(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126004
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】プロトン交換膜燃料電池における質量、運動量、エネルギー及び電荷の輸送を分析するコンピュータシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/02 20160101AFI20240911BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240911BHJP
【FI】
H01M8/02
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024009032
(22)【出願日】2024-01-24
(31)【優先権主張番号】18/162,764
(32)【優先日】2023-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514180812
【氏名又は名称】ダッソー システムズ アメリカス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】イスラム,アシュラフル
(72)【発明者】
【氏名】オオトモ,ヒロシ
(72)【発明者】
【氏名】サラザール-ティオ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】クラウス,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ラオヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,フートン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】 プロトン交換膜燃料電池における質量、運動量、エネルギー及び電荷の輸送を分析するコンピュータシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】 方法は、それぞれ別個の多孔質構造を有する3つの隣接層L
1、L
2、L
3を有するプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)における物理的輸送を分析する。L
1/L
2界面の第1の部分の第1の小規模多相シミュレーションS
1は、L
1/L
2界面を特性評価するために使用される。S
1の結果は、L
1/L
2界面のより大きい第2の部分に統計的に拡張される。統計的に拡張されたL
1/L
2界面は、L
2/L
3界面を特性評価するために、第2の多相シミュレーションS
2のための境界条件として使用される。S
1は、特性評価されたL
2/L
3界面を境界条件として使用して繰り返される。S
1及びS
2は、L
1/L
2及びL
2/L
3界面にわたる運動量、エネルギー、化学種及び電荷の輸送の1つ以上をそれぞれシミュレートする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層L1、第3の層L3及び前記第1の層L1と前記第3の層L3との間に配置された第2の層L2、L1とL2との間の第1の界面L1/L2、L2とL3との間の第2の界面L2/L3を含む複数の隣接層を含む物理的プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)における水管理に対処するために、PEMFCにおける質量、運動量、エネルギー及び電荷の輸送を、前記PEMFCのコンピュータシミュレーションを介して分析するコンピュータベースの方法であって、各層は、各隣接層とは別個の多孔質スケール又は非多孔質構造を有する材料を含み、前記方法は、
前記第1の界面の第1の部分について、前記第1の界面の第1の小規模多相シミュレーションS1を実施するステップと、
前記第1の小規模多相シミュレーションS1後に前記第1の界面を特性評価するステップと、
前記第1の界面に関するS1の結果を、前記第1の部分よりも大きい面積を有する前記第1の界面の第2の部分に統計的に拡張するステップと、
前記第1の小規模多相シミュレーションS1によって特性評価された前記統計的に拡張された第1の界面を境界条件として使用して、前記第2の界面について第2の多相シミュレーションS2を実施するステップと、
前記第2の小規模多相シミュレーションS2後に前記第2の界面を特性評価するステップと、
前記第2の小規模多相シミュレーションS2によって特性評価された前記第2の界面を境界条件として使用して、前記第1の小規模多相シミュレーションS1を繰り返すステップと
を含み、前記多相シミュレーションS1及びS2は、それぞれ前記シミュレートされた層間の前記界面L1/L2及びL2/L3にわたる運動量、エネルギー、化学種及び電荷の輸送からなる群の1つ以上のシミュレーションをそれぞれ含む、コンピュータベースの方法。
【請求項2】
前記第1の界面の特性評価が所定の収束判定基準に従って収束するまで、前記S1及びS2シミュレーションを反復するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の多相シミュレーションS2は、前記S1シミュレーションよりも大規模なシミュレーションである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第3の層L3は、非多孔質材料で形成されたバイポーラプレート(BP)であって、ガス及び/又は流体を運ぶように構成されたチャネルを更に含むバイポーラプレート(BP)を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記収束した第2の界面を統計的に拡張して、前記バイポーラプレート全体をカバーするステップを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の層L2は、ガス拡散層(GDL)を含み、及び前記第2の界面L2/L3は、GDL/BP界面を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
拡張されたGDL/BP界面を境界条件として使用して、前記バイポーラプレートのみで多相シミュレーションを実施するステップを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
L1は、L2よりも微細な細孔構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記S1シミュレーションについて、L1が代表要素体積(REV)でシミュレートされる一方、L2の一部分のみが捕捉される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の界面の特性評価及び前記第2の界面の特性評価に従って前記物理的PEMFCを形成するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、燃料電池に関し、より詳細には、プロトン交換膜燃料電池において層界面を通る流体流をシミュレートすることに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
