(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126006
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】スパイラルの有効長の自律的調整デバイス
(51)【国際特許分類】
G04B 18/06 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
G04B18/06
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024017667
(22)【出願日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】23160130.3
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】パウロ・ブラーボ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス・カベサス ジュラン
(57)【要約】
【課題】 単純で、正確で、自律的な形態で、重力の影響、特に発振器のバランスの等時性の阻害、を打ち消す。
【解決手段】 本発明は、バランススパイラルタイプの発振器(4、5)のための、スパイラル(5)の有効長の自律的調整デバイス(6)に関し、計時器用ムーブメント(2)のプレート(13)に取り付けられるコック(12)と、スパイラル(5)の有効長を変更する手段とを備え、コック(12)において、バランス軸が回転し、スパイラル(5)には、バランス軸に固定された内端と、バランスばねスタッドホルダー(10)に留められた第1のバランスばねスタッド(8)に固定された外端とがあり、バランスばねスタッドホルダー(10)は、バランス軸と同心にコック(12)に回転可能に取り付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バランススパイラルタイプの発振器(4、5)のための、スパイラル(5)の有効長の自律的調整デバイス(6)であって、
前記自律的調整デバイス(6)は、計時器用ムーブメント(2)のプレート(13)に取り付けられるコック(12)と、前記スパイラル(5)の有効長を変更する手段とを備え、
前記コック(12)において、バランス(4)の軸(7)が回転し、
前記スパイラル(5)には、前記バランス(4)の前記軸(7)に固定された内端と、バランスばねスタッドホルダー(10)に留められた第1のバランスばねスタッド(8)に固定された外端とがあり、
前記バランスばねスタッドホルダー(10)は、前記バランス(4)の前記軸(7)と同心に前記コック(12)に回転可能に取り付けられ、
前記スパイラルの有効長を変更する手段は、少なくとも1つのアーム(60)と、弾性バイアス手段(62、63)と、慣性ブロック(40)と、減衰手段とを備え、
前記少なくとも1つのアーム(60)は、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができ、
前記少なくとも1つのアーム(60)には、第1の自由端(600)と、前記バランスばねスタッドホルダー(10)に取り付けられた第1の対のピン(19)と連係する第2の端(601)とがあり、
前記第1の対のピン(19)は、前記バランスばねスタッド(8)に対して角度的にオフセットされており、
前記弾性バイアス手段(62、63)は、前記少なくとも1つのアーム(60)に弾性作用を与えてそれを適切な位置に戻すように構成しており、
前記慣性ブロック(40)は、少なくとも第1のカム(31)が取り付けられた軸(30)を中心に回転運動可能であり、
前記慣性ブロックは、重力に応じて前記軸のまわりを自由に回転するように構成しており、
前記慣性ブロック(40)の回転は、前記少なくとも第1のカム(31)の回転及び前記アーム(60)の運動を発生させ、これによって、前記スパイラルに作用して、同時に前記スパイラル(5)の有効長を変更し、
前記減衰手段は、前記慣性ブロック(40)と同軸であり前記慣性ブロックに取り付けられた歯車(34)と、急な加速又は減速があったときに前記歯車を介して前記慣性ブロックと連係して前記スパイラル(5)の有効長の変更を制限するように構成している減衰デバイス(20)とを備える
ことを特徴とする自律的調整デバイス(6)。
【請求項2】
前記自律的調整デバイスは、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができる第2のアーム(61)と、弾性バイアス手段(64、65)とを備え、
前記第2のアームには、第1の自由端(610)と、前記バランスばねスタッドホルダー(10)に取り付けられた第2の対のピン(19’)と連係する第2の端(611)とがあり、
前記第2の対のピン(19’)は、前記第1の対のピン(19)と前記バランスばねスタッド(8)に対して角度的にオフセットされており、
