明の添付される請求項の精神と範囲は、ここに含まれる実施例に記載のものに限定されない。
【符号の説明】
【0063】
110、120、130、210、220、230、240、250、260 曲線
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)GKD7の死菌を有効投与量で含む、骨関節炎を改善するための組成物であって、前記組成物は、受験者に2週間投与した後、骨関節炎による前記受験者の関節痛を緩和し、前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、2020年11月6日に日本独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)の特許微生物寄託センター(Patent Microorganisms Depositary)に寄託され、受託番号がNITE BP-03313であり、前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、熱不活性化細胞である、骨関節炎を改善するための組成物。
【請求項2】
前記受験者がラットである場合、前記有効投与量は、10mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記受験者がヒトである場合、前記有効投与量は、1mg/kg体重/日~165mg/kg体重/日である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌を有効成分として含む、変形性関節炎を改善するための経口組成物であって、前記組成物は、受験者に2週間投与した後、前記受験者の関節痛を緩和し、前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7は、受託番号がNITE BP-03313であり、前記ラクトバチルス・プランタルムGKD7の死菌は、熱不活性化細胞である、変形性関節炎を改善するための経口組成物。
【請求項5】
前記経口組成物が投与されていない対照受験者に比べ、前記経口組成物が投与された前記受験者は、荷重の左右差が小さい、請求項に記載の経口組成物。
【請求項6】
前記経口組成物が投与されていない対照受験者に比べ、前記経口組成物が投与された前記受験者は、軟骨組織及び/又は滑膜組織におけるIL-1βの発現量が低下する、請求項に記載の経口組成物。
【請求項7】
前記経口組成物は、週に3回~7回の頻度で前記受験者に投与される、請求項に記載の経口組成物。
【請求項8】
前記経口組成物は、前記受験者に2週間~8週間投与される、請求項に記載の経口組成物。