9つの層を有する典型的なPEMFC構造100を
図1に示す。最も内側の層は、ポリマー/水から構成されるナノメートルスケール構造を有するプロトン交換膜(PEM)110であり、主にプロトン拡散の役割を担っている。PEMの上方及び下方には、触媒層(CL)121、122、特にカソード121及びアノード122があり、これらは、それぞれ黒鉛、プラチナ及びアイオノマーから構成される数百ナノメートルのスケールの細孔構造を含み、そこで酸化還元反応が生じる。外向きに進むと、次の層は、黒鉛で構成されるマイクロメートルのスケールの細孔構造を有する微多孔質層(MPL)130である。MPL層は、気体及び水の流れを制御することを促進する。次の層であるガス拡散層(GDL)140は、疎水性炭素繊維で構成された数十マイクロメートルのスケールの細孔構造を有し、ガス/水の管理フローの重要な役割を担っている。最も外部の層は、フローフィールドプレート150(又はバイポーラプレート(BP))であり、ミリメートルサイズの相互接続されたチャネル151は、ガス及び水に関して最終的なフローの入力及び出力を提供する。
【0003】
プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)がどのように機能するかに関する分析及びシミュレーションは、その複雑なマルチスケール、マルチフィジックスの性質に起因して困難な課題である。PEMFCは、微細構造の長さスケールが数ナノメートル~数ミリメートルの範囲に及ぶ、機能的に異なる微細構造層から構成される。そのようなシステムの直接的な数値モデル化の試みは、いくつかの課題をもたらす。第1に、微細スケール(nm)及び粗いスケール(mm)の両方で正確な物理を捕捉するために必要な分解能は、計算リソース集約的である。第2に、例えば、水滴が微多孔質層から遥かに広いガスチャネルに現れ、その水滴が、毛細管から、慣性が優位なフローの物理に移行したときなど、長さスケールの変動が物理の変化を引き起こす場合がある。第3に、PEMFCのような燃料電池では、それらの層は、互いに機能的にも結合され、それらの層が共有する界面にわたって質量、運動量、エネルギー及び電荷が交換される。したがって、完全なシステム分析は、個別の層を正確にモデル化することを超えて、層界面での物理的特性を捕捉することも伴う。
【0004】
以前に公開されたPEMFCの研究及び発明の大多数は、個別の層のエクスサイチュ処理を対象としていた。この課題を包括的に解決しようとする試みは、ほとんどなかった。利用可能な研究は、固体によって分離された複数の単相流体の輸送が記載されている、米国特許第7,627,460 B2号(Froning, D., Gubner, A., Poppinger, M.“Method for the modeling of material and/or heat exchange process in a device and device for carrying out said method”)におけるようなマルチスケール手法の異なる変形形態を含む。米国特許第7,627,460号に記載されているマルチスケール手法は、PEMFC多相流体流をモデル化していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
別の手法では、Jankovic, J., Zhang, S., Putz, A., Saha, M. S., Susac, D.によって説明されているように(“Multiscale imaging and transport modeling for fuel cell electrodes”(Journal of Materials Research, 34(4), 579-591))、PEMFC内の異なる層の3D再構築された微細構造を得るために、異なるタイプの画像化が実施され、システムの全体的な導電率をシミュレートする能力を示すためのみに、アップスケーリング手法による3Dデータセットに対する直接的な数値シミュレーションが適用された。しかしながら、Jankovicは、PEMFC層にわたって生じるより複雑な物理的特性に対処していない。したがって、この業界では、上述した欠点に対処することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明の実施形態は、プロトン交換膜燃料電池における質量、運動量、エネルギー及び電荷の輸送を分析するコンピュータシミュレーション方法を提供する。簡潔に説明すると、本発明は、それぞれ別個の多孔質構造を有する3つの隣接層L1、L2、L3を有するプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)における物理的輸送を分析する方法を対象とする。L1/L2界面の第1の部分の第1の小規模多相シミュレーションS1は、L1/L2界面を特性評価するために使用される。S1の結果は、L1/L2界面のより大きい第2の部分に統計的に拡張される。統計的に拡張されたL1/L2界面は、L2/L3界面を特性評価するために、第2の多相シミュレーションS2のための境界条件として使用される。S1は、特性評価されたL2/L3界面を境界条件として使用して繰り返される。S1及びS2は、L1/L2界面及びL2/L3界面にわたる運動量、エネルギー、化学種及び電荷の輸送の1つ以上をそれぞれシミュレートする。
【0007】
本発明の他のシステム、方法及び特徴は、以下の図面及び詳細な説明を精査することで当業者に明らかであるか又は明らかになるであろう。そのような追加のシステム、方法及び特徴の全てが本明細書に含まれ、本発明の範囲内にあり、添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
添付の図面は、本発明の更なる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。図面における構成要素は、必ずしも縮尺通りではなく、代わりに本発明の原理を明確に図示することに重点が置かれている。図面は、本発明の実施形態を示し、本明細書の記載と一緒に本発明の原理を説明する役割を果たす。
【0009】
【
図1】9つの層を有する典型的なPEMFC構造の概略図である。
【
図2】PEMFC構造において一般的な水管理ワークフローをシミュレートする方法の第1の実施形態の概略図である。
【
図3】
図2のPEMFC構造の3つの層の概略図である。
【
図4】GDL及びバイポーラプレートシミュレーションのためのセットアップの概略図である。
【
図5】
図4のシミュレートされたセットアップにおける水輸送の4つの異なる段階を示す概略図である。
【
図6】