前記弾性バイアス手段(64、65)は、前記第2のアーム(61)に弾性作用を与えてそれを適切な位置に戻すように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項3】
前記自律的調整デバイス(6)は、前記第2のアーム(61)と連係するように構成している第2のカム(32)を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項4】
前記カム(31、32)は、外側輪郭があるラジアルカムである
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項5】
前記カム(31、32)は、90°よりも大きい角度分、互いに対して角度的にオフセットされている
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項6】
前記自律的調整デバイス(6)の休み位置において、前記カム(31、32)それぞれの平坦部分が、前記アーム(60、61)の1つと接触しており、前記自律的調整デバイス(6)の補正位置において、前記カム(31、32)のウェッジないし角部分が前記アーム(60、61)の1つと接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項7】
前記カム(31、32)は、前記慣性ブロック(40)の位置にかかわらず、各アーム(60、61)の前記自由端(600、610)と常に接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項8】
前記第1のアーム(60)の前記自由端(600)は、弾性変形可能な調整手段を備え、
前記調整手段は、第1の端が前記アームに固定され別の端が自由であるばねのリーフの形態であり、
前記自由端は、バイアスされており前記第1のアーム(60)の長さを調整するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項9】
前記第2のアーム(61)の前記自由端(610)は、弾性変形可能な調整手段を備え、
前記調整手段は、第1の端が前記アームに固定され別の端が自由であるばねのリーフの形態であり、
前記自由端は、バイアスされており前記第2のアーム(61)の長さを調整するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項10】
前記自律的調整デバイス(6)は、弾性負荷を調整するための調整手段を備え、
前記調整手段は、ねじの形態であり、
前記ねじは、前記自由端を通過し、前記アームに支えられる
ことを特徴とする請求項9に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項11】
前記第1の対のピン(19)は、第1の支持体(8’)を介して前記バランスばねスタッドホルダー(10)に留められており、
前記アーム(60)は、2つの前記ピン(19)の間を前記アーム(60)が摺動し補正位置において前記スパイラルの外側コイルと接触するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項12】
前記第2の対のピン(19’)は、第2の支持体(8”)を介して前記バランスばねスタッドホルダー(10)に留められており、
前記アーム(61)は、2つの前記ピン(19)の間を通過し補正位置において前記スパイラルの前記外側コイルと接触するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項13】
前記慣性ブロック(21)は、固体の半円ディスクからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項14】
前記自律的調整デバイス(6)は、エアダンパーを備え、
前記エアダンパーは、前記慣性ブロックの形状と同様な形状の空洞がある本体の形態であり、
前記慣性ブロックは、空洞内にて回転するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項15】
前記自律的調整デバイス(6)は、前記軸(30)に取り付けられた第3のハート形のカム(33)を備え、
前記ハート形のカムは、ばね(24、25)と連係するように構成しており、
前記自律的調整デバイス(6)のアセンブリーは、前記第1及び第2のアーム(60、61)の位置をリセットするためのデバイスを形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項16】
前記第3のハート形のカム(33)は、前記第1及び第2のカム(31、32)に重なり合っている
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項17】