図4のシミュレーションセットアップにおける異なる空気圧力差での水流出場所を示す一連のプロットである。
【
図7】
図4のシミュレーションセットアップにおけるいくつかの空気圧レベルでのGDL/BP界面の水及び空気流束を示すプロットである。
【
図8】より大きい表面積に統計的に拡張されたGDL/BP層界面での水流出場所を示す一連の図である。
【
図9】水が注入され、空気が特定の場所で噴出する、統計的に拡張されたGDL/BP界面に関するシミュレートされたバイポーラプレートを示す図である。
【
図10】バイポーラプレートにおける空気流及び水流のシミュレートされた結果の図であり、静圧及び水プロファイルを示す上図(上部)及び拡大図(下部)を示す。
【
図11】燃料電池における水管理をモデル化する例示的な方法のフローチャートである。
【
図12】本発明の機能を実行するシステムの例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
以下の定義は、本明細書で開示される実施形態の特徴に適用される用語を解釈するために有用であり、本開示における要素を定義することのみを意図する。
【0011】
本開示で使用される場合、ポリマー電解質膜(PEM)燃料電池としても知られる「プロトン交換膜燃料電池」(PEMFC)は、典型的には、輸送用途並びに静止燃料電池用途及び携帯用燃料電池用途のために使用される燃料電池のタイプを指す。それらは、温度及び/又は圧力範囲(50~100℃)で動作することができ、プロトン伝導性高分子電解質膜を伴う。PEMFCは、電気を発生させ、電気を消費するPEM電気分解とは反対の原理で動作する。PEMFCは、電極、触媒及びガス拡散層を含む膜電極アセンブリ(MEA)で形成され得る。電池は、電解質、触媒及び反応物質が混合している三相境界(TPB)を有する。
【0012】
本開示で使用される場合、「膜電極アセンブリ」(MEA)は、PEM膜並びにPEMFCのカソード及びアノード触媒層を指す。
【0013】
本開示で使用される場合、「触媒層」(CL)は、PEMFCのナノメートルスケールの細孔構造を指す。CLは、膜の両側に、すなわちアノード層が一方の側に、カソード層が他方の側に追加され、PEMを直接取り囲む。
【0014】
本開示で使用される場合、「バイポーラプレート」(BP)又はフローフィールドプレートは、ガス及び水のフロー入力及び出力を提供するPEMFCの外層を指す。
【0015】
本開示で使用される場合、「画像キルティング」は、表面の一部分のより小さい画像を組み合わせることにより、大きい表面の画像を形成することを指す。
【0016】
本開示で使用される場合、「統計的拡張」は、界面の第1の部分に関する物理的特性を、例えば画像キルティングを介して界面の第2のより大きい部分に適用する方法を指す。
【0017】
本開示で使用される場合、「レイノルズ数」は、異なる流体速度に起因して相対的な内部運動を受ける流体中での慣性力と粘性力との比を指す。これらの力が挙動を変化させる領域は、境界層として知られている。
【0018】
本開示で使用される場合、「計算ドメイン」又は数値流体力学(CFD)ドメインは、CFDシミュレーションの解が計算される空間の一部を指す。流体流の離散化された数式を解くために、計算ドメインは、計算グリッド(又はメッシュ)に離散化され得る。
【0019】
本開示で使用される場合、「計算グリッド」は、一般に、層界面全体の代わりに、シミュレーションのために使用される、典型的には層界面及び/又は界面の層における燃料電池の幾何学的に定義された領域を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「化学種輸送」は、一般に、燃料電池のバルク流れ、壁若しくは粒子表面又は多孔質ゾーンで発生する1つ以上の化学過程を指す。
【0021】
ここで、本発明の実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。図面及び本明細書では、可能な場合には常に、同じ又は類似の要素を参照するために同じ参照番号が使用される。
【0022】
例示的実施形態は、PEMFC中の層などの複数のタイプの多孔質媒体において、物理的特性に基づく微細構造シミュレーションを一貫してアップスケールする際の困難に対処することを対象とする。実施形態は、PEMFC内の異なる層にわたる質量、運動量、熱及び電荷移動などの異なる物理的特性に適用可能な一般化されたワークフローについて説明し、具体的には異なる層間の界面の特性評価、界面のアップスケーリング及びより大規模なモデルの分析に関する物理的特性の分析のためのフレームワークをより微細なスケールで提供する。この一般化されたワークフローは、微多孔質層、ガス拡散層及びバイポーラプレートが関与する、PEMFCにおける水管理シミュレーションに関して記載される。
【0023】
本発明の例示的実施形態は、改善された燃料電池水管理を対象とする。PEMFCに関連する重要な課題は、燃料電池スタック中での水平衡である。各電池内で化学反応が生じるにつれて、水が発生する。負荷及び動作条件に応じて、燃料電池がフラッディング又はドライアウトする傾向がある。ポリマー膜中の含水量は、プロトン伝導度に影響を及ぼし、活性化過電圧に影響を及ぼす。MEAが適切に加湿されない場合、プロトン伝導度が減少する(電池抵抗が増加する)。
【0024】
過剰な水は、燃料電池で問題を生じさせ、水の除去が非効率的である場合、電極のフラッディング、ガス拡散バッキング又はガスチャネルにより、触媒部位への反応物の拡散が妨げられる可能性がある。膜が水和されたままとなるように、電流密度、温度、反応物流量、圧力、加湿、電池設計及び構成要素材料などのパラメータをバランスさせる必要がある。PEM燃料電池内の水は、カソード反応及び反応ガスの加湿に起因して生じる。カソードにおける水の生成は、電流密度(負荷によって引き出されている電流)に依存する。燃料電池内での水の蓄積は、ガス拡散層、フローチャネル又はヒーター設計を介して緩和することができる。
【0025】
実際には、例示的実施形態は、燃料電池の設計の変更をもたらす方法、具体的には所与の動作範囲に対して最適な層、微細構造及び組み合わせを選択することによって設計を改善することを対象とする。実施形態は、燃料電池の水管理の改善を対象とする一方、実施形態に記載されるワークフローは、一般的なものであり得、燃料電池に関する関心対象の他の特性、例えば熱伝搬、機械的完全性、電気的応答及び電気化学的シミュレーションを単独で又は組み合わせて適用可能である。
【0026】
例示的実施形態は、一度に2つの燃料電池層の別個のシミュレーションを提供し、一方がREVでシミュレートされ、他方の一部が捕捉される。シミュレーションの分解能がそれぞれの層の特性(例えば、細孔サイズ)に応じて変化するため、この結果は、従来の方法よりも計算集約的でない手法である。スケールは、層ごとに変化し、次のより大きい層との効果的な相互作用を計算することにより、より小さい層に対する高分解能の必要性が排除される。スケールが層ごとに増加するにつれて、この利点が更に増す。
【0027】
図2は、PEMFCの3層、すなわちL
1、L
2及びL
3のみを使用する例示的実施形態の一般的シミュレーション方法200を示すが、このプロセスは、任意の数の層に拡張可能である。例えば、L
1は、触媒層(CL)121、122(
図1)に対応し得、L
2は、MPL層130(
図1)に対応し得、L
3は、ガス拡散層(GDL)140(
図1)に対応し得る。代わりに、
図2の層L
1~L
3は、膜110(
図1)の上又は下の任意の3つの隣接層に対応し得る。
【0028】
第1のステップ210では、2つ以上の隣接層L
1、L
2間で輸送される質量、運動量、エネルギー、化学種及び電荷は、直接的な数値シミュレーションを用いて第1のシミュレーションS
1で計算され、層L
1及びL
2は、互いに構造的に異なる。ここで、内側層L
1は、外側層L
2よりもプロトン交換膜110(
図1)に近く、より微細な構造を含む。層L
1、L
2、L
3は、燃料電池にわたるエネルギー及び化学種の輸送において異なる役割も担う。シミュレーションのための計算グリッドは、全ての層L
1、L
2、L
3における物理的現象を正確に捕捉するために十分な分解能を有しなければならない。いくつかの場合、計算ドメインは、例えば、外側層に対して燃料電池スタックの物理的寸法の一部のみをカバーし得る一方、内側層のためのシミュレーションドメインは、一般に、その層の代表要素体積でなければならない。この判定基準を確実にするために、(米国特許出願公開第2022/0207219A1号で概説されるような)マルチスケール手法を使用することができる。ここで、第1のステップ210のシミュレーションの上部境界及び底部境界の流束に対して初期的な推定が実施される。一貫性のため、用語「上部」及び「底部」は、
図2及び
図3に示す層の方向を指すために使用され、L
3は、上部層と考えられ、L
1は、底部層と考えられる。「上部」及び「底部」は、関連する物理的な燃料電池の方向に対応しない場合があることに留意されたい。
【0029】
第2のステップ220では、L1/L2界面にわたるエネルギー及び化学種の交換は、流体圧、流量、温度、湿度、電荷、化学種濃度、電位等の異なる動作条件に対して分析される。任意選択で、燃料電池の異なる場所で2つ以上のシミュレーションS1が実施され得る。第1のシミュレーションS1で使用されるL1/L2界面の特性は、第3のステップ230のために統計的に拡張されて、(例えば、L2/L3界面におけるより大きい細孔サイズに対応する)より大きい界面面積をカバーする。
【0030】
第3のステップ230では、層L2及びL3を含む第2のシミュレーションS2が実施される。この場合、L2層は、より粗い分解能を有する第1のシミュレーションS1のものよりも大きい。第1のシミュレーションS1と同様に、第2のシミュレーションS2のグリッド分解能は、L2及びL3における物理的現象を捕捉するために十分な分解能を有する。
【0031】
第4のステップ240では、第2のステップ220が繰り返され、L2/L3界面が特性評価される。上部境界流束に対して初期的な推定が実施されている間、L2/L3の底部境界条件が得られる。初期条件推定は、その後の反復のために、第3のステップ230のためのS2シミュレーションで適用され得る。
【0032】
次いで、S2からの更新されたL2/L3界面を使用して、第2のS1シミュレーションを実施し、L1/L2界面を再較正し得る。したがって、S1からの結果を使用して、S2シミュレーションでより正確な境界条件を提供することができる。具体的には、第1のS1シミュレーションで使用する上部境界条件は、第1のステップ210の第2の反復で使用される、第4のステップ240からの底部境界条件によって置換される。このように、特性の交換がL1/L2及びL2/L3界面で収束するまで、S1/S2シミュレーションが反復して継続され得る。
【0033】
ワークフローは、N+1層が関与する最大S
N回の一連のシミュレーションで続き、同期シミュレーションは、S
iとS
(i-1)との間で行われる。最終的なアップスケールされたシミュレーション、すなわちS
Nは、システム全体に対する総合的なエネルギー及び化学種交換情報を提供する。上記で概述した
図2のステップの詳細について以下で説明する。
【0034】
物理的PEMFCは、S1及びS2シミュレーションによって特性評価されたL1/L2及びL2/L3界面に応じて形成され得る。例えば、物理的PEMFCは、シミュレートされた層特性、及び/又は特定の実装環境、及び/又は物理的PEMFCの用途に基づいて形成され得る。
【0035】
図2は、モデル化された層表面を菱形として示す。隣接層間の界面表面積の全てをモデル化/シミュレートする代わりに、本実施形態は、界面表面のごく一部をモデル化する。より小さい界面面積をモデル化することは、より大きい界面面積をモデル化することよりも計算集約的でない。モデル化されるより小さい界面面積のサイズは、層の物理的属性及びモデル化されている物理的特性に応じて決定され得る。例えば、本実施形態は、水管理を対象とするため、モデル化される統計面積は、水流体力学に関連して、界面における層の細孔サイズに比例し得る。
図2に示す例について、第1の層と第2の層との間のモデル化された界面面積における細孔サイズは、第2の層と第3の層との間のモデル化された界面面積における細孔サイズよりも小さく、したがって、第1のステップ210及び第2のステップ220のモデル化された面積は、第3のステップ230及び第4のステップ240よりも小さい菱形で示される。第1のステップ210及び第2のステップ220のMPL/GDL界面(以下で更に説明される)を、より大きい界面でモデル化された第3のステップ230及び第4のステップ240に統計的に拡張することは、第2のステップ220におけるより小さいL
1/L
2菱形から、第3のステップ230におけるより大きいL
2菱形への変化によって示される。他の例では、シミュレートされた層の相対的な細孔サイズは、
図2で説明されるものと異なり得ることに留意されたい。
【0036】
図2は、本発明に関する一般的フレームワークを説明する一方、
図3~
図11は、燃料電池の3つの特定の層、すなわち微多孔質層130、ガス拡散層140及びバイポーラプレート150(
図3)を有する実施形態を示す。しかしながら、本発明の範囲は、3つの層に限定されず、代替的実施形態は、4つ以上の層及び/又は異なる燃料電池層を対象とし得る。
【0037】
酸素燃料の存在下での還元反応の結果として、動作中のPEMFC100のカソード触媒層(CL)121(
図1)で水が生成される。プロトン交換膜110を水和させた状態に維持するために、生成された水の一部が使用され、残りは、ガス拡散層(GDL)140及び隣接するバイポーラプレート(BP)150を介して除去される。水管理の課題は、低電流密度での膜110の「ドライアウト」を回避し、高電流密度でのGDL140の水フラッディングを防止することである。
【0038】