バランススパイラルタイプの発振器(4、5)と、請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)とを備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(2)。
【請求項18】
請求項17に記載の計時器用ムーブメント(2)を備える
ことを特徴とする計時器(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラル(ぜんまい)の有効長の自律的調整デバイスに関する。
【0002】
本発明は、さらに、スパイラルの有効長の自律的調整デバイスと、バランススパイラルタイプの発振器とを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、さらに、計時器、特に、計時器用ムーブメントを備える携行型時計(例、腕時計、懐中時計)に関する。
【背景技術】
【0004】
バランススパイラルタイプの機械式発振器を備える携行型時計の分野において、スパイラルの有効長を手動で調整するための機構が知られている。
【0005】
例えば、一般的な手動式の調整機構において、スパイラルの外端は、コックに固定されたバランスばねスタッドホルダーに固定されたバランスばねスタッドによって不動化される。バランスばねスタッドホルダーのまわりを回転する可動インデックスを備えて、スパイラルの有効長を調整し、これによって、バランスばねの振動数を調整することができる。このインデックスは、通常2つのアームを備える、レバーであり、このレバーは、バランス軸の座標を中心として回転する。例えば、インデックスの第1のアームは、2つのピンを担持し、その間にてスパイラルが自由になっている。インデックスの第2のアームを手動で操作して、バランス軸を中心とする所定の角度分インデックスを回転させることができる。これによって、カウント点の実際の位置を変更することができる。インデックスが回転すると、スパイラルの有効長が短縮又は増加する。しかし、このような手動調整デバイスには、対応する計時器用ムーブメントの向きに応じて地球の重力がバランススパイラルの振動の振動数に影響を与えてしまうという課題がある。したがって、特に、携行型時計が水平位置であるときと垂直位置であるときの間で、稼働におけるかなりのばらつきがあることがある。また、ピンの間のクリアランスのためにスパイラルがピンの間を動くと、バランススパイラルの振動がその有効長の乱れを発生させてしまい、これによって、バランススパイラルアセンブリーの振動の振動数においてわずかな変動を発生させてしまう。
【0006】
重力の悪影響を抑えるために、特にスイス特許文献CH705605B1によって、スパイラルの有効長を調整するためのデバイスを実装する手法が知られており、これにおいては、スパイラルの有効長を定めるためにスパイラルの終端部分をクランプするように意図されたクランプ手段をインデックスが担持している。また、スパイラルの外端は、さらに、インデックスに対して運動可能に取り付けられインデックスと連係するように構成している留めシステムに固定されている。クランプ手段は、例えば、スパイラルの終端部分がクランプされているピン偏心クランプシステムによって構成しており、時計技師によって自由に緩められたり締め付けられたりすることがある。時計技師は、ピン偏心クランプシステムを緩めた後に、工具を用いて留めシステムを動かすことができ、これによって、固定されているままの、インデックスに対して、したがって、ピンに対して、スパイラルを動かすことができ、このことによって、スパイラルの有効長を変更することが可能になる。そして、時計技師は、クランプシステムをきつくしてピンに対してスパイラルをクランプして、自律的調整デバイスをリセットしてサービス位置にすることができる。しかし、このような手法は依然として手動の調整手法であり、このために、重力の影響を打ち消すための調整の精度を大幅に制限してしまうという課題がある。また、このような手法には、調整を可能にする時計技師による様々な手動調整のステップが調整に必要であるために、実装するには時間がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、単純で、正確で、自律的な形態で、重力の影響、特に発振器のバランスの等時性の阻害、を打ち消すことを可能にするような、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラルの有効長を調整するためのデバイスを提供し、従来技術の前記課題を軽減することを目的とする。
【0008】
このために、本発明は、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラルの有効長の自律的調整デバイスに関し、前記自律的調整デバイスは、計時器用ムーブメントのプレートに取り付けられるコックと、前記スパイラルの有効長を変更する手段とを備え、前記コックにおいて、バランスの軸が回転し、前記スパイラルには、前記バランスの前記軸に固定された内端と、バランスばねスタッドホルダーに留められた第1のバランスばねスタッドに固定された外端とがあり、前記バランスばねスタッドホルダーは、前記バランスの前記軸と同心に前記コックに回転可能に取り付けられる。