GDL140は、典型的には、70%~80%の多孔率を有する、典型的には厚さが数百マイクロメートルのカーボン紙で作製される。GDL140は、直径が5~10μmである疎水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)被覆ファイバを有する。GDL140は、触媒層121/122への反応ガス輸送を促進し、同時にバイポーラプレート150への水流出経路を構築する。GDL140は、典型的には、主に炭素粉末及びPTFE結合剤で構成される薄い微多孔質層(MPL)130により、通常、50~70μm程度の厚さで被覆される。MPL130は、GDL140における水流出経路を安定化させることにより、燃料電池100の水管理を促進し、それによりGDL140内での水飽和が低減され、GDL140とCL121、122との間の電気的接触が構築される。
【0039】
GDL140内部で水及び/又は空気の毛細管圧が増加すると、水の最前部は、非線形に進み、これは、ヘインズジャンプによって特徴付けられ得る。GDLなどの多孔質媒体は、ボトルネック半径によって特徴付けられ得、これは、媒体の流体パーコレーション方向にわたって押され得る最大の剛体球の半径である。水の最前部は、最初に、より大きい細孔を充填し、ボトルネックで停止して、細孔-スロート構造によって定められる毛細管圧に達し、次いで現在の圧力で押し入ることが可能な細孔空間を通して突進する。毛細管圧が更に増加すると、水の最前部は、更にジャンプする。その結果、水は、毛細管フィンガーを形成することにより、疎水性GDL微細構造(非湿潤細孔空間)を通して浸透し、最後にバイポーラプレート150に現れる。
【0040】
バイポーラプレート150は、GDL140から現れる水を回収するための親水性チャネル151を含む。バイポーラプレート150における空気流及び水流に応じて、バイポーラプレート150で様々な水流パターン(例えば、スラグ流、膜流及び霧流)が観察され得る。
【0041】
図11は、燃料電池における水管理をモデル化する例示的な方法のフローチャートである。ここで、微多孔質プレート、ガス拡散層及びバイポーラプレートを通る水管理をシミュレートするために、前のセクションで概説された
図2のワークフローが適用される。上記の一般のワークフローと比較した場合、微多孔質層(MPL)130、ガス拡散層(GDL)140及びバイポーラプレート(BP)150は、それぞれ
図2のL
1、L
2及びL
3層として見ることができる。MPL(L
1)及びBP(L
2)層は、S
1シミュレーションで考慮される一方、S
2シミュレーションは、
図3に示すGDL(L
2)及びBP(L
3)を伴う。
【0042】
フローチャートにおけるいかなるプロセスの説明又はブロックも、そのプロセスで特定の論理的機能を実現するための1つ以上の命令を含むモジュール、セグメント、コードの一部又はステップを表すものとして理解されなければならず、本発明の範囲内の代替的な実装形態が含まれ得、実装形態では、本発明の技術分野の適切な当業者であれば理解するように、機能が、示された又は論じられた順序と異なる順序において、関連する機能に応じて実質的に並行して又は逆の順序を含めて実行され得ることに留意されたい。
【0043】
ブロック1110で示すように、MPL140及びGDL130を使用して、小規模な第1の多相シミュレーション(S1)が実施される。MPL140及びGDL130の3Dモデル化された微細構造がX線マイクロ断層撮影3D走査画像から作成される。走査画像から3Dモデル化された微細構造を作成する手順は、例えば、G. R. Jerauld, J. Fredrich, N. Lane, Q. Sheng, B. Crouse, D.M. Freed, A. Fager, and R. Xu,“Validation of a workflow for digitally measuring relative permeability,”SPE 188688, SPE Abu Dhabi Int. Pet. Exhib. & Conf., Abu Dhabi, U.A.E., Nov., 2017に記載されている。ここで、(GDL130よりも微細な細孔構造を有する)MPL140は、代表要素体積(REV)及びその限界細孔スロートに対する十分な分解能で捕捉される一方、モデル化されたGDLは、S1シミュレーションでREVを表さない場合があるが、界面で一部の最小の固体及び細孔構造を捕捉することができる。S1シミュレーションの分解能は、GDL130及びMPL140の両方において、シミュレートされている適用可能な特性に応じて正確な物理的特性を捕捉するのに十分となるように選択される。例えば、GDL及びMPLを通る水管理のためのS1シミュレーションの分解能は、対応する20μmボトルネック半径に応じて、GDL130について1μm/画素であり得、MPL140について2μmであり得る。
【0044】
動作中の燃料電池では、水は、MPL層の底部境界から特定の容積測定注入速度で供給される一方、空気は、同じ境界から特定の速度で噴出される。水注入体積は、カソード層の酸化反応によって支配される、底部表面上での外向き質量流束の関数であり得る。MPL140は、GDL130と共通の界面を共有する。一定の空気圧力がGDL上部境界に設定される。空気及び水の両方がこの境界を通過することができる。不浸透性の中実壁は、前方、後方、左側及び右側の境界に沿って配置される。
【0045】
MPL140は、疎水性コーティングを有するGDL150よりも微細な細孔空間を有する。その結果、水がMPL140を貫通するように、毛細管の入口圧もより高い。しかしながら、例えば、MPL140は、多くの場合、例えばカーボン紙の製造中又は燃料電池スタックの組立中のいずれかで導入されたクラック/欠陥を含む。その結果、水は、低圧力において、これらのクラックを通してMPL140に入り込む可能性がある。クラックは、GDL130中への優先的な水経路の形成を促進し得る。
【0046】
水が上部GDL境界から底部MPL境界まで流れる方向とは反対方向に空気が流れる。ドメイン全体に対して及び各層に対して別々に、水及び空気の飽和が収束するまでシミュレーションが継続される。その後、水注入及び空気噴出速度がMPL底部境界で更新され、S1シミュレーションが再び実施される。各交換率について、MPL/GDL界面で以下の特性が記録される。
1.水流出場所
2.圧力分布
3.空気流量及び水流量
【0047】
MPL/GDL界面は、ブロック1120で示すように、S2シミュレーションで使用されるより大きい面積に統計的に拡張される。ここで、統計的界面再構成がMPL/GDL界面について実施される。再構成中、計算された特性、例えば水流出場所、圧力分布及び空気/水の流量は、S1シミュレーションで使用されるより小さい面積から統計的に拡張されて、S2シミュレーションで使用されるより大きい面積をカバーする。非限定的な例として、S1シミュレーションのために使用される界面面積は、数千μm2程度であり得、S2シミュレーションのために使用される界面面積は、数十万μm2程度であり得る。