【0009】
本発明によると、前記スパイラルの有効長を変更する手段は、少なくとも1つのアームと、弾性拘束手段と、慣性ブロックと、減衰手段とを備え、前記少なくとも1つのアームは、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができ、前記少なくとも1つのアームには、第1の自由端と、前記バランスばねスタッドホルダーに取り付けられた第1の対のピンと連係する第2の端とがあり、前記第1の対のピンは、第1のバランスばねスタッドに対して角度的にオフセットされており、前記弾性拘束手段は、前記少なくとも1つのアームに弾性作用を与えてそれを適切な位置に戻すように構成しており、前記慣性ブロックは、少なくとも1つのカムが取り付けられた軸を中心に回転運動可能であり、前記慣性ブロックは、重力に応じて前記軸のまわりを自由に回転するように構成しており、前記慣性ブロックの回転は、前記少なくとも1つのカムの回転及び前記アームの運動を発生させ、これによって、前記スパイラルに作用して、同時に前記スパイラルの有効長を変更し、前記減衰手段は、前記慣性ブロックと同軸であり前記慣性ブロックに取り付けられた歯車と、急な加速又は減速があったときに前記歯車を介して前記慣性ブロックと連係して前記スパイラルの有効長の変更を制限するように構成している減衰デバイスとを備える。
【0010】
本発明の他の有利な実施形態においては、以下の特徴を有する。
- 前記自律的調整デバイスは、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができる第2のアームと、弾性バイアス手段とを備え、前記第2のアームには、第1の自由端と、前記バランスばねスタッドホルダーに取り付けられた第2の対のピンと連係する第2の端とがあり、前記第2の対のピンは、前記第1の対のピンと前記バランスばねスタッドに対して角度的にオフセットされている。
- 前記自律的調整デバイスは、前記第2のアームと連係するように構成している第2のカムを備える
- 前記カムは、外側輪郭があるラジアルカムである
- 前記カムは、互いに対して角度的にオフセットされている
- 前記自律的調整デバイスの休み位置において、前記カムそれぞれの平坦部分が、1つのアームと接触しており、前記自律的調整デバイスの補正位置において、前記カムのウェッジないし角部分が前記アームの1つと接触している
- 前記カムは、前記慣性ブロックの位置にかかわらず、各アームの前記自由端と常に接触している
- 前記第1のアームの前記自由端は、弾性変形可能な調整手段を備え、前記調整手段は、第1の端が前記アームに固定され第2の端が自由であるばねのリーフの形態であり、前記自由端は、バイアスされており前記第1のアームの長さを調整するように構成している
- 前記第2のアームの前記自由端は、弾性変形可能な調整手段を備え、前記調整手段は、第1の端が前記アームに固定され第2の端が自由であるばねのリーフの形態であり、前記自由端は、バイアスされており前記第2のアームの長さを調整するように構成している
- 前記自律的調整デバイスは、弾性応力を調整するための調整手段を備え、前記調整手段は、ねじの形態であり、前記ねじは、前記自由端を通過し、前記アームに支えられる
- 前記第1の対のピンは、第1の支持体を介して前記バランスばねスタッドホルダーに留められており、前記アームは、2つの前記ピンの間を前記アームが摺動し補正位置において前記スパイラルの外側コイルと接触するように構成している
- 前記第2の対のピンは、第2の支持体を介して前記バランスばねスタッドホルダーに留められており、前記アームは、2つの前記ピンの間を通過し補正位置において前記スパイラルの前記外側コイルと接触するように構成している
- 前記慣性ブロックは、固体の半円ディスクからなる
- 前記自律的調整デバイスは、エアダンパーを備え、前記エアダンパーは、前記慣性ブロックの形状と同様な形状の空洞がある本体の形態であり、前記慣性ブロックは、空洞内にて回転するように構成している
- 前記自律的調整デバイスは、前記軸に取り付けられた第3のハート形のカムを備え、前記ハート形のカムは、ばねと連係するように構成しており、前記自律的調整デバイスのアセンブリーは、前記第1及び第2のアームの位置をリセットするためのデバイスを形成する
- 前記第3のハート形のカムは、前記第1及び第2のカムに重なり合っている
【0011】
本発明に係る調整デバイスの利点として、自由に回転可能であり、かつ、スパイラルの外側コイルに作用するように構成している可動アームと間接的に連係する慣性ブロックを備えることがある。したがって、自由に重力の影響を受ける慣性ブロックの運動は、デバイスの休み位置と補正位置の間のアームの運動を発生させ、同時にスパイラルに作用してスパイラルの有効長を変更し、これによって、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償するためにスパイラルの有効長を調整することが可能になる。したがって、本発明に係る調整デバイスは、重力に起因するバランスの等時性の阻害を打ち消すことによって、発振器の稼働を空間におけるその位置に応じて正確かつ自律的に補償することを可能にする。
【0012】
本発明は、さらに、従属請求項17に記載されている特徴を有する上記の自律的調整デバイスを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0013】
本発明は、さらに、従属請求項18に記載されている特徴を有する上記の計時器用ムーブメントを備える計時器に関する。
【0014】
例として与えられる好ましい実施形態についての下記の説明を図面を参照しながら読むことによって、他の特徴や利点を理解することができる。
【0015】
図面を用いて説明される少なくとも1つの実施形態に基づく以下の説明において、このスパイラルの有効長を調整するためのデバイス、そして、それを備える計時器用ムーブメントと計時器についての目的、利点及び特徴が一層わかりやすく説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るスパイラルの有効長を調整するためのデバイスを備える携行型時計の計時器用ムーブメントの斜視図である。
【
図3】
図1の調整デバイスを上方から見た図である。
【
図4】
図1の調整デバイスを下方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラルの有効長を調整するためのデバイスを備える計時器用ムーブメントに言及して説明する。当業者によく知られている計時器用ムーブメントの通常の構成要素については、簡単にしか説明しないか、あるいはまったく説明しない。実際に、当業者であれば、これらの様々な構成要素を適応させて計時器用ムーブメントの動作のために連係させることができる。具体的には、以下において、計時器用ムーブメントのエスケープ機構について、本発明に係る調整デバイスと連係することがある可能性があっても、関連することすべては説明していない。
【0018】
図1は、計時器用ムーブメント2を備える計時器1の一部を示している。
図1の特定の実施形態において、計時器1は携行型時計である。計時器用ムーブメント2は、バランス4とスパイラル5を備える発振器と、スパイラル5の有効長の自律的調整デバイス6とを備える。伝統的には、スパイラル5は、その内端(図示していない)によってバランス4の軸7に留められる。バランス4の軸7は、バランスブリッジにおいて、回転可能に取り付けられる端がある(バランスブリッジは、明瞭さのために図示していない)。スパイラル5の外端は、伝統的には、バランスばねスタッドホルダー10に留められたバランスばねスタッド8に留められる。バランスばねスタッドホルダー10は、わずかな締め付けによってコック12に固定されている。特に、
図2に示しているように、バランスばねスタッドホルダー10は、バランス4の軸7と同心にコック12に回転可能に取り付けられている。バランス4の軸7は、コック12において回転可能に取り付けられる。
【0019】
コイル5の有効長を変更する手段は、スパイラル5の外側コイルの長さに作用することによって、コイル5の有効長を変更することができる。
【0020】
図2に示している特定の実施形態において、スパイラル5の有効長を変更する手段には、デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができる少なくとも1つのアーム60がある。第1のアーム60には、第1の自由端600と、第1のアーム60用のガイドフォークを形成する第1の対のピン19と連係する第2の端601とがある。第1の対のピン19は、第1の支持体8’を介してスタッドホルダー10に取り付けられ、スタッド8に対して角度的にオフセットされている。したがって、第1のアーム600の第2の端601は、第1の対のピン19の間を摺動することができる。
【0021】
スパイラルの有効長を変更するための手段は、さらに、少なくとも1つの第1のカム31が取り付けられた軸41を中心に回転運動可能な慣性ブロック40を備え、この第1のカム31に対向するように、前記少なくとも1つのアームの自由端600が休む。慣性ブロック40は、それが受ける重力に応じて軸41を中心に回転することができるように構成しており、慣性ブロック40の回転は、少なくとも1つのカム31、32の回転及び少なくとも1つのアーム60、61の運動を発生させて、スパイラルの外側コイルに作用し、同時にスパイラルの有効長を変える。
【0022】
調整デバイス6は、さらに、減衰手段20を備え、この減衰手段20は、慣性ブロック40と同軸であり慣性ブロックに固定される歯車34と、急な加速又は減速があったときに歯車34を介して慣性ブロック40と連係してスパイラル5の有効長の変更を制限するように構成している減衰デバイス20とを備える。