【0048】
図8は、画像キルティングの3レベル適用(Efros, A., Freeman, W. (2001). Image Quilting for Texture Synthesis and Transfer. Proceedings of SIGGRAPH‘01, Los Angeles, California, August 2001を参照されたい)を示し、これは、訓練画像に基づいてより大きい画像を生成するために使用され得るいくつかの統計的方法の1つである。例えば、キルティングプロセスでは、重なり合う境界領域で一貫している一連のパッチがランダムに選択される。より多くのパターンを訓練画像に含めるため、所与の画像の3回の回転が考慮され、一緒につなぎ合わせることができる。キルティングによって新たな大きい画像が作成されると、画像を平均化することによって粗大化プロセスが継続され、例えば係数3による粗大化プロセスでは、局所的画像の3×3セットの全てが9画素の平均値によって置換される。結果として生じる粗大化された画像は、その後の統計的再構成の反復のための訓練画像として使用され得る。
【0049】
ブロック1130で示すように、GDL140及びBP150の層を使用して、より大規模なS
2多相シミュレーションが実施される。空気で満たされたGDL140及びバイポーラプレート150を通る水輸送は、例えば、多相格子ボルツマン法を使用して第2のダイレクトシミュレーション(S
2)で捕捉される。分解能は、GDL及びBPチャネル(少なくとも1つのチャネル)の両方で流れの物理的特性を捕捉するのに十分となるように設定される。しかしながら、利用可能な計算リソースの限界内とするため、GDL140のために代表要素体積が選択される一方、バイポーラプレート150(少なくとも1つのチャネル)の僅かな割合のみがシミュレートされ得る。
図4は、隣接するGDL140の上方に位置するBP層150の単一チャネルの界面400の3D図を示し、BP層150中の親水性チャネル151に平行な(左上)及び垂直な(左下)断面図である。
図4に示すように、矩形のバイポーラプレート150は、GDL140の上に載っている。バイポーラプレート150中の親水性チャネル151は、左から右への空気流に対して開いており(右側画像)、水は、下方のGDL140から親水性チャネル151内に入ることができる。左上画像は、親水性チャネルを通る空気流方向に平行である一方、左下画像は、空気流方向に垂直である。
【0050】
(ブロック1120に従って)拡張されたMPL/GDL界面は、GDL140の底部境界条件を設定するために使用される。GDL/BP界面は、複数の箇所でGDL140からBP層150を通して流出する水と、体積測定(空気及び水の両方の)流量との空間分布を含む。バイポーラプレート150にわたって圧力差が印加されて、親水性チャネル151を通して空気流が押し込まれる。シミュレーションの開始時、空気圧が小さく保たれて、
図5(a)に示すように、GDL/BP界面で水が液滴を形成することが可能になる。これらの液滴は、大きくなるにつれて親水性バイポーラプレート壁と接触し、最終的に、
図5(b)に示すように互いに合体することによって水スラグを形成する。より多くの水がシステムに注入されるにつれて、スラグが成長し、
図5(c)に示すように、バイポーラプレート150内の反対側の壁まで及ぶ水ブリッジを形成する。シミュレーションは、ドメインの全てで水飽和がもはや変化しなくなるまで低空気圧で継続する。その後、空気圧が増加され、その結果、
図5(d)に示すように、水スラグが分散し、親水性チャネル151の両方の壁上に水膜が形成される。従属的な水流は、主流の水膜中に供給される、壁に近い流出場所に由来する。壁から離れて位置する流出部位は、水滴を繰り返し生成し、水滴は、急速にスナップオフされて、空気流によって下流に運ばれる。その結果、膜流に加えて、バイポーラプレート150内で霧流が形成されることによって水も輸送される。
【0051】
ブロック1140で示すように、GDL/BP層界面が特性評価される。ブロック1130に従ってS
2シミュレーションが完了すると、GDL/BP界面上の水流出場所が特定される。
図6は、空気圧差が異なる水流出場所を示す。
図7は、いくつかの空気圧レベルにおけるGDL/BP界面での水及び空気流束のプロットである。
【0052】
ブロック1150で示すように、S2シミュレーションからのGDL/BP界面の特性評価がS1シミュレーションの第2の反復で使用される。以前には、水が注入され、空気が底部境界において一定速度で噴出される一方、S1シミュレーションの上部境界条件は、一定の空気圧に設定されていた。ここで、S1シミュレーションが再び繰り返されるが、今回は、ブロック1130の第2のシミュレーションから得られた上部境界条件で初期上部境界条件が置換される。具体的には、底部境界は、一定の水圧に設定され、それにより空気及び水の両方が自由に通過することが可能である一方、上部境界条件として異なるレベルの空気圧が印加されるときに水及び空気流束が測定される。
【0053】
ブロック1155で示すように、MPL/GDL及びGDL/BP界面の特性は、現在及び以前の連続する反復間で比較される。比較により、水流出場所、水及び空気流束などの所定の収束判定基準が満たされない場合、処理は、更なるS1/S2反復のためにブロック1120~1150に戻る。ブロック1155の比較により、収束判定基準が満たされる場合、方法は、ブロック1160に進む。
【0054】
ブロック1160で示すように、収束したGDL/BP界面は、バイポーラプレート150全体をカバーするように統計的に拡張される。水流出場所、収束されたGDL/BP界面で計算された水流束などの特徴的な特性は、より大きい表面積に統計的に拡張される。統計的界面再構成は、(ブロック1130に従って)S
2シミュレーションでシミュレートされた異なる空気圧ごとに行われる。
図8は、画像キルティングの3レベルの適用(Efros, A., Freeman, W. (2001). Image Quilting for Texture Synthesis and Transfer. Proceedings of SIGGRAPH‘01, Los Angeles, California, August 2001を参照されたい)を示し、これは、訓練画像に基づいてより大きい画像を生成する可能な統計的方法の1つである。前述したように、キルティングプロセスは、いくつかの重なり合う境界領域で一貫しているランダムに選択された一連のパッチを、所与の画像の回転を含めて一緒につなぎ合わせることを含み得る。キルティングによって新たな大きい画像が作成されると、画像を平均化することによって粗大化プロセスが継続され、例えば係数3による粗大化プロセスでは、局所的画像の3×3セットの全てが9画素の平均値によって置換される。新たな大きい画像は、訓練画像として再利用され得る。例えば、このプロセスを使用して、
図8に示すように×10の粗大化係数を2回適用することにより、1画素あたり3μmから30μm及び最終的に300μmにスケーリングすることができる。
【0055】
ブロック1170で示すように、拡張されたGDL/BP界面のみを境界条件として使用して、バイポーラプレートに対して多相シミュレーションが実施される。ここで、先に述べた統計的に拡張されたGDL/BP界面を境界条件として使用して、バイポーラプレート(BP)における空気流及び水流がシミュレートされる。具体的には、GDLシミュレーションで捕捉されたデータを使用して、特定の場所で所望の量の水が注入される(更に空気が噴出される)。注入された水の例示的なパターンを
図9に示す。
【0056】
空気流は、主に、
図9の右上の角及び左下の角に示される入口と出口との間の圧力差によって駆動される。バイポーラプレートチャネルの排水効率を評価するため、圧力差が徐々に増加され、大部分の水をチャネルから除去することを可能にする臨界圧が推定される。
図10では、圧力及び水プロファイルの等値面を示す、シミュレートされた結果が示される。上図は、入口と出口との間の圧力差に対する毛細管圧を示す。下図は、水スラグの詳細なパターンを示し、水スラグは、親水性チャネル上部壁に付着し、疎水性GDL底面から引き離される。
【0057】
上述した実施形態は、特定の材料及び物理的制約を使用し、所与の用途に対する条件下において、特定の機能的な性能特性を有する物理的な燃料電池を設計するための実用的な用途によって実現され得る。これは、設計及び製造プロセスを合理化及び改善し、具体的には所与の用途に対して燃料電池を最適化するための設計/構築/試験の反復数を減らす。
【0058】
前述したように、上記で詳述した機能を実行する本システムは、コンピュータであり得、その例が
図12の概略図に示されている。システム500は、プロセッサ502、記憶装置504、上述した機能を定義するソフトウェア508が記憶されたメモリ506、入力及び出力(I/O)デバイス510(又は周辺機器)並びにシステム500内での通信を可能にするローカルバス又はローカルインターフェース512を含む。ローカルインターフェース512は、例えば、当技術分野で公知の1つ以上のバス又は他の有線若しくは無線接続であり得るが、これらに限定されない。ローカルインターフェース512は、簡略化のために省略されているが、通信を可能にするための追加の要素、例えばコントローラ、バッファ(キャッシュ)、ドライバ、リピータ及びレシーバを有し得る。更に、ローカルインターフェース512は、上述した構成要素間での適切な通信を可能にするために、アドレス、制御及び/又はデータの接続を含み得る。
【0059】
プロセッサ502は、具体的にはメモリ506に記憶されているソフトウェアを実行するためのハードウェアデバイスである。プロセッサ502は、任意のカスタムメイド又は市販のシングルコア又はマルチコアプロセッサ、中央演算処理装置(CPU)、本システム500に関連するいくつかのプロセッサの補助プロセッサ、半導体ベースの(マイクロチップ又はチップセットの形態の)マイクロプロセッサ、マクロプロセッサ又はソフトウェア命令を実行するための一般的な任意のデバイスであり得る。
【0060】
メモリ506は、揮発性メモリ要素(例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM、例えばDRAM、SRAM、SDRAMなど))及び不揮発性メモリ要素(例えば、ROM、ハードディスク、テープ、CDROMなど)のいずれか1つ又はこれらの組み合わせを含み得る。更に、メモリ506は、電子的、磁気的、光学的及び/又は他のタイプの記憶媒体を組み込み得る。メモリ506は、様々な構成要素が互いに遠隔に位置するが、プロセッサ502によってアクセスすることができる分散アーキテクチャを有し得ることに留意されたい。
【0061】
ソフトウェア508は、本発明に従ってシステム500によって実施される機能を定義する。メモリ506内のソフトウェア508は、1つ以上の別々のプログラムを含み得、その各々は、後述するように、システム500の論理的機能を実現するための実行可能命令の順序付けられたリストを含む。メモリ506は、オペレーティングシステム(O/S)520を含み得る。オペレーティングシステムは、基本的に、システム500内でのプログラムの実行を制御し、スケジューリング、入出力制御、ファイル及びデータ管理、メモリ管理並びに通信制御及び関連するサービスを提供する。
【0062】
I/Oデバイス510は、例えば、キーボード、マウス、スキャナ、マイクロホンなどであるが、これらに限定されない入力デバイスを含み得る。更に、I/Oデバイス510は、例えば、プリンタ、ディスプレイなどであるが、これらに限定されない出力デバイスも含み得る。最後に、I/Oデバイス510は、入力及び出力の両方を介して通信するデバイス、例えば変調器/復調器(別のデバイス、システム又はネットワークにアクセスするためのモデム)、無線周波数(RF)若しくは他のトランシーバ、電話インターフェース、ブリッジ、ルータ又は他のデバイスであるが、これらに限定されないデバイスを更に含み得る。
【0063】
システム500が動作しているとき、プロセッサ502は、上述したように、メモリ506内に記憶されたソフトウェア508を実行し、メモリ506との間でデータを送受信し、ソフトウェア508に従ってシステム500の動作を概ね制御するように構成される。
【0064】
システム500の機能が動作しているとき、プロセッサ502は、メモリ506内に記憶されたソフトウェア508を実行し、メモリ506との間でデータを送受信し、ソフトウェア508に従ってシステム500の動作を概ね制御するように構成される。オペレーティングシステム520は、プロセッサ502によって読み込まれ、恐らくプロセッサ502内でバッファリングされ、その後、実行される。
【0065】
システム500がソフトウェア508で実現される場合、システム500を実現するための命令は、任意のコンピュータ関連デバイス、システム若しくは方法による使用のための又はそれらに関連する任意のコンピュータ可読媒体に記憶され得ることに留意されたい。そのようなコンピュータ可読媒体は、いくつかの実施形態では、メモリ506又は記憶装置504の一方又は両方に対応し得る。本明細書に関連して、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ関連デバイス、システム若しくは方法による使用のための又はそれらに関連する、コンピュータプログラムを含むか又は記憶し得る電子的、磁気的、光学的又は他の物理的なデバイス又は手段である。システムを実現するための命令は、プロセッサ又は他のそのような命令実行システム、装置若しくはデバイスによる使用のための又はそれらに関連する任意のコンピュータ可読媒体で具体化され得る。プロセッサ502が例として言及されているが、いくつかの実施形態では、そのような命令実行システム、装置又はデバイスは、命令実行システム、装置又はデバイスから命令を取り出し、命令を実行することができる任意のコンピュータベースのシステム、プロセッサを含むシステム又は他のシステムでもあり得る。本明細書に関連して、「コンピュータ可読媒体」は、プロセッサ又は他のそのような命令実行システム、装置若しくはデバイスによる使用のための又はそれらに関連するプログラムを記憶、通信、伝搬又は伝達し得る任意の手段であり得る。