【0023】
調整デバイスは、少なくとも1つのアーム60に弾性作用を与えてそれを適切な位置に戻すように構成している弾性バイアス手段を備える。弾性バイアス手段は、アーム60に固定されたロッド62と、バランスばねスタッドホルダー10に固定されたばねのリーフ63の形態である。ばねのリーフ61は、ロッド62に戻し力を与え、アーム60に弾性作用を与えて、ロッド62を適切な位置に戻す。
【0024】
好ましくは、調整デバイスには、デバイスの休み位置と補正位置の間で動くことができる第2のアーム61がある。この第2のアーム61には、第1の自由端610と、第2のアーム用のガイドフォークを形成する第2の対のピン19’と連係する第2の端とがある。第2の対のピン19’は、第2の支持体8”を介してスタッドホルダー10に取り付けられ、第1の対のピン19とスタッド8に対して角度的にオフセットされている。したがって、第2のアーム61の第2の端610は、第2の対のピン19’の間を摺動することができる。
【0025】
また、係合手段は、自由端610が第2のカム32に対向して休んでいる第2のアームと連係するように構成している第2のカム32を備える。
【0026】
第2のアーム61には、弾性拘束手段も関連づけられ、この弾性拘束手段は、第2のアーム61に固定されたロッド64と、バランスばねスタッドホルダー10に固定されたばねのリーフ65とを備える。ばねのリーフ65は、ロッド64に戻し力を与え、第2のアーム61に弾性作用を与えて、その第2のアーム61を適切な位置に戻す。
【0027】
また、調整デバイス6は、さらに、アーム60、61を調整するための手段を備え、第1及び第2のアーム60、61の自由端600、610は、アームの長さを調整するための弾性変形可能な調整手段を備える。この調整手段は、第1の端がアームに固定され別の端が自由であるようなばねのリーフの形態であり、この自由端は、バイアスされておりアーム60、61の長さを調整するように構成している。ばねのリーフは、それと各アームの自由端との間に空間を形成する。このような調整は、スパイラルの位置とそのスパイラルに対して行われる補正に応じて必要である。
【0028】
スパイラル5の有効長を変更する手段には、第2のバランスばねスタッド8’に留められた2つのピン19があり、アーム60の第2の端601は、2つのピン19の間を摺動して、補正位置において、スパイラル5の外側コイルと接触し、したがって、スパイラルの有効長を変更するように構成している。
【0029】
スパイラル5の有効長を変更する手段には、さらに、第3のバランスばねスタッド8”に留められた2つの他のピン19’があり、第2のアーム61の第2の端611は、2つのピン19’の間を通過し、補正位置において、スパイラルの外側コイルと接触するように構成している。
【0030】
また、各アーム60、61は、弾性負荷を調整するための調整手段を備え、この調整手段は、ねじの形態であり、このねじは、ばねのリーフの自由端を通過し、アームに支えられる。したがって、ねじがねじ込まれると、リーフの自由端が離れ、リーフと、アーム60、61の自由端600、610との間の距離が大きくなり、このことによって、アーム60、61の長さを長くすることができる。逆に、ねじを緩めると、リーフの自由端が近づき、リーフと、アーム60、61の自由端600.610との間の距離が小さくなり、このことによって、アーム60、61の長さを長くすることができる。
【0031】
好ましい実施形態において、慣性ブロック40は、カム31、32が取り付けられた軸41に回転可能に自由に取り付けられ、これによって、慣性ブロック40の回転が、アーム60、61の運動を発生させ、同時にスパイラル5の有効長を変更する手段に作用する。重力の影響を受ける慣性ブロック40の回転の影響下でのアームの運動は、デバイスの休み位置とデバイスの補正位置の間で行われ、各アームは、計時器の位置に応じた別個の補正を可能にする。
図1~4に示しているように、慣性ブロック40は、例えば、固体の半円ディスクからなる。図示していない変異形態において、慣性ブロック40は、固体のバイマテリアルディスクからなり、その2つのディスク材料は、異なる密度を有する。
【0032】
したがって、空間における計時器用ムーブメント2の位置に応じて、自由に重力の影響を受ける慣性ブロック40は、自身の回転軸を中心に回転することができ、したがって、アーム60、61の運動を発生させることができる。その際に、慣性ブロック40の回転は、スパイラル5の有効長を変更する手段に同時に作用し、これによって、スパイラルの有効長を連続的に調整することが可能になり、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償することができる。
【0033】