【0066】
そのようなコンピュータ可読媒体は、例えば、電子的、磁気的、光学的、電磁気的、赤外線又は半導体のシステム、装置、デバイス若しくは伝搬媒体であり得るが、これらに限定されない。コンピュータ可読媒体のより具体的な例(非網羅的リスト)は、1つ以上のワイヤを有する電気的接続(電子的)、可搬式コンピュータディスケット(磁気的)、ランダムアクセスメモリ(RAM)(電子的)、読取り専用メモリ(ROM)(電子的)、消去可能プログラム可能読取り専用メモリ(EPROM、EEPROM又はフラッシュメモリ)(電子的)、光ファイバ(光学的)及び可搬式コンパクトディスク読取り専用メモリ(CDROM)(光学的)を含む。コンピュータ可読媒体は、その上にプログラムが印刷された紙又は別の好適な媒体でさえあり得、その場合、プログラムは、例えば、紙又は他の媒体の光学的スキャンを介して電子的に捕捉され得、次いで必要に応じて好適な形式でコンパイル、解釈又は別様に処理され得、次いでコンピュータメモリに記憶され得ることに留意されたい。
【0067】
代替的な実施形態では、システム500がハードウェアで実現される場合、システム500は、以下の技術のいずれか又はそれらの組み合わせによって実現され得、各技術は、当技術分野で周知である:データ信号に応じて論理機能を実現するための論理ゲートを有する個別論理回路、適切な組み合わせ論理ゲートを有する特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブルゲートアレイ(PGA)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等。
【0068】
上述した実施形態は、物理的な燃料電池のモデル化及びシミュレーションに関連し、これは、物理的な燃料電池を構築するプロセスの一環として行われる。具体的には、シミュレーションは、燃料電池の設計者がコンピュータ環境内で物理的な燃料電池をモデル化し、物理的な燃料電池の様々な態様の性能をシミュレートすることを可能にする。
【0069】
GDL140及びバイポーラプレート150を通る水輸送の数値シミュレーションは、輸送が複数の長さスケールにわたるために困難であり得る。微多孔質GDL140の毛細管事象を正確に捕捉するため、GDL140の細孔空間は、十分な分解能を有しなければならない。GDL140は、バイポーラプレート150と質量及び運動量を交換するため、正確なモデル化のためにGDL/BP相互作用を並行して捕捉する必要がある。ここでも、シミュレートされたBPチャネルは、簡略化された幾何学的構造を有するが、様々な流体流れパターンを捕捉するために、チャネルは、十分に長い必要がある。しかしながら、長いバイポーラプレートの全体にわたって高分解能のGDL140に拡張することは、非常に計算集約的である。コーシミュレーション手法も可変分解能シミュレーションドメインもこの点に関して効率的ではあり得ず、なぜなら、両方とも、高分解能のGDL140が長いバイポーラプレート150に追随することを必要とするためである。上述した実施形態は、燃料電池スタック100(
図1)の全体を分析するために必要とされる計算コストを減らすことにより、この課題に対処する。
【0070】
計算コストに加えて、GDL/BP界面を捕捉することが課題であり得る。バイポーラプレートの空気の流れで水滴がスナップオフされると、空気-水毛細管圧は、減少する可能性があり、GDL140内部において連続的な水経路の毛細管の細分化につながる場合がある。この毛細管の細分化の物理は、空気-水界面の横方向及び半径方向の両方の曲率がスナップオフを決定するようなルーフスナップオフ現象に非常に類似している可能性がある。その後、水圧が再び上昇すると、GDL/BP界面上の別個の水流出場所を有する他の優先的な水経路が現れ得る。その結果、水流出場所は、時間の経過と共に変化し得る。加えて、流出場所及び水排出量は、バイポーラプレート150における空気流量に伴って変化し得る。したがって、GDL140及びバイポーラプレート150の両方の流れ条件に応じて、GDL/BP界面は、動的な挙動を示す。従来、GDL又はバイポーラプレートは、他の層との静的相互作用を仮定してのみシミュレートされており、これがシミュレーション手法の課題につながっている。本明細書で説明されるワークフローは、PEMFC構造100の異なる層間の界面を様々な動作条件について動的に特性評価し、この課題に良好に対処する。
【0071】
PEMFC構造100をシミュレートする際の別の課題は、本質的にマルチフィジックスであることであり、これは、流体の物理的特性がGDL140とバイポーラプレート150との間で非常に異なるためである。空気流量及びチャネルの寸法に応じて、GDL140における典型的なレイノルズ数は、1未満である一方、バイポーラプレート150におけるレイノルズ数は、2000もの高さであり得る。ここでも、多孔質GDL140を通る水輸送は、毛細管が優位な流れであり、典型的なキャピラリー数(レイノルズ数)が10-8~10-5の範囲である。その結果、水滴がバイポーラプレート150に排出されると、流れは、毛細管が優位な流れから、粘性/慣性が優位な流れ場に移行する。流体場シミュレーションの方法論及びその限界に応じて、特定の流体物理学にとって1つ以上の方法がより適切な場合がある。しかし、これらの異なる流体物理的が動作中の燃料電池スタック内で結合されると課題が生じる。例示的実施形態は、異なる層にとって適切な物理的特性を選択し、共有される界面特性評価によってそれらを一緒に組み合わせることにより、この課題に対処する。
【0072】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本発明の構造に対する様々な修正形態及び変形形態がなされ得ることが当業者に明白であろう。上記を考慮して、本発明の修正形態及び変形形態が以下の特許請求の範囲及びその均等物の範囲に含まれることを条件として、本発明は、それらを包含することが意図される。
【符号の説明】
【0073】
100 PEMFC構造
110 プロトン交換膜
121 カソード
122 アノード
130 微多孔質層
140 ガス拡散層
150 バイポーラプレート
151 親水性チャネル
200 一般的シミュレーション方法
210 第1のステップ
220 第2のステップ
230 第3のステップ
240 第4のステップ
400 界面
500 システム
502 プロセッサ
504 記憶装置
506 メモリ
508 ソフトウェア
510 I/Oデバイス
512 ローカルインターフェース
520 オペレーティングシステム
1110 ブロック
1120 ブロック
1130 ブロック
1140 ブロック
1150 ブロック
1155 ブロック
1160 ブロック
1170 ブロック
【外国語明細書】