慣性ブロックが自由な車を形成し、発振器4、5を補正するのではなく誤調整してしまうことを避けるために、調整デバイス6は、慣性ブロックと同軸であり慣性ブロックに固定された歯車34を含む減衰手段を備える。減衰手段は、急な加速又は減速があった際に歯車を介して慣性ブロックと連係してスパイラル5の有効長の変更を制限又は防ぐように構成している減衰デバイスを備える。
【0034】
図に示しているように、減衰デバイス20は、エアダンパーの形態であり、このダンパーには、空洞が形成された本体22があり、この空洞においては、空洞と同様の形状である塊21が軸24を中心に回転する。軸24は、さらに、歯車34の歯列と連係するように構成しているピニオン23を備える。したがって、慣性ブロック40は、動くと、ピニオン23と係合している歯車34を駆動し、減衰デバイス20の質量体21を回転させる。したがって、慣性ブロック40が急に動いた際に、減衰デバイス20のおかげで、質量体21が慣性ブロック40の回転を制動するように理解すべきである。当然、シリンダー内を動く質量体や磁気ダンパーのような他のタイプのダンパーを実装することもできる。
【0035】
なお、慣性ブロック40、歯車34及びカム31、32を支える軸30には、さらに、軸30に固定されカム31、32に重なり合うハート形の第3のカム33がある。ハート形のカム33は、端26がハート形のカム33の輪郭と連係するばね24、25と連係するように構成しており、これによって、第1及び第2のアーム60、61の位置をリセットしてそれらを自然に休み位置に戻すデバイスを形成する。
【0036】
好ましい実施形態において、デバイス6は、アーム60、61を駆動するための2つのカム31、32を備える。カム31、32は、軸30に固定され、互いに対して角度的にオフセットされ、そして、それぞれアーム60、61の自由端600、610と接触している。
【0037】
好ましくは、各カム31、32は、外側輪郭があるラジアルカムである。
図1~4において実質的に長方形の外側輪郭を有するラジアルカムを示しているが、実際には、各カムの外側輪郭について考えられる形状は、用いられるスパイラル5のタイプ、そして、そのスパイラル5に対して行われる補正に依存する。例えば、三角形、長円状又は楕円形の外側輪郭を有するラジアルカムも、本発明の文脈において用いることができる。好ましくは、
図3及び4に示しているように、調整デバイス6の休み位置において、各カムの平坦部分がアーム60、61と接触しており、デバイス6の補正位置において、カム31、32のウェッジないし角部分がアーム60、61と接触している。より好ましくは、
図1、3及び4に示しているように、各カム31、32は、慣性ブロック40の位置にかかわらず、その対応するアームと接触している。
【0038】
したがって、空間における計時器用ムーブメント2の位置に応じて、自由に重力の影響を受ける慣性ブロック40は、自身の回転軸を中心に回転することができ、したがって、アーム60、61の運動を発生させることができると理解すべきである。その際に、慣性ブロック40の回転は、スパイラル5の有効長を変更する手段に同時に作用し、これによって、スパイラルの有効長を連続的に調整することが可能になり、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償することができる。慣性ブロック40の回転は、軸30の回転を発生させ、軸に固定されたカム31、32を駆動する効果を有する。そして、カムは、アーム60、61の自由端600、610に作用し、アーム60、61の少なくとも1つを動かして、1つの前記アームの第2の端がスパイラル5と接触して、スパイラル5の有効長を変更するようにする。
【0039】
慣性ブロックがその位置の変化の後に安定化すると、デバイスは、同様に軸31に固定されているハート形のカム33に対するばね24、25の作用のおかげで、自動的に休み位置に戻る。
【0040】
本発明は、さらに、バランススパイラルタイプの発振器4、5と、前記のようなスパイラル5の有効長を自律的に調整するためのデバイス6とを備える計時器用ムーブメント2に関する。
【0041】
本発明は、さらに、前記のようにスパイラル5の有効長を自律的に調整するための自律的調整デバイス6を備える計時器用ムーブメント2を備える計時器1に関する。
【符号の説明】
【0042】
1 計時器
2 計時器用ムーブメント
4 バランス
5 スパイラル
6 自律的調整デバイス
7 軸
8 バランスばねスタッド
8’ 第1の支持体
8” 第2の支持体
10 バランスばねスタッドホルダー
12 コック
13 プレート
19 第1の対のピン
19’ 第2の対のピン
20 減衰デバイス
21 慣性ブロック
24、25 ばね
30 軸
31 第1のカム
32 第2のカム
33 第3のハート形のカム
34 歯車
40 慣性ブロック
60、61 アーム
62、63 弾性バイアス手段
64、65 弾性バイアス手段
600,610 第1の自由端
601、611 第2の端
【外国語明細書】